説明

イオン注入装置

【課題】イオンビームの加減速、特に減速を行った場合においても、偏向中心位置が大きく変化しないようにして、ターゲットに入射するイオンビームの入射角度を所望の角度に保ったまま、ターゲットに入射するイオンビームの中心位置を所望の位置にすることができるイオン注入装置を提供する。
【解決手段】イオンビームIBを加減速し偏向させてターゲットTに入射させる静電加速管3を具備したイオン注入装置において、前記静電加速管3の一部を構成する偏向電極5が、前記イオンビームIBを挟んで設けられ、互いに異なる電位が設定される第1偏向電極51と第2偏向電極52とを備えたものであって、前記第2偏向電極52は、イオンビームIBが偏向される側に設けられるものであり、上流側に設けられる上流側電極521と、これから離間して設けられる下流側電極522とを具備し、前記上流側電極及び下流側電極はそれぞれ独立に電位を設定可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームを加速又は減速するとともに偏向させる偏向電極及びそれを備えたイオン注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン注入においてイオンビームに所望のエネルギーとは異なるエネルギーを有するイオンや中性粒子が混入するのを防ぐために、特許文献1に開示されるようなイオン注入装置が提案されている。
【0003】
このイオン注入装置A100は、図1(a)に示すように、イオン源A1からある電圧で引き出されたイオンビームIBを分析磁石A2によって所望の種類のイオンだけを選択し、前記分析磁石A2を通過した後のイオンビームIBを静電加速管A3に通過させることによって、所望のエネルギーにするとともに偏向させて所定の入射角度でターゲットTに入射させるものである。
【0004】
前記静電加速管A3について詳述すると、図1(b)に示すように、イオンビームIBの上流から、加減速電極A4、偏向電極A5、対向電極A6がこの順で設けられているものである。前記偏向電極A5は、偏向前のイオンビームIBの進行方向と平行に設けられた第1偏向電極A51と、上流部が偏向前のイオンビームIBの進行方向と平行であり、下流部が偏向後のイオンビームIBの進行方向に平行に形成された概略くの字形状の第2偏向電極A52とから構成されている。これら第1偏向電極A51と第2偏向電極A52の電位をそれぞれ異ならせることによってイオンビームIBを加減速しつつ、偏向させている。その結果、イオンビームIBを所望のエネルギーを有したものにして、それ以外のエネルギーを有したイオンは偏向によって分離し、所望のエネルギーを有したイオンビームIBのみをターゲットTに入射させることができる。
【0005】
しかしながら、上述したようなイオン注入装置A100においてイオンビームIBの加減速を行った場合には、偏向される前のイオンビームIBにおける直線部分の光軸LSと、偏向された後のイオンビームIBにおける直線部分の光軸LEとの交点である偏向中心位置Cの位置がずれてしまい、ターゲットTに入射するイオンビームIBの中心位置が所望の場所からずれてしまうという問題が発生する。
【0006】
図2に示すような、ターゲットTに略垂直にイオンビームIBを入射させる場合のイオン注入を例としてより具体的に説明する。図2(b)は加減速を行わずに、引き出されたイオンビームIBのエネルギーのままイオンビームIBをターゲットTに入射させる通常時の場合を示している。このとき、イオンビームIBの中心は、ターゲットTの中心に入射するようにしてある。
【0007】
それに対して、図2(a)に示すイオンビームIBを加速する場合、すなわち、引き出されたイオンビームIBのエネルギーよりも大きなエネルギーでターゲットTに入射させる場合には、図2(b)に示した通常時と比べて、偏向中心位置CがイオンビームIBの上流側へ変化し、その結果ターゲットTに入射するイオンビームIBの中心は、イオンビームIBの偏向方向に少しずれることになる。
【0008】
さらに、図2(c)に示すイオンビームIBの減速する場合、すなわち、引き出されたイオンビームIBのエネルギーよりも小さいエネルギーでターゲットTに入射させる場合には、図2(b)に示した通常時と比べて、偏向中心位置CがイオンビームIBの下流側へ大きく変化し、その結果ターゲットTに入射するイオンビームIBの中心は、イオンビームIBの反偏向方向に大きくずれてしまう。
なお、図2(a)〜図2(c)でのシミュレーション条件は、イオンビームIBの引き出し電圧を30kVとし、加速時には60keV、通常時には30keV、減速時には1keVといった所望のエネルギーとなるようにイオンビームIBを静電加速管A3によって加減速した後、ターゲットTの面に対して垂直にイオンビームが照射されるように設定されている。
【0009】
このように、特にイオンビームIBの減速を行った場合、偏向中心位置Cが大きくずれてしまうために、ターゲットTに入射するイオンビームIBの中心位置もずれてしまい、所望のイオン注入を行うことが難しくなってしまう。
【0010】
また、仮に上述したイオン注入装置A100において偏向電極A5の電位を調節することによって、イオンビームIBのターゲットTに入射する位置を所望の位置になるよう調節すると、図3に示すように、ターゲットTに入射する入射角度が変化してしまうので、やはり所望のイオン注入を行うことができない。
【特許文献1】特許第3738734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述したような問題点を鑑みてなされたものであり、イオンビームの加減速、特に減速を行った場合においても、偏向中心位置Cが大きく変化しないようにして、ターゲットに入射するイオンビームの入射角度を所望の角度に保ったまま、ターゲットに入射するイオンビームの中心位置を所望の位置にすることができるイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明のイオン注入装置は、イオン源から引き出されたイオンビームを所望のエネルギーにするとともに、偏向させてターゲットに入射させる静電加速管を具備したイオン注入装置において、静電加速管の一部を構成する偏向電極が、前記イオンビームを挟んで設けられ、互いに異なる電位が設定される第1偏向電極と第2偏向電極とを備えたものであって、前記第2偏向電極は、イオンビームが偏向される側に設けられ、前記イオンビームの上流側に設けられる上流側電極と、その上流側電極から下流側に離間して設けられる下流側電極とを具備し、前記上流側電極及び前記下流側電極はそれぞれ独立に電位を設定可能に構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の偏向電極は、イオン源から引き出されたイオンビームを所望のエネルギーにするとともに、偏向させてターゲットに入射させる静電加速管の一部を構成する偏向電極において、前記偏向電極が、前記イオンビームを挟んで設けられ、互いに異なる電位が設定される第1偏向電極と第2偏向電極とを備えたものであって、前記第2偏向電極は、荷電粒子ビームの上流側に設けられる上流側電極体と、その上流側電極から下流側に離間して設けられる下流側電極体とを具備し、前記上流側電極体及び前記下流側電極体はそれぞれ独立に電位を設定可能に構成されていることを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、第2偏向電極が、上流側電極と下流側電極とを備えており、しかもそれぞれが独立に電位を設定することができるように構成されているので、特に第1偏向電極と第2偏向電極の間に形成される電場を制御するための自由度が高くなる。特に、下流側電極は上流側電極から離間して設けられているので、前記上流側電極と前記下流側電極の間を通過する等電位線を有する電場を形成することができる。従って、従来であれば、電場の形状を適切な形に制御しにくかった第2偏向電極の下流側の電場を所望の形状に制御することができるようになる。そのため、イオンビームを減速してターゲットに入射させる場合でも、偏向中心位置が下流側へほとんど変化しないようにしてイオンビームを偏向させることができるので、入射角度を所望の角度に保ったまま、イオンビームの中心がターゲットの所望の位置からほとんどずれないように調節を行うことができる。
【0015】
さらに、上流側電極と下流側電極の電位を適切に設定することによって、イオンビームを加速する場合や、イオンビームの加減速を行わない場合でも、従来と同様に所望の入射角度で、イオンビームの中心をターゲットの所定の位置に入射させることができる。
【0016】
上流側電極及び下流側電極の電位の具体的な態様としては、前記イオンビームが正の電荷を有したものであり、前記イオンビームを減速して、引き出された時のエネルギーよりも低くする場合には、前記下流側電極は、前記上流側電極よりも高い電位に設定されるものが挙げられる。このようなものであれば、上流側電極に設定されている電位よりも高く、下流側電極に設定されている電位よりも低い電位の等電位線が上流側電極と下流側電極の間を通過するような電場が形成されるので、イオンビームが十分減速されて大きな影響を受ける第2偏向電極終端付近の電場の形状や強さを偏向中心位置が変化しないようなものにすることができる。
【0017】
イオンビームを加速して、引き出された時のエネルギーよりも高くする場合には、前記下流側電極は、前記上流側電極と略同電位に設定されればよい。このようにすれば、イオンビームの加速時においても、前記上流側電圧や前記下流側電圧に低い電圧を印加して、所定の電位に設定することによってイオンビームを効率的に偏向することができ、偏向中心位置が上流側へ変化する量を許容できうる程度の範囲内に収めることができる。なお、偏向中心位置の変化量をより小さなものにする場合は、前記下流側電極に、前記上流側電極よりも低い電位を設定した上で、適切な電位の設定を行えばよい。
【0018】
前記第2偏向電極の電極長を長くして、高エネルギーのイオンビームを大きな電力を用いることなく効率的に偏向させることができるようにするには、前記第1偏向電極及び前記上流側電極は、偏向される前のイオンビームの進行方向と平行に延伸するものであり、前記下流側電極は、偏向された後のイオンビームの進行方向と平行に延伸するものであればよい。
【0019】
特にイオンビームの減速時において、偏向電極に偏向されたイオンが衝突することによる電圧の変動の影響を小さくする、また、設定する電位の分解能を適度な大きさにして容易に制御できるようにするには、前記上流側電極が偏向される前のイオンビームの進行方向に延伸する長さ寸法が、前記下流側電極が偏向された後のイオンビームの進行方向に延伸する長さ寸法よりも長いものであればよい。このようなものであれば、前記下流側電極を所定の電位に設定するために印加される電圧の大きさをある程度大きなものにすることができるので、電圧の変動があったとしても、印加している電圧に対しては小さいものであるので無視できるようになり、また、高い分解能で制御を行わなくてもよくなる。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明の偏向電極及びそれを用いたイオン注入装置によれば、特にイオンビームの減速を行った場合において、偏向中心位置が加減速を行わない場合に比べて大きく変化しないようにして、イオンビームのターゲットへの入射角度を所定の角度に保ったまま、イオンビームの中心をターゲットの所定の位置へと入射させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本発明の偏向電極5及びそれを用いたイオン注入装置100は、例えば、シリコン基板などの表面にイオンを所定の角度や深さ、濃度で注入することによって、その特性を変化させたり、改質させたりするために用いられるものである。
【0022】
本実施形態のイオン注入装置100は、図4(a)に示されるようなイオン源1からある電圧で引き出されたイオンビームIBを分析磁石2によって所望の種類のイオンだけを選択し、前記分析磁石2を通過した後のイオンビームIBを静電加速管3に通過させることによって、所望のエネルギーにするとともに偏向させて所定の入射角度でターゲットTに入射させるものである。なお、以下の説明では、イオンビームIBの光軸が形成する平面をXZ平面として、前記静電加速管3にイオンビームIBが入射する方向をZ軸、イオンビームIBが偏向される側を正としてX軸を設定し、右手系をなすように座標軸を設定する。
【0023】
なお、本実施形態での説明では正の電荷を有したスポット状のイオンビームIBを例として説明を行っているが、リボン状に引き出されたイオンビームIBなど、所定の形状のビームであっても同様の構成によって、略同じ効果を得ることができる。また、負の電荷を有したイオンビームIBの場合には、設定される電位は正の場合と逆にすればよい。
【0024】
前記静電加速管3は、図4(b)に示すように、少なくとも加減速電極4、偏向電極5、対向電極6をイオンビームIBの上流側からこの順で備えたものである。静電加速管3は加減速電極4と偏向電極5の間と偏向電極5と対向電極6の間において、2段階に分けて加速又は減速が行われるように構成してある。
【0025】
前記加減速電極4は、静電加速管3に入射したイオンビームIBを挟むように設けてある一対の平行板電極であり、それぞれの電極は電気的に接続されており、電位V1が与えられるものである。この電位V1は、イオンビームIBを加速するときには正の高電位に設定され、イオンビームIBを減速するときには負の高電位に設定される。
【0026】
前記偏向電極5は、第1偏向電極51と第2偏向電極52とから構成してあるものであり、それぞれの電極は、それぞれの対向している面がイオンビームIBを挟むように設けてある。
【0027】
前記第1偏向電極51は、平板電極でありイオンビームIBと対向する面の延伸する方向が静電加速管3に入射するイオンビームIBの光軸LSであるZ軸と平行になるように設けてある。この第1偏向電極51は通常、設定される電位V2aが0Vとなるように接地してある。
【0028】
前記第2偏向電極52は、図4に示すようにY軸方向から見て概略くの字形状をなすように構成されているものであり、前記第1偏向電極51とその対向面が平行となるように設けられる平板電極である上流側電極521と、前記第1偏向電極51からイオンビームIBの下流側に離間して設けられる平板電極である下流側電極522とから構成してある。
【0029】
前記上流側電極521と前記下流側電極522の関係について説明すると、前記上流側電極521のイオンビームIBに沿った方向の長さは、前記下流側電極522の長さよりも長く構成してある。また、前記上流側電極521と前記下流側電極522はそれぞれ独立して電位V2b、V2cを設定できるように構成してある。
【0030】
前記対向電極6は、前記偏向電極5を通過して偏向されたイオンの中で、所望のエネルギー以外を有しているために偏向量の異なるイオンや偏向されなかった中性粒子などを衝突させて、除去する働きを有する。前記対向電極6は偏向された後にターゲットTに入射するイオンビームIBの光軸を挟むように設けてある一対の平行板電極で構成してある。そして、この対向電極6は通常、静電加速管3で発生する電界が対向電極6の下流側へ流出するのを抑制する為に、電位V3が0Vとなるように接地してある。
【0031】
このように構成されたイオン注入装置100を用いて、イオンビームIBを偏向させてターゲットTに入射させた場合のシミュレーション結果を図に示す。ここで、イオンビームIBの加減速の状態に応じて、加減速電極4、上流側電極521、下流側電極522の電位は設定してある。それぞれの状態における設定してある電位を表1に示す。なお、このときのイオンビームIBの引き出し電圧は30kVであり、イオンビームIBのエネルギーは加速時には60keV、通常時には30keV、減速時には1keVにされるとともに、ターゲットTの面に対して、イオンビームIBは垂直に照射されている。表1からわかるように、図5(a)の加速時のシミュレーションでは、上流側電極521の電位V2bと下流側電極522の電位V2cとが同じ値になるように設定してある。
【0032】
また、図5(c)の減速時には下流側電極522の電位のほうが高い電位になるように設定してある。ここで、この実施形態では正の電荷をもつイオンビームIBの偏向及び減速を行うので上流側電極521及び下流側電極522が負の電位となるようにしてある。従って、下流側電極522を上流側電極521よりも高い電位に設定しようとすると、上流側電極521よりもオーダーの小さい負の電位に設定しなくてはならない場合がある。すると、オーダーの小さい下流側電極522に合わせて分解能の高い電源を用意しなくてはならなくなり、コストの増大を招いてしまう。そこで、本実施形態では上流側電極521に設定される電位と下流側電極522に設定される電位のオーダーが大きく異ならないように、上流側電極521及び下流側電極522の長さや、離間させている位置等を調整してある。
【表1】

【0033】
図5に示されるシミュレーション結果と図1に示される従来のイオン注入装置A100を用いて行われた図2に示されるシミュレーション結果とを比較すると、偏向中心位置Cの変化に大きな違いが出ていることがわかる。具体的には、イオンビームIBの加速時には、偏向中心位置Cの変化は、従来のイオン注入装置100の場合とほとんど変わらない上に、イオンビームIBの減速時には、偏向中心位置Cは従来であれば大きく下流側へ変化していたものが、ほとんど変化せずわずかに上流側へ変化している。
【0034】
このため、イオンビームIBの加減速を行ったとしても、いずれの場合でもターゲットTの略中心にイオンビームIBを照射することができている。
【0035】
次に、イオンビームIBの加速時において偏向中心位置Cがほとんど変化していない理由とイオンビームIBの減速時における偏向中心位置Cが下流側へ変化しないようになった理由について説明する。
【0036】
イオンビームIBの加速時には、イオンは加速しているために偏向電極5によって形成されている電場から力を受ける時間は下流側ほど短くなっていく。このため、加速時には、偏向に関しては上流側に形成されている電場の影響が支配的であり、下流側に形成されている電場の影響はそれほど大きく影響を受けない。さらに、加速時には、上流側電極521と下流側電極522の電位を同じにしてあるので、略一体物の電極として近似的に作用することになり、従来のイオン注入装置100で形成されていた電場と略同じ形の電場を形成することができるので、略同じ結果になっていると考えられる。
【0037】
それに対して、イオンビームIBの減速時には、イオンは減速しているために、偏向電極5によって形成されている電場から力を受ける時間は下流側ほど長くなっていく。このため、減速時には、偏向に関しては下流側に形成されている電場の影響が支配的であることが分かる。
【0038】
従来のイオン注入装置100において減速時に形成されている偏向電極5間の電場を図6に示す。ここで、以下の電場の図にはイオンビームIBを偏向させるのに実質的に影響を与えることができる電位までしか記載していない。図6に示されるように従来においては、第2偏向電極52と対向電極6の間にまで大きく膨出した等電位線(図中太線)を有した電場が形成されていた。このため、下流側で大きく偏向させられるので下流側へと偏向中心位置Cが変化していた。
【0039】
一方、図7に示されるように、本実施形態のイオン注入装置100において偏向電極5間に形成される電場は、等電位線が上流側電極521と下流側電極522の間を通過するように形成できる。このため、イオンビームIBの偏向に影響を与える最終の等電位線(図中太線)を従来に比べてより上流側に形成できている。従って、従来に比べるとイオンの速度が遅くなった下流側でイオンビームIBが受ける影響を小さくし、大きく偏向しないようにして、所望のエネルギーにしつつ、所定の角度でターゲットTに入射させることができる。
【0040】
言い換えると、上流側電極521と下流側電極522が離間しており、それぞれの電極の電位を独立に設定できるので、従来では形成することが難しかった形状の電場を形成することができるので、減速時においても所望のエネルギーにしつつ、下流側へ偏向中心Cが移動してしまうのを防止することができる。従って、予め定めた入射角度と入射位置でイオンビームIBをターゲットTに入射させることができる。
【0041】
このように、本実施形態のイオン注入装置100によれば、上流側電極521と下流側電極522が離間しており、それぞれの電極の電位を独立に設定できるので、減速時においても偏向中心位置Cがほとんど変化しないようにすることができ、ターゲットTに対する所望の入射位置からイオンビームIBが大きくずれてしまうことを防ぐことができる。
【0042】
しかも、イオンビームIBのエネルギーを所望の状態にしつつ、その入射角度も所望の状態にすることができる。そして、イオンビームIBの加速時においても同様に偏向中心位置Cをほとんど変化させることがなく、イオンビームIBのターゲットTへの入射位置や角度等に関して、減速時と同様の効果を得ることができる。
【0043】
また、第1偏向電極51と上流側電極521は、偏向される前のイオンビームIBの光軸LSとその対向面が平行に延伸するように設けてあり、下流側電極522のイオンビームIBへの対向面は偏向後のイオンビームIBがターゲットTに入射するときの光軸LEに対して平行に延伸するように設けてあるので、イオンビームIBに影響を与える電場をある程度広範囲に形成することができ、高エネルギーのイオンビームIBを大きな電力を用いることなく効率的に偏向させることができる。
【0044】
さらに、上流側電極521のほうが下流側電極522よりも長くしてあるので、下流側電極522が電場に影響を与える範囲を上流側電極521に比べて小さなものにすることができる。このため、イオンビームIBの減速及び偏向に必要な負の電位の大きさをある程度の大きさにしても、イオンビームIBを偏向しすぎてしまい、偏向中心位置Cが下流に変化することを心配する必要がない。従って、上流側電極521と近いオーダーの電位に設定することができ、大まかに設定しても構わないようになるので、非常に高い分解能の電源を用いる必要がなくなり、コストダウンの一助となる。
【0045】
その他の実施形態について説明する。なお、以下の説明においても前記実施形態に対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0046】
前記実施形態では、上流側電極521のほうが下流側電極522よりも長く設定してあったが、このようなものでなくても構わない。例えば、上流側電極521、下流側電極522それぞれに設定する電位を調節することによって、若干性能は落ちるものの、略同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、上流側電極521が直線部分だけでなく、偏向後のイオンビームIBの進行方向に湾曲した部分を有しているものであっても構わない。要するに、上流側電極521と下流側電極522のそれぞれが離間しており、それぞれの電位を独立に設定することができればよい。なお、本明細書における離間しているとは、例えば、上流側電極521と下流側電極522が絶縁体などで接続されて一体になっているようなものも含む概念である。
【0048】
本実施形態で説明した、電位の設定値は一例であり、電極の長さやイオンの種類等に応じて適宜変更しても構わない。
【0049】
第2偏向電極は、2つ以上の電極で構成されていても構わない。すなわち、第2偏向電極が3つ以上の電極に分割されているものであり、それぞれの電位が独立に設定可能に構成されているものであっても構わない。このようなものであっても、イオンビームの減速時の電場を所望の形状にして、偏向中心位置Cがずれないようにすることができる。
【0050】
また、第1偏向電極が複数に分割されているものであっても構わない。
【0051】
その他、本発明の趣旨に反しない範囲において、それぞれの実施形態を組み合わせるなどして、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】従来のイオン注入装置及び静電加速管を示す模式的構成図。
【図2】従来のイオン注入装置においてイオンビームを加減速した場合の偏向中心位置の変化を示す模式的比較図。
【図3】従来のイオン注入装置においてイオンビームの入射位置を調整した場合を示す模式図。
【図4】本発明の一実施形態を示す模式的構成図。
【図5】同実施形態におけるイオンビームを加減速した場合の偏向中心位置の変化を示す模式的比較図。
【図6】従来のイオン注入装置において偏向電極間に形成される電場を示した模式図。
【図7】本発明のイオン注入装置において偏向電極間に形成される電場を示した模式図。
【符号の説明】
【0053】
100・・・イオン注入装置
1・・・イオン源
5・・・偏向電極
51・・・第1偏向電極
52・・・第2偏向電極
521・・・上流側電極
522・・・下流側電極
IB・・・イオンビーム
T・・・ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源から引き出されたイオンビームを所望のエネルギーにするとともに、偏向させてターゲットに入射させる静電加速管を具備したイオン注入装置において、
前記静電加速管の一部を構成する偏向電極が、前記イオンビームを挟んで設けられ、互いに異なる電位が設定される第1偏向電極と第2偏向電極とを備えたものであって、
前記第2偏向電極は、イオンビームが偏向される側に設けられるものであり、前記イオンビームの上流側に設けられる上流側電極と、その上流側電極から下流側に離間して設けられる下流側電極とを具備し、前記上流側電極及び前記下流側電極はそれぞれ独立に電位を設定可能に構成されていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記イオンビームが正の電荷を有したものであり、
前記イオンビームを減速して、引き出された時のエネルギーよりも低くする場合には、前記下流側電極は、前記上流側電極よりも高い電位に設定される請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記イオンビームを加速して、引き出された時のエネルギーよりも高くする場合には、前記下流側電極は、前記上流側電極と略同電位かそれよりも低い電位に設定される請求項1又は2記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記第1偏向電極及び前記上流側電極は、偏向される前のイオンビームの進行方向と平行に延伸するものであり、
前記下流側電極は、偏向された後のイオンビームの進行方向と平行に延伸するものである請求項1、2又は3記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記上流側電極が偏向される前のイオンビームの進行方向に延伸する長さ寸法が、前記下流側電極が偏向された後のイオンビームの進行方向に延伸する長さ寸法よりも長い請求項4記載のイオン注入装置。
【請求項6】
イオン源から引き出されたイオンビームを所望のエネルギーにするとともに、偏向させてターゲットに入射させる静電加速管の一部を構成する偏向電極において、
前記偏向電極が、前記イオンビームを挟んで設けられ、互いに異なる電位が設定される第1偏向電極と第2偏向電極とを備えたものであって、
前記第2偏向電極は、荷電粒子ビームの上流側に設けられる上流側電極体と、その上流側電極から下流側に離間して設けられる下流側電極体とを具備し、前記上流側電極体及び前記下流側電極体はそれぞれ独立に電位を設定可能に構成されていることを特徴とする偏向電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−123547(P2010−123547A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298794(P2008−298794)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】