説明

エアバッグ

【課題】接着シール材の量を減らし、軽量で、収納性に優れ、かつ、ガスリークを発生させない、性能的に安定したエアバッグを提供する。
【解決手段】2枚のパネルを、室温硬化型の接着シール材で接合してなるエアバッグにおいて、該接着シール材が、25℃の条件下で円形ノズルから吐出し、基材に付与された直後の接着シール材厚さをH、付与後10分間放置したときの接着シール材厚さをH10としたときに、以下の式1を満たし、さらに、他の基布を重ねて所定の厚さHBHまで圧着し、硬化した後の接着シール材の厚さをHAHとしたときに、以下の式2を満たすものであり、
10/H≧0.8 (式1)
AH/HBH≧0.8(式2)
該2枚のパネルに挟まれて硬化した後の接着シール材の幅WAHと厚さHAHとが、以下の式3および4を満たすエアバッグ。
AH≧1.0(mm)(式3)
AH/HAH≦7 (式4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに装着され、衝突や横転などの衝撃から乗員を保護するためのエアバッグに関する。さらに詳しくは、長期にわたって優れた気密性を有するとともに、軽量で、コストおよび生産性に優れたエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エアバッグとして、前面衝突に対応する運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、後席用エアバッグが装着されるようになって久しい。また、近年では、側面衝突に対応するサイドエアバッグやカーテンエアバッグの装着が増加している。これらのなかでも特に、車両の横転に対応するカーテンエアバッグが注目されており、これには、車両が横転している数秒間にわたって、乗員の頭部への衝撃を吸収するための内圧保持が求められている。これらの様々な形態、要求性能のエアバッグに対応するため、気密性を高めて膨張持続時間を長くすることができるエアバッグが開発されている。
【0003】
縫合によって形成されるカーテンエアバッグは、その縫い目部からガスが漏れる為、通常、弾性の接着シール材が併用されている。
このような、ガスリークを防止するために用いられる弾性接着シール材は、理想的には縫合部の周りのみにあればよく、量および塗布幅を極力少なくすることが望まれる。塗布幅が多くなると、使用する接着シール材量が増えるため、材料コストがかかる上、バッグの収納性や展開容量に影響する。さらに、塗布幅を考慮して織物の裁断形状を大きくすると、織物の材料コストも高くなり望ましくない。
しかしながら、接着シール剤の量を少なくすると、塗布幅を少なくすることができるものの、同時に接着シール材の厚さも少なくなる。この場合、エアバッグの膨張時にインフレータから発生するガスの圧力に耐えきれず、織布から剥離して縫製部を保護できなくなり、当初のガスリーク防止の目的を達成できなくなる。長時間の内圧保持が求められるカーテンエアバッグにとって、ガスリークは極めて深刻な問題である。
接着シール材の厚さを大きくしようとすると、それに伴ってシール幅も広くせざるを得ず、塗布量を減らすことが出来ない。そのため、接着シール材の使用量やシール幅を減らし、且つ性能を満足する厚みを確保することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、25℃におけるチクソトロピー指数が1.5〜6である室温硬化型接着シール材を使用することで、接着シール材の変形が少なく、寸法精度の高いエアバッグを得ることが記載されている。しかし、チクソトロピー指数を特定の範囲としても、接着シール材にある程度の厚さをもたせる場合には、やはり硬化反応中におけるダレを抑制することはできず、バラツキが生じてしまう。
【0005】
特許文献2には、シリコーン系目止め用コーティングを施した織布などからなる2枚のパネルの縁部同士を、弾性接着剤による接着と、糸による縫合とにより結合することにより、結合部からのガスリークを防止したエアバッグが開示されている。しかし、前記接着剤を、幅5〜15mm、塗布量0.01〜0.05g/cm程度で塗布することが記載されているのみであり、厚さについては開示されていない。さらに、硬化反応中における接着剤のダレについて考慮されておらず、もちろんダレを抑制することについて開示も示唆もない。
【0006】
さらに、特許文献3および4にも、接着剤の塗布厚さ、幅および塗布量などが記載されているが、硬化反応中における接着剤のダレについて考慮されておらず、もちろんダレを抑制することについて開示も示唆もない。
【0007】
【特許文献1】特開2007−38694号公報
【特許文献2】特開2001−1854号公報
【特許文献3】特開2002−166806号公報
【特許文献4】特開2006−327521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、接着シール材の量を減らし、軽量で、収納性に優れ、かつ、ガスリークを発生させない、性能的に安定したエアバッグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、接着シール材として、形状安定性を有するものを使用し、かつ、その塗布厚さおよび幅を特定の範囲にすることで、軽量で、収納性に優れ、且つガスリークを発生させない、性能的に安定した極めて優れたエアバッグを提供することができることを見出して、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、2枚のパネルを、室温硬化型の接着シール材で接合してなるエアバッグにおいて、該接着シール材が、25℃の条件下で円形ノズルから吐出し、基布に付与された直後の接着シール材厚さをH、付与後10分間放置したときの接着シール材厚さをH10としたときに、以下の式1を満たし、さらに、他の基布を重ねて所定の厚さHBHまで圧着し、硬化した後の接着シール材の厚さをHAHとしたときに、以下の式2を満たすものであり、
10/H≧0.8 (式1)
AH/HBH≧0.8 (式2)
該2枚のパネルに挟まれて硬化した後の接着シール材の幅WAHと厚さHAHとが、以下の式3および4を満たすエアバッグに関する。
AH≧1.0(mm) (式3)
AH/HAH≦7 (式4)
【0011】
前記幅WAHと厚さHAHとが、以下の式5を満たすことが好ましい。
AH×HAH≦9(mm) (式5)
【0012】
前記幅WAHが、以下の式6を満たすことが好ましい。
AH≦7(mm) (式6)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着シール材として形状安定性を有するものを使用することにより、塗布幅を広げることなく、少ない塗布量であっても、接着シール材を十分な厚さで均一に硬化させることができ、さらに、その厚さおよび幅を特定の範囲とすることにより、軽量性、収納性、ガスリーク抑制が向上したエアバッグを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、所望のエアバッグ形状に裁断されたパネル1上に、ノズル3から吐出された接着シール材2を塗工している概略平面図である。
【0015】
<パネル>
本発明で使用されるパネルは、繊維糸条を用いて製織される織物、繊維糸条を用いて製編される編物および不織布などの布帛(以下、基布と称する場合もある)をエアバッグの形状に裁断したものである。
【0016】
用いられる繊維としては、例えば、ナイロン6、66および46などのポリアミド繊維、パラフェニレンテレフタルアミドと芳香族エーテルとの共重合体などに代表される芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、超高分子量ポリエチレンなどのポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、パラフェニレンサルフォンおよびポリサルフォンなどのサルフォン系繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルイミド繊維およびポリイミド繊維などの有機繊維、および、ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維および金属繊維などの無機繊維などがあげられ、これらを単独または併用して使用しても良い。なかでも、製造が容易で、かつ耐熱性に優れるという理由により、ポリアミド繊維およびポリエステル繊維が好ましく、耐衝撃性に優れ、熱容量が大きいという理由によりポリアミド繊維がより好ましい。
【0017】
これら繊維には、耐熱向上剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤などを含有させてもよい。
【0018】
また、繊維布帛は精練および熱処理を施されたものであってもよい。
【0019】
その他、糸条の形態、繊度、布帛の密度、目付なども特に限定されず、エアバッグ用として通常用いられているものを適宜選択すればよい。
【0020】
たとえば、前記繊維布帛の組織が織物の場合は、平織、朱子織、綾織、パナマ織および袋織などがあげられ、編物の場合は、経編および丸編などがあげられる。なかでも、布帛の伸度および強度の点から織物が好ましい。なかでも、機械的強度に優れ、厚さを薄くできるという点で織物が好ましく、平織組織であることがより好ましい。
【0021】
また、使用される繊維の単糸強度は、エアバッグとしての物理的特性を満足させるために5.4cN/デシテックス以上であることが好ましい。
【0022】
これら繊維の総繊度は、155〜500デシテックスであることが好ましい。155デシテックス未満では布帛の強度を維持することができないおそれがあり、500デシテックスより大きくなると、基布の厚みが増大し、バッグの収納性が悪くなるおそれがある。
【0023】
また、これら合成繊維の単繊維の断面形状は、丸、扁平、三角、長方形、平行四辺形、中空、星型など特に限定されるものではないが、生産性やコスト面からは丸断面のものが好ましく、また、基布の厚みを薄くでき、バッグの収納性がよくなるという点では、扁平断面のものが好ましい。
【0024】
前記布帛が織物である場合のカバーファクターは、1500〜2500であることが好ましい。カバーファクターが1500より小さいと、織物の開口部が大きくなるためバッグの気密性を得ることが困難となり、またカバーファクターが2500より大きいと、織物の厚みが増大し、バッグの収納性が悪くなるおそれがある。ここで、カバーファクターとは基布のタテ糸総繊度をD(dtex)、タテ糸密度をN(本/2.54cm)とし、ヨコ糸総繊度をD(dtex)、ヨコ糸密度をN(本/2.54cm)とすると(D×0.9)1/2×N+(D×0.9)1/2×Nで表される。
【0025】
これらの布帛は、耐熱性の向上および通気度の低下を目的として、少なくとも片面が樹脂などによりコーティングされていてもよい。コーティング面はエアバッグの内側、外側のいずれであっても構わないが、エアバッグ基布に外力が加わっても、コーティング膜の損傷が抑えられるという理由により、被覆面を内側にすることが好ましい。
【0026】
コーティングに用いられる樹脂としては、例えば、クロロプレンゴム、ハイバロンゴム、フッ素ゴムなどの含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン三元共重合ゴム、ニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム類、および、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂およびフッ素樹脂などの含ハロゲン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、オレフィン樹脂およびシリコーン樹脂などの樹脂類があげられ、これらは単独または併用して使用される。なかでも、可撓性、耐熱性および耐候性に優れる点で、シリコーンゴムおよびシリコーン樹脂が好ましい。
【0027】
さらに、エアバッグを滑らかに展開させる目的で、前記コーティング樹脂膜の摩擦を低減する処理を行なっても良い。前記処理としては、具体的には、コーティング樹脂膜にタルク等の微粉体を塗布する方法、コーティング樹脂に有機チタン化合物等の硬化後の粘着性を低減する物質を配合してコーティングをおこなう方法、および、コーティング樹脂膜にエンボス加工装置などを用いて凹凸を付与する方法などがあげられる。
【0028】
コーティング方法としては、ナイフコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ラミネートなどの方式が挙げられる。
【0029】
また、コーティング樹脂の塗布量としては、5〜60g/mが好ましい。塗布量が5g/mより少ないと織物の通気性が高くなりバッグの気密性に問題が発生するおそれがあり、また、コーティング層から基布繊維が一部出ることにより、接着シール材との接着性が悪くなるおそれもある。塗布量が60g/mより多いと、織物の厚みが厚くなってバッグの収納性に問題が発生するおそれがある。
【0030】
さらに本発明においては、エアバッグを滑らかに展開させる目的で、シリコーンコーティング樹脂膜の摩擦を低減する処理をおこなうことが好ましい。シリコーンコーティング樹脂膜の摩擦を低減する処理については、具体的には、シリコーンコーティング樹脂膜にタルク等の微粉体を塗布する方法、シリコーンコーティング樹脂に有機チタン化合物等の硬化後の粘着性を低減する物質を配合してコーティングをおこなう方法、またはシリコーンコーティング樹脂膜にエンボス加工装置などを用いて凹凸を付与する方法などが挙げられる。
【0031】
<裁断>
前記布帛を所定のエアバッグ形状に裁断して、パネル1が作製される。裁断方法は、ナイフ、レーザー溶融、ウォータージェットなどから適宜選択される。また、裁断されたパネル1は、裁断くずを完全に取り除き、シワがつかないように平面置きしておくことが好ましい。
【0032】
<接着シール材の付与>
接着シール材2は、ポンプで送液され、ノズル3を介してパネル1上に吐出される。ノズル3の口形は特に限定されないが、なかでも、X軸およびY軸の全方向に塗工する際、ノズルの向きを移動方向に合わせて回転させる必要がないことなどから、円形が好ましい。ノズル3の口径は、塗布したい接着シール材の径と同じかそれより大きい物を選定する。また、接着シール材2が、2液以上の液を混合して硬化させるタイプの場合、ノズル3には、内部に混合するためのミキサーを取り付けたタイプを使用する。
【0033】
図2に、図1のC−C線における、吐出直後の接着シール材2の模式断面図を示す。ノズル3としては、円形のものを用いている。符号H(=W)は、接着シール材2の断面直径である。
【0034】
なお、図1では、ノズルを介して接着シール材を付与しているが、これに限定されるものではなく、スクリーンで印写する方法、彫刻ロールで転写する方法、ダイキャストで付与する方法などを採用することもできる。
【0035】
<接着シール材>
本発明で使用される接着シール材2は、パネルとの接着性を考慮して、シリコーン系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリアミド系接着剤、ニトリルゴム系接着剤およびポリサルファイド系接着剤などから適宜選定すればよく、熱可塑性のものであっても熱硬化性のものであってもよい。また、その硬化機構としては、室温湿気硬化型、室温縮合反応型、室温付加反応型、加熱硬化型または電子線硬化型などのものが挙げられるが、加熱などのエネルギーが不要であり、環境面や生産コスト面で有利であるため、本発明においては、室温硬化型接着剤を用いる。
【0036】
なかでも、パネルがシリコーン樹脂で被覆されている場合は、シリコーン系であることが好ましく、ウレタン樹脂で被覆されている場合には、ウレタン系であることが好ましい。
【0037】
また、室温硬化型シリコーン系接着シール材としては、縮合反応型および付加反応型などがあるが、硬化が均一に進む点で、付加反応型が好ましい。なお、縮合反応型は、外気と接触している部分に対して、内部の硬化に時間がかかる。
【0038】
前記接着シール材の形態としては、1液硬化タイプ、2液混合硬化タイプ、3液以上の混合タイプがあるが、保存安定性および保管管理の点で、1液よりも2液混合硬化タイプであることが好ましい。
【0039】
また、前記接着シール材の硬化前の粘度は、25℃において300Pa・s以上であることが好ましく、400Pa・s以上であることがより好ましい。粘度が300Pa・sより小さいと、吐出がしやすくなるが、吐出始めや、吐出終わりの液量のコントロールが難しくなる傾向がある。また、上限は、900Pa・sである。
【0040】
本発明では、以下の方法で評価したときに、式1を満たす接着シール材を使用することを特徴としている。
【0041】
すなわち、接着シール材を25℃の条件下で円形ノズルから前記基布に吐出し、その基布に付与された直後の接着シール材厚さをH、付与後10分間放置したときの接着シール材厚さをH10としたときに、以下の式1を満たす。
10/H≧0.8 (式1)
【0042】
ここで、図3に示すように、円形ノズルから基材に付与された直後、図1におけるA−A線での接着シール材2の断面は、その厚さHと幅Wとがほぼ同じ円形である。
【0043】
時間の経過に伴い、室温硬化型の接着シール材は硬化し始めるが、液状であるため、その間にも円形の断面は徐々につぶれて楕円形状を示すようになる。
【0044】
そして、付与後10分間放置したときの接着シール材の形状は、たとえば図4に示すように、厚さH10に対して幅W10の大きい楕円形状となる。
【0045】
このとき、本発明で使用する接着シール材は、基布に付与された直後の接着シール材厚さHと、付与後10分間放置したときの接着シール材厚さH10とが、
10/H≧0.8 (式1)
の関係を満たすものである。H10/Hは、0.85以上であることが好ましい。また、この上限は1である。
【0046】
10/Hが0.8以上であるということは、付与後10分間放置した場合であっても、接着シール材は付与直後の形状をよく保持していることを示しており、形状安定性に優れているといえる。
【0047】
なお、本発明では、通常、接着シール材がエアバッグ用のパネルに付与されてから、次の圧着工程に入るまでにかかる時間を想定して、付与後10分間放置したときの接着シール材の形状を考慮しているが、圧着工程に入るまでに、必ず10分の放置をしなければならないわけではない。
【0048】
さらに、付与後10分間放置したときの接着シール材の厚さH10と幅W10とが、
10/(W10−H10)≧3.5 (式7)
を満たしていることが好ましい。
【0049】
10/(W10−H10)が3.5以下であるということは、付与後10分間放置した場合であっても、つぶれが少なく、接着シール材は付与直後の形状をよく保持していることを示しており、形状安定性に優れているといえる。W10/(W10−H10)は、4.0以上であることが好ましい。
【0050】
なお、前記Hは、使用した円形ノズルの直径とみなすことができ、前記W10および厚さH10は、付与10分後の接着シール材について、5箇所測定したときの平均値である。
【0051】
つまり、式1を満たす接着シール材は、ダレにくく、均一な厚さを保持することができるのである。式1を満たさないということは、吐出後、極めて短時間のうちに接着シール材がダレてしまっているということであり、これに続く圧着工程の間にも、硬化するまで接着シール材の厚さはどんどん小さくなる。その結果、所望の接着シール材厚さより低くなってしまう。また、パネルの重みやシワの影響を受けやすいため、厚さがばらつき、厚さの小さい部分からのガスリークが生じることになる。さらには、この厚さのバラツキにより、2枚のパネルが凹凸形状に波打ち、折りたたみ性にも支障が生じる。
【0052】
<圧着>
本発明のエアバッグは、図5に示すように、式1を満たす接着シール材2を使用して、2枚のパネル1(図示せず)および4を接合してなる。具体的には、たとえば、スペーサーにより所定の間隔に制御される2枚の天板で挟み込むことにより圧着するか、または、天板に対して所定の高さに制御されている圧着ローラーにより圧着して、接合される。なお、パネル4は、パネル1と略同一の形状をしている。
【0053】
<圧着後の接着シール材形状>
しかし、前記圧着工程の時点では、もちろん接着シール材の硬化は完了しておらず、通常、24時間の養生が行われる。そして、この養生の間にも、接着シール材のダレが生じるため、所定の厚さに圧着されたにもかかわらず、実際の厚さはそれよりも小さくなり、エアリークが生じる原因となっていた。
【0054】
図6に、2枚のパネル1および4を圧着した直後の、図5におけるB−B線での断面図を示す。硬化前の接着シール材2は、それ自身のダレおよびパネルの重みなどにより、側部表面が撓んでいる。また、図7に、硬化後のB−B線での断面図を示す。なお、接着シール材の硬化は、指でつぶれないことにより判断することができる。硬化後の幅WAHは、ダレやパネルの重みなどにより、さらに広がる。
【0055】
本発明で使用される接着シール材は、前記式1に加えて、圧着時に設定される厚さHBHと硬化後の実際の厚さHAHとが、下記式2を満たすものである。
AH/HBH≧0.8 (式2)
【0056】
式2を満たすことにより、設定した厚さと硬化後の実際の厚さがほぼ等しいため、均一な所望の厚さで2枚のパネルを接合することができ、ガスリークを防ぐことができる。さらに、ダレによる厚さの減少を考慮して、過剰の接着シール材を付与することを必要としないため、エアバッグの軽量化、収納性アップにも寄与する。なお、HAH/HBHは、0.9以上であることが好ましい。
【0057】
ここで、軽量性、収納性を向上させ、且つガスリークを抑制するには、接着シール材の形状安定性と同時に、硬化した後の接着シール材そのものの形状も重要な因子である。すなわち、硬化した後の接着シール材の幅WAHと厚さHAHとが、以下の式3および4を満たすものである。
AH≧1.0(mm) (式3)
AH/HAH≦7 (式4)
【0058】
なお、接着シール材の幅WAHおよび厚さHAHは、硬化後の接着シール材について、5箇所測定したときの平均値である。
【0059】
前記接着シール材の厚さHAHは1mm以上である。好ましくは、1.2mm以上である。前記厚さHAHが1mmより小さいと、エアバッグの膨張時、インフレータからの発生ガス圧に耐えきれず、接着シール材がパネルから剥離して縫製部を保護できなくなり、ガスリークを引き起こす。また、その上限は、とくに限定されないが、収納性を考慮すると、3mm以下であることが好ましい。
【0060】
本発明で使用する接着シール材は、前記の通り、形状安定性に優れるものであるので、硬化後の厚さのバラツキが少ない。エアバッグの製造に関わる場合、一般に厚さのバラツキ、すなわち、最大の厚さと最小の厚さとの差が±0.6mm以内であれば許容であるが、前記式を満たす接着シール材を使用する場合は、バラツキをそれより小さくすることができる。
【0061】
また、硬化後の接着シール材の幅WAHと厚さHAHとの比(WAH/HAH)は、7以下とする。好ましくは、6以下である。前記比が7より大きいと、厚みに対して幅が広すぎるため、接着シール材の使用量が増え、材料コストが高くなる。前記比が7以下であると、厚さHAHが1.5mmを超えた場合であっても、収納性を損なわない。また、その下限はとくに限定されないが、1に近い方が好ましい。
【0062】
さらに、前記幅WAHと厚さHAHとが、以下の式5を満たすことが好ましい。
AH×HAH≦9(mm) (式5)
これにより、接着シール材の量が減少し、収納性およびコスト性に優位なバックになる。前記WAH×HAH(接着シール材の断面積)が9mmをこえると、接着シール材が、ガスリーク抑制の目的に対して過剰に付与されている可能性があり、軽量性、収納性、コスト性に劣る傾向にある。前記接着シール材の断面積は、7mm以下であることがより好ましい。
【0063】
さらにまた、前記幅WAHが、以下の式6を満たすことが好ましい。
AH≦7(mm) (式6)
幅WAHが7mmより大きいと、折りたたみ性が低下する傾向にある。前記幅WAHは、6mm以下であることがより好ましい。
【0064】
<縫製>
圧着の後、前記接着シール材の硬化が完了すると、2枚のパネルは接合するが、エアバッグとしてのより強固な接合を求める場合には、接合部(すなわち、接着シール材上)を縫製糸により縫合してもよい。接合部の縫製については、公知の条件で行えばよく、とくに限定されるものではない。なお、接着シール材による前記接合の工程後、直ちに縫製を行うことは、工程時間短縮の点で好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、評価方法は次の通りである。
【0066】
<接着シール材厚さ>
定圧厚さ測定器(TECLOK社製 荷重44gf 測定子径Φ5)にて測定した。
【0067】
<厚さバラツキ>
前記の方法で測定した接着シール材の最大厚さと最小厚さとの差から求めた。
【0068】
<リーク防止性能>
窒素ガスを、エアバッグ内圧が70KPaになるまで充填した後、6秒後にバッグ内圧が10KPa以上をキープしているものを○、10KPa以下のものを×とした。
【0069】
実施例1
総繊度470デシテックス(dtex)、72フィラメント、断面形状丸形、単糸強度8.8g/デシテックスのナイロン66繊維を経糸および緯糸に使用し、織密度がともに46本/2.54cmになるようにウォータージェットルームで製織して、カバーファクターが1885の平織物を得た。なお、得られた織物を精練し、185℃×30秒間で熱セットした後、シリコーンコーティングエラストマーとして、無溶剤型液状シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、加熱硬化型)を用いて、ナイフコーターにより、塗布量が25g/mになるようにコーティングを行った。その後、180℃×2分間で熱処理を行い、コーティング基布を得た。
【0070】
次いで、前記コーティング基布を図1に示す形状の2枚のパネルに裁断し、一方のコーティング面に、H10/H=0.89、HAH/HBH=1である室温硬化型2液混合接着シール材( 東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度400Pa・s)を、Φ3.2mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=3.2mm)。続いて、他方のパネルを重ね合せ、スペーサーで高さ(HBH)を1.5mmに調整した天板間で前記パネル同士を圧着した。これを、室温で24時間放置して硬化させた。最後に、接着シール材の幅方向中央部を貫通するように、1400dtexのナイロン66縫製糸を用いて、運針数3.5針/cmの本縫いで縫製して、本発明のエアバッグを得た。
【0071】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.8mm、幅(W10)は3.5mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は1.5mm(バラツキ±0.2mm)、幅(WAH)は5.5mmであった。
【0072】
得られたエアバッグは、接着シール材の塗布量が少なく、かつ、リーク防止性能に優れていた。
【0073】
実施例2
実施例1と同様にして得られたパネルのコーティング面に、H10/H=0.91、HAH/HBH=1である室温硬化型2液混合接着シール材(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度400Pa・s)を、Φ2.7mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=2.7mm)。続いて、他方のパネルを重ね合せ、スペーサーで高さ(HBH)を1.2mmに調整した天板間で前記パネル同士を圧着した。これを、室温で24時間放置して硬化させた。最後に、接着シール材の幅方向中央部を貫通するように、1400dtexのナイロン66縫製糸を用いて、運針数3.5針/cmの本縫いで縫製して、本発明のエアバッグを得た。
【0074】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.5mm、幅(W10)は3.0mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は1.2mm(バラツキ±0.2mm)、幅(WAH)は5.0mmであった。
【0075】
得られたエアバッグは、実施例1よりもさらに接着シール材の塗布量が少ないものの、リーク防止性能に優れていた。
【0076】
比較例1
接着シール材として、H10/H=0.79、HAH/HBH=0.6である室温硬化型接着シール材(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度200Pa・s、チクソトロピー指数1.72)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、パネル上に接着シール材を塗布、圧着および縫製し、エアバッグを得た。
【0077】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.3mm、幅(W10)は3.5mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は0.95mm(バラツキ±0.5mm)、幅(WAH)は8.5mmであった。
【0078】
使用した接着シール材は、とくに、硬化中におけるダレが大きく、硬化後の厚さが不十分になったため、リーク防止性能に劣っていた。
【0079】
比較例2
実施例1と同様にして得られたパネルのコーティング面に、H10/H=0.72、HAH/HBH=1である室温硬化型接着シール材(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度200Pa・s、チクソトロピー指数1.72)を、Φ3.9mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=3.9mm)。続いて、他方のパネルを重ね合せ、スペーサーで高さ(HBH)を0.8mmに調整した天板間で前記パネル同士を圧着した。ついで、実施例1と同様に硬化および縫製を行ってエアバッグを得た。
【0080】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.9mm、幅(W10)は5.2mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は0.8mm(バラツキ±0.2mm)、幅(WAH)は15.0mmであった。
【0081】
比較例1で生じた硬化中のダレを考慮して、圧着時の厚さを小さく設定したため、硬化前後の厚さの変化は小さかった。しかし、厚さが0.8mmであるため、比較例1同様にリーク防止性能に劣っていた。また、圧着前の接着シール材の厚さをある程度に維持するために、ダレによる厚さの減少を考慮して、大きなノズル径を選定したため、塗布量が過剰となった。
【0082】
比較例3
実施例1と同様にして得られたパネルのコーティング面に、H10/H=0.75、HAH/HBH=0.5である室温硬化型接着シール材(主成分シリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度500Pa・s)を、Φ3.2mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=3.2mm)。ついで、実施例1と同様に圧着、硬化および縫製を行ってエアバッグを得た。
【0083】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.2mm、幅(W10)は3.5mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は0.7mm(バラツキ±0.3mm)、幅(WAH)は12.0mmであった。
【0084】
使用した接着シール材は、とくに、硬化中におけるダレが大きく、硬化後の厚さが不十分になったため、リーク防止性能に劣っていた。
【0085】
比較例4
実施例1と同様にして得られたパネルのコーティング面に、H10/H=0.92、HAH/HBH=1である室温硬化型接着シール材(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度400Pa・s)を、Φ2.5mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=2.5mm)。続いて、他方のパネルを重ね合せ、スペーサーで高さ(HBH)を0.5mmに調整した天板間で前記パネル同士を圧着した。最後に、実施例1と同様に硬化および縫製を行ってエアバッグを得た。
【0086】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は2.3mm、幅(W10)は2.7mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は0.5mm(バラツキ±0.1mm)、幅(WAH)は10.0mmであった。
【0087】
ダレやバラツキは見られなかったものの、硬化後の厚さが0.5mmであるため、リーク防止性能に劣っていた。
【0088】
比較例5
実施例1と同様にして得られたパネルのコーティング面に、H10/H=0.85、HAH/HBH=1である室温硬化型接着シール材(東レ・ダウコーニング株式会社製、主成分メチルビニルシリコーンゴム、室温付加反応型接着剤、25℃における粘度400Pa・s)を、Φ3.5mmの円形ノズルを通して所定の位置に塗布した。塗布直後の接着シール材の断面は、ほぼ円形状であった(H=3.5mm)。続いて、他方のパネルを重ね合せ、スペーサーで高さ(HBH)を1.0mmに調整した天板間で前記パネル同士を圧着した。最後に、実施例1と同様に硬化および縫製を行ってエアバッグを得た。
【0089】
なお、使用した接着シール材について、塗布後10分間放置した後の厚さ(H10)は3.0mm、幅(W10)は3.8mmであり、硬化後の厚さ(HAH)は1.0mm(バラツキ±0.1mm)、幅(WAH)は10.0mmであった。
【0090】
ダレやバラツキは見られなかったものの、接着シール材の塗布量が過剰であるため、硬化後の厚さに対して幅が過大であり、軽量性に劣っていた。
【0091】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】エアバッグ形状に裁断されたパネル上に、ノズルから吐出された接着シール材を塗工している概略平面図である。
【図2】図1のC−C線における、吐出直後の接着シール材の模式断面図である。
【図3】図1のA−A線における、接着シール材2の模式断面図である。
【図4】図1のA−A線における、付与後10分間放置したときの接着シール材の形状を示す模式断面図である。
【図5】2枚のパネルを重ね合わせてなるエアバッグを示す模式平面図である。
【図6】2枚のパネルを圧着した直後の、図5のB−B線における模式断面図である。
【図7】接着シール材硬化後の、図5のB−B線における模式断面図である。
【符号の説明】
【0093】
1 パネル
2 接着シール材
3 ノズル
4 パネル
H 吐出直後の接着シール材の断面直径
基材付与直後の接着シール材の断面直径
10 基材付与10分後の接着シール材の厚さ
10 基材付与10分後の接着シール材の幅
BH 圧着時に設定される厚さ
AH 硬化後の接着シール材の厚さ
AH 硬化後の接着シール材の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のパネルを、室温硬化型の接着シール材で接合してなるエアバッグにおいて、該接着シール材が、25℃の条件下で円形ノズルから吐出し、基布に付与された直後の接着シール材厚さをH、付与後10分間放置したときの接着シール材厚さをH10としたときに、以下の式1を満たし、さらに、他の基布を重ねて所定の厚さHBHまで圧着し、硬化した後の接着シール材の厚さをHAHとしたときに、以下の式2を満たすものであり、
10/H≧0.8 (式1)
AH/HBH≧0.8 (式2)
該2枚のパネルに挟まれて硬化した後の接着シール材の幅WAHと厚さHAHとが、以下の式3および4を満たすエアバッグ。
AH≧1.0(mm) (式3)
AH/HAH≦7 (式4)
【請求項2】
前記幅WAHと厚さHAHとが、以下の式5を満たす請求項1記載のエアバッグ。
AH×HAH≦9(mm) (式5)
【請求項3】
前記幅WAHが、以下の式6を満たす請求項1または2記載のエアバッグ。
AH≦7(mm) (式6)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−5879(P2011−5879A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251508(P2007−251508)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】