説明

インクジェット記録ヘッド用基板、及びインクジェット記録ヘッド

【課題】ヒータ配線による段差を抑える平坦化膜の形成工程を追加することなく、簡素な構成で流路形成型材のパターンの安定性を実現する。
【解決手段】流路形成部材201における発泡室204の側壁202の境界に跨って位置され、かつ、下層にヒータ配線106が配置されていない領域Bには、ヒータ配線106以外の層がヒータ配線106の上層又は下層に配置され、ヒータ配線106の直下に形成されている第2絶縁層305の上面が、ヒータ配線106の上面と面一にされて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口からインク滴を飛翔させ被記録材へ着弾させることで記録を行うインクジェット記録ヘッド用基板、及びそれが用いられるインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒータによってインクを加熱することによってインクを膜沸騰させ、発泡エネルギーでインク滴を吐出させる、いわゆるサーマルタイプのインクジェット記録ヘッド用基板は一般にヒータ、スイッチング素子、駆動回路、パッド等から構成されている。こうしたインクジェットヘッド用基板は、半導体装置の製造技術に基づいて、シリコン半導体基板によってモノリシックに形成される。
【0003】
一般にヘッド用基板は、その基板上に、インクを吐出するためのノズルを構成する流路形成部材が形成されている。この流路形成部材が構成するノズルは、ヒータに対応する発泡室、インクを吐出する吐出口、発泡室にインクを導くための流路、この流路によって発泡室と連通される液室等から構成されている。以下、インクジェット記録ヘッド用基板上に流路形成部材が形成されたものをインクジェット記録チップと称する。
【0004】
図11は、従来のインクジェット記録ヘッド用基板の一構成例を模式的に示す平面図である。基板110は、基板110上に構成されたノズルにインクを供給するためのインク供給口113と、ヒータがインク供給口113に沿った方向に配列するヒータ列111とを有する。また、基板110は、ヒータ列111を駆動するためのスイッチング素子が配列されたスイッチング素子列112と、スイッチング素子を駆動するための駆動回路114とを有する。また、基板110には、基板110と外部の制御部とを電気的に接続するパッドが配列されたパッド列115が設けられている。
【0005】
図12は、図11における領域Fであるヒータ周辺部の拡大図である。ヒータ111aは、スイッチング素子112aを介して、ヒータ配線116によってパッドと電気的に接続されている。
【0006】
図13は、図12におけるG−G’断面図である。図13に示すように、Si基板300上には、蓄熱層311、ゲート電極層(不図示)、第1絶縁層313、第1配線層(不図示)、第2絶縁層2315、ヒータ層316、第2配線層317、保護層318が形成されている。ヒータ層316と第2配線層317は、平面的に同一の形状で形成されており、ヒータ部のみヒータ層316を残して第2配線層317がエッチングによって除去されて構成されている。
【0007】
図14は、従来の基板上に流路が形成されたインクジェット記録チップの一構成例を模式的に示す平面図である。記録チップには、流路形成部材211によって、ヒータ111の各々に対応する発泡室214及び吐出口215が形成されている。また、記録チップには、インク供給口形成領域113に対応してインク供給口213が形成されている。また、記録チップには、インク供給口213に沿って液室216が形成され、インク供給口213が各発泡室214と連通されている。
【0008】
図15は、図14に示した領域Hである発泡室周辺部の拡大図である。発泡室214と流路形成部材211との境界面には側壁212が形成される。図16は、図15におけるI−I’断面図である。インクジェット記録基板110上には流路形成部材211によって発泡室214が形成されている。
【0009】
以上のように構成されたインクジェット記録チップを使用して、高画質かつ高速な記録を実現するために様々な試みがなされている。
【0010】
インクジェット記録チップの長尺化は、記録速度の向上を図るために効果的である。インクジェット記録ヘッドの1回のスキャン(走査)当たりの記録可能領域は、原則的に発泡室の個数に比例するからである。しかし、インクジェット記録チップを長尺化することは、基板から流路形成部材が剥離し易くなる等の弊害が存在する。この弊害は、流路形成部材の長尺化に伴って、流路形成部材の内部に形成された液室等の流路構造も延長されることに起因し、インクジェット記録チップ内部の剛性に分布が発生するために生じる。矩形状の液室の長手方向に沿って、発泡室が形成された発泡室列が並列に配置された記録チップでは、記録チップの中央の列よりも記録チップの端部側の列、発泡室列の端部側よりも発泡室列の中央に内部応力が集中し、流路形成部材が剥離する等の弊害が生じ易い。記録チップの長尺化に伴ってその傾向は顕著に現れる。
【0011】
この問題を解決するべく、特許文献1には、基板上におけるヒータ配線を除く領域に平坦化膜を形成し、基板と流路形成部材との密着性の向上を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特開平8−197734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在、インクジェット記録チップの更なる長尺化が進められているが、記録チップの流路形成工程において発泡室のパターン不良が発生している。このパターン不良は、発泡室列の端部に位置する発泡室に発生し、ヒータ配線によって生じた段差の境界に沿って発泡室がツノ状に拡張されたような形状を成している。図17は、図14における領域Hに相当するパターン不良が生じた発泡室周辺部の拡大図である。図17に示すように、流路形成部材221によって形成された発泡室224内の角(かど)部には、ヒータ配線126の厚み方向に直交する面内方向に対してツノ状に突き出したパターン不良部分227が発生している。
【0013】
このようなパターン不良は、流路形成型材のパターニング後には見られず、パターニング後に行われる流路形成部材の形成工程後に生じている。パターン不良のこの発生状況から鑑みて、パターン不良は、流路が形成されるときに、流路形成部材によって流路形成型材が、ヒータ配線によって生じた段差の境界に沿って押し出されたことによるものと考えられる。すなわち、流路形成工程の熱履歴に伴い流路形成部材に体積変化が生じ、流路形成部材が収縮する際に発泡室部分の流路形成型材を圧縮する。その際に、応力が集中し易い発泡室列の端部、特にヒータ配線による段差の近傍に、記録チップの長尺化に伴って増大した流路形成部材の圧縮力が集中し、流路形成部材で覆われた流路形成型材が押し出されたものと推定される。
【0014】
このような課題に対して、上述した特許文献1では、平坦化膜の形成工程を追加する必要があるために、製造コストの増加を招いてしまう問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、上述した課題を解決し、平坦化膜の形成工程を追加することなく簡素な構成で流路形成型材のパターンの安定性を実現することができるインクジェット記録ヘッド用基板、及びインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するため、本発明に係るインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出するエネルギーを発生するヒータと、ヒータに電気的に接続されるヒータ配線とを有しており、ヒータが内部に配置される発泡室、発泡室と連通する流路、及び発泡室と連通する吐出口を形成する流路形成部材が設けられる。そして、流路形成部材における発泡室の側壁の境界に跨って位置され、かつ、下層にヒータ配線が配置されていない領域には、ヒータ配線以外の層がヒータ配線の上層又は下層に配置され、ヒータ配線の直下に形成されている絶縁層の上面が、ヒータ配線の上面と面一にされて形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発泡室近傍に配置されたヒータ配線によって生じる段差が、ヒータ配線以外の層によって解消、又は緩和することができる。このため、本発明のインクジェット記録ヘッド用基板を用いた流路形成工程では、流路形成型材に作用する流路形成部材による圧縮力が分散され、安定した流路形成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録ヘッド用基板を模式的に示す平面図である。図1に示すように、インクジェット記録ヘッド用基板100(以下、単に基板100と称する)は、基板100上に構成されたノズルにインクを供給するためのインク供給口が形成されるインク供給口形成領域103を有している。また、基板100は、ヒータ101aがインク供給口の長手方向に沿って配列されるヒータ列101を有している。また、基板100は、ヒータ列を駆動するためのスイッチング素子が配列されたスイッチング素子列102と、スイッチング素子を駆動するための駆動回路104とを有している。さらに、基板100の両端部には、外部の制御部(不図示)と電気的に接続される複数のパッドが配列されたパッド列105が設けられている。本実施形態の基板100の外形寸法は、ヒータ列方向である長手方向の長さが50mm、パッド列方向である短手方向の長さが3mmに形成されている。
【0020】
図2は、図1に示した領域Aであるヒータ周辺部の拡大図である。ヒータ101aは、スイッチング素子102を介して、ヒータ配線106によってパッド105と電気的に接続される。
【0021】
図3は、後述する流路形成工程によって基板上に流路が形成された、本実施形態のインクジェット記録チップを模式的に示す平面図である。流路形成部材201によって、記録チップには、ヒータ101aの各々に対応して発泡室204、吐出口205が形成されている。また、記録チップには、インク供給口形成領域103に対応してインク供給口203が形成されている。また、記録チップには、インク供給口203に沿って液室206が形成されており、この液室206が各発泡室204と連通している。
【0022】
図4は、図3に示した領域Cである発泡室周辺部の拡大図である。発泡室204と流路形成部材201との境界面に側壁202が形成される。領域Bは、流路形成部材201によって形成された発泡室204の側壁202が含まれ、その領域Bの下層にヒータ配線106が含まれていない領域である。
【0023】
図5は、第1の実施形態の基板の、図2におけるD−D’断面図である。基板100を構成するSi基板300の上には、蓄熱層301がSiO2膜によって形成されている。蓄熱層301の上には、ゲート電極層(不図示)がポリシリコン(多結晶シリコン)膜によって厚さ390nm程度で形成されている。ゲート電極層は、スイッチング素子部、駆動回路部においてゲート材料となる。ゲート電極層の上には、第1絶縁層303がBPSG膜(ボロン、リンを含んだSiO膜)によって厚さ470nm程度で形成されている。
【0024】
第1絶縁層303の上には、第1配線層304がアルミニウム合金としてのAl−Si膜によって400nm程度の厚さで形成されている。第1配線層304は、主にスイッチング素子部、駆動回路部の配線として使用され、ヒータ配線106としては使用されない。ここで、領域B、すなわち後述する流路形成工程後に、発泡室204を形成する流路形成部材201の側壁202を含み、下層にヒータ配線106を含まない領域Bに、第1配線層304が、他の配線層と電気的に接続されていないダミー配線108として配置される。第1絶縁層303又は第1配線層304の上には、第2絶縁層305がSiO膜によって厚さ900nm程度で形成されている。
【0025】
第2絶縁層305の上には、ヒータ101a、及びヒータ配線106の形状をなすようにヒータ層306がTaSiN膜によって厚さ20nm程度で形成されている。ヒータ層306の上には、本発明における「ヒータ配線をなす層」に相当する第2配線層307がAl−Cu膜によって厚さ400nm程度で形成されている。ヒータ層306と第2配線層307は、平面的に同一のパターン形状で形成され、ヒータ101aの部分のみにヒータ層306を残して第2配線層307がエッチングで除去された構成になっている。したがって、ヒータ配線106は、ヒータ層306と第2配線層307によって構成されている。また、第2絶縁層305又はヒータ層306又は第2配線層307の上には、保護層308がSiN膜によって300nm程度の厚さで形成されている。保護層308は、原則的にパッドの部分以外の領域に設けられて基板100全体を覆っている。
【0026】
そして、上述したように、本実施形態では、ヒータ配線として使用される第2配線層307の厚みが、ダミー配線として使用される第1配線層304の厚みと等しく形成されている。このように、本実施形態では、第1配線層304の厚みと第2配線層307の厚みとがほぼ等しくさせることで、領域Bにおいて、第2絶縁層305の上面と第2配線層307の上面とが面一となる。
【0027】
図6は、第1の実施形態の基板の、図4におけるE−E’断面図である。基板100の上には、流路形成部材201によって発泡室204が形成されている。領域Bは、発泡室204を形成する流路形成部材201の側壁202を含み、下層にヒータ配線106を含まない領域であり、ダミー配線108が配置されている。
【0028】
したがって、本実施形態の基板100は、図6に示すように、流路形成部材201における発泡室204の側壁202の境界に跨って位置され、かつ、下層にヒータ配線106が配置されていない領域Bを有している。そして、この領域Bには、ヒータ配線106以外の層がヒータ配線106の上層又は下層に配置されている。また、この領域Bには、ヒータ配線106の直下に形成されている第2絶縁層305の上面が、ヒータ配線106の上面と面一にされて形成されている。
【0029】
図7に、実施形態の基板を用いたインクジェット記録チップの流路形成工程を示す。
【0030】
図7(a)には、実施形態の基板が作製された状態を示す。基板100の裏面には、後述する結晶異方性エッチングによってインク供給口を形成するための異方性エッチングマスク401が形成されている。
【0031】
図7(b)には、基板100の上に、流路形成型材402が、スピンコート法を用いて塗布してベークされ、これをパターニングした状態を示す。流路形成型材402は、溶解可能な樹脂材からなり、例えばアクリル系のポジ型光感光性樹脂材を使用することができる。
【0032】
図7(c)には、流路形成型材402の上に、オリフィスプレート及びインク流路壁を構成する樹脂材、すなわち流路形成部材201がスピンコート法で塗布され、これを露光してPEB(Post Exposure Bake)した状態を示す。この樹脂材としては、例えば、エポキシ樹脂系のネガ型光感光性樹脂を用いることができる。図7(d)には、流路形成部材402を現像して、ベークした状態を示す。
【0033】
図7(e)には、結晶異方性エッチングによって、基板100にインク供給口203を形成した状態を示す。より具体的には、流路形成部材201の表面に、例えば環化ゴムからなる樹脂等を塗布した状態で、基板100をTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液(例えば83℃、22%)に浸漬する。これによって、基板100を構成するSi基板300が結晶異方性エッチングされる。
【0034】
図7(f)に、キシレンを用いて環化ゴムを剥離し、インク供給口203及び吐出口205から、流路形成型材402を溶解して除去した状態を示す。
【0035】
以下の工程を経ることで、基板100の上に発泡室204、液室、流路からなるノズルが形成される。本実施形態の基板100では、ヒータ配線106によって生じる段差である領域が、ダミー配線108によって解消、又は緩和されている。このため、図7(c)、(d)に示した工程において流路形成型材402に生じる応力を緩和することができる。
【0036】
比較例として、従来のダミー配線が無いインクジェット記録チップを作製し、発泡室の形状の検査を行った。本実施形態と比較例でそれぞれ100個の記録チップを検査した結果、比較例としての従来品では4個の記録チップにおいて発泡室の形状異常が確認されたが、本実施形態のインクジェット記録チップの全てにおいて形状異常が生じなかった。
【0037】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態のインクジェット記録ヘッド用基板の、図2におけるD−D’断面図である。本実施形態の基板の外形寸法は、ヒータ列方向である長手方向の長さが50mm、パッド列方向である短手方向の長さが3mmに形成されている。Si基板300の上には、蓄熱層301がSiO2膜によって形成されている。蓄熱層301の上には、ゲート電極層302がポリシリコン膜によって厚さ390nm程度で形成されている。ゲート電極層302は、スイッチング素子部、駆動回路部でゲート材料となる。ここで領域B、すなわち後述する流路形成工程後に、発泡室204を形成する流路形成部材201の側壁202を含み、下層にヒータ配線106を含まない領域Bに、第1配線層304をダミー配線108として配置する。
【0038】
ゲート電極層302の上には、第1絶縁層303がBPSG膜(ボロン、リンを含んだSiO膜)によって厚さ470nm程度で形成されている。ゲート電極層302又は第1絶縁層303の上には、第1配線層304がAl−Si膜によって厚さ400nm程度で形成されている。第1配線層304は、主にスイッチング素子部、駆動回路部の配線として使用され、ヒータ配線106としては使用されない。ここで、領域B、すなわち後述する流路形成工程後に、発泡室204を形成する流路形成部材201の側壁202を含み、下層にヒータ配線106を含まない領域に、第1配線層304をダミー配線108として配置する。
【0039】
第1絶縁層303又は第1配線層304の上には、第2絶縁層305がSiO膜によって厚さ900nm程度で形成されている。第2絶縁層305の上には、ヒータ101a、及びヒータ配線106の形状をなすようにヒータ層306がTaSiN膜によって厚さ20nm程度で形成されている。ヒータ層306の上には、第2配線層307がAl−Cu膜によって厚さ800nm程度で形成されている。ヒータ層306と第2配線層307は、平面的に同一のパターン形状で形成され、ヒータ101aの部分のみにヒータ層306を残して第2配線層307がエッチングによって除去されて構成されている。第2絶縁層305又はヒータ層306又は第2配線層307の上には、保護層308がSiN膜によって厚さ300nm程度で形成されている。保護層308は、原則的にパッドの部分以外の領域に設けられて基板100全体を覆っている。
【0040】
そして、上述したように、本実施形態では、ヒータ配線として使用される第2配線層307の厚みが、ダミー配線108として使用される第1配線層304とゲート電極層302の各厚みとを合計した厚みがほぼ等しく形成されている。このように、本実施形態では、第1配線層304とゲート電極層302とを合計した厚みと、第2配線層307の厚みとがほぼ等しくさせることで、領域Bにおいて、第2絶縁層305の上面と第2配線層307の上面とが面一となる。
【0041】
図9は、第2の実施形態の基板の、図4におけるE−E’断面図である。基板100の上には、流路形成部材201によって発泡室204が形成されている。領域Bは、発泡室204を形成する流路形成部材201の側壁202を含み、下層にヒータ配線106を含まない領域であり、下層にダミー配線108が配置されている。
【0042】
第1の実施形態で挙げた流路形成工程によって、本実施形態の基板100を用いて作製された100個のインクジェット記録チップを検査した結果、全ての記録チップで異常が生じていなかった。
【0043】
(第3の実施形態)
図10は、本実施形態の記録チップを使用したインクジェット記録ヘッドの概観図である。フレキシブルフィルム配線基板501上には、インクジェット記録チップ200との電気接続部502、及び記録装置との接続に用いられるコンタクトパッド503が設けられている。タンクケース504に、記録チップ200とフレキシブルフィルム配線基板501が接着される。フレキシブルフィルム配線基板501と記録チップ200のパッド列105は、ギャングボンディングによって電気的に接続されている。ボンディング部は封止材によって封止されている。
【0044】
そして、温度35℃、湿度80%の環境において、A4サイズの被記録材の記録面全体を塗りつぶすように記録する、いわゆるベタ記録パターンを3枚連続で記録した。このような記録を行った場合、従来の記録チップを用いた記録ヘッドでは不吐出になるノズルが発生することがあったが、本実施形態の記録チップを用いた記録ヘッドでは正常に記録を行うことができた。
【0045】
上述したように、本実施形態によれば、発泡室近傍に配置されたヒータ配線によって生じる段差が、ヒータ配線以外の層によって解消、又は緩和することができる。したがって、本実施形態によれば、従来のような平坦化膜の形成工程を追加することなく簡素な構成で流路形成型材のパターンの安定性を実現することができる。このため、本実施形態の基板を用いた流路形成工程では、流路形成型材に作用する流路形成部材による圧縮力が分散され、安定した流路形成を行うことができる。すなわち、記録チップの長尺化に伴う流路形成部材に生じるパターン不良を改善することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、ヒータ配線以外の層としての第1配線層の厚みと、ヒータ配線をなす層としての第2配線層の厚みとがほぼ等しいことによって、ヒータ配線による段差をより一層効果的に解消、又は緩和することができる。また、本実施形態によれば、ヒータ配線以外の層を複数の層によって構成することで、膜厚がヒータ配線と大きく異なる層であっても、つまりヒータ配線の厚みよりも薄い層であっても、ヒータ配線による段差を緩和するための層として利用することができる。また、本実施形態によれば、ヒータ配線以外の複数の層としての第1配線層とゲート電極層を合計した厚みと、第2配線層の厚みとがほぼ等しいことによって、ヒータ配線による段差をより一層効果的に解消、又は緩和することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、ヒータ配線以外の層の少なくとも1つの層が、アルミニウム合金又はポリシリコンのようにロジック回路等に利用される配線によって構成されることによって、特に平坦化膜を形成する工程を追加する必要がなくなる。また、本実施形態によれば、ヒータ配線以外の層には、他の配線層と電気的に接続されていないダミー配線が含まれていることによって、基板の電気的な信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態のインクジェット記録基板を示す平面模式図である。
【図2】図1におけるヒータ周辺部を示す拡大図である。
【図3】実施形態のインクジェット記録チップを示す平面模式図である。
【図4】図3における発泡室周辺部を示す拡大図である。
【図5】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す、図2におけるD−D’断面図である。
【図6】第1の実施形態のインクジェット記録チップを示す、図4におけるE−E’断面図である。
【図7】実施形態における流路形成工程を示す模式図である。
【図8】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す、図2におけるD−D’断面図である。
【図9】第2の実施形態のインクジェット記録チップを示す、図4におけるE−E’断面図である。
【図10】本実施形態のインクジェット記録チップを使用したインクジェット記録ヘッドを示す概観図である。
【図11】従来のインクジェット記録基板の一構成例を示す平面模式図である。
【図12】図11におけるヒータ周辺部を示す拡大図である。
【図13】図12におけるG−G’断面図である。
【図14】従来のインクジェット記録チップの一構成例を示した平面模式図である。
【図15】図14における発泡室周辺部を示す拡大図である。
【図16】図15におけるI−I’断面図である。
【図17】パターン不良が生じたインクジェット記録チップの、図14における発泡室周辺部を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0049】
100 インクジェット記録ヘッド用基板
106 ヒータ配線
201 流路形成部材
202 側壁
204 発泡室
300 Si基板
301 蓄熱層
304 第1配線層
305 第2絶縁層
306 ヒータ層
307 第2配線層(ヒータ配線をなす層)
308 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するエネルギーを発生するヒータと、前記ヒータに電気的に接続されるヒータ配線とを有しており、前記ヒータが内部に配置される発泡室、前記発泡室と連通する流路、及び前記発泡室と連通する吐出口を形成する流路形成部材が設けられるインクジェット記録ヘッド用基板であって、
前記流路形成部材における前記発泡室の側壁の境界に跨って位置され、かつ、下層に前記ヒータ配線が配置されていない領域には、前記ヒータ配線以外の層が前記ヒータ配線の上層又は下層に配置され、前記ヒータ配線の直下に形成されている絶縁層の上面が、前記ヒータ配線の上面と面一にされて形成されている、ことを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項2】
前記ヒータ配線以外の層の厚みと、前記ヒータ配線をなす層の厚みとがほぼ等しい、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項3】
前記ヒータ配線以外の層が複数の層によって構成されている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項4】
前記ヒータ配線以外の前記複数の層を合計した厚みが、前記ヒータ配線をなす層の厚みとほぼ等しい、請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項5】
前記ヒータ配線以外の層が、アルミニウム合金又はポリシリコンによって構成されている、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項6】
前記ヒータ配線以外の層には、他の配線層と電気的に接続されていないダミー配線が含まれている、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド用基板を備え、被記録材にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−298080(P2009−298080A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156649(P2008−156649)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】