説明

エチレンの二、三および/または四量体化のための触媒組成物およびプロセス

本発明は、エチレンの二、三および/または四量体化のための触媒組成物およびプロセスに関し、ここで、この触媒組成物は、クロム化合物、一般構造(A)R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hまたは(B)R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−PR67のリガンド、もしくは(A)と(B)の任意の環状誘導体、および助触媒または活性化剤を含み、ここで、PNPN−ユニットまたはPNPNP−ユニットのPおよびN原子の少なくとも一方が、環系の一員であり、この環系が、置換により構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンの二、三および/または四量体化のための触媒組成物およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
コモノマーグレードの1−ヘキセンおよび1−オクテンを含む直鎖状アルファオレフィン(LAO)を製造するための既存のプロセスは、エチレンのオリゴマー化によるものである。これらのプロセスには、4、6、8などの鎖長を有するエチレンオリゴマーの生成物分布が得られるという共通点がある。これは、競合する、鎖の成長反応工程と置換反応工程により広く制限され、シュルツ・フローリーの生成物分布またはポアソンの生成物分布がもたらされる化学機構のためである。
【0003】
市場の観点から、この生成物分布により、一連のアルファオレフィンの製造業者にとって手強い課題が課せられている。その理由は、供給される各市場区分は、市場の規模と成長、地理学、断片化などに関して非常に異なる反応を示すからである。したがって、生成物範囲の一部が、所定の経済状況において高い要望があるかもしれない一方で、それと同時に、他の生成物の留分は、まったくもしくはわずかな隙間でしか市場性がないかもしれないので、製造業者が市場の要件に適合することが非常に難しい。現在、最高価値のLAO生成物は、高分子産業のためのコモノマーグレードの1−ヘキサンであり、一方で、1−オクテンの需要も急速に伸びている。
【0004】
それゆえ、最も経済的に発展し得るLAO、すなわち、コモノマーグレードの1−ヘキサンおよび1−オクテンの計画的な生産が非常に望ましいと思われる。高いC6−および/またはC8−選択率に関する要件を満たすために、新たなプロセスが開発されてきた。唯一公知の選択的C6−工業プロセスは、シェブロン・フィリップス(Chevron Phillips)により操業が認められている。包括的検討のためには、例えば、非特許文献1を参照のこと。
【0005】
さらに、典型的にCrCl3(ビス−(2−ジフェニルホスフィノ−エチル)アミン)/MAO(メチルアルミノキサン)のタイプの、クロムに基づく選択的エチレン−三量体化触媒系を開示した特許出願が、サソール(Sasol)(特許文献1)により出願されている。また、リガンド構造(例えば、ビス(2−ジエチルホスフィノ−エチル)−アミン、ペンタメチルジエチレントリアミンなど)の変種も開示された。しかしながら、これらの錯体の全てでは、1−ヘキセン以外のLAOおよびポリエチレンなどの望ましくない副生成物が多量に生成されてしまう。
【0006】
非常に多数の科学出版物および特許文献に、基本的PNP−構造(例えば、ビス(ジフェニルホスフィノ)アミン−リガンド)(非特許文献2から9;特許文献2から5);またはSNS−構造(非特許文献10から12);両方について、エチレンの三量体化および四量体化を特色とするリガンドとのクロムに基づく金属−有機錯体の使用が記載されている。活性化剤/助触媒として、過剰な量のMAOが通常使用される。
【0007】
公表された研究の大多数はCr−PNP錯体によるが、あるものは、例えば、Xが二価の有機結合基である、一般式(R1)(R2)P−X−P(R3)(R4)の他のリガンド(特許文献6を参照のこと)を扱い、またはチタノセンなどの完全に異なる錯体(非特許文献13)を扱っている。いずれの場合も、主な懸念は常に、選択率とポリエチレン形成の最小化である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第93/053891A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/056578号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/056479号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第02794480.0号明細書
【特許文献5】欧州特許第02794479.2号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/039758A1号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.T. Dixon, M.J. Green, F.M. Hess, D.H. Morgan, “Advances in selective ethylene trimerisation - a critical overview”, Journal of Organometallic Chemistry 689 (2004) 3641-3668
【非特許文献2】D. S. McGuinness, P. Wasserscheid, W. Keim, C. Hu, U. Englert, J.T. Dixon, C. Grove, “Novel Cr-PNP complexes as catalysts for the trimerization of ethylene”, Chem. Commun., 2003, 334-335
【非特許文献3】K. Blann, A. Bollmann, J. T. Dixon, F.M. Hess, E. Killian, H. Maumela, D. H. Morgan, A. Neveling, S. Otto, M. J. Overett, "Highly selective chromium-based ethylene trimerisation catalysts with bulky diphosphinoamine ligands", Chem. Comm., 2005, 620-621
【非特許文献4】M. J. Overett, K. Blann, A. Bollmann, J. T. Dixon, F. Hess, E. Killian, H. Maumela, D. H. Morgan, A. Neveling, S. Otto, "Ethylene trimerisation and tetramerisation catalysts with polar-substituted diphosphinoamine ligands", Chem. Commun., 2005, 622-624
【非特許文献5】A. Jabri, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "Isolation of a Cationic Chromium(II) Species in a Catalytic System for Ethylene Tri- and Tetramerization", Organometallics 2006, 25, 715-718
【非特許文献6】T. Agapie, S. J. Schofer, J. A. Labinger, J.E. Bercaw, "Mechanistic Studies of the Ethylene Trimerization Reaction with Chromium-Diphosphine Catalysts: Experimental Evidence for a Mechanism Involving Metallacyclic Intermediates", J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1304-1305
【非特許文献7】S. J. Schofer, M. D. Day, L. M. Henling, J. A. Labinger, J. E. Bercaw, "Ethylene Trimerization Catalysts Based on Chromium Complexes with a Nitrogen-Bridged Diphosphine Ligand Having ortho-Methoxyaryl or ortho-Thiomethoxy Substituents: Well-Defined Catalyst Precursors and Investigations of the Mechanism", Organometallics 2006, 25, 2743-2749
【非特許文献8】S. J. Schofer, M. D. Day, L. M. Henling, J. A. Labinger, J. E. Bercaw,"A Chromium-Diphosphine System for Catalytic Ethylene Trimerization: Synthetic and Structural Studies of Chromium Complexes with a Nitrogen-Bridged Diphosphine Ligand with ortho-Methoxyaryl Substituents", Organometallics 2006, 25, 2733-2742
【非特許文献9】P. R. Elowe, C. McCann, P. G. Pringle, S. K. Spitzmesser, J. E. Bercaw, "Nitrogen-Linked Diphosphine Ligands with Ethers Attached to Nitrogen for Chromium-Catalyzed Ethylene Tri- and Tetramerization", Organometallics 2006, 25, 5255-5260
【非特許文献10】D. S. McGuinness, D. B. Brown, R. P. Tooze, F. M. Hess, J. T. Dixon, A. M. Z. Slavin, "Ethylene Trimerization with Cr-PNP and Cr-SNS Complexes: Effect of Ligand Structure, Metal Oxidation State, and Role of Activator on Catalysis", Organometallics 2006, 25, 3605-3610
【非特許文献11】A. Jabri, C. Temple, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "Role of the Metal Oxidation State in the SNS-Cr Catalyst for Ethylene Trimerization: Isolation of Di- and Trivalent Cationic Intermediates, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 9238-9247
【非特許文献12】C. Temple, A. Jabri, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "The Question of the Cr- Oxidation State in the {Cr(SNS)} Catalyst for Selective Ethylene Trimerization: An Unanticipated Re-Oxidation Pathway", Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7050-7053
【非特許文献13】H. Hagen, W.P. Kretschmer, F.R. van Buren, B. Hessen, D.A. van Oeffelen, “Selective ethylene trimerization: A study into the mechanism and the reduction of PE formation”, Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 248 (2006) 237-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
科学文献および特許文献にこれまでに開示されたエチレンの三量体化および四量体化のための触媒およびプロセスは一般に、以下の欠点のうち1つ以上有している。
【0011】
・ 所望の生成物1−ヘキセンおよび/または1−オクテンに対する低い選択率(副反応経路からの望ましくない副生成物)。
・ 生成物の限られた純度、すなわち、特定のC6−またはC8−留分内の選択率(異性化、分岐鎖オレフィンの形成など)。
・ 蝋の形成、すなわち、重質、長鎖、高炭素数の生成物の形成。
・ 高分子形成(ポリエチレン、分岐鎖および/または架橋PE);これは、著しい生成物収率の低下および設備のファウリングの原因となる。
・ 回転率/触媒活性が不十分で、生成物1kg当たりのコストが高くなる。
・ 触媒またはリガンドの高い費用。
・ リガンド合成が難しく、有効性が不十分で、触媒コストが高くなる。
・ 微量不純物に対する、活性および選択率両方に関する、触媒の性能の感受性(触媒の損失/被毒)。
・ 技術的環境における触媒成分の難しい取扱い(触媒錯体の合成、予混、不活性化、触媒またはリガンドの回収)。
・ 反応条件が厳しく、すなわち、温度と圧力が高く、投資、メンテナンスおよびエネルギーのコストが高く付く。
・ 助触媒/活性化剤の費用が高いおよび/または消費量が多い。
・ 様々な助触媒の品質に対する感受性;しばしば、活性化剤(例えば、あるMAO−種)として、比較的不明確な化合物を多量に使用しなければならない場合。
【0012】
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服した、エチレンの選択的な二、三および/または四量体化のための触媒組成物およびプロセスを提供することにある。特に、プロセス条件にかかわらず、多量の蝋および高分子の形成を避けることにより、高い選択率が達成される。さらに、この触媒組成物により、技術プロセスの十分に高い活性回転率(TOF)が提供される。
【0013】
言い換えれば、従来技術のプロセスにおける幅広いLAO(直鎖状アルファオレフィン)生成物は避けるべきであり、経済的に最も望ましい生成物の1−ヘキセンの選択的生産が可能になるべきである。助触媒の性質および反応条件に応じて、例えば、それぞれ、1−ブテンと1−ヘキセン、並びに1−ヘキセンと1−オクテンの共製品も提供すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、
(a) クロム化合物、
(b) 以下の一般構造のリガンドであって、
(A) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−H、または
(B) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−PR67
もしくは(A)と(B)の任意の環状誘導体、
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10−アルキル、アリールおよび置換アリールから選択され、PNPN−ユニットまたはPNPNP−ユニットのPおよびN原子の少なくとも一方が環系の一員であり、この環系が、置換により構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されているリガンド、および
(c) 活性化剤または助触媒、
を含む触媒組成物により達成される。
【0015】
(A)と(B)の任意の環状誘導体はリガンドとして利用でき、ここで、PNPN−ユニット(構造(A))またはPNPNP−ユニット(構造(B))のPおよびN原子の少なくとも一方が環系の一員であり、この環系が、置換により、すなわち、構成化合物当たり、2つの全体の基R1−R7(定義された)またはHいずれか、2つの基R1−R7(定義された)の各々からの1つの原子または全体の基R1−R7(定義された)またはHおよび別の基R1−R7(定義された)からの1つの原子を形式的に除去し、所定の部位に最初に存在したのと同じ価数を提供するために、構成化合物当たり1つの共有結合により、形式的にそのように形成された価数の不飽和部位を結合させることにより、構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されることが理解されよう。
【0016】
(A)と(B)の適切な環状誘導体は以下のようであって差し支えない:
【化1】

【0017】
クロム化合物が、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体から選択されることが好ましい。
【0018】
クロム化合物が、CrCl3(THF)3、アセチルアセトン酸Cr(III)、オクタン酸Cr(III)、クロムヘキサカルボニル、2−エチルヘキサン酸Cr(III)、および(ベンゼン)トリカルボニルクロムから選択される。
【0019】
1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7が、クロロ、アミノ、トリメチルシリル、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、フェニル、ベンジル、トリルおよびキシリルから選択されることも好ましい。
【0020】
アミノ置換基を有する適切な試薬(A)および(B)は以下のとおりであって差し支えない:
【化2】

【0021】
ある実施の形態において、活性化剤または助触媒は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、メチルアルミノキサン(MAO)またはそれらの混合物から選択される。
【0022】
リガンドが、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(i−Pr)−H、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(Pr)−H、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(tert−ブチル)−Hおよび(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(CH(CH3)(Ph))−Hから選択されることが最も好ましい。
【0023】
溶媒を含む触媒組成物が提供されることが好ましい。
【0024】
溶媒が、芳香族炭化水素、直鎖および環状脂肪族炭化水素、直鎖オレフィンおよびエーテル、好ましくは、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランから選択されることが好ましく、トルエンが最も好ましい。その上、これらの溶媒の任意の混合物を使用してもよい。
【0025】
ある実施の形態において、クロム化合物の濃度は、0.01から100ミリモル/l、好ましくは0.1から10ミリモル/lである。
【0026】
リガンド/Crの比は0.5から50であることが好ましく、0.8から2.0がより好ましい。
【0027】
Al/Crの比は1から1000であることが好ましく、10から200がより好ましい。
【0028】
触媒組成物を提供するための成分(a)から(c)は、多かれ少なかれ、出発材料と考えられるが、触媒組成物を形成するためにこれら3成分(a)〜(c)が混合されたときに、転化されてもよい。この点に関して、本発明による触媒組成物は、少なくとも
(a) クロム化合物、
(b) 以下の一般構造のリガンドであって、
(A) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−H、または
(B) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−PR67
もしくは(A)と(B)の任意の環状誘導体、
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10−アルキル、アリールおよび置換アリールから選択され、PNPN−ユニットまたはPNPNP−ユニットのPおよびN原子の少なくとも一方が環系の一員であり、この環系が、置換により構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されているリガンド、および
(c) 活性化剤または助触媒、
を組み合わせることにより得られると説明することができる。
【0029】
本発明によれば、エチレンの二、三および/または四量体化のためのプロセスであって、本発明の触媒組成物を反応装置内でエチレン気相にさらし、オリゴマー化を行う各工程を有してなるプロセスが提供される。
【0030】
オリゴマー化が1から200バールの圧力で行われることが好ましく、10から50バールがより好ましい。
【0031】
オリゴマー化が10から200℃の温度で行われることが好ましく、20から100℃がより好ましい。
【0032】
ある実施の形態において、このプロセスは、連続的、半連続的または不連続的に行われる。
【0033】
平均滞留時間は10分から20時間であってよく、1から4時間が好ましい。
【0034】
一般構造(A)によるリガンドおよび助触媒を組み合わせる場合、構造式:
【化3】

【0035】
を有する反応生成物が得られる。
【0036】
もちろん、先に開示した反応生成物は、リガンドと助触媒の別々の添加の代わりに触媒組成物に利用しても差し支えなく、保護の範囲内にあるものとする。
【0037】
反応条件下で、PNPN−H−型リガンドは、助触媒によりその場で脱プロトン化される。本発明のさらに都合よい実施の形態において、活性触媒種は、上述した構造がもたらされる別個の脱プロトン化/脱離工程によって、別の場所で形成しても差し支えない。
【0038】
特に、より小さなすなわち立体的に要件の厳しくない基R1−R7が用いられる場合、リガンドは二量体を形成する傾向にある。これらの二量体シクロジホスファザンは、活性触媒種を形成するのに直接使用することができる。
【0039】
開示された一般的なリガンド構造(A)および(B)は、以下の構造式により図解することもできる:
【化4】

【0040】
最も好ましいリガンド構造は、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(i−Pr)−Hおよび
【化5】

【0041】
である。
【0042】
意外なことに、エチレンの二、三および四量体化のための本発明の触媒組成物および婦セルロースにより、従来技術の欠点を著しく克服できることが分かった。特に、本発明のプロセスおよび触媒組成物により、高い回転率および選択率で、1−ヘキセンを生成することができる。さらに、高い再現性が得られる、すなわち、触媒組成物は、不純物からの干渉およびプロセス条件の変動に対して安定である。MAOなどの高価な助触媒は、より安価な物質により、好ましくはトリエチルアルミニウムにより、完全にまたは大幅に置き換えることができる。その上、化学構造の比較的不明確な定義のために品質が不安定になりがちである助触媒(例えば、MAO)は、明確な化学種(トリエチルアルミニウム)により部分的にまたは完全に置き換えられる。本発明のプロセスにより、幅広いLAO生成物分布は得られないが、特定のアルファオレフィンを選択的に生成できる。さらに、高分子の形成が非常にうまく抑制される。さらに、穏やかな反応条件を選択することができ、その結果、工業規模のプラントの投資コストが低くなり、エネルギー費と運転費が安くなる。その上、比較的単純で簡単なプロセス設計が可能になる。1−ヘキセンまたは1−ヘキセン/1−オクテンの選択率が非常に高いために、分離手順における追加の精製工程なくして、生成物の純度が高くなる。
【0043】
本発明のさらに別の利点および特徴を、添付の図面を参照して、以下の実施例の欄において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例2において得られた液相のGC/FID分析のチャート
【発明を実施するための形態】
【0045】
活性触媒は、クロムの濃度が0.01から100ミリモル/l、好ましくは0.1および10ミリモル/lの間にあり、リガンド/Crの比が0.5から50モル/モル、好ましくは0.8および2.0モル/モルの間にあるように、適切な溶媒、好ましくはトルエン中でクロム源とリガンドを混合することによって調製してもよい。助触媒、好ましくは、トリエチルアルミニウムもしくはトリエチルアルミニウムとMAOまたはトリエチルアルミニウムとトリメチルアルミニウムの任意の混合物が、Al/Cr比が1および1000モル/モルの間にあるように、トルエン溶液として加えられる。好ましいAl/Cr比は10から200モル/モルである。
【0046】
溶媒のトルエンは、トルエン以外の芳香族炭化水素(ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、キシレン、メシチレンなど)、脂肪族炭化水素(直鎖状および環状の両方、例えば、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン)、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどの直鎖状オレフィンもしくは、例えば、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランなどのエーテルのような他の溶媒により置き換えることもできる。
【0047】
次いで、触媒溶液を、適切な圧力反応装置内で1および200バールの間、好ましくは10および50バールの間の圧力で乾燥エチレンの気相に曝す。この反応装置は、気泡塔反応装置、撹拌タンク型反応装置、固定式または分布式エチレン注入の流通反応装置などの、気相と液相との間の十分な接触を提供するのに適した任意の種類のものであって差し支えない。
【0048】
好ましい反応温度は10および200℃の間であり、最も好ましい温度範囲は20から100℃である。平均滞留時間および滞留時間分布(連続プロセスの場合)は、高い選択率で十分な転化を達成するように選択される。典型的な平均滞留時間は、10分と20時間の間にある(温度と圧力による)。好ましい範囲は1から4時間である。
【実施例】
【0049】
実施例1:リガンド調製
1.1 ビス(イソプロピル−アミノ)−フェニルホスフィン(NPN)の調製
ジエチルエーテル(250ml)中のイソプロピルアミン(30ml、352ミリモル)の撹拌溶液に、30分間に亘り0℃でジクロロフェニルホスフィン(9.63ml、71ミリモル、50mlのジエチルエーテル中に溶解したもの)を加えた。合計で72時間に亘り撹拌した後、この溶液を濾過した。残留物をジエチルエーテルで洗浄し、溶媒を真空中で除去した。残りの油を0.2トール/76〜78℃で蒸留して、33%の収率で無色の液体(5.3g)を得た。31P{H}NMR:49.0ppm。
【0050】
1.2 (フェニル)2PN(イソプロピル)P(フェニル)NH(イソプロピル)(PNPN−H)の調製
テトラヒドロフラン(10ml)中のNPN−種(セクション1.1において調製した)を、−40℃でTHF(40ml)中のトリエチルアミン(6ml)およびクロロジフェニルホスフィン(2.36g、10.7ミリモル)の撹拌溶液に滴下により加えた。室温で24時間に亘りさらに撹拌した後、トリエチルアンモニウム塩を濾過により除去し、残留物をn−ヘキサン中に溶解させ、再度濾過し、結晶化のために溶液を−30℃に保持した。収率52%(2.3g、5.6ミリモル)。31P{H}NMR:41.2、68.4(広域)。
【0051】
実施例2:エチレンの三量体化
浸漬管、サーモウェル、ガス同伴撹拌機、冷却用コイル、温度、圧力および撹拌機の速度の制御装置(全てがデータ収集システムに繋がっている)を備えた、300mlの圧力反応装置を、乾燥アルゴンで不活性化し、100mlの無水トルエンを充填した。トルエン中のリガンド1((フェニル)2PN(イソプロピル)P(フェニル)NH(イソプロピル))の1694μlの4.017質量%溶液を、アルゴン雰囲気下で59.2mgのCrCl3(THF)3(THF=テトラヒドロフラン)と混合した。この触媒溶液を、トルエン中のトリエチルアルミニウムの3.6mlの1.9モル/l溶液と共に、アルゴンを一定に流しながら、反応装置に移した。
【0052】
選択した容積および質量は、1.5モル/モルのリガンド/CrCl3(THF)3比および70モル/モルのAl/Cr比で、1ミリモル/lのクロム濃度に相当する。
【0053】
反応装置に蓋をし、乾燥エチレンで30バールに加圧し、40℃に加熱した。1200rpmで撹拌しながら、エチレンの消費を、エチレン圧力シリンダを常に秤量することによって、電子秤およびデータ収集システムによって、モニタした。120分の滞留時間後、エチレンの圧力により液体を、約100mlの水が入れられたガラス容器に移すことによって、液相中の反応を抑えた。反応装置のヘッドスペースからの全ての気相を、校正したガス計量器により量を量り、次いで、パージされ空にされたガス袋内に定量的に収集した。
【0054】
液体有機相の分離後、総質量を秤量により決定した。その後、有機相の組成をGC/FIDにより分析した。先に収集した気相は、別にGC/FIDにより分析した。
【0055】
測定データに基づいて、物質収支は閉じており、全体の収率および選択率を決定した。
【0056】
例として、液相のGC−トレースが図1に示されている。意外なことに、非常に高い1−ヘキセンの収率が観察され、1−ブテン、1−オクテン、1−デセンおよび1−ドデセンは微量しかない。清浄で明白な条件下での繰り返し実験において、認識できる高分子の形成は観察されなかった。平均のC6−収率は、40℃で89質量%を超え、温度の上昇に伴いわずかに低下する。高いC6−収率よりも意外なことは、C6−留分内の1−ヘキセンの選択率である。40℃の反応温度では、測定した1−ヘキセンの選択率は、100質量%に近づき、すなわち、実験誤差内で100質量%から区別できず、それゆえ、1−ヘキサンの仕様を保証するためのどのような精錬分離ユニットも、技術的動作においていらなくなる。本発明に開示された新規の触媒系は、オレフィン異性化または転位、溶媒のフリーデル・クラフツ・アルキル化、コオリゴマー化などの、どのような望ましくない副反応経路も非常に効果的に抑制できる。
【0057】
一連の最適化されていない実験からの典型的な結果の要約が表1に与えられている。高温では、C6−収率を低下させるが、C4−およびC6−オレフィンの共生産にとって有用であり得、それでもまだ、それぞれ、C4−およびC6−留分内で1−ブテンおよび1−ヘキセンの選択率(生成物の純度)を高くしている。
【表1】

【0058】
異なる助触媒を使用しておよび/またはリガンドの官能基の構造またはCr/リガンド比を変更することにより、その系を、純粋な1−ヘキセン、すなわち、エチレン三量体化触媒から、混合三/四量体化系に切り替えて、高い選択率で1−ヘキセンおよび1−オクテンを生成することができる。
【0059】
リガンド1について、助触媒としてのトリエチルアルミニウムにより、1−ヘキセンの収率が高くなるのに対し、MAOにより、1−ヘキセンおよび1−オクテンが得られる。
【0060】
少量のMAOまたはトリメチルアルミニウムが加えられたトリエチルアルミニウムなどの助触媒の組合せにより、収率および選択率を高く維持しながら、全体の活性、すなわち、転化率を少なくとも3倍増加させることができる。
【0061】
PNPN−H−構造の基本的なリガンドタイプのさらに好ましい変種をうまく合成し、上述したようにテストした。
【0062】
先の説明、特許請求の範囲および図面に開示された特徴は、別々とその任意の組合せの両方で、本発明を様々な形態で実施するための素材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒組成物において、
(a) クロム化合物、
(b) 以下の一般構造のリガンドであって、
(A) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−H、または
(B) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−PR67
もしくは(A)と(B)の任意の環状誘導体、
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10−アルキル、アリールおよび置換アリールから選択され、PNPN−ユニットまたはPNPNP−ユニットのPおよびN原子の少なくとも一方が環系の一員であり、該環系が、置換により構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されているリガンド、および
(c) 活性化剤または助触媒、
を含む触媒組成物。
【請求項2】
前記クロム化合物が、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体から選択されることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記クロム化合物が、CrCl3(THF)3、アセチルアセトン酸Cr(III)、オクタン酸Cr(III)、クロムヘキサカルボニル、2−エチルヘキサン酸Cr(III)、および(ベンゼン)トリカルボニルクロムから選択されることを特徴とする請求項2記載の触媒組成物。
【請求項4】
1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7が、クロロ、アミノ、トリメチルシリル、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、フェニル、ベンジル、トリルおよびキシリルから選択されることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記活性化剤または助触媒が、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、メチルアルミノキサン(MAO)またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記リガンドが、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(i−Pr)−H、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(Pr)−H、(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(tert−ブチル)−Hおよび(Ph)2P−N(i−Pr)−P(Ph)−N(CH(CH3)(Ph))−Hから選択されることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項7】
さらに溶媒を含むことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記溶媒が、芳香族炭化水素、直鎖および環状脂肪族炭化水素、直鎖オレフィンおよびエーテルから選択されることを特徴とする請求項7記載の触媒組成物。
【請求項9】
前記クロム化合物の濃度が0.01から100ミリモル/lであることを特徴とする請求項7または8記載の触媒組成物。
【請求項10】
前記リガンド/Crの比が0.5から50であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項11】
Al/Crの比が1:1から1000:1であることを特徴とする請求項5記載の触媒組成物。
【請求項12】
触媒組成物において、
(a) クロム化合物、
(b) 以下の一般構造のリガンドであって、
(A) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−H、または
(B) R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−PR67
もしくは(A)と(B)の任意の環状誘導体、
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10−アルキル、アリールおよび置換アリールから選択され、PNPN−ユニットまたはPNPNP−ユニットのPおよびN原子の少なくとも一方が環系の一員であり、該環系が、置換により構造(A)または(B)の1つ以上の構成化合物から形成されているリガンド、および
(c) 活性化剤または助触媒、
を混合することによって得られる触媒組成物。
【請求項13】
エチレンの二、三および/または四量体化のためのプロセスであって、請求項1から12いずれか1項記載の触媒組成物を、反応装置内でエチレンの気相に曝し、オリゴマー化を行う各工程を有してなるプロセス。
【請求項14】
前記オリゴマー化が1から200バールの圧力で行われることを特徴とする請求項13記載のプロセス。
【請求項15】
前記オリゴマー化が10から200℃の温度で行われることを特徴とする請求項13または14記載のプロセス。
【請求項16】
連続的に行われることを特徴とする請求項13から15いずれか1項記載のプロセス。
【請求項17】
平均滞留時間が10分から20時間であることを特徴とする請求項13から16いずれか1項記載のプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2010−532711(P2010−532711A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515362(P2010−515362)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004815
【国際公開番号】WO2009/006979
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(507055615)リンデ アーゲー (29)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AG
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】