説明

エッチング処理用積層体

【課題】
80℃以上のエッチング処理が可能であり、金属メッシュのパターンや回路を正確に形成することができる積層体を提供する。
【解決手段】
基材上に接着層を介して金属メッシュを設けた電磁波シールド用積層体であって、前記接着層が、ガラス転移温度が20℃を超え65℃未満、かつ数平均分子量が10000未満のポリエステル樹脂(ア)と、ガラス転移温度が65℃以上、かつ数平均分子量が10000以上のポリエステル樹脂(イ)およびイソシアネート化合物を含み、(ア)/(イ)が20/80〜60/40(質量比)である電磁波シールド用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に接着層を介して金属箔を設けたエッチング処理用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル基材上に回路や金属メッシュのパターンを設ける手法としては、ポリエステル樹脂系の接着層を介して金属箔を設け、さらに金属箔上に被覆膜を設けた後、エッチング処理し、その後、被覆膜を取り除く手法が一般的である。
【0003】
近年、生産性向上のため、エッチング処理時間短縮のニーズが高まっている。エッチング処理時間を短縮するには、温度を上げて反応速度を高めるのが一般的であるが、エッチング温度を80℃以上にまで上げると、正確なエッチングができなかったり、接着層の接着強度が低下したりする問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上に、ガラス転移温度が−10〜20℃のポリエステル樹脂からなる接着層と導電性金属箔を設けた積層体が開示されている。しかしながら、この積層体を80℃以上でエッチング処理をしようとすると、接着層の接着強度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−124238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、基材上に接着層と金属箔層を順に設けた積層体において、80℃以上でエッチング処理や被覆膜の除去をおこなっても接着層の接着強度が低下することなく、金属メッシュのパターンや回路を正確に形成することができるエッチング処理用積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、特定組成のポリエステル樹脂組成物により上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材上に接着層を介して金属箔を設けたエッチング処理用積層体であって、前記接着層が、ガラス転移温度が20℃を超え65℃未満かつ数平均分子量が10000未満のポリエステル樹脂(ア)、ガラス転移温度が65℃以上かつ数平均分子量が10000以上のポリエステル樹脂(イ)およびイソシアネート化合物を含み、(ア)/(イ)が20/80〜60/40(質量比)であるエッチング処理用積層体。
(2)ポリエステル樹脂(ア)の水酸基価が170〜720当量/トンである(1)記載のエッチング処理用積層体。
(3)ポリエステル樹脂(ア)の水酸基量およびポリエステル樹脂(イ)の水酸基量の合計に対するイソシアネート末端基量の当量比が0.5〜2.0倍量である(1)記載のエッチング処理用積層体。
(4)(1)〜(3)いずれかに記載のエッチング処理用積層体を、エッチング処理してなる電磁波シールド用積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体は、その接着層が高温環境下における接着性に優れ、また、エッチング処理剤に対する耐性を有しているため、80℃以上のエッチング処理が可能であり、金属メッシュのパターンや回路を正確に形成することができる。また、エッチング処理して、金属メッシュを設けた積層体は、PDPの電磁波シールドとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について以下に詳細を説明する。
本発明の積層体は、基材上に、接着層を介して金属箔層が設けられている。
【0011】
接着層の樹脂は、ポリエステル樹脂(ア)、ポリエステル樹脂(イ)およびイソシアネート化合物から構成される。
【0012】
ポリエステル樹脂(ア)およびポリエステル樹脂(イ)は、ジカルボン酸成分とグリコール成分を主成分として構成される。
【0013】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ヒドロキシ-イソフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸等が挙げられる。
【0014】
グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール等を挙げることができる。中でも、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコールが好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂(ア)、(イ)には、必要に応じて、ヒドロキシカルボン酸を共重合してもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸を共重合する場合、全ジカルボン酸成分と全ヒドロキシカルボン酸成分の合計に対してヒドロキシカルボン酸の共重合量は20モル%以下とすることが好ましい。
【0016】
また、ポリエステル樹脂(ア)、(イ)には、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコール、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールを共重合してもよい。
【0017】
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等が挙げられ、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。モノカルボン酸、モノアルコールを共重合する場合、それぞれの共重合量は、全ジカルボン酸成分、全グリコール成分中において、20モル%以下とすることが好ましい。
【0018】
3官能以上のカルボン酸としては、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等が挙げられ、3官能以上のアルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールを共重合する場合、それぞれの共重合量は、全ジカルボン酸成分、全グリコール成分中において、20モル%以下とすることが好ましい。
【0019】
ポリエステル樹脂(ア)のガラス転移温度は、20℃を超え65℃未満であることが必要であり、20℃を超え60℃未満であることが好ましく、20℃を超え50℃未満であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂(ア)のガラス転移温度が65℃以上であると、接着層の高温での接着強度が低下するので好ましくない。一方、ポリエステル樹脂(ア)のガラス転移温度が20℃以下であると、正確なエッチングができなかったり、接着層が加水分解したりすることがあるので好ましくない。
【0020】
ポリエステル樹脂(ア)の水酸基価は、架橋の観点から、170〜720当量/トンであることが好ましく、350〜720当量/トンであることがより好ましく、350〜540当量/トンであることがより好ましい。ポリエステル樹脂(ア)の水酸基価を170〜720当量/トンとすることで、十分な接着強度がある接着層とすることができる。
【0021】
ポリエステル樹脂(ア)の数平均分子量は、4000〜10000であることが必要であり、5000〜9000であることが好ましく、6000〜8000であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(ア)の数平均分子量が4000未満であると、接着層の接着強度が低下するので好ましくない。一方、ポリエステル樹脂(ア)の数平均分子量が10000を超えると、相対的に水酸基価が小さくなり、架橋度が低くなるので好ましくない。
【0022】
ポリエステル樹脂(ア)のグリコール成分としては、溶解性と接着性の観点から、分岐構造を有するグリコールが好ましい。分岐構造を有するグリコールとしては、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−プロパンジオール、3−メチル−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、中でも、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂(ア)の全グリコール成分における分岐構造を有するグリコールの共重合量は、1〜70モル%とすることが好ましく、10〜65モル%とすることがより好ましく、30〜60モル%とすることがさらに好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂(イ)のガラス転移温度は、65℃以上であることが必要であり、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂(イ)のガラス転移温度が65℃未満であると、正確なエッチングができなかったり、接着層が加水分解したりすることがあるので好ましくない。
【0025】
ポリエステル樹脂(イ)の水酸基価は、450当量/トン以下であることが好ましく、170当量/トン以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(イ)の水酸基価が450当量/トン以下とすることで、相対的に数平均分子量が大きくなり、十分な接着強度がある接着層とすることができる。
【0026】
ポリエステル樹脂(イ)の数平均分子量は、10000以上であることが必要であり、15000〜60000であることが好ましく、20000〜40000であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(イ)の数平均分子量が10000未満であると、凝集力が低下し接着層の接着強度が低下するので好ましくない。
【0027】
ポリエステル樹脂(イ)のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を共重合することが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂(イ)にテレフタル酸を共重合する場合、全ジカルボン酸成分におけるテレフタル酸の共重合量は、接着強度の観点から、20モル%以上とすることが好ましく、40モル%とすることがより好ましく、60モル%とすることがさらに好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂(イ)にイソフタル酸を共重合する場合、全ジカルボン酸成分におけるイソフタル酸の共重合量は、溶解性の観点から、20モル%以上とすることが好ましく、40モル%とすることがより好ましい。
【0030】
ポリエステル樹脂(ア)または(イ)は、前記のモノマーを組み合わせて、公知の方法で製造することができる。例えば、エステル化反応および重縮合反応からなる方法で製造することができる。
【0031】
エステル化反応では、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下、加熱溶融して反応させる。反応温度は180〜260℃とすることが好ましく、反応時間は2.5〜10時間とすることが好ましく、4〜6時間とすることがより好ましい。
【0032】
重縮合反応は、触媒を添加し、減圧下、エステル化反応で得られたエステル化物から、グリコール成分を留去させ、所望の分子量に達するまでおこなう。反応温度は220〜280℃とすることが好ましい。減圧度は130Pa以下とすることが好ましい。大気圧から130Pa以下に達するまで、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0033】
重縮合触媒としては、特に限定されないが、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、テトラブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、n−ブチルヒドロキシオキソスズ、オクチル酸スズ等の公知の化合物を用いることができる。触媒の使用量は、カルボン酸成分1モルに対し、0.1〜20×10−4モルとすることが好ましい。
【0034】
水酸基価を調整するために、前記の重縮合反応に引き続き、多価アルコールをさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合をおこなうことができる。
【0035】
ポリエステル樹脂(ア)とポリエステル樹脂(イ)の配合比率は、(ア)/(イ)=20/80〜60/40(質量比)とすることが必要であり、30/70〜40/60(質量比)とすることが好ましい。(ア)の配合比率が20質量%未満であると、正確なエッチングができなかったり、接着層が加水分解したりすることがあるので好ましくない。一方、(ア)の配合比率が60質量%を超えると、接着層の接着強度が低下するので好ましくない。
【0036】
イソシアネート化合物としては、特に限定されないが、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシナネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシナネート等のイソシアネート類およびそのブロックイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
ポリエステル樹脂(ア)、ポリエステル樹脂(イ)とイソシアネート化合物の配合比率は、ポリエステル樹脂(ア)の水酸基量とポリエステル樹脂(イ)の水酸基量の合計に対するイソシアネート化合物の末端基量を0.5〜2.0倍当量の範囲とすることが好ましく、1.0〜1.2倍当量の範囲とすることがより好ましい。配合比率を0.5〜2.0倍当量の範囲とすることで、ポリエステル樹脂(ア)とポリエステル樹脂(イ)がイソシアネート化合物を介して効率よく架橋するため、接着強度を高くすることができる。そのため、ポリエステル樹脂(ア)やポリエステル樹脂(イ)のガラス転移温度よりも高い温度でエッチング処理しても、接着層が溶解することなく、正確なエッチング処理をすることができる。
【0038】
なお、ポリエステル樹脂(ア)、ポリエステル樹脂(イ)およびイソシアネート化合物とを配合して、接着層を形成する際、必要に応じて架橋触媒、硬化剤、硬化触媒を用いることができる。
【0039】
架橋触媒としては、N−メチルイミダゾール、1,4−ジアジン、ジアザビシクロ〔2.2.2〕−オクタン等の第3級アミン触媒、スタナスオクトエートやジブチル錫ジラウレート等の錫系触媒が挙げられる。架橋触媒を用いる場合、その配合量は、ポリエステル樹脂(ア)とポリエステル樹脂(イ)の合計100質量部に対して、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。
【0040】
なお、接着層には、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、充填剤、粘着付与剤、他の樹脂、酸無水物、帯電防止剤、発泡剤等が含まれてもよい。
【0041】
難燃剤としては、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノール、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン等のハロゲン化物、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ポリ燐酸アンモニウム、ポリ燐酸アミド、燐酸グアニジン等の燐化合物、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート等の含ハロゲン燐酸エステル、赤燐、トリアジン、メラミンイソシアヌレート、エチレンジメラミン等の窒素系難燃剤、二酸化スズ、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機難燃助剤、シリコーンパウダー等が挙げられる。
【0042】
熱安定剤としては、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物等が挙げられる。
滑剤としては、タルクやシリカ、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。
顔料としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
粘着付与剤としては、タッキファイヤー等が挙げられる。
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0043】
エッチング処理用積層体の作製方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂(ア)、ポリエステル樹脂(イ)、イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解して樹脂溶液を作製し、樹脂溶液を基材に塗布し乾燥して接着層を設け、接着層上に金属箔層を設ける方法が挙げられる。
【0044】
樹脂溶液の作製方法としては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂(ア)および(イ)を有機溶剤に溶解した後、イソシアネート化合物を添加して溶解してもよく、また、ポリエステル樹脂(ア)、(イ)およびイソシアネート化合物を一緒に有機溶剤に溶解してもよい。イソシアネート化合物は反応性が高く溶解中に反応する場合があるため、前者の方法がより好ましい。
【0045】
樹脂溶液を作製するために用いる有機溶剤としては、特に限定されないが、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソ等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル等のエステル系溶剤、セロソルブアセテート、メトキシアセテート等のアセテート系溶剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
樹脂溶液中の、ポリエステル樹脂(ア)および(イ)の合計の固形分濃度としては、20〜40質量%とすることが好ましく、20〜30質量%とすることがより好ましい。
【0047】
樹脂溶液の溶液粘度は、5000mPa・s以下であることが好ましく、4000mPa・s以下であることがより好ましく、3000mPa・s以下であることがさらに好ましく、2000mPa・s以下であることが最も好ましい。溶液粘度が5000mPa・s以下とした場合、流動性が高く、取り扱い性に優れる。
【0048】
基材としては、透明ガラス、ソーダガラス、半強化ガラス、強化ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリル酸メチルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられる。基材の厚みとしては、特に限定されないが、20〜100μmが好ましい。
【0049】
接着層は、樹脂溶液を基材上に塗布して乾燥することにより設けることができる。
樹脂溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、コーターを用いて塗布する方法等が挙げられる。コーターとしては、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーター等が挙げられる。接着層の厚みは、特に限定されないが、10〜30μmが好ましい。乾燥温度としては、80〜120℃が好ましい。なお、接着層は、複数回塗布して形成させてもよい。
【0050】
金属箔層は、接着層の上に金属箔を配置し、熱圧着またはラミネートすることにより設けることができる。
【0051】
金属箔層としては、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、クロム、チタン等の金属箔が用いられる。中でも、導電性や回路加工の容易さ、価格の点より銅、アルミニウムが好ましい。
【0052】
熱圧着またはラミネートする温度としては、80〜150℃が好ましく、圧力としては、100〜300kPaが好ましい。
【0053】
本発明のエッチング処理用積層体は、金属箔にエッチング処理を施して回路や金属メッシュのパターンを設ける手法に用いることができる。エッチング処理は、例えば、金属箔層の上に被覆膜を設け、エッチング液で処理し、続いて被覆膜を取り除くことによっておこなわれる。
【0054】
被覆膜とは、エッチング処理する際に金属箔を保護するための膜であり、エッチング処理に対して耐性を有する材料であれば特に限定されない。被覆膜の厚さは、特に限定されないが、0.1〜10μmが好ましい。被覆膜の形成方法には、フォトリソグラフィー法、フレキソ印刷が用いられる。
【0055】
エッチング液としては、塩化第二銅、塩化第二鉄、水酸化ナトリウムの水溶液が用いられる。エッチング液の温度は、80℃以上であることが好ましい。エッチング液の温度をこの範囲とすることで、エッチング処理速度を従来よりも格段に早くすることができる。
【0056】
被覆膜を取り除く処理液としては、水酸化ナトリウム水溶液が用いられる。
【0057】
回路や金属メッシュのパターンを設けた積層体には、保護を目的に樹脂を積層してもよい。その樹脂としては、アクリル系の粘着剤、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0058】
回路や金属メッシュのパターンを設けた積層体は、電磁波シールド、プリント配線、非接触型共振タグ・ICカード等の回路、電解コンデンサの電極、二次電池・電気二重層コンデンサの集電体、電磁波遮蔽体・電磁波吸収体等として用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。物性測定は以下の方法によっておこなった。
(1)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
JIS K−7121に準拠して、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSC、測定範囲:20〜120℃)を用いて、窒素気流中、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこなった。
【0060】
(2)ポリエステル樹脂の組成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製JNM−LA400)を用いて、H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた(周波数:400MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)。また、H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
【0061】
(3)ポリエステル樹脂の水酸基価
JIS K−0070に準拠して、試料3gをピリジン50mlに加熱還流溶解し、無水酢酸をアセチル化溶液、クレゾールレッド−チモールブルーを指示薬として0.5Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定した。その滴定した値を用いて、試料1トンあたりの水酸基の当量数を計算した。
【0062】
(4)ポリエステル樹脂の数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
送液ユニット:島津製作所社製LC−10ADvp
紫外−可視分光光度計:島津製作所社製SPD−6AV、検出波長:254nm
カラム:Shodex社製KF−803 1本、Shodex社製KF−804 2本を直列に接続して使用
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
【0063】
(5)イソシアネート末端基量
JIS K1603−2007に準拠して、試料3gを脱水トルエン20mlに溶解させ、2Nのジノルマルブチルアミン溶液20mlを加えて攪拌後20分間放置したのち、100mlのイソプロピルアルコール加え、1.0N塩酸溶液で滴定した。その滴定した値を用いて、試料1トン中あたりのイソシアネート末端基の当量数を計算した。
【0064】
(6)接着層の接着強度
接着層を形成する際に用いた樹脂溶液を75μmのPETシートの非コロナ面にバーコーターを用いて塗布し100℃で30秒間乾燥し、乾燥厚さ25μmの接着層を形成したPETフィルムを作製した。
続いて、接着層上に厚さ100μmのPETフィルムを重ね、温度120℃、圧力100kPaの条件下で30分間熱圧着し、積層体を作製した。得られた積層体を25mm巾に切断し、恒温槽を備えた引張強度試験機(島津製作所社製オートグラフAG100B)を用いて、23℃および60℃において180度剥離試験をおこない剥離強度を測定し接着強度とした。23℃における接着強度は、実用上、10N/25mm以上が好ましく、15N/25mm以上がより好ましく、20N/25mm以上がさらに好ましい。
【0065】
(7)接着層の耐熱性
(6)で測定した2つの温度条件における接着強度の値を用いて、60℃の接着強度の23℃の接着強度に対する保持率を計算し、以下の基準で評価した。実用上、70%以上が好ましい。
◎:90%以上
○:80%以上90%未満
△:70%以上80%未満
×:70%未満
【0066】
(8)エッチング処理剤への耐性
エッチング処理用積層体の金属箔側に、フォトリソグラフィー法を用いて、被覆層として金属メッシュのパターン(ライン幅:30μm、スペース幅:250μm)を印刷した。続いて、この印刷物を80℃の塩化第二銅水溶液(塩化第二銅濃度:50質量%)に浸漬し、非印刷部に対応する銅箔部分を溶解した。その後、水洗し、80℃の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:20質量%)に浸漬して被覆層を剥離し、積層体の金属箔に金属メッシュのパターンを形成する加工を施した。積層体を塩化第二銅水溶液または水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した際、接着層の状態を、以下の基準で判断した。
○:接着層は剥離しなかった。
△:接着層の面積の10%未満が剥離した。
×:接着層の面積の10%以上が剥離した。
【0067】
(9)エッチング結果
(8)で形成した金属メッシュのパターンを走査型電子顕微鏡で観察し、積層体に形成された実際のライン幅・スペース幅と、目標とするメッシュパターンのライン幅・スペース幅との差を、それぞれ比較し、以下の基準で判断した。
○:ライン幅、スペース幅の差がともに1μm以下であった。
△:ライン幅、スペース幅の差のいずれかの差が1μm以上であった。
【0068】
実施例と比較例で用いたポリエステル樹脂は、下記のようにして作製した。
ポリエステル樹脂A
テレフタル酸8300g、イソフタル酸8300g、ビスフェノールA(エチレンオキサイド付加体)15800g、エチレングリコール5300g(テレフタル酸:イソフタル酸:ビスフェノールA(エチレンオキサイド付加体):エチレングリコール=50:50:55:85(モル比))を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下240℃で5時間エステル化をおこなった。その後、重縮合缶へ移送して重合触媒として二酸化ゲルマニウムを90g(テレフタル酸1モルあたり8.8×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、245℃で重縮合反応をおこなった。減圧を解除してから、トリメチロールプロパン670g(テレフタル酸1モルあたり0.05モル)を投入し、245℃で2時間解重合反応をおこなった。その後、クラッシャ−を用いて、粉状のポリエステル樹脂Aを得た。
【0069】
ポリエステル樹脂B
テレフタル酸8300g、イソフタル酸8300g、ビスフェノールA(エチレンオキサイド付加体)15800g、エチレングリコール5300g(テレフタル酸:イソフタル酸:ビスフェノールA(エチレンオキサイド付加体):エチレングリコール=50:50:55:85(モル比))を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下240℃で5時間エステル化をおこなった。その後、重縮合缶へ移送して重合触媒として二酸化ゲルマニウムを90g(テレフタル酸1モルあたり8.8×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、245℃で重縮合反応をおこなった。その後、ストランドカッターを用いて、ペレット状のポリエステル樹脂Bを得た。
【0070】
ポリエステル樹脂C、E、F、G
原料のモノマーを表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂Aと同様に作製した。
【0071】
ポリエステル樹脂D、H
原料のモノマーを表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂Bと同様に作製した。
【0072】
表1に、ポリエステル樹脂の樹脂仕込組成、最終樹脂組成と特性値を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1
トルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bを、表2に示した配合比率になるように添加し、ペイントシェイカーで振盪した。続いて、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの合計100質量部に対して、ヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアネート末端基量:11891当量/トン)を0.9質量部(ポリエステル樹脂Aの水酸基量とポリエステル樹脂Bの水酸基量の合計に対して2.0倍当量)、架橋触媒として2−エチルヘキサン酸スズを樹脂固形分に対し0.5質量部添加し、再度ペイントシェイカーで5分間振盪して、樹脂溶液を作製した。
この樹脂溶液を、厚さ25μmのPETフィルムに、乾燥後の接着層の厚さが25μmになるように塗布し、100℃で30秒間乾燥して、接着層を形成した。
続いて、接着層上に、厚さが50μmの銅箔を、林機械製作所製ホットプレス機を用いて、120℃、圧力100kPa、30分かけて熱圧着し、銅箔層を設け、エッチング処理用積層体とした。
【0075】
実施例2〜14、比較例1〜16
接着層に用いるポリエステル樹脂を変更する以外は、実施例1と同様にエッチング処理用積層体を作製した。
【0076】
表2、3に、接着層に用いるポリエステル樹脂、積層体の特性値を示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
実施例1〜10は、いずれも高温環境下における接着強度が高かったので、エッチング温度を80℃としても、接着層が塩化第二銅や水酸化ナトリウムに溶解することなく、エッチング処理後の金属メッシュのパターンが正確に形成されていた。
実施例12、13は、ポリエステル樹脂(ア)の水酸基量およびポリエステル樹脂(イ)の水酸基量の合計に対するイソシアネート末端基量の当量比が0.5〜2.0倍当量の範囲ではなかったため、エッチング時に接着層が一部剥離し、改善の余地を残すものであった。
実施例14は、ポリエステル樹脂(ア)の水酸基価が170〜720当量/トンの範囲ではなかったため、エッチング時に接着層が一部剥離し、改善の余地を残すものであった。
【0080】
比較例1〜2、比較例7〜8は、ポリエステル樹脂(ア)の配合比率が少なく、ポリエステル樹脂(イ)の配合比率が多かったため、接着層の接着強度が低く、エッチング時に接着層が剥がれた。
【0081】
比較例3〜6、比較例9〜12は、ポリエステル樹脂(ア)の配合比率が多く、ポリエステル樹脂(イ)の配合比率が少なかったため、高温環境下における接着強度が低く、エッチング温度を80℃とした場合、正確なエッチングができなかった。
【0082】
比較例13は、用いた2種類のポリエステル樹脂のガラス転移温度がいずれも65℃以上であったため、高温環境下における接着強度が低く、塩化第二銅水溶液または水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した際、接着層が剥がれた。
【0083】
比較例14は、用いた2種類のポリエステル樹脂の数平均分子量がいずれも10000未満であったため、高温環境下における接着強度が低く、エッチング温度を80℃とした場合、正確なエッチングができなかった。
【0084】
比較例15は、用いた2種類のポリエステル樹脂のガラス転移温度がいずれも65℃よりも低かったため、高温環境下における接着強度が低く、エッチング温度を80℃とした場合、正確なエッチングができなかった。
【0085】
比較例16は、用いた2種類のポリエステル樹脂のガラス転移温度がいずれも65℃以上より高く、塩化第二銅水溶液または水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した際、接着層が剥がれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に接着層を介して金属箔を設けたエッチング処理用積層体であって、前記接着層が、ガラス転移温度が20℃を超え65℃未満かつ数平均分子量が10000未満のポリエステル樹脂(ア)、ガラス転移温度が65℃以上かつ数平均分子量が10000以上のポリエステル樹脂(イ)およびイソシアネート化合物を含み、(ア)/(イ)が20/80〜60/40(質量比)であるエッチング処理用積層体。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(ア)の水酸基価が170〜720当量/トンである請求項1記載のエッチング処理用積層体。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(ア)の水酸基量およびポリエステル樹脂(イ)の水酸基量の合計に対するイソシアネート末端基量の当量比が0.5〜2.0倍量である請求項1記載のエッチング処理用積層体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のエッチング処理用積層体を、エッチング処理してなる電磁波シールド用積層体。

【公開番号】特開2012−116136(P2012−116136A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269287(P2010−269287)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】