説明

インクジェット記録装置

【課題】ワイパブレードに付着したインクにより記録ヘッドの吐出面を汚したりインク吐出孔に増粘したインクを押し込むことを防止することができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インク受容シート4を巻回しつつ、ワイパブレード31は記録ヘッド2の吐出面に当接したまま移動する。ワイパブレード31が、洗浄用液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔を通過するとき、洗浄用液体がワイパブレード31に付着し増粘したインクに触れる。洗浄用液体の吐出孔と最上流インク吐出孔との間には、距離Lが確保されているため、ワイパブレード31がこの距離Lを移動する間に、ワイパブレード31に付着し増粘したインクが除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、ワイピング処理を行うことができるインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、時間の経過につれてインク中の水分が蒸発しインクが高粘度化したり、インク吐出孔からエアが混入してインク中に気泡が発生する場合がある。この高粘度化したインクや気泡は、インク吐出孔を閉塞してインクの吐出性能を阻害する要因となるため、インクジェット記録装置では、高粘度化したインク等を除去する回復処理が行われている。
【0003】
この回復処理は、パージ処理と、予備吐出(フラッシング)とに大別され、パージ処理は長期間の不使用のために、高粘度化したインク、乾燥したインクの塊、多量の気泡、塵等を排出すべく、強制的に記録ヘッドからインクを吸引したり、強制的に記録ヘッドにインクを加圧供給したりする処理である。一方、予備吐出は、主に連続使用中において、インク吐出孔から高粘度化したインクを排出するための処理である。予備吐出はパージ処理よりも頻繁に行われるものの、高粘度化したインク等と共に排出されるインク量は、パージ処理の場合に比べて少量であるのが一般的である。
【0004】
また、このような回復処理においては、インクの排出後、記録ヘッドに付着したインクを弾性部材により形成されたワイパブレードにより機械的に払拭するいわゆるワイピング処理が行われる。例えば、特開2001−30514号公報(特許文献1)に開示された発明では、ワイピング処理を行う際に、インク吐出孔に付着したゴミ、糸くずがインクノズルに押し込まれるのを防止するために、インクノズルからエアーまたは洗浄液を吐出させながら払拭が行われるように構成されている。
【0005】
また、特開平6−79880号公報(特許文献2)に開示された発明では、ワイパブレードを洗浄するための洗浄液を噴出するノズルを備え、ワイパブレードには、洗浄液を吸引することにより増粘したインク等を除去するように構成された吸引装置が備えられている。
【特許文献1】特開2001−30514号公報
【特許文献2】特開平6−79880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、インクジェット記録装置を長期間使用しないと、ワイピング処理を行うワイパブレードに付着したインクは、徐々に乾燥し増粘する。そして増粘したインクがワイパブレードに付着した状態で次回のワイピング処理を行うと、吐出面を汚したりインク吐出孔に増粘したインクを押し込むことになる。このことにより、正常なインクの吐出が行われなくなることがあった。
【0007】
図9は、この様子を示すインク吐出孔の模式図であり、パージ処理が行われた後、払拭開始位置Xから現在のワイプ位置Yまでがワイパブレードにより払拭された状態を示している。インク吐出孔は、略台形状に二次元配列された群を複数有するように形成されている。現在のワイプ位置Y以降の吐出面(図9においてYの左側)は、まだ払拭されていない状態であり、まだ払拭されていない吐出面には、パージ処理により排出されたインクが付着している。
【0008】
払拭開始位置X付近においては、ワイパブレードに増粘して付着したインクにより吐出面が汚される。また、払拭開始位置Xに最も近い位置に配置されている最上流インク吐出孔付近では、増粘したインクがインク吐出孔に押し込められる。なお、「上流」は、ワイパブレードが払拭する際の移動方向Bにおける上流を意味する。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ワイパブレードに付着したインクにより吐出面を汚したりインク吐出孔に増粘したインクを押し込むことを防止することができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、請求項1記載のインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数のインク吐出孔が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、その記録ヘッドを駆動してインク吐出孔からインクを吐出し記録媒体に記録する記録動作を制御する記録制御手段とを備えたものであって、前記記録ヘッドの一端側から他端側へ吐出面に接触して移動することにより吐出面を払拭する払拭部材と、前記記録ヘッドの吐出面であって、前記払拭部材が払拭を開始する払拭開始位置とその払拭開始位置に最も近い位置に配置されている最上流インク吐出孔との間に配設され、インク吐出孔を洗浄するための液体を吐出する洗浄用液体のインク吐出孔と、その洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させるとともに、前記払拭部材を前記記録ヘッドの吐出面に沿って移動させる回復制御手段とを備え、前記洗浄用液体の吐出孔と前記最上流インク吐出孔との間の距離が、前記複数のインク吐出孔のうちの隣り合うインク吐出孔の間の距離よりも長い距離となる位置に、前記洗浄用液体の吐出孔が形成されている。
【0011】
なお、最上流インク吐出孔は、払拭部材が吐出面を払拭する際の移動方向において、最も上流に位置するインク吐出孔である。
【0012】
請求項2記載のインクジェット記録装置は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、前記回復制御手段は、前記払拭部材が、前記記録ヘッドの吐出面の前記複数のインク吐出孔が形成された領域を移動する速度より遅い速度で前記洗浄用液体の吐出孔から前記最上流インク吐出孔までを移動するように制御するものである。
【0013】
請求項3記載のインクジェット記録装置は、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置において、前記回復制御手段は、前記払拭部材が前記洗浄用液体の吐出孔から前記最上流インク吐出孔までの間で移動を停止し、その移動の停止から所定時間経過後に移動を開始して前記インク吐出孔を払拭するように前記払拭部材を制御するものである。
【0014】
請求項4記載のインクジェット記録装置は、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置において、前記回復制御手段は、前記払拭部材が前記洗浄用液体の吐出孔の近傍で移動を停止し、その移動の停止中に前記洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させ、移動の停止から所定時間経過後に移動を開始して前記インク吐出孔を払拭するように前記払拭部材を制御するものである。
【0015】
請求項5記載のインクジェット記録装置は、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録装置において、前記洗浄用液体の吐出孔から吐出される液体は、前記インク吐出孔から吐出されるインクと同一のインクである。
【0016】
請求項6記載のインクジェット記録装置は、請求項5記載のインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドは、前記インク吐出孔にインクを供給するインク室と、前記洗浄用液体の吐出孔と前記インク室とを連通する連通路とを備えている。
【0017】
請求項7記載のインクジェット記録装置は、請求項6記載のインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドは、各インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応して配置されるアクチュエータを有し、前記回復制御手段は、前記インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応するアクチュエータを駆動することにより、前記インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔からインクを吐出させ、その後前記払拭部材が前記記録ヘッドを払拭するように前記払拭部材を制御するものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のインクジェット記録装置によれば、払拭部材は、記録ヘッドの一端側から他端側へ吐出面に接触して移動することにより吐出面を払拭し、インク吐出孔を洗浄するための液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔は、記録ヘッドの吐出面であって、払拭部材が払拭を開始する払拭開始位置とその払拭開始位置に最も近い位置に配置されている最上流インク吐出孔との間に配設され、洗浄用液体の吐出孔と最上流インク吐出孔との間の距離が、複数のインク吐出孔のうちの隣り合うインク吐出孔の間の距離よりも長い距離となる位置に形成され、回復制御手段は、洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させるとともに、払拭部材を記録ヘッドの吐出面に沿って移動させる。よって、払拭部材に液体が触れてから最上流インク吐出孔に到達するまでの時間を長くすることができ、払拭部材に付着している増粘されたインクを除去しやすくなる。したがってワイパブレードに付着したインクにより吐出面を汚したりインク吐出孔に増粘したインクを押し込むことを防止することができるという効果がある。
【0019】
請求項2記載のインクジェット記録装置によれば、請求項1記載のインクジェット記録装置の奏する効果に加え、回復制御手段は、払拭部材が、記録ヘッドの吐出面の複数のインク吐出孔が形成された領域を移動する速度より遅い速度で洗浄用液体の吐出孔から最上流インク吐出孔までを移動するように制御するので、払拭部材に液体が触れてから払拭部材が最上流インク吐出孔に到達するまでの時間をより長くすることができ、払拭部材に付着している増粘されたインクを除去しやすくなるという効果がある。
【0020】
請求項3記載のインクジェット記録装置によれば、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置の奏する効果に加え、回復制御手段は、払拭部材が洗浄用液体の吐出孔から最上流インク吐出孔との間の位置で移動を停止し、その移動の停止から所定時間経過後に移動を開始してインク吐出孔を払拭するように払拭部材を制御するので、払拭部材に液体が触れてから払拭部材が最上流インク吐出孔に到達するまでの時間を確実に長く確保することができる。よって、払拭部材に付着している増粘されたインクをより除去しやすくなるという効果がある。
【0021】
請求項4記載のインクジェット記録装置によれば、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置の奏する効果に加え、回復制御手段は、払拭部材が洗浄用液体の吐出孔の近傍で移動を停止し、その移動の停止中に洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させ、移動の停止から所定時間経過後に移動を開始してインク吐出孔を払拭するように払拭部材を制御するので、払拭部材に付着している増粘されたインクが洗い流されるという効果がある。
【0022】
請求項5記載のインクジェット記録装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録装置の奏する効果に加え、洗浄用液体の吐出孔から吐出される液体は、インク吐出孔から吐出されるインクと同一のインクであるので、洗浄液または希釈液などの特別な液体を用いる場合に比べ、別途液体を貯留する容器や配管が不要であり、構造が簡単であるという効果がある。また、洗浄用液体が、インク吐出孔の中に残り、次回の印字に使われることになっても印字濃度が変化しないという効果がある。
【0023】
請求項6記載のインクジェット記録装置は、請求項5記載のインクジェット記録装置において、記録ヘッドは、インク吐出孔にインクを供給するインク室と、洗浄用液体の吐出孔とインク室とを連通する連通路とを備えているので、洗浄用液体の吐出孔に液体を供給するためのインク室を別途設ける必要が無く、記録ヘッドの構造を簡単にすることができるという効果がある。
【0024】
請求項7記載のインクジェット記録装置によれば、請求項6記載のインクジェット記録装置の奏する効果に加え、記録ヘッドは、各インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応して配置されるアクチュエータを有し、回復制御手段は、インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応するアクチュエータを駆動することにより、インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔からインクを吐出させ、その後、払拭部材が記録ヘッドを払拭するように払拭部材を制御するので、インク吐出孔からインクを吐出させることにより、インク吐出孔を回復するフラッシング処理においても、払拭部材によりインク吐出孔を払拭することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明のインクジェット記録装置1の構成を概略的に示した斜視図である。インクジェット記録装置1は、記録ヘッド2に形成されたインク吐出孔からインクを吐出して記録媒体に記録を行うものであり、本実施形態では、特に、長尺の記録ヘッド2に記録媒体の記録領域以上にわたるインク吐出孔を形成し、記録ヘッド2は固定したままで、記録ヘッド2の吐出面と対峙する面に記録媒体を搬送し、一気に記録を行う所謂ライン形式のものである。
【0026】
インクジェット記録装置1は、主に、ライン形式の記録ヘッド2と、記録ヘッド2と対峙する位置に配置された記録媒体の搬送装置3と、搬送装置3と記録ヘッド2との間を記録媒体の搬送方向(矢印A参照)と直交する方向に往復移動可能(矢印Bおよび矢印C参照)に配置されるインク受容シート4と、インク受容シート4を所定位置に配置するシート配置機構5と、インク受容シート4の一端側(図中左側)に配置され、インク受容シート4を巻回状態で収納する収納箱6と、収納箱6の上方であってインク受容シート4に当接可能に配置され、インク受容シート4に付着したインクを除去する一対のインク除去ローラ7とを備えている。尚、一対のインク除去ローラ7の内、インク受容シート4のインクが排出される面と対峙する位置に配置されたインク除去ローラ7が、インク受容シート4に排出されたインクを除去すべく直接的に作用する。
【0027】
尚、図示は省略するが、その他にも搬送装置3の下方には搬送装置3に記録媒体を供給する給紙機構、搬送装置3を通過した記録媒体を外部に排紙する排紙機構、記録を行わない場合に記録ヘッド2の吐出面を被包する保存キャップ等を備えている。
【0028】
記録ヘッド2は、記録媒体にインクを吐出するものであり、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色に対応して4個の記録ヘッド2a,2b,2c,2dで構成されている。各記録ヘッド2a等の記録媒体と対峙する面には、インクを吐出するインク吐出孔が形成されている。
【0029】
搬送装置3は、記録媒体を記録ヘッド2の吐出面に対峙する位置に搬送する装置であり、1対のベルトローラ8,9と、その1対のベルトローラ8,9に掛架された搬送ベルト10と、ベルトローラ8,9を駆動する搬送用モータ27(図2及び図5参照)とを備えている。
【0030】
搬送用モータ27を駆動するとベルトローラ8,9が回転し、それに伴って搬送ベルト10も回転する。記録媒体は図示しない給紙機構から搬送ベルト10上に給紙され、搬送ベルト10によって記録ヘッド2の吐出面と対峙する位置に搬送される。そうすると、記録データに対応するインク吐出孔からインクが記録媒体に向けて吐出され、記録媒体上に記録がなされる。尚、記録媒体上に記録が行われた後、記録媒体は図示しない排紙機構によってインクジェット記録装置1の外部に排紙される。また、搬送装置3は、記録ヘッド2の吐出面から離れる方向に移動可能に構成されている。
【0031】
ここで、図2を参照して搬送装置3を移動させる移動機構20について説明する。図2は、図1の矢印F方向から見た搬送装置3を示した図である。尚、図1では図示を省略したが、図2に示すように搬送装置3はベルトローラ8,9のシャフト8a,9aを軸支する中空箱状に形成された本体フレーム22内に配置されており、移動機構20は、この本体フレーム22を移動させることで搬送装置3を移動させるものである。
【0032】
移動機構20は、主に、図示しないシャーシに立設され本体フレーム22を回転可能に軸支する基準軸21と、本体フレーム22を挟んだ上側と下側とに配置される1対の移動用プーリ23,24と、その一対の移動用プーリ23,24に掛架された移動用ベルト25と、その移動用ベルト25と本体フレーム22とを連結する連結部材26と、ベルトローラ8,9を駆動させるための動力源たる搬送用モータ27を移動機構20を駆動するための動力源に切換える移動用クラッチ63(図5参照)と、移動用クラッチ63が作動して搬送用モータ27の動力軸と連結される伝達用プーリ28と、その伝達用プーリ28と伝達用ベルト30で掛架されると共に、移動用プーリ24と同軸に取着される伝達用プーリ29とを備えている。
【0033】
この移動機構20によれば、移動用クラッチ63が作動し、搬送用モータ27の動力が伝達用プーリ28に伝達されると、その動力は伝達用ベルト30を介して伝達用プーリ29に伝達され、更に、伝達用プーリ29から移動用プーリ24にも伝達される。また、その動力は移動用プーリ24から、移動用ベルト25を介して移動用プーリ23にも伝達され、結局、移動用プーリ23,24に掛架された移動用ベルト25が周回することになる。よって、この移動用ベルト25の周回動作に伴い、移動用ベルト25に連結された本体フレーム22(搬送装置3)は、ベルトローラ9のシャフト9aを中心に記録ヘッド2の吐出面から離れる方向(矢印J方向)に回動する。
【0034】
再び、図1に戻り説明を続ける。インク受容シート4は、記録媒体への記録とは別に、記録ヘッド2にインクを加圧供給して、記録ヘッド2の高粘度化したインクや気泡等を除去するパージ処理の際に、高粘度化したインク等と共に記録ヘッド2から排出されるインクを受容するためのシートである。インク受容シート4は、記録ヘッド2の吐出面以上の大きさで、可撓性、柔軟性、耐久性を有する薄肉のシート体である。また、インク受容シートの両縁部には、記録ヘッド2に向かって略鉛直に起立するように折り畳まれた土手部4aが矢印B,C方向に延在している。
【0035】
パージ処理を起動する際には、インク受容シート4は後述するシート配置機構5によって記録ヘッド2の吐出面を覆う範囲で、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間に配置され、パージ処理によって記録ヘッド2から排出されるインクを受容する。この際、両縁部に形成されている土手部4aによって、インク受容シート4上に排出されたインクが両縁部からこぼれ落ち、搬送装置3や装置本体の内部が汚されるのを防止することができる。
【0036】
シート配置機構5は、記録媒体への記録の際には記録領域外にインク受容シート4を収納箱6の内部に巻回状態にて収納し、パージ処理の際には巻回された状態のインク受容シート4を記録ヘッド2と搬送ベルト10との間に引出すためのものである。
【0037】
シート配置機構5は、主に、シート配置機構の駆動源たるシート配置用モータ15と、記録ヘッド2の両側に記録ヘッド2を挟むように配置されている1対のシャフト13,14及び各シャフト13,14の両端に取着されている第1プーリ13a,13b,14a,14bからなる配置機構と、収納箱6の内部に軸支されインク受容シート4を巻回する巻回シャフト11及び巻回シャフト11の一端部に取着された第2プーリ11aからなる配置機構と、インク受容シート4の引出し先端部に連設された移動部材12とを備えている。
【0038】
このシート配置機構5によれば、シート配置用モータ15を駆動すると、この動力はシート配置用モータ15の回転軸の一端部に取着された第3プーリ15a、ベルト19を介して第2プーリ11aに伝達され、巻回シャフト11を回転させる。また、シート配置用モータ15の動力は、第3プーリ15a、ベルト16を介して第1プーリ13aにも伝達される。第1プーリ13aに伝達された動力は、更に、ベルト17を介して第1プーリ14aや、シャフト13を介して第1プーリ13bにも伝達される。結局、第1プーリ13a,14aに掛架されたベルト17と、第1プーリ13b,14bに掛架されたベルト18とを同一周期で周回させる。
【0039】
このベルト17,18には移動部材12が、図示しない連結部材によって連結されているため、ベルト17,18の周回動作に伴い、移動部材12は、インク受容シート4の引出し先端部を保持しつつ、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間を往復移動(矢印B及び矢印C参照)することができる。また、ベルト17,18の周回動作と同期する巻回シャフト11によってインク受容シート4が巻回されるので、インク受容シート4円滑に巻回することができる。
【0040】
尚、移動部材12は、第1プーリ13a,13b,14a,14bに巻回されたベルト17,18の上方側に連結される。これによりインク受容シート4の引出しに関する移動部材12の移動方向と巻回シャフト11の回転方向の関係が正しく設定される。
【0041】
ここで、図3を参照して移動部材12について詳細に説明する。図3(a)は移動部材12の平面図であり、図3(b)は移動部材12に保持されているワイパブレード31が吐出面に当接している状態を示す移動部材12の側面図であり、図3(c)は、移動部材12に保持されているワイパブレード31が吐出面から離れている状態を示す移動部材12の側面図である。
【0042】
移動部材12は、記録ヘッド2の吐出面をクリーニングするワイパブレード31を保持するブレードホルダ32と、そのブレードホルダ32を軸支するシャフト33と、そのシャフト33及びインク受容シート4の引出し先端部を支持する支持部材34と、支持部材34の先端部に軸金物35aによって揺動可能に軸支されているブレード動作板35とを備えている。
【0043】
また、移動部材12に作用する部材として、インクジェット記録装置1の本体側であって、矢印C方向(図1参照)における移動部材12の終端位置には、矢印C方向に移動してきた移動部材12のブレード動作板35から突出する第1突起36の右側面に衝突する第1衝突部(図示せず)と、その第1衝突部の反対側であって、矢印B方向(図1参照)における移動部材12の終端位置には、矢印B方向に移動してきた移動部材12の第1突起36の左側面に衝突する第2衝突部(図示せず)とが備えられている。
【0044】
この移動部材12によれば、移動部材12が矢印C方向(図1参照)に移動し、その終端位置に達すると、ブレード動作板35の第1突起36の右側面が、本体側に備えられた図示しない第1衝突部に衝突する。これにより第1突起36は矢印H方向の力を受け、ブレード動作板35は軸金物35aを中心に揺動し、ブレード動作板35のブレードホルダ32側に突出する第2突起37がブレードホルダ32の底面に潜り込む(図3(a)2点鎖線から実線参照)。すると、シャフト33に軸支されているブレードホルダ32がブレード動作板35の第2突起37によって持ち上げられ、ブレードホルダ32に保持されているワイパブレード31が記録ヘッド2の吐出面に当接する(図3(b)参照)。
【0045】
ワイパブレード31が吐出面に当接した状態のまま、上述したのとは反対に、移動部材12を矢印B方向(図1参照)に移動させ、記録ヘッド2の払拭が行われる。記録ヘッド2には、洗浄用液体を吐出する吐出孔2f(図4参照)が、備えられ、払拭が行われる際には、この吐出孔2fから洗浄液が吐出されて、ワイパブレードに付着し増粘したインクが除去された後、インク吐出孔2e(図4参照)が払拭される。
【0046】
移動部材12がその終端位置に達すると、ブレード動作板35の第1突起36の左側面が、本体側に備えられた図示しない第2衝突部に衝突する。これにより第1突起36は矢印I方向の力を受け、ブレード動作板35は軸金物35aを中心に揺動し、ブレードホルダ32の底面に潜り込むんでいたブレード動作板35の第2突起37が、ブレードホルダ32の底面から引抜かれる(図3(a)実線から2点鎖線参照)。すると、ブレード動作板35の第2突起37によって持ち上げられていたブレードホルダ32が垂れ下がり、ブレードホルダ32に保持されているワイパブレード31も記録ヘッドの吐出面から引離される(図3(c)参照)。
【0047】
次に記録ヘッド2について、図4を参照して説明する。図4は、4つの記録ヘッド2の一つの吐出面を表す平面図であり、これらの4つの記録ヘッド2は、同一形状である。記録ヘッド2は、各色ごとのヘッドとして、シアンインクを吐出するシアン用ヘッド2a、マゼンタインクを吐出するマゼンタ用ヘッド2b、イエローインクを吐出するイエロー用ヘッド2c、ブラックインクを吐出するブラック用ヘッド2dから構成されている。これら各ヘッド2a,2b,2c,2dは、それぞれのインクに対応したインクカートリッジとチューブを介して接続されており、ヘッド2a,2b,2c,2dからインクが吐出されてインクが減少すると、その減少したインク分がインクカートリッジからチューブを介して充填される。
【0048】
各ヘッド2a,2b,2c,2dは、ライン型ヘッドで構成され、そのヘッドには、インクを吐出するインク吐出孔2eを有する略台形のアクチュエータユニットが8つと洗浄用液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔2fを有する特設アクチュエータとが設けられている。
【0049】
略台形のアクチュエータユニットは、台形の短辺側がお互いに対向する方向で且つ用紙12の搬送方向(図4における上下方向)において端部同士が重なった状態で配置されている。その吐出領域には、インクを吐出する複数のインク吐出孔2eが、マトリックス状に配列されている。そのため、隣接するアクチュエータユニット同士の間も隙間が空くことなく印刷が行える。
【0050】
特設アクチュエータは、ワイパブレード31に付着したインクを希釈するための洗浄用液体を吐出させるためのもので、洗浄用液体の吐出孔2fには、洗浄用液体が供給される。この特設アクチュエータには、洗浄用液体を貯蔵した洗浄用液体カートリッジがチューブを介して接続されている。
【0051】
洗浄用液体の吐出孔2fは、ワイピング処理において、ワイパブレード31が払拭を開始する位置である払拭開始位置Xと、その払拭開始位置Xに最も近いインク吐出孔2eである最上流インク吐出孔2e’との間の位置に配置される。図4に示すように、洗浄用液体の吐出孔2fと最上流インク吐出孔2e’との間のワイパブレード31の移動する矢印B方向における距離をLとし、距離Lが複数のインク吐出孔2eのうちの隣り合うインク吐出孔2eの間の距離より長い距離となる位置に、洗浄用液体の吐出孔2fが形成されている。なお、「上流」とは、ワイパブレード31が払拭を行う際に移動する方向Bにおける上流を意味する

【0052】
このことにより、ワイピング処理が開始されると、払拭開始位置XからB方向に移動するワイパブレード31は、インク吐出孔2eを払拭する前に洗浄用液体に接触し、ワイパブレード31に付着しているインクの粘度を低下させることができる。しかも洗浄用液体の吐出孔2fと最上流インク吐出孔2e’との距離Lが複数のインク吐出孔2eのうちの隣り合うインク吐出孔2eの間の距離より長いので、ワイパブレード31に洗浄用液体が接触してから最上流インク吐出孔2e’に接触するまでの時間をある程度確保することができ、洗浄用液体により増粘したインクの粘度が低下するのを待ってから、インク吐出孔2eが形成されているインクの吐出面を払拭することになる。
【0053】
次に、図5を参照してインクジェット記録装置1の電気的構成について説明する。図5は、インクジェット記録装置1の電気回路構成の概略を示すブロック図である。図5に示すように、インクジェット記録装置1は、主制御基板50と、記録ヘッド2を制御するための副制御基板51とを備えている。
【0054】
主制御基板50には、1チップ構成のマイクロコンピュータ(CPU)52と、そのCPU52により実行される各種の制御プログラムなどの固定値データを記憶した書換不可能なメモリであるROM53と、各種のデータ等を一時的に記憶する書換可能な揮発性のメモリであるRAM54と、ゲートアレイ(G/A)55などが搭載されており、これらCPU52と、ROM53、RAM54及びゲートアレイ55とは、バスライン56を介して接続されている。
【0055】
演算装置であるCPU52は、ROM53に予め記憶された制御プログラムに従い、各種処理を実行するものであり、ROM53に記憶されているパージ処理に関するプログラムもCPU52によって制御されている。また、印字タイミング信号およびリセット信号を生成し、各信号を後述するゲートアレイ55へ転送する。
【0056】
また、このCPU52には、ユーザが印刷の指示などを行うための操作パネル57、給紙機構に動力を供給する給紙用モータ58を駆動するための給紙用モータ駆動回路59、ベルトローラ8,9へ動力を供給すると共に、搬送装置3を移動させるための動力を供給する搬送用モータ27を駆動するための搬送用モータ駆動回路60、シート配置用モータ15を駆動するためのシート配置用モータ駆動回路61、移動用クラッチ63を駆動制御するための移動用クラッチ駆動回路64などが接続されている。これら接続される各デバイスの動作はCPU52により制御される。
【0057】
ゲートアレイ55は、CPU52から転送される印字タイミング信号と、イメージメモリ65に記憶されている画像データとに基づいて、その画像データを記録媒体に印刷するための印刷データ(駆動信号)と、その印刷データと同期する転送クロックと、ラッチ信号と、基本印字波形信号を生成するためのパラメータ信号と、一定周期で出力される噴射タイミング信号とを出力し、それら各信号を、ヘッドドライバが実装された副制御基板51側へ転送する。
【0058】
また、ゲートアレイ55は、コンピュータなどの外部機器からインターフェース(I/F)66を介して転送されてくる画像データを、イメージメモリ65に記憶させる。そして、ゲートアレイ55は、ホストコンピュータなどからインターフェース66を介して転送されてくるデータに基づいてデータ受信割込信号を生成し、その信号をCPU52へ転送する。なお、ゲートアレイ55と副制御基板51との間で通信される各信号は、両者を接続するハーネスケーブルを介して転送される。
【0059】
副制御基板51は、実装されたヘッドドライバ(駆動回路)によって記録ヘッド2を駆動するための基板である。このヘッドドライバは、主制御基板50に実装されたゲートアレ55を介して制御され、記録モードに合った波形の駆動パルスを記録ヘッド2の各駆動素子に印加するものである。これにより、インクがインク吐出孔2eから記録媒体へ向けて所定量吐出される。
【0060】
次に、図6および図7を参照して上述したように構成されたインクジェット記録装置1のパージ処理における動作について説明する。図6(a)〜(c)は、図1の矢印G方向から見たインクジェット記録装置1の模式的な側面図であり、パージ処理におけるインク受容シート4の動きを時系列に示す図である。図7は、CPU52が実行するパージ処理を示すフローチャートである。パージ処理は、所定期間以上不使用の場合や、操作者からの特定の指令があった場合に起動される。
【0061】
まず、CPU52は、搬送装置3を下方へ移動する処理を行う(S1)。具体的には、搬送用モータ27の動力を移動機構20に供給するように移動クラッチ63を制御し、搬送用モータ27を駆動して搬送装置3が記録ヘッド2の吐出面から離れる方向に移動する。このことにより、記録媒体への記録時と比べて、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間には広いスペースが形成される。従って、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間にインク受容シート4を容易に配置することができる。
【0062】
搬送装置3が移動すると、インク受容シート4を記録ヘッド2と搬送ベルト10との間に引出す処理を行う(S2)。具体的には、CPU52は、シート配置用モータ15を駆動し、収納箱6内の巻回シャフト11に巻回された状態のインク受容シート4を、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間に引出す。
【0063】
これにより、移動部材12が矢印C方向に移動する。この際、移動部材12のブレードホルダ32は搬送装置3側に垂れ下がった状態で移動し、ブレードホルダ32に保持されているワイパブレード31が吐出面に当接することはない(図6(a)参照)。よって、インク受容シート4の移動がワイパブレード31に妨げられることなく、円滑にインク受容シート4を所定位置まで引出すことができる。
【0064】
移動部材12が矢印C方向に移動を続けると、移動部材12は、インクジェット記録装置1の本体側の矢印C方向の終端位置に達し、図示しない第1衝突部に当接する。すると、ブレード動作板35の第1突起36がブレードホルダ32の下面に潜り込み、ブレードホルダ32を持ち上げ、ブレードホルダ32に保持されているワイパブレード31が吐出面の払拭開始位置Xに当接する。また、移動部材12が矢印C方向へ移動する際の高さ位置は、一対のインク除去ローラ7よりも高く設定されていることからインク受容シート4は、記録ヘッド2と搬送ベルト10との間に引出された状態において、その引出し先端部から収納箱6に向かって除々に記録ヘッド2から離れる状態に配置されることになる。
【0065】
尚、移動部材12が矢印C方向に移動する際には、第2プーリ11aに伝達された回転は、図示しないワンウェイクラッチにより巻回シャフト11には伝達されないようになっている。
【0066】
次に、CPU52は、パージ用ポンプ(図示せず)を駆動する(S3)。この制御により記録ヘッド2にインクが加圧され、インクがインク吐出孔2eからインク受容シート4上に排出される。また、洗浄用液体も加圧され、洗浄用液体が洗浄用液体の吐出孔2fから吐出される。
【0067】
インク受容シート4は、記録ヘッド2の吐出面を覆う大きさで構成されると共に、その両縁部には土手部4aが形成されているので、排出されたインクを確実に受容でき、インク受容シート4の下方に配置される搬送装置3等が汚されるのを防止することができる。
【0068】
こうして排出されたインクは、インク受容シート4が傾斜して配置されていることから、インク受容シート4上を収納箱6に向かって自然流下し、収納箱6内に収納される。また、収納箱6内には、インク吸収部材71が備えられており、収納箱6内に収納されたインクはインク吸収部材71に吸収される。尚、インク吸収部材71の吸収許容能力を超えるインクは、収納箱6と連通する廃液タンク72に排出される。
【0069】
次に、CPU52は、シート配置用モータ63を上述したのとは逆の方向に駆動する。この制御により移動部材12は、矢印B方向に引き戻される。この際、インク受容シート4は、巻回シャフト11に巻回されながら収納箱6に収納されていくが、その途中でインク除去ローラ7によってインク受容シート4の表面に付着したインクが除去される。よって、インク受容シート4が汚れた状態のままであることを回避することができる。
【0070】
また、インク受容シート4を巻回しつつ、ワイパブレード31は吐出面に当接したまま一定速度で記録ヘッド2の吐出面上を移動する(S4)。ワイパブレード31が、洗浄用液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔2fを通過するとき、洗浄用液体がワイパブレード31に付着した増粘あるいは乾燥したインクに触れる。洗浄用液体の吐出孔2fから最上流インク吐出孔2e’までの間には距離Lが確保されているため、ワイパブレード31がこの距離Lを移動する間に、ワイパブレード31に付着したインクが除去される。
【0071】
したがって、ワイパブレード31に付着したインクにより、記録ヘッド2の吐出面が汚れたり、インク吐出孔2eが塞がれたりすることを防止することができる。こうして、パージ処理によってインクの付着した吐出面がワイパブレード31によって払拭される。
【0072】
尚、ワイパブレード31によって払拭されたインクは、ワイパブレード31を伝って、上記と同様にインク受容シート4、収納箱6、インク吸収部材71、廃液タンク72の経路を辿り処理されるので、ワイパブレード31で吐出面を払拭する場合であっても、払拭されたインクによって装置内部が汚されるのを防止することができる。
【0073】
そして、移動部材12が矢印B方向の終端位置まで達すると、ブレードホルダ32の下面に潜り込んだブレード動作板35の第1突起36が引き抜かれ、ブレードホルダ32が垂れ下がり、ワイパブレード31が吐出面から引き離され、次回のパージ処理に備える。
【0074】
移動部材12が矢印B方向の終端位置まで達すると、CPU52は、搬送用モータ27の動力を移動機構20に供給するように移動用クラッチ63を制御し、搬送用モータ27を駆動して移動機構20によって搬送装置3が記録ヘッド2の吐出面に近接する方向に移動させる(S5)。これにより、一連のパージ処理が完了する。
【0075】
以上説明したように、記録ヘッド2の払拭を開始する位置と、その位置に最も近い位置に配置される最上流インク吐出孔2e’との間の位置に洗浄用液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔2fを備え、パージ処理において、インクを加圧してインク吐出孔2eからインクを排出させると共に、洗浄用液体の吐出孔2fから洗浄用液体を吐出させる。次にワイピング処理を行う際には、まずワイパブレード31が洗浄用液体の吐出孔2fを通過してワイパブレード31に付着しているインクに洗浄用液体を接触させる。洗浄用液体の吐出孔2fと最上流インク吐出孔2e’との間には、距離Lが確保されているので、ワイパブレード31が距離Lの移動に要する時間がある程度確保され、その間に洗浄用液体により、ワイパブレード31に付着し、増粘したインクを除去することができる。
【0076】
よって、洗浄用液体を記録ヘッドとは異なる位置に特別に設けた吐出孔を用いてワイパブレード31に吹き付ける場合に比べ、簡単な構成であって、ワイパブレード31に付着したインクにより、記録ヘッド2を汚したり、ワイパブレード31に付着し増粘したインクをインク吐出孔2eに押し込むことを防止することができる。
【0077】
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、洗浄用液体の吐出孔2fからは、洗浄用液体が吐出されるものとしたが、各記録ヘッド2毎に使用されるインクとしてもよい。この場合には、記録ヘッド2に形成されるインク室を共用することができる。
【0078】
図8は、記録ヘッド2の構成を模式的に示す断面図である。記録ヘッド2は、図8に示すように、ノズルプレート81、2枚のマニホールドプレート82,83、スペーサプレート84、ベースプレート85、圧電シート86の6枚のプレートをそれぞれ接着剤にて重ね接合して積層した構造である。
【0079】
ノズルプレート81には、インク吐出孔81aと洗浄用液体の吐出孔81bが形成さている。ベースプレート85には、インク吐出孔81aに対応して圧力室85aが、洗浄用液体の吐出孔81bに対応して圧力室85bが、ベースプレート85の平面に沿って平面状にそれぞれ形成されている。また、スペーサプレート84には、各圧力室85a,85bとインク室91とに接続されるインク供給孔84cと84dとが形成されている。
【0080】
また、スペーサプレート84には、圧力室85a,85bに連通する貫通孔84a,84bが形成され、これらの貫通孔84a,84bは、マニホールドプレート83、82に形成されている貫通孔83a,82aおよび、83b,82bを介してインク吐出孔81a、洗浄用液体の吐出孔81bへ連通している。
【0081】
また、ベースプレート85およびスペーサプレート84には、インクカートリッジからインクをマニホールドプレート82,83に形成されているインク室91に供給するためのインク供給孔(図示せず)が穿設されている。
【0082】
2枚のマニホールドプレート82,83には、インク室91が形成されている。このインク室91は、ベースプレート85における圧力室85a,85bがなす面と平行な面内に位置し、かつ圧力室85a,85bよりもノズルプレート81における吐出孔81a,81bの開口面側に配置されている。
【0083】
以上の構成により、ベースプレート85およびスペーサプレート84の一端部に穿設されたインク供給孔を介してインクカートリッジからインク室91内に流入したインクは、インク室91から各インク供給孔84c、84dを通って各圧力室85a,85bに分配される。そして、圧力室85aから各貫通孔84a,83a,82aを通って、各圧力室85aに対応するインク吐出孔81aへ、圧力室85bから各貫通孔84b,83b,82bを通って洗浄用液体の吐出孔81bに至ることとなる。
【0084】
圧電シート86の上面には、各圧力室85a,85bに対応する位置に駆動電極87,89が各々形成され、駆動電極87,89の上部には接点ランド88,89がそれぞれ設けられ、フレキシブル基板(図示せず)を介して駆動回路と接続されている。この駆動電極87,89と圧電シート86とによりアクチュエータが形成され、それぞれの駆動電極87,89に電圧が印加されることにより、圧力室85a,85bに圧力が加えられ、インクが吐出される。
【0085】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、洗浄用液体の吐出孔81bから吐出する洗浄用液体をインクとすることで、記録ヘッド2に形成されるインク室91をインク吐出孔81aと共用することができるととも、インクを吐出するアクチュエータや圧力室85aと同様な構成により洗浄用液体を吐出するアクチュエータや圧力室85bを形成することができる。また、洗浄用液体をインクとすることにより、洗浄用液体を貯留するカートリッジも不要になる。
【0086】
なお、請求項1記載の回復制御手段は、図7に示すフローチャートが該当し、請求項6記載の連通路は、図8に記載のインク供給孔84d、圧力室85b、貫通孔84b、83bおよび82bにより形成される流路が該当する。
【0087】
また、請求項1記載の洗浄用液体の吐出孔と最上流インク吐出孔との距離は、複数の洗浄用液体の吐出孔2fのうち最も最上流インク吐出孔2e’に近い吐出口2fと最上流インク吐出孔2e’との間の距離Lが該当する。
【0088】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0089】
例えば、上記第1の実施形態では、ワイピング処理において、洗浄用液体の吐出孔2fから液体が吐出された後、ワイプブレード31が一定速度で記録ヘッド2上を移動するように構成したが、ワイパブレード31が、洗浄用液体の吐出孔2fと最上流インク吐出孔2e’との間を、インクの吐出面のインク吐出孔2eが形成された領域(最上流インク吐出孔2e’よりも下流の領域)を移動する速度より遅い速度で移動するようにしてもよい。
【0090】
こうすることにより、ワイパブレード31に洗浄液が触れてからインクの吐出面のインク吐出孔2eが形成された領域の払拭を開始するまでの時間をより長く確保することができるので、ワイパブレード31に付着した、増粘したインクを除去しやすくなる。
【0091】
また、ワイパブレード31が、洗浄用液体の吐出孔2fを通過した直後に一時停止し、停止してから所定時間が経過した後、インクの吐出面を払拭するようにしてもよい。こうすることにより、ワイパブレード31が停止している間に洗浄用液体によりワイパブレード31に付着する増粘したインクが除去されるため、記録ヘッド2の吐出面を汚すことをより防止することができる。
【0092】
また、ワイパブレード31が洗浄用液体の吐出孔2fに到達したとき、移動を停止し、停止しているワイパブレード31に、洗浄用液体を吐出するようにしてもよい。こうすることにより、ワイパブレード31に付着したインクを洗浄用液体によって洗い流すことができ、インクの除去効率を更に向上させることができる。
【0093】
また、上記第1の実施形態では、パージ用ポンプを駆動してインクを排出するパージ処理を行い、その後にワイパブレード31で記録ヘッド2の吐出面を払拭するワイピング処理を行っていたが、アクチュエータユニットを駆動して予備吐出処理(フラッシング処理)を行い、その後にワイピング処理を行ってもよい。
【0094】
この場合、まずは、ワイパーブレード31を洗浄用液体の吐出孔2fの近傍で停止させ、この状態で吐出孔2fから洗浄用液体を吐出して、洗浄用液体をワイパブレード31に十分なじますつつ、ワイパブレード31に付着したインクを除去する。次に、ワイパブレード31を矢印B方向に移動させて、複数のインク吐出孔2eを順に払拭するが、このとき、複数のインク吐出孔2eには、払拭される直前にインクを吐出するように、矢印B方向に向かって順に吐出を行わせる。これにより、パージ処理に比べてインク吐出量が少ない予備吐出処理においても、吐出したインクが乾燥する前に払拭することができるので、良好なワイピング処理を行うことができる。なお、インク吐出孔2eから予備吐出を行うタイミングは、吐出したインクがワイパブレード31の基端部に付着しない範囲で、できるだけワイピングされる直前に吐出するのが良い。
【0095】
また、上記第1の実施形態では、パージ処理が行われる際には、パージ用のポンプにより記録ヘッド2のインクが排出され、その後ワイピング処理が行われるものとしたが、第2の実施形態に示すように洗浄用液体の吐出孔81bに対応するアクチュエータを備え、フラッシングを行う際にも洗浄用液体の吐出孔81bから洗浄用液体を吐出し、その後、ワイピング処理を行うようにしてもよい。このフラッシング処理を行う場合にも、パージ処理と同様に、まず搬送装置3を下降させ、次にインク受容シート4を記録ヘッド2の下方に引き出し、インク吐出孔81aおよび洗浄用液体の吐出孔81bに対応して配置されているアクチュエータを駆動して、インクを吐出させることになる。よって、フラッシング処理により吐出されたインクは、インク受容シート4に落下し、収容される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の構成を概略的に示した斜視図である。
【図2】図1の矢印F方向から見たインクジェット記録装置の模式的な側面図である。
【図3】(a)は移動部材の平面図であり、(b)及び(c)は移動部材の側面図である。
【図4】インクヘッドの詳細を示す平面図である。
【図5】インクジェット記録装置の電気回路構成の概略を示すブロック図である。
【図6】(a)〜(c)は、図1の矢印G方向から見たインクジェット記録装置1の模式的な側面図であり、パージ処理におけるインク受容シートの動きを時系列に示す。
【図7】パージ処理を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における記録ヘッドの構成を示す断面図である。
【図9】従来の技術の問題点である記録ヘッドの状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 インクジェット記録装置
2 記録ヘッド
2e インク吐出孔
2e’ 最上流インク吐出孔
2f 洗浄用液体の吐出孔
31 ワイパブレード(払拭部材)
52 CPU(記録制御手段および回復制御手段)
55 ゲートアレイ(記録制御手段の一部)
81a インク吐出孔
81b 洗浄用液体の吐出孔
86 圧電シート(アクチュエータの一部)
87,89 駆動電極(アクチュエータの一部)
91 インク室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のインク吐出孔が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、その記録ヘッドを駆動してインク吐出孔からインクを吐出し記録媒体に記録する記録動作を制御する記録制御手段とを備えたインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドの一端側から他端側へ吐出面に接触して移動することにより吐出面を払拭する払拭部材と、
前記記録ヘッドの吐出面であって、前記払拭部材が払拭を開始する払拭開始位置とその払拭開始位置に最も近い位置に配置されている最上流インク吐出孔との間に配設され、インク吐出孔を洗浄するための液体を吐出する洗浄用液体の吐出孔と、
その洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させるとともに、前記払拭部材を前記記録ヘッドの吐出面に沿って移動させる回復制御手段とを備え、
前記洗浄用液体の吐出孔と前記最上流インク吐出孔との距離が、前記複数のインク吐出孔のうちの隣り合うインク吐出孔の間の距離よりも長い距離となる位置に、前記洗浄用液体の吐出孔が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記回復制御手段は、前記払拭部材が、前記記録ヘッドの吐出面の前記複数のインク吐出孔が形成された領域を移動する速度より遅い速度で前記洗浄用液体の吐出孔から前記最上流インク吐出孔までを移動するように制御するものであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記回復制御手段は、前記払拭部材が前記洗浄用液体の吐出孔から前記最上流インク吐出孔まで間で移動を停止し、その移動の停止から所定時間経過後に移動を開始して前記インク吐出孔を払拭するように前記払拭部材を制御するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記回復制御手段は、前記払拭部材が前記洗浄用液体の吐出孔の近傍で移動を停止し、その移動の停止中に前記洗浄用液体の吐出孔から液体を吐出させ、移動の停止から所定時間経過後に移動を開始して前記インク吐出孔を払拭するように前記払拭部材を制御するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記洗浄用液体の吐出孔から吐出される液体は、前記インク吐出孔から吐出されるインクと同一のインクであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドは、前記インク吐出孔にインクを供給するインク室と、前記洗浄用液体の吐出孔と前記インク室とを連通する連通路とを備えていることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドは、各インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応して配置されるアクチュエータを有し、
前記回復制御手段は、前記インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔に対応するアクチュエータを駆動することにより、前記インク吐出孔および洗浄用液体の吐出孔からインクを吐出させ、その後前記払拭部材が前記記録ヘッドを払拭するように前記払拭部材を制御するものであることを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−88617(P2006−88617A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279194(P2004−279194)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】