説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグにより、乗員の腰部の前方への移動量と腰部へ加わる荷重を操作して、腰部に加わる衝撃を減少させる。
【解決手段】エアバッグ装置1は、エアバッグ10とインフレータ2とを備えている。インフレータ2は、ガスを発生してエアバッグ10を膨張展開させる。エアバッグ10は、シートの座部内に配置されて着座した乗員の下方で膨張する。エアバッグ装置1は、エアバッグ10により座部の座面を隆起させて乗員の腰部の前方への移動を抑制する。エアバッグ10は、気室14を区画する上面基布11と下面基布12、及び、気室内接合部3を有する。気室内接合部3は、気室14内の後方部で上面基布11と下面基布12を接合して、気室14の膨張を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの座部内でエアバッグを膨張させて、着座した乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、シートに着座した乗員をシートベルトにより拘束して、緊急時や衝突時に乗員を保護する。ところが、車両に前から衝撃が加わったときには、乗員の腰部が、シートベルトのラップベルトを潜り抜けるようにしてラップベルトから外れることがある。その結果、乗員がシートの座部とラップベルトの間を通って前方に移動する現象(サブマリン現象)が発生することがある。
【0003】
これに対し、シートの座部内にエアバッグ装置(シートインバッグ装置)を搭載して、エアバッグ装置により乗員を保護している。このエアバッグ装置は、インフレータが発生するガスによりエアバッグを乗員の下方で膨張させ、エアバッグにより乗員をシートに拘束して、サブマリン現象を防止する。また、従来、エアバッグに前側膨張部と後側膨張部を設け、前側膨張部を後側膨張部よりも高く膨張させる乗員保護装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この乗員保護装置は、前側膨張部により乗員の膝部を大腿部よりも高く押し上げて、腰部の前方移動を抑制する。しかしながら、この乗員保護装置のエアバッグでは、乗員の腰部側の端部が厚く膨張するため、乗員の腰部は、エアバッグの端部に引っ掛かるようにして前方移動が急停止する。そのため、乗員の腰部に大きな荷重が加えられて、腰部における衝撃が大きくなる虞がある。
【0005】
また、従来、エアバッグに互いに連結された複数の膨張部を形成して、膨張時のエアバッグの移動と乗員の移動を抑制した乗員保護装置も知られている(特許文献2参照)。
ところが、この従来の乗員保護装置では、エアバッグの展開形状が一様になるため、乗員の所定箇所を高く押し上げるのは難しい。また、乗員の腰部側でエアバッグの端部が厚く膨張するため、特許文献1と同様の問題が生じる。腰部に加わる衝撃を緩和するためには、腰部の移動と荷重を操作する必要があるが、従来のエアバッグでは、それらを操作できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−149285号公報
【特許文献2】特開2007−168599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、エアバッグにより、乗員にサブマリン現象が生じるのを確実に抑制しつつ、乗員の腰部の前方への移動量と腰部へ加わる荷重を操作できるようにして、腰部に加わる衝撃を減少させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両用シートの座部内に配置されて着座した乗員の下方で膨張するエアバッグと、ガスを発生してエアバッグを膨張展開させるインフレータとを備え、エアバッグにより座部の座面を隆起させて乗員の腰部の前方への移動を抑制するエアバッグ装置であって、エアバッグが、気室を区画する上面基布と下面基布、及び、気室内の後方部で上面基布と下面基布を接合して気室の膨張を規制する気室内接合部を有するエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エアバッグにより、乗員にサブマリン現象が生じるのを確実に抑制しつつ、乗員の腰部の前方への移動量と腰部へ加わる荷重を操作して、腰部に加わる衝撃を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のエアバッグ装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すエアバッグ装置のX−X線矢視断面図である。
【図3】本実施形態のエアバッグの製造手順を示す図である。
【図4】エアバッグ装置をシートの座部に搭載した状態を示す断面図である。
【図5】座部内のエアバッグの一部を示す断面図である。
【図6】膨張展開後のエアバッグを模式的に示す斜視図である。
【図7】膨張展開したエアバッグを側方から見た図である。
【図8】座部内でエアバッグが膨張展開した状態を示す断面図である。
【図9】内部にディフューザを設けたエアバッグを示す図である。
【図10】他の実施形態のエアバッグを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態のエアバッグ装置は、各種の車両用シート(以下、シートという)に搭載されるシートインバッグ装置である。エアバッグ装置は、シートの座部内でエアバッグを膨張展開させて、エアバッグによりシートに着座した乗員を保護する。その際、膨張するエアバッグにより、乗員の下方で座部の座面を隆起させて、乗員の腰部が車両内で前方へ移動するのを抑制する。
【0012】
図1は、本実施形態のエアバッグ装置の概略構成を示す斜視図である。図1では、エアバッグ10を斜め上方から見て示すとともに、エアバッグ10を透視して内部構成を点線で示している。また、図2は、図1に示すエアバッグ装置1のX−X線矢視断面図である。
なお、図1、図2では、エアバッグ10を、膨張前、かつ、シートへの搭載前に、平面上に置いた状態で示している。また、図1、図2(以下の各図でも同様)では、上方と下方が車両における上方と下方に対応し、左方と右方が車両における前方と後方に対応する。本発明では、車両における前方と後方を単に前方と後方といい、車両における前後方向を単に前後方向という。
【0013】
エアバッグ装置1は、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、エアバッグ10内に配置されたインフレータ2とを備えている。インフレータ2は、シリンダタイプのガス発生装置であり、車両緊急時や衝撃検知時に、エアバッグ10内でガスを発生する。エアバッグ10は、インフレータ2から供給されるガスにより、所定形状に折り畳まれた状態から膨張展開する。また、インフレータ2は、エアバッグ10内の前方側に収納されて、車幅方向に沿って配置される。インフレータ2は、一端部に複数のガス噴出し口(図示せず)を有し、そこからガスを放射状に噴き出す。
【0014】
エアバッグ10は、平面視矩形状に形成された袋体であり、インフレータ2を内部に収納した状態でシートの座部内に配置される。エアバッグ10は、インフレータ2が発生するガスにより、シートに着座した乗員の下方で膨張して座部内で展開する。また、エアバッグ10は、上面基布11、下面基布12、及び、一対の側面基布13を有する。各基布11、12、13は、互いに連結されて、内部に膨張可能な気室14を区画する。上面基布11と下面基布12は、矩形状の布状部材であり、それぞれエアバッグ10の上面と下面を構成する。また、下面基布12は、上面基布11と平面視同形状に形成され、上面基布11と対向して配置される。エアバッグ10は、上面基布11がシートの座面(乗員)側に配置され、下面基布12がシートの底部側に配置される。
【0015】
一対の側面基布13は、上面基布11と下面基布12の間の両側部の一部に配置されて側部の一部を区画する。また、一対の側面基布13は、その形状に合わせてエアバッグ10の一部を厚さ方向に膨張させることで、気室14及びエアバッグ10の膨張形状と各部の膨張高さを規定する。これにより、エアバッグ10は、設定された側面視形状と厚さ(上面基布11と下面基布12間の間隔)に膨張する。その際、一対の側面基布13は、エアバッグ10の一部を他の部分よりも厚く(高く)膨張させて、エアバッグ10を部分的に高く膨張展開させる。
【0016】
ここでは、側面基布13は、三角形状の布状部材からなる。その上面基布11に接する部分(上縁)は、頂部を挟んで前後方向に傾斜し、かつ、後方側よりも前方側が急勾配な傾斜状に形成されている。即ち、側面基布13の上縁は、頂部から前方と後方に向かって互いに逆方向に傾斜して延びる2つの傾斜部からなる。また、側面基布13の上縁は、前後方向に平行な線に対する角度が、後方の傾斜部よりも前方の傾斜部で大きくなっている。一対の側面基布13は、上面基布11と下面基布12の間で前方側に配置され、平面状の下面基布12から上方に向かって突出して設けられている。その結果、上面基布11は、側面基布13の配置範囲が上方に持ち上げられる。上面基布11は、側面基布13により立体状をなし、側面基布13の頂部で屈曲して、頂部を挟む両面が逆方向に傾斜する傾斜面になっている。側面基布13の配置範囲外では、上面基布11は、下面基布12の上に重ね合わせて配置される。
【0017】
エアバッグ10の前方側の所定部分には、基布11、12、13により、起立部(立体部)15が形成される。起立部15は、上面基布11、下面基布12、及び、側面基布13により側面視三角形状に区画されて、車幅方向に延びる三角柱状に形成される。また、エアバッグ10の後方側には、上面基布11と下面基布12により、平面視矩形状の平面部16が形成される。起立部15と平面部16の内部空間は、エアバッグ10内で連通して、気室14を構成する。
【0018】
エアバッグ10がシート内で膨張すると、起立部15と平面部16が、座部内の前方と後方で異なる形状に膨張する。その際、正常に着座した乗員の下方で、起立部15は、大腿骨の前方側で起立するように大きく(厚く)膨張し、平面部16は、大腿骨の後方側で小さく(薄く)膨張する。起立部15と平面部16は、座部内での膨張位置に対応して、エアバッグ10の前後の各範囲に形成される。また、側面基布13は、起立部15の膨張形状に応じた形状に形成され、起立部15の形成範囲に合わせてエアバッグ10の側部に配置される。
【0019】
本実施形態のエアバッグ10は、気室14内の所定位置に、気室内接合部3を有する。気室内接合部3は、気室14の上方への膨張を規制する規制手段であり、気室14内の後方部で、上面基布11と下面基布12を縫製や接着により接合して形成されている。また、気室内接合部3は、気室14の前後方向の後端から中央部までの間で、気室14内の車幅方向中央部に配置されて、気室14の後方部の膨張を規制する。ここでは、気室内接合部3は、平面部16に形成されて、平面部16の最も膨張する中央部の膨張を抑制する。その結果、平面部16がより薄く、かつ、より均等な高さで膨張して、平面部16と起立部15の膨張高さの差が大きくなる。エアバッグ10は、気室内接合部3により、後方部の膨張が規制されて、前方部が相対的に高く膨張する。なお、エアバッグ10と気室14の後方部とは、気室14の後端から前後方向の所定位置までの部分のことであり、例えば、気室14の後端から前後方向の中央部までの部分である。
【0020】
また、この気室内接合部3は、上面基布11と下面基布12を縫製した縫製部からなり、両基布11、12を連続して縫製して形成されている。更に、気室内接合部3は、上面基布11と下面基布12を所定形状(例えば、環状や矩形状)に接合して、気室14内に非膨張部3Aを形成する。非膨張部3Aは、周囲を囲む気室内接合部3により、気室14から区画されて、気室14から内部へのガスの流入が妨げられる。その結果、非膨張部3Aは、膨張する気室14内で膨張せずに、周囲の気室14の膨張を抑制する。ここでは、気室14の後方部(平面部16)の中央で、上面基布11と下面基布12を1周又は複数周縫製することで、気室内接合部3が、所定径の環状に形成されている。
【0021】
次に、エアバッグ10の製造手順について説明する。
エアバッグ10は、例えば樹脂を被覆した布等の素材を裁断して、所定形状の基布を1又は複数形成し、それらを組み合わせて製造される。その際、縫製や接着により基布を気密状に接合して、基布間に膨張可能な気室14を区画することで、エアバッグ10が袋状に形成される。
【0022】
図3A〜Dは、エアバッグ10の製造手順を示す図であり、各製造段階のエアバッグ10を順に示している。また、図3では、図3A1〜D1が図1に対応する斜視図、図3A2〜D2が図2に対応する断面図、図3D3が図3D1の平面図である。
本実施形態では、図示のように、上面基布11、下面基布12、及び、一対の側面基布13が一体の基布からなる。エアバッグ10は、一体に形成された基布を1枚又は複数枚重ねて所定位置で折り曲げた後、基布を縫製して製造される。
【0023】
具体的には、エアバッグ10(図3A参照)の基布は、上面基布11と下面基布12を構成する矩形状部と、一対の側面基布13を構成する一対の三角形状片とからなる。また、一対の三角形状片は、矩形状部の両側縁の一端部に形成されている。このように、エアバッグ10は、一対の側面基布13が、上面基布11又は下面基布12(ここでは下面基布12)の側縁に一体に形成されている。エアバッグ10の製造時には、まず、基布を台の上に広げて、一対の側面基布13を上方に折り曲げる(図3A1の矢印S)。次に、上面基布11(図3B参照)を下面基布12に向かって折り返し(図3Bの矢印T)、上面基布11の縁部を、下面基布12と一対の側面基布13の縁部に重ね合わせるように配置する(図3C参照)。
【0024】
続いて、上面基布11と下面基布12(図3D参照)、及び、上面基布11と側面基布13を外縁接合部17で接合する。外縁接合部17は、エアバッグ10の内外を区画して気室14の形状を規定する接合部であり、気室14の外縁に沿って、基布11、12、13同士を1列又は複数列縫製して形成される。基布11、12、13を外縁接合部17で連結して、その内部に気室14を区画することで、起立部15と平面部16からなるエアバッグ10を形成する。次に、平面部16で、上記のように上面基布11と下面基布12を接合して気室内接合部3を形成して、後方部に気室内接合部3を有するエアバッグ10を製造する。
【0025】
また、一対の側面基布13間の部分で、上面基布11と下面基布12の端部同士を部分的に接合せずに、エアバッグ10の前方に開口部18を設ける。開口部18から、インフレータ2(図1、図2参照)が気室14内の所定位置(ここでは起立部15)に配置される。エアバッグ10は、開口部18の部分が折り畳まれて開口部18が封鎖される。その状態で、エアバッグ10は、インフレータ2とともにシートの座部内に配置されて固定部材により座部に固定される。
【0026】
図4は、エアバッグ装置1をシートの座部に搭載した状態を示す断面図である。また、図4では、着座した乗員50も模式的に示している。
シート30は、図示のように、一般的な乗用車用の座席であり、乗員50が着座する座部(シートクッション)40と、乗員50の背面のシートバック31と、乗員50の頭部51を受けるヘッドレスト32とからなる。また、座部40は、表面を覆うカバー41と、カバー41内で乗員50の下方の全体に配置されたシートパッド(クッション)42と、シートパッド42を下方から支えるシートパン43とを有する。シートパン43には、前方側に、エアバッグ装置1の一部を収容する凹状の収容部44が形成されている。エアバッグ装置1は、収容部44内と、収容部44の後方に配置される。
【0027】
エアバッグ10は、インフレータ2を収納した状態でシートパン43の上面に載せられる。インフレータ2は、固定部材(図示せず)により、収容部44に設けられた固定部に固定される。これにより、インフレータ2とエアバッグ10の前端が収容部44内に取り付けられる。また、エアバッグ10は、シートパン43の上面に平らに広げられて、後端が樹脂クリップ等の固定部材(図示せず)によりシートパン43に固定される。これにより、エアバッグ10は、広げられた状態でシートパン43に取り付けられ、座部40内で、着座した乗員50の下方の所定範囲に配置される。また、エアバッグ10は、上面基布11と下面基布12とが密着するように所定形状に折り畳まれて、シートパン43とシートパッド42との間に配置される。
【0028】
図5は、座部40内のエアバッグ10の一部を示す断面図である。図5では、収容部44付近(図4のY範囲)のエアバッグ10を拡大して模式的に示す。
エアバッグ10の上面基布11は、図示のように、座部40内で、シートパン43上の下面基布12に重ねて配置される。また、一対の側面基布13間の部分に対応する上面基布12の余剰部分(起立部15)が折り重ねて配置される。その際、上面基布11の余剰部分は、前方側(図5A参照)、又は、後方側(図5B参照)に向けて平らに折り畳まれる。このように、エアバッグ10は、上面基布11と下面基布12とを重ね合わせて、一対の側面基布13間の部分を前方側又は後方側に折り畳んで、座部40内に配置される。
【0029】
エアバッグ装置1は、車両に搭載された後、車両の緊急時等にインフレータ2を作動させてガスを発生させ、エアバッグ10の気室14内にガスを供給する。このガスにより、エアバッグ10を、その折り畳み形状を解消させつつ座部40内で膨張させて、シートパン43から上方に向かって膨張展開させる。
【0030】
図6は、膨張展開後のエアバッグ10を模式的に示す斜視図である。また、図6では、シートパン43も示している。
図示のように、ガスの供給により、上面基布11と下面基布12とが離れて、エアバッグ10の気室14が膨張する。エアバッグ10の膨張時には、まず、インフレータ2を収納する起立部15にガスが供給されて起立部15が膨張を開始する。次いで、起立部15から平面部16に向けてガスが供給されて、起立部15と平面部16の全体が膨張する。膨張後は、上面基布11と下面基布12が直接接合された平面部16に対し、一対の側面基布13が設けられた起立部15で、上面基布11と下面基布12との間隔が広くなる。また、エアバッグ10が、側面基布13の形状に合わせて膨張する。
【0031】
これにより、一対の側面基布13が設けられた起立部15が平面部16よりも高く膨張して、エアバッグ10の起立部15が上方に起立する。また、エアバッグ10は、一対の側面基布13の形状に応じて、側面基布13の頂部の部分が最も高くなり、かつ、後方から前方に向かって次第に厚くなるように膨張展開する。その際、エアバッグ10は、後方部で、気室内接合部3により気室14の膨張が規制される。
【0032】
図7は、膨張展開したエアバッグ10を側方から見た図であり、図7Aが図6のV−V線矢視断面図、図7Bが図6のW方向から見た側面図である。また、図7Cは、気室内接合部3があるエアバッグ10(図7Cでは実線で示す)と、気室内接合部3がないエアバッグ60(図7Cでは点線で示す)を比較した側面図である。
気室内接合部3は、図7Aに示すように、気室14内で膨張せずに、上面基布11と下面基布12を接合された状態に維持する。また、気室内接合部3は、周囲の気室14の膨張を抑制して、エアバッグ10の後方部を薄く膨張させる。気室内接合部3により、エアバッグ10の平面部16は、膨張が抑制されて膨張後の高さが低くなる。一方、エアバッグ10の起立部15は、シートパン43から上方に高く膨張する。
【0033】
エアバッグ10は、図7Bに示すように、気室内接合部3により後方部の膨張が規制されつつ、シートパン43上で所定形状に膨張する。その際、エアバッグ10は、図7Cに示すように、気室内接合部3のないエアバッグ60に比べて、後方部で、全体的に薄く膨張して高さが低くなる。また、エアバッグ10は、後方部と他の部分(前方部)の高さの差が相対的に大きくなるように膨張展開する。エアバッグ10の後方部は、前後方向の後端から前方部に向かって徐々に厚くなり、厚さが連続的に変化する。
【0034】
図8は、座部40内でエアバッグ10が膨張展開した状態を示す断面図である。また、図8では、座部40に着座した乗員50も模式的に示している。
エアバッグ10は、図示のように、座部40内で、シートパン43から上方に膨張展開して、シートパッド42を上方に押し上げる。シートパッド42は、エアバッグ10の膨張形状に合わせて変形して、エアバッグ10の最も高い頂部を頂点に折れ曲がる。また、シートパッド42は、エアバッグ10により、前方側で高く、後方側で低く押し上げられる。ここでは、シートパッド42は、エアバッグ10により、乗員50の膝部52側で高く、腰部53側で低くなるように押し上げられて、高さが連続して変化する。
【0035】
エアバッグ装置1は、エアバッグ10により、シートパッド42を押し上げて、乗員50の下方で座部40の座面を隆起させる。この座面により、シートベルト(図示せず)によりシート30に拘束された乗員50の移動を妨げる。その際、乗員50の膝部52が、腰部53や大腿部54よりも高く押し上げられて、腰部53が、シートバック31と座部40の間の角部に押し込まれる。また、乗員50は、後方に押されてシートバック31に押し付けられる。前方へ移動する乗員50には、エアバッグ10から反力も作用する。エアバッグ10と座面は、乗員50の骨盤を拘束して、骨盤の前方移動を押さえる。以上の結果、腰部53の前方への移動が制限される。車両に前方から衝撃が加わったときには、腰部53がシートベルトのラップベルトから外れるのが抑制されるため、乗員50がラップベルトを潜り抜けるサブマリン現象が防止される。このように、着座した乗員50は、膨張展開したエアバッグ10によりシート30に拘束されて保護される。
【0036】
エアバッグ10が膨張するときに、気室14は、後方部に設けられた気室内接合部3により膨張が規制される。その結果、エアバッグ10の後方部は、厚く膨張する前方部に対して薄く膨張する。前方へ移動する乗員50は、薄いエアバッグ10の後方部に引っ掛かることなく乗り上げて、厚い前方部に押し付けられるようにして移動する。その間に、乗員50の腰部53は、移動速度が低下して、前方への移動を停止する。エアバッグ10は、サブマリン現象を発生させることなく、腰部53をある程度移動させながら徐々に停止させることで、腰部53に加わる荷重と衝撃を低減させる。
【0037】
以上説明したエアバッグ装置1では、気室14内の後方部に気室内接合部3を設けて気室14の膨張を規制するため、エアバッグ10の後方部の膨張を規制できる。これにより、乗員50の膝部52を、腰部53や大腿部54よりも確実に高く押し上げることができる。また、エアバッグ10により、腰部53を上記のように停止させることで、腰部53の前方への移動量と腰部53へ加わる荷重を操作できる。更に、腰部53の急停止を防止し、かつ、腰部53を徐々に停止させることで、腰部53の衝撃を減少させることができる。
【0038】
気室内接合部3は、上面基布11と下面基布12を接合するだけで形成できるため、エアバッグ10の部品数が増加せず、エアバッグ10の構造も単純になる。気室内接合部3を、上面基布11と下面基布12を縫製した縫製部から構成することで、高い接合強度を確保しつつ、気室内接合部3を容易に形成できる。上面基布11と下面基布12を連続して縫製するときには、気室内接合部3を短時間で形成できるとともに、気室内接合部3の強度のバラツキを低減できる。従って、エアバッグ10の製造の手間やコストを削減できる。また、エアバッグ10の後方部の膨張を簡易な構成で規制できる。
【0039】
このように、本実施形態によれば、エアバッグ10により、乗員50にサブマリン現象が生じるのを確実に抑制して、乗員50をシート30に拘束できる。同時に、乗員50の腰部53の前方への移動量と腰部53へ加わる荷重を操作して、腰部53に加わる衝撃を減少できるため、乗員50を安全に保護できる。エアバッグ10の後方部の膨張を規制することで、大腿部54の付け根や腰部53に付加される負担を大幅に低減させることもできる。気室内接合部3の位置、形状、又は、数を変更することで、エアバッグ10の後方部を各種の形状に膨張させることができる。これに伴い、腰部53の移動量と腰部53に加わる荷重を容易に調整できる。また、エアバッグ10を、シート30の状態や乗員50の拘束条件の変化に柔軟に対応させて適宜膨張させることができる。
【0040】
上面基布11と下面基布12の両側部の一部に、一対の側面基布13を配置するときには、側面基布13により、膨張時における気室14の全体形状を規定することができる。そのため、エアバッグ10を設定された各種形状に膨張展開させることができる。一対の側面基布13の形状や位置を変更することで、座部40内でエアバッグ10を種々の状態に膨張させることもできる。また、エアバッグ10の膨張時の形状と高さを比較的自由に設計できるため、エアバッグ10を座部40内で適切に膨張させることができる。更に、エアバッグ10の各部を、それぞれの機能や目的に応じて膨張させることができる。例えば、エアバッグ10内で、乗員50の膝部52を押し上げる部分の容量を増加させることで、膝部52をより高く押し上げることができる。エアバッグ10の後方部を薄くして、乗員50の腰部53に加わる荷重と衝撃をより緩和することもできる。
【0041】
従って、一対の側面基布13により、シート30の状態によらずに、乗員50の膝部52を確実に押し上げて、サブマリン現象の発生を確実に抑制できる。また、乗員50に対するエアバッグ装置1の保護機能を高めて、エアバッグ10により乗員50をシート30に確実に拘束できる。腰部53の移動量と腰部53へ加わる荷重を適宜調整して、腰部53の衝撃を一層減少させることもできる。
【0042】
側面基布13を、上面基布11と下面基布12の間で前方側に配置すると、起立部15が乗員50の膝部52に近い位置に配置される。その結果、起立部15により、膝部52が正確に押し上げられて、サブマリン現象の発生がより確実に防止される。側面基布13の上縁を、後方側よりも前方側で急勾配となるように形成するときには、エアバッグ10を、大腿部54(図8参照)の傾斜に合わせて膨張させることができる。これにより、傾斜して変形する座部40の座面により、大腿部54を無理なく傾斜させつつ押し上げて、腰部53の拘束を円滑、確実に行える。エアバッグ10の一対の側面基布13間の部分は、前方側又は後方側に折り畳んで配置するのが好ましい。これにより、エアバッグ10の起立部15が、上方に向けて立ち上がるようにして円滑に膨張するため、乗員50の膝部52を迅速に押し上げることができる。
【0043】
ここで、気室内接合部3は、前後方向や車幅方向の複数箇所に形成する等して、気室14内の後方部に2つ以上配置してもよい。ただし、気室内接合部3を、気室14の前後方向の後端から中央部までの間で車幅方向中央部に配置すれば、気室14の膨張を規制する充分な効果が得られる。同時に、気室内接合部3を簡単に形成できるため、エアバッグ10の製造の手間と時間を削減できる。気室内接合部3により、気室14内に非膨張部3Aを形成するときには、気室14の膨張を規制する効果をより向上できる。また、気室内接合部3は、例えば、基布11、12を直線状に、又は、ジグザグ状に縫製して形成してもよい。
【0044】
次に、エアバッグ10の他の形態について説明する。
図9は、内部にディフューザを設けたエアバッグ10を示す図である。また、図9Aは膨張前のエアバッグ10の斜視図、図9Bは図9AのZ−Z線矢視断面図、図9Cは膨張したエアバッグ10の断面図である。
【0045】
エアバッグ10の気室14内には、ディフューザやインナーバッグ等の内部部材を設けてもよい。ここでは、エアバッグ10は、図示のように、気室14内にディフューザ20を有する。ディフューザ20は、インフレータ2が発生するガスを整流する整流布であり、エアバッグ10の大きく膨張させたい部分や迅速に膨張させたい部分に向けてガスを供給する。ディフューザ20は、例えば、矩形状の基布を半分に折り畳み、基布を側縁に沿って接合することで袋状に形成される。ディフューザ20は、インフレータ2を内部に収納した状態で、一対の側面基布13間の部分(起立部15)に配置される。また、ディフューザ20には、ガスを放出する開口21が、上方に向けて形成されている。
【0046】
ディフューザ20は、内部のインフレータ2が発生するガスにより、エアバッグ10内で膨張する。また、ディフューザ20は、ガスを上面の開口21から放出させて、一対の側面基布13間の気室14で、ガスを上方に向けて整流(図9Cの矢印G)する。エアバッグ10は、ディフューザ20の膨張に伴い、一対の側面基布13間の部分(起立部15)が最初に膨張する。また、ディフューザ20から供給されるガスにより、起立部15が上方に向かって迅速、正確に膨張する。このように、ディフューザ20を設けることで、エアバッグ10の膨張特性を高めて、乗員50を素早く、確実にシート30に拘束できる。そのため、エアバッグ10の上記した各効果を、より向上させることができる。
【0047】
図10は、他の実施形態のエアバッグ10を示す斜視図である。
気室内接合部4は、図示のように、環状以外の形状に形成してもよい。ここでは、気室14の車幅方向中央部で、基布11、12を、気室14の前後方向の後端から中央部付近まで直線状に縫製する。続いて、気室内14内で縫製の方向を180°変化させて、基布11、12を、気室14の後端まで直線状に縫製する。このように基布11、12を連続縫製して、細長い気室内接合部4を気室14の後方部に形成する。また、気室内接合部4は、気室14内に、矩形状の非膨張部4Aを形成する。なお、気室内接合部3、4は、環状や矩形状以外の種々の形状、例えば、三角形状、楕円形状、又は、V字形状に形成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・エアバッグ装置、2・・・インフレータ、3・・・気室内接合部、3A・・・非膨張部、4・・・気室内接合部、4A・・・非膨張部、10・・・エアバッグ、11・・・上面基布、12・・・下面基布、13・・・側面基布、14・・・気室、15・・・起立部、16・・・平面部、17・・・外縁接合部、18・・・開口部、20・・・ディフューザ、21・・・開口、30・・・シート、31・・・シートバック、32・・・ヘッドレスト、40・・・座部、41・・・カバー、42・・・シートパッド、43・・・シートパン、44・・・収容部、50・・・乗員、51・・・頭部、52・・・膝部、53・・・腰部、54・・・大腿部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの座部内に配置されて着座した乗員の下方で膨張するエアバッグと、ガスを発生してエアバッグを膨張展開させるインフレータとを備え、エアバッグにより座部の座面を隆起させて乗員の腰部の前方への移動を抑制するエアバッグ装置であって、
エアバッグが、気室を区画する上面基布と下面基布、及び、気室内の後方部で上面基布と下面基布を接合して気室の膨張を規制する気室内接合部を有するエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
気室内接合部が、気室の前後方向の後端から中央部までの間で車幅方向中央部に配置されたエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
気室内接合部が、上面基布と下面基布を縫製した縫製部からなるエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたエアバッグ装置において、
縫製部が、上面基布と下面基布を連続して縫製して形成されたエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
気室内接合部が、気室内に非膨張部を形成するエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、上面基布と下面基布とともに気室を区画し、かつ、上面基布と下面基布間の両側部の一部に配置されて気室の膨張形状を規定する一対の側面基布を有するエアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−126176(P2012−126176A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277359(P2010−277359)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】