説明

インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置

【課題】シリコン基板1枚あたりの取り数を多くでき、もにコストダウンを図ることのできるインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドは、ノズル1aが形成されたノズル基板1と、ノズル基板1と接合されかつ側壁と振動板3とにより区切られた液室2aとインク導入路2bとが形成された液室基板2と、振動板3と一体的に形成されて振動板3を振動させることにより液室に発生した圧力によりノズル1aからインクを吐出させる電気機械変換素子と、振動板3を介して液室基板2に接合されかつインク供給溝4aを有する液体供給基板4と、電気機械変換素子に配線部材を介して接合されかつ電気機械変換素子を駆動する駆動回路部材とを備え、液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面が液室基板2のインク導入路1bに対向させて接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置の改良に関し、パーソナル印刷、オフィス印刷、POD(プリントオンデマンド)、ショートラン(多種少量印刷)等のデジタル印刷やインクジェットプリンタ、MFP(多機能周辺装置)を使用するデジタル印刷装置、インクジェット技術を利用する三次元造型技術等に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録ヘッドとして、シリコン単結晶基板に異方性エッチングを行って、圧力発生室(液室)、インク導入路、連通部を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照、特許文献2参照。)。
【0003】
近年、プリンタ又はその複合機として、画質のきれいさ、値段の安さ、速度対応性(ノズルの数を増減することにより、プリント速度の速いものからプリント速度は遅いが価格が安いものまで対応ができること)が評価され、インクジェット記録ヘッドを搭載したものの普及が進んでいる。
そのような状況のなかで、より一層の画質向上、コストダウン、小型、軽量化が要求されている。
【0004】
インクジェット記録ヘッドには、複数のノズルが形成されたノズル基板と、このノズル基板と接合されかつ側壁と振動板とにより区切られた複数の液室とこの液室にインクを導入するインク導入路とが形成された液室基板と、その振動板と一体的に形成されてこの振動板を振動させることにより液室に発生した圧力によりノズルからインクを吐出させる電気機械変換素子と、その振動板を介してその液室基板に接合されかつインク導入路にインクを供給するインク供給溝を有する液体供給基板と、その電気機械変換素子に配線部材を介して接合されかつその電気機械変換素子を駆動する駆動回路部材とを備えたものが知られている。
【0005】
そのインクジェット記録ヘッドの加工方法には、MEMS(micro electro mechanical systems)技術が取り入れられている。このMEMS技術は半導体プロセスを利用した微細加工技術である。たとえば、シリコン基板にインクジェット記録ヘッドとして必要な液室、振動板、電気機械変換素子、電極等の構成要素がエッチング、スパッタ等の加工方法により形成される。
【0006】
これらの構成要素(部品)を小さく形成したり、各構成要素の配置に工夫を凝らすことにより、インクジェット記録ヘッドとして小型、軽量化を図ることができる。これらにより、1枚のシリコン基板から多くのインクジェット記録ヘッドを作製でき、小型化すればするほどコストダウンを図ることができる。
【0007】
すなわち、シリコン基板1枚あたりの取り数を多くすることにより、大幅なコストダウンが可能となり、このインクジェット記録ヘッドを搭載したプリンタの場合、シリアルプリンタの場合にはキャリッジに搭載するインクジェット記録ヘッドが小型化・軽量化されるため、シリアルプリンタの大きさ、特に、幅方向が小さくなり、また、キャリッジを駆動走査する駆動走査機構、モータ等を小型化できるため、大幅なコストダウンを図ることができることになる。
【0008】
インクジェット記録ヘッドの小型、軽量化の技術的課題としては、液室、振動板、電気機械変換素子等の大きさに起因するものが多い。インクジェット記録ヘッドは、通常各機能を有する基板を複数枚貼り合わせて構成される。たとえば、インクジェット記録ヘッドは、図1に模式的に示すように、ノズル基板1、液室基板2、液体供給基板4、フレーム基板5、フレキシブルプリント基板9、駆動IC10等により概略構成される。
【0009】
各基板は、適宜、接着剤、陽極接合等の手段により接合されている。各基板には、たとえば、液室基板2には液室と流体抵抗及びインク導入路が形成される。これらは、通常、単結晶シリコン基板にエッチングを施すことにより形成される。
【0010】
また、加工方法としては、エッチングの代わりに、たとえば、ガラスを用いた廉価なサンドブラスト等の加工方法が用いられることがある。このようなエッチング、サンドブラスト等の加工方法により液室基板にインク導入路、各液室を形成する際、液体供給基板にインク供給溝を形成する際にテーパ状開口壁が形成される。
【0011】
特に、ウェットエッチングにより、液室基板にインク導入路や各液室を形成する際、液体供給基板にインク供給溝を形成する際、液室基板のインク導入路や各液室を構成する構成壁、液体供給基板のインク供給溝を構成する構成壁がテーパ状に加工され、各基板の表面と裏面とでテーパ状開口の開口面積が異なることになり、テーパ状開口の開口面積の小さな方の開口面積を一定の大きさに確保しようとすると、シリコン基板が厚いほどテーパ状開口の開口面積の表裏の大きさの差が大きくなり、テーパ状開口の開口面積が大きな方の面の面積が大きくなるため、シリコン基板1枚当たりの取り数が大きく減少し、コストアップになるという不具合がある。
【0012】
これに対して、ドライエッチングによる加工方法を採用すると、加工精度がウエットエッチングより劣るものの、液室基板のインク導入路、液室を構成する構成壁、液体供給基板のインク供給溝を構成する構成壁がテーパ状となることを回避できるが、加工コストが高いという不都合がある。
但し、100μm程度の薄板を加工する場合のように、加工時間が短く設定できれば、コスト高はある程度回避できる。
【0013】
ガラスの加工方法では、一般に、ウェットエッチング法よりもサンドブラスト法が安価であるが、サンドブラスト法による場合、通常、各構成壁が70度程度のテーパ状となる。
【0014】
液室基板、液体供給基板の全体の大きさは同じであり、シリコン基板1枚当たりの取り数を従来通りとして、液室基板のインク導入路のテーパ状開口の開口面積の小さい方の面を液体供給基板のインク供給溝のテーパ状開口の開口面積の大きな方の面に接合するために、液室基板のインク導入路のテーパ状開口の開口面積の小さな方の寸法を液体供給基板のインク供給溝のテーパ状開口の開口面積の大きな方の寸法に合わせる構成とすると、液室基板と液体供給基板との接合面の接合部分の面積が少なくなり、液室のシール性等の信頼性が低下したり、インクジェット記録ヘッドの機能が低下するおそれがある。
【0015】
一方、液室基板、液体供給基板の全体の大きさは同じであり、シリコン基板1枚当たりの取り数を従来通りとして、液室基板のインク導入路のテーパ状開口の開口面積の小さい方の面を液体供給基板のインク供給溝のテーパ状開口の開口面積の大きな方の面に接合するために、液体供給基板のインク供給溝のテーパ状開口の開口面積の大きな方の寸法を液室基板のインク導入路のテーパ状開口の開口面積の小さな方の寸法に合わせる構成とすると、液体供給基板のインク供給溝(液体供給通路)が小さくなり、インクが液室に供給される供給量が少なくなったり、フレーム基板に形成されて液体供給基板のインク供給溝に連通する共通液室が小さくなり、クロストーク、応答周波数等のインクジェット記録ヘッドの機能の低下が生じる。
【0016】
図2はこれらの不具合を説明するための模式図である。その図2において、図1と同一構成要素には同一符号が付されている。その図2において、符号3は振動板である。ノズル基板1には、ノズル1aが形成されている。
【0017】
液室基板2には、液室2a、インク導入路2b、流体抵抗部2c、側壁部2dが形成されている。液体供給基板4にはインク供給溝4aが形成されている。フレーム基板5には共通液室5aが形成されている。
【0018】
図2(a)に示すように、シリコン基板に異方性エッチング処理を施すことによってインク導入路2b、液室2aを有する液室基板2を形成すると、インク導入路2aを構成する構成壁の断面が一方の面から他方の面に向かってテーパ状となる。
【0019】
液室2aにインクを供給するインク導入路2bの一方の面のテーパ状開口の最小必要幅を符号Lで表現することにすると、他方の面のインク導入路2bのテーパ状開口は、一方の面のインク導入路2bのテーパ状開口よりも大きな幅Cを有するテーパ状開口となり、ノズル基板1の接合部分の幅Bを考慮すると、シリコン基板からなるウエハの大きさは符号Aで示す寸法となる。
【0020】
図2(b)に示すように、その液室基板2に接合される液体供給基板4としてのシリコン基板に異方性エッチング処理を施すことによってインク供給溝4aを形成する場合、液体供給基板4に接合されるフレーム基板5としてのシリコン基板に異方性エッチング処理を施すことによって共通液室5aを形成する場合についても、インク供給溝4aを構成する構成壁、共通液室5aを構成する構成壁の断面が一方の面から他方の面に向かってテーパ状開口となる。
【0021】
そこで、例えば、図2(b)に示すように、液体供給基板4のインク供給溝4aの一方の面のテーパ状開口の最小必要幅をLに設定することにすると、インク供給溝4aの他方の面のテーパ状開口が大きくなり、液室基板2のインク導入路2bの一方の面のテーパ状開口を液体供給基板4のインク供給溝4aの他方の面のテーパ状開口と同じ大きさに合わせることにすると、液室基板2のインク導入路2bの他方の面のテーパ状開口がインク導入路2bの一方の面のテーパ状開口よりも大きくなる。
【0022】
このインク導入路2bの他方の面のテーパ状開口の幅を符号Dで表現すると、図2(b)に示すインク導入路2bの他方の面のテーパ状開口の幅Dは図2(a)に示すインク導入路2bの他方の面のテーパ状開口の幅Cよりも必然的に大きくなる。
【0023】
従って、図2(b)に示すような液室基板2と液体供給基板4とフレーム基板5とを順次接合する場合、ノズル基板1の接合部分Bを考慮すると、シリコン基板からなるウエハの大きさは、図2(a)に符号Aで示す寸法よりも大きな寸法となることは明白である。
【0024】
そこで、図2(c)に示すように、液室基板2のインク導入路2bの一方の面のテーパ状開口を必要最小幅Lに設計することにすると、シリコン基板からなるウエハの大きさは、図2(a)と同じ大きさに維持することができるが、このインク導入路2bの一方の面のテーパ状開口の開口面積が液体供給基板4の液体供給溝4aの他方の面のテーパ状開口の開口面積に対して小さいために、液室基板2とインク供給基板4との接合面に隅部4bが形成され、液室2aにインクを充填する場合、気泡が隅部4bに残留する確率が高くなり、インクジェット記録ヘッドの信頼性が損なわれるおそれが高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記の事情に鑑み、本来的な機能である高応答性を損なうことなく、シリコン基板1枚あたりの取り数を多くするとともに、クロストークの防止、小型化、軽量化を達成するとともにコストダウンを図ることのできるインクジェット記録ヘッド及びこのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドは、複数のノズルが形成されたノズル基板と、該ノズル基板と接合されかつ側壁と振動板とにより区切られた複数の液室と該液室にインクを導入するインク導入路とが形成された液室基板と、前記振動板と一体的に形成されて該振動板を振動させることにより前記液室に発生した圧力により前記ノズルからインクを吐出させる電気機械変換素子と、前記振動板を介して前記液室基板に接合されかつ前記インク導入路にインクを供給するインク供給溝を有する液体供給基板と、前記電気機械変換素子に配線部材を介して接合されかつ前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路部材とを備え、
前記液体供給基板に前記インク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面が前記液室基板の前記インク導入路に対向させて接合されていることを特徴とする。
【0027】
請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドは、 前記液室基板に前記インク導入路を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅の小さい面を前記インク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面に接合したことを特徴とする。
【0028】
請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記駆動回路部材が、前記フレーム基板に、FPCを介して接合されていることを特徴とする。
請求項4に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記液体供給基板が、ガラス又はシリコン基板から構成されていることを特徴とする。
【0029】
請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記フレーム基板が、ガラス又は樹脂により構成されていることを特徴とする。
請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記配線部材が、ワイヤーボンディング手段により接合されていることを特徴とする。
請求項7に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記配線部材が、フリップチップ手段により接合されていることを特徴とする。
【0030】
請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドは、前記フレーム基板の前記液体供給基板の配設側の面とは反対側の面に、薄板を介して緩衝用基板を接合し、前記フレーム基板の開口面積が小さいテーパ状開口と対向する前記緩衝用基板の箇所に前記共通液室に充填されるインクの圧力変動を前記薄板の変形により緩和する凹部が形成されていることを特徴とする。
請求項9に記載のインクジェット記録装置は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドが搭載され、記録メディアに画像を記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、特に液体供給基板にインク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口の小さい面を、液室を有する液室基板に接合することによりインクジェット記録ヘッドの応答周波数を損なうことなく、シリコン基板1枚あたりの取り数を多くするとともに、クロストークの防止、小型化、軽量化を達成するとともにコストダウンを図ることのできるインクジェット記録ヘッドを提供できる。
さらには、液室を有する液室基板にインク導入路を加工形成する際に生じたテーパ状開口と液体供給基板にインク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口との開口面積が小さい側の面同士を対向させて液室基板と液体供給基板とを振動板を介して接合することにより、より小型化、軽量化、コストダウンを図ることのできるインクジェット記録ヘッドを提供できる。
【0032】
図3(a)、図3(b)は本発明の請求項1、請求項2に係る発明概念を説明するための模式図である。
その模式図3(a)は、請求項1に係る発明に対応する模式図であり、請求項1に係る発明によれば、複数のノズルが形成されたノズル基板1と、ノズル基板1と接合されかつ側壁2dと振動板3とにより区切られた複数の液室2aと液室2aにインクを導入するインク導入路2bとが形成された液室基板2と、振動板3と一体的に形成されて振動板3を振動させることにより液室2aに発生した圧力によりノズルからインクを吐出させる電気機械変換素子(図示を略す)と、振動板3を介して液室基板2に接合されかつインク導入路2bにインクを供給するインク供給溝4aを有する液体供給基板4と、電気機械変換素子に配線部材を介して接合されかつ電気機械変換素子を駆動する駆動回路部材とを備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面が液室基板2のインク導入路2bに対向させて接合されている。
その模式図3(a)に係る発明のインクジェット記録ヘッドでは、液室基板2のインク導入路2bは、ドライエッチングにより加工形成され、インク導入路2bの構成壁は直状開口となっている。
インク導入路2bやインク供給溝4aを加工形成するのに、ドライエッチング法を用いるとエッチングに時間を要するため、厚さの厚い部材を加工するのに時間をかなり要することになるが、液室基板2の厚さは通常100μm以下であるので、ドライエッチング法を用いて加工したとしても、コストアップとならないのが現状であるので、ウエハの大きさAを小さくしつつ応答周波数の低下要因となるインク供給量を十分に確保するための必要最小幅Lを確保できる。
その模式図3(b)は、請求項2に係る発明に対応する模式図であり、請求項2に係る発明によれば、液室基板2にインク導入路2bを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面又は開口幅の小さい面がインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面に接合されている。
すなわち、液室基板2にインク導入路2bを加工形成する際に生じたテーパ状開口と液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口との開口面積が小さい側の面同士を対向させて液室基板2と液体供給基板4とが振動板3を介して接合されているので、ウエハの大きさAを小さくしつつ応答周波数の低下要因となるインク供給量を十分に確保するための必要最小幅Lを確保できる。
【0033】
また、図3に示すように、ノズル基板1と液室基板2との接合部分の幅B、液室基板2と液体供給基板4との接合部分の幅Eを、ウエハの大きさAを大きくしなくとも確保することができ、従って、シリコン基板1枚あたりの取り数を多くするとともに、クロストークの防止、小型化、軽量化を達成するとともにコストダウンを図ることができる。
【0034】
液体供給基板4には液室基板2の配設側の面と反対側の面に、インク供給溝4aに連通する共通液室5aを有するフレーム基板5を設け、フレーム基板5は共通液室5aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積が大きい側の面と液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積が大きい側の面とを対向させて液体供給基板4とフレーム基板5とを接合する構成とすれば、フレーム基板5を液体供給基板4に接合するに際しても、図2(b)、図2(c)を参照しつつ説明した不具合を解消できる。すなわち、インクジェット記録ヘッドの性能を維持するための必要最小幅Lを確保しつつ、全体寸法Aを小さくできると共に、共通液室5aの大きさ、液室基板2とフレーム基板5との接合部分E、液体供給基板4とフレーム基板5との接合部分の幅Fを維持できるため、クロストークの増大を防止でき、噴射安定性をも確保できる。
【0035】
フレーム基板5に直接駆動回路部材(駆動IC)を接合する構造とすると、フレーム基板5に電極やこの電極と接合するためのバンプ等を形成しなければならず、更には、フレーム基板5から外部に電極を引き出すためにフレキシブルプリント基板(FPC)等が必要となるので、コストアップとなるが、請求項3に係る発明によれば、フレーム基板5に駆動回路部材(駆動IC)を直接接合するのではなく、フレキシブルプリント基板(FPC)に駆動回路部材(駆動IC)を搭載することにしたので、コストダウンを図ることができる。
【0036】
請求項4に係る発明によれば、液体供給基板4が通常シリコン基板を用いて構成される液室基板2と同材質のガラス基板又はシリコン基板から構成されているので、液室基板2と液体供給基板4との熱膨張率をほぼ同じにすることができ、ウエハ接合後のダイシングの容易化を図ることができる。
【0037】
請求項5に係る発明によれば、フレーム基板5をガラス又は樹脂で構成したので、コストダウンを図ることができる。
なお、フレーム基板5をガラスで構成した場合、たとえば、サンドブラスト工法で加工することにより、より一層のコストダウンが可能となる。
また、なお、フレーム基板5を樹脂で構成する場合、液晶ポリマー等の耐熱樹脂を用いれば、駆動回路部材(駆動IC)の接合時に高温となったとしても、接合不良を解消できる。
【0038】
請求項6に係る発明によれば、ワイヤーボンディング手段により配線部材を接合しているので、接合温度を比較できて好ましい。また、接合長さを短くできる。更に、高低差がある場合の接合に最適である。なお、配線部材の接合には、ACF(Anisotropic Conductive Film)接合手段を用いることもできる。
請求項7に係る発明によれば、配線部材にフリップチップ手段を用いることにしたので、より一層小型化、軽量化を図ることができる。
【0039】
ACF接合、ワイヤーボンディングの場合、ノズル基板1、液室基板2、液体供給基板4等の組み付け後に接合を行うことになるので、ごみ対策が難しいという問題があるが、請求項7に係る発明によれば、組立工程順を考えると、液室基板2に直接駆動回路部材を接合するため、組立初期の段階で駆動回路部材の接合が行われる。
【0040】
すなわち、液室基板2に下電極、電気機械変換素子、上電極、絶縁層、引き出し線、パッドを形成した後、駆動回路部材をフリップチップ接合するという組立順序になり、インクジェット記録ヘッドにおいて重要な信頼性確保に必要なごみ対策がACF接合やワイヤーボンディングに較べて比較的に容易な環境で行うことができる。
【0041】
クロストーク低減方法として、共通液室5aの容積を大きくする手段があり、インク供給量確保のためにも共通液室5aの容積を大きくする必要があるが、請求項8に記載の発明によれば、緩衝基板と薄板(ダイアフラム)と緩衝基板に形成した凹処とにより緩衝部材を構成したので、共通液室5aの容積を必要以上に大きくしなくとも、伝播する圧力変動を緩和し、クロストークを低減でき、その結果、インクジェット記録ヘッドの極小化を図ることができる。
【0042】
いわゆるシリアルプリンタの横寸法は、少なくとも紙幅とヘッドユニットの幅の2倍が必要になり、インクジェット記録ヘッドの横幅寸法がシリアルプリンタの小型化の重要な要因となるが、請求項9に記載の発明によれば、より小型のシリアルプリンタを作ることができ、同時にコストダウンも可能となる。
【0043】
また、インクジェット記録ヘッドを紙幅方向に1列に配設することにより、ラインヘッドを構成できる。ラインヘッドを構成した場合、紙幅方向に対して垂直方向に非常に幅が狭いラインヘッドを構成できるため、4色のラインヘッドを構成した場合、紙送り方向のインクジェット記録ヘッドの幅が非常に小さくなり、ラインプリンタそのものも小型化ができ、同時にコストダウンが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1はいわゆるインクジェット記録ヘッドの一般的な構造を説明するための模式図である。
【図2】図2は従来のインクジェット記録ヘッドの不具合を説明するための図であって、(a)はノズル基板と液室基板と振動板とを接合した状態を模式的に示す断面図であり、(b)は液室基板の開口面積が小さい面の側と液体供給基板の開口面積の大きい側とを対向させて接合した状態を模式的に示す断面図であり、(c)は液室基板の開口面積の小さい側の面と液体供給基板の開口面積の大きい側の面とを対向させると共にその開口面積を異ならせて接合した状態を模式的に示す断面図である。
【図3】図3(a)、図3(b)は本発明のインクジェット記録ヘッドの原理を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は本発明の実施例1に係るインクジェット記録ヘッドの詳細構成を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は図4に示すインクジェット記録ヘッドの配線を模式的に示す図であって、天板を取り除いた状態を示す平面図である。
【図6】図6は本発明の実施例2に係るインクジェット記録ヘッドの詳細構成を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は図6に示すインクジェット記録ヘッドの詳細構成を模式的に示す平面図であって、天板と緩衝部材とフレーム基板とを取り除いた状態を示す平面図である。
【図8】図8は図7のA−A線に沿う断面図である。
【図9】図9は本発明に係るインクジェット記録ヘッドをシリアルプリンタに適用する場合の一例を示す説明図である。
【図10】図10は本発明に係るインクジェット記録ヘッドをラインプリンタに適用する場合の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0045】
以下、図4ないし図8を参照しつつ本発明に係るインクジェット記録ヘッドの実施例を説明する。
(実施例1)
図4は本発明の実施例1に係るインクジェット記録ヘッドの断面図を示し、図5は図4に示すインクジェット記録ヘッドの天板配設前の平面図である。
ノズル基板1には、図4に示すように、複数のノズル1aが形成されている。液室基板2には、複数の液室2aと複数のインク導入路2bと複数の流体抵抗部2cと複数の側壁2dが形成されている。
【0046】
液室2aは振動板3と側壁2dとにより区切られている。流体抵抗部2cはインク導入路2bと液室2aとの間に配置されている。液室2aにはインク導入路2bから流体抵抗部2cを経由してインクが供給される。
【0047】
振動板3には電気機械変換素子としての圧電素子6が一体的に形成されている。その振動板3は液室基板2の一方の面にSiO2等を成膜することにより形成される。圧電素子6は板状のものを接着剤で振動板3に接合しても良いが、スパッタ、Solgel等の薄膜形成方法により圧電素子6を形成するのが好ましい。
【0048】
液室2a、インク導入路2bはシリコン基板からなる液室基板2に異方性のエッチング加工を行うことにより形成され、液室基板2に液室2a、インク導入路2bを加工形成する際に、その構成壁の断面がテーパ状となり、テーパ状開口として開口面積が小さい一方の面の側に振動板3が形成され、テーパ状開口として開口面積が大きい他方の面の側にノズル基板1が接合される。
【0049】
インク導入路2bの開口面積が小さいテーパ状開口の必要最小幅は、インクジェット記録ヘッドの性能の低下を防止するため、既述したように、Lである。振動板3は、その必要最小幅Lと同程度の大きさを有する貫通穴3aを有する。
【0050】
液体供給基板4には貫通穴3aに対応するインク供給溝4aと圧電素子6の配設空間4bと開口4cとが形成される。この液体供給基板4は、シリコン基板に異方性エッチング処理を行うことにより形成しても良いが、コストダウンを図るためガラスにサンドブラスト加工処理を施すことにより形成するのが好ましい。
【0051】
この液体供給基板4にインク供給溝4aを異方性のエッチング加工又はサンドブラスト加工により形成する際に、その構成壁の断面がテーパ状となる。この液体供給基板4のインク供給溝4aの開口面積が小さい一方の面を液室基板2のインク導入路2bの開口面積が小さい一方の面に対向させて、液体供給基板4は振動板3を介して液室基板2に接合される。
【0052】
フレーム基板5にはインク供給溝4aに連通する共通液室5aと開口4cに対向する開口5bとが形成されている。このフレーム基板5も、シリコン基板に異方性エッチング処理を行うことにより共通液室5a、開口5bが形成され、このフレーム基板5に共通液室5a、開口5bを形成する際に、その構成壁の断面がテーパ状となる。このフレーム基板5の開口面積が大きい他方の面を開口面積の大きい液体供給基板4の他方の面に対向させて、液体供給基板4とフレーム基板5とが接合される。
【0053】
フレーム基板5の一方の面には、緩衝基板7と薄板8とが接合されている。緩衝基板7には薄板8が貼り付けられている。薄板8には開口5bに対向する開口8aが形成されている。
緩衝基板7には薄板8の変位を許容する変位許容空間7aと開口8aに対向する開口7bとが形成されている。
【0054】
緩衝基板7と薄板8とは協働して緩衝部材を構成しており、薄板8の変位によりダンピング機能が生じ、共通液室5aの圧力変動が緩和される。その緩衝基板7にはたとえば、ステンレス製でその厚さが50μm程度のもの、薄板8はポリイミドフィルム製でその厚さが30μm程度のものが望ましい。
【0055】
緩衝基板7には、FPC(フレキシブルプリント基板)9が接合され、このFPC9には開口7bに対応する開口9aが形成されている。そのFPC9には駆動回路部材としての駆動IC10が接合されている。
【0056】
圧電素子6には、図5に示すように、スパッタリング等の手段により上部電極3bが形成されている。この上部電極3bは開口4cに露呈するパッド11に接続されている。駆動IC10には上部電極10aが形成され、この上部電極10aとパッド11とは開口4c、5b、8a、7b、9aを通じて引き出されたワイヤーボンディング12により接合されている。ワイヤーボンディング12の周囲は封止材13が充填され、緩衝基板7に接着固定された天板14により囲われている。その天板14には樹脂成型品が好ましい。
【0057】
FPC9には、図5に示すように、外部入力端子としての引き出し配線9bが形成され、駆動IC10と引き出し配線9bとはワイヤーボンディング15により接続されている。
この実施例1によれば、FPC9から駆動IC10に画像信号が入力されると、駆動IC10が画像信号に基づく電圧を各圧電素子6に印加し、これにより、振動板3が変形し、この振動板3の変形により、液室2a内のインクに圧力が加えられ、ノズル1aから液室2a内のインクが吐出され、記録紙(記録メディア)に画像が記録される。
【0058】
応答周波数を損わないためには十分なインクの流量を確保し、必要最小幅Lを確保する必要があり、また、クロストークを低減するためには十分な大きさの共通液室5aが必要となる一方、インクジェット記録ヘッドの大きさは、決められた大きさのシリコン基板からの取り数を多くし、コストダウンを図るため、全体の大きさをより小さくすることが求められているが、この実施例によれば、液室基板2にインク導入路2bを加工形成する際に生じたテーパ状開口と液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口との開口面積が小さい側の面同士を対向させて液室基板2と液体供給基板4とが振動板3を介して接合されているので、かつ、液体供給基板4には液室基板2の配設側の面と反対側の面にインク供給溝4aに連通する共通液室5aを有するフレーム基板5が設けられ、フレーム基板5は共通液室5aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積が大きい側の面と液体供給基板4にインク供給溝4aを加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積が大きい側の面とを対向させて液体供給基板4とフレーム基板5とが接合されているので、しかも、緩衝基板と薄板(ダイアフラム)と緩衝基板に形成した凹処とにより緩衝部材を構成したので、インクジェット記録ヘッドの小型、軽量化はプリンタの小型化、軽量化、コストダウンを図ることができる。
なお、図3(a)の原理図に模式的に示したように、液室基板2のインク導入路2bを、ドライエッチングにより加工形成し、インク導入路2bの構成壁を直状開口としても良い。
インク導入路2bやインク供給溝4aを加工形成するのに、ドライエッチング法を用いるとエッチングに時間を要するため、厚さの厚い部材を加工するのに時間をかなり要することになるが、液室基板2の厚さは通常100μm以下であるので、ドライエッチング法を用いて加工したとしても、コストアップとならないのが現状であるからである。
一方、液室供給基板4、フレーム基板5はインクジェットヘッド全体の強度を得るために、通常、数百μm〜数ミリの厚みがあり、コスト低減のため、ウエットエッチング等の工法を取っているため、テーパ形状が形成されている。
【0059】
(実施例2)
図6は本発明の実施例2に係るインクジェット記録ヘッドの断面図を示し、図7は図6に示す天板と緩衝部材とフレーム基板とを取り除いて液室基板と振動板と液体供給基板と圧電素子と駆動回路部材との関係を説明するための平面図である。
この実施例2において、実施例1と同一構成要素には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0060】
ここでは、駆動IC10は液体供給基板4の開口4cに配設されている。振動板3には金等からなるパッド11が形成されている。振動板3には下電極3eが形成され、下電極3eの上に圧電素子6が液室2aの大きさに対応して若干小さめの面積にて形成されている。
【0061】
圧電素子6の上部には、図8に示すように、上電極3bがスパッタ等の手段により形成されている。下電極3e、上電極3bはアルミニウム、白金、ニッケル、Ti、その他導電性酸化物等で形成される。
【0062】
圧電素子6と下電極3e、上電極3bの上には、SiO2、ポリシリコン等で成膜された絶縁層3cが形成され、上電極3bの上部にコンタクトホールが形成されて、上電極3bは引き出し線16によりパッド11と接続されている。これにより、駆動IC10は振動板3上に設けたパッド11にフリップチップ接合される。
このように駆動IC10をフリップチップ実装することにより、より一層小型化、軽量化を図ることができる。
【0063】
このインクジェット記録ヘッドをシリアルプリンタ(図示を略す)に搭載する場合、たとえば、C、M、Y、Bkインクが供給される4個のインクジェット記録ヘッド17を図9に示すようにインクジェット記録ヘッド17の横幅方向に並べて主走査方向に走査するキャリッジに搭載し、副走査方向に紙送りを行いつつインクジェット記録ヘッド17を搭載したキャリッジ(図示を略す)により主走査をすると同時に、送られてくる画像信号により各インクジェット記録ヘッド17からインクを吐出させることによりカラー画像を記録紙等に記録することができる。
【0064】
また、このものは、シリアルプリンタではなく、このインクジェット記録ヘッド17を図10に示すように紙幅方向に並べて、紙送りのみで記録するいわゆるライン型ヘッドのプリンタにも適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1…ノズル基板
2…液室基板
3…振動板
4…液体供給基板
1a…ノズル
2a…液室
2b…インク導入路
4a…インク供給溝
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特許第3988042号
【特許文献2】特開2005-53144号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが形成されたノズル基板と、該ノズル基板と接合されかつ側壁と振動板とにより区切られた複数の液室と該液室にインクを導入するインク導入路とが形成された液室基板と、前記振動板と一体的に形成されて該振動板を振動させることにより前記液室に発生した圧力により前記ノズルからインクを吐出させる電気機械変換素子と、前記振動板を介して前記液室基板に接合されかつ前記インク導入路にインクを供給するインク供給溝を有する液体供給基板と、前記電気機械変換素子に配線部材を介して接合されかつ前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路部材とを備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記液体供給基板に前記インク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面が前記液室基板の前記インク導入路に対向させて接合されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記液室基板に前記インク導入路を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅の小さい面を前記インク供給溝を加工形成する際に生じたテーパ状開口の開口面積又は開口幅が小さい面に接合したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記駆動回路部材は、フレーム基板に、FPCを介して接合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記液体供給基板は、ガラス又はシリコン基板から構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
フレーム基板は、ガラス又は樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記配線部材は、ワイヤーボンディング手段により接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記配線部材は、フリップチップ手段により接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
フレーム基板の前記液体供給基板の配設側の面とは反対側の面に、薄板を介して緩衝用基板を接合し、前記フレーム基板の開口面積が小さいテーパ状開口と対向する前記緩衝用基板の箇所に前記共通液室に充填されるインクの圧力変動を前記薄板の変形により緩和する凹部が形成されていることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドが搭載され、記録メディアに画像を記録することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−61646(P2012−61646A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206198(P2010−206198)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】