説明

エチレン性不飽和モノマーの重合を抑制する金属表面

【課題】エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間のモノマーの重合を抑制する方法の提供。
【解決手段】対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵に際し、銅含有金属を含む装置を用いて、酸素の存在下に、モノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの製造、精製、取扱及び貯蔵の間に使用される装置内のポリマー汚染になる、望ましくない重合を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間の重合の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エチレン性不飽和モノマーの製造及び精製を含む生産の間並びに取扱及び貯蔵の間に、重合抑制剤、例えばヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MEHQ)、フェノチアジン(PTZ)、ヒンダードアミンラジカル捕獲化合物又はカテコール、例えば第三級ブチルカテコール若しくはジ第三級ブチルカテコールを添加する必要性がある。一般的に使用される追加の代表的抑制剤には、ベンゼン環上の少なくとも1個の他の置換基の存在によって特徴付けられるフェノール性化合物が含まれる。このような他の置換基は、フェノール性抑制剤を活性化するように機能する。代表的な置換基には、例えばC1〜C4アルコキシ基、例えばメトキシ若しくはエトキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミノ、C1〜C9アルキル基、フェニル、ニトロ又はN−結合アミドが含まれる。
【0003】
抑制剤の不存在下では、ポリマー汚染を生ずる意図しない重合が、容易に起こり得るし、そして所望の生成物の製造、取扱又は貯蔵に影響を与えるのみならず、装置破損にもつながる。更に、例えば蒸留装置のような、製造装置を運転するために、追加のエネルギーが必要となる。特に蒸留装置を含む精製は、この装置が運転するための、大量のエネルギーを必要とし、そして高温度で操作するので、非常に関心のあるものである。上昇した温度は、重合が起こる可能性を高める。
【0004】
使用される抑制剤の大部分は液体モノマー中に含有されている。抑制剤を含有する液体と接触状態にない装置の表面は、重合又は汚染のための開放部位を提供する。例えば、蒸気が凝縮を受ける装置の任意の部分である。それは、凝縮物には、最初のモノマー液体中の抑制剤がもはや含有されていないからである。従って、このようなモノマーに露出されている装置表面(これは、典型的には金属表面である)並びにモノマー自体を保護して、エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間のポリマー生成を抑制するようにするニーズが存在する。
【0005】
共にNakahara等の、特許文献1及び特許文献2には、(メタ)アクリル酸を製造する方法及び装置が開示されており、ここで、装置は、表面の腐食及び点食を最少にするためにモリブデンを含有しており、それによって(メタ)アクリル酸の重合及び重合した生成物による装置の付随する汚染を最少にする。これらのNakahara等の文献には、製造装置のために、3%よりも大きく20%までのモリブデン含有量又は0.5%〜7%の銅を伴う1〜4%のモリブデン含有量を有する、ニッケルクロム鉄合金から製造された金属を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,441,228B2号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0165407A1号明細書(2002年11月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、モノマーが接触状態にある装置の少なくとも一部のための新規な材料を使用することによって、対象(subject)エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間の、モノマーの重合を抑制するための、工業界に於けるニーズを満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの面は、対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つのための装置であって、この装置が酸素含有ガス用の入口を含み、そして少なくともモノマーと接触状態にある装置の少なくとも部分が、酸素含有ガスの存在下で、装置内のモノマーの重合を抑制するのに十分な銅を含有する金属を含んでなる装置に関する。
【0009】
本発明の別の面は、対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つの間の重合の抑制方法であって、
このモノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つのための装置であって、このモノマーと接触状態にある装置の少なくとも部分が、酸素含有ガスの存在下で、装置内のモノマーの重合を抑制するのに十分な銅を含有する金属を含んでなる装置の中に、前記モノマーを導入する工程並びに
モノマーを含有する装置の内部に酸素を含有するガスを供給する工程を含んでなり
それによって、装置内のモノマーの重合を抑制する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に従ったコンポーネントを使用した、例示的アクリル酸回収及び精製装置の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用する冠詞「a」若しくは「an」又は単数の対象に対する参照には、特別に且つ明白に単数の若しくは単一の対象に限定されるか又は他の方法でその項目を含む文脈から明らかでない限り、複数の又は1個より多い対象を含むものとする。
【0012】
本明細書で使用する「約」は、任意の数値に関して、その値が関係する生成物又は方法の特徴に重大な影響を与えない量ほどの、記載された値からの変動を意味する。
【0013】
本明細書で使用する「抑制する」又はその変形は、事象、例えば重合の、可能性を低下させること、発生を低下させる又は最少にする、好ましくは、防止することを意味する。
【0014】
本明細書で使用する成分の「パーセント」又は「%」は、その成分を含有する合金、物質又は組成物中の成分の重量%を意味する。
【0015】
本明細書で使用する用語「対象エチレン性不飽和モノマー」は、アクリル酸メチル又はアクリル酸2−エチルヘキシル以外の、非置換又は置換のカルボン酸又はエステル基を有する任意の重合性エチレン性不飽和モノマーを意味する。
【0016】
上記の発明の開示及び下記の発明を実施するための最良の形態は、添付する図面と関連させて読むとき、より良く理解されるであろう。本発明の例示の目的のために、現在好ましい態様を図面に示す。しかしながら、本発明は、図示する的確な配置及び手段に限定されないことが理解されるべきである。
【0017】
本発明には、装置の表面上での対象エチレン性不飽和モノマーの重合を抑制するための、このようなモノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵に付随する、重合抵抗性装置の少なくとも部分の構造のための材料の使用が含まれる。特に、銅又は少なくとも約10%の銅を含有する金属が、このような装置の構造に於いて使用される。装置に使用される金属の銅含有量が高くなるほど、それは、より良く重合を抑制するように作用し、それによって、対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間に使用される装置、例えば蒸留塔内のポリマー汚染を防止する。Nakahara等の文献とは違って、本発明には、モノマーと接触状態にある装置の表面の点食又は腐食を最少にすることに付随する機構が含まれていない。本発明に於ける重合抑制のための必要な金属成分では、モリブデン含有量も考慮されない。
【0018】
本発明は、また、前記の目的の任意の部分に使用される、酸素含有ガスの存在下で、装置の少なくとも一部に銅含有金属を使用することによる、対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱又は貯蔵の間の重合の抑制方法に関する。この重合又は汚染の抑制方法には、酸素含有ガスの存在下で起こる、対象エチレン性不飽和モノマーと接触状態にある装置の少なくとも部分中に存在する銅金属又は合金からの、銅イオンの移動又は浸出が含まれると信じられる。金属から移動した銅イオンは、重合を抑制すると信じられる。
【0019】
本発明を、主として、蒸留装置のような精製装置に関して検討するが、本発明は、重合に関連した他の形式の装置、例えばフレームアレスター(flame arrestor)に於いても有用である。対象エチレン性不飽和モノマーの製造のための装置及びコンポーネントの具体的非限定例には、反応器、蒸留塔、蒸留カラム、任意の蒸留内部コンポーネント、吸収器、吸着器、リボイラー、凝縮器、分配器(液体及び蒸気)、抽出塔及び付属装置若しくはコンポーネント、このコンポーネントの任意のもののための、例えば熱交換器、充填物若しくはトレイ、配管、継手、バルブ、ポンプ又は装置の一部であるタンク及びベッセルを含む容器が含まれる。これらの装置又はその任意の部品若しくはコンポーネントは、システムの一部又は別個の品目であってよくそして静止式、可動式又は携帯式装置であってよい。限定されない別の例として、蒸留トレイの場合に、トレイ全体を銅含有金属から製造する必要はない。打ち抜き片(blanking strip)を使用する場合、これらは単独で銅含有金属から製造することができる。蒸留塔を使用する場合、内側表面の幾らかを、銅含有金属で覆うだけでもよい。銅含有金属の部分内部カバーを有する蒸留塔を製作することが可能であり、この塔は、所望の重合抑制を与えるために十分であろう。
【0020】
同様に、本発明を、主として、アクリル酸の製造に関して検討するが、本発明は、他の任意の対象エチレン性不飽和モノマー、例えば、限定されることなく上記のもの以外の、α−アルキルアクリル酸、α−アルキルアクリル酸エステル、β−アルキルアクリル酸、β−アルキルアクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル以外のアクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエステル、多不飽和カルボン酸、多不飽和エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸並びにアセトキシスチレンの、製造、精製、取扱又は貯蔵に関連して有用である。上記の任意の化合物のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜8の直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖アルキル基である。
【0021】
本発明に従った銅又は銅含有金属の使用によって、モノマーが、本発明の装置内で使用される金属と接触状態にあるとき、対象エチレン性不飽和モノマーに起こる重合反応が抑制される。
【0022】
本発明は、モノマーと共に、従来のプロセス内重合抑制剤、例えばヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MEHQ)、フェノチアジン(PTZ)、ヒンダードアミンラジカル捕獲化合物若しくはカテコール、例えば第三級ブチルカテコール若しくはジ第三級ブチルカテコール又は他の典型的な重合抑制剤、例えばベンゼン環上の少なくとも1個の他の置換基の存在によって特徴付けられるフェノール性化合物の使用の必要性を排除しない。このような他の置換基は、フェノール性抑制剤を活性化するように機能する。代表的置換基には、例えばC1〜C4アルコキシ基、例えばメトキシ若しくはエトキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミノ、C1〜C9アルキル基、フェニル、ニトロ又はN−結合アミドが含まれる。
【0023】
エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵を含む、又はこれらのために使用される、装置のための構造材料は、銅又は少なくとも約10%の銅を含有する金属である。この金属が、このような金属から製造された装置又はその部品のための自己抑制表面特性を示すことが見出された。
【0024】
好ましい金属には、約100%の銅である金属のみならず、少なくとも約10%の銅を含有する合金も含まれる。この金属は、好ましくは、約25%〜約75%の銅、更に好ましくは約30%〜約50%の銅を含む組成を有する。好ましい合金には、青銅(約90%〜約99%の銅及び約1%〜約10%の錫を含む);幾つかの変種、例えば赤色黄銅(約85%の銅及び約15%の亜鉛)、黄銅(約63%〜約66%の銅及び約34%〜約37%の亜鉛)、薬莢黄銅(約67%〜約70%の銅及び約30%〜約33%の亜鉛を含む)、アドミラルティ黄銅(ときには、アドミラルティ金属と呼ばれる)(約67%〜約70%の銅、約25.8%〜約29.25%の亜鉛及び約0.75%〜約1.2%の錫を含む)及びマンツ・メタル(約60%の銅及び約40%の亜鉛を含む)で、黄銅(主として銅及び亜鉛を含む合金)並びに銅−ニッケル合金、例えばウエストバージニア州ハンチントン(Huntington)のスペシャル・メタルズ社(Special Metals Corporation)から、モネル(Monel)(登録商標)合金として入手可能なものが含まれる。モネル(登録商標)合金、例えばモネル(登録商標)合金400、401、404、R−405及びK−500が、構造支持体に関するそれらの強度、容易に溶接される能力、一般的に約538℃(約1,000°F)以下の温度に耐える能力及び比較的低いコストのために、特に好ましい。
【0025】
上記のモネル(登録商標)合金は、スペシャル・メタルズ社から入手可能な情報に従って、下記の組成を有する。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
この重合抑制は、実質的に純粋な酸素又は他の酸素含有ガス(例えば少なくとも約5体積%の酸素)、最も好都合には空気であってよい、酸素含有ガスの存在下で実施しなくてはならない。空気又は他の酸素含有ガスは、装置の設備コンポーネントの中に、好ましくは、設備の下部に配置されている任意の適当な入口及び好ましくはバルブ付き入口を通して、更に好ましくは底部から導入して、酸素含有ガスが、任意の望まない重合が起こり得るところはどこでも、装置全体に存在し得るようにすることができる。
【0032】
いかなる理論にも結びつけることは望まないが、酸素は、対象エチレン性不飽和モノマーによる、銅含有金属からの銅イオンの移動を増強すると思われる。従って、空気又は他の酸素含有ガス中の酸素は、液体モノマーの中への銅イオンの進入を促進すると思われる。銅の抑制効果は、下記の化学作用に基づくと思われる。室温よりも上又は上昇した温度で、カルボン酸又はエステル官能基を有するエチレン性不飽和モノマー及び酸素の存在下で、銅含有金属中の非常に少量(100万当たりの数部(a few)のオーダー)の銅金属は、第二銅イオン(Cu+2)にまで酸化され、次いでこの第二銅イオンは、例えば、凝縮した液体として存在し得るモノマーの中に溶解される。この第二銅イオンは、抑制工程に於いて重要な役割を演じると思われる。モノマーの重合の過程に於いて、炭素中心フリーラジカルが、連鎖成長反応の間に存在する。第二銅イオンは、炭素中心フリーラジカルから一電子移動を受けて、第一銅イオン(Cu+1)及びカルボカチオン(R+)を生じる(式1参照)。
【0033】
式1: Cu+2 + R → Cu+1 + R+
【0034】
フリーラジカルを除去することによって、連鎖成長(即ち重合)が停止する。次いで、第一銅イオンは、酸素含有ガスからの酸素によって酸化されて、第二銅イオンに戻り、次いでこの第二銅イオンは、溶液から他の炭素中心フリーラジカルを除去する。この式に於いて、銅は、系内に酸素が存在する限り、触媒的である。酸素が存在しないと、銅は、下記の反応(式2)の結果として、ゆっくりメッキ析出する(即ち金属表面の上を覆う)であろう。
【0035】
式2: Cu+1 + Cu+1 → Cu0 + Cu+2
【0036】
本発明の装置及び方法は、一般的に、設備内の液体の劣った分布のために、均一に存在するプロセス抑制剤(例えばPTZ又はHQ)を有しない、蒸留塔のような金属設備内の表面上の凝縮した液体のための重合保護を与える。
【0037】
本発明を、ウルマンの工業化学百科事典(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry)、第5版、第A1巻、第166〜167頁(この開示を、本明細書中に参照して含める)から改作した1枚の図面を参照して説明する。図に示す装置は、説明の目的のためにのみ使用し、決して本発明の応用を限定することを意図しない。この図は、コンポーネントの少なくとも幾らかが、本発明に従って銅又は少なくとも10%の銅を含有する金属を使用して製造されている、軽抽出溶媒を使用するアクリル酸回収及び精製装置10の概略フロー図である。
【0038】
装置10に於いて、製造施設(図示せず)から得られるアクリル酸−水混合物を、アクリル酸の回収及び精製のために、入口ライン12に通して抽出塔14に供給する。アクリル酸水溶液を、アクリル酸よりも低い沸点を有する軽有機溶媒、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アクリル酸エチル及び2−ブタノン又はこれらの全ての混合物に対して向流で導入する。この溶媒は、アクリル酸のための高い分配係数及び水中の低い溶解度を有していなくてはならず、そしてこれは高いパーセントの水を含有する共沸混合物を形成しなくてはならない。
【0039】
抽出塔14の頂部からの抽出物を、ライン16に通して、溶媒分離塔18の中に入れ、そこで、溶媒及び水を、ライン22内で上方に蒸留し、凝縮器/分離器24内で凝縮させ、そして分離し、そして溶媒を、ライン20に通して、抽出塔14に戻し再循環させる。オーバーヘッド凝縮器/分離器24からの水は、ライン26を通過する。抽出塔14からの底流は、ライン28を通過して、ライン26の中に入り、そこで、抽出塔14からの底流及び溶媒分離塔18からの水を、ラフィネート−ストリッピング塔30に送る。少量の溶媒を、蒸留によってラフィネート−ストリッピング塔30から回収し、ライン32、凝縮器/分離器34及びライン36に通して再循環ライン20の中に送り、抽出塔14に戻す。ラフィネート−ストリッピング塔30からの廃水を、ライン38に通して排水し、そして生物学的に処理するか又は焼却する。
【0040】
溶媒分離塔18からの底画分を、ライン40に通してライトエンドカット塔42の中に供給し、そこで、酢酸を、ライン44に通して蒸留除去し、凝縮し、そして所望により、回収のためにライン46に通して送る。ライトエンドカット塔42の底からの粗製アクリル酸を、ライン48に通して製品塔50に送り、そこで、高純度のアクリル酸を、ライン52に通して上方に得、凝縮し、そして貯蔵又は分配のためにライン54に通して送る。アクリル酸及びアクリル酸二量体を含有する製品塔50の底からの材料を、ライン56に通して分解蒸発器58に送り、そこで、二量体がモノマーに分解される。アクリル酸オリゴマー、ポリマー及び抑制剤からなる蒸発器残渣を、ライン60に通して排出し、そして成分の回収のために送り、焼却するか又は他の方法で適切に処理する。
【0041】
アクリル酸は容易に重合されるので、蒸留塔は、前記のような抑制剤と共に、酸素の存在下で、蒸留温度を低下させるために減圧下で運転する。この方法によって製造されたアクリル酸の純度は、通常99.5%を超え、そして精製収率は典型的に約98%である。
【0042】
酸素含有ガス、所望により全ての適当な源泉からの実質的に純粋な酸素を使用することができるが、好ましくは空気を、入口ライン62に通して圧縮機64の中に向ける。圧縮機64から、空気又は他の酸素含有ガスを、ライン66、68、70、72、74及び76に通して、それぞれ、入口78に通して抽出塔14の中に、入口80に通してラフィネート−ストリッピング塔30の中に、入口82に通して溶媒分離塔16の中に、入口84に通してライトエンドカット塔42の中に、そして入口86に通して製品塔50の中に分配する。種々の塔の中への入口は、塔の下部分、好ましくは、塔の下部分の底又はリボイラー入口に配置されていて、酸素が、塔及び塔から導かれるライン全体に存在できるようになっている。
【0043】
塔の内側表面又は塔の内部コンポーネント並びに取り付け部品、ライン、配管、バルブ(明瞭にするために図示せず)、ポンプ(明瞭にするために図示せず)及び他のコンポーネントの少なくとも一部を、少なくとも部分的に、好ましくは、実質的に全部、本発明に従って、銅又は少なくとも約10%の銅を含有する金属、好ましくはモネル(登録商標)合金から製造しなくてはならない。対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取り扱い又は貯蔵のための装置内に、本発明の金属を使用することによって、全ての予め溶解された抑制剤を含有する液体モノマーが到達できない部分に於いても、モノマーの重合が抑制される。
【実施例】
【0044】
本発明を、下記の特別の限定されない実施例を参照して、更に詳細に説明する。
【0045】
例1
12個の10mLのDOT(米国運輸省)チューブに、5mLの、約200ppmのMeHQ抑制剤を含有する氷アクリル酸を充填した。3個のチューブを対照として使用し、他の9個のチューブ内に異なった金属片を入れた。3個のチューブに約0.1gの316ステンレススチール片を入れ、3個のチューブに約0.1gのモネル(登録商標)合金を入れ、そして3個のチューブに約0.1gの銅片を入れた。この12個のチューブを開放して、約110℃(約230°F)の熱油浴の中に入れた。このチューブを規則的間隔で攪拌し、空気と混合させた。このチューブを、ポリマー生成について周期的に点検した。試験の結果を下記の表VIに含める。表VIに於いて、データは、3個のそれぞれの実験の平均を表す。
【0046】
【表6】

【0047】
例2
例1の銅及びモネル(登録商標)合金試験を、どのようなMeHQ抑制剤も含有しない氷アクリル酸を使用して繰り返した。この実験は、モネル(登録商標)合金又は銅を含有するDOTチューブの何れに於いてもポリマーの徴候を示さず、17日(約400時間)後に停止した。
【0048】
例3
三つ口250mLガラス丸底フラスコに、モネル(登録商標)合金充填材料(キャノン・インスツルメント社(Cannon Instrument Company)からの、約35g及び約6.1mm(約0.24インチ)長さ)を充填した、30.5cm(12インチ)長さのガラス管を取り付けた。氷アクリル酸(約500ppmのPTZを含有する約200g)を、この丸底フラスコに入れ、次いでフラスコに、温度をモニターするためのサーモウエルプローブを嵌め、そして空気を流した。蒸留ヘッドをモネル(登録商標)合金充填塔の頂部に取り付けた。フラスコの内容物を油浴で加熱し、そして磁気攪拌した。留出物を10mL部分集め、次いでフラスコに再循環した。運転の間のオーバーヘッド温度は、約147℃(約297°F)であった。運転を約70分間続け、その時間の間に充填物上にポリマーは生成しなかった。モネル(登録商標)合金充填物の頂部の上の蒸留ヘッドのガラスに、顕著な量のポリマーが観察された。ポット内のアクリル酸の残渣は、明青色及び原子吸光により決定された約52ppmの銅含有量を有していた。
【0049】
例3は、重合又は汚染が即座に発生したことが明らかであったので、表面としてステンレススチールでは再現しなかった。
【0050】
上記の各例のデータ及び結果は、銅及びモネル(登録商標)合金が、ガラス又はステンレススチール表面に対して比較したとき、増強された重合抑制剤表面として機能したことを示している。ガラス内又はステンレススチール表面上の反応は、5〜6時間以内に汚染し、一方、銅及びモネル(登録商標)合金は、970時間よりも長く(40日よりも長い)まで重合を防止したことを知ることができる。
【0051】
実験を行った間に、幾らかの銅が生成物の中に浸出したが、この銅は、全精製運転の間に問題ではなかったことが認められる。これは、追加の蒸留を通って進む生成物が、重い最終不純物を除去するように処理し、これはまた、存在する全ての残留銅金属を除去するためである。銅及び銅合金金属は揮発性ではなく、従って、重い最終不純物と組み合わさるとは予想されない。
【0052】
広い本発明の概念から逸脱することなく、上記の態様に対して変更を行うことができることが、当業者によって認められるであろう。従って、本発明は開示された特別の態様に限定されず、特許請求の範囲で定義したような本発明の精神及び範囲内の修正をカバーすることが意図されることが理解される。
【0053】
以下に本発明の関連態様を記載する。
態様1.対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つのための装置であって、その装置が酸素含有ガス用の入口を含み、そしてモノマーと接触状態にある装置の少なくとも部分が、酸素含有ガスの存在下で、装置内のモノマーの重合を抑制するのに十分な銅を含有する金属を含んでなる装置。
態様2.金属が少なくとも10%の銅を含む態様1に記載の装置。
態様3.金属が25%〜75%の銅を含む合金である態様2に記載の装置。
態様4.合金が30%〜50%の銅を含む態様3に記載の装置。
態様5.金属が銅及びニッケルを含む態様2に記載の装置。
態様6.金属が銅及び亜鉛を含む態様2に記載の装置。
態様7.金属が銅及び錫を含む態様2に記載の装置。
態様8.装置が蒸留装置、蒸留内部コンポーネント、フレームアレスター装置、抽出塔装置、吸収装置、吸着装置、熱交換装置、配管、継手、バルブ、ポンプ及び容器からなる群から選択される態様1に記載の装置。
態様9.装置が蒸留装置であり、そしてこの装置の一部が充填物である態様1に記載の装置。
態様10.装置が蒸留塔である態様1に記載の装置。
態様11.酸素含有ガス用の入口が蒸留塔の下部に存在する態様10に記載の装置。
態様12.装置が蒸留塔であり、そして前記部分が蒸留塔用のトレイを含む態様1に記載の装置。
態様13.酸素含有ガス用の入口が装置の下部に存在する態様1に記載の装置。
態様14.酸素含有ガスが空気である態様1に記載の装置。
態様15.酸素含有ガスが少なくとも5体積%の酸素を含む態様1に記載の装置。
態様16.対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つの間の重合の抑制方法であって、そのモノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つのための装置であって、モノマーと接触状態にある装置の少なくとも部分が、酸素含有ガスの存在下で、装置内部におけるモノマーの重合を抑制するのに十分な銅を含有する金属を含んでなる装置の中に、前記モノマーを導入する工程並びに前記モノマーを含有する装置の内部に酸素を含有するガスを供給する工程を含んでなり、それによって、装置内部におけるモノマーの重合を抑制する方法。
態様17.エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸、α−アルキルアクリル酸、α−アルキルアクリル酸エステル、β−アルキルアクリル酸、β−アルキルアクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル以外のアクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエステル、多不飽和カルボン酸、多不飽和エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸並びにアセトキシスチレンからなる群から選択される態様16に記載の方法。
態様18.アルキル基が炭素数1〜8の直鎖又は分枝鎖アルキル基である態様17に記載の方法。
態様19.アルキル基が炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖アルキル基である態様18に記載の方法。
態様20.エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸である態様16に記載の方法。
態様21.エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸エチルである態様16に記載の方法。
態様22.エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸ブチルである態様16に記載の方法。
態様23.金属が少なくとも10%の銅を含む態様16に記載の方法。
態様24.金属が25%〜75%の銅を含む合金である態様23に記載の方法。
態様25.合金が30%〜50%の銅を含む態様24に記載の方法。
態様26.金属が銅及びニッケルを含む態様23に記載の方法。
態様27.金属が銅及び亜鉛を含む態様23に記載の方法。
態様28.金属が銅及び錫を含む態様23に記載の方法。
態様29.装置が蒸留装置、蒸留内部コンポーネント、フレームアレスター装置、抽出塔装置、吸収装置、吸着装置、熱交換装置、配管、継手、バルブ、ポンプ及び容器からなる群から選択される態様16に記載の方法。
態様30.装置が蒸留装置であり、そしてこの装置の前記部分が充填物である態様16に記載の方法。
態様31.装置が蒸留塔である態様16に記載の方法。
態様32.酸素含有ガスを、蒸留塔の下部に存在する酸素含有ガス用の入口を通して供給する態様31に記載の方法。
態様33.装置が蒸留塔であり、そして前記部分が蒸留塔用のトレイを含む態様16に記載の方法。
態様34.酸素含有ガスを、装置の下部に存在する酸素含有ガス用の入口を通して供給する態様16に記載の方法。
態様35.酸素含有ガスが空気である態様16に記載の方法。
態様36.酸素含有ガスが少なくとも5体積%の酸素を含む態様16に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸、α−アルキルアクリル酸、α−アルキルアクリル酸エステル、β−アルキルアクリル酸、β−アルキルアクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル以外のアクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエステル、多不飽和カルボン酸、多不飽和エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸並びにアセトキシスチレンからなる群から選択される対象エチレン性不飽和モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵の少なくとも一つの間の重合の抑制方法であって、モノマーと接触状態にある装置の少なくとも一部が、酸素含有ガスの存在下で、装置内部におけるモノマーの重合を抑制するのに十分な、25%〜75%の銅を含む合金である金属を含んでなる、前記モノマーの製造、精製、取扱及び貯蔵用の少なくとも一つのための装置中へ、
前記モノマーを、導入する工程並びに
前記モノマーを含有する装置の内部に酸素を含有するガスを供給する工程を含んでなり、それによって、装置内部におけるモノマーの重合を抑制する方法。
【請求項2】
アルキル基が炭素数1〜8の直鎖又は分枝鎖アルキル基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルキル基が炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖アルキル基である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸エチルである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸ブチルである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
合金が30%〜50%の銅を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
金属が銅及びニッケルを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
金属が銅及び亜鉛を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
金属が銅及び錫を含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
装置が蒸留装置、蒸留内部コンポーネント、フレームアレスター装置、抽出塔装置、吸収装置、吸着装置、熱交換装置、配管、継手、バルブ、ポンプ及び容器からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
装置が蒸留装置であり、そしてこの装置の前記部分が充填物である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
装置が蒸留塔である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
酸素含有ガスを、蒸留塔の下部に存在する酸素含有ガス用の入口を通して供給する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
装置が蒸留塔であり、そして前記部分が蒸留塔用のトレイを含む請求項1に記載の方法。
【請求項16】
酸素含有ガスを、装置の下部に存在する酸素含有ガス用の入口を通して供給する請求項1に記載の方法。
【請求項17】
酸素含有ガスが空気である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
酸素含有ガスが少なくとも5体積%の酸素を含む請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−12068(P2011−12068A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181422(P2010−181422)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【分割の表示】特願2005−509905(P2005−509905)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(510203555)アルケマ インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】