説明

イオン性液体含有ゲル、その製造方法及びイオン伝導体

【課題】イオン性液体を含有し、優れたイオン伝導度を有するイオン性液体含有ゲルを提供する。
【解決手段】シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを接触させて得られるイオン性液体含有ゲルであって、前記シリカコンポジット粒子が、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、テトラアルコキシシラン及び下記一般式(1)
【化1】


で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られたものであることを特徴とするイオン性液体含有ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体を含有するゲル、その製造方法及び該ゲルを用いたイオン伝導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温、常圧では液体であり、沸点を持たない物質であるが、そのうちのいくつかは、20世紀初頭から電気化学の分野では、研究されてきた。しかし、他の用途については、研究されていなかった。
【0003】
ところが、1990年代になり、グリーンケミストリーが叫ばれるようになると、イオン性液体は、不燃性、不揮発性等の興味深い性質を示すことから、注目を集め始めた。そのため、種々のイオン性液体が開発されるようになった。そして、近年、イオン性液体を、不燃性、不揮発性かつ極性の高い溶媒として利用することについては、研究が進められている。
【0004】
しかし、溶媒としての用途以外については、イオン性液体の利用方法については、未だ開発されておらず、今後、イオン性液体の新規な用途が期待される。
【0005】
イオン性液体の新規な用途の1つとして、イオン性液体を含有する機能材料が考えられる。このため、本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができる粒子表面にイオン性液体を固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1参照)。
【0006】
近年、イオン伝導性の高い高分子材料が注目され、固体状態でイオン伝導性の高い高分子材料は、次世代のリチウムイオン二次電池用電解質として、特に注目されている。
【0007】
下記非特許文献1には、ナノシリカ粒子によりイオン性液体をゲル化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B 2008,112,9013−9019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1によれば、ホモジナイザー等の強力な混合手段を用い、更に24時間70℃で真空乾燥を行わないと均一なゲルが得られにくいという問題がある。
【0011】
本発明者らは、更にイオン性液体を含有する機能材料の開発を進める中で、コアシリカ粒子を含有するシリカゾル、テトラアルコキシシラン及び特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーとを用い、溶媒中で該テトラアルコキシシランの加水分解を行うことにより得られるシリカコンポジット粒子はイオン性液体に対して優れた分散性を示すこと。また、該シリカコンポジット粒子と、イオン性液体を混合処理すると、該シリカコンポジット粒子が媒体となって容易に超音波処理等の混合処理によりイオン性液体が含有された均一ゲルが得られること。また、該ゲルは優れたイオン伝導性を有するものであることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0012】
したがって、本発明の課題は、イオン性液体を含有し、優れたイオン伝導度を有するイオン性液体含有ゲルを提供することにある。また、本発明の課題は、該ゲルを工業的に有利な方法で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明は、シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを接触させて得られるイオン性液体含有ゲルであって、前記シリカコンポジット粒子が、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、テトラアルコキシシラン及び下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られたものであることを特徴とするイオン性液体含有ゲルである。
【0014】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、テトラアルコキシシラン、下記一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記テトラアルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行ってシリカコンポジット粒子を得る工程、次いで、該シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを混合する工程を有することを特徴とするイオン性液体含有ゲルの製造方法である。
【0015】
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明のイオン性液体含有ゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゲルは、イオン性液体が固定化された新規な機能性材料であり、イオン伝導性にも優れる。該イオン性液体含有ゲルは、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることが出来る。
また、該ゲルは、シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを超音波処理等の簡易的な混合処理により、工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られたゲルの表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のイオン性液体含有ゲルは、シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを接触させて得られるものである。
【0019】
前記シリカコンポジット粒子は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、テトラアルコキシシラン及び下記一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子である。
【0020】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子は、平均粒径が5〜200nmのシリカ粒子である。表面処理工程に係るコアシリカ粒子源としては、平均粒径が5〜200nmのシリカ粒子を含有するシリカゾルが挙げられる。表面処理工程に係るコアシリカを含有するシリカゾルは、親水性溶媒シリカゾル、疎水性シリカゾル等が挙げられ、メタノールゾル、エタノールゾル、イソプロピルアルコールゾルが、ゾルを製造し易い点で好ましい。また、メタノールゾルは、市販品でもよく、疎水性溶媒シリカゾルは、水性シリカゾルを溶媒置換することにより調製されていてもよい。シリカゾル中のコアシリカ粒子は、SiOからなるシリカ粒子である。シリカゾル中のコアシリカ粒子の含有量は、特に制限はないが、好ましくは1〜80重量%、特に好ましくは3〜50重量%である。例えば、表面処理工程に係る反応溶媒に、表面処理工程に係るコアシリカを含有するシリカゾルを添加することにより、平均粒径が5〜200nmのコアシリカを含有する反応原料液が得られる。
【0021】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子のシリカ源としては、例えば、珪酸ソーダ又は活性珪酸溶液から粒子成長を行って製造されたものや、有機珪素化合物を原料として製造されたものや、ヒュームドシリカ等、特に制限されない。
【0022】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子の平均粒径は、5〜200nm、好ましくは5〜50nmである。コアシリカ粒子の平均粒径が、上記範囲内にあることにより、イオン性液体へのシリカコンポジット粒子の分散性が良好になる。一方、コアシリカ粒子の平均粒径が5nm未満だと、コアシリカ粒子を含有するシリカゾルの製造及び工業的に入手することが困難であり、また、平均粒径が200nmを超えると、シリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなる。コアシリカ粒子は動的光散乱法によって測定することができる。本発明においては、大塚電子製のDLS−6000HLを用いて測定を行った。
【0023】
表面処理工程に係るアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン、ヘキシルオキシトリメチルシラン等のアルコキシトリアルキルシランが挙げられる。これらのアルコキシシランにおけるアルキル基の炭素鎖長は1〜6であることが好ましい。アルコキシ基の炭素鎖長も1〜6であることが好ましい。これらのうち、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが、製造上、取り扱い易い点で好ましい。また、アルコキシシランは、1種単独でも、2種以上の組み合せでもよい。
【0024】
表面処理工程に係る反応溶媒は、表面処理工程に係るアルコキシシラン及び一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解するものが用いられる。表面処理工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0025】
表面処理工程において、反応原料液を調製する際に、コアシリカ粒子を含有するシリカゾル、アルコキシシラン、一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0026】
反応原料液中のコアシリカ粒子の含有量は、特に制限されないが、好ましくは1〜80重量%、特に好ましくは3〜50重量%である。反応原料液中のコアシリカ粒子の含有量が、上記範囲にあることにより、シリカコンポジット粒子の分散安定性が高くなる。
【0027】
反応原料液中のアルコキシシランの含有量は、コアシリカ粒子1gに対して、0.05〜1.5ml、好ましくは0.08〜1.05mlである。反応原料液中のアルコキシシランの含有量が、上記範囲にあることにより、シリカコンポジット粒子中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が高くなり、イオン性液体に対して分散性に優れたものが得られやすい。反応原料液中のアルコキシシランの含有量が、コアシリカ粒子1gに対して、0.05ml未満だと、シリカコンポジット粒子中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が低くなり易く、イオン性液体への分散性に問題が生じやすい。また、1.5mlを超えると、シリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。
【0028】
反応原料液中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、コアシリカ粒子1gに対して、好ましくは0.03〜1g、特に好ましくは0.04〜0.6gである。反応原料液中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が、上記範囲にあることにより、イオン性液体へのシリカコンポジット粒子の分散性が高くなる。
【0029】
前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより、製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0030】
表面処理工程において、反応原料液に加える酸又はアルカリとしては、テトラアルキルシシランの加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0031】
反応原料液に加える酸又はアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料液に、酸又はアルカリを混合して、テトラアルコキシシランの加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、テトラアルコキシシランの加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、粉末状のシリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0032】
本発明では、表面処理工程を行い得られる反応液から、反応溶媒を蒸発させ除去して、シリカコンポジット粒子を得る溶媒蒸発除去工程を行い、該反応液からシリカコンポジット粒子を回収することができる。溶媒蒸発除去工程では、常圧又は減圧下で反応溶媒が蒸発する温度に加熱して、反応溶媒の蒸発除去を行う。また、必要により更に乾燥を行いシリカコンポジット粒子を得ることができる。
【0033】
前記シリカコンポジット粒子の好ましい物性としては、平均粒径が5〜200nm、好ましくは5〜60nmである。平均粒径が前記範囲内にあると、イオン性液体への分散性が良好である点で好ましい。
【0034】
また、前記シリカコンポジット粒子において、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10〜98重量%である。前記シリカコンポジット粒子におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、Fを元素分析することで求めることができる。
【0035】
また、前記シリカコンポジット粒子において、Si原子の含有量は、SiO換算で、好ましくは2重量%以上、特に5〜90重量%である。該SiO含有量は、熱重量分析により求めることができる。
【0036】
前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、表面処理工程において加水分解可能な部位を有しており、シリカコンポジット粒子において、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基と、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物とが、化学結合又は分子間水素結合を形成することにより、コアシリカ粒子に付着したポリシロキサン化合物の表面に、結合を形成して存在するものと、分子鎖の一部が、ポリシロキサン化合物のネットワーク中に取り込まれて存在しているものがあると本発明者らは推測している。そして、ポリシロキサン化合物の表面に結合している前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基の分子鎖、及びポリシロキサン化合物のネットワークに取り込まれなかった、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基の部分が、シリカコンポジット粒子の表面から伸びるため、本発明のシリカコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるフロオロアルキル基オリゴマーの反応残基がコロナのように、コアシリカ粒子の表面から、放射状に伸びた形状となる。このためイオン性液体への分散性が特に向上するものと考えられる。
【0037】
本発明のイオン性液体含有ゲルは、前記シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを混合処理して接触させることで得られる。
【0038】
用いることができるイオン性液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温(25℃)、常圧(0.1MPa)で液体であり、且つ沸点を持たない物質であれば、特に制限されない。例えば、イオン性液体を構成するカチオンとしては、アミジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン及び3級アンモニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0039】
前記アミジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジウムカチオン、ジヒドロピリミジウムカチオンが挙げられる。
【0040】
前記グアニジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、イミダゾリウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン等が挙げられる。
【0041】
3級アンモニウムカチオンとしては、例えばメチルジラウリルアンモニウム等が挙げられる。
【0042】
4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンとしては、下記一般式(2)
【化3】

(式中、QはP原子又はN原子を示す。)
前記一般式(2)の式中、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基を示す。また、R、R、R及びRが、シクロアルキル基又はフェニル基の場合、例えば、4−メチルシクロヘキシル基、4−メチルフェニル基のように、シクロアルキル環又はベンゼン環の水素原子の一部が、アルキル基で置換されていてもよい。また、R、R、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基の水素原子の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基等の置換基で置換されている基であってもよい。
式中のnは、アニオン(Y)の価数(Yn−)により定まり、アニオン(Y)の価数(Yn−)が1価の場合(nが1の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は1であり、アニオン(Y)の価数(Yn−)2価の場合(nが2の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は2である。そして、nは、1〜2の整数である。
【0043】
また、イオン性液体を構成するアニオンとしては、例えば、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO、CFSO、HSO、(CFSO等の1価のアニオン;SO2−等の2価のアニオンが挙げられ、ここに例示したアニオンが、製造が易いという点で好ましい。
【0044】
本発明において、好ましいイオン性液体は、カチオンがトリエチルドデシルアンモニウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、エチルイミダゾリウム塩、トリ−n−ブチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}ホスホニウム塩であり、アニオンが(CFSO、PF、HSO、CFSO、塩素イオンであるとイオン伝導性が高いものが得られる点で好ましい。
【0045】
前記シリカコンポジット粒子とイオン性液体との混合処理は、前記イオン性液体に前記シリカコンポジット粒子を添加して行うことが望ましい。該シリカコンポジット粒子のイオン性液体への添加量は、該シリカコンポジット粒子の添加によりゲル化を起こす範囲であれば特に制限はなく、多くの場合、イオン性液体100重量部に対して、シリカコンポジット粒子を1〜60重量部、好ましくは5 〜50重量部、特に好ましくは10〜40重量部添加する。特に、イオン性液体100重量部に対してシリカコンポジット粒子を10〜40重量部含有するゲルは優れた、イオン伝導性を示すイオン伝導体として用いることができ、かかるイオン伝導体は、高分子電解質として用いることができる。
【0046】
混合処理方法は、ミキサー等の強力なせん断力が作用する機械的手段で行ってよいが、本発明では超音波照射を行っても容易に目的とするイオン性液体含有ゲルを得ることができる。
【0047】
超音波処理の条件等は、用いるイオン性液体やシリカコンポジット粒子の添加量等により異なるが、多くの場合、超音波の出力が50〜500W、好ましくは100〜200Wで、1時間以上、好ましくは2〜24時間である。
【0048】
本発明のイオン性液体含有ゲルは、フルオロアルキル基に起因する撥水性を有していることから、撥水性を材料に付与する添加剤としての用途にも期待できる他、優れたイオン伝導性を有することから、特にイオン伝導体として有用であり、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることもできる。
【0049】
次いで、本発明のイオン伝導体を用いた高分子電解質について説明する。
本発明の高分子電解質は、該イオン性液体含有ゲルを含有するものであり、該高分子電解質はゲル状の形態を有するものである。
【0050】
本発明において高分子電解質は、その形態がゲル状である限りにおいて、水又は非プロトン性溶媒を含有させることができる。
【0051】
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0052】
更に、本発明の高分子電解質は、他の電解質と併用することが出来る。他の電解質としては、水叉は非プロトン性溶媒に溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、LiClO4 、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4 、LiPF6
、LiCF3 SO3 、LiAsF6 、LiAlCl4 、LiB(C6
64 、CF3 SO3 Li、LiSbF6 、LiB10Cl10、LiSiF6、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF32、LiN(CF3SO32、低級脂肪酸カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム及び4フェニルホウ酸リチウム等が挙げられ、これらのリチウム塩は、1種又は2種以上で用いられる。これらのリチウム塩のうち、LiN(CF3SO32、LiPF6
、CF3 SO3 Li、LiPF6が電解質のイオン伝導性の点から好ましく、LiN(CF3SO32が特に好ましい。これらのリチウム塩の好ましい添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではない。
【0053】
本発明の高分子電解質は、特にリチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(フルオロアルキル基含有オリゴマーの調製)
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45Cにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(2)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCFCFCHCl/CClFCFCHClFで表される。
【表1】

*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0055】
実施例1〜8
(シリカコンポジット粒子の調製)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いでRF−VMオリゴマー0.1g、30wt%シリカナノ粒子(メタノール分散、平均粒子経11nm)3.33g、テトラエトキシシラン(TEOS)2.3mmol、NH(25wt%)5mlを加え、5時間室温下でマグネチックスターラーにて攪拌し、エバポレーターにより溶媒除去を行った。次いで、真空乾燥を1日行って、シリカコンポジット粒子を得た。
得られたシリカコンポジット粉末状粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した結果、平均粒子径は133±33nmであった。
また、得られたシリカコンポジット粒子中のフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は5重量%で、Si含有量はSiOとして95重量%であった。
なお、フルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、Fを元素分析して求めた。SiO含有量は、熱重量分析により求めた。
(ゲルの調製)
イオン性液体にシリカコンポジット粒子を添加することにより、ゲルを形成するのに必要なシリカコンポジット粒子の最小添加量(以下、「最小ゲル化濃度」という)を求めた。また、実施例1で得られたゲルの表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図1に示す。なお、実験方法は以下のとおりである。
前記で調製したシリカコンポジット粒子を、各種のイオン性液体0.5gに添加し、120Wで12時間超音波をかけることによりゲルが形成(25℃)されるどうか確認した。また、形成されたゲルの状態を目視で観察した。
また、用いたイオン性液体は、以下の化学式(A)〜(H)のものを使用した。
【0056】
【化4】

(式中、n−Buはn−ブチル基、Meはメチル基、Etはエチル基、n−Doはn−ドデシル基を示す。)
【0057】
比較例1
30wt%シリカナノ粒子(メタノール分散、平均粒子経11nm)を蒸留してメタノールを除去してシリカナノ粒子(平均粒径10nm)を得た。
前記で調製したシリカナノ粒子を、イオン性液体(化学式(A))0.5gに10wt%まで1wt%ずつ添加し、120Wで12時間超音波をかけたところゲルが形成(25℃)されなかった。
【0058】
比較例2〜5
(シリカコンポジット粒子の調製)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで市販のカップリング剤;C13Si(OEt)0.10g、テトラエトキシシラン(TEOS)2.3mmol、NH(25wt%)5mlを加え、5時間室温下でマグネチックスターラーにて攪拌し、エバポレーターにより溶媒除去を行った。次いで、真空乾燥を1日行って、シリカコンポジット粒子を得た。
得られたシリカコンポジット粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した結果、平均粒子径は216±42nmであった。
また、得られたシリカコンポジット粒子中のカップリング剤の含有量は71重量%で、Si含有量はSiOとして29重量%であった。
なお、カップリング剤の含有量は、Fを元素分析して求めた。SiO含有量は、熱重量分析により求めた。
(ゲルの調製)
実施例1〜8と同様な操作方法にてイオン性液体にシリカコンポジット粒子を添加して、最小ゲル化濃度を求めた。また、形成されたゲルの状態を目視で観察した。
【0059】
【表2】

【0060】
(イオン伝導度の評価)
実施例1〜8で得られたイオン性液体含有ゲルをパイレックス(登録商標)ガラスセルに入れ、真鍮で作成した上部電極を下部電極で挟み込み、導電率を室温(25℃)にて測定した。また、マイクロヘッドを用いてゲルの厚さを測定した。これらの測定値から、イオン伝導度(σ)を算出した。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、イオン伝導性に優れたイオン性液体を含有する均一なゲルを提供することができる。また、該イオン性液体含有ゲルは、シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを超音波処理等の簡易的な混合処理により、工業的に有利に製造することができる。
該イオン性液体含有ゲルは、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを接触させて得られるイオン性液体含有ゲルであって、前記シリカコンポジット粒子が、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、テトラアルコキシシラン及び下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られたものであることを特徴とするイオン性液体含有ゲル。
【請求項2】
平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、テトラアルコキシシラン、下記一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記テトラアルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行ってシリカコンポジット粒子を得る工程、次いで、該シリカコンポジット粒子とイオン性液体とを混合処理する工程を有することを特徴とするイオン性液体含有ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項2記載のイオン性液体含有ゲルの製造方法。
【請求項4】
前記混合処理は超音波照射により行う請求項2記載のイオン性液体含有ゲル。
【請求項5】
請求項1記載のイオン性液体含有ゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体。
【請求項6】
高分子固体電解質として用いられる請求項5記載のイオン伝導体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26153(P2011−26153A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171655(P2009−171655)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会(2009) 講演予稿集 I」に発表
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】