説明

インクジェットヘッド及びその駆動方法

【課題】高品位の印刷が可能なインクジェットヘッド及びその駆動方法を提供する。
【解決手段】 インクを取り込むインク圧力室と、前記インク圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、前記ノズル穴からインク滴を吐出させる駆動パルス信号または前記ノズル穴からインク滴を吐出させないダミーパルス信号を前記アクチュエータに印加するパルス信号生成部と、を備え、前記駆動パルス信号は、前記インク圧力室の容積を拡張させる時間t1の拡張パルス、及び、前記拡張パルスに続く時間t2の後に前記インク圧力室の容積を収縮させる時間t3の収縮パルスを含み、前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を変化させる時間t4のパルスを含み、時間t4は、(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6の範囲に設定されたことを特徴とするインクジェットヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッド及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴をノズル穴から吐出するインクジェットヘッドにおいては、インク滴を吐出した後に、インク滴を吐出しない休止時間が長くなると、ノズル穴付近でインクに含まれる溶媒が蒸発し、インクの粘度が高くなる現象(増粘)が発生する。このようなインクの増粘により、インク滴がノズル穴から吐出しにくくなり、吐出遅延や吐出体積の減少といった不具合の発生を招くおそれがある。また、ノズル穴が目詰まりを起こしてしまうと、インク滴が吐出せず、印刷の掠れを生ずるおそれがある。
【0003】
このようなインクの増粘を抑制する方法として、アクチュエータにダミーパルス信号を印加し、インク滴を吐出させない程度にインク圧力室の容積を変化させるといった技術がある。しかしながら、例えダミーパルス信号を印加したとしてもインクの増粘を十分に抑制できない場合には、印刷時に本来吐出すべきメインのインク滴が尾をひき、メインのインク滴によって形成されたメインドットに加えて微小なインク滴によって形成された微小ドット(サテライト)が媒体上に印刷されてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−066867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態の目的は、高品位の印刷が可能なインクジェットヘッド及びその駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、
インクを取り込むインク圧力室と、前記インク圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、前記ノズル穴からインク滴を吐出させる駆動パルス信号または前記ノズル穴からインク滴を吐出させないダミーパルス信号を前記アクチュエータに印加するパルス信号生成部と、を備え、前記駆動パルス信号は、前記インク圧力室の容積を拡張させる時間t1の拡張パルス、及び、前記拡張パルスに続く時間t2の後に前記インク圧力室の容積を収縮させる時間t3の収縮パルスを含み、前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を変化させる時間t4のパルスを含み、時間t4は、(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6の範囲に設定されたことを特徴とするインクジェットヘッドが提供される。
【0007】
本実施形態によれば、
インクを取り込むインク圧力室と、前記インク圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル穴からインク滴を吐出させる駆動パルス信号または前記ノズル穴からインク滴を吐出させないダミーパルス信号を前記アクチュエータに印加する駆動方法であって、前記駆動パルス信号は、前記インク圧力室の容積を拡張する時間t1の拡張パルス、及び、拡張パルスに続く時間t2の後に前記インク圧力室の容積を収縮する時間t3の収縮パルスを含み、前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を変化させる時間t4のパルスを含み、時間t4は、(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6の範囲に設定されたことを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態におけるインクジェットヘッドの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したインクジェットヘッドを構成するアクチュエータを概略的に示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示したインクジェットヘッドを構成するノズルプレートを概略的に示す上面図である。
【図4】図4は、本実施形態におけるインクジェットヘッドにおいてノズル穴からインクが吐出される過程を説明するための図である。
【図5】図5は、本実施形態におけるインクジェットヘッドにより印字される印字パターンのドット図である。
【図6】図6は、インクの増粘によって生ずる不具合を説明するための印字パターンとドットとの関係を示す図である。
【図7】図7は、インクの増粘を十分に抑制できなかった場合に生ずる不具合を説明するための図である。
【図8】図8は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1に適用可能な駆動技術であって、第1方向に並んだ3個のインク圧力室の容積を順次変化させる駆動技術の一例を説明するための図である。
【図9】図9は、ダミーパルス信号の時間に対するサテライトの発生の有無を確認した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【0011】
このインクジェットヘッド1は、主要部10、及び、ノズルプレート20、マスクプレート30、ホルダ40、及び、パルス信号生成部50を備えている。主要部10は、絶縁基板11、枠体12、アクチュエータ13などを備えて構成されている。
【0012】
絶縁基板11は、例えば、アルミナなどのセラミックス製であり、第1方向Xに沿って延出した四角形の板状に形成されている。この絶縁基板11は、ノズルプレート20と対向する側に上面11Aを有するとともに、ホルダ40と対向する側に下面11Bを有している。このような絶縁基板11は、インク供給口11in及びインク排出口11outを有している。これらのインク供給口11in及びインク排出口11outは、上面11Aから下面11Bまで貫通している。
【0013】
枠体12は、例えば、金属製であり、矩形枠状に形成されている。この枠体12は、絶縁基板11の上面11Aに配置されている。アクチュエータ13は、絶縁基板11の上面11Aにおいて枠体12で囲まれた内側に配置されている。各アクチュエータ13は、第1方向Xに概ね直交する第2方向Yに沿って延出している。これらのアクチュエータ13は、第1方向Xに沿って並んでいる。第1方向Xに沿って並んだアクチュエータ13の間には、第2方向Yに沿って延出したインク圧力室14がスリット状に形成される。
【0014】
図示した例では、アクチュエータ13は、第1方向Xに沿って2列に配置されている。複数のインク排出口11outは、絶縁基板11の略中央部、つまり、2列のアクチュエータ13の間において第1方向Xに沿って並んでいる。複数のインク供給口11inは、絶縁基板11の周辺部、つまり、枠体12とアクチュエータ13との間において第1方向Xに沿って並んでいる。このような構成により、インク供給口11inのそれぞれからインク圧力室14に向けてインクが供給され、インク圧力室14を通過したインクがインク排出口11outのそれぞれから排出される。
【0015】
ノズルプレート20は、例えば、ポリイミド製であり、第1方向Xに沿って延出した四角形の板状に形成されている。このノズルプレート20は、第1方向X及び第2方向Yに直交する第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このノズルプレート20は、マスクプレート30と対向する側に上面20Aを有するとともに、主要部10と対向する側に下面20Bを有している。このノズルプレート20の下面20Bと、枠体12及びアクチュエータ13とは、図示しない接着剤により接着されている。
【0016】
このようなノズルプレート20は、ノズル穴21を有している。各ノズル穴21は、それぞれインク圧力室14に対向して形成されている。図示した例では、互いに隣接するノズル穴21は、第1方向Xに沿った同一直線上に形成されていない。これらのノズル穴21のレイアウトについては後に詳述する。
【0017】
マスクプレート30は、例えば、金属製であり、ノズルプレート20を囲む枠状に形成されている。このマスクプレート30は、第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このマスクプレート30は、ノズルプレート20の外径と略同等の四角形状の開口部30Aを有している。このマスクプレート30と、枠体12とは、図示しない接着剤により接着されている。
【0018】
ホルダ40は、第3方向Zに沿って主要部10の下方に配置されている。このホルダ40は、インク供給口11inに向けてインクを導入するためのインク導入路41、及び、インク排出口11outから排出されたインクを回収するインク回収路42を有している。インク導入路41には、図示しないインクタンクからインクを導入するための導入用パイプP1が接続されている。インク回収路42には、インクをインクタンクに回収するための回収用パイプP2が接続されている。このホルダ40は、主要部10と対向する側に上面40Aを有している。このホルダ40の上面40Aと、絶縁基板11の下面11Bとは、図示しない接着剤により接着されている。
【0019】
絶縁基板11の上面11Aにおいて、枠体12の外側には、詳述しないがアクチュエータ13に電気的に接続された端子が配置され、図示しない異方性導電膜を介して配線基板15が実装されている。パルス信号生成部50は、アクチュエータ13を駆動するのに必要なパルス信号を生成する。このパルス信号生成部50は、配線基板15を介して各アクチュエータ13にパルス信号を印加する。このパルス信号は、インク圧力室14の容積を変化させるものであり、後述する駆動パルス信号及びダミーパルス信号を含んでいる。
【0020】
ホルダ40と絶縁基板11とを接着する接着剤、ノズルプレート20と枠体12及びアクチュエータ13とを接着する接着剤、及び、マスクプレート30と枠体12とを接着する接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化型樹脂が適用可能である。
【0021】
図2は、図1に示したインクジェットヘッド1を構成するアクチュエータ13を概略的に示す断面図である。
【0022】
アクチュエータ13は、隔壁131を形成する圧電部材131A及び131B、及び、これらの隔壁131の両側面にそれぞれ形成された電極132及び133によって構成されている。インク圧力室14は、隣接する2つのアクチュエータ13の間に形成されている。
【0023】
圧電部材131A及び131Bは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製である。圧電部材131Aは絶縁基板11の上面に形成され、圧電部材131Bは圧電部材131Aの上に貼り合わせられている。圧電部材131Aの分極方向は、図中の矢印で示すように圧電部材131Bの分極方向と互いに逆向きである。
【0024】
電極132及び133は、例えば、ニッケルメッキや銅メッキなどによって形成されている。これらの電極132及び133は、圧電部材131A及び131Bを挟み込んでいる。このような構成のアクチュエータ13は、電極132及び133に逆極性の電圧が印加されることにより、圧電部材131A及び131Bによって形成された隔壁131が変形し、インク圧力室14の容積を変化させる(つまり、容積を拡張させたり、容積を収縮させたりする)。
【0025】
アクチュエータ13を構成する圧電部材131Bには、ノズルプレート20が接着されている。このノズルプレート20に形成されたノズル穴21は、インク圧力室14に連通している。
【0026】
図3は、図1に示したインクジェットヘッド1を構成するノズルプレート20を概略的に示す上面図である。
【0027】
ノズルプレート20には、複数のノズル穴21が形成されている。このノズル穴21は、図中に破線で示したように、アクチュエータ13の間に形成されたインク圧力室14の直上に形成されている。
【0028】
ここに示した例では、第1方向Xに並んだ3個のインク圧力室をそれぞれ第1インク圧力室14A、第2インク圧力室14B、及び、第3インク圧力室14Cと称する。また、第1インク圧力室14A、第2インク圧力室14B、及び、第3インク圧力室14Cにそれぞれ対向する3個のノズル穴をそれぞれ第1ノズル穴21A、第2ノズル穴21B、及び、第3ノズル穴21Cと称する。
【0029】
これらの第1乃至第3ノズル穴21A、21B、21Cは、第1方向Xに対して鋭角に交差する同一直線L上に位置している。このように並んだ3個のノズル穴21は、繰り返し形成され、2個おきに並んだノズル穴21が第1方向Xに沿った同一直線上に形成されている。
【0030】
第2方向Yは、インクジェットヘッドに対して相対的に媒体が移動する方向と略平行である。第1インク圧力室14A(及び第1インク圧力室14Aから2個おきのインク圧力室)が選択された駆動期間において第1ノズル穴21Aからインク滴の吐出が可能であり、これに続いて、第2インク圧力室14B(及び第2インク圧力室14Bから2個おきのインク圧力室)が選択された駆動期間において第2ノズル穴21Bからインク滴の吐出が可能であり、これに続いて、第3インク圧力室14C(及び第3インク圧力室14Cから2個おきのインク圧力室)が選択された駆動期間において第3ノズル穴21Cからインク滴の吐出が可能である。
【0031】
図4は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1においてノズル穴21からインクが吐出される過程を説明するための図である。
【0032】
図中の(a)は、インク圧力室14を仕切るアクチュエータ13に印加される駆動パルス信号の一例である。この駆動パルス信号は、インク圧力室14の容積を拡張させる時間t1の拡張パルスPL1と、この拡張パルスPL1に続く時間t2の後に、インク圧力室14の容積を収縮させる時間t3の収縮パルスPL2を含んでいる。この駆動パルス信号の実質的な駆動時間は、t1+t2+t3に相当する。拡張パルスPL1及び収縮パルスPL2は、同じ振幅Vであって互いに異なる極性である。ここでは、拡張パルスPL1は正極性であり、収縮パルスPL2は負極性である。
【0033】
駆動パルス信号の拡張パルスPL1がアクチュエータ13に印加される前の初期状態では、図中の(b)で示すように、アクチュエータ13は、絶縁基板11に対して略垂直に起立している。拡張パルスPL1がアクチュエータ13に印加されると、図中の(c)で示すように、アクチュエータ13が変形し、インク圧力室14の容積が急激に拡張され、インク圧力室14に負圧が発生する。この状態は時間t1だけ保たれ、インクがインク圧力室14に充填される。
【0034】
時間t1が経過した後、拡張パルスPL1がアクチュエータ13に印加されなくなると、図中の(b)で示した状態にアクチュエータ13が復帰し、インク圧力室14の容積が初期状態に戻る。これにより、インク圧力室14の圧力が高まり、インク圧力室14に充填されたインクがノズル穴21からインク滴として吐出される。この状態は、時間t2だけ保たれる。
【0035】
時間t2が経過した後、収縮パルスPL2がアクチュエータ13に印加されると、図中の(d)で示すように、アクチュエータ13が変形し、インク圧力室14の容積が急激に収縮される。この状態は、時間t3だけ保たれる。時間t3が経過した後に、収縮パルスPL2がアクチュエータ13に印加されなくなると、図中の(b)で示した状態にアクチュエータ13が復帰し、インク圧力室14の容積が初期状態に戻る。これにより、インク圧力室14の圧力が抑えられ、残留振動が抑えられる。
【0036】
ここに示した時間t1、t2、及び、t3は、ともに数μsであり、例えば、互いに異なる(t1≠t2≠t3)。ここでは、時間t2が最も長く、時間t3が最も短い(t2>t1>t3)。時間t2は、時間t1の約1.3倍相当である。時間t3は、時間t1の0.4倍相当である。
【0037】
図5は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1により印字される印字パターンのドット図である。なお、図中の横方向はノズル21の並び方向であり、縦方向は媒体の送り方向あるいはインクジェットヘッド1の移動方向である。
【0038】
図示した例では、図中の左側に位置する5個のノズル穴21からは、1ライン置きに交互にインク滴が吐出され、千鳥パターンのドットが印字されている。図中の右側に位置する5個のノズル穴21からは、各ラインにインク滴が吐出され、ベタパターンのドットが印字されている。図中の中央に位置する2個のノズル穴21からはインク滴が吐出されず、空白パターンが形成されている。
【0039】
図示したように、印字パターンにより、インク滴を吐出させるノズル穴21とインク滴を吐出させないノズル穴21とがあり、インク滴を吐出させない休止時間が長くなるほどインクが増粘し、インク滴を吐出させるタイミングでノズル穴21からインク滴が吐出しにくくなることがある。このため、本実施形態では、インクの増粘を抑制する駆動技術を適用している。
【0040】
図6は、インクの増粘によって生ずる不具合を説明するための印字パターンとドットとの関係を示す図である。なお、図中の横方向はノズル21の並び方向であり、縦方向は媒体の送り方向あるいはインクジェットヘッド1の移動方向である。
【0041】
図示した例では、図中の左側に位置するノズル穴211を含む3個のノズル穴21からは、各ラインにインク滴が正常に吐出され、均一なドットが形成された状態を示している。一方で、図中の右側に位置するノズル穴212を含む3個のノズル穴21からは、図示した2ラインまではインク滴が吐出されない休止時間であったために、インクの増粘が発生し、図示した3ライン目からインク滴が吐出された際に正常なドットが形成されなかった状態を示している。具体的には、ノズル穴212から吐出されるインク滴の吐出体積の減少により、形成されたドット径が正常なドット径よりも小さくなってしまうとともに、インク滴の吐出速度の低下により形成されたドットの印字位置が正常なドットの印字位置よりも後退してしまう。このようなドット径の不均一やドットの印字位置のずれは、印刷品位の低下の原因となりうる。
【0042】
図7は、インクの増粘を十分に抑制できなかった場合に生ずる不具合を説明するための図である。
【0043】
すなわち、インクの増粘に起因して、印刷時にノズル穴21から吐出されたメインのインク滴の液柱から微小なインク滴がちぎれ、メインのインク滴によって形成されたメインドットDに加えて微小なインク滴によって形成された微小ドット(サテライト)D’が媒体上に印刷されてしまう。このようなサテライトの存在は、印刷品位の低下の原因となりうる。
【0044】
そこで、本実施形態におけるインクジェットヘッド1においては、第1方向Xに並んだインク圧力室14がそれぞれ選択された駆動期間において、ノズル穴21からインク滴を吐出させる駆動パルス信号またはノズル穴21からインク滴を吐出させないダミーパルス信号をアクチュエータ13に印加する。
【0045】
ここでの駆動パルス信号とは、図4を参照して説明したように、インク圧力室14の容積を変化させるパルス信号である。このような駆動パルス信号がアクチュエータ13に印加されることにより、インク圧力室14に取り込んだインクがノズル穴21からインク滴として吐出される。
【0046】
ダミーパルス信号とは、インク圧力室14のインクをノズル穴21から吐出させない程度にインク圧力室14の容積を変化させるパルス信号である。このようなダミーパルス信号がアクチュエータ13に印加されることにより、インク圧力室14のインクに適度な微小振動を与え、インクの増粘を抑制することができる。
【0047】
図8は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1に適用可能な駆動技術であって、第1方向Xに並んだ3個のインク圧力室14の容積を順次変化させる駆動技術の一例を説明するための図である。
【0048】
ここに示した例では、例えば、上段が第1インク圧力室14A及び第1ノズル穴21Aに対応し、中段が第2インク圧力室14B及び第2ノズル穴21Bに対応し、下段が第3インク圧力室14C及び第3ノズル穴21Cに対応するものとする。
【0049】
すなわち、第1インク圧力室14Aが選択される第1駆動期間T1においては、第1インク圧力室14Aの容積を変化させる駆動パルス信号S1またはダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加される。図示した例では、第1駆動期間T1においては、駆動パルス信号S1がアクチュエータ13に印加されている。これにより、第1ノズル穴21Aからインク滴が吐出される。
【0050】
第1駆動期間T1に続き、第2インク圧力室14Aが選択される第2駆動期間T2においては、第2インク圧力室14Bの容積を変化させる駆動パルス信号S1またはダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加される。図示した例では、第2駆動期間T2においては、ダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加されている。これにより、第2ノズル穴21Bからはインク滴が吐出されないが、第2インク圧力室14B内のインクに微小振動が付与される。
【0051】
第2駆動期間T2に続き、第3インク圧力室14Cが選択される第3駆動期間T3においては、第3インク圧力室14Cの容積を変化させる駆動パルス信号S1またはダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加される。図示した例では、第3駆動期間T3においては、ダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加されている。これにより、第3ノズル穴21Cからはインク滴が吐出されないが、第3インク圧力室14Cの内部のインクに微小振動が付与される。
【0052】
なお、第1駆動期間T1、第2駆動期間T2、及び、第3駆動期間T3のそれぞれの長さは同一である。
【0053】
つまり、駆動期間にインク滴を不吐出とする際には、駆動パルス信号S1に代えてダミーパルス信号S2が印加される。これにより、インク圧力室14の内部のインクの増粘を抑制し、駆動期間にインク滴が吐出される際に、インク滴の吐出体積の減少や吐出速度の低下を抑制することができる。したがって、休止時間が長くなっても、ダミーパルス信号S2によってインクの増粘が抑制され、次に駆動パルス信号S1が印加された際に正常なドットを形成することができる。
【0054】
本実施形態で適用されるダミーパルス信号S2は、インク圧力室14の容積を収縮させるパルスを含んでいる。すなわち、ダミーパルス信号S2は、駆動パルス信号S1の収縮パルスPL2と極性が同一(正極性)であるとともに振幅も同一(+V)である。このようなダミーパルス信号S2がアクチュエータ13に印加された際には、インク圧力室14からインクを押し出す方向に力が作用するが、それ以前にインク圧力室14の容積を拡張するインク充填動作を行っていないため、ダミーパルス信号S2の時間t4が長すぎなければ、インク滴がノズル穴21から吐出されることはない。
【0055】
また、本実施形態において、インク不吐出の際にダミーパルス信号S2が印加されるタイミングは、インク吐出の際に駆動パルス信号S1の拡張パルスPL1が印加されるタイミングと同一である。すなわち、インク吐出の際には、駆動期間に瞬時に拡張パルスPL1が立ち下がる。インク不吐出の際には、駆動期間に瞬時にダミーパルス信号S2が立ち上がる。なお、ダミーパルス信号S2の時間t4は、拡張パルスPL1の時間t1よりも短い。
【0056】
このようなダミーパルス信号S2の時間t4は、発明者による検討の結果、誤吐出を防止するとともに、インク滴の吐出体積の減少や吐出速度の低下さらにはサテライトの発生の原因となるインクの増粘を十分に抑制するといった観点から、拡張パルスPL1の時間t1に対して、
(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6
の範囲に設定されることが望ましいことが確認された。
【0057】
時間t4が(t1/5)×1.6よりも長い場合には、インク滴の誤吐出が確認され、印刷品位の低下を招く。また、この場合には、インク不吐出にもかかわらず、多大な電気エネルギーが必要となり、省エネルギーの観点からも望ましくない。
【0058】
時間t4が(t1/5)×1.4よりも短い場合には、インクの増粘を十分に抑制することができず、ドット径の不均一やドットの印字位置のずれ、さらには、サテライトの発生が確認された。
【0059】
本実施形態によれば、駆動期間においてインク不吐出の際に上記のように規定した時間t4のダミーパルス信号S2をアクチュエータ13に印加することにより、インクの増粘が抑制されるとともに、ノズル穴、インク、及び、メニスカスが適正な状態に保持される。このため、駆動期間において、インク吐出の駆動パルス信号S1がアクチュエータ13に印加された際には、インク滴の吐出体積及び吐出速度が均一化され、また、サテライトの発生を抑制することが可能となるため、高品位の印刷が可能となる。
【0060】
図9は、ダミーパルス信号の時間t4に対するサテライトの発生の有無を確認した実験結果を示す図である。
【0061】
ここでは、インク不吐出となる一定の休止時間にダミーパルス信号をそれぞれの時間t4で印加し、直後にインク吐出のための駆動パルス信号を印加した場合に、1ラインあたりに発生したサテライトの個数をカウントした。
【0062】
t4=(t1/5)×0.4の場合、1ラインあたり5個のサテライトが確認された。t4=(t1/5)×0.6の場合、1ラインあたり4個のサテライトが確認された。t4=(t1/5)×0.8の場合、1ラインあたり1個のサテライトが確認された。t4=(t1/5)×1.0の場合、1ラインあたり2個のサテライトが確認された。t4=(t1/5)×1.2の場合、1ラインあたり1個のサテライトが確認された。t4=(t1/5)×1.4の場合、及び、t4=(t1/5)×1.6の場合には、1ラインにサテライトは発生しなかった。
【0063】
このような実験結果からも明らかように、ダミーパルス信号の時間t4は、
(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6
の範囲に設定することが極めて有効である。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、高品位の印刷が可能なインクジェットヘッド及びその駆動方法を提供することができる。
【0065】
なお、この発明は、上記実施形態そのものに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…インクジェットヘッド
10…主要部
13…アクチュエータ 14…インク圧力室
14A…第1インク圧力室 14B…第2インク圧力室 14C…第3インク圧力室
20…ノズルプレート 21…ノズル穴
21A…第1ノズル穴 21B…第2ノズル穴 21C…第3ノズル穴
30…マスクプレート
50…パルス信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを取り込むインク圧力室と、
前記インク圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、
前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、
前記ノズル穴からインク滴を吐出させる駆動パルス信号または前記ノズル穴からインク滴を吐出させないダミーパルス信号を前記アクチュエータに印加するパルス信号生成部と、を備え、
前記駆動パルス信号は、前記インク圧力室の容積を拡張させる時間t1の拡張パルス、及び、前記拡張パルスに続く時間t2の後に前記インク圧力室の容積を収縮させる時間t3の収縮パルスを含み、
前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を変化させる時間t4のパルスを含み、時間t4は、
(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6
の範囲に設定されたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク圧力室は、第1方向に並んだ第1乃至第3インク圧力室を含み、
前記パルス信号生成部は、第1駆動期間において前記第1インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加し、前記第1駆動期間に続く第2駆動期間において前記第2インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加し、前記第2駆動期間に続く第3駆動期間において前記第3インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズル穴は、前記第1インク圧力室に連通する第1ノズル穴、前記第2インク圧力室に連通する第2ノズル穴、及び、前記第3インク圧力室に連通する第3ノズル穴を含み、
前記第1乃至第3ノズル穴は、前記第1方向に対して鋭角に交差する同一直線上に位置することを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
インクを取り込むインク圧力室と、前記インク圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル穴からインク滴を吐出させる駆動パルス信号または前記ノズル穴からインク滴を吐出させないダミーパルス信号を前記アクチュエータに印加する駆動方法であって、
前記駆動パルス信号は、前記インク圧力室の容積を拡張する時間t1の拡張パルス、及び、拡張パルスに続く時間t2の後に前記インク圧力室の容積を収縮する時間t3の収縮パルスを含み、
前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を変化させる時間t4のパルスを含み、時間t4は、
(t1/5)×1.4≦t4≦(t1/5)×1.6
の範囲に設定されたことを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項5】
第1駆動期間において第1インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加し、前記第1駆動期間に続く第2駆動期間において前記第1インク圧力室に隣接する第2インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加し、前記第2駆動期間に続く第3駆動期間において前記第2インク圧力室に隣接する第3インク圧力室の容積を変化させる前記駆動パルス信号または前記ダミーパルス信号を印加することを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項6】
前記ダミーパルス信号は、前記インク圧力室の容積を収縮させるパルスを含むことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項7】
インク滴が不吐出の際に前記ダミーパルス信号が印加されるタイミングは、インク滴が吐出される際に前記駆動パルス信号の前記拡張パルスが印加されるタイミングと同一であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−35420(P2012−35420A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174736(P2010−174736)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】