説明

インドメタシン含有ナノカプセルおよびその製造方法

【課題】インドメタシンを皮膚から筋膜まで効率的に到達させることができるインドメタシン含有ナノカプセルおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】インドメタシンの塩および非イオン性界面活性剤から構成される球状ミセルの表面にカルシウムイオンを結合させ、さらに炭酸イオンを結合させる。以上の手順により、インドメタシンの塩を含む球状ミセルの表面に炭酸カルシウムの皮膜を形成してインドメタシン含有ナノカプセルを作製することができる。このようにして得られたインドメタシン含有ナノカプセルは、生体組織への浸透性が高いだけでなく、徐放性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドメタシン含有ナノカプセルおよびその製造方法、ならびにインドメタシン含有ナノカプセルを含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インドメタシンは、非ステロイド系抗炎症剤の一つであり、優れた消炎鎮痛効果を有する。インドメタシンは、医療用医薬品の外用剤としては、変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛などの消炎・鎮痛に用いられており、一般用医薬品の外用剤としては、筋肉痛、肩こりに伴う肩の痛み、腰痛、関節痛、腱鞘炎、肘の痛み、打撲、捻挫に対して用いられている。インドメタシンを含む外用剤の剤形としては、軟膏剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、経皮投与により薬剤を筋膜まで効率よく到達させることは困難であると考えられている。皮膚表面(角質層)から表皮および真皮を介して脂肪層に至るまでの薬剤の伝達は、薬剤の物理化学的物性に大きく依存しており、そのほとんどは自己拡散によるものである。インドメタシンを含む非ステロイド系抗炎症剤は、分子が比較的コンパクトなコンフォメーションをとり、かつ両親媒性であることから、自己拡散しやすい薬剤であると考えられている。しかしながら、実際は、インドメタシンの皮膚表面(角質層)からの吸収性は著しく低く、インドメタシンを高配合した外用剤(例えば親水軟膏)を調製しても抗炎症効果を十分に発揮させることができなかった。
【特許文献1】特開2008−105986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、インドメタシンは、親水軟膏などに分散させて皮膚外用剤として使用されてきたが、インドメタシンをそのまま含む外用剤を皮膚に塗布しても筋膜まで効率的に到達させることができず、抗炎症効果を十分に発揮させることができなかった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、インドメタシンを皮膚から筋膜まで効率的に到達させることができるインドメタシン含有ナノカプセルおよびその製造方法、ならびに前記インドメタシン含有ナノカプセルを含む皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、インドメタシンがミセルを形成しうること、およびインドメタシンのミセルの表面に金属無機塩の皮膜を形成することで皮膚からの吸収性に優れたインドメタシン含有ナノカプセルを作製しうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一は、以下のインドメタシン含有ナノカプセルに関する。
[1]インドメタシンの会合体と、前記会合体を被包し、2価金属無機塩を含む皮膜と、を有する、インドメタシン含有ナノカプセル。
[2]前記2価金属無機塩は炭酸カルシウムである、[1]に記載のインドメタシン含有ナノカプセル。
[3]非イオン性界面活性剤をさらに有し、前記非イオン性界面活性剤の親水基の一部は、前記皮膜の外部に露出している、[1]または[2]に記載のインドメタシン含有ナノカプセル。
【0008】
また、本発明の第二は、以下の皮膚外用剤に関する。
[4]分散媒と、前記分散媒に分散している[1]〜[3]に記載のインドメタシン含有ナノカプセルと、を含む皮膚外用剤。
[5]外用消炎鎮痛剤である、[4]に記載の皮膚外用剤。
[6]軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤またはエアゾール剤である、[4]または[5]に記載の皮膚外用剤。
【0009】
また、本発明の第三は、以下のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法に関する。
[7]インドメタシンの塩のミセルを含む水溶液を準備するステップと、前記水溶液に2価金属塩を添加するステップと、前記2価金属塩を添加した水溶液に2価以上の陰イオンを有する塩を添加するステップと、を有するインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
[8]前記2価金属塩は塩化カルシウムである、[7]に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
[9]前記2価以上の陰イオンを有する塩は炭酸ナトリウムである、[7]または[8]に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
[10]前記2価金属塩と前記2価以上の陰イオンを有する塩とのモル比は、1:0.05〜0.33である、[7]〜[9]のいずれかに記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
[11]前記ミセルを含む水溶液を準備するステップの後、かつ前記2価金属塩を添加するステップの前に、前記水溶液に非イオン性界面活性剤を添加するステップをさらに有する、[7]〜[10]のいずれかに記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインドメタシン含有ナノカプセルは、生体組織への浸透性が高く、かつ徐放性を有する。したがって、本発明によれば、インドメタシンを皮膚から筋膜まで効率的に到達させて、患部において抗炎症効果を十分に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.本発明のインドメタシン含有ナノカプセル
本発明のインドメタシン含有ナノカプセルは、インドメタシンの会合体を内包する略球状の粒子であって、インドメタシンの会合体と、前記会合体を被包する皮膜とを有する。
【0012】
インドメタシンの会合体は、インドメタシン分子の集合体である。両親媒性分子であるインドメタシン分子は、球状ミセルと同じように親水基を外側に向けて配向していると考えられる。会合体に含まれるインドメタシン分子の数は特に限定されないが、通常は60〜200個程度である。
【0013】
皮膜は、インドメタシンの会合体を被包しており、2価金属無機塩を含む。2価金属無機塩は、皮膜の主たる構成要素であり、インドメタシンの会合体をカプセル化する機能を担っている。2価金属無機塩の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸鉄、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸鉄などが含まれる。
【0014】
本発明のナノカプセルの大きさ(平均粒子径)は特に限定されないが、皮膚内への浸透性の観点から50nm以下が好ましい。例えば、本発明の製造方法(後述)により作製されたナノカプセルの平均粒子径は、3〜10nm程度である。ここでいう「平均粒子径」とは、動的光散乱法により測定した値をいう。
【0015】
また、本発明のナノカプセルは、非イオン性界面活性剤をさらに有することが好ましい。このとき、非イオン性界面活性剤の親水基の少なくとも一部は、ナノカプセルの外部に露出していることが好ましい。例えば、非イオン性界面活性剤の親水基の一部が皮膜内に位置し、親水基の残部が粒子外に露出し、疎水基がインドメタシンの会合体内に位置する。非イオン性界面活性剤は、皮膜の親水性、すなわちナノカプセルの親水性を高める機能を担い、本発明のナノカプセルの生体組織への浸透性を向上させるとともに、本発明のナノカプセルの凝集を抑制する。非イオン性界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルなどが含まれる。本発明のナノカプセルに含まれる非イオン性界面活性剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0016】
本発明のナノカプセルのコア−シェル構造は、例えば凍結割断透過型電子顕微鏡(ff−TEM)や小角X線散乱(Small angle x-ray scattering:SAXS)測定装置を用いて確認することができる。
【0017】
本発明のナノカプセルは、例えば、後述する本発明の製造方法により製造することができる。
【0018】
本発明のナノカプセルは、粒子径が小さいだけでなく、粒子表面が無機物でコートされているため、生体組織への浸透性が非常に高いという特徴を有する。
【0019】
また、本発明のナノカプセルは、皮膜の分解性が高いという特徴も有する。例えば、炭酸カルシウムは、通常はカルサイトと呼ばれる分解性の低い結晶からなる層を形成するが、ナノカプセルの皮膜のような曲面では硬い結晶構造を形成することができず、アモルファス状の炭酸カルシウムまたは準安定相のバテライトからなる層を形成する。これらのアモルファス状の炭酸カルシウムおよびバテライトは、他の結晶構造であるカルサイトやアラゴナイトに比べて水への溶解度が高く、容易に分解されうる。2価金属無機塩が他の化合物である場合も同様に、ナノカプセルの皮膜のような曲面では分解性の高い層が形成される。このように、本発明のナノカプセルの皮膜は、分解性が高いため、生体内においても徐々に分解される。結果として、本発明のナノカプセルは、インドメタシンを徐々に放出する徐放性も有する。
【0020】
以上のように、本発明のナノカプセルは、生体組織への浸透性が高く、かつインドメタシンを徐々に放出する徐放性も有する。したがって、本発明のナノカプセルを含む外用剤は、目標とする患部にインドメタシンを効果的に送達することができる、インドメタシンを有効成分とする皮膚外用剤として好適である。
【0021】
2.本発明の皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、分散媒と、前記分散媒に分散している本発明のインドメタシン含有ナノカプセルとを含む。本発明の皮膚外用剤は、例えば外用消炎鎮痛剤として使用することができる。本発明の皮膚外用剤の剤形の例には、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤、エアゾール剤などが含まれる。
【0022】
本発明の皮膚外用剤は、剤形に適した分散媒(基剤)や添加剤などを適宜選択し、日本薬局方などに記載される通常の方法に従って製造することができる。
【0023】
例えば、軟膏剤の場合、分散媒の例には、ワセリン、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;プラスチベース;精製ラノリン、ラノリンアルコール、水添ラノリン等のラノリン類;動植物油;天然ワックス;ロウなどが含まれる。クリーム剤の場合、分散媒の例には、ワセリンなどの炭化水素類;エステル類;トリグリセライド類;セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類などが含まれる。液剤またはエアゾール剤の場合、分散媒の例には、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;水;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ヒマシ油などが含まれる。ゲル剤の場合、分散媒の例には、ステアリン酸アルミニウム、脂肪酸デキストランエステル、カルボキシビニルポリマー、ベントナイトなどが含まれる。貼付剤の場合、分散媒の例には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、ペクチン、ポリビニルピロリドン、ビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、アラビアガム、トラガントガムなどが含まれる。
【0024】
本発明の皮膚外用剤における本発明のナノカプセルの濃度は、剤形に応じて適宜設定すればよい。例えば、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤またはエアゾール剤の場合は、0.001〜5.0w%の範囲内であればよい。
【0025】
前述のように、本発明のナノカプセルは、生体組織への浸透性が高いため、本発明の皮膚外用剤は、目標とする患部にインドメタシンを効果的に送達することができる。また、本発明の外用剤は、除放性製剤として機能するため、副作用を回避しつつ長期に亘り薬効作用を持続させることができる。
【0026】
3.本発明のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法
本発明のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法は、インドメタシンの塩のミセルを含む水溶液を準備する第1のステップと、第1のステップで準備した水溶液に2価金属塩を添加する第2のステップと、第2のステップで2価金属塩を添加した水溶液に2価以上の陰イオンを有する塩を添加する第3のステップとを有する。
【0027】
後述するように、本発明の製造方法は、第1のステップと第2のステップとの間に、第1のステップで準備した水溶液に非イオン性界面活性剤を添加する第4のステップをさらに有していてもよい。
【0028】
第1のステップでは、インドメタシンの塩のミセルを含む水溶液を準備する。
【0029】
インドメタシンは、酸性または中性の水溶液には非常に難溶であるが、アルカリ性の水溶液中では塩となり溶解する。したがって、アルカリ性の水溶液にインドメタシンを溶解させることで、インドメタシンの(塩の)水溶液を調製することができる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液に所定の量のインドメタシンを添加することで、インドメタシンの(ナトリウム塩の)水溶液を調製することができる。この場合、インドメタシン1モルに対する水酸化ナトリウムの量は、1.3モル以上が好ましい(実施例参照)。本発明の製造方法では、両親媒性分子であるインドメタシンの塩の球状ミセルを核としてナノカプセルを形成することから、水溶液中のインドメタシンの塩の濃度は、インドメタシンの塩が水溶液中で球状ミセルを形成可能な濃度(臨界ミセル濃度)以上の濃度であることが好ましい。アルカリ性の水溶液中では、インドメタシン分子(イオン)の親水基が負の電荷を有するため、球状ミセルの表面は負の電荷を帯びている。
【0030】
第2のステップでは、第1のステップで調製したミセルを含む水溶液に2価金属塩を添加する。2価金属塩を添加することにより、ミセルを構成するインドメタシン分子(イオン)の親水基(負の電荷を有する)に2価の金属カチオンが結合する。
【0031】
添加する2価金属塩の種類は、特に限定されず、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸亜鉛などである。この中では、塩化カルシウムが特に好ましい。インドメタシンと2価金属塩のモル比は、1:0.005〜1.0の範囲内が好ましい。
【0032】
第3のステップでは、第2のステップで2価金属塩を添加した水溶液に2価以上の陰イオンを有する塩を添加する。2価以上の陰イオンを有する塩を添加することにより、ミセル表面に結合した2価の金属カチオンに2価以上の陰イオンが結合し、ミセル表面の電荷が中和される。その結果、ミセルの表面に2価金属無機塩を含む皮膜が形成される。
【0033】
添加する2価以上の陰イオンを有する塩の種類は、特に限定されず、例えば炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどである。この中では、炭酸ナトリウムが特に好ましい。2価金属塩と2価以上の陰イオンを有する塩とのモル比は、特に限定されないが、1:0.05〜0.33の範囲内が好ましく、1:0.2程度が特に好ましい。2価以上の陰イオンの量が多すぎると、形成されるナノカプセルの粒子径が大きくなってしまうからである。粒子径が大きいナノカプセルは、皮膚透過性が悪いため好ましくない。
【0034】
以上の手順により、インドメタシンの球状ミセルの表面に2価金属無機塩の皮膜を形成して本発明のインドメタシン含有ナノカプセルを作製することができる。例えば、上記手順により調製された水溶液を凍結乾燥することで、本発明のインドメタシン含有ナノカプセルを含むペーストを得ることができる。得られたペーストを任意の溶媒に分散させることで、本発明のインドメタシン含有ナノカプセルを含む分散液を調製することができる。
【0035】
また、本発明の製造方法は、第1のステップと第2のステップとの間に、第1のステップで準備した水溶液に非イオン性界面活性剤を添加する第4のステップをさらに有していてもよい。非イオン性界面活性剤を添加することにより、インドメタシンの塩および非イオン性界面活性剤から構成される球状ミセル(混合ミセル)が形成される。
【0036】
添加する界面活性剤の種類は、非イオン性界面活性剤であれば特に限定されない。非イオン性界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルなどが含まれる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。インドメタシンの塩と非イオン性界面活性剤のモル比は、非イオン性界面活性剤の種類に応じて適宜設定すればよいが、通常は1:0.1〜1000の範囲内が好ましい。非イオン性界面活性剤の分子は電荷を有さないため、混合ミセルの表面はインドメタシンの塩のミセルと同様に負の電荷を帯びている。
【0037】
以後のステップ(第2のステップ、第3のステップ)では、インドメタシンの塩のミセルの代わりに混合ミセルの表面に2価金属無機塩の皮膜が形成され、本発明のインドメタシン含有ナノカプセルが作製される。非イオン性界面活性剤は、ナノカプセルの調製中または調製後における粒子(混合ミセル、2価の金属カチオンが結合した混合ミセル、またはナノカプセル)の沈殿および凝集の抑制に寄与する。
【0038】
次に、本発明の製造方法の一実施の形態について図1を参照して説明する。本発明は本実施の形態により限定されない。
【0039】
本実施の形態では、インドメタシンの塩および非イオン性界面活性剤から構成される球状ミセル(混合ミセル)の表面に炭酸カルシウムの皮膜を形成して本発明のインドメタシン含有ナノカプセルを作製する例について説明する。
【0040】
まず、水酸化ナトリウム水溶液に所定の量のインドメタシンを添加して、インドメタシンの塩の球状ミセルを含むインドメタシン水溶液を調製する。図1(A)は、水酸化ナトリウム水溶液中においてインドメタシンのナトリウム塩102が球状ミセル100を形成した様子を示す図(球状ミセルの断面図)である。水酸化ナトリウム水溶液中では、球状ミセル100の表面は負の電荷を帯びている。
【0041】
次いで、インドメタシン水溶液に所定の量のポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤)を添加する。添加されたポリオキシエチレンアルキルエーテルの分子はインドメタシンのナトリウム塩の球状ミセルに入り込み、インドメタシンのナトリウム塩とポリオキシエチレンアルキルエーテル分子の混合ミセルが形成される。図1(B)は、水溶液中においてインドメタシンのナトリウム塩102とポリオキシエチレンアルキルエーテル分子112(親水基114および疎水基116を有する)が混合ミセル110を形成した様子を示す図(混合ミセルの断面図)である。図1(B)に示されるように、ポリオキシエチレンアルキルエーテル分子112は、親水基であるポリオキシエチレン鎖114を外部に突出させている。
【0042】
次いで、混合ミセルを含む水溶液に所定の量の塩化カルシウムを添加する。カルシウムイオンは2価イオンであるため、ナトリウムイオンよりも結合(吸着)する力が強い。したがって、負の電荷を帯びた混合ミセルの表面において、カルシウムイオンとナトリウムイオンとの交換反応が生じ、カルシウムイオンが混合ミセルの表面(インドメタシン分子(イオン)の親水基)に優先的に結合する。結果として、表面がカルシウムイオンで覆われた略球状の混合ミセルが形成される。
【0043】
カルシウムイオンはナトリウムイオンに比べて結合力が強く、ミセル表面から解離しにくいため、カルシウムイオンで覆われたミセルは、通常は水に不溶化して沈殿してしまう。このように粒子が沈殿すると、粒子同士が凝集して非常に大きな粒子を形成してしまう可能性がある。しかしながら、本実施の形態の製造方法では、粒子の表面に非イオン性界面活性剤分子の親水基を露出させているため、このような沈殿および凝集は抑制される。
【0044】
図1(C)は、混合ミセル110の表面にカルシウムイオン122が結合した様子を示す図である。図1(C)に示されるように、混合ミセル110の表面にカルシウムイオン122が結合した後も、ポリオキシエチレンアルキルエーテル分子の親水基(ポリオキシエチレン鎖)114が外部に突出しているため、カルシウムイオンで覆われた混合ミセル120の沈殿および凝集は妨げられる。
【0045】
次いで、カルシウムイオンで覆われた混合ミセルを含む水溶液に所定の量の炭酸ナトリウムを添加する。塩化カルシウムを添加した後でも混合ミセル表面の電荷は完全には中和されていないため、炭酸イオンは混合ミセル表面のカルシウムイオンに結合する。その結果、混合ミセルの表面に炭酸カルシウムを含む皮膜が形成され、本発明のインドメタシン含有ナノカプセルが得られる。
【0046】
図1(D)は、カルシウムイオンで覆われた混合ミセル120の表面に炭酸イオン132が結合した様子を示す図である。図1(D)に示されるように、混合ミセル110の表面に炭酸カルシウムを含む皮膜が形成され、本発明のインドメタシン含有ナノカプセル130が得られる。
【0047】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0048】
本実施例では、本発明の製造方法によりインドメタシン含有ナノカプセルを調製した例を示す。
【0049】
1.水酸化ナトリウムの添加量の検討
まず、それぞれ異なる量の1M水酸化ナトリウム水溶液にインドメタシンを加えて、インドメタシンの溶解性を調べた。
【0050】
表1は、インドメタシン1モルに対する水酸化ナトリウムの量(モル)とインドメタシンの溶解性の関係を示す表である。
【表1】

【0051】
以上の結果から、インドメタシンと水酸化ナトリウムのモル比は1:1.3が好適であると判断した。
【0052】
2.インドメタシン含有ナノカプセルの調製
インドメタシン0.5gを1M水酸化ナトリウム水溶液1.814mLに溶解させ、得られた水溶液に精製水87.406mLを加えて、インドメタシンのナトリウム塩のミセルを含む水溶液を調製した。インドメタシンと水酸化ナトリウムのモル比は1:1.3である。
【0053】
非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(NIKKOL BS−20;日光ケミカルズ株式会社)10gを加熱融解したものをインドメタシン水溶液に添加し、攪拌により完全に溶解させた。得られた水溶液に5M塩化カルシウム水溶液140μLを添加し、1分間攪拌した。この水溶液にさらに1M炭酸ナトリウム水溶液140μLを添加し、1時間攪拌した。インドメタシンとカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO2−)のモル比は10:5:1である。以上の手順により、インドメタシン含有ナノカプセルを含む黄色の透明な水溶液100gを得た。
【表2】

【0054】
3.インドメタシン含有ナノカプセルの粒子径の測定
調製したインドメタシン含有ナノカプセルの粒子径を光散乱光度計(ELS−710TY;大塚電子株式会社)を用いて動的光散乱法により測定した。また、比較のため、1%インドメタシン水溶液(1M水酸化ナトリウム水溶液で溶解)および5%ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(非イオン性界面活性剤)水溶液についても粒子径を測定した。
【0055】
図2は、インドメタシン含有ナノカプセルを含む水溶液について粒子径を測定した結果を示すグラフである。このグラフに示されるように、インドメタシン含有ナノカプセルの平均粒子径は5.7nm(標準偏差1.5)であった。
【0056】
図3は、インドメタシン含有ナノカプセルを含む水溶液、1%インドメタシン水溶液および5%ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル水溶液について粒子径を測定した結果を示すグラフである。1%インドメタシン水溶液についての測定結果は信頼性が低いため、参考データとして載せる。このグラフに示されるように、インドメタシンのナトリウム塩の球状ミセルの粒子径のピークは2.1nmであり、5%ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルの球状ミセルの粒子径のピークは8.2nmであった。一方、インドメタシン含有ナノカプセルの粒子径のピークは5.7nmであり、5%ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルの球状ミセルの粒子径よりも小さいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のインドメタシン含有ナノカプセルは、生体組織への浸透性が高く、かつ徐放性を有するため、例えば消炎鎮痛を目的とする皮膚外用剤に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法を説明するための模式図
【図2】インドメタシン含有ナノカプセルの粒径分布を示すヒストグラム
【図3】インドメタシン含有ナノカプセル、インドメタシンのナトリウム塩の球状ミセルおよび非イオン性界面活性剤の球状ミセルの粒径分布を示すグラフ
【符号の説明】
【0059】
100 インドメタシンのナトリウム塩の球状ミセル
102 インドメタシンのナトリウム塩
110 インドメタシンのナトリウム塩とポリオキシエチレンアルキルエーテル分子の混合ミセル
112 ポリオキシエチレンアルキルエーテル分子
114 ポリオキシエチレンアルキルエーテル分子の親水基
116 ポリオキシエチレンアルキルエーテル分子の疎水基
120 カルシウムイオンで覆われた混合ミセル
122 カルシウムイオン
130 インドメタシン含有ナノカプセル
132 炭酸イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インドメタシンの会合体と、
前記会合体を被包し、2価金属無機塩を含む皮膜と、
を有する、インドメタシン含有ナノカプセル。
【請求項2】
前記2価金属無機塩は炭酸カルシウムである、請求項1に記載のインドメタシン含有ナノカプセル。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤をさらに有し、
前記非イオン性界面活性剤の親水基の一部は、前記皮膜の外部に露出している、
請求項1に記載のインドメタシン含有ナノカプセル。
【請求項4】
分散媒と、
前記分散媒に分散している請求項1に記載のインドメタシン含有ナノカプセルと、
を含む皮膚外用剤。
【請求項5】
外用消炎鎮痛剤である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤またはエアゾール剤である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
インドメタシンの塩のミセルを含む水溶液を準備するステップと、
前記水溶液に2価金属塩を添加するステップと、
前記2価金属塩を添加した水溶液に2価以上の陰イオンを有する塩を添加するステップと、
を有するインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
【請求項8】
前記2価金属塩は塩化カルシウムである、請求項7に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
【請求項9】
前記2価以上の陰イオンを有する塩は炭酸ナトリウムである、請求項7に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
【請求項10】
前記2価金属塩と前記2価以上の陰イオンを有する塩とのモル比は、1:0.05〜0.33である、請求項7に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。
【請求項11】
前記ミセルを含む水溶液を準備するステップの後、かつ前記2価金属塩を添加するステップの前に、前記水溶液に非イオン性界面活性剤を添加するステップをさらに有する、請求項7に記載のインドメタシン含有ナノカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241147(P2011−241147A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221588(P2008−221588)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(506151235)株式会社ナノエッグ (11)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】