イオン注入方法及びイオン注入装置
【課題】 安価で、注入量分布のパターンに多様性を持たせることができ、各注入領域間の注入分布が連続的でスムーズになるような不均一注入を行うことができる新規なイオン注入方法を提供する。
【解決手段】 イオン注入において、基板WをイオンビームIBが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームIBの走査又は前記基板Wの並進移動の少なくとも一方を同時に行わせる。
【解決手段】 イオン注入において、基板WをイオンビームIBが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームIBの走査又は前記基板Wの並進移動の少なくとも一方を同時に行わせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に不均一にイオン注入を行うイオン注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ウエハの値段は上昇しており、1枚のウエハからできるだけ無駄なくより多くの半導体素子を製造できることが求められる。そのような要請から、1枚のウエハから特性の異なる半導体素子を複数製造したり、半導体素子の特性を補償することによって歩留まりを改善したりするために、ウエハの全面にわざと不均一にイオンを注入するイオン注入方法が用いられている。
【0003】
特性の異なる半導体素子を複数製造するためのイオン注入方法としては、特許文献1や特許文献2に記載されているイオン注入方法が挙げられる。特許文献1に記載のイオン注入方法は、ライン状のイオンビームをウエハの一端から他端まで走査するものである。一端から基板の中心位置まではある速度で走査し、基板の中心位置から他端までは別の速度で走査するように構成されており、イオンビームの走査が終わった後にウエハを90度回転させて、再び同様のイオンビームの走査を繰り返し、イオン注入量の異なる領域を複数形成するものである。
【0004】
特許文献2に記載のイオン注入方法も、ライン状のイオンビームをウエハの一端から他端まで複数回走査するものであり、シャッターによってイオンビームが照射される領域を制限し、ウエハの領域ごとのイオン注入量を変化させることができるように構成されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のイオン注入方法では、ウエハの中心位置でのみイオンビームの走査速度を切り替えるようにしているので、形成できるイオン注入量の異なる領域のパターンが限られてしまい、上述した要請に十分に応えることが難しい。また、特許文献2に記載のイオン注入方法では、イオン注入量の異なる領域を形成するために、シャッターやシャッターを制御するための機構を、通常のイオン注入装置に別に用意する必要があるため、その分コストが上昇してしまう。
【0006】
一方、所望の特性を得ることが難しいウエハの周辺部の特性を補償し、歩留まりを改善するためのイオン注入方法としては、特許文献3に記載の方法が挙げられる。特許文献3のイオン注入方法は、イオンビームを走査する速度を、一端から第1中間点まで、第1中間点から第2中間点まで、第2中間点から他端までにおいて切り替えるようにして、1回のイオンビームの走査で3つのイオン注入量の異なる領域を形成する注入工程と、注入工程が終わった後にウエハを所定の角度だけ回転させる回転工程を有するものである。このイオン注入方法は注入工程と回転工程を交互に繰り返して、領域の分割数を増やしウエハ中央部の領域の形状を円形に近づけることによって近似的にドーナツ状のイオン注入分布を得るものである。
【0007】
しかしながら、このイオン注入方法では、ウエハ中央部の領域を近似的に円形にしているだけなので、近似の誤差が出る領域の境界近傍における注入分布には、中心に比べるとばらつきが発生し、連続的な注入分布にならず、所望の注入量に設定することが難しい。
【特許文献1】特許3692999号公報
【特許文献2】特開平11−339711号公報
【特許文献3】特開2005−235682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、安価で、注入量分布のパターンに多様性を持たせることができ、各注入領域間の注入分布が連続的でスムーズになるような注入を行うことができる新規なイオン注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本願発明のイオン注入方法は基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることを特徴とする。
【0010】
また、本願発明のイオン注入装置は基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させる回転機構と、前記イオンビームを電界又は磁界によって走査するイオンビーム走査機構又は前記基板の並進移動させる並進移動機構の少なくとも一方を具備し、前記基板の回転と、前記イオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方とを同時に行わせる制御機構を備えたことを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、基板を回転させながら、イオンビームを基板に走査させる又は前記基板を機械的に並進移動させているので、基板のイオン注入分布を連続ななめらかなものにすることができる。
【0012】
また、基板の回転速度と、イオンビームの走査又は基板の並進移動の速度を調整することによって、イオンが注入される領域のパターンや注入量を変化させることができ、基板に様々な分布を有したイオン注入分布を形成することができるようになる。
【0013】
さらに、不均一なイオン注入分布を形成するのにイオンビームを遮蔽するなどの余分な装置を設ける必要がないので、コストの増大を招く事無く不均一なイオン注入を行うことができる。
【0014】
基板の回転中心付近には、全くイオン注入を行う事無く、ドーナツ状のイオン注入分布を形成するには、前記基板の回転中心から所定距離離間した位置にイオンビームを往復走査させることによって帯状イオンビームを形成すればよい。
【0015】
基板の回転中心近傍にもイオン注入を行いつつ、基板の全面にドーナツ状のイオン注入分布を形成するには、前記基板の回転中心を通るようにイオンビームの往復走査によって帯状イオンビームを形成すればよい。
【0016】
前記帯状イオンビームによるイオン注入の量を一定に保ち、基板の回転速度のみに依存した注入分布にするには、前記往復走査の速度の大きさを一定に保つようにしていればよい。このようなものであれば、回転中心から離れた位置ほど周速度が連続的に大きくなるので、よりなだらかなドーナツ状の注入分布を得ることができる。
【0017】
ドーナツ状の分布だけでなく、様々な点対象な注入分布を形成するには、前記往復走査の速度の大きさを変化させればよい。往復走査の速度を変化させると、帯状イオンビームから基板に注入されるイオン量を速度のほぼ反比例させて制御することができるからである。
【0018】
さらに別のドーナツ状の注入分布を得る具体的な方法としては、前記基板を並進移動させることによって、前記帯状イオンビームと回転中心との距離を変化させることがあげられる。
【0019】
点対称なイオン注入分布のみでなく、さらに領域を分割し、様々な注入パターンを形成することができるようにするには、前記基板の回転角度が所定の角度になった場合に前記イオンビームの往復走査速度の大きさを変化させればよい。例えば、注入分布に点対称性に加えて、線対称性を加えることができるようになる。
【0020】
イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにイオン注入を行うためのより簡便な方法としては、前記イオンビームがスポット状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させるものであればよい。
【0021】
細緻なイオン注入分布を簡単に形成するための具体的な方法としては、前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させることが挙げられる。
【0022】
イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにイオン注入を行うための簡便で効率的な方法としては、前記イオンビームが帯状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させればよい。
【0023】
上述したような帯状のイオンビームによって簡単にイオン注入を行うための具体的な方法としては、前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させることが挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本願発明は、基板を回転させながら、同時にイオンビームを走査又は基板を並進移動させているので、形成されるイオン注入分布をなめらかな分布にすることができ、かつ、様々なパターンのイオン注入分布を形成することができる。しかも、様々なパターンのイオン注入を行うのに、シャッターなどの別の部材を用いる必要がないので、コストの増大を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1にはイオン注入装置100の上面図が示してあり、図2には、図1の基板W周辺を拡大してある側面図が示してある。以下の説明では、鉛直方向をY軸、基板Wの回転軸RAの延びる方向をZ軸、基板Wの照射面内においてY軸と直交する軸をX軸として右手系をなすように設定した座標軸も用いながら説明を行う。
【0026】
本実施形態のイオン注入装置100は、例えば、半導体素子の製造において基板Wの周辺部の特性を補償することによって歩留まりを改善するために用いられるものである。なお、本実施形態では、基板Wとして円形のウエハWにイオン注入を行う場合を例として説明を行っている。基板Wの形状は特に円形だけに限定されるものではない。
【0027】
前記イオン注入装置100は、基板WをイオンビームIBが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームIBの走査又は前記基板Wの並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることができるように構成してある。
【0028】
より具体的には、前記イオン注入装置100は、イオン源ISから射出されたイオンビームIBを電界又は磁界によって偏向させて前記基板W上に走査する走査器1と、前記基板Wが取り付けられているテーブルTを回転させる回転機構2と、前記テーブルTを鉛直方向であるY軸方向に上下動させる並進移動機構3と、前記走査器1と前記回転機構2と前記並進移動機構3とを同時に動作させることが可能な制御機構Cと、を備えたものである。図1及び図2に示されるように、ウエハWはその照射面が水平方向に向くように取り付けられており、イオンビームIBは走査器1によってX軸方向に走査され、ウエハWは並進移動機構3によってY軸方向に走査され、回転機構2によってZ軸を回転中心として回転するように構成してある。
【0029】
前記走査器1は、スポット状のイオンビームIBを電界又は磁界によってX軸方向に往復走査することによって、帯状のイオンビームIBを形成するものである。ここで、帯状のイオンビームIBとは、走査器1によるスポット状のイオンビームIBを走査する速度が、後述するウエハWの回転速度や並進移動速度に比べて十分に速いものであり、実質的に帯状として取り扱うことができるもののことを言う。特に帯状のイオンビームの中で、その短辺方向の幅がスポット状のイオンビームの直径と略等しいもののことをライン状のイオンビームと本明細書中では呼ぶこととする。本実施形態では、走査器1はX軸方向にのみイオンビームIBの走査を行うので、ライン状のイオンビームIBを形成している。
【0030】
この走査器1は、イオンビームIBの走査を行うとともに、その走査する速度を変化させることによってウエハWに注入するイオン注入量を変化させることができる。詳述すると、イオン注入量はイオンビームIBの照射時間に比例して大きくなる。これは、微視的に見るとイオンビームIBを走査する速度を大きくすると、速くウエハW上を通過してしまうので、ウエハW上の単位面積に照射されるイオン粒子の量は少なくなり、速度を小さくすると、ゆっくりと通過するので、ウエハW上の単位面積に照射されるイオンの量が多くなるからである。つまり、イオンビームIBとウエハWとの間の相対速度の大きさと、イオン注入量の間には、反比例の関係があることが分かる。従って、X軸方向の走査速度を変化させることによって、ライン上におけるイオン注入量を任意に設定することができる。以下の説明では、分かりやすさのためライン上のイオン注入量の分布を主に示すが、この分布はX軸方向の走査速度を変化させることによって形成されているものであり、イオン注入量の分布からどのようにX軸方向の走査速度を変化させればよいかは上述したように反比例の関係から容易に算出することができるものである。なお、イオン注入強度がゼロになっている場合には、イオンビームの走査速度を非常に大きくし、注入量を無視できる程度にする、又はイオンビームの照射を一時的にストップするなどすればよい。
【0031】
前記回転機構2は、ウエハWが取り付けられているテーブルTを回転させるものであり、例えば回転モータと、その回転角度を検出する角度検出器とから構成されるものである。前記角度検出器は回転角を検出するとともに、その差分を用いて回転速度を算出するために用いるものであり、その回転速度は一定速度に保つ、あるいは、変化させることができる。
【0032】
前記並進移動機構3は、例えばモータによって前記テーブルTをY軸方向に移動させるものであり、前記ライン状のイオンビームIBが照射面に照射されている半径方向の位置を変えるために用いる。
【0033】
前記制御機構Cは、CPU、メモリ、ディスプレイなどの出力機器、キーボードやマウスなどの入力機器等を備えた、例えば汎用のコンピュータや、あるいは専用に製造された制御ボードなどから構成されるものであり、前記メモリに記憶されたプログラムに従って各機器の制御を行うものである。この制御機構Cは、各機器を単に同時に動作させるだけでなく、プログラムによってそれぞれの走査速度、回転速度、移動速度、回転角を関連付けてそれぞれの機器の動きを同期させて動作させることができるようにも構成してある。
【0034】
ここで、同期させるとは例えば並進移動機構3によるウエハWの半径方向の移動速度とウエハWの回転速度との間に所定の関係を持たせることなどを言う。より具体的には、ライン状のイオンビームIBがウエハWの半径方向に相対移動して1回走査される間のウエハWが回転する回転数などが挙げられる。すなわち、ウエハWの回転速度と、イオンビームIBの走査速度又は並進移動機構3によるウエハWの並進移動速度の少なくとも一方を同期させることによって、上述したようなウエハWへのイオンビームの走査回数と、ウエハの回転回数との間の関係を規定し、所望のイオン注入分布を得ることができるようにしてある。
【0035】
次に、具体的なイオン注入の方法について説明を行う。
図3に示すように、ライン状のイオンビームIBの中心をウエハWの中心から所定距離離間させた位置にX軸方向の往復走査によって形成し、Y軸方向には移動させず、前記ウエハWを一定の回転速度ωで回転させている場合について説明する。
【0036】
具体的には、走査器1によってスポット状のイオンビームIBをX軸方向に走査するとともに、同時に回転機構2がウエハWを回転軸RAを中心として回転させてイオン注入を行っている。
【0037】
イオンビームIBのX軸方向に走査する走査速度の大きさをイオンビームIBを照射する区間において一定に保ち、図4に示すようにイオンビームを照射する区間においてライン上のイオンビームIBのイオン注入量を一定とした場合のウエハW上のイオン注入量分布を図5に示す。以下の説明では、簡単のため、ライン上のイオンビームIBのイオン注入量についてはイオン注入強度と呼ぶ。また、ウエハW上のイオン注入分布については、斜視図とX軸方向の断面図を併せて表記しており、斜視図には、細線でイオン注入量の等高線を示してある。図5から分かるように、回転軸RAを中心とした点対称のイオン注入分布が形成され、しかも、連続的にイオンの注入分布が変化していることがわかる。また、ライン状のイオンビームIBの内側の端から回転中心までの半径√2r0よりも小さい内円領域には、全くイオンビームIBが照射されないのでイオン注入量は略ゼロとなる。加えて、周辺領域はライン状のイオンビームIBがある部分のイオン注入量が突出して多く、外側へ行くほどイオン注入量が減少していることが分かる。これは、走査速度が一定に保たれており、ライン状のイオンビームIBが照射するイオンの量はライン上では一定になっているものの、ウエハWの回転によって外側ほど周方向の速度は大きくなるため外側に単位面積あたりに照射されるイオンの量が減少するからである。
【0038】
イオンビームIBのX軸方向に走査する速度の大きさを変化させて、イオン注入強度を図6に示すように外周部へ行くほど多くなるようにした場合におけるウエハW上のイオン注入分布の結果を図7に示す。このとき、イオン注入強度の変化率は外周部へ行くほど大きくなるようにしてある。より具体的にはライン状ビームの中間点から外周部までのイオン注入量が半径を変数とした指数関数で表され、その指数が1よりも大きい場合におけるウエハW上のイオン注入量の分布である。式として表すと例えば、以下のようになる。
【0039】
【数1】
ただし、r0≦|x|≦R0 式(1)
なお、0≦|x|≦r0にてI(x)=0
【0040】
ここで、I(x)はX軸方向のライン状ビームのイオン注入量、I0はイオン注入量の変換係数、xはライン状ビーム上におけるX軸方向の座標、R0はウエハWの半径、r0は回転中心からライン状ビームの中心までの半径である。
【0041】
図7に示すウエハW上のイオン注入分布のように、前述した指数関数の指数aをウエハWの回転速度ωに対して適切に選ぶことによって、ウエハWの半径方向の変化率が略一定になるようにすることができる。また回転速度ωに対して、イオンビームIBのX軸方向の往復走査させる速度を非常に大きくし、ウエハWの回転回数を非常に多くすれば、平均化効果によってより回転対称でなだらかな変化を有したイオン注入分布を得ることができる。
【0042】
前述した式(1)において指数aを1より小さくした場合のライン上のイオン注入強度を図8に示す。さらに、この場合のウエハW上のイオン注入分布を図9に示す。ここでも、aを適切に選ぶことによって、イオン注入が行われた領域の注入量をほぼ等しくし、図9に示されるような中空円柱状のイオン注入分布を形成することができる。
【0043】
なお、ウエハWの中心部にイオン注入が行われない領域をより簡単に作りつつ、イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにするには、0≦|x|≦r0においてもイオン注入を行うようにすれば良い。このようにすればライン状のイオンビームIBがウエハWの中心から離れている距離r0の内円領域にはイオンビームが照射されないのでイオン注入分布がゼロとなるとともに、ライン上のイオンビーム注入強度に不連続な部分がなくなるので、イオンビームIBの走査の設定が非常に簡単になる。言い換えると、ウエハWに照射されているイオンビームIBの注入強度分布を全域に亘って連続に形成しておくだけで、ウエハWにおいてイオンビームIBが形成されている外側のみに任意のイオン注入分布を形成することを簡単な計算や制御方法によって行えるようになる。
【0044】
次に、図10に示すようにライン状のイオンビームIBが回転中心を通るように形成され、同時にウエハWを回転させるイオン注入方法について説明する。なお、この場合でもY軸方向についてはイオンビームIB及びウエハWを移動させていない。
【0045】
ライン上のイオン注入強度が図11に示されるように回転中心から半径r0までは増加し、半径r0からウエハWの半径R0までは減少するような分布を有している場合のウエハW上のイオン注入分布について図12に示す。
【0046】
図12に示されるように、半径r0の円の内部にもイオン注入をしつつ回転中心について対称なイオン注入分布を得ることができる。言い換えると、ライン状のイオンビームIBをウエハWの中心を通るように形成又は照射すれば、ウエハWの全域に亘ってイオン注入を行うことができる。
【0047】
また、先ほどのライン状のイオンビームIBを回転中心から離間させた場合と同様に、式(1)を拡張して使用し、指数aを調節することによって図7のように斜面の半径方向の変化率を一定にする、あるいは、図9のような円筒形状のイオン注入分布にすることもできる。言い換えると、イオンビームIBの走査速度を調節し、イオン注入強度をウエハWの回転速度に合わせて調節することによって、直線のイオン注入分布を得ることができる。
【0048】
ライン状のイオンビームIBをウエハWの中心に形成した場合のその他のイオン注入方法について説明する。
【0049】
イオンビームIBの走査速度を外周部分で遅くし、内周部分で早くする、すなわち、図13に示すようにウエハWの外周部分には、多くのイオンを注入し、内周部分には注入されるイオンの量を少なくするようにイオン注入強度を設定する。このとき、ウエハWの回転速度ωは一定である。
【0050】
イオン注入強度の分布について、式を用いて表すと以下のようになる。
【数2】
なお、図13の実施例ではa=1の場合を示している。
【0051】
この場合のイオン注入分布は図14のようになり、ウエハW上の全域に亘って一定量のイオンを注入することができる。この結果について直感的な説明を行うと、ウエハW上の各地点の回転速度は外側に行くほど大きくなり、注入されるイオンの量が少なくなるので、図13及び式(2)に示されるようなイオン注入強度を与えると、相殺しあい、全域に亘って一定量のイオンを注入することができるということになる。ここで、0≦|x|≦S/2におけるイオン注入強度I1及びSは、イオン注入が終了するときに、ウエハWの回転中心近傍の領域におけるイオン注入量が他の領域のイオン注入量と略等しくなるように設定してある。
【0052】
次に、2段階にイオン注入強度を変化させた場合のイオン注入方法について説明する。図15に示すように、内側では、前述した実施例のように直線状に中心部ではイオン注入量を少なくし、外側へ行くほどイオン注入量が多くなるようにイオン注入強度を変化させ、外周部では内周部よりも大きな変化率でイオン注入強度を変化させている。具体的に式によって記述すると、
【数3】
となる。この実施例ではa=1として直線状の分布としており、S<<R0とする。この場合、図16に示すようなウエハWの内周部は一定量のイオン注入を行うとともに、外周部では変化率一定で外周部に行くほどイオン注入量を大きくしていくような分布を形成することができる。
【0053】
次に、図17に示すように、ライン状のイオンビームIBをウエハWの外周に形成するとともに、Y軸負方向へウエハWを移動させることによってライン状のビームを外周からある半径まで走査しつつ、同時にウエハWを回転させるイオン注入方法について説明する。
【0054】
このイオン注入方法では、ウエハW上におけるライン状のイオンビームIBの中心の軌跡は図18に示されるように螺旋を描くことになる。ここで、イオンビームIBのX軸方向の走査速度の大きさは常に一定になるように制御してあり、すなわち、ライン上の注入量分布は一定値になるようにしてある。また、ウエハWのY軸方向への並進移動速度に対して、ウエハWの回転速度は非常に大きく設定してある。つまり、イオンビームIBの1回の走査に対して、ウエハWの回転回数は非常に多くなり、十分に回転対称なイオン注入分布が得られるようにしてある。
【0055】
図18に示すように、螺旋の間隔が等間隔になるようにY軸方向の並進移動と、ウエハWの回転を同期させてある。具体的に式として記述すると以下のようになる。
【数4】
【数5】
【0056】
ここで、θはウエハWの回転角度、yはライン状のイオンビームIBのy座標、tは時間、Tはイオン注入の終了時刻。
【0057】
このような式(4)、式(5)に基づいてイオン注入を行うと、図19に示されるように、外周部に最もイオン注入が行われ、内側へなだらかにイオン注入量が減少していく。このようになるのは、外側から内側へライン状のイオンビームIBがウエハWに対して相対移動していくので、外側部分は相対速度が大きいため1回のイオン注入量が少ないものの、内側よりもイオン注入される回数が多くなるために結果としてより多くのイオンが注入されることになるからである。
【0058】
図18と同様に、図20ではウエハW上におけるライン状のイオンビームIBの中心の軌跡が螺旋を描く様子が記載されている。図20は内側へ行くほど螺旋の間隔が短くなる点で、図18と異なる。このようにすると図21のように中空円筒形状のイオン注入分布を形成することができる。この場合の具体的なY軸方向の移動量について以下のようになる。なお、回転角度については式(5)と同様であり、ライン状のイオンビームIBがウエハWの内側から外側へ移動する場合について記述する。
【数6】
【0059】
次に、図10に示されるように、ウエハWの回転中心を通るようにライン状のイオンビームIBを形成させながら、同時にウエハWを一定速度で回転させておき、ウエハWの回転角度が所定の角度になったときに、イオンビームIBのX軸方向の走査速度を変化させるようにするイオン注入方法について説明する。
【0060】
図22に示すように、ウエハWが90度回転するごとに、イオンビームIBのX軸方向の走査速度を高速から低速、低速から高速に切り替えるようにする。すると、図23に示すように、回転中心について点対称であり、かつ、線対称な4つの領域を有したイオン注入分布を得ることができる。また、回転速度又は走査速度を切り替える角度を小さくすれば、より多くの領域を形成することができる。
【0061】
前述した実施例では、ある角度領域の全域に亘って同じイオン注入強度によってイオン注入を行い、ウエハWの円周方向にイオン注入量が異なる領域を複数形成したが、ある角度領域内においてイオンビームIBの半径方向の走査速度に分布を与えることによって、イオンビーム強度をウエハWの半径方向の位置に基づいて変化させても構わない。この場合、ある角度領域内で一定量のイオンを注入するだけでなく、前述してきたように半径方向にもイオン注入分布を変化させることもできる。すなわち、角度によるイオン注入量の切り替えにより、ウエハWの周方向のイオン注入分布を変化させ、イオンビームの注入強度を変化させておくことによって半径方向にもイオン注入分布を変化させることによって、様々な注入分布を得ることができる。
【0062】
より具体的には、図24に示すように、例えば、ウエハWをθ1からθ2まで回転させているある角度領域において、イオンビームの注入強度を半径r1までの内円領域では低強度に、半径r1からr2までの円環領域を高強度に、半径r2から半径R0の円環領域では前記内円領域と同じイオン注入分布となるような強度にすればよい。そして、ウエハWをθ2以上に回転させている領域では、全体のイオン注入強度を図22に示したようにある倍率で低下させる又は増加させるなどすれば、ウエハWの半径方向のイオン注入分布を4種類に分けるとともに、ウエハWの円周方向のイオン注入分布も変化させウエハWの中心に対して点対称なイオン注入分布にするなどできる。さらに、中心に対して点対称なイオン注入分布になる以外にも、周方向のイオン注入強度を切り替える角度を様々に変化させたり、角度領域ごとに半径r1やr2の値を変化させて半径方向のイオン注入強度を変化させたり、半径方向のイオン注入強度が異なる領域の数を変化させるようにイオン注入強度を変化させても構わない。
【0063】
このように本実施形態のイオン注入装置100及びイオン注入方法によれば、ウエハWを回転機構2によって回転させながら、同時に走査器1によってイオンビームIBをX軸方向に走査し、ライン状のイオンビームIBを形成する、又は、並進移動機構3によってウエハWをY軸方向に移動させるので、ウエハWに形成されるイオン注入分布を連続的で滑らかなものとすることができる。
【0064】
また、イオンビームIBをX軸方向に走査する速度の大きさや、切り替えるタイミングを調整する、あるいは、Y軸方向へのウエハWの移動速度を変化させることによって、様々な回転中心について対称な不均一なイオン注入分布を得ることができる。
【0065】
加えて、イオンビームIBとウエハWの相対移動だけで様々な不均一なイオン注入分布を得うることができるので、新たにイオンビームIBを遮蔽するための部材を設けるなどする必要がなく、コストの増大を防ぐことができる。
【0066】
なお、本願発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0067】
例えば、前記実施形態ではライン状のイオンビームをY軸方向に相対移動させるのにウエハWを移動させていたが、走査器によってイオンビームをY軸方向に走査しても構わない。
【0068】
イオンビームはスポット状のものだけに限られず、イオン源自体が帯状のイオンビームを照射するものであり、ウエハWを回転させながら、半径方向にイオンビームを相対移動するようにしても構わない。また、このときイオンビームの強度をウエハ上に照射している位置に応じて変化させるようにしても構わない。
【0069】
ライン状のイオンビームではなく、ある程度の短辺方向の幅を有した帯状のイオンビームであっても構わない。
【0070】
イオンビームのウエハW上の軌跡が螺旋状になるようにウエハWやイオンビームを走査する場合には、イオンビームはスポット状のものであっても構わない。
【0071】
イオン注入強度の調整を行うのは、イオンビームの走査速度のみに限られない。例えば、イオンビームの強度を制御しても良いし、スポット径を変更するなどしてもよい。
【0072】
ウエハの回転と、イオンビームの走査又はウエハの並進移動の少なくとも一方を同期させるのは、例えば、ウエハが1回転する間にイオンビームがウエハ上を1回走査するように同期する、または、ウエハが1回転する間にイオンビームがウエハ上を2回走査するなど、様々な関係を持たせることが挙げられる。
【0073】
イオンビームの走査速度、ウエハの並進移動速度、回転移動速度のいずれかを同期させながら、走査速度以外の要素によってイオンビームの注入強度を変化させても構わない。このようなものであれば、点対象なイオン注入分布だけでなく、周方向にもイオン注入分布を変化させたものとすることができ、より様々な形状のイオン注入を行うことができる。
【0074】
走査によって帯状やライン状のイオンビームを形成している場合でも、引き出し電圧を調整することを併用してイオンビーム注入強度を制御しても構わない。
【0075】
イオンビームの注入量を検出するファラデーカップなどの検出器を備えておき、検出されたイオン注入量に基づいて、注入分布を制御するようにしても構わない。検出器によって逐次注入量を検出しておき、フィードバック制御を行うようにすれば、さらに正確な注入分布を形成することが出来るようになる。
【0076】
イオンビームの注入強度を変化させる方法としては、イオン源の引き出し電極の電圧を変化させる、ウエハ上にイオンビームが照射される位置に基づいて開口量を制御される開口部材をビームライン上に設けておき、照射されるイオンビームのスポット径や帯状ビームの幅を調節することでイオン注入量を調節する、イオンビーム自体の強度を制御するなど、様々な方法が考えられる。
【0077】
イオンビームと基板が相対移動する方向は、図面視で下から上でも、上から下でもどちらでもよい。同様のイオン注入分布を得ることが出来る。
【0078】
ウエハ上に照射される帯状やライン状のイオンビームの長手方向の長さはウエハの直径以上である必要は無い。ウエハ上の一部分にかかるものであればよい。すなわち、半径未満の長さのイオンビームでもあってもかまわない。
【0079】
その他、本願発明の趣旨に反しない限り、種々の変形が可能であり、各イオン注入方法を適宜組み合わせるなどしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態に係るイオン注入装置の模式的上面図。
【図2】同実施形態に係るイオン注入装置のウエハ周辺の拡大側面図。
【図3】本発明のイオン注入方法に係る一実施形態を説明する模式図。
【図4】イオンビームのイオン注入強度の一例を示す模式的グラフ。
【図5】図4のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図6】イオンビームのイオン注入強度の別の例を示す模式的グラフ。
【図7】図6のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図8】イオンビームのイオン注入強度のさらに別の例を示す模式的グラフ。
【図9】図8のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図10】本発明のイオン注入方法に係る別の実施形態を説明する模式図。
【図11】イオンビームのイオン注入強度の異なる例を示す模式的グラフ。
【図12】図11のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図13】イオンビームのイオン注入強度のさらに異なる例を示す模式的グラフ。
【図14】図13のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図15】イオンビームのイオン注入強度のさらに別の異なる例を示す模式的グラフ。
【図16】図15のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図17】本発明のイオン注入方法に係るさらに別の実施形態を説明する模式図。
【図18】イオンビームのウエハ上における軌跡の一例を示す模式図。
【図19】イオンビームが図18の軌跡を描いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図20】イオンビームのウエハ上における軌跡の別の例を示す模式図。
【図21】イオンビームが図20の軌跡を描いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図22】ウエハの回転角度に応じて、イオン強度を変化させる場合の一例を示すグラフ。
【図23】図22のイオン強度を用いた場合のイオン注入分布を示す模式図。
【図24】ウエハの回転角度とともに、イオンビームの位置に応じてイオンビーム強度を変化させた場合の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0081】
100・・・イオン注入装置
1・・・走査器
2・・・回転機構
3・・・並進移動機構
C・・・制御機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に不均一にイオン注入を行うイオン注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ウエハの値段は上昇しており、1枚のウエハからできるだけ無駄なくより多くの半導体素子を製造できることが求められる。そのような要請から、1枚のウエハから特性の異なる半導体素子を複数製造したり、半導体素子の特性を補償することによって歩留まりを改善したりするために、ウエハの全面にわざと不均一にイオンを注入するイオン注入方法が用いられている。
【0003】
特性の異なる半導体素子を複数製造するためのイオン注入方法としては、特許文献1や特許文献2に記載されているイオン注入方法が挙げられる。特許文献1に記載のイオン注入方法は、ライン状のイオンビームをウエハの一端から他端まで走査するものである。一端から基板の中心位置まではある速度で走査し、基板の中心位置から他端までは別の速度で走査するように構成されており、イオンビームの走査が終わった後にウエハを90度回転させて、再び同様のイオンビームの走査を繰り返し、イオン注入量の異なる領域を複数形成するものである。
【0004】
特許文献2に記載のイオン注入方法も、ライン状のイオンビームをウエハの一端から他端まで複数回走査するものであり、シャッターによってイオンビームが照射される領域を制限し、ウエハの領域ごとのイオン注入量を変化させることができるように構成されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のイオン注入方法では、ウエハの中心位置でのみイオンビームの走査速度を切り替えるようにしているので、形成できるイオン注入量の異なる領域のパターンが限られてしまい、上述した要請に十分に応えることが難しい。また、特許文献2に記載のイオン注入方法では、イオン注入量の異なる領域を形成するために、シャッターやシャッターを制御するための機構を、通常のイオン注入装置に別に用意する必要があるため、その分コストが上昇してしまう。
【0006】
一方、所望の特性を得ることが難しいウエハの周辺部の特性を補償し、歩留まりを改善するためのイオン注入方法としては、特許文献3に記載の方法が挙げられる。特許文献3のイオン注入方法は、イオンビームを走査する速度を、一端から第1中間点まで、第1中間点から第2中間点まで、第2中間点から他端までにおいて切り替えるようにして、1回のイオンビームの走査で3つのイオン注入量の異なる領域を形成する注入工程と、注入工程が終わった後にウエハを所定の角度だけ回転させる回転工程を有するものである。このイオン注入方法は注入工程と回転工程を交互に繰り返して、領域の分割数を増やしウエハ中央部の領域の形状を円形に近づけることによって近似的にドーナツ状のイオン注入分布を得るものである。
【0007】
しかしながら、このイオン注入方法では、ウエハ中央部の領域を近似的に円形にしているだけなので、近似の誤差が出る領域の境界近傍における注入分布には、中心に比べるとばらつきが発生し、連続的な注入分布にならず、所望の注入量に設定することが難しい。
【特許文献1】特許3692999号公報
【特許文献2】特開平11−339711号公報
【特許文献3】特開2005−235682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、安価で、注入量分布のパターンに多様性を持たせることができ、各注入領域間の注入分布が連続的でスムーズになるような注入を行うことができる新規なイオン注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本願発明のイオン注入方法は基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることを特徴とする。
【0010】
また、本願発明のイオン注入装置は基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させる回転機構と、前記イオンビームを電界又は磁界によって走査するイオンビーム走査機構又は前記基板の並進移動させる並進移動機構の少なくとも一方を具備し、前記基板の回転と、前記イオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方とを同時に行わせる制御機構を備えたことを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、基板を回転させながら、イオンビームを基板に走査させる又は前記基板を機械的に並進移動させているので、基板のイオン注入分布を連続ななめらかなものにすることができる。
【0012】
また、基板の回転速度と、イオンビームの走査又は基板の並進移動の速度を調整することによって、イオンが注入される領域のパターンや注入量を変化させることができ、基板に様々な分布を有したイオン注入分布を形成することができるようになる。
【0013】
さらに、不均一なイオン注入分布を形成するのにイオンビームを遮蔽するなどの余分な装置を設ける必要がないので、コストの増大を招く事無く不均一なイオン注入を行うことができる。
【0014】
基板の回転中心付近には、全くイオン注入を行う事無く、ドーナツ状のイオン注入分布を形成するには、前記基板の回転中心から所定距離離間した位置にイオンビームを往復走査させることによって帯状イオンビームを形成すればよい。
【0015】
基板の回転中心近傍にもイオン注入を行いつつ、基板の全面にドーナツ状のイオン注入分布を形成するには、前記基板の回転中心を通るようにイオンビームの往復走査によって帯状イオンビームを形成すればよい。
【0016】
前記帯状イオンビームによるイオン注入の量を一定に保ち、基板の回転速度のみに依存した注入分布にするには、前記往復走査の速度の大きさを一定に保つようにしていればよい。このようなものであれば、回転中心から離れた位置ほど周速度が連続的に大きくなるので、よりなだらかなドーナツ状の注入分布を得ることができる。
【0017】
ドーナツ状の分布だけでなく、様々な点対象な注入分布を形成するには、前記往復走査の速度の大きさを変化させればよい。往復走査の速度を変化させると、帯状イオンビームから基板に注入されるイオン量を速度のほぼ反比例させて制御することができるからである。
【0018】
さらに別のドーナツ状の注入分布を得る具体的な方法としては、前記基板を並進移動させることによって、前記帯状イオンビームと回転中心との距離を変化させることがあげられる。
【0019】
点対称なイオン注入分布のみでなく、さらに領域を分割し、様々な注入パターンを形成することができるようにするには、前記基板の回転角度が所定の角度になった場合に前記イオンビームの往復走査速度の大きさを変化させればよい。例えば、注入分布に点対称性に加えて、線対称性を加えることができるようになる。
【0020】
イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにイオン注入を行うためのより簡便な方法としては、前記イオンビームがスポット状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させるものであればよい。
【0021】
細緻なイオン注入分布を簡単に形成するための具体的な方法としては、前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させることが挙げられる。
【0022】
イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにイオン注入を行うための簡便で効率的な方法としては、前記イオンビームが帯状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させればよい。
【0023】
上述したような帯状のイオンビームによって簡単にイオン注入を行うための具体的な方法としては、前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させることが挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本願発明は、基板を回転させながら、同時にイオンビームを走査又は基板を並進移動させているので、形成されるイオン注入分布をなめらかな分布にすることができ、かつ、様々なパターンのイオン注入分布を形成することができる。しかも、様々なパターンのイオン注入を行うのに、シャッターなどの別の部材を用いる必要がないので、コストの増大を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1にはイオン注入装置100の上面図が示してあり、図2には、図1の基板W周辺を拡大してある側面図が示してある。以下の説明では、鉛直方向をY軸、基板Wの回転軸RAの延びる方向をZ軸、基板Wの照射面内においてY軸と直交する軸をX軸として右手系をなすように設定した座標軸も用いながら説明を行う。
【0026】
本実施形態のイオン注入装置100は、例えば、半導体素子の製造において基板Wの周辺部の特性を補償することによって歩留まりを改善するために用いられるものである。なお、本実施形態では、基板Wとして円形のウエハWにイオン注入を行う場合を例として説明を行っている。基板Wの形状は特に円形だけに限定されるものではない。
【0027】
前記イオン注入装置100は、基板WをイオンビームIBが照射される面に交差する回転軸RAを中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームIBの走査又は前記基板Wの並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることができるように構成してある。
【0028】
より具体的には、前記イオン注入装置100は、イオン源ISから射出されたイオンビームIBを電界又は磁界によって偏向させて前記基板W上に走査する走査器1と、前記基板Wが取り付けられているテーブルTを回転させる回転機構2と、前記テーブルTを鉛直方向であるY軸方向に上下動させる並進移動機構3と、前記走査器1と前記回転機構2と前記並進移動機構3とを同時に動作させることが可能な制御機構Cと、を備えたものである。図1及び図2に示されるように、ウエハWはその照射面が水平方向に向くように取り付けられており、イオンビームIBは走査器1によってX軸方向に走査され、ウエハWは並進移動機構3によってY軸方向に走査され、回転機構2によってZ軸を回転中心として回転するように構成してある。
【0029】
前記走査器1は、スポット状のイオンビームIBを電界又は磁界によってX軸方向に往復走査することによって、帯状のイオンビームIBを形成するものである。ここで、帯状のイオンビームIBとは、走査器1によるスポット状のイオンビームIBを走査する速度が、後述するウエハWの回転速度や並進移動速度に比べて十分に速いものであり、実質的に帯状として取り扱うことができるもののことを言う。特に帯状のイオンビームの中で、その短辺方向の幅がスポット状のイオンビームの直径と略等しいもののことをライン状のイオンビームと本明細書中では呼ぶこととする。本実施形態では、走査器1はX軸方向にのみイオンビームIBの走査を行うので、ライン状のイオンビームIBを形成している。
【0030】
この走査器1は、イオンビームIBの走査を行うとともに、その走査する速度を変化させることによってウエハWに注入するイオン注入量を変化させることができる。詳述すると、イオン注入量はイオンビームIBの照射時間に比例して大きくなる。これは、微視的に見るとイオンビームIBを走査する速度を大きくすると、速くウエハW上を通過してしまうので、ウエハW上の単位面積に照射されるイオン粒子の量は少なくなり、速度を小さくすると、ゆっくりと通過するので、ウエハW上の単位面積に照射されるイオンの量が多くなるからである。つまり、イオンビームIBとウエハWとの間の相対速度の大きさと、イオン注入量の間には、反比例の関係があることが分かる。従って、X軸方向の走査速度を変化させることによって、ライン上におけるイオン注入量を任意に設定することができる。以下の説明では、分かりやすさのためライン上のイオン注入量の分布を主に示すが、この分布はX軸方向の走査速度を変化させることによって形成されているものであり、イオン注入量の分布からどのようにX軸方向の走査速度を変化させればよいかは上述したように反比例の関係から容易に算出することができるものである。なお、イオン注入強度がゼロになっている場合には、イオンビームの走査速度を非常に大きくし、注入量を無視できる程度にする、又はイオンビームの照射を一時的にストップするなどすればよい。
【0031】
前記回転機構2は、ウエハWが取り付けられているテーブルTを回転させるものであり、例えば回転モータと、その回転角度を検出する角度検出器とから構成されるものである。前記角度検出器は回転角を検出するとともに、その差分を用いて回転速度を算出するために用いるものであり、その回転速度は一定速度に保つ、あるいは、変化させることができる。
【0032】
前記並進移動機構3は、例えばモータによって前記テーブルTをY軸方向に移動させるものであり、前記ライン状のイオンビームIBが照射面に照射されている半径方向の位置を変えるために用いる。
【0033】
前記制御機構Cは、CPU、メモリ、ディスプレイなどの出力機器、キーボードやマウスなどの入力機器等を備えた、例えば汎用のコンピュータや、あるいは専用に製造された制御ボードなどから構成されるものであり、前記メモリに記憶されたプログラムに従って各機器の制御を行うものである。この制御機構Cは、各機器を単に同時に動作させるだけでなく、プログラムによってそれぞれの走査速度、回転速度、移動速度、回転角を関連付けてそれぞれの機器の動きを同期させて動作させることができるようにも構成してある。
【0034】
ここで、同期させるとは例えば並進移動機構3によるウエハWの半径方向の移動速度とウエハWの回転速度との間に所定の関係を持たせることなどを言う。より具体的には、ライン状のイオンビームIBがウエハWの半径方向に相対移動して1回走査される間のウエハWが回転する回転数などが挙げられる。すなわち、ウエハWの回転速度と、イオンビームIBの走査速度又は並進移動機構3によるウエハWの並進移動速度の少なくとも一方を同期させることによって、上述したようなウエハWへのイオンビームの走査回数と、ウエハの回転回数との間の関係を規定し、所望のイオン注入分布を得ることができるようにしてある。
【0035】
次に、具体的なイオン注入の方法について説明を行う。
図3に示すように、ライン状のイオンビームIBの中心をウエハWの中心から所定距離離間させた位置にX軸方向の往復走査によって形成し、Y軸方向には移動させず、前記ウエハWを一定の回転速度ωで回転させている場合について説明する。
【0036】
具体的には、走査器1によってスポット状のイオンビームIBをX軸方向に走査するとともに、同時に回転機構2がウエハWを回転軸RAを中心として回転させてイオン注入を行っている。
【0037】
イオンビームIBのX軸方向に走査する走査速度の大きさをイオンビームIBを照射する区間において一定に保ち、図4に示すようにイオンビームを照射する区間においてライン上のイオンビームIBのイオン注入量を一定とした場合のウエハW上のイオン注入量分布を図5に示す。以下の説明では、簡単のため、ライン上のイオンビームIBのイオン注入量についてはイオン注入強度と呼ぶ。また、ウエハW上のイオン注入分布については、斜視図とX軸方向の断面図を併せて表記しており、斜視図には、細線でイオン注入量の等高線を示してある。図5から分かるように、回転軸RAを中心とした点対称のイオン注入分布が形成され、しかも、連続的にイオンの注入分布が変化していることがわかる。また、ライン状のイオンビームIBの内側の端から回転中心までの半径√2r0よりも小さい内円領域には、全くイオンビームIBが照射されないのでイオン注入量は略ゼロとなる。加えて、周辺領域はライン状のイオンビームIBがある部分のイオン注入量が突出して多く、外側へ行くほどイオン注入量が減少していることが分かる。これは、走査速度が一定に保たれており、ライン状のイオンビームIBが照射するイオンの量はライン上では一定になっているものの、ウエハWの回転によって外側ほど周方向の速度は大きくなるため外側に単位面積あたりに照射されるイオンの量が減少するからである。
【0038】
イオンビームIBのX軸方向に走査する速度の大きさを変化させて、イオン注入強度を図6に示すように外周部へ行くほど多くなるようにした場合におけるウエハW上のイオン注入分布の結果を図7に示す。このとき、イオン注入強度の変化率は外周部へ行くほど大きくなるようにしてある。より具体的にはライン状ビームの中間点から外周部までのイオン注入量が半径を変数とした指数関数で表され、その指数が1よりも大きい場合におけるウエハW上のイオン注入量の分布である。式として表すと例えば、以下のようになる。
【0039】
【数1】
ただし、r0≦|x|≦R0 式(1)
なお、0≦|x|≦r0にてI(x)=0
【0040】
ここで、I(x)はX軸方向のライン状ビームのイオン注入量、I0はイオン注入量の変換係数、xはライン状ビーム上におけるX軸方向の座標、R0はウエハWの半径、r0は回転中心からライン状ビームの中心までの半径である。
【0041】
図7に示すウエハW上のイオン注入分布のように、前述した指数関数の指数aをウエハWの回転速度ωに対して適切に選ぶことによって、ウエハWの半径方向の変化率が略一定になるようにすることができる。また回転速度ωに対して、イオンビームIBのX軸方向の往復走査させる速度を非常に大きくし、ウエハWの回転回数を非常に多くすれば、平均化効果によってより回転対称でなだらかな変化を有したイオン注入分布を得ることができる。
【0042】
前述した式(1)において指数aを1より小さくした場合のライン上のイオン注入強度を図8に示す。さらに、この場合のウエハW上のイオン注入分布を図9に示す。ここでも、aを適切に選ぶことによって、イオン注入が行われた領域の注入量をほぼ等しくし、図9に示されるような中空円柱状のイオン注入分布を形成することができる。
【0043】
なお、ウエハWの中心部にイオン注入が行われない領域をより簡単に作りつつ、イオン注入分布がなめらかな分布を持つようにするには、0≦|x|≦r0においてもイオン注入を行うようにすれば良い。このようにすればライン状のイオンビームIBがウエハWの中心から離れている距離r0の内円領域にはイオンビームが照射されないのでイオン注入分布がゼロとなるとともに、ライン上のイオンビーム注入強度に不連続な部分がなくなるので、イオンビームIBの走査の設定が非常に簡単になる。言い換えると、ウエハWに照射されているイオンビームIBの注入強度分布を全域に亘って連続に形成しておくだけで、ウエハWにおいてイオンビームIBが形成されている外側のみに任意のイオン注入分布を形成することを簡単な計算や制御方法によって行えるようになる。
【0044】
次に、図10に示すようにライン状のイオンビームIBが回転中心を通るように形成され、同時にウエハWを回転させるイオン注入方法について説明する。なお、この場合でもY軸方向についてはイオンビームIB及びウエハWを移動させていない。
【0045】
ライン上のイオン注入強度が図11に示されるように回転中心から半径r0までは増加し、半径r0からウエハWの半径R0までは減少するような分布を有している場合のウエハW上のイオン注入分布について図12に示す。
【0046】
図12に示されるように、半径r0の円の内部にもイオン注入をしつつ回転中心について対称なイオン注入分布を得ることができる。言い換えると、ライン状のイオンビームIBをウエハWの中心を通るように形成又は照射すれば、ウエハWの全域に亘ってイオン注入を行うことができる。
【0047】
また、先ほどのライン状のイオンビームIBを回転中心から離間させた場合と同様に、式(1)を拡張して使用し、指数aを調節することによって図7のように斜面の半径方向の変化率を一定にする、あるいは、図9のような円筒形状のイオン注入分布にすることもできる。言い換えると、イオンビームIBの走査速度を調節し、イオン注入強度をウエハWの回転速度に合わせて調節することによって、直線のイオン注入分布を得ることができる。
【0048】
ライン状のイオンビームIBをウエハWの中心に形成した場合のその他のイオン注入方法について説明する。
【0049】
イオンビームIBの走査速度を外周部分で遅くし、内周部分で早くする、すなわち、図13に示すようにウエハWの外周部分には、多くのイオンを注入し、内周部分には注入されるイオンの量を少なくするようにイオン注入強度を設定する。このとき、ウエハWの回転速度ωは一定である。
【0050】
イオン注入強度の分布について、式を用いて表すと以下のようになる。
【数2】
なお、図13の実施例ではa=1の場合を示している。
【0051】
この場合のイオン注入分布は図14のようになり、ウエハW上の全域に亘って一定量のイオンを注入することができる。この結果について直感的な説明を行うと、ウエハW上の各地点の回転速度は外側に行くほど大きくなり、注入されるイオンの量が少なくなるので、図13及び式(2)に示されるようなイオン注入強度を与えると、相殺しあい、全域に亘って一定量のイオンを注入することができるということになる。ここで、0≦|x|≦S/2におけるイオン注入強度I1及びSは、イオン注入が終了するときに、ウエハWの回転中心近傍の領域におけるイオン注入量が他の領域のイオン注入量と略等しくなるように設定してある。
【0052】
次に、2段階にイオン注入強度を変化させた場合のイオン注入方法について説明する。図15に示すように、内側では、前述した実施例のように直線状に中心部ではイオン注入量を少なくし、外側へ行くほどイオン注入量が多くなるようにイオン注入強度を変化させ、外周部では内周部よりも大きな変化率でイオン注入強度を変化させている。具体的に式によって記述すると、
【数3】
となる。この実施例ではa=1として直線状の分布としており、S<<R0とする。この場合、図16に示すようなウエハWの内周部は一定量のイオン注入を行うとともに、外周部では変化率一定で外周部に行くほどイオン注入量を大きくしていくような分布を形成することができる。
【0053】
次に、図17に示すように、ライン状のイオンビームIBをウエハWの外周に形成するとともに、Y軸負方向へウエハWを移動させることによってライン状のビームを外周からある半径まで走査しつつ、同時にウエハWを回転させるイオン注入方法について説明する。
【0054】
このイオン注入方法では、ウエハW上におけるライン状のイオンビームIBの中心の軌跡は図18に示されるように螺旋を描くことになる。ここで、イオンビームIBのX軸方向の走査速度の大きさは常に一定になるように制御してあり、すなわち、ライン上の注入量分布は一定値になるようにしてある。また、ウエハWのY軸方向への並進移動速度に対して、ウエハWの回転速度は非常に大きく設定してある。つまり、イオンビームIBの1回の走査に対して、ウエハWの回転回数は非常に多くなり、十分に回転対称なイオン注入分布が得られるようにしてある。
【0055】
図18に示すように、螺旋の間隔が等間隔になるようにY軸方向の並進移動と、ウエハWの回転を同期させてある。具体的に式として記述すると以下のようになる。
【数4】
【数5】
【0056】
ここで、θはウエハWの回転角度、yはライン状のイオンビームIBのy座標、tは時間、Tはイオン注入の終了時刻。
【0057】
このような式(4)、式(5)に基づいてイオン注入を行うと、図19に示されるように、外周部に最もイオン注入が行われ、内側へなだらかにイオン注入量が減少していく。このようになるのは、外側から内側へライン状のイオンビームIBがウエハWに対して相対移動していくので、外側部分は相対速度が大きいため1回のイオン注入量が少ないものの、内側よりもイオン注入される回数が多くなるために結果としてより多くのイオンが注入されることになるからである。
【0058】
図18と同様に、図20ではウエハW上におけるライン状のイオンビームIBの中心の軌跡が螺旋を描く様子が記載されている。図20は内側へ行くほど螺旋の間隔が短くなる点で、図18と異なる。このようにすると図21のように中空円筒形状のイオン注入分布を形成することができる。この場合の具体的なY軸方向の移動量について以下のようになる。なお、回転角度については式(5)と同様であり、ライン状のイオンビームIBがウエハWの内側から外側へ移動する場合について記述する。
【数6】
【0059】
次に、図10に示されるように、ウエハWの回転中心を通るようにライン状のイオンビームIBを形成させながら、同時にウエハWを一定速度で回転させておき、ウエハWの回転角度が所定の角度になったときに、イオンビームIBのX軸方向の走査速度を変化させるようにするイオン注入方法について説明する。
【0060】
図22に示すように、ウエハWが90度回転するごとに、イオンビームIBのX軸方向の走査速度を高速から低速、低速から高速に切り替えるようにする。すると、図23に示すように、回転中心について点対称であり、かつ、線対称な4つの領域を有したイオン注入分布を得ることができる。また、回転速度又は走査速度を切り替える角度を小さくすれば、より多くの領域を形成することができる。
【0061】
前述した実施例では、ある角度領域の全域に亘って同じイオン注入強度によってイオン注入を行い、ウエハWの円周方向にイオン注入量が異なる領域を複数形成したが、ある角度領域内においてイオンビームIBの半径方向の走査速度に分布を与えることによって、イオンビーム強度をウエハWの半径方向の位置に基づいて変化させても構わない。この場合、ある角度領域内で一定量のイオンを注入するだけでなく、前述してきたように半径方向にもイオン注入分布を変化させることもできる。すなわち、角度によるイオン注入量の切り替えにより、ウエハWの周方向のイオン注入分布を変化させ、イオンビームの注入強度を変化させておくことによって半径方向にもイオン注入分布を変化させることによって、様々な注入分布を得ることができる。
【0062】
より具体的には、図24に示すように、例えば、ウエハWをθ1からθ2まで回転させているある角度領域において、イオンビームの注入強度を半径r1までの内円領域では低強度に、半径r1からr2までの円環領域を高強度に、半径r2から半径R0の円環領域では前記内円領域と同じイオン注入分布となるような強度にすればよい。そして、ウエハWをθ2以上に回転させている領域では、全体のイオン注入強度を図22に示したようにある倍率で低下させる又は増加させるなどすれば、ウエハWの半径方向のイオン注入分布を4種類に分けるとともに、ウエハWの円周方向のイオン注入分布も変化させウエハWの中心に対して点対称なイオン注入分布にするなどできる。さらに、中心に対して点対称なイオン注入分布になる以外にも、周方向のイオン注入強度を切り替える角度を様々に変化させたり、角度領域ごとに半径r1やr2の値を変化させて半径方向のイオン注入強度を変化させたり、半径方向のイオン注入強度が異なる領域の数を変化させるようにイオン注入強度を変化させても構わない。
【0063】
このように本実施形態のイオン注入装置100及びイオン注入方法によれば、ウエハWを回転機構2によって回転させながら、同時に走査器1によってイオンビームIBをX軸方向に走査し、ライン状のイオンビームIBを形成する、又は、並進移動機構3によってウエハWをY軸方向に移動させるので、ウエハWに形成されるイオン注入分布を連続的で滑らかなものとすることができる。
【0064】
また、イオンビームIBをX軸方向に走査する速度の大きさや、切り替えるタイミングを調整する、あるいは、Y軸方向へのウエハWの移動速度を変化させることによって、様々な回転中心について対称な不均一なイオン注入分布を得ることができる。
【0065】
加えて、イオンビームIBとウエハWの相対移動だけで様々な不均一なイオン注入分布を得うることができるので、新たにイオンビームIBを遮蔽するための部材を設けるなどする必要がなく、コストの増大を防ぐことができる。
【0066】
なお、本願発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0067】
例えば、前記実施形態ではライン状のイオンビームをY軸方向に相対移動させるのにウエハWを移動させていたが、走査器によってイオンビームをY軸方向に走査しても構わない。
【0068】
イオンビームはスポット状のものだけに限られず、イオン源自体が帯状のイオンビームを照射するものであり、ウエハWを回転させながら、半径方向にイオンビームを相対移動するようにしても構わない。また、このときイオンビームの強度をウエハ上に照射している位置に応じて変化させるようにしても構わない。
【0069】
ライン状のイオンビームではなく、ある程度の短辺方向の幅を有した帯状のイオンビームであっても構わない。
【0070】
イオンビームのウエハW上の軌跡が螺旋状になるようにウエハWやイオンビームを走査する場合には、イオンビームはスポット状のものであっても構わない。
【0071】
イオン注入強度の調整を行うのは、イオンビームの走査速度のみに限られない。例えば、イオンビームの強度を制御しても良いし、スポット径を変更するなどしてもよい。
【0072】
ウエハの回転と、イオンビームの走査又はウエハの並進移動の少なくとも一方を同期させるのは、例えば、ウエハが1回転する間にイオンビームがウエハ上を1回走査するように同期する、または、ウエハが1回転する間にイオンビームがウエハ上を2回走査するなど、様々な関係を持たせることが挙げられる。
【0073】
イオンビームの走査速度、ウエハの並進移動速度、回転移動速度のいずれかを同期させながら、走査速度以外の要素によってイオンビームの注入強度を変化させても構わない。このようなものであれば、点対象なイオン注入分布だけでなく、周方向にもイオン注入分布を変化させたものとすることができ、より様々な形状のイオン注入を行うことができる。
【0074】
走査によって帯状やライン状のイオンビームを形成している場合でも、引き出し電圧を調整することを併用してイオンビーム注入強度を制御しても構わない。
【0075】
イオンビームの注入量を検出するファラデーカップなどの検出器を備えておき、検出されたイオン注入量に基づいて、注入分布を制御するようにしても構わない。検出器によって逐次注入量を検出しておき、フィードバック制御を行うようにすれば、さらに正確な注入分布を形成することが出来るようになる。
【0076】
イオンビームの注入強度を変化させる方法としては、イオン源の引き出し電極の電圧を変化させる、ウエハ上にイオンビームが照射される位置に基づいて開口量を制御される開口部材をビームライン上に設けておき、照射されるイオンビームのスポット径や帯状ビームの幅を調節することでイオン注入量を調節する、イオンビーム自体の強度を制御するなど、様々な方法が考えられる。
【0077】
イオンビームと基板が相対移動する方向は、図面視で下から上でも、上から下でもどちらでもよい。同様のイオン注入分布を得ることが出来る。
【0078】
ウエハ上に照射される帯状やライン状のイオンビームの長手方向の長さはウエハの直径以上である必要は無い。ウエハ上の一部分にかかるものであればよい。すなわち、半径未満の長さのイオンビームでもあってもかまわない。
【0079】
その他、本願発明の趣旨に反しない限り、種々の変形が可能であり、各イオン注入方法を適宜組み合わせるなどしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態に係るイオン注入装置の模式的上面図。
【図2】同実施形態に係るイオン注入装置のウエハ周辺の拡大側面図。
【図3】本発明のイオン注入方法に係る一実施形態を説明する模式図。
【図4】イオンビームのイオン注入強度の一例を示す模式的グラフ。
【図5】図4のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図6】イオンビームのイオン注入強度の別の例を示す模式的グラフ。
【図7】図6のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図8】イオンビームのイオン注入強度のさらに別の例を示す模式的グラフ。
【図9】図8のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図10】本発明のイオン注入方法に係る別の実施形態を説明する模式図。
【図11】イオンビームのイオン注入強度の異なる例を示す模式的グラフ。
【図12】図11のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図13】イオンビームのイオン注入強度のさらに異なる例を示す模式的グラフ。
【図14】図13のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図15】イオンビームのイオン注入強度のさらに別の異なる例を示す模式的グラフ。
【図16】図15のイオン注入強度を用いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図17】本発明のイオン注入方法に係るさらに別の実施形態を説明する模式図。
【図18】イオンビームのウエハ上における軌跡の一例を示す模式図。
【図19】イオンビームが図18の軌跡を描いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図20】イオンビームのウエハ上における軌跡の別の例を示す模式図。
【図21】イオンビームが図20の軌跡を描いた場合のウエハ上のイオン注入分布を示す模式図。
【図22】ウエハの回転角度に応じて、イオン強度を変化させる場合の一例を示すグラフ。
【図23】図22のイオン強度を用いた場合のイオン注入分布を示す模式図。
【図24】ウエハの回転角度とともに、イオンビームの位置に応じてイオンビーム強度を変化させた場合の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0081】
100・・・イオン注入装置
1・・・走査器
2・・・回転機構
3・・・並進移動機構
C・・・制御機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記基板の回転中心から所定距離離間した位置にイオンビームの往復走査によって帯状イオンビームを形成する請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項3】
前記基板の回転中心を通るようにイオンビームを往復走査させることによって帯状イオンビームを形成する請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項4】
前記往復走査の速度の大きさを一定に保つようにしている請求項2又は3記載のイオン注入方法
【請求項5】
前記往復走査の速度の大きさを変化させる請求項2又は3記載のイオン注入方法。
【請求項6】
前記基板を並進移動させることによって、前記帯状イオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項2、3、4又は5記載のイオン注入方法。
【請求項7】
前記基板の回転角度が所定の角度になった場合に前記イオンビームの往復走査速度の大きさを変化させる請求項1、2、3、4、5又は6記載のイオン注入方法。
【請求項8】
前記イオンビームがスポット状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項9】
前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させる請求項8記載のイオン注入方法。
【請求項10】
前記イオンビームが帯状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項11】
前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させる請求項10記載のイオン注入方法。
【請求項12】
基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させる回転機構と、
前記イオンビームを電界又は磁界によって走査するイオンビーム走査機構又は前記基板の並進移動させる並進移動機構の少なくとも一方を具備し、
前記基板の回転と、前記イオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方とを同時に行わせる制御機構を備えたことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項1】
基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させながら、電界又は磁界によるイオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方を同時に行わせることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記基板の回転中心から所定距離離間した位置にイオンビームの往復走査によって帯状イオンビームを形成する請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項3】
前記基板の回転中心を通るようにイオンビームを往復走査させることによって帯状イオンビームを形成する請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項4】
前記往復走査の速度の大きさを一定に保つようにしている請求項2又は3記載のイオン注入方法
【請求項5】
前記往復走査の速度の大きさを変化させる請求項2又は3記載のイオン注入方法。
【請求項6】
前記基板を並進移動させることによって、前記帯状イオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項2、3、4又は5記載のイオン注入方法。
【請求項7】
前記基板の回転角度が所定の角度になった場合に前記イオンビームの往復走査速度の大きさを変化させる請求項1、2、3、4、5又は6記載のイオン注入方法。
【請求項8】
前記イオンビームがスポット状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項9】
前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させる請求項8記載のイオン注入方法。
【請求項10】
前記イオンビームが帯状のビームであり、前記基板と前記イオンビームを相対移動させて、そのイオンビームと回転中心との距離を変化させる請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項11】
前記基板を回転させながら並進移動させることのみによって、前記基板と前記イオンビームを相対移動させ、前記イオンビームのビーム強度を基板上の位置に応じて変化させる請求項10記載のイオン注入方法。
【請求項12】
基板をイオンビームが照射される面に交差する回転軸を中心として回転させる回転機構と、
前記イオンビームを電界又は磁界によって走査するイオンビーム走査機構又は前記基板の並進移動させる並進移動機構の少なくとも一方を具備し、
前記基板の回転と、前記イオンビームの走査又は前記基板の並進移動の少なくとも一方とを同時に行わせる制御機構を備えたことを特徴とするイオン注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−86824(P2010−86824A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255533(P2008−255533)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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