ウェハ
【課題】精度よく切断することが可能なウェハを提供する。
【解決手段】表面3及び裏面を有し、複数のチップに分断されるウェハであって、切断の起点となる改質領域7が内部に形成されている。改質領域7は、レーザ光Lの照射により形成される複数の改質スポットSにより形成されている。複数の改質スポットSは、ウェハの内部における表面3から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有している。
【解決手段】表面3及び裏面を有し、複数のチップに分断されるウェハであって、切断の起点となる改質領域7が内部に形成されている。改質領域7は、レーザ光Lの照射により形成される複数の改質スポットSにより形成されている。複数の改質スポットSは、ウェハの内部における表面3から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のチップに切断されるウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウェハとしては、内部に集光点が合わせられてレーザ光が照射されることにより、切断予定ラインに沿って、切断の起点となる改質領域が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−343008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなウェハでは、複数のチップに切断する際、精度よく切断することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、精度よく切断することが可能なウェハを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るウェハは、表面及び裏面を有し、複数のチップに切断されるウェハであって、切断の起点となる改質領域が内部に形成されており、改質領域は、パルスレーザ光の照射により形成される複数の改質スポットにより形成され、複数の改質スポットは、ウェハの内部における表面から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有しており、表面又は裏面に露出する亀裂が改質スポットから形成されていること、を特徴とする。
【0007】
このウェハにおいては、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有する複数の改質スポットにより改質領域が形成されており、改質領域の形成密度が調整されている。また、表面又は裏面に露出する亀裂が改質スポットから形成されている。これにより、ウェハを複数のチップに切断する際、形成されている改質領域及び亀裂によって精度よく切断することが可能となる。
【0008】
また、ウェハには、機能素子がマトリックス状に複数形成され、改質領域は、ウェハの厚さ方向から見て、隣り合う機能素子間を通るように格子状に延在することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精度よく切断することができるウェハを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】加工対象物を示す平面図である。
【図8】第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。
【図9】反射型空間光変調器の部分断面図である。
【図10】レーザ光の多点集光を説明するための図である。
【図11】第1実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図12】図11に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図13】第2実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図14】第3実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図15】図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図16】レーザ光の強度波形を示す図である。
【図17】図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための他の図である。
【図18】第4実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図19】図18に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図20】第5実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図21】図20に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図22】図20に示すレーザ加工方法の他の例を説明するための図である。
【図23】レーザ光の集光を説明するための概略図である。
【図24】レーザ光の集光を説明するための他の概略図である。
【図25】レーザ加工の全体手順の例を示すフローチャートである。
【図26】レーザ加工の全体手順の他の例を示すフローチャートである。
【図27】レーザ加工の全体手順のさらに他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上」「下」の語は、図面に示される状態に基づいており便宜的なものである。
【0012】
本実施形態に係るレーザ加工装置では、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、本実施形態のレーザ加工装置による改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0014】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0015】
加工対象物(ウェハ)1としては、半導体材料や圧電材料等が用いられ、図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0016】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0017】
ちなみに、ここでは、レーザ光Lが、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0018】
ところで、本実施形態に係るレーザ加工装置で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0019】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更にそれら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えばシリコン、ガラス、LiTaO3又はサファイア(Al2O3)を含む、又はこれらからなるものが挙げられる。
【0020】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図7は、本実施形態のレーザ加工方法の対象となる加工対象物を示す平面図である。図7に示すように、加工対象物1は、厚さ300μm、直径8インチのシリコンウェハ11と、複数の機能素子15を含んでシリコンウェハ11の表面11aに形成された機能素子層16とを備えている。
【0022】
機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等であり、シリコンウェハ11のオリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に多数形成されている。このような加工対象物1は、隣り合う機能素子間を通るように格子状に設定された切断予定ライン5a,5bに沿って切断され、例えばチップサイズが1mm×1mmのチップとなる。
【0023】
図8は、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。図8に示すように、レーザ加工装置300は、レーザ光源202、反射型空間光変調器203、4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備えている。
【0024】
レーザ光源202は、レーザ光Lを出射するものであり、例えばファイバレーザが用いられている。ここでのレーザ光源202は、水平方向にレーザ光を出射するように、筐体231の天板236にねじ等で固定されている。
【0025】
反射型空間光変調器203は、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられている。ここでの反射型空間光変調器203は、水平方向から入射するレーザ光Lを、水平方向に対し斜め上方に反射すると共に、加工対象物1においてレーザ光Lを移動させる方向D(以下、「移動方向D」という)に沿って離れた複数位置に集光するよう変調する。
【0026】
図9は、図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図9に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
【0027】
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218b上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0028】
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
【0029】
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
【0030】
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
【0031】
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
【0032】
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。
【0033】
これにより、変調パターンに入射し透過するレーザ光Lにあっては、その波面が調整され、該レーザ光Lを構成する各光線において進行方向に直交する所定方向の成分の位相にずれが生じる。その結果、図10に示すように、加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置に集光光学系204でレーザ光Lが多点集光されるように、レーザ光Lが変調されることになる。具体的には、レーザ光Lが集光光学系204で複屈折されて加工対象物1内の移動方向Dに離れた複数位置に集光されるように、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が調整されることになる。
【0034】
図8に戻り、4f光学系241は、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものである。この4f光学系241は、第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有している。
【0035】
レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置されている。この4f光学系241では、反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制することができる。
【0036】
集光光学系204は、4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものである。この集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されている。
【0037】
また、レーザ加工装置300は、加工対象物1の表面3を観察するための表面観察ユニット211と、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整するためのAF(AutoFocus)ユニット212と、を筐体231内に備えている。
【0038】
表面観察ユニット211は、可視光VL1を出射する観察用光源211aと、加工対象物1の表面3で反射された可視光VL1の反射光VL2を受光して検出する検出器211bと、を有している。表面観察ユニット211では、観察用光源211aから出射された可視光VL1が、ミラー208及びダイクロイックミラー209,210,238で反射・透過され、集光光学系204で加工対象物に向けて集光される。そして、加工対象物1の表面3で反射された反射光VL2が、集光光学系204で集光されてダイクロイックミラー238,210で透過・反射された後、ダイクロイックミラー209を透過して検出器211bにて受光される。
【0039】
AFユニット212は、AF用レーザ光LB1を出射し、加工対象物1の表面3で反射されたAF用レーザ光LB1の反射光LB2を受光し検出することで、切断予定ライン5に沿った表面3の変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させ、加工対象物1の表面3のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させる。
【0040】
さらにまた、レーザ加工装置300は、該レーザ加工装置300を制御するためのものとして、CPU、ROM、RAM等からなる制御部250を備えている。この制御部250は、レーザ光源202を制御し、レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節する。また、制御部250は、改質領域7を形成する際、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように、筐体231やステージ111の位置、及び駆動ユニット232の駆動を制御する。
【0041】
また、制御部250は、改質領域7を形成する際、反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し、液晶層216に所定の変調パターンを表示させる。これにより、レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し、加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ、移動方向Dに沿って離れた複数位置に改質領域7を同時に複数形成する(詳しくは、後述)。
【0042】
なお、所定の変調パターンは、例えば、改質領域7を形成しようとする位置、照射するレーザ光Lの波長、及び集光光学系204や加工対象物1の屈折率等に基づいて予め導出され、制御部250に記憶されている。
【0043】
以上のように構成されたレーザ加工装置300を用いて加工対象物1を切断する場合、まず、加工対象物1の裏面に例えばエキスパンドテープを貼り付け、該加工対象物1をステージ111上に載置する。続いて、表面3をレーザ光照射面として加工対象物1にレーザ光Lを照射しながら、加工対象物1とレーザ光Lとを切断予定ライン5a,5bに沿って相対移動(スキャン)させる。
【0044】
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において水平方向に進行した後、ミラー205aによって下方に反射され、アッテネータ207によって光強度が調整される。そして、レーザ光は、ミラー205bによって水平方向に反射され、ビームホモジナイザ260によって強度分布が均一化されて反射型空間光変調器203に入射する。
【0045】
反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、液晶層216に表示された変調パターンを透過し、該変調パターンに応じて変調された後、水平方向に対し斜め上方に出射される。そして、ミラー206aによって上方に反射された後、λ/2波長板228によって偏光方向が切断予定ライン5に沿う方向となるよう変更され、ミラー206bによって水平方向に反射されて4f光学系241に入射する。
【0046】
4f光学系241に入射したレーザ光Lは、集光光学系204に入射するレーザ光Lが平行光となるように波面形状が調整される。具体的には、レーザ光Lは、第1レンズ241aを透過し収束され、ミラー219によって下方へ反射され、共焦点Oを経て発散すると共に、第2レンズ241bを透過し、平行光となるように再び収束される。
【0047】
その後、レーザ光Lは、ダイクロイックミラー210,218を順次透過して集光光学系204に入射し、ステージ111上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。これにより、切断予定ライン5a,5bに沿って改質スポットが複数形成され、これらの改質スポットによって改質領域7が形成されることとなる(改質領域形成工程)。ちなみに、ここでの改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分を意味している。
【0048】
そして、エキスパンドテープを拡張することで、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断し、複数の半導体チップ(例えばメモリ、IC、発光素子、受光素子等:半導体装置)として互いに離間させる。
【0049】
ここで、本実施形態においては、上述したように、反射型空間光変調器203によって、加工対象物1内の移動方向Dに離れた複数位置にレーザ光Lが集光されるようレーザ光Lを変調している。
【0050】
具体的には、図11(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させる。併せて、加工対象物1内においてレーザ光Lの照射方向に沿う方向(つまり、厚さ方向)に互いに等しく、且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら2箇所に改質スポットS1,S1を同時に形成する。換言すると、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく、且つ切断予定ライン5のライン方向にズレた一対の位置に、一対の改質スポットS1,S1を同時形成する。
【0051】
そして、図11(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS2,S2〜改質スポットS5,S5を加工対象物1に順に形成する。これにより、切断予定ライン5に沿う方向における間隔(以下、「パルスピッチ」という)が互いに等しい改質スポットSが、加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0052】
また、本実施形態においては、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2つの改質スポットS,Sを加工対象物1に好適に同時形成するため、反射型空間光変調器203の液晶層216に回折格子パターン40(位相型回折レンズ、キノフォーム:図12参照)を変調パターンとして表示させることで、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lを複数のレーザ光Lに分光して出射している。
【0053】
図12(a)は、図11に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図であり、図12(b)は、図12(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図12中の回折格子パターン41では、暗い部分(濃い部分)は、光屈折率が低い部分を示しており、明るい部分(薄い部分)は、光屈折率が高い部分を示している(図15,17,19,21において同じ)。また、図12(b)の横軸は、位置を示し、図12(a)と紙面上下方向に対応している(図15,17,19において同じ)。
【0054】
この回折格子パターン41は、鋸刃型回折格子(いわゆる、ブレーズド回折格子)とされている。すなわち、図12(a)に示すように、回折格子パターン41は、複数の直線部41aが平行となるように並置されたパターンとされている。回折格子パターン41の各直線部41aのそれぞれでは、並置方向の一方側(図示左側)が最も暗く、一方側から他方側(図示右側)に行くに従って徐々に明るくなり、他方側が最も明るくなっている。よって、図12(b)に示すように、回折格子パターン41の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かって鋸刃状に増減している。
【0055】
このような回折格子パターン41によれば、0次レーザ光Lと1次レーザ光L(又は、−1次レーザ光L)との強度が高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に集光されることとなる。
【0056】
なお、0次レーザ光Lは、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lがあたかもそのまま反射されるようなモードのレーザ光を意味している。また、回折格子パターン41の明暗を全体的に調整することで、後述の回折効率を調整することができる(以下、同じ)。
【0057】
以上、本実施形態によれば、加工対象物1において移動方向Dに沿って離間する2箇所に、レーザ光Lを同時集光させて改質スポットS,Sを同時形成することができる。よって、通常のレーザ加工に比べ、レーザ加工に要する時間、すなわちタクトタイムの短縮化が可能となり、ランニングコストを低減することができる。
【0058】
また、上述したように、改質スポットSが形成される複数位置が、厚さ方向に互いに等しくされている。よって、レーザ光Lの相対移動速度を速めることが可能となる。なお、かかる効果は、改質領域7を内部に1列のみ形成するような例えば極薄ウェハを加工対象物1として用いる場合、特に有効である。
【0059】
ちなみに、本実施形態では、レーザ光Lを切断予定ライン5aに沿って相対移動させつつ照射する場合(いわゆる、1ch加工)と、切断予定ライン5bに沿って相対移動させつつ照射する場合(いわゆる、2ch加工)との間で、改質スポットSのパルスピッチ(加工ピッチ)を変えることも可能である。例えば、加工対象物1の結晶方位に基づいて1,2ch加工の間でパルスピッチを変化させることで、加工対象物1の結晶性に起因する分断し易さが好適に考慮されることとなる。この1,2ch加工の間でのパルスピッチ変化に関しては、以下の実施形態においても同様である。
【0060】
また、上述したように、反射型空間光変調器203を用いてレーザ光Lを多点集光させていることから、レーザ光Lを容易に変調することが可能となり、さらに、加工マージンの狭い加工対象物1に対しても対応可能となっている。
【0061】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0062】
本実施形態は、加工対象物1内にパルスピッチが異なるよう複数の改質スポットSが形成される点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図13(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら2箇所に、上記S1,S1のパルスピッチよりも拡いパルスピッチを有する改質スポットS21,S21を同時に形成する。
【0063】
そして、図13(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS22,S22〜改質スポットS25,S25を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに異なる複数の改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成され、その形成密度が粗い改質領域7が形成されることとなる。
【0064】
また、本実施形態おいて反射型空間光変調器203の液晶層216に表示させる回折格子パターンは、上記回折格子パターン41よりも各直線部41aの幅(つまり、格子間隔)が狭い点で上記第1実施形態と異なっている。これは、回折格子パターンの格子間隔を狭くすることで、同時形成する改質スポットS,Sの間隔を拡げることができ、格子間隔を拡げることで、同時形成する改質スポットS,Sの間隔を狭くすることができるためである。
【0065】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0066】
また、本実施形態では、上述したように、パルスピッチが互いに異なるよう複数の改質スポットSを形成している。このように、パルスピッチを拡大・縮小すると、改質領域7の形成密度を調整することが可能となる。かかる効果は、例えばボイド等の加工不具合が発生しないよう改質領域7の形成密度を調整する場合に、特に有効である。
【0067】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0068】
本実施形態は、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3つの改質スポットS,S,Sを加工対象物1に同時形成する点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図14(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら3箇所に、改質スポットS51,S51,S51を同時に形成する。
【0069】
そして、図14(b)〜(c)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS52,S52,S52〜改質スポットS55,S55,S55を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに等しい改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0070】
図15(a)は、図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図、図15(b)は、図15(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図15に示すように、本実施形態においては、液晶層216に回折格子パターン42を表示させている。
【0071】
この回折格子パターン42は、2値型回折格子とされている。すなわち、図15(a)に示すように、回折格子パターン42は、複数の直線部42aが平行となるように並置されたパターンとされている。そして、複数の直線部42aは、並置方向の一方側(図示左側)から他方側(図示右側)に向かう順に、明暗が交互に繰り返されるようになっている。よって、図15(b)に示すように、回折格子パターン42の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かって矩形波状(パルス波状)に増減している。
【0072】
このような回折格子パターン42によれば、0次レーザ光Lと1次レーザ光Lと−1次レーザ光Lとの強度が高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3箇所に集光されることとなる。
【0073】
図16は、レーザ光の強度波形を示す図である。図中において、上図はレーザ光Lの断面模式図であり、下図は、レーザ光Lの断面中心位置での強度波形を示す図である。ここで、図16に示すように、液晶層216に表示された回折格子パターン42の屈折率波形(図15(b)参照)に対してレーザ光Lの強度波形が同じ(近似)形状であれば、分光された3つのレーザ光Lの強度は、互いに等しくなり易い。しかし、図16(b)示すように、表示された回折格子パターン42の屈折率波形に対しレーザ光Lの強度波形が異なる形状の場合(例えば、レーザ光Lが2次曲線状の強度波形を有する場合)、この回折格子パターン42にレーザ光Lを入射させると、分光された各レーザ光Lの強度が互いに異なってしまうことがある。
【0074】
また、回折格子パターン42を表示した場合、分光された各レーザ光Lの強度は、理論的には互いに等しくなるが、デバイスの特性により実際には等しくない場合がある。特に3箇所に分岐されたレーザ光Lのうち端に当たる2点の強度が等しくない場合等が観測される。回折格子パターン42で光屈折率を変えた場合には、端にあたる2点の強度に対し2点に挟まれた中央の点の強度を調整するだけであり、2点の強度差を改善することは困難である。
【0075】
この点、本実施形態では、レーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を液晶層216に表示させ、分光された3つのレーザ光Lの強度を互いに等しくしている。具体的には、例えば反復フーリエ法を用いてレーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を作成し、又は、レーザ光Lの強度波形に対応して回折格子パターン40を修正し、これを液晶層216に表示させることで、各レーザ光Lの強度を互いに等しくしている。
【0076】
すなわち、レーザ光Lの波形が図16(a)に示すような矩形波状の場合には、上記回折格子パターン42を液晶層216に表示させる。一方、レーザ光Lの波形が図16(b)に示すような2次曲線状の場合には、図17に示すような回折格子パターン43を液晶層216に表示させる。回折格子パターン43は、図17(b)に示すように、隣接する直線部43a,43aの境界がぼけている(グラデーションが付けられている)点で上記回折格子パターン42と異なっている。よって、図17(b)に示すように、回折格子パターン43は、上記回折格子パターン42の屈折率に対し、立上がり時及びピーク時の角部が滑らかとなる屈折率を有している。
【0077】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0078】
また、本実施形態では、上述したように、レーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を液晶層216に表示させており、これにより、分光された3つのレーザ光の強度が互いに等しくすることが可能となっている。なお、このように回折格子パターン40をレーザ光Lの強度波形に対応させる点は、上記及び下記の実施形態でも同様に実施することができる。なお、本実施形態は、レーザ光Lを3つに分光するため、レーザ光Lのエネルギに余裕があるときに特に有効なものである。
【0079】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0080】
本実施形態は、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4つの改質スポットS,S,S,Sを加工対象物1に同時形成する点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図18(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら4箇所に、改質スポットS61,S61,S61,S61を同時に形成する。
【0081】
そして、図18(b)〜(c)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS62,S62,S62,S62〜改質スポットS65,S65,S65,S65を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに等しい改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0082】
図19(a)は、図18に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図であり、図19(b)は、図19(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図19に示すように、本実施形態においては、液晶層216に回折格子パターン44を表示させている。
【0083】
この回折格子パターン44は、SIN型回折格子とされている。すなわち、図19(a)に示すように、回折格子パターン44にあっては、並置方向の一方側(図示左側)から他方側(図示右側)に行くに従って徐々に明るくなるのと徐々に暗くなるのとが交互に繰り返される点で上記回折格子パターン41と異なっている。そして、各直線部43aの並置方向中央部で、最も明るく(暗く)なっている。よって、図19(b)に示すように、回折格子パターン44の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かってSIN波状に増減している。
【0084】
このような回折格子パターン42によれば、高次のレーザ光Lまで強度が比較的高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4箇所に集光されることとなる。
【0085】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0086】
また、本実施形態では、例えば回折効率を適宜調整すると共に、分光された各レーザ光Lの少なくとも1つのエネルギをゼロとしたりカットしたりすることで、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた5箇所以上に改質スポットSを形成する場合もある。なお、本実施形態は、レーザ光Lを4つ又はそれ以上に分光するため、レーザ光Lのエネルギに余裕があるときに特に有効なものである。
【0087】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0088】
本実施形態は、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なる位置にレーザ光Lが同時集光されて改質スポットS,Sが同時形成される点で、上記第1実施形態と異なっている。
【0089】
具体的には、図20(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時集光させて一対の改質スポットS31a,S31bを同時形成する。
【0090】
ここでは、加工対象物1の表面3側の改質スポットS31aが裏面21側の改質スポットS31bに対し移動方向後方に位置するように、レーザ光Lを同時集光させている。つまり、レーザ光Lを、加工対象物1において深い位置の集光点が浅い位置の集光点よりも先行するよう切断予定ライン5に沿って移動させている。
【0091】
そして、図20(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS32a,S32b〜改質スポットS35a,S35bを順に形成する。これにより、1つの切断予定ライン5について厚さ方向に2列の改質領域7が、加工対象物1内に1スキャンで形成されることとなる。
【0092】
図21は、図20に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図である。図21に示すように、本実施形態においては、厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2つの改質スポットS,Sを加工対象物1に同時形成するため、液晶層216に回折格子パターン45を表示させている。
【0093】
回折格子パターン45は、ゾーンプレート型とされている。この回折格子パターン45は、あたかも複数の凹レンズ又は凸レンズが幾重にも重なって存在するように機能するものであり、中心円部45aと、この中心円部45aに同心円状の複数の円環部45bを有している。中心円部45a及び円環部45bは、中心から径方向外側に行くに従って明暗が交互に繰り返されるように構成されている。また、中心円部45aは、改質スポットS,Sの互いの位置関係に対応する方向(図示では右方向)に所定量ずれている。円環部45bの間隔は、径方向外側に行くに従って徐々に小さくなっている。
【0094】
このような回折格子パターン45によれば、高次のレーザ光Lほど強度が弱くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に対し裏面21側に行くに連れて移動方向前方に傾斜した方向に離間した(換言すると、厚さ方向に離間すると共に、表面3側の集光点が裏面21側の集光点に対し移動方向後方に位置するよう移動方向Dに離間した)2箇所に集光されることとなる。
【0095】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0096】
また、本実施形態では、上述したように、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所にレーザ光Lを同時集光させることで、1つの切断予定ライン5について厚さ方向に2列の改質領域7を1スキャンで形成している。よって、1つの切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを移動させる回数(いわゆる、折り返し回数)を低減させることが可能となる。例えば、加工対象物1内に厚さ方向8列の改質領域7を形成する場合、4スキャンで足りることになる。
【0097】
また、本実施形態では、上述したように、一対の改質スポットS,Sを同時形成する際、加工対象物1の表面3側の改質スポットS31a〜S35aほど移動方向後方に位置すうようにレーザ光Lを同時集光させている。よって、裏面21側の位置への改質スポットS31b〜S35bの形成に、表面3側の改質スポットS31a〜S35aによる悪影響(例えば、レーザ光Lの吸収、散乱、集光度の低下)が及ぶのを好適に抑制することができ、改質領域7を精度よく形成することが可能となる。
【0098】
なお、本実施形態において、1つの切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを往復移動させる場合、表面3側に形成される改質スポットS31a〜S35aを移動方向後方に位置さるため、往路と復路との間で反射型空間光変調器203における変調パターンが反転される(切り替えられる)ことになる。
【0099】
図22は、図20に示すレーザ加工方法の他の例を説明するための図である。図22(a)〜(d)に示すように、本実施形態では、一対の改質スポットS,Sを加工対象物1に同時形成する際、表面3側の改質スポットS41a〜45aが裏面21側の改質スポットS41b〜45bに対し移動方向前方に位置するように、レーザ光Lを同時集光させてもよい。この場合、上記回折格子パターン45に対し中心円部45aがずれる方向と反対方向にずれている点で異なる回折格子パターンが液晶層216に表示される。
【0100】
ちなみに、本実施形態では、パルスピッチが互いに等しくなるよう改質スポットSを形成したが、上記第2実施形態と同様に、パルスピッチが互いに異なるよう改質スポットSを形成しても勿論よい。
【0101】
また、回折格子パターン45では、その中心を大きくずらしても加工精度に悪影響が及び難い。また、回折格子パターン45の格子間隔を狭く又は拡くすることで、同時形成する改質スポットS,Sの傾斜方向の間隔が拡がる又は狭まることになる。また、本実施形態では、回折格子パターン45の中心円部45aをずらしているが、これに代えて、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lを、その光軸の交差方向にずらす場合もある。
【0102】
次に、上記レーザ加工を行う際の各種設定について説明する。まず、上記第3実施形態と同様なレーザ加工を行う(つまり、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3つの改質スポットS,S,Sを加工対象物1に同時形成する)場合を例にして、レーザ光Lの集光について説明する。
【0103】
図23,24は、レーザ光の集光を説明するための概略図である。図中においては、集光光学系204を理想化して示している。図23に示すように、同時に集光させる集光点の間隔71は、焦点距離72及びレーザ光Lの入射角θによって設定される。但し、入射角θは、下記の関係を有している。
入射角θ=回折角×縮小倍率
縮小倍率=4f光学系241の第1レンズ241aの焦点距離/第2レンズ24
1bの焦点距離
回折角 =arcsin(レーザ光Lの波長[m]/回折格子パターン40の回折格子
間隔[m])
【0104】
また、レーザ光Lを加工対象物1の外部に集光する場合と、内部に集光する場合とでは、焦点距離73,74が異なるものの入射角θ1,θ2も異なることから、これら相違が互いに打ち消し合うため、結果として、集光点の間隔75,76は互いに等しくなる。
【0105】
また、図24に示すように、同時形成された改質スポットS,S,Sと、これより前段(又は後段)で同時形成された改質スポットS,S,Sとの間隔77は、レーザ光Lの繰返し周波数及び加工速度によって設定される。間隔71,77は、互いに独立して調整可能であるため、所望の間隔(等間隔でも不等間隔でも)に設定可能である。ちなみに、入射角θの値が極めて小さいことから、分光された各レーザ光Lは、全て垂直入射として近似することができる。
【0106】
このようなレーザ光Lの集光の特性をふまえると、レーザ加工の設定について、次のことがいえる。すなわち、回折格子パターン40の形状の設定は、反射型空間光変調器203で分光された各レーザ光Lの強度分布全てに影響する。回折効率は、分光された各レーザ光Lのうち0次レーザ光Lとその他のレーザ光Lとの強度比に影響する。ステージ速度、レーザ光Lの繰返し周波数、及び回折格子パターン40の格子間隔は、加工速度及びパルスピッチ(加工ピッチ)に影響する。
【0107】
次に、以上に説明したレーザ加工方法によるレーザ加工の全体手順の例を、図25〜27に示すフローチャートを参照しつつ説明する。ここでの改質領域形成工程では、一例として、上記第1〜4実施形態と同様に、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた複数の改質スポットSを加工対象物1に形成している。また、加工対象物1において表面3をレーザ光照射面としている。
【0108】
加工対象物1が薄く、加工対象物1の内部に厚さ方向に1列の改質領域7を形成する場合には、図25のフローチャートに示すように、まず、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定する(S11)。ここでは、等間隔のパルスピッチとなるように設定する場合や、任意の不等間隔のパルスピッチとなるように設定する場合がある。
【0109】
続いて、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S12)。ここでは、分光された各レーザ光Lの強度が等しくなるような、又は任意の比率となるような形状及び回折効率としている。なお、上記S11,S12については、表面観察ユニット211で各レーザ光Lが所望位置に集光するか否か等を確認し、適宜再設定を行う。続いて、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S13)。
【0110】
他方、加工対象物1が厚く、加工対象物1の内部に厚さ方向に複数列の改質領域7を形成する場合には、図26のフローチャートに示すように、まず、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定する(S21)。続いて、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S22)。
【0111】
続いて、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を、最も裏面側の加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S23)。そして、上記S23と同様に、他の加工位置に対し、裏面21側から表面3側の順で改質領域形成工程を繰り返し実施する(S24)。
【0112】
或いは、加工対象物1の内部に厚さ方向に複数列の改質領域7を形成する場合には、図27のフローチャートに示すように、まず、反射型空間光変調器203において回折格子パターン40を非表示とする(S31)。そして、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を最も裏面21側の加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S32)。
【0113】
続いて、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定し(S33)、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S34)。そして、上記S32と同様に、他の加工位置に対し、裏面21側から表面3側の順で改質領域形成工程を繰り返し実施する(S35)。
【0114】
図27に示すレーザ加工では、上述したように、最も裏面21側の加工位置に改質領域形成工程を実施する場合、回折格子パターン40で分光されていない(つまり、高いエネルギを有する)レーザ光Lを集光させ、改質スポットSを1つずつ形成して改質領域7を形成している。これにより、最も裏面21側の改質領域7から亀裂を好適に延在させることができる。その結果、裏面21側が切断の基点側となることから、加工対象物1を精度よく切断するためである。
【0115】
なお、表面3側も切断の基点側となるが、表面3側の加工位置にレーザ光Lを集光させる場合においては、加工対象物1によるレーザ光Lの吸収が少ないことから、レーザ光Lが高いエネルギを維持し易いため、回折格子パターン40で分光させても、形成された改質領域7から亀裂を好適に延在させることができる。
【0116】
ちなみに、図26,27に示すように複数列の改質領域を形成する場合、改質領域形成工程毎に、回折効率及びパルスピッチを設定し加工してもよい。
【0117】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0118】
例えば、上記実施形態では、移動方向Dに沿って離れた2箇所にレーザ光Lを同時集光させて改質スポットS(改質領域7)を同時形成したが、レーザ光Lのエネルギ上可能であれば、移動方向Dに沿って離れた3箇所以上の箇所にレーザ光Lを同時集光させて改質スポットSを同時形成してもよい。この場合、厚さ方向に互いに等しい一対の改質スポットと、互いに異なる一対の改質スポットと、を含む3つ以上の改質スポットが同時形成されるように(上記実施形態を組み合わせてなるように)、レーザ光Lを加工対象物1に同時集光させてもよい。
【0119】
また、上記実施形態では、ビームホモジナイザ260を備え、このビームホモジナイザ260で強度分布を均一化したレーザ光Lを反射型空間光変調器203に入射させたが、これに代えて、ビームエキスパンダを備え、このビームエキスパンダでビーム径を拡大したレーザ光Lを反射型空間光変調器203に入射させてもよい。また、改質領域7を形成する際におけるレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されず、加工対象物1の裏面21であってもよい。
【0120】
なお、切断予定ライン5に沿って形成され互いに一番近い(隣接する)改質スポットであって、先のレーザショットで形成される改質スポットSと後のレーザショットで形成される改質スポットSとについては、互いに重ならないような繰返し周波数(発振周波数)でレーザ光Lを出力して形成することで、その加工速度、加工精度を向上させることができるため、より望ましい。
【0121】
また、上記実施形態では、反射型空間光変調器203としてLCOS−SLMを用いたが、MEMS(メムス)−SLM、又はDMD(デフォーマブルミラーデバイス)等を用いてもよい。
【0122】
さらに、上記実施形態では、反射型空間光変調器203を用いたが、透過型の空間光変調器でもよい。空間光変調器としては、液晶セルタイプ、LCDタイプのものが挙げられる。
【0123】
また、上記実施形態の反射型空間光変調器203は誘電体多層膜ミラーを備えていたが、シリコン基板の画素電極の反射を利用してもよい。
【0124】
また、上記実施形態では、4f光学系241を用いているが、波面形状の変化が問題ならない場合等には、4f光学系241を省いてもよい。
【0125】
また、複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光Lの収差が補正されるような変調パターンを反射型空間光変調器203にさらに与えることで、切断に一層適した改質領域7を形成することが可能となる。
【0126】
また、分光された複数のレーザ光Lは、それぞれのエネルギが任意の値とされてもよく、さらには、その少なくとも1つのエネルギがゼロ又はカットされてもよい。カットする場合には、例えば、透明なガラスに黒点を入れたものが、カットしたいレーザ光Lの集光ポイントに配置される。
【0127】
また、回折格子パターン40は、限定されるものではなく、移動方向Dに沿って離れた複数位置にレーザ光を集光可能なものであれば、様々なパターンを採用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1…加工対象物(ウェハ)、3…表面、7…改質領域、21…裏面、L…レーザ光(パルスレーザ光)、S…改質スポット。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のチップに切断されるウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウェハとしては、内部に集光点が合わせられてレーザ光が照射されることにより、切断予定ラインに沿って、切断の起点となる改質領域が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−343008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなウェハでは、複数のチップに切断する際、精度よく切断することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、精度よく切断することが可能なウェハを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るウェハは、表面及び裏面を有し、複数のチップに切断されるウェハであって、切断の起点となる改質領域が内部に形成されており、改質領域は、パルスレーザ光の照射により形成される複数の改質スポットにより形成され、複数の改質スポットは、ウェハの内部における表面から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有しており、表面又は裏面に露出する亀裂が改質スポットから形成されていること、を特徴とする。
【0007】
このウェハにおいては、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有する複数の改質スポットにより改質領域が形成されており、改質領域の形成密度が調整されている。また、表面又は裏面に露出する亀裂が改質スポットから形成されている。これにより、ウェハを複数のチップに切断する際、形成されている改質領域及び亀裂によって精度よく切断することが可能となる。
【0008】
また、ウェハには、機能素子がマトリックス状に複数形成され、改質領域は、ウェハの厚さ方向から見て、隣り合う機能素子間を通るように格子状に延在することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精度よく切断することができるウェハを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】加工対象物を示す平面図である。
【図8】第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。
【図9】反射型空間光変調器の部分断面図である。
【図10】レーザ光の多点集光を説明するための図である。
【図11】第1実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図12】図11に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図13】第2実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図14】第3実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図15】図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図16】レーザ光の強度波形を示す図である。
【図17】図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための他の図である。
【図18】第4実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図19】図18に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図20】第5実施形態に係るレーザ加工方法を説明するための図である。
【図21】図20に示すレーザ加工の際における回折格子パターンを説明するための図である。
【図22】図20に示すレーザ加工方法の他の例を説明するための図である。
【図23】レーザ光の集光を説明するための概略図である。
【図24】レーザ光の集光を説明するための他の概略図である。
【図25】レーザ加工の全体手順の例を示すフローチャートである。
【図26】レーザ加工の全体手順の他の例を示すフローチャートである。
【図27】レーザ加工の全体手順のさらに他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上」「下」の語は、図面に示される状態に基づいており便宜的なものである。
【0012】
本実施形態に係るレーザ加工装置では、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、本実施形態のレーザ加工装置による改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0014】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0015】
加工対象物(ウェハ)1としては、半導体材料や圧電材料等が用いられ、図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0016】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0017】
ちなみに、ここでは、レーザ光Lが、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0018】
ところで、本実施形態に係るレーザ加工装置で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0019】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更にそれら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えばシリコン、ガラス、LiTaO3又はサファイア(Al2O3)を含む、又はこれらからなるものが挙げられる。
【0020】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図7は、本実施形態のレーザ加工方法の対象となる加工対象物を示す平面図である。図7に示すように、加工対象物1は、厚さ300μm、直径8インチのシリコンウェハ11と、複数の機能素子15を含んでシリコンウェハ11の表面11aに形成された機能素子層16とを備えている。
【0022】
機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等であり、シリコンウェハ11のオリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に多数形成されている。このような加工対象物1は、隣り合う機能素子間を通るように格子状に設定された切断予定ライン5a,5bに沿って切断され、例えばチップサイズが1mm×1mmのチップとなる。
【0023】
図8は、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。図8に示すように、レーザ加工装置300は、レーザ光源202、反射型空間光変調器203、4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備えている。
【0024】
レーザ光源202は、レーザ光Lを出射するものであり、例えばファイバレーザが用いられている。ここでのレーザ光源202は、水平方向にレーザ光を出射するように、筐体231の天板236にねじ等で固定されている。
【0025】
反射型空間光変調器203は、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられている。ここでの反射型空間光変調器203は、水平方向から入射するレーザ光Lを、水平方向に対し斜め上方に反射すると共に、加工対象物1においてレーザ光Lを移動させる方向D(以下、「移動方向D」という)に沿って離れた複数位置に集光するよう変調する。
【0026】
図9は、図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図9に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
【0027】
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218b上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0028】
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
【0029】
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
【0030】
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
【0031】
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
【0032】
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。
【0033】
これにより、変調パターンに入射し透過するレーザ光Lにあっては、その波面が調整され、該レーザ光Lを構成する各光線において進行方向に直交する所定方向の成分の位相にずれが生じる。その結果、図10に示すように、加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置に集光光学系204でレーザ光Lが多点集光されるように、レーザ光Lが変調されることになる。具体的には、レーザ光Lが集光光学系204で複屈折されて加工対象物1内の移動方向Dに離れた複数位置に集光されるように、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が調整されることになる。
【0034】
図8に戻り、4f光学系241は、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものである。この4f光学系241は、第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有している。
【0035】
レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置されている。この4f光学系241では、反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制することができる。
【0036】
集光光学系204は、4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものである。この集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されている。
【0037】
また、レーザ加工装置300は、加工対象物1の表面3を観察するための表面観察ユニット211と、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整するためのAF(AutoFocus)ユニット212と、を筐体231内に備えている。
【0038】
表面観察ユニット211は、可視光VL1を出射する観察用光源211aと、加工対象物1の表面3で反射された可視光VL1の反射光VL2を受光して検出する検出器211bと、を有している。表面観察ユニット211では、観察用光源211aから出射された可視光VL1が、ミラー208及びダイクロイックミラー209,210,238で反射・透過され、集光光学系204で加工対象物に向けて集光される。そして、加工対象物1の表面3で反射された反射光VL2が、集光光学系204で集光されてダイクロイックミラー238,210で透過・反射された後、ダイクロイックミラー209を透過して検出器211bにて受光される。
【0039】
AFユニット212は、AF用レーザ光LB1を出射し、加工対象物1の表面3で反射されたAF用レーザ光LB1の反射光LB2を受光し検出することで、切断予定ライン5に沿った表面3の変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させ、加工対象物1の表面3のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させる。
【0040】
さらにまた、レーザ加工装置300は、該レーザ加工装置300を制御するためのものとして、CPU、ROM、RAM等からなる制御部250を備えている。この制御部250は、レーザ光源202を制御し、レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節する。また、制御部250は、改質領域7を形成する際、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように、筐体231やステージ111の位置、及び駆動ユニット232の駆動を制御する。
【0041】
また、制御部250は、改質領域7を形成する際、反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し、液晶層216に所定の変調パターンを表示させる。これにより、レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し、加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ、移動方向Dに沿って離れた複数位置に改質領域7を同時に複数形成する(詳しくは、後述)。
【0042】
なお、所定の変調パターンは、例えば、改質領域7を形成しようとする位置、照射するレーザ光Lの波長、及び集光光学系204や加工対象物1の屈折率等に基づいて予め導出され、制御部250に記憶されている。
【0043】
以上のように構成されたレーザ加工装置300を用いて加工対象物1を切断する場合、まず、加工対象物1の裏面に例えばエキスパンドテープを貼り付け、該加工対象物1をステージ111上に載置する。続いて、表面3をレーザ光照射面として加工対象物1にレーザ光Lを照射しながら、加工対象物1とレーザ光Lとを切断予定ライン5a,5bに沿って相対移動(スキャン)させる。
【0044】
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において水平方向に進行した後、ミラー205aによって下方に反射され、アッテネータ207によって光強度が調整される。そして、レーザ光は、ミラー205bによって水平方向に反射され、ビームホモジナイザ260によって強度分布が均一化されて反射型空間光変調器203に入射する。
【0045】
反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、液晶層216に表示された変調パターンを透過し、該変調パターンに応じて変調された後、水平方向に対し斜め上方に出射される。そして、ミラー206aによって上方に反射された後、λ/2波長板228によって偏光方向が切断予定ライン5に沿う方向となるよう変更され、ミラー206bによって水平方向に反射されて4f光学系241に入射する。
【0046】
4f光学系241に入射したレーザ光Lは、集光光学系204に入射するレーザ光Lが平行光となるように波面形状が調整される。具体的には、レーザ光Lは、第1レンズ241aを透過し収束され、ミラー219によって下方へ反射され、共焦点Oを経て発散すると共に、第2レンズ241bを透過し、平行光となるように再び収束される。
【0047】
その後、レーザ光Lは、ダイクロイックミラー210,218を順次透過して集光光学系204に入射し、ステージ111上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。これにより、切断予定ライン5a,5bに沿って改質スポットが複数形成され、これらの改質スポットによって改質領域7が形成されることとなる(改質領域形成工程)。ちなみに、ここでの改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分を意味している。
【0048】
そして、エキスパンドテープを拡張することで、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断し、複数の半導体チップ(例えばメモリ、IC、発光素子、受光素子等:半導体装置)として互いに離間させる。
【0049】
ここで、本実施形態においては、上述したように、反射型空間光変調器203によって、加工対象物1内の移動方向Dに離れた複数位置にレーザ光Lが集光されるようレーザ光Lを変調している。
【0050】
具体的には、図11(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させる。併せて、加工対象物1内においてレーザ光Lの照射方向に沿う方向(つまり、厚さ方向)に互いに等しく、且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら2箇所に改質スポットS1,S1を同時に形成する。換言すると、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく、且つ切断予定ライン5のライン方向にズレた一対の位置に、一対の改質スポットS1,S1を同時形成する。
【0051】
そして、図11(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS2,S2〜改質スポットS5,S5を加工対象物1に順に形成する。これにより、切断予定ライン5に沿う方向における間隔(以下、「パルスピッチ」という)が互いに等しい改質スポットSが、加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0052】
また、本実施形態においては、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2つの改質スポットS,Sを加工対象物1に好適に同時形成するため、反射型空間光変調器203の液晶層216に回折格子パターン40(位相型回折レンズ、キノフォーム:図12参照)を変調パターンとして表示させることで、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lを複数のレーザ光Lに分光して出射している。
【0053】
図12(a)は、図11に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図であり、図12(b)は、図12(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図12中の回折格子パターン41では、暗い部分(濃い部分)は、光屈折率が低い部分を示しており、明るい部分(薄い部分)は、光屈折率が高い部分を示している(図15,17,19,21において同じ)。また、図12(b)の横軸は、位置を示し、図12(a)と紙面上下方向に対応している(図15,17,19において同じ)。
【0054】
この回折格子パターン41は、鋸刃型回折格子(いわゆる、ブレーズド回折格子)とされている。すなわち、図12(a)に示すように、回折格子パターン41は、複数の直線部41aが平行となるように並置されたパターンとされている。回折格子パターン41の各直線部41aのそれぞれでは、並置方向の一方側(図示左側)が最も暗く、一方側から他方側(図示右側)に行くに従って徐々に明るくなり、他方側が最も明るくなっている。よって、図12(b)に示すように、回折格子パターン41の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かって鋸刃状に増減している。
【0055】
このような回折格子パターン41によれば、0次レーザ光Lと1次レーザ光L(又は、−1次レーザ光L)との強度が高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に集光されることとなる。
【0056】
なお、0次レーザ光Lは、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lがあたかもそのまま反射されるようなモードのレーザ光を意味している。また、回折格子パターン41の明暗を全体的に調整することで、後述の回折効率を調整することができる(以下、同じ)。
【0057】
以上、本実施形態によれば、加工対象物1において移動方向Dに沿って離間する2箇所に、レーザ光Lを同時集光させて改質スポットS,Sを同時形成することができる。よって、通常のレーザ加工に比べ、レーザ加工に要する時間、すなわちタクトタイムの短縮化が可能となり、ランニングコストを低減することができる。
【0058】
また、上述したように、改質スポットSが形成される複数位置が、厚さ方向に互いに等しくされている。よって、レーザ光Lの相対移動速度を速めることが可能となる。なお、かかる効果は、改質領域7を内部に1列のみ形成するような例えば極薄ウェハを加工対象物1として用いる場合、特に有効である。
【0059】
ちなみに、本実施形態では、レーザ光Lを切断予定ライン5aに沿って相対移動させつつ照射する場合(いわゆる、1ch加工)と、切断予定ライン5bに沿って相対移動させつつ照射する場合(いわゆる、2ch加工)との間で、改質スポットSのパルスピッチ(加工ピッチ)を変えることも可能である。例えば、加工対象物1の結晶方位に基づいて1,2ch加工の間でパルスピッチを変化させることで、加工対象物1の結晶性に起因する分断し易さが好適に考慮されることとなる。この1,2ch加工の間でのパルスピッチ変化に関しては、以下の実施形態においても同様である。
【0060】
また、上述したように、反射型空間光変調器203を用いてレーザ光Lを多点集光させていることから、レーザ光Lを容易に変調することが可能となり、さらに、加工マージンの狭い加工対象物1に対しても対応可能となっている。
【0061】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0062】
本実施形態は、加工対象物1内にパルスピッチが異なるよう複数の改質スポットSが形成される点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図13(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら2箇所に、上記S1,S1のパルスピッチよりも拡いパルスピッチを有する改質スポットS21,S21を同時に形成する。
【0063】
そして、図13(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS22,S22〜改質スポットS25,S25を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに異なる複数の改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成され、その形成密度が粗い改質領域7が形成されることとなる。
【0064】
また、本実施形態おいて反射型空間光変調器203の液晶層216に表示させる回折格子パターンは、上記回折格子パターン41よりも各直線部41aの幅(つまり、格子間隔)が狭い点で上記第1実施形態と異なっている。これは、回折格子パターンの格子間隔を狭くすることで、同時形成する改質スポットS,Sの間隔を拡げることができ、格子間隔を拡げることで、同時形成する改質スポットS,Sの間隔を狭くすることができるためである。
【0065】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0066】
また、本実施形態では、上述したように、パルスピッチが互いに異なるよう複数の改質スポットSを形成している。このように、パルスピッチを拡大・縮小すると、改質領域7の形成密度を調整することが可能となる。かかる効果は、例えばボイド等の加工不具合が発生しないよう改質領域7の形成密度を調整する場合に、特に有効である。
【0067】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0068】
本実施形態は、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3つの改質スポットS,S,Sを加工対象物1に同時形成する点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図14(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら3箇所に、改質スポットS51,S51,S51を同時に形成する。
【0069】
そして、図14(b)〜(c)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS52,S52,S52〜改質スポットS55,S55,S55を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに等しい改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0070】
図15(a)は、図14に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図、図15(b)は、図15(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図15に示すように、本実施形態においては、液晶層216に回折格子パターン42を表示させている。
【0071】
この回折格子パターン42は、2値型回折格子とされている。すなわち、図15(a)に示すように、回折格子パターン42は、複数の直線部42aが平行となるように並置されたパターンとされている。そして、複数の直線部42aは、並置方向の一方側(図示左側)から他方側(図示右側)に向かう順に、明暗が交互に繰り返されるようになっている。よって、図15(b)に示すように、回折格子パターン42の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かって矩形波状(パルス波状)に増減している。
【0072】
このような回折格子パターン42によれば、0次レーザ光Lと1次レーザ光Lと−1次レーザ光Lとの強度が高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3箇所に集光されることとなる。
【0073】
図16は、レーザ光の強度波形を示す図である。図中において、上図はレーザ光Lの断面模式図であり、下図は、レーザ光Lの断面中心位置での強度波形を示す図である。ここで、図16に示すように、液晶層216に表示された回折格子パターン42の屈折率波形(図15(b)参照)に対してレーザ光Lの強度波形が同じ(近似)形状であれば、分光された3つのレーザ光Lの強度は、互いに等しくなり易い。しかし、図16(b)示すように、表示された回折格子パターン42の屈折率波形に対しレーザ光Lの強度波形が異なる形状の場合(例えば、レーザ光Lが2次曲線状の強度波形を有する場合)、この回折格子パターン42にレーザ光Lを入射させると、分光された各レーザ光Lの強度が互いに異なってしまうことがある。
【0074】
また、回折格子パターン42を表示した場合、分光された各レーザ光Lの強度は、理論的には互いに等しくなるが、デバイスの特性により実際には等しくない場合がある。特に3箇所に分岐されたレーザ光Lのうち端に当たる2点の強度が等しくない場合等が観測される。回折格子パターン42で光屈折率を変えた場合には、端にあたる2点の強度に対し2点に挟まれた中央の点の強度を調整するだけであり、2点の強度差を改善することは困難である。
【0075】
この点、本実施形態では、レーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を液晶層216に表示させ、分光された3つのレーザ光Lの強度を互いに等しくしている。具体的には、例えば反復フーリエ法を用いてレーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を作成し、又は、レーザ光Lの強度波形に対応して回折格子パターン40を修正し、これを液晶層216に表示させることで、各レーザ光Lの強度を互いに等しくしている。
【0076】
すなわち、レーザ光Lの波形が図16(a)に示すような矩形波状の場合には、上記回折格子パターン42を液晶層216に表示させる。一方、レーザ光Lの波形が図16(b)に示すような2次曲線状の場合には、図17に示すような回折格子パターン43を液晶層216に表示させる。回折格子パターン43は、図17(b)に示すように、隣接する直線部43a,43aの境界がぼけている(グラデーションが付けられている)点で上記回折格子パターン42と異なっている。よって、図17(b)に示すように、回折格子パターン43は、上記回折格子パターン42の屈折率に対し、立上がり時及びピーク時の角部が滑らかとなる屈折率を有している。
【0077】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0078】
また、本実施形態では、上述したように、レーザ光Lの強度波形に対応した回折格子パターン40を液晶層216に表示させており、これにより、分光された3つのレーザ光の強度が互いに等しくすることが可能となっている。なお、このように回折格子パターン40をレーザ光Lの強度波形に対応させる点は、上記及び下記の実施形態でも同様に実施することができる。なお、本実施形態は、レーザ光Lを3つに分光するため、レーザ光Lのエネルギに余裕があるときに特に有効なものである。
【0079】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0080】
本実施形態は、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4つの改質スポットS,S,S,Sを加工対象物1に同時形成する点で上記第1実施形態と異なっている。具体的には、図18(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4箇所に、レーザ光Lを同時に集光させる。これにより、これら4箇所に、改質スポットS61,S61,S61,S61を同時に形成する。
【0081】
そして、図18(b)〜(c)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS62,S62,S62,S62〜改質スポットS65,S65,S65,S65を順に形成する。これにより、パルスピッチが互いに等しい改質スポットSが加工対象物1内の同一面内に形成されることとなる。
【0082】
図19(a)は、図18に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図であり、図19(b)は、図19(a)の回折格子パターンにおける光屈折率を示すグラフである。図19に示すように、本実施形態においては、液晶層216に回折格子パターン44を表示させている。
【0083】
この回折格子パターン44は、SIN型回折格子とされている。すなわち、図19(a)に示すように、回折格子パターン44にあっては、並置方向の一方側(図示左側)から他方側(図示右側)に行くに従って徐々に明るくなるのと徐々に暗くなるのとが交互に繰り返される点で上記回折格子パターン41と異なっている。そして、各直線部43aの並置方向中央部で、最も明るく(暗く)なっている。よって、図19(b)に示すように、回折格子パターン44の光屈折率は、並置方向の一方側から他方側に向かってSIN波状に増減している。
【0084】
このような回折格子パターン42によれば、高次のレーザ光Lまで強度が比較的高くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた4箇所に集光されることとなる。
【0085】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0086】
また、本実施形態では、例えば回折効率を適宜調整すると共に、分光された各レーザ光Lの少なくとも1つのエネルギをゼロとしたりカットしたりすることで、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた5箇所以上に改質スポットSを形成する場合もある。なお、本実施形態は、レーザ光Lを4つ又はそれ以上に分光するため、レーザ光Lのエネルギに余裕があるときに特に有効なものである。
【0087】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態の説明では、上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0088】
本実施形態は、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なる位置にレーザ光Lが同時集光されて改質スポットS,Sが同時形成される点で、上記第1実施形態と異なっている。
【0089】
具体的には、図20(a)に示すように、レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に、レーザ光Lを同時集光させて一対の改質スポットS31a,S31bを同時形成する。
【0090】
ここでは、加工対象物1の表面3側の改質スポットS31aが裏面21側の改質スポットS31bに対し移動方向後方に位置するように、レーザ光Lを同時集光させている。つまり、レーザ光Lを、加工対象物1において深い位置の集光点が浅い位置の集光点よりも先行するよう切断予定ライン5に沿って移動させている。
【0091】
そして、図20(b)〜(d)に示すように、レーザ光Lを引き続き照射しつつ相対移動させ、厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた改質スポットS32a,S32b〜改質スポットS35a,S35bを順に形成する。これにより、1つの切断予定ライン5について厚さ方向に2列の改質領域7が、加工対象物1内に1スキャンで形成されることとなる。
【0092】
図21は、図20に示すレーザ加工の際における回折格子パターンの一例を示す図である。図21に示すように、本実施形態においては、厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2つの改質スポットS,Sを加工対象物1に同時形成するため、液晶層216に回折格子パターン45を表示させている。
【0093】
回折格子パターン45は、ゾーンプレート型とされている。この回折格子パターン45は、あたかも複数の凹レンズ又は凸レンズが幾重にも重なって存在するように機能するものであり、中心円部45aと、この中心円部45aに同心円状の複数の円環部45bを有している。中心円部45a及び円環部45bは、中心から径方向外側に行くに従って明暗が交互に繰り返されるように構成されている。また、中心円部45aは、改質スポットS,Sの互いの位置関係に対応する方向(図示では右方向)に所定量ずれている。円環部45bの間隔は、径方向外側に行くに従って徐々に小さくなっている。
【0094】
このような回折格子パターン45によれば、高次のレーザ光Lほど強度が弱くなるようにレーザ光Lが分光されて、厚さ方向に対し裏面21側に行くに連れて移動方向前方に傾斜した方向に離間した(換言すると、厚さ方向に離間すると共に、表面3側の集光点が裏面21側の集光点に対し移動方向後方に位置するよう移動方向Dに離間した)2箇所に集光されることとなる。
【0095】
以上、本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0096】
また、本実施形態では、上述したように、加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所にレーザ光Lを同時集光させることで、1つの切断予定ライン5について厚さ方向に2列の改質領域7を1スキャンで形成している。よって、1つの切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを移動させる回数(いわゆる、折り返し回数)を低減させることが可能となる。例えば、加工対象物1内に厚さ方向8列の改質領域7を形成する場合、4スキャンで足りることになる。
【0097】
また、本実施形態では、上述したように、一対の改質スポットS,Sを同時形成する際、加工対象物1の表面3側の改質スポットS31a〜S35aほど移動方向後方に位置すうようにレーザ光Lを同時集光させている。よって、裏面21側の位置への改質スポットS31b〜S35bの形成に、表面3側の改質スポットS31a〜S35aによる悪影響(例えば、レーザ光Lの吸収、散乱、集光度の低下)が及ぶのを好適に抑制することができ、改質領域7を精度よく形成することが可能となる。
【0098】
なお、本実施形態において、1つの切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを往復移動させる場合、表面3側に形成される改質スポットS31a〜S35aを移動方向後方に位置さるため、往路と復路との間で反射型空間光変調器203における変調パターンが反転される(切り替えられる)ことになる。
【0099】
図22は、図20に示すレーザ加工方法の他の例を説明するための図である。図22(a)〜(d)に示すように、本実施形態では、一対の改質スポットS,Sを加工対象物1に同時形成する際、表面3側の改質スポットS41a〜45aが裏面21側の改質スポットS41b〜45bに対し移動方向前方に位置するように、レーザ光Lを同時集光させてもよい。この場合、上記回折格子パターン45に対し中心円部45aがずれる方向と反対方向にずれている点で異なる回折格子パターンが液晶層216に表示される。
【0100】
ちなみに、本実施形態では、パルスピッチが互いに等しくなるよう改質スポットSを形成したが、上記第2実施形態と同様に、パルスピッチが互いに異なるよう改質スポットSを形成しても勿論よい。
【0101】
また、回折格子パターン45では、その中心を大きくずらしても加工精度に悪影響が及び難い。また、回折格子パターン45の格子間隔を狭く又は拡くすることで、同時形成する改質スポットS,Sの傾斜方向の間隔が拡がる又は狭まることになる。また、本実施形態では、回折格子パターン45の中心円部45aをずらしているが、これに代えて、反射型空間光変調器203に入射するレーザ光Lを、その光軸の交差方向にずらす場合もある。
【0102】
次に、上記レーザ加工を行う際の各種設定について説明する。まず、上記第3実施形態と同様なレーザ加工を行う(つまり、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた3つの改質スポットS,S,Sを加工対象物1に同時形成する)場合を例にして、レーザ光Lの集光について説明する。
【0103】
図23,24は、レーザ光の集光を説明するための概略図である。図中においては、集光光学系204を理想化して示している。図23に示すように、同時に集光させる集光点の間隔71は、焦点距離72及びレーザ光Lの入射角θによって設定される。但し、入射角θは、下記の関係を有している。
入射角θ=回折角×縮小倍率
縮小倍率=4f光学系241の第1レンズ241aの焦点距離/第2レンズ24
1bの焦点距離
回折角 =arcsin(レーザ光Lの波長[m]/回折格子パターン40の回折格子
間隔[m])
【0104】
また、レーザ光Lを加工対象物1の外部に集光する場合と、内部に集光する場合とでは、焦点距離73,74が異なるものの入射角θ1,θ2も異なることから、これら相違が互いに打ち消し合うため、結果として、集光点の間隔75,76は互いに等しくなる。
【0105】
また、図24に示すように、同時形成された改質スポットS,S,Sと、これより前段(又は後段)で同時形成された改質スポットS,S,Sとの間隔77は、レーザ光Lの繰返し周波数及び加工速度によって設定される。間隔71,77は、互いに独立して調整可能であるため、所望の間隔(等間隔でも不等間隔でも)に設定可能である。ちなみに、入射角θの値が極めて小さいことから、分光された各レーザ光Lは、全て垂直入射として近似することができる。
【0106】
このようなレーザ光Lの集光の特性をふまえると、レーザ加工の設定について、次のことがいえる。すなわち、回折格子パターン40の形状の設定は、反射型空間光変調器203で分光された各レーザ光Lの強度分布全てに影響する。回折効率は、分光された各レーザ光Lのうち0次レーザ光Lとその他のレーザ光Lとの強度比に影響する。ステージ速度、レーザ光Lの繰返し周波数、及び回折格子パターン40の格子間隔は、加工速度及びパルスピッチ(加工ピッチ)に影響する。
【0107】
次に、以上に説明したレーザ加工方法によるレーザ加工の全体手順の例を、図25〜27に示すフローチャートを参照しつつ説明する。ここでの改質領域形成工程では、一例として、上記第1〜4実施形態と同様に、厚さ方向に互いに等しく且つ移動方向Dに沿って離れた複数の改質スポットSを加工対象物1に形成している。また、加工対象物1において表面3をレーザ光照射面としている。
【0108】
加工対象物1が薄く、加工対象物1の内部に厚さ方向に1列の改質領域7を形成する場合には、図25のフローチャートに示すように、まず、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定する(S11)。ここでは、等間隔のパルスピッチとなるように設定する場合や、任意の不等間隔のパルスピッチとなるように設定する場合がある。
【0109】
続いて、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S12)。ここでは、分光された各レーザ光Lの強度が等しくなるような、又は任意の比率となるような形状及び回折効率としている。なお、上記S11,S12については、表面観察ユニット211で各レーザ光Lが所望位置に集光するか否か等を確認し、適宜再設定を行う。続いて、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S13)。
【0110】
他方、加工対象物1が厚く、加工対象物1の内部に厚さ方向に複数列の改質領域7を形成する場合には、図26のフローチャートに示すように、まず、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定する(S21)。続いて、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S22)。
【0111】
続いて、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を、最も裏面側の加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S23)。そして、上記S23と同様に、他の加工位置に対し、裏面21側から表面3側の順で改質領域形成工程を繰り返し実施する(S24)。
【0112】
或いは、加工対象物1の内部に厚さ方向に複数列の改質領域7を形成する場合には、図27のフローチャートに示すように、まず、反射型空間光変調器203において回折格子パターン40を非表示とする(S31)。そして、ステージ111を相対移動させ、各レーザ光Lの集光点の厚さ方向位置を最も裏面21側の加工位置に合わせ、改質領域形成工程を実施する(S32)。
【0113】
続いて、回折格子パターン40の間隔を設定すると共に、加工速度を設定し(S33)、回折格子パターン40の形状を設定すると共に、回折効率を設定する(S34)。そして、上記S32と同様に、他の加工位置に対し、裏面21側から表面3側の順で改質領域形成工程を繰り返し実施する(S35)。
【0114】
図27に示すレーザ加工では、上述したように、最も裏面21側の加工位置に改質領域形成工程を実施する場合、回折格子パターン40で分光されていない(つまり、高いエネルギを有する)レーザ光Lを集光させ、改質スポットSを1つずつ形成して改質領域7を形成している。これにより、最も裏面21側の改質領域7から亀裂を好適に延在させることができる。その結果、裏面21側が切断の基点側となることから、加工対象物1を精度よく切断するためである。
【0115】
なお、表面3側も切断の基点側となるが、表面3側の加工位置にレーザ光Lを集光させる場合においては、加工対象物1によるレーザ光Lの吸収が少ないことから、レーザ光Lが高いエネルギを維持し易いため、回折格子パターン40で分光させても、形成された改質領域7から亀裂を好適に延在させることができる。
【0116】
ちなみに、図26,27に示すように複数列の改質領域を形成する場合、改質領域形成工程毎に、回折効率及びパルスピッチを設定し加工してもよい。
【0117】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0118】
例えば、上記実施形態では、移動方向Dに沿って離れた2箇所にレーザ光Lを同時集光させて改質スポットS(改質領域7)を同時形成したが、レーザ光Lのエネルギ上可能であれば、移動方向Dに沿って離れた3箇所以上の箇所にレーザ光Lを同時集光させて改質スポットSを同時形成してもよい。この場合、厚さ方向に互いに等しい一対の改質スポットと、互いに異なる一対の改質スポットと、を含む3つ以上の改質スポットが同時形成されるように(上記実施形態を組み合わせてなるように)、レーザ光Lを加工対象物1に同時集光させてもよい。
【0119】
また、上記実施形態では、ビームホモジナイザ260を備え、このビームホモジナイザ260で強度分布を均一化したレーザ光Lを反射型空間光変調器203に入射させたが、これに代えて、ビームエキスパンダを備え、このビームエキスパンダでビーム径を拡大したレーザ光Lを反射型空間光変調器203に入射させてもよい。また、改質領域7を形成する際におけるレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されず、加工対象物1の裏面21であってもよい。
【0120】
なお、切断予定ライン5に沿って形成され互いに一番近い(隣接する)改質スポットであって、先のレーザショットで形成される改質スポットSと後のレーザショットで形成される改質スポットSとについては、互いに重ならないような繰返し周波数(発振周波数)でレーザ光Lを出力して形成することで、その加工速度、加工精度を向上させることができるため、より望ましい。
【0121】
また、上記実施形態では、反射型空間光変調器203としてLCOS−SLMを用いたが、MEMS(メムス)−SLM、又はDMD(デフォーマブルミラーデバイス)等を用いてもよい。
【0122】
さらに、上記実施形態では、反射型空間光変調器203を用いたが、透過型の空間光変調器でもよい。空間光変調器としては、液晶セルタイプ、LCDタイプのものが挙げられる。
【0123】
また、上記実施形態の反射型空間光変調器203は誘電体多層膜ミラーを備えていたが、シリコン基板の画素電極の反射を利用してもよい。
【0124】
また、上記実施形態では、4f光学系241を用いているが、波面形状の変化が問題ならない場合等には、4f光学系241を省いてもよい。
【0125】
また、複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光Lの収差が補正されるような変調パターンを反射型空間光変調器203にさらに与えることで、切断に一層適した改質領域7を形成することが可能となる。
【0126】
また、分光された複数のレーザ光Lは、それぞれのエネルギが任意の値とされてもよく、さらには、その少なくとも1つのエネルギがゼロ又はカットされてもよい。カットする場合には、例えば、透明なガラスに黒点を入れたものが、カットしたいレーザ光Lの集光ポイントに配置される。
【0127】
また、回折格子パターン40は、限定されるものではなく、移動方向Dに沿って離れた複数位置にレーザ光を集光可能なものであれば、様々なパターンを採用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1…加工対象物(ウェハ)、3…表面、7…改質領域、21…裏面、L…レーザ光(パルスレーザ光)、S…改質スポット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有し、複数のチップに切断されるウェハであって、
切断の起点となる改質領域が内部に形成されており、
前記改質領域は、パルスレーザ光の照射により形成される複数の改質スポットにより形成され、
前記複数の改質スポットは、前記ウェハの内部における前記表面から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有しており、
前記表面又は前記裏面に露出する亀裂が前記改質スポットから形成されていること、を特徴とするウェハ。
【請求項2】
前記ウェハには、機能素子がマトリックス状に複数形成され、
前記改質領域は、前記ウェハの厚さ方向から見て、隣り合う前記機能素子間を通るように格子状に延在すること、を特徴とする請求項1記載のウェハ。
【請求項1】
表面及び裏面を有し、複数のチップに切断されるウェハであって、
切断の起点となる改質領域が内部に形成されており、
前記改質領域は、パルスレーザ光の照射により形成される複数の改質スポットにより形成され、
前記複数の改質スポットは、前記ウェハの内部における前記表面から所定距離の位置に形成されていると共に、少なくとも2つの互いに異なるピッチを有しており、
前記表面又は前記裏面に露出する亀裂が前記改質スポットから形成されていること、を特徴とするウェハ。
【請求項2】
前記ウェハには、機能素子がマトリックス状に複数形成され、
前記改質領域は、前記ウェハの厚さ方向から見て、隣り合う前記機能素子間を通るように格子状に延在すること、を特徴とする請求項1記載のウェハ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図18】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図21】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図18】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図21】
【図23】
【公開番号】特開2011−244000(P2011−244000A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163535(P2011−163535)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【分割の表示】特願2010−68684(P2010−68684)の分割
【原出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【分割の表示】特願2010−68684(P2010−68684)の分割
【原出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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