インクジェット記録装置
【課題】吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、これに接続されて吸引力を発生するポンプと、これらの間に設けられた開閉弁とを備え、弁を閉じた状態でポンプを駆動することにより圧力室を減圧し、キャップにより前記面を密閉した状態で弁を開放することで吐出口から前記インクを吸引させる処理を行うンクジェット記録装置において、吸引回復処理時に前記面に所定の負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障に起因した回復処理効率の低下およびインク浪費を防止する。
【解決手段】弁の開放に伴う圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急激に過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢に過ぎる第3の場合かの判定を行い、第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記処理を再度行うようにする。
【解決手段】弁の開放に伴う圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急激に過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢に過ぎる第3の場合かの判定を行い、第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記処理を再度行うようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、インクを吐出する記録ヘッドのインク吐出動作を良好な状態に維持または回復させるために、記録ヘッドからインクを吸引する処理を伴う回復処理機構を有するインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録中や待機中に記録ヘッドのノズル内あるいは吐出口の周りに増粘したインクや塵埃が溜まったり、ノズルが連通する記録ヘッド内の液室内やノズル近傍に泡が溜まったりすることで、吐出不良ひいては記録の乱れが発生する。そこでインクジェット記録装置においては、記録ヘッド内のインクを吐出口から強制的に排出させ、吐出不良(甚だしい場合にはノズルの詰まり)の要因となる増粘インク、塵埃および泡などを除去する処理が行われる。かかる強制排出の一形態として、吐出口が設けられた記録ヘッドの面(吐出面)をキャッピング可能なキャップ部材を設け、当該キャッピング状態においてポンプを駆動することにより吸引力を吐出面に作用させる吸引回復動作を行うものがある。これは、記録ヘッドのインク吐出面上に密閉空間を形成するキャップ部材を接合させ、ポンプを用いて密閉空間に大気圧未満の圧力(負圧)を作用させて吐出口よりインクを吸引することにより、吐出口内方のインクを強制排出させる処理である。
【0003】
特許文献1には、キャップ部材とポンプとの間に開閉弁および圧力室を設け、弁を閉じた状態としてポンプを駆動することにより圧力室内を所定の負圧状態とした後、弁を開放してその負圧を吐出面に作用させる技術が開示されている。この技術によれば、圧力室内の負圧ないしは吸引力を瞬時に吐出面に作用させることができることから、廃インク量を削減することが可能となるとされている。
【0004】
しかしながら、従来のインクジェット記録装置においては、ユーザは吸引回復処理を行った後に画像形成を行い、吸引回復処理の効果、すなわちインク吐出状態が良好な状態に回復されたことの確認を行うのが一般的である。その効果が確認されなければ再度吸引回復を行い、さらに画像形成および確認を行うことになる。従って、その効果が確認されるまで、吸引回復、画像形成および確認の作業を繰り返すことになるため、効率が良いとは言えず、インク消費量も増大するものであった。また、ポンプやキャップ部材などの部品が何らかの原因で故障していた場合には、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返すことになるため、さらなる効率の低下やインクの浪費をもたらすことになる。
【0005】
また特許文献1に開示された吸引回復方法においては、弁、圧力室およびポンプを可撓性チューブ等の接続部材で接続して吸引経路を形成しているが、弁を閉じてポンプを駆動し、圧力室内を所定負圧とすると、接続部材の変形(つぶれ)が発生してしまう。このため、弁を開放しても吐出面に本来作用させるべき十分な負圧が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−211720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような問題を解決すべくなされたものである。すなわち本発明は、吸引回復処理時に吐出面に所定の負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障に起因した回復処理効率の低下およびインク浪費を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明は、インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急激に過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢に過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記処理を再度行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸引回復処理時に吐出面に所定の負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障に起因した回復処理効率の低下およびインク浪費を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における吸引回復系の構成例を説明するための模式図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置における吸引機構の外観を示す斜視図である。
【図5】図4の吸引機構における吸引ポンプの週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。
【図6】図4の吸引機構における回復弁の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。
【図7】(a)は図6における一点鎖線を含む垂直面で吸引機構を破断した面を矢印VIIa方向から示した図、(b)は一点鎖線を含む水平面で吸引機構を破断した面を矢印VIIb方向から示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の回復処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図8の回復処理手順で行われる吸引回復処理の過程における圧力室減圧時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。
【図10】(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサの値を示すグラフである。
【図11】図10(c)の状態が生じた場合に本実施形態で行われる処理を説明するための圧力変化を示すグラフである。
【図12】本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の回復処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置12に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。これらの記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yは、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたインクの吐出口ないしノズルを有する所謂ラインヘッド形態のものである。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。また、以下の説明においては、色調を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。
【0013】
記録ヘッド22は、記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向およびA方向とは逆方向)に移動可能に保持されている。
【0014】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、吐出口が形成された記録ヘッド22の面(吐出面)22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の回復処理には、後述するように、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部品を有している。
【0015】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を図1の左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定させ、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を記録する印刷動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0016】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、カット紙やファンフォールド紙等の形態のものであってもよいことは勿論である。
【0017】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0018】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0019】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0020】
印刷前の処理動作としては、CPU100が出力ポート114および駆動部116を介して、キャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118とを駆動させ、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる動作がある。続いて、CPU100は、出力ポート114および駆動部116を介してロールモータ(不図示)を駆動させるとともに、搬送モータ26b等を駆動させる。なお、キャッピングモータ122は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源を、ヘッドアップダウンモータ118は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源を、搬送モータ26bは記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0021】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路112介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送する。
【0022】
プリンタ10には、所要の動作を行う前提となる状態検出を行うためにセンサ群130が設けられる。センサ群130には、上述した先端検知センサや、温度センサのほか、後述する圧力センサなどが含まれる。これらのセンサによる検知信号は、入力ポート132を介してCPU100に送信される。CPU100は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて各部を制御する。プログラムROM104には、図8について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM108は、CPU100による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。
【0023】
記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート114および駆動部116を介し、後述の吸引ポンプ201を駆動するための駆動源をなすポンプモータ124が駆動される。また、同じく後述する回復弁を含んだアクチュエータ部126が駆動される。
【0024】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22は各色のインクタンク28とチューブ209を介して接続されている。インクタンク28は大気と連通しており、記録ヘッド22のノズルにはインクタンクの液面とノズル位置との水頭差に対応した負圧が作用している。この負圧により、ノズルにはメニスカスが形成されている。
【0025】
図3は、記録ヘッド22に対してキャップ50を接合させた状態を示しており、この状態において吐出面22Sは実質的に密閉される。キャップ50は、接続路205a、回復弁203、接続路205b、圧力室202および接続路205cを介して吸引ポンプ201と接続されている。吸引ポンプ201の先には廃インクタンク204が設けられ、吸引回復動作に伴って発生した廃インクを貯留可能である。
【0026】
ここで、回復弁203は、接続路205aおよび205cの開閉すなわち接続(開放)/遮断(密閉)を行うべく作動可能なものである。さらに、圧力室202は所定容量(キャップ50が画成する空間の容量と接続路(205aおよび205b)の容量との和に対して十分大きい容量)を持つ。そして、吸引ポンプ201を駆動することで必要十分な大気圧未満への減圧状態を得る(負圧を溜める)ことができるようになっている。圧力室202には圧力センサ206が取付けられており、圧力室202の圧力を検知できる。なお、本実施形態においては、回復弁203、接続路205b、圧力室202、接続路205cおよび吸引ポンプ201は一体に構成されて吸引機構をなしている。なお、「負圧」とは大気圧(ゲージ圧)未満の圧力を言い、「負圧が高い(もしくは強い)」とは絶対圧でより0Paに近いことを、「負圧が低い(もしくは弱い)」とはよりゲージ圧に近いことを言うものとする。
【0027】
図4は一体のブロックとして構成された本実施形態に係る吸引機構の外観を示す斜視図、図5は吸引力を発生するための吸引ポンプ201の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。図6は回復弁203の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。図7(a)は図6における一点鎖線を含む垂直面で吸引機構を破断した面を矢印VIIa方向から示した図、図7(b)は一点鎖線を含む水平面で吸引機構を破断した面を矢印VIIb方向から示す図である。
【0028】
吸引ポンプ201は、図5に示すように、チューブポンプの形態を有する。すなわち吸引ポンプ201は、可撓性チューブ201aと、これを沿わせて保持する曲面が形成された部材201bと、その曲面に向けて可撓性チューブ201aを押圧可能なローラ201cと、ローラを支持して回転可能なローラ支持部201dとを有する。すなわち、ローラ支持部201dを図の時計方向に回転させることで、ローラ201cは曲面形成部材201b上で可撓性チューブ201aを押しつぶしながら転動し、圧力室202を加圧する。また、ローラ支持部201dを図の反時計方向に回転させることで、圧力室202を減圧する。チューブ201aの一端側は吸引機構内部に形成された接続路205cの一端に接続され、接続路205cの他端側は先端が開放された中空のボスの形状とされて、その先端部分が圧力室202内に位置づけられている。また、チューブ201aの他端側は吸引機構内部に形成された流路を介して廃インクタンク204に接続される。
【0029】
図6に示すように、回復弁203は、圧力室202に設けられた流路の一部に配設されており、弾性を有するゴム等で形成され、上述したアクチュエータ部126により作動される封止部材207を含んでいる。封止部材207は圧力室202に形成された接続路205aの一部をなす流路208および接続路205bを取り囲むように取り付けられている。そして、封止部材207を図6の矢印方向に上昇させることで流路208および接続路205bの接続(回復弁203の開放)を行う一方、封止部材207を図示のように下降させることで流路208および接続路205bの遮断(回復弁203の密閉)を行う。
【0030】
図7(a)および(b)に示すように、流路208は圧力室202内に延在して設けられた穴形状を有し、圧力室202の外壁部分においてボール状の封止部材208aにより封止される一方、その途中から、先端が開放された中空のボスの形状として分岐している。そして、そのボス208bの先端部分が、例えば可撓性のチューブ(接続路205aの残部)を介してキャップ50に接続される。
【0031】
以上のように、本実施形態においては、回復弁203、圧力室202および吸引ポンプ201が可撓性のチューブ等の接続部材を介して連結されるのではなく、これらが1つのブロックとして一体的に構成されている。このため、接続部材の変形(つぶれ)が発生することなく、後述する処理において吐出口に付与される負圧の安定化が図ることが可能となる。
【0032】
(回復処理)
図8〜図11を用いて本実施形態の回復処理を説明する。
【0033】
図8は本発明の一実施形態に係るプリンタ10の回復処理手順を示すフローチャートである。また、図9は吸引回復処理の過程における圧力室減圧時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。ここで、この図における「圧力正常範囲」および「圧力異常範囲」とは、それぞれ、吸引回復のための所要の負圧が確保されている状態および確保されていない状態を示している。
【0034】
また、図10(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。ここで、同図(a)はインク吸引の開始後に圧力室202の圧力が所望通りに上昇している(負圧が所望通りに大気圧に近づいている)ことで、吸引回復が正常に行われる場合(第1の場合)である。これに対し、(b)はインク吸引の開始後(回復弁203の開放後)における圧力室202の圧力の上昇が急速過ぎる(負圧の低下が急速過ぎる)場合(第2の場合)である。(c)は逆に、圧力室202の圧力上昇が緩慢過ぎる(負圧の低下が緩慢過ぎる)場合(第3の場合)である。第1の場合か、第2の場合か、あるいは第3の場合かは、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力室202の内部の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)を検出することで判定することができる。すなわち、当該検出値が所定の範囲(圧力正常範囲)にあるか、より大気気圧に近い範囲(正圧側圧力異常範囲)にあるか、あるいは圧力正常範囲よりも負圧が高い範囲(負圧側圧力異常範囲)にあるかに基づいて判定することができる。なお、このように第1〜第3の場合を判定するに際し、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力値がどの範囲にあるかの判定に基づいて行う代わりに、回復弁203の開放後の圧力の変化もしくは変化曲線に基づいて判定を行うことも可能である。
【0035】
さらに、図11は図10(c)の状態が生じた場合に本実施形態で行われる処理を説明するための圧力変化を示すグラフ(圧力検出値)である。
【0036】
図8を参照するに、回復処理が開始されると、CPU100は、まず記録ヘッド22とキャップ50とを相対移動させ、吐出面22Sにキャップ50を施した状態とする(ステップS1)。次にCPU100は、接続路205aおよび205cの遮断を行うべく回復弁203を作動させ(ステップS3)、吸引ポンプ201を所定時間駆動した後に停止させる(ステップS5)。
【0037】
次に、CPU100は、その停止時点での圧力センサ206の検出値(第1の圧力)を読み取り、さらに所定時間経過した後に再度圧力センサ206の検出値(第2の圧力)を読み取って、両検出値を比較する(ステップS7)。ここで、両検出値の比較によって圧力室202の圧力が所定時間維持されているとCPU100が判定しなかった場合には、CPU100は装置を停止させ、その旨の報知ないし警告を行う(ステップS9)。これは、接続路や圧力室の接続不良あるいは破損により、必要な負圧状態を維持できなくなっている(大気の進入により圧力が上昇している)可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0038】
一方、圧力室202の圧力が所定時間維持されているとCPU100が判定した場合にはステップS11に進み、CPU100は圧力値が十分な負圧状態となっていることを示しているか否かを判定する。ここで十分な負圧状態となっていない場合(図9の破線で示す場合)にはステップS13に進み、CPU100は吸引ポンプ201を所定時間駆動した後に停止させて、ステップS7およびS11の手順を繰り返し、圧力室202が十分な負圧状態となるようにする。なお、所定回数(例えば3回)、ステップS11にて十分な負圧状態となっていないとCPU100が判定した場合にはステップS9に移行し、報知ないし警告を行うようにすることができる。これは、吸引ポンプ201の故障や劣化によって、吸引ポンプ201に極端な能力低下が生じている可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0039】
ステップS11にて、図9の実線で示すように圧力室202が十分な負圧状態となっていることをCPU100が確認した場合および図9の破線で示すようにステップS7およびS11の手順の繰り返しによって十分な負圧状態が得られた場合にはステップS15に進む。ステップS15において、CPU100は回復弁203を開放させ、これに伴って、記録ヘッド22の吸引回復を実行させる。このようにすることで、圧力室202の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)は大気圧に向けて上昇して(負圧が低下して)ゆく。そして、回復弁203の開放から圧力室202の圧力が上昇して行く過程の所定時間sの経過後、CPU100は、圧力センサ206の検出値を読み取り、その値についての判定を行う。ここで、図10(a)に示すように、所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲にある場合には、CPU100はそのまま吸引回復処理を継続させ、その後ワイピング動作(S19)および予備吐出動作(ステップS21)を実行させて本手順を終了する。
【0040】
また、図10(b)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が所定の正常範囲にない場合(正圧側圧力異常範囲にある場合)にはステップS9に進み、CPU100は、装置を停止して報知ないし警告を行う。これは、接続路や圧力室への大気の進入により、圧力が急速に上昇している可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0041】
さらに、図10(c)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲内にまで上昇していない場合(負圧側圧力異常範囲にある場合)には、CPU100は、ステップS23〜S29の処理を実行する。このような場合は、ノズルに詰まり等が発生して吸引に対する抵抗が大きくなっているような状態で発生する。そこで、CPU100は、回復弁203を密閉させ(ステップS23)、吸引ポンプ201を所定時間駆動させた後に停止させ(ステップS25)、ステップS27にて圧力室202の圧力を検出し、所要の負圧が得られているかを判定する。この所要の負圧とは、ノズルの詰まりを解消するに十分な値であり、図11に示すように、圧力室202の負圧がステップS11で設定したものより強くなるように設定しておくことができる。そして、当該所要の負圧が得られている場合には、CPU100は、ステップS29にて回復弁203を開放させてインク吸引を実施させてから、ステップS19に移行する一方、当該所要の負圧が得られていない場合にはステップS25に復帰する。なお、CPU100が、所定回数(例えば3回)、ステップS27にて所要の負圧状態となっていないと判定した場合にはステップS9に移行し、CPU100は、その旨の報知ないし警告を行う。これは、上記所要負圧の作用によって接続路や圧力室への大気の進入により圧力が急速に上昇している可能性が高いためである。
【0042】
(その他の実施形態)
上述した実施形態においては、図10(c)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲内にまで上昇していない場合には、CPU100がステップS23〜S29の処理を所定回数実行するようにした。すなわち、CPU100が回復弁203を遮断状態とし、吸引ポンプ201を所定時間駆動させた後に圧力室202の圧力を検出し、所要の負圧が得られているかを判定し、肯定判定をしたら回復弁203を開放させ(ステップS29)、インクの吸引を再開するようにした。しかしながら、図8の処理手順を次のように変更することもできる。
【0043】
図12はかかる図8の処理手順の変形例を示すフローチャートであり、図8と同様の処理を行うステップに対して同じ参照符号を付してある。本手順においては、ステップS27において所要の負圧状態となっていることが判定された場合には、CPU100は、ステップS15に復帰して回復弁203を開放させ、所定時間の経過後に圧力値の判定処理(ステップS17)を実施する。ただし、この場合に圧力室202に設定する負圧は、上例と同様、ノズルの詰まりを解消するに十分な所要の負圧(ステップS11で設定したものより強い負圧)であることが好ましい。また、この際の圧力正常範囲および圧力異常範囲はステップS11で設定した圧力正常範囲および圧力異常範囲と異なっている場合が考えられる。従って、予め圧力室202に溜められた所要の負圧に対する回復弁203開放後の所定時間経過後の圧力(圧力正常範囲および圧力異常範囲)をCPU100が見極め、それに基づいてCPU100が判定を行うことが強く望ましい。
【0044】
また、以上述べた実施形態において、CPU100がステップS27にて所要の負圧が得られていることを確認した場合、CPU100は回復弁203を開放させてから所定時間経過後に圧力判定を行い、圧力が正常範囲内にあるか、または負圧側圧力異常範囲にあるかを判定することができる。そして後者の場合には、ワイピングおよび予備吐出を行い、ノズルの詰まりの要因をとなり得るものをできるだけ取り除いてから、吸引処理を行うようにすることができる。またこれに代えて、あるいはこれとともに、かかる吸引処理を複数回行っても負圧側圧力異常範囲にあることが判定された場合には、解消ができない程の強固なノズルの詰まりが発生している可能性が高いため、装置を停止してその旨の報知を行うこともできる。
【0045】
さらに、以上の実施形態においては、1つの記録ヘッド22に対して回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インクタンク204を含む吸引回復系を設けた構成について説明した。しかし図1のように、複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した吸引回復系を設けるようにしてもよい。
【0046】
加えて、上例ではK、C、MおよびYのインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yを用いる構成について説明したが、記録ヘッドの個数や色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などは適宜定め得るものである。
【0047】
さらに加えて、上例では所謂ラインプリンタ形態の印刷装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体搬送方向に対して交差する方向に記録ヘッドを移動させ、その過程でインク吐出を行うことにより記録を行う所謂シリアルプリンタ形態の記録装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
50 キャップ
201 吸引ポンプ
202 圧力室
203 回復弁
204 廃インクタンク
205a、205b、205c 接続路
206 圧力センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、インクを吐出する記録ヘッドのインク吐出動作を良好な状態に維持または回復させるために、記録ヘッドからインクを吸引する処理を伴う回復処理機構を有するインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録中や待機中に記録ヘッドのノズル内あるいは吐出口の周りに増粘したインクや塵埃が溜まったり、ノズルが連通する記録ヘッド内の液室内やノズル近傍に泡が溜まったりすることで、吐出不良ひいては記録の乱れが発生する。そこでインクジェット記録装置においては、記録ヘッド内のインクを吐出口から強制的に排出させ、吐出不良(甚だしい場合にはノズルの詰まり)の要因となる増粘インク、塵埃および泡などを除去する処理が行われる。かかる強制排出の一形態として、吐出口が設けられた記録ヘッドの面(吐出面)をキャッピング可能なキャップ部材を設け、当該キャッピング状態においてポンプを駆動することにより吸引力を吐出面に作用させる吸引回復動作を行うものがある。これは、記録ヘッドのインク吐出面上に密閉空間を形成するキャップ部材を接合させ、ポンプを用いて密閉空間に大気圧未満の圧力(負圧)を作用させて吐出口よりインクを吸引することにより、吐出口内方のインクを強制排出させる処理である。
【0003】
特許文献1には、キャップ部材とポンプとの間に開閉弁および圧力室を設け、弁を閉じた状態としてポンプを駆動することにより圧力室内を所定の負圧状態とした後、弁を開放してその負圧を吐出面に作用させる技術が開示されている。この技術によれば、圧力室内の負圧ないしは吸引力を瞬時に吐出面に作用させることができることから、廃インク量を削減することが可能となるとされている。
【0004】
しかしながら、従来のインクジェット記録装置においては、ユーザは吸引回復処理を行った後に画像形成を行い、吸引回復処理の効果、すなわちインク吐出状態が良好な状態に回復されたことの確認を行うのが一般的である。その効果が確認されなければ再度吸引回復を行い、さらに画像形成および確認を行うことになる。従って、その効果が確認されるまで、吸引回復、画像形成および確認の作業を繰り返すことになるため、効率が良いとは言えず、インク消費量も増大するものであった。また、ポンプやキャップ部材などの部品が何らかの原因で故障していた場合には、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返すことになるため、さらなる効率の低下やインクの浪費をもたらすことになる。
【0005】
また特許文献1に開示された吸引回復方法においては、弁、圧力室およびポンプを可撓性チューブ等の接続部材で接続して吸引経路を形成しているが、弁を閉じてポンプを駆動し、圧力室内を所定負圧とすると、接続部材の変形(つぶれ)が発生してしまう。このため、弁を開放しても吐出面に本来作用させるべき十分な負圧が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−211720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような問題を解決すべくなされたものである。すなわち本発明は、吸引回復処理時に吐出面に所定の負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障に起因した回復処理効率の低下およびインク浪費を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明は、インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急激に過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢に過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記処理を再度行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸引回復処理時に吐出面に所定の負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障に起因した回復処理効率の低下およびインク浪費を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における吸引回復系の構成例を説明するための模式図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置における吸引機構の外観を示す斜視図である。
【図5】図4の吸引機構における吸引ポンプの週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。
【図6】図4の吸引機構における回復弁の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。
【図7】(a)は図6における一点鎖線を含む垂直面で吸引機構を破断した面を矢印VIIa方向から示した図、(b)は一点鎖線を含む水平面で吸引機構を破断した面を矢印VIIb方向から示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の回復処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図8の回復処理手順で行われる吸引回復処理の過程における圧力室減圧時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。
【図10】(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサの値を示すグラフである。
【図11】図10(c)の状態が生じた場合に本実施形態で行われる処理を説明するための圧力変化を示すグラフである。
【図12】本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の回復処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置12に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。これらの記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yは、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたインクの吐出口ないしノズルを有する所謂ラインヘッド形態のものである。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。また、以下の説明においては、色調を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。
【0013】
記録ヘッド22は、記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向およびA方向とは逆方向)に移動可能に保持されている。
【0014】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、吐出口が形成された記録ヘッド22の面(吐出面)22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の回復処理には、後述するように、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部品を有している。
【0015】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を図1の左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定させ、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を記録する印刷動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0016】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、カット紙やファンフォールド紙等の形態のものであってもよいことは勿論である。
【0017】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0018】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0019】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0020】
印刷前の処理動作としては、CPU100が出力ポート114および駆動部116を介して、キャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118とを駆動させ、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる動作がある。続いて、CPU100は、出力ポート114および駆動部116を介してロールモータ(不図示)を駆動させるとともに、搬送モータ26b等を駆動させる。なお、キャッピングモータ122は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源を、ヘッドアップダウンモータ118は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源を、搬送モータ26bは記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0021】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路112介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送する。
【0022】
プリンタ10には、所要の動作を行う前提となる状態検出を行うためにセンサ群130が設けられる。センサ群130には、上述した先端検知センサや、温度センサのほか、後述する圧力センサなどが含まれる。これらのセンサによる検知信号は、入力ポート132を介してCPU100に送信される。CPU100は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて各部を制御する。プログラムROM104には、図8について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM108は、CPU100による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。
【0023】
記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート114および駆動部116を介し、後述の吸引ポンプ201を駆動するための駆動源をなすポンプモータ124が駆動される。また、同じく後述する回復弁を含んだアクチュエータ部126が駆動される。
【0024】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22は各色のインクタンク28とチューブ209を介して接続されている。インクタンク28は大気と連通しており、記録ヘッド22のノズルにはインクタンクの液面とノズル位置との水頭差に対応した負圧が作用している。この負圧により、ノズルにはメニスカスが形成されている。
【0025】
図3は、記録ヘッド22に対してキャップ50を接合させた状態を示しており、この状態において吐出面22Sは実質的に密閉される。キャップ50は、接続路205a、回復弁203、接続路205b、圧力室202および接続路205cを介して吸引ポンプ201と接続されている。吸引ポンプ201の先には廃インクタンク204が設けられ、吸引回復動作に伴って発生した廃インクを貯留可能である。
【0026】
ここで、回復弁203は、接続路205aおよび205cの開閉すなわち接続(開放)/遮断(密閉)を行うべく作動可能なものである。さらに、圧力室202は所定容量(キャップ50が画成する空間の容量と接続路(205aおよび205b)の容量との和に対して十分大きい容量)を持つ。そして、吸引ポンプ201を駆動することで必要十分な大気圧未満への減圧状態を得る(負圧を溜める)ことができるようになっている。圧力室202には圧力センサ206が取付けられており、圧力室202の圧力を検知できる。なお、本実施形態においては、回復弁203、接続路205b、圧力室202、接続路205cおよび吸引ポンプ201は一体に構成されて吸引機構をなしている。なお、「負圧」とは大気圧(ゲージ圧)未満の圧力を言い、「負圧が高い(もしくは強い)」とは絶対圧でより0Paに近いことを、「負圧が低い(もしくは弱い)」とはよりゲージ圧に近いことを言うものとする。
【0027】
図4は一体のブロックとして構成された本実施形態に係る吸引機構の外観を示す斜視図、図5は吸引力を発生するための吸引ポンプ201の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。図6は回復弁203の週辺の構成を示すために吸引機構の一部を破断して示す斜視図である。図7(a)は図6における一点鎖線を含む垂直面で吸引機構を破断した面を矢印VIIa方向から示した図、図7(b)は一点鎖線を含む水平面で吸引機構を破断した面を矢印VIIb方向から示す図である。
【0028】
吸引ポンプ201は、図5に示すように、チューブポンプの形態を有する。すなわち吸引ポンプ201は、可撓性チューブ201aと、これを沿わせて保持する曲面が形成された部材201bと、その曲面に向けて可撓性チューブ201aを押圧可能なローラ201cと、ローラを支持して回転可能なローラ支持部201dとを有する。すなわち、ローラ支持部201dを図の時計方向に回転させることで、ローラ201cは曲面形成部材201b上で可撓性チューブ201aを押しつぶしながら転動し、圧力室202を加圧する。また、ローラ支持部201dを図の反時計方向に回転させることで、圧力室202を減圧する。チューブ201aの一端側は吸引機構内部に形成された接続路205cの一端に接続され、接続路205cの他端側は先端が開放された中空のボスの形状とされて、その先端部分が圧力室202内に位置づけられている。また、チューブ201aの他端側は吸引機構内部に形成された流路を介して廃インクタンク204に接続される。
【0029】
図6に示すように、回復弁203は、圧力室202に設けられた流路の一部に配設されており、弾性を有するゴム等で形成され、上述したアクチュエータ部126により作動される封止部材207を含んでいる。封止部材207は圧力室202に形成された接続路205aの一部をなす流路208および接続路205bを取り囲むように取り付けられている。そして、封止部材207を図6の矢印方向に上昇させることで流路208および接続路205bの接続(回復弁203の開放)を行う一方、封止部材207を図示のように下降させることで流路208および接続路205bの遮断(回復弁203の密閉)を行う。
【0030】
図7(a)および(b)に示すように、流路208は圧力室202内に延在して設けられた穴形状を有し、圧力室202の外壁部分においてボール状の封止部材208aにより封止される一方、その途中から、先端が開放された中空のボスの形状として分岐している。そして、そのボス208bの先端部分が、例えば可撓性のチューブ(接続路205aの残部)を介してキャップ50に接続される。
【0031】
以上のように、本実施形態においては、回復弁203、圧力室202および吸引ポンプ201が可撓性のチューブ等の接続部材を介して連結されるのではなく、これらが1つのブロックとして一体的に構成されている。このため、接続部材の変形(つぶれ)が発生することなく、後述する処理において吐出口に付与される負圧の安定化が図ることが可能となる。
【0032】
(回復処理)
図8〜図11を用いて本実施形態の回復処理を説明する。
【0033】
図8は本発明の一実施形態に係るプリンタ10の回復処理手順を示すフローチャートである。また、図9は吸引回復処理の過程における圧力室減圧時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。ここで、この図における「圧力正常範囲」および「圧力異常範囲」とは、それぞれ、吸引回復のための所要の負圧が確保されている状態および確保されていない状態を示している。
【0034】
また、図10(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。ここで、同図(a)はインク吸引の開始後に圧力室202の圧力が所望通りに上昇している(負圧が所望通りに大気圧に近づいている)ことで、吸引回復が正常に行われる場合(第1の場合)である。これに対し、(b)はインク吸引の開始後(回復弁203の開放後)における圧力室202の圧力の上昇が急速過ぎる(負圧の低下が急速過ぎる)場合(第2の場合)である。(c)は逆に、圧力室202の圧力上昇が緩慢過ぎる(負圧の低下が緩慢過ぎる)場合(第3の場合)である。第1の場合か、第2の場合か、あるいは第3の場合かは、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力室202の内部の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)を検出することで判定することができる。すなわち、当該検出値が所定の範囲(圧力正常範囲)にあるか、より大気気圧に近い範囲(正圧側圧力異常範囲)にあるか、あるいは圧力正常範囲よりも負圧が高い範囲(負圧側圧力異常範囲)にあるかに基づいて判定することができる。なお、このように第1〜第3の場合を判定するに際し、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力値がどの範囲にあるかの判定に基づいて行う代わりに、回復弁203の開放後の圧力の変化もしくは変化曲線に基づいて判定を行うことも可能である。
【0035】
さらに、図11は図10(c)の状態が生じた場合に本実施形態で行われる処理を説明するための圧力変化を示すグラフ(圧力検出値)である。
【0036】
図8を参照するに、回復処理が開始されると、CPU100は、まず記録ヘッド22とキャップ50とを相対移動させ、吐出面22Sにキャップ50を施した状態とする(ステップS1)。次にCPU100は、接続路205aおよび205cの遮断を行うべく回復弁203を作動させ(ステップS3)、吸引ポンプ201を所定時間駆動した後に停止させる(ステップS5)。
【0037】
次に、CPU100は、その停止時点での圧力センサ206の検出値(第1の圧力)を読み取り、さらに所定時間経過した後に再度圧力センサ206の検出値(第2の圧力)を読み取って、両検出値を比較する(ステップS7)。ここで、両検出値の比較によって圧力室202の圧力が所定時間維持されているとCPU100が判定しなかった場合には、CPU100は装置を停止させ、その旨の報知ないし警告を行う(ステップS9)。これは、接続路や圧力室の接続不良あるいは破損により、必要な負圧状態を維持できなくなっている(大気の進入により圧力が上昇している)可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0038】
一方、圧力室202の圧力が所定時間維持されているとCPU100が判定した場合にはステップS11に進み、CPU100は圧力値が十分な負圧状態となっていることを示しているか否かを判定する。ここで十分な負圧状態となっていない場合(図9の破線で示す場合)にはステップS13に進み、CPU100は吸引ポンプ201を所定時間駆動した後に停止させて、ステップS7およびS11の手順を繰り返し、圧力室202が十分な負圧状態となるようにする。なお、所定回数(例えば3回)、ステップS11にて十分な負圧状態となっていないとCPU100が判定した場合にはステップS9に移行し、報知ないし警告を行うようにすることができる。これは、吸引ポンプ201の故障や劣化によって、吸引ポンプ201に極端な能力低下が生じている可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0039】
ステップS11にて、図9の実線で示すように圧力室202が十分な負圧状態となっていることをCPU100が確認した場合および図9の破線で示すようにステップS7およびS11の手順の繰り返しによって十分な負圧状態が得られた場合にはステップS15に進む。ステップS15において、CPU100は回復弁203を開放させ、これに伴って、記録ヘッド22の吸引回復を実行させる。このようにすることで、圧力室202の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)は大気圧に向けて上昇して(負圧が低下して)ゆく。そして、回復弁203の開放から圧力室202の圧力が上昇して行く過程の所定時間sの経過後、CPU100は、圧力センサ206の検出値を読み取り、その値についての判定を行う。ここで、図10(a)に示すように、所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲にある場合には、CPU100はそのまま吸引回復処理を継続させ、その後ワイピング動作(S19)および予備吐出動作(ステップS21)を実行させて本手順を終了する。
【0040】
また、図10(b)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が所定の正常範囲にない場合(正圧側圧力異常範囲にある場合)にはステップS9に進み、CPU100は、装置を停止して報知ないし警告を行う。これは、接続路や圧力室への大気の進入により、圧力が急速に上昇している可能性が高いためである。これにより、十分な吸引回復の効果が得られないまま画像形成および確認の作業を繰り返す不都合が回避され、効率の低下やインクの浪費をもたらすことがなくなる。
【0041】
さらに、図10(c)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲内にまで上昇していない場合(負圧側圧力異常範囲にある場合)には、CPU100は、ステップS23〜S29の処理を実行する。このような場合は、ノズルに詰まり等が発生して吸引に対する抵抗が大きくなっているような状態で発生する。そこで、CPU100は、回復弁203を密閉させ(ステップS23)、吸引ポンプ201を所定時間駆動させた後に停止させ(ステップS25)、ステップS27にて圧力室202の圧力を検出し、所要の負圧が得られているかを判定する。この所要の負圧とは、ノズルの詰まりを解消するに十分な値であり、図11に示すように、圧力室202の負圧がステップS11で設定したものより強くなるように設定しておくことができる。そして、当該所要の負圧が得られている場合には、CPU100は、ステップS29にて回復弁203を開放させてインク吸引を実施させてから、ステップS19に移行する一方、当該所要の負圧が得られていない場合にはステップS25に復帰する。なお、CPU100が、所定回数(例えば3回)、ステップS27にて所要の負圧状態となっていないと判定した場合にはステップS9に移行し、CPU100は、その旨の報知ないし警告を行う。これは、上記所要負圧の作用によって接続路や圧力室への大気の進入により圧力が急速に上昇している可能性が高いためである。
【0042】
(その他の実施形態)
上述した実施形態においては、図10(c)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲内にまで上昇していない場合には、CPU100がステップS23〜S29の処理を所定回数実行するようにした。すなわち、CPU100が回復弁203を遮断状態とし、吸引ポンプ201を所定時間駆動させた後に圧力室202の圧力を検出し、所要の負圧が得られているかを判定し、肯定判定をしたら回復弁203を開放させ(ステップS29)、インクの吸引を再開するようにした。しかしながら、図8の処理手順を次のように変更することもできる。
【0043】
図12はかかる図8の処理手順の変形例を示すフローチャートであり、図8と同様の処理を行うステップに対して同じ参照符号を付してある。本手順においては、ステップS27において所要の負圧状態となっていることが判定された場合には、CPU100は、ステップS15に復帰して回復弁203を開放させ、所定時間の経過後に圧力値の判定処理(ステップS17)を実施する。ただし、この場合に圧力室202に設定する負圧は、上例と同様、ノズルの詰まりを解消するに十分な所要の負圧(ステップS11で設定したものより強い負圧)であることが好ましい。また、この際の圧力正常範囲および圧力異常範囲はステップS11で設定した圧力正常範囲および圧力異常範囲と異なっている場合が考えられる。従って、予め圧力室202に溜められた所要の負圧に対する回復弁203開放後の所定時間経過後の圧力(圧力正常範囲および圧力異常範囲)をCPU100が見極め、それに基づいてCPU100が判定を行うことが強く望ましい。
【0044】
また、以上述べた実施形態において、CPU100がステップS27にて所要の負圧が得られていることを確認した場合、CPU100は回復弁203を開放させてから所定時間経過後に圧力判定を行い、圧力が正常範囲内にあるか、または負圧側圧力異常範囲にあるかを判定することができる。そして後者の場合には、ワイピングおよび予備吐出を行い、ノズルの詰まりの要因をとなり得るものをできるだけ取り除いてから、吸引処理を行うようにすることができる。またこれに代えて、あるいはこれとともに、かかる吸引処理を複数回行っても負圧側圧力異常範囲にあることが判定された場合には、解消ができない程の強固なノズルの詰まりが発生している可能性が高いため、装置を停止してその旨の報知を行うこともできる。
【0045】
さらに、以上の実施形態においては、1つの記録ヘッド22に対して回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インクタンク204を含む吸引回復系を設けた構成について説明した。しかし図1のように、複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した吸引回復系を設けるようにしてもよい。
【0046】
加えて、上例ではK、C、MおよびYのインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yを用いる構成について説明したが、記録ヘッドの個数や色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などは適宜定め得るものである。
【0047】
さらに加えて、上例では所謂ラインプリンタ形態の印刷装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体搬送方向に対して交差する方向に記録ヘッドを移動させ、その過程でインク吐出を行うことにより記録を行う所謂シリアルプリンタ形態の記録装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
50 キャップ
201 吸引ポンプ
202 圧力室
203 回復弁
204 廃インクタンク
205a、205b、205c 接続路
206 圧力センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急速過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には再度、前記処理を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記弁を開放してから所定時間が経過したときの前記圧力に基づいて前記判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第3の場合であると判定した場合には前記圧力室をより大きく減圧して前記処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記面をワイピングするワイピング手段と、前記キャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を行わせる予備吐出手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記第3の場合であると判定した場合には、前記ワイピングおよび前記予備吐出動作を行ってから前記処理を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記弁を密閉して前記ポンプを所定時間駆動した後にこれを停止した時点の前記圧力室の第1の圧力と、当該時点から前記弁を開放する前の所定時間経過した後の前記圧力室の第2の圧力とを比較し、該第2の圧力が前記第1の圧力に維持されているか否かを判定し、
当該維持がなされていなかった場合には警告を行い、
前記維持が行なわれていた場合には、前記圧力室が前記処理を行うのに十分な減圧状態となっているか否かを判定し、当該十分な減圧状態となっていない場合には、再度、前記ポンプを所定時間駆動した後にこれを停止し、前記比較および前記維持の判定を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記弁、前記圧力室および前記ポンプは、これらの間の流路を含めて、一体に構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記弁は、前記圧力室に形成された流路に配設されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記ポンプはチューブポンプの形態を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急速過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には再度、前記処理を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記弁を開放してから所定時間が経過したときの前記圧力に基づいて前記判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第3の場合であると判定した場合には前記圧力室をより大きく減圧して前記処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記面をワイピングするワイピング手段と、前記キャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を行わせる予備吐出手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記第3の場合であると判定した場合には、前記ワイピングおよび前記予備吐出動作を行ってから前記処理を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記弁を密閉して前記ポンプを所定時間駆動した後にこれを停止した時点の前記圧力室の第1の圧力と、当該時点から前記弁を開放する前の所定時間経過した後の前記圧力室の第2の圧力とを比較し、該第2の圧力が前記第1の圧力に維持されているか否かを判定し、
当該維持がなされていなかった場合には警告を行い、
前記維持が行なわれていた場合には、前記圧力室が前記処理を行うのに十分な減圧状態となっているか否かを判定し、当該十分な減圧状態となっていない場合には、再度、前記ポンプを所定時間駆動した後にこれを停止し、前記比較および前記維持の判定を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記弁、前記圧力室および前記ポンプは、これらの間の流路を含めて、一体に構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記弁は、前記圧力室に形成された流路に配設されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記ポンプはチューブポンプの形態を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【公開番号】特開2012−96492(P2012−96492A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247775(P2010−247775)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
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