説明

イオンビームスキャン処理装置及びイオンビームスキャン処理方法

【課題】ビーム照射効率を向上させるとともにドーズ量の面内均一性を維持できるイオンビームスキャン処理方法を提供する。
【解決手段】ビームチューニングにおいて、ビームスキャン幅最大(BSW1)時のビーム電流のスキャン(X)方向分布特性を測定し、このときのスキャン電圧補正関数15wを演算する。これに基づいて横(X)方向ドーズ量均一性を満たしながら予定された各ビームスキャン幅(BSW1〜3等)に対応する各スキャン電圧補正関数15wを複数個自動計算する。続いて、メカニカルYスキャン位置に応じてスキャン電圧補正関数を切り替えてウエハの片側のビームスキャンエリアをD形状にしてビームスキャンエリアを削減する。別の片側は一定のスキャンエリアであり、こちら側のサイドカップ(P1側の76)のビーム電流を測定し、その測定値に応じてメカニカルYスキャン速度を変化させることにより、縦(Y)方向ドーズ量均一性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源からのイオンビームをウエハに注入することができるイオンビームスキャン処理装置及びイオンビームスキャン処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、イオン注入装置は、イオン源、引出電極、質量分析磁石装置、質量分析スリット、加速/減速装置、ウエハ処理室等をビームラインに沿って配置した構成を備えており、半導体用基板であるウエハにイオンを注入するのに使用されている。
【0003】
通常、円形のウエハに照射されるイオンビームは、その断面積がウエハサイズよりも小さいので、ウエハの全面にイオンビームを照射するために様々な照射方法が提案されている。
【0004】
照射方法の一例として、ビームスキャナーによってイオンビームを一方向、例えば水平方向に関して往復走査(ファーストスキャンあるいはビームスキャンまたはXスキャンと呼ばれることがある)させる一方、メカニカルYスキャン装置によってウエハを前記一方向に直角な方向、例えば鉛直方向に往復走査(スロースキャンあるいはメカニカルYスキャンと呼ばれることがある)させる方法が提案されている。このようなビームスキャンとメカニカルYスキャンの組み合わせによっても断面積サイズの小さいイオンビームでウエハの全面領域を照射することができる(特許文献1参照)。
【0005】
この照射方法では、図8に示すように、ウエハ58に対するビームスキャンによるイオンビームのX方向スキャン幅(以下、ビームスキャン幅と呼ぶ)BSWは、Y方向のどの領域でも同じである。つまり、ウエハ58のY方向の両端部においても、ウエハ58の中心部と同じビームスキャン幅である。
【0006】
図8に示す照射方法では、ウエハ58のY方向両端に近づくほどウエハ領域外に不要なイオンビーム照射を行っていることになるので、ビーム照射効率に制限が生じ、生産性向上の妨げの一因となっている。
【0007】
ウエハ領域外への不要なイオンビーム照射を少なくする照射方法の例としては、ウエハに照射するイオンビームをウエハ上で鋸歯状波の形状に振らせる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
勿論、どのような照射方法であれ、イオンビームの照射は、ウエハの全領域でドーズ量が均一(ドーズ量の面内均一性と呼ばれることがある)になるように行なわれる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−262756号公報
【特許文献2】実用新案登録第2548948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の照射方法では、ウエハの形状に類似した一方向ならびに直交方向に各方向同時にビームスキャンするように構成している。そのうち一方向のビームスキャンの各スキャン幅を、スキャン周期/周波数を変更しながら同一ビームスキャン速度によって、段階上に設定した一方向ビームスキャンを行なうよう構成すると同時に、他方、直交方向のビームスキャンを一方向ビームスキャンの周期変更に同期させて速度変更することで、ビームスキャンのビームスキャンピッチを一定にするよう構成している。しかし、この照射方法では、ビーム照射効率は向上するものの、ウエハは固定配置が前提であるので、特許文献1に記載されているようなメカニカルYスキャンによりウエハが移動するイオン注入装置には適用できない。
【0011】
特許文献2の照射方法はまた、例えばイオンビーム照射中のドーズ量変動については考慮していない。
【0012】
本発明の課題は、メカニカルYスキャンによりウエハがある方向に往復移動するイオン注入装置において、ビーム照射効率を向上させることができるだけでなく、ドーズ量のウエハ面内均一性を維持するのに有効なイオンビームスキャン処理装置及びイオンビームスキャン処理方法を提供することにある。
【0013】
これまで、複数のスキャン条件を有するイオンビームスキャン処理においては、一方向のビームスキャン周期は一定としながらスキャン条件毎にビームスキャン速度を変更する技術、並びに、一方向における各スキャン設定幅(つまり、ビームスキャン幅)に応じてビームスキャン周期一定でビームスキャン速度を変更する技術は提供されていなかった。
【0014】
このような点に鑑み、本発明の具体的な課題は、以下の内容を実現できるようにすることである。
【0015】
1.ビームスキャン、メカニカルYスキャンの制御を実行するビームスキャン制御演算装置の基準周波数設定を保持したまま、ビームスキャン周期を一定にしてビームスキャナーに印加する電圧を補正変更することにより、ビームスキャン速度設定の異なるスキャン波形を複数用意して、ビームスキャン速度とビームスキャン幅の組み合わせの異なるビームスキャン領域を複数形成するよう構成し、複数の異なるビームスキャン速度とメカニカルYスキャン速度の組合せを有する同一ドーズ量領域を複数形成すること。
【0016】
2.ビームスキャン幅に応じてビームスキャン周期一定の条件で基準ビームスキャン制御関数から、各スキャン電圧補正関数を演算により生成すること。
【0017】
3.ウエハに対し、ドーズ量の面内均一性を満たした形でウエハのY方向に関してビームスキャン幅の異なる多段設定ビームスキャン領域を形成すること。
【0018】
4.ビーム変動/ドーズ量変動への追従が確実に実施できること。
【0019】
5.生産性(イオンビーム照射処理工程の時間短縮)、及び省エネルギー性能向上、並びに不要なイオンビーム照射を低減(スパッタコンタミ低減)すること。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、イオン源から引出電極により引き出したイオンビームをウエハに至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置、質量分析スリット、ビームスキャナー、ビーム平行化装置、ウエハ処理室、ウエハメカニカルスキャン装置(メカニカルYスキャン装置)を配設して、ビームラインのウエハ手前並びに近傍区間には、イオンビームを測定するサイドカップ電流測定器並びに注入位置ビーム電流測定装置を設けたイオンビームスキャン処理装置に適用される。
【0021】
本発明の一態様によれば、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づいて、ビームスキャナーにおけるビームスキャン速度をスキャン電圧により制御するための基準ビームスキャン制御関数及びスキャン電圧補正関数を設定変更可能なビームスキャン制御演算装置によりビームスキャナーを制御するよう構成し、サイドカップ電流測定器によりメカニカルスキャンY方向に直角なX方向のビームスキャンによるビーム電流量を測定して、設定ビーム電流値に対応するY方向のメカニカルスキャン速度となるように測定したビーム電流量に基づいてウエハメカニカルスキャン装置を自動補正追従させるよう構成するとともに、ビームスキャン制御演算装置の基準周波数設定を一定(基準周期設定を一定)に保持したまま、複数のビームスキャン速度設定の異なるX方向ビームスキャン波形を、ビームスキャナーに印加する制御電圧を補正変更してスキャン電圧補正関数を作成することにより設定して、X方向ビームスキャン速度とX方向ビームスキャン幅の組み合わせの異なるスキャン領域を複数段形成するよう構成し、複数の異なるX方向ビームスキャン速度とY方向メカニカルスキャン速度の組合せにより、同一ドーズ量領域を複数形成するよう構成したイオンビームスキャン処理装置が提供される。
【0022】
本発明の別の態様によれば、ウエハの片側、具体的にはY方向の直径で2分割されるウエハの片側のビームスキャン幅をウエハの外周(つまり半円形の外周)に即する形状で変化させることにより、イオンビームの無駄な照射を削減する。
【0023】
本発明の別の態様によれば、ビームチューニングに際し、ビームスキャン幅最大時の注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定から求められたビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算し、そのスキャン電圧補正関数を基にして、横方向ドーズ量均一性を満たしながら予定された各ビームスキャン幅に対応する各スキャン電圧補正関数を複数個自動計算により算出し、続いて、イオン注入中にメカニカルYスキャン位置を測定し、その位置に応じたスキャン電圧補正関数に切り替えることにより、ウエハの片側のビームスキャンエリアをD形状の複数段設定ビームスキャン領域にしてビームスキャン幅を削減するとともに、横方向ドーズ量均一性を確保し、上記動作と並行してウエハの別の片側における一定スキャンエリア側のサイドカップビーム電流量を測定し、その変化に応じてメカニカルYスキャン速度を変化させることにより、縦方向ドーズ量均一性を確保するようにしたことを特徴とするイオンビームスキャン処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ビームスキャン周期一定でX−Yスキャン速度の組み合わせが異なる微細なイオン注入条件に対応した多段設定ビームスキャン領域を形成でき、しかも、イオン注入作業中は、サイドカップ電流測定器によりビーム電流量を測定して設定ビーム電流値に対応するY方向のメカニカルYスキャン速度でウエハメカニカルスキャン装置を自動追従させるため、オンタイムなビーム変動/ドーズ量変動への追従も確実に実施でき、ドーズ量の面内均一性を満たした形で均一なイオン注入を実施することができる。
【0025】
本発明によれば、また、ビームスキャン周期一定でX−Yスキャン速度とビームスキャン幅が異なる多段設定ビームスキャン領域を形成でき、しかも、ビーム変動/ドーズ量変動への追従も確実に実施でき、ドーズ量の面内均一性を満たした形で均一なイオン注入を実施することができる。
【0026】
本発明によれば、更に、図8で説明した従来の長方形型スキャン形状に比べ、図5に示すように、ウエハ形状を考慮したスキャンエリア形状とすることにより、ドーズ量の面内均一性を確保しながらスキャンエリア(イオンビーム照射領域)を削減することによって、ウエハ生産性を向上させることができる。
【0027】
本発明によれば、更に、図8で説明した従来のメカニカルYスキャンの全域においてビームXスキャンも全スキャン幅でスキャンする長方形型とみなせるスキャン形状に比べ、ウエハ形状を考慮したスキャンエリア形状とすることにより、ドーズ量の面内均一性を確保しながらスキャンエリア(イオンビーム照射領域)を削減し、ウエハ外に照射されるイオンビーム量を削減することによって、ビーム利用効率を向上させ、半導体用基板上に生成される半導体製品1個あたりの電力量を削減すること、半導体製品1個あたりに消費されるガス等の消耗原材料の量を削減することができる。
【0028】
本発明によれば、更に、図8で説明した従来の長方形型スキャン形状に比べ、ウエハ形状を考慮したスキャンエリア形状とすることにより、ドーズ量の面内均一性を確保しながらスキャンエリア(イオンビーム照射領域)を削減し、ウエハ外に照射されるイオンビーム量を削減することによって、不必要なイオンビーム照射を低減し、その不必要なビーム照射によってスパッタに起因して誤注入される所望の特定イオン種以外のイオンが半導体用基板上へ混入する量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用され得るイオン注入装置の一例を説明するための概略図である。
【図2】本発明によるイオンビームスキャン処理を実現するための制御系の構成例を説明するための図である。
【図3】ビームスキャナーのスキャン電圧とビームスキャン幅について説明するための図である。
【図4】ビームスキャナーの補正されたスキャン電圧(実スキャン電圧)とビームスキャン幅について説明するための図である。
【図5】本発明による、ウエハに対するD形状スキャンについて説明するための図である。
【図6】本発明による、ウエハに対するビームスキャンとメカニカルYスキャンについて説明するための図である。
【図7】本発明による、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づく基準ビームスキャン制御関数、スキャン電圧補正関数の一例について説明するための図である。
【図8】従来の長方形型スキャンについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、図1を参照して、本発明が適用され得るイオン注入装置の概略構成について説明する。本発明が適用され得るイオン注入装置は、イオン源から引出電極により引き出したイオンビームをウエハに至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置、質量分析スリット、ビームスキャナー、ウエハ処理室(イオン注入室)を配設している。ウエハ処理室内には、ウエハを保持するプラテンを備えたウエハメカニカルスキャン装置(メカニカルYスキャン装置)が配設される。イオン源から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置されたプラテン上のウエハに導かれ、ビームラインのウエハ手前区間並びにウエハ近傍区間(ウエハ前後の直近位置もしくはウエハ位置すなわち注入位置)には、イオンビームを測定するサイドカップ電流測定器並びに注入位置ビーム電流測定装置(固定測定式もしくは移動測定式(注入位置/ウエハメカニカルスキャン位置への移動/退避する方式))を設ける。
【0031】
また、質量分析スリットとビームスキャナーとの間には、ビーム整形装置、ビーム軌道修正装置が必要に応じて配置され、そして、ビームスキャナーとウエハ処理室との間には、ビーム平行化装置、加速/減速装置、角度エネルギーフィルタAEF(Angular Energy Filter)が必要に応じて配置されている。
【0032】
図1は、イオンビームスキャン処理装置のうち、特にウエハを一枚ずつ注入処理する枚葉式イオン注入装置であって、静電式(もしくは磁気式(図示せず))で構成されるビーム偏向走査装置36(以下、ビームスキャナーと略称する)及び静電式ビーム平行化装置(ビーム平行化レンズあるいはパラレルレンズ、以下ではパラレルレンズと略称する)を備えたイオン注入装置の模式図であり、特に図1(a)は平面図、図1(b)は側面図である。イオン注入装置の構成について、イオン源10を起点とするビームラインの最上流から簡単に例示、説明する。
【0033】
イオン源10の出口側には、イオンチャンバー内で生成されたプラズマからイオンをイオンビームとして加速して引き出す引出電極12が設けられている。イオン源から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置されたウエハに導かれる。イオン源の下流には、引き出されたイオンビームから所定のイオンを分離し、分離したイオンからなるイオンビームを取り出すための質量分析磁石装置22が配置されている。質量分析磁石装置22の下流側には、イオンビームを上下(縦)方向に収束させる第1の四重極収束電磁石装置(QD:Quadrupole Defocusing)24、イオンビームをビームラインから瞬時に外れる方向に偏向/一時退避させるパーク電極26、さらに、イオンビームのうち所定の質量のイオンからなるイオンビームを通過させる質量分析スリット28があり、イオンビームを上下方向に収束させる第2の四重極収束電磁石(QD)30が配置されている。パーク電極26と質量分析スリット28とは、パークハウジング27に収容されている。第2の四重極収束電磁石30の下流側には、ビームラインに入れ出しすることにより必要に応じてイオンビームを全遮断するとともに全ビーム電流を計測するインジェクタフラグファラデーカップ32、その下流には、楕円形又は円形の断面形状のイオンビームを、イオンビームの進行方向と直交する横方向/水平方向に周期的に往復走査させる静電式(もしくは磁気式(図示せず))で構成されるビームスキャナー36が配置されている。
【0034】
イオンビームは、静電式(もしくは磁気式(図示せず))で構成されるパラレルレンズ40により、ビームスキャナー36へ入射する前(偏向前)のイオンビームの進行方向/ビームライン方向に平行なビームとなるように再偏向される。そして、イオンビームの進行方向/ビームライン方向に平行化されたイオンビームとなる。ビームスキャナー36の下流側には、偏向前のイオンビームの進行方向、つまりビームラインと直交する水平方向に角度を持つように偏向されたイオンビームを、ビームラインに平行となるように再偏向するパラレルレンズ40、イオンビームを加速または減速する加速/減速コラム42が配置されている。パラレルレンズ40を構成する各電極間の電界により、水平方向に偏向されたイオンビームが、偏向前のイオンビーム進行方向に平行なイオンビームとなる。
【0035】
パラレルレンズ40からのイオンビームは、加速/減速コラム42により必要ビームエネルギー(ビームの静電加速エネルギー)に調整された後、角度エネルギーフィルタAEF(Angular Energy Filter)60に送られる。AEF60では、イオンビームのエネルギーに関する分析が行われ、必要なエネルギーのイオン種のみが選択される。加速/減速コラム42は、直線形状の電極で構成されており、各電極の電圧を調整してイオンビームを加速/減速させる。加速/減速コラム42の下流側には、ハイブリッド型のAEF60が配置されている。AEF60は、目的の加速エネルギーが得られているイオンビームを選別するエネルギーフィルタである。AEF60は、磁界偏向用の磁気偏向電磁石と静電界偏向用の静電偏向用電極とを備えている。磁気偏向電磁石は、AEFチャンバーの上下左右を囲むように配置されており、上下左右を囲むヨーク部材とそのヨーク部材に巻回された上下左右のコイル群とから構成されている。一方、静電偏向用電極は、一対のAEF電極62から構成され、イオンビームを上下方向より挟み込むように配置されている。磁界による偏向時には、磁気偏向電磁石からの磁界によりイオンビームを下方に約10〜30度偏向させ、目的エネルギーのイオンビームのみを選択できる。一方、静電界による偏向時には、一対のAEF電極62間で発生する静電界の作用によって、イオンビームを磁界と同様に下方に偏向させ、目的エネルギーのイオンビームのみを選択できる。
【0036】
最後に、ウエハ処理室(イオン注入プロセスチャンバー)がある。ウエハ処理室70は、AEFチャンバーと連通している。ウエハ処理室70内には、エネルギー分解可変スリット(SES:Selectable Energy Slit)、プラズマシャワー(いずれも図示省略)が配置されており、エネルギー分解スリットは、各スリット面をイオン種に応じて順次切り替えることにより、クロスコンタミネーションを低減している。プラズマシャワー74は、低エネルギー電子をイオンビームとともにウエハ58の前面に供給し、イオン注入で生じる正電荷のチャージアップを中和するととともに抑制している。プラズマシャワー74の左右端の近傍、ウエハ処理室内のウエハ手前部には、ウエハ58の水平方向の両側に対応する箇所に、サイドカップ(ドーズカップ)76が配置され、イオン注入中も含めビーム電流(ドーズ量)を測定する。具体的には、電流測定回路に接続されている左右のサイドカップに入ってくるイオンビームが、その回路を流れてくる電子により中性化されるので、この電子の流れを測定することによってイオンビームの測定を行う。
【0037】
イオン注入位置であるウエハ近傍区間には、注入位置ビーム電流測定装置78が設置されている。注入位置ビーム電流測定装置78は、イオン注入位置でのビーム電流の強弱測定並びにスキャン方向のビーム形状の測定を行うためのビームプロファイラカップを備えている。注入位置ビーム電流測定装置78は、長円形もしくは長方形のビーム入射開口を設けたビームプロファイラカップを備えており、単一列ビームプロファイラカップを設けた移動測定式78(図2a、b参照)もしくは複数列ビームプロファイラカップ群を設けた固定測定式78a(図2c参照)の測定部材で構成される。
【0038】
移動測定式の注入位置ビーム電流測定装置78は、通常はビームスキャン位置から退避しており、イオン注入前などに、退避位置から、ビームスキャン領域上をスキャンされているビームと直交して水平方向へ移動させながら、イオン注入位置の水平方向上の各位置(数十から数千ポイント位置以上)におけるイオンビーム密度(ビーム電流密度)並びにイオンビームの水平方向のプロファイルを測定する。また固定測定式の注入位置ビーム電流測定装置78aの場合は、通常はビームスキャン位置から退避しており、イオン注入前などに退避位置からビームスキャン位置に位置変更して、ビームスキャン領域上をスキャンされているビームを、イオン注入位置の水平方向上の複数列ビームプロファイラカップ群の各カップ位置(数十から数千ポイント位置以上)におけるイオンビーム密度(ビーム電流密度)並びにイオンビームの水平方向のプロファイルを測定する。ビーム電流測定の結果、イオンビームの水平方向上のビームスキャン方向の均一性がプロセスの要求に満たない場合には、ビームスキャナー36の印加電圧、質量分析磁石装置22の磁束密度などを、プロセス条件を満たすように自動的に調整し、必要に応じて、注入位置ビーム電流測定装置78によって、再度注入位置ビーム電流測定を実施する。また、ビームラインの最下流には、ファラデーカップと同様の全ビーム電流計測機能を有してイオン注入位置の後方で最終セットアップビームを計測するチューニングファラデー80が配置されている。
【0039】
ウエハ58はウエハメカニカルスキャン装置(昇降装置)11(図2)のプラテン59(図2b)にセットされる。ここで図2(a)においてウエハ58はウエハメカニカルスキャン装置11と共に図面の面に交差する上下方向に往復移動されることを示し、図2(b)においてウエハ58はウエハメカニカルスキャン装置11上のプラテンと共に図面の面方向上で往復移動、すなわちメカニカルスキャンされることを示している。つまり、イオンビームが、例えば一軸一方向に往復スキャンされるものとすると、ウエハ58は、図示しない駆動機構により上記一軸一方向に直角な他方向に往復移動するように駆動される。
【0040】
図2は、ビームスキャナー36によるビームスキャンとウエハメカニカルスキャン装置によるメカニカルYスキャンを併用してウエハ58にイオン注入を行う時の様子を示す説明図である。図2に示すように、昇降装置は、ウエハ58を保持するプラテン59を備え、プラテンを上下方向に昇降させることによりウエハ58を昇降(メカニカルYスキャン)させる。
【0041】
また、昇降装置(図示省略)は、制御を司るCPU(Central Processing Unit)と、ウエハ58の上下方向の位置を記憶するRAM(Random Access Memory)とを備え、必要に応じてウエハ58の位置を記憶する。一対のサイドカップ76は、イオンビームが照射される領域内の固定位置、ここでは昇降装置の左右位置に配置されており、ビーム電流量(ドーズ量)を測定し、測定値をCPUに出力する。
【0042】
ビーム変動/ドーズ量変動への追従を行なうため、図2(a)に示されるCPUにおいては、一対のサイドカップ76の両方もしくは一方で測定された測定値に基づいてドーズ量が適切か否かを判定し、判定結果を判定信号として出力する。具体的には、ドーズ量が所定値以上である場合には、CPUはドーズ量が適切である旨の判定信号を出力する。一方、ビーム変動/ドーズ量変動などによって、ドーズ量が所定値未満である場合には、CPUはドーズ量が不適切である旨の判定信号を出力し、ビームライン上のスキャン前の位置に設けたパーク電極26(ビーム退避偏向装置)もしくはインジェクタフラグファラデーカップ32(挿入式ビーム遮断装置)により、ウエハ58へのイオン注入を瞬時中断し、原因を取り除き、必要に応じて、注入位置ビーム電流測定装置78により、注入位置ビーム電流測定を実施し、ウエハ58へのイオン注入を再開するよう構成する。
【0043】
図2に破線の矢印(Xを付した方向の矢印)で示すように、イオンビームは、ビームスキャナー36によって、最大ビームスキャン幅の場合には、周期的に一対のサイドカップ76を横切るように水平方向(X方向)に往復走査(ビームスキャンあるいはXスキャン)される。水平方向に往復走査しているイオンビームに対して、実線の矢印(Yを付した方向の矢印)で示すように、ウエハ58が上下方向(Y方向)に移動すると、イオンビームはウエハ58の全面を往復走査することとなり、その結果としてイオンビームのイオンがウエハ58の全面に注入される。具体的には、ウエハ58が最下位置から最上位置、または最上位置から最下位置まで移動する間に、イオンがウエハ58全面に注入される。
【0044】
なお、後で詳しく説明するように、本発明では、装置の立ち上げ(ビームチューニング)が終了してイオン注入動作を行っている間は、ウエハ58の片側、図2で言えばY方向の直径で2分割されるウエハ58の右側のビームスキャン幅をウエハ58の外周(つまり半円形の外周)形状に即する形で変化させるので、イオンビームが図2中、右側のサイドカップ76に達せず測定しない場合がある。
【0045】
次に、上記のようなイオン注入装置に本発明を適用する場合の動作原理について説明する。
【0046】
まず、図7を参照して、スキャン電圧補正関数について説明する。
【0047】
前述したように、イオン注入装置においては、ウエハにおけるドーズ量の面内均一性を保つことが重要である。ファーストスキャンとしてビームスキャン(Xスキャン)、スロースキャンとしてメカニカルYスキャン(Yスキャン)を採用しているイオン注入装置においては、横方向(X方向)のドーズ量均一性を保つ目的で、ビームスキャナーのスキャン電圧の制御関数、すなわち基準ビームスキャン制御関数14による各ビームスキャン電圧値に、注入位置ビーム電流測定装置78のビーム測定に基づく補正を加えている。
【0048】
その補正を行うために必要な関数を、スキャン電圧補正関数と呼んでいる。このスキャン電圧補正関数により、実際にビームスキャナー36に与えられる補正されたスキャン電圧値は、ビームスキャン電圧補正制御関数15となる。ビームスキャン電圧補正制御関数15は、横方向(X方向)のドーズ量均一性を保つだけでなく、ビームスキャン幅を設定することもできる。
【0049】
縦方向(Y方向)のドーズ量均一性に関しては、ビームの微少ゆらぎ/微少変動によるドーズ量修正に対応できるように、設定したビーム電流量に応じて両方もしくは一方のサイドカップ76のビーム電流値測定に基づきメカニカルYスキャン速度を追従変化させる。
【0050】
本発明では、Y方向のウエハの直径中心線で2分割されるウエハの片側のビームスキャン幅を、ウエハの外周(つまり半円形の外周)に即する形状に応じてビームスキャン幅を削減するために複数個のビームスキャン電圧補正制御関数15を利用する。
【0051】
上記の補正は、図2で説明したCPUを、ビームスキャナー制御系の制御部として動作するビームスキャン制御演算装置として兼用することにより実行され、その必要性は以下の通りである。
【0052】
図3、図4を参照して、ビームスキャナーのスキャン電圧とビームスキャン幅について説明する。
【0053】
図3(a)、図4(a)に示されるように、本発明におけるビームスキャナー36には、基準ビームスキャン制御関数14による基本三角波14w(図3(a))を基に補正した、ビームスキャン電圧補正制御関数15に基づいて作成される三角波をモジュレーション(変調補正)した形状の補正波15w(以下、「三角波補正波」と呼ぶ。)(図4(a))によるスキャン電圧が印加される。特に、1つの三角波補正波でイオンビームが1回の往復スキャン(ビームスキャン)を多量に行なうように設定されている。図3、図4では、説明を理解し易くするために、共通の電位を基準とし、周期が同じでピーク値の異なる3種類のスキャン電圧をそれぞれ点線(ピーク値Sv1)、一点鎖線(ピーク値Sv2)、破線(ピーク値Sv3)で示している。但し、ピーク値Sv1はスキャン電圧の最大値、ピーク値Sv3はスキャン電圧の最小値であり、Sv1>Sv2>Sv3である。
【0054】
これにより、点線で示す補正スキャン電圧(ピーク値Sv1)の印加により、ビームスキャナー36は、図4(b)に示すように、横方向(X方向)の位置P1を基点として最大のビームスキャン幅BSW1のビームスキャンを行なう。一点鎖線で示すスキャン電圧(ピーク値Sv2)を印加した場合、ビームスキャナー36は、横方向(X方向)の位置P1を基点としてビームスキャン幅BSW2のビームスキャンを行なう。破線で示すスキャン電圧(ピーク値Sv3)を印加した場合には、ビームスキャナー36は、横方向(X方向)の位置P1を基点として最小のビームスキャン幅BSW3のビームスキャンを行なう。勿論、BSW1>BSW2>BSW3である。
【0055】
図5に示すように、ウエハ58の中心を中心C1とした場合に、X方向のスキャン領域(ビームスキャン領域)がY方向に関して中心C1から離れるに連れてビームスキャン幅BSWをステップ状に減少させてゆくことにより、ウエハ58の片側についてビームスキャン幅を削減することによる無駄なビーム照射を無くすことができる。図5では、Y方向の直径で2分割されるウエハ58の右側半分のビームスキャン幅を、ウエハの外周(つまり半円形の外周)に即する形状に応じて削減するようにしており、その形状から、以降ではウエハ58の右側半分のスキャンをD形状のスキャンと呼ぶこととする。
【0056】
なお、図3(b)、図4(b)では、スキャン電圧とビームスキャン幅との関係を理解し易くするために、X方向を縦軸、Y方向を横軸にして示し、しかもウエハ58をY方向の中間位置に固定状態にて示している。しかし、図8でも説明したように、実際には、ウエハ58は、図6に示すように、X方向スキャン(ビームスキャン)の間、Y方向については最上位置と最下位置との間で往復するメカニカルYスキャンが行なわれている。
【0057】
従って、ウエハ58のメカニカルYスキャンを行なっている時に、単に、図4(a)に示すようなスキャン電圧Sv1、Sv2、Sv3を順にビームスキャナー36に印加するだけでは、図5に示すようなD形状のスキャン、すなわちウエハ58がY方向に変位していてもウエハ58が必ず削減したビームスキャン幅の内側に入るようなスキャンを実現することはできない。
【0058】
CPUで実現されるビームスキャン制御演算装置は、上記の点も考慮した上で、メカニカルYスキャンによりY方向に移動しているウエハ58に対する上記のD形状のスキャンを実現するものである。
【0059】
以下にその実施例を説明する。その前に、静電偏向式で構成したビームスキャナー36におけるスキャン電圧によるビームスキャン速度の変更方法について詳しく説明する。
【0060】
1)ビームスキャナー36に印加される図4(a)に示すような複数種類の三角波補正波によるスキャン電圧は、ビームスキャン電圧補正制御関数15で与えられるが、その周期、開始電圧、折り返し電圧(ピーク値)、終端電圧、基本三角波からの摂動位置、強度により規定することもできる。
【0061】
2)そして、開始電圧と終端電圧、折り返し電圧が正負の同一電圧の規定値である、周期一定で基本三角波からの摂動位置、強度が定められた三角波補正波を基にして、新たに、開始電圧と終端電圧は同一の規定値に設定し、折り返し電圧を任意の値(開始電圧/終端電圧とは異なる絶対電圧値)に設定することにより、周期一定で、基本三角波からの摂動位置、強度が変更されることになり、これはビームスキャン速度が変更されることを意味する。簡単のために、三角波を用いて図4(b)に示すように模式的に説明すると、近似的には三角波の傾きが変更され、スキャン速度が変更されることになる。
【0062】
上記のビームスキャン速度の変更方法において、各スキャン電圧(V)は、図3(a)に示すような三角波補正波の基準周波数の初期基準設定値で与えられるが、この初期基準設定値の三角波補正波は、注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定により得られたデータを基にビームスキャン制御演算装置において基本三角波からの摂動位置、強度を求め、スキャン電圧補正電圧値が得られる。得られた初期基準設定値のスキャン電圧補正電圧値から周期一定の各ビームスキャン幅に合わせてビームスキャン制御演算装置により各ビームスキャン幅対応補正電圧値が実スキャン電圧値として作成される。
【0063】
図7に、本発明による、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づく基準ビームスキャン制御関数、ビームスキャン電圧補正制御関数の一例について、ある1つのスキャン電圧補正関数を用いて演算されたスキャン電圧補正電圧値、実スキャン電圧値の部分の一例を示す。
【0064】
図7(a)において、図3(a)に示したピーク値Sv1を持つ基準周波数の三角波が、基準ビームスキャン制御関数14により、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定を最大スキャン幅に於いて例えば11点測定とした場合、11段階の初期基準設定値−5(V)、−4(V)、−3(V)、−2(V)、−1(V)、0(V)、+1(V)、+2(V)、+3(V)、+4(V)、+5(V)で与えられるものとする。この場合、この基本三角波に対応して、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定結果により、ビームスキャン電圧補正制御関数15を用いて演算されたスキャン電圧補正電圧値として、+0.3(V)、+0.2(V)、+0.2(V)、+0.1(V)、+0.1(V)、0(V)、+0.1(V)、+0.1(V)、+0.2(V)、+0.2(V)、+0.3(V)が演算される。これにより、ビームスキャナー36には、11段階の−4.7(V)、−3.8(V)、−2.8(V)、−1.9(V)、−0.9(V)、0(V)、+1.1(V)、+2.1(V)、+3.2(V)、+4.2(V)、+5.3(V)が実スキャン電圧として与えられる。
【0065】
図7(b)は基準ビームスキャン制御関数14による初期基準設定値に基づいて作成される基本三角波14wとビームスキャン電圧補正制御関数15による補正された実スキャン電圧補正値に基づいて作成される三角波補正波15wの関係を模式的に示したものである。また、磁気式偏向方式でビームスキャナーを構成した場合においては、ビームスキャン速度の変更をビームスキャナー磁石装置に対するスキャン磁束密度の周期的変更により行なうとともに、この磁束密度の周期的変更をスキャナー磁石装置に供給する三角波電流(もしくは電流制御のための電圧)の制御により実施するよう構成し、静電偏向式と同じ様に、注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づく基準ビームスキャン制御関数、スキャン電圧補正関数に準ずるビームスキャン補正制御関数(電流もしくは電流制御のための電圧の補正)を用いる。
【0066】
ビームスキャン幅の多段設定の一例として、周期一定の条件下でビームスキャン幅が最大ビームスキャン幅から最小ビームスキャン幅の間にこれらを含めて例えば4段設定される場合、ビームスキャン制御演算装置は4種類のスキャン電圧補正関数を自動計算によって作成すると共に、RAM(又はデータメモリ)に記憶させ、メカニカルYスキャン位置、つまり4段の各段のビームスキャン幅に応じてスキャン電圧補正関数を切替えてビームスキャン電圧補正制御関数15を作成し、ビームスキャナー36に印加する実スキャン電圧を演算する。
【0067】
上記のように、メカニカルYスキャン位置に応じてスキャン電圧補正関数を切替え、横方向ドーズ量均一性を確保しながらウエハの片側に対するビームスキャン幅をウエハの片側形状に合わせて変化させるようにしてビームスキャン幅を削減する。結果的に、ウエハの片側に対するビームスキャンエリア(多段設定ビームスキャン領域)は、図5で説明したようにD形状になり、無駄なイオンビーム照射が削減される。このような動作と並行して、サイドカップ76によってウエハの別の片側(図4bの上側)における同一のビームスキャン幅によるビームスキャンエリア(以下、一定スキャンエリアと呼ぶ)のサイドカップビーム電流量を測定し、ビームスキャン幅削減によるビーム電流量変化に応じてウエハメカニカルスキャン装置におけるメカニカルYスキャン速度を変化させることにより、縦方向ドーズ量均一性を確保し、横方向ドーズ量均一性の確保と併せて、結果としてドーズ量の面内均一性を確保しながらウエハ生産性を向上させている。
【0068】
以上の説明で理解できるように、本発明によるイオンビームスキャン処理の特徴は、以下の通りである。
【0069】
1.ビームチューニングを行ない、イオン注入前に、ビームスキャン幅最大時の注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定に基づいてビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算によって求め、そのビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を基にして、横方向ドーズ量均一性を満たしながら予定された各ビームスキャン幅に対応する各スキャン電圧補正関数を複数個自動計算し、ビームスキャナー制御系に設定、つまりRAM(又はデータメモリ)に記憶する。
【0070】
2.イオン注入中にメカニカルYスキャン位置を測定し、その位置に応じたスキャン電圧補正関数に切り替えることにより、ウエハの片側のビームスキャンエリアをD形状の多段設定ビームスキャン領域にしてビームスキャン幅を削減するとともに、横方向ドーズ量均一性を確保する。
【0071】
3.上記2と並行して一定スキャンエリア側のサイドカップビーム電流量を測定し、その変化に応じてメカニカルYスキャン速度を変化させることにより、縦方向ドーズ量均一性を確保する。
【0072】
4.上記2、3により、ドーズ量の面内均一性を保ちながら、無駄なイオンビーム照射面積を削減することができる。
【0073】
(実施例)
ビームスキャン制御演算装置(図2aのCPU)は、イオン注入前の注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定に基づいてビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算によって求め、得られたスキャン電圧補正関数から、横方向(X方向)のドーズ量均一性を満たしながら予定されたスキャン幅削減を実現化するスキャン電圧補正関数を複数個自動計算し、RAMに記憶する。
【0074】
単位時間あたりにウエハに照射されるドーズ量は、ビームスキャン速度が遅く設定されることにより、ビームスキャン幅を削減すると増大する。
【0075】
ビームスキャン制御演算装置はまた、縦方向(Y方向)のドーズ量均一性の確保のために、設定したビーム電流量に応じてメカニカルYスキャン速度をコントロールする。
【0076】
一対のサイドカップ76のうちの一方で検出されたサイドカップ電流を用いてビーム電流量を測定しているため、D形状のスキャンエリアとは反対側のスキャンエリア(図5の左側半分あるいは図4(b)の上側半分)におけるビームスキャン幅は一定であるようにする。
【0077】
ビームスキャン制御演算装置は、メカニカルYスキャン位置に応じて、RAMに記憶されているスキャン電圧補正関数を切替え、横方向ドーズ量均一性を確保しながら、スキャンエリアをウエハ58の形状に合わせるように削減する。結果的にウエハの片側のスキャンエリアがD形状になる。
【0078】
同時に、一定スキャンエリア側のサイドカップ76(例えば図4(b)の上側のサイドカップ電流測定器)でビーム電流量を測定し、スキャン幅削減によるビーム電流量変化に応じてメカニカルYスキャン速度を追従変化させることにより、縦方向ドーズ量均一性をも確保し、結果として設定したビーム電流量に対応するドーズ量とドーズ量の面内均一性を確保しながら、イオン注入時間を短縮して、ウエハの生産性を向上させ、スループットを上げることができる。
【0079】
以上のようなビーム照射領域削減のためのD形状のスキャン機能は、D-SAVING機能と呼んでも良い。
【0080】
D-SAVING機能を使用する場合には、ビームチューニング終了後、
(1)イオン注入前の注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定に基づいてビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算によって求め、得られたスキャン電圧補正関数から、横方向(X方向)のドーズ量均一性を満たしながら予定されたスキャン幅削減を実現化するスキャン電圧補正関数を複数個自動計算し、
(2)その複数個のスキャン電圧補正関数をビームスキャナー制御系に設定する、
ことが必要である。
【0081】
(実施例の効果)
上記実施例によれば、ビーム変動/ドーズ量変動への追従が確実に実施でき、ドーズ量の面内均一性を満たした形で、ビームスキャン周期一定でX−Yスキャン速度の組み合わせが異なる微細なイオン注入条件に対応した多段設定ビームスキャン領域を形成できる。
【0082】
上記実施例によればまた、ビーム変動/ドーズ量変動への追従が確実に実施でき、ドーズ量の面内均一性を満たした形で、ビームスキャン周期一定でX−Yスキャン速度とビームスキャン幅が異なる多段設定ビームスキャン領域を形成できる。
【0083】
上記実施例によれば更に、図8で説明した従来の長方形型スキャン形状に比べ、ウエハ形状を考慮したD形のスキャン形状とすることにより、ドーズ量の面内均一性を確保しながらスキャンエリア面積を削減することによって、ウエハ生産性を向上させることができる。ビームスキャン幅の切替えは自動で行われ、それに対応して、ウエハのメカニカルYスキャン速度も自動的に切り替わる。
【0084】
結果として、D-SAVING機能を使用することにより、その不使用時に比べ、イオン注入時間の削減が達成される。
【0085】
以上、本発明を好ましい実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記の実施形態、実施例に限定されず、例えば以下のような変形例でも良い。
【0086】
ビームスキャン周期一定で多段設定に応じて変更したビームスキャン速度でスキャンされているビームを測定するサイドカップ電流測定器のビーム測定に基づいて、メカニカルYスキャン速度の速度基準値を設定し、各段のスキャン領域のドーズ量設定に対応して、各段のスキャン領域のメカニカルYスキャン速度を演算設定する。
【0087】
本発明はまた、以下の態様で実現されても良い。
【0088】
(態様1)
ビームスキャン速度が最大である最大スキャン範囲における、ビームスキャン幅最大時のビーム測定に基づいて、ビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算によって求め、これをビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数として、そのビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を基にして、予め設定した多段の各スキャン領域に対応する各ビームスキャン速度の制御のための各スキャン電圧補正関数を生成する。スキャン電圧補正関数の生成は以下のいずれかで行う。
【0089】
1)ビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を基に展開演算する。
【0090】
2)新たにスキャン電圧補正関数を設定し、その関数を、測定したビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を基にして補正する。
【0091】
3)更に上記1)又は上記2)で生成したスキャン電圧補正関数で、実際にビームをスキャンして、ビームを注入位置にて測定し再度関数の補正を行い、再補正した関数を求める。
【0092】
(態様2)
ビームチューニングを行なった後、イオン注入前において、通常注入と同じく、ビームスキャン幅最大時の注入位置のビーム測定から求められたビームスキャン幅最大時のビームスキャンのためのスキャン電圧補正関数を演算して、スキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を基にして、横方向ドーズ量均一性を満たしながら予定された各スキャン振幅に対応するスキャン電圧補正関数を複数個自動計算により求め、スキャン制御系に設定/記憶する。
【0093】
(態様3)
設定した各ビームスキャン幅に応じた基準となる各ビームスキャン制御関数を基にして、各スキャン幅に応じたスキャンビームにより、各ビームスキャンを行い、それぞれのスキャンビームについて注入位置にてビーム測定を行って、各ビームスキャン幅に応じたビームスキャンのための各スキャン電圧補正関数を演算により求める。
【0094】
(態様4)
最大ビームスキャン範囲の基準ビームスキャン制御関数を基にして、設定した各ビームスキャン幅に応じた各スキャンビームの基準ビームスキャン制御関数を設定することにより各ビームスキャン幅のスキャンビームを新たに生成して、注入位置にてビーム測定を行い、各ビームスキャン幅に応じたX方向のスキャンのためのスキャン電圧補正関数を演算により求める。
【0095】
(態様5)
ビームスキャン幅の設定値(左右のサイドカップ電流測定器をオーバースキャンするビームスキャン幅とビーム設定左右幅)を考慮して、ビームスキャン開始端から多段設定に応じた距離を減らした各ビームスキャン幅を設定する。
【0096】
(態様6)
中央のビームスキャン線上、Xスキャン他方端に接するウエハ同径円と各段が交わる交点からXスキャン線上におろした垂線を、Xスキャン他方端から多段設定に応じた距離を減らした各ビームスキャン幅の他端として設定する。
【0097】
(態様7)
Yスキャン方向に、ビームスキャン速度が異なるビームスキャン領域を複数段分割設定し、複数段の各ビームスキャン領域段には、それぞれ複数段のビームスキャン領域毎のスキャン電圧補正関数を設定する。
【0098】
(態様8)
複数段の各ビームスキャン領域のスキャン電圧補正関数は、最大速度のビームスキャン範囲のスキャン電圧補正関数を測定/演算したものから近似値として生成する、もしくは、複数段のビームスキャン領域毎にスキャン電圧補正関数を測定/演算する、または、複数段のビームスキャン領域のスキャン電圧補正関数を設定して、測定補正する、もしくは最大速度のスキャン範囲のスキャン電圧補正関数を測定/演算したものから近似値として生成する。
【符号の説明】
【0099】
10 イオン源
12 引出電極
22 質量分析磁石装置
24、30 第1、第2の四重極収束電磁石
26 パーク電極
27 パークハウジング
28 質量分析スリット
32 インジェクタフラグファラデーカップ
36 ビームスキャナー
40 パラレルレンズ
42 加速/減速コラム
58 ウエハ
60 AEF
76 サイドカップ電流測定器
78 注入位置ビーム電流測定装置
80 チューニングファラデー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源から引出電極により引き出したイオンビームがウエハに至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置、質量分析スリット、ビームスキャナー、ビーム平行化装置、ウエハ処理室及びウエハメカニカルスキャン装置を配設して、ビームラインのウエハ手前並びに近傍区間には、イオンビームを測定するサイドカップ電流測定器並びに注入位置ビーム電流測定装置を設けたイオンビームスキャン処理装置において、
前記注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づいて、前記ビームスキャナーにおけるビームスキャン速度をスキャン電圧により制御するための基準ビームスキャン制御関数及びスキャン電圧補正関数を設定変更可能なビームスキャン制御演算装置により、前記ビームスキャナーを制御するよう構成し、
前記サイドカップ電流測定器によりメカニカルスキャンY方向に直角なX方向のビームスキャンによるビーム電流量を測定して、設定ビーム電流値に対応するY方向のメカニカルスキャン速度となるように測定したビーム電流量に基づいて前記ウエハメカニカルスキャン装置を自動補正追従させるよう構成するとともに、前記ビームスキャン制御演算装置の基準周波数設定を一定(基準周期設定を一定)に保持したまま、複数のビームスキャン速度設定の異なるX方向ビームスキャン波形を、前記ビームスキャナーに印加する制御電圧を補正変更してスキャン電圧補正関数を作成することにより設定して、X方向ビームスキャン速度とX方向ビームスキャン幅の組み合わせの異なるスキャン領域を複数段形成するよう構成し、
異なるX方向ビームスキャン速度とY方向メカニカルスキャン速度の組合せにより、同一ドーズ量領域を複数形成するよう構成したことを特徴とするイオンビームスキャン処理装置。
【請求項2】
前記ビームスキャン制御演算装置は、前記ビームスキャナーに対し、複数段に設定した各ビームスキャン幅の各スキャン領域を、それぞれ同一周期で設定したビームスキャン幅毎に異なるビームスキャン速度によってビームスキャンをさせることを特徴とする請求項1に記載のイオンビームスキャン処理装置。
【請求項3】
前記サイドカップ電流測定器は、周期一定で複数段設定に応じて変更したビームスキャン速度でスキャンされているビームの電流を測定し、前記ビームスキャン制御演算装置は、測定したビーム電流に基づいてウエハのメカニカルYスキャンを、ドーズ量設定に応じて自動追従させることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビームスキャン処理装置。
【請求項4】
前記ビームスキャン制御演算装置は、イオン注入前に注入位置ビーム電流測定装置によるビーム測定によって求められたビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算によって求め、それに対応するウエハのメカニカルYスキャン速度を演算設定し、さらに複数段設定に応じてメカニカルYスキャン速度を演算設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオンビームスキャン処理装置。
【請求項5】
前記ビームスキャン制御演算装置は、ビームスキャン幅の異なるスキャン領域の前記複数段の形成を、Y方向の直径で2分割される前記ウエハの片側に対するビームスキャン幅を該ウエハの片側の外周に即する形状に対応させて行なうことによりビームスキャン幅の削減を実現することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオンビームスキャン処理装置。
【請求項6】
イオン源から引出電極により引き出したイオンビームをウエハに至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインを、質量分析磁石装置、質量分析スリット、ビームスキャナー、ビーム平行化レンズ、ウエハ処理室、ウエハメカニカルスキャン装置により構成し、ビームラインのウエハ手前並びに近傍区間には、イオンビームを測定するサイドカップ電流測定器並びに注入位置ビーム電流測定装置を設けたイオンビームスキャン処理装置によるイオンビームスキャン処理方法において、
前記注入位置ビーム電流測定装置のビーム測定に基づいて、ビームチューニングに際し、ビームスキャン幅最大時のビーム測定から求められたビームスキャン幅最大時のスキャン電圧補正関数を演算し、そのスキャン電圧補正関数を基にして、横方向ドーズ量均一性を満たしながら予定された各ビームスキャン幅に対応する各スキャン電圧補正関数を複数個自動計算し、
続いて、イオン注入中にメカニカルYスキャン位置を測定し、その位置に応じたスキャン電圧補正関数に切り替えることにより、ウエハの片側のビームスキャンエリアをD形状の複数段設定ビームスキャン領域にしてビームスキャン幅を削減するとともに、横方向ドーズ量均一性を確保し、
上記動作と並行してウエハの別の片側における一定スキャンエリア側のサイドカップビーム電流量を測定し、その変化に応じてメカニカルYスキャン速度を変化させることにより、縦方向ドーズ量均一性を確保するようにしたことを特徴とするイオンビームスキャン処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−258353(P2011−258353A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130378(P2010−130378)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000183196)株式会社SEN (31)
【Fターム(参考)】