エアバッグ装置
【課題】カーテン状のエアバッグによりフロントピラートリムが破損するのを防止しつつ、乗員の車外放出を抑制する。
【解決手段】エアバッグ装置1は、エアバッグ10とインフレータ2とを備えている。エアバッグ10は、側壁91の上部に沿ってフロントピラー93まで配置される。インフレータ2は、ガスを発生してエアバッグ10を膨張展開させる。エアバッグ10は、上膨張部42と、下膨張部43と、フロント気室3とを有する。上膨張部42は、エアバッグ10の膨張時に、フロントピラー93にオーバーラップする。下膨張部43は、エアバッグ10の膨張時に、ドアトリム95Aにオーバーラップする。フロント気室3は、フロントピラートリム93A内から車室内に展開し、下方のガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。
【解決手段】エアバッグ装置1は、エアバッグ10とインフレータ2とを備えている。エアバッグ10は、側壁91の上部に沿ってフロントピラー93まで配置される。インフレータ2は、ガスを発生してエアバッグ10を膨張展開させる。エアバッグ10は、上膨張部42と、下膨張部43と、フロント気室3とを有する。上膨張部42は、エアバッグ10の膨張時に、フロントピラー93にオーバーラップする。下膨張部43は、エアバッグ10の膨張時に、ドアトリム95Aにオーバーラップする。フロント気室3は、フロントピラートリム93A内から車室内に展開し、下方のガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内でエアバッグをカーテン状に膨張展開させて、エアバッグにより乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、車両内の上部に沿って取り付けられて、車両の側壁に沿ってエアバッグを膨張展開させる。エアバッグは、カーテン状に展開して、乗員の頭部を受け止めて保護する。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグの下縁を、フロントピラーとリアピラーの間で湾曲させて、頭部の移動を抑制する乗員保護装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、この従来の乗員保護装置では、エアバッグが膨張しながらフロントピラートリムの内部から外部へ展開する。これに伴い、フロントピラートリムが、エアバッグから受ける衝撃により破損する虞がある。また、エアバッグが窓部の開口内で展開するため、乗員を受け止めたときに、エアバッグが動き易い傾向がある。そのため、エアバッグの車外方向への変形を抑えるのは難しく、より確実に乗員を受け止める観点から、改良の余地がある。併せて、エアバッグにより、乗員が車外へ放出されるのをより確実に抑制することも要求されている。
【0004】
これに対し、従来、展開初期にガスが流入しない副膨張部を設けて、エアバッグを、乗員を保護する所定位置に迅速に展開させるエアバッグ装置が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、この従来のエアバッグ装置では、副膨張部は、乗員がエアバッグに接触した後に、ガスが流入して膨張する。そのため、副膨張部で乗員を受け止めるのは難しく、エアバッグの乗員を受け止める領域が狭くなる虞がある。また、乗員がエアバッグに接触したときに、エアバッグが変形し易いため、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能に影響が生じる虞がある。特に、乗員が膨張前の副膨張部に接触したときには、乗員を充分に拘束できずに、乗員の車外方向への移動量が大きくなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−48901号公報
【特許文献2】特開2010−83240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、カーテン状に膨張展開するエアバッグにより乗員を確実に受け止めるとともに、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能を向上させることである。また、他の目的は、エアバッグの膨張展開時に、フロントピラートリムが破損するのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車室内側壁の上部に沿ってフロントピラーまで配置されるエアバッグと、ガスを発生してエアバッグをカーテン状に膨張展開させるインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、フロントピラーに設けられたフロントピラートリム内から車室内に展開するフロント気室と、エアバッグの膨張時にフロントピラーにオーバーラップする上膨張部と、エアバッグの膨張時に車両の前部ドアに設けられたドアトリムにオーバーラップする下膨張部とを有し、フロント気室が、下方の端部に設けられたガス流入口を有し、ガス流入口のみからガスが流入して膨張するエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カーテン状に膨張展開するエアバッグにより乗員を確実に受け止めることができる。また、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能を向上させることができる。エアバッグの膨張展開時に、フロントピラートリムが破損するのを防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図2】変形部材を示す図である。
【図3】展開したエアバッグを示す平面図である。
【図4】展開するエアバッグを示す断面図である。
【図5】展開するエアバッグを示す断面図である。
【図6】車両内で膨張展開したエアバッグを示す図である。
【図7】エアバッグの上膨張部を拡大して示す図である。
【図8】エアバッグの下膨張部を拡大して示す図である。
【図9】乗員を受け止めたエアバッグを示す図である。
【図10】乗員を受け止めたエアバッグを示す図である。
【図11】他の実施形態の変形部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態のエアバッグ装置は、車両内でエアバッグ(カーテンエアバッグ)をカーテン状に展開させるカーテンエアバッグ装置である。エアバッグ装置は、車両内に搭載されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。
【0012】
図1は、本実施形態のエアバッグ装置を示す図である。図1では、車両に搭載したエアバッグ装置を車室内から見て示している。また、車両の側壁とエアバッグ装置を、車両の後方側を省略して、かつ、車両幅方向から見て模式的に示している。エアバッグ装置は、車両の内面を透視して示している。
なお、本発明では、車両における前方と後方を単に前方と後方といい、車両における前後方向を単に前後方向という。また、車両における上方と下方を単に上方と下方といい、車両における上下方向を単に上下方向という。
【0013】
車両90は、図示のように、車室内の側壁91に、上方のルーフレール92、前方のフロントピラー(Aピラー)93、前後方向の中間のセンターピラー(Bピラー)94、及び、後方のリアピラー(Cピラー)(図示せず)を有する。また、車両90は、側壁91に、前方の前部ドア95と、後方の後部ドア96とを有する。前部ドア95は、車両90の最前方に設けられたドアであり、フロントピラー93の下方に位置する。後部ドア96は、車両90の最後方に設けられたドアであり、リアピラーの下方に位置する。側壁91の各部には、トリム、又は、ヘッドライニング92Aの一部が取り付けられている。トリムは、車両90内の表面部材を構成する。ヘッドライニング92Aは、ルーフ(図示せず)とルーフレール92を覆う。ヘッドライニング92Aは、一般的に、トリムの材料よりも剛性が低く変形し易い材料で形成される。側壁91内で、ドア95、96に設けられた窓部97、98が開閉する。
【0014】
エアバッグ装置1は、エアバッグ10と、インフレータ2と、変形可能な変形部材50とを備えている。エアバッグ10は、膨張展開可能に折り畳まれて、車両90内に取り付けられる。その際、エアバッグ10は、例えば、下方の縁(下縁という)から上方の縁(上縁という)に向かって蛇腹状に折り畳まれる。或いは、エアバッグ10は、下縁から上縁に向けて、かつ、側壁91側に巻き付けてロール折りされる。エアバッグ10は、車室内の側壁91の上部(上縁)に沿って、細長く折り畳まれた状態で配置される。また、エアバッグ10は、前後方向に沿ってルーフレール92に取り付けられて、リアピラーからフロントピラー93まで配置される。
【0015】
折り畳まれたエアバッグ10は、車体とトリムとの間、及び、車体とヘッドライニング92Aとの間に配置される。エアバッグ10は、固定手段(図示せず)により、トリム内とヘッドライニング92A内で車体に固定される。エアバッグ10の前方部11は、フロントピラー93に取り付けられる。前方部11は、フロントピラー93における車体とフロントピラートリム93Aとの間(フロントピラートリム93A内)に配置される。
【0016】
インフレータ2は、シリンダタイプのガス発生装置であり、長手方向の一端部にガスの噴出口を有する。インフレータ2は、センターピラー94の上方に配置されて、ルーフレール92に取り付けられる。また、インフレータ2は、固定手段(図示せず)により、ヘッドライニング92A内で車体に固定される。インフレータ2は、車両緊急時や衝撃検知時に、ガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。このガスにより、エアバッグ10を、側壁91の上部から下方に向かってカーテン状に膨張展開させる。
【0017】
変形部材50は、外力により変形する可変部材である。変形部材50は、金属により形成されており、エアバッグ10に押されて塑性変形する。また、変形部材50は、折り畳まれたエアバッグ10を車両90に取り付けるブラケットである。変形部材50は、フロントピラートリム93A内で、エアバッグ10の周囲に配置される。その際、変形部材50は、エアバッグ10を囲むように、エアバッグ10とフロントピラートリム93Aとの間に配置される。変形部材50は、車体に固定されてエアバッグ10を保持する。
【0018】
図2に、変形部材50を拡大して示す。図2Aは、図1に対応する変形部材50の正面図である。図2Bは、図2Aの矢印S1方向から見た変形部材50の側面図である。図2Cは、図2Aの矢印S2方向から見た変形部材50の斜視図である。図2Dは、図2Aの矢印S3方向から見た変形部材50の斜視図である。
変形部材50には、図示のように、金属板を複数箇所で折り曲げることで、エアバッグ10(図2A、2Bに点線で示す)の収納部51が凹状に形成される。
【0019】
変形部材50は、角部52〜54を介在させて連続する第1〜第4の面55〜58を有する。変形部材50は、角部52〜54で第1〜第4の面55〜58が交差するように形成される。第1の面55は、上方に突出する取付面であり、取付孔55Aに挿入されるボルト(図示せず)により、フロントピラー93に取り付けられる。第2〜第4の面56〜58は、変形部材50の本体部を構成する。第2〜第4の面56〜58は、収納部51を区画する区画面であり、内部の収納部51にエアバッグ10を収納する。第2〜第4の面56〜58の境界(角部53、54)は、なだらかに湾曲して形成されている。変形部材50は、取付孔55Aを通る中心面CFに対して、対称な形状に形成されている。
【0020】
第4の面58は、変形部材50の変形時に、他の面55〜57よりも大きく動く面(可動面という)である。可動面58は、フロントピラートリム93A内で、折り畳まれたエアバッグ10の展開方向F(下方)に配置される。また、可動面58は、エアバッグ10の展開方向Fを遮るように、エアバッグ10の下方面に対向して配置される。可動面58は、展開するエアバッグ10に押されて、エアバッグ10の展開方向Fに変位(図2の矢印T)する。これにより、可動面58は、エアバッグ10の展開方向Fの外側へ移動して、展開方向Fを開放する。図2Bに、展開方向Fを開放した可動面58を点線で示す。
【0021】
可動面58は、一端に位置する基端部58Aと、他端に位置する自由端部58Bとを有する。基端部58Aは、第3の面57と可動面58の間に設けられた角部54である。基端部58Aは、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、エアバッグ10の展開方向Fに曲げ変形して、可動面58を展開方向Fに変位(矢印T)させる。自由端部58Bは、可動面58とともに変位して、フロントピラートリム93Aを押し開く。その際、自由端部58Bは、突部58Cによりフロントピラートリム93Aを押す。突部58Cは、板状をなし、展開方向Fに突出するように自由端部58Bに設けられる。
【0022】
変形部材50は、主に基端部58Aを中心に可動面58が変位することで変形する。これにより、エアバッグ10を収納部51内から車室へ向かって展開させる。また、変形部材50は、基端部58Aに設けられた弱化部(低剛性部)58Dを有する。弱化部58Dは、基端部58Aの両側部に形成されたスリットからなる。弱化部58Dは、基端部58Aの曲げに対する剛性を低下させて、基端部58Aを変形し易くする。その結果、基端部58Aは、変形部材50内で最も変形し易くなり、他の角部52、53よりも大きく変形する。変形部材50内で、可動面58以外の面55〜57は大きく変位せず、基端部58Aの先の部分(可動面58)が主に変位する。
【0023】
可動面58の長さ(図2BのG1)は、フロントピラートリム93A内で折り畳まれたエアバッグ10の幅(図2BのG2)よりも長くなっている。可動面58の長さG1は、基端部58Aと自由端部58Bの間の直線距離である。エアバッグ10の幅G2は、車両幅方向の幅である。可動面58は、変形部材50の他の面55〜57よりも長く形成され、収納部51から突出する。自由端部58Bは、エアバッグ10から離れた位置に配置される。以上のようにすることで、エアバッグ10が可動面58に確実に突き当たる。また、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、基端部58Aに、他の角部52、53よりも大きな曲げ応力が発生する。これにより、基端部58Aが変形し易くなる。
【0024】
可動面58の面積は、他の面55〜57の面積よりも大きくなっている。そのため、可動面58は、エアバッグ10から大きな力を受けつつ、エアバッグ10により押される。エアバッグ10は、変形部材50を展開方向Fに変形させて、カーテン状に展開する。
【0025】
図3は、展開したエアバッグ10を示す平面図である。図3では、平面上に拡げたエアバッグ10を示している。
エアバッグ10は、図示のように、平面視矩形状の袋体であり、例えば、樹脂を被覆した布からなる基布により製造される。ここでは、エアバッグ10は、乗員側の表基布(表パネル)12と、側壁91側の裏基布(裏パネル)13とを有する。また、エアバッグ10は、ガス供給口14と、ベルト状の連結部材20と、複数(図3では、6つ)の固定布21〜26とを有する。
【0026】
連結部材20の一端はエアバッグ10の前方端に取り付けられ、他端はフロントピラー93に取り付けられる。エアバッグ10の前方端は、連結部材20により、フロントピラー93に連結される。複数の固定布21〜26は、矩形状をなし、エアバッグ10の上縁に一体に形成されている。また、固定布21〜26は、エアバッグ10の上縁の全体に配置されている。連結部材20と固定布21〜26は、ボルト等からなる固定手段(図示せず)により、フロントピラー93とルーフレール92の所定位置に固定される。
【0027】
表基布12と裏基布13は、同じ形状に形成され、重ね合わせて、外縁接合部15に沿って接合される。エアバッグ10は、外縁接合部15により区画されて、両基布12、13の間に膨張部30が形成される。外縁接合部15は、膨張部30の外縁形状を規定する。基布12、13は、外縁接合部15で、縫製及び接着により接合される。即ち、基布12、13は、外縁接合部15に沿って、1周又は複数周縫製されるとともに、縫製した部分が接着剤によりシールされる。これにより、基布12、13は、外縁接合部15で気密状に接合される。
【0028】
エアバッグ10には、外縁接合部15により、前膨張部31、後膨張部32、及び、連結膨張部33が形成される。膨張部31〜33は、それぞれ平面視矩形状をなし、全体としてエアバッグ10の膨張部30を構成する。前膨張部31は、膨張部31〜33中で前後方向に最も長く形成されて、エアバッグ10内で前方に配置される。前膨張部31は、前部ドア95の窓部97とセンターピラー94の側方で膨張して、主に前席の乗員を受け止める。
【0029】
後膨張部32は、前膨張部31よりも前後方向に短く形成されて、エアバッグ10内で後方に配置される。後膨張部32は、後部ドア96の上方で膨張して、主に後席の乗員を受け止める。連結膨張部33は、他の膨張部31、32よりも上下方向に狭く形成される。連結膨張部33は、エアバッグ10の上縁で、前膨張部31と後膨張部32の間に設けられて、両膨張部31、32を連結する。3つの膨張部31〜33の間には、非膨張部34が、エアバッグ10の下縁から上方に向かって形成される。非膨張部34は、膨張部30の外に設けられているため、エアバッグ10が膨張したときにも、膨張しない状態に維持される。
【0030】
ガス供給口14は、インフレータ2をエアバッグ10内に挿入するための開口部(挿入口)である。ガス供給口14は、前膨張部31の後方端に開口する。基布12、13は、ガス供給口14において、エアバッグ10の上縁から斜め上方に突出し、両側縁が外縁接合部15から連続して接合される。これにより、ガス供給口14は、エアバッグ10の上縁に一体に設けられる。また、ガス供給口14は、エアバッグ10の前後方向の略中間に形成される。
【0031】
インフレータ2は、ガス供給口14からエアバッグ10内に挿入される。例えば、インフレータ2は、ガスを整流するディフューザを設けたガス供給口14内に挿入される。ガス供給口14は、クランプ又はバンド(図示せず)により外側から締め付けられて、インフレータ2に気密状に固定される。インフレータ2は、ガス供給口14内でガスを発生する。ガス供給口14は、インフレータ2が発生するガスをエアバッグ10内へ供給する。ガスは、インフレータ2からエアバッグ10の膨張部30に供給される。ガスは、前膨張部31へ供給されるとともに、連結膨張部33を通して後膨張部32へ供給される。これにより、エアバッグ10が膨張展開する。
【0032】
エアバッグ10は、外縁接合部15(膨張部30)内に、第1〜第4の内部接合部16〜19を有する。基布12、13は、複数の内部接合部16〜19で、縫製及び接着により接合される。内部接合部16〜19は、それぞれ外縁接合部15から膨張部30内へ向かって延び、膨張部30内の先端が環状に接合される。内部接合部16〜19の環状部16A〜19Aは、エアバッグ10の下縁側の外縁接合部15との間に、所定の距離を開けて配置される。複数の内部接合部16〜19は、前後方向に離して配置され、膨張部30内にガスの流通部と気室を形成する。即ち、内部接合部16〜19は、膨張部30を区画する隔壁としての機能を有する。また、内部接合部16〜19は、膨張部30の車両幅方向の膨張を抑制しつつ、エアバッグ10を所定形状に膨張させる。
【0033】
膨張部30は、内部接合部16〜19により、第1〜5の気室35〜39に区画される。第1〜第3の内部接合部16〜18は、前膨張部31内で、上端が外縁接合部15に繋がり、エアバッグ10の上縁側の外縁接合部15から下方に向かって形成される。これにより、前膨張部31には、第1〜第3の気室35〜37が形成される。第1〜第3の気室35〜37は、前方から後方へ順に配置され、それぞれ上部と側部が閉鎖されて、下部のみが開放している。
【0034】
第1の気室35は、フロントピラー93に設けられたフロントピラートリム93A内に配置されるフロント気室3である。フロント気室3は、エアバッグ10の前方部11に形成され、エアバッグ10を車両90に取り付けるときに、フロントピラートリム93A内に収納される。フロント気室3は、エアバッグ10が膨張展開するときに、フロントピラートリム93A内から車室内に展開する。また、フロント気室3は、ガス流入口3Aを有し、ガス流入口3A以外の外縁が閉鎖されている。即ち、フロント気室3は、1つのガス流入口3Aのみが開口するようにエアバッグ10に形成されている。
【0035】
ガス流入口3Aは、フロント気室3の下方の端部に設けられて、フロント気室3に下方からガスを流入させる。また、ガス流入口3Aは、第1の内部接合部16と外縁接合部15との間に位置する非接合部からなる。フロント気室3内で、ガス流入口3Aは、エアバッグ10の下縁に近接して形成される。フロント気室3は、ガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。その結果、フロント気室3は、下方から上方に向かって次第に膨張する。
【0036】
前膨張部31には、中間膨張部40及び流通部41も形成される。中間膨張部40は、ガス供給口14と流通部41の間で膨張する気室である。中間膨張部40は、エアバッグ10の前後方向の中間に設けられている。中間膨張部40は、第3の内部接合部18により、前膨張部31の後方端で、ガス供給口14から下方に向かって形成される。
【0037】
流通部41は、第2と第3の気室36、37の下端を繋いで形成された気室であり、エアバッグ10の下縁に沿って設けられている。流通部41は、第2と第3の内部接合部17、18の環状部17A、18Aと外縁接合部15との間に位置する。流通部41は、中間膨張部40の下部と、前膨張部31の前方端に位置するフロント気室3(第1の気室35)の下部とを連通させる。中間膨張部40とガス流入口3Aは、流通部41により連通する。第2と第3の気室36、37は、中間膨張部40とフロント気室3の間で、流通部41に開口する。第2と第3の気室36、37の下方の端部は、流通部41の途中位置に連通する。
【0038】
ガスは、流通部41を後方から前方へ流れて、中間膨張部40からフロント気室3まで流通する。流通部41は、ガスをフロント気室3の後方から、エアバッグ10の下縁に沿って、ガス流入口3Aまで流通させる。ガスは、中間膨張部40、流通部41、及び、ガス流入口3Aを通って、フロント気室3へ流入する。また、ガスは、流通部41から第2と第3の気室36、37に流入する。
【0039】
第2と第3の気室36、37は、フロント気室3の後方に設けられた後方気室4である。後方気室4は、エアバッグ10を車両90に取り付けるときに、主にヘッドライニング92A内に収納される。後方気室4は、エアバッグ10が膨張展開するときに、ヘッドライニング92A内から車室内に展開する。また、後方気室4は、流通部41の上方に設けられ、流通部41のみからガスが流入する。後方気室4は、下方の流通部41から流入するガスのみにより流通部41の上方で膨張する。その結果、後方気室4は、下方から上方に向かって次第に膨張する。
【0040】
インフレータ2が発生するガスは、ガス供給口14から中間膨張部40へ供給される。前膨張部31内で、ガスは、中間膨張部40から流通部41へ流れて、流通部41を通過する間に、第3の気室37と第2の気室36に下部から流入する。また、ガスは、流通部41を通って、第1の気室35に下部のガス流入口3Aから流入する。
【0041】
中間膨張部40は、最初に膨張を開始して、上部から下部まで膨張する。流通部41は、中間膨張部40に続いて膨張を開始し、中間膨張部40から第1の気室35へ向かって膨張する。気室35〜37は、流通部41に続いて膨張を開始して、流通部41の膨張に伴い膨張する。また、気室35〜37は、ガスの流入する順序に応じて、後方から前方の順に膨張を開始する。第1の気室35は、最後に膨張を開始して、他の気室36、37が膨張を完了した後の所定のタイミングで完全に膨張する。このように、ガスは、エアバッグ10が有する1つ以上(ここでは2つ)の後方気室4とフロント気室3に下方から流入する。後方気室4とフロント気室3は、順にガスが流入し、タイミングをずらして膨張を開始する。フロント気室3は、後方気室4よりも遅く膨張する。
【0042】
後膨張部32には、屈曲する第4の内部接合部19により、第4と第5の気室38、39が形成される。第4と第5の気室38、39は、後膨張部32内で、後方と前方に配置される。第4の気室38は、外縁接合部15に沿って形成されて、連結膨張部33の後方端と第5の気室39の下部に繋がる。インフレータ2が発生するガスは、ガス供給口14から連結膨張部33を通して第4の気室38に流入する。後膨張部32内で、ガスは、第4の気室38を通過して、第5の気室39に下部から流入する。第4と第5の気室38、39は、ガスの流入する順序に応じて順に膨張する。
【0043】
エアバッグ装置1は、車両90に搭載された後、作動信号を受信したときにインフレータ2を作動させて、ガスを発生させる。このガスを、エアバッグ10内の膨張部30へ供給して、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつカーテン状に膨張展開させる。エアバッグ10(図1参照)は、トリムとヘッドライニング92Aを押し開いて、側壁91の上部から下方に向かって展開する。
【0044】
図4、図5は、展開するエアバッグ10を示す断面図である。図4、図5では、エアバッグ10と車両90を、変形部材50の位置で切断し、前方から見て示している。図4A、図4B、図5A、図5Bに、エアバッグ10の展開過程を順に示す。図4、図5を参照して、変形部材50の位置で、エアバッグ10(フロント気室3)が、フロントピラー93から展開する過程を説明する。
エアバッグ10と変形部材50は、図4Aに示すように、車両90に取り付けられたフロントピラートリム93A内に配置される。変形部材50の可動面58とフロントピラートリム93A(先端部93B)の間には、可動面58の基端部58Aから突部58Cまでにわたって、隙間Qが設けられる。フロントピラートリム93Aの先端部93Bは、シール部材99に取り付けられる。シール部材99は、車両90に取り付けられて、窓部97(窓ガラス)の内面をシールする。
【0045】
エアバッグ10が展開を開始すると、図4Bに示すように、変形部材50が、展開するエアバッグ10に押されて変形する。その際、上記したように、可動面58がエアバッグ10から受ける力で、基端部58Aが曲げ変形する。この曲げ変形に伴い、可動面58と自由端部58Bがエアバッグ10の展開方向Fに移動する。自由端部58Bは、フロントピラートリム93Aの先端部93Bに接触して、先端部93Bをシール部材99から外す。変形部材50は、自由端部58Bにより、フロントピラートリム93Aを押して、フロントピラートリム93Aを展開方向Fに押し開く。変形部材50は、フロントピラートリム93Aを変形させて、エアバッグ10の通過口93Cを形成する。
【0046】
通過口93Cは、エアバッグ10を通過させる開口であり、フロントピラートリム93Aとフロントピラー93の間に形成される。可動面58の自由端部58Bが、フロントピラートリム93Aをエアバッグ10の展開方向Fに押し開いて、通過口93Cを形成する。続いて、図5Aに示すように、エアバッグ10のフロント気室3が、通過口93Cを通過して車室に向かって展開する。また、可動面58が、エアバッグ10に押されて展開方向Fを開放し、エアバッグ10が車室内に展開する。変形部材50は、可動面58が展開方向Fに沿うように変形する。基端部58Aは、可動面58がエアバッグ10に干渉しない程度まで変形する。エアバッグ10は、車室内に展開した後、膨張する。
【0047】
展開したエアバッグ10が膨張するときに、図5Bに示すように、変形部材50は、膨張するエアバッグ10に押されて更に変形する。その際、基端部58Aが、より大きく変形して、可動面58の変位量が増加する。変形部材50は、変形に伴い、フロントピラートリム93Aを更に開いて、エアバッグ10の膨張を妨げないように通過口93Cを拡大する。エアバッグ10は、通過口93C内と車室内で、所定の状態(図5B参照)に膨張する。フロントピラートリム93Aは、自由端部58Bの突部58Cに押さえられて、変形後の形状に維持される。エアバッグ10は、変形部材50とフロントピラートリム93Aに妨げられることなく、カーテン状に膨張展開する。
【0048】
図6は、車両90内で膨張展開したエアバッグ10を示す図である。図6では、車両90の側壁91とエアバッグ装置1を、図1に対応させて示している。
エアバッグ10は、図示のように、インフレータ2から供給されるガスにより、側壁91を覆うように、側壁91に沿って展開する。また、エアバッグ10は、ドア95、96まで展開して、窓部97、98を塞ぐ。エアバッグ10は、乗員と側壁91との間で膨張展開し、前席と後席の乗員を受け止めて、乗員の頭部を中心に保護する。
【0049】
その際、前膨張部31では、ガス供給口14から供給されるガスにより、中間膨張部40が最初に膨張を開始する。中間膨張部40は、ヘッドライニング92Aを押し開いて、車室内に展開する。中間膨張部40は、下方に向かって次第に展開して、上部から下部まで膨張する。エアバッグ10は、展開する中間膨張部40により下方に引っ張られる。これにより、中間膨張部40を含むエアバッグ10の中間部分が、ヘッドライニング92A内から引き出されて車室内に展開する。後方気室4は、後方から前方に向かって次第に展開する。続いて、中間膨張部40から流入するガスにより、流通部41が膨張を開始する。
【0050】
流通部41は、車室内で、中間膨張部40からフロント気室3へ向かって膨張する。流通部41内のガスは、後方気室4に下方から流入し、後方気室4を下方から上方に向かって膨張させる。フロント気室3は、流通部41と後方気室4が膨張する間に、流通部41と後方気室4により下方に引っ張られる。同時に、変形部材50が、主にフロント気室3に押されて変形する。変形部材50がフロントピラートリム93Aを押し開いて、通過口93Cが形成される。フロント気室3は、通過口93Cから車室内に展開する。ガスは、流通部41を通って、ガス流入口3Aからフロント気室3に流入する。フロント気室3は、ガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。
【0051】
ガス流入口3Aは、フロント気室3の下方の端部に設けられているため、フロント気室3には、ガスが、上部や側部から流入せずに、下部のみから流入する。そのため、ガスがエアバッグ10内で下方に達して、エアバッグ10が車室内に引き出された後に、フロント気室3が膨張を開始する。ガスは、エアバッグ10の各部を膨張させつつガス流入口3Aまで流通して、フロント気室3に流入する。また、ガス流入口3Aが車室内に引き出されて展開するまで、フロント気室3へのガスの流入が抑制されるため、フロント気室3の膨張が遅延する。従って、フロント気室3は、エアバッグ10内で遅れて膨張を開始する。フロント気室3は、フロントピラートリム93A内で膨張する前に車室内に引き出されて、車室内に展開した後に膨張を開始する。
【0052】
本実施形態では、流通部41がガス流入口3Aまで膨張する前に、フロント気室3が車室内に展開する。フロント気室3は、膨張せずに薄い状態で、フロントピラートリム93A内から引き出される。また、フロント気室3は、フロンピラートリム3Aを大きく押し開くことなく、通過口93Cから車室内に展開する。そのため、フロントピラートリム93Aの変形が小さくなるとともに、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージも小さくなる。フロント気室3は、フロントピラートリム93Aに割れや破損を発生させずに、円滑に展開する。後方気室4からフロント気室3まで膨張することで、エアバッグ10の全体が膨張する。
【0053】
エアバッグ10の前膨張部31は、フロントピラー93からセンターピラー94までの領域(側壁91の前方領域)で膨張展開する。中間膨張部40は、センターピラー94に沿って展開して、センターピラー94にオーバーラップする。第1〜第3の気室35〜37は、前部ドア95の上方で膨張して、窓部97を覆う。第1の気室35(フロント気室3)は、エアバッグ10内で最前方に位置し、フロントピラー93と前部ドア95との間に配置される。第1の気室35の上縁は、フロントピラー93にオーバーラップする。流通部41は、前後方向に延び、前部ドア95の上縁に沿って配置される。また、流通部41は、前部ドア95に重なるように膨張する。その結果、流通部41の全部又は一部(ここでは、下部)が、前部ドア95のドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0054】
このように、エアバッグ10は、膨張展開したときに車両90にオーバーラップする上膨張部42と下膨張部43とを有する。上膨張部42と下膨張部43は、前膨張部31の一部であり、エアバッグ10の上縁と下縁に設けられる。上膨張部42は、エアバッグ10の膨張時に、フロントピラー93にオーバーラップする。上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aとの間(フロントピラートリム93A内)で膨張する。膨張した上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aにより挟まれる。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、上膨張部42は、フロントピラー93により支えられる。
【0055】
図7に、エアバッグ10の上膨張部42(図7ではハッチングを付す)を拡大して示す。図7は、図6のX領域を示している。図7に示す上膨張部42のHは、フロントピラー93の下縁に沿う長さである。上膨張部42のWは、フロントピラー93とオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
上膨張部42は、図示のように、第1の気室35の所定領域であり、外縁接合部15を含む第1の気室35(フロント気室3)の上縁に設けられる。また、上膨張部42は、長さHがオーバーラップ量Wよりも長くなるように、エアバッグ10に形成される。ここでは、長さHは100mmに設定されている。オーバーラップ量Wは40mmに設定されている。
【0056】
下膨張部43(図6参照)は、エアバッグ10の膨張時に、前部ドア95に設けられたドアトリム95Aにオーバーラップする。下膨張部43は、車室内で膨張して、ドアトリム95Aの表面に接する。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられる。下膨張部43において、エアバッグ10は、下縁の前方部分が他の部分よりも下方に大きく膨張するように形成される。これにより、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、他の部分(後方部分)43Bよりも下方に大きく膨張する。下膨張部43のピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方で膨張する部分である。ピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方に位置するドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0057】
ピラー下方部分43Aは、前膨張部31の一部を部分的に下方に突出させることで、下膨張部43に形成される。ピラー下方部分43Aは、第1の内部接合部16の下方に設けられる。下膨張部43の後方部分43Bは、第2の内部接合部17の下方に設けられる。第1の内部接合部16は、第2の内部接合部17よりも、下方の外縁接合部15から離して形成される。その結果、ピラー下方部分43Aは、他の部分(後方部分43B)よりも車両幅方向に厚く膨張する。ここでは、ピラー下方部分43Aの膨張時の直径R1は105mmに設定されている。直径R1は、第1の内部接合部16の下方の気室が膨張したときの直径である。後方部分43Bの膨張時の直径R2は95mmに設定されている。直径R2は、第2の内部接合部17の下方の気室が膨張したときの直径である。
【0058】
図8に、エアバッグ10の下膨張部43(図8ではハッチングを付す)を拡大して示す。図8は、図6のY領域を示している。図8に示す下膨張部43のL1は、ピラー下方部分43Aがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。下膨張部43のL2は、後方部分43Bがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
【0059】
下膨張部43は、図示のように、流通部41の所定領域であり、外縁接合部15を含む流通部41の下部に設けられる。また、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、他の部分(後方部分43B)よりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。ここでは、ピラー下方部分43Aのオーバーラップ量L1は130mmに設定されている。後方部分43Bのオーバーラップ量L2は50mmに設定されている。以上のとおり、ピラー下方部分43Aは、下膨張部43内で、相対的に下方に大きく膨張するとともに、ドアトリム95Aに相対的に大きくオーバーラップする。
【0060】
エアバッグ10(図6参照)が乗員を受け止めたときに、上膨張部42と下膨張部43は、車両90の車体(フロントピラー93とドアトリム95A)に押し付けられる。フロントピラー93とドアトリム95Aは、上膨張部42と下膨張部43に干渉して、上膨張部42と下膨張部43を押さえる。その結果、上膨張部42と下膨張部43は、車体に支えられて、車外方向への移動が妨げられる。エアバッグ10は、前方において、上膨張部42と下膨張部43により、上縁と下縁が支えられて、車体に保持される。これにより、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、車外方向への変形と移動が抑制される。
【0061】
エアバッグ10は、乗員に押されて車外方向へ変形する。その際、エアバッグ10は、上下の2箇所で車体に支えられるため、変形が小さくなる。エアバッグ10の下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられて、窓部97よりも外側へ移動するのが妨げられる。その結果、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、側壁91を覆うように膨張した状態に維持される。乗員は、車外へ放出されることなく、エアバッグ10により確実に受け止められる。
【0062】
以上のように、エアバッグ装置1は、カーテン状に膨張展開するエアバッグ10により乗員を確実に受け止めることができる。また、エアバッグ10が有する乗員の車外放出を抑制する性能(放出抑制性能という)を向上させることができる。更に、エアバッグ10内で、上膨張部42と下膨張部43が車体にオーバーラップする。そのため、下膨張部43のみを車体とオーバーラップさせるときに比べて、全体として少ないオーバーラップ量で、エアバッグ10の放出抑制性能を向上させることができる。これに伴い、エアバッグ10を小さくできるため、基布の使用量とエアバッグ10のコストを削減できる。従って、エアバッグ装置1を安価で製造できる。
【0063】
本実施形態では、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。そのため、エアバッグ10の前方で、エアバッグ10の上下を強固に支えることができる。ピラー下方部分43Aの上方で乗員を受け止めたときに、エアバッグ10により、乗員の車外放出を確実に抑制できる。このエアバッグ10では、前方に位置する第1の気室35又は第1の内部接合部16の近傍で乗員を受け止めたときに、大きな効果が得られる。後方部分43Bの上方で乗員を受け止めたときにも、エアバッグ10の下縁は、後方部分43B及びピラー下方部分43Aにより車体に支えられるため、車外方向への移動が妨げられる。その結果、エアバッグ10により、乗員の車外放出を抑制できる。ピラー下方部分43Aのみを大きくオーバーラップさせることで、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0064】
下膨張部43のピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも車両幅方向に厚く膨張するため、ピラー下方部分43Aの剛性が高くなる。これにより、エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、ピラー下方部分43Aが変形し難くなる。ピラー下方部分43Aは、変形が抑制されるため、ドアトリム95Aに確実に、かつ、安定して支えられる。従って、エアバッグ10の放出抑制性能を、より向上させることができる。ピラー下方部分43Aのみを厚く膨張させることで、下膨張部43の全体を厚く膨張させるときよりも、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0065】
窓部97、98が開いた状況で、エアバッグ10により乗員を受け止めたときには、エアバッグ10が、窓部97、98の面(窓面という)の外側まで変形することがある。乗員は、窓面を越えて、窓部97、98から車外方向へ飛び出す虞がある。これに対し、エアバッグ10により、乗員が窓面から飛び出す距離を短くして、乗員が車外へ飛び出すのを防止できる。即ち、エアバッグ10により、乗員が窓面から飛び出す距離を所定距離内に抑えて、乗員の車外放出を抑制できる。下膨張部43がドアトリム95Aから外れた場合であっても、下膨張部43がドアトリム95Aに支えられている間に、乗員の移動を充分に止められるため、乗員の車外放出を防止できる。
【0066】
図9と図10は、乗員を受け止めたエアバッグ10を示す図である。図9と図10では、エアバッグ10を図6に対応させて模式的に示している。乗員100は頭部のみ示す。
乗員100(図9参照)をピラー下方部分43Aの上方で受け止めると、エアバッグ10は車外方向へ変形する。ここでは、乗員100は、第1の気室35と第1の内部接合部16の近傍で受け止められる。その際、エアバッグ10は、上膨張部42と下膨張部43により、乗員100の上方と下方で車体に支えられて、上下の縁が車両90内に保持される。そのため、エアバッグ10により乗員100の移動を止めて、乗員100の車外への飛び出しを抑制できる。また、乗員100の車外への放出を防止できる。
【0067】
乗員100(図10参照)を後方部分43Bの上方(ここでは、第2の内部接合部17の近傍)で受け止めたときにも、エアバッグ10は、上膨張部42と下膨張部43により支えられて、上下の縁が車両90内に保持される。そのため、エアバッグ10により乗員100の移動を止めて、乗員100の車外への飛び出しを抑制できる。乗員100の車外への放出も防止できる。
【0068】
エアバッグ10(図6参照)の膨張展開時には、フロント気室3に、下方のガス流入口3Aのみからガスが流入する。そのため、上記したように、フロント気室3の膨張開始を遅らせることができる。フロント気室3を、フロントピラートリム93A内で膨張する前に車室内に引き出すこともできる。これにより、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃を低減させることができる。フロントピラートリム93Aが破損するのを防止することもできる。
【0069】
ガスは、流通部41をガス流入口3Aに向かって流通する間に、後方気室4に流入して後方気室4を膨張させる。その結果、ガスがガス流入口3Aまで達するのが遅くなるため、フロント気室3が、より遅く膨張を開始する。これにより、フロント気室3を膨張前に確実に車室内に引き出せるため、フロントピラートリム93Aの破損を確実に防止できる。
【0070】
中間膨張部40がガス供給口14と流通部41の間で膨張することで、ガスが、流通部41及びガス流入口3Aまで達するのを一層遅らせることができる。流通部41をエアバッグ10の下縁に沿って設けることで、先に膨張するエアバッグ10の下部により、膨張前のフロント気室3が強く引っ張られる。フロント気室3は、膨張開始前に、フロントピラートリム93A内から確実に引き出される。フロントピラートリム93Aは、一般的に、他のピラートリムやヘッドライニング92Aよりも幅が狭く剛性が高いため、破損し易い。これに対し、このエアバッグ装置1によれば、フロントピラートリム93Aを破損させずに、エアバッグ10を円滑に展開させることができる。フロントピラートリム93Aの破片の飛散を防止することもできる。
【0071】
変形部材50(図2、図4、図5参照)は、エアバッグ10に押されて変形することで、エアバッグ10の通過口93Cを形成する。エアバッグ10は、通過口93Cを通って円滑に展開する。その際、変形部材50により、展開するエアバッグ10のエネルギーを吸収できるため、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージを低減することができる。フロントピラートリム93Aの破損も確実に防止できる。
【0072】
展開したエアバッグ10が膨張するときに、変形部材50が、膨張するエアバッグ10に押されて更に変形する。変形部材50は、エアバッグ10及びフロント気室3が所望の状態に膨張するのを妨げないように、通過口93Cを拡大する。これにより、エアバッグ10が、変形部材50に妨げられずに、所定の形状及び大きさに膨張する。その結果、エアバッグ10の剛性が変動するのを防止できる。エアバッグ10は、高い放出抑制性能を発揮する。
【0073】
変形部材50内で、可動面58が、基端部58Aの曲げ変形により変位して、自由端部58Bによりフロントピラートリム93Aを押し開く。この可動面58により、エアバッグ10の通過に合わせて、フロントピラートリム93Aを正確に押し開いて、通過口93Cをエアバッグ10の展開方向Fに形成できる。可動面58の長さG1がエアバッグ10の幅G2よりも長いため、エアバッグ10が可動面58に確実に突き当たる。また、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、基端部58Aに大きな曲げ応力が発生するため、基端部58Aが大きく変形する。そのため、可動面58を展開方向Fの外側まで確実に移動させて、エアバッグ10を円滑に展開させることができる。エアバッグ10は、変形部材50に干渉されずに通過口93Cから展開して、車室内で正確に膨張展開する。これにより、エアバッグ10の性能を安定して確保できる。
【0074】
可動面58の基端部58Aに弱化部58Dを設けることで、基端部58Aの曲げに対する剛性を低下させることができる。その結果、基端部58Aが、より変形し易くなるため、エアバッグ10をより円滑に展開させることができる。可動面58を他の面55〜57よりも長く形成するときには、基端部58Aを他の角部52、53よりも変形し易くすることができる。可動面58の面積を大きくすると、可動面58がエアバッグ10から受ける力が大きくなる。これにより、展開するエアバッグ10から、より大きなエネルギーを吸収できるため、フロントピラートリム93Aが受けるダメージを一層低減できる。
【0075】
可動面58とフロントピラートリム93A(先端部93B)の間には、可動面58の基端部58Aから突部58Cまでにわたって、隙間Qが設けられる。そのため、エアバッグ10の展開初期には、変形部材50のみがエアバッグ10から力を受ける。この力により、変形部材50がある程度変形してから、フロントピラートリム93Aに変形部材50が接触する。即ち、変形部材50がエアバッグ10のエネルギーをある程度吸収してから、フロントピラートリム93Aが変形部材50から力を受ける。そのため、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージをより低減して、フロントピラートリム93Aの破損を防止できる。変形部材50を、取付孔55Aを通る中心面CFに対して対称な形状に形成するときには、変形部材50を、車両90の両側のフロントピラー93に取り付けることができる。
【0076】
なお、米国連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standard)のFMVSS226には、膨張展開したエアバッグ10の放出抑制性能に関する試験が定められている。FMVSS226に定められた試験では、頭部を模したヘッドフォームを膨張展開したエアバッグ10に車室内側から車室外側に向けて衝突させて、車外へ突出したヘッドフォームの変位量を測定する。FMVSS226では、ヘッドフォームを衝突させる試験位置(ターゲットロケーション)も、車体レイアウトに対して規定されている。複数の試験位置の中で最も前方に設定される試験位置(最前方試験位置という)は、一般的に、フロントピラー93の下方に設定される場合が多い。
【0077】
本実施形態のエアバッグ10では、下膨張部43のピラー下方部分43Aを、FMVSS226に規定されたエアバッグ10の最前方試験位置の下方に設けている。また、上膨張部42を、エアバッグ10の最前方試験位置の上方に設けている。上膨張部42とピラー下方部分43Aは、それぞれエアバッグ10の最前方試験位置の上方と下方に形成されて、最前方試験位置の上方と下方で車体にオーバーラップする。
【0078】
次に、変形部材50の他の実施形態について説明する。
図11は、他の実施形態の変形部材70を示す図である。図11Aは、変形部材70の正面図である。図11Bは、図11Aの矢印S4方向から見た変形部材70の側面図である。図11Cは、図11Aの矢印S5方向から見た変形部材70の斜視図である。図11Dは、図11Aの矢印S6方向から見た変形部材70の斜視図である。
この変形部材70では、既に説明した変形部材50と同じ構成は、同じ符号を付して説明を省略する。
【0079】
変形部材70内で、図示のように、弱化部71のみが、上記した変形部材50の弱化部58Dと異なる。弱化部71は、スリット状の貫通孔からなる。弱化部71は、基端部58Aの中央に1つ形成されている。
【0080】
このように、変形部材50、70は、種々の形状に形成することができる。また、エアバッグ10も、種々の形状に形成することができる。例えば、フロント気室3の内部を、2つ以上に区画してもよい。後方気室4は、1つ又は3つ以上の気室から構成してもよい。変形部材50、70には、可動面58以外の部分に、剛性を高くする強化部(凸条等)を設けるようにしてもよい。可動面58の基端部58Aに形成した溝を、弱化部にしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1・・・エアバッグ装置、2・・・インフレータ、3・・・フロント気室、3A・・・ガス流入口、4・・・後方気室、10・・・エアバッグ、11・・・前方部、12・・・表基布、13・・・裏基布、14・・・ガス供給口、15・・・外縁接合部、16〜19・・・内部接合部、20・・・連結部材、21〜26・・・固定布、30・・・膨張部、31・・・前膨張部、32・・・後膨張部、33・・・連結膨張部、34・・・非膨張部、35〜39・・・気室、40・・・中間膨張部、41・・・流通部、42・・・上膨張部、43・・・下膨張部、43A・・・ピラー下方部分、43B・・・後方部分、50・・・変形部材、51・・・収納部、52〜54・・・角部、55・・・第1の面、56・・・第2の面、57・・・第3の面、58・・・可動面、58A・・・基端部、58B・・・自由端部、58C・・・突部、58D・・・弱化部、70・・・変形部材、71・・・弱化部、90・・・車両、91・・・側壁、92・・・ルーフレール、92A・・・ヘッドライニング、93・・・フロントピラー、93A・・・フロントピラートリム、93C・・・通過口、94・・・センターピラー、95・・・前部ドア、95A・・・ドアトリム、96・・・後部ドア、97・・・窓部、98・・・窓部、99・・・シール部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内でエアバッグをカーテン状に膨張展開させて、エアバッグにより乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、車両内の上部に沿って取り付けられて、車両の側壁に沿ってエアバッグを膨張展開させる。エアバッグは、カーテン状に展開して、乗員の頭部を受け止めて保護する。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグの下縁を、フロントピラーとリアピラーの間で湾曲させて、頭部の移動を抑制する乗員保護装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、この従来の乗員保護装置では、エアバッグが膨張しながらフロントピラートリムの内部から外部へ展開する。これに伴い、フロントピラートリムが、エアバッグから受ける衝撃により破損する虞がある。また、エアバッグが窓部の開口内で展開するため、乗員を受け止めたときに、エアバッグが動き易い傾向がある。そのため、エアバッグの車外方向への変形を抑えるのは難しく、より確実に乗員を受け止める観点から、改良の余地がある。併せて、エアバッグにより、乗員が車外へ放出されるのをより確実に抑制することも要求されている。
【0004】
これに対し、従来、展開初期にガスが流入しない副膨張部を設けて、エアバッグを、乗員を保護する所定位置に迅速に展開させるエアバッグ装置が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、この従来のエアバッグ装置では、副膨張部は、乗員がエアバッグに接触した後に、ガスが流入して膨張する。そのため、副膨張部で乗員を受け止めるのは難しく、エアバッグの乗員を受け止める領域が狭くなる虞がある。また、乗員がエアバッグに接触したときに、エアバッグが変形し易いため、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能に影響が生じる虞がある。特に、乗員が膨張前の副膨張部に接触したときには、乗員を充分に拘束できずに、乗員の車外方向への移動量が大きくなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−48901号公報
【特許文献2】特開2010−83240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、カーテン状に膨張展開するエアバッグにより乗員を確実に受け止めるとともに、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能を向上させることである。また、他の目的は、エアバッグの膨張展開時に、フロントピラートリムが破損するのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車室内側壁の上部に沿ってフロントピラーまで配置されるエアバッグと、ガスを発生してエアバッグをカーテン状に膨張展開させるインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、フロントピラーに設けられたフロントピラートリム内から車室内に展開するフロント気室と、エアバッグの膨張時にフロントピラーにオーバーラップする上膨張部と、エアバッグの膨張時に車両の前部ドアに設けられたドアトリムにオーバーラップする下膨張部とを有し、フロント気室が、下方の端部に設けられたガス流入口を有し、ガス流入口のみからガスが流入して膨張するエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カーテン状に膨張展開するエアバッグにより乗員を確実に受け止めることができる。また、エアバッグが有する乗員の車外放出を抑制する性能を向上させることができる。エアバッグの膨張展開時に、フロントピラートリムが破損するのを防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図2】変形部材を示す図である。
【図3】展開したエアバッグを示す平面図である。
【図4】展開するエアバッグを示す断面図である。
【図5】展開するエアバッグを示す断面図である。
【図6】車両内で膨張展開したエアバッグを示す図である。
【図7】エアバッグの上膨張部を拡大して示す図である。
【図8】エアバッグの下膨張部を拡大して示す図である。
【図9】乗員を受け止めたエアバッグを示す図である。
【図10】乗員を受け止めたエアバッグを示す図である。
【図11】他の実施形態の変形部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態のエアバッグ装置は、車両内でエアバッグ(カーテンエアバッグ)をカーテン状に展開させるカーテンエアバッグ装置である。エアバッグ装置は、車両内に搭載されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。
【0012】
図1は、本実施形態のエアバッグ装置を示す図である。図1では、車両に搭載したエアバッグ装置を車室内から見て示している。また、車両の側壁とエアバッグ装置を、車両の後方側を省略して、かつ、車両幅方向から見て模式的に示している。エアバッグ装置は、車両の内面を透視して示している。
なお、本発明では、車両における前方と後方を単に前方と後方といい、車両における前後方向を単に前後方向という。また、車両における上方と下方を単に上方と下方といい、車両における上下方向を単に上下方向という。
【0013】
車両90は、図示のように、車室内の側壁91に、上方のルーフレール92、前方のフロントピラー(Aピラー)93、前後方向の中間のセンターピラー(Bピラー)94、及び、後方のリアピラー(Cピラー)(図示せず)を有する。また、車両90は、側壁91に、前方の前部ドア95と、後方の後部ドア96とを有する。前部ドア95は、車両90の最前方に設けられたドアであり、フロントピラー93の下方に位置する。後部ドア96は、車両90の最後方に設けられたドアであり、リアピラーの下方に位置する。側壁91の各部には、トリム、又は、ヘッドライニング92Aの一部が取り付けられている。トリムは、車両90内の表面部材を構成する。ヘッドライニング92Aは、ルーフ(図示せず)とルーフレール92を覆う。ヘッドライニング92Aは、一般的に、トリムの材料よりも剛性が低く変形し易い材料で形成される。側壁91内で、ドア95、96に設けられた窓部97、98が開閉する。
【0014】
エアバッグ装置1は、エアバッグ10と、インフレータ2と、変形可能な変形部材50とを備えている。エアバッグ10は、膨張展開可能に折り畳まれて、車両90内に取り付けられる。その際、エアバッグ10は、例えば、下方の縁(下縁という)から上方の縁(上縁という)に向かって蛇腹状に折り畳まれる。或いは、エアバッグ10は、下縁から上縁に向けて、かつ、側壁91側に巻き付けてロール折りされる。エアバッグ10は、車室内の側壁91の上部(上縁)に沿って、細長く折り畳まれた状態で配置される。また、エアバッグ10は、前後方向に沿ってルーフレール92に取り付けられて、リアピラーからフロントピラー93まで配置される。
【0015】
折り畳まれたエアバッグ10は、車体とトリムとの間、及び、車体とヘッドライニング92Aとの間に配置される。エアバッグ10は、固定手段(図示せず)により、トリム内とヘッドライニング92A内で車体に固定される。エアバッグ10の前方部11は、フロントピラー93に取り付けられる。前方部11は、フロントピラー93における車体とフロントピラートリム93Aとの間(フロントピラートリム93A内)に配置される。
【0016】
インフレータ2は、シリンダタイプのガス発生装置であり、長手方向の一端部にガスの噴出口を有する。インフレータ2は、センターピラー94の上方に配置されて、ルーフレール92に取り付けられる。また、インフレータ2は、固定手段(図示せず)により、ヘッドライニング92A内で車体に固定される。インフレータ2は、車両緊急時や衝撃検知時に、ガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。このガスにより、エアバッグ10を、側壁91の上部から下方に向かってカーテン状に膨張展開させる。
【0017】
変形部材50は、外力により変形する可変部材である。変形部材50は、金属により形成されており、エアバッグ10に押されて塑性変形する。また、変形部材50は、折り畳まれたエアバッグ10を車両90に取り付けるブラケットである。変形部材50は、フロントピラートリム93A内で、エアバッグ10の周囲に配置される。その際、変形部材50は、エアバッグ10を囲むように、エアバッグ10とフロントピラートリム93Aとの間に配置される。変形部材50は、車体に固定されてエアバッグ10を保持する。
【0018】
図2に、変形部材50を拡大して示す。図2Aは、図1に対応する変形部材50の正面図である。図2Bは、図2Aの矢印S1方向から見た変形部材50の側面図である。図2Cは、図2Aの矢印S2方向から見た変形部材50の斜視図である。図2Dは、図2Aの矢印S3方向から見た変形部材50の斜視図である。
変形部材50には、図示のように、金属板を複数箇所で折り曲げることで、エアバッグ10(図2A、2Bに点線で示す)の収納部51が凹状に形成される。
【0019】
変形部材50は、角部52〜54を介在させて連続する第1〜第4の面55〜58を有する。変形部材50は、角部52〜54で第1〜第4の面55〜58が交差するように形成される。第1の面55は、上方に突出する取付面であり、取付孔55Aに挿入されるボルト(図示せず)により、フロントピラー93に取り付けられる。第2〜第4の面56〜58は、変形部材50の本体部を構成する。第2〜第4の面56〜58は、収納部51を区画する区画面であり、内部の収納部51にエアバッグ10を収納する。第2〜第4の面56〜58の境界(角部53、54)は、なだらかに湾曲して形成されている。変形部材50は、取付孔55Aを通る中心面CFに対して、対称な形状に形成されている。
【0020】
第4の面58は、変形部材50の変形時に、他の面55〜57よりも大きく動く面(可動面という)である。可動面58は、フロントピラートリム93A内で、折り畳まれたエアバッグ10の展開方向F(下方)に配置される。また、可動面58は、エアバッグ10の展開方向Fを遮るように、エアバッグ10の下方面に対向して配置される。可動面58は、展開するエアバッグ10に押されて、エアバッグ10の展開方向Fに変位(図2の矢印T)する。これにより、可動面58は、エアバッグ10の展開方向Fの外側へ移動して、展開方向Fを開放する。図2Bに、展開方向Fを開放した可動面58を点線で示す。
【0021】
可動面58は、一端に位置する基端部58Aと、他端に位置する自由端部58Bとを有する。基端部58Aは、第3の面57と可動面58の間に設けられた角部54である。基端部58Aは、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、エアバッグ10の展開方向Fに曲げ変形して、可動面58を展開方向Fに変位(矢印T)させる。自由端部58Bは、可動面58とともに変位して、フロントピラートリム93Aを押し開く。その際、自由端部58Bは、突部58Cによりフロントピラートリム93Aを押す。突部58Cは、板状をなし、展開方向Fに突出するように自由端部58Bに設けられる。
【0022】
変形部材50は、主に基端部58Aを中心に可動面58が変位することで変形する。これにより、エアバッグ10を収納部51内から車室へ向かって展開させる。また、変形部材50は、基端部58Aに設けられた弱化部(低剛性部)58Dを有する。弱化部58Dは、基端部58Aの両側部に形成されたスリットからなる。弱化部58Dは、基端部58Aの曲げに対する剛性を低下させて、基端部58Aを変形し易くする。その結果、基端部58Aは、変形部材50内で最も変形し易くなり、他の角部52、53よりも大きく変形する。変形部材50内で、可動面58以外の面55〜57は大きく変位せず、基端部58Aの先の部分(可動面58)が主に変位する。
【0023】
可動面58の長さ(図2BのG1)は、フロントピラートリム93A内で折り畳まれたエアバッグ10の幅(図2BのG2)よりも長くなっている。可動面58の長さG1は、基端部58Aと自由端部58Bの間の直線距離である。エアバッグ10の幅G2は、車両幅方向の幅である。可動面58は、変形部材50の他の面55〜57よりも長く形成され、収納部51から突出する。自由端部58Bは、エアバッグ10から離れた位置に配置される。以上のようにすることで、エアバッグ10が可動面58に確実に突き当たる。また、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、基端部58Aに、他の角部52、53よりも大きな曲げ応力が発生する。これにより、基端部58Aが変形し易くなる。
【0024】
可動面58の面積は、他の面55〜57の面積よりも大きくなっている。そのため、可動面58は、エアバッグ10から大きな力を受けつつ、エアバッグ10により押される。エアバッグ10は、変形部材50を展開方向Fに変形させて、カーテン状に展開する。
【0025】
図3は、展開したエアバッグ10を示す平面図である。図3では、平面上に拡げたエアバッグ10を示している。
エアバッグ10は、図示のように、平面視矩形状の袋体であり、例えば、樹脂を被覆した布からなる基布により製造される。ここでは、エアバッグ10は、乗員側の表基布(表パネル)12と、側壁91側の裏基布(裏パネル)13とを有する。また、エアバッグ10は、ガス供給口14と、ベルト状の連結部材20と、複数(図3では、6つ)の固定布21〜26とを有する。
【0026】
連結部材20の一端はエアバッグ10の前方端に取り付けられ、他端はフロントピラー93に取り付けられる。エアバッグ10の前方端は、連結部材20により、フロントピラー93に連結される。複数の固定布21〜26は、矩形状をなし、エアバッグ10の上縁に一体に形成されている。また、固定布21〜26は、エアバッグ10の上縁の全体に配置されている。連結部材20と固定布21〜26は、ボルト等からなる固定手段(図示せず)により、フロントピラー93とルーフレール92の所定位置に固定される。
【0027】
表基布12と裏基布13は、同じ形状に形成され、重ね合わせて、外縁接合部15に沿って接合される。エアバッグ10は、外縁接合部15により区画されて、両基布12、13の間に膨張部30が形成される。外縁接合部15は、膨張部30の外縁形状を規定する。基布12、13は、外縁接合部15で、縫製及び接着により接合される。即ち、基布12、13は、外縁接合部15に沿って、1周又は複数周縫製されるとともに、縫製した部分が接着剤によりシールされる。これにより、基布12、13は、外縁接合部15で気密状に接合される。
【0028】
エアバッグ10には、外縁接合部15により、前膨張部31、後膨張部32、及び、連結膨張部33が形成される。膨張部31〜33は、それぞれ平面視矩形状をなし、全体としてエアバッグ10の膨張部30を構成する。前膨張部31は、膨張部31〜33中で前後方向に最も長く形成されて、エアバッグ10内で前方に配置される。前膨張部31は、前部ドア95の窓部97とセンターピラー94の側方で膨張して、主に前席の乗員を受け止める。
【0029】
後膨張部32は、前膨張部31よりも前後方向に短く形成されて、エアバッグ10内で後方に配置される。後膨張部32は、後部ドア96の上方で膨張して、主に後席の乗員を受け止める。連結膨張部33は、他の膨張部31、32よりも上下方向に狭く形成される。連結膨張部33は、エアバッグ10の上縁で、前膨張部31と後膨張部32の間に設けられて、両膨張部31、32を連結する。3つの膨張部31〜33の間には、非膨張部34が、エアバッグ10の下縁から上方に向かって形成される。非膨張部34は、膨張部30の外に設けられているため、エアバッグ10が膨張したときにも、膨張しない状態に維持される。
【0030】
ガス供給口14は、インフレータ2をエアバッグ10内に挿入するための開口部(挿入口)である。ガス供給口14は、前膨張部31の後方端に開口する。基布12、13は、ガス供給口14において、エアバッグ10の上縁から斜め上方に突出し、両側縁が外縁接合部15から連続して接合される。これにより、ガス供給口14は、エアバッグ10の上縁に一体に設けられる。また、ガス供給口14は、エアバッグ10の前後方向の略中間に形成される。
【0031】
インフレータ2は、ガス供給口14からエアバッグ10内に挿入される。例えば、インフレータ2は、ガスを整流するディフューザを設けたガス供給口14内に挿入される。ガス供給口14は、クランプ又はバンド(図示せず)により外側から締め付けられて、インフレータ2に気密状に固定される。インフレータ2は、ガス供給口14内でガスを発生する。ガス供給口14は、インフレータ2が発生するガスをエアバッグ10内へ供給する。ガスは、インフレータ2からエアバッグ10の膨張部30に供給される。ガスは、前膨張部31へ供給されるとともに、連結膨張部33を通して後膨張部32へ供給される。これにより、エアバッグ10が膨張展開する。
【0032】
エアバッグ10は、外縁接合部15(膨張部30)内に、第1〜第4の内部接合部16〜19を有する。基布12、13は、複数の内部接合部16〜19で、縫製及び接着により接合される。内部接合部16〜19は、それぞれ外縁接合部15から膨張部30内へ向かって延び、膨張部30内の先端が環状に接合される。内部接合部16〜19の環状部16A〜19Aは、エアバッグ10の下縁側の外縁接合部15との間に、所定の距離を開けて配置される。複数の内部接合部16〜19は、前後方向に離して配置され、膨張部30内にガスの流通部と気室を形成する。即ち、内部接合部16〜19は、膨張部30を区画する隔壁としての機能を有する。また、内部接合部16〜19は、膨張部30の車両幅方向の膨張を抑制しつつ、エアバッグ10を所定形状に膨張させる。
【0033】
膨張部30は、内部接合部16〜19により、第1〜5の気室35〜39に区画される。第1〜第3の内部接合部16〜18は、前膨張部31内で、上端が外縁接合部15に繋がり、エアバッグ10の上縁側の外縁接合部15から下方に向かって形成される。これにより、前膨張部31には、第1〜第3の気室35〜37が形成される。第1〜第3の気室35〜37は、前方から後方へ順に配置され、それぞれ上部と側部が閉鎖されて、下部のみが開放している。
【0034】
第1の気室35は、フロントピラー93に設けられたフロントピラートリム93A内に配置されるフロント気室3である。フロント気室3は、エアバッグ10の前方部11に形成され、エアバッグ10を車両90に取り付けるときに、フロントピラートリム93A内に収納される。フロント気室3は、エアバッグ10が膨張展開するときに、フロントピラートリム93A内から車室内に展開する。また、フロント気室3は、ガス流入口3Aを有し、ガス流入口3A以外の外縁が閉鎖されている。即ち、フロント気室3は、1つのガス流入口3Aのみが開口するようにエアバッグ10に形成されている。
【0035】
ガス流入口3Aは、フロント気室3の下方の端部に設けられて、フロント気室3に下方からガスを流入させる。また、ガス流入口3Aは、第1の内部接合部16と外縁接合部15との間に位置する非接合部からなる。フロント気室3内で、ガス流入口3Aは、エアバッグ10の下縁に近接して形成される。フロント気室3は、ガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。その結果、フロント気室3は、下方から上方に向かって次第に膨張する。
【0036】
前膨張部31には、中間膨張部40及び流通部41も形成される。中間膨張部40は、ガス供給口14と流通部41の間で膨張する気室である。中間膨張部40は、エアバッグ10の前後方向の中間に設けられている。中間膨張部40は、第3の内部接合部18により、前膨張部31の後方端で、ガス供給口14から下方に向かって形成される。
【0037】
流通部41は、第2と第3の気室36、37の下端を繋いで形成された気室であり、エアバッグ10の下縁に沿って設けられている。流通部41は、第2と第3の内部接合部17、18の環状部17A、18Aと外縁接合部15との間に位置する。流通部41は、中間膨張部40の下部と、前膨張部31の前方端に位置するフロント気室3(第1の気室35)の下部とを連通させる。中間膨張部40とガス流入口3Aは、流通部41により連通する。第2と第3の気室36、37は、中間膨張部40とフロント気室3の間で、流通部41に開口する。第2と第3の気室36、37の下方の端部は、流通部41の途中位置に連通する。
【0038】
ガスは、流通部41を後方から前方へ流れて、中間膨張部40からフロント気室3まで流通する。流通部41は、ガスをフロント気室3の後方から、エアバッグ10の下縁に沿って、ガス流入口3Aまで流通させる。ガスは、中間膨張部40、流通部41、及び、ガス流入口3Aを通って、フロント気室3へ流入する。また、ガスは、流通部41から第2と第3の気室36、37に流入する。
【0039】
第2と第3の気室36、37は、フロント気室3の後方に設けられた後方気室4である。後方気室4は、エアバッグ10を車両90に取り付けるときに、主にヘッドライニング92A内に収納される。後方気室4は、エアバッグ10が膨張展開するときに、ヘッドライニング92A内から車室内に展開する。また、後方気室4は、流通部41の上方に設けられ、流通部41のみからガスが流入する。後方気室4は、下方の流通部41から流入するガスのみにより流通部41の上方で膨張する。その結果、後方気室4は、下方から上方に向かって次第に膨張する。
【0040】
インフレータ2が発生するガスは、ガス供給口14から中間膨張部40へ供給される。前膨張部31内で、ガスは、中間膨張部40から流通部41へ流れて、流通部41を通過する間に、第3の気室37と第2の気室36に下部から流入する。また、ガスは、流通部41を通って、第1の気室35に下部のガス流入口3Aから流入する。
【0041】
中間膨張部40は、最初に膨張を開始して、上部から下部まで膨張する。流通部41は、中間膨張部40に続いて膨張を開始し、中間膨張部40から第1の気室35へ向かって膨張する。気室35〜37は、流通部41に続いて膨張を開始して、流通部41の膨張に伴い膨張する。また、気室35〜37は、ガスの流入する順序に応じて、後方から前方の順に膨張を開始する。第1の気室35は、最後に膨張を開始して、他の気室36、37が膨張を完了した後の所定のタイミングで完全に膨張する。このように、ガスは、エアバッグ10が有する1つ以上(ここでは2つ)の後方気室4とフロント気室3に下方から流入する。後方気室4とフロント気室3は、順にガスが流入し、タイミングをずらして膨張を開始する。フロント気室3は、後方気室4よりも遅く膨張する。
【0042】
後膨張部32には、屈曲する第4の内部接合部19により、第4と第5の気室38、39が形成される。第4と第5の気室38、39は、後膨張部32内で、後方と前方に配置される。第4の気室38は、外縁接合部15に沿って形成されて、連結膨張部33の後方端と第5の気室39の下部に繋がる。インフレータ2が発生するガスは、ガス供給口14から連結膨張部33を通して第4の気室38に流入する。後膨張部32内で、ガスは、第4の気室38を通過して、第5の気室39に下部から流入する。第4と第5の気室38、39は、ガスの流入する順序に応じて順に膨張する。
【0043】
エアバッグ装置1は、車両90に搭載された後、作動信号を受信したときにインフレータ2を作動させて、ガスを発生させる。このガスを、エアバッグ10内の膨張部30へ供給して、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつカーテン状に膨張展開させる。エアバッグ10(図1参照)は、トリムとヘッドライニング92Aを押し開いて、側壁91の上部から下方に向かって展開する。
【0044】
図4、図5は、展開するエアバッグ10を示す断面図である。図4、図5では、エアバッグ10と車両90を、変形部材50の位置で切断し、前方から見て示している。図4A、図4B、図5A、図5Bに、エアバッグ10の展開過程を順に示す。図4、図5を参照して、変形部材50の位置で、エアバッグ10(フロント気室3)が、フロントピラー93から展開する過程を説明する。
エアバッグ10と変形部材50は、図4Aに示すように、車両90に取り付けられたフロントピラートリム93A内に配置される。変形部材50の可動面58とフロントピラートリム93A(先端部93B)の間には、可動面58の基端部58Aから突部58Cまでにわたって、隙間Qが設けられる。フロントピラートリム93Aの先端部93Bは、シール部材99に取り付けられる。シール部材99は、車両90に取り付けられて、窓部97(窓ガラス)の内面をシールする。
【0045】
エアバッグ10が展開を開始すると、図4Bに示すように、変形部材50が、展開するエアバッグ10に押されて変形する。その際、上記したように、可動面58がエアバッグ10から受ける力で、基端部58Aが曲げ変形する。この曲げ変形に伴い、可動面58と自由端部58Bがエアバッグ10の展開方向Fに移動する。自由端部58Bは、フロントピラートリム93Aの先端部93Bに接触して、先端部93Bをシール部材99から外す。変形部材50は、自由端部58Bにより、フロントピラートリム93Aを押して、フロントピラートリム93Aを展開方向Fに押し開く。変形部材50は、フロントピラートリム93Aを変形させて、エアバッグ10の通過口93Cを形成する。
【0046】
通過口93Cは、エアバッグ10を通過させる開口であり、フロントピラートリム93Aとフロントピラー93の間に形成される。可動面58の自由端部58Bが、フロントピラートリム93Aをエアバッグ10の展開方向Fに押し開いて、通過口93Cを形成する。続いて、図5Aに示すように、エアバッグ10のフロント気室3が、通過口93Cを通過して車室に向かって展開する。また、可動面58が、エアバッグ10に押されて展開方向Fを開放し、エアバッグ10が車室内に展開する。変形部材50は、可動面58が展開方向Fに沿うように変形する。基端部58Aは、可動面58がエアバッグ10に干渉しない程度まで変形する。エアバッグ10は、車室内に展開した後、膨張する。
【0047】
展開したエアバッグ10が膨張するときに、図5Bに示すように、変形部材50は、膨張するエアバッグ10に押されて更に変形する。その際、基端部58Aが、より大きく変形して、可動面58の変位量が増加する。変形部材50は、変形に伴い、フロントピラートリム93Aを更に開いて、エアバッグ10の膨張を妨げないように通過口93Cを拡大する。エアバッグ10は、通過口93C内と車室内で、所定の状態(図5B参照)に膨張する。フロントピラートリム93Aは、自由端部58Bの突部58Cに押さえられて、変形後の形状に維持される。エアバッグ10は、変形部材50とフロントピラートリム93Aに妨げられることなく、カーテン状に膨張展開する。
【0048】
図6は、車両90内で膨張展開したエアバッグ10を示す図である。図6では、車両90の側壁91とエアバッグ装置1を、図1に対応させて示している。
エアバッグ10は、図示のように、インフレータ2から供給されるガスにより、側壁91を覆うように、側壁91に沿って展開する。また、エアバッグ10は、ドア95、96まで展開して、窓部97、98を塞ぐ。エアバッグ10は、乗員と側壁91との間で膨張展開し、前席と後席の乗員を受け止めて、乗員の頭部を中心に保護する。
【0049】
その際、前膨張部31では、ガス供給口14から供給されるガスにより、中間膨張部40が最初に膨張を開始する。中間膨張部40は、ヘッドライニング92Aを押し開いて、車室内に展開する。中間膨張部40は、下方に向かって次第に展開して、上部から下部まで膨張する。エアバッグ10は、展開する中間膨張部40により下方に引っ張られる。これにより、中間膨張部40を含むエアバッグ10の中間部分が、ヘッドライニング92A内から引き出されて車室内に展開する。後方気室4は、後方から前方に向かって次第に展開する。続いて、中間膨張部40から流入するガスにより、流通部41が膨張を開始する。
【0050】
流通部41は、車室内で、中間膨張部40からフロント気室3へ向かって膨張する。流通部41内のガスは、後方気室4に下方から流入し、後方気室4を下方から上方に向かって膨張させる。フロント気室3は、流通部41と後方気室4が膨張する間に、流通部41と後方気室4により下方に引っ張られる。同時に、変形部材50が、主にフロント気室3に押されて変形する。変形部材50がフロントピラートリム93Aを押し開いて、通過口93Cが形成される。フロント気室3は、通過口93Cから車室内に展開する。ガスは、流通部41を通って、ガス流入口3Aからフロント気室3に流入する。フロント気室3は、ガス流入口3Aのみからガスが流入して膨張する。
【0051】
ガス流入口3Aは、フロント気室3の下方の端部に設けられているため、フロント気室3には、ガスが、上部や側部から流入せずに、下部のみから流入する。そのため、ガスがエアバッグ10内で下方に達して、エアバッグ10が車室内に引き出された後に、フロント気室3が膨張を開始する。ガスは、エアバッグ10の各部を膨張させつつガス流入口3Aまで流通して、フロント気室3に流入する。また、ガス流入口3Aが車室内に引き出されて展開するまで、フロント気室3へのガスの流入が抑制されるため、フロント気室3の膨張が遅延する。従って、フロント気室3は、エアバッグ10内で遅れて膨張を開始する。フロント気室3は、フロントピラートリム93A内で膨張する前に車室内に引き出されて、車室内に展開した後に膨張を開始する。
【0052】
本実施形態では、流通部41がガス流入口3Aまで膨張する前に、フロント気室3が車室内に展開する。フロント気室3は、膨張せずに薄い状態で、フロントピラートリム93A内から引き出される。また、フロント気室3は、フロンピラートリム3Aを大きく押し開くことなく、通過口93Cから車室内に展開する。そのため、フロントピラートリム93Aの変形が小さくなるとともに、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージも小さくなる。フロント気室3は、フロントピラートリム93Aに割れや破損を発生させずに、円滑に展開する。後方気室4からフロント気室3まで膨張することで、エアバッグ10の全体が膨張する。
【0053】
エアバッグ10の前膨張部31は、フロントピラー93からセンターピラー94までの領域(側壁91の前方領域)で膨張展開する。中間膨張部40は、センターピラー94に沿って展開して、センターピラー94にオーバーラップする。第1〜第3の気室35〜37は、前部ドア95の上方で膨張して、窓部97を覆う。第1の気室35(フロント気室3)は、エアバッグ10内で最前方に位置し、フロントピラー93と前部ドア95との間に配置される。第1の気室35の上縁は、フロントピラー93にオーバーラップする。流通部41は、前後方向に延び、前部ドア95の上縁に沿って配置される。また、流通部41は、前部ドア95に重なるように膨張する。その結果、流通部41の全部又は一部(ここでは、下部)が、前部ドア95のドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0054】
このように、エアバッグ10は、膨張展開したときに車両90にオーバーラップする上膨張部42と下膨張部43とを有する。上膨張部42と下膨張部43は、前膨張部31の一部であり、エアバッグ10の上縁と下縁に設けられる。上膨張部42は、エアバッグ10の膨張時に、フロントピラー93にオーバーラップする。上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aとの間(フロントピラートリム93A内)で膨張する。膨張した上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aにより挟まれる。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、上膨張部42は、フロントピラー93により支えられる。
【0055】
図7に、エアバッグ10の上膨張部42(図7ではハッチングを付す)を拡大して示す。図7は、図6のX領域を示している。図7に示す上膨張部42のHは、フロントピラー93の下縁に沿う長さである。上膨張部42のWは、フロントピラー93とオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
上膨張部42は、図示のように、第1の気室35の所定領域であり、外縁接合部15を含む第1の気室35(フロント気室3)の上縁に設けられる。また、上膨張部42は、長さHがオーバーラップ量Wよりも長くなるように、エアバッグ10に形成される。ここでは、長さHは100mmに設定されている。オーバーラップ量Wは40mmに設定されている。
【0056】
下膨張部43(図6参照)は、エアバッグ10の膨張時に、前部ドア95に設けられたドアトリム95Aにオーバーラップする。下膨張部43は、車室内で膨張して、ドアトリム95Aの表面に接する。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられる。下膨張部43において、エアバッグ10は、下縁の前方部分が他の部分よりも下方に大きく膨張するように形成される。これにより、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、他の部分(後方部分)43Bよりも下方に大きく膨張する。下膨張部43のピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方で膨張する部分である。ピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方に位置するドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0057】
ピラー下方部分43Aは、前膨張部31の一部を部分的に下方に突出させることで、下膨張部43に形成される。ピラー下方部分43Aは、第1の内部接合部16の下方に設けられる。下膨張部43の後方部分43Bは、第2の内部接合部17の下方に設けられる。第1の内部接合部16は、第2の内部接合部17よりも、下方の外縁接合部15から離して形成される。その結果、ピラー下方部分43Aは、他の部分(後方部分43B)よりも車両幅方向に厚く膨張する。ここでは、ピラー下方部分43Aの膨張時の直径R1は105mmに設定されている。直径R1は、第1の内部接合部16の下方の気室が膨張したときの直径である。後方部分43Bの膨張時の直径R2は95mmに設定されている。直径R2は、第2の内部接合部17の下方の気室が膨張したときの直径である。
【0058】
図8に、エアバッグ10の下膨張部43(図8ではハッチングを付す)を拡大して示す。図8は、図6のY領域を示している。図8に示す下膨張部43のL1は、ピラー下方部分43Aがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。下膨張部43のL2は、後方部分43Bがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
【0059】
下膨張部43は、図示のように、流通部41の所定領域であり、外縁接合部15を含む流通部41の下部に設けられる。また、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、他の部分(後方部分43B)よりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。ここでは、ピラー下方部分43Aのオーバーラップ量L1は130mmに設定されている。後方部分43Bのオーバーラップ量L2は50mmに設定されている。以上のとおり、ピラー下方部分43Aは、下膨張部43内で、相対的に下方に大きく膨張するとともに、ドアトリム95Aに相対的に大きくオーバーラップする。
【0060】
エアバッグ10(図6参照)が乗員を受け止めたときに、上膨張部42と下膨張部43は、車両90の車体(フロントピラー93とドアトリム95A)に押し付けられる。フロントピラー93とドアトリム95Aは、上膨張部42と下膨張部43に干渉して、上膨張部42と下膨張部43を押さえる。その結果、上膨張部42と下膨張部43は、車体に支えられて、車外方向への移動が妨げられる。エアバッグ10は、前方において、上膨張部42と下膨張部43により、上縁と下縁が支えられて、車体に保持される。これにより、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、車外方向への変形と移動が抑制される。
【0061】
エアバッグ10は、乗員に押されて車外方向へ変形する。その際、エアバッグ10は、上下の2箇所で車体に支えられるため、変形が小さくなる。エアバッグ10の下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられて、窓部97よりも外側へ移動するのが妨げられる。その結果、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、側壁91を覆うように膨張した状態に維持される。乗員は、車外へ放出されることなく、エアバッグ10により確実に受け止められる。
【0062】
以上のように、エアバッグ装置1は、カーテン状に膨張展開するエアバッグ10により乗員を確実に受け止めることができる。また、エアバッグ10が有する乗員の車外放出を抑制する性能(放出抑制性能という)を向上させることができる。更に、エアバッグ10内で、上膨張部42と下膨張部43が車体にオーバーラップする。そのため、下膨張部43のみを車体とオーバーラップさせるときに比べて、全体として少ないオーバーラップ量で、エアバッグ10の放出抑制性能を向上させることができる。これに伴い、エアバッグ10を小さくできるため、基布の使用量とエアバッグ10のコストを削減できる。従って、エアバッグ装置1を安価で製造できる。
【0063】
本実施形態では、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。そのため、エアバッグ10の前方で、エアバッグ10の上下を強固に支えることができる。ピラー下方部分43Aの上方で乗員を受け止めたときに、エアバッグ10により、乗員の車外放出を確実に抑制できる。このエアバッグ10では、前方に位置する第1の気室35又は第1の内部接合部16の近傍で乗員を受け止めたときに、大きな効果が得られる。後方部分43Bの上方で乗員を受け止めたときにも、エアバッグ10の下縁は、後方部分43B及びピラー下方部分43Aにより車体に支えられるため、車外方向への移動が妨げられる。その結果、エアバッグ10により、乗員の車外放出を抑制できる。ピラー下方部分43Aのみを大きくオーバーラップさせることで、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0064】
下膨張部43のピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも車両幅方向に厚く膨張するため、ピラー下方部分43Aの剛性が高くなる。これにより、エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、ピラー下方部分43Aが変形し難くなる。ピラー下方部分43Aは、変形が抑制されるため、ドアトリム95Aに確実に、かつ、安定して支えられる。従って、エアバッグ10の放出抑制性能を、より向上させることができる。ピラー下方部分43Aのみを厚く膨張させることで、下膨張部43の全体を厚く膨張させるときよりも、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0065】
窓部97、98が開いた状況で、エアバッグ10により乗員を受け止めたときには、エアバッグ10が、窓部97、98の面(窓面という)の外側まで変形することがある。乗員は、窓面を越えて、窓部97、98から車外方向へ飛び出す虞がある。これに対し、エアバッグ10により、乗員が窓面から飛び出す距離を短くして、乗員が車外へ飛び出すのを防止できる。即ち、エアバッグ10により、乗員が窓面から飛び出す距離を所定距離内に抑えて、乗員の車外放出を抑制できる。下膨張部43がドアトリム95Aから外れた場合であっても、下膨張部43がドアトリム95Aに支えられている間に、乗員の移動を充分に止められるため、乗員の車外放出を防止できる。
【0066】
図9と図10は、乗員を受け止めたエアバッグ10を示す図である。図9と図10では、エアバッグ10を図6に対応させて模式的に示している。乗員100は頭部のみ示す。
乗員100(図9参照)をピラー下方部分43Aの上方で受け止めると、エアバッグ10は車外方向へ変形する。ここでは、乗員100は、第1の気室35と第1の内部接合部16の近傍で受け止められる。その際、エアバッグ10は、上膨張部42と下膨張部43により、乗員100の上方と下方で車体に支えられて、上下の縁が車両90内に保持される。そのため、エアバッグ10により乗員100の移動を止めて、乗員100の車外への飛び出しを抑制できる。また、乗員100の車外への放出を防止できる。
【0067】
乗員100(図10参照)を後方部分43Bの上方(ここでは、第2の内部接合部17の近傍)で受け止めたときにも、エアバッグ10は、上膨張部42と下膨張部43により支えられて、上下の縁が車両90内に保持される。そのため、エアバッグ10により乗員100の移動を止めて、乗員100の車外への飛び出しを抑制できる。乗員100の車外への放出も防止できる。
【0068】
エアバッグ10(図6参照)の膨張展開時には、フロント気室3に、下方のガス流入口3Aのみからガスが流入する。そのため、上記したように、フロント気室3の膨張開始を遅らせることができる。フロント気室3を、フロントピラートリム93A内で膨張する前に車室内に引き出すこともできる。これにより、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃を低減させることができる。フロントピラートリム93Aが破損するのを防止することもできる。
【0069】
ガスは、流通部41をガス流入口3Aに向かって流通する間に、後方気室4に流入して後方気室4を膨張させる。その結果、ガスがガス流入口3Aまで達するのが遅くなるため、フロント気室3が、より遅く膨張を開始する。これにより、フロント気室3を膨張前に確実に車室内に引き出せるため、フロントピラートリム93Aの破損を確実に防止できる。
【0070】
中間膨張部40がガス供給口14と流通部41の間で膨張することで、ガスが、流通部41及びガス流入口3Aまで達するのを一層遅らせることができる。流通部41をエアバッグ10の下縁に沿って設けることで、先に膨張するエアバッグ10の下部により、膨張前のフロント気室3が強く引っ張られる。フロント気室3は、膨張開始前に、フロントピラートリム93A内から確実に引き出される。フロントピラートリム93Aは、一般的に、他のピラートリムやヘッドライニング92Aよりも幅が狭く剛性が高いため、破損し易い。これに対し、このエアバッグ装置1によれば、フロントピラートリム93Aを破損させずに、エアバッグ10を円滑に展開させることができる。フロントピラートリム93Aの破片の飛散を防止することもできる。
【0071】
変形部材50(図2、図4、図5参照)は、エアバッグ10に押されて変形することで、エアバッグ10の通過口93Cを形成する。エアバッグ10は、通過口93Cを通って円滑に展開する。その際、変形部材50により、展開するエアバッグ10のエネルギーを吸収できるため、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージを低減することができる。フロントピラートリム93Aの破損も確実に防止できる。
【0072】
展開したエアバッグ10が膨張するときに、変形部材50が、膨張するエアバッグ10に押されて更に変形する。変形部材50は、エアバッグ10及びフロント気室3が所望の状態に膨張するのを妨げないように、通過口93Cを拡大する。これにより、エアバッグ10が、変形部材50に妨げられずに、所定の形状及び大きさに膨張する。その結果、エアバッグ10の剛性が変動するのを防止できる。エアバッグ10は、高い放出抑制性能を発揮する。
【0073】
変形部材50内で、可動面58が、基端部58Aの曲げ変形により変位して、自由端部58Bによりフロントピラートリム93Aを押し開く。この可動面58により、エアバッグ10の通過に合わせて、フロントピラートリム93Aを正確に押し開いて、通過口93Cをエアバッグ10の展開方向Fに形成できる。可動面58の長さG1がエアバッグ10の幅G2よりも長いため、エアバッグ10が可動面58に確実に突き当たる。また、可動面58がエアバッグ10に押されたときに、基端部58Aに大きな曲げ応力が発生するため、基端部58Aが大きく変形する。そのため、可動面58を展開方向Fの外側まで確実に移動させて、エアバッグ10を円滑に展開させることができる。エアバッグ10は、変形部材50に干渉されずに通過口93Cから展開して、車室内で正確に膨張展開する。これにより、エアバッグ10の性能を安定して確保できる。
【0074】
可動面58の基端部58Aに弱化部58Dを設けることで、基端部58Aの曲げに対する剛性を低下させることができる。その結果、基端部58Aが、より変形し易くなるため、エアバッグ10をより円滑に展開させることができる。可動面58を他の面55〜57よりも長く形成するときには、基端部58Aを他の角部52、53よりも変形し易くすることができる。可動面58の面積を大きくすると、可動面58がエアバッグ10から受ける力が大きくなる。これにより、展開するエアバッグ10から、より大きなエネルギーを吸収できるため、フロントピラートリム93Aが受けるダメージを一層低減できる。
【0075】
可動面58とフロントピラートリム93A(先端部93B)の間には、可動面58の基端部58Aから突部58Cまでにわたって、隙間Qが設けられる。そのため、エアバッグ10の展開初期には、変形部材50のみがエアバッグ10から力を受ける。この力により、変形部材50がある程度変形してから、フロントピラートリム93Aに変形部材50が接触する。即ち、変形部材50がエアバッグ10のエネルギーをある程度吸収してから、フロントピラートリム93Aが変形部材50から力を受ける。そのため、フロントピラートリム93Aが受ける衝撃とダメージをより低減して、フロントピラートリム93Aの破損を防止できる。変形部材50を、取付孔55Aを通る中心面CFに対して対称な形状に形成するときには、変形部材50を、車両90の両側のフロントピラー93に取り付けることができる。
【0076】
なお、米国連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standard)のFMVSS226には、膨張展開したエアバッグ10の放出抑制性能に関する試験が定められている。FMVSS226に定められた試験では、頭部を模したヘッドフォームを膨張展開したエアバッグ10に車室内側から車室外側に向けて衝突させて、車外へ突出したヘッドフォームの変位量を測定する。FMVSS226では、ヘッドフォームを衝突させる試験位置(ターゲットロケーション)も、車体レイアウトに対して規定されている。複数の試験位置の中で最も前方に設定される試験位置(最前方試験位置という)は、一般的に、フロントピラー93の下方に設定される場合が多い。
【0077】
本実施形態のエアバッグ10では、下膨張部43のピラー下方部分43Aを、FMVSS226に規定されたエアバッグ10の最前方試験位置の下方に設けている。また、上膨張部42を、エアバッグ10の最前方試験位置の上方に設けている。上膨張部42とピラー下方部分43Aは、それぞれエアバッグ10の最前方試験位置の上方と下方に形成されて、最前方試験位置の上方と下方で車体にオーバーラップする。
【0078】
次に、変形部材50の他の実施形態について説明する。
図11は、他の実施形態の変形部材70を示す図である。図11Aは、変形部材70の正面図である。図11Bは、図11Aの矢印S4方向から見た変形部材70の側面図である。図11Cは、図11Aの矢印S5方向から見た変形部材70の斜視図である。図11Dは、図11Aの矢印S6方向から見た変形部材70の斜視図である。
この変形部材70では、既に説明した変形部材50と同じ構成は、同じ符号を付して説明を省略する。
【0079】
変形部材70内で、図示のように、弱化部71のみが、上記した変形部材50の弱化部58Dと異なる。弱化部71は、スリット状の貫通孔からなる。弱化部71は、基端部58Aの中央に1つ形成されている。
【0080】
このように、変形部材50、70は、種々の形状に形成することができる。また、エアバッグ10も、種々の形状に形成することができる。例えば、フロント気室3の内部を、2つ以上に区画してもよい。後方気室4は、1つ又は3つ以上の気室から構成してもよい。変形部材50、70には、可動面58以外の部分に、剛性を高くする強化部(凸条等)を設けるようにしてもよい。可動面58の基端部58Aに形成した溝を、弱化部にしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1・・・エアバッグ装置、2・・・インフレータ、3・・・フロント気室、3A・・・ガス流入口、4・・・後方気室、10・・・エアバッグ、11・・・前方部、12・・・表基布、13・・・裏基布、14・・・ガス供給口、15・・・外縁接合部、16〜19・・・内部接合部、20・・・連結部材、21〜26・・・固定布、30・・・膨張部、31・・・前膨張部、32・・・後膨張部、33・・・連結膨張部、34・・・非膨張部、35〜39・・・気室、40・・・中間膨張部、41・・・流通部、42・・・上膨張部、43・・・下膨張部、43A・・・ピラー下方部分、43B・・・後方部分、50・・・変形部材、51・・・収納部、52〜54・・・角部、55・・・第1の面、56・・・第2の面、57・・・第3の面、58・・・可動面、58A・・・基端部、58B・・・自由端部、58C・・・突部、58D・・・弱化部、70・・・変形部材、71・・・弱化部、90・・・車両、91・・・側壁、92・・・ルーフレール、92A・・・ヘッドライニング、93・・・フロントピラー、93A・・・フロントピラートリム、93C・・・通過口、94・・・センターピラー、95・・・前部ドア、95A・・・ドアトリム、96・・・後部ドア、97・・・窓部、98・・・窓部、99・・・シール部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内側壁の上部に沿ってフロントピラーまで配置されるエアバッグと、ガスを発生してエアバッグをカーテン状に膨張展開させるインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、フロントピラーに設けられたフロントピラートリム内から車室内に展開するフロント気室と、エアバッグの膨張時にフロントピラーにオーバーラップする上膨張部と、エアバッグの膨張時に車両の前部ドアに設けられたドアトリムにオーバーラップする下膨張部とを有し、
フロント気室が、下方の端部に設けられたガス流入口を有し、ガス流入口のみからガスが流入して膨張するエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、ガスをフロント気室の後方からガス流入口まで流通させる流通部と、フロント気室の後方に設けられて流通部から流入するガスのみにより流通部の上方で膨張する1つ以上の後方気室とを有するエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたエアバッグ装置において、
流通部が、エアバッグの下縁に沿って設けられたエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、インフレータが発生するガスをエアバッグ内へ供給するガス供給口と、ガス供給口と流通部の間で膨張する中間膨張部とを有するエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
フロントピラートリム内に配置され、展開するエアバッグに押されて変形してフロントピラートリムを押し開き、エアバッグの通過口を形成する変形部材を備えたエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、展開したエアバッグが膨張するときに、膨張するエアバッグに押されて変形して通過口を拡大するエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、エアバッグの展開方向に配置され、展開するエアバッグに押されてエアバッグの展開方向を開放する可動面を有し、
可動面が、エアバッグの展開方向に曲げ変形して可動面を変位させる基端部と、フロントピラートリムをエアバッグの展開方向に押し開く自由端部とを有するエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
可動面の基端部と自由端部の間の長さが、フロントピラートリム内で折り畳まれたエアバッグの幅よりも長いエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、可動面の基端部に設けられて基端部の曲げに対する剛性を低下させる弱化部を有するエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
下膨張部内で、フロントピラーの下方で膨張するピラー下方部分が、他の部分よりも大きくドアトリムとオーバーラップするエアバッグ装置。
【請求項11】
請求項10に記載されたエアバッグ装置において、
下膨張部のピラー下方部分が、前記他の部分よりも車両幅方向に厚く膨張するエアバッグ装置。
【請求項1】
車室内側壁の上部に沿ってフロントピラーまで配置されるエアバッグと、ガスを発生してエアバッグをカーテン状に膨張展開させるインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、フロントピラーに設けられたフロントピラートリム内から車室内に展開するフロント気室と、エアバッグの膨張時にフロントピラーにオーバーラップする上膨張部と、エアバッグの膨張時に車両の前部ドアに設けられたドアトリムにオーバーラップする下膨張部とを有し、
フロント気室が、下方の端部に設けられたガス流入口を有し、ガス流入口のみからガスが流入して膨張するエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、ガスをフロント気室の後方からガス流入口まで流通させる流通部と、フロント気室の後方に設けられて流通部から流入するガスのみにより流通部の上方で膨張する1つ以上の後方気室とを有するエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたエアバッグ装置において、
流通部が、エアバッグの下縁に沿って設けられたエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、インフレータが発生するガスをエアバッグ内へ供給するガス供給口と、ガス供給口と流通部の間で膨張する中間膨張部とを有するエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
フロントピラートリム内に配置され、展開するエアバッグに押されて変形してフロントピラートリムを押し開き、エアバッグの通過口を形成する変形部材を備えたエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、展開したエアバッグが膨張するときに、膨張するエアバッグに押されて変形して通過口を拡大するエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、エアバッグの展開方向に配置され、展開するエアバッグに押されてエアバッグの展開方向を開放する可動面を有し、
可動面が、エアバッグの展開方向に曲げ変形して可動面を変位させる基端部と、フロントピラートリムをエアバッグの展開方向に押し開く自由端部とを有するエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
可動面の基端部と自由端部の間の長さが、フロントピラートリム内で折り畳まれたエアバッグの幅よりも長いエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載されたエアバッグ装置において、
変形部材が、可動面の基端部に設けられて基端部の曲げに対する剛性を低下させる弱化部を有するエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
下膨張部内で、フロントピラーの下方で膨張するピラー下方部分が、他の部分よりも大きくドアトリムとオーバーラップするエアバッグ装置。
【請求項11】
請求項10に記載されたエアバッグ装置において、
下膨張部のピラー下方部分が、前記他の部分よりも車両幅方向に厚く膨張するエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−188050(P2012−188050A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54727(P2011−54727)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
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