説明

エコーを用いた血管径測定方法およびその装置

【課題】血管径を測定するに際して、血圧測定も併せて行うことができるようにする。
【解決手段】被測定者の腕部における第1部位にカフ圧を加えて所定時間だけ阻血した後に上記カフ圧を解放し、カフ圧を加える前とカフ圧解放後の所定タイミングで、上記被測定者の腕部における第2部位を流れる所定の血管のエコー画像を撮像し、当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定する血管径測定方法において、上記カフ圧の圧力制御中に上記被測定者の血圧を計測することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エコーを用いた血管径測定方法およびその装置、より詳しく言えば、被測定者の所定の血管のエコー画像を撮像し当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定する血管径測定方法、およびかかる血管径の測定を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管のしなやかさを非侵襲的に測定し評価する方法として、血管の力学的物理量である血管壁の硬さや血管容積の変化量などを測定する方法が知られており、血管の動脈硬化の診断等に広く利用されている。
前者は、脈波が動脈管を伝播する速度は血管壁が硬いほど早くなる事象に基づいたものであり、一般に、高齢者ほど脈波の伝播速度が高く、従って、血管壁が硬いと評価される。また、後者は、脈波の血圧変動により血管の容積が非線形的に変動する事象に基づいたもので、かかる血管容積の変化量を表すパラメータとして、経験則から求めた指標などが利用される。
【0003】
しかしながら、これら従来の方法は何れも、基本的には血管の通常の拍動状態をそのまま観察するものであり、血管の力学的物理量に関連した変化が実際に生体に生じ、それが物理量の有意な変化として認識し得るに至るまでには、かなりの期間(例えば、数ヶ月あるいはそれ以上の期間)を要することが多いので、血管の動脈硬化は、物理的にかなり進行してからでないと検出できない場合が多いのが実情である。
【0004】
ところで、近年、動脈硬化の発生メカニズムの研究が進展する過程で、動脈硬化の初期段階では、血管の内皮機能不全が動脈硬化に関与することが見出された。すなわち、血管の内皮細胞から放出される生理活性物質である一酸化窒素(NO)が平滑筋を拡張させ、血小板凝縮の抑制や血液単球の内皮への付着抑制など、動脈硬化を抑制する上で重要な指標となることが判ってきた。そして、この一酸化窒素の放出機能が不全になることと動脈硬化が生じることとの間に、相関があることが発見された。
【0005】
上述のように、血管の内皮細胞から放出される一酸化窒素は、平滑筋を拡張させる作用を有している。従って、血管の内皮細胞から一酸化窒素を放出する放出機能の不全(以下、適宜、血管の「内皮機能不全」と言う。)を評価するためには、血管の拡張度を測定すれば良いことになる。
そこで、血管の内皮機能不全を非侵襲的に短時間で測定する方法として、血管を強制的に弛緩させて測定する方法が考えられている。この方法は、例えば以下のような手順(一連のステップ)で実施することができる。
【0006】
[a] まず、被験者を所定期間(例えば15分間)安静に保つ。
[b] 上記安静期間経過後、被験者の心拍を心電計にて測定するとともに、超音波発射部の長手方向が被験者の上腕動脈の中心線(以下、適宜、「長軸」と称する。)を含む面に一致するように、所定周波数(例えば、7.5−15MHz)の超音波リニアプローブをセットし、血管の拡張末期を心拍のR波に同期させて、エコー画像を複数の拍動期について取得する。このように心拍R波と同期させることで、拍動による血管径の変動の影響を受けないエコー画像を得ることができる。この場合、血管の中心線を含む面のエコー画像(以下、適宜、「長軸側のエコー画像」と称する。)が得られることになる。
[c] このエコー画像から安静時の上腕動脈径を計測し、複数の拍動期分の平均値を求める。
【0007】
[d] 次に、前腕部にカフを巻いて、所定以上の圧力(例えば250−300mmHg)で所定時間(例えば5分間)保持し、動脈を阻血させる。
[e] この阻血期間経過後、カフによる圧力を解除し血流を急速に解放する。
[f] この血流の急速解放に伴う充血反応過程で、解放から所定時間(例えば1分間)経過後に、上記ステップ[b]における場合と同様の方法でエコー画像を取得する。カフ圧を解放すると、上腕動脈は充血期の約1分間で徐々に血管径を拡張させ、約45−60秒後に最大値を取るとされているので、カフ圧解放から1分間経過後にエコー画像を取ることで、最大値の血管径を計測することができる。
[g] このエコー画像から充血反応後の血管径(上腕動脈径)を計測し、複数の拍動期分の平均値を求める。
【0008】
[h] そして、上記ステップ[c]で得られた平均値(安静時の血管径)に対するステップ[g]で得られた平均値(充血反応後の血管径)の増加分および増加割合を算出し、この増加割合を血管径の変化量として百分率(%:パーセント)で表示する。
この値が、所謂、%FMD(Flow-Mediated Dilatation)であり、血流依存性血管拡張反応を示す指標として、血管の内皮機能不全の診断、つまり、動脈硬化の診断等において有効に活用することができる。
【0009】
上述の血流依存性血管拡張反応(FMD)測定方法は、阻血によって生体に生じた代謝異常を補償するための充血反応が血管の拡張を最大にするであろう事を利用したもので、血管の内皮細胞の機能不全を、比較的簡易かつ短時間で非侵襲的に測定する方法として普及しつつある。
血管の力学的物理量に関連した変化を観察する従来の診断方法では動脈硬化が認められず、一見健康な人でも、内皮細胞の機能不全という観点から診断すれば、既に動脈硬化進展の初期段階に入っている可能性もある。
【0010】
以上の説明から明らかなように、%FMDは、血管の内皮機能の不全度を表し、血液単球の内皮への付着亢進や血小板凝縮の亢進などを敏感に反映した指標であり、従って、ごく初期の動脈硬化をも示唆し得るものである。つまり、動脈硬化をごく初期段階で発見し、その進行を抑制する上で重要な指標となる。
また、上記%FMDを用いることにより、ある程度長期にわたる血液の粘性(どろどろ/さらさら)の影響を、いわば血管ざらざら度/つるつる度として表現することができる。従って、この%FMDを、血管のしなやかさを示す新たな指標として用いることも可能である。
【0011】
更に、%FMDは、基本原理としては、血管内皮細胞からの一酸化窒素放出機能の不全を評価するものであり、この一酸化窒素の動態を間接的に観測することとなるので、抗酸化作用などのより短期間(例えば、数時間あるいは数日間)での効果を判定することが可能である。
従って、その応用範囲が広く、動脈硬化の診断のみならず、例えば、抗酸化サプリメント等のダイエットや健康食品分野、或いは高脂血症や糖尿病などの薬効判定など、幅広い分野での応用が考えられている。
【0012】
しかしながら、%FMDを測定する場合、エコープローブを被験者の上腕動脈の長軸に沿って且つ皮膚表面に対し垂直に当接させなければならず、15分間の安静期間経過後の測定(前述のステップ[b]参照)と、その後の5分間阻血後の測定(前述のステップ[f]参照)とで、エコープローブの当接部位を一致させることが難しいという問題があった。また、カフによる阻血作業やエコー画像からの血管径の測定などについても、より簡便で精確に行えるようにすることが求められていた。
【0013】
かかる諸問題に対して、本願出願人の一人は、特許文献1にて、エコープローブをマジックバンドにより被験者の上腕部に固定すること、阻血用カフの吸気および排気にポンプを用いて阻血作業を自動化すること、更には、エコー画像をパーソナルコンピュータに転送し画像処理技術を適用して血管径を測定すること等を提案した。
【特許文献1】特開2003−180690号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1で提案された従来技術においても、なお以下のような種々の改善すべき事項が残されている。
すなわち、まず第1の課題として、血管径の測定は、上記ステップ[b]で述べたように、あくまでも血管の長軸側のエコー画像を撮像して、つまり、超音波発射部の長手方向が血管の中心線を含む面に一致するように超音波リニアプローブをセットし、血管の中心線を含む面のエコー画像を撮像して行われる関係上、検査者に高い熟練度が要求され、検査スタッフが豊富な研究施設や大病院等での利用に限られてしまうという問題があった。
【0015】
上述の血流依存性血管拡張反応(FMD)測定法において、上腕動脈の約5分間の阻血とその後の充血反応によって引き起こされる血管拡張反応は、変化率で約10%程度であり、実際の血管径の数値(一般に約4mm程度)に当てはめると、約0.4mm程度の小さい値でしかないことが知られている。
そこで、FMD法で血管径を計測するに際して、エコープローブを血管の長軸側のエコー画像を撮像することにより、エコープローブの長さに略対応した適当な長さについて血管径のエコー画像を得ることができ、これらエコー画像に基づいて演算された血管径の値を平均することで、血管拡張反応による変化率が上述のように小さい場合でも、比較的高精度で血管径を求めることができるのである。
【0016】
しかしながら、血管の長軸に沿って明瞭なエコー画像を得るには、エコー信号が血管の直径と一致する位置を探さなければならず、このような位置を探し、ある程度以上の長さについてエコーを血管の直径位置に沿って通過させるようにエコープローブをセットするには、かなりの熟練度が求められることになる。
血管の走行の方向や皮膚表面からの深さ等は、被験者の体格などによってある程度異なるので、上記のようにエコープローブを好適にセットするには、数多くの経験が必要で、また、ある程度「勘」に頼らざるを得ない面がある。
また、特に、血管の充血反応過程では、カフ圧解放後、約45−60秒の約15秒以内に計測を終える必要があるので(前述のステップ[f]参照)、迅速な計測作業を正確に行うことが求められ、この点においても、検査者には高い熟練度が求められるのである。
【0017】
更に、血管径を正確に測定するには、撮像して得られたエコー画像から如何にして正確に血管壁を認識するかが重要であるが、エコープローブにより得られるエコー画像には、通常、多重反射などの影響により種々のノイズが含まれており、また、血管壁の位置によってはエコーの発射方向との関係で、血管壁の誤認が生じ易くなる場合もあり得る。
【0018】
次に、第2の課題として、上記特許文献1で提案された従来技術においても、拍動による血管径の変動の影響を回避するために、心電計による心拍の計測を血管径の計測と並行して行い、両者間の同期をとる必要があるので(前述のステップ[b]参照)、検査者に更に高い熟練度が求められるとともに、高価なエコー装置が必要で、また、全体としての計測装置が大掛かりなものになるという難点があった。
【0019】
拍動による上腕動脈の径方向における拡張収縮は、一般に血管径の数%に及ぶことが知られており、%FMDは、拍動のどのタイミングで取得したエコー画像を用いるかによって、その計測値に大きな違いが生じる。
そこで、従来では、心電計を併用し、血流依存性血管拡張反応(FMD)による被験者の血管の拡張末期、心電図では心拍のR波に同期するエコー画像のみを使用して血管径の計測を行うことで、心拍動による血管径の変動の影響を極力排除するようにしていた。
【0020】
しかしながら、この場合には、心電計を併用するので装置が大掛かりにならざるを得ず、更に、心電計に同期させてエコー画像を取得し保存する機能を備えた高価なエコー装置が必要となる。かかる機能を持たないエコー装置を使用する場合には、例えば、米国MIA(Medical Imaging Applications)社のシステムに見られるように、エコー画像信号と心電計信号とを同期させる装置を別途に用意する必要があり、やはり、装置全体として高価で大掛かりなものにならざるを得ないのである。
【0021】
更に、第3の課題として、従来のFMD計測では、被験者(被測定者)の上腕動脈を阻血させるために、その前腕部をカフで250−300mmHgまで加圧していた(前述のステップ[d]参照)。このカフ圧の設定値は、上腕動脈の血流を確実に阻血できる値として半ば慣習的に用いられて来たものであるが、どの程度のカフ圧で阻血できるかは、個々の被験者毎に、例えばその血圧などによって異なるはずのものである。
しかしながら、従来では、上記のように一律に定められた高いカフ圧で5分間程度もの長い期間にわたって阻血されるので、被験者に対してかなりの苦痛・負担を強いることなる。
【0022】
また更に、被験者の上腕部へのエコープローブの密着性や固定方法についても、幾つかの課題があった。例えば、エコープローブとして従来慣用されているリニア型のプローブは、超音波発射面が平坦であるので、安静期と充血期での計測において腕の表面形状に対して十分には密着し難く、従って、その設定方位を安定して適正に維持することが、実際にはなかなかに難しいという課題があった。また、被験者の上腕部へのエコープローブの固定方法についても、約5分間程度にもわたる長い阻血期間を挟んで安静期と充血期での計測において、より安定したエコー画像を得るには、腕の表面に対してエコープローブをより安定して確実に固定することが必要である。
【0023】
また、従来では、血管径の測定に加えて通常の血圧測定も必要とされる場合、両者は別々に行われるのが一般的で、被験者にとっては不便であり、また、折角の血圧データも血管径の測定データと関連付けて考察できるものとはならない、という難点があった。
【0024】
この発明は、上記技術的な諸課題のうち、血管径の測定と血圧測定の両方を行う場合の不便さに鑑みてなされたもので、血管径の測定と血圧測定とを併せて行うことができるようにすることを基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
このため、本願発明に係る血管径の測定方法は、被測定者の腕部における第1部位にカフ圧を加えて所定時間だけ阻血した後に上記カフ圧を解放し、カフ圧を加える前とカフ圧解放後の所定タイミングで、上記被測定者の腕部における第2部位を流れる所定の血管のエコー画像を撮像し、当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定する血管径測定方法において、上記カフ圧の圧力制御中に上記被測定者の血圧を計測することを特徴としたものである。
【0026】
この場合において、上記カフ圧を上昇させながら被測定者の脈圧を検出し、脈圧消失が生じた時点でのカフ圧を検出し、この検出値に基づいて阻血カフ圧を設定することができる。
【0027】
また、以上の場合において、上記第1部位を前腕部とし、上記第2部位を上腕部としても良い。
【0028】
本願発明に係る血管径の測定装置は、被測定者の所定の血管のエコー画像を撮像する撮像手段と、該撮像手段で得られた上記エコー画像に基づいて上記血管の直径を演算し得る演算手段と、被測定者の腕部における第1部位にカフ圧を加えて阻血し得る阻血手段と、上記第1部位にカフ圧を加えて所定時間だけ阻血した後に上記カフ圧を解放するようにカフ圧を制御するカフ圧制御手段と、上記撮像手段のエコープローブを被測定者の腕部における第2部位に固定する固定手段と、上記第1部位にカフ圧を加える前とカフ圧解放後の所定タイミングで、上記第2部位を流れる所定の血管のエコー画像を撮像するように上記撮像手段を制御する撮像制御手段と、上記カフ圧の制御中に、上記被測定者の血圧を計測する血圧計測手段と、を備えたことを特徴としたものである。
【0029】
この場合において、上記カフ圧の上昇時に上記被測定者の脈圧を検出する脈圧検出手段を更に備え、該脈圧検出手段が脈圧消失が生じた時点でのカフ圧に基づいて阻血カフ圧を設定する、ことが好ましい。
【0030】
以上の場合において上記演算手段は、上記カフ圧を加える前のエコー画像とカフ圧解放後のエコー画像とに基づいて、血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張度を演算し、上記演算手段には、上記血管径の拡張度を時系列で表示し得る演算結果表示手段が接続されている、ようにしても良い。
【0031】
また、以上の場合において、上記第1部位を前腕部とし、上記第2部位を上腕部としても良い。
【0032】
以上の全ての装置において、上記エコープローブの固定状態を上記血管が流れる方向と該血管の周方向とについて調整し得る調整手段を更に備えるようにしても良い。
尚、本明細書中において、「血管が流れる方向」とは、当該「血管内の血液が流れている方向」、換言すれば、血管の中心線に沿った方向を言うものとする。
【発明の効果】
【0033】
本願発明に係るエコーを用いた血管径の測定方法によれば、カフ圧の圧力制御中に被測定者の血圧を計測するので、血管径の測定と血圧測定とを併せて行うことができ、両者を別々に行う場合に比して利便性が向上すると共に、血管径を測定する際における被測定者の最新の血圧データを得ることができる。
【0034】
この場合において、上記第1部位へのカフ圧を上昇させながら被測定者の脈圧を検出し、脈圧消失が生じた時点でのカフ圧を検出することで、当該被測定者の最高血圧に対応したカフ圧を検出することができる。つまり、カフ圧を加える工程で被測定者の最高血圧を計測することができる。そして、この最高血圧に対応したカフ圧の検出値に基づいて上記阻血カフ圧を設定することにより、血管径を測定する直前での被測定者の最高血圧に基づいた阻血カフ圧の設定を行うことができる。
【0035】
以上の場合において、上記第1部位を前腕部とし、上記第2部位を上腕部とすることにより、血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張が顕著に現れ易い上腕部の血管(例えば、上腕動脈やとう骨動脈など)について、血管径の拡張度を測定することができる。換言すれば、かかる上腕部の血管について血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張度(所謂、%FMD)を測定するに際して、以上のような作用効果を奏することができる。
【0036】
本願発明に係るエコーを用いた血管径の測定装置によれば、カフ圧の制御中に被測定者の血圧を計測する血圧計測手段を備えているので、血管径の測定と血圧測定とを併せて行うことができ、両者を別々に行う場合に比して利便性が向上すると共に、血管径を測定する際における被測定者の最新の血圧データを得ることができる。
【0037】
この場合において、好ましくは、上記カフ圧の上昇時に上記被測定者の脈圧を検出する脈圧検出手段を更に備えることにより、上記第1部位へのカフ圧を上昇させながら被測定者の脈圧を検出して脈圧消失が生じた時点でのカフ圧を検出することができ、当該被測定者の最高血圧に対応したカフ圧を検出することができる。つまり、カフ圧を加える工程で被測定者の最高血圧を計測することができる。そして、この最高血圧に対応したカフ圧の検出値に基づいて上記阻血カフ圧を設定することにより、血管径を測定する直前での被測定者の最高血圧に基づいた阻血カフ圧の設定を行うことができる。
【0038】
以上の場合において、カフ圧を加える前のエコー画像とカフ圧解放後のエコー画像とに基づいて血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張度(所謂、%FMD)を演算し得る演算手段に、上記血管径の拡張度を時系列で表示し得る表示手段を接続することにより、%FMD測定を例えば定期的に行ってその変化を調べるような場合について、%FMDの改善または悪化等を時系列データとして容易に視認することができる。
【0039】
また、以上の場合において、上記第1部位を前腕部とし、上記第2部位を上腕部とすることにより、血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張現象が顕著に現れ易い上腕部の血管(例えば、上腕動脈やとう骨動脈など)について、血管径の拡張度を測定することができる。換言すれば、かかる上腕部の血管について血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張度(所謂、%FMD)を測定するに際して、以上のような作用効果を奏することができる。
【0040】
以上の全ての装置において、上記エコープローブの固定状態を上記血管が流れる方向と該血管の周方向とについて調整し得る調整手段を更に備えることにより、エコープローブを被測定者の上記血管が流れる部位に比較的長時間にわたって固定する必要がある場合でも、エコープローブの表面と上記血管が流れる部位との間の密着性を一定に保つように調整することが可能になり、より精度の高い測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を、例えば血流依存性血管拡張反応(所謂FMD)による血管の拡張度(%FMD)の測定に適用した場合を例に取って、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び図2は、本実施形態に係る血管径測定装置Msのシステム構成を概略的に示す説明図およびブロック構成図である。この血管径測定装置Msは、被測定者の所定の血管(代表的には上腕動脈)のエコー画像を撮像し、当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定することにより、当該被測定者の%FMDを計測するもので、腕部加圧機構10とプローブ固定機構20と撮像機構30と制御演算機構40と表示機構50とを、主要部として備えている。
【0042】
尚、特に、動脈硬化の予知を念頭に置いて測定する場合には、測定対象とする上記被測定者の所定の血管としては,血流依存性血管拡張反応による血管の拡張現象が非常に顕著に現れ易い上腕動脈が代表的である。或いは、この代わりに、とう骨動脈の血管径の拡張度(%FMD)を測定するようにしても良い。
【0043】
上記腕部加圧機構10は、被測定者の腕部における第1の所定部位Af(第1部位)にカフ圧を加えて、該第1部位を阻血することを基本的な目的とする機構であり、阻血用カフでなるカフ部11と、該カフ11内の圧力を制御するカフ圧制御部12とを備えている。また、カフ部11の下側には、被測定者の腕部の第1部位Afを載置させるベース部14が設けられている。
上記第1部位としては、被測定者の前腕部Afが代表的であり、これに限定されるものではないが、本実施形態においても、この前腕部Afにカフ圧を加えて阻血するようにした。
【0044】
該カフ圧制御部12は、具体的には図示しなかったが、カフ11内を加圧する加圧機構と、カフ11内を減圧・除圧する減圧機構と、これら加圧/減圧装置を制御する制御機構とを備えている。より具体的に説明すれば、上記カフ圧制御部12は、例えば、カフ11内に加圧(圧縮)エアを送給する圧縮ポンプと、カフ11内の圧縮エアを排出して減圧・除圧する排気弁とを備え、これら圧縮ポンプ及び排気弁の作動を、当該カフ圧制御部12のコントローラによって制御するように構成されている。
【0045】
上記カフ部11は、その加圧および減圧機構については従来公知のものと同様であるが、本実施形態では、このカフ部11に脈圧計測部13が設けられている。この脈圧計測部13で被測定者の脈圧を計測し、脈圧が発生した際および消失した際のカフ圧を検知することで、被測定者の最低血圧や最高血圧を計測することができる。カフ圧を上昇させる場合を例にとって具体的に説明すれば、カフ圧ゼロ(0:零)からスタートし、脈圧計測部13が脈圧発生を検知した時点のカフ圧を計測することで最低血圧を知ることができ、その後さらにカフ圧を上昇させて行き、脈圧計測部13が脈圧消失を検知した時点のカフ圧を計測することで最高血圧を知ることができる。
【0046】
このように、カフ部11に脈圧計測部13を設けたことにより、%FMDの測定と血圧測定とを併せて行うことができ、両者を別々に行う場合に比して利便性が向上すると共に、血管径を測定する際における被測定者の最新の血圧データを得ることができる。
【0047】
本実施形態では、上記脈圧計測部13によって計測された被測定者の最高血圧に基づいて、上記前腕部Afを阻血する阻血カフ圧が設定される。つまり、最高血圧よりも所定値(具体的には、20−40mmHg、より確実には30−40mmHg)だけ高い値に相当する圧力に阻血カフ圧が設定される。最高血圧よりも上記所定値だけ高い値に相当するカフ圧を加えることで、当該被測定者について確実に阻血することができる。
【0048】
この阻血カフ圧の設定は、後述する制御演算機構40の制御プログラムに従って行われる。或いは、カフ圧制御部12にかかるカフ圧の制御を行うプログラムを格納したメモリ(記憶装置)を付設しておき、この制御プログラムによってカフ圧の制御および阻血カフ圧の設定等を行わせるようにしても良い。
尚、このように被測定者の最高血圧に基づいて阻血カフ圧を設定する場合、以上のような実測を特に行うことなく、被測定者が過去の測定経験から記憶していた最高血圧値を申告し、この申告された値に基づいて阻血カフ圧を設定するようにしても良い。
【0049】
このように、個々の被測定者の最高血圧に基づいて阻血カフ圧を設定することにより、被測定者の前腕部Afを確実に阻血でき、且つ、できるだけ低い阻血カフ圧を個々の被測定者に応じて設定することができる。その結果、従来、一律に定めた高いカフ圧を加えて阻血していた場合のように、被測定者に過度の苦痛や負担を強いることを有効に回避することができるのである。
【0050】
この場合において、前腕部Afのカフ圧を上昇させながら被測定者の脈圧を検出し、脈圧消失が生じた時点でのカフ圧を検出することで、当該被測定者の最高血圧に対応したカフ圧を検出することができる。つまり、カフ圧を加える工程で被測定者の最高血圧を計測することができる。そして、この最高血圧に対応したカフ圧の検出値に基づいて上記阻血カフ圧を設定することにより、血管径を測定する直前での被測定者の最高血圧に基づいた阻血カフ圧の設定を行うことができる。
【0051】
上記プローブ固定機構20は、被測定者の腕部における第2部位Auにエコープローブ31を固定する機構で、この第2部位としては被測定者の上腕部Auが代表的である。つまり、%FMDを測定して動脈硬化を調べる際に測定対象とする血管としては、上腕動脈が代表的であり、これに限定されるものではないが、本実施形態においても、上腕部Auにエコープローブ31を固定して上腕動脈の血管径を計測するようにした。
【0052】
本実施形態では、エコープローブ31の超音波発射面31f(超音波発射部)が略長方形状をなすように形成されており、上記プローブ固定機構20は、上記超音波発射部31fの長手方向が上腕動脈の中心線と実質的に直交する方向(つまり、上腕部Auの太さ方向)に沿うように設定した状態で、エコープローブ31を被測定者の上腕部Auに固定できるように構成されている。
【0053】
具体的に説明すれば、図1に示されるように、プローブ固定機構20は、例えば腕部加圧機構10のベース部14に一端部が支持された棒状のアタッチメント21と、このアタッチメント21の端末側に配設されたプローブ固定具27とを備えている。上記アタッチメント21は、上記ベース部14から水平方向に延びる水平部22と、略90度の角度に曲折成形された中間部23と、上記水平部22に対して略直角方向に延びる垂直部24とを備えている。尚、上記水平部22の一端部は、より好ましくは、上記ベース部14に対して、その伸長方向へスライド調節可能に支持されている。
【0054】
上記水平部22と中間部23とは、第1継手25を介して垂直面内で相対的に回動可能に連結され、中間部23と垂直部24とは第2継手26を介して水平面内で相対的に回動可能に連結されている。プローブ固定具27は、上記垂直部24の端末側に固定されている。
従って、このプローブ固定具27に固定されたエコープローブ31は、被測定者の上腕部Auの上腕動脈の方向と該上腕動脈の周方向とについて、位置および方位が調節可能である。
【0055】
上記プローブ固定具27はアタッチメント21の垂直部24に対して所定の角度をなして固定されており、第1継手25及び第2継手26の回動角度を調節することにより、エコープローブ31を、その超音波発射部31fの長手方向が上腕動脈の中心線と実質的に直交する方向(つまり、上腕部Auの太さ方向)に沿うように容易に設定でき、エコープローブ31の位置および方位をこのように設定した状態で、被測定者の上腕部Auに固定することができる。
【0056】
また、アタッチメント21に上述のような調節機能を付与したことにより、エコープローブ31を被測定者の上腕部Auに比較的長時間にわたって固定する必要がある場合でも、エコープローブ31の表面と上腕部Auとの間の密着性を一定に保つように調整することが可能になり、より精度の高い測定を行うことができる。
【0057】
図4は、エコープローブ31の血管Bvに対する取付方位と撮像されるエコー画像との関係を模式的に示したものである。図4における右側の図で示されるように、超音波発射部31fの長手方向が血管Bvの中心線Lb(長軸)を含む面に一致するようにエコープローブ31をセットして(つまり長軸側で)撮像した場合には、エコープローブ31の長さに略対応した長さについて血管径Dのエコー画像を得ることができ、これらエコー画像に基づいて演算された血管径の値を平均することで、血管拡張反応による変化率が上述のように小さい場合(約10%程度)でも、比較的高精度で血管径を求めることができる。しかしながら、血管の長軸に沿って明瞭なエコー画像を得るには、エコー信号が血管Bvの直径Dと一致する位置を探さなければならず、このような位置を探し、ある程度以上の長さについてエコーを血管の直径位置に沿って通過させるようにエコープローブをセットするには、かなりの熟練度が求められるのである。
【0058】
これに対して、図4における左側の図で示されるように、エコープローブ31を、その超音波発射部31fの長手方向が血管Bvの中心線Lbと実質的に直交する方向に沿うようにセットして(つまり短軸側で)撮像した場合には、エコープローブ31の超音波発射部31fの方位設定(セット)に若干の誤差が生じたとしても、得られたエコー画像には血管Bvの直径D部分が必ず含まれることになる。したがって、従来、血管Bvの中心線Lbを含む面のエコー画像(長軸側のエコー画像)を撮像していた場合のように、エコープローブ31のセット(方位設定)に高い熟練度を求められることはなく、血管径Dの測定を容易に行うことができるのである。
【0059】
尚、エコープローブ31の超音波発射面31fは一般に平坦であるので、曲面をなす腕の表面形状に対して十分に密着するようにプローブ31をセットすることは難く、血管のエコー画像を撮像する際に安定した画像を得ることが難しい場合がある。このような場合には、例えば図5に模式的に示すように、被測定者の上腕部Auの表面とエコープローブ31の発射面31fとの間に、水を充填した袋体28(ウォータバッグ)を介在させればよい。ウォータバッグ28は変形自在であり、腕部の表面に押し付けられた際には、容易にその表面に沿って密着する。従って、このようなウォータバッグ28の形状的なフレキシビリティを利用することで、プローブ31の腕部に対する良好なセット状態を比較的容易に得ることが可能である。
【0060】
一方、上記撮像機構30は、計測対象とした血管(本実施形態では、上腕部Auを流れる上腕動脈)のエコー画像を撮像するもので、上述のエコープローブ31とエコー画像処理装置32とを備えている。エコープローブ31は、その先端の発射面31fから所定周波数(例えば、7.5−15MHz)の超音波を発射し、その反射波をエコー信号として受信するもので、このエコー信号が画像処理装置32に送信されてエコー画像が得られる。この撮像機構30(つまり、エコープローブ31,画像処理装置32)自体は、例えば前述の特許文献1に開示されたものなど、従来公知のものと同様のものを用いることができる。
【0061】
また、制御演算機構40は、上記腕部加圧機構10及び撮像機構30を制御するとともに、該撮像機構30で得られたエコー画像に基づいて測定対象の血管(上腕動脈)の直径を演算し得るもので、例えばマイクロコンピュータを主要部として構成されている。より具体的に説明すれば、図3に詳しく示すように、制御演算機構40は、その作用を行うための基本的な構成要素として、カフ圧設定部41と脈波演算部42と血管径演算部43と判定部44と表示処理部45とを備えている。
【0062】
上記カフ圧設定部41は、上記腕部加圧機構10の脈圧計測部13からの計測信号を受信して、当該被測定者の最低血圧および最高血圧を検知するとともに、この検知された最高血圧に基づいて阻血カフ圧を設定する。尚、前述のように、より好ましくは、被測定者が申告した最高血圧に基づいてカフ圧を設定することも可能であり、カフ圧設定部41には、被測定者が申告した最高血圧値を入力するためのマニュアル入力手段(不図示)が信号授受可能に接続されている。このカフ圧設定部41からの設定信号は、腕部加圧機構10のカフ圧制御部12に入力される。
【0063】
脈波演算部42は、上記腕部加圧機構10の脈圧計測部13からの計測信号および撮像機構30の画像処理装置32からの画像データ信号、並びに好ましくは上記カフ圧設定部41からの出力信号を受信し、これら受信信号に基づいて、脈波を検知し脈波周期を演算するとともに、例えば心拍のR波などの特定の脈波を検出する。この脈波演算部42からの出力信号は血管径演算部43および判定部44に入力される。
【0064】
血管径演算部43は、上記脈波演算部42からの出力信号および撮像機構30の画像処理装置32からの画像データ信号に基づいて、測定対象血管の平均血管径を演算するもので、後述する円形テンプレートの選定やノイズ除去および血管壁エッジの特定なども、この血管径演算部43で行われる。血管径演算部43からの出力信号は判定部44に入力される。
【0065】
判定部44は、この血管径演算部43および上記脈波演算部42からの出力信号に基づいて、測定対象血管の拡張期および収縮期を判別するとともに、それぞれにおける平均血管径を算出し、変化率(%FMD)を算出する。また、より好ましくは、この算出結果等に基づいて、被測定者の健康状態を判定することもできる。
【0066】
表示処理部45は、次に述べる表示機構50(モニタ表示部51及びプリンタ52)からの表示操作信号に基づいて、表示操作に応じた表示信号を出力するものであり、この表示処理部45には、上記判定部44からの判定信号および画像処理装置32からの画像データ信号が入力されている。そして、表示機構50からの表示操作信号に応じて、所要の表示信号を組み合わせて、若しくは単独で出力するようになっている。例えば、上記脈波演算部42で検出された脈波,脈波周期,心拍のR波などの特定の脈波等と、特定タイミングでの血管の画像データとを同一表示画面上に並べて表示させたり、或いはハードコピーとして出力することも可能である。
【0067】
尚、具体的には図示しなかったが、上記制御演算機構40には、制御プログラム等の所要のプログラムを記憶した記憶装置や、カフ圧制御部12による制御データ,脈圧計測部13による計測データ,血管径の演算データ等を記憶するための記憶装置など、種々の記憶装置が付設されている。また、制御演算機構40のマイクロコンピュータには、測定の各ステップを制御プログラムにより定められた時間で行うために、種々のタイマ回路が設けられている。この制御演算機構40の全体的な作動および機能の詳細については、後でより詳しく説明する。
【0068】
上記制御演算機構40には、モニタ表示部51及びプリンタ52を備えた表示機構50が信号授受可能に接続されている。上記モニタ表示部51は、例えば液晶表示画面を有し、撮像機構30で撮像したエコー画像の他、後述する種々のテンプレートをエコー画像に重ねて画面上に表示することができ、また、制御演算機構40で演算して得られた計測結果を表示することもできる。また、モニタ表示部51の画面上に表示されたこのような画像や計測結果は、上記プリンタ52によりハードコピーとして打ち出すことができる。尚、上記モニタ表示部51には、モニタ画面の画面操作等を行うための操作手段として、例えば、所謂マウス51mが接続されている。
【0069】
次に、血管径測定装置の各種の具体例について、図6〜図13を参照しながら説明する。これら具体例は、図1〜図5を参照して説明した血管径測定装置Msを製品として具体化したもので、基本的な構成および作用は、上述の血管径測定装置Msと同様である。
図6〜図9は、第1の具体例を示している。これらの図に示すように、この第1具体例に係る血管径測定装置M1は、計測演算ユニットUmと固定保持ユニットUH1とを備え、両者Um,UH1は、例えば合成樹脂を材料に用いて一体に形成されている。
【0070】
上記計測演算ユニットUmは、撮像機構30の一部分(画像処理装置32)と制御演算機構40と表示機構50の作用を行うもので、ケース1内に、画像処理装置32や制御演算機構40のマイクロコンピュータを構成する集積回路や制御回路等の電気・電子回路および記憶装置を構成するメモリチップなどが収納されている。
【0071】
また、計測演算ユニットUmのケース1の表面部には、モニタ表示部51としての表示ディスプレイ,その背面に位置したプリンタ52の用紙排出口52d,電源スイッチ等の複数の操作スイッチ類2,その表示ランプや警報ランプ等の複数のランプ類3、及び複数の外部入出力端子4などが設けられている。更に、ケース1の側面には、後述する脈圧検出用のマイクロフォンに接続されたスピーカ5が取り付けられている。尚、上記モニタ表示部51には、画面操作等を行うための操作手段として、所謂マウス51mが接続されている。
【0072】
一方、上記固定保持ユニットUH1は、後述するように、上記腕部加圧機構10とプローブ固定機構20と撮像機構30の一部(エコープローブ31)の作用を行うものである。
この固定保持ユニットUH1は、被測定者の前腕部Afを載置させ支持する断面半円状の前腕支持部61と、被測定者の上腕部Auを載置させ支持する断面半円状の上腕支持部62とを備え、両者61,62は側面視において所定の角度をなすように一体に形成されている。
【0073】
この両者61,62のなす角度としては、被測定者がある程度長時間にわたって腕部(前腕部Af及び上腕部Au)を拘束されても、比較的負担が少なく安定して拘束状態を維持できる角度として、例えば略130度程度が好ましい。また、上腕支持部62が水平面に対してなす傾斜角度としては、例えば20−30度(より好ましくは約25度)程度の角度が好ましい。
測定時には、上記上腕支持部62の後端側から被測定者の腕を通し、その前腕部Afが前腕支持部61上に位置し、上腕部Auが上腕支持部62上に位置するまで、腕を挿通させてセットが行われる。
【0074】
上記前腕支持部61の前端側部分61f及び上腕支持部62の後端部分62rは、被測定者の腕の長さに応じて前腕支持部61及び上腕支持部62の長さを調整できるように、それぞれ前後方向へスライド可能に形成されている。
また、前腕支持部61の略中央部分は円筒状に形成され、この円筒状部分がカフ部11を構成している。図8に示すように、このカフ部11は、内側から順に、被測定者の前腕部Afを包み込む略円筒状の弾性クッション部64、圧縮エアの充填によりクッション部64を加圧するエアバッグ部65,エアバッグ部65の外周部を覆うカバー部66を備えて構成されている。尚、カフ部11では、カバー部66の一部(下半分)が前腕支持部61を構成している。
【0075】
上記クッション部64の外周部には、好ましくは複数(例えば2個)のマイクロフォン67が取り付けられており、前腕部Af内を流れる血管の脈動音を検出するようになっている。このマイクロフォン67は、計測演算ユニットUmのケース1側面に配設されたスピーカ5に接続されており、前腕部Af内の血管の増幅された脈動音を外部にて聴取できるようになっている。これにより、脈圧の消失を検知することが可能である。上記2個のマイクロフォン67は、好ましくは、その指向する方向が略直角をなすように、取付の位置および方向が設定されている。
尚、このようなマイクロフォン67の代わりに圧力センサを用いて脈圧を検知するようにしても良い。
【0076】
上記上腕支持部62は、図7及び図9に詳しく示されるように、その内側にウォータバッグ68が配設されており、このウォータバッグ68の外周部分に、好ましくは複数(例えば2個)のエコープローブ31が配設されている。これら2個のエコープローブ31は、好ましくは、その超音波発射方向が略直角をなすように、発射面31fの位置および方向が設定されている。
上記ウォータバッグ68の内部は水が充填されているだけであるので、超音波測定時にノイズを生じせしめる等の悪影響を及ぼすことはなく、このウォータバッグ68を被測定者の上腕Au表面とエコープローブ31の平坦な超音波発射面31fとの間に介在させることで、両者の表面形状が相違する場合でも、より安定した測定を行うことができるのである。
【0077】
上記ウォータバッグ68とエコープローブ31の超音波発射面31fとの間には、超音波を通過させ易く、且つ、微小な隙間を確実に埋めるために、所謂エコージェル若しくはグリスが塗布されており、超音波発射面31fからの超音波は確実にウォータバッグ68に伝達されるようになっている。
尚、かかるウォータバッグ68を介在させることにより、被測定者の測定対象部位(本実施形態では上腕部Au)とエコープローブ31とが直接に接触することは無くなるので、被測定者が変わる毎にエコープローブ31を洗浄消毒する必要はなく、衛生維持の観点からも好都合である。
【0078】
上記エコープローブ31は、前述のように、超音波発射部31fの長手方向が血管Bvの中心線Lbと実質的に直交する方向に沿うようにセットして(つまり短軸側で)超音波測定が行われる。
図7において破線で囲まれた領域で示されるように、エコープローブ31は、上腕支持部62への取付の基準位置を中心にして一定範囲の領域69で取付位置および取付方位を調節できるように構成されている。
【0079】
すなわち、エコープローブ31は、上腕支持部62の長手方向および周方向にその位置を移動させることができ、また、より好ましくは、位置が一定でも、その方位がある程度の範囲で自在に調節可能(つまり、首振り動作可能)に構成されている。尚、このような調節機構としては、従来公知の種々の構造を利用することができる。また、上述の調節可能領域69は、より好ましくは、予め多種多様な多くの被測定者に対する測定から得られた経験値に基づいて、より好適な範囲として定められている。
エコープローブ31の取付位置および取付方位を上述のように調節可能とすることにより、エコープローブ31を最適の位置および方位にセットすることができ、より正確な測定をより容易に行うことができるようになる。
【0080】
尚、計測演算ユニットUmに設けられたスイッチ類2及びランプ類3のうち、電源スイッチ及び電源ランプについては、被測定者の腕を固定保持ユニットUH1に固定した際に、圧力センサ(不図示)によりこれが感知され、この圧力センサの検知信号に応じて自動で電源スイッチがONされ、電源ランプが点灯するように構成することができる。また、装置M1の保護のために、上記圧力センサの検知信号が入力されない限り、電源が入らないように保護機構を設けることもできる。勿論、手動で電源のON/OFFを行うようにしても良い。
【0081】
また、測定を終えて被測定者の腕が固定保持ユニットUH1から離れると、これが圧力センサで感知され、自動で電源スイッチがOFFされ、電源ランプが消灯するように構成することができ、更には、被測定者と直接に接触する装置部分、例えば前腕支持部61や上腕支持部62の内側部分等を、例えばアルコール噴霧などにより自動または手動で洗浄消毒するようにしても良い。
【0082】
また更に、測定期間中、例えば阻血期間中などに、被測定者の脈圧や血圧または拍動数などに異常が生じたことが検知された場合には、自動的にカフ圧を緊急解放し、好ましくは、警報ランプや警報ブザー、更にはディスプレイ表示等で周囲に報知するように構成することができる。この場合について、手動でもカフ圧の緊急解放を行えるようにすることが望ましい。
【0083】
更に、計測演算ユニットUmに設けられた外部入力端子には、外部のテレビ信号やビデオ/DVD信号あるいはオーディオ信号などが入力可能で、被測定者の緊張をほぐすために、静かな音楽をスピーカ5から流したり、穏やかな風景等の映像をディスプレイ画面51に映し出したりすることができる。
また、この場合、ディスプレイ画面51を2画面に切換可能とし、一方の画面には、測定や阻血の残り時間などの測定情報を表示させるようにしても良い。
【0084】
尚、全ての測定を終えると、表示画面51上に測定結果が表示される。この測定結果を、プリンタ52でハードコピーとして打ち出すことができる。
また、測定結果を外部のパーソナルコンピュータやメモリ装置あるいはMD,CD,DVDなどの記録媒体のプレーヤに送信して記録させることも可能である。
【0085】
また、制御演算機構40の記憶装置に記憶された測定データに基づいて、測定対象の血管の血管径の拡張度(%FMD)を時系列で、ディスプレイ画面51上に表示させることができ、また、この表示画面をプリンタ52によりハードコピーとして打ち出すこともできる。このような時系列表示の測定データの一例を図14に示す。
【0086】
このように、測定対象の血管径の拡張度(%FMD)を時系列で表示し得る表示手段(ディスプレイ画面51,プリンタ52)を備えることにより、%FMD測定を例えば定期的に行ってその変化を調べるような場合について、%FMDの改善または悪化等を時系列データとして容易に視認することができる。
特に、初期動脈硬化に対して、ワインのポリフェノール効果やビタミンC又はビタミンEなどの抗酸化作用をある程度の期間内で知りたい場合などには、非常に手軽で有効である。
【0087】
次に、血管径測定装置の第2具体例について、図10及び図11を参照しながら説明する。尚、以下の説明において、第1具体例における場合と同様の構成を備え同様の作用をなすものについては、同一の符号を付し、それ以上の説明は省略する。
この第2の具体例に係る血管径測定装置M2は、第1具体例における装置M1と同様の計測演算ユニットUmを備え、固定保持ユニットUH2についても、カフ部11が上下二分割構造である点を除いては同様である。
【0088】
すなわち、第2具体例に係る装置M2では、固定保持ユニットUH2の前腕支持部71は、その全体が断面半円状に形成され、カフ部11は、上側カバー72を取り付けることによって構成される。上側カバー72の一対の組付面72fには、長手方向に延びる突起部72tが一体に形成されている。一方、前腕支持部71の組付面71fには、上記突起部72tを前後方向へ摺動可能に嵌合させる溝部71gが形成されている。
【0089】
この第2の具体例においては、上側カバー72を取り外した状態で、被測定者の前腕部Afを前腕支持部71に載置させ支持した後に、上側カバー72の突起部72tを前腕支持部71の溝部71gに対して嵌合させることで、カフ部11が組み立てられる。尚、具体的には図示しなかったが、前腕支持部71及び上側カバー72の外周部には、両者を組立状態に固定するために、従来良く知られた構造の固定用係止金具が付設されており、この係止金具により、前腕支持部71と上側カバー72とが離脱不能に係止されるようになっている。
この第2具体例に係る血管径測定装置M2によれば、カフ部11が一体であった具体例1の装置M1に比して、被測定者の前腕部Afを固定支持ユニットUH2に固定する際の固定作業が容易に行える。
【0090】
また、図12及び図13は、第3の具体例に係る血管径測定装置M3を示している。この第3具体例に係る装置M3は、第1具体例における装置M1と同様の計測演算ユニットUmを備え、固定保持ユニットUH3についても、カフ部11が上下二分割で且つ開閉可能な構造である点を除いては同様である。
【0091】
すなわち、第3具体例に係る装置M3では、固定保持ユニットUH3の前腕支持部76は、その全体が断面半円状に形成され、カフ部11は、上側カバー77を取り付けることによって構成される。前腕支持部76の上部外側には、上側カバー77を開閉可能に枢支するための枢支軸76sが一体に設けられ、また、これと反対側(内側)の組付面76fには、上側カバー77を閉状態に係止するための溝部76gが形成されている。上記枢支軸76sは、前腕支持部76の長手方向に沿って延びるように設けられている。
【0092】
一方、上側カバー77の左右一側には、上記枢支軸76sを嵌挿させる挿通孔を有する筒状部77cが一体に設けられ、また、これと反対側の組付面77fには上記溝部76gと嵌合する突起部77tが形成され、更に、その側方には操作摘み77wが設けられている。上記筒状部77cは、上側カバー77の長手方向に沿って延びるように設けられている。
この上側カバー77は、上記筒状部77cの挿通孔に上記枢支軸76sを挿通させることで前腕支持部76に組み付けられ、枢支軸76sを中心にして開閉可能に支持される。
【0093】
この第3の具体例においては、上側カバー77を前腕支持部76から取り外した状態で、若しくは取り付けられた上側カバー77を開いた状態で、被測定者の前腕部Afを前腕支持部76に載置させ支持した後に、上側カバー77を閉じ、その突起部77tを前腕支持部76の溝部76gに対して嵌合させることで、カフ部11が組み立てられる。尚、具体的には図示しなかったが、前腕支持部76及び上側カバー77の外周部には、両者を組立閉止状態に固定するために、従来良く知られた構造の固定用係止金具が付設されており、この係止金具により、前腕支持部76と上側カバー77とが開閉不能に係止されるようになっている。
この第3具体例に係る血管径測定装置M3によれば、カフ部11が一体であった具体例1の装置M1に比して、被測定者の前腕部Afを固定支持ユニットUH3に固定する際の固定作業が容易に行える。
【0094】
尚、上記第1〜第3具体例に係る血管径測定装置M1〜M3についても、具体的には図示しなかったが、図1及び図2に示した血管径測定装置Msにおける場合と同様に、モニタ画面51の画面操作などを行うための操作手段として、所謂マウス51mが接続されている。
【0095】
以上のような構成を備えた血管径測定装置Ms(又はM1,M2,M3)を用いた%FMDの測定手順の概略を、図15及び16のタイムチャート並びに図17のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、被測定者の前腕部Afを腕部加圧機構10のカフ部11に固定保持し、装置の電源をONする(図17:ステップ#1,#2)。または、自動で電源がONされる。そして、所定期間(例えば、15分程度以上)安静に保つ。この安静期間の初期に、被測定者の上腕部Auに対するエコープローブ31をセットしておく(ステップ#3)。このエコープローブ31のセットを行う際には、より好ましくは、エコープローブ31の位置及び/又は取付方位を調節し(例えば、図7に示す調節可能領域69の範囲内で調節し)、血管Bv(上腕動脈)の直径を測定する上での最適の測定位置を検索して、最終的な位置及び/又は取付方位の設定(セット)が行われる。
【0096】
このとき、エコープローブ31は、前述のように、超音波発射部31fの長手方向が血管Bvの中心線Lbと実質的に直交する方向に沿うようにしてセットされる。その後、安静期間の終期に撮像機構30を作動させ、安静時における血管Bv(上腕動脈)のエコー画像(短軸側の画像)を撮像し、これを制御演算機構40の記憶装置に記憶させておく(ステップ#4)。
【0097】
上記安静時のエコー画像を撮像した後、腕部加圧機構10を作動させて被測定者の前腕部Afを加圧し血圧測定を開始する(ステップ#5)。つまり、徐々に加圧力を上昇させながら、脈圧計測部13により被測定者の脈圧,最低血圧および最高血圧を計測する(ステップ#6)。これらの計測値は制御演算機構40の記憶装置(不図示)に記憶される。そして、最高血圧を計測した後、この最高血圧値に対応するカフ圧に更に所定の圧力(例えば、血圧20〜40mmHg程度に相当する圧力)を加算した阻血カフ圧に圧力値が設定される(ステップ#7)。この阻血カフ圧を加えることにより、被測定者の前腕部Afが阻血される。
【0098】
カフ圧が上昇させられ(ステップ#8)設定された阻血カフ圧に達した時点でタイマが作動し、一定時間(例えば、4.5〜5分間)この阻血カフ圧が保持される(ステップ#9)。これにより、一定時間の阻血が行われる。
この阻血期間が経過すると、その時点でカフ部11内の加圧エアが急速に排気され急速減圧が行われる。これにより、阻血されていた血管内に急速に血液が流れるようになり充血が始まる(充血反応開始:ステップ#10)。この充血反応期間が開始された後、所定時間(例えば、約45秒間)が経過し血管拡張反応が生じた時点で、撮像機構30を作動させ、充血時の拡張した血管Bvのエコー画像を撮像し、これを制御演算機構40の記憶装置に記憶させる(ステップ#11)。この充血期の撮像は、例えば約15秒間の時間内に行われる。
【0099】
以上で測定は終了する。測定終了後、カフ部11による被測定者の前腕部Afの拘束が解除される(ステップ#12)。その後、より好ましくは、被測定者と直接に接触する装置部分、例えば前腕支持部や上腕支持部の内側部分等が、例えばアルコール噴霧などにより自動で洗浄消毒され、その後、電源がOFFされる(ステップ#13)。尚、このような洗浄消毒を手動で行うようにしても良い。
【0100】
以上の測定において、カフ圧は制御演算機構40の記憶装置に記憶された制御プログラムに従って、カフ圧制御部12により自動制御される。尚、より好ましくは、このカフ圧制御プログラムには、上記阻血期間中にカフ圧の低下が生じた場合には、これを自動的に補正して阻血カフ圧に維持するためのカフ圧補正プログラムが含まれている。
以上の測定で得られた安静時のエコー画像と充血時のエコー画像に基づいて、制御演算機構40により安静時および充血時の上腕動脈Bvの血管径がそれぞれ演算され、これらの血管径の演算値から%FMDが算出される。これら血管径および%FMDの演算値は何れも、制御演算機構40の記憶装置に記憶される。
【0101】
図16は、以上の測定中における上腕動脈の血管径の変化状態の一例を示すタイムチャートである。この図に示されるように、血管径の変化率は、典型的には充血反応開始後(急速カフ排気開始後)約45秒で最大となり、その後、約15秒間にわたってこの最大変化率が維持される。従って、充血時の血管径の測定は、この約15秒の間に行われる。
【0102】
以上の測定において血管Bvのエコー画像を撮像する場合、本実施形態では、装置が複雑で大掛かりなものとなることを回避し、また、高い熟練度を要することなく測定作業を行えるようにする観点から、被測定者の心拍動を心電計で別途に計測して同期を取るという作業を行うことなしに、血管の拡張期や収縮期を検出できるようにしている。次に、この血管の拡張期や収縮期の検出、特に拡張期の検出について説明する。
【0103】
本実施形態では、心電計で被測定者の心拍動を計測してこれとの同期を取る代わりに、エコー画像を撮像する際に、エコー画像をフリーズさせた直後の所定フレーム数の画像データを保存し、この所定フレーム数の画像データに基づいて、上記血管の拡張期や収縮期を検出するようにした。かかるフレーム画像データは、上述の制御演算機構40の記憶装置に記憶される。
この結果、被測定者の心拍動を心電計で別途に計測して同期を取るという作業を行う必要なしに、従って、大掛かりで複雑な装置を要することなく、血管Bvの拡張期や収縮期を検出することができるようになり、また、測定作業に高い熟練度を求められることもない。
【0104】
フリーズ直後のデータ保存されるべきフレーム画像の枚数としては、少なくとも60枚以上(例えば、60−120枚程度)であることが好ましい。通常、エコー画像は、1秒を30フレームで表示するので、少なくとも60フレーム以上あれば2秒間以上に対応する。一方、人の拍動周期は、心拍数を40としても1拍が2秒未満であり、少なくとも60フレーム分(2秒間に対応)の画像データを保存しておくことで、1拍動周期全体にわたる変化状態を確実に記録することができる。
【0105】
このように、画像データを保存しておくべきフレーム画像の数を、被測定者の心拍動周期以上の時間に対応したものとすることにより、被測定者の心拍動の少なくとも1周期に対応した血管の拡張期および収縮期を確実に検出することができ、血管Bvの最大直径や最小直径を計測するに際して、心電計による被測定者の心拍測定を不要なものとすることができるのである。
【0106】
以上のようにデータ保存されたフレーム画像から血管Bvの最大直径を計測する具体的な方法について説明する。
本実施形態では、保存されたエコー画像(フレーム画像)上の血管Bvの直径に近似したサイズのテンプレートを用意しておき、上記所定フレーム数(例えば60フレーム)の画像データの各々を、上記テンプレートを基準として相対比較することにより、上記血管Bvの拡張期や収縮期を検出するようにした。
【0107】
図18は、血管Bvの拡張期や収縮期をマニュアルで検出する際に用いるテンプレートTP1を示している。このテンプレートTP1は、画像フレームF(F1,F2,…,Fn)に重ね合わせて用いられるもので、2本一対の平行な直線ラインS1,S2(線分)を備えるとともに、より好ましくは、両線分S1,S2と直交する1本の縦ラインS3(線分)とを備えて構成されている。
上記テンプレートTP1は、例えばマウス等の操作手段を用いてディスプレイ画面51上で移動操作することができる。
【0108】
上記平行な線分S1,S2の間隔Dsは、血管Bvの画像Ebの直径に近似した値に設定されており、n枚の画像フレームFについてその血管像Ebの直径の大小を相対比較する際には、2本の線分S1,S2の何れか一方が血管像Ebの血管エッジ(縁部)と重なるようにテンプレートTP1を移動させ、このテンプレートTP1の線分S1,S2の間隔Dsを基準とした当該血管像Ebの直径の大きさを看取する。尚、縦ラインS3は、目分量で血管像Ebの中心を通るように位置させることで、平行な線分S1,S2の位置設定を行い易くすることができる。
【0109】
そして、キー操作によって画面51上でフレームFを順次進めて行き、上記と同様の方法で全てのフレームF(F1,F2,…,Fn)について、テンプレートTP1の線分S1,S2の間隔Dsを基準とした当該血管像Ebの直径の大きさを調べる。そして、最も直径が大きいと思われるフレーム画像を、被測定者の心拍動による拡張期の血管画像Ebとして採用する。
【0110】
このように、エコー画像(フレーム画像)上の血管像Ebの直径に近似したサイズのテンプレートTP1を基準として、所定フレーム数のフレーム画像F(F1,F2,…,Fn)の各々を相対比較することで、上記血管Bvの拡張期や収縮期を検出することにより、血管Bvの拡張期や収縮期をより簡単に検出することができる。
【0111】
そして、このような被測定者の心拍動による拡張期の血管画像Ebの抽出を、安静時のエコー画像と充血時のエコー画像の両方について行い、両者を比較することにより、心電計による計測およびこれとの同期を取る必要なしに、被測定者の心拍動による影響を排除した血流依存性血管拡張反応による血管Bvの拡張度(%FMD)を算出することができるのである。
【0112】
以上の方法は、被測定者の心拍動による血管Bvの拡張期や収縮期をマニュアルで検出する場合についてのものであったが、エコー画像(フレーム画像)が明瞭な場合には、かかる検出を各画像の輝度情報に基づいて自動的に行わせることも可能である。
この自動検出方法で用いられるテンプレートTP2は、図19に示すように、上記マニュアル検出用のテンプレートTP1が備えた3本の線分S1,S2,S3と同様の線分を備えるとともに、一対の平行な線分(横ライン)S1,S2に矩形状のテンプレートT1,T2をそれぞれ付設して構成されている。
【0113】
この横ラインS1,S2に付設された矩形テンプレートT1,T2は、全フレーム層全体にわたって共通的に、矩形内部に血管壁外膜部分が収まるサイズに設定されている。テンプレートTP2は、例えば最も上のフレームF1の血管像Ebに合わせておく。
図20に示すように、画像フレーム層では、被測定者の心拍動による血管の拡張期と収縮期とが一連のフレーム画像F(F1,…,Fm,…,Fn)として表示されており、その中で最大拡張期のフレームを検出すれば良い。
【0114】
超音波は上腕表皮から深部に向かって発射されるので、短軸側の画像とされた血管画像Ebでは、図21に示すように、血管像Ebの直径に沿った方向に(図21におけるy方向)に超音波が当たることになる。
また、横ラインS1,S2に付設された矩形フレームT1,T2は、横ラインS1,S2を基準として±dH方向はエコー深さ方向を表わし、縦ラインS3を基準として±dL方向は腕の幅方向を表わしている。
【0115】
エコープローブ31の超音波発射部31fを被測定者の上腕部Auの上面側に位置させて超音波を発射させる場合、エコーは、通常、超音波発射部31fに対して近い側に位置する上側の血管壁の外膜部および遠い側に位置する下側の血管壁の外膜部で最大値(最大輝度)を示すことが知られており、横ラインS1,S2に付設された矩形テンプレートT1,T2は、全フレーム層全体にわたって共通的に、矩形内部に血管壁外膜部分が収まるサイズに設定されているので、図22に例示されるように、上記2箇所の最大輝度部分は全て矩形テンプレートT1,T2内に収まることになる。
【0116】
そして、各画像フレームF内において、矩形テンプレートT1,T2のエリア内で、dL方向における1ピクセル毎に±dHの範囲内で最大輝度を示す位置(最大輝度位置)を検出し、この最大輝度位置をdL方向について平均したy方向からの位置Y1,Y2を求める。各フレームFの血管壁外膜間の距離Lfは、Lf=Y1−Y2で表わされることになる。
このLf値を全フレームF(F1,…,Fm,…,Fn)について求め、Lf値が最大となる画像フレームを自動で抽出することで、最大拡張期のフレームを自動検出することができるのである。
【0117】
以上の自動検出は、制御演算機構40の記憶装置に格納された自動検出プログラムによって実行されるようになっている。
このように、所定数(例えば60−120フレーム)の各フレーム画像Fの輝度情報に基づいて、血管Bvの拡張期や収縮期を自動検出することにより、血管の拡張期や収縮期をより迅速に検出することができ、また、検出作業を大幅に省力化できる。
【0118】
尚、通常であれば、上述のように、エコーは上側の血管壁の外膜部および下側の血管壁の外膜部で最大値を示し、これらの部分に最大輝度部が現れるのであるが、血管Bvがプラークなどで石灰化している場合には、血管壁の内膜部に最大輝度部が発現する場合がある。従って、血管Bvの拡張期や収縮期の検出を行う際には、自動で行えるか又はマニュアルで行うべきである等を検査者が判断し、何れか好適な方法を選択することが望ましい。
【0119】
以上のようにして、安静時および充血時のエコー画像について、被測定者の心拍動による血管拡張期の画像を抽出することにより、被測定者の心拍動による影響を排除した血流依存性血管拡張反応による血管Bvの拡張度(%FMD)を算出することができるのであるが、本実施形態では、血管Bvのエコー画像を撮像する場合、前述のように、超音波発射部31fの長手方向が血管Bvの中心線Lbと実質的に直交する方向に沿うようにエコープローブ31をセットしてエコー画像(短軸側の画像)を撮像するようにしている。
【0120】
これにより、血管Bvの中心線Lbを含む面のエコー画像(長軸側の画像)を撮像していた従来に比して、エコープローブ31のセットに高い熟練度を求められることがなく、血管径の測定を容易に行えるのであるが、その反面、短軸側のエコー画像の撮像では、エコーが血管Bvの直径を通過する部分が僅かであるので、長軸側のエコー画像における場合のように測定値の平均を求めて測定精度を保つことは困難である。
【0121】
そこで、本実施形態では、短軸側のエコー画像における円形の血管像の全体(全周)についての測定値を得ることで、その平均を求めて測定精度を確保するようにしている。
このため、本実施形態では、x−y座標系で表示された血管Bvのエコー画像を極座標系に変換して表示し、当該極座標表示のエコー画像に基づいて測定対象の血管Bvのエッジを検出することで、血管エッジの検出および血管径の計測をより容易かつ正確に行えるようにしている。
【0122】
図23は、x−y座標系と極座標系との関係を説明する公知の線図である。この図に示されるように、x−y座標系において座標(dx,dy)で表示される点Pは、極座標系においては座標(r,θ)で表示される。
この極座標表示を用いた場合、例えば、x−y座標系で図24に示されるような曲線C1及び外枠線G1は、点P1を原点とする極座標系に変換することにより、図25に示すような曲線C2及び曲線G2で表わされる。
【0123】
このような座標変換を円形に適用した場合、図26(a)のx−y座標系で表示した円J1および外枠線K1は、円J1の中心P1を原点とした極座標系に変換して表示すれば、図26(b)に示されるような直線J2及び曲線K2で表わされる。この場合、図26(a)における円J1の半径Rは、図26(b)では、直線J2と基準線Ljとの距離Rとして表わされ、これを2倍することで直径が得られる。
【0124】
また、円の中心P1から若干外れた点P2を原点とした極座標系に変換して表示した場合には、図26(c)に示されるように、直線から若干歪んだ曲線J3及び曲線K3で表わされる。この場合、図26(a)における円J1の半径Rは、図26(c)では、曲線J3と基準線Ljとの距離Rの平均値で表わされ、これを2倍することで直径が得られる。
このように、円の中心P1から若干外れた点P2を原点として極座標変換した場合でも、得られた曲線J3と基準線Ljとの距離Rの平均値を取ることで、円の中心P1から外れた点P2を原点としたことによる直線の歪みを相殺し、精度低下を補うことができる。
【0125】
従って、図27に示すような短軸側で撮像した血管像Ebのように、略円形ではあるが正確な円ではなく、その中心を明確に特定できないような形状のものについて平均直径を計測する場合には、図28に示すように、円の中心Peを仮想した上で、極座標系に変換して表示することで、血管像Ebのエッジ(縁部)を略直線として表示して認識させることができ、比較的容易かつ正確に平均直径を計測することが可能である。
このような極座標表示の例を図29に示す。この図29では、上記血管像Ebのエッジラインが直線が歪んで形成された曲線Jとして表示され、画像フレームの外枠線が曲線Kで表示されている。
【0126】
このように、x−y座標系で表示された血管Bvのエコー画像を、当該画像上での血管中心を原点とした極座標系に変換して表示することにより、通常(x−y座標系)ならば略円形の血管エッジを略直線状に表示することができ、血管エッジの検出および血管の直径の計測をより容易かつ正確に行えるようになる。
極座標変換を行う際の原点が血管の実際の中心からある程度ずれている場合や、エコー画像上の血管エッジに歪みや変形がある場合には、極座標表示では直線の歪みや変形として表れることになるが、当該極座標表示のエコー画像上で検出した血管エッジの検出データに基づいて血管Bvの平均直径を求めることにより、直線の歪みや変形が相殺されることになり、より正確な血管径をより容易に求めることができる。
【0127】
血管径を正確に測定するには、撮像して得られたエコー画像から如何にして正確に血管壁を認識するかが重要であるが、血管壁の位置によってはエコーの発射方向との関係で、血管壁の誤認が生じ易くなる場合もあり得る。すなわち、例えば図27において、エコーの発射方向を矢印Ahで表せば、血管像Ebの血管壁面部のうち、エコー発射側に対して近位および遠位の領域(特に、実質的に最も近位および実質的に最も遠位の領域Eb1及びEb2)については、反射エコーが比較的得られ易く血管エッジが比較的明瞭に検出できる。これに対して、血管像Ebの血管壁面部のうち、エコー発射方向(矢印Ah方向)と実質的に直交する方向における両端領域Eb3,Eb4については、反射エコーが比較的得られ難く血管エッジの誤検出が生じ易くなることが知られている。
【0128】
そこで、本実施形態では、より好ましくは、極座標系への座標変換を行うに際して、血管像Ebの血管壁面部のうち、エコー発射側に対して実質的に最も近位の血管壁面部を0度とし、上記エコー発射側から実質的に最も遠位の血管壁面部を180度として極座標系への座標変換を行うようにした(図29参照)。
これにより、血管像Ebの血管壁面部のうち、反射エコーが比較的得られ易く血管エッジが比較的明瞭に検出できる領域(エコー発射側に対して実質的に最も近位および遠位の領域Eb1及びEb2:極座標表示で0度および180度の領域)と、反射エコーが比較的得られ難く血管エッジの誤検出が生じ易い領域(エコー発射方向に直交する方向の両端領域Eb3,Eb4:極座標表示で90度および270度の領域)とを、極座標表示において予め容易に認識できる。従って、血管エッジの検出を行うに際しては、誤検出が生じ易い上記領域Eb3,Eb4について特段の注意を払うことなどにより、検出精度の向上に資することができる。
【0129】
本実施形態では、血管像Ebの中心を仮想するに際して、より簡単かつ精度の高い仮想中心を設定できるように、x−y座標系で表示されたエコー画像上の血管像Ebのエッジに略対応するテンプレートとして、図30に示すような、中心P3を表示した円形のテンプレートTP3を用意し、図31に示すように、エコー画像上の血管エッジにこの円形テンプレートTP3を重ね合わせ、この重ね合わせた円形テンプレートTP3の中心P3を血管中心と仮想するようにした。
【0130】
このような円形テンプレートTP3を用いて血管中心を仮想することにより、x−y座標系で表示された血管像Ebを極座標変換する際の原点の設定をより簡単かつ精度良く行うことができる。
この場合、血管画像Ebのエッジと円形テンプレートTP3とをより精度良く重ね合わせる上で、円形テンプレートTP3の直径は、測定対象の血管画像Ebの直径にできるだけ近似していることが好まし、また、この血管画像Ebの直径よりも若干大きいことが更に好ましい。
【0131】
図32は、直径を可変とした円形テンプレートTP4(中心P4)を示している。この円形テンプレートTP4の場合、例えばマウス操作等により、その直径が例えばピクセル単位で変化(拡大/縮小)させることができる。
このように、x−y座標系で表示されたエコー画像上の血管エッジに略対応する円形テンプレートTP4の直径を可変とした場合には、該テンプレートTP4がエコー画像上の血管エッジにより精度良く重なり合うようにテンプレートTP4の直径を調整でき、血管中心をより精度良く仮想することができる。
【0132】
尚、この代わりに、複数枚の直径が不変の(可変でない)円形テンプレートを用意しておき、これら複数の円形テンプレートを順次入れ替えて測定対象の血管画像Ebのエッジと重ね合わせ、血管画像Ebの直径に最も近似しているもの、より好ましくは、最も近似し且つ血管画像Ebの直径よりも若干大きいものを選定し、この選定した円形テンプレートを用いて血管中心を仮想するようにしても良い。この場合には、複数の円形テンプレートを順次入れ替える入れ替え操作をプログラム制御によって自動的に行わせることが可能で、血管中心の仮想の自動化を促進する上で好適である。
【0133】
以上のような円形テンプレートTP3又はTP4を用いることで血管像Ebにおける血管中心を仮想し、この仮想中心を原点としてx−y座標系から極座標への変換が行われる。
すなわち、図23に示されるように、r=√(dx・dx+dy・dy)で求められるr方向に沿って輝度値を検出し、これを角度θに沿って1回転分処理することで、例えば図28に示されるようなx−y座標表示の血管画像Ebが、図29に示されるように極座標表示Jに変換される。
【0134】
このようにして極座標展開された展開図(図29参照)から、血管像Ebの外膜エッジを自動で認識させて血管径を演算することができる。
図33は、血管像Ebの外膜エッジの自動認識を説明するための線図である。この図において縦軸は輝度を表わし、横軸には極座標変換の原点Pe(x−y座標表示での血管像の仮想中心)からの距離が示されている。
【0135】
極座標展開図から血管像Ebの外膜エッジを自動認識させる場合、一般に、輝度のピークは、外膜エッジ部分NP,FPだけでなく内膜エッジ部分Pi,Piにも現れるので(図33参照)、この内膜ピークPiを誤って検知することがないように、極座標展開図に対して平滑化処理を行う。この平滑化処理は、例えば移動平均処理などの平滑化フィルタを用いて行うことができる。これにより、図33に見られる内膜ピークPi等の小ピークが除去され、残った外膜ピークNP,FPのみが検出可能となる。
【0136】
本実施形態では、極座標展開図に対して平滑化処理を行うに際して、まず、上記極座標表示のエコー画像に対し移動平均フィルタを用いて高周波ノイズ除去処理を施し、この高周波ノイズ除去処理を施したエコー画像の画像データの輝度情報に基づき、輝度の偏差が所定値よりも大きい位置を血管エッジとして認識し、輝度の偏差が上記所定値以下の位置については、血管エッジを表すポイント(ピクセル)ではないとして排除するようにした。また、血管壁面全体の血管エッジについて、位置の偏差が一定値よりも大きい位置については、誤認位置として排除するようにした。
【0137】
このように、高周波ノイズ除去処理を施したエコー画像の画像データの輝度情報に基づき、輝度の偏差が所定値よりも大きい位置を血管エッジとして認識することで、血管エッジの検出精度をより高めることができ、更に、血管壁面全体の血管エッジについて、位置の偏差が一定値よりも大きい位置を誤認位置として排除することで、血管エッジの検出精度を更に一層高めることができる。
【0138】
外膜エッジラインを検出するために、血管像Ebの仮想中心Peから半径r方向に沿って血管周辺部に向かい、微小変化量drに対する輝度変化量dzを比較して行く。このとき、輝度の変化量dzが所定値以上となる位置を検出し、これを血管の外膜エッジ位置(血管Bvの内膜と外膜の間に位置する、所謂エムライン:m−line)とする。このm−line全体が血管の径を現す位置として確認できる。
【0139】
このようにして検出された外膜エッジラインの極座標展開図における位置情報から血管像Ebの半径が得られ、この半径の平均値を2倍することで血管像Ebの直径の平均値が求められる。
こうして直径の平均値を求めた後、より好ましくは、上記極座標展開図を元のx−y座標系に逆変換し、この逆変換して得られた画像を元のx−y座標表示の血管画像と対比する。
【0140】
元のエコー画像が著しく不鮮明である場合などには、外膜エッジラインの自動検出が適切に行えるとは限らない。このような場合には、極座標表示から逆変換して得られたx−y座標表示の血管画像と元のx−y座標表示の血管画像と対比することで、検出された外膜エッジラインを構成するポイントの一部を削除したり、若しくはポイント追加を行って、元のx−y座標表示の血管画像の外膜エッジにより近似した外膜エッジラインを得るべく、修正を加えることも可能である。このような修正を加えることで、より正確な血管径を求めることができる。
【0141】
尚、エコー画像の状態から以上のような外膜エッジラインの自動検出が不可能と判断される場合、或いは、より簡便な検出が求められる場合などには、直径が可変とされた円形テンプレートTP4を用い、その直径を可変調整しながら、手動と目視により円形テンプレートPT4を血管像の外膜エッジに重ね合わせることで、血管径を測定することもできる。実際には、このようなマニュアル測定と上述の自動測定機能やその一部修正機能とを併用するのが最も効率的である。
【0142】
図34は、以上のような血管径の測定ルーチンを概略的に示すフローチャートである。測定が開始されると、まず、任意のエコー画像を抽出し(ステップ#21)、その画像の輝度情報から測定対象の動脈(血管像)を抽出する(ステップ#22)。次に、抽出した動脈の血管像に適合する円形テンプレートを選択する(ステップ#23)。この円形テンプレートの選択は、前述のように、複数の円形テンプレートを順次入れ替えて血管像に重ね合わせ、仮想動脈の直径に最も近似し、且つ、その直径よりも大きいテンプレートを見付けるまで繰り返される(ステップ#24)。そして、選択された円形テンプレートを測定対象の血管像(仮想動脈)に重ね合わせ、円形テンプレートの中心を仮想動脈の中心として認識する(ステップ#25)。
【0143】
次に、仮想動脈の中心を基準として極座標変換を行い(ステップ#26)、この極座標表示の画像に対し移動平均フィルタを用いて高周波ノイズ除去処理を施す(ステップ#27)。そして、予め定められた設定輝度を越えるピクセルを血管エッジとして認識する(ステップ#28)。すなわち、輝度の偏差が所定値よりも大きい位置を血管エッジとして認識し、輝度の偏差が上記所定値以下の位置については、血管エッジを表すポイント(ピクセル)ではないとして排除するようにした。
【0144】
更に、上記極座標表示の画像での血管エッジについて、360度方向に移動平均を行い、位置の偏差が一定値よりも大きい壁面位置については、誤認位置(ミス検出位置)として排除する(ステップ#29)。
こうして認識した血管エッジに基づいて血管径の平均値を算出し、任意の時点における平均血管径として認識するようになっている(ステップ#30)。
以上のような血管径の測定が、血管径の収縮期および拡張期のそれぞれについて、所定のタイミング及び/又は所定の時間間隔で繰り返して行われる。
【0145】
以上のようにして、エコー画像(血管像Eb)の画像データの輝度情報から求めた血管エッジの位置情報(つまり、血管像Ebの直径の平均値)に基づいて、上記血管の拡張期および収縮期の少なくとも何れか一方を自動検出することができる。すなわち、時系列的に順次得られた複数の血管像Ebの平均直径を対比することにより、後続する画像の直径の方が大きい場合には血管が拡張期であり、一方、後続する画像の直径の方が小さい場合には血管が収縮期であると、判定することができる。
これにより、血管の拡張期や収縮期をより迅速に検出することができ、また、検出作業を省力化することもできる。
【0146】
また、上記血管の最大拡張時の直径を推定する際、充血反応過程における複数の拡張血管径の測定値と安静時の基準血管径の測定値とに基づいて、血管径の漸増を1次回帰法で推定し、充血反応時間60秒に対応する拡張血管径の推定値を最大拡張血管径とすることにより、最大拡張血管径をより短時間で推定することができる。
ここに、充血反応時間60秒に対応する拡張血管径の推定値を用いるのは、充血反応期間中における血管の拡張は、通常、充血反応が開始されて遅くとも60秒後には拡張作用が飽和するからである。
【0147】
以上のようにして、安静時のエコー画像と充血時のエコー画像とにそれぞれ基づいて血管径を測定し、その測定値に基づいて血管拡張度(%表示)を算出することで、血流依存性血管拡張反応における%FMDが得られる。
【0148】
尚、以上の実施態様は、%FMDを測定する場合を例としたものであったが、本発明に係る方法および装置は、かかる場合に限定されるものではなく、その他の目的で血管径を測定する種々の場合についても、有効に適用することができるものである。
また、以上の実施態様は、上腕動脈の血管径を測定する場合を例としたものであったが、本発明に係る方法および装置は、かかる場合に限定されるものではなく、例えば、同じ上腕でもとう骨動脈など他の血管の直径を測定する場合、更には、腕ではなく脚部など他の部位の血管の直径を測定する場合などにも、有効に適用し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のエコーを用いた血管径測定方法およびその装置は、被測定者の所定の血管のエコー画像を撮像し当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定するもので、例えば、血管の内皮機能や動脈硬化に深く関係すると言われている血流依存性血管拡張反応を示す指標である、所謂%FMD(Flow-Mediated Dilatation)の測定などにおいて、有効に利用することができる
【0150】
このように、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更や改良を加え得るものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の実施形態に係る血管径測定装置のシステム構成を概略的に示す説明図である。
【図2】上記血管径測定装置のシステム構成を概略的に示すブロック構成図である。
【図3】上記血管径測定装置の制御演算機構の構成を概略的に示すブロック構成図である。
【図4】エコープローブの血管に対する取付方位と撮像されるエコー画像との関係を模式的に示した説明図である。
【図5】ウォータバッグを介してエコープローブを固定する例を示す説明図である。
【図6】上記実施形態の第1具体例に係る血管径測定装置の全体構成を示す斜視図である。
【図7】第1具体例に係る血管径測定装置の上腕支持部を拡大して示す斜視図である。
【図8】図6のY8‐Y8線に沿った断面説明図である。
【図9】図6のY9‐Y9線に沿った断面説明図である。
【図10】上記実施形態の第2具体例に係る血管径測定装置の一部が分解された状態を示す分解斜視図である。
【図11】第2具体例に係る血管径測定装置の組立状態を示す組立斜視図である。
【図12】上記実施形態の第3具体例に係る血管径測定装置の一部が分解された状態を示す分解斜視図である。
【図13】第3具体例に係る血管径測定装置の組立状態を示す組立斜視図である。
【図14】上記血管径測定装置の測定結果を時系列データとして表示したグラフの一例を示す図である。
【図15】本実施形態に係る血管径測定装置を用いた%FMDの測定手順の一例を概略的に示すタイムチャートである。
【図16】測定中における上腕動脈の血管径の変化状態の一例を概略的に示すタイムチャートである。
【図17】上記%FMD測定手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図18】血管の拡張期をマニュアル検出する際に用いるテンプレートを模式的に示す説明図である。
【図19】血管の拡張期を自動検出する際に用いるテンプレートを模式的に示す説明図である。
【図20】画像フレーム層と自動検出用テンプレートを模式的に示す説明図である。
【図21】画像フレーム内の血管画像と自動検出用テンプレートを模式的に示す説明図である。
【図22】画像フレーム層内の各フレームにおける輝度分布の一例を示すグラフである。
【図23】x−y座標系と極座標系との関係を説明するための線図である。
【図24】x−y座標系で表示した曲線および外枠線を示す説明図である。
【図25】極座標系に変換して表示した上記曲線および外枠線を示す説明図である。
【図26】(a)はx−y座標系で表示した円および外枠線を示す説明図、(b)は円の中心を原点とした極座標系に変換して表示した上記円および外枠線を示す説明図、(c)は円の中心から外れた点を原点とした極座標系に変換して表示した上記円および外枠線を示す説明図である。
【図27】血管画像の一例を模式的に示す説明図である。
【図28】上記血管画像の極座標変換示す説明図である。
【図29】上記血管画像を極座標変換した表示を示す説明図である。
【図30】血管画像の仮想中心の設定に用いる円形テンプレートを示す説明図である。
【図31】上記円形テンプレートを血管画像に適用した状態を示す説明図である。
【図32】直径可変の円形テンプレートと血管画像とを示す説明図である。
【図33】血管像の外膜エッジの自動認識を説明するための線図である。
【図34】血管径の測定ルーチンを概略的に示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0152】
10…腕部加圧機構
11…カフ部
12…カフ圧制御部
13…脈圧計測部
14…ベース部
20…プローブ固定機構
21…アタッチメント
27…プローブ固定具
28,68…ウォータバッグ
30…撮像機構
31…エコープローブ
31f…超音波発射部
32…エコー画像処理装置
40…制御演算機構
41…カフ圧設定部
42…脈波演算部
43…血管径演算部
44…判定部
45…表示処理部
50…表示機構
51…モニタ表示部
52…プリンタ
Af…上腕部
Au…前腕部
Bv…血管
Eb…血管画像
F,F1,F2,Fm,Fn…画像フレーム
Lb…血管の中心線
Ms,M1,M2,M3…血管径測定装置
TP1,TP2,TP3,TP4…テンプレート
UH1,UH2,UH3…固定保持ユニット
Um…計測制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の腕部における第1部位にカフ圧を加えて所定時間だけ阻血した後に上記カフ圧を解放し、カフ圧を加える前とカフ圧解放後の所定タイミングで、上記被測定者の腕部における第2部位を流れる所定の血管のエコー画像を撮像し、当該エコー画像に基づいて上記血管の直径を測定する血管径測定方法において、
上記カフ圧の圧力制御中に、上記被測定者の血圧を計測することを特徴とするエコーを用いた血管径測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の血管径測定方法において、
上記カフ圧を上昇させながら上記被測定者の脈圧を検出し、脈圧消失が生じた時点でのカフ圧を検出し、この検出値に基づいて阻血カフ圧を設定することを特徴とするエコーを用いた血管径測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の血管径測定方法において、
上記第1部位は前腕部であり、上記第2部位は上腕部であることを特徴とするエコーを用いた血管径測定方法。
【請求項4】
被測定者の所定の血管のエコー画像を撮像する撮像手段と、
該撮像手段で得られた上記エコー画像に基づいて上記血管の直径を演算し得る演算手段と、
被測定者の腕部における第1部位にカフ圧を加えて阻血し得る阻血手段と、
上記第1部位にカフ圧を加えて所定時間だけ阻血した後に上記カフ圧を解放するようにカフ圧を制御するカフ圧制御手段と、
上記撮像手段のエコープローブを被測定者の腕部における第2部位に固定する固定手段と、
上記第1部位にカフ圧を加える前とカフ圧解放後の所定タイミングで、上記第2部位を流れる所定の血管のエコー画像を撮像するように上記撮像手段を制御する撮像制御手段と、
上記カフ圧の制御中に、上記被測定者の血圧を計測する血圧計測手段と、
を備えたことを特徴とするエコーを用いた血管径測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の血管径測定装置において、
上記カフ圧の上昇時に上記被測定者の脈圧を検出する脈圧検出手段を更に備え、
該脈圧検出手段が脈圧消失が生じた時点でのカフ圧に基づいて阻血カフ圧を設定する、
ことを特徴とするエコーを用いた血管径測定装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の血管径測定装置において、
上記演算手段は、上記カフ圧を加える前のエコー画像とカフ圧解放後のエコー画像とに基づいて、血流依存性血管拡張反応による血管径の拡張度を演算し、
上記演算手段には、上記血管径の拡張度を時系列で表示し得る演算結果表示手段が接続されている、
ことを特徴とするエコーを用いた血管径測定装置。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか一に記載の血管径測定装置において、
上記第1部位は前腕部であり、上記第2部位は上腕部であることを特徴とするエコーを用いた血管径測定装置。
【請求項8】
請求項4〜7の何れか一に記載の血管径測定装置において、
上記エコープローブの固定状態を上記血管が流れる方向と該血管の周方向とについて調整し得る調整手段を更に備えたことを特徴とするエコーを用いた血管径測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2007−268301(P2007−268301A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160086(P2007−160086)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【分割の表示】特願2004−181369(P2004−181369)の分割
【原出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【出願人】(500420627)メディアクロス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】