説明

イン・ホイール・モータ車用車輪

【課題】 サービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキを備えた、イン・ホイール・モータ車用車輪をコンパクトにする。
【解決手段】 イン・ホイール・モータ・ユニット1を装着した車輪において、パーキング・ブレーキ・ユニット2とサービス・ブレーキ・ユニット20とをディスク・ホイール5に対して互いに分離独立させて配置するとともに、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20とを、モータ・ケース4の車幅方向外側面4aにそれぞれ連結支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制動可能なサービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキ・ユニットを備えたイン・ホイール・モータ車用車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
イン・ホイール・モータ車では、車輪の内部に電気モータやブレーキ・ユニットを組み込んだ車輪を用いる。これにより、車両内スペースが広くとれ、また個々の車輪の電気モータを統合して制御することで、内燃エンジンや1個の電気モータのみで走行する車両に比べて走行制御の自由度が大きくなるといったメリットが得られる。
【0003】
このようなイン・ホイール・モータ車用車輪を後輪に用いる場合には、通常の内燃機関車の場合と同様に、サービス・ブレーキ・ユニットに加え、パーキング・ブレーキ・ユニットを組み込むことが必要である。通常、サービス・ブレーキ・ユニットとしては、液圧でピストンを作動させてブレーキ・パッドをディスク・ロータの両側の制動摺動面へ押しつけることで制動力を発生させるディスク・ブレーキ・ユニットが、その耐フェード性が高いことなどから、よく用いられている。
このようにディスク・ブレーキを採用する車輪にパーキング・ブレーキ機能を持たせる場合、従来はディスク・ブレーキ・ユニット内にパーキング・ブレーキ・ユニットを一体的に組み込んでいる。
【0004】
すなわち、従来のパーキング・ブレーキ機能を有するブレーキ・ユニットでは、サービス・ブレーキ・ユニットの車幅方向内側に一体的に設けたパーキング・ブレーキ・ユニットの部分に駆動レバーを設け、該駆動レバーとハンド・ブレーキ・レバーをケーブルで連結するとともに、ハンド・ブレーキ・レバーの操作に伴う駆動レバーの回転運動をカム機構を用いてプッシュ・ロッドの往復動運動に変換し、該プッシュ・ロッドをピストンの後端部に係合させることでピストンを機械的にディスク・ロータに向けて押し出し、この反力によるキャリパ本体の移動とでそれぞれのブレーキ・パッドをディスク・ロータの両制動摺動面に押圧させて制動力を得るように構成している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−255480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなパーキング・ブレーキ・ユニットをビルト・インしたサービス・ブレーキ・ユニットを、イン・ホイール・モータ車用車輪に適用しようとすると、以下のような問題が生じる。
【0007】
すなわち、上記従来技術にあっては、ディスク・ブレーキ・ユニットのピストンの軸方向後方(車幅方向内側)に向けてプッシュ・ロッド、カム機構、駆動レバーと順にシリーズ配置されるので、パーキング・ブレーキ・ユニットをビルト・インしたディスク・ブレーキにあっては、その全体の軸長が長くなってしまう。この場合、このようなビルト・イン型ブレーキ・ユニットをイン・ホイール・モータ車用の車輪に適用しようとすると、このタイプの車輪ではブレーキ・ユニットの後方に電気モータ等が配置されるため、通常の内燃機関車や1個のモータで複数の車輪を駆動する電気自動車に比べて、より大きな配置スペースが必要となる。具体的に言えば、ブレーキ・ユニットの軸長が長くなった分だけ、電気モータを軸方向後方(車両幅方向内側)へホイールから離間させなければならない。この場合、せっかくの車両有効スペースを広げるためイン・ホイール・モータを採用しても、そのメリットが失われるなどの問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、サービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキ・ユニットとをイン・ホイール・モータ車用車輪に用いる場合でも、コンパクトな車輪にすることができるようにしたイン・ホイール・モータ車用車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明によるイン・ホイール・モータ車用車輪は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる車輪を説明するに、この車輪は、
タイヤを装着したホイール・ディスクと、
ホイール・ディスク内に少なくとも一部が収納されたモータ・ケースと、
モータ・ケース内に収納されホイール・ディスクを駆動可能な電気モータと、
モータ・ケースのホイール・ディスク側の車幅方向外側面に対向しホイール・ディスクと一体回転するディスク・ロータと、
ディスク・ロータをこの両側面から挟むことで制動力を付与可能なサービス・ブレーキ・ユニットと、
ディスク・ロータをこの両側面から挟むことで制動力を付与可能なパーキング・ブレーキ・ユニットと、を備えたものである。
【0010】
本発明は、かかる車輪へ取り付ける各ブレーキ・ユニットの配置および取り付け構造を、特に以下のごときものとする。
すなわち、パーキング・ブレーキ・ユニットとサービス・ブレーキ・ユニットとを、ディスク・ホイール対して互いに分離独立させて配置するとともに、
サービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキ・ユニットとを、モータ・ケースの車幅方向外側面にそれぞれ連結支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
かかる本発明のイン・ホイール・モータ車用車輪によれば、サービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキとを分離独立させて配置したので、従来のシリーズ配置に比べて軸方向長さが短くなる。このため、両ブレーキ・ユニットとモータ・ケースとの間の隙間を狭めることができ、電気モータおよびこれを収納するモータ・ケースの車輪からの車幅方向内側への飛び出し量を小さく抑えることが可能となる。したがって、車室などの車両内スペースを拡大でき、居住性、機器等の搭載性を向上させることができる。
【0012】
また、サービス・ブレーキ・ユニットとパーキング・ブレーキとをモータ・ケースの車幅方向外側面に取り付けたので、半径方向への拡大もなく、コンパクトな車輪となる。この場合、上述のように両ブレーキ・ユニットとモータ・ケースとは軸寸法距離が短くできたので、両ブレーキ・ユニットのモータ・ユニットの車幅方向外側面への取り付け距離も短くて済み、両ブレーキをより確実にしっかりと固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】イン・ホイール・モータ・ユニット、ディスク・ロータ、サービス・ブレーキ・ユニット、パーキング・ブレーキ・ユニットを備えた本発明の第1実施例になるイン・ホイール・モータ車用車輪を上方からみた断面平面図である。
【図2】図1に示す第1実施例の車輪の斜視図である。
【図3】第1実施例の車輪およびそのサスペンションへの取り付け部分を示す正面図である。
【図4】図3に示す車輪および該車輪が支持されるサスペンションを車幅方向内側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例1>
図1、2は、本発明の第1実施例になる車輪の構造を示し、図1は、イン・ホイール・モータ・ユニット、ディスク・ロータ、サービス・ブレーキ・ユニット、パーキング・ブレーキ・ユニットを備えた車輪を上方からみた断面平面図、図2は第1実施例の車輪の斜視図である。
【0015】
第1実施例の車輪は、電気自動車に用いられるイン・ホイール・モータを備えた車輪である。
車輪は、図示しないサスペンションを介して車体に対し揺動可能に取り付けられる一方、ホイール・ディスク3が取り付けられて図示しないタイヤを支持する。また、車輪には、図1、2に示すように、イン・ホイール・モータ・ユニット1が装着されて、タイヤを駆動可能である。
【0016】
イン・ホイール・モータ・ユニット1は、図示しない電気モータと、電気モータの出力軸に連結された図示しない減速機構と、これらを内蔵するモータ・ケース4と、を有する。電気モータとしては例えば三相交流モータを用いて車輪を駆動可能とするとともに、発電機としても機能させてブレーキ・エネルギを回生するのに用いるが、必ずしも発電機機能をもたせる必要はない。減速機構はこの実施例では遊星歯車組で構成するが、これに限らず他の構成になる減速機構でもよく、あるいは電気モータによっては減速機構を不要とすることも可能である。
【0017】
このイン・ホイール・モータ・ユニット1を備えた車輪にあっては、減速機機構の出力軸にスプライン嵌合したホイール・ハブ30のフランジ部30aに複数のハブ・ボルト31にてディスク・ロータ5の内周側部分5a(図2参照)とホイール・ディスク3とを固定して、これらが一体回転するようにしてある。ディスク・ロータ5は、両側面に制動摺動面を有する外周側部分5bは、その内周側部分5aより車幅方向内側へずらしたオフセット部分5cを有する形状とする。一方、ホイール・ハブ30は、例えばボール・ベアリングにて構成したハブ・ベアリングを介してモータ・ケース4の小径部4cの車幅方向外側面に回転自在に支持する。なお、モータ・ケース4は、小径部4cの車幅方向内側に大径の外周部4bを有し、この大径部4b内に電気モータを、また小径部4c内に減速機構をそれぞれ収納している。
【0018】
一方、車輪の中心軸線を通って、この車両前後方向の水平線上にサービス・ディスク・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20を、それぞれ分離独立して配置する。なお、本実施例では、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20を、車輪中心点の前後で、中心点を通る水平線上の前後に分けて配置したが、これに限られず、これらブレーキ・ユニット2、20が完全に対向せずに互いにある角度をなすようにしても良く、要はディスク・ロータ5の車両前方側と車両後方側とに分離されて配置されてあれば良い。
【0019】
サービス・ディスク・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20は、ディスク・ロータ5の外周側部分5bの両側面に形成した制動摺動面をこの軸線方向両側からブレーキ・パッド9a、9bで挟んで制動力を発生させるディスク・ブレーキを用いる。また、本実施例にあっては、サービス・ディスク・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20は、図1および図2に示すように、いずれもモータ・ケース4に取着する。
【0020】
すなわち、サービス・ディスク・ブレーキ・ユニット2は、図2に示すように、いわゆるフローティングキャリパ型ブレーキ・ユニット2であって、キャリパ支持ブラケット6を具え、このキャリパ支持ブラケット6上にスライドピン7を介しディスク・ロータ5の回転軸線方向へスライド可能に浮動支持したキャリパ本体8を設ける。このキャリパ本体8は、全体をディスク・ロータ5の外周部分に跨るコ字状とし、ディスク・ロータ回転軸線方向の一方側(車両幅方向内側)におけるキャリパ本体8の作用端8aに液圧で作動するピストン10(図1参照)を内蔵し、反対側のディスク・ロータ回転軸線方向の他方側(車両幅方向外側)における該キャリパ本体8の端部8bを反作用端として構成する。上記ピストンおよびディスク・ロータ5間にはブレーキ・パッド9aを介在させ、反作用端8bおよびディスク・ロータ5間にはブレーキ・パッド9bを介在させる。
【0021】
サービス・ブレーキ・ユニット2をイン・ホイール・モータ・ユニット1に取着するに際しては、サービス・ブレーキ・ユニット2を、ディスク・ロータ5の外周縁よりも径方向外方位置において、モータ・ケース4の車両幅方向外側の面、すなわち車幅方向外側面4aに取着する。これにより、イン・ホイール・モータ・ユニット1を有する車輪全体がコンパクトになるとともに、サービス・ブレーキ・ユニット2をイン・ホイール・モータ・ユニット1に対し脱着する作業を車幅方向外側から行い得ることとなり、イン・ホイール・モータ・ユニット1の搭載状態でこれにサービス・ブレーキ・ユニット2を脱着し得ると共に、当該脱着のための作業スペースについて考慮する必要がなくなる。
【0022】
このため、モータ・ケース4の大径の外周壁4bと交差するモータ・ケースの車幅方向外側面4aの箇所にボス部11、12を立設し、これらボス部11、12の先端面に開口させてねじ孔(図1〜3では見えていない)を刻設する。
これらボス部11、12の間隔は、キャリパ支持ブラケット6の両端6a、6b間の距離に同じとし、キャリパ支持ブラケット6の両端6a、6bにはそれぞれ、ボス部11、12の先端面開口ねじ孔と整列する透孔(図1、2では見えていない)を穿設する。
【0023】
フローティングキャリパ型ブレーキ・ユニット2をイン・ホイール・モータ1に取り付けるに当たっては、キャリパ支持ブラケット6の両端6a、6bをそれぞれ、車幅方向外側(ホイール・ディスク3側)からボス部11、12の先端面にあてがって、キャリパ支持ブラケット6の両端6a、6bに穿設した透孔をボス部11、12の先端面開口ねじ孔に整列させる。
この状態でキャリパ支持ブラケット6の両端6a、6bにおける透孔にボルト13、14を車幅方向外側から挿通し、これらボルト13、14の先端をボス部11、12の先端面開口ねじ孔に螺合して緊締する。
【0024】
以上により、イン・ホイール・モータ1のモータ・ケース4の車幅方向外側面4aに対するフローティングキャリパ型ブレーキ・ユニット2の取り付けを完了する。
ところで、キャリパ支持ブラケット6の両端6a、6bをそれぞれ、対応するスライドピン7の直近に位置させ、これによりモータ・ケース4の車幅方向外側面4aに対するフローティングキャリパ型ブレーキ・ユニット2の取り付け点(ボス部11、12およびボルト13、14によるブレーキ・ユニット取り付け点)を、フローティングキャリパ型ブレーキ・ユニット2の対応するスライドピン7に隣接させる。
【0025】
一方、パーキング・ブレーキ・ユニット20も、図1に示すように、サービス・ブレーキ・ユニット2と同様に、ブレーキ・パッド18a、18bでディスク・ロータ5の両側面を軸方向から挟んで制動力を付与するディスク・ブレーキで構成する。ブレーキ・パッド18aはピストン21にて、またブレーキ・パッド18bはキャリパ―本体22によってディスク・ロータ5の制動摺動面に向かって押圧可能である。
ここで、パーキング・ブレーキ・ユニット20がサービス・ブレーキ・ユニット2と異なるのは、ピストン21の押圧が液圧でなく機械的になされる点である。
【0026】
すなわち、パーキング・ブレーキ・ユニット20では、運転席の図示しないパーキング・レバーまたはパーキング・ブレーキ・ペダルにケーブルを介してパーキング・ブレーキ・ユニット20側の駆動レバー17が設けられ、パーキング・レバーまたはパーキング・ブレーキ・ペダルの操作による駆動レバー17の回転運動を往復直線運動に変換するカム機構23が設けられて、該カム機構23によりプッシュ・ロッド24を介してピストン21を押圧するように構成してある。パーキング・ブレーキ・ユニット20も、サービス・ブレーキ・ユニット2の場合と同様に、モータ・ケース4の車幅方向外側面4aにボス部15、16を介して取着する。なお、上記のようにケーブルにより機械的に駆動レバー17に回転運動を与えものに代えて、駆動レバー17に回転運動を与える電動モータを設け、パーキング・レバーまたはパーキング・ブレーキ・ペダルの操作を検出したとき、この電動モータを駆動させることによりパーキング・ブレーキを作動させるシステムを用いてもよいことはもちろんである。
【0027】
上記のように構成した車輪にあっては、モータ・ケース4および支持部40とディスク・ロータ5との間には、両ブレーキ・ユニット2、20、ディスク・ロータ5、ハブ・ベアリング等をダスト、スプラッシュなどの外部異物の侵入から保護するスプラッシュ・ガード19を配置する。
【0028】
上記のように構成した車輪は、図3、4に示すように、図外の車体にサスペンションを介して揺動可能に支持する。
すなわち、サスペンションは、車体装着時それぞれ車幅方向に延びる、1本のアッパー・サスペンション・メンバ33、ロア・サスペンション・メンバ34、図外のスプリングやショック・アブソーバ等を有し、車体と車輪に装着したイン・ホイール・ユニット1との間を相対変位可能に連結する。
【0029】
アッパー・サスペンション・メンバ33は、イン・ホイール・モータ・ユニット1のモータ・ケース4の上方箇所と車体との間に延在する棒状のI型サスペンションメンバで構成し、その車幅方向内端33aを車体に対し上下方向揺動可能に連結し、またその車幅方向外端33bをモータ・ケース4の大径部4bの外周壁における最上円周部位に対し上下方向揺動可能に連結する。
【0030】
アッパー・サスペンション・メンバ33の外端33bをモータ・ケース4の外周壁の最上円周部位に連結するに当たっては、当該外周壁の最上円周部位にフランジ35を突設し、該フランジ35のヨーク35aにアッパー・サスペンション・メンバ33の外端33bを枢支して当該連結を行う。
【0031】
一方、ロア・サスペンション・メンバ34は、モータ・ケース4の中心よりも下方においてモータ・ケース4と車体との間に延在する平面H字状のH型サスペンションメンバで構成し、2個の車幅方向内端34a、34bおよび2個の車幅方向外端34c、34dを有するものとする。
【0032】
ロア・サスペンション・メンバ34の内端34a、34bはそれぞれ、車体に対し上下方向揺動可能に連結し、ロア・サスペンション・メンバ34の外端34c、34dはそれぞれ、モータ・ケース4の大径部4bの外周壁における最下円周部位よりも若干上方位置に、その車両前後方向前方部位および車両前後方向後方部位に対し上下方向揺動可能に連結する。
【0033】
ロア・サスペンション・メンバ34の外端34c、34dをモータ・ケース4の大径部4bの外周壁下方部分における前方部位および後方部位に対し上下方向揺動可能に連結するに当たっては、当該外周壁の前方部位および後方部位にそれぞれフランジ36、37を突設し、該フランジ36、37のヨーク36a、37aにロア・サスペンション・メンバ34の外端34c、34dを枢支して当該連結を行う。
【0034】
但し、これらヨーク36a、37aを含むフランジ36、37は図3、4に明示するごとく、大径部4bの外周壁の最下円周部位よりも下方へ張り出すことのないようにする。
【0035】
なお、車輪のディスク・ロータ5の車両前後方向前側箇所および車両前後方向後側箇所にそれぞれサービス・ブレーキ・ユニット2としてのキャリパ型ブレーキ・ユニットおよびパーキング・ブレーキ・ユニット20としてのキャリパ型ブレーキ・ユニットを設けている。また、モータ・ケース4は、これらキャリパ型ブレーキ・ユニットの取着部近辺において強度を補強している。
【0036】
このモータ・ケース4の補強部における強度を、モータ・ケース4の大径部4bの外周壁に対するロア・サスペンション・メンバ34の外端34c、34dの連結強度確保に有効利用するため、ロア・サスペンション・メンバ34の外端34c、34dを取り付けるフランジ36、37(およびそのヨーク36a、37a)の配置に当たっては、これらフランジ36、37(およびヨーク36a、37a)をサービス・ブレーキ・ユニット2、パーキング・ブレーキ・ユニット20の取着部近辺に配置する。
【0037】
以上のように構成したイン・ホイール・モータ・ユニット1およびブレーキ・ユニット2、20を備えた車輪の作用につき、以下に説明する。
【0038】
駐車時には、ドライバーがパーキング・レバーまたはパーキング・ブレーキ・ペダルを操作すると、この力はケーブルを介してパーキング・ブレーキ・ユニット20側の駆動レバー17に伝わる。駆動レバー17の回転により増大されたトルクにてカム機構23、プッシュ・ロッド24、ピストン21、キャリパ―本体22を介してブレーキ・パッド18a、18bをディスク・ロータ5に押圧することで、パーキング・ブレーキ・ユニット20は機械的に作動され、制動力を発生して車両を駐車制動する。
【0039】
一方、車両を走行させるには、イン・ホイール・モータ・ユニット1の電気モータに電力を供給して電気モータを作動させ、この駆動力を、減速機構を介してトルク増大かつ減速して減速機構の出力軸15へ出力する。この駆動力は、出力軸15に一体に取り付けられたホイール・ディスク3へ伝わり、この外周のリム部3aに装着したタイヤを駆動回転することで、車両の走行を可能とする。
【0040】
車両走行中に、ブレーキ・ペダルが踏みこまれると、図示しないマスタ・シリンダから液圧がブレーキ配管を通じてサービス・ブレーキ・ユニット2のピストンに作用し、ブレーキ・パッド9aをディスク・ロータ5の車幅方向内側の制動摺動面に向けて押しつける。この反作用としてキャリバ本体8が移動し反作用端8側のブレーキ・パッド9bディスク・ロータ5の車幅方向外側の制動摺動面に向けて押しつける。この結果、ディスク・ロータ5には、ブレーキ・パッド9a、9bからその押圧力に応じた大きさの制動力が付与され、車両を減速させる。
【0041】
なお、上記パーキング・ブレーキ・ユニット20およびサービス・ブレーキ・ユニット2の作動中、ブレーキ・パッド18a、18bおよび9a、9bはディスク・ロータ5からブレーキ反力を受けるが、この力はボス部11、12および15、16を介してモータ・ケース4で受け止める。
【0042】
また、上記制動にあっては、本実施例ではサービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20とをディスク・ロータ5の車両前方側、車両後方側にそれぞれ分離配置しているので、以下の問題を回避できる。
すなわち、両ブレーキ・ユニット2、20ともディスク・ロータ5の車両前方側、車両後方側の一方側に片寄せて配置した場合には、制動時の振動が発生すると、ディスク・ロータ5の一方に重量が偏っているため、その偏りモーメントにより振動が増幅されてモータ・ケース4の置く低部位に応力集中が生じてしまう。
一方、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20とをディスク・ロータ5の上下に分離した配置した場合は、下側のブレーキ・ユニットはスプラッシュを受けやすく制動の効きが低下したり、石を噛みこんでブレーキ装置にダメージを受けたりする虞が高くなる。また、上側のブレーキ・ユニットによりディスク・ロータ5の荷重倒れが生じ、ブレーキ・パッドの偏摩耗が生じやすい。
これに対し、本実施例のように、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20とをディスク・ロータ5の車両前方側、車両後方側にそれぞれ分離配置すれば、上記モーメントが発生しにくく、このモーメントに起因した振動の増大が抑制される。これは、モータ・ケース4への入力を小さく抑えることに相当する。また、ディスク・ロータ5の荷重倒れも発生せず、ブレーキ・パッドの偏摩耗も生じず、スプラッシュによる効きの低下や石噛みによる損傷を避けることもできる。
【0043】
上記、車両の走行にあっては、車両の加速、減速、コーナリングなどの挙動および路面の凹凸などの状況に応じて、イン・ホイール・ユニット1を装着した車輪は、アッパー・サスペンション・メンバ33およびロア・サスペンション・メンバ34を介して車体に対し上下動する。
【0044】
以上の説明から分かるように、第1実施例のイン・ホイール・モータ車用車輪にあっては、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0045】
サービス・ブレーキ・ユニット2およびパーキング・ブレーキ・ユニット20を分離独立して配置して配置したため、これらが上記従来技術(特開2007-255480号公報に記載のもの) に記載のシリーズ配置のもの、特開2006-1373号(パーキング・ブレーキ・ユニットがイン・ホイール・モータを挟んでホイール・ディスクの反対側に配置)に記載されたもの、また特開2009-56957号(パーキング・ブレーキ・ユニットは電気モータの車幅方向内側に配置され電気モータのロータにブレーキ・パッドを押圧する)に記載されたものの場合のように軸長が長くなることがなく、図1に示す、ディスク・ロータ5の車幅方向内側制動摺動面とモータ・ケース4の大径部4bの車幅方向外側面4aとの間の距離Lを短くして車輪全体をコンパクトにすることができる。この結果、イン・ホイール・モータ・ユニット1のホイール・ディスク3のリム部3aから車幅方向内側の突出量を小さく抑えて、車室などの車両内スペースを大きく設定することができる。
逆に、同じ軸長とすれば、その分、電気モータの軸長を伸ばすことがことで電気モータの高出力化が可能となる。
【0046】
また、上記のように構成した本実施例の車輪にあっては、パーキング・ブレーキ・ユニット20無しの車輪と有りの車輪とで、ディスク・ロータ5(またはハブ・ベアリング支持部)の形状を変更することなく、共通に利用できるので、製造や管理等のコストを低く抑えることができる。
【0047】
また、本実施例の車輪にあっては、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20とを、ディスク・ロータ5に対して車両前方側と車両後方側とにそれぞれ配置したので、ディスク・ロータ5への荷重の偏りに起因したモーメント発生による振動の増大、スプラッシュによる制動効きの低下、石の噛みこみによるブレーキ・ユニット等の損傷を防ぐことができる。
【0048】
また、本実施例の車輪にあっては、サービス・ブレーキ・ユニット2およびパーキング・ブレーキ・ユニット20とモータ・ケース4との締結部位(ボス部11、12、13、14)をサスペンション(アッパー・サスペンション・メンバ33とロア・サスペンション・メンバ34)のモータ・ケース4の連結位置(フランジ35、36、37)の近傍に設けたので、路面の凹凸によりモータ・ケース4のサスペンション連結部に入力される外力の一部を、ブレーキ・ユニットが受け持つことができる。したがって、その分、モータ・ケース4の負荷を軽減することが可能となる。
【0049】
また、本実施例の車輪にあっては、サービス・ブレーキ・ユニット2およびパーキング・ブレーキ・ユニット20を、モータ・ケース4の剛性が最大となる部位に締結したので、モータ・ケース4の補強による重量増加を抑制できる。この結果、車両重量の低減による航続距離の延長、バネ下重量の低減による乗り心地の改善、部品コストの低減が可能となる。さらに、モータ・ケース4の剛性が向上することで、電気モータが発生する振動を低減でき、したがってその振動に起因する車室内騒音も低減することができる。
【0050】
なお、上記モータ・ケース4へのブレーキ・ユニット2、20の締結部位は以下のようにして設定する。
一般的に電気モータの振動はモータ・ケース4の剛性が高いほど小さくなり、その振動が車体に伝わって発生する車室内騒音も小さくなる。モータ・ケース4はアルミニウム製の薄肉シェル構造とするのが一般的であるため、剛性を高めるには大幅なリブの追加や厚肉化が必要となる。そこで、ブレーキ・ユニットを上記のように補強剛性部材として利用する場合、そのモータ・ケース4の変形モードを実験やシミュレーション等で確認して、その変形の原となる部位に上記連結部位を配置すれば、共振周波数を大きく変更することが可能となる。
【0051】
また、本実施例の車輪にあっては、サービス・ブレーキ・ユニット2とパーキング・ブレーキ・ユニット20がディスク・ロータ5をその両側面から挟むようにしてブレーキ・ディスク9a、9b、18a、18bにて押圧するので、ディスク・ロータの片側のみ押圧するもの(特開2009-056957号)に比べて、同じ制動力を得るのにディスク・ロータの径が小さくて済む。また、片方からの軸方向入力でディスク・ロータにモーメントを発生させることに対する対策(ディスク・ロータ、駆動軸、ベアリングの強度向上)を行う必要もない。さらに、故障時、電気モータを分解する必要もない。
【0052】
また、本実施例の車輪にあっては、パーキング・ブレーキ・ユニット20を車輪の電気モータより車幅方向外側に配置しているので、パーキング・ブレーキ・ユニットを車輪の電気モータより車幅方向内側に配置しているもの(特開2006-001373号)に比較して、車体側から電気モータに電力を供給するためのハーネス等とサスペンションとが干渉するとか、そのための設置スペースを拡大するとか言った問題は生じない。
【0053】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明は上記実施例に限られることなく、その要旨が実質的に同一のものはその変形例であれ設計変更例であれ本発明に含まれる。
【0054】
たとえば、ディスク・ロータ5の形状やタイプは上記実施例に限られず、たとえばベンチレーテッド・ディスク・ロータを使用するようにしても良い。
また、パーキング・ブレーキ・ユニット20の上記実施例の構造に限られることなく、他の構造のものであっても良い。
モータ・ケース4も上記実施例のように大径部4bおよび小径部4cからなる形状以外の形状にしても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 イン・ホイール・モータ・ユニット
2 サービス・ブレーキ・ユニット
3 ホイール・ディスク
4 モータ・ケース
4a 車幅方向外側面
4b 大径部
4c 小径部
5 ディスク・ロータ
6 キャリパ支持ブラケット
7 スライドピン
8 キャリパ本体
8a 作用端
8b 反作用端
9,10 ブレーキ・パッド
11、12 ブレーキ・ユニット取り付けボス部
13、14 ブレーキ・ユニット取り付けボルト
20 パーキング・ブレーキ・ユニット
33 ロア・サスペンション・メンバ
34 アッパー・サスペンション・メンバ
35、36、37 フランジ
35a、36a、37a ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを装着したホイール・ディスクと、
該ホイール・ディスク内に少なくとも一部が収納したモータ・ケースと、
該モータ・ケース内に収納されホイール・ディスクを駆動可能な電気モータと、
前記モータ・ケースのホイール・ディスク側の車幅方向外側面に対向し前記ホイール・ディスクと一体回転するディスク・ロータと、
該ディスク・ロータをこの両側面から挟むことで制動力を付与可能なサービス・ブレーキ・ユニットと、
前記ディスク・ロータをこの両側面から挟むことで制動力を付与可能な制動力を付与可能なパーキング・ブレーキ・ユニットと、
を備えたイン・ホイール・モータ車用車輪において、
前記パーキング・ブレーキ・ユニットと前記サービス・ブレーキ・ユニットとを、前記ディスク・ホイールの車両前方側と車両後方側とに分離独立させて配置するとともに、
前記サービス・ブレーキ・ユニットと前記パーキング・ブレーキ・ユニットとを、前記モータ・ケースの車幅方向外側面にそれぞれ連結支持したこと、
を特徴とするイン・ホイール・モータ車用車輪。
【請求項2】
請求項1に記載されたイン・ホイール・モータ車用車輪において、
前記サービス・ブレーキ・ユニットと前記パーキング・ブレーキ・ユニットとは、これらのうちの一方が前記ディスク・ロータの車両前方側に、また他方が前記ディスク・ローラの車両後方側に分かれて配置されていること、
を特徴とするイン・ホイール・モータ車用車輪。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたイン・ホイール・モータ車用車輪において、
前記モータ・ケースはサスペンション連結されて車体に支持され、
前記サービス・ブレーキ・ユニットの前記モータ・ケースの車幅方向外側面への連結位置と、前記パーキング・ブレーキ・ユニットの前記モータ・ケースの車幅方向外側面への連結位置とは、前記モータ・ケースと前記サスペンションの連結位置近傍にあること、
を特徴とするイン・ホイール・モータ車用車輪。
【請求項4】
請求項1または2に記載されたイン・ホイール・モータ車用車輪において、
前記サービス・ブレーキ・ユニットの前記モータ・ケースへの連結位置と、前記パーキング・ブレーキ・ユニットの前記モータ・ケースへの連結位置とは、前記モータ・ケースの最大剛性位置にあること、
を特徴とするイン・ホイール・モータ車用車輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31978(P2012−31978A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174142(P2010−174142)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】