説明

インフレータ及びこれを用いた車両用エアバッグ装置

【課題】ディスクタイプのインフレータにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、インフレータの径方向への小型軽量化を図る。
【解決手段】インフレータケース40は乗員側に配置されるアッパケース36と反乗員側に配置されるロアケース38とで構成されており、内部には隔壁64で底部が構成された筒状の保持部材60が配設されている。保持部材60の周囲にはガス流路74が形成されており、隔壁64にはガス流路74と連通する連通孔80が形成されている。また、アッパケース36の周壁部36Bにおいて、燃焼室68の中間位置Pから距離δだけ乗員側にオフセットした位置にはガス噴出孔76が形成されている。従って、流路始端からガス噴出孔76までの流路長L1が長くなり、高温のガスを効果的に熱交換できると共にミスト82の除去が可能となるため、従来使用されていたフィルタを廃止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動することによりガスを発生するディスクタイプのインフレータ及びこれを用いた車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、運転席用のエアバッグ装置に搭載される扁平円柱形状の所謂ディスクタイプのインフレータが開示されている。この種のディスクタイプのインフレータでは、軸芯部に配置されたスクイブ(点火装置)が作動することにより、スクイブの外周部に充填されたガス発生剤が燃焼し、大量のガスが発生する。発生したガスはアッパケースの周壁部に形成された複数のガス噴出口から噴出されて、折り畳み状態のエアバッグ内に流入される。
【0003】
ここで、従来、ガス発生剤を燃焼させてガスを発生させるタイプのインフレータの場合、ガス発生剤が燃焼した際の燃焼残渣(以下、「ミスト」と称す。)を除去すると共に高温のガスを冷却するために、環状に巻かれたクーラント・フィルタをアッパケースの内周部に配設していた。このため、インフレータが径方向に大型化すると共にインフレータの重量が増加するという課題があった。
【0004】
この課題を解決するために、クーラント・フィルタを廃止した所謂フィルタレス構造のインフレータが開発されている(特許文献2、3参照)。簡単に説明すると、インフレータの燃焼室内にはガス発生剤が充填されており、更にその外周部には縦断面視でL字状となるガス流路を形成するための流路形成部材が同心円状に配設されている。この構成によれば、ガスが流れる方向が変更される度にガス発生剤のミストが壁面に付着して除去されると共にエアバッグ内に流入されるガス自体も冷却される。
【特許文献1】特開2006−76558号公報
【特許文献2】実用新案登録3122258号公報
【特許文献3】実用新案登録3122259号公報
【特許文献4】特開2001−341610号公報(図1、図5、段落番号[0064])
【特許文献5】特表2007−508979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2、3に開示された技術による場合、ガスの温度を下げるため及びミストを除去するためにガス流路形成部材等の新たな部品が必要になる。このため、ガス流路形成部材を同心円状に配置するとなるとインフレータが径方向に大型化し、又ガス流路形成部材を設置する分、インフレータの重量も増加する。従って、この先行技術では、インフレータの径方向への小型軽量化という課題が充分には解決されておらず、この点において上記インフレータは改良の余地がある。
【0006】
なお、特許文献4には、助手席用エアバッグ装置に適用される円柱状のインフレータが開示されている。このインフレータでは、円筒状のインフレータハウジングの軸芯部に細長い円筒状に形成されたガス発生器ハウジングが配設されている。このガス発生器ハウジングの内周側にガス発生剤が充填されており、ガス発生剤が燃焼すると、ガス発生器ハウジングの周壁部に形成された複数の連通孔を介してガスがガス発生器ハウジングからインフレータハウジングの内周面に吹き付けられてからインフレータの外部へ噴出されるようになっている。このインフレータによればガスの冷却及びミストの除去も期待できるが、元々助手席用エアバッグ装置に適用されることを前提としているため、軸方向寸法が長い。従って、軸方向寸法が元々短いディスクタイプのインフレータにそのまま適用することは困難である。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、ディスクタイプにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、インフレータの径方向への小型軽量化を図ることができるインフレータ及びこれを用いた車両用エアバッグ装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、ガス噴出孔が形成された周壁部と該周壁部の軸方向の端部を閉止する一対の底壁部とを含んで構成されたインフレータケースと、該インフレータケースの内部に装着された点火装置と、該インフレータケースの内部に装着され、該点火装置により着火されて燃焼することによりガスを発生するガス発生剤を収容しかつ保持する保持部材と、少なくとも該保持部材を含むことによって隔成された燃焼室と前記ガス噴出孔とが連通されるように、前記インフレータケースの内側でかつ前記保持部材の周囲に形成されたガス流路と、を備えたインフレータであって、前記ガス噴出孔は前記燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に対して該インフレータケース軸方向にオフセットして配置されていると共に、前記保持部材の前記インフレータケース軸方向における少なくとも前記ガス噴出孔配置側の反対側には、該保持部材の一部を成しかつ前記燃焼室と前記ガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁が配置されることで、フィルタを使用しない構成とされている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載のインフレータにおいて、前記保持部材におけるインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側と反対側には前記隔壁が配置されており、かつ、該保持部材におけるインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側には前記隔壁が配置されずに開放状態とされて前記インフレータケースの底壁部によって閉止されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、ガス噴出孔が形成された周壁部と該周壁部の軸方向の端部を閉止する一対の底壁部とを含んで構成されたインフレータケースと、該インフレータケースの内部に装着された点火装置と、該インフレータケースの内部に装着され、該点火装置により着火されて燃焼することによりガスを発生するガス発生剤を収容しかつ保持する保持部材と、少なくとも該保持部材を含むことによって隔成された燃焼室と前記ガス噴出孔とが連通されるように、前記インフレータケースの内側でかつ前記保持部材の周囲に形成されたガス流路と、を備えたインフレータであって、前記ガス噴出孔は前記燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に配置されていると共に、前記保持部材の前記インフレータケース軸方向の両端部には、該保持部材の一部を成しかつ前記燃焼室と前記ガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁がそれぞれ配置されることで、フィルタを使用しない構成とされている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインフレータにおいて、前記連通孔は、該連通孔を通る板厚方向に対して前記ガス噴出孔から離れる方向へ傾いて形成されている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインフレータにおいて、前記インフレータケースの前記隔壁と対向する底壁部の内側面には、ガス流に乱流を生じさせるための複数の凹部又は複数の凸部或いは複数の凹部及び凸部の双方が形成されている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明に係る車両用エアバッグ装置は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載されたインフレータと、該インフレータが取り付けられてこれを支持するベース部材と、該ベース部材に折り畳み状態で固定され、インフレータからのガスの供給を受けて膨張するエアバッグと、折り畳み状態の前記エアバッグをベース部材との間に格納すると共にバッグ膨張圧が所定値に達するとエアバッグドアを展開させてエアバッグを膨出させるエアバッグカバーと、を有することを特徴とする。
【0014】
請求項1記載の本発明によれば、インフレータケースの内部には保持部材が装着されており、この保持部材にガス発生剤が収容及び保持されている。そして、点火装置が作動してガス発生剤が燃焼すると、大量のガスが燃焼室で発生する。発生したガスは、インフレータケースの内側でかつ保持部材の周囲に形成されたガス流路を通って、インフレータケースの周壁部に形成されたガス噴出孔からインフレータの外部へ噴出される。
【0015】
ここで、本発明では、ガス噴出孔が燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に対してインフレータケース軸方向にオフセットして配置されており、保持部材の少なくともガス噴出孔配置側と反対側に、保持部材の一部を成しかつ燃焼室とガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁を配置したので、連通孔からガス噴出孔までのガス流路の流路長を長くすることができる。このため、燃焼室で発生した高温のガスとインフレータケースとの間で行われる熱交換が促進され、ガスが効果的に冷却される。また、ガスに含まれたミストは、ガス流路を通過する際の流動抵抗によってインフレータケースの内側面に付着される。換言すれば、インフレータケースの内側面にミストを付着させるだけのガス流路の流路長を確保することができる。従って、ガスに含まれるミストも、ガス噴出孔に至る前に効果的に除去される。
【0016】
上記より、本発明によれば、新たな部品を特別に追加することなく、ガスの冷却とミストの除去を行うことができる。つまり、従来使用されていた環状に巻かれたフィルタの機能を他の部品で賄うことが可能となり、その結果、フィルタを廃止することができる。
【0017】
請求項2記載の本発明によれば、ガス噴出孔が燃焼室のインフレータケース軸方向中間位置に対してオフセットして配置されていることを前提として、保持部材のインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側と反対側にのみ隔壁を配置し、かつインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側には隔壁を配置せずに開放状態としてインフレータケースの底壁部によって閉止する構成としたので、保持部材のインフレータケース軸方向の両端部に隔壁を配置する場合に比し、ガス発生剤の収容容積を変えないのであれば、隔壁一枚分の板厚に相当する長さだけインフレータを軸方向に小型化することができる。逆に、インフレータの軸方向寸法を変えないのであれば、ガス発生剤の収容容積(即ち、ガス供給量)を増加させることができる。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、インフレータケースの内部には保持部材が装着されており、この保持部材にガス発生剤が収容及び保持されている。そして、点火装置が作動してガス発生剤が燃焼すると、大量のガスが燃焼室で発生する。発生したガスは、インフレータケースの内側でかつ保持部材の周囲に形成されたガス流路を通って、インフレータケースの周壁部に形成されたガス噴出孔からインフレータの外部へ噴出される。
【0019】
ここで、本発明では、ガス噴出孔が燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に配置されており、保持部材のインフレータケース軸方向の両端部に、保持部材の一部を成しかつ燃焼室とガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁をそれぞれ配置したので、連通孔からガス噴出孔までの流路長が略等しいガス流路が二系統形成される。このため、仮に各ガス流路の流路長だけをみると、ガス噴出孔がオフセット配置されているものに比べて流路長が短くなる場合でも、燃焼室のインフレータケース軸方向寸法を比較的大きくとれる場合には、二系統のガス流路がいずれもガス冷却性能面及びミスト除去性能面で実効性があるものとなり、燃焼室で発生した高温のガスとインフレータケースとの間で行われる熱交換が促進され、ガスが効果的に冷却される。また、ガスに含まれたミストは、各ガス流路においてこれを通過する際の流動抵抗によってインフレータケースの内側面に付着される。換言すれば、インフレータケースの内側面にミストを付着させるだけの流路長を各ガス流路において確保することができる。従って、ガスに含まれるミストも、ガスが連通孔からガス噴出孔に至る前に二系統のガス流路によって効果的に除去される。
【0020】
上記より、本発明によれば、新たな部品を特別に追加することなく、ガスの冷却とミストの除去を行うことができる。つまり、従来使用されていた環状に巻かれたフィルタの機能を他の部品で賄うことが可能となり、その結果、フィルタを廃止することができる。
【0021】
請求項4記載の本発明によれば、連通孔が該連通孔を通る板厚方向に対してガス噴出孔から離れる方向へ傾いて形成されているので、ガスはガス流路内において一旦ガス噴出孔から離れる方向へ流れて(偏向されて)からインフレータケースの周壁部側へと回り込むように流れる。従って、ガス流路の長さ自体は替わらないが、実質的なガス流路長が長くなる。
【0022】
請求項5記載の本発明によれば、インフレータケースの隔壁と対向する底壁部の内側面には複数の凹部又は複数の凸部或いは複数の凹部及び凸部の双方が形成されているので、この凹部や凸部によって乱流が生じる。乱流が生ずることにより、凹部等の形成位置でのガスの滞留時間(熱交換時間)が長くなり、インフレータケースから流動抵抗を受ける時間も長くなる。また、乱流が生じることにより、ガスとインフレータケースとの接触面積も増加する。これらのことから、ガスの冷却が促進されると共にミストがインフレータケースの内側面により一層付着される。
【0023】
請求項6記載の本発明によれば、点火装置が作動すると、インフレータによってガスが発生し、折り畳み状態でベース部材に固定されたエアバッグ内へガスが流入される。このため、エアバッグは膨張し、エアバッグカバーの内側面に所定のバッグ膨張圧をかける。このバッグ膨張圧が所定値に達するとエアバッグカバーが備えるエアバッグドアが展開され、エアバッグが膨出される。
【0024】
ここで、本発明では、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載されたインフレータを用いているので、小型軽量な車両用エアバッグ装置が得られる。例えば、車両用エアバッグ装置が運転席用エアバッグ装置の場合には、ステアリングホイールのホイールパッド内に運転席用エアバッグ装置が装着される関係で、ステアリングホイールの径方向にも軸方向にも設置スペースは少ない。このような場合に、本発明を適用することにより、少なくとも径方向に小型軽量化されたインフレータを用いることができるので、運転席用エアバッグ装置を軽量でコンパクトなものにすることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係るインフレータは、ディスクタイプにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、インフレータの径方向への小型軽量化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0026】
請求項2記載の本発明に係るインフレータは、ガス発生剤の収容容積を変えないのであれば、インフレータを径方向のみならず軸方向にも小型化することができるという優れた効果を有する。また、インフレータの軸方向寸法を変えないのであれば、同じ大きさのインフレータでガス供給量を増加させることができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項3記載の本発明に係るインフレータは、請求項1記載の発明と同様に、ディスクタイプにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、インフレータの径方向への小型軽量化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項4記載の本発明に係るインフレータは、実質的なガス流路長を長くすることができるので、ガス冷却性能及びミスト除去性能を高めることができるという優れた効果を有する。
【0029】
請求項5記載の本発明に係るインフレータは、ガスをより一層冷却することができると共にガス中のミストをより一層除去することができるという優れた効果を有する。
【0030】
請求項6記載の車両用エアバッグ装置は、エアバッグ装置全体の小型軽量化を図ることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図5を用いて、本発明に係るインフレータ及びこれを備えた車両用エアバッグ装置の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印Xは乗員側方向を示しており、矢印Yは反乗員側方向を示している。
【0032】
図4には、車両用エアバッグ装置としての運転席用エアバッグ装置を備えたステアリングホイールの正面図が示されている。また、図3には、当該運転席用エアバッグ装置の縦断面図(図4の3−3線断面図)が示されている。これらの図に示されるように、このステアリングホイール10は3本スポークタイプのステアリングホイールとされており、環状のリム部12と、リム部12の軸芯部に配置された図示しないハブと、リム部12とハブとを連結する3本のスポーク部14と、リム部12の中心部に配置されたホイールパッド16と、を備えている。
【0033】
上記ホイールパッド16内には、運転席用エアバッグ装置18が配設されている。図3に示されるように、運転席用エアバッグ装置18は、概略的には、図示しないハブに支持されたベース部としてのベースプレート20と、ホイールパッド16の一部として形成されベースプレート20と対向する位置に設けられたエアバッグドア22と、ベースプレート20の中央部に形成された円形の貫通孔27に反乗員側から挿入されたインフレータ24と、ベースプレート20とエアバッグドア22との間に折り畳み状態で格納されたエアバッグ26と、を主要部として構成されている。
【0034】
ベースプレート20は高強度の金属材料によって構成されている。インフレータ24は、後述するインフレータケース40のアッパケース36をベースプレート20の貫通孔27内へ反乗員側から挿入させ、アッパケース36の後述する取付部36D(図2参照)を図示しないボルト及びナットで締結することによりベースプレート20に固定されている。また、エアバッグ26の開口部28の内側にはリングプレート(広義には、エアバッグ固定部材として把握される要素である。)30が配置されており、このリングプレート30から反乗員側へ向けて突出された複数の図示しないボルトがエアバッグ26の開口部28の周縁部及びベースプレート20の貫通孔27の周縁部を貫通し、ベースプレート20の反乗員側から図示しないナットが螺合されることにより、エアバッグ26の開口部28がリングプレート30とベースプレート20との間に挟持された状態で固定されるようになっている。なお、ベースプレート20の貫通孔27の周囲にエアバッグ26の開口部28を配置し、貫通孔27の反乗員側にインフレータ24の後述するアッパケース36の取付部36Dを配置し、リングプレート30から突出するボルトとナットでエアバッグ26の開口部28、インフレータ24のアッパケース36の取付部36Dをベースプレート20に共締めするようにしてもよい。
【0035】
また、上述したエアバッグ26は、運転席用エアバッグ装置18自体の組付作業が完了するまで、所定の折り畳み形状を保持するように保護布32で覆われている。さらに、ホイールパッド16の裏面側(反乗員側の面)には略H形状等の薄肉部等によって構成された破断部34が形成されている。これにより、エアバッグドア22が上下に展開するようになっている。
【0036】
以下、図1及び図2を用いて、本実施形態の要部であるインフレータ24の構造について詳細に説明する。
【0037】
図1には、図3に示されるインフレータ24の拡大縦断面図が示されている。また、図2には、当該インフレータ24の分解斜視図(後述するガス発生剤52、54は除く。)が示されている。
【0038】
これらの図に示されるように、インフレータ24は、組付状態で乗員側に配置されるアッパケース36と、反乗員側に配置されるロアケース38と、から成る金属製のインフレータケース40を備えている。アッパケース36は深底の有底円筒形状に形成されており、組付状態で乗員側に配置される底壁部36Aと、底壁部36Aの周縁部から反乗員側へ立ち上げられた周壁部36Bと、周壁部36Bの反乗員側端部から半径方向外側へ屈曲されたフランジ部36Cと、フランジ部36Cの周方向4箇所から半径方向外側へ延出された取付部36D(図2参照)と、によって構成されている。また、ロアケース38は浅底の略皿状に形成されており、アッパケース36の底壁部36Aに対向して平行に配置される底壁部38Aと、底壁部38Aから傾斜部38Bを経て半径方向外側へ延出されたフランジ部38Cと、によって構成されている。ロアケース38のフランジ部38Cにアッパケース36のフランジ部36Cが当接状態で配置され、この状態でフランジ部36C、38C同士が溶接されることにより、アッパケース36とロアケース38とが一体化されてインフレータケース40が構成されている。
【0039】
上述したインフレータケース40の軸芯部には、スクイブ(点火装置)42が配設されている。スクイブ42は略円柱形状に形成されており、反乗員側の端部に位置する円盤状の装着部42Aと、この装着部42Aよりも一回り大径の基部42Bと、基部42Bの軸芯部から乗員側へ向けて突出する小径の点火部42Cと、を備えている。このうち、装着部42Aがロアケース38の軸芯部に形成された円形の貫通孔44に嵌合されることにより、スクイブ42がロアケース38の軸芯部に位置決めされた状態で装着されている。なお、スクイブ42は図示しないエアバッグECUに接続されており、図示しないエアバッグセンサによる検知信号に基づいてエアバッグECUが運転席用エアバッグ装置18を作動させるか否かを判定し、エアバッグECUがエアバッグ作動と判定すると所定電流がスクイブ42に通電されるようになっている。
【0040】
上記スクイブ42の軸長はインフレータケース40の軸方向寸法の略半分程度とされており、点火部42Cの外周部には、金属製かつ有底円筒状のリテーナ46が被嵌されている。リテーナ46の底部46Aは、アッパケース36の底壁部36Aに当接されている。また、リテーナ46の周壁部46Bには周方向に所定の間隔で複数の連通孔48が形成されており、更に連通孔48の外周面にはリテーナ46の内圧が所定値以上になると破れるシール50が貼られて密閉されている。このリテーナ46の内部には後述するガス発生剤54と同一構成のガス発生剤52が充填されており、後述するガス発生剤54に火炎を伝播するエンハンサとしての役目を果たしている。
【0041】
ここで、上述したインフレータケース40内には、有底円筒形状に形成された金属製の保持部材60が配設されている。保持部材60は、外径がアッパケース36の内径よりも幾分小さく設定された円筒形状の周壁部62と、この周壁部62の反乗員側の開口端部を閉塞する円板状の隔壁64と、によって構成されている。
【0042】
隔壁64の周縁部64Aは環状に乗員側へ立ち上げられており、周壁部36Bの反乗員側の開口端部の内側に挿入された状態で固定されている。また、隔壁64の軸芯部には円形の膨出部64Bが形成されており、更に膨出部64Bの軸芯部には取付孔66が形成されている。この取付孔66内へスクイブ42の点火部42Cが反乗員側から挿入され、膨出部64Bに基部42Bが装着される(納まる)ようになっている。そして、スクイブ42が装着された保持部材60をアッパケース36内へ挿入し、ロアケース38の貫通孔44にスクイブ42の装着部42Aを嵌合させると、保持部材60の周壁部36Bの乗員側の端部がアッパケース36の底壁部36Aの反乗員側の面に当接され、スクイブ42を介して保持部材60が所定の位置に位置ずれしないように配設されるように各部の寸法が決められている。
【0043】
上述した保持部材60が装着された状態において保持部材60とリテーナ46との間に形成された環状の空間が燃焼室68とされ、この燃焼室68内にガス発生剤54が充填されて保持されている。なお、この実施形態では、燃焼室68がアッパケース36の底壁部36Aの内側面、保持部材60(の周壁部62、隔壁64)、リテーナ46の周壁部46Bによって隔成されている。
【0044】
さらに、保持部材60が組付けられた状態では、保持部材60の隔壁64とロアケース38の底壁部38Aとの間にリング板状の空間(第1流路70)が形成されている。また、保持部材60の周壁部62とアッパケース36の周壁部36Bとの間には、環状の空間(第2流路72)が形成されている。これらの第1流路70と第2流路72とは、ロアケース38の傾斜部38Bの形成位置で相互に連通されており、両者でガス流路74を形成している。このガス流路74の流路長(流路始端からガス噴出孔76までの長さ)は、L1(図1参照)に設定されている。アッパケース36の周壁部36Bにおいて第2流路72と接する位置には、アッパケース36の周方向に所定の間隔で複数のガス噴出孔76が形成されている。なお、ガス噴出孔76はシール78によって閉塞されている。
【0045】
上記アッパケース36のガス噴出孔76は、インフレータ24の燃焼室68の軸方向中間位置(図1の一点鎖線P)よりも乗員側にδだけオフセットした位置に配置されている。また、保持部材60の隔壁64には、燃焼室68と第1流路70とを連通する多数の連通孔80が形成されている。すなわち、保持部材60におけるガス噴出孔76の配置側(オフセット側)と反対側に位置する隔壁64に連通孔80が形成されている。各連通孔80は、当該連通孔80を通る板厚方向(図1の一点鎖線Q)に対してガス噴出孔76から離れる方向へ所定角度θだけ傾いて形成されている。
【0046】
なお、ガス噴出孔76が燃焼室68の軸方向中間位置(一点鎖線P)よりも乗員側にδだけオフセットした位置に形成されているのは、インフレータ24がベースプレート20の貫通孔27内へ反乗員側から挿入されて、エアバッグ26の開口部28をリングプレート30で挟持した状態でベースプレート20に締結固定する関係で、ガス噴出方向(ガス噴出孔76を通る半径方向外側)上にリングプレート30等の部材が存在しないようにするため(ガスと部材との干渉回避のため)である。
【0047】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0048】
前面衝突すると、図示しないエアバッグセンサによって前面衝突したことが検知され、エアバッグECUに検知信号が出力される。エアバッグECUでは、運転席用エアバッグ装置18を作動させるか否かを判定し、「運転席用エアバッグ装置作動」と判定すると、スクイブ42に所定の電流が通電される。これにより、まずスクイブ42の直上に配置されたガス発生剤52が燃焼し、リテーナ46の内圧が高められる。リテーナ46の内圧が所定値に達すると、連通孔48を塞いでいるシール50が破断し、火炎が燃焼室68内へ伝播される。これにより、保持部材60内に充填されたガス発生剤54が燃焼し、ミスト82(図1参照)を含んだ高温のガスが大量に発生する。燃焼室68内で発生したミスト82を含んだ高温のガスは、保持部材60の隔壁64に形成された多数の連通孔80を通って、ガス流路74の第1流路70内へと流入される(このときのガスの流れを矢印Aで示す。)。
【0049】
各連通孔80はスクイブ42側へ向けて傾斜した透孔として形成されているので、ガスはロアケース38の底壁部38Aの内側面に当たってから第1流路70内を一旦スクイブ42の基部42B側へ流れ、スクイブ42の基部42Bの外周面に当たって再び第1流路70を通り(戻り)、第2流路72内へと流れていく。この過程で、高温のガスがロアケース38の底壁部38Aと熱交換して冷却されると共に、ガス中に含まれるミスト82がロアケース38の底壁部38Aに付着して取り除かれる。その後、第2流路72を通ったガスは、シール78を破断させアッパケース36の周壁部36Bに形成されたガス噴出孔76からインフレータ24外へ噴出される(このときのガスの流れを矢印Bで示す。)。
【0050】
なお、上記の如くしてインフレータ24から発生したガスは折り畳み状態のエアバッグ26内へ流入され、エアバッグ26を膨張させる。エアバッグ26のバッグ膨張圧が所定値以上になると、保護布32が破断されると共にエアバッグドア22の裏面側に形成された破断部34が破断してエアバッグドア22が前後に展開される。その結果、エアバッグ26が乗員側へ膨出され、ステアリングホイール10側へ慣性移動する乗員の頭部を含む上体を受け止める。
【0051】
ここで、本実施形態では、アッパケース36に形成されたガス噴出孔76が燃焼室68のインフレータケース軸方向の中間位置(図1の一点鎖線P)に対してインフレータケース軸方向(乗員側)にオフセットして配置されており、かつ保持部材60のガス噴出孔配置側と反対側に多数の連通孔80が形成された隔壁64を配置したので、連通孔80から排出されたガスが通るガス流路74の流路長(ガス流路74の始端からガス噴出孔76までの距離)L1を長くすることができる。このため、燃焼室68で発生した高温のガスとロアケース38及びアッパケース36の周壁部36Bとの間で行われる熱交換が促進され、ガスが効果的に冷却される。また、ガスに含まれたミスト82は、ガス流路74の第1流路70を通過する際の流動抵抗によってロアケース38の底壁部38A内側面に付着される。換言すれば、ロアケース38の底壁部38Aの内側面にミスト82を付着させるだけのガス流路の流路長L1を確保することができる。従って、ガスに含まれるミスト82も、ガス噴出孔76に至る前に効果的に除去される。
【0052】
上記より、本実施形態によれば、新たな部品を特別に追加することなく、ガスの冷却とガスに含まれるミスト82の除去を行うことができる。図5には、従来の一般的なディスクタイプのインフレータ90の縦断面図が示されている。この図に示されるように、従来のインフレータ90では、スクイブ92に装着されるリテーナ94の軸方向両端部に円板状のプレート96、98が上下二枚装着されており、上下のプレート96、98の外周部に環状に巻かれたフィルタ99が配設されていた。このため、インフレータ90が径方向外側へ大型化する欠点があった。しかし、本実施形態に係るインフレータ24によれば、ガス流路74がフィルタ99の機能を賄うので、フィルタ99を廃止することができる。その結果、ディスクタイプのインフレータにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、径方向への小型軽量化を図ることができる。
【0053】
この効果(インフレータの小型軽量化)は、運転席用エアバッグ装置18には特に有効である。すなわち、運転席用エアバッグ装置18の場合、ステアリングホイール10のホイールパッド16内に運転席用エアバッグ装置18が装着される関係で、ステアリングホイール10の径方向及び軸方向のいずれの方向にも設置スペースは少ない。このような場合に、上記構成のインフレータ24を適用することにより、運転席用エアバッグ装置18を軽量でコンパクトなものにすることができる。
【0054】
また、ガス噴出孔76が燃焼室68のインフレータケース軸方向中間位置Pに対して乗員側へδだけオフセットして配置されていることを前提として、保持部材60のインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側と反対側にのみ隔壁64を配置し、かつインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側には隔壁を配置せずに開放状態としてアッパケース36の底壁部36Aに突き当てる(閉止する)構成としたので、保持部材60のインフレータケース軸方向の両端部に隔壁64を配置する場合に比し、ガス発生剤54の収容容積を変えないのであれば、隔壁64一枚分の板厚に相当する長さだけインフレータ24を軸方向に小型化することができる。従って、インフレータ24を径方向のみならず軸方向にも小型化することができる。逆に、インフレータ24の軸方向寸法を変えないのであれば、ガス発生剤54の収容容積を増加させることができる。従って、同じ大きさのインフレータ24でガス供給量を増加させることができる。
【0055】
さらに、隔壁64の連通孔80が当該連通孔80を通る板厚方向Qに対してガス噴出孔76から離れる方向(インフレータ24の軸芯側)へ角度θだけ傾いて形成されているので、ガスはガス流路74の第1流路70内において一旦ガス噴出孔76から離れる方向へ流れて(偏向されて)からアッパケース36の周壁部36B側へと回り込むように流れる。従って、第1流路70の流路長自体は変わらないが、実質的なガス流路長が長くなる。その結果、ガス冷却性能及びミスト除去性能を高めることができる。
【0056】
〔第2実施形態〕
以下、図6を用いて、本発明に係るインフレータ及びこれを備えた車両用エアバッグ装置の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0057】
図6に示されるように、この第2実施形態に係るインフレータ24では、保持部材60の隔壁64の内側面に多数の凹部としてのディンプル100を設けた点に特徴がある。なお、ディンプル100に替えて、多数の凸部(隆起部)を設けてもよいし、凹部と凸部とを組み合わせて配置してもよい。
【0058】
(作用・効果)
上記構成によれば、ロアケース38の底壁部38Aの乗員側の面に多数のディンプル100を形成したことにより、ガスが第1流路70を流れる際にディンプル100によって乱流(図6の矢印R)が生じる。このため、乱流が生じる分、ディンプル100の形成位置でのガスの滞留時間が長くなり、ガスとロアケース38とで行われる熱交換時間も長くなる。また、ディンプル100によって乱流が生じることにより、ガスがロアケース38の底壁部38Aから抵抗を受ける時間も長くなる。さらに、乱流が生じることにより、ガスとロアケース38の底壁部38Aとの接触面積も増加する。これらのことから、ミスト82がディンプル100の表面に堆積し、より一層ミスト82が除去される。総括すると、本実施形態によれば、ガスをより一層冷却することができると共にガス中のミスト82をより一層除去することができる。
【0059】
〔第3実施形態〕
以下、図7及び図8を用いて、本発明に係るインフレータ及びこれを備えた車両用エアバッグ装置の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0060】
図7及び図8に示されるように、この第3実施形態に係るインフレータ110では、インフレータケース112のロアケース38は前述した第1実施形態と同一に構成されているが、アッパケース114が軸方向に長く形成されている(図1と図7を比較参照)。逆に言えば、この第3実施形態では、第1実施形態のインフレータ24よりも軸方向寸法が大きいインフレータ110を搭載するスペースがある運転席用エアバッグ装置を想定している。
【0061】
アッパケース114が軸方向に長くなったことから、このインフレータ110では、ガス噴出孔76が燃焼室116の軸方向中間位置(一点鎖線P’)上に配置されている。つまり、第1実施形態と異なり、ガス噴出孔76は、燃焼室116の軸方向中間位置からインフレータケース軸方向にオフセットしていない構造になっている。
【0062】
また、保持部材118は、外径がアッパケース114の内径よりも幾分小さく設定された円筒形状の周壁部62と、この周壁部62の反乗員側の開口端部を閉塞する円板状の隔壁64と、周壁部62の乗員側の開口端部を閉塞する隔壁120と、によって構成されている。乗員側に配置される隔壁120にも、反乗員側に配置される隔壁64と同様に多数の連通孔80が形成されている。なお、隔壁120の軸芯部には、リテーナ46の周壁部46Bに当接状態で装着されるようにU字状断面の装着部120Aが形成されている。
【0063】
保持部材118がインフレータケース112内に組付けられた状態では、反乗員側に配置された隔壁64とロアケース38の底壁部38Aとの間にリング板状の空間(第3流路122)が形成されていると共に、乗員側に配置された隔壁120とアッパケース114の底壁部114Aとの間にもリング板状の空間(第4流路124)が形成されている。さらに、保持部材118の周壁部62とアッパケース114の周壁部114Bとの間には、環状の空間(第5流路126)が形成されている。第3流路122と第5流路126とは相互に連通されており、両者でロア側ガス流路128(流路長L2)を形成している。また、第4流路124と第5流路126とは相互に連通されており、両者でアッパ側ガス流路130(流路長L3)を形成している。ロア側ガス流路128の流路長L2とアッパ側ガス流路130の流路長L3とは略同一に設定されている。
【0064】
つまり、この第3実施形態では、連通孔80が形成された隔壁64、120が保持部材118の反乗員側の端部だけでなく乗員側の端部にも配置される関係で、各隔壁64、120に対応してロア側ガス流路128とアッパ側ガス流路130とが形成される構成になっている。但し、第3実施形態におけるロア側ガス流路128、アッパ側ガス流路130の各流路長L2、L3は、第1実施形態のガス流路74の流路長L1よりも短く設定されている。
【0065】
(作用・効果)
上記構成によれば、スクイブ42に通電されると、リテーナ46内のガス発生剤52が燃焼し、次いでリテーナ46の連通孔48を介して火炎が燃焼室116内へ伝播され、燃焼室116内に収容されたガス発生剤54が燃焼して大量のガスが発生する。
【0066】
このガスの半分は、反乗員側の隔壁64の連通孔80を通って第3流路122に流入されてから、第5流路126へ流れてガス噴出孔76からインフレータ110外へ噴出される。ガスの残りの半分は、乗員側に配置された隔壁120の連通孔80を通って第4流路124に流入されてから、第5流路126へ流れてガス噴出孔76からインフレータ110外へ噴出される。この過程で、前述した第1実施形態と同様の原理によって、ガスとロアケース38及びアッパケース114とで熱交換されて冷却されると共にガスに含まれるミスト82がロアケース38の底壁部38A及びアッパケース114の底壁部114Aに付着して除去される。
【0067】
つまり、この第3実施形態では、流路始端からガス噴出孔76までの流路長が等しいガス流路が二系統(ロア側ガス流路128及びアッパ側ガス流路130)形成される。このため、仮に各ロア側ガス流路128、アッパ側ガス流路130の流路長L2、L3だけをみると、ガス噴出孔76がオフセット配置された第1実施形態のものに比べて流路長が短くなるが、本実施形態のように燃焼室116のインフレータケース軸方向寸法を比較的大きくとれる場合には、二系統のガス流路(ロア側ガス流路128及びアッパ側ガス流路130)がいずれもガス冷却面及びミスト除去面で実効性があるものとなり、燃焼室116で発生した高温のガスとインフレータケース112との間で行われる熱交換が促進され、ガスが効果的に冷却される。また、ガスに含まれたミスト82は、ロア側ガス流路128、アッパ側ガス流路130においてこれを通過する際の流動抵抗によってロアケース38の底壁部38A及びアッパケース114の底壁部114Aの内側面に付着される。換言すれば、ロアケース38の底壁部38A及びアッパケース114の底壁部114Aにミスト82を付着させるだけの流路長を各ガス流路において確保することができる。従って、ガスに含まれるミスト82も、ガスが連通孔80からガス噴出孔76に至る前に二系統のガス流路(ロア側ガス流路128及びアッパ側ガス流路130)によって効果的に除去される。
【0068】
上記より、本実施形態によれば、新たな部品を特別に追加することなく、ガスの冷却とミストの除去を行うことができる。つまり、従来使用されていた環状に巻かれたフィルタ99(図5参照)の機能を他の部品で賄うことが可能となり、その結果、ディスクタイプのインフレータにおいて、ガス冷却性能及びミスト除去性能を確保すると共に、径方向への小型軽量化を図ることができる。
【0069】
〔実施形態の補足説明〕
上述した実施形態では、運転席用エアバッグ装置18に本発明に係るインフレータを適用したが、これに限らず、助手席用エアバッグ装置等、他の車両用エアバッグ装置に本発明に係るインフレータを適用してもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、前面衝突時にインフレータ24、110が作動するものとして説明したが、これに限らず、プリクラッシュセンサ等の衝突予知手段を搭載したシステムに本発明に係るインフレータ及びこれを備えた車両用エアバッグ装置を適用してもよく、その場合は、前面衝突予知時にインフレータが作動することになる。
【0071】
さらに、上述した実施形態では、隔壁64、120に形成された連通孔80をインフレータ24、110の軸線側へ傾けて形成したが、これに限らず、板厚方向(図1の一点鎖線Q方向)に貫通する連通孔としてもよい。
【0072】
また、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、保持部材60の反乗員側の開放端部側にのみ連通孔80が形成された隔壁64を配置したが、これに限らず、保持部材の乗員側の開放端部にも連通孔が形成された隔壁を配置してもよい。つまり、保持部材における少なくともガス噴出孔配置側と反対側に連通孔が形成された隔壁が配置されていればよい。但し、ガス噴出孔76が燃焼室68のインフレータケース軸方向の中間位置Pから乗員側へオフセットした位置に形成されている場合には、乗員側に隔壁を配置して形成されたガス流路の流路長が短くなるので、ガス冷却性能及びミスト除去性能は反乗員側に形成されたガス流路よりも劣る。
【0073】
さらに、上述した実施形態では、保持部材60、118が二部材又は三部材で構成されているが、一部品化してもよい。また、第1実施形態及び第2実施形態では、保持部材60、アッパケース36の底壁部36A、リテーナ46の周壁部46Bといった三つの要素で燃焼室68を隔成しており、第3実施形態では、保持部材118とリテーナ46の周壁部46Bといった二つの要素で燃焼室116を隔成しているが、これに限らず、保持部材のみで燃焼室を隔成する構成を採ってもよい。例えば、第1実施形態であれば、保持部材60の軸芯部にリテーナ46を一体化して、周壁部62の乗員側の開放端部に連通孔が形成されていない隔壁を蓋として被せる構成を採ってもよい。同様に、第3実施形態であれば、保持部材118の隔壁64にリテーナ46を一体化して、保持部材118の乗員側の開放端部に連通孔が形成された隔壁120を被嵌する構成を採ってもよい。
【0074】
また、上述した実施形態、例えば第1実施形態では、ガスの流れを偏向させるために隔壁64の底壁部64Aに板厚方向Qに対してガス噴出孔76から離れる方向へ所定角度θだけ傾いた連通孔80を形成したが、この構成を採る場合には隔壁64の板厚をある程度厚く設定する必要がある。そこで、図9(A)〜(C)に示されるように、隔壁140にプレス加工(パンチング加工)で連通孔142、144を形成するようにしてもよい。なお、図9(A)〜(C)に示される図は、隔壁140を表裏反転させた状態で描いている。
【0075】
図9(B)に示される構成では、連通孔142の噴出口形状が二等辺三角形状となるように、隔壁140の所定位置を略三角錐状に打ち出した例である。その中央断面の形状は図9(A)のように切起こし形状になる。また、図9(C)に示される構成では、連通孔144の噴出口形状が半円形状となるように、隔壁140の所定位置を略円錐形状に打ち出した例である。この場合の中央断面の形状も、図9(A)のように切起こし形状になる。これらの連通孔142、144を採用すると、ガスが流れる方向を偏向させる指向性は良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1実施形態に係るインフレータを示す拡大縦断面図である。
【図2】図1に示されるインフレータ(ガス発生剤の図示は省略)の分解斜視図である。
【図3】図1に示されるインフレータを備えた運転席用エアバッグ装置の概略縦断面図(図4の3−3線断面図)である。
【図4】図3に示される運転席用エアバッグ装置を備えたステアリングホイールの正面図である。
【図5】第1実施形態に係るインフレータの効果を説明するための対比例に係るインフレータの拡大縦断面図である。
【図6】第2実施形態に係るインフレータを示す図1に対応する拡大縦断面図である。
【図7】第3実施形態に係るインフレータを示す図1に対応する拡大縦断面図である。
【図8】図7に示されるインフレータ(ガス発生剤の図示は省略)の分解斜視図である。
【図9】図1に示される連通孔を備えた隔壁の変形例に係り、(A)は連通孔形成位置での隔壁の縦断面図であり、(B)は一つ目の変形例に係る連通孔を示す斜視図であり、(C)は二つ目の変形例に係る連通孔を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
16 ホイールパッド(エアバッグカバー)
18 運転席用エアバッグ装置(車両用エアバッグ装置)
20 ベースプレート(ベース部)
22 エアバッグドア
24 インフレータ
26 エアバッグ
36A 底壁部
36B 周壁部
38A 底壁部
40 インフレータケース
42 スクイブ(点火装置)
54 ガス発生剤
60 保持部材
64 隔壁
68 燃焼室
74 ガス流路
76 ガス噴出孔
80 連通孔
82 ミスト
100 ディンプル(複数の凹部)
110 インフレータ
112 インフレータケース
114A 底壁部
114B 周壁部
116 燃焼室
118 保持部材
120 隔壁
128 ロア側ガス流路(ガス流路)
130 アッパ側ガス流路(ガス流路)
140 隔壁
142 連通孔
144 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス噴出孔が形成された周壁部と該周壁部の軸方向の端部を閉止する一対の底壁部とを含んで構成されたインフレータケースと、
該インフレータケースの内部に装着された点火装置と、
該インフレータケースの内部に装着され、該点火装置により着火されて燃焼することによりガスを発生するガス発生剤を収容しかつ保持する保持部材と、
少なくとも該保持部材を含むことによって隔成された燃焼室と前記ガス噴出孔とが連通されるように、前記インフレータケースの内側でかつ前記保持部材の周囲に形成されたガス流路と、
を備えたインフレータであって、
前記ガス噴出孔は前記燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に対して該インフレータケース軸方向にオフセットして配置されていると共に、
前記保持部材の前記インフレータケース軸方向における少なくとも前記ガス噴出孔配置側の反対側には、該保持部材の一部を成しかつ前記燃焼室と前記ガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁が配置されることで、フィルタを使用しない構成とされている、
ことを特徴とするインフレータ。
【請求項2】
前記保持部材におけるインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側と反対側には前記隔壁が配置されており、かつ、該保持部材におけるインフレータケース軸方向のガス噴出孔配置側には前記隔壁が配置されずに開放状態とされて前記インフレータケースの底壁部によって閉止されている、
ことを特徴とする請求項1記載のインフレータ。
【請求項3】
ガス噴出孔が形成された周壁部と該周壁部の軸方向の端部を閉止する一対の底壁部とを含んで構成されたインフレータケースと、
該インフレータケースの内部に装着された点火装置と、
該インフレータケースの内部に装着され、該点火装置により着火されて燃焼することによりガスを発生するガス発生剤を収容しかつ保持する保持部材と、
少なくとも該保持部材を含むことによって隔成された燃焼室と前記ガス噴出孔とが連通されるように、前記インフレータケースの内側でかつ前記保持部材の周囲に形成されたガス流路と、
を備えたインフレータであって、
前記ガス噴出孔は前記燃焼室のインフレータケース軸方向の中間位置に配置されていると共に、
前記保持部材の前記インフレータケース軸方向の両端部には、該保持部材の一部を成しかつ前記燃焼室と前記ガス流路とを連通する連通孔が設けられた隔壁がそれぞれ配置されることで、フィルタを使用しない構成とされている、
ことを特徴とするインフレータ。
【請求項4】
前記連通孔は、該連通孔を通る板厚方向に対して前記ガス噴出孔から離れる方向へ傾いて形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインフレータ。
【請求項5】
前記インフレータケースの前記隔壁と対向する底壁部の内側面には、ガス流に乱流を生じさせるための複数の凹部又は複数の凸部或いは複数の凹部及び凸部の双方が形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインフレータ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載されたインフレータと、
該インフレータが取り付けられてこれを支持するベース部材と、
該ベース部材に折り畳み状態で固定され、インフレータからのガスの供給を受けて膨張するエアバッグと、
折り畳み状態の前記エアバッグをベース部材との間に格納すると共にバッグ膨張圧が所定値に達するとエアバッグドアを展開させてエアバッグを膨出させるエアバッグカバーと、
を有することを特徴とする車両用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−40283(P2009−40283A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208560(P2007−208560)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】