説明

ウェット処理装置およびウェット処理方法

【課題】 設備費用などのコストの削減および環境への負荷の低減を実現でき、さらに、被処理物である基板が導電性であるか絶縁性であるかという電気的特性に関係なく、被処理物を流体で処理することができるウェット処理装置およびウェット処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ウェット処理装置1は、流体19が通過する孔が設けられた領域12aを有するノズル12と、前記領域12aを覆って流体19のイオン濃度を増加させることができる通水性のある板状の触媒部材13と、触媒部材13を覆って孔が設けられた電極部材14とを有するウェット処理装置であり、電極部材14の電圧印加部17とノズル12の孔が設けられた領域12aとの間に電圧を印加しながら、流体19を被処理物20に吐出する。そうすることによって、ウェット処理装置1は、活性種を含む流体19を被処理物20の表面に供給して、被処理物20の表面を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に流体を供給して、被処理物の洗浄などの表面処理をするウェット処理装置およびウェット処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン基板および液晶用ガラス基板などの基板の表面洗浄には、RCA洗浄法が行われていた。RCA洗浄法は、硫酸−過酸化水素水溶液(SPM)、塩酸−過酸化水素水溶液(HPM)およびアンモニア−過酸化水素水溶液(APM)などの濃厚薬液を高温で用いて基板表面を洗浄する方法である。この方法では、酸などの薬液を含むリンス水の排水設備および装置内で発生する酸性ガスなどの揮発成分の処理設備などが必要となり、これらのランニングコストおよびこれらの処理によって生じる廃液の処理のための費用などがさらに発生する。
【0003】
さらに、近年、半導体ウエハおよび液晶パネルのマザー基板は、大きくなる傾向にあり、これにともなって、基板の洗浄における廃液も増加するので、廃液を処理する費用の増加および環境への負荷の増大が問題となっている。一方、半導体および液晶のデザインルール(最小加工線幅)は、ますます微細化され、液晶においては、サブミクロンレベル、半導体においては、0.1μm以下のレベルにまで迫りつつある。したがって、基板などの洗浄において、洗浄力の向上が、歩留まり向上の観点から必要とされている。
【0004】
これらの要求を満たす方法として、従来の洗浄方法であるRCA洗浄法および強い水流を用いた洗浄方法の代わりに、水の成分すなわち酸素原子および水素原子からなるラジカルを用いた洗浄方法が提案されている。酸素原子および水素原子からなるラジカルとしては、水素ラジカル、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカルなどがある。これらのラジカルの特徴は、反応性が非常に高いので、瞬時に水、水素および酸素などの無害な分子へと変化する。そのため、これらのラジカルは、環境への負荷がほとんどないとともに、数10ppm程度という低い濃度でも充分な洗浄効果を有する。
【0005】
典型的な従来の技術は、特許文献1に記載されている。特許文献1の電子材料の洗浄方法は、電子材料を酸化性の洗浄液で洗浄した後、超音波振動を付与しながら、水素水を用いて洗浄する方法である。
【0006】
他の従来の技術は、特許文献2に記載されている。特許文献2の電解加工方法は、超純水中に、電極としての基板と、これに所定の間隔を置いて対向する電極とを配置し、基板である電極とそれに対向する電極との間に、超純水の解離を促進するとともに通水性を有する触媒部材を配置し、電極間に電圧を印加しつつ触媒部材内に超純水の流れを形成することによって、超純水中の水分子を水素イオンと水酸化物イオン(水酸基イオン)とに分解し、生成されたイオンを基板表面に供給して、イオンを化学的溶出反応または酸化反応することによって基板の除去加工または酸化被膜形成加工を行う電解加工方法である。
【0007】
さらに他の従来の技術は、特許文献3に記載されている。特許文献3には、ラジカルなどの活性種を気相中で形成させて、被処理物に供給する反応性イオンビームエッチング装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−117208号公報
【特許文献2】特開2001−64799号公報
【特許文献3】特開昭59−151428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウェット処理方法は、基板などの被処理物を表面処理することができる活性種、たとえば、基板表面を洗浄することができる洗浄活性種を発生させることができる必要がある。さらに、活性種を含有する溶液を被処理物の表面に均一に供給できる必要がある。
【0010】
特許文献1に開示されている電子材料の洗浄方法によると、水素水に超音波振動を付加することによって、洗浄活性種である水素ラジカルを発生させ、このラジカルを含有する溶液を用いて、基板表面を洗浄することができる。この方法は、環境を汚染するような薬液を用いないので、環境への負荷が少ない。
【0011】
しかし、ここに開示されている方法では、水素ラジカルを生成させる方法として、水素水に超音波振動を付加することによって、水分子の解裂を起こして生成した水酸基ラジカルを水素と反応させることにより水素ラジカルを生成する方法を用いており、たとえば水素濃度が1.2ppmという水素水に対しては、水素ラジカルを生成させるために利用されている水素は、水素水に含有されている水素の1/10程度でしかない。さらに、大気圧下における水素の飽和溶解濃度は、1.6ppm程度とあまり高くないので、水素濃度を高めることによって、生成する水素ラジカルを増加させることはあまり期待できない。さらに、できるだけ高い水素濃度の水素水を用いたとしても、水素濃度が増加すると、超音波の伝播効率が低下してしまい、水素ラジカルの濃度が逆に低下してしまうことがある。したがって、このような水素水を用いた洗浄方法は、洗浄する能力に一定の限界がある。また、この方法を行うためには、水素水を生成するための装置が必要であり、この装置の設備費用およびランニングコストが必要となる。
【0012】
特許文献2に開示されている電解加工法によると、イオン解離を促進する触媒存在下で、超純水を電気分解することによって、水素イオンと水酸化物イオンとに分解して、この生成したイオンを電極である基板に供給する。こうすることによって、基板表面でイオンは、化学的溶出反応もしくは酸化反応して、ラジカルなどの活性種を発生させ、この活性種によって基板の除去加工または酸化被膜形成加工を行っている。このような方法は、金属および半導体基板のエッチング工程に用いることを検討されており、具体的には、基板が、銅、モリブテンおよび鉄などである場合は、陽極に基板を用い、基板表面で水酸化物イオンが酸化して主として水酸基ラジカルを生成し、水酸基ラジカルを含む活性種によって、エッチングを行う。一方、基板がシリコンおよびアルミニウムなどである場合は、陰極に基板を用い、基板表面で水素イオンを還元して主として水酸基ラジカルを生成し、水酸基ラジカルを含む活性種によって、エッチングを行う。
【0013】
この方法は、環境を汚染するような薬液を用いないので、環境への付加の少ない洗浄方法であり、排水および排気に対して特別な処理を行う設備などが必要であり、薬液のコストも高い従来の洗浄方法であるRCA洗浄法よりもコストが低くてすみ、超純水をそのまま用いるので、水素水などを生成するための装置も必要ない。
【0014】
さらに、水素水により生成する水素ラジカルが水素水の飽和濃度で規定されてしまうのに対し、この方法では、水素水の水素濃度に比べて100倍以上ものモル濃度を有する水素イオンまたは水酸化物イオンを原料として水酸基ラジカルを生成するため、最大で、水素水により生成する水素ラジカルに比べ100倍以上ものモル濃度の水酸基ラジカルを生成することが可能である。
【0015】
しかしながら、ラジカルなどの活性種によって処理する基板が、金属の場合には有用であるが、基板が半導体基板および液晶パネルの場合には、基板が電極の一方を構成するため、電気的に破壊されてしまうなどの問題を有する。
【0016】
基板上の洗浄対象物、すなわち、無機微粒子および有機レジスト膜は、電極、半導体膜および絶縁膜のいずれにも存在し、必ずしも導電性を有する場所に存在するとは限らない。また、半導体および液晶パネルの製造工程において、被洗浄物である基板は必ずしも導電体および半導体などの導電性を有するものではない。さらに、半導体基板の表面は、一様ではなく、フォトリソグラフィにより、金属、半導体および有機レジスト膜などの絶縁体により形成された複雑な形状を有する。したがって、絶縁体基板、パターニングされた半導体および金属基板上の洗浄処理に、上記の方法を適用することは困難である。
【0017】
特許文献3に開示されている反応性イオンビームエッチング装置を用いると、ラジカルなどの活性種を気相中で形成させて、被処理物に供給することができ、そうすることによって、エッチングおよび被処理物表面の有機物除去を行うことができる。このことは、空気中の酸素、窒素およびヘリウム、ネオンなどの希ガスを、電極を具備しているノズルなどから供給する。その際、直流の電圧、交流の電圧およびパルス状電圧を印加することによって、アーク放電およびグロー放電させてプラズマ状態を形成させる。プラズマ状態では、気体は、電子と原子との衝突などによりラジカル化およびイオン化した活性種が多数存在し、金属および絶縁膜などのエッチングおよび有機物の分解除去を行うことができる。
【0018】
しかしながら、これらのプラズマ状態にすることによって活性種を発生させる過程は、液中で活性種を発生させる過程と大きく異なるため、生成した活性種の挙動も大きく異なる。また、気相中で処理するので、処理時に発生するダストおよび残渣などの不揮発性の副反応生成物を、別途液体を用いた処理、いわゆるウェット処理によって除去する必要がある。
【0019】
また、上記のようなプラズマを発生させる電極構造を有するノズルに純水などの液体を供給しても、数百ボルト以上の高電圧を液体に印加しないと、活性種が発生するようなほとんど電気化学反応は起こらないので、莫大な電力を消費することになってしまう。さらに、通常、プラズマを生成するノズルは、絶縁体処理がなされており、高電圧にしても純水の電気化学反応は起こらない。
【0020】
本発明の目的は、設備費用などのコストの削減および環境への負荷の低減を実現でき、さらに、被処理物である基板が導電性であるか絶縁性であるかという電気的特性に関係なく、被処理物を流体で処理することができるウェット処理装置およびウェット処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、被処理物の表面に流体を供給して、被処理物の表面を処理するウェット処理装置であって、
被処理物に流体を供給するために、流体が通過する孔が設けられた領域を有するノズルと、
前記領域を覆い、流体のイオン濃度を増加させることができ、通水性のある板状の触媒部材と、
触媒部材を覆い、孔が設けられた電極部材とを有し、
前記領域と電極部材との間に電圧を印加することを特徴とするウェット処理装置である。
【0022】
また本発明は、電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素であることを特徴とする。
【0023】
また本発明は、電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料であることを特徴とする。
【0024】
また本発明は、孔が設けられた領域と触媒部材との間に、絶縁膜を形成することを特徴する。
【0025】
また本発明は、絶縁膜は、フッ素系樹脂を含有した樹脂であることを特徴とする。
また本発明は、絶縁膜は、金属酸化物またはセラミックスからなる無機絶縁体であることを特徴とする。
【0026】
また本発明は、ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素であることを特徴とする。
【0027】
また本発明は、ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料であることを特徴とする。
【0028】
また本発明は、触媒部材は、強酸性カチオン交換能または強塩基性アニオン交換能を付与したイオン交換物質であることを特徴とする。
また本発明は、触媒部材は、多孔質構造であることを特徴とする。
【0029】
また本発明は、イオン交換物質は、フッ素系樹脂を含有した樹脂であることを特徴とする。
【0030】
また本発明は、ノズルの孔が設けられた領域と孔が設けられた電極部材との間に配置されている通水性のある板状の触媒部材に、流体を通過させることによって、流体中のイオン濃度を増加させるイオン濃度増加工程と、
前記領域と電極部材との間に、電圧を印加して流体に活性種を生成させる電圧印加工程と、
活性種を含有する流体を吐出孔から被処理物の表面に供給して被処理物を処理する処理工程とを含むことを特徴とするウェット処理方法である。
【0031】
また本発明は、流体は、水を含むことを特徴とする。
また本発明は、流体は、純水であることを特徴とする。
【0032】
また本発明は、活性種は、酸素原子または水素原子を含むことを特徴とする。
また本発明は、活性種は、水素ラジカル、水酸基ラジカル、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾンおよび過酸化水素から選ばれる1種または2種以上の活性種であることを特徴とする。
また本発明は、電圧は、2V以上50V以下の直流電圧であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ノズルに流体が通過する孔が設けられた領域を有し、その孔が設けられた領域を、通水性のある板状の触媒部材で覆い、さらに、その触媒部材を、孔が設けられた電極部材で覆うように配置している。そうすることによって、流体は、ノズルに設けられた孔、触媒部材および電極部材に設けられている孔を通って被処理物に供給されるので、被処理物に供給された流体は、すべて触媒部材を通過した流体となる。さらに、孔が設けられた領域と電極部材との間に電圧を印加する。
【0034】
したがって、触媒部材と接触することによってイオン濃度が増加された流体と触媒部材とに電界を印加することができるので、多量の活性種を含む流体を被処理物に供給することができ、被処理物に対して容易にウェット処理をすることができる。
【0035】
また本発明によれば、電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素である。電極部材は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、電気伝導性が高いだけでなく、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。これらの電極は、電気伝導性が高く、さらに化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、電極として好ましく使用できる。
【0036】
また本発明によれば、電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料である。電極部材は、非常に高圧になるので、高圧に耐えることができる必要があるが、電極を、上記のような好ましい金属を含む複合材料にすることによって、高圧に耐える電極にすることができる。
【0037】
また本発明によれば、孔が設けられた領域と触媒部材との間に、絶縁膜を形成するので、ノズルの孔が設けられた領域と電極部材との間に電圧を印加したときに生じるノズルの孔が設けられた領域と触媒部材との間での電気的短絡を防ぐことができる。
【0038】
また本発明によれば、絶縁膜は、フッ素系樹脂を含有した樹脂である。絶縁膜は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、絶縁体であるだけでなく、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。このような絶縁膜は、絶縁体であり、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、絶縁膜として好ましく使用できる。
【0039】
また本発明によれば、絶縁膜は、金属酸化物およびセラミックからなる無機絶縁体である。このような無機絶縁体は、化学的酸化および還元などの化学的反応に対しての耐性が高く、さらに、安定性がより高いので、絶縁膜として好ましく使用できる。
【0040】
また本発明によれば、ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素である。ノズルは、電極部材と同様、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。さらに、孔が設けられた領域は、電気伝導性が高い必要がある。これらのノズルは、電気伝導性が高く、さらに化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、ノズルとして好ましく使用できる。
【0041】
また本発明によれば、ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料である。ノズルは、非常に高圧になるので、高圧に耐えることができる必要があるが、ノズルを、上記のような好ましい金属を含む複合材料にすることによって、高圧に耐える対極板にすることができる。
【0042】
また本発明によれば、触媒部材は、強酸性カチオン交換能または強塩基性アニオン交換能を付与したイオン交換物質であるので、流体が触媒部材と接触することによって、流体が、水素イオンおよび水酸基イオンなどのイオンに分解することができ、流体中にイオンを増加させることができる。さらに、イオンが増加した流体および触媒部材に電界を印加することができるので、活性種を容易により多く生成することができる。
【0043】
また本発明によれば、触媒部材は、多孔質構造であるので、充分に通水性を確保でき、触媒部材を通過することによる圧力損失を少なくすることができる。
【0044】
また本発明によれば、イオン交換物質は、フッ素系樹脂を含有した樹脂である。イオン交換物質は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。これらのイオン交換物質は、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、イオン交換物質として好ましく使用できる。
【0045】
また本発明によれば、ノズルの孔が設けられた領域と孔が設けられた電極部材との間に配置されている通水性のある板状の触媒部材に、流体を通過させることによって、流体中のイオン濃度を増加させながら、孔が設けられた領域と電極部材との間に、電圧を印加することによって、流体中に活性種を生成する。その活性種を含有する流体を被処理物に供給することによって、被処理物を処理する。
【0046】
そうすることによって、流体を触媒部材に通過させながら、触媒部材および流体に電界を印加することができ、流体中に活性種を容易に生成することができる。
【0047】
さらに、ノズルの孔が設けられた領域、触媒部材および電極部材が積そうするように配置されているので、流体は、吐出孔から吐出される前に、触媒部材をすべて通過する。したがって、流体中のイオン濃度をより高めることができるので、活性種が多量に含まれる流体を生成することができる。このような活性種を多量に含んだ流体を、被処理物の表面に供給することができるので、被処理物の表面を効率よく容易にウェット処理をすることができる。
【0048】
また本発明によれば、流体は、水を含むので、触媒部材と接触することによって、流体中に、水素イオンおよび水酸基イオンが増加する。さらに、水素イオンおよび水酸基イオンが増加した流体および触媒部材に電界を印加するので、活性種を容易により多く生成することができる。
【0049】
また本発明によれば、流体は、純水であるので、触媒部材と接触しながら、電界を印加すると、純水由来の活性種を容易により多く生成することができる。また、このような純水由来の活性種は、環境に対して無害であり、環境への負荷が小さい。さらに、特別な薬剤を用いないので、特別な薬剤を用いて処理する場合と比較して、低コストで被処理物の表面に対してウェット処理をすることができる。
【0050】
また本発明によれば、活性種は、酸素原子または水素原子を含むので、被処理物に対してウェット処理をした後、活性種は、酸素、水素および水になるので、環境への負荷が小さい。
【0051】
また本発明によれば、活性種は、水素ラジカル、水酸基ラジカル、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾンおよび過酸化水素から選ばれる1種または2種以上の活性種である。このような活性種は、被処理物に対してウェット処理をした後、酸素、水素および水になるので、環境への負荷が小さい。また、活性も高いので、数10ppm程度の濃度でも充分に被処理物を処理することができる。
【0052】
また本発明によれば、電圧は、2V以上50V以下の直流電圧であるので、流体中で、活性種をより効率的に生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
[ウェット処理装置]
本発明であるウェット処理装置は、流体を触媒部材に通過させながら、流体および触媒部材に対して電界を印加し、その流体を被処理物の表面に供給して、被処理物の表面を処理するウェット処理装置である。
【0054】
なお、ウェット処理装置とは、流体である液体を被処理物に供給して処理する装置である。たとえば、半導体基板を製造する装置としては、ウェット洗浄、ウェットエッチングおよびウェット酸化などを行う装置が挙げられる。ウェット洗浄を行う装置は、液体を基板表面に供給することによって、基板表面に存在する有機物および無機物などを、除去、溶解、剥離および分解などをする装置であり、液体を用いて基板表面を清浄化する装置である。ウェットエッチングを行う装置は、液体を基板表面に供給して、基板表面に存在する薄層などを、除去、溶解、剥離および分解などをする装置であり、液体を用いてエッチングを行う装置である。また、ウェット酸化を行う装置は、基板表面に液体を供給することによって、基板表面を酸化させて、基板の表面改質を行う装置である。
【0055】
本実施形態では、ウェット処理装置として、主にウェット洗浄を行う装置について説明するが、ウェット洗浄は、ウェット処理方法の一例に過ぎず、本発明は、ウェット洗浄のみに限定されるわけではない。流体中で生成されたラジカルなどの活性種によって、処理対象物が除去、溶解、剥離および分解して、被処理物を清浄化、表面加工および表面改質を行うことができる場合であれば、制限なく用いることができる。
【0056】
図1は、本発明の第1の実施形態であるウェット処理装置1の構成を示す概略断面図である。ウェット処理装置1は、流体供給ライン11、ノズル12、触媒部材13、電極部材14、直流電源装置15および絶縁膜16などを含む。
【0057】
流体供給ライン11は、ノズル12に接続されており、流体19を矢符21方向に流すことによって、ノズル12に流体19を供給する。ノズル12は、流体供給ライン11から供給された流体19を流すための複数の孔が設けられた領域12aを有する。ノズル12の複数の孔が設けられた領域12aとは、流体が通過する孔が設けられた領域に相当する。触媒部材13は、ノズル12の複数の孔が設けられる領域12aを覆うようにノズル12の外側に設置される。また、触媒部材13は、通水性を有し、流体を通過させることによって、流体中のイオン濃度を増加させることができる。電極部材14は、電圧印加部17と板部18とを有し、触媒部材13を覆うようにさらに外側に設置される。板部18は、孔が形成されており、電圧印加部17は、その孔の内壁の表面に形成され、流体19を吐出するための孔が形成されている。直流電源装置15は、電極部材14と電圧印加部17との間に電圧を印加する。絶縁膜16は、電極部材14の触媒部材13と接する側の表面に配置される。
【0058】
ウェット処理装置1を用いた被処理物のウェット処理について説明する。ウェット処理装置1は、電極部材14の電圧印加部17とノズル12との間に、電圧を印加しながら、流体19を以下のように被処理物20に吐出して供給する。流体供給ライン11から矢符21の方向にノズル12に供給された流体19は、ノズル12に設けられた複数の孔を流れ、触媒部材13を流れ、さらに、電極部材14の電圧印加部17に形成されている孔から矢符22の方向に吐出して、被処理物20に流体19を供給する。そうすることによって、触媒部材13を通過した流体19は、流体19中にイオンを発生させ、触媒部材13付近のイオン濃度の高まった流体19に電界が印加されることによって、流体19中に活性種が多量に生成される。そのような流体19を、矢符23の方向に搬送される被処理物20に吐出して供給することによって、容易に被処理物20の表面を処理することができる。
【0059】
ノズル12および電極部材13は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素であることが好ましい。ノズル12および電極部材13は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、電気伝導性が高いだけでなく、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。そのような材料は、電気伝導性が高く、さらに化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、対極板として好ましく使用できる。さらに好ましくは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料である。ノズル12および電極部材13は、非常に高圧になるので、高圧に耐えることができる必要がある。したがって、上記のような好ましい材料を含む複合材料にすることによって、高圧に耐えるノズル12および電極部材13にすることができる。たとえば、ニッケルまたはタングステンを5%程度ドープした白金などが挙げられる。
【0060】
絶縁膜16は、電極部材14上に形成される。そうすることによって、ノズル12と電極部材14との距離を機械的に一定間隔以上にすることができ、ノズル12と電極部材14との間に電圧を印加したときに生じる電気的短絡を防ぐことができる。また、絶縁膜16は、フッ素系樹脂を含有した樹脂が好ましい。絶縁膜16は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、絶縁体であるだけでなく、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要があり、このような絶縁膜は、絶縁体であり、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、絶縁膜として好ましく使用できる。また、絶縁膜として、金属酸化物およびセラミックからなる無機絶縁体も用いることができる。このような無機絶縁体は、化学的酸化および還元などの化学的反応に対しての耐性が高く、さらに、安定性がより高いので、絶縁膜として好ましく使用できる。
【0061】
触媒部材13は、強酸性カチオン交換能または強塩基性アニオン交換能を付与したイオン交換物質であることが好ましい。そうすることによって、流体19が触媒部材13と接触することによって、流体19中のイオン濃度を高めることができる。さらに、イオン濃度が高まった流体に、電界を印加するので、活性種を容易により多く生成することができる。たとえば、流体19に水が含まれている場合、流体19が触媒部材13を通過することによって、水が水素イオンと水酸基イオンとになって、流体19中に水素イオンおよび水酸基イオンを増加させることができる。さらに、水素イオンおよび水酸基イオンが増加した流体19に電界を印加するので、水由来の活性種を容易により多く生成することができる。また、触媒部材13は、多孔質構造であることが好ましい。そうすることによって、充分に通水性を確保でき、触媒部材を通過することによる圧力損失を少なくすることができる。さらに、触媒部材13は、フッ素系樹脂を含有した樹脂であることが好ましい。たとえば、テフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、バイトン(登録商標)などが挙げられる。触媒部材13は、電圧印加時には反応性の高い活性種にさらされるため、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有する必要がある。これらの触媒部材であれば、化学的酸化および還元などの化学的反応に対して高い耐性を有するので、触媒部材として好ましく使用できる。
【0062】
また、活性種が寿命の非常に短い活性種である場合、ウェット処理装置1の吐出孔から吐出される流体19は、吐出速度が大きい必要があり、さらに、ウェット処理装置1の吐出孔と被処理物との距離を短くする必要がある。たとえば、ラジカルは、非常に反応性が高いが、寿命が非常に短く、半減期はマイクロ秒程度である。したがって、吐出速度は、10m/秒以上100m/秒以下が好ましく、ウェット処理装置1の吐出孔と被処理物との距離は、5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0063】
図2は、本発明であるウェット処理装置1の第1の実施態様を示す概略図である。図2(a)は、被処理物20の搬送方向23に垂直で、被処理物20の側面から見た概略図である。図2(b)は、被処理物20の上面から見た概略図である。
【0064】
図2(a)に示すように、ウェット処理装置1から流体19を矢符25の方向に吐出して、被処理物20の表面に供給する。矢符25は、被処理物20に対して直角ではなく、被処理物20の搬送方向である矢符23とは反対の方向に傾いている。さらに、ウェット処理装置1と被処理物20とは、近接させる。そうすることによって、寿命が短い活性種であっても、流体19中に生成された活性種が消滅する前に、活性種濃度の高い流体19を被処理物20の表面に供給することができ、さらに、被処理物20が搬送手段24によって搬送されることによって、被処理物20の表面に接触する流体19の活性種濃度が高いままにすることができる。したがって、被処理物20の表面を効率的に処理することができる。また、図2(b)に示すように、ウェット処理装置1は、被処理物20の搬送方向23に垂直な幅の分、流体19を吐出することができるので、被処理物20の全面を処理することができる。
【0065】
図3は、触媒部材13によって、流体19中のイオン濃度を増加させる機構を示す模式図である。触媒部材13は、流体19と接触して、イオン交換反応を促し、流体19のイオン濃度を増加させる触媒部材である。たとえば、水を含む流体19である場合、図3に示すように、触媒部材13を通過する間に、流体19に含まれる水が、水素イオン26と水酸基イオン27とに分解される。水素イオン26は、陰極である電極部材14の電圧印加部17に引き寄せられるように移動する。また、水酸基イオン27は、陽極であるノズル12に引き寄せられるように移動する。次に、電極部材14のおよびノズル12の表面およびその周辺で、電気化学的反応により活性種であるラジカルが生成する。以下、電圧印加部17およびノズル14でのラジカル生成機構について説明する。
【0066】
図4は、本発明のウェット処理装置1の電圧印加部17およびノズル14上における活性種を生成する機構を示す模式図である。図4(a)は、電圧印加部17上における水素ラジカル28を生成する機構を示す模式図である。図4(b)は、ノズル12上における水酸基ラジカル29を生成する機構を示す模式図である。
【0067】
図4(a)に示すように、水素イオン26は、電界によって、電圧印加部17に引き寄せられ、電圧印加部17から電子30を受け取って、つまり、水素イオン26が還元されることによって、水素ラジカル28が生成される。また、図4(b)に示すように、水酸基イオン27は、電界によって、ノズル12に引き寄せられ、ノズル12から電子30を奪われて、つまり、水酸基イオン27が酸化されることによって、水酸基ラジカル29が生成される。
上記の反応を化学反応式で示すと、次のとおりである。
【0068】
【化1】

【0069】
化1は、上記の方法によるラジカルが生成する機構を示す化学反応式である。反応式(I)、反応式(II)および反応式(III)はラジカル生成機構の一段階である。水素イオン26および水酸基イオン27の生成機構および電極酸化における水酸基ラジカル29の生成機構、電極還元における水素ラジカル28の生成反応式をそれぞれ示す。反応式(IV)、反応式(V)、反応式(VI)および反応式(VII)は、ウェット処理に寄与するその他の活性種の生成反応を示す。
【0070】
上記のように生成する活性種は、反応性が高いため、たとえば、微粒子表面とシリコン基板またはガラス基板とにより形成されるシラノール結合を切断すること、および、シリコン基板などの表面にある微粒子結合活性サイト(ダングリングボンド)を不活性化することにより、微粒子と基板との付着力を低減し、微粒子の除去力を向上させることができる。また、有機レジスト薄膜の残渣などの有機成分由来の汚染の除去に対しても効果的であり、この場合、有機物中の炭素−炭素結合および炭素−水素結合のような共有結合などの強い結合を切断し、これを酸化することにより二酸化炭素と水とに分解され、除去される。
【0071】
図5は、本発明であるウェット処理装置1の第2の実施態様を示す概略図である。図5(a)は、被処理物20の搬送方向である矢符32から見た概略図である。図5(b)は、被処理物20の上面から見た概略図である。
【0072】
ウェット処理装置1は、被処理物20を処理する際、被処理物20を搬送する方向を軸にして傾斜させて、被処理物支持具31で支持して搬送ローラ24によって搬送しながら、枚葉方式で処理する。そうすることによって、水平状態で被処理物20を搬送して処理する場合と比較して、被処理物20の表面での流体19の滞留を防ぐことができ、流体19の置換効率の向上、活性種の被処理物20の表面への供給速度の向上および流体の流れによる物理的な力の伝達効率の向上により、被処理物20への処理能力の向上を図ることができる。
【0073】
被処理物20の水平に対する角度Aは、30度を越え90度以下であることが好ましい。こうすることによって、流体19の置換効率の向上の効果が顕著である。置換効率は、処理の効果に対して重要な要素である。特に寿命の短い活性種を用いる場合、ウェット処理装置1から吐出された流体19を速やかに被処理物20の表面全体に供給される必要がある。被処理物20を搬送方向を軸として水平より傾斜させることにより、被処理物20の表面での流体19の滞留を抑制し、ウェット処理装置1より被処理物20の表面への活性種の到達時間を低減することができる。
【0074】
ウェット処理装置1の吐出孔と被処理物20の搬送方向との角度Bは、15度を越え80度以下が好ましい。そうすることによって、ウェット処理に用いた流体19が、処理後の被処理物20に触れることがないので、処理後の被処理物20の表面を清浄に保つことができる。角度Bが15度以下であると、処理できる面積が小さくなりすぎ、80度を超えると、被処理物20上部を処理した流体19が、被処理物20下部を処理する流体19に混ざってしまい、処理効率が落ちてしまう。
【0075】
さらに、ウェット処理装置1の吐出孔は、被処理物20の表面に対して平行に設置することが好ましい。そうすることによって、被処理物20を均一に処理することができる。
【0076】
図6は、本発明であるウェット処理装置1の第3の実施態様を示す概略図である。図5(a)は、被処理物20の側面から見た概略図である。図5(b)は、被処理物20の上面から見た概略図である。
【0077】
ウェット処理装置1は、被処理物20を処理する際、被処理物20を回転手段33によって回転させて、処理する。回転手段33は、回転テーブル34および回転軸35などを含んで構成される。回転手段33は、回転テーブル34上に被処理物20を固定して、回転テーブル34に接続された回転軸35を図示しないモータなどによって回転させる。被処理物20を回転手段35で回転させながら処理することによって、水平状態で被処理物20を搬送して処理する場合と比較して、被処理物20の表面での流体19の滞留を防ぐことができ、流体19の置換効率の向上、活性種の被処理物表面への供給速度の向上および流体の流れによる物理的な力の伝達効率の向上により、被処理物への処理能力の向上を図ることができる。
【0078】
回転数は、100rpm以上500rpm以下であることが好ましい。そうすることによって、被処理物20に供給された流体19の滞留を防ぐことができるので、被処理物20表面に常に活性種濃度の高い流体19を供給することができる。したがって、効率的に、被処理物20を処理することができる。
【0079】
また、ウェット処理装置1の吐出孔が、被処理物20の表面に平行に設置することが好ましい。そうすることによって、被処理物20を均一に処理することができる。
【0080】
図7は、本発明の第2の実施形態であるウェット処理装置2の構成を示す概略断面図である。ウェット処理装置2は、ノズル36を含んで構成される。ノズル36は、ノズル本体36aと孔形成部36bとを有する。孔形成部36bは、ノズル本体36aから着脱可能である。孔形成部36bとは、流体が通過する孔が設けられた領域に相当する。ウェット処理装置2は、ノズル12が上記のような構成のノズル36であること以外、ウェット処理装置1と同様である。
【0081】
図8は、本発明の第3の実施形態であるウェット処理装置3の構成を示す概略断面図である。ウェット処理装置3は、ノズル37、電極部材40および絶縁膜41を含んで構成される。ノズル37は、ノズル本体37aと孔形成部37bを有する。孔形成部37bは、ノズル本体37aから着脱可能である。孔形成部37bとは、流体が通過する孔が設けられた領域に相当する。孔形成部37bは、電圧印加部38と板部39とを有する。板部39は、孔が形成されており、電圧印加部38は、その内壁の表面に形成され、流体19を吐出するための吐出孔が形成されている。触媒部材13は、ノズル孔形成部37bを覆うようにノズル37の内側に設置される。電極部材40は、複数の孔が形成されており、触媒部材13を覆うようにさらに内側に設置される。絶縁膜41は、電極部材40とノズル本体37aとの間に設置される。そうすることによって、電圧印加時に、電極部材40とノズル本体37aとの間の電気的短絡を防ぐことができる。ウェット処理装置3は、ノズル37、電極部材40および絶縁膜41の構成以外、ウェット処理装置1と同様である。
【0082】
図9は、本発明の第4の実施形態であるウェット処理装置4の構成を示す概略断面図である。ウェット処理装置4は、ノズル42、第1電極部材43、第2電極部材44および絶縁膜45を含んで構成される。ノズル42は、流体供給ライン接続部42aと孔形成部42bを有する。孔形成部42bは、流体19を吐出するための孔が形成されており、その孔を覆うように、触媒部材13、絶縁膜16、第1電極部材43、第2電極部材および絶縁膜45を設けることができ、さらに、流体供給ライン接続部42aから着脱可能である。つまり、触媒部材13、絶縁膜16、第1電極部材43、第2電極部材44および絶縁膜45をノズル42内部に交換可能に設けることができる。そうすることによって、ノズル42は、ノズル42内部をさらに高圧にすることができ、流体の吐出速度をさらに高めることができる。
【0083】
第2電極部材44は、電圧印加部44aと板部44bとを有する。板部44bは、孔が形成されており、電圧印加部44aは、その内壁の表面に形成され、流体19を吐出するための吐出孔が形成されている。第2電極部材44は、流体が通過する孔が設けられた領域に相当する。触媒部材13は、第2電極部材44を覆うようにノズル42の内側に設置される。直流電源装置15は、第1電極部材43と第2電極部材44との間に電圧を印加
し、第1電極部材43は、電極部材に相当する。絶縁膜45は、第1電極部材43と孔形成部42bとの間に設置される。そうすることによって、電圧印加時に、第1電極部材43と孔形成部42bとの間の電気的短絡を防ぐことができる。ウェット処理装置4は、ノズル42、第1電極部材43、第2電極部材44および絶縁膜45の構成以外、ウェット処理装置1と同様である。
【0084】
[ウェット処理方法]
本発明であるウェット処理方法は、流体を触媒部材に通過させながら、流体および触媒部材に電界を印加して、流体中に活性種を生成する。その活性種を含む流体を被処理物の表面に供給することによって、被処理物を処理する。
【0085】
なお、ウェット処理方法とは、流体を被処理物に供給して処理する方法である。たとえば、半導体基板を製造する方法としては、ウェット洗浄、ウェットエッチングおよびウェット酸化などが挙げられる。ウェット洗浄は、流体を基板表面に供給することによって、基板表面に存在する有機物および無機物などを、除去、溶解、剥離および分解などをする方法であり、流体を用いて基板表面を清浄化する方法である。ウェットエッチングは、流体を基板表面に供給して、基板表面に存在する薄層などを、除去、溶解、剥離および分解などをする方法であり、流体を用いて行うエッチングのことである。また、ウェット酸化は、基板表面に流体を供給することによって、基板表面を酸化させて、基板の表面改質を行う方法である。
【0086】
図10は、本発明の実施の一形態を示す工程図である。イオン濃度増加工程A1では、ノズルの孔が設けられた領域と孔が設けられた電極部材との間に配置されている通水性のある板状の触媒部材に、流体を通過させることによって、流体中のイオン濃度を増加させる。電圧印加工程A2では、イオン濃度増加工程A1で、流体中のイオン濃度を高めながら、孔が設けられた領域と電極部材との間に、電圧を印加して流体に電界を印加するように電圧を印加させて、流体中に活性種を生成させる。処理工程A3において、その多量の活性種を含有した流体を被処理物の表面に供給することによって、被処理物の表面を効率よく容易に洗浄することができる。
【0087】
本実施形態では、ウェット処理方法として、主にウェット洗浄について説明するが、ウェット洗浄は、ウェット処理方法の一例に過ぎず、本発明は、ウェット洗浄のみに限定されるわけではない。流体である液体中で生成されたラジカルなどの活性種によって、処理対象物が除去、溶解、剥離および分解して、被処理物を清浄化、表面加工および表面改質を行うことができる場合であれば、制限なく用いることができる。
【0088】
本実施形態であるウェット洗浄によって洗浄する被処理物は、有機物および無機物などの汚染物質などが表面に存在する半導体基板およびガラス基板などの基板である。本発明では、基板を電極として用いないので、基板が、金属のような導電性の基板である必要もなく、ガラス基板および透明樹脂基板などのような非導電性の基板であってもよい。また、基板は、洗浄中、流体と反応しないものであるか、洗浄中および洗浄後の基板に対して悪影響を及ぼさない程度の反応しか起こさないものである必要がある。
【0089】
基板の表面に存在する汚染物質などの洗浄対象物は、基板に付着、被覆、固着または堆積しているものを指し、生成された活性種によって、除去、溶解、剥離または分解などをすることができる物質であれば、洗浄対象物が有機物であるか無機物であるかに関わらず、洗浄することができる。液体、固体、ゲル状物および粘着質などのいずれの形態をとっていても洗浄することが可能である。洗浄対象物が無機物である場合としては、たとえば、金属、金属酸化物および無機微粒子の被処理物への付着汚染などを挙げることができる。また、洗浄対象物が有機物である場合としては、たとえば、有機レジスト薄膜を構成する有機物由来の付着汚染などを挙げることができる。
【0090】
本実施形態であるウェット洗浄は、まず、流体を触媒部材に通過させて、電圧を印加して、活性種を生成させる。活性種としては、ラジカル、イオン、酸化性物質および還元性物質などが挙げられる。好ましくは、酸素原子および水素原子の少なくとも一方を含む活性種である。具体的には、水素ラジカル、水酸基ラジカル、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾンおよび過酸化水素である。さらに好ましくは、水素ラジカル、酸素ラジカルおよび水酸基ラジカルである。水素ラジカル、酸素ラジカルおよび水酸基ラジカルは、反応性が非常に高いので、数10ppm程度という低い濃度でも充分な洗浄効果を有するとともに、瞬時に水および水素などの無害な分子へと変化するため、環境への負荷がほとんどない。
【0091】
本実施形態で用いられる流体は、活性種の原料を含んでいる流体であり、ラジカル発生種を含んでいるものが好ましい。たとえば、水を含んでいる流体などが挙げられる。より好ましくは、純水である。さらにより好ましくは、超純水である。純水または超純水を用いることによって、特に液晶パネルおよび半導体の製造工程などのクリーンな環境を必要とする分野である半導体製造分野であっても、本発明を好ましく使用することができる。
【0092】
また、流体の状態は、液体の状態であってもよいし、気体と液体とが共存する状態であってもよい。純水または超純水は、紫外線照射で微生物などを滅菌し、メンブランフィルタによって、溶解している有機物および無機物を極限まで除去することによって得られる。純水とは、比抵抗値が、1MΩ・cm以上10MΩ・cm以下の精製水であり、超純水とは、比抵抗値が、10MΩ・cmより大きく18.3MΩ・cm以下の精製水である。比抵抗値が1MΩ・cmより小さいと、電界を印加することによる活性種を生成する効率が低下する。
【0093】
本実施形態で用いられる触媒部材は、流体のイオン濃度を増加させる触媒などを含んでいるものが挙げられる。流体のイオン濃度を増加させる触媒部材とは、流体中でイオン交換反応を促進させ、イオン積を増加させる機能を有する物質であり、反応の前後において、同一の状態である物質である。たとえば、好ましい触媒部材としてイオン交換樹脂が挙げられる。イオン交換樹脂は、イオン交換可能な酸性基または塩基性基を有する不溶性の合成樹脂をいう。また、イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂および両性イオン交換樹脂がある。より好ましい触媒部材としては、流体である水のイオン積を増加させる機能を付与した強酸性カチオン交換樹脂および強塩基アニオン樹脂が好ましく、たとえば、スルホン基および四級アンモニウム基などが導入された樹脂が挙げられる。さらに好ましくは、流体である水のイオン積Kwが、14≧−logKwの範囲で増加させることができるイオン交換樹脂が挙げられる。そのような触媒部材を用いると、たとえば、触媒部材を用いずに、比抵抗値が18.2MΩ・cmである純水に50Vの電圧を印加すると、電流値が10−2mA/cm程度にしかならない。それに対して、上記のような触媒部材を用いて、比抵抗値が18.2MΩ・cmである純水に50Vの電圧を印加すると、10倍の電流値である10mA/cm程度になる。この電流値は、流体中の活性種の生成量と密接に関係し、電流値と活性種の生成量とは直線関係があるので、触媒部材を用いない場合と比較して、触媒部材を用いた場合は、活性種の濃度が10倍高い流体が得られる。つまり、触媒部材を用いると、流体中のイオン濃度を高めることができるので、より多くの活性種を生成することができ、より効率よく基板表面を洗浄することができる。
【0094】
また、流体との接触面積を増加させ、流体のイオン濃度をより増加させるため、触媒部材は、イオン交換能を付与した、つまり、イオン交換基を導入した多孔質状、網目状、繊維状、粒子状および不織布状などの通水性のある触媒部材であることが好ましい。このような触媒部材は、適当な空隙率を有する樹脂などに、たとえば、γ線を照射した後にグラフト重合を行う放射線グラフト重合法により作製される。さらに、イオン交換基を導入した不織布は、対極板と吐出孔板とに挟みやすく、安定して使用することができるので、より好ましい。また、イオン交換基の種類および導入量を変えることによって、流体中に生成される活性種濃度を制御することができる。
【0095】
本実施形態では、孔が設けられた領域と電極部材との間に触媒部材を配置し、流体が、触媒部材を通過しながら、孔が設けられた領域と電極部材との間に電圧を印加する。そうすることによって、流体が触媒部材を通過しながら、流体に電界を印加することができ、流体中に多量の活性種を生成することができる。その際に印加する電圧は、2V以上50V以下の直流電圧であることが好ましい。そうすることによって、流体中で、活性種をより効率的に生成することができる。
【0096】
以上のように、本発明は、水などの活性種の原料が含まれている流体を触媒部材に通過させながら、流体に電界を印加するだけで、流体中に活性種を生成することができるので、特別な設備および薬液などを用いる必要がない。したがって、設備費用などのコストの削減および環境への負荷の低減を実現できる。さらに、被処理物が導電性であるか絶縁性であるかという電気的特性に関係なく、処理することができる。
【0097】
以下に、ウェット処理装置1を用いた実施例を示す。
実施例は、流体供給ライン11から供給される流体は、比抵抗が10MΩ・cm以上18.3MΩ・cm以下の純水である。被処理物20は、ガラス基板を用いた。電極部材14は、厚さ0.3mmのチタンまたは白金合金を用いた。絶縁膜16は、厚さ10μmのフッ素樹脂とポリイミドの共重合体からなる樹脂膜を用いた。ノズル12には、直径20μmの吐出孔が、40μm以上80μm以下のピッチで一列に形成されているものを用いた。ノズル12は、厚さ0.1mm以上1.0mm以下のチタンまたは白金合金を用いた。ノズル12には、幅0.5mmの矩形の孔が、吐出孔の列の上になるように形成されている。触媒部材13は、スルホン酸基を導入したフッ素樹脂である強酸性カチオン交換樹脂からなる不織布を用いた、厚み0.5mm以上1.0mm以下のシートを用いた。このシートには、0.1mm以上1.0mm以下の空孔が形成された網目状構造である。ノズル12と電極部材14とは、触媒部材13およびスペーサなどを用いて、機械的に0.2mm以上1.5mm以下の距離を隔てるように設置した。ノズル12と電極部材14との間に純水を満たしても、抵抗が1kΩ以上となった。たとえば、ノズル12と電極部材14との間に印加する直流電圧は、ノズル12と電極部材14との距離を0.5mmとした場合、5Vとする。このような装置に流れる電流は、活性種であるラジカルの生成量に影響する。
【0098】
ウェット処理装置1より供給される流体19である純水の流量をQ(L/min)とし、流れる電流値I(A)として、生成する純水中のラジカル濃度C(mol/L)は以下の式で表される。
C=60I/96500Q
【0099】
たとえば、純水の流量が40L/minであり、電流値が8Aである場合、純水中のラジカル濃度Cは、上記式通り、120μmol/Lとなった。さらに、この純水を100m/秒の流速で供給した。そうすると、被処理物であるガラス基板の表面には、ラジカル濃度4μmol/Lの純水を供給することができた。
【0100】
このラジカル濃度は、従来の方法である水素水に超音波を印加する方法を用いた場合と比較して、100倍以上高い濃度である。本発明は、そのような高い活性種濃度の流体を被処理物に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1の実施形態であるウェット処理装置1の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明であるウェット処理装置1の第1の実施態様を示す概略図である。
【図3】触媒部材13によって、流体19中のイオン濃度を増加させる機構を示す模式図である。
【図4】本発明のウェット処理装置1の電圧印加部17およびノズル14上における活性種を生成する機構を示す模式図である。
【図5】本発明であるウェット処理装置1の第2の実施態様を示す概略図である。
【図6】本発明であるウェット処理装置1の第3の実施態様を示す概略図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるウェット処理装置2の構成を示す概略断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態であるウェット処理装置3の構成を示す概略断面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態であるウェット処理装置4の構成を示す概略断面図である。
【図10】本発明の実施の一形態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0102】
1,2,3 ウェット処理装置
11 流体供給ライン
12,36,37,42 ノズル
13 触媒部材
14,40 電極部材
15 直流電源装置
16,41,45 絶縁膜
17,38 電圧印加部
18,39 板部
19 流体
20 被処理物
21,22,23,25,32 矢符
24 搬送ローラ
26 水素イオン
27 水酸基イオン
28 水素ラジカル
29 水酸基ラジカル
30 電子
31 被処理物支持具
33 回転手段
34 回転テーブル
35 回転軸
43 第1電極部材
44第2電極部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面に流体を供給して、被処理物の表面を処理するウェット処理装置であって、
被処理物に流体を供給するために、流体が通過する孔が設けられた領域を有するノズルと、
前記領域を覆い、流体のイオン濃度を増加させることができ、通水性のある板状の触媒部材と、
触媒部材を覆い、孔が設けられた電極部材とを有し、
前記領域と電極部材との間に電圧を印加することを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素であることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
電極部材は、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料であることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項4】
孔が設けられた領域と触媒部材との間に、絶縁膜を形成することを特徴する請求項1〜3のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項5】
絶縁膜は、フッ素系樹脂を含有した樹脂であることを特徴とする請求項4記載のウェット処理装置。
【請求項6】
絶縁膜は、金属酸化物またはセラミックスからなる無機絶縁体であることを特徴とする請求項4記載のウェット処理装置。
【請求項7】
ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項8】
ノズルは、チタン、ニッケル、パラジウム、金、白金または炭素を含む複合材料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項9】
触媒部材は、強酸性カチオン交換能または強塩基性アニオン交換能を付与したイオン交換物質であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項10】
触媒部材は、多孔質構造であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項11】
イオン交換物質は、フッ素系樹脂を含有した樹脂であることを特徴とする請求項10記載のウェット装置。
【請求項12】
ノズルの孔が設けられた領域と孔が設けられた電極部材との間に配置されている通水性のある板状の触媒部材に、流体を通過させることによって、流体中のイオン濃度を増加させるイオン濃度増加工程と、
前記領域と電極部材との間に、電圧を印加して流体に活性種を生成させる電圧印加工程と、
活性種を含有する流体を吐出孔から被処理物の表面に供給して被処理物を処理する処理工程とを含むことを特徴とするウェット処理方法。
【請求項13】
流体は、水を含むことを特徴とする請求項12記載のウェット処理方法。
【請求項14】
流体は、純水であることを特徴とする請求項12記載のウェット処理方法。
【請求項15】
活性種は、酸素原子または水素原子を含むことを特徴とする請求項12〜14のいずれか1つに記載のウェット処理方法。
【請求項16】
活性種は、水素ラジカル、水酸基ラジカル、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾンおよび過酸化水素から選ばれる1種または2種以上の活性種であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1つに記載のウェット処理方法。
【請求項17】
電圧は、2V以上50V以下の直流電圧であることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1つに記載のウェット処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−255665(P2006−255665A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80312(P2005−80312)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】