説明

インクジェットヘッド及びその製造方法

【課題】従来より微小な液滴を高精度に着弾させることが可能な形状精度の高い吐出口を有するインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】ノズル層と撥液層とが形成されたインクの吐出口を備えるインクジェットヘッドであって、撥液層がカチオンの拡散が小さいアニオン部を有する熱カチオン開始剤を含む撥液層原料を硬化した層であることにより、形状精度の高い吐出口を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するための吐出口表面が撥液処理されたインクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吐出口の形成されているノズル層上に撥液層が形成されているインクジェットヘッドの製造方法として、以下に示す方法が特許文献1に開示されている。まず、基板上にカチオン重合性樹脂を含むノズル層を形成する。その後、該ノズル層上に、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とからつくられる縮合生成物である撥液層を形成する。この際、撥液層中の塗布溶媒を除去するために加熱処理を行う。次に、インクを吐出するための吐出口を形成するために、マスクを用いて所望の形状にパターン露光を行う。その後、現像処理にて未露光部を除去することで吐出口を形成する。また、該撥液層に光カチオン開始剤を添加してもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−518587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、撥液層に光カチオン開始剤を添加しない場合にも、ノズル層であるカチオン重合性樹脂に添加されている光カチオン開始剤の働きにより撥液層を硬化することが可能である。更に、撥液層に光カチオン開始剤を添加することで、撥液層の硬化に必要な光照射の露光量マージンを増やすことも出来る。そして、これらは現在一般家庭やオフィス等にあるインクジェットヘッドで出力した画像の画質を満足するには充分な構成である。
【0005】
しかしながら、今後出力画像の更なる高画質化を実現するために飛翔液滴の現状以上の小液滴化を行う場合、吐出口の形状は今まで以上に高い均一性が求められる。小液滴になるほど飛翔液滴の運動エネルギーが小さくなり外的影響を受け易いため、吐出口が不均一である場合にはその影響により吐出方向が定まらない場合がある。特許文献1記載の方法において、パターン露光の露光量が多い場合には、基板表面の段差によって発生する照射光の反射により微小な吐出口変形が発生し、真円パターンがやや楕円形となる場合がある。しかし、この微小な吐出口変形は、現状までの吐出口の大きさならば問題にならなかったが、更なる小液滴を高精度に着弾させるための微小吐出口においては問題となりえる。微小吐出口の形成においては、従来の方法では露光量を現状よりも大幅に減らすことで、照射光の基板からの反射の影響を抑制することが必要である。しかしながら、撥液層の感度がノズル層の感度よりも低い場合には、露光量を大幅に低減すると撥液層の硬化は困難となる。また、撥液層に光カチオン開始剤を添加した場合においても、露光量を現状よりも大幅に低減すると発生するカチオンの量が微量となり、同様に撥液層の硬化は困難となる。
【0006】
一方、撥液層に熱カチオン開始剤を添加することが考えられる。この場合には、撥液層原料を塗布した後に加熱処理を行うことで撥液層を事前にある程度まで硬化することが可能となり、露光量を現状よりも大幅に低減しても撥液層を十分に硬化出来る。しかしながら、カチオンの拡散距離が大きい熱カチオン開始剤を使用すると、加熱処理により撥液層からカチオンが拡散しノズル層にまで及んでしまうため、本来除去すべき吐出口のパターン部分にまで該カチオンが拡散する。これにより、吐出口のエッジ付近において、ノズル層から発せられるカチオンの拡散との相乗効果により、除去すべきノズル層部分も硬化してしまい、吐出口が大きく変形する課題を有する。
【0007】
本発明は、従来より微小な液滴を高精度で着弾させることが可能な形状精度の高い吐出口を有するインクジェットヘッド及びその製造方法の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットヘッドは、インクを吐出するための吐出口が形成されるノズル層と、該ノズル層上に形成された撥液層と、を有するインクジェットヘッドであって、前記撥液層が、下記式(1)
f−Si(R1b(3-b) (1)
(Rfは炭素原子に結合する1個から30個のフッ素原子を有する非加水分解性置換基、R1は非加水分解性置換基、Xは加水分解性置換基、bは0から2の整数を示す)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、下記式(2)
c−Si(R1b(3-b) (2)
(Rcはカチオン重合性基を有する非加水分解性置換基を示し、R1、X及びbは前記式(1)と同義である)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、を縮合することで得られるシロキサン化合物と、下記式(3)
(R2−Y−)m−Z-−(−F)n (3)
(Zは炭素原子、窒素原子、リン原子及びホウ素原子からなる群から選ばれる1つの原子、Yは−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合からなる群から選ばれる1つの基、R2はフッ素置換されていてもよい炭化水素基を示す。mとnは、Zが炭素原子の場合、m+n=3、且つn=0から2の整数、Zが窒素原子の場合、m+n=2、且つn=0又は1、Zがリン原子の場合、m+n=6、且つn=0から6の整数、Zがホウ素原子の場合、m+n=4、且つn=0から3の整数を示す)で表されるアニオン部を有する熱カチオン開始剤と、を含む撥液層原料を硬化した層である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来より微小な液滴を高精度で着弾させることが可能な形状精度の高い吐出口を有するインクジェットヘッド及びそれを安定的に生産可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[インクジェットヘッド]
図1に、本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの断面模式図を示す。図1に示すインクジェットヘッドは、インクを吐出するためのエネルギーを発生する複数の発熱素子2を有する素子基板1と、素子基板1上にフォトリソグラフィ工程によって形成されるノズル層3とを有する。また、ノズル層3には、インクを吐出する吐出口4及び発熱素子2によって与えるエネルギーによりインクが発泡する領域である発泡室5が形成されている。ノズル層3上には撥液層6が形成されている。また、素子基板1には、インクを発泡室5へ送り込むインク流路7が形成されている。
【0012】
(撥液層)
本発明に係る撥液層は、下記式(1)
f−Si(R1b(3-b) (1)
で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、下記式(2)
c−Si(R1b(3-b) (2)
で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、を縮合することで得られるシロキサン化合物と、下記式(3)
(R2−Y−)m−Z-−(−F)n (3)
で表されるアニオン部を有する熱カチオン開始剤と、を含む撥液層原料を硬化した層である。
【0013】
前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物において、Rfは炭素原子に結合する1個から30個のフッ素原子を有する非加水分解性置換基である。Rfとしては、CF3(CF2l−A−であることが好ましい。lは整数であり、0から20が好ましく、3から15がより好ましく、5から10が更に好ましい。Aは10個を超えない炭素原子を含有することが好ましく、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、メチレンオキシ、エチレンオキシ、プロピレンオキシ及びブチレンオキシ等、6個を超えない炭素原子を有する二価のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であることがより好ましい。最も好ましいのはエチレンである。R1は非加水分解性置換基である。R1としては、メチル基等が挙げられる。Xは加水分解性置換基である。Xとしては、アルコキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が好ましく、メトキシ、エトキシであることがより好ましい。bは0から2の整数である。bは0又は1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
【0014】
前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物としては、例えば以下の化合物が挙げられる。CF3−C24−SiX3;C25−C24−SiX3;C49−C24−SiX3;C613−C24−SiX3;C817−C24−SiX3;C1021−C24−SiX3。Xはメトキシ基又はエトキシ基である。なお、前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物はこれらの化合物に限定されない。また、前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物において、Rcはカチオン重合性基を有する非加水分解性置換基を示す。カチオン重合性有機基としては、ビニルエーテル基や、エポキシ基、オキセタン基等によって表される環状エーテル基を用いることができる。入手の容易さ及び反応制御の観点からエポキシ基が好ましい。Rcとしては、グリシドキシプロピル基、エポキシシクロヘキシルエチル基等が挙げられる。前記式(2)において、R1、X及びbは前記式(1)と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0016】
前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物としては、例えば、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物はこれらの化合物に限定されない。また、前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に係る撥液層原料は、前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、を縮合することで得られるシロキサン化合物を含む。前記シロキサン化合物は水の存在下、前記式(1)で表される化合物と前記式(2)で表される化合物の加水分解反応により調製される。前記シロキサン化合物の縮合の度合いは、反応温度、pH等によって適切に制御できる。さらに、金属アルコキシドを加水分解反応の触媒として用い、加水分解反応の結果として縮合の度合いを制御することも可能である。金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド及びその錯体(アセチルアセトン錯体等)が好ましい。なお、本発明においては、前記式(1)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、前記式(2)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とは、異なる化合物を用いる。
【0018】
本発明に係る撥液層原料は、前記式(3)で表されるアニオン部を有する熱カチオン開始剤を含む。該熱カチオン開始剤は特定のアニオン部を有するため、カチオンの拡散が小さく、後述する加熱工程において撥液層からノズル層へのカチオンの拡散を抑制することができる。これにより、吐出口形成のために除去されるノズル層部分の不必要な硬化を抑制することができ、所望の形状の吐出口を形成することができる。
【0019】
前記式(3)において、Zは炭素原子、窒素原子、リン原子及びホウ素原子からなる群から選ばれる1つの原子を示す。Yは−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合からなる群から選ばれる1つの基を示す。R2はフッ素置換されていてもよい炭化水素基を示す。R2としては、例えばCF3−、C25−等が挙げられる。なお、mが2以上である場合、R2同士が互いに結合していてもよい。mとnは、Zが炭素原子の場合、m+n=3、且つn=0から2の整数、Zが窒素原子の場合、m+n=2、且つn=0又は1、Zがリン原子の場合、m+n=6、且つn=0から6の整数、Zがホウ素原子の場合、m+n=4、且つn=0から3の整数を示す。
【0020】
前記式(3)で表されるアニオン部を有する熱カチオン開始剤としては、例えば、下記式(3−a)から(3−h)で表される化合物が例示される。
【0021】
【化1】

【0022】
この中でも(3−a)、(3−b)が好ましい。なお、前記熱カチオン開始剤はこれらの化合物に限定されない。また、前記熱カチオン開始剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。撥液層原料中には、前記シロキサン化合物と前記熱カチオン開始剤以外にも、塗布溶媒としてエタノール等が含まれてもよい。
【0023】
(ノズル層)
ノズル層原料としては特に限定されないが、後述するようにパターン露光により露光部を硬化させる観点から、光重合性の材料を用いることが好ましい。例えば、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及び光カチオン開始剤を含む材料を用いることが出来る。
【0024】
[インクジェットヘッドの製造方法]
以下、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を、図2を用いて示す。インクを吐出するためのエネルギーを発生する複数の発熱素子2を有する素子基板1を用意する(図2(a))。前記素子基板1上に発泡室5となる型材8を形成する(図2(b))。型材8としては、型材8上にノズル層3が形成された際にその崩壊を防ぐために、ポジ型レジスト、特に比較的分子量の大きい光分解性ポジ型レジストを用いることが好ましい。次に、型材8及び素子基板1上に前記ノズル層原料を塗布してノズル層原料層3を形成する(図2(c))。ノズル層原料層3は、ノズル層原料をスピンコーティング法、直接塗布法により塗布することで作製することができる。次に、ノズル層原料層3上に前記撥液層原料を塗布して撥液層原料層6を形成する(図3(d))。撥液層原料層6はノズル層原料層3と同様の方法により作製することができる。その後、加熱処理を行う。該加熱処理により、撥液層原料層6中の塗布溶媒を除去し、かつ熱カチオン開始剤の作用によりカチオンが発生し、撥液層原料層6は硬化し始める。該加熱処理における加熱温度は50〜100℃が好ましい。また、加熱処理後の撥液層原料層6の厚みは、0.05〜1.0μmであることが好ましい。
【0025】
次に、ノズル層原料層3及び撥液層原料層6の硬化領域に対して、マスク9を用いて紫外線10を照射し、パターン露光を行う(図3(e))。これにより、ノズル層原料層3及び撥液層原料層6の露光部を硬化し、ノズル層3及び撥液層6とすることができる。紫外線10の波長としては特に限定されないが、例えばi線を用いることができる。露光量としては、ノズル層原料層3及び撥液層原料層6を十分に硬化でき、かつ素子基板1表面の段差により発生する照射光の素子基板1からの反射の影響を十分低減できる露光量を適宜選択することができる。これにより、微小な吐出口の形成においても吐出口変形を抑制することができる。その後、必要に応じて露光部の硬化反応を促進させるために加熱処理する。次に、現像処理により未露光部を除去することでノズル層3及び撥液層6に吐出口4を形成する(図3(f))。本発明に係る熱カチオン開始剤は、カチオンの拡散が非常に小さいアニオン部を有するため、未露光部のノズル層原料層3は硬化せず、撥液層原料層6のみを硬化する。ノズル層原料層3の未露光部が現像されると同時に撥液層原料層6の未露光部が除去されることで、凹凸のない滑らかなエッジ部とマスク9形状に対して非常に綺麗な相似形状を示す吐出口4を形成することができる。次に、インク流路7を素子基板1に公知の方法で作製し(図3(g))、型材8を溶解除去する(図3(h))。以上の工程によりインクジェットヘッドが完成する。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、「部」は「質量部」を示す。
【0027】
[実施例1]
本実施例において、ノズル層原料には表1の組成からなる光重合性の材料を用いた。
【0028】
【表1】

【0029】
本実施例において、撥液層原料には、C1021−C24−SiX3(Xはエトキシ基)とγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとの縮合生成物に、下記式(4)で示される熱カチオン開始剤を混合した材料を用いた。また、撥液層6原料の塗布溶媒としてエタノールを用いた。
【0030】
【化2】

【0031】
本実施例では図2に示す方法でノズル層3及び撥液層6を形成し、インクジェットヘッドを作製した。まず、発熱素子2を複数備える素子基板1上に、発泡室5となる型材8を形成した(図2(a)、(b))。次に、前記ノズル層原料を塗布し、ノズル層原料層3を形成した(図2(c))。その後、前記撥液層原料を塗布し、撥液層原料層6を形成した(図2(d))。この後、撥液層原料層6中の塗布溶媒を除去するため、また撥液層原料層6の硬化を開始するため70℃で3分間加熱処理を行った。次に、ノズル層原料層3及び撥液層原料層6の硬化領域に対して、マスク9を用いて紫外線10の照射を行った(図2(e))。本実施例においては、紫外線10はi線による単波長での露光とした。その後、90℃で4分間加熱処理を行った。次に、未露光部を溶解除去し、円形の吐出口4を形成した(図2(f))。その後、素子基板1にインク流路7を形成した(図2(g))。次に、型材8を溶解除去し、発泡室5を形成した(図2(h))。これによりインクジェットヘッドを得た。本実施例では、円形の吐出口4の面積が490μm2、210μm2、70μm2、35μm2の4種類のインクジェットヘッドを作製した。
【0032】
(吐出口4の形状評価)
円形の吐出口4の形状評価として、円形の吐出口4の真円度による評価を行った。真円のマスク9を用いて吐出口4の形成を行った場合でも、下地の凹凸等からの反射の影響で実際に出来上がる吐出口4にゆがみが発生し、真円とならない場合がある。そこで、形成された吐出口4の最長径と最短径とを測定し、真円度として数値化した。真円度は最長径/最短径で表され、以下の基準で評価した。
◎:1以上、1.05未満
○:1.05以上、1.1未満
△:1.1以上、1.2未満
×:1.2以上。
【0033】
(撥水性評価)
撥液層6の撥水性の評価として、撥液層6表面における純水の動的後退接触角による評価を行った。評価は以下の基準で行った。
◎:90°以上
○:75°以上、90°未満
△:65°以上、75°未満
×:65°未満。
【0034】
表2に、前記4種類のインクジェットヘッドにおける前記評価結果を示す。なお、表2における吐出口面積とは、大:490μm2、中:210μm2、小:70μm2、微小:35μm2を示す。
【0035】
[比較例1]
撥液層原料に熱カチオン開始剤を混合しなかったこと以外は実施例1と同様に4種類のインクジェットヘッドを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0036】
[比較例2]
前記式(4)で示される熱カチオン開始剤の代わりに、六フッ化アンチモンをアニオン部とする光カチオン開始剤を用いた以外は実施例1と同様に4種類のインクジェットヘッドを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0037】
[比較例3]
前記式(4)で示される熱カチオン開始剤の代わりに、六フッ化アンチモンをアニオン部とする熱カチオン開始剤を用いた以外は実施例1と同様に4種類のインクジェットヘッドを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例1、2及び3に比べて実施例1は、吐出口4の面積が小さい場合においても、形状、撥水性ともに良好な状態であり、本発明の効果が確認出来た。
【符号の説明】
【0040】
1 素子基板
2 発熱素子
3 ノズル層(ノズル層原料層)
4 吐出口
5 発泡室
6 撥液層(撥液層原料層)
7 インク供給口
8 型材
9 マスク
10 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口が形成されるノズル層と、該ノズル層の上に形成された撥液層と、を有するインクジェットヘッドであって、
前記撥液層が、下記式(1)
f−Si(R1b(3-b) (1)
(Rfは炭素原子に結合する1個から30個のフッ素原子を有する非加水分解性置換基、R1は非加水分解性置換基、Xは加水分解性置換基、bは0から2の整数を示す)で表されるフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、下記式(2)
c−Si(R1b(3-b) (2)
(Rcはカチオン重合性基を有する非加水分解性置換基を示し、R1、X及びbは前記式(1)と同義である)で表されるカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、を縮合することで得られるシロキサン化合物と、下記式(3)
(R2−Y−)m−Z-−(−F)n (3)
(Zは炭素原子、窒素原子、リン原子及びホウ素原子からなる群から選ばれる1つの原子、Yは−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合からなる群から選ばれる1つの基、R2はフッ素置換されていてもよい炭化水素基を示す。mとnは、Zが炭素原子の場合、m+n=3、且つn=0から2の整数、Zが窒素原子の場合、m+n=2、且つn=0又は1、Zがリン原子の場合、m+n=6、且つn=0から6の整数、Zがホウ素原子の場合、m+n=4、且つn=0から3の整数を示す)で表されるアニオン部を有する熱カチオン開始剤と、を含む撥液層原料を硬化した層であるインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記熱カチオン開始剤のアニオン部が、下記式(3−a)
【化1】

で表される請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記熱カチオン開始剤のアニオン部が、下記式(3−b)
【化2】

で表される請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法であって、
光重合性のノズル層原料を含むノズル層原料層の上に、前記撥液層原料を塗布して撥液層原料層を形成する工程と、該ノズル層原料層及び撥液層原料層を加熱処理する工程と、該ノズル層原料層及び撥液層原料層をパターン露光して露光部を硬化し、ノズル層及び撥液層とする工程と、現像処理により未露光部を除去することで該ノズル層及び撥液層に吐出口を形成する工程と、を含むインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81601(P2012−81601A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227490(P2010−227490)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】