説明

インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置

【課題】 複数種類の濃度のインクを吐出するノズル開口列を可及的に幅狭く配列して印刷精度の高いインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置を構成し、高い画質を得ること。
【解決手段】 より淡い色のインクを吐出する複数のノズル開口列811、812、841、842と、中間濃度のインクを吐出する複数のノズル開口列821、822、851、852と、より濃い色のインクを吐出する複数のノズル開口列831、832、861、862とを、ある同一色相に関して副走査方向Vに濃度の序列により順次一線上に配置する。その上で、より淡い色のインクを吐出するノズル開口列側からより濃い色のノズル開口列側に向かって、ノズル面80を払拭する手段(ワイパー92)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、記録用紙上にインク滴によるドットを形成して画像を印刷するインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に関し、詳しくは淡色から濃色にかけて複数種類ののインク滴によるドットを用いて多値の画像形成を可能とするインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット式記録ヘッドから吐出するインク滴によるドットを用いて原画像データをよりなめらかに印刷するために、例えば、濃淡2種類のインクによるドットを用いて印刷するインクジェット式記録装置が提案されている。これによれば、低濃度領域においては淡いインクによるドットを用いることにより、同一濃度をより多数のドットを使って表現することになり、表現できる階調数を増すことができる。また、淡いインクによるドットは目立ちにくいため、各階調での粒状感(インクのドット粒子が見えることによるざらつき感)を低減することができる。中濃度領域においても淡いインクによるドットをベースに濃いインクによるドットを加えて印刷することにより、同様の効果を得ることができる。したがって、原画像を比較的なめらかな階調表現で再現することが可能になる。
【0003】濃淡2種類のインクによる印刷を実行するためのインクジェット式記録ヘッドは、図12(a)に示すように、濃ブラック色、淡ブラック色、濃シアン色、淡シアン色、濃マゼンタ色、淡マゼンタ色、濃イエロー色、淡イエロー色をそれぞれ吐出する8列のノズル開口列が主走査方向Hに配されている。あるいは、カラー記録の特性上、ブラック色はほとんど濃い領域に使われ、イエロー色は濃インクによるドットでも比較的目立ちにくいことから、淡ブラック色と淡イエロー色を省略して、図12(b)に示すように、濃ブラック色、濃シアン色、淡シアン色、濃マゼンタ色、淡マゼンタ色、濃イエロー色をそれぞれ吐出する6列のノズル開口列が主走査方向Hに配されている。いずれにしても、従来のインクジェット式記録ヘッドにおいては、主走査方向Hにインク色の種類の数だけのノズル開口列を配する必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】インク色の種類が増えるにつれて、インクジェット式記録ヘッドの主走査方向Hに並ぶノズル開口列の数は増え、アクチュエータユニットのスペースを含めたノズル開口列間の距離Lあるいはインクジェット式記録ヘッドの幅寸法は増大する。特によりなめらかな画質を求めて同一色相で少なくとも3種類の濃度のインクを使用する場合、ノズル開口列間距離Lの増大は顕著となる。
【0005】ノズル開口列間の距離Lが大きくなることにより、インクジェット式記録ヘッドの取り付け誤差θによる副走査方向Vに関する、あるいはインクジェット式記録ヘッドを搭載するキャリッジの速度変動による主走査方向Hに関する各色の重ね合わせ誤差が顕著に増大するという問題が発生する。
【0006】また、淡いインクを使用する場合、特に同一色相で少なくとも3種類の濃度のインクを用いることによって可能となるごく淡いインクの使用においては、ノズル面上で濃いインクが混色したときに重大な画質劣化をきたすという問題が発生する。
【0007】本発明はこの点を鑑みてなされたもので、淡色および濃色のインク滴を用いて印刷する場合において、特に、ある色相において淡側から濃側にかけて少なくとも3種類の濃度を有するインクを用いて印刷する場合においても、各色の重ね合わせ精度を高く保つことができるインクジェット式記録ヘッドを提供することを目的とする。
【0008】さらに、淡色および濃色のインク滴を用いて印刷する場合において、特に、ある色相において淡側から濃側にかけて少なくとも3種類の濃度を有するインクを用いて印刷する場合においても、ノズル面上での混色による画質劣化の少ないインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェット式記録ヘッドは、淡色インクと濃色インクとをそれぞれ吐出する複数のノズル開口列群を同一平面をなすノズル面上に配し、そのノズル開口列群をグループ化するとともに同一グループ内の淡色側インクを吐出するノズル開口列と濃色側インクを吐出するノズル開口列とを副走査方向に同列に配置し、グループ内での濃度の序列によりノズル開口列を副走査方向に順次配設して成り、印刷時は記録用紙の同一領域に対して濃色側インクを吐出するノズル開口列側より順次吐出し、非印刷時にノズル面が淡色側インクを吐出するノズル開口列側から濃色側インクを吐出するノズル開口列側へ向かって払拭される如く構成したことを特徴とする。
【0010】また、本発明のインクジェット式記録装置は、上記のインクジェット式記録ヘッドを有し、このインクジェット式記録ヘッドのノズル開口列群の存する同一のノズル面を、淡色側インクを吐出するノズル開口列側から濃色側インクを吐出するノズル開口列側へ向かって、払拭する手段を備えて成ることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
【0012】図1は、本発明の一実施例を示すものであり、インクジェット式記録ヘッドを後述のノズル面側より見た図面である。インクジェット式記録ヘッド1は、インクを加圧する圧力発生室を有する、6個の同一構造のアクチュエータユニット11、12、13、14、15、16が、それぞれ後述する流路形成ユニット2に固定されて構成されている。
【0013】図2は、インクジェット式記録ヘッド1の、圧力発生室の軸線方向の、断面構造をアクチュエータユニットと流路形成ユニットとに分離して示すものであり、また、図3は、アクチュエータユニットに形成されている圧力発生室の配列構造を示すものである。
【0014】図中符号100は、スペーサで、深さ150μm程度の圧力発生室を構成するのに適した厚みを持つジルコニア(ZrO2)などのセラミックス板からなる基板に、各々複数個の圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)が配列されている。また、上下の外壁11a、11b(12a、12b)(13a、13b)(14a、14b)(15a、15b)(16a、16b)は、圧力発生室111、112(121、122)(131、132)(141、142)(151、152)(161、162)の軸線にほぼ平行となるように形成され、その厚みが可及的に薄く構成されている。
【0015】符号31、34(32、35)(33、36)は弾性板で、スペーサ100と一体に焼成したときに十分な接合力を発揮するとともに、後述する圧電振動体411、412、441、442(421、422、451、452)(431、432、461、462)のたわみ振動により弾性変形する材料、例えば、厚さ7μmのジルコニアの薄板で構成されている。
【0016】411、412、441、442(421、422、451、452)(431、432、461、462)はそれぞれ前述の圧電振動体で、振動板31、34(32、35)(33、36)の表面に形成されている下電極311、312、341、342(321、322、351、352)(331、332、361、362)の表面に対向させて貼付し、その後を焼結し、さらに表面に上電極511、512、541、542(521、522、551、552)(531、532、561、562)を作り付けて構成されている。
【0017】これら各部材、スペーサ100、振動板31〜36、は焼成により一体に固定されて、前述のアクチュエータユニット11〜16が構成されている。
【0018】一方、図中符号2は、これらアクチュエータユニット11〜16の固定基板を兼ねる、前述の流路形成ユニットで、スペーサ100の他方の開口面を封止するようにアクチュエータユニット11〜16が貼着、固定される蓋板を兼ねるインク供給口形成基板6と、リザーバ形成基板7と、ノズル形成基板(以降、ノズルプレートと呼称)8を積層して構成されている。
【0019】インク供給口形成基板6は、厚さ約70μmのステンレス鋼の薄板からなり、後述するノズルプレート8のノズル開口811、812、841、842(821、822、851、852)(831、832、861、862)と圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)とを接続するノズル連通孔615、616、645、646(625、626、655、656)(635、636、665、666)と、後述するリザーバ711、712、741、742(721、722、751、752)(731、732、761、762)と圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)とを接続し、かつインク滴を吐出させることができる程度の流体抵抗を備えたインク供給口611、612、641、642(621、622、651、652)(631、632、661、662)とを穿設して構成されている。また、リザーバ711、712、741、742(721、722、751、752)(731、732、761、762)と重なり合う位置にはさらにアクチュエータユニット11、12、13、14、15、16の両側に一定のピッチで12個のインク導入口211、212、241、242(221、222、251、252)(231、232、261、262)が形成されている。
【0020】リザーバ形成基板7は、各色のインクの貯蔵室(リザーバ)を構成するに適した、例えば150μmのステンレス鋼などの耐蝕性を備えた板材に、各アクチュエータユニット11、12、13、14、15、16に形成された圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)に対してインク供給口611、612、641、642(621、622、651、652)(631、632、661、662)を経由してそれぞれ独立してインクを供給する12個のリザーバ711、712、741、742(721、722、751、752)(731、732、761、762)を形成するとともに、各圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)とノズル開口811、812、841、842(821、822、851、852)(831、832、861、862)とを接続するノズル連通孔715、716、745、746(725、726、755、756)(735、736、765、766)を形成して構成される。
【0021】また各リザーバ711、712、741、742(721、722、751、752)(731、732、761、762)は、インク供給口形成基板6に形成されたインク導入口211、212、241、242(221、222、251、252)(231、232、261、262)に連通され、12種類の異なるインクが供給可能になっている。なお、図中符号617、618、647、648(627、628、657、658)(637、638、667、668)は、各リザーバ711、712、741、742(721、722、751、752)(731、732、761、762)に対応してインク供給口形成基板に形成された薄肉部からなるコンプライアンス付与領域を示す。
【0022】8は、前述のノズルプレートで、厚さ約80μmのステンレス鋼の薄板からなる。ノズルプレート8に穿設されたノズル開口811、812、841、842(821、822、851、852)(831、832、861、862)は、各アクチュエータユニット11、12、13、14、15、16に形成された圧力発生室111、112、141、142(121、122、151、152)(131、132、161、162)とノズル連通孔715、716、745、746(725、726、755、756)(735、736、765、766)及び615、616、645、646(625、626、655、656)(635、636、665、666)を介して連通し、かつ圧力発生室と同一のピッチで形成されている。また、記録用紙の搬送方向である副走査方向Vに並ぶ各アクチュエータユニット11、12、13及び14、15、16にそれぞれ対応するノズル開口の列は、副走査方向Vに同列上(一線上)に整列して形成されてそれぞれグループをなしている。
【0023】すなわち、ノズル開口列(以降同一符号でノズル開口列も表わす)811、821、831は一つのグループとして一線上に、ノズル開口列812、822、832は一つのグループとして一線上に、ノズル開口列841、851、861は一つのグループとして一線上に、ノズル開口列842、852、862は一つのグループとして一線上に、それぞれ配列されている。
【0024】ノズル開口列811、821、831、812、822、832、841、851、861、842、852、862は、ノズルプレート8のインク滴吐出面であるノズル面80上に全て配されているため、ノズル開口の相対位置は十分に高い精度に設定することが可能である。
【0025】また、図5(a)に示すようにノズル開口の列は4列で構成されており、図5(b)に示す並列で構成した場合に比し、ノズル開口列間の距離Lが非常に小さく構成されている。
【0026】以上のインクジェット式記録ヘッド1の構成を整理して、以降の説明において、インク導入口からノズル開口にいたる互いに連通する一つのかたまりを流路ブロックと呼称して用いる。例えば、インク導入口211、リザーバ711、インク供給口611、圧力発生室111、ノズル連通孔615、ノズル連通孔715、ノズル811が一つの流路ブロックを成し、これら流路ブロックが12個、存することになる。
【0027】図4は、色の配置を表す図である。この実施例においては、主走査方向Hに関し、H1の位置にある流路ブロックに対してブラック色を、H2の位置にある流路ブロックに対してシアン色を、H3の位置にある流路ブロックに対してマゼンタ色を、H4の位置にある流路ブロックに対してイエロー色を、それぞれ配している。
【0028】すなわち、ノズル開口列811、821、831のグループにはブラック色を、ノズル開口列812、822、832のグループにはシアン色を、ノズル開口列841、851、861のグループにはマゼンタ色を、ノズル開口列842、852、862のグループにはイエロー色を、それぞれ配している。
【0029】また、各グループ内の濃度の序列にしたがって、副走査方向Vに関し、V1の位置にある流路ブロックに対して濃度が非常に小さいインク(淡色インク)を、V2の位置にある流路ブロックに対して濃度がやや小さいインク(中色インク)を、V3の位置にある流路ブロックに対して通常濃度のインク(濃色インク)を、それぞれ配している。
【0030】すなわち、ノズル開口列811、812、841、842には淡色インクを、ノズル開口列821、822、851、852には中色インクを、ノズル開口列831、832、861、862には濃色インクを、それぞれ配している。
【0031】つまり、H1V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は811)にはブラック色の淡色インク(淡ブラックインクと略す、以下同様)を、H1V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は821)には中ブラックインクを、H1V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は831)には濃ブラックインクを、H2V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は812)には淡シアンインクを、H2V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は822)には中シアンインクを、H2V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は832)には濃シアンインクを、H3V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は841)には淡マゼンタインクを、H3V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は851)には中マゼンタインクを、H3V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は861)には濃マゼンタインクを、H4V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は842)には淡イエローインクを、H4V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は852)には中イエローインクを、H4V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は862)には濃イエローインクを、それぞれ配している。
【0032】上記、各色相の各インクの濃度は、各色相の濃色インクの染料濃度を100%として、それぞれ、淡ブラックインク2〜8%、好適には5%、中ブラックインク15〜25%、好適には20%、淡シアンインク、淡マゼンタインク、淡イエローインク共に12〜20%、好適には16%、中シアンインク、中マゼンタインク、中イエローインク共に25〜40%、好適には33%、であった。顔料インクにおいても、各色相の濃色インクの顔料濃度を100%として、上記数値が好適であった。
【0033】図6、図7に、上述のインクジェット式記録ヘッド1を用いたインクジェット式記録装置を示す。図6は、ノズルプレート8のインク滴吐出面であるノズル面80を下側から見た斜視図であり、図7は、その部位の側面視である。
【0034】90はキャップであり、ブチルゴム等で作成されている。キャップ90は、非印刷動作時は、ノズルプレート8のノズル面80に密着し、ほこり等のノズル面80への付着を防ぐとともに、ノズル開口部のインクの乾燥を防止する。また、吸引動作時は、ノズル面80に密着したキャップ90を介して、ポンプ91によりノズル開口から、各流路ブロックのインクを吸引できる構成となっている。
【0035】92はワイパーであり、好適にはクロロプレンゴム等で作成される。ワイパー92は、ワイパーフレーム93に固定され、動作時は、カム溝94等のガイドにより、往時(矢印G方向)にはノズル面80に接触してノズル面80に付着したインク滴、ほこり等を払拭し、復時(矢印R方向)にはノズル面80に接触しない構成となっている。
【0036】前述の如く、全てのノズル開口列811、821、831、812、822、832、841、851、861、842、852、862はノズル面80上に配されており、払拭は容易にかつ確実に実施することができる。
【0037】また、ワイパー92のノズル面80に対する移動は副走査方向Vになされ、往時にはV1位置の流路ブロック側からV3位置の流路ブロック側に向かうよう設定されている。すなわち、往時には淡色インク側から濃色インク側に向かうように設定されている。
【0038】95は記録用紙を示す。
【0039】次に、以上の構成から成るインクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置の動作について説明する。
【0040】記録用紙が挿入され、V3位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、図示しないキャリッジに搭載されたインクジェット式記録ヘッド1は、主走査方向Hに往復移動を開始する。記録用紙は、インクジェット式記録ヘッド1の移動(主走査)毎に、所定量だけ搬送(副走査)される。
【0041】インクジェット式記録ヘッド1の主走査に合わせて、V3位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を、各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給する。
【0042】すなわち、濃ブラックインクのドット形成信号をリザーバ731に連通する圧力発生室131の圧電振動子431に、濃シアンインクのドット形成信号をリザーバ732に連通する圧力発生室132の圧電振動子432に、濃マゼンタインクのドット形成信号をリザーバ761に連通する圧力発生室161の圧電振動子461に、濃イエローインクのドット形成信号をリザーバ762に連通する圧力発生室162の圧電振動子462に、供給する。
【0043】これにより、画像データに対応して、濃ブラックインクのドット形成信号が印加されると、圧電振動子431が圧力発生室側にたわみ変位して圧力発生室131内の濃ブラックインクを加圧する。加圧された濃ブラックインクはノズル連通孔635、735を経由してノズル開口831からインク滴として吐出する。
【0044】ドット形成信号が断たれて圧電振動子431が元の状態に戻ると、圧力発生室131が膨張する(たわんだ状態から元の状態に戻る)。これにより、当該圧力発生室131とインク供給口631を介して接続するリザーバ731から、濃ブラックインクが圧力発生室131に流れ込む。
【0045】同様に、濃シアンインクのドット形成信号が印加されると、圧電振動子432が圧力発生室側にたわみ変位して圧力発生室132内の淡シアンインクを加圧する。加圧された淡シアンインクはノズル連通孔636、736を経由してノズル開口832からインク滴として吐出する。
【0046】ドット形成信号が断たれて圧電振動子432が元の状態に戻ると、圧力発生室132が膨張する。これにより、当該圧力発生室132とインク供給口632を介して接続するリザーバ732から、濃シアンインクが圧力発生室111に流れ込む。
【0047】他の、濃マゼンタインク、濃イエローインクも同様である。こうして濃色インク用画像データによる濃色ドットがまず記録用紙上に配置される。
【0048】このような主走査と副走査による記録を繰返し、V3位置の流路ブロックで記録した領域が、V2位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、V2位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を、各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給する。
【0049】すなわち、中ブラックインクのドット形成信号をリザーバ721に連通する圧力発生室121の圧電振動子421に、中シアンインクのドット形成信号をリザーバ722に連通する圧力発生室122の圧電振動子422に、中マゼンタインクのドット形成信号をリザーバ751に連通する圧力発生室151の圧電振動子451に、中イエローインクのドット形成信号をリザーバ752に連通する圧力発生室152の圧電振動子452に、供給する。
【0050】これにより、画像データに対応して、中ブラックインクのドット形成信号が印加されると、圧電振動子421が圧力発生室側にたわみ変位して圧力発生室121内の中ブラックインクを加圧する。加圧された中ブラックインクはノズル連通孔625、725を経由してノズル開口821からインク滴として吐出する。
【0051】ドット形成信号が断たれて圧電振動子421が元の状態に戻ると、圧力発生室121が膨張する(たわんだ状態から元の状態に戻る)。これにより、当該圧力発生室121とインク供給口621を介して接続するリザーバ721から、中ブラックインクが圧力発生室121に流れ込む。
【0052】他の、中シアンインク、中マゼンタインク、中イエローインクも同様である。こうして中色インク用画像データによる中色ドットが次に記録用紙上に配置される。
【0053】さらに、主走査と副走査による記録を繰返し、V2位置の流路ブロックで記録した領域が、V1位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、V1位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を、各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給する。
【0054】すなわち、淡ブラックインクのドット形成信号をリザーバ711に連通する圧力発生室111の圧電振動子411に、淡シアンインクのドット形成信号をリザーバ712に連通する圧力発生室112の圧電振動子412に、淡マゼンタインクのドット形成信号をリザーバ741に連通する圧力発生室141の圧電振動子441に、淡イエローインクのドット形成信号をリザーバ742に連通する圧力発生室142の圧電振動子442に、供給する。
【0055】これにより、画像データに対応して、淡ブラックインクのドット形成信号が印加されると、圧電振動子411が圧力発生室側にたわみ変位して圧力発生室111内の淡ブラックインクを加圧する。加圧された淡ブラックインクはノズル連通孔615、715を経由してノズル開口811からインク滴として吐出する。
【0056】ドット形成信号が断たれて圧電振動子411が元の状態に戻ると、圧力発生室111が膨張する(たわんだ状態から元の状態に戻る)。これにより、当該圧力発生室111とインク供給口611を介して接続するリザーバ711から、淡ブラックインクが圧力発生室111に流れ込む。
【0057】他の、淡シアンインク、淡マゼンタインク、淡イエローインクも同様である。こうして淡色インク用画像データによる淡色ドットが最後に記録用紙上に配置される。
【0058】上記を繰返して、画像データに応じて、濃インク、中インク、淡インクの順に記録用紙の全記録エリアにドットを配設して、一ページ分の印刷を終了する。
【0059】ここで、淡色インクによるドット用の画像データにより形成される画像は、前述の如く、淡ブラックインク濃度が5%、淡シアン、淡マゼンタ、淡イエローの各インク濃度が16%とごく淡いので、記録用紙上に印刷されたドット粒子はほとんど見えず、非常になめらかな画像となる。
【0060】また、ある記録濃度を表現するのにより多くのドットを使うことになるため、記録ドット数の増減による記録濃度の変化がおだやかとなり、表現できる階調数を増すことができる。
【0061】中色インクによるドット用の画像データは、周囲に淡色インクによるドットが十分に存在し、さらに高い濃度が必要となる領域(中濃度領域)で発生する。
【0062】中色インクによるドット用の画像データにより形成される画像は、中色インクの濃度が、中色インクによる画像が前述の淡色インクによるドットと隣接し合ったときあるいは重なり合ったときに記録ドット粒子が目立たないよう、中ブラックインク20%、中シアン、中マゼンタ、中イエロー各インク33%と設定されているので、記録用紙上に印刷されたドット粒子はほとんど見えず、低濃度領域から中濃度領域へのつなぎが非常になめらかな画像となる。また、中濃度領域を表現するのに多くのドットを使うことになり、記録ドット数の増減による記録濃度の変化がおだやかとなり、表現できる階調数はやはり従前に比し非常に多いものとなる。
【0063】濃色インク用の画像データは、中色インクが十分打ち込まれ、さらに高い濃度が必要となる領域(高濃度領域)で発生する。
【0064】濃色インクによるドット用の画像データによりここで形成される画像は、100%濃度の濃色インクによるドットが中色インクによるドットと隣接し合ったときあるいは重なり合ったときに記録ドット粒子が目立たないように、中色インクの濃度が好適設定されているので、記録用紙上に印刷された濃色インクのドット粒子はほとんど見えず、中濃度領域から高濃度領域へのつなぎが非常になめらかな画像となる。また、中色インクを使用したことにより濃色インクで受け持つ濃度領域を狭くすることができ、結果、表現できる階調数は高濃度領域でも増加する。
【0065】また、ドットを隣接してあるいは重ねて記録用紙上に配置する場合、後に打ち込んだドットは、先に打ち込んだドットの特に水分の影響を受けてト゛ット径がわずかながら膨張し、ドットの粒子が目立ちやすくなるという現象がある。
【0066】本例においては、各グループ内の濃度の序列にしたがってノズル列を配し、濃度の高いインクによるドットから先に記録用紙上に配することによって、濃度の高いインクによるドットの径の膨張を抑えることができる。後から打ち込む、より淡いインクによるドットは、自体がもともと淡いことによって、ト゛ット径の膨張によってドット粒子が目立ちやすくなることはほとんどない。
【0067】非印刷動作時には、インクジェット式記録ヘッド1はキャップ90と対向する位置に向かい、キャップ90がノズル面80と密着する。
【0068】ノズル開口でのインクの蒸発によるインク粘度の上昇、流路内への微小な気泡の混入、ノズル面へのほこりの付着等により、ノズル開口からのインク滴の吐出状態が不良となるのを防止するために、あらかじめ設定された条件のもとでポンプ91を作動し、各ノズル開口より、各流路ブロックのインクを吸引する。あるいは、ノズル開口からのインク滴の吐出状態の不良を回復するために、使用者の指示によりポンプ91が作動し、各ノズル開口より、各流路ブロックのインクを吸引する。
【0069】ポンプ91の作動設定は、例えば、タイマー設定により定期的に作動、インクジェット式記録装置の電源投入時に作動、インクカートリッジの交換時に作動、等の設定が有効である。
【0070】ポンプ91でのインク吸引により、各流路ブロック内のインクが流動し、各流路ブロック内のインクはフレッシュなものと置き換わる。
【0071】ポンプ91の吸引動作が終了した直後においては、吸引によりノズル開口部から噴出したインクがノズル面80上のノズル開口部の周りにインク滴あるいはインク溜の形で存在する。また、繊維状の紙粉等がノズル面80に残留する場合がある。これらを払拭するために、次のワイピング動作を実施する。
【0072】ポンプ91の吸引動作が終了すると、キャリッジ移動により、インクジェット式記録ヘッド1のノズル面80はワイパー92の作動領域に入る。
【0073】ワイパー92は、カム溝94のガイドにより、往時にはノズル面80に接触してスライドする。ワイパー92のこの動作により、ノズル面80上のノズル開口部の周りに付着したインク滴、インク溜あるいは繊維状の紙粉等は払拭され、記録のためのノズル開口からのインク滴吐出を正しく、まっすぐに行なうことが可能となる。すべてのノズル開口は同一のノズル面80上に配設されているため、この払拭動作は一度に行なうことができる。
【0074】ワイパー92によるノズル面80の払拭動作をさらに詳述すると、ノズル面80上のノズル開口部の周りに付着したインク溜等は、ワイパー92のエッジ部によって押し出され、ワイパー92の移動方向に移動する。押し出されたインク溜は、移動途中にノズル開口に遭遇すると、そのノズル開口内に入り込み、そのノズル開口内のインクと混じり合う(混色する)。淡いインクのノズル開口内で混色が発生すると、そのノズル開口から吐出されたインク滴で形成された画像は重大な画質劣化をきたす。
【0075】本実施例においては、ワイパー92のスライド方向は、ノズル面80の淡色インクを吐出するノズル側から濃色インク側に向かって作動するよう設定されている。また、ワイパー92のスライド方向には、同一色相のインクを吐出するノズル開口が並ぶよう設定されている。
【0076】このため、前述のワイパー92の作動によるノズル開口部での混色は、同一色相内で、より淡いインクがより濃いインクに混じり合う、という形でしか発生しない。
【0077】濃いインクに少量の淡いインクが混じり合ったときの濃いインクの変化は、淡いインクに少量の濃いインクが混じり合ったときの淡いインクの変化に比べて、はるかに目立ちにくく、また、同一色相のインクの混じり合いによる変化は、別色相のインクの混じり合いによる変化に比べて、はるかに目立ちにくい。したがって、ワイパー92でのノズル面80の払拭後、直ちに印刷を実施しても画質の劣化がほとんど目立たないものとなる。
【0078】以上に詳述したように、本実施例によれば、各基本色相に対して3種類の濃度のインクを用い、最低濃度を十分に下げ、ごく淡いインクとすることができることから、低濃度領域を、各個のドット粒子がほとんど見えない状態で表現することができる。また、同一濃度をより多数のドットを使って表現することができることから、表現できる階調数を増すことができる。
【0079】また、最低濃度のインク(淡色インク)と最高濃度のインク(濃色インク)との間に中間濃度のインク(中色インク)を設けることが出来ることから、中濃度領域においても、各インクのつなぎがよりなめらかな、画像の濃度が増すにつれて、淡色インクの中に現れる中色インク、および、中色インクの中に現れる濃色インク、の粒子が目立たない、かつ、再現できる階調数の多い、表現をすることができる。
【0080】濃色インクとして通常濃度のインクを用いることにより、画像の高濃度領域の最高濃度部、あるいは文字等を、従前と同様の濃さで表現することができる。また、目的に応じては、濃色インクをさらに濃くする余地も有するものである。
【0081】したがって、原画像データを、低濃度領域から高濃度領域まで、粒状感(インクのドット粒子が見えることによるざらつき感)を小さく、階調数を多く、なめらかに再現することができる。
【0082】本実施例においては、上記(各基本色相に対して3種類の濃度のインクを用いること)を、図1〜図5に示すように、主走査方向に関して、アクチュエータユニットにして2列構成で、ノズル開口列にして4列構成で実現しているため、ノズル開口列間の距離Lを小さくすることができる。
【0083】これにより、インクジェット式記録ヘッド1をキャリッジへ取り付ける際に生じる回転方向の誤差θによって、異なる色相のノズル開口間に生じる副走査方向Vに関する不整列量(副走査方向Vに関する色重ね合わせ誤差)eは、十分に小さいものとすることができる。
【0084】また、インクジェット式記録ヘッド1を搭載して移動するキャリッジの速度変動により、あるノズル開口列で記録用紙に吐出したドット群に別のノズル開口列で記録用紙に吐出したドット群を重ねるまでの間の速度変動の積分値として生じる、異なる色相のノズル開口間に生じる主走査方向Hに関する不整列量(主走査方向Hに関する色重ね合わせ誤差)を、十分に小さいものとすることができる。
【0085】したがって、原画像データを、低濃度領域から高濃度領域まで、粒状感を小さく、階調数を多く、なめらかに再現することが、十分な精度をもって可能となる。
【0086】加えて、本実施例によれば、ワイパー92のスライド方向をノズル面80の淡色インクを吐出するノズル側から濃色インク側に向かって作動するよう設定し、また、ワイパー92のスライド方向に同一色相のインクを吐出するノズル開口が並ぶよう設定することにより、ワイパー92でノズル面80を払拭したときのノズル開口部での混色は、同一色相内で、より淡いインクがより濃いインクに混じり合う、という形でしか発生せず、ワイパー92の動作後、すぐに印刷を実行しても画質の劣化がほとんど目立たないものとすることができる。
【0087】図8、図9は、本発明の他の実施例を示すものである。インクジェット式記録ヘッド1は、インクを加圧する圧力発生室を有する、6個のアクチュエータユニット11、12、13、14、15、16が、それぞれ流路形成ユニット2に固定されて構成されている。
【0088】本実施例の第一の実施例との相違は、流路ブロックを1列分だけ減らしていることである。
【0089】すなわち、アクチュエータユニット11、12、13には、主走査方向Hに関し、H1の位置に一列だけ流路ブロック(あるいはノズル開口列のグループ811、821、831)が形成され、アクチュエータユニット14、15、16には、第一の実施例と同様に、H3の位置およびH4の位置に2列の流路ブロック(あるいは2列のノズル開口列のグループ841、851、861および842、852、862)が形成されている。また、副走査方向Vに関しては、第一の実施例と同様に、V1、V2、V3の位置にそれぞれ3つの流路ブロックが配されている。
【0090】したがって、本実施例においてはインクジェット式記録ヘッド1は、9個の流路ブロックで構成され、ノズル開口の列は3列で構成されていることになる。
【0091】各流路ブロックの構成要素は、第一実施例と同様で、主走査方向Hに関しH1副走査方向Vに関しV1の位置(H1V1)にある流路ブロックは、インク導入口211、リザーバ711、インク供給口611、圧力発生室111、ノズル連通孔615、ノズル連通孔715、ノズル811からなり、以下同様に、 H1V2の位置にある流路ブロックは、インク導入口221、リザーバ721、インク供給口621、圧力発生室121、ノズル連通孔625、ノズル連通孔725、ノズル821からなり、‥‥、H4V3の位置にある流路ブロックは、インク導入口262、リザーバ762、インク供給口662、圧力発生室162、ノズル連通孔666、ノズル連通孔766、ノズル862からなる。
【0092】各構成要素の材質、厚み、製造方法等を第一の実施例と同様とすることで本実施例のインクジェット式記録ヘッド1も好適に作成することができる。
【0093】図9に本実施例の色の配置を示す。本実施例においては、主走査方向Hに関し、H1の位置にある流路ブロックに対してイエロー色およびブラック色を、H3の位置にある流路ブロックに対してシアン色を、H4の位置にある流路ブロックに対してマゼンタ色を、それぞれ配している。
【0094】すなわち、ノズル開口列811、821、831のグループにはイエロー色およびブラック色を、ノズル開口列841、851、861のグループにはシアン色を、ノズル開口列842、852、862のグループにはマゼンタ色を、それぞれ配している。
【0095】また、各グループ内の濃度の序列にしたがって、副走査方向Vに関し、V1の位置にある流路ブロックに対して濃度が非常に小さいインク(淡色インク)を、V2の位置にある流路ブロックに対して濃度がやや小さいインク(中色インク)を、V3の位置にある流路ブロックに対して通常濃度のインク(濃色インク)を、それぞれ配している。
【0096】すなわち、ノズル開口列811、812、841、842には淡色インクを、ノズル開口列821、822、851、852には中色インクを、ノズル開口列831、832、861、862には濃色インクを、それぞれ配している。
【0097】ここで、イエロー色は、明度が十分に高く(すなわち光学的濃度が十分小さく)、濃イエローインクでも記録用紙上に印刷されたドット粒子は肉眼で感知しにくいため、光学的濃度の序列にしたがって淡色インクとして扱うことができる。
【0098】つまり、本実施例においては、H1V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は811)には濃イエローインクを、H1V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は821)には中ブラックインクを、H1V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は831)には濃ブラックインクを、H3V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は841)には淡シアンインクを、H3V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は851)には中シアンインクを、H3V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は861)には濃シアンインクを、H4V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は842)には淡マゼンタインクを、H4V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は852)には中マゼンタインクを、H4V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口列は862)には濃マゼンタインクを、それぞれ配している。
【0099】上記、各色相の各インクの濃度は、各色相の濃色インクの染料濃度を100%として、それぞれ、淡シアンインク、淡マゼンタインクは16%、中シアンインク、中マゼンタインクは33%、とした。また、中ブラックインクは20%とした。
【0100】キャップ、ポンプ、ワイパー等を含む、上記インクジェット式記録ヘッド1を用いたインクジェット式記録装置の構成は、第一の実施例と同様である。
【0101】以上の構成から成るインクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置の動作は、基本的には、第一の実施例と同様に行なわれ、以下となる。
【0102】記録用紙が挿入され、V3位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、V3位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給し、濃ブラックインク、濃シアンインク、濃マゼンタインクの各ドットを、高濃度領域の画像データに合わせて、ノズル開口831、861、862からインク滴として吐出する。
【0103】次に、V3位置の流路ブロックで記録した領域が、V2位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、V2位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を、各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給し、中ブラックインク、中シアンインク、中マゼンタインクの各ドットを、中濃度領域の画像データに合わせて、ノズル開口821、851、852からインク滴として吐出する。
【0104】さらに、V2位置の流路ブロックで記録した領域が、V1位置の流路ブロックに対向する位置に来たときに、V1位置の流路ブロックに対応する各色のドット形成信号を、各流路ブロックに存在する圧電振動子に供給し、濃イエローインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクの各ドットを、低濃度領域の画像データに合わせて、ノズル開口811、841、842からインク滴として吐出する。濃イエローインクについては、高濃度領域の画像データおよび中濃度領域の画像データも合わせて、この時点でノズル開口811からインク滴として吐出し、全濃度領域に対応したドット形成を行なう。
【0105】前述の如く、イエロー色は光学的濃度が十分小さく、濃イエローインクでも記録用紙上に印刷されたドット粒子は肉眼で感知しにくいため、淡イエローインクおよび中イエローインクを省略しても粒状感を損なうことが少なく、低濃度領域や中濃度領域においても十分になめらかな画像を得ることができる。
【0106】また、低濃度領域でのブラック色は淡シアン、淡マゼンタ、イエロー3色の混合で得ることにより、淡ブラックインクの省略は可能である。
【0107】上記を繰返して、画像データに応じて、記録用紙の全記録エリアにドットを配設して、一ページ分の印刷を終了する。
【0108】第一の実施例と同様に、非印刷動作時にはインクジェット式記録ヘッド1はキャップ90と対向する位置に向かい、キャップ90がノズル面80と密着し、設定によりポンプ91の作動により各流路ブロックのインクが吸引され、また、設定によりワイパー92の動作によりノズル面80のインク溜等が払拭される。
【0109】本実施例においても、ワイパー92のスライド方向は副走査方向Vに関してV1位置の流路ブロック側からV3位置のブロック側に向かって作動するように設定されている。
【0110】このため、ワイパー92の作動によるノズル開口部での混色は、主走査方向Hに関してH3およびH4の位置の流路ブロック(シアンのノズル開口列841、851、861およびマゼンタのノズル開口列842、852、862)においては同一色相内でより淡いインクがより濃いインクに混じり合うという形で発生し、また、H1の位置の流路ブロック(イエローとブラックのノズル開口列811、821、831)においてはイエローインクがブラックインクに混じり合うという形で発生する。
【0111】ここで、イエロー色は中ブラックに比しても光学的濃度が十分低く、また、ブラック色は減法混色の極である(全ての色が混じり合って生じる)という原理的性質から、ブラックインクに少量のイエローインクが混じり合ったときのブラックインクの変化はほとんど目立たないものとなる。
【0112】したがって、本実施例においても第一の実施例と同様、ワイパー92でのノズル面80の払拭後、直ちに印刷を実施しても画質の劣化がほとんど目立たないものとなる。
【0113】以上に詳述したように、本実施例によれば、光学的濃度が小さいイエロー色のインク濃度水準を1種類にしたことにより、第一の実施例による効果とほぼ同等の効果を、3列構成のノズル開口列で実現できる。
【0114】したがって、ノズル開口列間の距離Lをさらに小さくすることができ、異なる色相のノズル開口間に生じる副走査方向Vに関する不整列量(副走査方向Vに関する色重ね合わせ誤差)および異なる色相のノズル開口間に生じる主走査方向Hに関する不整列量(主走査方向Hに関する色重ね合わせ誤差)を、さらに小さいものとすることができる。
【0115】また、インクジェット式記録ヘッド1をより小型軽量かつ安価なものとすることができる。
【0116】なお、上述した実施例においては、ある(少なくとも1つの)色相に対して3種類の濃度を有するインクを用いたインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に例を取って説明したが、ある色相に対して4種類以上の濃度を有するインクを用いたインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置においても効果は大きく、また、ある色相に対して濃淡2種類の濃度を有するインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に適応しても十分に効果を発揮するものである。
【0117】図10、図11に、本発明のさらに他の実施例を示す。インクジェット式記録ヘッド1は、3個のアクチュエータユニット11、12、13が、それぞれ流路形成ユニット2に固定されている。
【0118】アクチュエータユニット11、12、13には、主走査方向Hに関し、H1の位置およびH2の位置に2列の流路ブロックが形成されている。また、副走査方向Vに関しては、V1、V2、V3の位置にそれぞれ3つの流路ブロックが配されている。
【0119】したがって、本実施例においてはインクジェット式記録ヘッド1は、6個の流路ブロックで構成され、ノズル開口の列は2列で構成されていることになる。
【0120】各流路ブロックの構成要素は、第一、第二実施例と同様で、主走査方向Hに関しH1副走査方向Vに関しV1の位置(H1V1)にある流路ブロックは、インク導入口211、リザーバ711、インク供給口611、圧力発生室111、ノズル連通孔615、ノズル連通孔715、ノズル811からなり、以下同様に、H1V2の位置にある流路ブロックは、インク導入口221、リザーバ721、インク供給口621、圧力発生室121、ノズル連通孔625、ノズル連通孔725、ノズル821からなり、‥‥、H2V3の位置にある流路ブロックは、インク導入口232、リザーバ732、インク供給口632、圧力発生室132、ノズル連通孔636、ノズル連通孔736、ノズル832からなる。
【0121】各構成要素の材質、厚み、製造方法等を第一、第二の実施例と同様とすることで本実施例のインクジェット式記録ヘッド1も好適に作成することができる。
【0122】本実施例においては、6個の流路ブロックのすべてにブラック色のインクを配している。すなわち、H1V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口は811)にはブラックインクAを、H1V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口は821)にはブラックインクCを、H1V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口は831)にはブラックインクEを、H2V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口は812)にはブラックインクBを、H2V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口は822)にはブラックインクDを、H2V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口は832)にはブラックインクFを、それぞれ配している。
【0123】ここで、符号A〜Fはインクの濃度の序列を表わし、Aが最も淡く、Fが最も濃いものである。各ブラックインクの濃度は、ブラックインクFの染料濃度を100%として、それぞれ、ブラックインクAは2〜5%、好適には4%、ブラックインクBは6〜10%、好適には8%、ブラックインクCは11〜15%、好適には13%、ブラックインクDは16〜25%、好適には20%、ブラックインクEは30〜45%、好適には36%として好結果が得られた。
【0124】なお、順序を少し変えて、H1V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口は811)にブラックインクAを、H1V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口は821)にブラックインクBを、H1V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口は831)にブラックインクCを、H2V1の位置にある流路ブロック(ノズル開口は812)にブラックインクDを、H2V2の位置にある流路ブロック(ノズル開口は822)にブラックインクEを、H2V3の位置にある流路ブロック(ノズル開口は832)にブラックインクFを、配しても同様に良好な結果が得られた。
【0125】キャップ、ポンプ、ワイパー等を含む、上記インクジェット式記録ヘッド1を用いたインクジェット式記録装置の構成は、第一の実施例と同様である。
【0126】以上の構成から成るインクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置の動作は、基本的には、第一、第二の実施例と同様に行なわれ、同様の効果が得られる。
【0127】加えて、本実施例によれば、一色に対して6という非常に多くの濃度階調をドットに付与することが容易にできることから、はるかになめらかで表現階調数が多く粒状が感知しにくいモノトーンのインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置が安価に精度良く作成することができる。これにより、特にモノクローム写真画像、医療用画像等の表現に優れたインクジェット式記録ヘッドあるいはインクジェット式記録装置を提供することができる。
【0128】なお、上述の実施例においてはすべて、圧力発生室を圧電振動子のたわみ振動により膨張、収縮させるユニットを複数使用したインクジェット式記録ヘッドに例を取って説明したが、縦振動モードの圧電振動子の一端を振動板に当接させたり、また圧力発生室内のインクを発熱素子により加熱して加圧するものに適応しても同様の作用を奏する。
【0129】
【発明の効果】以上説明したように本発明においては、淡色インクと濃色インクとをそれぞれ吐出する複数のノズル開口列群を同一のノズル面上に配し、同一グループ内の淡色側インクを吐出するノズル開口列と濃色側インクを吐出するノズル開口列とを副走査方向に同列に配置し、その同じグループ内での濃度の序列によりノズル開口列を副走査方向に順次配設したことにより、原画像データを低濃度領域から高濃度領域まで粒状感を小さく階調数を多くなめらかに再現することが、各色の重ね合わせ精度を高く保った上で可能となるインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置を構成できる。
【0130】また、同一グループ内で濃度の序列によりノズル開口列を順次配置し、このノズル開口列群の存する同一のノズル面を、淡色インクを吐出するノズル開口列側から濃色インクを吐出するノズル開口列側へ向かって列方向に沿って払拭する手段を備えたことにより、ノズル面上での混色による画質劣化の少ないインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット式記録ヘッドの一実施例を示す正面図である。
【図2】本発明のインクジェット式記録ヘッドの断面構造を、アクチュエータユニットと流路形成ユニットとに分離して示す図である。
【図3】本発明のインクジェット式記録ヘッドを構成するアクチュエータユニットの一実施例を示す図である。
【図4】本発明のインクジェット式記録ヘッドに使用するインク色の配置の一実施例を示す図である。
【図5】本発明のインクジェット式記録ヘッドによるドット配置誤差を説明する図である。
【図6】本発明のインクジェット式記録装置の一実施例を示す斜視図である。
【図7】本発明のインクジェット式記録装置の一実施例の側面図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す図である。
【図9】本発明の他の実施例を示す図である。
【図10】本発明の第三のの実施例を示す図である。
【図11】本発明の第三のの実施例を示す図である。
【図12】従来例を示す図である。
【符号の説明】
1 インクジェット式記録ヘッド
2 流路形成ユニット
6 インク供給口形成基板
7 リザーバ形成基板
8 ノズルプレート
11〜16 アクチュエータユニット
31〜36 弾性板
80 ノズル面
90 キャップ
91 ポンプ
92 ワイパー
93 ワイパーフレーム
94 カム溝
100 スペーサ
111〜162 圧力発生室
211〜262 インク導入口
311〜362 下電極
411〜462 圧電振動子
511〜562 上電極
611〜662 インク供給口
615〜666 ノズル連通孔
711〜762 リザーバ
715〜766 ノズル連通孔
811〜862 ノズル開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】淡色インクと濃色インクとをそれぞれ吐出する複数のノズル開口列群を同一の平面をなすノズル面上に配し、前記ノズル開口列群をグループ化するとともに同一グループ内の淡色側インクを吐出するノズル開口列と濃色側インクを吐出するノズル開口列とを副走査方向に同列に配置し、前記グループ内での濃度の序列により前記ノズル開口列を副走査方向に順次配設して成り、印刷時は記録用紙の同一領域に対して前記濃色側インクを吐出するノズル開口列側より順次吐出し、非印刷時に前記ノズル面が前記淡色側インクを吐出するノズル開口列側から前記濃色側インクを吐出するノズル開口列側へ向かって払拭される如く構成したことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、記録用紙上に印刷されたときの光学的濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、ともに染料を含み、染料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、ともに顔料を含み、顔料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、少なくとも3種類の異なる濃度を有するインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】前記同列に配したノズル開口列からなる前記グループが4つ以下で構成されることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、少なくとも一つのグループ内において同一色相で濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項8】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、少なくとも一つのグループ内において同一色相の染料を含み、染料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1、3または7記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、少なくとも一つのグループ内において同一色相の顔料を含み、顔料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1、4または7記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項10】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとが、各グループ毎にすべて同一色相であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項11】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、各グループ毎にすべて同一色相の染料を含み、染料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1、3または10記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項12】前記同列に配したノズル開口列から吐出する前記淡色側インクと前記濃色側インクとは、各グループ毎にすべて同一色相の顔料を含み、顔料濃度の異なるインクであることを特徴とする請求項1、4または10記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項13】前記ノズル開口列群から吐出するインクの色相が、シアン色、マゼンタ色、イエロー色を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項14】前記ノズル開口列群から吐出するインクの色相が、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、ブラック色を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項15】前記ノズル開口列群から吐出するインクの色相が、すべて同一の単色からなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項16】前記同列に配したノズル開口列から吐出するインクの色相が、各グループそれぞれシアン色、マゼンタ色、イエロー色であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項17】前記同列に配したノズル開口列から吐出するインクの色相が、各グループそれぞれシアン色、マゼンタ色、イエロー色、ブラック色であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項18】前記同列に配したノズル開口列から吐出するインクの色相が、各グループすべてブラック色であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項19】前記インク滴の吐出原理が圧電素子等による機械的加圧によってインク滴を吐出する加圧ジェット方式であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項20】前記インク滴の吐出原理が発熱素子等による発熱で発生する泡によってインク滴を吐出する熱ジェット方式であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項21】請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット式記録ヘッドを有し、該インクジェット式記録ヘッドの前記ノズル開口列群の存する前記同一のノズル面を、前記淡色側インクを吐出するノズル開口列側から前記濃色側インクを吐出するノズル開口列側へ向かって、払拭する手段を備えて成ることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項22】前記インクジェット式記録ヘッドのインク滴の吐出原理が圧電素子等による機械的加圧によってインク滴を吐出する加圧ジェット方式であることを特徴とする、請求項21記載のインクジェット式記録装置。
【請求項23】前記インクジェット式記録ヘッドのインク滴の吐出原理が発熱素子等による発熱で発生する泡によってインク滴を吐出する熱ジェット方式であることを特徴とする、請求項21記載のインクジェット式記録装置。
【請求項24】前記インクジェット式記録ヘッドのノズル開口列群から吐出するインクの色相が、シアン色、マゼンタ色、イエロー色を含むことを特徴とする請求項21記載のインクジェット式記録装置。
【請求項25】前記インクジェット式記録ヘッドのノズル開口列群から吐出するインクの色相が、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、ブラック色を含むことを特徴とする請求項21記載のインクジェット式記録装置。
【請求項26】前記インクジェット式記録ヘッドのノズル開口列群から吐出するインクの色相が、すべて同一の単色からなることを特徴とする請求項21記載のインクジェット式記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2000−263786(P2000−263786A)
【公開日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−76097
【出願日】平成11年3月19日(1999.3.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】