説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】インホイールモータ駆動装置におけるモータ部のモータ側出力軸を、減速部B側に配置した軸受によってハウジング部材に対して片持ち支持する構造において、軸方向寸法を短縮する。
【解決手段】モータ部Aのモータ側出力軸25を、減速部B側に配置した軸受36a、36bによってハウジング部材22cに対して片持ち支持し、減速部と逆の方向に位置するモータ側出力軸25の端部に、ロックナット62を螺合し、このロックナット62の拘束力により、軸受36a、36bに直接予圧を与えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの出力軸と車輪のハブとを減速機を介して同軸上に連結したインホイールモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置101は、例えば、特開2009−52630号公報(特許文献1)、特開2009−174592号公報(特許文献2)に記載されている。
【0003】
これらのインホイールモータ駆動装置101は、図10、図11に示すように、車体に取り付けられるハウジング102の内部に駆動力を発生させるモータ部103と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部104と、モータ部103の回転を減速して車輪ハブ軸受部104に伝達する減速部105とを備える。
【0004】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101において、装置のコンパクト化の観点からモータ部103には低トルクで高回転のモータが採用される。一方、車輪ハブ軸受部104には、車輪を駆動するために大きなトルクが必要となる。このため、減速部105には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機を採用することが多い。
【0005】
サイクロイド減速機を適用した減速部105は、偏心部106a、106bを有する入力軸106と、偏心部106a、106bに配置される曲線板107a、107bと、曲線板107a、107bを入力軸106に対して回転自在に支持する転がり軸受106cと、曲線板107a、107bの外周面に係合して曲線板107a、107bに自転運動を生じさせる複数の外周係合部材108と、曲線板107a、107bの自転運動を車輪側回転部材110に伝達する複数の内ピン109とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−52630号公報
【特許文献2】特開2009−174592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10、図11に示すインホイールモータ駆動装置101のモータ部103は、モータ部ハウジング102bのハウジング部材102eに固定されるステータ111と、ステータ111の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ112と、ロータ112の内側に固定連結されてロータ112と一体回転するモータ側出力軸113とを備えるラジアルギャップモータである。ロータ112のモータ側出力軸113は、フランジ形状のロータ部113aと円筒形状の中空部113bとを有し、転がり軸受114a、114bによってモータ部ハウジング102bのハウジング部材102eに対して回転自在に支持されている。
【0008】
モータ側出力軸113の中空部113bは、モータ部103の駆動力を減速部105に伝達するためにモータ部103から減速部105にかけて配置され、中空部113b内に嵌合固定された入力軸106が減速部105の中心に挿通されてモータ側出力軸113の中空部113bと一体に回転する。減速部105内の入力軸106は、偏心部106a、106bを有する。さらに、2つの偏心部106a、106bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180°位相を変えて設けられている。
【0009】
車輪ハブ軸受部104、減速部105、モータ部103が軸方向に並んで配置されるインホイールモータ駆動装置においては、軸方向寸法の短縮は必須の課題である。このため、ホイールからはみ出す部分が自ずと少なくなり、車両に対してインホイールモータ駆動装置を支持する部分は、減速部105のハウジング102aではなく、モータ部103のハウジング102bにならざるを得ない場合が多い。
【0010】
そして、図11に示すインホイールモータ駆動装置においては、ロータ112のモータ側出力軸113を、フランジ形状のロータ部113aの左右両側に転がり軸受114a、114bを配置して、モータ部103のハウジング102bに対して回転自在に支持する構造を採用している。
【0011】
かかる支持構造では、左右両側の転がり軸受114a、114bに剛性を付与するために、左右両側の転がり軸受114a、114bの間に、ばね115を配置し、左右両側の転がり軸受114a、114bに定圧予圧を与えている。
【0012】
上記図11に示すモータ側出力軸113のハウジング102bに対する支持構造では、ハウジング102bが、左右のハウジング部材102e、102fに分割されているため、ロータ部112aの左右両側に配置される転がり軸受114a、114bが、それぞれ別個のハウジング部材102e、102fに固定されることになる。
【0013】
ところが、左右の転がり軸受114a、114bを別個のハウジング部材102e、102fに固定した場合、ハウジング部材102e、102fにそれぞれ異なる荷重が入力されると、左右の転がり軸受114a、114b間において軸ずれが生じ、場合によっては偏摩耗が発生する。また、軸ずれが大きい場合には、ロータ112とステータ111とが干渉して最悪の場合には、ショートしてしまう恐れがある。
【0014】
一方、図10に示すインホイールモータ駆動装置においては、フランジ形状のロータ部113aの片側に転がり軸受114a、114bを配置している。
【0015】
このように転がり軸受114a、114bをロータ部112aの片側で支持した場合、転がり軸受114a、114bが同じハウジング部材102eに支持されるので、軸ずれの発生を最小限に収めることができる。
【0016】
転がり軸受114a、114bをロータ部113aの片側で支持した場合、軸受剛性を持たせるためには、予圧が必須となる。
【0017】
しかしながら、モータ部103と減速部105との間にはオイルポンプ等を設けることが多く、そのような場合には、定位置予圧をするためのスペースが十分に取れない。
【0018】
このため、転がり軸受114a、114bをロータ部112aの片側で支持する構造を採用した場合、軸方向寸法を長くして、定位置予圧をするためのスペースを確保しなければならないという問題があった。
【0019】
そこで、この発明は、ロータ部の片側に転がり軸受を配置して、軸ずれの発生を最小限に収めることができるロータ部の片持ち支持構造で、軸方向寸法の短縮を行うことを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の課題を解決するために、この発明は、車体に取り付けられるハウジングの内部に駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部とを備え、モータ部のモータ側出力軸を、減速部側に配置した軸受によってハウジングに対して片持ち支持し、前記モータ側出力軸を減速部と逆の方向から軸方向に拘束したことを特徴とする。
【0021】
前記モータ側出力軸を軸方向に拘束する手段としては、減速部と逆の方向に位置するモータ側出力軸の端部に螺合するロックナットを採用することができ、このロックナットの拘束力により減速部側に配置した軸受に直接予圧を与えることができる。
【0022】
前記ロックナットとモータ側出力軸間に座金を配置し、座金を介してモータ側出力軸を軸方向に拘束するようにしてもよい。
【0023】
前記軸受としては、アンギュラ軸受、深溝玉軸受又はテーパローラ軸受を使用することができる。
【0024】
前記モータ側出力軸を、フランジ形状のロータ部と円筒形状の中空部とによって構成し、前記ロータ部と中空部との回り止め手段としては、キー又はスプラインを使用することができる。
【0025】
前記減速部と逆の方向に位置するモータ側出力軸の端部と、モータ部のハウジングとの間に、角度センサを配置してもよい。
【0026】
角度センサとしては、レゾルバ、ホールセンサを用いたセンサ、絶対角度検出センサを使用することができる。
【0027】
前記減速部としては、サイクロイド減速機を使用することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明は、以上のように、前記減速部と逆の方向に位置するモータ側出力軸の端部を、軸方向に拘束することにより、減速部側に配置した軸受に直接予圧を与えることができるので、インホイールモータ駆動装置の軸方向寸法を短縮することができる。
この構造にすることで、従来軸受支持構造が図11のように、左右に分かれていた時にはそれぞれの軸受ハウジング(モータハウジング22cとその蓋22d)の精度、特に同軸度が求められていたが、減速部側に配置されたハウジング側22cに軸受を配置するため、ハウジング精度が出しやすい。
更に、22dは軸受ハウジンを配置しなくなるため、従来より加工精度を求められない、即ち、加工が容易になる。

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図2】図1のモータ部の拡大図である。
【図3】図1の減速部の拡大図である。
【図4】図1の車輪ハブ軸受部の拡大図である。
【図5】図1のV−V線の断面図である。
【図6】図1のインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車の概略平面図である。
【図7】図6の車両後方から見た図である。
【図8】この発明の他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置のモータ部の拡大図である。
【図9】この発明の他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置のモータ部の拡大図である。
【図10】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図11】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図6に示すように、シャーシ12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、左右の後輪14それぞれに駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを備える。後輪14は、図7に示すように、シャーシ12のホイールハウジング12aの内部に収容され、懸架装置(サスペンション)12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0031】
懸架装置12bは、左右に伸びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャーシ12の振動を抑制する。さらに、左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時等に車体の傾きを抑制するスタビライザーが設けられる。なお、懸架装置12bは、路面の凹凸に対する追従性を向上し、駆動輪の駆動力を効率良く路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させることができる独立懸架式とするのが望ましい。
【0032】
この電気自動車11は、ホイールハウジング12a内部に、左右の後輪14それぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャーシ12上にモータ、ドライブシャフト、およびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の駆動輪の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0033】
一方、この電気自動車11の走行安定性を向上するために、ばね下重量を抑える必要がある。また、さらに広い客室スペースを確保するために、インホイールモータ駆動装置21の小型・軽量化が求められる。
【0034】
インホイールモータ駆動装置21は、図1に示すように、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を駆動輪14に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速部Bとは、モータ部ハウジング22aと減速部ハウジング22bに収納されて、図6に示すように電気自動車11のホイールハウジング12a内に取り付けられる。
【0035】
モータ部Aは、図2に示すように、モータ部ハウジング22aのハウジング部材22cに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ側出力軸25とを備えるラジアルギャップモータである。モータ側出力軸25は、フランジ形状のロータ部25aと円筒形状の中空部25bとを有し、ロータ部25aの減速部B側の片側に配置された転がり軸受36a、36bによって、モータ部ハウジング22aのハウジング部材22cに対して片持ち支持されている。
【0036】
このようにロータ部25aの片側を転がり軸受36a、36bで支持した場合、転がり軸受36a、36bが同じハウジング部材22cに支持されるので、軸ずれの発生を最小限に収めることができる。
【0037】
転がり軸受36a、36bは、アンギュラ軸受を使用しているが、深溝玉軸受又はテーパローラ軸受を使用することもできる。
【0038】
前記のように、転がり軸受36a、36bをロータ部25aの片側で支持した場合、軸受剛性を持たせるために予圧が必須となる。このため、次のようにして転がり軸受36a、36bに予圧を与えている。
【0039】
円筒形状の中空部25bの減速部Bと逆側の端部の外周面に雄ねじ61を形成し、この雄ねじ61にロックナット62を螺合して、中空部25bの減速部Bと逆側の端部を軸方向に拘束して、転がり軸受36a、36bに直接予圧がかかるようにしている。
【0040】
このロックナット62と中空部25bの減速部Bと逆側の端部との間には、座金63を配置して、座金63を介してモータ側出力軸25を軸方向に拘束するようにしている。
【0041】
図8及び図9の実施形態では、前記中空部25bの減速部Bと逆側の端部と、モータ部Aのハウジング22aとの間に、角度センサ64を配置している。
【0042】
角度センサ64としては、図8に示すようなレゾルバ64a、図9に示すようなホールセンサ64bを使用したものの他、図示は省略するが、特開2008−233069号に開示されている絶対角度検出センサを使用することができる。
【0043】
レゾルバ64aは、ハウジング部材22dに固定されたレゾルバステータと、モータ側出力軸の端部に固定されたレゾルバロータとからなり、レゾルバステータは絶縁材を介してステータ巻線を巻回して構成される。
【0044】
また、絶対角度検出センサは、同心のリング状に設けられた互いに磁極数が異なる複数の磁気エンコーダと、これら各磁気エンコーダの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気エンコーダの磁極内における位置の情報を検出する機能を有する回転検出装置であり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段とを設けたものである。
【0045】
モータ側出力軸25は、前記のように、フランジ形状のロータ部25aと円筒形状の中空部25bとを有し、フランジ形状のロータ部25aと円筒形状の中空部25bとは、キー65によって回り止めされ、一体に回転する。フランジ形状のロータ部25aと円筒形状の中空部25bとの回り止め手段は、スプラインでもよいが、ロータ24のバランス取りを考えた場合、ガタのあるスプラインよりも、キー65による回り止めの方が好ましい。
【0046】
モータ側出力軸25の中空部25bは、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bにかけて配置され、中空部25b内に嵌合固定された入力軸26が減速部Bの中心に挿通されてモータ側出力軸25の中空部25bと一体に回転する。減速部B内の入力軸26は、偏心部26a、26bを有する。さらに、2つの偏心部26a、26bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180°位相を変えて設けられている。
【0047】
減速部Bは、図3に示すように、偏心部26a、26bに回転自在に保持される公転部材としての曲線板27a、27bと、減速部ハウジング22b上の固定位置に保持され、曲線板27a、27bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン29と、曲線板27a、27bの自転運動を車輪側回転部材28に伝達する運動変換機構と、偏心部26a、26bに隣接する位置にカウンタウェイト30とを備える。また、減速部Bには、減速部Bに潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。
【0048】
車輪側回転部材28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。また、軸部28bは車輪ハブ32に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪14に伝達する。車輪側回転部材28のフランジ部28aとモータ側入力軸26とは、転がり軸受36cによって回転自在に支持されている。
【0049】
曲線板27a、27bは、図5に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30a、30bを有する。貫通孔30a、30bは、曲線板27a、27bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30cは、曲線板27a、27bの中心に設けられており、偏心部26a、26bに嵌合する。
【0050】
曲線板27a、27bは、転がり軸受41によって偏心部26a、26bに対して回転自在に支持されている。この転がり軸受41は、偏心部26a、26bの外径面に嵌合し、その外径面に内側軌道面を有する内輪部材と、曲線板27a、27bの貫通孔30cの内径面に直接形成された外側軌道面と、内側軌道面および外側軌道面の間に配置される複数の円筒ころ44と、隣接する円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。
【0051】
外ピン29は、モータ側出力軸26の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。曲線板27a、27bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン29とが係合して、曲線板27a、27bに自転運動を生じさせる。ここで、外ピン29は、針状ころ軸受によって減速部ハウジング22bに対して回転自在に支持されている。これにより、曲線板27a、27bとの間の接触抵抗を低減することができる。
【0052】
カウンタウェイト30は、円板状で、中心から外れた位置に入力軸26と嵌合する貫通孔を有し、曲線板27a、27bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心部26a、26bに隣接する位置に偏心部と180°位相を変えて配置される。
【0053】
運動変換機構は、車輪側回転部材28に保持された複数の内ピン31と、曲線板27a、27bに設けられた貫通孔30a、30bとで構成される。内ピン31は、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が車輪側回転部材28に固定されている。また、曲線板27a、27bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板27a、27bの貫通孔30a、30bの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受が設けられている。
【0054】
貫通孔30a、30bは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30a、30bの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受を含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。
【0055】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給するものであって、潤滑油給油口26dと、潤滑油排出口22eと、潤滑油貯留部22fと、回転ポンプ51と、循環油路45とを備える。
【0056】
潤滑油路45は、モータ側入力軸26の内部を軸線方向に沿って延びている。また、潤滑油供給口26dは、潤滑油路45からモータ側入力軸26の外径面に向かって延びている。なお、この実施形態において、潤滑油供給口26dは、偏心部26a、26bに設けられている。
【0057】
また、減速部Bの位置における減速部ハウジング22bの少なくとも1箇所には、減速部B内部の潤滑油を排出する潤滑油排出口22eが設けられている。また、循環油路45がモータ部ハウジング22aの内部に設けられている。そして、潤滑油排出口22eから排出された潤滑油は、循環油路45を経由して還流する。
【0058】
車輪ハブ軸受部Cは、図4に示すように、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を減速部ハウジング22bに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを備える。車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって駆動輪14が固定連結される。また、車輪側回転部材28の軸部28bの外径面にはスプラインおよび雄ねじが形成されている。また、車輪ハブ32の中空部32aの内径面にはスプライン穴が形成されている。そして、車輪ハブ32の内径面に車輪側回転部材28を螺合し、先端をナット32dでとめることによって、両者を締結している。
【0059】
車輪ハブ軸受33は、車輪ハブ32の中空部32aの車両アウター側の外径面に一体形成されたアウター側軌道面と車輪ハブ32の中空部32aの車両インナー側の外径面に嵌合された外面にインナー側軌道面を有する内輪33bとからなる内方部材33aと、この内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に配置される複列の玉33cと、内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に対向するアウター側軌道面とインナー側軌道面を内周面に有する外方部材33dと、隣接する玉33cの間隔を保持する保持器33eと、車輪ハブ軸受33の軸方向両端部を密封する密封部材33f、33gとを備える複列アンギュラ玉軸受である。
【0060】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dは、減速部ハウジング22bに対して締結ボルト61によって固定される。
【0061】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dには、外径部にフランジ部33hが設けられ、減速部B側に円筒部33iが設けられている。
【0062】
以下、インホイールモータ駆動装置21の作動原理について説明する。
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。これにより、ロータ24に接続されたモータ側出力軸25が回転すると、曲線板27a、27bはモータ側出力軸25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン29が、曲線板27a、27bの曲線形状の波形と係合して、曲線板27a、27bをモータ側出力軸25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0063】
貫通孔30a、30bに挿通する内ピン31は、曲線板27a、27bの自転運動に伴って貫通孔30a、30bの内壁面と当接する。これにより、曲線板27a、27bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板27a、27bの自転運動のみが車輪側回転部材28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0064】
このとき、モータ側出力軸25の回転が減速部Bによって減速されて車輪側回転部材28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0065】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン29の数をZA、曲線板27a、27bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図5に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0066】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン29および内ピン31に針状ころ軸受を設けたことにより、曲線板27a、27bとの間の摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0067】
上記の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車11に採用することにより、ばね下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性に優れた電気自動車11を得ることができる。
【0068】
また、上記の実施形態においては、減速部Bの曲線板26a、26bを180°位相を変えて2枚設けたが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120°位相を変えて設けるとよい。
【0069】
また、上記の実施形態における運動変換機構は、車輪側回転部材28に固定された内ピン31と、曲線板27a、27bに設けられた貫通孔30a、30bとで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ32に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0070】
なお、上記の実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0071】
また、上記の実施形態における作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を駆動輪14に伝達させたが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、駆動輪14側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電しても良い。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いたりしてもよい。
【0072】
さらに、上記の実施形態の構成にブレーキを加えることもできる。例えば、図1の構成において、ハウジング22aを軸方向に延長してロータ24の図中右側に空間を形成し、ロータ24と一体的に回転する回転部材と、ハウジング22に回転不能にかつ軸方向に移動可能なピストンと、このピストンを作動させるシリンダとを配置して、車両停止時にピストンと回転部材とを嵌合させてロータ24をロックするパーキングブレーキであってもよい。
【0073】
または、ロータ24と一体的に回転する回転部材の一部に形成されたフランジおよびハウジング22a側に設置された摩擦板をハウジング22a側に設置されたシリンダで挟むディスクブレーキであってもよい。さらに、この回転部材の一部にドラムを形成すると共に、ハウジング22側にブレーキシューを固定し、摩擦係合およびセルフエンゲージ作用で回転部材をロックするドラムブレーキを用いることができる。
【0074】
また、上記の実施形態において、曲線板26a、26bを支持する軸受として円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0075】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置21のコンパクト化の観点からは、転がり軸受41には円筒ころ軸受が好適である。
【0076】
また、上記の各実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばハウジングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0077】
さらに、図6に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
【0078】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
11 電気自動車
12 シャーシ
12a ホイールハウジング
12b 懸架装置
13 前輪
14 後輪
22a モータ部ハウジング
22b 減速部ハウジング
22c、22d ハウジング部材
23 ステータ
24 ロータ
25 モータ側出力軸
25a ロータ部
25b 中空部
26 入力軸
26a、26b 偏心部
27a、27b 曲線板
29 外ピン
30 カウンタウェイト
31 内ピン
36a、36b 転がり軸受
61 雄ねじ
62 ロックナット
63 座金
64 角度センサ
64a レゾルバ
64b ホールセンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられるハウジングの内部に駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部とを備え、モータ部のモータ側出力軸を、減速部側に配置したハウジングに対して軸受によって片持ち支持し、前記モータ側出力軸を減速部と逆の方向から軸方向に拘束したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
モータ側出力軸を減速部と逆の方向から軸方向に拘束する手段が、モータ側出力軸の端部に螺合するロックナットである請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記軸受が、座金を介して軸方向に拘束している請求項2記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータ側出力軸を、フランジ形状のロータ部と円筒形状の中空部とによって構成し、前記ロータ部と中空部との回り止め手段として、キーを使用する請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記モータ側出力軸を、フランジ形状のロータ部と円筒形状の中空部とによって構成し、前記ロータ部と中空部との回り止め手段として、スプラインを使用する請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記軸受が、アンギュラ軸受、深溝玉軸受又はテーパローラ軸受であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記減速部と逆の方向に位置するモータ側出力軸の端部と、モータ部のハウジングとの間に、角度センサを配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記角度センサがレゾルバである請求項7に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記角度センサがホールセンサを用いたセンサである請求項7に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記角度センサが、絶対角度検出センサである請求項7に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記減速部がサイクロイド減速機からなる請求項1〜10のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−189920(P2011−189920A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60183(P2010−60183)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】