説明

エッチング剤

【課題】エッチング液の安定性が高く、エッチング速度が速く、サイドエッチングも少なく、パターンの直線性も良好なエッチング剤を提供する。
【解決手段】本発明のエッチング剤は、ハロゲンを含まない銅塩および塩酸を含む、インジウム錫酸化物合金(ITO)膜を含む合金のエッチング剤であって、前記塩酸の濃度が4.5モル/リットル以上である。前記銅塩の濃度は銅イオン濃度で0.001モル/リットル以上0.45モル/リットル以下が好ましく、ピロリン酸銅、硫酸銅、硝酸銅、ギ酸銅、酢酸銅及びアセチルアセトン銅から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子(LCD)などの薄型平面表示パネル(FPD)等の製造に好適なインジウム錫酸化物合金(ITO)膜のエッチング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子(LCD)などに用いられるインジウム錫酸化物合金(ITO)膜をエッチングするエッチング剤としては、従来次のようなものが使用されている。特許文献1には王水(塩酸、硝酸の混酸)が主成分のエッチング剤が提案されている。特許文献2には塩化第二鉄を含む溶液が提案されている。特許文献3にはシュウ酸を含む溶液が提案されている。特許文献4には塩酸とハロゲン金属塩の混合系(塩銅等)が提案されている
しかし、特許文献1に提案されている王水が主成分の溶液は、臭気が強く作業環境が悪く、また経時変化が激しくコントロールが難しいという問題がある。特許文献2に提案されている塩化鉄を含む溶液は、エッチング速度が遅く時間がかかる上にサイドエッチング量が大きいという問題がある。さらにパターンの直線性が低く、ファインパターンの形成が困難であるという問題もある。また、塩化鉄はエッチング装置などに沈殿物が付着しやすく、装置を汚染するという問題もあった。特許文献3に提案されているシュウ酸を含む溶液は。エッチング残渣が生じやすいという問題がある。特許文献4に提案されている塩酸とハロゲン金属塩の混合系(塩銅等)は、エッチング速度は速いが、パターンを形成した場合にレジスト下部分が大きくエッチングされることでパターン側面が大きくえぐれた形状になり(サイドエッチング量が大きい)、ファインパターンの形成には不適当である。
【特許文献1】特開平6−280055号公報
【特許文献2】特開平8−236272号公報
【特許文献3】特開2002−164332号公報
【特許文献4】特開2002−299326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、エッチング液の安定性が高く、エッチング速度が速く、サイドエッチングも少なく、パターンの直線性も良好なエッチング剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のエッチング剤は、ハロゲンを含まない銅塩および塩酸を含む、インジウム錫酸化物合金(ITO)膜を含む合金のエッチング剤であって、前記塩酸の濃度が4.5モル/リットル以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のエッチング剤は、エッチング液の安定性が高く、エッチング速度が速く、サイドエッチングも少なく、パターンの直線性も良好なエッチング剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(1)塩酸
本発明のエッチング剤は、塩酸が4.5モル/リットル以上、好ましくは5モル/リットル以上、さらに好ましくは6.0〜6.9モル/リットルの範囲の濃度で含まれる。塩酸濃度が高いほどエッチングレートは上昇するので好ましいが、6.9モル/リットルを超えて液中に混合すると、塩酸の揮発が著しく、塩酸濃度の維持管理が煩雑となるため、この範囲が好ましい。また、4.5モル/リットル未満であると、エッチングスピードが遅すぎてエッチング時間が長くなる。
【0007】
王水を使用した場合には、エッチング後のパターンサイドの直線性に乏しくガタツキを生じるが、ベース酸として塩酸を単独使用することでシャープにエッチングすることができ、パターンサイドの直線性が良好になるため、特にファインパターンの形成に適している。
【0008】
(2)銅塩
銅塩は、無機銅塩、有機銅塩などの中からハロゲンを含まないものであればよい。銅塩として塩化銅などのハロゲン銅塩を使用した場合には、理由は不明であるが、エッチングによってパターンを形成した場合にサイドが大きくえぐれるサイドエッチングを生じやすくなる。このため、特にパターン間の距離の小さいファインパターンを形成するためにはハロゲンを含まない銅塩を使用することが良い。
【0009】
無機銅塩としては、例えばピロリン酸銅、硫酸銅、硝酸銅などが使用できる。有機銅塩としては、ギ酸銅、酢酸銅が、銅錯塩としてはアセチルアセトン銅などが使用できる。これらの銅塩は単独で使用してもよいし、複数種類組み合わせて使用してもよい。
【0010】
銅塩の濃度は、銅イオン濃度として、0.001モル/リットル〜0.45モル/リットル、好ましくは0.03モル/リットル〜0.30モル/リットル、更に好ましくは0.10モル/リットル〜0.20モル/リットルである。前記濃度範囲であれば、エッチングスピードを実用的な範囲とし、溶液中に銅塩の析出が生じないので好ましい。
【0011】
尚、エッチングスピードとしては、50nm/分以上、好ましくは70nm/分以上であることが好ましい。このようなエッチングスピードであれば短時間でITO膜をエッチング処理できる。
【0012】
(3)ITO膜
ITO膜にはスパッタ法、イオンプレティング法、蒸着法などの方法でガラス、あるいはプラスチックなどの基板表面に10〜500nmの厚みで成膜されたものが例示される。なおITO膜には、酸化亜鉛など他の酸化物が添加されることもある。
【0013】
本発明によるエッチング剤でパターニングされたITO膜は、LCDに代表される表示装置、エレクトロルミネセンス装置およびイメージセンサ、太陽電池などの透明電極として用いるのに適している。
【0014】
パターニングに際してウェットエッチングは等方的に反応が進むためサイドエッチングが起こり、残渣が発生する等の問題もあり、一般的に高精度のパターニングには不利である。高価ではあるがその問題を改善した反応性イオンエッチング法も検討されている。しかしながら、本発明のエッチング液はパターンのサイドエッチングが少なく、サイドの直線性も良好なため、安価で高精度のパターニングを実現できる。
【0015】
(4)エッチング条件
エッチング条件は、処理するITO膜の厚みなどによって適宜調整することができるが、例えば、エッチング温度は45℃〜50℃の範囲であることがエッチング速度の観点からこのましい。50℃を超えると処理設備などに耐熱性が要求されるためこの範囲が好ましい。
【0016】
エッチング時間も適宜調節可能であるが、本発明のエッチング液はITO膜を素早くエッチングできるため、従来の液の半分以下の短時間で処理することができる。
【0017】
本発明のエッチング液は、スプレー処理/浸漬処理いずれの方法でも処理可能であるが、細線パターンを処理する場合には、パターン間における液循環が良好であるスプレー処理のほうが適している。
【実施例】
【0018】
以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0019】
各実施例、比較例における測定方法は下記のとおりである。
(1)エッチングパターンの直線性を示す標準偏差
各試料をパターン形成した後、常温で3wt%水酸化ナトリウム水溶液にて10秒間浸漬処理を行い液体レジストを剥離した。得られた試料のパターンの頂部幅(L)を電子顕微鏡により無作為に10点(L1−L10)計測し、そのバラツキを表す標準偏差(σ)で配線パターンの直線性を評価した。直線性指数が低いほど、直線性が高いことを示す。標準偏差は下記式で求めた。
標準偏差の求め方 σ2=(1/10)Σ(パターン幅実測値−平均値)2
の数式で計算し、σが標準偏差である。
(2)サイドエッチング量の測定
得られた試料のパターンのレジスト剥離後の頂部幅(L)を光学顕微鏡により無作為に10点(L1−L10)計測し、ドライフィルムレジストのパターン幅である30μmからL1〜L10の幅を引き2で割ることで、パターン頭頂部の両サイドのサイドエッチング幅を測定した。10箇所の平均値を示した。
【0020】
(実施例1〜13、比較例1〜8)
1.実験1
この実験ではITO膜のエッチングレートの比較および液の安定性を検討した。使用した試料は、縦:20cm、横:20cmのガラス基板上に厚み190nmのITO膜(In:Sn=約95:5)をスパッタ法により形成したものを使用した。ITO膜の上面には、液体レジストにてラインアンドスペース30/30μmでパターニングした。
【0021】
下記の各実施例および比較例の配合のエッチング液をそれぞれ100ml用意し、上記基材45℃、浸漬処理にてエッチングを行った。処理時間は各配合の液で試料がジャストエッチングできるまで(パターンが形成できるまで)エッチングを行い、その時のエッチングレートを測定した。
【0022】
析出の生じ易さの試験としては、各液100mlを−5℃で48時間保存後の銅の析出の有無を目視により判断した。銅塩の析出がなかったものをA、少量の析出が認められたものをBとした。この結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
各実施例は各比較例に比べてエッチングスピードが高かった。
【0025】
また、実施例11のように銅イオン量が0.45モル/Lを超えるとエッチング速度は問題ないが、液にやや銅塩の析出が見られた。
【0026】
王水を使用した比較例1は塩酸を使用した他のエッチング液に比べ直線性が低いことが明らかであった。
【0027】
2.実験2
この実験はパターンの直線性評価を検討した。上記実験1でエッチング処理した実施例2,12,13で得られた各試料のパターンサイドの直線性を測定した。比較例5〜8の条件は、下記表2に記載した以外は実施例2,12,13と同一とした。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなとおり、ハロゲン銅塩である比較例5〜8に比べて実施例2,12,13はサイドエッチング量が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを含まない銅塩および塩酸を含む、インジウム錫酸化物合金(ITO)膜を含む合金のエッチング剤であって、
前記塩酸の濃度が4.5モル/リットル以上であることを特徴とするエッチング剤。
【請求項2】
前記ハロゲンを含まない銅塩の濃度が、銅イオン濃度で0.001モル/リットル以上0.45モル/リットル以下である請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項3】
前記ハロゲンを含まない銅塩が、ピロリン酸銅、硫酸銅、硝酸銅、ギ酸銅、酢酸銅及びアセチルアセトン銅から選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載のエッチング剤。
【請求項4】
前記エッチング剤は、温度−5℃で48時間保存した後の銅の析出が見られない請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング剤。

【公開番号】特開2009−21367(P2009−21367A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182504(P2007−182504)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】