説明

インクジェットヘッド、および、その製造方法

【課題】ノズルプレートと圧電基板との間に線膨脹係数が圧電基板に等しい材料からなる緩衝部材を設け、インク吐出性能に優れた、簡易な構成のインクジェットヘッドの提供を図る。
【解決手段】インクジェットヘッドは、圧電基板31とノズルプレート10とスペーサ20とを備える。圧電基板31には、チャンネル溝32を主面に形成している。ノズルプレート10には、圧電基板31のインク吐出面に配されてチャンネル溝32の一端に対向するノズル孔11を形成している。圧電基板31とノズルプレート10との間にはスペーサ10を配する。スペーサ10は、圧電基板31との線膨脹係数の差が、ノズルプレート10と圧電基板31との線膨脹係数の差よりも小さいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板に設けたチャンネル溝の先端に配したノズルプレートのノズル孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドに関する。また、そのインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェットヘッドは、インクジェットプリンタ等に用いられて液滴吐出装置を構成する。このようなインクジェットヘッドは、ノズルプレート、ヘッドチップ、ヘッドベース、などの部材を接合して構成される。
【0003】
ノズルプレートは樹脂もしくは金属のプレート材からなる。ノズルプレートにはノズル孔が複数形成される。複数のノズル孔のそれぞれは、インク滴を吐出する微小な孔である。複数のノズル孔は1次元的に、または、2次元的に配列される。複数のノズル孔のうち任意に選択された単一または複数のノズル孔からは、それぞれ任意のドロップ数のインク滴が吐出される。
【0004】
ヘッドチップは圧電基板などのアクチュエータ部材を含んで構成される。例えばアクチュエータ部材が圧電基板の場合、その主面にインクの流路となる複数のチャンネル溝が平行して刻設される。各チャンネル溝に挟まれるチャンネル壁は、その両側に駆動電極が設けられる。駆動電極に所定の電圧が印加されることで各チャンネル壁は変形する。各チャンネル溝の容積はチャンネル壁の変形により変化する。この容積変化により、チャンネル溝内のインクはノズル孔から吐出される。
【0005】
ヘッドベースは駆動回路を備え、駆動電極に印加する電圧を出力する。また、ヘッドチップを支持する。
【0006】
このようなインクジェットヘッドを構成する各部材の材質は互いに異なり、各部材の線膨脹係数は相違する。このため、環境温度の変化、特に製造工程での加熱により各部材に熱変形が生じる。このような熱変形は、インクジェットヘッドにとっての様々な問題を引き起こす要因となる。
【0007】
例えば、インクジェットヘッドが吐出するインクが溶剤系インクである場合には、以下の問題が生じる。インクジェットヘッドの各部材の接合には、溶剤に溶解しにくい接着剤を用いる必要がある。そこで、このような用途の接着剤としてエポキシ系接着剤が用いられる。エポキシ系接着剤のような硬度が極めて高い接着剤を圧電基板に接着すると、圧電基板と他の部材との線膨張係数の差に起因して、接着剤に熱応力が生じる。この熱応力が圧電基板に直接作用して、圧電基板には大きな歪みが生じる。この圧電基板の歪みにより、例えば、圧電基板に割れが発生して製品不良が生じる。
【0008】
また例えば、インクジェットヘッドが吐出するインクが水性インクである場合には、以下の問題が生じる。金属膜である駆動電極とインクとが接触していると、駆動電極に印加する電圧によってインク中に電流が流れる。この電流は駆動電極の電解腐食を引き起こす。そこで、一般に駆動電極とインクとの接触を避けるために、インク室の内面、及びノズルプレートとの接着面にポリパラキシリレン膜(以下、パリレン膜と称する。)などの有機絶縁膜が形成される。しかしながら有機絶縁膜と圧電基板との密着力がさほど強くないため、各部材の熱変形により、有機絶縁膜の剥れが発生する。
【0009】
そこで、圧電基板の変形を抑制するために、ヘッドチップ外周にノズルプレートを支持するズル支持プレートを設けたインクジェットヘッドが用いられる(例えば、特許文献1参照。)。ノズルプレートは圧電基板に接着剤等で直接接合される。また、ノズル支持プレートは、圧電基板と線膨張係数が略同等の部材で形成されたスペーサを介して圧電基板に接着剤等で接合される。
【0010】
また例えば、ノズルプレートとしては、ノズル孔のレーザ加工容易性などから、ポリイミドなどの樹脂材料を用いることが一般的であるが、この場合には以下の問題が生じる。
【0011】
たとえば、ポリイミドの線膨張係数は、10×10−6〜20×10−6(1/℃)である。環境温度を60℃と設定した場合、圧電基板とノズルプレートの長さを50mmとすると、およそ50μm程度の変形量の差が発生する。ノズルプレートを厚くして、剛性を上げることで熱変形を抑制することも可能であるが、その場合、ノズルプレートにレーザ加工するノズル孔を、サブミクロン程度の精度で形状を制御しながら成形することが困難になる。レーザ加工により良好なノズル孔形状を形成するためには、ノズルプレートの厚みは50μm以下であることが望ましい。しかし、この場合、ノズルプレートの圧電基板を接着した端部がカールしてしまう。更には、ノズル孔とインク流路断面との中心位置がずれ、高精度なアライメントが困難になり、インクジェットヘッドの歩留まりが著しく低下する。
【0012】
そこで、ノズルプレートの変形を抑制するために、ノズルプレートのノズル吐出面側に、ノズルプレートの形状を維持する剛性部材を設けることがある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−182080号公報
【特許文献2】特開2002−52717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来技術では以下のような課題が発生する。
【0014】
特許文献1の技術では、インクジェットヘッドの製造プロセスにおいて、圧電基板とノズル支持プレートとを接着する工程の後工程で、圧電基板にノズルプレートを接着する。この工程に用いる接着剤としては、耐インク性の観点から、高硬度の接着剤が用いられる。この場合、ノズルプレートは、圧電基板とノズル支持プレートとの両方に接着される。そのためノズルプレートに大きな熱変形が生じる。更には、ノズル孔とインク流路断面との中心位置がずれる。
【0015】
具体的には、通常、圧電基板としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられるが、PZTの線膨張係数は4×10−6〜9×10−6(1/℃)である。これに対し、ノズル支持プレートは、線膨張係数が略24×10−6(1/℃)のアルミニウムで形成される。ここで、環境温度が60℃の場合、圧電基板とノズル支持プレートの長さを50mmとすると、熱膨張や収縮による圧電基板とノズル支持プレートとの変形量の差は100μm程度である。そのため、これら部材にわたり接着されたノズルプレートには、大きな熱応力がかかる。その結果、ノズルプレートは大きく変形し、最悪の場合、ノズルプレートが破壊される。
【0016】
そこで、ノズルプレートの変形を抑制するために特許文献2の技術を採用することが考えられる。
【0017】
特許文献2の技術では、ノズルプレートの変形を抑制するために剛性部材として金属プレートを用いることが望ましい。ノズルプレートのノズル孔と金属プレートの孔とを高精度にアライメントするには、金属プレートにノズルプレートのノズル孔と同程度に高精度な孔加工を行う必要がある。樹脂プレートであるノズルプレートは、エキシマレーザによるアブレーション加工が可能であるが、金属プレートには、アブレーション加工では金属材料の溶解が起こり、所望の精度を実現できない。したがって金属プレートにはその他の孔加工手段、例えばCOレーザ、切削加工などを行う必要がある。しかしながらアブレーション加工以外の加工方法では、樹脂材料へのエキシマレーザによる加工精度に到達しない。なお、金属プレートの孔の寸法をノズルプレートのノズル孔よりも大きくすればアライメントが楽になるが、その場合、金属プレートの孔とノズルプレートのノズル孔の間の段差にインクの凝集物などが発生し、ヘッドの吐出性能を著しく悪化させてしまう虞がある。さらには、インクジェトヘッドの部品点数が多くなり、インクジェットヘッドの製造コストが増大する。また、インクジェットヘッドの重量が増加してしまうため、インクジェットヘッドの位置制御が困難になる。
【0018】
本発明の目的は、ノズルプレートと圧電基板との間に線膨脹係数が圧電基板に等しい材料からなる緩衝部材を設け、インク吐出性能に優れた、簡易な構成のインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明にかかるインクジェットヘッドは、圧電基板とノズルプレートと緩衝部材とを備える。圧電基板には、チャンネル溝を主面に形成している。ノズルプレートには、圧電基板のインク吐出面に配されてチャンネル溝の一端に対向するノズル孔を形成している。圧電基板とノズルプレートとの間には緩衝部材を配する。緩衝部材は、圧電基板との線膨脹係数の差が、ノズルプレートと圧電基板との線膨脹係数の差よりも小さいものである。
【0020】
この構成では、圧電基板と緩衝部材との間に、線膨脹係数の相違に起因する熱変形が生じる。しかしながら、この圧電基板と緩衝部材との線膨脹係数の相違は、ノズルプレートと圧電基板との間の線膨脹係数の相違よりも小さい。したがって、圧電基板に生じる熱変形は低減したものとなる。これにより、インクジェットヘッドにおけるインク吐出の着弾精度が高まる。
【0021】
この緩衝部材は、ノズルプレートとの線膨脹係数の差が、ノズルプレートの線膨脹係数と圧電基板の線膨脹係数の差よりも小さいものであってもよい。
【0022】
この構成では、ノズルプレートと緩衝部材との間に、線膨脹係数の相違に起因する熱変形が生じる。しかしながら、このノズルプレートと緩衝部材との線膨脹係数の相違は、ノズルプレートと圧電基板との間の線膨脹係数の相違よりも小さい。したがって、ノズルプレートに生じる熱変形は低減したものとなる。
【0023】
このように、従来に比べ、ノズルプレートの熱変形が低減する。また、ノズルプレートの外面の剛性部材が必ずしも必要でないので、ノズルプレートのノズル孔付近の外面に段差が生じることが無く、段差にインクの凝集物などが発生する虞が無い。
【0024】
また、圧電基板は、インクによる浸食を防ぐ保護膜をチャンネル溝に備えてもよい。このように圧電基板を構成すれば、インクジェットヘッドの圧電基板がインクに対して長寿命化する。
【0025】
また、緩衝部材は、圧電基板およびノズルプレートとは別体に設けたスペーサとしてもよい。このように緩衝部材を構成することで、スペーサの板厚を任意に設定することが可能になる。板厚を厚くすることでスペーサの剛性が高まり、ノズルプレートの変形を抑制できる。また、板厚を薄くすることでスペーサを軽量化でき、インクジェットヘッド全体の重量を低減できる。
【0026】
また、スペーサは、インクによる浸食を防ぐ保護膜を圧電基板との対向面側に備えてもよい。このようにスペーサを構成すれば、インクジェットヘッドのスペーサがインクに対して長寿命化する。
【0027】
また、スペーサは透光性を有する素材としてもよい。このようにスペーサを構成することで、このスペーサをノズルプレートや圧電基板に貼り合わせた後で、貼り合わせ面に気泡やダストなどの噛みこみがないか顕微鏡にてチェックすることが可能になる。
【0028】
また、スペーサはアルミナまたは石英を主成分としてもよい。このようにスペーサを構成することで、スペーサの線膨脹係数を適切にし、透光性を備えさせることが容易になる。
【0029】
また、スペーサとノズルプレートとを接着する第1の接着剤と、スペーサと圧電基板とを接着する第2の接着剤と、を備えてもよい。これら接着剤を、インクに対して難溶性を有する接着剤とすれば、インク室においてインクにかかる圧力波の状態がスペーサ部分でも維持され、インクジェットヘッドにおけるインク吐出の着弾精度を高く維持できる。また、接着剤がインクに対して長寿命化する。この接着剤としてはエポキシ系接着剤が好適である。
【0030】
また、第1の接着剤の硬化後の硬度を第2の接着剤の硬化後の硬度より小さいものとしてもよい。このようにすれば、スペーサとノズルプレート間の線膨張係数による変形を吸収することが可能になる。この第2の接着剤としてはシリコン架橋型フッ素系接着剤が好適である。
【0031】
また、緩衝部材をノズルプレートまたは圧電基板に成膜された緩衝膜としてもよい。このような緩衝膜を用いれば、ノズルプレートの変形を抑制しながら、インクジェットヘッドの重量を低減できる。また、緩衝膜を真空蒸着により形成すれば、他の下地処理と同じ工程により、緩衝部材を設けることになり、製造工程の簡易化にもなる。また、このような緩衝膜は、孔形成が容易である。また、このような緩衝膜の主成分を石英とすれば、スペーサの線膨脹係数を適切にすることが容易になる。
【0032】
また、緩衝膜の膜厚によっては、この緩衝膜に設ける孔をレーザ加工により成形することが困難になり、メタルマスク処理等のレーザ加工以外による成形が必要になる。そこで、インクジェットヘッドの製造工程において、ノズルプレートの圧電基板との対向面側に、ノズル孔の形成位置を被覆するマスクパターンを形成し、次にノズルプレートの圧電基板との接合面側に、ノズルプレートの線膨脹係数と圧電基板の線膨脹係数の差よりも、圧電基板の線膨脹係数との差、および、ノズルプレートの線膨脹係数との差が小さい線膨脹係数の緩衝膜を成膜し、次に、ノズルプレートのマスクパターンを除去し、その後ノズルプレートにノズル孔をレーザ成形するようにすれば、緩衝膜の膜厚が厚くても容易に成膜でき、ノズルプレートと圧電基板との線膨張係数の違いに起因する応力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、各部材の線膨張係数の違いに起因する、ノズルプレートの変形、及び、圧電基板の変形を低減できる。また、接着剤硬化時や環境温度の変化における、ノズル孔とインク流路断面との中心位置のずれや、ノズル孔と緩衝部材の孔との中心位置のずれを低減できる。また、インクジェットヘッドの重量を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0035】
本実施形態のインクジェットヘッドは、インクジェットプリンタに用いられる。このインクジェットヘッドは、複数のノズル孔のうち任意に選択したものから、それぞれ任意のドロップ数でインク滴を吐出する。
【0036】
図1にインクジェットヘッドの部分分解斜視図を示す。インクジェットヘッドの同図手前側は正面であり、同図奥側は背面であり、同図左側は左側面である。同図には左側面から4つ目までのインク室を図示していて、同図右側はインクジェットヘッドの断面である。
【0037】
インクジェットヘッドは、ヘッドチップ30と、ヘッドチップ30の正面側に配置するスペーサ20と、スペーサ20の正面側に配置するノズルプレート10と、ヘッドチップ30の底面側に貼り合わせる図示していないヘッドベースと、から構成する。ここでは、スペーサ20とノズルプレート10を接着するための接着剤と、スペーサ20と圧電基板31を接着するための接着剤として、耐薬品性の観点から、両者とも高硬度の接着剤(エポキシ系、硬化時の硬度60〜80)を用いる。
【0038】
ノズルプレート10は正面−背面方向に薄肉の樹脂プレート材(ポリイミドシート:宇部興産製、ユーピレックス)である。ノズルプレート10には複数のノズル孔11を形成している。複数のノズル孔11のそれぞれは、インク滴を吐出する微小な孔である。複数のノズル孔11は直線状に配列している。
【0039】
スペーサ20は、正面−背面方向に薄肉のセラミックプレート材(主成分:アルミナAl)である。このスペーサ20の板厚は20μmである。スペーサ20には複数のスペーサ孔21を形成している。複数のスペーサ孔21のそれぞれは、ノズルプレート10のノズル孔11と同軸になるように直線状に配列している。なお、セラミックプレート材として、透光性のあるものを用いることができる。これは、スペーサ20およびノズルプレート10の貼り合わせの後に、スペーサ20とヘッドチップ30との間、およびノズルプレート10とスペーサ20との間に気泡やダストなどの噛みこみがないか顕微鏡にてチェックするためである。
【0040】
ヘッドチップ30は圧電基板31とカバー部材37とを含む。圧電基板31とカバー部材37とはそれぞれ、上面−底面方向に薄肉の部材である。圧電基板31は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする。圧電基板31の正面から背面にかけてチャンネル溝32を複数本平行に形成している。このチャンネル溝32は、板厚方向に分極させた圧電材料ウェハの上面にダイサーを当て、ダイシングブレード厚み方向の途中まで切り込んだ状態で走行させることにより形成したものである。本実施形態では、ヘッドチップ30の正面から背面にかけての寸法を12mm、圧電材料のウェハ厚みを1mm、左側面から右側面にかけての寸法を6mm、チャンネル溝32の深さを300μm、チャンネル溝32の幅を80μmとしている。チャンネル溝32は、その断面中心がノズル孔11の中心軸と一致するように直線状に配列している。チャンネル溝32同士の間に形成される隔壁がチャンネル壁33となる。
【0041】
この圧電基板31に、カバー部材37を上側から被せ、接着剤で接着することでヘッドチップ30は形成される。カバー部材37は、圧電基板31と同様に圧電材料のウェハを加工したものであり、共通インク室およびインク供給口になる凹部38および貫通加工部39を設けている。ここでは、カバー部材37として圧電基板31と同じ圧電材料を用いている。これはカバー部材37と圧電基板31との熱膨張係数のマッチングを良くするためである。
【0042】
このように圧電基板31とノズルプレート10との間にスペーサ20を設けているので、圧電基板31とスペーサ20との間、および、スペーサ20とノズルプレート10との間に、線膨脹係数の相違に起因する熱変形が生じる。
【0043】
ここでは、圧電基板の線膨脹係数(ここでは、PZT:約4×10−6(1/℃))と、スペーサ20の線膨脹係数(ここでは、アルミナ:約4×10−6(1/℃))と、を略等しくしている。ノズルプレート10の線膨脹係数(ここでは、ポリイミド:10×10−6(1/℃))は、圧電基板およびスペーサよりも大きくしていて、スペーサ20の線膨脹係数と圧電基板31との線膨脹係数の相違は、ノズルプレート10と圧電基板31との間の線膨脹係数の相違よりも小さい。したがって、圧電基板に生じる熱変形は、ノズルプレート10と圧電基板31とを直接接着する場合よりも低減したものとなっている。
【0044】
なお、各部材を接着する接着剤の材料としては、本実施形態以外の材料であってもよいが、耐薬品性の観点から、両者とも高硬度であるエポキシ系の接着剤(硬化時の硬度60〜80)や、耐薬品性の高い低硬度のシリコン架橋型フッ素系接着剤(硬化時の硬度30〜40)を用いることが望ましい。特に、ヘッドチップ30とスペーサ20との間に配置する接着剤としては、インク室40内におけるインクにかかる圧力波の状態を維持するという観点から、高硬度の接着剤がより望ましい。一方、スペーサ20とノズルプレート10との間に配置する接着剤としては、インクにかかる圧力波を維持するという観点よりも、スペーサ20とノズルプレート10との間の線膨張係数による変形量の差を吸収するという観点から、低硬度の接着剤がより望ましい。したがって、ヘッドチップ30とスペーサ20との間に配置する接着剤をエポキシ系接着剤とし、スペーサ20とノズルプレート10との間に配置する接着剤をシリコン架橋型フッ素系接着剤とすれば、極めて高性能のインクジェットヘッドを製造することが可能となる。
【0045】
また、カバー部材37の材料としては、本実施形態以外の材料であっても、圧電基板31(ここでは、PZT)との熱膨張係数が比較的近ければどのような材料であってもよい。例えば、安価なアルミナを主成分とするセラミックであっても良い。アルミナの線膨張係数は、約4×10−6(1/℃)である。
【0046】
また、スペーサ20の材料としては、本実施形態以外の材料であっても、圧電基板31(ここでは、PZT)との熱膨張係数が比較的近ければどのような材料であってもよい。例えば、セラミックであれば石英、金属であればTi等を主成分とすることが望ましい。但し、スペーサ20の材料は、透光性があれば望ましいが、遮光性があってもよい。
【0047】
また、ノズルプレート10の材料としては、本実施形態以外の材料であってもよい。民生用プリンタなど、さほど高い吐出性能が要求されない用途のインクジェットヘッドであれば、ノズルプレート10の材料は、レーザ加工できればいかなるものであってもよい。これに対し、吐出位置や吐出体積に高精度が要求される工業用インクジェットプリンタ用途のインクジェットヘッドであれば、ノズル孔11のノズル径バラツキ、およびノズルテーパ形状バラツキを低減できる材料が好ましい。具体的には、高精度にノズルを製造する方法として、ノズルプレート10にエキシマレーザ光を用いて加工する方法を用いるのであれば、ノズルプレート10の材料としてはエキシマレーザ加工容易性の高い材料がより望ましい。エキシマレーザ加工容易性の高い材料としては薄い樹脂製のもの、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドアミドなどがある。なお、エキシマレーザ光を用いて加工する以外の方法であれば、例えば、ニッケル等の電鋳メッキ等によって得られた金属材料など、高精度のノズルを形成可能などのような材料を用いてもよい。
【0048】
次に、インク室の詳細な構成について説明する。図2に正面側からみたインク室の断面図を示す。
【0049】
同図(A)に示すように、カバー部材37および圧電基板31で囲まれたチャンネル溝33がインク室40を構成する。チャンネル壁33の側面上側には、チャンネル壁33を挟んで互いに対向する駆動電極41を設けている。この駆動電極41は、チャンネル壁33に上方からAu、Al、Cuなどの電極材料となる金属を蒸着し、チャンネル壁33上面の金属膜、および、チャンネル溝32底面側の金属膜を除去することにより形成したものである。ここでは、金属膜として厚さ0.5μmのAuを用いている。また、圧電基板31の背面にも駆動電極は設ける。この背面の駆動電極には、ワイヤボンディングにより配線を行い、チップベースの駆動回路に接続している。なお、駆動電極41の形成は公知の手段によって行えばよく、どのような手段を用いてもよい。
【0050】
上記の構成のインク室に対して、本実施形態ではさらに有機絶縁膜42として化学的に安定であって耐薬品性および絶縁性が高いパリレン膜を成膜する。同図(B)はインク室40の有機絶縁膜の状態を示す。
【0051】
ここでは、有機絶縁膜42の厚さを3.5μmとしている。なお、有機絶縁膜の厚みは、下地部材の凹凸や下地部材に付着したダストの影響などを受けてピンホールが発生することがないように、1μm以上が望ましい。一方、成膜工程の時間短縮、原材料コストの低減の観点から、有機絶縁膜42の厚さとしては10μm以下であることが望ましい。このことを踏まえ、有機絶縁膜42の膜厚としては1μm〜10μmの間であることが、より望ましい条件である。
【0052】
この有機絶縁膜42により駆動電極41は覆われる。したがって、仮に、水性インクや金属粒子を含む導電性を有するインクがインク室40内に貯留されていても、駆動電極41に印加する電圧によってリーク電流が流れることがなくなる。これにより、電極材料の電解腐食に起因するインクジェットヘッドの破損や、正規のチャンネル壁剪断モード変形が達成できないことに起因する吐出不良といった問題を防止する効果がある。また、仮に、有機溶媒を主成分にする溶剤系インクがインク室40内に貯留されていても、インクジェットヘッドを構成する部材や接着剤等を溶解性の高い有機溶媒から隔離保護することができる。なお、パリレン膜は室温において気相成長によって形成されるため、熱によって特性が劣化する基材や表面形状が複雑に入り組んだ基材に、熱的なダメージを与えることなく、ほぼ均一に成膜できるという利点もある。
【0053】
なお、パリレン膜には、ポリモノクロロパラキシリレン(パリレンC)、ポリパラキシリレン(パリレンN)などがあるが、それぞれの膜において耐インク特性、材料との密着性などが異なるため、各種インク材料の特性や、下地部材に応じて膜材料を変更したり、2種類以上の材料を積層したりする方法を用いることも可能である。
【0054】
また、図示していないが、圧電基板31の正面側の側面、即ちスペーサ20との接合面にも有機絶縁膜を成膜する。なお、この有機絶縁膜は本発明に必須の構成ではない。
【0055】
また、本実施形態では用いていないが、スペーサ20のヘッドチップ30との接着面にも、有機絶縁膜としてのパリレン膜を形成してもよい。このようにスペーサ20とヘッドチップ30との接着面にさらにパリレン膜を設けることにより、圧電基板31のスペーサ20との接着面に形成されたパリレン膜への熱応力によるダメージを更に低減できる。なお、この有機絶縁膜は本発明に必須の構成ではない。
【0056】
次に、ノズルプレート10に形成するノズル孔11の形状について説明する。図3に、右側面側からみたインクジェットヘッドの断面図を示す。なお、同図において有機絶縁膜および接着剤は表示していない。
【0057】
ノズルプレート10のノズル孔11は、インクが流入する背面側(図右側)で直径約40μm、インクを吐出する正面側(図左側)で直径約20μmの円錐状である。この場合、テーパ角はノズル孔11の正面側に対するノズル孔の背面側の降角で表わされ、11°程度である。ここで、ノズル孔11の正面側の孔径バラツキは基準値±0.5μm以内、テーパ角バラツキは基準値±1.0°以内としている。更に、ノズルプレート10のスペーサ20との接着面と反対側の面(インク吐出面)には、吐出インクの直進性確保、及びインク吐出面への液滴残りをなくすという観点から、撥水膜(不図示)を設けている。本実施形態では、撥水膜として、ダイキン工業株式会社製のオプツールDSXを用いている。
【0058】
また、スペーサ20に設けたスペーサ孔21は、ノズル孔11と同軸に配されている。このスペーサ孔21の直径は、ノズル孔11の背面側(図右側)の直径約40μmとほぼ等しくしている。
【0059】
このインクジェットヘッドでインク吐出を行なう場合は、各チャンネル壁33を挟んで向い合う駆動電極41同士に互いに逆位相の電位を印加することでチャンネル壁33にシェアモード変形を起こさせる。すなわち、チャンネル壁33の両側の駆動電極41間に電位差を生じさせることで、チャンネル壁33のうち駆動電極41が形成された上半分と駆動電極41が形成されていない下半分との境目を折れ目としてチャンネル壁33が「く」の字形に変形する。この変形によるインク室内の体積変化は、インク室内のインクに圧力変化をもたらす。この圧力変化を利用してインク室の先端部に配置したノズル孔11およびスペーサ孔21からインク液滴が吐出される。
【0060】
次に、ヘッドチップ30とスペーサ20、およびノズルプレート10の接着プロセスについて、図4に基づいて説明する。
【0061】
上述したように、ヘッドチップ30とノズルプレート10とを接着する際には、ノズル孔11の位置を精度良くアライメントする必要がある。そのため、ヘッドチップ30とノズルプレート10との間に配置するスペーサ20の接着も同様に行う必要がある。
【0062】
ここではスペーサ20とヘッドチップ30の接着工程について詳述する。まず、インク室40断面の中心軸とスペーサ20に形成されたスペーサ孔21の中心軸との位置が一致するように専用装置でアライメント(調整)する。具体的には、上下双方にカメラを内蔵したアライメントカメラ55をスペーサ20とヘッドチップ30の間で移動させ、スペーサ20に形成された全てのスペーサ孔21の中心軸とインク室40断面の中心軸との位置情報を読み取って位置ずれを算出し、スペーサ20又はヘッドチップ30のどちらかを移動させて位置補正し、スペーサ20の全てのスペーサ孔21の中心軸と全てのインク室40断面の中心軸との位置が一致するようにアライメントする。次に、ヘッドチップ30の複数のインク室40の予め接着剤が塗布されたスペーサ接着面とスペーサ20を密着させる。具体的には、スペーサ20を装置に固定する際に用いる冶具(図示しない)を徐々にヘッドチップ30に向けて鉛直下方に移動させて、スペーサ20の接着面(背面側)をヘッドチップ30のスペーサ接着面に当接させる。ここで、ヘッドチップ30へのスペーサ20の接着には一般に液状接着剤を用いる。薄くかつ均一な厚さの接着剤でヘッド部にノズルプレートを接着するため、バーコータやスピンコータなどを用いて均一で薄い接着剤の層をポリイミドフィルムなどのシート上に形成した後、接着剤の層をヘッドチップ30のスペーサ接着面に押し当てることで所望の厚さの接着剤をスペーサ接着面に転写する。
【0063】
本実施形態では、接着剤の塗布方法として、公知のバーコータ装置を用い、ポリイミドフィルム上に厚み4μmの均一な接着剤の層を形成し、接着剤の層が形成されたポリイミドフィルム上にヘッドチップ30との接着面を押し当てスタンプ転写する方法を用いた。これによって、ヘッドチップ30の前面のインク室40断面以外の領域に均一な厚み(本実施形態では2μm以上)の接着剤の層を形成することができる。
【0064】
このように接着剤が転写されたヘッドチップ30の複数のインク室40の断面の中心軸とスペーサ20のスペーサ孔21の中心軸とは、両者がアライメントされた状態で、スペーサ20とヘッドチップ30を加圧および加熱して接着することで製造する。
【0065】
スペーサ20とヘッドチップ30の接着が完了した後、図4で示したものと同じ装置、手段を用いて、さらにノズルプレート10とスペーサ20との接着を行うことで、本実施形態のインクジェットヘッドは製造される。
【0066】
なお、本実施形態のインクジェットヘッドは、ヘッドチップ30のスペーサ20との接着面の面積と、ノズルプレート10の面積がヘッドチップ30の面積と同一であるため、必ずしもノズル支持部材を必要としないが、ノズルプレート10の面積がヘッドチップ30の面積より大きければ、ノズル支持部材を設けてもよい。
【0067】
次に本発明の第2の実施形態によるインクジェットヘッドについて説明する。
【0068】
本実施形態のインクジェットヘッドは、ヘッドチップの概略構成およびチャンネル壁33周囲に形成される有機絶縁膜の構成などに関しては第1の実施形態と変わらないが、緩衝部材に特徴がある。
【0069】
本実施形態では、ノズルプレートのヘッドチップとの貼り合わせ面にSiO膜を形成する。SiO膜の線膨張係数は約8×10−6(1/℃)と、圧電基板であるPZTの線膨張係数約4×10−6(1/℃)よりも大きいものの、ノズルプレートの材料であるポリイミドの線膨張係数10×10−6〜20×10−6(1/℃)よりも小さく、PZTとポリイミドの中間の線膨張係数を有する。このため、スペーサに替えて緩衝部材として配置するには最適な材料である。
【0070】
このように、SiO膜の線膨脹係数と圧電基板との線膨脹係数の相違は、ノズルプレートと圧電基板との間の線膨脹係数の相違よりも小さい。また、SiO膜の線膨脹係数とノズルプレートとの線膨脹係数の相違は、ノズルプレートと圧電基板との間の線膨脹係数の相違よりも小さい。したがって、圧電基板に生じる熱変形およびノズルプレートに生じる熱変形は、ノズルプレートと圧電基板とを直接接着する場合よりも低減したものとなっている。
【0071】
なお、SiO膜は各種皮膜形成の下地層として好適であるために、ノズルプレートのインク吐出面(接着面の裏面)に撥水膜を形成する工程にも、このSiO膜を成膜しておいて、下地層として用いてもよい。その場合には、スペーサとしてのSiO膜と、下地層としてのSiO膜とを同一真空中にて同時形成できる点(プロセスの簡便性)、また、第1の実施形態のようにスペーサを用いる必要が無い点(部材コスト低減)において、第1の実施形態の場合に比べ利点がある。
【0072】
ノズルプレートへのSiO膜、及び撥水膜の形成から、ノズルプレートへのノズル孔加工に至るフロー図を図5に、また、図5に対応するプロセスのノズルプレート断面図を図6に示す。
【0073】
図6(A)は、図5(A)の工程により下地層および緩衝膜としてノズルプレート60へSiO膜61,62を形成した状態を示している。ここで、ノズルプレート60として、第1の実施形態と同様、厚み50μmのポリイミドシート(宇部興産製、ユーピレックス)を用いている。SiO膜61,62はスパッタリング、蒸着により成膜することが可能であるが、本実施形態ではスパッタリングを用いる。SiO膜61はノズルプレート60とヘッドチップの間の線膨張係数の違いによる応力発生を抑制する緩衝膜としてのものであり、SiO膜62はノズル吐出面における撥水膜の下地層としてのものである。
【0074】
なお、図6(C)のノズル孔加工プロセスにおいて、ノズル孔のレーザ加工を行うが、この際の加工精度を確保する観点から、SiO膜62の膜厚は薄くする必要がある。したがって、SiO膜62の膜厚としては、例えば30nm以下であることが必要条件となる。一方、SiO膜61は、その膜厚が薄すぎた場合、ノズルプレート60と圧電基板との線膨張係数の違いに起因する応力を抑制することができず、膜自身が破壊してしまう。そのため、ある程度の膜厚を有する必要がある。そこでSiO膜61の膜厚としては、例えば1μm以上は必要である。ここでは、SiO膜61の厚みは10μmとしている。このような膜厚のSiO膜61はレーザ加工に不適であるので、本実施形態では、SiO膜61を成膜する際、予めノズル加工する箇所をメタルマスクなどで遮蔽しておき、SiO膜が形成されないようにした。
【0075】
なお、ノズルプレート60の材料とSiO膜61,62との密着性が悪い場合には、例えばTaなどの金属膜を下地層として用いることも可能である。更に、凹形状を形成するための別の方法として、平坦な膜を形成した後、感光性レジストを塗布し、アライナーなどでマスク露光、パターニングを行い、所望のパターンでドライエッチによりSiO膜を加工する方法も用いることができる。
【0076】
また、凹形状を形成する方法としては、例えばNi、Au、Cuなどの金属膜を緩衝部材の緩衝膜として用いる場合には、スパッタリング以外に、メッキ等による方法がある。具体的には、ノズルプレート材にシード層として厚み100nm程度のNi(Au、Cu)薄膜を蒸着などの方法で形成し、その上にメッキにて30μm程度の厚みのNi(Au、Cu)膜を形成するというものである。
【0077】
次に図5(B)に示す撥水膜を成膜する工程を行う。図6(B)に示すように、ノズルプレート60のノズル吐出面側のSiO膜62に、撥水膜63を成膜する。撥水膜63はスパッタリング、蒸着による方法の他、液状剤をスピンコートした後、リンスすることにより成膜することが可能である。本実施形態では蒸着を用いている。具体的には、撥水膜主剤をフッ素系溶媒によって希釈した溶液をチャンバ内に流入させ、80℃から室温(約20℃)の間の温度で蒸着処理を行い、密着層の上に撥水膜を成膜した。ここで、第1の実施形態と同様、撥水膜63として、ダイキン工業株式会社製のオプツールDSXを使用した。
【0078】
なお、SiO膜62はノズルプレート60と撥水膜63の密着層となる。この密着層の厚さを15nmから30nm範囲に厚くすると、ノズルプレート60をレーザ加工した際、レーザ加工条件によってはノズルに抜け残りが発生してしまう。例えば、ノズル形状を小型化する場合または、ノズルの入口側(インク流入側)と出口側(インク吐出側)の孔径比を大きくする場合などに、レーザのショット数を少なくしたり、レーザの出力エネルギーを落として加工することがあるが、このような条件で加工を行うとノズルプレートの加工残りが顕著に現れる。従って、様々なレーザ加工条件において、均一で安定的なノズルを形成するためには、密着層厚みは、15nm以下の範囲とすることが望ましい。本実施形態では、SiO膜62の厚みを10nmに設定した。
【0079】
一方、撥水膜63の厚さに関しては、蒸着装置に投入された液量によって管理されるが、2nmより薄い1.8nmの場合、蒸着処理によって被膜化される際のチャンバ内での膜厚ばらつきによって、一部撥水膜が基材上の密着層と結合していない部分が発生してしまう。上記理由から、撥水膜の厚みは2nm以上であることが望ましい。
【0080】
また、撥水膜の厚みが4nmを越える膜厚の場合は、密着層と結合するための親水基が余ってしまい、余剰分が撥水膜上に出てきて撥水性を低下させる場合がある。この理由から、特に撥水性を必要とするインク吐出側の、更に好ましい撥水膜の厚みは、2nm以上、4nm以下である。
【0081】
撥水剤は、撥水性が高く、水性インクの場合で静的接触角が70°程度、更に動的接触角も20°程度の撥水面の傾きにより液滴が移動する。このように、撥水膜としての性能は高い。本実施例では、撥水膜63の厚みを2.4nmと設定した。
【0082】
次に、図5(C)に示す、ノズルプレート60にノズル孔を加工する工程を行う。図6(C)は、この時の様子を示した図である。図示する矢印は加工用レーザ光の照射方向を示している。加工用レーザ光をノズルプレート60に照射することで、ノズル孔68を加工した際に副生成物67が発生する。副生成物67は、例えば樹脂を加工した際に炭素を含んだ材料として析出するものであり、加工用レーザ照射側だけでなく、反対側(インク吐出側)にも形成される。
【0083】
本実施形態では、加工用レーザとして、エキシマレーザ(波長248nm)を用いた。なお、加工用レーザ装置としてラムダフィジック社製NovaLine100を用い、レーザ励起ガスとしてハロゲンガス(フッ素とNeの混合ガス、フッ素濃度5%)純度99.9%、Rareガス(Kr)純度99.995%、バッファーガス(Ne)99.995%、不活性ガス(He)純度99.995%を用いた。
【0084】
本実施形態に基づくノズル孔68の加工では、レーザ照射面にフォーカスを合わせているため、加工が進むにつれて(レーザがインク吐出側に向かうにつれて)レーザ強度が弱まり、レーザ照射側での加工径が大きく、インク吐出側では加工径が小さいことから、テーパのついた形状となる。ここで、ノズル孔の、レーザ照射側を、入口側(インク流入側)、反対側を出口側(インク吐出側)と呼ぶ。照射されるレーザパターンは円形であるため、ノズル断面形状も円形であり、本実施例では、入口側ノズル孔径を40nm、出口側ノズル孔径を20nmと設定した。
【0085】
次に、図5(D)に示す、ノズルプレート60を洗浄する工程を行う。図6(D)に示すように、加工時に発生した副生成物を除去する。なお、特に撥水膜を形成した面と反対側の面の副生成物は除去が困難であり、通常の洗浄プロセス実施前にアッシングなどの方法を用いて除去することがある。一方、撥水膜形成側の面に付着した副生成物に関しては、比較的粘着性の弱いテープを用いることにより、容易に除去できる。
【0086】
次に、図5(E)に示す、ヘッドチップとの貼り合わせの工程を行う。この工程に用いるノズルプレート60は図6(E)に示す構成である。このノズルプレートをヘッドチップに接着を行う前に、ノズルプレートの接着面における、接着剤との親液性を高めるため、ノズルプレートの接着面にアッシングをかける必要がある。一方、撥水膜を形成した面はインクジェットヘッドのインク吐出面となる。上記プロセスはクリーンルームなどの清浄雰囲気中で実施されるものとする。
【0087】
第1の実施形態、第2の実施形態における製造方法によるインクジェットヘッドと従来の製造方法によるインクジェットヘッドとを比較するために、タイプ1、タイプ2、タイプ3の3通りのインクジェットヘッドのサンプルを作成した。タイプ1は、従来方法(緩衝部材なし)で製造したインクジェットヘッドである。タイプ2は、第1の実施形態で説明したように、ノズルプレートとヘッドチップとの間のスペーサとしてアルミナを配置したインクジェットヘッドである。タイプ3は、第2の実施形態で説明したように、ノズルプレートにおけるヘッドチップとの貼り合わせ面に、緩衝部材としてSiO膜を成膜したインクジェットヘッドである。これら3種類のサンプルをそれぞれ3ヘッドずつ製造し、各ヘッドについて1ヶ月間の連続吐出における不吐出ノズルの数を比較した。
【0088】
その結果、本発明のインクジェットヘッド(タイプ2、タイプ3)では、全てのノズル孔からインクを吐出することができたが、従来のインクジェットヘッド(タイプ1)ではおよそ20〜30ノズルで吐出不良が発生した。一方、所望のインク吐出速度(8m/sec)を得るための吐出電圧を計測したところ、本発明のインクジェットヘッド(タイプ2、タイプ3)では殆ど変化が無かったのに対し、従来のインクジェットヘッド(タイプ1)では、当初のおよそ2倍の電圧を必要とした。そこで、各インクジェットヘッドをノズル面側から顕微鏡観察したところ、タイプ1のインクジェットヘッドにおいて、ノズル間で接着剤が剥がれている箇所(連通箇所)が見られた。更に、各インクジェットヘッドのノズルを剥し、ヘッドチップのノズル貼り合わせ部分を顕微鏡観察したところ、タイプ1のインクジェットヘッドにおいてパリレン膜の一部が剥がれ、インクによる腐食を受けていると見られる箇所が見つかった。これに対し、本発明のインクジェットヘッドでは、不具合は見られなかった。
【0089】
この結果から、本発明のインクジェットでは、ノズルプレートとヘッドチップの間に緩衝部材を設けることによって、ノズルプレートとヘッドチップ間の線膨張係数の違いによる、各種不具合(ノズル孔とヘッドチップのインク室断面との中心位置ずれや、ノズルプレートの変形など)がなく、吐出信頼性の高いインクジェットヘッドを製造することができるといえる。
【0090】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、インクジェットプリンタ等に用いるインクジェットヘッドに関し、詳しくは吐出口が形成されたノズルプレートを有するインクジェットヘッドに関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの部分分解斜視図である。
【図2】上記インクジェットヘッドの正面からみたインク室断面図である。
【図3】上記インクジェットヘッドの側面からみたインク室断面図である。
【図4】上記インクジェットヘッドのヘッドチップとスペーサの接着プロセスを説明する図である。
【図5】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドのノズルプレートの製造プロセスのフロー図である。
【図6】上記インクジェットヘッドのノズルプレートの製造プロセスにおけるノズルプレート断面図である。
【符号の説明】
【0093】
10…ノズルプレート
11…ノズル孔
20…スペーサ
21…スペーサ孔
30…ヘッドチップ
31…圧電基板
32…チャンネル溝
33…チャンネル壁
37…カバー部材
38…ザグリ
39…貫通加工部
40…インク室
41…駆動電極
42…有機絶縁膜
55…アライメントカメラ
60…ノズルプレート
61,62…SiO
63…撥水膜
67…副生成物
68…ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出面から延びるチャンネル溝を形成した圧電基板と、
前記圧電基板のインク吐出面に配置することで前記チャンネル溝の一端に対向するノズル孔を形成したノズルプレートと、を備えるインクジェットヘッドにおいて、
前記圧電基板と前記ノズルプレートとの間に配される緩衝部材を備え、
前記緩衝部材の線膨脹係数と前記圧電基板の線膨脹係数の差が、前記ノズルプレートの線膨脹係数と前記圧電基板の線膨脹係数の差よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記緩衝部材の線膨脹係数と前記ノズルプレートの線膨脹係数との差が、前記ノズルプレートの線膨脹係数と前記圧電基板の線膨脹係数との差よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記圧電基板は、インクによる浸食を防ぐ保護膜を前記チャンネル溝に備える請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記緩衝部材は前記圧電基板および前記ノズルプレートとは別体に設けられたスペーサである請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記スペーサは、前記圧電基板との対向面側に、インクによる浸食を防ぐ保護膜を備える請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記スペーサは、透光性を有する素材からなる請求項4または5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記スペーサは、アルミナまたは石英を主成分とする請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記スペーサと前記ノズルプレートとを接着する第1の接着剤と、前記スペーサと前記圧電基板とを接着する第2の接着剤と、を備える請求項4〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記第1の接着剤および前記第2の接着剤は、インクに対して難溶性を有する接着剤である請求項8に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記第1の接着剤および前記第2の接着剤はエポキシ系接着剤である請求項9に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記第1の接着剤は、硬化後硬度が前記第2の接着剤の硬化後硬度より小さいものである請求項8または9に記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記第1の接着剤はシリコン架橋型フッ素系接着剤であり、前記第2の接着剤はエポキシ系接着剤である請求項11に記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
前記緩衝部材は、前記ノズルプレートまたは前記圧電基板に成膜された緩衝膜である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記緩衝膜は、石英を主成分とする請求項13に記載のインクジェットヘッド。
【請求項15】
圧電基板のインク吐出面に配されるノズルプレートにノズル孔が形成されたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートの前記圧電基板との対向面側に、前記ノズル孔の形成位置を被覆するマスクパターンを形成する工程と、
前記ノズルプレートの前記圧電基板との接合面側に、前記ノズルプレートの線膨脹係数と前記圧電基板の線膨脹係数の差よりも、前記圧電基板の線膨脹係数との差、および、前記ノズルプレートの線膨脹係数との差が小さい線膨脹係数の緩衝膜を前記圧電基板に成膜する工程と、
前記ノズルプレートの前記マスクパターンと前記マスクパターン上に成膜された前記緩衝膜とを除去する工程と、
前記ノズルプレートの前記マスクパターンの除去位置に前記ノズル孔をレーザ成形する工程と、をこの順に含むインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−149649(P2008−149649A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342365(P2006−342365)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】