説明

インクジェットヘッドの製造方法

【課題】ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドにおいて、ヘッドチップの作成後に、駆動壁のせん断変形機能を調整することにより容易にチャネル特性を均一化することができるインクジェットヘッドの製造方法の提供。
【解決手段】圧電素子からなる駆動壁13とチャネル14とが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置され、駆動壁13に駆動電極15が形成されてなるヘッドチップを有し、駆動電極15に電圧を印加することにより駆動壁13をせん断変形させ、チャネル14内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、ヘッドチップを作成した後、該ヘッドチップの後面側から、駆動壁13のせん断変形機能を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドにおいても、容易に各チャネルのインクの速度分布を均一化することができるインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノズルからインクを吐出することにより画像を記録するインクジェットヘッドは、記録速度及び画像品質を向上させる目的で多チャネル化が進んでいる。このような多チャネルのインクジェットヘッドにおいては、ノズルから吐出されるインクの速度分布の均一性が重要な性能である。ノズルから吐出されるインクの速度は、インク液滴の体積、インク液滴の径とも関連を有するため、これらを含めたチャネル特性を均一化することが必要である。
【0003】
インクジェットヘッドには、記録紙に対してインクジェットヘッドが移動することにより画像を記録するタイプ、インクジェットヘッドは固定で記録紙が移動することにより画像を記録するタイプ等があるが、いずれの場合においてもチャネル特性の不均一は、吐出されるインクの速度分布の不均一によりインクの着弾精度のばらつきを引き起こし、得られる画像の品質を低下させる。現実のインクジェットヘッドは、材料となるPZTの性能のばらつき、製造プロセスの不均一等により、通常、ある速度分布を持ったものとなる。
【0004】
速度分布を均一にするには、各チャネル毎に駆動電圧を最適化する方法があるが、各チャネル毎に駆動回路を用意する必要があり、コストがかかる問題がある。通常は単一の電源から各チャネルに対して駆動電圧を印加するため、各駆動電圧は共通となり、各ノズルから吐出されるインクの速度にばらつきが発生してしまうことは避け難い。
【0005】
従来、このような速度分布を均一にするための技術として、予め所望の電気機械特性となるように電極の一部を削除した圧電振動子を用いてヘッドを構成する技術(特許文献1)、ヘッドを組み立てた後、特性測定装置によりインクの噴射特性を調べ、各ノズル間で特性ばらつきがなくなるようにピエゾ素子の電極面をトリミングする技術(特許文献2)、各ノズルからのインク速度を計測し、各ノズル間でばらつきが生じている場合に、ユニモルフモードによる変形を行う圧電素子の圧電体表面の共通電極に切欠部を設け、インク速度の調整を図る技術(特許文献3)等が知られているが、実際に駆動することにより速度分布を求め、その速度分布の結果に基づいて電極をトリミングする等の調整を行うことが、速度分布を均一化させる上では好ましい。
【0006】
ところで、インクジェットヘッドには、分極処理された圧電素子にチャネルを研削して、該チャネルを区画する駆動壁に駆動電極を形成し、該駆動電極に電圧を印加することにより駆動壁をくの字状にせん断変形させてチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたせん断モードのインクジェットヘッドが知られている。
【0007】
その中でも、インクを吐出させるためのアクチュエータを、圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置される所謂ハーモニカ型のヘッドチップにより構成したインクジェットヘッド(例えば特許文献4、5)は、1枚の基板から多数個のヘッドチップを一度に作成することができるため、極めて生産性が高く、また、チャネルが入口から出口にかけてストレートとなるため、泡抜けが良く、電力効率が高く、発熱が少なく、高速応答性に優れる等の多くの利点を有しており、このようなハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドにおいても、各ノズル間の速度分布を均一化させることにより、より高画質の画像を記録できるようにすることが望まれている。
【0008】
このようなハーモニカ型のヘッドチップは、駆動電極に駆動電圧を印加するための配線を接続することが難しく、通常、各駆動電極と電気的に接続する電極をヘッドチップの外面まで引き出し、ヘッドチップの外面において配線を接続することが行われている。
【0009】
例えば、特許文献4に記載の技術では、ヘッドチップを2枚の基板で挟み、その基板に各駆動電極と電気的に接続する電極を形成することで、駆動回路からの駆動電圧を基板を介して各駆動電極に印加するようにしている。このとき、ヘッドチップの後面(チャネルの入口側)には、2枚の基板間に亘って壁部を設けることでインク供給室を形成している。
【0010】
また、特許文献5に記載の技術では、ヘッドチップを2枚の基板で挟み、ヘッドチップの後面(チャネルの入口側)には2枚の基板間に亘って壁部を設けることでインク供給室を形成すると共に、その壁部を基板よりも更に後方へはみ出させ、基板及びはみ出し部に各駆動電極と電気的に接続する電極を形成することにより、これら基板及びはみ出し部を利用して駆動回路からの駆動電圧を各駆動電極に印加するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−181874号公報
【特許文献2】特開昭61−118261号公報
【特許文献3】特開2000−127384号公報
【特許文献4】特開2004−209796号公報
【特許文献5】特開2004−358751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドでは、特許文献4、5に開示されているように、駆動電極はチャネル内に完全に包囲された状態にあり、また、ヘッドチップの後面側に各駆動電極に駆動電圧を印加するための電極を引き出す基板が存在するため、この基板が邪魔となって、インクジェットヘッドを作成した後に駆動電極をトリミング等して調整を行うことが困難である。
【0013】
各基板をFPCのようにフレキシブルな材質とすれば、各駆動電極をトリミング等する際に、基板を大きく折り曲げておくことも可能であるが、作業時に基板の折り曲げ状態を保持する必要があり、また、基板の折損、剥離、断線といった危険があるため好ましくない。
【0014】
そこで、本発明は、ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドにおいて、ヘッドチップの作成後に、駆動壁のせん断変形機能を調整することにより容易にチャネル特性を均一化することができるインクジェットヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0015】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
1.圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置され、前記駆動壁に駆動電極が形成されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することにより前記駆動壁をせん断変形させ、前記チャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ヘッドチップを作成した後、該ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
2.前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の速度を測定することにより各インク液滴の速度分布を測定する工程と、
測定された速度分布に基づいて該速度分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする前記1.記載のインクジェットヘッドの製造方法。
3.前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の体積を測定することにより各インク液滴の体積分布を測定する工程と、
測定された体積分布に基づいて該体積分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする前記1.記載のインクジェットヘッドの製造方法。
4.前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の径を測定することにより各インク液滴の径分布を測定する工程と、
測定された各インク液滴の径分布に基づいて該径分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする前記1.記載のインクジェットヘッドの製造方法。
5.前記ヘッドチップを作成した後、該ヘッドチップの前面から全チャネルを閉蓋する工程と、
各チャネルに液体を充填し、前記駆動電極に電圧を印加して前記駆動壁をせん断変形させ、その時の前記液体の挙動をレーザードップラー測定器で測定することにより、各チャネル特性を測定する工程と、
前記測定されたチャネル特性に基づいて、該チャネル特性が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする前記1.記載のインクジェットヘッドの製造方法。
6.前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルの前記駆動壁の容量分布を測定する工程と、
前記測定された容量分布に基づいて、該容量分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする前記1.記載のインクジェットヘッドの製造方法。
7.前記ヘッドチップの後面に、前記駆動電極と電気的に接続する接続電極を形成する工程と、
前記接続電極に対応する配線電極が形成されると共に、前記ヘッドチップのチャネル列に対応する領域に開口部を有し、該ヘッドチップよりもチャネル列方向と直交する方向に張り出す大きさを有する配線基板を、前記接続電極と前記配線電極の一端とが電気的に接続し、且つ、前記開口部から前記ヘッドチップの全チャネルが露呈するように接合する工程を含むことを特徴とする前記1.〜6.のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
8.前記ヘッドチップの後面に、前記駆動電極と電気的に接続する接続電極を形成する工程と、
前記接続電極に対応する配線電極が形成された配線基板の一端を、前記接続電極と前記配線電極の一端とが電気的に接続し、且つ、前記ヘッドチップの全チャネルが露呈するように前記ヘッドチップの後面の前記接続電極の形成領域に接合する工程を含むことを特徴とする前記1.〜6.のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
9.前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、レーザーにより、前記駆動電極と前記駆動壁の少なくとも一方の一部を除去することにより行うことを特徴とする前記1.〜8.のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
10.前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、前記駆動電極と前記駆動壁の少なくとも一方の一部を機械的に除去することにより行うことを特徴とする前記1.〜8.のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
11.前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、レーザーにより、前記駆動壁の一部を加熱することにより行うことを特徴とする前記1.〜8.のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、作成後のハーモニカ型のヘッドチップの後面側から駆動壁のせん断変形機能を調整することで、各チャネル特性を均一化することができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項2記載の発明によれば、実際にインクを吐出して速度を測定した結果に基づいて各チャネルのインクの速度分布を均一化させることにより、各チャネル特性を均一化させることができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項3記載の発明によれば、実際にインクを吐出してインク液滴の体積を測定した結果に基づいて各チャネルのインクの体積分布を均一化させることにより、各チャネル特性を均一化させることができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項4記載の発明によれば、実際にインクを吐出してインク液滴の径を測定した結果に基づいて各チャネルのインク液滴の径分布を均一化させることにより、各チャネル特性を均一化させることができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項5記載の発明によれば、レーザードップラー測定器によって各チャネルの特性を測定することにより、その測定結果に基づいて各チャネル特性を均一化させることができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項6記載の発明によれば、各チャネルの駆動壁の容量分布を測定することにより、その測定結果に基づいて各チャネル特性を均一化させることができ、高品質の画像記録が可能なインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
請求項7記載の発明によれば、更に、ヘッドチップの後面に配線接続のための配線基板を設けても、その開口部を通して、ヘッドチップの後面から駆動壁のせん断変形機能を容易に調整することができる。
請求項8記載の発明によれば、更に、ヘッドチップの後面に配線接続のための配線基板を設けても、全チャネルを露呈させることができ、ヘッドチップの後面から駆動壁のせん断変形機能を容易に調整することができる。
請求項9記載の発明によれば、更に、レーザーを用いて簡単に駆動壁のせん断変形機能を調整することができる。
請求項10記載の発明によれば、更に、機械的に簡単に駆動壁のせん断変形機能を調整することができる。
請求項11記載の発明によれば、更に、レーザーによる熱を利用して簡単に駆動壁のせん断変形機能を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す断面図
【図3】(a)〜(d)はヘッドチップを作成する方法を説明する図
【図4】ヘッドチップの別の作成方法を説明する図
【図5】1枚のヘッド基板からヘッドチップを作成する方法を説明する図
【図6】(a)(b)は接続電極の形成方法を説明する図
【図7】ヘッドチップに配線基板を接合した状態を示す背面図
【図8】駆動壁のせん断変形機能を低下させる加工を施す状態の断面図
【図9】(a)〜(d)は図7の(ix)−(ix)線に沿う断面図
【図10】独立チャネルタイプの駆動壁のせん断変形機能を低下させる加工を施す様子を示すチャネル列方向に沿う断面図
【図11】インクを吐出することなくチャネル特性を測定する方法の一例を説明する断面図
【図12】インクを吐出することなくチャネル特性を測定する方法の他の一例を説明する斜視図
【図13】配線基板の別の態様を示す背面側から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図、図2は断面図であり、図中、Hはインクジェットヘッド、1はヘッドチップ、2はヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート、3はヘッドチップ1の後面に接合される配線基板、4は配線基板3に接合されるFPC、5は配線基板3の後面に接合されるインクマニホールドである。
【0022】
なお、本明細書においては、ヘッドチップ1からインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップ1を前面又は後面から見て、並設されるチャネルを挟んで上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0023】
ヘッドチップ1は、圧電素子からなる駆動壁13とチャネル14とが交互に並設されている。チャネル14の形状は、両側壁が上面及び下面に対してほぼ垂直に立ち上がっており、そして互いに平行である。図2に示すように、ヘッドチップ1の前面及び後面にそれぞれ各チャネル14の出口142と入口141とが配置されると共に、各チャネル14は入口141から出口142に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0024】
このヘッドチップ1において、各チャネル14は図示上下に2列となるチャネル列を有している。各チャネル列はそれぞれ6個のチャネル14からなるが、ヘッドチップ1中のチャネル列を構成するチャネル14の数は何ら限定されない。
【0025】
図3、図4はこのようなヘッドチップ1を作成する方法の一例を示している。
【0026】
まず、1枚のベース基板11上に、2枚の圧電素子基板13a、13bをそれぞれエポキシ系接着剤を用いて接合する(図3(a))。各圧電素子基板13a、13bに用いられる圧電材料としては、電圧を加えることにより変形を生じる公知の圧電材料を用いることができるが、特にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が好ましい。2枚の圧電素子基板13a、13bは互いに分極方向(矢印で示す)を反対方向に向けて積層し、基板11に接着剤を用いて接着する。
【0027】
次いで、その2枚の圧電素子基板13a、13bに亘って、ダイシングソー等を用いて複数の平行な溝を研削する。これにより、ベース基板11上に高さ方向で分極方向が反対となる圧電素子からなる駆動壁13が並設される。各溝は圧電素子基板13a、13bの一方の端から他方の端に亘ってほぼ同じ一定の深さで研削することで、長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレート状のチャネル14となる(図3(b))。
【0028】
また、図示しないが、ベース基板11を用いる代わりに圧電素子基板13bを厚手のものとし、薄手の圧電素子基板13a側から厚手の圧電素子基板13bの中途部にまで至る複数の平行な溝を研削することにより、高さ方向で分極方向が反対となる駆動壁13の形成と同時にベース基板11の部分が圧電素子基板13bによって一体に形成されるようにしてもよい。
【0029】
次いで、このようにして形成した各チャネル14の内面に駆動電極15を形成する。駆動電極15を形成する金属は、Ni、Co、Cu、Al等があり、電気抵抗の面からはAlやCuを用いることが好ましいが、腐食や強度、コストの面からNiが好ましく用いられる。また、Alの上に更にAuを積層した積層構造としてもよい。
【0030】
駆動電極15の形成は、蒸着法、スパッタリング法、めっき法、CVD(化学気相反応法)等の真空装置を用いた方法等によって金属被膜を形成する方法が挙げられるが、めっき法によるものが好ましく、特に無電解めっきにより形成することが好ましい。無電解めっきによれば、均一且つピンホールフリーの金属被膜を形成することができる。めっき膜の厚みは0.5〜5μmの範囲が好ましい。
【0031】
駆動電極15はチャネル14毎に独立させる必要があるため、駆動壁13の上端面には金属被膜が形成されないようにする。このため、例えば各駆動壁13の上端面に予めドライフィルムを貼着したり、レジストを形成しておき、金属被膜を形成した後に除去することで、各駆動壁13の側面及び各チャネル14の底面に選択的に駆動電極15を形成するとよい(図3(c))。
【0032】
このようにして駆動電極15を形成した後、駆動壁13の上端面にカバー基板12をエポキシ系接着剤を用いて接合し、1列のチャネル列を有するヘッド基板10を作成する(図3(d))。ベース基板11及びカバー基板12には、駆動壁13を構成する圧電材料と同一の基板材料を脱分極して用いると、基板接着時の加熱や駆動の熱の影響による、熱膨張係数の差に起因する速度分布や駆動特性のばらつきを少なくすることができる。
【0033】
また、このようなヘッド基板は、図3(d)に示すようにして作成されるものに限らず、図4に示すように、ベース基板11を用いる代わりに圧電素子基板を厚手のものとして、平行な溝を研削して駆動壁13とチャネル14とを交互に並設し、各チャネル14の内面に駆動電極15を形成したものを2組(上側基板10aと下側基板10b)用意し、これを駆動壁13同士が相対するように接着することで、図3(d)と類似のヘッド基板10Aとすることもできる。この場合、図3(a)のように薄い圧電素子基板13aを圧電素子基板13b上に接着する必要がないのでコスト上有利である。但し、以下では、図3(d)のヘッド基板10を用いて作成する場合について説明する。
【0034】
図3(d)に示すようにして作成されたヘッド基板10を2枚用い、図5に示すように互いのカバー基板12同士を重ね合わせ、エポキシ系接着剤を用いて接合することで、上下で2列のチャネル列を有する積層ヘッド基板100を作成した後、この積層ヘッド基板100を、チャネル14の長さ方向と直交する方向に沿う複数のカットラインC1、C2・・・に沿って切断することにより、ハーモニカ型の複数のヘッドチップ1、1・・・を作成する。
【0035】
このようにして作成されるヘッドチップ1、1・・・は、各チャネル列において圧電素子からなる駆動壁13とチャネル14とが交互に並設される。チャネル14の形状は、両側壁がヘッドチップ1のベース基板11からほぼ垂直方向に立ち上がっており、そして互いに平行である。ヘッドチップ1の前面及び後面には、それぞれ各チャネル14の出口142と入口141とが配置される。各チャネル14は、入口から出口に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプとなる。
【0036】
このようなハーモニカ型のヘッドチップ1では、各チャネル14内の駆動電極15に駆動回路からの駆動電圧を印加するためのFPC等の配線を外部から接続できるようにするため、各駆動電極15をヘッドチップ1の外面にまで引き出す必要がある。そこで、次に、ヘッドチップ1の後面に、駆動電極15のうちのチャネル14の底面に形成された部分(チャネル14内に臨むベース基板11の表面)からベース基板11の後端面にかけて接続電極16を引き出し形成する。
【0037】
図6(a)(b)は、ヘッドチップ1の外面に、各駆動電極15と電気的に接続する接続電極16を引き出し形成する方法の一例を説明する説明図である。
【0038】
接続電極16は、図6(a)に示すように、ヘッドチップ1の後面に、駆動電極15のうちのチャネル14内に臨むベース基板11表面に形成された部分を少なくとも含み、ヘッドチップ1の上面側及び下面側にかけて開設された開口部201を有する感光性ドライフィルム200を貼着し、Al等の電極形成用の金属を蒸着して、開口部201内に金属被膜を生成することによって形成することができる。
【0039】
チャネル14内の駆動電極15と接続電極16をスムーズに接続するためには、蒸着方向に対してヘッドチップ1の後面を垂直にするのではなく、所定の角度傾けて蒸着することが望ましい。具体的には、蒸着方向(金属粒子が飛来する方向)が、図6(a)の紙面に垂直ではく、垂直から上側及び下側に30〜60度程度傾いていることが望ましい。
【0040】
また、接続電極16は、Alの金属被膜の上に更にAuを蒸着する等の方法によって積層構造としてもよい。更に、接続電極16の形成は、蒸着に代えてスパッタリングによって行うようにしてもよい。
【0041】
特にヘッドチップ1を図4に示すように作成したヘッド基板10Aを用いて切断加工した場合、上側基板10aの駆動電極15と下側基板10bの駆動電極15は、間に接着剤が存在するので電気的に接続されていない。このため、感光性ドライフィルム200の開口部201内に金属被膜を形成する際に、この2つの駆動電極15、15が接続されるようにする必要がある。これは電極形成を蒸着で行う場合は、蒸着方向を所定の方向に複数回行うか、または蒸着中に基板の方向を変化させることにより実現できる。スパッタリングで電極形成する際は、金属粒子が種々の方向より飛来するので特に基板の向きを変えなくても2つの駆動電極15、15の接続をとることができる。
【0042】
なお、開口部201は、感光性ドライフィルム200の現像工程・水洗工程での作業性を考え、チャネル14の全面において開口していることが望ましい。全面において開口していることにより、チャネル14内の現像液、洗浄水の除去が容易となる。
【0043】
この後、感光性ドライフィルム200を除去すると、図6(b)に示すように、ヘッドチップ1の後面に、各チャネル14から駆動電極15と電気的に接続する接続電極16がチャネル14毎に独立して引き出される。
【0044】
ノズルプレート2は、ヘッドチップ1の各チャネル14に対応する位置にそれぞれノズル21が開設されており、接続電極16が形成されたヘッドチップ1の前面にエポキシ系接着剤を用いて接合される。
【0045】
配線基板3は、ヘッドチップ1の各駆動電極15に図示しない駆動回路からの駆動電圧を印加する配線を接続するための板状の部材である。この配線基板3に用いられる基板には、非分極のPZTやAlN−BN、AlN等のセラミックス材料からなる基板、低熱膨張のプラスチックやガラスからなる基板、ヘッドチップ1に使用されている圧電素子の基板材料と同一の基板材料を脱分極した基板等を用いることができる。好ましくは、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、ヘッドチップ1との熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定することである。
【0046】
配線基板3を構成する基板は1枚板状のものに限らず、薄板状の基板材料を複数枚積層して所望の厚みとなるように形成してもよい。
【0047】
この配線基板3は、ヘッドチップ1の幅方向と同一の幅を有すると共に、ヘッドチップ1のチャネル14の並び方向(チャネル列方向)と直交する方向(図1、図2における上下方向)に延び、ヘッドチップ1の上面及び下面からそれぞれ大きく張り出しており、各張り出し端がFPC4、4を接続するための配線接続部31、31となっている。
【0048】
また、配線基板3のほぼ中央部には開口部32が貫通形成されている。この開口部32は、ヘッドチップ1の全チャネル14の入口141側を露呈させることができる程度の大きさに形成されている。従って、図7に示すように、ヘッドチップ1の後面に配線基板3を接合した状態で、この開口部32を通して、ヘッドチップ1の全駆動壁13、全チャネル14及び全駆動電極15を覗くことができるようになっている。
【0049】
開口部32の形成方法としては、基板材料に応じて、ダイシングソーで加工する方法、超音波加工機で加工する方法、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法等が採用できる。
【0050】
配線基板3のヘッドチップ1との接合面側となる表面に、ヘッドチップ1の後面に形成された各接続電極16と同数及び同ピッチで配線電極33が形成され、各配線接続部31、31まで延びている。この配線電極33は、FPC4が接合される際、FPC4に形成されている各配線41と電気的に接続し、FPC4の配線41を介して供給される駆動回路からの駆動電圧を、接続電極16を介してチャネル14内の駆動電極15に印加するための電極として機能する。
【0051】
配線電極33の形成は、配線基板3の表面にスピンコート法によりポジレジストをコーティングし、その後、このポジレジストをストライプ状のマスクを用いて露光し、現像することにより、ストライプ状のポジレジストの間に接続電極16と同数及び同ピッチで配線基板3の表面を露呈させ、その表面に、蒸着法やスパッタリング法等によって電極形成用の金属によって金属被膜を形成することにより行うことができる。電極形成用の金属としては、接続電極16と同一のものを使用することができる。
【0052】
配線基板3は、各配線電極33がヘッドチップ1の各接続電極16と電気的に接続すると共に、開口部32がヘッドチップ1の全チャネル14の入口141側を露呈させるように位置合わせされ、異方導電性フィルム等によってヘッドチップ1の後面に接合される。電気的接続方法としては、この他に、導電性粒子を含む異方性導電ペースト、非導電性接着剤で接着する圧接接合、配線電極33と接続電極16の少なくとも一方に半田を使用し、加熱溶融させて接続する方法等、通常の実装技術で使用されている方法を用いることもできる。
【0053】
このようにして配線基板3をヘッドチップ1の後面へ接合することにより、ヘッドチップ1の各チャネル14内の駆動電極15への駆動回路からの駆動電圧の印加を行うための電極(接続電極16及び配線電極33)が、チャネル列と直交する方向に向けて引き出される。このうち配線電極33は、ヘッドチップ1から大きく張り出した配線接続部31、31に引き出されているため、FPC4、4との電気的接続は容易であり、また、FPC4、4を接合しても該FPC4、4はヘッドチップ1の後方側には存在せず、ヘッドチップ1の後方側の空間を大きく開放させておくことができる。
【0054】
インクマニホールド5は、配線基板3の開口部32を介してヘッドチップ1の各チャネル14に供給するインクを貯留する。インクマニホールド5は箱型に形成され、その開口51が配線基板3に形成された開口部32を覆うようにして接合される。
【0055】
このインクマニホールド5の開口51の大きさは、配線基板3の開口部32を含み、各張り出し部31、31に至る程度の大きさとされ、ヘッドチップ1の後面の面積に比較して大きな開口51を有している。このようにインクマニホールド5の接合においても配線基板3の張り出し部31、31を利用することによって、ヘッドチップ1の大きさに比較して大容量のインクを貯留させることができる。インクマニホールド5内には、インク供給口52からインクが供給される。
【0056】
なお、配線基板3が十分な厚みを有している場合には、インクマニホールド5を設ける代わりに、配線基板3の開口部32をインク供給口を残して閉蓋することで、開口部32内を全チャネル14に共通にインクを供給するインク共通室として利用することも可能である。
【0057】
次に、かかるインクジェットヘッドHにおいて、ヘッドチップ1の後面側から、チャネル特性を均一化させるために駆動壁のせん断変形機能を調整する方法について説明する。
【0058】
ここで、チャネル特性としては、インクジェットヘッドHから吐出されるインクの速度分布に関連する特性で測定可能なものであれば特に限定されるものではないが、各ノズル21から実際にインクを吐出することにより測定することが、より精度良くチャネル特性を測定できることから好ましく、例えば以下に説明するように、インク液滴の速度、インク液滴の体積、インク液滴の径を測定することが好ましい。
【0059】
まず、各ノズル21から吐出されるインク液滴の速度分布を測定して、その速度分布が均一となるように駆動壁13のせん断変形機能を調整する方法について説明する。
【0060】
インクジェットヘッドHの製造過程において、製造されたヘッドチップ1にノズルプレート2、配線基板3及びFPC4、4をそれぞれ接合することで、FPC4、4を介して図示しない駆動回路から各駆動電極15に駆動電圧を印加して駆動可能となる図8に示す状態まで作成した後、配線基板3の開口部32を介して各チャネル14にインクを供給する。
【0061】
このインクを供給する方法としては、開口部32を覆う程度の大きさを有する仮のインク供給部材又はインクマニホールド5を、インクが漏洩しないように配線基板3に圧接する、あるいは剥離可能な接着剤等を用いて仮止めする方法が挙げられる。
【0062】
このようにヘッドチップ1の各チャネル14にインクを供給可能とした後、実際に共通の駆動電圧を各チャネル14の駆動電極15に印加することにより、駆動壁13をせん断変形させて各ノズル21からインクをそれぞれ吐出させ、そのときのインク液滴の吐出速度をそれぞれ測定し、全ノズル21の速度分布を求める。
【0063】
インクの吐出速度の測定方法は特に問わないが、例えばノズル21から吐出されるインクを撮像し、そのインクの撮像位置から画像認識することにより速度を計算して求める方法、インクの飛翔経路に検出センサの光軸を配置し、インクが光軸を通過したときの受光センサの光量変化を検出し、インクの吐出タイミングと検出タイミングとから速度を計算して求める方法等が挙げられる。
【0064】
速度分布を測定した後、仮のインク供給部材又はインクマニホールド5を取り外し、各チャネル14間でインクの吐出速度にばらつきが生じている場合に、速度の速いインクを吐出するチャネル14のインクの吐出速度を落とすように、ヘッドチップ1の後面側から、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工を施す。ヘッドチップ1の後面は、全駆動壁13、全チャネル14及び全駆動電極15が配線基板3の開口部32を通して露呈しており、また、ヘッドチップ1の後方側の空間は大きく開放しているので、加工作業は極めて容易である。更に、仮のインク供給部材又はインクマニホールド5を取り外しても、これら仮のインク供給部材やインクマニホールド5は電気的接続部品ではないため、取り外しによって断線等が生じるような心配はない。
【0065】
次に、各ノズル21から吐出されるインク液滴の体積分布を測定して、その体積分布が均一となるように駆動壁13のせん断変形機能を調整する方法について説明する。
【0066】
この場合も、上述の方法と同様にして、図8に示す状態まで作成した後、配線基板3の開口部32を介して各チャネル14にインクを供給する。
【0067】
ヘッドチップ1の各チャネル14にインクを供給可能とした後、実際に共通の駆動電圧を各チャネル14の駆動電極15に印加することにより、駆動壁13をせん断変形させて各ノズル21からインクをそれぞれ吐出させ、そのときのインク液滴の体積をそれぞれ測定し、全ノズル21の体積分布を求める。
【0068】
インク液滴の体積をV0、ノズル半径をr、吐出速度をV、駆動周波数をωとすると、V0=πr×r×V/(2ω)となる。ノズル加工の精度は十分に高く、ノズル半径はどのチャネルでも一定と考えてよいので、インク液滴の体積V0を測定することにより、吐出速度の分布がわかる。
【0069】
インク液滴の体積の測定方法も特に問わないが、同一ノズルから所定の数(所定の時間)だけインクを吐出させ、その吐出された全インクの重量を測定することでインク液滴を測定することができる。例えば平均のインク液滴量が10ngである場合、駆動周波数が10kHzであるとすると、吐出時間10秒で、10ng×10kHz×10=1mgとなる。この重量を天秤を用いて測定することにより、インク液滴の体積を求めることができる。
【0070】
このようにしてインク液滴の体積分布を測定した後は、上述の方法と同様にして、各チャネル14間でインク液滴の体積にばらつきが生じている場合に、体積の大きいインク液滴を吐出するチャネル14に対し、体積を小さくするように、ヘッドチップ1の後面側から、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工を施す。
【0071】
更に、各ノズル21から吐出されるインク液滴の径分布を測定して、その径分布が均一となるように駆動壁13のせん断変形機能を調整する方法について説明する。
【0072】
この場合も、上述の方法と同様にして、図8に示す状態まで作成した後、配線基板3の開口部32を介して各チャネル14にインクを供給する。
【0073】
ヘッドチップ1の各チャネル14にインクを供給可能とした後、実際に共通の駆動電圧を各チャネル14の駆動電極15に印加することにより、駆動壁13をせん断変形させて各ノズル21からインクをそれぞれ吐出させ、そのときのインク液滴の径をそれぞれ測定し、全ノズル21の径分布を求める。
【0074】
インク液滴の径の測定方法も特に問わないが、例えばノズル21から吐出されるインク液滴を撮像し、そのインク液滴の径を画像上で測定することにより求める方法等が挙げられる。
【0075】
このようにしてインク液滴の径分布を測定した後は、上述の方法と同様にして、各チャネル14間でインク液滴の径にばらつきが生じている場合に、径の大きいインク液滴を吐出するチャネル14に対し、径を小さくするように、ヘッドチップ1の後面側から、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工を施す。
【0076】
駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工としては、まず、図9(a)のように、レーザー加工により駆動壁13の表面に形成されている駆動電極15の一部を除去する方法が挙げられる。
【0077】
レーザーとしては、エキシマレーザー、SHGを用いた倍周波、THGを用いた3倍周波レーザーが好ましく、図示するように、チャネル14の入口141側から斜めとなるようにレーザー光を照射し、加工対象となる駆動壁13の駆動電極15の一部を除去する。圧電素子からなる駆動壁13は、その両面の駆動電極15に印加される電圧の電位差によってせん断変形を生ずるため、駆動電極15の面積が減少することによって駆動壁13の感度が低下し、その結果、駆動壁13のせん断変形量が減少してインクの吐出速度が低下する。
【0078】
一例として、チャネル14のインク吐出方向の長さ(L長)が2.5mmのヘッドチップ1において、チャネル14の入口141から25μmの深さまで駆動電極15を除去すれば、1%の駆動電極15が減少することになり、その分感度が低下する。実際は、駆動電極15の除去量と感度低下の程度とを予め測定して求めておき、そのデータに基づいて駆動電極15の除去量を決定すればよい。
【0079】
また、駆動壁13は、それ自体を一部除去することによってもせん断変形量が低下する。従って、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工として、図9(b)のように、レーザー加工により駆動壁13の一部を除去する方法も挙げられる。レーザーは駆動電極15を除去する場合と同様のレーザーを用いることができる。この場合も、駆動壁13の除去量と感度低下の程度とを予め測定して求めておき、そのデータに基づいて駆動壁13の除去量を決定すればよい。
【0080】
更に、分極処理された圧電素子は、加熱することによって脱分極が起こる。脱分極された圧電素子は感度が低下することによりせん断変形機能が低下する。従って、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工として、図9(c)のように、ヘッドチップ1の後面側から駆動壁13を加熱する方法も挙げられる。加熱には、加工対象となる駆動壁13のみをスポット状に加熱できるようにすることから、レーザーを用いることが好ましい。レーザーは駆動壁13が除去されない程度の出力とすることで、駆動壁13を加熱して感度を低下させることができる。
【0081】
この場合に用いることのできるレーザーとしては、特に限定はされないが、赤外半導体レーザー、YAGレーザー等が好ましい。駆動壁13の感度低下はレーザー照射部位で最も大きく、離れるに従って感度低下は少なくなるが、その程度は駆動電極15と駆動壁13の材質や厚さに依存する。従って、この場合も、駆動壁13の加熱量(加熱温度、加熱時間)と感度低下の程度とを予め測定して求めておき、そのデータに基づいて駆動壁13の加熱量を決定すればよい。
【0082】
その他、駆動壁13のせん断変形機能を低下させる加工として、ヘッドチップ1の後面側から駆動壁13自体を機械的に加工する方法も挙げられる。図9(d)は駆動壁13自体を機械的に一部除去することにより感度を低下させる場合を示している。機械的な加工は、駆動壁13をヘッドチップ1の後面側からエンドミル300を用いて研削することにより行うことができる。この場合も、駆動壁13の加工量と感度低下の程度とを予め測定して求めておき、そのデータに基づいて駆動壁13の加工量を決定すればよい。
【0083】
以上のように駆動壁13のせん断変形機能を調整する際、レーザー加工では、蒸発した金属がノズル21に付着する可能性があり、また、機械加工では、削り粉がノズル21に詰まる可能性がある。このようなノズル21へのダメージを避けるため、ノズル21に後に除去可能な保護剤を予め塗布しておくことが好ましい。後に除去可能な保護剤としては、有機溶剤で除去可能なレジスト等の有機高分子膜が好適である。
【0084】
駆動壁13とチャネル14とを交互に並設したインクジェットヘッドには、全てのチャネル14をインク吐出チャネルとし、隣接するチャネル14を3サイクルで順次駆動させるようにする3サイクルヘッドと、チャネル14をインク吐出チャネルと空チャネルとに分け、それらを交互に配置する独立チャネルタイプとがある。
【0085】
3サイクルヘッドの場合、一つの駆動壁13を隣り合う2つのチャネル14が共有するため、一つの駆動壁13の感度を低下させると、その駆動壁13の両側の2つのチャネル14からのインクの吐出速度に影響する。一般には、速度分布等のチャネル特性の不均一の原因は駆動壁13に起因することが多いので、以上のような方法で十分にチャネル特性を均一にすることができる。但し、まれに駆動壁13以外の原因でチャネル特性の不均一が発生している場合があるが、この場合もチャネル特性の不均一は改善される方向である。
【0086】
一方、独立チャネルタイプの場合、駆動壁13はインク吐出チャネルに専属のものであり、共有されることはない。この場合は、駆動壁13の加工はそれに専属のチャネル14にしか影響を与えないので、完全にチャネル特性を調整することが可能である。
【0087】
この独立チャネルタイプの場合、空チャネルにはインクが流入しないようにする必要がある。これは通常、ヘッドチップの後面に、図10に示すように、インク吐出チャネルにはインクを供給するための穴401があるが、空チャネルにはインクが流入しないように穴のないプレート400を貼ることで実現される。
【0088】
このプレート400を張った後で速度分布等のチャネル特性を測定し、ヘッドチップ1の後面側から加工を行う場合は、プレート400のインク供給用の穴401をチャネル14の入口面積より大きく形成しておき、図9(a)の様に斜めからレーザー光を照射することにより駆動電極15を除去する、またはレーザー光の照射により駆動壁13を加熱することにより加工を施すことができる。図9(b)、(d)の方法はこの場合適用することは困難である。
【0089】
以上の説明では、ヘッドチップ1の前面にノズルプレート2を接合し、ノズル21から実際にインクを吐出することにより、速度分布等のチャネル特性を測定したが、本発明に係るインクジェットヘッドHの構造によれば、実際にインクを吐出することなくチャネル特性を測定することも可能である。
【0090】
図11は、インクを吐出することなくチャネル特性を測定する方法の一例を説明する断面図である。
【0091】
ヘッドチップ1は、配線基板3及びFPC4、4を接合すれば、各駆動電極15に駆動電圧を印加可能となるので、接続電極16を形成したヘッドチップ1に配線基板3及びFPC4、4を接合し、ノズルプレートを接合しない状態まで作成した後、ヘッドチップ1の前面を閉塞する。ここではヘッドチップ1の前面に剥離可能な接着剤等を用いて蓋部材500を貼り付けている。その他、ヘッドチップ1の前面を弾性部材等に圧接してチャネル14の出口142側を密閉してもよい。
【0092】
その後、ヘッドチップ1の前面側を下にして各チャネル14内に液体Wを充填し、各チャネル14の駆動電極15に共通の駆動電圧を印加することにより駆動壁13をせん断変形させる。各チャネル14に充填される液体Wとしては、不揮発性の液体が好ましく、例えば油系インク等が挙げられる。
【0093】
駆動電極15に駆動電圧を印加すると、駆動壁13はくの字型にせん断変形し、チャネル14内の容積を縮小又は拡大させ、これによりチャネル14内に充填された液体Wの液面は上下方向に動く。この液体Wの液面の挙動をレーザードップラー測定器600を用いて測定することにより、各チャネル14の特性を測定することができ、このチャネル特性から全チャネル14の速度分布を予測することができる。
【0094】
このようにして全チャネル14のチャネル特性を測定した後、ヘッドチップ1の後面側から駆動壁13のせん断変形機能を調整すればよい。ノズルプレート2は加工前、後のいずれに接合してもよいが、ノズル21の保護の観点から、加工後に接合することが好ましい。
【0095】
なお、インク吐出チャネルと空チャネルとを交互に配置した独立チャネルタイプの場合に、この方式でノズルプレート2を貼る前に各チャネル14の特性を求める場合は、インク吐出チャネルにのみ液体Wを充填すればよい。これはインクジェットヘッドにより、液体Wを吐出するチャネルのみに充填することで行える。この場合も、前述した図9(b)、(d)の方法を適用すると、その後で、図10に示すように後端を塞ぐプレート400を貼ることが困難になるので、図9(a)、図9(c)の方法が望ましい。
【0096】
また、水系インクのように駆動電極15を腐食させる液体を吐出する場合は、各駆動電極15を保護するための保護膜を形成する必要がある。保護膜としては例えばポリパラキシリレン膜を使用することができる。
【0097】
保護膜としてポリパラキシリレン膜を形成した後に、せん断変形機能を低下させる加工を行うと、保護膜の機能を低下させる恐れがある。また、ポリパラキシリレン膜はCVDによって形成され、ヘッドチップ1の全面に付着するため、保護膜形成時にノズルプレート2がヘッドチップ1に貼り付けてあるのは好ましくない。従って、保護膜を形成する場合は、ノズルプレート2を貼る前に、図11に示したようにレーザードップラー測定器600を用いてチャネル特性を測定した後、せん断変形機能を調整する加工を行い、その後、保護膜を形成し、その後にノズルプレート2を貼り付けるようにすることが好ましい。または、チャネル特性を測定するために一時的にノズルプレート2を貼り付ける仮貼りを行い、測定後にノズルプレート2を除去し、せん断変形機能を調整する加工を行い、保護膜を形成した後にノズルプレート2を貼り付ける本貼りを行うようにすることが好ましい。
【0098】
なお、保護膜として酸化シリコン膜、窒化シリコン膜等の耐熱性の高い膜を用いる場合は、保護膜を形成し、ノズルプレート2を貼付けた後、チャネル特性を測定し、レーザー光を照射して駆動壁13を加熱することにより、外観上変化を与えない方法でせん断変形機能を調整する加工を行うことは可能である。
【0099】
チャネル特性を均一にするための駆動壁13の加工が終了したら、必要に応じて配線基板3にインクマニホールド5を接合してインクジェットヘッドHを完成させる。
【0100】
更に、インクを吐出することなくチャネル特性を測定する方法の他の一例としては、各チャネル14の駆動壁13の容量分布を測定する方法も挙げられる。
【0101】
駆動壁13の容量を測定するには、例えば図12に示すように、LCRメーター700に接続した2本のプローバー701、701を、隣り合う配線電極33に接触させることで、当該2本の配線電極33に電気的に接続している駆動電極15が形成されている駆動壁13の容量を測定することができる。この測定には、自動ステージを使用し、コンピュータ制御することで、全駆動壁13の容量測定を容易に行うことができ、この容量分布から全チャネル14の速度分布を予測することができる。
【0102】
このようにして全チャネル14の容量を測定した後、その容量分布に基づいてヘッドチップ1の後面側から駆動壁13のせん断変形機能を調整すればよい。
【0103】
以上説明したチャネル特性の測定と駆動壁13のせん断変形機能の調整は、必要に応じて複数回繰り返すことが好ましく、これにより更にチャネル特性を均一化させる効果を向上させることが可能である。
【0104】
図13は配線基板の別の態様を示している。図1、図2と同一符号の部位は同一構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0105】
この配線基板は、ヘッドチップ1の2列のチャネル列にそれぞれ独立した2枚の基板6、6により構成されている。各配線基板6、6を形成する基板は、配線基板3と同一のものを使用することができる。
【0106】
各配線基板6、6は、ヘッドチップ1との接合面に該ヘッドチップ1の接続電極16とそれぞれ対応する配線電極61が形成されており、ヘッドチップ1の後面の各チャネル列の接続電極16の形成領域に、その一端が、各配線電極61と各接続電極16とが電気的に接続するように接合され、他端側はチャネル列と直交する方向に張り出している。この張り出し端は配線接続部62、62となっており、それぞれFPC4、4の各配線41が各配線電極61と電気的に接続するように接合されている。
【0107】
各配線基板6、6は間に空間部63をおいて互いに離隔しており、その空間部63にヘッドチップ1の後面に臨む全駆動壁13、全チャネル14及び全駆動電極15が露呈している。従って、上記同様に、実際にインクを吐出して又は吐出することなくチャネル特性を測定した後にヘッドチップ1の後面側から空間部63を通して各駆動壁13のせん断変形機能を調整する加工を施すことが容易である。
【0108】
この配線基板6、6によれば、単純な構成の基板を用いるだけでよく、配線基板3のような開口部32を加工する必要がないため、より低コスト化を図ることができる。また、各配線基板6、6を独立してヘッドチップ1に接合することができるため、一方の配線基板6の配線電極61と接続電極16との電気的接続が他方の配線基板6の電気的接続に影響を与えることがなく、ショートの危険の少ない確実な電気的接続が容易に行える。
【0109】
各配線基板6、6間の空間部63も、配線基板6、6が十分な厚みを有している場合には、ヘッドチップ1の全チャネル14に共通のインク共通室を構成することができる。配線基板6、6に更にインクマニホールド5を接合してもよい。
【0110】
空間部63の両側の開放部631、632は図示しない部材によって閉塞してもよいし、インク供給口又はインク排出口として利用してもよい。また、空間部63をインク共通室として利用する場合は、一方の開放部631をインク供給口として利用し、他方の開放部632をインク排出口として利用してインク共通室内をインクが循環するようにしてもよい。
【0111】
以上説明したインクジェットヘッドHでは、配線基板3、6を板状の基板により形成し、その配線接続部31、62にFPC4を接続するようにしたが、配線基板3、6そのものをFPCによって形成してもよい。これにより、ヘッドチップ1と配線基板との接合と各駆動電極15への駆動電圧の印加のための配線接続とが同時に行え、工数が削減できる。
【0112】
また、以上説明したインクジェットヘッドHのヘッドチップ1は、チャネル列が2列の場合であるが、チャネル列は1列のみであってもよく、また、3列以上の複数列であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
1:ヘッドチップ
10、10A:ヘッド基板
11:ベース基板
12:カバー基板
13:駆動壁
13a、13b:圧電素子基板
14:チャネル
141:チャネルの入口
142:チャネルの出口
15:駆動電極
16:接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線基板
31:配線接続部
32:開口部
33:配線電極
4:FPC
41:配線
5:インクマニホールド
51:開口
52:インク供給口
6:配線基板
61:配線電極
62:配線接続部
63:空間部
631、632:開放部
100:積層ヘッド基板
200:感光性ドライフィルム
201:開口部
300:エンドミル
400:プレート
500:蓋部材
600:レーザードップラー測定器
700:LCRメーター
701:プローバー
H:インクジェットヘッド
W:液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置され、前記駆動壁に駆動電極が形成されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することにより前記駆動壁をせん断変形させ、前記チャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ヘッドチップを作成した後、該ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の速度を測定することにより各インク液滴の速度分布を測定する工程と、
測定された速度分布に基づいて該速度分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の体積を測定することにより各インク液滴の体積分布を測定する工程と、
測定された体積分布に基づいて該体積分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルにインクを供給し、前記駆動電極に電圧を印加して各ノズルからそれぞれインクを吐出させ、各インク液滴の径を測定することにより各インク液滴の径分布を測定する工程と、
測定された各インク液滴の径分布に基づいて該径分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記ヘッドチップを作成した後、該ヘッドチップの前面から全チャネルを閉蓋する工程と、
各チャネルに液体を充填し、前記駆動電極に電圧を印加して前記駆動壁をせん断変形させ、その時の前記液体の挙動をレーザードップラー測定器で測定することにより、各チャネル特性を測定する工程と、
前記測定されたチャネル特性に基づいて、該チャネル特性が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記ヘッドチップを作成した後、各チャネルの前記駆動壁の容量分布を測定する工程と、
前記測定された容量分布に基づいて、該容量分布が均一となるように、前記ヘッドチップの後面側から、前記駆動壁のせん断変形機能を調整する工程とを有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ヘッドチップの後面に、前記駆動電極と電気的に接続する接続電極を形成する工程と、
前記接続電極に対応する配線電極が形成されると共に、前記ヘッドチップのチャネル列に対応する領域に開口部を有し、該ヘッドチップよりもチャネル列方向と直交する方向に張り出す大きさを有する配線基板を、前記接続電極と前記配線電極の一端とが電気的に接続し、且つ、前記開口部から前記ヘッドチップの全チャネルが露呈するように接合する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記ヘッドチップの後面に、前記駆動電極と電気的に接続する接続電極を形成する工程と、
前記接続電極に対応する配線電極が形成された配線基板の一端を、前記接続電極と前記配線電極の一端とが電気的に接続し、且つ、前記ヘッドチップの全チャネルが露呈するように前記ヘッドチップの後面の前記接続電極の形成領域に接合する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、レーザーにより、前記駆動電極と前記駆動壁の少なくとも一方の一部を除去することにより行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、前記駆動電極と前記駆動壁の少なくとも一方の一部を機械的に除去することにより行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記駆動壁のせん断変形機能の調整は、レーザーにより、前記駆動壁の一部を加熱することにより行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−240716(P2011−240716A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197580(P2011−197580)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2006−165378(P2006−165378)の分割
【原出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】