説明

インクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの保護膜形成方法

【課題】インク及び電極の劣化を抑制できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの保護膜形成方法を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド1は、インク31が供給されるインク室33が形成された圧電部材3、4と、インク室33側の圧電部材3、4の表面に形成された電極7、8と、絶縁性及びフレキシブル性を有する材料を含み、インク31と接する領域の電極7、8の表面に形成された保護膜9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の一部がインクと接触するインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの保護膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極の一部がインクと接するインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの保護膜形成方法が知られている。
【0003】
具体的には、このようなインクジェットヘッドは、インクが貯溜されるインク室を形成する圧電部材と、インク室を囲む圧電部材の内面に形成された電極と、圧電部材の吐出面に設けられたノズルプレートとを備えている。
【0004】
このインクジェットヘッドでは、電圧が印加された電極により圧電部材が変形すると、インクに圧力が作用する。これにより、インクが液滴となってノズルから吐出されて、印刷用紙等に画像が印刷される。
【0005】
しかしながら、上述の技術では、インクと接する電極により、インクに顔料として含まれるカーボンブラックやフタロシアニン銅(PcCu)等の錯体金属が化学反応を起こす。具体的には、フタロシアニン銅が、インク内に溶存する酸素によって、亜酸化銅(CuO)及び酸化銅(CuO)へと順に酸化される。この後、酸化銅は、電圧が印加された電極の表面で還元されて金属銅(Cu)となる。これにより、銅が電極の表面に電析して、電極が劣化する。一方で、インク中にアルコール系溶剤が含まれる場合には、この還元反応に伴って、溶剤が酸化されて、ギ酸等のカルボン酸が生成される。この結果、電極及びインクが劣化するといった問題があった。
【0006】
そこで、特許文献1には、インクと接する電極の表面にポリイミドからなる保護膜を形成したインクジェットヘッドが開示されている。尚、特許文献1の技術では、蒸着重合法によって保護膜を形成している。
【0007】
特許文献1の技術では、電極とインクが、直接、接することを抑制して、上述のインクの化学反応に起因するインク及び電極の劣化をある程度、低減することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3943971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、電極に電圧を印加して、圧電部材を変形させると、その変形により保護膜が破損する。このため、上述したように、電極及びインクの劣化を十分に抑制できていないといった課題がある。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、インク及び電極の劣化を抑制できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの保護膜形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、インクが供給されるインク室が形成された圧電部材と、前記インク室を構成する前記圧電部材の内面に形成された電極と、絶縁性及びフレキシブル性を有する材料を含み、前記インクと接する領域の前記電極の表面に形成された保護膜とを備える。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記保護膜は、硫化物を含む。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記保護膜は、メルカプタンを含む。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記メルカプタンは、直鎖状のアルキル基を含むものである。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記メルカプタンは、C2n+1SH(8≦n≦18)である。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記メルカプタンは、C2n+1SH(n:偶数)である。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、前記保護膜が形成される前記電極の表面は、金層である。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、インク室を囲む圧電部材の面に電極が形成されたインクジェットヘッドのインク室に保護膜を形成する材料を含む保護膜溶液を供給する供給工程と、前記保護膜溶液中の溶媒を乾燥させて、保護膜を電極の表面に形成する乾燥工程とを備え、前記供給工程は、前記電極に電圧を印加して、前記圧電部材を駆動させた状態で行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インクと接する領域の電極の表面に形成される保護膜が、絶縁性及びフレキシブル性を有するので、圧電部材の変形による保護膜の破損を抑制できる。これにより、インクに含まれる錯体金属等が電極と接することをより抑制できるので、金属錯体が還元されて電極の表面に電析することを抑制できる。この結果、本発明は、電極及びインクの劣化をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態によるインクジェットヘッドの全体斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】電極及び保護膜の積層構造を説明する断面図である。
【図6】インクジェットヘッドが設けられるインクジェットプリンタの概略の全体構成図である。
【図7】保護膜形成工程を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明による第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態によるインクジェットヘッドの全体斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。図5は、電極及び保護膜の積層構造を説明する断面図である。図6は、インクジェットヘッドが設けられるインクジェットプリンタの概略の全体構成図である。尚、以下の説明において、図1の矢印で示す上下左右前後を上下左右前後方向とする。
【0022】
図1〜図5に示すように、第1実施形態によるインクジェットヘッド1は、基材2と、第1圧電部材3と、第2圧電部材4と、固定具5と、ノズルプレート6と、一対の電極7、8と、保護膜9、10とを備えている。
【0023】
基材2は、樹脂からなる。基材2は、立設部材15と、中空部材16と、側壁部材17とを備えている。尚、立設部材15、中空部材16及び側壁部材17は、一体的に形成されている。
【0024】
立設部材15は、直方体形状に形成されている。立設部材15は、インクジェットヘッド1の横方向の中央部の上部に設けられている。立設部材15は、中空部材16の上面から上方へ伸びるように構成されている。
【0025】
中空部材16は、中空の直方体形状に形成されている。中空部材16は、第2圧電部材4の上部を覆うように構成されている。中空部材16の下面は、第2圧電部材4の上面と密着している。図4に示すように、中空部材16の内側には、後述するメインタンク41からインク31が供給されるインク供給室32が構成されている。インク供給室32の下面及び左側面は、開口されている。
【0026】
側壁部材17は、直方体形状に形成されている。側壁部材17は、インクジェットヘッド1の右側面を覆うように構成されている。側壁部材17の前後方向の中央部には、インク供給孔17aが形成されている。インク供給孔17aは、外部とインク供給室32とを繋げている。インク供給孔17aには、供給配管35が接続されている。供給配管35は、インク31及び保護膜溶液36とを供給するものである。
【0027】
第1圧電部材3は、変形によってインク31に圧力を作用させるものである。第1圧電部材3は、直方体形状のPZTからなる。第1圧電部材3は、基材2及び第2圧電部材4の左側に設けられている。第1圧電部材3の右側面の上部は、基材2の中空部材16の左側面と密着された状態で固定される。これにより、第1圧電部材3の上部の右側面によって、インク供給室32の左側面が塞がれる。第1圧電部材3の右側面の下部は、第2圧電部材4の左側面と密着された状態で固定される。
【0028】
図2及び図4に示すように、複数の第1溝21が、第1圧電部材3の右側面の下部に形成されている。複数の第1溝21は、供給されるインク31を貯留するインク室33の一部を構成する。複数の第1溝21は、前後方向に等間隔で形成されている。第1溝21は、直方体状に形成されている。第1溝21の右側面及び下面は、開口されている。一方、第1溝21の前後面、左側面及び上面は、閉口されている。
【0029】
第2圧電部材4は、第1圧電部材3とともに変形することによってインク31に圧力を作用させるものである。第2圧電部材4は、直方体形状のPZTからなる。第2圧電部材4は、基材2の中空部材16の下面であって、側壁部材17と第1圧電部材4との間に設けられている。第2圧電部材4の左側面は、第1圧電部材3の下部の右側面と密着された状態で固定される。
【0030】
図3及び図4に示すように、複数の第2溝22が、第2圧電部材4の左側面に形成されている。複数の第2溝22は、供給されるインク31を貯留するインク室33の一部を構成する。複数の第2溝22は、前後方向に等間隔で形成されている。複数の第2溝22は、直方体状に形成されている。第2溝22の左側面は、開口されている。また、第2溝22は、第1溝21と対向する位置に形成されている。これにより、第1圧電部材3と第2圧電部材4とが組み合わされると、第1溝21と第2溝22とによって、インク室33が構成される。換言すると、インク室33が、第1圧電部材3と第2圧電部材4とによって形成される。第2溝22の下面は、第1溝21の下面と同様に、開口されている。これにより、インク室33の下面は、インク31を吐出可能に開口される。第2溝22の上面は、開口されている。これにより、基材2の中空部材16に形成されているインク供給室32とインク室33とが連結される。一方、第2溝22の前後面及び右側面は、閉口されている。
【0031】
固定具5は、基材2と圧電部材3、4とを固定するものである。固定具5は、樹脂からなる。固定具5は、左右方向において、基材2の右側面と第1圧電部材3の左側面とを押圧する。固定具5は、前後方向において、基材2及び圧電部材3、4の前面と後面とを押圧する。これにより、基材2、圧電部材3、4が互いに密着される。固定具5の底面には、インク31を吐出するための開口部5aが形成されている。
【0032】
ノズルプレート6は、第1圧電部材3の下面と第2圧電部材4の下面とにわたって設けられている。ノズルプレート6は、長方形の平面状に形成されている。ノズルプレート6には、上下方向に貫通された複数のノズル孔6aが形成されている。複数のノズル孔6aは、前後方向において、インク室33に対応した位置に等間隔で形成されている。これにより、各インク室33の下面は、各ノズル孔6aにより、外部と貫通される。図1に示すように、複数のノズル孔6aは、左右方向において、1個ずつ交互に左右にずれて形成されている。即ち、ノズル孔6aは、第1溝21または第2溝22のいずれかに対応した位置に形成されている。
【0033】
電極7、8は、圧電部材3、4に電圧を印加するものである。図2〜図4に示すように、電極7、8は、インク室33を構成する第1溝21及び第2溝22の内面に形成されている。換言すれば、電極7、8は、インク室33を構成する圧電部材3、4の内面に形成されている。電極7と電極8は、前後方向において、交互に設けられている。電極7、8は、後述するインクジェットプリンタに搭載された制御部51に接続されている。電極7と電極8との間には、制御部51によって、圧電部材3、4を変形させるための所定の電圧が印加される。これにより、電極7と電極8とによって挟まれた領域の圧電部材3、4が変形して、インク31に圧力を作用させることができる。図5に示すように、電極7(8)は、第1溝21及び第2溝22の内面に形成されたニッケル層25a(25b)と、ニッケル層25a(25b)の内面に積層された金層26a(26b)とを有する。
【0034】
保護膜9は、インク31中に含まれるフタロシアニン銅31aの電析を抑制するものである。保護膜9は、インク31と接する領域の電極7、8の金層26a(26b)の表面の略全体を覆うように形成されている。保護膜9は、n−メルカプタンの一種であるn−オクタンチオールからなる。n−オクタンチオールは、絶縁性及びフレキシブル性を有する。n−オクタンチオールは、直鎖状のアルキル基を持ち、化学式C17SHで表される。図5に示すように、n−オクタンチオールのチオール基(−SH)は、金層26a(26b)と共有結合する。一方、n−オクタンチオールのアルキル基(C17−)は、インク31側へと向けられる。保護膜9は、自己組織化された単分子膜に構成されている。保護膜9は、約2nm〜約200nmの厚みを有する。
【0035】
次に、図6を参照して、上述した第1実施形態によるインクジェットヘッド1が設けられるインクジェットプリンタの全体構成について説明する。
【0036】
図6に示すように、インクジェットヘッド1には、供給用のインク31が貯溜されたメインタンク41と、インク31が一時的に貯溜されるサブタンク42が接続される。
【0037】
また、インクジェットヘッド1には、保護膜溶液36が貯溜された保護膜溶液タンク47が接続される。保護膜溶液36は、保護膜9を構成するn−オクタンチオールがエタノール等のアルコールに溶解されたものである。保護膜溶液36は、約1.0mol/Lの濃度を有する。
【0038】
メインタンク41とサブタンク42とを接続する配管44aの途中部には、インク31をインクジェットヘッド1へと供給するためのポンプ45が設けられている。サブタンク42とインクジェットヘッド1とを接続する配管35、44bの接続部には、切替弁46が設けられている。
【0039】
切替弁46は、保護膜溶液タンク47とインクジェットヘッド1とを接続する配管35、44cの接続部にも接続されている。配管44cの途中部には、保護膜溶液36をインクジェットヘッド1へと供給するためのポンプ48が接続されている。
【0040】
切替弁46は、インクジェットヘッド1の接続先をサブタンク42と保護膜溶液タンク47とに切り替え可能に構成されている。
【0041】
制御部51は、種々の演算を行うCPUと、情報等を一時的に記憶するRAMと、プログラム等が記憶されたROMと、これらと外部とを接続するインターフェースとを備えている。
【0042】
制御部51は、ポンプ45、48と、切替弁46と、インクジェットヘッド1の電極7、8とに接続されている。制御部51は、インク31または保護膜溶液36を供給する際には、ポンプ45、48のオン/オフを制御するとともに、切替弁46を制御して、供給配管35の接続先を切り替える。制御部51は、印刷動作時または保護膜形成工程時には、電極7、8に電圧を印加して、圧電部材3、4を変形または振動させる。
【0043】
次に、上述した第1実施形態のインクジェットヘッド1による印刷動作を説明する。
【0044】
まず、制御部51が、切替弁46を制御して、配管44bと供給配管35とを接続するとともに、ポンプ45をオンにする。これにより、インク31が、メインタンク41及びサブタンク42からインクジェットヘッド1のインク供給室32及びインク室33に供給される。ここで、インク31には、フタロシアニン銅31a(PcCu)が含まれているが、電極7、8の表面には、n−オクタンチオールからなる保護膜9が形成されているので、フタロシアニン銅31aが電極7、8と接することを保護膜9が抑制する。
【0045】
次に、制御部51は、印刷用紙を搬送しつつ、記憶された画像データに応じて、電極7、8に電圧を印加する。これにより、圧電部材3、4が変形する。圧電部材3、4の変形によって圧縮されたインク室33では、インク31に圧力が作用するので、そのインク室33のインク31は、ノズルプレート6のノズル孔6aから吐出される。ここで、電極7、8に電圧が印加されても、上述したようにインク31に含まれるフタロシアニン銅31aは、保護膜9により電極7、8と接することがないので、フタロシアニン銅31aの還元が抑制される。
【0046】
吐出されたインク31は、液滴となり、印刷用紙に塗布されて画像が印刷される。
【0047】
次に、上述したインクジェットヘッド1の保護膜9を形成する工程について、図面を参照して説明する。図7は、保護膜形成工程を説明するフローチャートである。図7における「S」は、ステップ数を示す。
【0048】
まず、保護膜9が形成されていない状態のインクジェットヘッド1がインクジェットプリンタの所定の位置に設置される。尚、この状態では、インクジェットヘッド1は、各部材2〜6が組み立てられるとともに、インク室33を囲む圧電部材3、4の面に電極7、8が形成されている。
【0049】
次に、制御部51は、切替弁46を切り替えて、配管44cと供給配管35とを接続する(S1)。これにより、保護膜溶液タンク47とインクジェットヘッド1が接続される。
【0050】
次に、制御部51は、電極7、8に交流の電圧を印加する(S2)。これにより、圧電部材3、4が振動する。
【0051】
次に、制御部51は、保護膜溶液36を供給するためのポンプ48をオンにする(S3)。これにより、保護膜溶液タンク47の保護膜溶液36が、配管44c、切替弁46、供給配管35を介して、インクジェットヘッド1へと供給される(供給工程)。この結果、保護膜溶液36に含まれるn−オクタンチオールが、電極7、8の金層26a、26bに塗布される。
【0052】
次に、制御部51は、保護膜溶液36の供給時間が終了しているか否かを判定する(S4)。
【0053】
次に、制御部51は、保護膜溶液36の供給時間が終了したと判定すると(S4:Yes)、ポンプ48をオフにして、保護膜溶液36の供給を停止する(S5)。ここで、保護膜溶液36に含まれるn−オクタンチオールは、電極7、8の金層26a、26bにのみ選択的に残存する。
【0054】
次に、インクジェットヘッド1を室温で放置することにより、保護膜溶液36の乾燥工程が行われる。これにより、保護膜溶液36の溶媒(アルコール)が徐々に蒸発する。この結果、保護膜溶液36が乾燥して、保護膜9が電極7、8の金層26a、26bの表面の略全体に形成される。尚、保護膜9は、自己組織化されるので、n−オクタンチオールの単分子膜となる。ここで、この乾燥工程は、電極7、8に電圧が印加されて圧電部材3、4が振動した状態で行われるので、保護膜9が圧電部材3、4の変形に対応しつつ形成される。
【0055】
次に、制御部51は、乾燥時間(例えば、30分)が終了しているか否かを判定する(S6)。
【0056】
次に、制御部51は、乾燥時間が終了したと判定すると(S6:Yes)、電極7、8の電圧印加を停止する(S7)。これにより、圧電部材3、4の振動が停止する。また、保護膜溶液36の溶媒が蒸発して、保護膜9が完成する。
【0057】
次に、制御部51は、切替弁46を切り替えて、配管44a、44bと供給配管35とを接続する(S8)。これにより、メインタンク41とインクジェットヘッド1が接続される。
【0058】
次に、制御部51は、インク31を供給するためのポンプ45をオンにする(S9)。これにより、メインタンク41のインク31が、インクジェットヘッド1のインク供給室32及びインク室33に供給される。この結果、インクジェットヘッド1のインク供給室32及びインク室33に残存している保護膜溶液36が洗浄されて、インク31とともに排出される。
【0059】
次に、制御部51は、洗浄時間が終了しているか否かを判定する(S10)。
【0060】
次に、制御部51は、洗浄時間が終了したと判定すると(S10:Yes)、制御部51は、ポンプ45をオフにする(S11)。これにより、メインタンク41からインクジェットヘッド1へのインク31の供給が停止される。
【0061】
これにより、保護膜形成工程が終了する。
【0062】
上述したように第1実施形態によるインクジェットヘッド1では、絶縁性の保護膜9が電極7、8の表面に形成されているので、インク31に顔料として含まれるフタロシアニン銅31aが電極7、8と接することを抑制できる。これにより、フタロシアニン銅31aが、電圧が印加された電極7、8によって、還元されることを抑制できる。この結果、電極7、8の表面に銅が電析することを抑制して、電極7、8の劣化を抑制できる。また、フタロシアニン銅31aの化学反応を抑制することはインク31の溶媒(多価アルコール)の化学反応を抑制することにもなるので、インク31の劣化を抑制できる。
【0063】
また、インクジェットヘッド1では、保護膜9がフレキシブル性を有するので、印刷動作中に、圧電部材3、4の変形により電極7、8が変形しても、保護膜9の破損を抑制することができる。
【0064】
また、インクジェットヘッド1では、保護膜9を直鎖状のアルキル基を有するn−オクタンチオールにより構成しているので、保護膜9を自己組織化して、緻密な単分子膜に構成することができる。
【0065】
また、第1実施形態によるインクジェットヘッド1の保護膜形成工程では、配管44c及び供給配管35に接続された保護膜溶液タンク47から保護膜溶液36を、インク室33に供給して乾燥することにより、保護膜9を電極7、8に形成することができる。これにより、インクジェットヘッド1の取り外し及び分解をすることなく、容易に保護膜9を形成することができる。更に、インクジェットヘッド1をプリンタから取り外すこと及びインクジェットヘッド1の分解が不要のため、保護膜9が劣化しても、保護膜9を容易に再形成することができる。
【0066】
また、インクジェットヘッド1の保護膜形成工程では、電極7、8に電圧を印加して圧電部材3、4を振動させつつ、保護膜溶液36を供給するので、圧電部材3、4の変形に対する耐久性の高い保護膜9を形成することができる。
【0067】
また、インクジェットヘッド1の保護膜形成工程では、保護膜溶液36を乾燥させて保護膜9を形成した後、インク31をインク室33に供給することによって、インク室33を洗浄している。これにより、保護膜9が形成された後に、残存する保護膜溶液36によってインク31が劣化することを抑制できる。また、この洗浄工程は、印刷動作時のインク31の供給と略同様に行うことができるので、制御及び構成の複雑化を抑制できる。
【0068】
また、インクジェットヘッド1の保護膜形成工程では、保護膜9をn−メルカプタンの一種であるn−オクタンチオールにより構成しているので、保護膜9を電極7、8の金層26a、26bの表面に選択的に形成することができる。
【0069】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0070】
上述した実施形態の各構成の形状、数値、位置、材料等は適宜変更可能である。
【0071】
また、上述した保護膜を構成する材料は、絶縁性及びフレキシブル性を有する材料を含むものであれば適宜変更可能である。
【0072】
例えば、保護膜を、ジスルフィド基(−S−S−)、モノスルフィド基(−S−)、チオフェン等の硫化物やその他の化合物により構成してもよい。
【0073】
また、保護膜をn−オクタンチオール以外のアルカンチオール等のメルカプタンによって構成してもよい。ここで、メルカプタンとしては、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘプタデカンチオール、オクタデカンチール、ノナデカンチオール、イコサンチオール等をあげることができる。
【0074】
ここで、保護膜を化学式C2n+1SHで表されるメルカプタンにより構成する場合、アルキル基(C2n+1−)が直鎖状のものが好ましい。これにより、自己組織化される保護膜をより緻密にすることができる。
【0075】
また、保護膜を化学式C2n+1SHで表されるn−メルカプタンにより構成する場合、「8≦n≦18」であることが好ましい。
【0076】
「8≦n」であるC2n+1SHの場合、半経験的分子軌道計算ソフトであるMOPACにより計算したn−メルカプタンの生成熱が「−43.48kcal/mol」以下となるので、n−メルカプタンの変質や分解を抑制できる。
【0077】
また、「8≦n」であるC2n+1SHの場合、
CPP≒1
(CPP:臨界充填パラメーター、Critical Packing Parameter)
となることから分子が略円柱体形状になる。これにより、n−メルカプタンの自己組織化を向上させて、保護膜の緻密性を向上させることができる。尚、CPPは、
CPP=V/(A・L)
V:アルカンチオールの疎水部(アルキル基)の占有体積
A:アルカンチオールのメルカプト基(−SH)の占有面積
L:アルカンチオールの疎水部(アルキル基)の長さ
で表せられる。
【0078】
一方、「n≦18」であるC2n+1SHの場合、多価アルコール等の溶媒に溶け易く、保護膜を形成する工程において、容易に扱うことできる。尚、「n≧19」のn−メルカプタンは、粘度が高く、溶媒に溶け難い。
【0079】
また、保護膜を化学式C2n+1SHで表されるn−メルカプタンにより構成する場合、「n」が偶数であることが好ましい。これにより、n−メルカプタンのアルキル鎖はいくぶん電極面に対して水平に規則的に並び、保護膜の緻密性を向上させることができる。この結果、保護膜の安定性及び耐久性を向上させることができる。
【0080】
また、主鎖の末端に第17属元素を導入したα−オレフィン(18−Bromo−1−Octadeceneが好ましい)により保護膜の表面を処理してもよい。これにより、保護膜が、發インク性を増し上述の効果を高めることができる。尚、α−オレフィンの代わりに、アルキル化シクロアルカン(Undecylcyclohexane、Nonylcyclohexane、Decylcyclohexane、Dodecylcyclohexane)により保護膜の表面を処理しても、同様の効果を奏することができる。
【0081】
上述した保護膜を形成する工程は、適宜変更可能である。
【0082】
例えば、洗浄工程は、削除してもよい。この場合、乾燥時間をより長くして、保護膜溶液がインク室等に残存しないようにすることが好ましい。
【0083】
また、保護膜溶液を供給する工程において、電極への電圧印加は省略してもよい。
【0084】
また、保護膜をn−メルカプタンにより構成する場合、異臭を抑制するために、インクジェットヘッドのノズル孔に保護膜溶液を採集するための密閉容器を取り付けてもよい。
【0085】
また、本発明は、油性及び水性のインクを用いるインクジェットヘッドに適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 インクジェットヘッド
3 第1圧電部材
4 第2圧電部材
7、8 電極
9 保護膜
16 中空部材
17 側壁部材
17a インク供給孔
21 第1溝
22 第2溝
25a、25b ニッケル層
26a、26b 金層
31 インク
31a フタロシアニン銅
32 インク供給室
33 インク室
36 保護膜溶液
41 メインタンク
42 サブタンク
45、48 ポンプ
46 切替弁
47 保護膜溶液タンク
51 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが供給されるインク室が形成された圧電部材と、
前記インク室を構成する前記圧電部材の内面に形成された電極と、
絶縁性及びフレキシブル性を有する材料を含み、前記インクと接する領域の前記電極の表面に形成された保護膜とを備えることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記保護膜は、硫化物を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記保護膜は、メルカプタンを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記メルカプタンは、直鎖状のアルキル基を含むことを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記メルカプタンは、C2n+1SH(8≦n≦18)であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記メルカプタンは、C2n+1SH(n:偶数)であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記保護膜が形成される前記電極の表面は、金層であることを特徴とする請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
インク室を囲む圧電部材の面に電極が形成されたインクジェットヘッドのインク室に保護膜を形成する材料を含む保護膜溶液を供給する供給工程と、
前記保護膜溶液中の溶媒を乾燥させて、保護膜を電極の表面に形成する乾燥工程とを備え、
前記供給工程は、前記電極に電圧を印加して、前記圧電部材を駆動させた状態で行われることを特徴とするインクジェットヘッドの保護膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−264625(P2010−264625A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116580(P2009−116580)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】