説明

インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置

【課題】大気中の水分による圧電体の劣化を抑制し、高密度化して小型化が可能なインクジェットヘッドの提供。
【解決手段】圧電素子120が形成されている振動板112a上に、第一の開口部131aがある第一の絶縁膜131及び第二の開口部132aがある第二の絶縁膜132が順次積層されており、第一の開口部及び前記第二の開口部を介して、個別電極123から第一の配線が引き出され、第一の配線上に、第三の開口部133aが形成されている第三の絶縁膜133が形成されており、第三の開口部を介して、第一の配線140と駆動回路を電気的に接続する第二の配線150が引き出され、第三の絶縁膜は液室上の前記第一の配線を含む領域を除く領域に形成されておらず、第二の絶縁膜の、第三の絶縁膜が形成されていない領域の膜厚が5〜40nmで、かつ、前記第三の絶縁膜が形成されている領域の膜厚が100nm以上のインクジェットヘッド100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いたインクジェットヘッド(インクジェット用液滴吐出ヘッド)を高密度化する技術として、MEMS(マイクロ エレクトロ メカニカル システム)を応用した技術が知られている。このようなインクジェットヘッドは、振動板上に形成した個別電極、共通電極、及び圧電体をパターニングし、圧電素子を形成することにより、アクチュエータ構造とすることができる。
【0003】
しかしながら、一般的に圧電体は大気中の水分により電気的特性が劣化する。そのため、特許文献1では、圧電素子を構成する各層及び上電極用リード電極のパターン領域が、無機アモルファス材料からなる絶縁膜によって覆われる構成のインクジェットヘッドを開示している。絶縁膜は第一の絶縁膜と第二の絶縁膜とを含み、圧電素子が上電極用リード電極との接続部を除いて第一の絶縁膜によって覆われている。また、上電極用リード電極が第一の絶縁膜上に延設されると共に、圧電素子を構成する各層及び上電極用リード電極のパターン領域が、接続配線との接続部に対向する領域を除いて第二の絶縁膜によって覆われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1では、絶縁膜が圧電素子を含むパターン領域全面を被覆しているため、絶縁膜の膜厚が大きい場合圧電素子の変位を著しく阻害する。一方で、絶縁膜を薄膜化する場合、リード電極と下部電極との耐圧が確保できなくなる。そのため、リード電極と下部電極の重ねあわせが生じないように電極を配置する必要があり、ヘッドの小型化や高密度化が困難であった。
【0005】
そこで本発明は、大気中の水分による圧電体の劣化を抑制すると共に、高密度化しても小型化することが可能なインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、
複数のノズルが形成されているノズル板と、前記ノズル板上に配置されている振動板と、前記振動板と前記ノズル板との間の空間が隔壁により隔てられている複数の液室と、前記振動板上の前記液室が形成される面とは反対側の面に共通電極、圧電体及び個別電極が順次積層されている圧電素子と、を有するインクジェットヘッドであって、
前記圧電素子が形成されている前記振動板上に、第一の開口部が形成されている第一の絶縁膜及び第二の開口部が形成されている第二の絶縁膜が順次積層されており、
前記第一の開口部及び前記第二の開口部を介して、前記個別電極から第一の配線が引き出されており、
前記第一の配線上に、第三の開口部が形成されている第三の絶縁膜が形成されており、
前記第三の開口部を介して、前記第一の配線と駆動回路を電気的に接続する第二の配線が引き出されており、
前記第三の絶縁膜は前記液室上の前記第一の配線を含む領域を除く領域に形成されておらず、
前記第二の絶縁膜の、前記第三の絶縁膜が形成されていない領域の膜厚が5〜40nmであり、かつ、前記第三の絶縁膜が形成されている領域の膜厚が100nm又はそれより厚い、インクジェットヘッドが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大気中の水分による圧電体の劣化を抑制すると共に、高密度化しても小型化することが可能なインクジェットヘッドが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェットヘッドの断面図の一例である。
【図2】図2は、本発明のインクジェット記録装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェットヘッドは、複数のノズルが形成されているノズル板と、ノズル板上に配置されている振動板とを有する。また、振動板とノズル板との間の空間が隔壁により隔てられている複数の液室を有する。さらに、振動板上の前記液室が形成される面とは反対側の面に共通電極、圧電体及び個別電極が順次積層されている圧電素子とを有する。
【0010】
前記圧電素子が形成されている前記振動板上には、第一の開口部が形成されている第一の絶縁膜及び第二の開口部が形成されている第二の絶縁膜が順次積層されている。前記第一の開口部及び前記第二の開口部を介して、前記個別電極から第一の配線が引き出されている。
【0011】
また、第一の配線上には、第三の開口部が形成されている第三の絶縁膜が形成されており、第三の開口部を介して、第一の配線と駆動回路を電気的に接続する第二の配線が引き出されている。
【0012】
さらに、第三の絶縁膜は液室上の第一の配線を含む領域を除く領域に形成されていない。
【0013】
次に、本発明をより具体的に説明するために、図面とともに説明する。
【0014】
図1に、本発明のインクジェットヘッドの断面図の一例を示す。図1(b)は、図1(a)に対して垂直な方向の断面図である。
【0015】
インクジェットヘッド100は、複数の個別液室110が形成されている。複数の個別液室110は、複数のノズル孔111aが形成されているノズル板111と、ノズル板111上に配置されている振動板112a及び隔壁112bを有する液室基板112が形成されている。即ち、個別液室110は、ノズル板111と振動板112aの間の空間が隔壁112bにより隔てられている。
【0016】
なお、図1には、単一の個別液室110のみが記載されているが、図1(a)の横方向に、複数の個別液室110が配列している。
【0017】
また、振動板112a上には、共通電極121が形成されており、共通電極121上には圧電体122及び個別電極123が順次積層されている。圧電素子120は、共通電極121、個別電極123及び圧電体122を含む構成であれば限定されない。
【0018】
[絶縁膜]
次に、本発明に係る3種類の絶縁膜について、詳細に説明する。
【0019】
圧電素子120が形成されている振動版112a上には、それぞれの個別電極123に対応する開口部131aが形成されている第一の絶縁膜131及びそれぞれの個別電極123に対応する開口部132aが形成されている第二の絶縁膜132が順次積層されている。この時、開口部131a及び開口部132aを介して個別電極123から個別電極配線140が引き出されている。
【0020】
また、個別電極配線140上には、それぞれの配線140と図示しない駆動回路を電気的に接続する図示しない配線が引き出されているコンタクトホール133aが形成されている第三の絶縁膜133が形成されている。この時、圧電素子の変位を増大させるために、隔壁112bにより隔てられている空間上の配線140を含む領域を除く領域に形成されていない。
【0021】
一方、絶縁膜131及び132には、それぞれ開口部131b及び132bが形成されており、開口部131b及び132bを介して、共通電極121から共通電極121の一部を含む領域上に、共通電極配線150が引き出されている。また、絶縁膜133には、共通電極配線150上に、配線150と図示しない駆動回路を電気的に接続する図示しない配線が引き出されているコンタクトホール133bが形成されている。
【0022】
絶縁膜131は、圧電素子120を保護する機能を有している。絶縁膜131により、成膜工程及びエッチング工程による圧電素子のダメージを防ぐことができる。
【0023】
絶縁膜131の材料としては、大気中の水分が透過しづらい材料であれば特に限定されないが、緻密な無機材料(酸化物、窒化物、炭化物など)であることが好ましい。有機材料を使用する場合は、十分な保護性能を得るためには膜厚を厚くする必要がある。しかしながら、絶縁膜131の膜厚を厚くした場合、振動板の振動変位を著しく阻害してしまうため、インクジェットヘッドの吐出性能が低くなることがある。また、絶縁膜の下地となる電極材料、圧電体材料及び振動板材料と密着性が高い材料であることが好ましい。
【0024】
具体的な絶縁膜131の材料としては、Al、ZrO、Y、Ta、TiO等酸化膜、SiN等の窒化物、SiC等の炭化物等が好ましく使用され、これら2種類以上を併用しても良い。
【0025】
絶縁膜131の膜厚は、20nm〜100nmの範囲であることが好ましい。絶縁膜の膜厚が100nmを超える場合、振動板の変位が阻害されることがある。一方、絶縁膜の膜厚が20nmより薄い場合、圧電素子の保護層としての機能が十分でなく、圧電素子が劣化することがある。
【0026】
圧電膜131の成膜方法としては、特に限定されないが、圧電素子の劣化を抑制する観点から、蒸着法又はALD法が好ましいが、使用できる材料の選択肢が広いことから、ALD法がさらに好ましい。
【0027】
絶縁膜132は絶縁膜131と同様、圧電素子を保護する機能を有する。また、個別電極配線140及び共通電極121間のショートを防ぐための層間保護膜としての機能も有する。これにより、個別電極123と個別配線140の配置の自由度が高くなり、インクジェットヘッド100を高密度化しても小型化することができる。さらに、絶縁膜132は、絶縁膜133をエッチングする際のマスク層であり、オーバーエッチングにより、絶縁膜133が形成されている領域の膜厚が、絶縁膜133が形成されていない領域の膜厚よりも大きい。これにより、圧電素子の変位の阻害を抑制することができる。
【0028】
絶縁膜132の材料としては、特に限定されないが、ZrO、Y、Ta、TiO、SiO等の酸化物が挙げられ、これらを2種類以上併用しても良い。
【0029】
絶縁膜132の成膜方法としては、蒸着法、ALD法、p−CVD法等が好ましく、この中でも使用できる材料の選択肢が広いALD法がより好ましい。絶縁膜132をp−CVD法で作製した膜と比較して、ALD法で作製した膜は、膜密度が大きく絶縁耐圧が良好である傾向がある。
【0030】
ALD法を用いた場合、絶縁膜132の膜厚としては100nm以上であることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。また、p−CVD法を用いた場合、絶縁膜132の膜厚としては、通常、100nm以上であり、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。絶縁膜132の範囲が、前記範囲よりも薄い場合、大気中の水分をブロックするのに十分な耐透湿性効果が得られない場合がある。また、個別電極配線と共通電極間がショートすることもある。
【0031】
絶縁膜132の、絶縁膜133が形成されていない領域の膜厚としては、5〜40nmであることが好ましい。絶縁膜132の、絶縁膜133が形成されていない領域の膜厚が40nmより厚い場合、振動板の変位を阻害する場合がある。一方、絶縁膜132の、絶縁膜133が形成されていない領域の膜厚が5nmより薄い場合、絶縁膜133が形成されていない領域の絶縁膜131がエッチングされる場合がある。
【0032】
絶縁膜133は、配線140及び150を被覆し、配線140及び150を保護するパシベーション層である。この時、絶縁膜133は、隔壁112bにより隔てられている空間上の配線140を含む領域を除く領域に形成されていない。そのため、圧電素子120の変位の阻害を抑制することができ、インクジェットヘッド100は、吐出性能に優れる。
【0033】
絶縁膜133の材料としては、特に限定されないが、SiO等酸化膜、SiN等の窒化物、SiC等の炭化物等の無機材料、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の有機材料が挙げられ、これらを2種類以上併用しても良い。中でも、薄膜で配線保護機能を十分に発揮できる理由により、無機材料が好ましい。
【0034】
絶縁膜134の膜厚は、200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましい。絶縁膜134の膜厚が200nmより薄い場合、配線140及び配線150が腐食され、断線することがある。
【0035】
絶縁膜134の成膜方法としては、プラズマCVD法、スパッタリング法等が挙げられる。また、絶縁膜のエッチング方法としては、フォトリソグラフィ法やドライエッチングを用いる方法が挙げられる。
【0036】
[その他の構成]
《液室基板》
液室基板112の材料としては、特に限定されないが、一般的には面方位(100)又は(111)のシリコン単結晶基板をフォトリソグラフィ法や異方性エッチングすることにより形成することができる。また、振動版112aは、Si、SiO、Si等をプラズマCVD法等により積層することができる。
【0037】
液室基板112の厚さとしては、通常、100〜600μmである。
【0038】
圧電体122として線膨張係数が8×10−6(1/K)であるPZT(ジルコン酸鉛(PbTiO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体)を用いる場合、振動板の線膨張係数は、5×10−6〜10×10−6であることが好ましく、7×10−6〜9×10−6であることがより好ましい。そのため、振動板112aの材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム等が挙げられ、これらを2種類以上併用しても良い。
【0039】
《振動板》
振動板112aの形成方法としては、特に限定されないが、スパッタ法、ゾルゲル法等が挙げられる。
【0040】
振動板112aの厚さは、通常0.1〜10μmであり、0.5〜3μmであることが好ましい。振動板112aの厚さが0.1μmより小さい場合、加工が困難になることがあり、10μmより大きい場合、振動板が変位しにくくなることがある。
【0041】
《共通電極》
共通電極121の材料としては、特に限定されないが、導電性金属酸化物等が挙げられる。具体的には、化学式ABOで記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuOやCaRuO、これらの固溶体である(Sr1−x Ca)Oのほか、LaNiOやSrCoO、さらにはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Co)O (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuOも挙げられる。他にも、高い耐熱性と低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料等を使用することができる。また、これらの金属層を作製した後に、前記導電性酸化物層を積層して使用しても良い。
【0042】
電気機械変換素子を液体吐出ヘッドに応用する場合、電気機械変換素子と振動板との密着性を良くするために、基板上にTi、TiO、TiN、Ta、Ta、Ta等を密着層として先に積層しても良い。
【0043】
共通電極121の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜法等の方法により作製することができる。
【0044】
《圧電体》
圧電体122の材料としては、特に限定されないが、PZT等の複合金属酸化物を使用することができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体である。例えば、PbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。
【0045】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウム等が挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、 Ba)(Zr、 Ti)O、(Pb1−x、 Sr)(Zr, Ti)O、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
【0046】
圧電体122を形成する方法としては、特に限定されないが、スパッタ法、ゾルゲル法等が挙げられる。また、圧電体122をパターニングする方法としては、特に限定されないが、フォトリソエッチング等が挙げられる。
【0047】
PZTをゾルゲル法により作製する場合、まず、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシド化合物を出発材料とし、メトキシエタノールに溶解させることで、PZT前駆体溶液を作製する。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解するため、安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等の安定化剤を適量、添加しても良い。
【0048】
下地となる基板全面にスピンコート等の溶液塗布法によりPZT前駆体溶液を塗布し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでPZT膜が得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
【0049】
《個別電極》
個別電極123の材料としては、特に限定されないが、共通電極と同様に導電性金属酸化物及び、導電性金属酸化物と金属の積層体を使用することができる。
【0050】
個別電極123の形成方法としては、特に限定されないが、スパッタ法、ゾルゲル法、等が挙げられる。また、個別電極123をパターニングする方法としては、特に限定されないが、フォトリソエッチング等が挙げられる。
【0051】
《配線》
配線140及び配線150の材料としては、特に限定されないが、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Ir等が挙げられる。
【0052】
配線140及び配線150を形成する方法としては、特に限定されないが、スパッタ法、スピンコート法等が挙げられる。
【0053】
配線140及び配線150は、絶縁膜133を部分的に表面改質させることによりインクジェット法を用いてパターニングすることができる。例えば、絶縁膜133を構成する材料が酸化物である場合、シラン化合物を用いて表面改質することができる。その結果、インクジェット法を用いて、表面エネルギーを増大させた領域に、第3又は第4の電極のパターンを直接描画することができる。
【0054】
配線140及び150は、導電性ペーストを用いてスクリーン印刷することによりパターニングすることができる。
【0055】
導電性ペーストとしては、金ペーストのパーフェクトゴールド(登録商標)(真空冶金社製)、銅ペーストのパーフェクトカッパー(真空冶金社製)、印刷用透明PEDOT/PSSインクのOrgaconPaste variant 1/4、Paste variant 1/3(以上、日本アグファ・ゲバルト社製)、カーボン電極ペーストのOrgaconCarbon Paste variant 2/2(日本アグファ・ゲバルト社製)、PEDT/PSS水溶液のBAYTRON(登録商標) P(日本スタルクヴィテック社製)等が挙げられる。
【0056】
配線140及び150の厚さは、通常、0.1〜20μmであり、0.2〜10μmであることが好ましい。配線140及び150の厚さが0.1μmより小さい場合、配線140及び配線150の抵抗が大きくなることがあり、20μmを超えると、プロセス時間が長くなることがある。
【0057】
[インクジェット記録装置]
図2に、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す。なお、図2(a)及び(b)は、それぞれインクジェット記録装置の斜視図及びその機構部の側面図である。
【0058】
インクジェット記録装置200は、本体201の内部に、主走査方向に移動可能なキャリッジ202、キャリッジ202に搭載されているインクジェットヘッド203、インクカートリッジ204で構成される印字機構部205が収納されている。また、インクジェット記録装置200は、本体201の下方部に、前方側から用紙Pを積載することが可能な給紙カセット206を抜き差し自在に装着することができ、用紙Pを手差しで給紙するための手差しトレイ207を開倒することができる。インクジェット記録装置200は、給紙カセット206又は手差しトレイ207から給送される用紙Pを取り込み、印字機構部205で画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ208に排紙する。
【0059】
キャリッジ202は、左右の側板(不図示)に横架されている主ガイドロッド209と従ガイドロッド210により、主走査方向に摺動自在に保持されている。キャリッジ202には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びブラック(Bk)の各色のインクを吐出するインクジェットヘッド203が、複数のノズルが主走査方向と交差する方向に配列し、インクを吐出する方向が下方になるように、装着されている。キャリッジ202には、インクジェットヘッド203に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ204が交換可能に装着されている。
【0060】
インクカートリッジ204は、大気と連通する大気口(不図示)が上方に形成されており、インクジェットヘッド203にインクを供給するための供給口(不図示)が下方に形成されており、インクが充填されている多孔質体(不図示)が内部に設置されている。このとき、多孔質体の毛管力により、インクジェットヘッド203に供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0061】
なお、各色のインクを吐出するインクジェットヘッド203を配列する代わりに、各色のインクを吐出する1個のインクジェットヘッドを設置してもよい。
【0062】
ここで、キャリッジ202は、用紙Pを搬送する方向に対して下流側が、主ガイドロッド209により摺動自在に嵌装されており、用紙Pを搬送する方向に対して上流側が、従ガイドロッド210により摺動自在に載置されている。そして、主走査モーター211により回転駆動される駆動プーリ212と従動プーリ213との間に、タイミングベルト214が張装されており、タイミングベルト214をキャリッジ202に固定している。このため、主走査モーター211を回転させることにより、キャリッジ202を主走査方向に移動走査することができる。
【0063】
一方、給紙カセット206に積載された用紙Pをインクジェットヘッド203の下方側に搬送するために、給紙カセット206から用紙Pを分離給装する給紙ローラ215及びフリクションパッド216と、用紙Pを案内するガイド部材217と、給紙された用紙Pを反転させて搬送する搬送ローラ218と、搬送ローラ218の周面に押し付けられる搬送コロ219及び搬送ローラ218から用紙Pを送り出す角度を規定する先端コロ220が設置されている。搬送ローラ218は、副走査モーター221によりギヤ列(不図示)を介して回転駆動される。
【0064】
そして、キャリッジ202の主走査方向の移動範囲に対応して、搬送ローラ218から送り出された用紙Pをインクジェットヘッド203の下方側で案内するガイド部材222が設置されている。ガイド部材222の用紙Pを搬送する方向に対して下流側には、用紙Pを排紙する方向に送り出すために回転駆動される搬送コロ223及び拍車224が設置されている。さらに、搬送コロ223及び拍車224により送り出された用紙Pを案内するガイド部材225及び226、ガイド部材225及び226により案内された用紙Pを排紙トレイ208に送り出す排紙ローラ227及び拍車228が設置されている。
【0065】
用紙Pに画像を記録する時は、キャリッジ202を移動させながら、画像信号に応じてインクジェットヘッド203を駆動することにより、停止している用紙Pにインクを吐出して1行分を記録した後、用紙Pを搬送する操作を繰り返す。画像の記録が終了した信号又は用紙Pの後端が記録領域に到達した信号を受けると、画像を記録する動作を終了し、用紙Pを排紙する。
【0066】
また、キャリッジ202が移動する方向に対して右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェットヘッド203の吐出不良を回復するための回復装置229が設置されている。回復装置229は、キャップ手段(不図示)、吸引手段(不図示)及びクリーニング手段(不図示)を有する。キャリッジ202は、待機中に、回復装置229の側に移動してキャッピング手段によりインクジェットヘッド203がキャッピングされ、ノズルを湿潤状態に保持することにより、インクの乾燥による吐出不良を防止する。また、画像を記録する途中等に画像の記録と関係しないインクを吐出することにより、全てのノズルにおけるインクの粘度を一定にして、安定した吐出性能を維持することができる。
【0067】
なお、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段によりインクジェットヘッド203のノズルを密封し、吸引手段により、チューブを通して、ノズルからインク、気泡等を吸い出し、クリーニング手段により、ノズルに付着したインク、ゴミ等を除去して、吐出不良を回復することができる。このとき、吸引手段により吸引されたインクは、本体201の下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜の内部に設置されているインク吸収体に吸収保持される。
【実施例】
【0068】
[PZT前駆体溶液の合成]
酢酸鉛三水和物をメトキシエタノールに溶解させた後、脱水し、酢酸鉛三水和物のメトキシエタノール溶液を得た。一方、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解させた後、アルコール交換反応及びエステル化反応を進行させた。次に、酢酸鉛三水和物のメトキシエタノール溶液を加え、0.5mol/LのPZT前駆体溶液を得た。このとき、熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性の低下を防ぐため、化学量論組成に対して、鉛を10モル%過剰にした。
【0069】
[実施例1]
(100)面を主面とするシリコンウェハ上に、振動板として膜厚が1μmの熱酸化膜を形成し、さらに、膜厚が50nmチタン膜、膜厚が200nmの白金膜、膜厚が100nmのSrRuO膜をスパッタにより成膜した。
【0070】
次に、この積層体上に、PZT前駆体溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で乾燥し、500℃で熱分解する工程を3回繰り返した。膜にはクラック等の不良は生じなかった。その後、RTA(急速熱処理)により結晶化熱処理(温度700℃)した。この操作を4回繰り返すことにより、膜厚が1μmのPb(Zr0.53Ti0.47)O膜を得た。
【0071】
次に、Pb(Zr0.53Ti0.47)O膜上に、膜厚が100nmのSrRuO膜及び膜厚が100nmの白金膜の積層体をスパッタにより成膜した。
【0072】
次に、フォトレジストTSMR8800(東京応化社製)をスピンコート法により塗布し、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いてパターニングし、圧電素子120を作製した(図1参照)。
【0073】
圧電素子120が形成された振動板112a上に、ALD法により、Al膜(絶縁膜131)を50nm成膜した。この時、Al及びOの原材料としては、TMA(シグマアルドリッチ社)及びオゾンジェネレーターによって発生させたOを交互に積層させることにより成膜した。
【0074】
次に、絶縁膜131上に、ALD法を用いて、膜厚150nmのZrO膜(絶縁膜132)を成膜した。この時、Zr及びOの原材料としては、Zr(t−OC(シグマアルドリッチ社)、及びオゾンジェネレーターによって発生させたOを交互に積層させることで、成膜した。
【0075】
エッチングにより絶縁膜131及び132上にコンタクトホール部を形成した。その後、絶縁膜132上にAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニングすることで配線140及び150を形成した。
【0076】
次に、配線140及び150上に、プラズマCVD法により、膜厚が1μmのSiN膜を成膜した。その後、エッチングによりコンタクトホールを形成し、絶縁膜133を得た。さらに、後に形成する隔壁112bにより隔てられている空間上の配線140を含む領域を除く領域の絶縁膜133をエッチングした。このエッチングの際のオーバーエッチングにより、絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、24nmであった。
【0077】
その後、個別電極配線又は共通電極配線を取り出すためのパッド部を開口した。
【0078】
[実施例2]
ZrO膜(絶縁膜132)の膜厚を100nmとした以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、9nmであった。
【0079】
[実施例3]
Al膜(絶縁膜131)の膜厚を20nmとした以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、25nmであった。
【0080】
[実施例4]
ZrO膜(絶縁膜132)の膜厚を300nmとした以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、35nmであった。
【0081】
[実施例5]
SiO膜(絶縁膜132)を、プラズマCVDにより500nm成膜した以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、38nmであった。
【0082】
[比較例1]
ZrO膜(絶縁膜132)の膜厚を50nmとした以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚は、6nmであった。
【0083】
[比較例2]
Al膜(絶縁膜131)の膜厚を10nmとした以外は、実施例1と同様にインクジェットヘッドを作製した。絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜 厚は、2nmであった。
【0084】
[電気特性]
実施例及び比較例で作製したインクジェットヘッドの電気特性を評価した。次に、80℃/85%の環境下にインクジェットヘッドを100時間放置した後に、電気特性を評価した。なお、電気特性は、FCE−1(東陽テクニカ社製)を用い、150kV/cmの電界強度での飽和分極Ps(μC/cm)を測定した。
【0085】
電気特性評価に先立って、上記範囲での印可電圧を加えた場合の、下部電極と上部電極間でのショートチェックを行った。
【0086】
また、各々の素子に対して、シリコンウェハをエッチングし、隔壁112bを形成し、予めノズル孔111aを形成しておいたノズル板111と接合することで、インクジェットヘッド100を作製し、液滴の吐出評価を行った。粘度を5cpに調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認した。表1に上記ショート試験結果、電気特性結果及び吐出結果を示す。また、代表的なP−Eヒステリシス曲線の結果を図3に示す。
【0087】
【表1】

表1から、比較例1では絶縁膜132の膜厚が十分でないため、電極間でのショートが発生したことがわかる。また、比較例2では、絶縁膜133が形成されていない領域の、絶縁膜132の膜厚が薄いため、絶縁膜133を形成する場合のプロセスダメージを受け、電気的特性が低かった。
【0088】
実施例で得られたインクジェットヘッドは、吐出特性に優れ、大気中の水分による圧電対の劣化を抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0089】
100 インクジェットヘッド
110 液室
111 ノズル基板
111a ノズル
112 液室基板
112a 振動板
112b 隔壁
120 圧電素子
121 共通電極
122 圧電体
123 個別電極
131、132、133 絶縁膜
131a、132a、133a 開口部
131b、132b、133b 開口部
140、150 配線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0090】
【特許文献1】特開2010−42683号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが形成されているノズル板と、前記ノズル板上に配置されている振動板と、前記振動板と前記ノズル板との間の空間が隔壁により隔てられている複数の液室と、前記振動板上の前記液室が形成される面とは反対側の面に共通電極、圧電体及び個別電極が順次積層されている圧電素子と、を有するインクジェットヘッドであって、
前記圧電素子が形成されている前記振動板上に、第一の開口部が形成されている第一の絶縁膜及び第二の開口部が形成されている第二の絶縁膜が順次積層されており、
前記第一の開口部及び前記第二の開口部を介して、前記個別電極から第一の配線が引き出されており、
前記第一の配線上に、第三の開口部が形成されている第三の絶縁膜が形成されており、
前記第三の開口部を介して、前記第一の配線と駆動回路を電気的に接続する第二の配線が引き出されており、
前記第三の絶縁膜は前記液室上の前記第一の配線を含む領域を除く領域に形成されておらず、
前記第二の絶縁膜の、前記第三の絶縁膜が形成されていない領域の膜厚が5〜40nmであり、かつ、前記第三の絶縁膜が形成されている領域の膜厚が100nm又はそれより厚い、インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第三の絶縁膜はエッチングによりパターン化されており、
前記第二の絶縁膜は、前記エッチングする際の前記第一の絶縁膜に対する保護層である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第二の絶縁膜は、
ZrO、TiO、TaO及びSiOから成る群から選ばれる1種類又は2種類以上の材料を含み、ALD法により形成される、若しくは、
SiO又はSiNのいずれかの材料を含み、p−CVD法により形成される、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第一の絶縁膜は、膜厚が20〜100nmである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記該第一の絶縁膜は、ALD法により形成される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171245(P2012−171245A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36348(P2011−36348)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】