説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】気密性及び排気応答性に優れるとともに効率的なエアバッグ及びエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ1は、エアバッグ1の表面に形成された開口部11と、開口部11と連通するように配置された突出部12と、突出部12に形成されたベントホール13と、一端が突出部12に接続され他端がリテーナ3に接続されたストラップ14と、ストラップ14をエアバッグ1の内部に案内するスリット部15と、を有し、開口部11は、車両の中心部側にのみ形成されており、ベントホール13は、ストラップ14で突出部12を引っ張った時に突出部12とエアバッグ1とが重なり合う領域に配置されており、ストラップ14は、エアバッグ1の膨張展開時における乗員と反対側に向かって突出部12を引っ張るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ及びエアバッグ装置に関し、特に、エアバッグのベントホールの開閉手段に特徴を有するエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、衝突時や急減速時等の緊急時にエアバッグを車内で膨張展開させて乗員に生ずる衝撃を吸収するためのエアバッグ装置が搭載されることが一般的になっている。かかるエアバッグ装置には、ステアリングに内装された運転席用エアバッグ装置、インストルメントパネルに内装された助手席用エアバッグ装置、車両側面部又はシートに内装されたサイドエアバッグ装置、ドア上部に内装されたカーテンエアバッグ装置、乗員の膝部に対応したニーエアバッグ装置、フード下に内装された歩行者用エアバッグ装置等、種々のタイプが開発・採用されている。
【0003】
これらのエアバッグ装置は、一般に、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、を有する。また、エアバッグを形成する外殻には、ベントホールと呼ばれる排気口が形成されている場合もある。このベントホールは、エアバッグの内圧が高くなり過ぎないようにしたり、乗員がエアバッグに接触した際にエアバッグ内のガスを排気して衝撃を緩和したりする機能を有する。
【0004】
かかるベントホールが形成されたエアバッグ装置では、エアバッグの膨張展開中にベントホールからガスが排気されてしまうため圧力損失が大きいという問題があった。かかる問題点を解決するためのエアバッグ装置には、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されたものが既に提案されている。
【0005】
特許文献1に記載されたエアバッグ装置は、エアバッグの表面に形成されたベントホールを封止可能なパッチ部材と、該パッチ部材の端部をリテーナに固定する固定手段と、該固定手段を解除して前記パッチ部材を解放するスクイブと、を有し、前記エアバッグの膨張展開初期は前記ベントホールを前記パッチ部材で封止し、前記エアバッグの内圧を下げたいときに前記スクイブを作動させて前記パッチ部材を解放し、前記ベントホールからガスを放出させるようにしたものである。また、特許文献1には、前記パッチ部材をチューブ状に形成し、該チューブを前記エアバッグ内に引き込んで前記固定手段に固定するようにしたものも開示されている。
【0006】
特許文献2に記載されたエアバッグ装置は、エアバッグの一部に外部に突出した部分を形成する凸部と、該凸部に形成されたベントホールと、一端が前記凸部に接続され他端が前記エアバッグの構成部品又は取付部品に接続されたストラップと、を備え、前記ベントホールは、前記ストラップで前記凸部を引っ張った時に、前記凸部と前記エアバッグとが重なり合う領域に配置されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6648371号明細書
【特許文献2】特開2008−308139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されたエアバッグ装置では、パッチ部材とベントホールとの間の気密性を維持することが難しいという問題があった。また、パッチ部材をチューブ状にした場合には、チューブがエアバッグの外部に完全に開放されるまでガスを放出することができないため、排気応答性が鈍く、スクイブを作動させるタイミングの制御が難しいという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載されたエアバッグ装置は、本発明の基礎となるエアバッグ装置に関するものであり、より効率的にしたいという要望があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、気密性及び排気応答性に優れるとともに効率的なエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、リテーナに固定された状態で、通常時は折り畳まれて車両の内部に収納されており、緊急時に車室内に膨張展開されるエアバッグであって、前記エアバッグの表面に形成された開口部と、該開口部と連通するように配置された突出部と、該突出部に形成されたベントホールと、一端が前記突出部に接続され他端が前記リテーナに着脱可能に接続されたストラップと、該ストラップを前記エアバッグの内部に案内するスリット部と、を有し、前記開口部は、前記車両の中心部側にのみ形成されており、前記ベントホールは、前記ストラップで前記突出部を引っ張った時に前記突出部と前記エアバッグとが重なり合う領域に配置されており、前記ストラップは、前記エアバッグの膨張展開時における乗員と反対側に向かって前記突出部を引っ張るように構成されており、前記乗員が大柄又は体重が重い場合に前記ストラップを保持して前記ベントホールを閉状態とし、前記乗員が小柄又は体重が軽い場合に前記ストラップを解放して前記ベントホールを開状態とした、ことを特徴とするエアバッグが提供される。
【0012】
また、本発明によれば、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、前記エアバッグを被覆するエアバッグカバーと、を有するエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記エアバッグの表面に形成された開口部と、該開口部と連通するように配置された突出部と、該突出部に形成されたベントホールと、一端が前記突出部に接続され他端が前記リテーナに着脱可能に接続されたストラップと、該ストラップを前記エアバッグの内部に案内するスリット部と、を有し、前記開口部は、前記車両の中心部側にのみ形成されており、前記ベントホールは、前記ストラップで前記突出部を引っ張った時に前記突出部と前記エアバッグとが重なり合う領域に配置されており、前記ストラップは、前記エアバッグの膨張展開時における乗員と反対側に向かって前記突出部を引っ張るように構成されており、前記乗員が大柄又は体重が重い場合に前記ストラップを保持して前記ベントホールを閉状態とし、前記乗員が小柄又は体重が軽い場合に前記ストラップを解放して前記ベントホールを開状態とした、ことを特徴とするエアバッグ装置が提供される。
【0013】
上述したエアバッグ及びエアバッグ装置において、前記突出部は、略三角形の第一面及び第二面と、該第一面及び該第二面の対峙する辺を連結する連結部と、を有する一枚の基布により構成されており、前記第一面又は前記第二面のいずれかに前記ベントホールが形成され、前記連結部に前記開口部と連通する連通口が形成され、前記連結部を中心に折り曲げて前記第一面と前記第二面との外周部を縫合し、前記連結部を前記連通口と前記開口部とが一致するように縫合することによって形成されていてもよい。
【0014】
前記連通口及び前記開口部の開口面積は、前記ベントホールの開口面積の1.2倍以上であってもよい。また、前記連通口及び前記開口部は略矩形を有していてもよい。また、前記第一面及び前記第二面は、略正三角形の基布により構成されていてもよい。さらに、前記突出部は、前記エアバッグを構成する基布の内側から前記開口部の位置に縫合され、縫合された前記第一面及び前記第二面を前記開口部から外側に引き出すことによって形成されていてもよい。
【0015】
前記エアバッグは、前記車両の中心側及び車体側に形成された常開型ベントホールを有していてもよい。
【0016】
前記エアバッグ装置において、前記リテーナは、前記ストラップを外部に案内する挿通口と、該挿通口の外部で前記ストラップを解放可能に保持する保持手段と、を有していてもよい。また、前記保持手段は、乗員が大柄又は体重が重い場合に前記ストラップを保持し、乗員が小柄又は体重が軽い場合に前記ストラップを解放するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係るエアバッグ及びエアバッグ装置によれば、突出部を車両の中心部側にのみ配置したことにより、突出部が起立しようとした際に車体とエアバッグとの間に突出部が挟まれてしまうことがない。また、ベントホールを突出部に形成したことにより、突出部及びエアバッグの表面に押し付けることによってベントホールの密閉性を向上させることができる。また、ストラップを着脱可能にリテーナに接続することにより、任意のタイミングでストラップを解放することができ、任意のタイミングで突出部を起立させることができ、ベントホールを開放させることができる。特に、乗員が大柄又は体重が重い場合にベントホールを閉状態とし、乗員が小柄又は体重が軽い場合にベントホールを開状態とすることにより、乗員の体型に適したエアバッグの内圧に調整することができる。したがって、気密性及び排気応答性に優れるとともに効率的なエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することができる。
【0018】
第一面、第二面及び連結部を有する基布により突出部を構成することによって、容易に突出部を形成することができ、製造効率を向上させることができる。
【0019】
連通口及び開口部をベントホールの開口面積よりも大きく形成することにより、突出部にガスを流入させやすくすることができ、排気効率を向上させることができる。
【0020】
連通口及び開口部を略矩形に形成することにより、開口部の両端部における開口幅を大きく形成することができ、突出部にガスを流入させやすくすることができ、排気効率を向上させることができる。
【0021】
第一面及び第二面を略正三角形に形成することにより、突出部に均等に張力が付与され、突出部の強度、気密性、自立性、排気効率等を向上させることができる。
【0022】
突出部をエアバッグの内側に縫合して開口部から外部に引き出すことにより、容易に突出部を形成することができ、製造効率を向上させることができる。
【0023】
常開型ベントホールを形成することにより、エアバッグに衝突した際におけるエアバッグ内のガスをベントホールと常開型ベントホールとの両方から外部に排気することができ、排気効率を向上させることができ、効果的に乗員の衝撃を緩和することができる。
【0024】
リテーナの外部にストラップを解放可能に保持する保持手段を配置したことにより、エアバッグの折り畳み体をリテーナに収納した後からでも、ストラップを保持手段に取り付けることができ、エアバッグモジュールの組立を容易にすることができる。また、保持手段の一部がエアバッグの内部に飛散したり、保持手段の高熱によるエアバッグの溶解を抑制したりすることができる。
【0025】
保持手段によるストラップの保持及び解放を、任意のタイミングで制御できるようにしたことにより、乗員の体型や体重に応じてエアバッグの内圧を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るエアバッグ装置の実施形態を示す全体構成図である。
【図2】図1に示した突出部の説明図であり、(A)はエアバッグの上面図、(B)は突出部の開状態の初期段階、(C)は開状態の完了状態、を示している。
【図3】図1に示した突出部の基布構成を示す平面展開図である。
【図4】図1に示した突出部の縫合方法を示す図であり、(A)は補強パッチ縫合工程、(B)は連通口縫合工程、(C)は連結部縫合工程、(D)は外周部縫合工程、を示している。
【図5】図1に示したエアバッグ装置の配置図である。
【図6】図1に示したエアバッグ装置の作用を示す図であり、(A)は乗員が大柄な場合、(B)は乗員が小柄な場合、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図1〜図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係るエアバッグ装置の実施形態を示す全体構成図である。また、図2は、図1に示した突出部の説明図であり、(A)はエアバッグの上面図、(B)は突出部の開状態の初期段階、(C)は開状態の完了状態、を示している。
【0028】
本発明の実施形態に係るエアバッグ装置10は、図1及び図2に示したように、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグ1と、エアバッグ1にガスを供給するインフレータ2と、エアバッグ1及びインフレータ2を固定するリテーナ3と、エアバッグ1を被覆するエアバッグカバー4と、を有し、エアバッグ1は、エアバッグ1の表面に形成された開口部11と、開口部11と連通するように配置された突出部12と、突出部12に形成されたベントホール13と、一端が突出部12に接続され他端がリテーナ3に着脱可能に接続されたストラップ14と、ストラップ14をエアバッグ1の内部に案内するスリット部15と、を有し、開口部11は、車両の中心部側にのみ形成されており、ベントホール13は、ストラップ14で突出部12を引っ張った時に突出部12とエアバッグ1とが重なり合う領域に配置されており、ストラップ14は、エアバッグ1の膨張展開時における乗員と反対側に向かって突出部12を引っ張るように構成されており、乗員が大柄又は体重が重い場合にストラップ14を保持してベントホール13を閉状態とし、乗員が小柄又は体重が軽い場合にストラップ14を解放してベントホール13を開状態とするように構成されている。
【0029】
図1に示したエアバッグ装置10は、助手席用エアバッグ装置であり、助手席の前面に配置されたインストルメントパネル5に固定されることによって格納される。エアバッグ1は、インフレータ2の作動により内部にガスが供給されると膨張展開を開始し、エアバッグカバー4の扉部41を突き破って車室内に放出され、フロントウィンドウWに接触しながら車室内の乗員の前方に膨張展開される。
【0030】
前記インフレータ2は、エアバッグ1に供給されるガスを発生させるガス発生器であり、例えば、略円板形状の外形をなしている。図1では、ディスク型のインフレータ2の場合を図示しているが、略円柱形状の外形をなしたシリンダ型のインフレータ2を使用してもよい。インフレータ2は、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、加速度センサ等の計測値に基づいて制御される。ECUが車両の衝突や急減速を感知又は予測すると、インフレータ2はECUからの点火電流により点火され、インフレータ2の内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させ、エアバッグ1にガスを供給する。
【0031】
前記リテーナ3は、例えば、エアバッグカバー4の脚部42に形成された係合孔にフック31を引っ掛けることによってエアバッグカバー4に支持される。また、リテーナ3は、固定金具32によりインストルメントパネル5内の車内構造物に固定される。さらに、リテーナ3は、ストラップ14を外部に案内する挿通口33と、挿通口33の外部でストラップ14を解放可能に保持する保持手段34と、を有する。保持手段34は、ストラップ14を任意のタイミングで解放可能に保持する手段であれば、どのような構成であってもよい。保持手段34は、例えば、スクイブ等を使用した構成を有し、ECUからの指令によりストラップ14を保持したり解放したり切断したりする。また、リテーナ3の外部に保持手段34を配置することにより、エアバッグ1の折り畳み体をリテーナ3に収納した後からでも、ストラップ14を保持手段34に取り付けることができ、エアバッグモジュールの組立を容易にすることができる。さらに、保持手段34の一部がエアバッグ1の内部に飛散したり、保持手段34の高熱によるエアバッグ1の溶解を抑制したりすることができる。
【0032】
前記エアバッグ1は、例えば、膨張展開時におけるエアバッグ1の側面部に配置される一対のサイドパネル1aと、エアバッグ1の中央部に配置されるとともに一対のサイドパネル1aを連結するセンターパネル1bと、により構成される。かかるエアバッグ1は、三つの基布により構成されることから、3ピース構造を有する。センターパネル1bは、エアバッグ1の膨張展開時に乗員と接触する面を構成する。サイドパネル1aには、常開型ベントホール16が形成されている。すなわち、エアバッグ1は、車両の中心側及び車体側に形成された常開型ベントホール16を有する。かかる常開型ベントホール16を形成することにより、エアバッグ1に衝突した際におけるエアバッグ1内のガスをベントホール13と常開型ベントホール16との両方から外部に排気することができ、排気効率を向上させることができ、効果的に乗員の衝撃を緩和することができる。
【0033】
前記開口部11は、エアバッグ1の膨張展開時に車両の中心側に配置されるサイドパネル1aに形成されており、エアバッグ1の膨張展開時に車体側(ドア側)に配置されるサイドパネル1aには形成されていない。かかる開口部11には、突出部12が縫合されており、突出部12はエアバッグ1(サイドパネル1a)の表面で起立可能に構成されている。
【0034】
また、突出部12には紐状のストラップ14が接続されており、エアバッグ1の膨張展開時にストラップ14を保持したり解放したりすることによって、突出部12をエアバッグ1の表面に密着させたり、起立させたりすることができる。ストラップ14は、エアバッグ1に形成されたスリット部15からエアバッグ1の内部に引き込まれており、突出部12と保持手段34との間で張力を生じさせることができるように繋いでいる。ストラップ14は、例えば、エアバッグ1と同様の素材である基布により構成される。スリット部15は、切り込み部であってもよいし、スロット状の開口部であってもよい。
【0035】
図2(A)に示したように、保持手段34でストラップ14を保持している場合には、突出部12はエアバッグ1の表面に押し付けられる。この押し付けられた部分にベントホール13が形成されている。したがって、ストラップ14を保持した場合には、ベントホール13は閉状態になっており、外部にガスを排気しないように構成されている。
【0036】
保持手段34を作動させてストラップ14を解放した場合には、図2(B)に示したように、ストラップ14の張力が低下することから、突出部12の内部に流入するガスにより突出部12はエアバッグ1の表面上で起立しようとする。したがって、ベントホール13からガスが徐々に排気される。最終的に、図2(C)に示したように、突出部12は、エアバッグ1の表面上で起立し、ベントホール13は完全に開放され、効率よくガスを外部に排気する。このとき、ベントホール13は、乗員と反対側(フロントウィンドウW側)に形成されていることから、ベントホール13から排気されるガスが乗員に吹きかかることがない。
【0037】
ここで、突出部12の構成について、図3を参照しつつ説明する。図3は、図1に示した突出部の基布構成を示す平面展開図である。
【0038】
突出部12は、例えば、図3に示したように、略正三角形の第一面121及び第二面122と、第一面121及び第二面122の対峙する辺を連結する連結部123と、を有する一枚の基布により構成されており、第一面121にベントホール13が形成され、連結部123に開口部11と連通する連通口124が形成され、連結部123の中心線Lに沿って折り曲げて第一面121と第二面122との外周部を縫合し、連結部123を連通口124と開口部11とが一致するように縫合することによって形成される。
【0039】
第一面121及び第二面122は、それぞれ約60度の頂角φ及び底角θを有し、同じ大きさに形成されている。また、その頂部は丸く形成されていてもよい。第一面121及び第二面122を同じ大きさの略正三角形の基布により構成することにより、突出部12に均等に張力が付与され、突出部12の強度、気密性、自立性、排気効率等を向上させることができる。勿論、第一面121及び第二面122は、略二等辺三角形の基布により構成されていてもよいし、第一面121及び第二面122の大きさが異なるように構成されていてもよい。また、第一面121及び第二面122の頂角φを形成する二辺の外周部には縫合線s1が配置されている。突出部12は、第一面121及び第二面122を重ね合わせて縫合線s1に沿って縫合されることによって袋体を形成する。
【0040】
連結部123は、第一面121及び第二面122を連結するとともに、連通口124がエアバッグ1の開口部11と連通するようにエアバッグ1のサイドパネル1aに縫合される部分である。このように、突出部12を一枚の基布により構成することにより、突出部12の部品点数を低減することができ、縫合等の製造も容易に行うことができる。
【0041】
連通口124は、実質的に開口部11と同じ形状を有しており、連通口124及び開口部11は略矩形を有している。連通口124及び開口部11を略矩形に形成することにより、連通口124及び開口部11の両端部における開口幅xを大きく形成することができ、突出部12にガスを流入させやすくすることができ、突出部12に流入するガスのチョークを低減することができ、排気効率を向上させることができる。
【0042】
また、連通口124及び開口部11の開口面積は、例えば、ベントホール13の開口面積の1.2倍以上の大きさを有する。このように、連通口124及び開口部11をベントホール13の開口面積よりも大きく形成することにより、突出部12にガスを流入させやすくすることができ、突出部12に流入するガスのチョークを効果的に低減することができ、排気効率を向上させることができる。連通口124は、開口部11と一致するように配置され、連通口124を囲う縫合線s2に沿って、連結部123とサイドパネル1aとが縫合される。
【0043】
また、連結部123の両端部は、矩形の切欠部125を有し、切欠部125は、一対の側辺部125aと、底辺部125bと、を有する。底辺部125bの長さは、一つの側辺部125aの長さdの2倍の大きさ(2d)に形成されている。したがって、側辺部125aと底辺部125bとの角部を通る折り曲げ線Mに沿って連結部123を折り曲げたときに、一対の側辺部125aと底辺部125bとが一致することとなる。また、切欠部125の外周に形成される縫合線s3も同様に一致することとなり、縫合線s3は直線状に配置される。このように連結部123の両端部を折り曲げて縫合線s3を直線状にすることにより、突出部12の端部を容易に縫合して封止することができる。
【0044】
続いて、突出部12の縫合方法について、図4を参照しつつ説明する。ここで、図4は、図1に示した突出部の縫合方法を示す図であり、(A)は補強パッチ縫合工程、(B)は連通口縫合工程、(C)は連結部縫合工程、(D)は外周部縫合工程、である。なお、各図において、二点鎖線は縫合線を示している。
【0045】
図4(A)は、補強パッチ縫合工程を示している。まず、開口部11を有する側のサイドパネル1aを用意し、エアバッグ1の内面を形成する側を表にして平面展開する。この段階では、サイドパネル1aには開口部11が形成されていなくてもよい。次に、開口部11よりも大きな形状の補強パッチ126を用意し、開口部11を覆うことができる位置に配置して、縫合線s4に沿ってサイドパネル1aに縫合する。補強パッチ126は、負荷のかかり易い突出部12の付根部分を補強するための部品である。補強パッチ126の中央部における開口部11が配置される部分には、複数のピン孔126aが形成されている。ピン孔126aには、補強パッチ126や突出部12の縫合時に位置決めを行うピンが挿通される。
【0046】
図4(B)は、連通口縫合工程を示している。図3に示した突出部12を構成する基布を用意し、開口部11に連通口124を一致させて縫合線s2に沿って縫合する。このとき、図示しないが、突出部12を構成する基布に連通口124を形成せずに、図4(A)に示したピン孔126aと一致する複数のピン孔を形成しておき、ピン孔を一致させて固定することによって形成予定の開口部11及び連通口124が一致するようにしておく。そして、縫合線s2に沿って、サイドパネル1a、補強パッチ126及び突出部12を構成する基布を縫合した後、サイドパネル1a、補強パッチ126及び突出部12をカットし、開口部11及び連通口124を形成するようにしてもよい。なお、サイドパネル1a、補強パッチ126及び突出部12をカットする工程は、縫合前に予め施しておいてもよく、他の位置決めピンや位置決めピン以外の方法でサイドパネル1a、補強パッチ126及び突出部12を構成する基布を固定して縫合するようにしてもよい。
【0047】
図4(C)は、連結部縫合工程を示している。図4(B)に示したように、連通口124の外周を縫合線s2でサイドパネル1aに縫合した後、連結部123の両端部を折り曲げ線Mに沿って図の矢印方向に折り曲げる。それによって図3に示した連結部123の切欠部125における側辺部125aと底辺部125bとを一致させる。そして、図4(C)に示したように、連結部123の両端部(側辺部125a及び底辺部125b)を直線状の縫合線s3に沿って縫合することによって、突出部12の両端部を封止する。なお、図4(C)において、説明の都合上、第一面121及び第二面122の一部については図を省略している。
【0048】
図4(D)は、外周部縫合工程を示している。図3に示した第一面121及び第二面122を重ね合わせて、縫合線s1に沿って縫合する。かかる縫合によって、突出部12の外周部が封止され、袋体が形成される。このとき、突出部12の頂部にストラップ14の一端を挟み込み、一緒に縫合することにより、ストラップ14を突出部12に容易に接続することができる。なお、ストラップ14は、第一面121又は第二面122のいずれかの平面部に縫合して接続するようにしてもよいし、突出部12の頂部以外の部分に挟み込んで縫合するようにしてもよい。
【0049】
図4(D)に示した状態は、サイドパネル1aの内面側に突出部12が形成された状態である。そこで、最後に、開口部11からサイドパネル1aの外面側に引き出す必要がある。すなわち、突出部12は、エアバッグ1を構成する基布(サイドパネル1a)の内側から開口部11の位置に縫合され、縫合された第一面121及び第二面122を開口部11から外側に引き出すことによって形成される。かかる工程により、突出部12は、図1に示したように、エアバッグ1の外部に配置される。なお、上述した突出部12の縫合方法は単なる一例であり、サイドパネル1aの外面側に突出部12を縫合して裏返す工程を省略するようにしてもよい。
【0050】
次に、上述したエアバッグ装置10の配置について、図5を参照しつつ説明する。ここで、図5は、図1に示したエアバッグ装置の配置図である。なお、図1に示した実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0051】
図5に示したように、図1に示したエアバッグ装置10は、車両20の助手席201側に配置されている。具体的には、エアバッグ装置10は、車両20の助手席201に着座した乗員202の前方に位置するインストルメントパネル5に配置され格納される。そして、エアバッグ1に形成された突出部12は、車両20の中心線L側にのみ配置されており、車体側(例えば、ドア203側)には配置されていない。このように、突出部12を車両20の中心部側にのみ配置することによって、突出部12の起立に十分な空間を容易に確保することができ、突出部12が車体とエアバッグ1との間に挟まれないようにすることができる。また、図示していないが、同様の趣旨により、運転席204及び後部座席205におけるエアバッグ装置においても、車両20の中心部側にのみ配置される突出部12を形成するようにしてもよい。なお、図5に示した車両20は、左ハンドルの車両であるが、本実施形態に係るエアバッグ装置10は、右ハンドルの車両にも適用することができる。
【0052】
次に、上述したエアバッグ装置10の作用について、図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、図1に示したエアバッグ装置の作用を示す図であり、(A)は乗員が大柄な場合、(B)は乗員が小柄な場合、を示している。なお、図1に示した実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0053】
図6(A)に示したように、乗員202が大柄な場合(例えば、成人男性等)には、一般に体重が重く、車両20の急減速時に生じる慣性力が大きい。したがって、エアバッグ1の内圧を高くして乗員202を受け止めることができるようにしておく必要がある。そこで、保持手段34によりストラップ14を保持した状態を維持し、突出部12を閉状態のままにしておく。突出部12を閉状態にした場合、インフレータ2からエアバッグ1に供給されたガスは、常開型ベントホール16(図1参照)からガスが排気されるのみであり、排気量を低減することができる。したがって、エアバッグ1の内圧を容易に高くすることができる。
【0054】
図6(B)に示したように、乗員202が小柄な場合(例えば、成人女性や子供等)には、一般に体重が軽く、車両20の急減速時に生じる慣性力が小さい。したがって、エアバッグ1の内圧を低くして乗員202をソフトに受け止めることができるようにしておく必要がある。そこで、保持手段34によりストラップ14を解放し、突出部12を開状態にしておく。突出部12を開状態にした場合、インフレータ2からエアバッグ1に供給されたガスは、常開型ベントホール16(図1参照)及び突出部12に形成されたベントホール13の両方からガスが排気され、排気量を増加させることができる。したがって、エアバッグ1の内圧を容易に低くすることができる。
【0055】
乗員202が大柄であるか小柄であるかは、例えば、ECU(電子制御ユニット)206に接続されたシート荷重センサ207により容易に判断することができる。シート荷重センサ207は、例えば、乗員が着座する助手席201のシート内に配置される。また、シート荷重センサ207に替えて、シート位置センサや車内に配置されたCCDカメラ等を利用した画像処理手段によって乗員202の体型を判断するようにしてもよい。
【0056】
そして、乗員202が助手席201に着座した段階で、シート荷重センサ207により乗員202が大柄であるか小柄であるか又は体重が重いか軽いかについて判断し、その結果を乗員体格情報としてECU206に記憶しておく。乗員体格情報は、例えば、体重の閾値を設定しておき、閾値よりも重い場合は大柄の体型として認識し、閾値よりも軽い場合は小柄の体型として認識する情報である。ECU206は、車両20の衝突や急減速を感知又は予測したときに、かかる乗員体格情報に基づいて保持手段34を制御し、ストラップ14の保持又は解放を制御する。すなわち、保持手段34は、乗員202が大柄又は体重が重い場合にストラップ14を保持し、乗員202が小柄又は体重が軽い場合にストラップ14を解放するように構成されている。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、エアバッグ1は3ピース構造以外の構造(例えば、2ピース構造や4ピース以上の構造)であってもよい、エアバッグ1の内部にガスの流れを規制する整流手段を配置してもよい、エアバッグ1の形状を規制するテザーを配置してもよい、保持手段34をリテーナの内部に配置してもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1…エアバッグ
1a…サイドパネル
1b…センターパネル
2…インフレータ
3…リテーナ
4…エアバッグカバー
5…インストルメントパネル
10…エアバッグ装置
11…開口部
12…突出部
13…ベントホール
14…ストラップ
15…スリット部
16…常開型ベントホール
20…車両
31…フック
32…固定金具
33…挿通口
34…保持手段
41…扉部
42…脚部
121…第一面
122…第二面
123…連結部
124…連通口
125…切欠部
125a…側辺部
125b…底辺部
126…補強パッチ
126a…ピン孔
201…助手席
202…乗員
203…ドア
204…運転席
205…後部座席
206…ECU(電子制御ユニット)
207…シート荷重センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リテーナに固定された状態で、通常時は折り畳まれて車両の内部に収納されており、緊急時に車室内に膨張展開されるエアバッグであって、
前記エアバッグの表面に形成された開口部と、該開口部と連通するように配置された突出部と、該突出部に形成されたベントホールと、一端が前記突出部に接続され他端が前記リテーナに着脱可能に接続されたストラップと、該ストラップを前記エアバッグの内部に案内するスリット部と、を有し、
前記開口部は、前記車両の中心部側にのみ形成されており、前記ベントホールは、前記ストラップで前記突出部を引っ張った時に前記突出部と前記エアバッグとが重なり合う領域に配置されており、前記ストラップは、前記エアバッグの膨張展開時における乗員と反対側に向かって前記突出部を引っ張るように構成されており、
前記乗員が大柄又は体重が重い場合に前記ストラップを保持して前記ベントホールを閉状態とし、前記乗員が小柄又は体重が軽い場合に前記ストラップを解放して前記ベントホールを開状態とした、ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記突出部は、略三角形の第一面及び第二面と、該第一面及び該第二面の対峙する辺を連結する連結部と、を有する一枚の基布により構成されており、前記第一面又は前記第二面のいずれかに前記ベントホールが形成され、前記連結部に前記開口部と連通する連通口が形成され、前記連結部を中心に折り曲げて前記第一面と前記第二面との外周部を縫合し、前記連結部を前記連通口と前記開口部とが一致するように縫合することによって形成される、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
前記連通口及び前記開口部の開口面積は、前記ベントホールの開口面積の1.2倍以上である、ことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
前記連通口及び前記開口部は略矩形を有する、ことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項5】
前記第一面及び前記第二面は、略正三角形の基布により構成されている、ことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項6】
前記突出部は、前記エアバッグを構成する基布の内側から前記開口部の位置に縫合され、縫合された前記第一面及び前記第二面を前記開口部から外側に引き出すことによって形成される、ことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項7】
前記エアバッグは、前記車両の中心側及び車体側に形成された常開型ベントホールを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項8】
通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、前記エアバッグを被覆するエアバッグカバーと、を有するエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、請求項1〜請求項7のいずれかに記載されたエアバッグである、ことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項9】
前記リテーナは、前記ストラップを外部に案内する挿通口と、該挿通口の外部で前記ストラップを解放可能に保持する保持手段と、を有することを特徴とする請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記保持手段は、乗員が大柄又は体重が重い場合に前記ストラップを保持し、乗員が小柄又は体重が軽い場合に前記ストラップを解放するように構成されている、ことを特徴とする請求項9に記載のエアバッグ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171408(P2012−171408A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33368(P2011−33368)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】