説明

イオン注入ドーズ量を測定するための方法及び装置

材料内のイオン注入ドーズ量を測定するための方法及び装置は、(i)材料の注入面による反射スペクトルを測定する工程、ここで注入面は注入面から材料内のある深さまでの材料層及びこの材料層の下の脆弱層を形成するためにイオン注入プロセスにかけられている、(ii)反射スペクトル強度値を注入面への入射光のそれぞれの波長の関数として格納する工程、及び(iii)入射光の少なくとも2つの波長における少なくとも2つの対応する反射スペクトル強度値の比較に基づいてイオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は2009年5月28日に出願された、名称を「イオン注入ドーズ量を測定するための方法及び装置(Methods and Apparatus For Measuring Ion Implant Dose)」とする、米国特許出願第12/473896号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、半導体材料のような、材料内のイオン注入ドーズ量の測定に関する。
【背景技術】
【0003】
材料内の実イオン注入ドーズ量を知ることは様々な製品の製造において、例えば、プロセス変動を検査するため、歩留を向上させるため、製品品質をモニタするため、等に有益であり得る。イオン注入ドーズ量を測定できる能力は、絶縁体上半導体(SOI)構造の開発におけるような、新しい製品及びシステムの設計においても有益であり得る。
【0004】
SOI構造の作成方法は、特許文献1に開示されるような、イオン注入法を含む。そのような工程は、(i)ボンディング面を形成するためにシリコンウエハ表面を水素イオン注入にさらす工程、(ii)ウエハのボンディング面をガラス基板に接触させる工程、(iii)ウエハとガラス基板の間の接合形成を容易にするためにウエハ及びガラス基板に圧力、温度及び電圧をかける工程、(iv)基板を常温まで冷却する工程、及び(v)ガラス基板及びシリコンの薄層をシリコンウエハから分離する工程を含む。
【0005】
そのようなSOI構造を開発及び/製造するためには、ドナー半導体(例えばシリコン)ウエハの実イオン注入量を測定できることが望ましい。イオン注入ドーズ量の指標を得るための多くの既存の手法がある。例えば、二次イオン質量分光法(SIMS)は、試料表面を集束一次イオンビームでスパッタし、はじき出された二次イオンを集めて解析することによって固体表面及び薄膜の組成を解析するための、材料科学及び表面科学において用いられる手法である。そのような二次イオンは、表面の元素、同位体または分子の組成を決定するために質量分光計を用いて測定される。SIMSは、少なくとも、破壊試験であり、また試料の小面積しか測定しないから、完全に適切な手法ではない。
【0006】
別の手法には、イオン注入装置内部で用いられる、その場ドーズ量モニタがある。そのようなその場ドーズ量モニタも、注入されたと推定される平均イオンドーズ量しか提供しないから、適切ではない。しかも、その場ドーズ量モニタは試料内の実ドーズ量を測定または計算せず、また試料面内の注入ドーズ量のいかなる非一様性またはその他の変動も検出することができない。既存のイオン注入装置製造業者により、単波長または狭波長範囲の反射率測定に基づく測定/マッピングツールが開発されている。そのようなシステムが特許文献2に説明されているが、このシステムではイオン注入前にベースライン測定が必要であり、これは望ましくない。また別の手法では、比抵抗測定に基づいてドーズ量情報を抽出するために4点プローブが用いられる。しかし、測定は、大きく変動し得る、材料の比抵抗によって影響され、またこのプロセスでは試料をプローブに接触させる必要があるという事実によって破壊測定であると見なされる。
【0007】
集積回路を作成するための半導体プロセス中のイオン注入後ドーパントプロファイルの測定のための光照射によるキャリア発生/検出(Carrier Illumination)法がいくつか提案されている、しかしこれらの手法では、キャリアを発生させるために(単波長の)パルスレーザ照射が用いられ、反射率を測定するためには別のプローブビームが用いられる。したがって、ほとんどの場合、そのような手法では注入ドーズ量の変動と注入エネルギーの変動を弁別できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7176528号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0112853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上で論じた理由のため、イオン注入ドーズ量を測定するための上述した手法及びプロセスのいずれも、例えばSOI構造の製造の文脈において、満足できるものではなかった。すなわち、イオン注入ドーズ量を測定するための新規な方法及び装置が技術上必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
材料内のイオン注入ドーズ量を測定するための方法及び装置は、
材料の注入面による反射スペクトルを測定する工程、
注入面は注入面から材料内のある深さまでの材料層及びこの材料層の下の脆弱層を形成するためにイオン注入プロセスにかけられている、
反射スペクトル強度値を注入面の入射光のそれぞれの波長の関数として格納する工程、
入射光の少なくとも2つの波長における少なくとも2つの対応する反射スペクトル強度値の比較に基づいてイオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程、及び
計算されたイオン注入ドーズ量をユーザ視認可能媒体上に表示する工程、
を含む。
【0011】
イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程には、反射スペクトルの少なくとも1つの極大強度値と少なくとも1つの極小強度値の間の極大極小差を決定する工程を含めることができる。反射スペクトルの極大強度値及び極小強度値は、検出のための入射光の材料層下の脆弱層への到達、反射及び材料からの出射を可能にするに十分に材料が透明であるそれぞれの波長において選ぶことができる。
【0012】
イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程には、イオン注入ドーズ量に実質的に影響されない反射スペクトル強度値で極大極小差を割ることによって規格化極大極小差を計算する工程を含めることができる。本明細書で後に論じられるように、規格化極大極小差の計算を実行できる多くの方法がある。
【0013】
次いで、規格化極大極小差の関数としてイオン注入ドーズ量を計算することができる。これは、イオン注入ドーズ量と規格化極大極小差の間の関係を確立することによって達成することができる。そのような関係は線形または非線形になり得るが、単調であることが好ましい。単調な関係を確立する工程には既知のイオン注入ドーズ量を付随して測定された、規格化極大極小差を用いて較正する工程を含めることができる。
【0014】
本発明の方法及び装置はさらに、
反射スペクトルを測定する工程、反射スペクトルの強度値を格納する工程及び材料のイオン注入面内の複数の場所についてイオン注入ドーズ量を計算する工程を反復する工程、及び
材料のイオン注入面内の、ドーズ量の変動を含む、計算されたイオン注入ドーズ量をユーザ視認可能媒体上に表示する工程、
を含むことができる。
【0015】
その他の態様、特徴、利点、等は、当業者には、添付図面とともに本明細書の説明を読めば明らかになるであろう。
【0016】
本明細書に開示される様々な特徴を説明する目的のため、現在好ましい形態が図面に示されるが、図示される構成及び手段に本発明が限定されないことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本明細書に開示される1つないしさらに多くの実施形態にしたがう、材料試料のイオン注入ドーズ量を測定するための装置を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1の装置における測定の下の材料の対象とすることができる、絶縁体上半導体製品の作成に有用な中間構造を示すブロック図である。
【図3A】図3Aは、注入イオンを含んでいる材料試料及び含んでいない材料試料の屈折率と入射光波長の間の関係を示す。
【図3B】図3Bは、注入イオンを含んでいる材料試料及び含んでいない材料試料の吸収と入射光波長の間の関係を示す。
【図4】図4は図1の装置の給光コンポーネント及び受光コンポーネントのさらに詳細な線描図である。
【図5】図5は、図1の装置を用いる測定の下にある半導体材料の、測定された反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は測定下の半導体材料の反射スペクトルの1つないしさらに多くの領域と半導体材料のイオン注入ドーズ量の間の関係を示すグラフである。
【図7】図7は図1の装置を用いた実験結果を示すグラフである。
【図8】図8は、本明細書に開示される1つないしさらに多くの実施形態にしたがう、材料試料のイオン注入ドーズ量を測定するための別の装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
同様の参照数字が同様の要素を指す、図面を参照すれば、本明細書に開示される1つないしさらに多くの実施形態にしたがうイオン注入ドーズ量測定装置100が図1に示されている。装置100は、シリコンウエハのような半導体ウエハとすることができる、材料試料片120のイオン注入ドーズ量を測定するためにはたらく。装置100は、光源102,分光計104及びコンピュータシステム106を備える。入射光が光源102から試料120に、ある長さの光ファイバ材料108のような、適切な構造を用いて送られ、反射光が、別の長さの光ファイバ材料110のような、別の構造を用いて集められて分光計104に送られる。コンピュータシステム106は、集められて分光計104に送られた反射光に基づいて試料のイオン注入ドーズ量を計算するために実装された、コンピュータ実行可能コードを走らせることができるプロセッサを備える。計算されたイオン注入ドーズ量は、コンピュータスクリーン、プリントアウト、等のような、コンピュータシステム106内の表示手段を用いて、装置100のユーザに提供することができる。
【0019】
装置100のさらなる詳細を論じる前に、試料120が見いだされ得る例示的文脈及び試料120に施されているであろういくつかの処理に関する議論が初めに与えられる。議論の目的のため、本明細書に説明される方法及び装置はSOI構造の開発及び/または製造の文脈にあるとすることができる。SOI構造には、例えば、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ及び液晶ディスプレイ(LCD)を含むディスプレイ用途、集積回路、光起電力デバイス、等のための、薄膜トランジスタ(TFT)の作成に関して適する用途がある。
【0020】
今のところ、SOI構造に最も普通に用いられる半導体材料はシリコンである。そのような構造は文献において絶縁体上シリコンと称され、略語「SOI」がそのような構造にあてられている。SOI技術は、高性能薄膜トランジスタ、太陽電池及び、アクティブマトリックスディスプレイのような、ディスプレイにとって、益々重要になっている。SOI構造は絶縁体材料上の実質的に単結晶のシリコンの薄層を有することができる。
【0021】
本明細書におけるSOI構造への言及は本明細書に説明される実施形態の説明を容易にするためになされ、絶対に、特許請求の範囲を限定することは目的とされておらず、またそのように解されるべきではない。略語SOIは、本明細書において、全般的に、ガラス上半導体(SOG)構造、絶縁体上シリコン(SOI)及びガラス上シリコン(SiOG)を含むがこれらには限定されない、絶縁体上半導体構造を指して用いられ、ガラス-セラミック上半導体構造も包含する。本明細書に用いられるように、SOIは半導体上半導体構造も包含することができる。
【0022】
図2を参照すれば、SOIデバイスの生産、または開発に、ドナー半導体ウエハ120を用いることができる。本明細書に論じられる実施形態の文脈において、ドナー半導体ウエハ120は、イオン注入ドーズ量の計算が求められる、試料材料とすることができる。しかし、この場合も、半導体である試料材料は例示に過ぎず、本明細書に説明される注入ドーズ量測定装置100及び/またはその他の方法及び装置は他の材料に関してはたらくことができる。
【0023】
ドナー半導体ウエハ120は、別の半導体材料、ガラスまたはガラス-セラミックの基板(図示せず)のような、絶縁体基板への接合形成に適する比較的平坦で一様な注入面を形成するため、例えば、研磨、洗浄、等によって、作成することができる。議論の目的のため、半導体ウエハ120は実質的に単結晶のSiウエハとすることができるが、III-V族、II-IV族、II-IV-V族等の半導体のような、他のいずれか適する半導体を用いることもできる。そのような半導体の例に、シリコン(Si)、ゲルマニウムドープシリコン(SiGe)、炭化シリコン(SiC)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ化ガリウム(GaAa)、GaP及びInPがある。
【0024】
ドナー半導体ウエハ120の注入面121に1つないしさらに多くのイオン注入プロセスを施して注入面121の下に脆弱領域を形成することによって、剥離層122が形成される。本発明の実施形態は剥離層122を形成するためのいずれの特定の方法にも限定されないが、適する一方法では、ドナー半導体ウエハ120内の剥離層122の形成を少なくとも開始するために、ドナー半導体ウエハ120の注入面121に水素イオン注入プロセスを施し得ると規定される。注入エネルギーは、約300〜500nmのような、剥離層122の総厚を達成するために従来の手法を用いて調節することができるが、他の妥当な厚さも本発明の範囲内にある。例として、水素イオン注入を用いることができるが、ホウ素+水素、ヘリウム+水素または、剥離について文献で知られている、その他のイオンのような、他のイオンまたは複数のイオンを用いることができる。この場合も、剥離層の形成に適する、その他のいずれかの既知の手法または今後開発される手法を用いることができる。
【0025】
注入されるイオン種の性質にかかわらず、剥離層122へのイオン注入の効果は、結晶格子内の原子の、それぞれの正規の位置からの変位である。格子内の原子にイオンが当たると、原子は所定の位置から押し出され、フレンケル対と呼ばれる空孔と格子間原子の、一次欠陥が形成される。イオン注入が室温近くで行われると、一次欠陥の成分は移動して、空孔クラスター、等のような、多くのタイプの二次欠陥を形成する。これらのタイプの欠陥のほとんどは電気的に活性であって、半導体格子内で多数キャリアに対するトラップとしてはたらく。
【0026】
したがって、得られるドナー半導体ウエハ120の構造は、イオン注入面から材料内のある深さまで拡がる材料層(剥離層122)及びこの材料層の下の脆弱層123である。脆弱層123の形成に用いられるイオン注入ドーズ量は比較的高く、後のドーピング法に用いられるドーズ量よりかなり高くすることができる。したがって、脆弱層123は半導体(例えばシリコン)と水素の混合層として表すことができる。また、脆弱層123は、例えばシリコンへの水素の大量ドーズが実施された状況に特有の、いくつかのタイプの欠陥も含む。例えば、そのような欠陥には、水素充満気泡、水素プレートレット及び水素化空孔クラスターを含めることができる。
【0027】
一例の(上述したドナー半導体ウエハのような)材料120の構造に関する上記バックグラウンドにしたがい、本発明の方法及び(装置100のような)装置は、材料120の脆弱層123を生じさせたイオン注入ドーズ量及び材料120のその他の付随構造特性を測定するためにはたらく。
【0028】
図3A及び3Bを参照すれば、イオン注入された半導体(本例ではシリコン)ウエハ120は、脆弱層123において(ウエハ120の無イオン注入領域に比較して)屈折率の有意な変化を示し、これは光源102によって注入面121に入射する光の少なくともいくらかの反射を生じさせると考えられる。本明細書の特許請求の範囲に制限されずに、屈折率のそのような差が、分光反射測定法を用いてイオン注入ドーズ量を計算できる能力をもたらす、肝心な特性であると考えられる。図3Aは、半導体材料120の無イオン注入領域300と注入イオンを含む弱化層123の領域302の、屈折率(Y軸(標準単位))と入射光の波長(X軸(単位:μm))の間の仮の関係を示す。図3Aのグラフに示される値は、結晶シリコンウエハ及びアモルフォスシリコンウエハについての既知の文献から導出した。図3Bは、無イオン注入半導体材料304と注入イオンを含む半導体材料306の、吸収係数(Y軸(単位;1/cm))と入射光の波長(X軸(単位:μm))の間の仮の関係を示す、関連グラフである。この場合も、図3Bのグラフに示される値は、結晶シリコンウエハ及び非晶質シリコンウエハについての既知の文献から導出した。実際には、イオン注入された半導体ウエハ120に対する実値は図3A及び3Bに示される値と異なり得る。しかし、実際上、脆弱層123は302及び306に比較的近い屈折率及び反射係数を有すると想定される。実際上、剥離層122は300及び304に近い値を有すると想定される。本発明の方法及び装置は、実験及び/またはシミュレーションにより、有用な結果を提示し、よって上記想定は正しいと認められる。
【0029】
450nmより長波長のような、ある波長範囲内において、(脆弱層123のような)イオン注入された半導体材料120の屈折率は、単結晶材料とすることができる、半導体材料120の無イオン注入領域に対する屈折率より高い。しかし、本発明の方法及び装置は剥離層122に比較して脆弱層の屈折率にいくらかの差がある(高いかまたは低い)ことしか必要ではないと考えられる。とりわけ、(1)脆弱層123と剥離層122の間で屈折率にいくらかの差を示す、及び(2)十分に透明である、のいずれの規準も満たし、したがって解析に適し得る波長範囲は、約600nmから850nmであり得る。そのような波長範囲において、シリコン半導体材料は、(1)光源102からの光の剥離層122の透過を可能にするに十分透明であり、(2)脆弱層123と剥離層122の間で屈折率に、反射に必要な干渉を生じさせる(よってイオンドーズ量を測定できる能力を得る)に十分な差を有する。図3Aに示されるように、(脆弱層123と剥離層122の間の)屈折率差は300〜450nmの範囲で一層大きくなるが、そのような波長においてシリコン半導体材料は極めて強い吸収を示すから、そのような波長は解析に用いることができないと考えられる。すなわち、プローブによる検出には不十分な光が、試料120に入り込み、反射されて戻って、試料120から出射することになるであろう。屈折率差及び透過率が十分であれば、測定には、例えば赤外範囲の、別の波長が一層適し得る。
【0030】
特許請求の範囲を限定する目的は無しに、イオン注入ドーズ量の測定に適する環境をつくる半導体ウエハ120の特徴は脆弱層123における、それより上及び下の他の材料と比較した、屈折率変化であると想定した。しかし、イオン注入種自体が屈折率に変化を生じさせ、よって十分な光反射をもたらす特徴を生じさせるかまたはそのような特徴に寄与するという、別の可能性がある。
【0031】
図4を参照すれば、光源102からの入射光,I及び試料120からの反射光,Iは、上述した長さの光ファイバ108,110を基本的に実装する、光ファイバプローブを用いて送り、受け取ることができる。いくらかの光,Iが脆弱層123を通過し、反射されない。
【0032】
分光計104が(材料120の注入面121の特定の領域からの)反射光を受け取り、これを処理する。光源120からの光は実質的に白色光であり、したがって複数の波長を含むから、図5に示されるような、反射スペクトルがそのような領域において確立される。コンピュータシステム106のコンピュータ読出可能メモリが、入射光,Iのそれぞれの波長の関数として反射スペクトルの強度値を格納するためにはたらく。コンピュータシステム106内のプロセッサがコンピュータ読出可能メモリに接続され、コンピュータ実行可能コードを実行し、よって、格納された反射スペクトルに基づいてイオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量がプロセッサにより計算される。
【0033】
さらに詳しくは、イオン注入ドーズ量は、入射光の少なくとも2つの波長における少なくとも2つの対応する反射スペクトルの強度値の比較に基づいて計算される。反射率(Y軸(任意単位))対波長(X軸(単位:nm))を示す図5を参照すれば、反射スペクトルの2つの強度値は反射スペクトルのそれぞれの極大値及び極小値である。反射スペクトルの極大強度値310は約700nmの入射光波長で生じ、反射スペクトルの極小強度値312は数学的差(減算)の形態をとることができ、それらの間に極大極小差値を生じさせる。とりわけ、極大強度値及び極小強度値が見られる波長は剥離層122の厚さに依存するであろう。したがって、所望であれば、極大強度値を示す波長と極小強度値を示す波長の間の計算された差を用いて、剥離層122の厚さを推定することができる。
【0034】
とりわけ、反射スペクトルの極大強度値及び極小強度値は、入射光の脆弱層123への到達及び反射による光ファイバへの戻りが可能になるに十分に材料120が入射光,Iに対して透明である、それぞれの波長において選ばれる。上である程度詳述したように、また例としてのみ、シリコンのような、半導体材料120に対するそのような波長は、約500nmと約1000nmの間、さらに詳しくは約600nmと約850nmの間、さらに一層詳しくは約650nmと約800nmの間から選ぶことができる。当業者には、その内で極大強度値及び極小強度値の選択に有用な範囲がウエハ120の材料のタイプ、ウエハ120の透明性、イオン注入パラメータ、等に依存することが、本開示から理解されるであろう。
【0035】
イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量の計算には規格化極大極小差の計算も含めることができる。規格化プロセスはコンピュータシステム106によって実行することができ、光源102の非理想特性によって生じる誤差を相殺するために用いることができる。
【0036】
規格化極大極小差は多くの様々な手法を用いて計算することができる。一方法は、極大極小差をイオン注入ドーズ量によって実質的に影響されない反射スペクトルの強度値で割ることである。例えば、イオン注入ドーズ量によって実質的に影響されない反射スペクトルの強度値は、反射スペクトルの極大強度値310及び極小強度値312が選ばれるそれぞれの波長のいずれよりも短い波長で生じ得る。例として、材料が図5に示されるスペクトルを有する(シリコンのような)半導体である場合、イオン注入ドーズ量によって実質的に影響されない反射スペクトルの強度値は、約100nmと500nmの間、さらに詳しくは約250nmと400nmの間、さらに一層詳しくは約325nmと375nmの間にあり得る。一般に、イオン注入ドーズ量によって実質的に影響されない反射スペクトルの強度値は、(光が脆弱層123に到達しないであろうから)剥離層122における吸収が強い、いずれかの波長で生じ得る。反射スペクトルの近くで選ばれる波長は(光源の変動がより密に一致するであろうから)規格化にさらに適していると考えられるが、半導体材料120は波長が長くなるほど一層透明になるであろう。
【0037】
いくつかの状況において、上記の規格化極大極小差を計算する手法ではそれほど正確ではない結果が生じ得る。実際、いくつかの場合、反射率測定は半導体ウエハ120の表面121と光ファイバプローブ108,110の間の小さな距離変動に鋭敏であり得る。測定誤差が生じ難くなり得る、規格化極大極小差を計算する別の手法は、(i)イオン注入ドーズ量によって実質的に影響されない(例えば波長350nmにおける)反射スペクトルの強度値及び極大極小差信号値を、それぞれを表面121と光ファイバプローブ108,110の間の距離の関数として得て、(ii)スキャン中に350nmにおける反射スペクトルの強度値を用いて距離を(前工程に基づいて)推定し、(iii)スキャン中に測定された極大極小差を推定された距離及び第1の工程から得られた経験的関数に基づいて補正することである。
【0038】
規格化極大極小差を計算するまた別の手法は、(i)極大強度値310及び極小強度値312がとられる波長範囲において、またはさらに広い範囲で、信号強度を平均し(例えば、図5のスペクトルの場合、約600〜800nmの間の全ての値の平均をとり)、(ii)極大極小差を計算された平均で割ることである。
【0039】
イオン注入ドーズ量は規格化極大極小差の関数として計算することができる。この計算は、イオン注入ドーズ量と規格化極大極小差の間の関係を確立することによって、数学的に(したがってコンピュータシステム106によって)行うことができる。そのような関係は線形または非線形であるが、単調であることが好ましい。これは、(1枚ないしさらに多くのウエハ120に注入している担当者によって指定される)既知のイオン注入ドーズ量を、付随して測定された、規格化極大極小差を用いて較正することによって達成できる。試料120の数が増えるにつれて、また与えられた試料120の測定値数も増えるにつれて、較正が向上する。一手法は、それぞれのウエハ120上の様々な領域の極大極小差(規格化極大極小差であればさらに良い)の平均をとり、そのような平均値を較正に用いることである。次いで、(1つないしさらに多くの)既知のイオン注入ドーズ量と極大極小差(または規格化極大極小差)の間で単調関数を容易に確立することができる。反射測定の極大極小差(Y軸(任意単位))対公称ドーズ量(X軸(単位;1016/cm))を示す図6に示されるように、Y軸に沿う極大極小差(または規格化極大極小差)とX軸に沿う公称ドーズ量(単位:1016/cm)の間には強い相関関係がある。エラーバーのそれぞれは、実験中の多くの試料120のそれぞれで測定された全ての値の標準偏差を示す。
【0040】
プロセスの上記工程が実行され、よって極大極小差(または規格化極大極小差)と公称ドーズ量の間の関係が得られてしまうと、上述した、反射スペクトルを測定する工程、反射スペクトルの強度値を格納する工程、及び材料120の面内の複数の場所についてイオン注入ドーズ量を計算する工程を用いて、未知の試料120の測定を実施することができる。材料のイオン注入面内で計算されたイオン注入ドーズ量は、その変動も含めて、ユーザ視認可能媒体上に表示することができる。
【0041】
図7を参照すれば、上述した手法と同様の態様で水素イオンが注入されたシリコン半導体ウエハを用いて実験を実施した。シリコン半導体ウエハの直径は300mmであり、上述し、図1に示した、装置と同様の装置を用いてシリコン半導体ウエハをスキャンした。図示されるドーズ量マップは、Y軸及びX軸のそれぞれに沿う、mm単位の距離を含む。図示される、測定されたドーズ量の色/グレイスケールは、ウエハ最下部における約4×1016/cmからウエハ最上部における約4×1016/cmまでの範囲にわたり、その間に多くの変動がある。
【0042】
図8を参照すれば、別の実施形態にしたがうイオン注入ドーズ量測定装置100Aも、試料半導体ウエハ120のイオン注入ドーズ量を測定するためにはたらくことができる。同様に、装置100Aの参照数字が付された要素は図1に関して上述したようにはたらくことができる。光ファイバを用いる図1の装置100と異なり、装置100Aは、ウエハ120に入射光を供給し、ウエハ120から光を受け取るための、自由空間光学系108A,110Aを備える。ウエハ120に対して光源102及び分光計104を移動させるか(この場合、適切な光焦点を維持することが課題になり得る)、または静止している光源102及び分光計104に対してウエハ120を移動させることによって、ウエハ120の様々な領域を測定することができる。この実施形態において、自由空間光学系108A,110Aは、分光計104による反射光の適切な測定が達成されるような角度をなして配置される。別の実施形態において、自由空間光学系108A,110Aは、ビームスプリッタ及び/または追加の集束レンズを必要とする、別の横方向配置をとることができる。他の多くの点において、装置100Aの動作は図1の装置100の動作と実質的に同じである。
【0043】
実施形態を特定の特徴を挙げて本明細書で説明したが、そのような実施形態がそれぞれの原理及び用途の例示でしかないことは当然である。したがって、添付される特許請求の範囲を逸脱することなく、数多くの改変が例示実施形態になされ得ること及び別の構成が案出され得ることは当然である。
【符号の説明】
【0044】
100,100A イオン注入ドーズ量測定装置
102 光源
104 分光計
106 コンピュータシステム
108,110 光ファイバ
108A、110A 自由空間光学系
120 材料試料(ウエハ)
121 注入面
122 剥離層
123 脆弱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料内のイオン注入ドーズ量を測定する方法において、
前記半導体材料の注入面による反射スペクトルを測定する工程であって、前記注入面は前記注入面から前記半導体材料内のある深さまでの半導体層及び前記半導体層の下の脆弱層を形成するためにイオン注入プロセスにかけられている工程、
前記反射スペクトルの強度値を前記注入面への入射光のそれぞれの波長の関数として格納する工程、
前記入射光の少なくとも2つの波長における前記反射スペクトルの少なくとも2つの対応する強度値の比較に基づいて前記イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程、及び
前記計算されたイオン注入ドーズ量をユーザ視認可能媒体上に表示する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する前記工程が、
前記反射スペクトルの少なくとも1つの極大強度値と前記反射スペクトルの少なくとも1つの極小強度値の間の極大極小差を決定する工程、
を含み、
前記反射スペクトルの前記極大強度値及び前記極小強度値が、前記入射光の前記半導体層の下の前記脆弱層への到達、反射及び前記半導体材料からの出射を可能にするに十分に前記入射光に対して前記半導体材料が透明であるそれぞれの波長において選ばれ、
前記反射スペクトルの前記極大強度値及び前記極小強度値のそれぞれが、約500nmから約1000nmの間、約600nmから約850nmの間、または約650nmから約800nmの間にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する前記工程が、
前記イオン注入ドーズ量によって実質的に影響を受けない前記反射スペクトルの強度値で前記極大極小差を割ることによって規格化極大極小差を計算する工程、及び
既知のイオン注入ドーズ量を付随して測定された前記規格化極大極小差で較正することによって、前記イオン注入ドーズ量と前記規格化極大極小差の間に単調関係を確立する工程、
を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン注入ドーズ量によって実質的に影響を受けない前記反射スペクトルの前記強度値が、
(a)前記反射スペクトルの前記極大強度値及び前記極小強度値が選ばれる前記それぞれの波長のいずれよりも短い波長において決定される、
(b)前記反射スペクトルの前記極大強度値及び前記極小強度値のいずれも含む波長範囲内の複数の値の平均値として計算される、または
(c)約100nmから約500nmの間、約250nmから約500nmの間、または約325nmから約375nmの間にある、
の内の1つであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記半導体材料の前記注入面内の複数の場所について、前記反射スペクトルを測定する前記工程、前記反射スペクトルの強度値を格納する前記工程及び前記イオン注入ドーズ量を計算する前記工程を反復する工程、及び
前記半導体材料の前記注入面内の前記計算されたイオン注入ドーズ量を、その変動を含めて、ユーザ視認可能媒体上に表示する工程、
をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
装置において、
半導体材料の注入面による反射スペクトルを測定するための分光計であって、前記注入面は前記注入面から前記半導体材料内のある深さまでの半導体層及び前記半導体層の下の脆弱層を形成するためにイオン注入プロセスにかけられている、分光計、
前記反射スペクトルの強度値を前記注入面への入射光のそれぞれの波長の関数として格納するためにはたらくコンピュータ読出可能メモリ、
前記コンピュータ読出可能メモリに接続されたプロセッサであって、前記入射光の少なくとも2つの波長における前記反射スペクトルの少なくとも2つの対応する強度値の比較に基づいて前記イオン注入プロセス中に用いられたイオン注入ドーズ量を計算する工程を含む作業を当該プロセッサに実行させるコンピュータ実行可能コードを実行するためにはたらく、プロセッサ、及び
前記計算されたイオン注入ドーズ量をユーザ視認可能媒体上に表示するための手段、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項7】
前記コンピュータ実行可能コードがさらに、
前記反射スペクトルの少なくとも1つの極大強度値と前記反射スペクトルの少なくとも1つの極小強度値の間の極大極小差を決定する工程であって、前記反射スペクトルの前記極大強度値及び前記極小強度値は前記入射光の前記半導体層の下の前記脆弱層への到達を可能にするに十分に前記半導体材料が前記入射光に対して透明であるそれぞれの波長において選ばれる工程、
前記イオン注入ドーズ量によって実質的に影響を受けない前記反射スペクトルの強度値で前記極大極小差を割ることによって規格化極大極小差を計算する工程、及び
前記イオン注入ドーズ量を前記規格化極大極小差の関数として計算する工程、
を含む、作業を前記プロセッサに実行させることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記コンピュータ実行可能コードが前記イオン注入ドーズ量と前記規格化極大極小差の間の単調関係を含む、及び
前記単調関係が既知のイオン注入ドーズ量の付随して測定された前記規格化極大極小差によるあらかじめ決定された較正を含む、
の内の少なくとも1つを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記分光計、前記コンピュータ読出可能メモリ、前記プロセッサ及び前記コンピュータ実行可能コードが、前記半導体材料の前記注入面内の複数の場所について、前記反射スペクトルの測定、前記反射スペクトルの強度値の格納、前記イオン注入ドーズ量の計算及び前記計算されたイオン注入ドーズ量の、その変動を含む、表示を反復するために協働することを特徴とする請求項6に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−528334(P2012−528334A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513232(P2012−513232)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/036278
【国際公開番号】WO2010/138646
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】