説明

インクジェット記録方法

【課題】優れた射出安定性を得ることができ、且つ非吸水性または低吸水性の記録媒体を用いた際にも定着性に優れるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも色材、定着樹脂、水、及び、溶解パラメータの水素結合項と極性項の和ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下である有機溶剤を少なくとも1種含有するインクジェットインクを記録ヘッドのノズルから吐出する工程と、記録媒体に着弾させて画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、パルス幅が1AL、パルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成される微振動パルスを印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法に関し、詳しくは、記録動作待機時にノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させることにより、記録媒体に対して定着性に優れるインクジェットインクを、安定して射出することができるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルや印刷用紙などの非吸水性または低吸水性の記録媒体に対して、水系インクで印字しようとすると、基材への吸収性が乏しいために、ハジキや液滴の合一が発生して、白筋や色ムラなどの画質低下が起こりやすい。
【0003】
基材の吸収性が低い性質を補う方法としては、疎水的な溶剤をインク中に含有させることで基材へのインク濡れ性を高める提案がなされている(特許文献1)。
【0004】
この方法により、低吸収性の基材上におけるインクのハジキや液滴の合一を効果的に抑えることができ、水系インクでありながら、非吸水性または低吸水性の記録媒体に対しても高精細な画像を形成することが可能となった。
【0005】
一方、このような疎水的な溶剤を含むインクはわずかな水蒸発でも粘度が上昇しやすいため、記録動作待機時に、ノズル周囲やメニスカス部分でインクが固着しやすく、吐出性が不安定になってしまう問題があった。
【0006】
メニスカスの乾燥増粘を抑えるためには、従来からメニスカスを微振動させ、ノズル表面の増粘したインクをチャネル内のインクと撹拌する方法が知られている。
【0007】
特許文献2には、インク不吐出状態が所定時間継続したとき、あるいは記録ヘッドがメンテナンス位置に移動してから所定時間経過したときに、チャネルの容積を拡大させ、チャネル内圧力が負→正→負となった時に、チャネルの容積を元に戻すことにより、残留圧力振動をキャンセルできるようにした微振動パルスを、不吐出状態が発生しない所定時間よりも短い時間間隔で与える方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、画像記録中の非射出ノズルには微振動を与え、記録ヘッドが記録動作待機時であるホームポジョンに位置しているときには、インク受けに向けて増粘したインクを強制的に吐き捨てる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−120693号公報
【特許文献2】特開2008−230144号公報
【特許文献3】特開2004−262237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
乾燥時の増粘によって定着を行うインクを使用する液滴射出装置では、通常のインクに比べてメニスカスの増粘が早いため、僅かな射出休止時にも頻繁にインク撹拌を行わなければならない。特に、記録ヘッドがホームポジションに位置している時のような記録動作待機時には、比較的長時間の射出休止状態となるため、頻繁にインク攪拌を行わなくてはならない状況にある。
【0011】
しかし、一方で、記録ヘッドの発熱量は微振動パルスの印加回数と電圧に依存するので、頻繁なインク撹拌は記録ヘッドの発熱を招き、かえってインク増粘の原因となる。そのため、乾燥増粘性の高いインクを撹拌する際には、少ないパルスで効率良くインクを撹拌し、熱の発生を回避する必要がある。特に、記録動作待機時など、比較的長時間インク液滴を射出しない場合において、液滴の射出速度低下やノズル詰まりなどが発生し、安定な射出が実現され難い。
【0012】
特許文献2に開示される方法では、ある程度の出射安定性は得られるが、チャネル内圧力が負から正を経て再び負になった時に元に戻す微振動パルスであるため、1つの微振動パルスの印加時間が比較的長く、より乾燥増粘性の高いインクを射出する場合、効率的なノズル攪拌を行うことができない問題がある。
【0013】
特に、記録ヘッドが、隣接するチャネル間で駆動壁を共通とし、駆動壁両面に密着形成された駆動電極に電圧を印加することで、駆動壁をくの字状にせん断変形させてチャネル内のインクに射出のための圧力を付与するせん断モードタイプの記録ヘッドである場合、隣接するチャネルには同一の微振動パルスを同時に印加することはできない。このとき、特許文献2に開示のような微振動パルスを使用しても、隣接の微振動パルスを効率的に利用することができないため、乾燥増粘性の高いインクでは攪拌が追いつかない場合が生じてしまい、効率的なノズル攪拌を行うことができない問題は依然として解決できない。
【0014】
また、特許文献3に開示される方法では、記録動作待機時には微振動パルスを印加せず、吐き出しによる増粘防止という別の手法をとっている。しかし、これはインクを強制的に射出するものであるため、乾燥増粘性の高いインクの場合は、メニスカス内のインクが乾燥しない程度の短い時間間隔でインクを吐き捨て続けなくてはならず、インクの無駄が多く発生してしまう問題がある。
【0015】
本発明は、以上の事情からなされたものであって、優れた射出安定性を得ることができ、且つ非吸水性または低吸水性の記録媒体を用いた際にも定着性に優れるインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【0016】
本発明の他の課題は、以下の記載から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0018】
1.少なくとも色材、定着樹脂、水、及び、溶解パラメータの水素結合項と極性項の和ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下である有機溶剤を少なくとも1種含有するインクジェットインクを記録ヘッドのノズルから吐出する工程と、記録媒体に着弾させて画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、パルス幅が1AL、パルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成される微振動パルスを印加することを特徴とするインクジェット記録方法。
2.前記インクジェットインクは、前記溶解パラメータの水素結合項と極性項の和ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下である有機溶剤を、前記インクジェットインクに対して5質量%以上含むことを特徴とする前記1.に記載のインクジェット記録方法。
3.前記インクジェットインク中の全ての有機溶剤の合計が、前記インクジェットインクに対して、5.0質量%以上40質量%以下含まれることを特徴とする前記1.又は2.記載のインクジェット記録方法。
4.前記インクジェットインクの表面張力が、25℃において、30mN/m以上40mN/m以下の範囲であることを特徴とする前記1.〜3.の何れかに記載のインクジェット記録方法。
5.前記画像を形成する工程が、前記記録媒体に着弾した前記インクジェットインクの乾燥を促進させる工程を備え、該乾燥を促進させる工程が、該記録媒体を加熱する工程、又は、該記録媒体表面にファンによる送排風を行う工程の少なくとも一方を含むことを特徴とする前記1.〜4.の何れかに記載のインクジェット記録方法。
6.非画像領域において、前記記録ヘッドから前記インクジェットインクを吐出することを特徴とする前記1.〜5.の何れかに記載のインクジェット記録方法。
7.前記記録ヘッドのノズルをクリーニングする工程を備えることを特徴とする前記1.〜6.の何れかに記載のインクジェット記録方法。
8.前記記録媒体は、非吸水性または低吸水性の記録媒体であることを特徴とする前記1.〜7.の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた射出安定性を得ることができ、且つ非吸水性または低吸水性の記録媒体を用いた際にも定着性に優れるインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る液滴射出装置の一例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す図
【図2】記録ヘッドの一例を示す図であり、(a)は概観斜視図、(b)は断面図
【図3】図2に示す記録ヘッドのインク射出時の作動を示す図
【図4】図2に示す記録ヘッドの3サイクル吐出動作を説明する図
【図5】記録ヘッドの射出パルスの一例を示す図
【図6】記録ヘッドの射出パルスの他の一例を示す図
【図7】微振動パルスの一例を示す図
【図8】微振動パルスとチャネル内の圧力との関係を説明する図
【図9】微振動パルスの他の一例を示す図
【図10】ブレード状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示す図
【図11】ローラ状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示す図
【図12】シート状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示す図
【図13】吐出口形成面を洗浄液に浸漬する洗浄機構の一例を示す図
【図14】キャップを用いた洗浄機構の一例を示す図
【図15】インク流路を介して洗浄液を供給する洗浄機構の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
本発明は、少なくとも色材、定着樹脂、水および所定の溶解パラメータ特性を備えた有機溶剤を少なくとも1種含有するインクジェットインクを記録ヘッドのノズルから吐出する工程と、記録媒体に着弾させて画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法である。
【0023】
本発明のインクジェット記録方法では、インクジェットインクの組成に特徴があり、特に、溶解パラメータ中の極性項及び水素結合項の和ΣSPが、8MPa1/2以上18MPa1/2以下、好ましくは、8MPa1/2以上15MPa1/2以下の範囲である有機溶剤を少なくとも1種含有する点に特徴がある。
【0024】
本発明でいう溶解パラメータ(SP)とは、溶解性の指標として一般に用いられ、分子の凝集エネルギーから導かれる値である。また、溶解パラメータを分散成分、極性成分及び水素結合成分の各寄与項に分割したHansenパラメータにおいて、水素結合成分は水素結合項(σh)、極性成分は極性項(σp)で表わされ、単位は(MPa)1/2である。例えば、Polymer HandBook(Second Edition)第IV章 Solubility Parameter Valueに詳細な記載があり、本発明で使用した有機溶剤の水素結合項(σh)と極性項(σp)は、上記Polymer HandBook(Second Edition)の第VII章 686頁 Table.4に記載の原子団に対するエネルギー寄与項を用いて計算した値を用いた。また、本発明において、溶解パラメータ中の極性項及び水素結合項の和ΣSP(以下、単にΣSPという場合がある。)とは、上述したHansenパラメータに定義される極性項(σp)及び水素結合項(σh)の和を指すものであり、ΣSP=δp+δhにより算出することができる。
【0025】
本発明者は、インクジェットインクが、上記ΣSPが、8MPa1/2以上18MPa1/2以下、好ましくは、8MPa1/2以上15MPa1/2以下の範囲である有機溶剤を少なくとも1種含有することにより、インク吸収能の高い記録媒体だけでなく、非吸水性または低吸水性の記録媒体に対しても、インクの定着性に優れる効果が得られることを見出した。
【0026】
これは、本発明者が、有機溶剤の溶解パラメータの各特性値の中でも、特に、水素結合項と極性項の和に着目し、鋭意検討したが故に、成し得たものである。即ち、定着樹脂を含む水系インクにおいて、疎水性の有機溶剤は、着弾後のインク液滴の粘度を速やかに上昇させ、隣接するインク液滴間の合一を抑制し、濃度ムラや白抜けを防止することにより、非吸収性記録媒体上に着弾した後のインク液滴の定着を安定して早めることができるという知見、更には、非吸収性記録媒体の表面自由エネルギーの水素結合項と極性項の和と、インク中の有機溶剤の溶解パラメータの水素結合項と極性項の和との差が小さいほど非吸収性記録媒体へのインクの濡れ性が高まるという推測等に基づいたが故のものである。
【0027】
本発明者は、ΣSPが上記特定の範囲である有機溶剤を含む場合、特許文献1、2に記載されるような微振動パルスを印加しても、インクの増粘抑制効果は得られず、それどころか、微振動パルスの印加に伴う温度上昇等によって、粘度上昇が促進されてしまうことを見出した。その結果、ノズル周囲やメニスカス部分でインクが固着しやすく、吐出性が不安定になってしまう問題が顕著となり、インクジェットインクとしての実用性を満たし難く、上述したような非吸水性または低吸水性の記録媒体に対する定着性に優れる性質を生かすことができない。
【0028】
本発明者は、更に鋭意検討を行い、記録ヘッドの記録動作待機時に、後述する特定の微振動パルスを印加することによって、上記ΣSPが、8MPa1/2以上18MPa1/2以下の範囲である有機溶剤を少なくとも1種含有するインクジェットインクを用いる場合であっても、インクの増粘抑制効果を好ましく発現でき、優れた射出安定性を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0029】
本発明のインクジェット記録方法は、上記ΣSPが特定の範囲である有機溶剤を含むインクと、後述する特定の微振動パルスとを協働させることによって、優れた射出安定性を得ることができ、且つ非吸水性または低吸水性の記録媒体に対する定着性に優れるという効果を奏するものである
【0030】
上記ΣSPの範囲を満たす有機溶剤としては、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、1−オクタノール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等を好ましく例示でき、その中でも、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(ΣSP=14.3MPa1/2)、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(ΣSP=13.8MPa1/2)を用いることが、界面活性剤に対する溶解性の観点から好ましく、その中でも3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドを用いることが、ポリ塩化ビニルシートへの浸透性の観点からも、より好ましい。
【0031】
本発明において、本発明で規定するΣSPの範囲を満たす有機溶媒は、インクジェットインクの全質量に対して5.0質量%以上含有していることが好ましい。また、インクジェットインク中の全ての有機溶剤の合計量は、インクジェットインクの全質量に対して、5.0質量%以上40質量%以下の範囲で含有していることが好ましく、その内ΣSPの範囲を満たす有機溶剤は、インクジェットインク中の全有機溶剤に対して30質量%以上、又はインクジェットインクの全質量に対して5.0質量%以上のいずれか多い量を含有していることがより好ましい。
【0032】
本発明で規定するΣSPの範囲を満たす有機溶媒は、インクジェットインクの全質量に対して5.0質量%程度の少量の含有量であっても、意外なことに良好な定着性が示されることが確認されている。特に、インクジェットインクの全質量に対して、好ましくは15質量%未満、より好ましくは12質量%未満、最も好ましくは10質量%未満の少量の含有量であっても、良好な定着性を得ることができる。この理由として、本発明で規定するΣSPの範囲を満たす有機溶媒は、水や他の有機溶媒に比べて揮発性が低く、インクの乾燥後期においても水や他の有機溶媒よりも比較的高濃度で存在できるため、着弾後のインクにおいて、この有機溶媒の量が相対的に大きくなることによって、非吸収性記録媒体への濡れ性が高くなっていることが推測される。
【0033】
本発明において、インクの粘度は、適宜設定することができるが、25℃において、5mPa・s以上15mPa・s以下の範囲であることが好ましい。粘度は、例えば、CBCマテリアルズ社製ビスコメイトVM−1Lの振動式粘度計等を用いて測定することができる。
【0034】
また、本発明において、インクジェットインクの表面張力は、適宜設定することができるが、25℃において、30mN/m以上40mN/m以下の範囲であることが好ましい。表面張力は、Wilhelmy法(プレート法)により測定される値であり、例えば、協和界面科学製CBVP−Zの表面張力計等を使用して測定することができる。
【0035】
以下、他のインクジェットインク成分について説明する。
【0036】
本発明に係るインクジェットインクが含有する定着樹脂は、着弾したインク滴を記録媒体に定着(接着)させる機能を有する。また、定着樹脂は、インク皮膜の耐擦性や耐水性を高めるだけでなく、光沢や光学濃度を高める機能を有することも求められている。そのため、定着樹脂は、水及び有機溶剤からなる水系溶媒に分散させやすいこと、透明性をある程度有すること、他のインク成分との相溶性を有していることがより好ましい。
【0037】
本発明のインクに用いられる定着樹脂は、水系溶媒に対して溶解または分散することができるものであれば特に制限はなく、水溶性樹脂や水系分散型ポリマー微粒子などであることが好ましい。水系溶媒に対する溶解性や安定性が高いことから、水溶性樹脂を用いることがより好ましい。本発明に用いることのできる水溶性樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、アクリロニトリル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリウレタン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0038】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体であっても、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体であってもよい。樹脂構造の設計自由度が高く、重合反応で合成しやすく、低コストであること等から、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体が特に好ましい。前記共重合体における、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の含有割合は、共重合体を構成する全モノマーに対して60〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。なかでも、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(アルキルの炭素数は1〜12)が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、一種類であっても、二種類以上であってもよい。二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの好ましい組み合わせの例には、メタアクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は1〜12)、およびメタアクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は2〜12)の組み合わせが含まれる。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体における他の共重合モノマーの例には、酸性基を有するモノマーが含まれる。酸性基を有するモノマーの例には、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸などが含まれる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体は、主モノマーとしてのメタアクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は1〜12)およびメタアクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は2〜12)と、他の共重合体モノマーとしての酸性基を有するモノマーと、を重合反応させて得られる共重合体であることが好ましい。前記共重合体に含まれる主モノマー(メタアクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は1〜12)およびメタアクリル酸アルキルエステル(アルキルの炭素数は2〜12))由来の構成単位の合計含有割合は、共重合体を構成する全モノマーに対して80〜95質量%であることが好ましい。
【0041】
アクリル系樹脂に含まれる酸性基の少なくとも一部は、水系溶媒に対する溶解性を高める観点などから、塩基で中和されていることが好ましい。中和する塩基の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(例えば、NaOH、KOH等);アミン類(例えば、アルカノールアミン、アルキルアミン等);アンモニアなどが含まれる。中でも、アンモニア及び/又はアミン類で中和された樹脂は、記録媒体に定着後のインクから、アンモニア及び/又はアミン類が水系溶媒と共に蒸発するため、アンモニア及び/又はアミン類が除去された樹脂の溶解性が低下する。そのような樹脂を含む硬化後のインク皮膜は、耐水性を有するため、好ましい。中でもアミン類が好ましく、具体的なアミンの例としては、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0042】
本発明に用いられる水溶性樹脂の酸価は、50〜300mgKOH/gであることが好ましく、50〜130mgKOH/gであることがより好ましい。水溶性樹脂の酸価が50mgKOH/g未満であると、樹脂の水に対する溶解性が十分ではないため、水系溶媒に対して十分には溶解できないことがある。一方、水溶性樹脂の酸価が300mgKOH/g超であると、インク皮膜が柔らかくなり、耐擦性が低下する。
【0043】
本発明における水溶性樹脂の酸価とは、水溶性樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を指し、JIS K 0070の酸価測定、加水分解酸価測定(全酸価測定)によって測定することができる。
【0044】
中和塩基の含有量は、水溶性樹脂の酸価および含有量にもよるが、水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して0.5〜5倍の化学当量数となるようにすることが好ましい。中和塩基の含有量が、水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して0.5倍未満の化学当量数であると、アクリル系樹脂の分散性を高める効果が十分には得られないことがある。一方、中和塩基の含有量が水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して5倍超の化学当量数であると、インク皮膜の耐水性が低下したり、変色、臭気などを生じたりすることがある。
【0045】
水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、2.0×10〜8.0×10であることが好ましく、2.5×10〜7.0×10であることがより好ましい。重量平均分子量が2.0×10未満であると、インクの定着能力が小さいため、得られる画像の耐擦性が十分でないことがある。一方、重量平均分子量(Mw)が8.0×10超であると、インクの粘度が高すぎて、ノズルからの射出安定性が低下することがある。
【0046】
定着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30〜100℃であることが好ましい。Tgが30℃未満であると、得られる画像の耐擦性が十分でなかったり、ブロッキングが発生したりすることがある。一方、Tgが100℃超であると、乾燥後のインク皮膜が硬すぎて脆くなり、耐擦性が低下することがあると考えられる。
【0047】
定着樹脂の含有量は、インク全体に対して1〜15質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。定着樹脂の含有量が1質量%未満であると、顔料などの色材を記録媒体上に定着させる機能を十分には得られないことがある。一方、定着樹脂の含有量が15質量%超であると、インクの粘度が高くなり、射出安定性が低下することがある。
【0048】
本発明の水性インクは、インク膜の耐擦性をさらに高めるために、水系分散型ポリマー微粒子をさらに含んでもよい。
【0049】
水系分散型ポリマー微粒子は、前述と同様の水溶性樹脂で構成されうる。水系分散型ポリマー微粒子の平均粒子径は、ヘッドのノズル詰まりがなく、良好な光沢を有する画像が得られる観点などから、300nm以下であることが好ましく、130nm以下であることがより好ましい。また、ポリマー微粒子の平均粒子径は、製造安定性の観点から、30nm以上であることが好ましい。
【0050】
水系分散型ポリマー微粒子の含有量は、記録媒体への定着性とインクの長期保存安定性が得られやすい観点などから、インク全体に対して0.7質量〜6質量%が好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。
【0051】
本発明に係るインクジェットインクが含有する色材は、染料、顔料またはこれらの混合物であってもよい。なかでも、得られる画像の耐久性や耐擦性の観点などから、顔料が好ましい。染料の例には、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料;着色ポリマーまたは着色ワックスを含む分散染料;油溶性染料などが含まれる。
【0052】
顔料は、公知の有機顔料または無機顔料であってよい。有機顔料の例には、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、およびキノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、および酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック;および昼光蛍光顔料等が含まれる。
【0053】
以下に顔料の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
【0054】
マゼンタ、レッド又はバイオレット用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド8、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド17、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド23、C.I.ピグメントレッド41、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド114、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド148、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド238、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントレッド258、C.I.ピグメントレッド282、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23等が含まれる。
【0055】
オレンジ、イエローまたはブラウン用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー43、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー81、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー153、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー194、C.I.ピグメントイエロー199、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントブラウン22等が含まれる。
【0056】
グリーンまたはシアン用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:5、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー29、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が含まれる。
【0057】
ブラック用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントブラック5、C.I.ピグメントブラック7等が含まれる。ホワイト用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントホワイト6等が含まれる。
【0058】
無機顔料の例には、カーボンブラック、および酸化チタン等が含まれる。
【0059】
本発明のインクは、顔料の分散性を高めるために、顔料分散剤をさらに含んでもよい。顔料分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩等が含まれる。
【0060】
顔料は、安定に分散させるために、顔料分散体としてインクに添加されることが好ましい。顔料分散体は、水系溶媒中に安定に分散しうるものであればよく、顔料を分散樹脂で分散させた顔料分散体;顔料が水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料:表面修飾され、分散樹脂を含まなくても分散可能な自己分散顔料などが挙げられる。
【0061】
顔料を分散樹脂で分散させた顔料分散体に用いられる分散樹脂は、水溶性樹脂であることが好ましい。そのような水溶性樹脂の好ましい例には、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が含まれる。また顔料の分散樹脂として、前記定着樹脂として用いられうる水溶性樹脂を用いて分散しても良い。
【0062】
顔料を水不溶性樹脂で被覆したカプセル顔料における、水不溶性樹脂は、弱酸性ないし弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂である。具体的には、pH4〜10の水溶液に対する溶解度が2%以下である樹脂が好ましい。水不溶性樹脂の例には、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、アクリロニトリル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン−アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などが含まれる。カプセル顔料の平均粒子径は、インクの保存安定性、発色性などの観点から、80〜200nm程度であることが好ましい。
【0063】
カプセル顔料(水不溶性樹脂で被覆された顔料微粒子)は、公知の方法で製造することができる。例えば、水不溶性樹脂を有機溶剤(例えばメチルエチルケトンなど)に溶解し、さらに塩基成分を加えて、水不溶性樹脂に含まれる酸性基を部分的もしくは完全に中和する。得られた溶液に、顔料と、イオン交換水とを添加して、混合および分散させる。その後、得られた溶液から有機溶剤を除去して、必要に応じてイオン交換水をさらに加えて、カプセル顔料を調製する。または、顔料と、重合性界面活性剤とを分散させた溶液に、モノマーを添加し、重合反応させて顔料を樹脂で被覆する方法などもある。
【0064】
前述の分散樹脂および水不溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3.0×10〜5.0×10であり、より好ましくは7.0×10〜2.0×10である。分散樹脂および水不溶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−30〜100℃程度であり、より好ましくは−10〜80℃程度である。
【0065】
顔料と分散樹脂の質量比は、顔料/分散樹脂が100/150〜100/30であることが好ましい。画像の耐久性と、インクの射出安定性、保存安定性を高める観点などから、100/100〜100/40であることがより好ましい。
【0066】
顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等により行うことができる。
【0067】
顔料分散体の粗粒分を除去し、顔料微粒子の粒径分布を揃える観点などから、顔料分散体は、インクに添加される前に、遠心分離処理またはフィルターによるろ過処理などが施されていてもよい。
【0068】
自己分散顔料は、市販品であってもよい。自己分散顔料の市販品の例には、CABO−JET200、CABO−JET300(キャボット社製)、ボンジェットCW1(オリエント化学工業(株)社製)等が含まれる。
【0069】
本発明におけるインクジェットインクは、上述した特定のΣSPの範囲を満たす有機溶剤の他に、他の有機溶剤(該特定のΣSPの範囲を満たさない有機溶剤)を含むことができる。このような他の有機溶剤としては、水溶性有機溶剤を好ましく例示することができる。
【0070】
水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジプロピレンリコールモノアルキルエーテル類、トリプロピレンリコールモノアルキルエーテル類、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、β−アルコキシプロピオンアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0071】
その中でも、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類のような水溶性有機溶剤を添加することが好ましく、具体的には、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類を用いることが好ましい。また、1,2−アルカンジオール類としては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0072】
本発明のインクジェットインクにおいては、有機溶剤の少なくとも1種が、ポリ塩化ビニルに対する溶解性を有することが好ましく、具体的にはポリ塩化ビニルに対する下記の測定法に準じて求めた溶解度が1.0質量%以上である有機溶剤であることが好ましい。
【0073】
本発明でいうポリ塩化ビニルに対する溶解性を有する有機溶剤とは、次のような性質を有する有機溶剤であると定義する。
【0074】
すなわち、ポリ塩化ビニルサンプルとして、メタマーク社製の軟質ポリ塩化ビニルシート(MD5)を3cm×3cm程度の大きさに切り取り、シール部分の接着剤をエタノールで完全に除去した後、その軟質ポリ塩化ビニルシートの質量W1を測定した後、50mlの評価対象の有機溶剤中に完全に浸漬させる。続いて、3分経過した後に該軟質ポリ塩化ビニルシートを取り出し、純水で洗浄して水分を取り除いて乾燥させた後、その質量W2を測定し、{(W1−W2)/W1×100}により、有機溶剤への浸漬による質量変化率を測定し、これを溶解度と定義し、この溶解度が1.0%以上である有機溶剤を「ポリ塩化ビニルに対する溶解性を有する有機溶剤」という。なお、上記浸漬操作により、該軟質ポリ塩化ビニルシートが原形をとどめない程度まで溶解してしまう有機溶剤は、言うまでもなくポリ塩化ビニルに対する溶解性を備えた有機溶剤である。また、凝固点が低く、室温下で固体となってしまう有機溶剤、例えば、スルホランや2−ピロリドン等に関しては、50℃に加温した状態で軟質ポリ塩化ビニルシートの浸漬し、上記方法に従って評価することとする。
【0075】
本発明に係るポリ塩化ビニルに対する溶解性を有する有機溶剤としては、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、スルホラン、β−アルコキシプロピオンアミド類等を挙げることができる。また、本発明のインクにおいては、上記有機溶剤の中でも、β−アルコキシプロピオンアミド類を含有することが好ましい。
【0076】
β−アルコキシプロピオンアミド類の例には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【化1】

【0077】
式(1)のRは、炭素原子数が1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。炭素原子数が1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基は、好ましくはメチル基、エチル基またはn−ブチル基である。
【0078】
式(1)のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。RとRは、互いに同一であっても異なってもよい。炭素原子数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0079】
式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドは、記録媒体への浸透性を有し、定着樹脂を溶解させやすく、かつ水溶媒との相溶性も高い。β−アルコキシプロピオンアミドの好ましい例には、特に制限されないが、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(BDMPA)、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(MDMPA)、3−エトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド(EDEPA)等が含まれる。
【0080】
式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドは、例えば、特開2009−184079号公報やWO2008−102615号明細書に記載の方法で製造することができる。また、式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドの市販品としては、出光興産社製 商品名:エクアミド等がある。
【0081】
本発明において、ポリ塩化ビニルに対する溶解性を有する有機溶剤の含有量は、インク全体に対して0.1質量%以上40質量%未満であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。0.1質量%未満であると、記録媒体を軟化または膨潤させる効果が十分には得られないことがあり、40質量%以上であると、プリンター部材を膨潤、劣化させることがある。
【0082】
なお、本発明者は、本発明で定義される「ポリ塩化ビニルに対する溶解性を有する有機溶剤」が、ポリ塩化ビニルからなる記録媒体に限らず、例えばポリ塩化ビニル以外の疎水性樹脂からなる記録媒体においても、インクの定着性に優れる効果を奏することを実験により確認している。
【0083】
本発明のインクジェットインクは、必要に応じて、更なる他の水溶性有機溶剤を含んでもよい。例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)等が含まれる。
【0084】
本発明のインクジェットインクにおいて、全有機溶剤の総含有量は、インクの表面張力や粘度等を考慮して適宜調整することができ、例えば保存安定性や記録媒体への濡れ性の観点からは、インク全体に対して5.0〜40質量%程度であることが好ましい。
【0085】
本発明のインクは、必要に応じてその他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分の例には、防カビ剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、粘度調整剤、浸透剤、pH調整剤、乾燥防止剤(例えば尿素、チオ尿素、エチレン尿素など)等が含まれる。
【0086】
防腐剤および防黴剤は、長期にわたってインクの保存安定性を保つ機能を有する。防腐剤および防黴剤は、特に制限されないが、例えば芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL)などであってよい。
【0087】
本発明において、記録媒体としては、普通紙、コート紙、インクジェット専用紙、布帛等のインク吸収能の高い記録媒体も適用可能であるが、低吸水性の記録媒体(インクの吸収性が低い記録媒体)や非吸水性の記録媒体(インクの吸収性を有しない記録媒体)を用いる場合により優れた効果を発揮し、特に、記録媒体がポリ塩化ビニルからなる場合に、最も有効である。
【0088】
本発明においては、低吸水性や非吸水性の記録媒体を用いることで、画像耐久性や光沢性が一層高まり高品質な画像を得ることができるだけでなく、屋外での長期使用にも耐えることが可能となる。
【0089】
低吸水性の記録媒体の例には、印刷本紙などのコート紙などが含まれる。低吸水性の記録媒体の市販品としては、例えばリコービジネスコーグロス100(株式会社リコー製)、OKトップコート+、OK金藤+、SA金藤+(王子製紙株式会社製)、スーパーMIダル、オーロラコート、ユーライト、スペースDX(日本製紙株式会社製)、αマット、ミューコート(北越製紙株式会社製)、雷鳥アート、雷鳥スーパーアート(中越パルプ工業株式会社製)、特菱アート、パールコートN(三菱製紙株式会社製)などが挙げられる。
【0090】
非吸水性の記録媒体の例には、樹脂基材、金属基材、ガラス基材などが含まれる。樹脂基材は、好ましくは疎水性樹脂からなる樹脂基材(プレート、シートおよびフィルムを含む)、該樹脂基材とその他の基材(紙など)との複合基材などであってよい。疎水性樹脂の例には、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが含まれ、好ましくは塩化ビニルである。
【0091】
ポリ塩化ビニルからなる記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢塩ビ(株式会社システムグラフィ製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon製)、FR2(Hanwha製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション製)、ナポレオングロス光沢塩ビ(株式会社二樹エレクトロニクス製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Inetrcoat製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix製)等が挙げられる。
【0092】
図1は、本発明に係る液滴射出装置の一例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【0093】
インクジェット記録装置1において、記録媒体Pは、搬送機構3の搬送ローラ対32に挟持され、更に、搬送モータ33によって回転駆動される搬送ローラ31により図示Y方向に搬送されるようになっている。
【0094】
搬送ローラ31と搬送ローラ対32の間には、記録媒体Pの記録面PSと対向するように記録ヘッド2が設けられている。この記録ヘッド2は、記録媒体Pの幅方向に亘って掛け渡されたガイドレール4に沿って、不図示の駆動手段によって、上記記録媒体Pの搬送方向(副走査方向)と略直交する図示X−X’方向(主走査方向)に沿って往復移動可能に設けられたキャリッジ5に、ノズル面側が記録媒体Pの記録面PSと対向するように配置されて搭載されており、フレキシケーブル6を介して、後述する射出パルスや微振動パルスを生成するための回路が設けられる駆動信号発生部100(図3参照)に電気的に接続されている。
【0095】
かかる記録ヘッド2は、キャリッジ5の主走査方向の移動に伴って記録媒体Pの記録面PSを図示X−X’方向に走査移動し、この走査移動の過程でノズルからインク滴を射出することによって所望のインクジェット画像を記録するようになっている。
【0096】
なお、このインクジェット記録装置1では、後述するように、記録ヘッド2が画像記録待機位置にある時、ノズル開口で増粘したインクを微振動させるようになっている。記録ヘッド2がこの画像記録待機位置において長期間作動停止している時は、図示しないが、記録ヘッド2のノズル面にキャップを被せることにより保護するようになっている。
【0097】
また、本発明において記録動作待機時とは、記録ヘッドの全てのノズルが画像データ等の液滴射出用データに基づく液滴射出を休止している状態下にあることをいう。例えば本実施形態のように記録媒体Pの幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより画像記録を行うシャトル型の記録ヘッド2の場合、記録ヘッド2が記録媒体P上に位置せず、記録媒体Pの幅方向の外側であって、記録ヘッド2の走査移動が停止している時である。具体的には記録ヘッド2がホームポジションまたはメンテナンスポジションに停止している時が例示できる。
【0098】
図示しないが、本発明は、記録ヘッドが記録媒体の幅方向に亘って長尺に架け渡され、一定方向に搬送される記録媒体に向けて液滴を射出することにより1パスで記録動作を行うライン型の記録ヘッドを有する液滴射出装置にも適用できる。このようなライン型の記録ヘッドの場合、記録動作待機時とは、記録媒体の搬送が停止している時である。具体的には記録ヘッドや搬送機構が作動停止したメンテナンス状態にある時が例示できる。
【0099】
図2、図3は、記録ヘッド2の一例を示す図であり、図2(a)は概観斜視図、(b)は断面図、図3はインク射出時の作動を示す図である。
【0100】
同図において、21はインクチューブ、22はノズル形成部材、23はノズル、24はカバープレート、25はインク供給口、26は基板、27は隔壁である。そして、チャネル28が隔壁27、カバープレート24及び基板26によって形成されている。
【0101】
記録ヘッド2は、ここでは図3に示すように、カバープレート24と基板26の間に、電気・機械変換手段であるPZT等の圧電材料からなる複数の隔壁27A、27B、27Cで隔てられたチャネル28が多数並設されたせん断モード(シェアモード)タイプの記録ヘッドを示している。この記録ヘッド2は、隔壁がアクチュエータとして機能する。
【0102】
図3では多数のチャネル28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されている。チャネル28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)はインク供給口25を経て、インクチューブ21によって図示されていないインクタンクに接続されている。そして、各チャネル28内の隔壁27表面には両隔壁27の上方から基板26の底面に亘って繋がる電極29A、29B、29Cが密着形成され、各電極29A、29B、29Cは駆動信号発生部100に電気的に接続している。
【0103】
この駆動信号発生部100は、本発明の駆動信号生成手段であり、複数の駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生回路と、各チャネル毎に前記駆動信号発生回路から供給された駆動信号の中から各画素のデータに応じて駆動パルスを選択して各チャネルに供給する駆動パルス選択回路とからなり、各画素のデータに応じて電気・機械変換手段としての隔壁27を駆動するための駆動パルスを供給する。この駆動信号発生部100で生成される駆動パルスには、このような射出パルスの他に、ノズル攪拌を行うためにノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスも含んでいる。
【0104】
記録ヘッド2において、各隔壁27は、ここでは図3の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は例えば符号27aの部分のみであってもよく、隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0105】
各隔壁27表面に密着形成された電極29A、29B、29Cに駆動信号発生部100の制御により射出パルスが印加されると、以下に例示する動作によってインク滴をノズル23から射出する。なお、図3ではノズルは省略してある。
【0106】
まず、電極29A、29B、29Cのいずれにも射出パルスが印加されない時は、隔壁27A、27B、27Cのいずれも変形しない。図3(a)に示す状態において、電極29A及び29Cを接地すると共に電極29Bに射出パルスを印加すると、隔壁27B、27Cを構成する圧電材料の分極方向に直角な方向の電界が生じる。これにより、各隔壁27B、27C共に、それぞれ隔壁27a、27bの接合面にズリ変形を生じ、図3(b)に示すように隔壁27B、27Cは互いに外側に向けて変形し、チャネル28Bの容積を拡大してチャネル28B内に負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0107】
また、この状態から電位を0に戻すと、隔壁27B、27Cは図3(b)に示す膨張位置から図3(a)に示す中立位置に戻り、チャネル28B内のインクに高い圧力が掛かる(Release)。
【0108】
次いで、図3(c)に示すように、隔壁27B、27Cを互いに逆方向に変形するように射出パルスを印加して、チャネル28Bの容積を縮小すると、チャネル28B内に正の圧力が生じる(Reinforce)。
【0109】
これによりチャネル28Bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから射出する程に大きくなると、インク滴はノズルから射出する。他の各チャネルも射出パルスの印加によって上記と同様に動作する。このようなインク滴の射出法をDRR駆動法と呼び、シェアモードタイプの記録ヘッドの代表的な駆動法である。
【0110】
このように少なくとも一部が圧電材料で構成された隔壁27によって隔てられた複数のチャネル28を有する記録ヘッド2を駆動する場合、一つのチャネルの隔壁が射出の動作をすると、隣のチャネルが影響を受けるため、通常、複数のチャネル28のうち、互いに1本以上のチャネル28を挟んで離れているチャネル28をまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネルを2つ以上の組に分割し、各組毎にインク滴の射出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全チャネル28を駆動してベタ画像を出力する場合には、チャネル28を2チャネルおきに選んで3相に分けて射出する、いわゆる3サイクル射出法が行われる。
【0111】
かかる3サイクル射出動作について図4を用いて更に説明する。図4に示す例では、記録ヘッドはチャネルがA1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのチャネル28で構成されているとして説明する。また、このときのA、B、Cの各組のチャネル28に印加されるパルス波形のタイミングチャートを図5に示す。
【0112】
インク滴の射出時には、まずA組(A1、A2、A3)の各チャネルの電極に電圧を掛け、その両隣のチャネルの電極を接地する。例えばA組のチャネルに1AL幅の正電圧+Vonの矩形波からなる射出パルスを掛けると、射出したいA組のチャネルの隔壁が外側に変形し、そのチャネル28内に負圧が発生する。この負圧により、インクタンクからA組のチャネル28にインクが流れ込む(Draw)。
【0113】
この状態を1AL間保つと、圧力が正圧に反転するので、このタイミングで電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、高い圧力がA組のチャネル28内のインクに掛かる(Release)。更に、同じタイミングでA組の各チャネルの 電極に負電圧−Voffの矩形波を掛けると、隔壁が内側に変形し、更に高い圧力がインクに掛かり(Reinforce)、ノズルからインク柱が押し出される。1AL後、圧力が反転してチャネル28内が負圧になり、更に1AL経過すると、チャネル28内の圧力が反転して正圧になるので、このタイミング(2AL経過後)で電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、残留する圧力波をキャンセルできる。
【0114】
ここで、この射出パルスの電圧は、|Von|≧|Voff|である。
【0115】
続いてB組(B1、B2、B3)の各チャネル28、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各チャネル28へと上記同様に動作する。
【0116】
なお、AL(Acoustic Length)とは、上述したように、チャネルの音響的共振周期の1/2である。このALは、電気・機械変換手段である隔壁27に矩形波の電圧パルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの立ち上がり10%と波高値電圧からの立ち下がり10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0117】
かかるせん断モードタイプの記録ヘッドでは、隔壁の変形は壁の両側に設けられる電極に掛かる電圧差で起こるので、インク滴の射出を行うチャネルの電極に負電圧を掛ける代わりに、図6に示すように、インク滴の射出を行うチャネルの電極を接地して、その両隣のチャネルの電極に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば、正電圧だけで駆動させることができるために好ましい態様である。
【0118】
次に、図7を用いて、かかるシェアモードタイプの記録ヘッド2において、記録ヘッド2が画像記録待機位置にある時に、メニスカスに微振動を与える動作について説明する。
【0119】
このメニスカスに微振動を与える動作も、インク滴の射出動作と同様に、記録ヘッド2の複数のチャネルのうち、互いに1本以上のチャネルを挟んで離れているチャネルをまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネルを2つ以上の組に分割し、記録ヘッド2の記録動作待機時に、微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することによって行うことができる。ここでも上記同様にチャネルをA〜Cの3つの組に分けて3サイクル動作を行うものについて説明する。また、ここでは、駆動波形電圧に正電圧のみを使用し、A組→B組→C組の順に微振動パルスを印加するものとする。
【0120】
図7に示す例では、記録ヘッド2の記録動作待機時において、初めにA組のチャネルの電極に1AL幅の正電圧の矩形波からなる微振動パルスを印加する。この微振動パルスの電圧|Vs|は、射出パルス電圧の|Voff|以下の電圧である。これにより、A組のチャネルは容積が拡大して負圧となり、1AL後に正圧に転ずる。この1AL経過後にB組及びC組のチャネルの電極を接地してA組のチャネルの容積を元に戻すが、パルス電圧|Vs|は射出パルス電圧の|Voff|以下であるため、ノズルからインク滴が射出することはない。
【0121】
その後、(n+0.5)ALの間、A組〜C組の全てのチャネルの電極を接地している(nは1以上の整数)。これによりA組のチャネルのノズル内のメニスカスは、ノズルからインク滴を射出させない程度に押し出させるように微振動が与えられ、B組及びC組の各チャネルは片側の隔壁のみが変位して、A組のチャネルの半分の強度の微振動が与えられる。
【0122】
A組のチャネルへの微振動パルスの印加が終了して、(n+0.5)AL後にB組への微振動パルスの印加を行う場合も同様に、B組のチャネルの電極に1AL幅の正電圧の矩形波からなる微振動パルスを射出パルス電圧の|Voff|以下の電圧で印加し、A組、C組のチャネル電極をそれぞれ接地し、その後、(n+0.5)ALの間、全てのチャネルの電極を接地する。C組のチャネルの微振動パルスの印加も同様に行われる。
【0123】
本発明において、このようにノズルからインク滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスは、射出パルスを印加する場合と同様、図3に示す駆動信号発生部100において生成される。本発明における微振動パルスは矩形波からなり、パルス幅が1ALの矩形波を含み、パルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成されていることを特徴としている。本実施形態のように隣接するチャネルで隔壁を共通にする記録ヘッド2の場合では、この微振動パルスは、隣接するチャネル間で(n+0.5)×ALずらして印加される。
【0124】
本発明では、微振動パルスとして、射出パルスと同様にパルス幅が1ALである矩形波を利用することにより、低電圧(|Voff|以下)でメニスカスを大きく揺らすことが可能である。
【0125】
また、微振動パルスのパルス間隔を(n+0.5)×ALとすることは、チャネル内に発生した圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスを印加することを意味している。これにより、前に印加された微振動パルスによって生成された圧力パルスの残響の影響を最小限に抑え、次の微振動パルスを印加することが可能である。
【0126】
これにより、微振動パルス自体で圧力波のキャンセルを行う必要がないので、少ないパルス数で効率的にメニスカスを揺らすことができる。このため、発熱を防ぐことができ、かつ、微振動パルスを印加し続けた際に圧力波の強め合いを繰り返し、不意にインク液の射出が発生してしまう現象を防ぐことができる。
【0127】
しかも、A〜Cの各組のチャネルに対し、微振動パルスを時分割で順次印加するので、例えばA組のチャネルに微振動パルスを印加すると、B組及びC組の各チャネルにもA組のチャネルの半分の強度ではあるが微振動を与えることができ、この微振動を利用して、結果として全てのチャネルのメニスカスを効率的に揺らす効果を得ることができる。しかも、B組及びC組の各チャネル自身には微振動パルスが印加されないため、記録ヘッド2の発熱を抑えることができる。
【0128】
図8は、3サイクル駆動でパルス間隔を(n+0.5)×ALとした際のチャネル内の圧力波を示している。1ALの矩形波からなる微振動パルスを(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)の間隔で印加することにより、チャネル内の圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスが印加され、微振動パルスの残響の影響が抑えられていることが示されている。
【0129】
nの値は好ましくは3〜8である。この範囲の整数値で最も効率的にメニスカスを振動させ、かつ発熱を抑制することができる。また、本発明者は実験により、整数値から±0.05程度の誤差があっても概ね同等の効果を得ることができることを確認している。
【0130】
図8においては、n=6、すなわち各々の微振動パルス間の間隔は6.5ALで均一である例が示されている。しかしながら、各々の微振動パルス間の間隔は均一でなくともよい。例えば、m=6とすると、A−cycleの微振動パルスとそれに続くB−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m+1+0.5)×AL(=7.5AL)、そして、該B−cycleの微振動パルスとそれに続くC−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m−1+0.5)×AL(=5.5AL)、更に該C−cycleの微振動パルスとそれに続くA−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m+0.5)×AL(=6.5AL)のように、パルス間隔が(自然数+0.5)×ALの長さであれば同様の作用を示し、チャネル内の圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスが印加され、微振動パルスの残響の影響が抑えられる。
【0131】
また、(n+0.5)×ALのパルス間隔では、前の微振動パルスの影響を受けないため、パルス間隔を変化(nの値を変化)させても、メニスカスの押出量は変化しない。そのため、電圧の調整によって微振動の大きさを容易に制御可能で、インクによって異なる最適なパルス間隔に設定し易い利点がある。
【0132】
微振動パルスの電圧|Vs|は、不意なインク滴の射出を生じることのないように、射出パルスが|Von|≧|Voff|となるときに、|Vs|≦|Voff|となるものであることが好ましいが、|Voff|に対して低すぎるとインクによってはノズル攪拌が不十分となる場合がある。より効率的なノズル攪拌を可能にする観点から、インクの物性とヘッドのディメンジョンによって最適値を設定することが好ましい。
【0133】
本発明における微振動パルスの印加は、上述した3サイクル駆動に限らず、例えば、図9に示すように、奇数ノズルと偶数ノズルに分けた駆動(2サイクル駆動)を行うことも可能である。この駆動は、より乾燥増粘し易いインクに適用することが好ましいが、時間当たりのパルス数が増えるので、パルス間隔を長めに設定する(nの値を大きめに設定する)などの調整が必要である。発熱の観点から、いずれの駆動においても、可能なかぎりパルス間隔は長めに設定し、駆動電圧は低めに設定することが望ましい。
【0134】
以上の説明した液滴射出装置では、記録ヘッドのアクチュエータが、隣接するチャネル間の圧電材料からなる隔壁に電界を印加することにより、該隔壁をせん断モードで変形させるものを例示したが、記録ヘッドのチャネルの容積を変化させる機能を与えるものであればどのような構成であってもよい。本実施形態において示したように、せん断モードで変形する圧電材料により構成される場合には、上記した矩形波をより効果的に利用することができ、駆動電圧を低下させ、より効率的な駆動が可能となるために好ましい。
【0135】
また、以上の説明では、液滴射出装置としてインクジェット記録装置の適用例を示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、チャネル内の液体を液滴としてノズルから射出させる液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法として広く適用可能である。
【0136】
本発明のインクジェット記録方法においては、非吸水性または低吸水性の記録媒体にインクを着弾させて画像を形成する工程において、記録媒体の少なくとも記録面側を加熱して記録することが好ましい。加熱することにより、インクの乾燥性及び増粘速度が向上し、ビーディングやカラーブリードが抑制されるために高い画質の記録画像が得られ、加えて、形成した画像の耐久性も向上しやすい。
【0137】
加熱温度としては、記録媒体の記録面側の表面温度を40℃以上、80℃以下になるように加熱することが好ましい。40℃以上に加熱することで前記の効果が十分なものとなりやすく、加熱温度を80℃以下にすることでインク射出が良好で、長時間にわたって安定な記録が可能となりやすい。
【0138】
加熱方法としては、記録媒体搬送系またはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方より接触式で加熱する方法や、ランプ等により記録媒体の下方や上方から非接触で加熱する方法を選択することができる。
【0139】
さらに、本発明のインクジェット記録方法では、記録後に不要な有機溶媒等を除去する目的で乾燥手段を用いることが好ましい。インクの乾燥手段としては特に制限はないが、例えば、上述したような加熱による方法や、記録媒体の裏面を加熱ローラあるいはフラットヒータ等に接触させて乾燥させる方法や、印字面(記録媒体表面)にドライヤー等のファンによる送排風機で送排風を行い、好ましくは温風を吹き付ける方法、あるいは減圧処理により揮発成分を除去する方法等を適宜選択あるいは組み合わせて用いることができる。
【0140】
本発明においては、非画像領域において、記録ヘッドからインクを吐出する動作を行うことが好ましい。これにより、不良ノズルの検出、及び、不良ノズルの発生防止ないし回復が可能となる。
【0141】
非画像領域とは、製品となる画像が形成されない記録媒体上の領域か、あるいは、所定間隔をおいて連続して搬送される各記録媒体の間の記録媒体が存在しない領域や、搬送される記録媒体の側方の記録媒体が存在しない領域等を好ましく例示できる。
【0142】
例えば、非画像領域にインクを吐出してテストパターンを印画することにより、ノズル欠やノズル曲がり等の不良ノズルを検出することができる。あるいは、非画像領域において吐出されたインクを、インク滴の通過の有無を検出するための検出光と交叉させることによっても、ノズル欠やノズル曲がり等の不良ノズルを検出することができる。
【0143】
このようなインクの吐出は、記録ヘッドのすべてのノズルから一斉に、あるいは一部ずつのノズルから順次行うことができる。
【0144】
特に好ましい態様は、記録ヘッドあるいは記録媒体が移動することによって、記録ヘッドが非画像領域に差し掛かる度に、一部のノズルからインクを吐出し、記録ヘッドが複数回の非画像領域を通過することによって、すべてのノズルからインクを吐出して、不良ノズルの検出を行うことであり、これにより、記録速度を低下させることなく不良ノズルを検出できる効果が得られる。
【0145】
また、このように、非画像領域において、記録ヘッドからインクを吐出しておくことによって、記録ヘッドにおけるインク液面側の比較的乾燥した部分を除去できるため、ノズル詰まりを未然に防止すると共に、記録時におけるインク吐出を安定化する効果が得られる。更に、同時に、不良となったノズルに、回復する機会を与えることができる効果も得られる。
【0146】
本発明においては、印画の開始時や、印画の数スキャン毎に、あるいは長期間に亘ってプリンターを休止する際などに定期的に、手動又は自動で記録ヘッドのノズルをクリーニングする工程を含むことが好ましい。
【0147】
本発明において好ましい洗浄方法の例について、図10〜15を参照して説明する。
【0148】
図10は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第1態様を説明する図であり、ブレード状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示している。
【0149】
図10において、2は記録ヘッドであり、22aはインクを吐出するノズルの吐出口が形成された吐出口形成面である。ここでは、ノズル形成部材の前面によって、吐出口形成面22aが形成されている。
【0150】
また、洗浄液容器70中に本発明に係る洗浄液が充填されており、洗浄液中には、ブレード状の吸収部材71が設置されている。
【0151】
吸収部材71は、回転軸71aの回転により、ポジションP1〜P4まで回転しながら移動していく。ポジションP2は洗浄液中を移動し、液外に移動する時に洗浄液を同伴しながら回転し、ポジションP4で記録ヘッド2の吐出口形成面22aに接触を開始し、該吐出口形成面22aに洗浄液を付着させると共に、該吐出口形成面22aを摺擦する。これにより、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着乃至固着したインクを洗浄する。洗浄が終了した吸収部材71は、ポジションP2で再び液中に浸漬して、洗浄液により、吸収部材71に付着したインク等を溶解、除去する。
【0152】
図10においては、回転軸71aに1枚のブレード状の吸収部材71を取り付けた例を示したが、一定の間隔をおいて、2枚、3枚、4枚等の複数枚設置した構成を取っても良い。
【0153】
図11は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第2態様を説明する図であり、ローラ状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示している。図中、同符号は同一構成を指す。
【0154】
図11の例では、回転軸72aにローラ状の吸収部材72が取り付けられている。ローラ状の吸収部材72の下方は、洗浄液容器70中の洗浄液に浸漬され、洗浄液を吸収するように配置されている。回転軸72aの回転により、洗浄液を吸収したローラ状の吸収部材72が、記録ヘッド2の吐出口形成面22aに接触して洗浄液を付着させると共に、該吐出口形成面22aを摺擦する。これにより、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着乃至固着したインクを洗浄する。洗浄が終了した吸収部材72は、回転軸72aの回転によって再び液中に浸漬して、洗浄液により、吸収部材72に付着したインク等を溶解、除去する。
【0155】
図12は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第3態様を説明する図であり、シート状の吸収部材を用いた洗浄機構の一例を示している。図中、同符号は同一構成を指す。
【0156】
図12に関しては、3つの回転軸73a、73b、73cに架け渡されたシート状の吸収部材73と、記録ヘッド2の吐出口形成面22aとが接触し、該吐出口形成面22aに洗浄液を付着させると共に、該吐出口形成面22aを摺擦する。これにより、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着乃至固着したインクを洗浄する。洗浄が終了したシート状の吸収部材73は、3つの回転軸73a、73b、73cのうちの少なくとも何れかが回転駆動することにより回転し、一部が洗浄液容器70中の洗浄液に一部が浸漬されるように配置された回転軸73cの近傍において、再び洗浄液中に浸漬され、洗浄液により、シート状の吸収部材73に付着したインク等を溶解、除去する。
【0157】
以上、図10〜12に示したように、本発明においては、洗浄液を含浸させた吸収部材によって、インク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位を洗浄することが好ましい。
【0158】
本発明において、吸収部材としては、洗浄液を吸収でき、且つ、吸収した洗浄液をインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着させることができるものであれば格別限定されず、スポンジ等の多孔性弾性体や、織不、不織布、又は、回転体に植毛されたブラシ等の繊維集合体等を好ましく例示できる。
【0159】
また、本発明の洗浄方法は、上述のような吸収部材を用いた洗浄に限定されるものではない。
【0160】
図13は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第4態様を説明する図であり、吐出口形成面を洗浄液に浸漬する洗浄機構の一例を示している。図中、同符号は同一構成を指す。
【0161】
図13の例においては、記録ヘッド2の吐出口形成面22aを、直接、洗浄液容器70内の洗浄液に浸漬することで、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着乃至固着したインクを洗浄する。吐出口形成面22aを洗浄液に浸漬した状態で、超音波発生装置74により、超音波洗浄することも、洗浄効率を向上する上で好ましいことである。
【0162】
図14は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第5態様を説明する図であり、キャップを用いた洗浄機構の一例を示している。図中、同符号は同一構成を指す。
【0163】
図14の例においては、吐出口形成面22aを覆うように記録ヘッド2にキャップ75を装着する。次いで、洗浄液タンク76から、キャップ75内の領域75aに、キャップ75に設けられた洗浄液供給口75bを介して、洗浄液を導入する。これにより、吐出口形成面22aと洗浄液とが接触し、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に付着乃至固着したインクを洗浄する。
【0164】
キャップ75内の領域75aの洗浄液は、洗浄液タンク76からの新たな洗浄液で置換することができる。77は、キャップ75内の領域75aの洗浄液を排出する吸引ポンプである。
【0165】
以上、図10〜14に示した例では、インク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に対して、記録ヘッド2の外側から洗浄液を供給する方法について示したが、本発明の洗浄方法は、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0166】
図15は、本発明に係るインクジェット記録装置の洗浄方法の第6態様を説明する図であり、記録ヘッド2内のインク流路(不図示)を介して、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に洗浄液を供給する洗浄方法の一例を示している。図中、同符号は同一構成を指す。
【0167】
図15において、78aはインクタンク、78bは第1の洗浄液を貯留する第1の洗浄液タンク、78cは第2の洗浄液を貯留する第2の洗浄液タンクである。
【0168】
インクタンク78a、第1の洗浄液タンク78b及び第2の洗浄液タンク78cは、それぞれ開閉弁78a’、78b’及び78c’を介して、記録ヘッド2内のインク流路に接続されている。つまり、記録ヘッド2内のインク流路に対して、インク、第1の洗浄液又は第2の洗浄液の何れかを、選択的に供給できるように構成されている。これにより、記録時においては、記録ヘッド2内のインク流路にインクが供給され、洗浄時には、記録ヘッド2内のインク流路に第1の洗浄液又は第2の洗浄液が供給される。
【0169】
このようにして、洗浄時において、吐出口形成面22aのインク吐出口又はインク吐出口近傍でインク吐出に影響を与える部位に、インク流路を介して洗浄液を供給することができ、該部位に付着乃至固着したインクを洗浄することができる。
【0170】
また、洗浄時には、図示するように、吐出口形成面22aを覆うように、記録ヘッド2に吸引キャップ79を装着して、インク流路内の洗浄液をインク吐出口に向けて吸引することも、洗浄効率を向上できるため好ましい。79aは吸引ポンプである。
【実施例】
【0171】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて例証する。
【0172】
(実施例1)
<定着樹脂の合成>
・定着樹脂P−1の合成
滴下ロート、窒素導入官、還流冷却官、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50部を加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、モノマー(メタクリル酸9.0部、メタクリル酸メチル78部、アクリル酸n−ブチル6.5部及びアクリル酸2−エチルヘキシル6.5部)と、メチルエチルケトン50部、開始剤(AIBN:2,2′−アゾビスイソブチロニトリル)0.5部の混合物を、滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下で加熱してメチルエチルケトンを留去し、共重合樹脂を得た。
イオン交換水450部に対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解した液に、上記共重合樹脂を溶解した。
イオン交換水で調整し、固形分が20%の疎水モノマーを重合成分として有する定着樹脂P−1の20質量%水溶液を得た。
【0173】
・定着樹脂P−2の合成
滴下ロート、還流管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えたフラスコに2−プロパノールを186部入れ、窒素バブリングしながら加熱還流した。そこへメタクリル酸メチル76部とアクリル酸2−エチルヘキシル13部、メタクリル酸11部の混合液に、開始剤(AIBN)0.5部を溶解させたモノマー溶液を滴下ロートより2時間かけて滴下した。滴下後さらに5時間加熱還流を続けた後に放冷し、減圧下で2−プロパノールを留去して共重合樹脂である水溶性樹脂P−2を得た。水溶性樹脂P−2の20部にイオン交換水67.8部、中和塩基としてN,N−ジメチルアミノエタノール12.2部を加え、70℃にて加熱攪拌して樹脂を溶解し、樹脂固形分が20%の水溶性樹脂P−2の水溶液を得た。なお、N,N−ジメチルアミノエタノールの量は、定着樹脂P−2の酸基の化学当量数に対して1.05倍の化学当量数相当となる量である。
【0174】
<顔料分散体の調製>
・シアン顔料分散体の調製
顔料分散剤としてフローレンTG−750W(固形分40%、エボニックデグサ社製)20部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの3部をイオン交換水62部に加えた。この溶液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が15%のシアン顔料分散体を得た。
【0175】
<シアンインクC-1の作製>
シアン顔料分散体を4.0質量%(固形分濃度)、定着樹脂P−1を5.0質量%(固形分濃度)、有機溶剤として、ΣSPが16.2MPa1/2である有機溶剤B1(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)を20.0質量%、ΣSPが17.6MPa1/2である有機溶剤B2(3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド)を5.0質量%、及び、ΣSPが18.6MPa1/2である有機溶剤C1(2−ピロリドン)を8.0質量%、界面活性剤としてBYK社製「BYKDYN800」を1.0質量%とに、イオン交換水を加えて100質量%として混合し、調製後、5μmフィルターにてろ過し、シアンインクC−1を得た。
【0176】
<インクジェットヘッドの駆動条件>
図1に示すシェアモードタイプの記録ヘッド(ノズル数256、AL:5.0μs)の各チャネルに得られたインクC−1を満たし、各チャネルを3群に分け、図7に示したように矩形波からなる微振動パルス信号を用いて3サイクルで各チャネルのメニスカスに順次微振動を与えた。
【0177】
微振動パルスのパルス幅、パルス間隔を表1のように様々に異ならせ、それぞれ3分間微振動を与えた際のヘッドの温度変化と、その後に図6に示すDRR波形で液滴を射出駆動した際の初速の変化を観測し、デキャップ(射出速度低下・ノズル詰まり)の改善効果を検証した。液滴の速度はKEYENCE社のデジタルマイクロスコープ「VH−100」を用いてストロボ同期により測定した。
【0178】
条件
印加電圧:射出パルス:Von=+16V、Voff=+8V
微振動パルス:Vs=+8V
【0179】
<評価方法>
(温度上昇)
微振動パルスを3分間印加した後にヘッドの温度変化を測定し、以下の基準により評価した。
◎:温度上昇が0.5℃未満
○:温度上昇が0.5℃以上、1℃未満
△:温度上昇が1℃以上、1.5℃未満
×:温度上昇が1.5℃以上
上記評価ランクにおいて、◎および○が実用上好ましいと判断した。
【0180】
(デキャップ特性)
微振動パルスを3分間印加した後に、DRR波形の射出パルスにより射出を行い、初発液滴の速度を測定した。同一条件で、リフレッシュ後間もなく射出した際の初発の液滴速度と速度の比較を行い、以下の基準により、初発液滴の速度低下率によって評価した。
◎:低下率10%未満
○:低下率10%以上、20%未満
△:低下率20%以上、50%未満
×:低下率50%以上
−:誤吐出により未評価
上記評価ランクにおいて、◎および○が実用上好ましいと判断した。
【0181】
<画像形成方法>
上記のインクジェットヘッド駆動条件において、下記の方法に従って画像形成し、画像の評価を行った。
【0182】
ノズル口径28μm、駆動周波数10kHz、ノズル数512、最小液滴量14pl、ノズル密度360dpi(本発明でいうdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す)であるピエゾ型ヘッドを4列搭載したオンデマンド型のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドに、シアンインクC−1を装填した。
【0183】
また、インクジェットプリンタには、接触式ヒーターによって記録媒体を裏面(ヘッドと対向する面とは反対の面)より任意に加温できるようにし、ヘッド格納ポジションにインク空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットを備え、任意の頻度でヘッドクリーニングができるようにした。
【0184】
次いで、記録媒体として溶剤インクジェットプリンタ用の軟質塩化ビニルシートであるMD5(メタマーク社製)に、印字解像度720dpi×720dpiで、10%Dutyから100%Dutyまでの条件で、10%Duty刻みで10cm×10cmの長方形ベタ画像を、片方向8Pass印字により各々印字した。
【0185】
また、記録媒体へのプリント中は、記録媒体を裏面から加温して画像記録時の記録媒体の表面温度が50℃になるようにヒーターで制御した。記録媒体の表面温度は非接触温度計(IT−530N形 堀場製作所社製)を用いて測定した。また、記録後すぐに60℃のホットプレート上に記録媒体を静置し、画像の乾燥をした。
【0186】
(記録画像の評価)
1.濃度ムラ耐性の評価
記録画像の100%Dutyベタ画像部分について、印字面の均一さ(インク付与部分の濃度ムラ)を目視観察し、下記の基準に従って濃度ムラ耐性の評価を行った。
◎:ベタ画像が均一でムラの発生は全く認められない
○:ベタ画像での濃度ムラは目立たないが、ベタ画像と未印字部との境界部で、極弱い濃淡ムラのある個所が散在する
△:ベタ画像部で濃淡ムラが認められ、均一なベタ画像として認められない
×:目視観察で、ハジキやまだらの発生が画像全般に認められmm単位の大きさの濃淡が多数発生しており、実用に耐えない画質である
上記評価ランクにおいて、◎および○が実用上好ましいと判断した。
【0187】
2.白抜け耐性の評価
記録画像の100%Dutyベタ画像部分について、目視観察により印字面の埋まり具合を判定し、下記の基準に従って白抜け耐性の評価を行った。
◎:ベタ画像全体が均一に埋まっており、白抜けの発生は認められない
○:ベタ画像中に極僅かに未印字部(白抜け部)の発生が認められるが、全体としては均一な画像である
△:ベタ画像中に筋状につながった白抜けが発生し、50cm以上離れてもスキャン方向の筋感が認められる
×:目視観察で、埋まらなかった部分による大きな白抜けが発生し、白い筋として認識され、実用に耐えない画質である
上記評価ランクにおいて、◎および○が実用上好ましいと判断した。
各評価の結果を表1に示す。
【0188】
【表1】

【0189】
<評価>
表1に示すように、微振動パルスのパルス間隔を偶数ALにすると、微振動の圧力波が強め合ってしまい、液滴の誤吐出が発生してしまう(実験No.7、9、11)。一方、パルス間隔を奇数ALにすると、圧力波はキャンセルされるため、デキャップ改善効果が低下してしまう(実験No.8、12)か、ある程度のデキャップ改善効果が見られたとしても、発熱が大きくなってしまう(実験No.10)。
【0190】
しかし、微振動パルスのパルス間隔を(n+0.5)×ALに設定した本発明(実験No.1〜6)では、圧力波の影響なく短い間隔のタイミングで微振動パルスを印加できるため、液滴を誤射出させることなくデキャップ改善効果を高めることが可能であり、しかも発熱もほとんど問題とならない。
【0191】
また、微振動パルスのパルス幅を2ALとした場合(実験No.13)、パルス間隔が(n+0.5)×ALを満たすように設定しても、目立ったデキャップ改善効果は得られず、しかも、発熱の問題も改善できなかった。
【0192】
さらに、温度上昇、デキャップ、誤発射が満たされない場合(実験No.7〜13)、得られる画像に濃度ムラや白抜けが発生し、所望の画像が得られなくなることがわかる。
【0193】
(実施例2)
<インクの作製>
実施例1のシアンインクC−1において、定着樹脂、有機溶剤を表2に記載の構成に変更すること以外は、実施例1のシアンインクC−1と同様にして、シアンインクC−2〜C−16を得た。
なお、表2に記載の有機溶剤A、B、CのΣSP値を表3に示す。
【0194】
【表2】

【0195】
【表3】

【0196】
<インクジェットヘッドの駆動条件>
シアンインクC−2〜C−16に対して、それぞれ表2に記載の微振動パルスのパルス幅、パルス間隔に変更してインクジェットヘッドを駆動した。
【0197】
実施例1と同様にして、温度上昇、デキャップ特性、及び、画像の濃度ムラ、白抜けを評価した結果を表4に示す。
【0198】
【表4】

【0199】
<評価>
表4に示すように、本発明に係るインクおよび微振動パルスを用いた実験では、温度上昇、デキャップ、誤発射が起こることなく射出が安定であり、得られる画像も濃度ムラや白抜けがなく高精細であった(実験No.14〜21)。
【0200】
一方、微振動パルスが本発明の範囲内であっても、ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下となる有機溶剤を含まないインクを用いた場合では、射出性は安定であるものの、濃度ムラや白抜けが顕著で使用に耐えない画像しか得られなかった(実験No.23)。逆に、インクが本発明の範囲内であっても、微振動パルスの条件が異なる場合は、射出性が不安定であるだけでなく、印字後の画像も濃度ムラや白抜けが発生してしまうことがわかる(実験No.22、24、26)。
【0201】
(実施例3)
<顔料分散体の調製>
・イエロー顔料分散体の調製
顔料分散剤としてEFKA−4585(固形分50%、BASF社製)10部と、1,2−ヘキサンジオールの10部をイオン交換水60部に加えた。この溶液に、Levascreen Yellow G01(Lanxess社製)の15部を添加し、プレミックスした後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が15%のイエロー顔料分散体を得た。
【0202】
・マゼンタ顔料分散体の調製
実施例1に記載のシアン顔料分散体の調製において、シアン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3に代えて、マゼンタ顔料としてPigment Red 122(大日精化社製、CFR−321)を用いた以外は同様にして、マゼンタ顔料分散体を調製した。
【0203】
・ブラック顔料分散体の調製
顔料分散剤としてEFKA−4585(固形分50%、BASF社製)10部と、1,2−ヘキサンジオールの10部をイオン交換水60部に加えた。この溶液に、Raven1000(コロンビアン社製)を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が15%のブラック顔料分散体を得た。
【0204】
<インクの調製>
・イエローインクY1〜Y9、マゼンタインクM1〜M9、ブラックインクK1〜K9の調製
実施例1に記載のシアンインクC1〜C9の調製において、シアン顔料分散体に代えて、上記調製されたイエロー顔料分散体、マゼンタ顔料分散体、又はブラック顔料分散体を、それぞれ用いた以外は同様にして、イエローインクY1〜Y9、マゼンタインクM1〜M9、ブラックインクK1〜K9を調製した。
【0205】
<インクセットの調製>
実施例1に記載のシアンインクC1〜C9、上記調製したイエローインクY1〜Y9、マゼンタインクM1〜M9、ブラックインクK1〜K9を、表5に記載の構成で組み合わせて、インクセット1〜13を調製した。
【0206】
上記インクセット1〜13のインクジェットヘッド駆動条件は、実施例1の実験1と同様の条件とし、下記の画像形成方法に従って、画像の評価を行った。
【0207】
<画像形成方法>
ノズル口径28μm、駆動周波数10kHz、ノズル数512、最小液滴量14pl、ノズル密度360dpi(本発明でいうdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す)であるピエゾ型ヘッドを4列搭載したオンデマンド型のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドに、各インクセットをそれぞれ装填した。
【0208】
また、インクジェットプリンタには、接触式ヒーターによって、下記の各記録媒体を裏面(ヘッドと対向する面とは反対の面)より任意に加温できるようにし、ヘッド格納ポジションにインク空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットを備え、任意の頻度でヘッドクリーニングができるようにした。
【0209】
次いで、下記の各記録媒体に印字解像度720dpi×720dpiで、10%Dutyから200%Dutyまでの条件で、10%Duty刻みで10cm×10cmの長方形ベタ画像を片方向8Pass印字により各々印字した。
【0210】
また、記録媒体へのプリント中は、下記の各記録媒体を裏面から加温して画像記録時の記録媒体の表面温度が50℃になるようにヒーターで制御した。記録媒体の表面温度は非接触温度計(IT−530N形 堀場製作所社製)を用いて測定した。また、記録後すぐに60℃のホットプレート上に記録媒体を静置し、画像の乾燥をした。
【0211】
尚、記録媒体としては、下記の各記録媒体を使用し、実施例1と同様の方法により、濃度ムラ耐性、白抜け耐性を各々評価した。
【0212】
・記録媒体
1)軟質塩化ビニルシート:MD5(メタマーク社製)
2)PET:ポリエチレンテレフタレートシート、白PET(マルウ接着社製)
3)ミラーコート紙:ミラーコートサテン金藤(王子製紙社製)
4)ブルーバック:ビルボードペーパー1372(きもと社製)
以上により得られた結果を、表5に示す。
【0213】
【表5】

【0214】
<評価>
表5に示すように、本発明に係る記録方法は、単色のみならず2色以上のインクを組み合わせて画像を形成する際も、効果が得られることがわかる。また、種々の低吸水性、非吸水性の基材に対して良質な画像を得ることができることがわかる。更に、得られたこれらの画像は、光沢や耐擦性にも優れることが確認された。
【0215】
[インクの粘度]
実施例1〜3で使用した各インクの粘度は、何れも、25℃において5〜15mPa・sの範囲に調整された。粘度は、ビスコメイトVM−1L、CBCマテリアルズ社製の振動式粘度計により、インク温度25℃において測定された値である。
【0216】
[インクの表面張力]
実施例1〜3で使用した各インクの表面張力は、何れも、25℃において20〜40mN/mの範囲に調整された。表面張力は、協和界面科学製の表面張力計CBVP−Zを使用して、白金プレート法により、インク温度25℃において測定された値である。
【符号の説明】
【0217】
1:インクジェット記録装置
2:記録ヘッド
21:インクチューブ
22:ノズル形成部材
23:ノズル
24:カバープレート
25:インク供給口
26:基板
27、24A、27B、27C:隔壁
27a、27b:圧電材料
28、28A、28B、28C:チャネル
29A、29B、29C:電極
3:搬送機構
31:搬送ローラ
32:搬送ローラ対
33:搬送モータ
4:ガイドレール
5:キャリッジ
6:フレキシケーブル
100:駆動信号発生部
P:記録媒体
PS:記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材、定着樹脂、水、及び、溶解パラメータの水素結合項と極性項の和ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下である有機溶剤を少なくとも1種含有するインクジェットインクを記録ヘッドのノズルから吐出する工程と、記録媒体に着弾させて画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドの記録動作待機時に、パルス幅が1AL、パルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成される微振動パルスを印加することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インクジェットインクは、前記溶解パラメータの水素結合項と極性項の和ΣSPが8MPa1/2以上18MPa1/2以下である有機溶剤を、前記インクジェットインクに対して5質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクジェットインク中の全ての有機溶剤の合計が、前記インクジェットインクに対して、5.0質量%以上40質量%以下含まれることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インクジェットインクの表面張力が、25℃において、30mN/m以上40mN/m以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記画像を形成する工程が、前記記録媒体に着弾した前記インクジェットインクの乾燥を促進させる工程を備え、該乾燥を促進させる工程が、該記録媒体を加熱する工程、又は、該記録媒体表面にファンによる送排風を行う工程の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
非画像領域において、前記記録ヘッドから前記インクジェットインクを吐出することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録ヘッドのノズルをクリーニングする工程を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記記録媒体は、非吸水性または低吸水性の記録媒体であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−56455(P2013−56455A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195510(P2011−195510)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】