説明

イリジウム化合物の再生方法

【課題】触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物をほぼ完全に再活性化する方法、再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用する方法、及び、再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用した有機化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のイリジウム化合物の再生方法は、触媒としての活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を、該イリジウム化合物中のイリジウムのイオン価数を変化させることにより再活性化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を再活性化する方法に関する。より詳細には、例えば、有機合成反応に触媒として使用し、反応により触媒活性が低下又は喪失したイリジウム化合物を再活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属元素等の金属元素は、種々の有機反応の触媒として頻繁に使用されている(例えば特許文献1)。それらの触媒の中で、イリジウム錯体は、例えば、アルコールと酢酸ビニルからビニルエーテルを合成する方法において、イリジウム錯体の存在下で反応を行うことにより、温和な条件下で効率的に製造することができる点で、特に有用である。しかしながら、イリジウム錯体は、長期間の反応により、次第に触媒活性が低下していくことが知られている。また、非常に有用である反面、非常に高価である点が問題である。従って、使用後のイリジウム錯体を有機反応終了後の廃液等から回収し、再利用する技術は工業的にも重要である。特に、簡易な操作により、低下又は喪失した触媒活性を再び活性化できる技術の検討は急務である。
【0003】
イリジウム化合物の再生方法としては、イリジウムのハロゲン錯体を含む使用済みイリジウムメッキ液にハロゲン化水素を添加して加熱することによりイリジウムメッキ液を再生する方法が特許文献2に記載されているが、メッキ法により材料表面にイリジウム被膜を形成するためのメッキ液中に含有されるイリジウムのハロゲン錯体を再生する方法についての発明であり、触媒として使用するイリジウム化合物において、その触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を再活性化する方法については知られていないのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2005−126395号公報
【特許文献2】特開2005−298865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物をほぼ完全に再活性化する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記イリジウム化合物の再生方法により再活性化されたイリジウム化合物を触媒として使用する方法を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、上記イリジウム化合物の再生方法により再活性化されたイリジウム化合物を触媒として使用して、有機合成化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物中のイリジウムのイオン価数が3価又は4価であることを見出した。そして、該イオン価数を低下させることにより、触媒活性を回復することができることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、有機合成反応に触媒として使用することにより活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を、該イリジウム化合物中の3価又は4価のイリジウムを還元剤を使用して低イオン価化することにより再活性化するイリジウム化合物の再生方法を提供する。
【0008】
前記還元剤としては、アルコールを使用することが好ましい。
【0009】
再活性化は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0010】
60〜200℃で再活性化を行うことが好ましく、配位子の存在下で再活性化を行うことが好ましい。
【0011】
本発明は、また、上記イリジウム化合物の再生方法により再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用する再生イリジウム化合物の使用方法を提供する。
【0012】
本発明は、更に、上記イリジウム化合物の再生方法により再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用して有機化合物を製造する有機化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイリジウム化合物の再生方法によれば、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を所定の再活性化処理を行い、イリジウムのイオン価数を減少させることで、容易に、且つ、効率的に再生することができる。本発明に係る再生方法により再生されたイリジウム化合物は、優れた触媒活性を示すことができ、高価なイリジウム化合物を再利用することで、有機合成反応に要するコストを著しく削減することができる。また、コストの削減により、有機合成反応により得られた有用な有機化合物を安価で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[イリジウム化合物]
本発明に係るイリジウム化合物の再生方法は、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を容易に、且つ、効率よく再生することができ、なかでも、有機合成反応、例えば、ヒドロキシ化合物とビニルエステル化合物とを反応させてビニルエーテル誘導体を合成するビニルエーテル誘導体の製造、アリルエーテル誘導体の製造、アルコールの二量化による長鎖アルコールの製造等に触媒として使用される活性イリジウム化合物が、反応によって分解、変質してなるイリジウム化合物であって、触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物の再生に好適に使用することができる。
【0015】
また、有機合成反応の触媒として使用し、反応により触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物は、一般的に反応開始時に使用した活性イリジウム化合物とは異なる場合が多く、その反応溶媒であったり、反応原料、反応時に生成する化合物等の中から配位性の強い有機物質が配位している場合が多い。本発明において、有機合成反応により触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物は、有機合成反応により活性イリジウム化合物が分解、変質してなるイリジウム化合物であり、少なくとも、3価又は4価のイリジウムを含有することを特徴とする。なお、本発明において、イリジウム化合物の前身であり触媒活性を有するものを活性イリジウム化合物、イリジウム化合物を再活性化したものを再生イリジウム化合物と称する。
【0016】
上記有機合成反応に触媒として使用することができる活性イリジウム化合物の代表的な例を示すと、例えば、酸化イリジウム、硫化イリジウム、水酸化イリジウム、フッ化イリジウム、塩化イリジウム、臭化イリジウム、ヨウ化イリジウム、硫酸イリジウム、イリジウム酸又はその塩(例えば、イリジウム酸カリウムなど)、無機イリジウム錯体[例えば、ヘキサアンミンイリジウム(III)塩、クロロペンタアンミンイリジウム(III)塩等]などの無機化合物;有機化合物が配位子として配位している有機イリジウム錯体などの有機化合物が挙げられる。本発明においては、有機化合物が配位子として配位している有機イリジウム錯体が好ましい。
【0017】
有機イリジウム錯体の配位子としては、例えば、不飽和炭化水素(シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、エチレン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエンなど)、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素化合物、アセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。
【0018】
上記配位子を有する有機イリジウム錯体としては、例えば、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム、ドデカカルボニル四イリジウム(0)、クロロトリカルボニルイリジウム(I)、ジ−μ−クロロテトラキス(シクロオクテン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロテトラキス(エチレン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロジクロロビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)、トリクロロトリス(トリエチルホスフィン)イリジウム(III)、ペンタヒドリドビス(トリメチルホスフィン)イリジウム(V)、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、クロロエチレンビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジカルボニルイリジウム(I)、ビス{1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}イリジウム(I)塩化物、ペンタメチルシクロペンタジエニルビス(エチレン)イリジウム(I)、カルボニルメチルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、(1,5−シクロオクタジエン)(ジホスフィン)イリジウム(I)ハロゲン化物、1,5−シクロオクタジエン(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)イリジウム(I)ヘキサフルオロリン酸塩、(1,5−シクロオクタジエン)ビス(トリアルキルホスフィン)イリジウム(I)ハロゲン化物、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレート、(1,5−シクロオクタジエン)(アセトニトリル)イリジウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、特に、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、エチレン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエンなどの不飽和炭化水素;アセトニトリルなどのニトリル類;テトラヒドロフランなどのエーテル類を配位子として有する有機イリジウム錯体[例えば、ジ−μ−クロロテトラキス(シクロオクテン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロテトラキス(エチレン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレート、(1,5−シクロオクタジエン)(アセトニトリル)イリジウムテトラフルオロボレート等]が好ましく、特に、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレートが好ましく、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)が好ましい。本発明において、活性イリジウム化合物としては上記例に挙げられた活性イリジウム化合物が1種のみ含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0020】
[再生方法]
活性イリジウム化合物の不活性化は、一般に、含有するイリジウムのイオン価数が変化することによる場合が多く、活性イリジウム化合物が酸化されて、含有するイリジウムのイオン価数が大きくなる(具体的には、3価又は4価になる)ことによる場合が多い。そこで、本発明に係るイリジウム化合物の再生方法としては、イリジウム化合物中の3価又は4価のイリジウムのイオン価数を低イオン価化する(より好ましくは、3価又は4価のイリジウムを1価のイリジウムとする)ことを特徴とする。
【0021】
イリジウム化合物中の3価又は4価のイリジウムを低イオン価化する方法としては、還元剤を使用して還元する方法、電極を使用してイオン価数を変化させる方法等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、還元剤を使用してイリジウム化合物を還元することによりイリジウムのイオン価数を変化させることが好ましい。
【0022】
上記還元剤としては、イリジウム化合物を還元して、3価又は4価のイリジウムを低イオン価化すること(特に、3価又は4価のイリジウムを1価のイリジウムとすること)ができればよく、従来周知慣用の還元剤を使用することができる。本発明においては、アルコール、水素、一酸化炭素、ヒドリド種、塩酸等を好適に使用することができる。
【0023】
還元剤として使用する上記アルコールには、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコール等が含まれる。また、アルコールは複数のヒドロキシル基を有していてもよく、1価アルコール、2価アルコール、多価アルコール等の何れであってもよい。
【0024】
代表的な第1級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ヘキサデカノール、2−ブテン−1−オール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、グリセリン、ヘキサメチレングリコール、ペンタエリスリトールなどの炭素数1〜30(好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第1級アルコール;シクロヘキシルメチルアルコール、2−シクロヘキシルエチルアルコールなどの飽和又は不飽和脂環式第1級アルコール;ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、桂皮アルコールなどの芳香族第1級アルコール;2−ヒドロキシメチルピリジンなどの複素環式第1級アルコールなどが挙げられる。また、炭化水素部位に置換基を有する第1級アルコールとして、例えば、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル等のグリコール酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;エチレングリコールモノアセテート等のアルキレングリコールモノエステルなどが挙げられる。
【0025】
代表的な第2級アルコールとしては、例えば、2−プロパノール、s−ブチルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−オクタノール、4−デカノール、2−ヘキサデカノール、2−ペンテン−4−オール、グリセリン、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールや2,3−ペンタンジオールなどのビシナルジオール類などの炭素数3〜30(好ましくは3〜20、さらに好ましくは3〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第2級アルコール;1−シクロペンチルエタノール、1−シクロヘキシルエタノールなどの、ヒドロキシル基の結合した炭素原子に脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基(シクロアルキル基など)とが結合している第2級アルコール;シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノール、シクロドデカノール、2−シクロヘプテン−1−オール、2−シクロヘキセン−1−オール、2−アダマンタノール、アダマンタン環にオキソ基を有する2−アダマンタノール、2−ヒドロキシノルボルナン、3−ヒドロキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンなどの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜15員、特に5〜8員)程度の飽和又は不飽和脂環式第2級アルコール(橋かけ環式第2級アルコールを含む);1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルメチルエタノール、ジフェニルメタノールなどの芳香族第2級アルコール;1−(2−ピリジル)エタノールなどの複素環式第2級アルコールなどが例示される。
【0026】
代表的な第3級アルコールとしては、例えば、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコールなどの炭素数4〜30(好ましくは4〜20、さらに好ましくは4〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第3級アルコール;1−シクロヘキシル−1−メチルエタノールなどの、ヒドロキシル基の結合した炭素原子に脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、橋かけ環式炭化水素基など)とが結合している第2級アルコール;1−メチル−1−シクロヘキサノールなどの、脂環式環(シクロアルカン環、橋かけ炭素環など)を構成する1つの炭素原子にヒドロキシル基と脂肪族炭化水素基とが結合している第3級アルコール;1−アダマンタノールなどの橋かけ炭素環の橋頭位にヒドロキシル基を有する橋かけ炭素環含有第3級アルコール;1−フェニル−1−メチルエタノールなどの芳香族第3級アルコール;1−メチル−1−(2−ピリジル)エタノールなどの複素環式第3級アルコールなどが挙げられる。
【0027】
本発明において還元剤として使用するアルコールは、上記例で挙げられているアルコールを単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
還元剤として使用する上記ヒドリド種としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等が挙げられる。本発明においては、これらを単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
本発明において使用する還元剤としては、安全性及び経済性の点でアルコールがより好ましく、なかでも、1級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール等)、若しくは2級アルコール(例えば、シクロヘキサノール、2−プロパノール、s−ブチルアルコール、2−プロパノール等)が特に好ましい。
【0030】
本発明におけるイリジウム化合物の再生は、有機合成反応に触媒として添加され、反応により分解、変質して触媒活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物に、上記還元剤を反応させて、イリジウム化合物中のイリジウムのイオン価数を低イオン価化することにより行うことができる。
【0031】
本発明に係るイリジウム化合物の再生方法においては、有機合成反応終了時の反応混合液、又は、これに濃縮、蒸留、希釈、溶媒交換、濾過、抽出、晶析等の物理的処理を施した後の混合物を用いて、混合物中に含有するイリジウム化合物を上記還元剤により還元することにより再生することができる。本発明においては、有機合成反応終了時の反応混合液に濃縮、蒸留処理を施した後の混合溶液中に含有するイリジウム化合物を還元することがより好ましく、濃縮、蒸留、イオン交換樹脂処理を施した後の混合溶液中に含有するイリジウム化合物を還元することが特に好ましい。反応混合液中の有機溶媒、有機合成反応の目的化合物、及び、高沸点成分等を除去した後に、還元剤と反応させて再生することで、より効率的にイリジウム化合物を再生することができる。
【0032】
上記濃縮方法としては、特に限定されることがなく、周知慣用の方法を使用することができ、例えば、反応混合液を30〜50℃、1〜50トル(130〜1500Pa)で留出液がなくなるまで濃縮することにより行うことができる。濃縮処理を施すことにより、有機溶媒を除去することができる。また、上記蒸留方法としては、特に限定されることがなく、周知慣用の方法を使用することができ、例えば、上記濃縮方法により得られた濃縮液を薄膜蒸発法、バッチ蒸発法等を使用して蒸留することにより行うことができる。蒸留処理により、有機合成反応の目的化合物を除去することができる。
【0033】
有機合成反応終了時の反応混合液に、濃縮、蒸留処理を施し、その後、更にイオン交換樹脂処理を施すことにより、高沸点成分を除去することができ、イリジウム化合物を選択的に分離回収することができる。イリジウム化合物に含有するイリジウムは、触媒反応により酸化されてイオン価数が大きくなるため(具体的には、3価又は4価の陽イオンとなるため)、イオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂を使用する場合は、濃縮後、又は濃縮、蒸留後、残液を溶媒で希釈し、イオン交換樹脂処理を行うことで、全体としてプラスに帯電したイリジウム化合物をイオン交換樹脂に吸着させることができる。
【0034】
一方、イオン交換樹脂として陰イオン交換樹脂を使用する場合は、濃縮後、又は濃縮、蒸留後に残液を溶媒で希釈し、アルカリ処理を施して、イリジウム化合物全体をマイナスに帯電させた後にイオン交換樹脂処理を行うことで、イオン交換樹脂にイリジウム化合物を吸着させることができる。
【0035】
上記濃縮後、又は濃縮、蒸留後の残液を希釈する溶媒としては、水性溶媒又は水溶性溶媒が好ましく、水性溶媒としては、水、又は水と水に任意の割合で可溶な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類等)との混合物が含まれる。水溶性溶媒としては、水に任意の割合で可溶な有機溶媒を使用することができ、例えば、メタノール等を使用できる。なお、希釈溶媒としてメタノールを使用する場合には、有機合成反応に使用する有機溶媒としては、例えばトルエンを使用できる。希釈溶媒として水と水に任意の割合で可溶な有機溶媒との混合物を使用する場合は、両者の割合は特に制限されず、任意の割合で使用できる。また、イオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂を使用する場合は、非水溶性の溶媒、例えば、ヘプタン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジグライム、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を使用することもできる。
【0036】
上記イオン交換樹脂処理において陰イオン交換樹脂を使用する場合のイリジウム化合物のアルカリ処理に使用する塩基としては、特に制限されず、例えば脂肪族モノアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど)、脂環式モノアミン(シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなど)、芳香族モノアミン(アニリン、トルイジン、ジフェニルアミンなど)、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの有機アミン化合物;アンモニア;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属;アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物であって水又はアルコールに溶解し塩基性を示すもの(例えば水酸化物、酸化物、水素化物、炭酸塩、アルコキシドなど)などが挙げられる。これらの中で、アルカリ金属やこれらの塩など、水溶液としたときにpHの高いものが好ましく、コスト、取り扱い性の面から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。なお、実際のアルカリ処理においては、上記塩基は通常水溶液又はアルコール溶液として使用される。具体的には、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、ナトリウムメトキシド−メタノール溶液などである。
【0037】
塩基の添加量は特に制限されないが、例えばイリジウム化合物中のイリジウムに対して1〜1000当量、好ましくは10〜100当量程度の範囲から選択することができる。
【0038】
アルカリ処理の方法としては、例えば、残液に希釈溶媒を加えた後に、塩基性水性溶液を添加することにより行うことができる。この際、塩基性水性溶液の塩基濃度は濃い方がよいが、取り扱い性を考慮して、例えば5〜15規定の範囲に調整するのがよい。
【0039】
アルカリ処理を行う際の温度は、例えば0〜150℃、好ましくは20〜80℃の範囲から選択されるが、これらに制限されない。アルカリ処理は、常圧下に行ってもよく、高圧下又は減圧下に行ってもよい。アルカリ処理時の雰囲気は特に制限されず、残液に含まれる有機合成反応により得られた生成物の性質等を考慮して、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などから選択される。
【0040】
アルカリ処理を行う際には、さらに酸化剤を存在させることにより処理効率を向上させることができる。酸化剤としては、例えば酸素、有機過酸化物、過酸化水素、酸化ハロゲン化金属、オゾン、アミン−N−オキシドなどが挙げられる。これらの中で、コスト、取り扱い性の点から酸素、過酸化水素が特に好ましい。酸化剤の使用量は、例えば過酸化水素などの溶液、液体又は固体の形態で使用するものであれば、活性イリジウム化合物由来のイリジウム化合物中のイリジウムに対して1〜100当量程度、好ましくは1〜5当量程度の範囲から選択できる。酸素やオゾンなど、雰囲気中に混合した形態(気体)で使用するものであれば雰囲気中の酸化剤の濃度は0.1%以上(例えば0.1〜40%)、好ましくは5%以上(例えば5〜40%)とするのがよい。なお、酸化剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
アルカリ処理終了後、静置することにより希釈溶媒と有機合成反応に使用した有機溶媒との混合物は、有機溶媒層(油層)と水性溶媒層又は水溶性溶媒層との2層に分離する。水性溶媒層又は水溶性溶媒層には残液に含まれていた活性イリジウム化合物由来のイリジウム化合物が、全体がマイナスに帯電した状態で抽出される。有機溶媒層には通常有機合成反応により得られた目的化合物や残存原料物質などが溶解している。例えば、有機合成反応がビニルエーテルの合成反応であれば、有機溶媒層には反応により得られたビニルエーテルや、原料として使用したビニルエステル類などが含まれる。
【0042】
イオン交換樹脂には、強酸性陽イオン交換樹脂(交換基:スルホン酸など)、弱酸性陽イオン交換樹脂(交換基:カルボン酸など)、強塩基性陰イオン交換樹脂(交換基:第4級アンモニウム、亜硫酸塩など)、弱塩基性陰イオン交換樹脂(交換基:第1級乃至第3級アミンなど)、キレート樹脂[交換基(配位基):イミノジ酢酸、アミノ酸、オキシム、アミドキシム、オキシン、グルカミン、ポリアミン、アミノリン酸、アミドオキシム、チオ尿素、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート]、その他の特殊樹脂などが含まれる。
【0043】
キレート樹脂としては、(i)配位座を構成する電子供与性元素がNとOであるもの、(ii)配位座を構成する電子供与性元素がNであるもの、(iii)配位座を構成する電子供与性元素がNとSであるもの、(iv)配位座を構成する電子供与性元素がOであるもの、(v)配位座を構成する電子供与性元素がPであるもの、(vi)配位座を構成する電子供与性元素がSであるものなどが挙げられる。前記(i)のキレート樹脂には、配位基がイミノジ酢酸、アミノ酸などのカルボキシル基とアミノ基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がオキシム、アミドキシム、オキシン、グルカミンなどのアミノ基とヒドロキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がシッフ塩基とヒドロキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がアゾ結合とヒドロキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がアゾ結合とカルボキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がアミノ基とリン酸基との組み合わせ(アミノリン酸)からなるキレート樹脂、配位基がカルボニル基とアミノ基とヒドロキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がクリプタンドであるキレート樹脂などが含まれる。(ii)のキレート樹脂には、配位基がポリアミンであるキレート樹脂、配位基がアミノ基であるキレート樹脂、配位基がシッフ塩基とアミノ基との組み合わせからなるキレート樹脂などが含まれる。(iii)のキレート樹脂には、配位基がジチオカルバミン酸などのアミノ基とチオカルボン酸基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がチオ尿素などのアミノ基とチオカルボニル基との組み合わせからなるキレート樹脂などが含まれる。(iv)のキレート樹脂には、配位基がβ−ジケトンなどのカルボニル基であるキレート樹脂、配位基がクラウンエーテルであるキレート樹脂、配位基がカルボニル基とヒドロキシル基との組み合わせからなるキレート樹脂、配位基がヒドロキシル基(糖を構成するヒドロキシル基など)であるキレート樹脂などが含まれる。(v)のキレート樹脂には、配位基がリン酸基であるキレート樹脂などが含まれる。(vi)のキレート樹脂には、配位基がチオール基であるキレート樹脂などが含まれる。なお、上記の各アミノ基には、通常の第1級乃至第3級アミノ基(無置換又は置換アミノ基)の他、ピリジン環などの含窒素芳香族性複素環を構成する窒素含有基(−N=)も含まれるものとする。
【0044】
例えば、前記(ii)のキレート樹脂には、広栄化学社製の「KEX212」のようなビニルピリジン類と他のモノマーとの共重合体も含まれる。ビニルピリジン類として、例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン、3,5−ジビニルピリジン、2,4−ジビニルピリジンなどが挙げられる。前記他のモノマーとして、例えば、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0045】
上記のイオン交換樹脂のなかでも、分離性能の点で、強酸性陽イオン交換樹脂(交換基:スルホン酸など)又は強塩基性陰イオン交換樹脂(交換基:第4級アンモニウム、亜硫酸塩など)が好ましく、特に、強酸性陽イオン交換樹脂(交換基:スルホン酸など)が好ましい。本発明においては、陰イオン交換樹脂としては、商品名「アンバーライトIRA400JCl」、「アンバーライトIRA458RFCl」、「アンバーライトIRA910CTCl」(米国ローム&ハース社製)等、陽イオン交換樹脂としては、商品名「アンバーリスト15Jwet」、「アンバーリスト46」、「アンバーライトIRC747」(米国ローム&ハース社製)等の市販品を好適に使用することができ、なかでも商品名「アンバーリスト15Jwet」(米国ローム&ハース社製)が特に好ましい。
【0046】
イオン交換樹脂は、使用する前に前処理を行うことで、吸着効率を向上させることができる。前処理としては、陽イオン交換樹脂を使用する場合は、例えば塩酸等で酸性に調整した水溶液で洗浄することにより行うことができ、陰イオン交換樹脂を使用する場合は、アルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)で洗浄することにより行うことができる。前処理を施すことは、イオン交換樹脂の官能基を活性化し、吸着効率を向上させることができる点で好ましい。
【0047】
イオン交換樹脂処理は、イオン交換樹脂を充填した容器(イオン交換樹脂処理槽)に被処理液を供給することにより行うことができる。前記イオン交換樹脂処理槽は塔型であってもよい。また、処理方式は、固定床方式、流動床方式等の何れであってもよい。処理温度は、例えば0〜100℃程度である。イオン交換樹脂処理はバッチ式、又は、連続式の何れで行うこともできる。
【0048】
また、イオン交換樹脂処理を連続式で行う場合、イオン交換樹脂処理槽を複数個(2基又は3基以上)直列に接続することにより処理効率を高めることができる。更にまた、イオン交換樹脂を通過した液は、必要に応じて、回収率をより高めるため、繰り返しイオン交換樹脂処理に付すこともできる。
【0049】
吸着成分を脱着してイオン交換樹脂を再生させるために用いる脱着溶媒としては、水溶性の溶媒を使用することができ、吸着成分やイオン交換樹脂の種類等に応じて適当に選択できる。例えば、陽イオン交換樹脂を使用した場合は、水溶液有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール;アセトンなどのケトン;アセトニトリルなどのニトリル;テトラヒドロフランなどのエーテル;酢酸などの有機酸;トリエチルアミンなどのアミン;ピリジンなどの含窒素芳香族複素環化合物等、特にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール)が好ましく、なかでも酸水溶液(希塩酸など)で酸性に調整したメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが特に好ましい。一方、陰イオン交換樹脂を使用した場合はアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など)を使用することができる。
【0050】
脱着方法としては、イリジウム化合物が吸着したイオン交換樹脂を脱着溶媒に浸漬することにより行うことができ、例えば、イオン交換樹脂をカラムに充填して使用する場合は、カラムの逆側から脱着溶媒を通過させればよい。脱着溶媒がカラムを通過する際の空間速度(SV:space velocity)としては、例えば、SV=0.1〜5.0程度である。脱着溶媒を通過させる際のカラム温度としては、例えば、20〜80℃程度である。
【0051】
上記還元剤とイリジウム化合物とを反応させるイリジウム化合物再活性化処理方法としては、イリジウム化合物を含有する混合物に、上記還元剤を加えて反応させることにより行うことができる。イリジウム化合物再活性化処理を行う際の温度としては、高温で処理することが好ましく、60〜200℃程度(75〜150℃程度が好ましく、100〜150℃がより好ましい)程度である。イリジウム化合物再活性化処理を行う際の温度が60℃を下回ると、還元反応が起こりにくく、イリジウム化合物の再活性化が困難となる場合がある。一方、イリジウム化合物再活性化処理を行う際の温度が200℃を上回ると、イリジウム化合物が分解、変質し、触媒活性を喪失する場合がある。
【0052】
上記還元剤とイリジウム化合物の反応の雰囲気としては、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などから選択される。活性イリジウム化合物が分解、変性してなるイリジウム化合物は、非常に空気中の酸素と反応して酸化されやすく、還元剤による還元反応を阻害する傾向があるからである。
【0053】
更に、上記還元剤とイリジウム化合物との反応には、配位子を添加することが好ましい。添加する配位子としては、1,5−シクロオクタジエン、シクロオクテン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、シクロペンタジエン、ジケトン系化合物、カルボン酸が好ましく、なかでも、1,5−シクロオクタジエン、シクロオクテン等がより好ましい。配位子の添加量としては、必要に応じて適宜調整することができ、例えば、イリジウム化合物中のイリジウムに対して、1〜100当量程度、好ましくは4〜20当量程度である。配位子の添加量が、イリジウム化合物中のイリジウムに対して1量を下回ると、イリジウム化合物の再生に要する配位子が不足することにより、イリジウム化合物の再生が阻害される傾向がある。一方、配位子の添加量が、イリジウム化合物中のイリジウムに対して100当量を上回ると、配位子が過剰となり、不経済であるため好ましくない。
【0054】
上記還元剤とイリジウム化合物の反応時間としては、必要に応じて適宜調整することができ、例えば、10〜180分程度、好ましくは10〜60分程度である。
【0055】
上記方法により再活性化されたイリジウム化合物(再生イリジウム化合物)は、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の分離手段に付すことにより単離することができる。単離された再生イリジウム化合物は、空気との接触を避けて保存することが好ましい。空気と接触することにより、酸化されて、再び触媒活性が低下する傾向があるからである。
【0056】
本発明に係るイリジウム化合物の再生方法によれば、触媒活性が低下、又は、喪失したイリジウム化合物を、特別な装置を必要とせず、容易に、且つ、効率的に再活性化することができる。本発明に係るイリジウム化合物の再生方法により得られた再生イリジウム化合物は、活性イリジウム化合物とほぼ同等に有機合成反応を促進することができ、目的とする有機化合物を高収率で得ることができる。また、高価なイリジウムを廃液中から回収、再生して再利用することにより、有機合成に要するコストを著しく削減することができ、有機合成反応により得られた有用な有機化合物を安価に提供することができる。
【0057】
[再生イリジウム化合物の使用方法、及び、再生イリジウム化合物を使用した有機化合物の製造方法]
上記本発明に係るイリジウム化合物の再生方法により再活性化されたイリジウム化合物(再生イリジウム化合物)は、空気との接触を避けるため、例えば、溶媒に溶解して窒素雰囲気下で保存することが好ましい。上記溶媒としては、有機合成反応に使用することができる溶媒であることが好ましく、例えば、トルエン、p−キシレン等の炭化水素系溶媒;ジグライム、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。再生イリジウム化合物の触媒としての使用方法としては、イリジウム化合物の前身である活性イリジウム化合物と同様の方法で使用することができ、例えば、上記溶媒に溶解した再生イリジウム化合物を有機合成反応系に連続的又は間欠的に供給しながら反応を行うことができる。
【0058】
本発明に係るイリジウム化合物の再生方法により再活性化されたイリジウム化合物(再生イリジウム化合物)は、有機合成反応の反応速度、反応効率を高めるための触媒として使用することができ、例えば、ヒドロキシ化合物とビニルエステル化合物とを反応させてビニルエーテル誘導体を合成するビニルエーテル誘導体の製造、アリルエーテル誘導体の製造、アルコールの二量化による長鎖アルコールの製造等に好適に使用することができる。
【0059】
上記再生イリジウム化合物は、イリジウム化合物の前身であり触媒活性を有する活性イリジウム化合物と比べて、ほぼ同等の触媒活性を有し、有機合成反応の反応速度を著しく促進することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
反応例1
窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジオール300g(2.6モル)、炭酸ナトリウム410g(3.9モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、[Ir(cod)Cl]217.4g(26.0ミリモル、Ir含有量:9.96g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルが349g(2.1モル)、1,4−シクロヘキサンジオールモノビニルエーテルが18g(0.13モル)が生成していた。また、有機層には、ICP発光分析によってIr含有量を測定すると、9.93g(51.7ミリモル)のIrが含有していた。
【0062】
得られた反応液(分液後の有機層)を、50℃、10トル(1.33kPa)で留出液がなくなるまで濃縮し、濃縮液1(液量470g)を得た。200rpmでワイパーを回転させたガラス製の薄膜蒸発器(内容量500mL)に150℃に加熱したオイルを循環し、250kPaまで減圧したところに、濃縮液1を空間速度(SV)1で通過させて、留出液1と濃縮液2(101g)を得た。留出液1をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルが335g(2.02モル)、1,4−シクロヘキサンジオールモノビニルエーテルが17g(0.12モル)含まれていた。また、Ir含有量をICP発光分析によって分析したが、Irは検出限界以下であった。濃縮液2には、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルが3.5g(20ミリモル)、Irが9.93g(51.7ミリモル)含有していた。
【0063】
陽イオン交換樹脂(商品名「アンバーリスト15Jwet」、米国ローム&ハース社製)を3倍量の1N塩酸中に浸漬し、その後、pHが中性になるまで水で洗浄し、メタノール中に浸漬して前処理を施した。
【0064】
得られた濃縮液2をIr濃度が5000ppmになるようにメタノールで希釈し、1986gのメタノール溶液を調製した。得られたメタノール溶液に前処理を施した樹脂993gを投入し、50℃まで昇温した。昇温後12時間保持し、その後、樹脂とろ液をろ別した。ろ別した樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液をろ液と合一し、Ir含有量を分析すると、0.79g(4.11ミリモル)であり、Irが92%吸着していた。洗浄後の樹脂をフラスコに移し、脱着溶媒(10重量%塩酸−メタノール溶液)を添加し、50℃まで昇温した。昇温後、6時間保持した。その後、樹脂と脱着溶媒とをろ別し、脱着済みの樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液を脱着溶媒と合一し、イリジウム含有液1を得た。得られたイリジウム含有液1をICP発光分析によってIr含有量を分析すると、Ir量が9.04g(47.0ミリモル)であった。Irの脱着率は99%であり、回収率は91%であった。
【0065】
得られたイリジウム含有液1を40℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、得られた残渣をX線光電子分光器(XPS)により分析したところ、ピークトップは62.5eVに位置した。これは、標準溶液IrCl3、IrO2・2H2Oのピークトップ(62.5eV)とほぼ重なり合うことから、イリジウム含有液1中のIrのイオン価数は3価或いは4価であることが示唆された。
【0066】
実施例1
反応例1で得られたイリジウム含有液1を40℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、残渣にシクロヘキサノール723.2g、及び、1,5−シクロオクタジエン180.8gを加え、窒素雰囲気下、135℃で0.5時間反応させた。その後、反応液を70℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、固体1を得た。得られた固体1をトルエン200gに溶解して窒素雰囲気下で保存した。
【0067】
固体1をX線光電子分光器(XPS)により分析したところ、ピークトップは61.0eVに位置した。これは、標準溶液[Ir(cod)Cl]2のピークトップ(61.0eV)とほぼ重なり合うことから、イリジウム含有液1中のIrのイオン価数は1価であることが示唆された。
【0068】
反応例1と同様に、窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジオール273.2g(2.4モル)、炭酸ナトリウム373.1g(3.5モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、固体1のトルエン溶液(Ir含有量:9.04g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルが257g(1.5モル)、1,4−シクロヘキサンジオールモノビニルエーテルが47g(0.3モル)が生成していた。
【0069】
反応例2
窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、フェノール489g(5.2モル)、炭酸ナトリウム410g(3.9モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、[Ir(cod)Cl]217.4g(26.0ミリモル、Ir含有量:9.96g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、フェニルビニルエーテルが601g(5モル)が生成していた。また、有機層には、ICP発光分析によってIr含有量を測定すると、9.93g(51.7ミリモル)のIrが含有していた。
【0070】
得られた反応液(分液後の有機層)を、50℃、20トル(2.66kPa)で留出液がなくなるまで濃縮し、濃縮液3(液量720g)を得た。200rpmでワイパーを回転させたガラス製の薄膜蒸発器(内容量500mL)に150℃に加熱したオイルを循環し、250kPaまで減圧したところに、濃縮液3を空間速度(SV)1で通過させて、留出液2と濃縮液4(120g)を得た。留出液2をガスクロマトグラフィーで分析すると、フェニルビニルエーテルが595g(4.95モル)含まれていた。また、Ir含有量をICP発光分析によって分析したが、Irは検出限界以下であった。濃縮液4には、フェニルビニルエーテルが2.5g(21ミリモル)、Irが9.93g(51.7ミリモル)含有していた。
【0071】
陽イオン交換樹脂(商品名「アンバーリスト15Jwet」、米国ローム&ハース社製)を3倍量の1N塩酸中に浸漬し、その後、pHが中性になるまで水で洗浄し、メタノール中に浸漬して前処理を施した。
【0072】
得られた濃縮液4をIr濃度が5000ppmになるようにメタノールで希釈し、1986gのメタノール溶液を調製した。得られたメタノール溶液に前処理を施した樹脂993gを投入し、50℃まで昇温した。昇温後12時間保持し、その後、樹脂とろ液をろ別した。ろ別した樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液をろ液と合一し、Ir含有量を分析すると、0.50mg(2.58ミリモル)であり、Irが95%吸着していた。洗浄後の樹脂をフラスコに移し、脱着溶媒(10重量%塩酸−メタノール溶液)を添加し、50℃まで昇温した。昇温後、6時間保持した。その後、樹脂と脱着溶媒とをろ別し、脱着済みの樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液を脱着溶媒と合一し、イリジウム含有液2を得た。得られたイリジウム含有液2をICP発光分析によってIr含有量を分析すると、Ir量が9.33g(48.5ミリモル)であった。Irの脱着率は99%であり、回収率は94%であった。
【0073】
実施例2
反応例2で得られたイリジウム含有液2を10℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、残渣にシクロヘキサノール746.4g、及び、1,5−シクロオクタジエン186.6gを加え、窒素雰囲気下、135℃で0.5時間反応させた。その後、反応液を70℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、固体2を得た。得られた固体2をトルエン200gに溶解して窒素雰囲気下で保存した。
【0074】
反応例2と同様に、窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、フェノール458.0g(4.8モル)、炭酸ナトリウム384g(3.6モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、固体2のトルエン溶液(Ir含有量:9.33g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、フェニルビニルエーテルが484g(4.0モル)が生成していた。
【0075】
反応例3
窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジメタノール375g(2.6モル)、炭酸ナトリウム410g(3.9モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、[Ir(cod)Cl]217.4g(26.0ミリモル、Ir含有量:9.96g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが451g(2.3モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルが17g(0.1モル)生成していた。また、有機層には、ICP発光分析によってIr含有量を測定すると、9.93g(51.7ミリモル)のIrが含有していた。
【0076】
得られた反応液(分液後の有機層)を、50℃、10トル(1.33kPa)で留出液がなくなるまで濃縮し、濃縮液5(液量570g)を得た。200rpmでワイパーを回転させたガラス製の薄膜蒸発器(内容量500mL)に150℃に加熱したオイルを循環し、250kPaまで減圧したところに、濃縮液5を空間速度(SV)1で通過させて、留出液3と濃縮液6(115g)を得た。留出液3をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが432g(2.2モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルが17g(0.1モル)含まれていた。また、Ir含有量をICP発光分析によって分析したが、Irは検出限界以下であった。濃縮液6には、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが12g(60ミリモル)、Irが9.93g(51.7ミリモル)含有していた。
【0077】
陽イオン交換樹脂(商品名「アンバーリスト15Jwet」、米国ローム&ハース社製)を3倍量の1N塩酸中に浸漬し、その後、pHが中性になるまで水で洗浄し、メタノール中に浸漬して前処理を施した。
【0078】
得られた濃縮液6をIr濃度が5000ppmになるようにメタノールで希釈し、1986gのメタノール溶液を調製した。得られたメタノール溶液に前処理を施した樹脂993gを投入し、50℃まで昇温した。昇温後12時間保持し、その後、樹脂とろ液をろ別した。ろ別した樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液をろ液と合一し、Ir含有量を分析すると、0.99g(5.17ミリモル)であり、Irが90%吸着していた。洗浄後の樹脂をフラスコに移し、脱着溶媒(10重量%塩酸−メタノール溶液)を添加し、50℃まで昇温した。昇温後、6時間保持した。その後、樹脂と脱着溶媒とをろ別し、脱着済みの樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液を脱着溶媒と合一し、イリジウム含有液3を得た。得られたイリジウム含有液3をICP発光分析によってIr含有量を分析すると、Ir量が8.73g(45.4ミリモル)であった。Irの脱着率は98%であり、回収率は88%であった。
【0079】
実施例3
反応例3で得られたイリジウム含有液3を40℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、残渣にシクロヘキサノール698.3g、及び、1,5−シクロオクタジエン174.5gを加え、窒素雰囲気下、135℃で0.5時間反応させた。その後、反応液を70℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、固体3を得た。得られた固体3をトルエン200gに溶解して窒素雰囲気下で保存した。
【0080】
反応例3と同様に、窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジメタノール328.6g(2.2モル)、炭酸ナトリウム359g(3.4モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、固体3のトルエン溶液(Ir含有量:9.33g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが304.4g(1.5モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルが79.2g(0.4モル)が生成していた。
【0081】
反応例4
窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール375g(2.6モル)、炭酸ナトリウム410g(3.9モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、[Ir(cod)Cl]217.4g(26.0ミリモル、Ir含有量:9.96g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールジビニルエーテルが451g(2.3モル)、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールモノビニルエーテルが17g(0.1モル)生成していた。また、有機層には、ICP発光分析によってIr含有量を測定すると、9.93g(51.7ミリモル)のIrが含有していた。
【0082】
得られた反応液(分液後の有機層)を、50℃、10トル(1.33kPa)で留出液がなくなるまで濃縮し、濃縮液7(液量568g)を得た。200rpmでワイパーを回転させたガラス製の薄膜蒸発器(内容量500mL)に150℃に加熱したオイルを循環し、250kPaまで減圧したところに、濃縮液7を空間速度(SV)1で通過させて、留出液4と濃縮液8(113g)を得た。留出液4をガスクロマトグラフィーで分析すると、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールジビニルエーテルが431g(2.2モル)、シクロヘキサン−1−メチルビニルエーテル−4−メタノールが17g(0.1モル)含まれていた。また、Ir含有量をICP発光分析によって分析したが、Irは検出限界以下であった。濃縮液8には、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールモノビニルエーテルが12g(60ミリモル)、Irが9.93g(51.7ミリモル)含有していた。
【0083】
陽イオン交換樹脂(商品名「アンバーリスト15Jwet」、米国ローム&ハース社製)を3倍量の1N塩酸中に浸漬し、その後、pHが中性になるまで水で洗浄し、メタノール中に浸漬して前処理を施した。
【0084】
得られた濃縮液8をIr濃度が5000ppmになるようにメタノールで希釈し、1986gのメタノール溶液を調製した。得られたメタノール溶液に前処理を施した樹脂993gを投入し、50℃まで昇温した。昇温後12時間保持し、その後、樹脂とろ液をろ別した。ろ別した樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液をろ液と合一し、Ir含有量を分析すると、1.09mg(5.68ミリモル)であり、Irが89%吸着していた。洗浄後の樹脂をフラスコに移し、脱着溶媒(10重量%塩酸−メタノール溶液)を添加し、50℃まで昇温した。昇温後、6時間保持した。その後、樹脂と脱着溶媒とをろ別し、脱着済みの樹脂を100gのメタノールで3回洗浄した。洗浄液を脱着溶媒と合一し、イリジウム含有液4を得た。得られたイリジウム含有液4をICP発光分析によってIr含有量を分析すると、Ir量が8.57g(44.6ミリモル)であった。Irの脱着率は97%であり、回収率は86%であった。
【0085】
実施例4
反応例4で得られたイリジウム含有液4を40℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、残渣にシクロヘキサノール600.5g、及び、1,5−シクロオクタジエン150.0gを加え、窒素雰囲気下、135℃で0.5時間反応させた。その後、反応液を70℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、固体4を得た。得られた固体4をトルエン200gに溶解して窒素雰囲気下で保存した。
【0086】
反応例4と同様に、窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール322.5g(2.2モル)、炭酸ナトリウム352.6g(3.3モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、固体4のトルエン溶液(Ir含有量:8.57g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールジビニルエーテルが275.3g(1.3モル)、5−ヒドロキシメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オールモノビニルエーテルが83.1g(0.5モル)が生成していた。
【0087】
実施例5
反応例3で得られた濃縮液6にシクロヘキサノール698.3g、及び、1,5−シクロオクタジエン174.5gを加え、窒素雰囲気下、135℃で0.5時間反応させた。その後、反応液を70℃、1トル(133Pa)で留出液がなくなるまで濃縮し、固体5を得た。得られた固体5をトルエン200gに溶解して窒素雰囲気下で保存した。
【0088】
反応例3と同様に、窒素雰囲気下、3Lの4つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジメタノール328.6g(2.2モル)、炭酸ナトリウム359.0g(3.4モル)、トルエン1500gを仕込み、デカンターを取り付け、昇温を開始した。液温が95℃に到達した時点で酢酸ビニルを還流状態となるまで添加した。その後、固体5のトルエン溶液(Ir含有量:9.93g)を添加し、酢酸ビニルを加えながら還流状態で95℃を維持し、5時間加熱攪拌を行った。その後、40℃まで冷却し、水を1500g加えて有機層と水層とを分液させた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析すると、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルが243.5g(1.2モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルが67.3g(0.34モル)生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機合成反応に触媒として使用することにより活性が低下、又は喪失したイリジウム化合物を、該イリジウム化合物中の3価又は4価のイリジウムを還元剤を使用して低イオン価化することにより再活性化するイリジウム化合物の再生方法。
【請求項2】
還元剤としてアルコールを使用する請求項1に記載のイリジウム化合物の再生方法。
【請求項3】
不活性ガス雰囲気下で再活性化を行う請求項1又は2に記載のイリジウム化合物の再生方法。
【請求項4】
60〜200℃で再活性化を行う請求項1〜3の何れかの項に記載のイリジウム化合物の再生方法。
【請求項5】
配位子の存在下で再活性化を行う請求項1〜4の何れかの項に記載のイリジウム化合物の再生方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のイリジウム化合物の再生方法により再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用する再生イリジウム化合物の使用方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載のイリジウム化合物の再生方法により再活性化したイリジウム化合物を触媒として使用して有機化合物を製造する有機化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−101326(P2009−101326A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277650(P2007−277650)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】