説明

インクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、インクジェット記録用水性インク及び水性インクセット

【課題】発色性と耐光性と吐出耐久性に優れる着色記録画像が得られるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、インクジェット記録用水性インク及び同水性インクと多価金属塩溶液とからなる水性インクセットを提供する。
【解決手段】有機顔料(A)とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクにおいて、前記水性顔料分散体として、前記有機顔料(A)がジ置換キナクリドンからなる赤色顔料である水性顔料分散体と、前記有機顔料(A)がC.I.ピグメントレッド269である水性顔料分散体とを併用することを特徴とするインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インク。多価金属塩溶液と、前記インクジェット記録用水性インクとからなるインクジェット記録用水性インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性と耐光性と吐出耐久性に優れる着色記録画像が得られるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、インクジェット記録用水性インク及び同水性インクと多価金属塩溶液とからなる水性インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、家庭用からオフィス用、写真用、屋外用へと用途が拡大傾向にあり、それとともに印字物の耐候(光)性・保存性が重視されるようになっている。これまでインクジェット記録用着色剤として中心的存在であった染料では、耐光性という点では課題が多く、それに伴い、耐光性に優れた顔料によるインクジェット記録用水性インクの開発が進められている。
【0003】
インクジェット向けマゼンタ色水性インクに使用される顔料としては、例えばチオインジゴ系顔料、溶性アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、キナクリドン顔料等が使用されてきている。上記の中でも特に、きわめて優れた着色記録画像の耐光性を有するキナクリドン系顔料(C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド122等)は使用されることが多い。
【0004】
しかし、単独ではマゼンタ色としては青みが強過ぎ、また発色濃度が低い。色相については、それより黄味の赤色色材を混合することで調節し、マゼンタ色として使用されることが多い。その代表として二種以上のキナクリドン系顔料の固溶体顔料が挙げられる。
【0005】
この様なキナクリドン系固溶体顔料を用いたインクジェット記録用水性インクとしては、例えばC.I.ピグメントレッド122の様なジメチルキナクリドン顔料と無置換キナクリドン顔料との固溶体顔料を必須として含むインクジェット記録用水性インクが知られている(特許文献1)。しかしながら、キナクリドン系顔料の範囲内で二種以上を混合したり固溶化して用いただけでは、得られた水性インクからの着色記録画像の発色性は不充分である。
【0006】
一方、不溶性モノアゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド269を用いたインクジェット記録用水性インクがあり、着色記録画像の発色性が優れることが知られている(特許文献2)。しかしながら、この様な水性インクからの着色記録画像の耐光性は満足できるものとは言えない。
【0007】
このため、キナクリドン系顔料の異種混合物や固溶体顔料だけでなく、それらにキナクリドンとは異なる化学構造を有する赤色顔料を併用してインクジェット記録用水性インクを調製する試みが検討されている(特許文献3〜5)。
【0008】
しかしながら、これら異種顔料を併用してインクジェット記録用水性インクを調製しても、それから得られた着色記録画像の発色性や耐光性は、両者の顔料を単独で含有するインクジェット記録用水性インクから得られる着色記録画像の発色性や耐光性の単なる相加平均的な水準にしか達しないのが一般的であり、充分高い発色性や耐光性を有する着色記録画像は依然として得られていない。
【0009】
しかも、インクジェットプリンタにおける印字耐久試験において、印字物を多数枚得ようとした場合、目標の枚数に達する前にインクジェット記録用水性インクの吐出性能に問題が生じて、印字画像のかすれや抜けなどが生じるため、吐出耐久性が満足できるものではなかった。
【0010】
一方で、インクジェット記録用水性インクは、その定着速度と色相互のブリードを考慮して、被記録媒体に対する浸透性の高い物性を有したものが用いられている。そのため、被記録媒体内部にまでインクの顔料が浸透してしまい、表面に定着する顔料の量を十分確保することができず、高発色性の着色記録画像を得ることが困難であった。これに対しては、例えば、被記録媒体の表面に各種コート層を設け、顔料の浸透を抑え、発色性を高める検討がなされている。この様な各種コート層を有する被記録媒体は、例えば、インクジェット記録用専用紙として販売されている。一方で、インクの側からの対策としては、インク中の着色剤と反応する反応液を用いて、その着色剤を析出や凝集させて固液分離を行い、被記録媒体表面での定着量を増加させる方法が知られている。
【0011】
この様なインクの側からの対策として、顔料と、公知慣用のアニオン性基含有有機高分子化合物とを含有するインクジェット記録用水性インクと、多価金属塩溶液とからなるインクジェット記録用水性インクセット、同インクセットを使用してインクジェット記録方式で被記録媒体上に記録を行うインクジェット記録方法が知られている(特許文献6及び7)。
【0012】
しかしながら、インクジェット記録用水性インク自体の発色性、耐光性及び連続印刷を前提とした吐出耐久性が不満足なものである以上、それと多価金属塩溶液とからなるインクジェット記録用水性インクセットから着色画像を得たとしても、やはり発色性、耐光性及び連続印刷を前提とした吐出耐久性は不満足なものとなる。
【0013】
即ち、インクジェット記録用専用紙でない普通紙に、上記したような特許文献1〜5の様なマゼンタ色インクジェット記録用水性インクと多価金属塩溶液とからなるインクジェット記録用水性インクセットを用いて、特許文献6及び7に記載されている様な方法でインクジェット記録しても、連続印刷を前提とした吐出耐久性は不充分であり、着色記録画像においても、上記したインクセットでインクジェット記録したマゼンタ色記録画像の発色性や耐光性は、やはり依然として不充分であった。
【0014】
【特許文献1】特開平11−49998号公報
【特許文献2】特開2000−186241公報
【特許文献3】特開2000−181144公報
【特許文献4】特開2001−2962公報
【特許文献5】特開2003−292812公報
【特許文献6】特開平3−240557号公報
【特許文献7】特開平5−202328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、連続印刷を前提とした吐出耐久性により優れ、かつ普通紙にインクジェット記録した際に発色性や耐光性に優れる着色記録画像が得られるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、インクジェット記録用水性インク及び同水性インクと多価金属塩溶液とからなる水性インクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記実状に鑑みて鋭意検討した結果、インクジェット記録用水性インクに含めるマゼンタ色有機顔料として、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とC.I.ピグメントレッド269とを顔料として併用するのではなくて、水性顔料分散体として併用することで、両者の相乗効果により、連続印刷を前提とした吐出耐久性により優れ、普通紙上で発色性や耐光性にも優れた着色記録画像が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち本発明は、有機顔料(A)とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体において、前記水性顔料分散体として、前記有機顔料(A)がジ置換キナクリドンからなる赤色顔料である水性顔料分散体と、前記有機顔料(A)がC.I.ピグメントレッド269である水性顔料分散体とを併用することを特徴とするインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体を提供する。
【0018】
また本発明は、上記水性顔料分散体を少なくとも液媒体で希釈して得たインクジェット記録用水性インクを提供する。
【0019】
さらに本発明は、多価金属塩溶液と、上記したインクジェット記録用水性インクとからなるインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料単独から調製した水性顔料分散体と、C.I.ピグメントレッド269単独から調製した水性顔料分散体とを併用するので、予めこれらの顔料を混合して得た顔料混合物から調整した水性顔料分散体を用いて調製した水性顔料分散体を用いたのでは奏し得ない、連続印刷を前提とした吐出耐久性を達成できると共に、着色記録画像の発色性や耐光性も良好なインクジェット記録用水性インクを調製することができるという格別顕著な技術的効果を奏する。
本発明のインクジェット記録用水性インクは、上記した水性顔料分散体を用いて調製されたものなので、連続印刷を前提とした吐出耐久性に優れ、発色性や耐光性にも優れた良好な着色記録画像が得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
また、この優れた着色記録画像の発色性や耐光性は、上記したインクジェット記録用水性インクのみを用いて得た着色記録画像だけでなく、それと多価金属塩溶液とを組み合わせたインクジェット記録用水性インクセットでも同様に奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明は、有機顔料(A)とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体において、前記水性顔料分散体として、前記有機顔料(A)がジ置換キナクリドンからなる赤色顔料である水性顔料分散体と、前記有機顔料(A)がC.I.ピグメントレッド269である水性顔料分散体とを併用することを特徴とするインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体である。
本発明の水性顔料分散体の調製に用いる、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、C.I.ピグメントレッド269とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、或いは前記各水性顔料分散体を併用した本発明におけるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、いずれも単に本発明の水性顔料分散体と称する場合がある。
【0022】
本発明においては、有機顔料(A)として、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とC.I.ピグメントレッド269とを用いることを特徴とする。ここで、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とは、無置換キナクリドンの置換可能なベンゼン環上の二つの水素原子が、水素以外の原子団により置換された化学構造を有するキナクリドン顔料である。二つの置換基としては、例えば、メチル基、メトキシ基、塩素原子等が挙げられる。典型的なジ置換キナクリドンからなる赤色顔料としては、例えば2,9−ジメチルキナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド122)、2,9−ジクロロキナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド202)が挙げられる。勿論、この赤色顔料には、ジ置換キナクリドンが必須成分として含まれる固溶体顔料、例えば無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドンとを前者を質量比率にて多く含むキナクリドン固溶体顔料も含まれる。
【0023】
この様なジ置換キナクリドンからなる赤色顔料としては、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、前二者のうち少なくとも一方を化学構造中に含むキナクリドン固溶体顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の赤色顔料が、着色記録画像の耐光性に優れる点で好ましい。ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド122が、C.I.ピグメントレッド202を化学構造中に含むキナクリドン固溶体顔料に比べて、C.I.ピグメントレッド269との組み合わせで、後記する多価金属塩水溶液との組み合わせからなるインクジェット記録用インクセットにおける2液印字物での発色性において、より相乗効果が高い。
【0024】
一方、C.I.ピグメントレッド269は、不溶性モノアゾ赤色顔料である。C.I.ピグメントレッド269以外にも不溶性モノアゾ赤色顔料は、各種知られているが、色相や上記ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料との組み合わせにおいて、耐光性等の相乗効果が認められるのは、C.I.ピグメントレッド269のみである。
【0025】
ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料も、C.I.ピグメントレッド269も、インクジェット記録用水性インクの調製に適した、いずれも平均一次粒子径で見たとき微細なものを用いるのが、インクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体ひいては、インクジェット記録用水性インクの調製には好ましい。また、これらは、変異原性のある原料、カルシウムなどの各種金属塩、その他有機不純物、副生物等を出来るだけ含まないものを用いることが、安全性や吐出性の観点からも好ましい。
【0026】
本発明では、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体と、C.I.ピグメントレッド269とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体とが併用される。そして、本発明のインクジェット記録用水性インクは、これら各水性顔料分散体の混合物から調製される。
【0027】
ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とC.I.ピグメントレッド269とから予め両者が混合された顔料組成物を調製してから、この顔料組成物とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有させることでインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体を得ることも便宜上は可能であるが、この様にして得られた水性顔料分散体は、粗粒がかなり残ってしまう。そのため、本発明の様に、それぞれの顔料を別個に用いて調製した水性顔料分散体を併用する様にしないと、本発明でいう様な上記した優れた効果は奏し得ない。
【0028】
本発明者等は、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料と、C.I.ピグメントレッド269とは、化学構造、結晶構造、平均粒子径、粒度分布、硬度等の顔料自体の性質が相違する上、水性顔料分散体を調製する際に用いられるアニオン性基含有有機高分子化合物(B)や水性媒体(C)との親和性もこれら顔料毎に相違するため、これら顔料を予め混合してから水性顔料分散体を調製しようとすると、これらの顔料が本来有する優れた性質を有効に活かすことが出来ないことを知見した。これは、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料の性質を最大限に活かすための分散条件と、C.I.ピグメントレッド269の性質を最大限に活かすための分散条件とが異なっており、これら分散条件に重複した領域が存在しない結果、一つの分散条件では、どちらの顔料にとっても不満足な性質しか引き出せなかったことに起因すると、本発明者等は推察している。
【0029】
各水性顔料分散体を併用する際の混合比率は特に制限されるものではないが、顔料自体の比率で表現すると、例えば、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料/C.I.ピグメントレッド269(質量比)=90/10〜20/80とすることが、両者顔料を併用した場合の、連続印刷を前提とした吐出耐久性に優れ、着色記録画像の発色性と耐光性も良好であり、なかでも優れた発色性および耐光性を発現する範囲として85/15〜45/55とすることがより好ましい。さらにはきわめて優れた発色性および耐光性を発現する範囲として、75/25〜60/40とすることがさらにより好ましい。
【0030】
ただし、ここでいう「優れた発色性および耐光性」とは、2液印字物のO.D.が1.30以上でかつ、ΔEが25.0未満であり、「きわめて優れた発色性および耐光性」とは、2液印字物のO.D.が1.40以上でかつ、ΔEが10.0未満であることとする。
【0031】
ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、C.I.ピグメントレッド269とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体には、それぞれの水性顔料分散体の優れた効果を減殺しない範囲において、必要に応じてその他の有機顔料を含めることができる。
【0032】
本発明におけるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、前記有機顔料(A)と、アニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを必須成分として水性媒体(C)中に含有させることで調製することが出来る。
【0033】
アニオン性基含有有機高分子化合物(B)としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基を含有する有機高分子化合物が挙げられる。この様なアニオン性基含有有機高分子化合物としては、その調製や単量体品種の豊富さ入手し易さから、例えば、(メタ)アクリル酸とそれと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が挙げられる。尚、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸との総称を意味するものとする。(メタ)アクリル酸の各種エステルの場合も前記と同様に解釈される。
【0034】
(メタ)アクリル酸に併用可能な、その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、クロロスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニルプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールモノ(メタ)アクリレート等のモノエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0035】
共重合体としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられる。この共重合体は、酸価40〜220mgKOH/g、中でもより水に分散させた際の分散性や分散安定性及び印字の光沢性により優れる点で、酸価90〜200mgKOH/gにあることが好ましい。ここで酸価とは、共重合体の不揮発分1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を言う。理論酸価は、用いた(メタ)アクリル酸とその使用量に基づいて算術的に求めることも出来る。酸価が低すぎる場合には顔料分散や保存安定性が低下し、また後記するインクジェット記録用水性インクを調製した場合に、印字安定性が悪くなるので好ましくない。酸価が高すぎる場合には、着色記録画像の耐水性が低下するのでやはり好ましくない。共重合体を該酸価の範囲内とするには、(メタ)アクリル酸を、前記酸価の範囲内となる様に含めて共重合すれば良い。
【0036】
同一酸価対比においてより共重合体の疎水性を高め、共重合体の顔料表面への吸着がより強固と出来る点で、前記したその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニルプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のベンゼン環を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いることが好ましく、中でも、スチレン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン等のスチレン系単量体を用いることが特に好ましい。
【0037】
本発明における共重合体は、(メタ)アクリル酸の重合単位とその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体の重合単位を必須の重合単位として含有する共重合体であれば良く、それらの二元共重合体であっても更にその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との三元以上の多元共重合体であっても良い。
【0038】
本発明で用いる共重合体は、モノエチレン性不飽和単量体の重合単位のみの線状(リニアー)共重合体であっても、各種の架橋性を有するエチレン性不飽和単量体を極少量共重合させ、一部架橋した部分を含有する共重合体であっても良い。
【0039】
この様な架橋性を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートや、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0040】
本発明における共重合体の分子量としては特に制限されないが、例えば、皮膜形成性の観点から、重量平均分子量5,000〜1,000,000、中でも、低粘度で取り扱いが容易な点で、5,000〜20,000であることが好ましい。
【0041】
本発明においては、用いる各単量体の反応率等は略同一と考えて、各単量体の仕込割合を、各単量体の重合単位の質量換算の含有割合と見なすものとする。本発明における共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤及び消泡剤を併用することも出来る。
【0042】
実質的に線状(リニアー)の共重合体(b)は、熱履歴のかからないピエゾ方式ノズルのインクジェット記録装置用の水性インクの調製に好適であり、一方、架橋した部分を含有する共重合体(b)は、熱履歴のかかるサーマル方式ノズルのインクジェット記録装置用の水性インクの調製に好適である。
【0043】
共重合体が高酸価である場合や高い分散性が要求されない場合には、敢えて共重合体それだけを用いれば良いが、そうでない場合には、通常、共重合体に含まれるアニオン性基を、塩基性物物質で中和することで、より分散性に優れたインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体やインクジェット記録用水性インクを調製することができる。
【0044】
共重合体を中和する塩基性物質としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアの様な無機塩基性物質や、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性物質を用いることが出来る。共重合体に含まれるアニオン性基の量に応じて、塩基性物物質に使用量は適宜調整することができる。アニオン性基の量が少ない共重合体の場合、そのアニオン性基の全てが中和される量或いはアニオン性基の量を越えて過剰となる量を用いて中和するようにしても良いし、アニオン性基の量が多い共重合体の場合、そのアニオン性基の一部を中和するようにしても良い。
【0045】
本発明における水性媒体は、水を必須成分かつ主成分として含む液媒体である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等、pH6.5〜7.5かつ遊離イオンを含有しない水が好ましい。
【0046】
本発明の水性顔料分散体の調製に用いる、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、C.I.ピグメントレッド269とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体、或いは前記各水性顔料分散体を併用した本発明におけるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、質量基準で、前記アニオン性基含有有機高分子化合物(B)不揮発分/有機顔料(A)は、0.2を越えて〜2.0以下であることが好ましく、中でも0.2を越えて〜1.0以下であることがより好ましく、特に0.20を越えて〜0.65以下であることが最も好ましい。この比率が低すぎる場合には、着色記録画像の耐擦過性と水性インク自体の分散安定性が低下し、逆に高すぎる場合には水性インクの粘度が高くなり、その吐出安定性が損なわれる傾向があり好ましくない。共重合体(B)合計不揮発分/有機顔料(A)は、0.2以下では分散安定性が不充分となりやすいので好ましくない。
【0047】
本発明におけるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、公知慣用の方法に従って調製することが出来るが、有機顔料(A)と、アニオン性基含有有機高分子化合物(B)と、水とを必須成分として混合することで調製することが出来る。この混合においては、既に公知の種々の方式による装置がいずれも使用出来る。
【0048】
本発明におけるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体や後記するインクジェット記録用水性インクには、更に、上で詳述した共重合体以外の公知慣用の、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはその水溶液や水分散液を含めることも出来る。本発明においてポリウレタンとは、ウレタン結合のみを含有するものだけでなく、更に尿素結合を含有するものを包含する。アニオン性基を含有するポリウレタン樹脂は着色記録画像の耐擦過性の向上に好適である。この様なアニオン性基を含有するポリウレタン樹脂としては、例えば、カルボキシル基含有ポリエステルウレタン、カルボキシル基含有ポリエステルウレタン、カルボキシル基含有ポリエーテルエステルウレタン等を挙げることができるが、なかでも耐加水分解性に優れる点で、エステル結合が存在しないカルボキシル基ポリエーテルエステルウレタンや、エステル結合がエーテル結合より少ないカルボキシル基含有ポリエーテルエステルウレタンを用いることが好ましい。これらのアニオン性基の中和には、前記した塩基性物質を同様に用いることができる。
【0049】
本発明におけるインクジェット記録用水性インクは、たとえば上記した様にして得られた顔料濃度やアニオン性基含有有機高分子化合物の不揮発分濃度がより高い水性顔料分散体と、インクジェット記録用水性顔料インクの技術分野で公知慣用となっている各種添加剤、液媒体とを混合し、希釈することにより調製出来る。また本発明におけるインクジェット記録用水性インクは、前記した様な顔料濃度やアニオン性基含有有機高分子化合物の不揮発分濃度がより高い水性顔料分散体を経由せず、直接、有機顔料(A)と、アニオン性基含有有機高分子化合物(B)と、水とを必須成分として、これらと、インクジェット記録用水性顔料インクの技術分野で公知慣用となっている各種添加剤、液媒体とを混合することにより調製出来る。
【0050】
具体的には、質量基準で、有機顔料(A)固形分1〜10%となる様に水や、水溶性有機溶剤の様なその他の液媒体、湿潤剤、防かび剤、pH調節剤等の各種添加剤を併用することで、水性インクとすることが出来る。また、得られた水性インクは、必要に応じて、超遠心分離やミクロフィルターによる濾過を行うことにより、粗大粒子や過小粒子の除去、分散粒子の粒子径分布の調整が出来、ノズル目詰まり等を極めて少なくすることが出来る。
【0051】
アニオン性基含有有機高分子化合物(B)として、(メタ)アクリル酸とそれと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体と、アニオン性基を含有するポリウレタン樹脂とを併用する場合には、例えば、前記共重合体と前記ポリウレタン樹脂をそれぞれ別個に用いて水性顔料分散体や水性インクを調製して、それらから最終的な水性インクを調製するという調製方法もあり得る。有機顔料(A)がアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆されたマイクロカプセル化顔料の水性顔料分散体は、上記した様な原料を用いて、例えば、事前に、以下の公知慣用の転相乳化法や酸析法にて調製することができる。
【0052】
転相乳化法とは、特許第3301082号に記載されている方法であり、有機顔料を樹脂に包含してなる微小カプセルを製造するに当たって、カルボキシル基含有有機高分子化合物と、有機顔料と、有機溶剤との混合体を有機相とし、塩基性化合物を溶解させた水性媒体中に該有機相を投入するか、あるいは、該有機相に塩基性化合物を混合した後、水を投入するかして、カルボキシル基を中和させて、自己分散化させることにより、有機顔料を芯材とする一方、カルボキシル基含有有機高分子化合物を壁材とする、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料を形成せしめ、水媒体中への微粒子化及びカプセル壁形成を同時に行なうことを特徴とする、有機顔料をカルボキシル基含有有機高分子化合物で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性顔料分散体の製造方法である。
【0053】
酸析法とは、特許第3829370号に記載されている方法であり、カルボキシル性基含有有機高分子化合物のカルボキシル基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、塩酸の如き酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてカルボキシル基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてカルボキシル基の一部又はすべてを中和させることによる、有機顔料をカルボキシル性基含有有機高分子化合物で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性顔料分散体の製造方法である。
【0054】
転相乳化法と酸析法とを比較した場合、得られる水性顔料分散体中に含まれる金属成分をより低減し易い点で酸析法の方が好ましい。この金属分の含有量は、インクジェットプリンターの吐出性に大きな影響を及ぼし、特にサーマル式吐出を行なうノズルを有するプリンターには、それが出来るだけ小さい水性インクを用いることが好ましい。
【0055】
有機顔料をカルボキシル基含有有機高分子化合物で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性顔料分散体の製造方法では、前記ポリウレタン樹脂よりも前記共重合体を用いて有機顔料をマイクロカプセル化して水性媒体に分散させる方が、有機顔料(A)のより高い分散安定性を確保できる上、その安定性を保持しつつ、より高い着色記録画像の耐擦過性を得ることができる。
【0056】
この際、前記ポリウレタン樹脂は、共重合体を用いて有機顔料(A)を分散させて得たインクジェット記録用水性顔料分散体や水性インクの平均分散粒子径よりも小さい、有機顔料(A)を含まない前記ポリウレタン樹脂の水分散液を、水性顔料分散体や水性インクに含有させるのが最終的に得られる水性顔料分散体や水性インクの分散安定性の点からも好ましい。
【0057】
こうして本発明者らは、予め有機顔料(A)と、前記共重合体と、水とを必須成分として、インクジェット記録用水性顔料分散体や水性インクを調製してから、それに有機顔料(A)を含まないより微細な粒子の前記ポリウレタン樹脂の水分散液を加えて、最終的なインクジェット記録用水性顔料分散体や水性インクを調製することが好ましいことを知見した。
【0058】
このように、アニオン性基含有有機高分子化合物(B)として、上記した(メタ)アクリル酸とそれと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体と、アニオン性基を含有するポリウレタン樹脂とを併用する場合には、不揮発分の質量換算で、前者/後者=95/5〜5/95となる様に用いることが、着色記録画像の耐擦過性と水性インク自体の分散安定性を兼備できる点で好ましい。尚、本発明におけるインクジェット記録用水性インクにおける、質量基準での、前記アニオン性基含有有機高分子化合物(B)不揮発分/有機顔料(A)は、上記した範囲とするのが好ましい。
【0059】
本発明のインクジェット記録用水性インクでは、本発明の水性顔料分散体に起因して、連続印刷を前提とした吐出耐久性に優れ、かつ着色記録画像に優れた発色性と耐光性が認められる。
【0060】
こうして得られた、本発明のインクジェット記録用水性インクは、公知慣用の条件の印字により、任意の着色記録画像を得ることができる。また本発明の水性インクは、有機顔料(A)として、C.I.ピグメントイエロー74のような公知慣用のイエロー色有機顔料を用いて同様に得たイエロー色水性インクや、C.I.ピグメントブルー15:3のような公知慣用のシアン色有機顔料を用いて同様に得たシアン色水性インク、カーボンブラックのような公知慣用のブラック色顔料を用いて同様に得たブラック色水性インクと組み合わせて、任意のYMCKのフルカラー着色記録画像を得ることができる。
【0061】
一方、本発明のインクジェット記録用水性インクは、多価金属塩溶液と組み合わせることで、より発色性に優れた任意の着色記録画像を得ることができる。これが、本発明における多価金属塩溶液と、上記インクジェット記録用水性インクとからなるインクジェット記録用水性インクセットである。このインクセットでの印字方式は、以下、PgR方式という。
【0062】
本発明のインクセットは、前記した水性インクと多価金属塩溶液とからなる。この多価金属塩溶液は、多価金属塩が液媒体に溶解した溶液である。
【0063】
この多価金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、CaCl、Ca(NO、CaI、CaBr、Ca(ClO、Ca(C、Ca(C、CuCl、Cu(NO、CuBr、Cu(ClO、Cu(C、NiCl、Ni(NO、NiI、NiBr、Ni(C、MgCl、Mg(NO、MgI、MgBr、Mg(ClO、Mg(C、ZnCl、Zn(NO、ZnI、ZnBr、Zn(ClO、Zn(C、BaCl、BaI、BaBr、Ba(ClO、Ba(C、Al(NO、Cr(NO、Cr(C、FeCl、Fe(NO、FeI、FeBr等が挙げられる。多価金属塩としては、液媒体に溶解させた際の溶液色が無色か淡色であるものを用いることが好ましい。多価金属塩としては、同一質量%濃度の溶液の同一定着量対比では、Ca塩よりもMg塩の方がより高い発色性を得やすいので、好ましい。
【0064】
本発明における多価金属塩溶液は、その多価金属塩の含有量が質量換算で0.5〜20%の範囲にあることが好ましく、なかでも1〜10%の範囲にあることがより好ましい。この範囲であると、発色性等の画質面での改善効果が認められ、保存安定性や吐出安定性の低下、記録ヘッドの構成部品の腐食等を招く恐れも少ないことから好ましい。
【0065】
多価金属塩溶液は、例えば、所定の水溶性の多価金属塩を水、温水、水系の液媒体等に溶解することにより、調製することができる。水系の液媒体として、水及び水溶性有機溶剤からなる混合溶媒を使用することができる。
【0066】
本発明では、水性インク中のアニオン性基含有有機高分子化合物のアニオン性基と、多価金属塩溶液中の多価金属イオンとの反応を利用することで、普通紙における着色記録画像の定着性や発色性を向上させる。この様な観点からも、水としては、水性インクの調製時と同様の水を使用することが好ましい。
【0067】
本発明における多価金属塩溶液には、必要に応じて、前記した水性インクの調製に使用することが出来る公知慣用の添加剤を適宜含有させることが出来る。有機顔料(A)とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)に代えて必要量の多価金属塩を用いて、水性インクを調製する要領で、多価金属塩溶液を調製することも出来る。水性インクと多価金属塩溶液に、共通の液媒体や添加剤等を含有させる様にすることも出来る。
【0068】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、多価金属塩溶液の表面張力が前記水性インク(X)の表面張力の平均値よりも大きくなる様に両者を調製することが、本発明の効果をより大きく引き出すことが出来るので好ましい。
【0069】
本発明で使用する水性インクと多価金属塩溶液とは、いずれもインクジェット記録に用いられる。従って、これらは、いずれもインクジェット記録装置のノズル方式に応じて吐出させることが可能な適切な粘度となる様に調製することが好ましい。
【0070】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、1色のマゼンタ色水性インクと多価金属塩溶液とからなるものであっても良いし、YMCKの4色の各水性インクと多価金属塩溶液とからなるものであっても良いし、前記したYMCKの各水性インクとそれ以外の色の水性インクからなる5色〜7色の各水性インクと多価金属塩溶液とからなるものであっても良い。
【0071】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とC.I.ピグメントレッド269とを含有する1色の水性インクと多価金属塩溶液とからなるものである場合、この水性インクを含むYMCKの4色の各水性インクと多価金属塩溶液とからなるものである場合、これらのうち少なくとも一つの色の水性インクを含む前記したYMCKの各水性インクとそれ以外の色の水性インクからなる5色〜7色の各水性インクと多価金属塩溶液とからなるものである場合が、本発明の効果が最も顕著に現れる点で好ましい。
【0072】
本発明は、前記した水性インクと多価金属塩溶液とを各々インクジェット記録方式で被記録媒体上に付与することで、インクジェット記録を行うことが出来る。こうすることで被記録媒体上に着色記録画像が記録された記録物が得られる。
【0073】
水性インクと、多価金属塩溶液とを各々インクジェット記録方式で被記録媒体上に付与するインクジェット記録方法は、特に限定されるものではないが、例えば、水性インクと多価金属塩溶液とを同時に吐出させ被記録媒体に到達する前にそれらを混合(接触)して、これらの混合物を被記録媒体上に定着させる方法や、多価金属塩溶液を吐出させ被記録媒体上に定着させた後、この上に水性インクを吐出させて定着させる方法等が挙げられる。なかでも、インクジェット記録時間を短縮出来る上、着色記録画像の発色性をより高められる点で、前者の方法を選択するのが好ましい。
【0074】
また、前記した後者の方法において、多価金属塩溶液を吐出させてから水性インクを吐出するまでの時間については、吐出量や被記録媒体の種類等により変わってはくるが、5ms〜60秒であることが好ましく、50ms〜500msであることがより好ましい(msは1/1000秒を意味する)。このタイムラグが5msより短いと、先に吐出された多価金属塩溶液の液滴が被記録媒体内部に浸透する前に、水性インクの液滴と接触する場合が出てくるため、それらが被記録媒体上に溢れて画質や乾燥性に悪影響を及ぼす恐れがある。逆に、タイムラグが60秒を超えると、多価金属塩溶液の液滴が被記録媒体内部に完全に浸透した後に水性インクの液滴が接触することになるため、所望する画質の向上効果が得られなくなる恐れがある。
【0075】
尚、多価金属塩溶液は、被記録媒体の全面に均一な付与量で定着させてもよく、水性インクを定着させる箇所にのみ選択的に定着させてもよい。
【0076】
多価金属塩溶液と水性インクとを、接触反応させて凝集膜を形成させるためには、着色記録画像を形成する水性インクの液滴中の燐酸基絶対量と多価金属塩溶液の液滴中の多価金属イオン絶対量とが少なくとも等量となる様に、両者をインクジェット記録方式で、被記録媒体上に付与することが好ましい。
【0077】
本発明において被記録媒体上にインクジェット記録を行うことで、着色記録画像が被記録媒体上に形成された記録物を得ることが出来る。
【0078】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、公知慣用の被記録媒体へのインクジェット記録方法に使用することが出来る。この際の被記録媒体としては、例えば、PPC紙の様な普通紙、写真用紙(光沢)、写真用紙(絹目調)等の様なインクジェット記録用専用紙、OHPフィルムの様な合成樹脂フィルム、アルミニウム箔の様な金属箔等の各種フィルム・シートが挙げられる。なかでも本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、普通紙における着色記録画像の発色性の向上に効果的である。針葉樹パルプを原料とした太い繊維を抄紙した普通紙が、この発色性の改良効果が最も大きい。
【0079】
この様なことから、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、例えば、被記録媒体としての普通紙へのインクジェット記録においては、水性インクと多価金属塩溶液とを用いて着色記録画像を形成し、一方で、被記録媒体としての専用紙へのインクジェット記録においては、水性インクだけを用いて着色記録画像を形成する様にすることで、安価である普通紙における着色記録画像の発色水準を、専用紙のそれに近づけることが出来る。
【0080】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットでは、連続印刷を前提とした吐出耐久性に優れ、かつ着色記録画像を優れた発色性と耐光性にすることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実験例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実験例および比較例において、「部」および「%」は、いずれも質量基準である。
【0082】
(分散樹脂の合成)
<水溶性分散樹脂R1>
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン(MEK)600部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ベンジル82部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル38部、メタクリル酸115部、スチレン250部、メタクリル酸グリシジル15部、チオグリセロール20部および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)40部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させた後、MEKの一部を減圧留去し、不揮発分を50%に調整し、酸価150の分散樹脂R1を得た。
【0083】
(水性顔料分散体の調製)
<単一顔料の水性顔料分散体A1>
ファーストゲンスーパーマゼンタ1022
(C.I.ピグメントレッド269、DIC製) 390.00部
水溶性分散樹脂R1 361.45部
25%水酸化カリウム水溶液 96.83部
イオン交換水 971.73部
以上を混合し、得られた混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式(分散装置より出た分散液を混合槽に戻す方式)により分散した。分散工程中は、冷却用ジャケットに冷水を通して分散液温度を30℃以下に保つよう制御した。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水2,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。
ガラス製蒸留装置に希釈分散液を入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去した。室温まで放冷後、攪拌しながら2%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ウェットケーキを容器に採り、25%水酸化カリウム水溶液を加えてpH9.5に調製し、ディスパー(TKホモディスパー20型、特殊機化工業(株)製)にて再分散した。その後、遠心分離工程(6000G、30分間)を経て、さらにイオン交換水を加え不揮発分20%の水性顔料分散体A1を得た。この水性顔料分散体は、C.I.ピグメントレッド269がスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体で被覆されたマイクロカプセル化顔料を含む水性顔料分散体であった。
【0084】
<単一顔料の水性顔料分散体A2>
顔料をCROMOPHTAL Jet Magenta DMQ(C.I.ピグメントレッド122、Ciba製)に変えた以外は、単一顔料分散体A1と同じ方法で水性顔料分散体A2を得た。この水性顔料分散体は、C.I.ピグメントレッド122がスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体で被覆されたマイクロカプセル化顔料を含む水性顔料分散体であった。
【0085】
<ブレンド水性顔料分散体A3〜A6>
単一顔料の水性顔料分散体A1およびA2を、A1/A2(混合質量比)が12.5%/87.5%、25.0%/75.0%、50.0%/50.0%、75.0%/25.0%、となるように混合した不揮発分20%のブレンド水性顔料分散体A3、A4、A5、A6をそれぞれ得た。
【0086】
<単一顔料の水性顔料分散体A7>
顔料を228−2120(C.I.ピグメントバイレット19とC.I.ピグメントレッド209の固溶体顔料、サンケミカル社製)に変えた以外は、単一顔料の水性顔料分散体A1と同じ方法で単一顔料の水性顔料分散体A7を得た。この水性顔料分散体は、前記キナクリドン固溶体顔料がスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体で被覆されたマイクロカプセル化顔料を含む水性顔料分散体であった。
【0087】
<ブレンド水性顔料分散体A8〜A11>
単一顔料の水性顔料分散体A1およびA7を、A1/A7(混合質量比)が12.5%/87.5%、25.0%/75.0%、50.0%/50.0%、75.0%/25.0%となるように混合した不揮発分20%のブレンド水性顔料分散体A8、A9、A10、A11をそれぞれ得た。
【0088】
<ブレンド顔料の水性顔料分散体A12>
顔料を、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022(C.I.ピグメントレッド269、DIC製)およびCROMOPHTAL Jet Magenta DMQ(C.I.ピグメントレッド122、Ciba製)をあらかじめ質量混合比25.0%/75.0%で混合したものを使用した以外は、単一顔料分散体A1と同じ方法で水性顔料分散体A12を得た。この水性顔料分散体は、C.I.ピグメントレッド122およびC.I.ピグメントレッド269がスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体で被覆されたマイクロカプセル化顔料を含む水性顔料分散体であった。
【0089】
<ブレンド顔料の水性顔料分散体A13>
顔料を、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022(C.I.ピグメントレッド269、DIC製)および228−2120(C.I.ピグメントバイレット19とC.I.ピグメントレッド209の固溶体顔料、サンケミカル社製)をあらかじめ質量混合比25.0%/75.0%で混合したものを使用した以外は、単一顔料分散体A1と同じ方法で水性顔料分散体A13を得た。この水性顔料分散体は、キナクリドン固溶体顔料およびC.I.ピグメントレッド269がスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体で被覆されたマイクロカプセル化顔料を含む水性顔料分散体であった。
【0090】
<実験例1>
単一顔料の水性顔料分散体A1を用いて、含有顔料比がファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=100:0となるインクジェット記録用水性インクa1を調製した。インク組成を以下に示す。調製した水性インクa1を用いて、各物性値を測定した。
(インク組成)
水性顔料分散体A1 顔料換算で3.0部になる量
グリセリン 10.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
2−ピロリドン 5.0部
サ―フィノール465(エアプロダクツ社製) 0.5部
イオン交換水 残部
【0091】
<実験例2>
単一顔料の水性顔料分散体A2を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=0:100(%)となるインクジェット記録用水性インクa2を調製した。調製した水性インクa2を用いて、各物性値を測定した。
【0092】
<実験例3>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A3を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=12.5:87.5(%)となるインクジェット記録用水性インクa3を調製した。調製した水性インクa3を用いて、各物性値を測定した。
【0093】
<実験例4>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A4を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=25.0:75.0(%)となるインクジェット記録用水性インクa4を調製した。調製した水性インクa4を用いて、各物性値を測定した。
【0094】
<実験例5>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A5を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=50.0:50.0(%)となるインクジェット記録用水性インクa5を調製した。調製した水性インクa5を用いて、各物性値を測定した。
【0095】
<実験例6>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A6を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=75.0:25.0(%)となるインクジェット記録用水性インクa6を調製した。調製した水性インクa6を用いて、各物性値を測定した。
【0096】
<比較例1>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa2の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=12.5:87.5(%)での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×12.5%+<a2>×87.5%
【0097】
<比較例2>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa2の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=25.0%:75.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×25.0%+<a2>×75.0%
【0098】
<比較例3>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa2の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=50.0%:50.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×50.0%+<a2>×50.0%
【0099】
<比較例4>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa2の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=75.0%:25.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×75.0%+<a2>×25.0%
【0100】
<実験例7>
単一顔料の水性顔料分散体A7を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=0%:100%となるインクジェット記録用単一顔料の水性インクa7を調製した。調製した水性インクa7を用いて、各物性値を測定した。
【0101】
<実験例8>
ブレンド水性顔料分散体A8を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=12.5%:87.5%となるインクジェット記録用ブレンド水性顔料分散体の水性インクa8を調製した。調製した水性インクa8を用いて、各物性値を測定した。
【0102】
<実験例9>
ブレンド水性顔料分散体A9を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=25.0%:75.0%となるインクジェット記録用ブレンド水性顔料分散体の水性インクa9を調製した。調製した水性インクa9を用いて、各物性値を測定した。
【0103】
<実験例10>
ブレンド水性顔料分散体A10を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=50.0%:50.0%となるインクジェット記録用ブレンド水性顔料分散体の水性インクa10を調製した。調製した水性インクa10を用いて、各物性値を測定した。
【0104】
<実験例11>
ブレンド水性顔料分散体A11を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=75.0%:25.0%となるインクジェット記録用ブレンド水性顔料分散体の水性インクa11を調製した。調製した水性インクa11を用いて、各物性値を測定した。
【0105】
<比較例5>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa7の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=12.5%:87.5%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×12.5%+<a7>×87.5%
【0106】
<比較例6>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa7の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=25.0%:75.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×25.0%+<a7>×75.0%
【0107】
<比較例7>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa7の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=50.0%:50.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×50.0%+<a7>×50.0%
【0108】
<比較例8>
単一顔料の水性インクa1および単一顔料の水性インクa7の物性値から、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=75.0%:25.0%での相加平均値を算出した。以下のように計算した。
<a1>×75.0%+<a7>×25.0%
【0109】
<比較例9>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A12を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ=25:75(%)となるインクジェット記録用水性インクa12を調製した。調製した水性インクa12を用いて、各物性値を測定した。
【0110】
<比較例10>
ブレンド顔料の水性顔料分散体A13を用いる以外は実験例1と同様にして、ファーストゲンスーパーマゼンタ1022:228−2120=25:75(%)となるインクジェット記録用水性インクa12を調製した。調製した水性インクa12を用いて、各物性値を測定した。
【0111】
(ブレンドによる発色性)
インクジェット記録用水性インクa1〜a11を、市販のインクジェットプリンタ(BJ F360、キヤノン(株)製)のカートリッジに充填した。メディアは普通紙(GF−500、キヤノン(株)製)を用い、そのまま印字した場合(1液印字物)と、あらかじめ市販のPgRプリンタ方式インクジェットプリンタ(PIXUS MX7600)で多価金属塩溶液からなる透明インクを塗布し、その上で印字した場合(2液印字物)の両方で行った。なお、Dutyは100%にて印字した。
分光光度計SpectroEyeを用いて、1液印字物および2液印字物のパッチの光学反射濃度(O.D.)を測定した。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
(ブレンドによる耐光性)
インクジェット記録用水性インクa1〜a11を、市販のインクジェットプリンタ(PX A−550、セイコーエプソン(株)製)のカートリッジに充填した。メディアは普通紙(GF−500、キヤノン(株)製)を用い、そのまま印字した場合(1液印字物)と、あらかじめ市販のPgRプリンタ方式インクジェットプリンタ(PIXUS MX7600)で多価金属塩溶液からなる透明インクを塗布し、その上で印字した場合(2液印字物)の両方で行った。
【0115】
両メディアにDuty100%にて印字した。それぞれのパッチの光学反射濃度(O.D.)を分光光度計SpectroEyeで測定し、さらに色相を分光光度計SF600で測定した。
【0116】
印字物をフェードメーターで紫外線を150時間照射した後、再度、同様にして光学反射濃度および色相を測定した。以上の結果から、濃度変化(ΔO.D.)および色差(ΔE*ab)を算出した。
濃度変化(ΔO.D.)の結果を表3および表4に、色差(ΔE*ab)の結果を表5および表6にまとめた。
【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
(発色濃度評価)
実験例1〜6および比較例1〜4について、発色性評価を行った。発色性については、2液におけるO.D.の値から、以下のように評価した。
O.D.が1.40以上 …A
O.D.が1.30以上1.40未満 …B
O.D.が1.30未満 …C
【0122】
(耐光性評価)
実験例1〜6および比較例1〜4について、耐光性評価を行った。耐光性については、色差(ΔE*ab)の値から、以下のように評価した。
色差が10.0未満 …A
色差が10.0以上25.0未満 …B
色差が25.0以上 …C
【0123】
(吐出耐久性評価)
インクジェット記録用顔料インクa1〜a11を、市販のインクジェットプリンタ(BJ F360、キヤノン(株)製)のカートリッジに充填した。メディアは普通紙(GF−500、キヤノン(株)製)を用いた。このプリンタを用いて、普通紙1枚につき、20cm幅の線を1mm間隔で計250本印字した。これを連続印字した。
計150枚までは50枚ずつ、それ以降は100枚を1セットとして連続印字を行い、セットごとに印字物の線に欠陥が生じた場合はその欠陥印字物の枚数を数え、欠陥枚数が100枚中50枚を2セット連続で超えた場合、印字を終了した。
インクの吐出耐久性の評価は、総印字枚数で評価した。評価方法は以下の通りである。
【0124】
総印字枚数が3000枚以上 …A
総印字枚数が1500以上3000枚未満 …B
総印字枚数が1500枚未満 …C
【0125】
(まとめ)
実験例1〜11および比較例1〜8について、発色濃度、耐光性および吐出耐久性についての評価結果を以下の表7〜11にまとめた。
尚、これら実験例3〜6及び実験例8〜11が、本発明の実施例に相当している。
【0126】
【表7】

【0127】
【表8】

【0128】
【表9】

【0129】
【表10】

【0130】
【表11】

【0131】
上記表9の実験例4は単一顔料の各水性顔料分散体の混合物の各特性、比較例2及び比較例9は、それぞれ順に、顔料混合物の水性顔料分散体(相加平均に基ずく計算値)の各特性、顔料混合物の水性顔料分散体(実測値)の各特性を意味する。
同様に、実験例9は単一顔料の各水性顔料分散体の混合物の各特性、比較例6及び比較例10は、それぞれ順に、顔料混合物の水性顔料分散体(相加平均に基ずく計算値)の各特性、顔料混合物の水性顔料分散体(実測値)の各特性を意味する。
実験例と比較例とが対になった、上記二つの系における発色性、耐光性及び吐出性を、以下の表9の様に対比比較すれば、本発明の優れた技術的効果を容易に確認することが出来る。
【0132】
この結果から、本発明のインクジェット記録用水性インクは、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料(Q)の水性顔料分散体およびC.I.ピグメントレッド269(A)の水性顔料分散体を、顔料の重量比率(A/Q)が12.5/87.5〜75/25の範囲でブレンドしたインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体とすることで、従来の色相・彩度の調製のみならず、優れた発色濃度を有することで高品位画像が得られ、かつ吐出安定性、耐光性に優れており、また、好ましくは重量比率(A/Q)が12.5/87.5〜50/50、さらに好ましくは、20/80〜35/65の範囲において、発色濃度、耐光性および吐出耐久性について、高いレベルでバランスの取れることを特徴とするインクジェット記録用水性インクが得られている。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体は、水性顔料分散体として、ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料とC.I.ピグメントレッド269とを用いるので、それらを単独で用いて調製したインクジェット記録用水性インクの水性顔料分散体の混合物からは予想できない連続印刷を前提とした吐出耐久性に優れ、かつ優れた発色性と耐光性を兼備する着色記録画像が得られるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料(A)とアニオン性基含有有機高分子化合物(B)とを水性媒体(C)中に含有してなるインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体において、前記水性顔料分散体として、前記有機顔料(A)がジ置換キナクリドンからなる赤色顔料である水性顔料分散体と、前記有機顔料(A)がC.I.ピグメントレッド269である水性顔料分散体とを併用することを特徴とするインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体。
【請求項2】
ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、前二者のうち少なくとも一方を化学構造中に含むキナクリドン固溶体顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の赤色顔料である請求項1記載のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体。
【請求項3】
ジ置換キナクリドンからなる赤色顔料/C.I.ピグメントレッド269(質量比)=90/10〜20/80である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体を、少なくとも液媒体で希釈して得たインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
多価金属塩溶液と、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体を、少なくとも液媒体で希釈して得たインクジェット記録用水性インクとからなるインクジェット記録用水性インクセット。

【公開番号】特開2011−149015(P2011−149015A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285815(P2010−285815)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】