説明

エッチング方法およびエッチング装置

【課題】長期にわたり、高い精度で均一なエッチングができるエッチング方法およびエッチング装置を提供することを目的とする。
【解決手段】エッチング液12を保持するエッチング槽10にディフューザ20の本体21を配置し、湿った気体から気泡を発生させて曝気攪拌を行う。例えば、コンプレッサ31により圧縮され除湿された空気を、加湿槽33内の水中を通過させて湿らせてディフューザ20の気体供給管22に供給する。ディフューザ20の本体21の小孔を通る気体は湿潤であり小孔の内壁の乾燥を防止するので、スケール付着による小孔の閉塞が防止され、ディフューザ20から長期にわたり均一に気泡が発生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液を曝気攪拌しながら被処理部材をエッチングする方法および装置に関し、例えば、ガラス基板を酸性溶液中に浸漬して曝気攪拌しながらエッチングするエッチング方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ、コンピュータ、または携帯電話等のディスプレイ(表示装置)の薄型化が進んでいる。ディスプレイは、例えばガラス基板のような透明基板、偏光板、およびカラーフィルタ等の板状の部材を積層して構成され、ディスプレイの薄型化に伴って、ディスプレイを構成する部材についても小型化・薄型化への要求が高まっている。中でも、ガラス基板のような透明基板は、液晶等の表示用流体を挟み込む基板として用いられるだけでなく、カラーフィルタの基板としても用いられるので、透明基板を薄型化することはディスプレイ全体を薄型化することに大きく寄与する。このため、透明基板を薄型化するために、透明基板に対して高い精度でエッチングできる技術が求められている。
【0003】
従来、用いられているエッチング方法には、薬液中に被処理物を浸漬して化学反応により被処理物を溶解させるウエットエッチングと、薬液に代えて反応性の気体やイオン等を用いて乾燥状態でエッチングを行うドライエッチングとがある。ウエットエッチングは、ディスプレイ用板状部材のエッチングに限らず、プリント配線板、およびシリコンウエハ等のエッチングにも用いられている。
【0004】
ところで、ウエットエッチングでは、エッチング液と被処理物とが反応して被処理物表面で溶解反応が生じるため、エッチング液を攪拌しなければ、被処理物表面のエッチングが進行しなくなる。また、被処理物の材質やエッチング液の成分によっては被処理物の成分が被処理物表面に析出する場合がある。このような析出成分が付着した状態でウエッチングすることは、被処理物表面に凹凸を生じさせ、エッチング処理した部材の表面厚さを不均一にする原因となる。このため、エッチング液を攪拌して流動させ、被処理物の表面全体で均一にエッチングを進行させるとともに、被処理物表面の析出物・付着物を剥離させる必要がある。
【0005】
エッチング液を攪拌する方法としては、エッチング槽に攪拌機を設ける、ポンプを用いてエッチング液を槽内で循環させる、エッチング液に気体を吹き込み曝気攪拌する、といった方法が挙げられる。しかし、エッチング槽内には板状の被処理物を浸漬させて固定する必要があるため、攪拌機を槽内に設けることは困難である。また、ポンプを用いてエッチング液を循環させるためには大きな動力を必要とするため、エッチング液を槽内循環させる方法はコスト高を招く。
【0006】
一方、曝気攪拌によれば、攪拌機に比して軽薄短小な散気管等でエッチング液を攪拌流動させることができ、槽内循環に比して必要な動力が小さい。このため、エッチング液を曝気攪拌する気泡発生型の散気機構を備えるエッチング装置は、薄型化が進むディスプレイ用板状部材のウエットエッチングに好適に使用できる。例えば、特許文献1には曝気攪拌によりエッチング液を攪拌流動させながらウエットエッチングを行うエッチング装置として、多数の小孔が形成された板状の散気面を有する散気板をエッチング槽の底部に設けるエッチング装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−147474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ウエットエッチング処理において、被処理物表面でのエッチング液の滞留を防止して均一なエッチングを実現するためには、上述した通りエッチング液をできるだけ均一に攪拌する必要がある。そして、曝気攪拌によりエッチング液を均一に攪拌するためには、外部から供給された気体を微小な気泡としてできるだけ均一にエッチング液中に供給する必要がある。
【0008】
このため、散気ユニットは、多数の均一な小孔が均一に形成された多孔性の表面を備える散気板のような中空部材を用いて構成されるが、本発明者らは散気ユニットの小孔が使用中に閉塞して気泡がエッチング液中に均一に供給されない場合があることを知見した。このように散気ユニットの小孔が閉塞すると、均一かつ良好なエッチングが困難となる。また、散気ユニットの中空部材を洗浄等して小孔の閉塞を解消するためには、エッチング液が保持されたエッチング槽から中空部材を取り出すという困難な作業が必要となる。
【0009】
本発明はかかる課題を鑑みて完成され、ガラス基板等の被処理部材を高精度でエッチングして薄型化することに寄与できるエッチング方法およびエッチング装置を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、散気ユニットの小孔の閉塞を防止して長期にわたりエッチング液を均一に曝気攪拌することを可能として安定して高い精度でエッチングできるエッチング方法およびエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、散気ユニットの小孔が閉塞するメカニズムを研究し、気泡を発生させる気体として湿気を含む含湿気体を用いることで上記課題を達成できることを知見し、本発明を完成させた。以下、まず本発明を完成させるために得られた知見について説明し、次に上記課題を解決する手段について述べる。
【0011】
一般に、曝気攪拌用の気体(例えば空気)は、ブロアやコンプレッサ等の送風手段を用いて散気ユニットの散気用部材(例えば散気板)の内部に供給されるため、散気用部材から散気される気体は乾燥している。特に、コンプレッサを用いて気体を加圧して散気ユニットに送る場合、気体がコンプレッサで圧縮される際に気体に含まれていた水分は凝縮して排出されるため、気体は除湿され乾燥したものとなる。
【0012】
例えば、コンプレッサを用いて空気を圧縮する場合、コンプレッサから排出される凝縮水の発生量は式1に示す計算式により求められる。式1を用いた計算では、空気タンクの表面温度35℃、湿度50%、温度20℃の空気を圧縮して吐出圧力0.6Mpa、吐出空気量10m/分で送風を行う場合、除湿量は2.88g/Nmとなる。
【0013】
(数1)
凝縮水発生量(L/hr)=コンプレッサ吐出空気量(Nm/分)×60×(吸込空気の水分量(g/Nm)−空気タンク表面の飽和水蒸気量(g/Nm)/大気圧換算の飽和水蒸気量(g/Nm))/1000
【0014】
図3は、散気ユニットとして用いられるディフューザ20の断面を示す。ディフューザ20は、多孔板で構成された散気面24を備える中空箱状の本体21と、本体21の内部に外部から曝気用の気体を供給する気体供給管22とを備える。気体供給管22から供給された曝気用の気体は散気面24の各小孔25を通って微細な気泡としてエッチング液中に吹き込まれる。このような気泡が生成される過程における各小孔25の内側面の変化を見ると、本体21内部に供給された気体は小孔25の内側面を通り、ある程度の大きさになった時点で気泡となって小孔25から離れる。気泡が離れた小孔25の内側面にはエッチング液が接触する。すなわち、小孔25の内側面は、気泡となる気体とエッチング液とに交互に接触する。
【0015】
このため従来技術では、小孔の内側面を乾燥した気体が通過する際にエッチング液で濡れた小孔の内側面が乾燥され、再びエッチング液が付着して乾燥されること繰り返される。この結果、小孔の内側面においてエッチング液が次第に濃縮することにより、小孔の内側面にスケールが生成されて閉塞しやすくなる。
【0016】
本発明者らは、上記知見を得、散気ユニットの散気用部材に形成された小孔を通過して気泡となる気体に水分を含ませることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0017】
(1) エッチング槽内のエッチング液に被処理部材を浸漬してエッチングするエッチング方法であって、 含湿気体から気泡を発生させることにより前記エッチング液を曝気攪拌するエッチング方法。
(2) 前記エッチング液はフッ酸を含む酸性溶液であり、前記被処理部材はガラス基板である(1)に記載のエッチング方法。
(3) 前記含湿気体は湿度80%以上である(1)または(2)記載のエッチング方法。
(4) 前記含湿気体として送風手段から供給される加圧気体を水中曝気して得られる加湿気体、もしくは未加湿の気体に霧状の水を加えて得られる加湿気体、または水蒸気を用いることにより、前記気泡を発生させる(1)から(3)のいずれか記載のエッチング方法。
(5) エッチング液を保持し被処理部材を当該エッチング液中に浸漬してエッチングするエッチング槽を備えるエッチング装置であって、 前記エッチング槽に、含湿気体から気泡を発生させて前記エッチング液を曝気攪拌する散気ユニットを設けるエッチング装置。
(6) 前記エッチング槽は、前記エッチング液としてフッ酸を含む酸性溶液を保持し、前記被処理部材としてガラス基板を前記エッチング液に浸漬した状態で保持する保持具を備える(5)記載のエッチング装置。
(7) 送風手段と当該送風手段から供給される気体を水中に通して加湿して前記含湿気体を取り出す加湿槽とを備えるバブリング加湿器、未加湿の気体に霧状の水を加えるスプレー加湿器、または水蒸気供給器のいずれかをさらに備え、 前記散気ユニットは、前記バブリング加湿器もしくは前記スプレー加湿器から送られる加湿気体、または前記水蒸気供給手段から供給される水蒸気を用いる(5)または(6)に記載のエッチング装置。
(8) 複数の前記エッチング槽と、前記エッチング液を循環させる循環槽を含む循環ラインと、を備える(5)から(7)いずれかに記載のエッチング装置。
【0018】
本発明は被処理部材をエッチング液に浸漬した状態で曝気攪拌してエッチングするエッチング方法および装置に適用でき、エッチング液や被処理部材は特に限定されない。例えば、エッチングされる被処理部材としては、銅やアルミニウム等の金属部材、シリコンウエハ、およびガラス基板のような透明基板が挙げられる。金属板、シリコンウエハ、およびガラス基板は、当該板状部材の一方または両方の面が加工されたものを本発明による被処理部材としてもよい。
【0019】
すなわち「シリコンウエハ」には、トランジスタ等が形成される前のもののみならず、トランジスタ等の素子が形成されたものや素子間を回路接続したもの(すなわち例えばプリント配線板)が含まれるものとする。以下、両者を特に区別するため、前者を「原シリコンウエハ」、後者を「加工シリコンウエハ」と称する場合がある。同様に、「ガラス基板」には着色樹脂や電極形成材料(例えば酸化スズ)等を固定させる前のもののみならず、着色樹脂等を固定させたもの(すなわち例えばカラーフィルタ)が含まれるものとし、前者を「原ガラス基板」、後者を「加工ガラス基板」と称する場合がある。
【0020】
エッチング液は、被処理部材の材質に応じて適宜、選択され、例えば金属部材をエッチングするためには塩酸、硝酸、または硫酸等がエッチング液として用いられる。また、シリコンウエハをエッチングするためにはフッ酸、硝酸、またはバッファードフッ酸等が用いられ、ガラス基板をエッチングするためには、フッ酸、塩酸、リン酸、硝酸または硫酸等の酸を含む酸性溶液が用いられる。
【0021】
本発明によれば、薄型(例えば厚さ1.0mm程度)の板状部材も高精度でエッチングできるため、薄型化が望まれるディスプレイ用の板状部材のエッチング方法および装置に特に好適に適用できる。具体的には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、およびフィールドエミッションディスプレイ(FED)の構成部品の一つである透明基板としてのガラス基板のエッチングに好適に用いることができる。ガラス基板として、石英ガラスのような不純物濃度が低い素材で作られた高純度ガラス基板を被処理対象とできるが、本発明によればアルミニウムのような不純物が析出して付着することを防止できるため、低純度ガラス基板についても良好なエッチングができる。
【0022】
ガラス基板をエッチングする場合のエッチング液は特に限定されない。ただし、本発明によれば、エッチング槽の底部に設ける散気ユニットの散気用部材に形成された小孔の閉塞を防止できるため、フッ酸を含む強酸性のエッチング液を用いるエッチング処理に好適に使用できる。フッ酸を含む強酸性のエッチング液としては、フッ酸と塩酸との混酸、フッ酸と硫酸との混酸、またはフッ酸と硝酸との混酸等が挙げられる。
【0023】
含湿気体を気泡としてエッチング液中に吹き込む散気ユニットとしては気体供給管と、多数の小孔が形成された散気面および気体が供給される内部空間を有する散気用部材とを備えるディフューザ等の散気装置を用いることができる。散気用部材の形状は特に限定されず、多数の均一な小孔が全面に亘って均一に形成された散気面を備える筒状の散気管、または箱状物の一面が散気面となった散気板等を用いることができる。散気面の小孔は、大きすぎても小さすぎても良好な攪拌が行えないため、直径が0.3〜2.0mm程度であることが好ましい。
【0024】
本発明では、散気面の小孔を通過する気体として湿度が高い含湿気体を用い、特に湿度が80%以上の気体を用いることが好ましく、湿度が95%以上の飽和気体を用いることがより好ましい。気体の種類は特に限定されないが、空気を用いることがコスト面から好ましく、空気以外の気体を用いる場合はエッチング液との反応性が低い気体、例えば窒素を用いるとよい。
【0025】
気体は、送風手段を介して散気ユニットの散気用部材内部の空間に供給される。送風手段としてはファンやブロアのような送風機またはコンプレッサを用いることができる。一般に、散気用部材から液中に気泡を送り込むためには、散気用部材に加圧された気体を供給する必要があるため、送風手段としては気体を加圧して送風するブロアやコンプレッサが用いられる。ブロアまたはコンプレッサから送られ加圧された気体は、水分が除去されるので通常は湿度が60%に満たない。特に、コンプレッサにより加圧されて曝気手段に供給された気体は、エッチング槽の底部に設けられる散気用部材の散気面から勢いよく噴出する一方、コンプレッサで凝縮水が除去されるため、通常は湿度が50%未満となっている。
【0026】
このような湿度が低い気体を加湿して含湿気体とする手段としては、散気用部材に供給する前の気体をバブリングするタイプの加湿器(以下、「バブリング加湿器」、および曝気用の気体に水分を霧状で噴霧する加湿器(以下、「スプレー加湿器」)が挙げられる。バブリング加湿器としては、水を保持する密閉容器と、当該密閉容器内の水中に曝気用の気体を散気する散気装置と、水中を通過することにより加湿された気体を当該密閉容器から取出して散気ユニットに供給する管と、を備える加湿槽が例示できる。スプレー加湿器は、散気用部材に直接取り付けて散気用部材の内部で霧状の水分を気体にスプレーして加湿する構成としてもよく、曝気用の気体を加湿する加湿室を備え加湿した気体を散気用部材に供給する構成としてもよい。あるいは、散気ユニットに水蒸気を供給する、または水蒸気を加えた気体を供給するように構成してもよく、この場合、上述した加湿器を設けることなく含湿気体から気泡を発生させることができる。
【0027】
なお、送風手段の中でファンは、気体の圧縮比が比較的低い(1.1〜2程度)ため、送風手段としてファンを用いれば、空気を加湿せずに含湿気体として散気用部材に供給することも可能な場合もある。本発明では、曝気用の気体が湿っていればよいので、ファンを用いて、もともと湿度が高い空気を加湿せずに散気用部材に送ることも排除はされない。
【0028】
散気用部材の内部には水分が溜まる可能性があるため、排水口を設けて内部にたまる水分を排出できるようにしてもよい。また、複数のエッチング槽を配管で接続してエッチング液を循環利用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、散気用ユニットの散気用部材の小孔を通過する気体を湿らせることにより、小孔の乾燥を防止するので、小孔の内壁でエッチング液が濃縮されてスケールが生成されることを防止できる。よって、小孔の閉塞を防いで散気用部材の散気面全体からほぼ均一に気泡を発生させてエッチング液を均一に攪拌できる。このため、長期にわたって散気用部材を洗浄しなくても安定して均一で精度の高いエッチングができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。本明細書において、同一部材については同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係るエッチング装置1の全体模式図である。エッチング装置1は、散気ユニットとしてのディフューザ20を備えるエッチング槽10と、ディフューザ20に供給される気体を加湿する外部加湿器30と、を有する。エッチング槽10は、直方体状の容器で構成され、一平面を底として、槽内には底面に沿って拡がる散気用部材である本体21が設けられている。エッチング槽10の底と向かい合う面(上面)は取り外し可能な蓋で覆われ、エッチング槽10は密閉可能とされている。かかる構成により、本体21(図1では図示せず)から空気等の曝気用の気体がエッチング液中に吹き込まれることによって生じる排ガスは、エッチング槽10上部に接続された排ガス管11を通して排出され、湿式スクラバーのような排ガス処理装置(図示せず)で処理される。
【0032】
図2は、本体21がエッチング槽10底部に配置された状態におけるエッチング槽10の内部構成を示す斜視図である。エッチング槽10の内部にはエッチング液12が保持され、被処理部材として液晶ディスプレイ用のガラス基板を例にとると、ガラス基板5が複数、エッチング液12中に浸漬される。図2ではガラス基板5は1枚しか描いていないが、エッチング槽10の互いに向かい合う一対の内壁には、槽内を垂直(すなわち上面と底面を結ぶ方向)に延びる複数の保持具13が設けられている。ガラス基板5は、互いに隣接する保持具13の間にその側縁が挿入されることにより、ほぼ垂直に立った状態でエッチング槽10内に固定される。
【0033】
図3は、エッチング槽10を図2の線X−Xに沿って切断した場合の一部断面模式図である。本実施形態のディフューザ20は、気体が供給される内部空間23が形成された矩形箱状の本体21と、本体21の内部空間23に曝気用の気体を供給する中空管である気体供給管22と、を備える。本体21の一面は、ほぼ同一形状の多数の小孔25がほぼ均一に形成された散気面24となっている。小孔25は、散気面24の裏面側(内部空間23側)から表面側(エッチング液12と接する側)まで貫通しており、内部空間23に供給された気体は小孔25を通り、気泡としてエッチング液12中に吹き込まれる。
【0034】
本発明では、気体が小孔25を通る際に小孔25の内側面を乾燥させることを回避するため、小孔25を通って気泡となる気体として、湿った気体を用いる。図1に示す本実施形態では、バブリング加湿器30を設け、ディフューザ20に供給する気体を湿らせる構成としている。バブリング加湿器30は、空気を圧縮して送り出すコンプレッサ31と、水を保持する密閉容器で構成される加湿槽33とを有している。コンプレッサ31と加湿槽33とは加圧エア管32で互いに接続され、加湿槽33は気体供給管22を介してディフューザ20と接続されている。
【0035】
加湿槽33の底部には、散気装置として多孔性の表面を有する散気管35が配置され、コンプレッサ31から送られた乾燥した圧縮空気が散気管35から水中に散気される。乾燥した圧縮空気は水中を通る際に加湿される。これにより、例えば湿度80%以上の含湿気体が加湿槽33上部から取出され、気体供給管22を介してディフューザ20の本体21内に供給される。
【0036】
ディフューザ20の本体21から散気される気体を湿らせる手段としてはこれに限定されず、例えば、コンプレッサ31と加湿槽33を設ける代わりに水蒸気供給器として蒸気発生器を設け、蒸気発生器で発生させた水蒸気を気体供給管22に供給する構成としてもよい。また、霧状の水を気体にスプレーするタイプの加湿器を用いてもよい。
【0037】
図4(a)は、本発明の変形例を示し、スプレー加湿器としてスプレーノズルを散気用部材に直接接続し、散気用部材内部で気体を加湿するようにした場合を示す。この例ではディフューザ20の本体21の内部空間23に水分を霧状で吹き込むスプレーノズル37を接続することにより、本体21の内部空間23で気体を加湿するようにしている。
【0038】
また、図4(b)に本発明の別の変形例を示す。この例では、スプレー加湿器40は、スプレーノズル41と、スプレーノズル41の噴出口を覆うように取り付けられた加湿室42を有する。スプレーノズル41には、液管43とコンプレッサエア管44とが接続されている。液管43からは水が送られ、コンプレッサエア管44からは圧縮された空気が送られる。これらの2流体はスプレーノズル41内で混合され、微細霧化された水が噴出口から加湿室42に噴射される。加湿室42には、曝気エア管45が接続されている。曝気エア管45からは加圧され乾燥した曝気用の気体(空気)が加湿室42内に送られ、加湿室42内に霧がスプレーされることで加湿される。加湿室42には、気体供給管22が接続され、加湿室42で加湿された気体(含湿気体)が気体供給管22を介してディフューザ20の本体21内部に供給される。
【0039】
図4(a)の例では、ディフューザ20にスプレーノズル37が接続され、本体21内部で空気が加湿されるため、図1の加湿槽33を設けることなく、コンプレッサやブロアを介して乾燥した気体をディフューザ20に供給してよい。
【0040】
図1に示す実施形態のバブリング加湿器によれば、湿度がほぼ一定の含湿気体を散気ユニットに供給できる。一方、水蒸気を散気ユニットに供給する場合は、加湿槽が不要で飽和気体に近い極めて高い湿度の含湿気体を散気ユニットに供給できる。
【0041】
また、バブリング加湿器を用いる場合、バブリング加湿器から取り出された含湿気体の湿度はほぼ100%に近いものの、エッチング槽10に達すると、槽内に保持された高温のエッチング液に温められ相対湿度が低下する恐れがある。これに対し、図4(a)(b)に示すようにスプレー加湿器を用いれば、加湿された気体は水滴を余分に含む状態でディフューザ20に供給される。よって、加湿気体が温められても余分に含まれた水滴が蒸発するため、湿度低下を回避できる。図4(a)のように、スプレーノズル37からディフーザ20内部に直接、霧状の水分を供給して加湿する場合、省スペースである利点がある。一方、図4(b)のように構成すれば、ディフューザ20の本体20内に気体を加湿する十分なスペースがない場合でも、十分な加湿が行える。
【0042】
本発明に係るエッチング方法においては、ガラス基板5はエッチング液12中に好ましくは完全に浸漬され、曝気攪拌により流動されるエッチング液12と接触してエッチングされる。本発明によれば、エッチング液を曝気攪拌する散気ユニットからは含湿気体が吐出されるので、散気用部材の小孔の閉塞が防止できる。このため、散気用部材からは均一な気泡が発生されてエッチング液が均一に攪拌され、散気用部材をエッチング槽から取出して洗浄することなく長期にわたり精度の高いエッチング処理ができる。
【0043】
ガラス基板等の被処理部材は、エッチング処理後、エッチング槽から取り出す。エッチング槽から取出されたエッチング処理済の部材は、超純水等を洗浄用水として洗浄した後、乾燥させればよい。
【0044】
図5は、本発明の第2実施形態に係るエッチング装置2の全体構成を示す。このエッチング装置2は、複数のエッチング槽10が互いに並列に接続されて構成されている。各エッチング槽10は、第1実施形態に係るエッチング槽10と同様の構成である。エッチング装置2は、共通して使用されるバブリング加湿器としての加湿槽33を一槽、備えており、この加湿槽33から取り出された含湿気体は、3つに分岐した中空管34を介して各エッチング槽10内に設けられたディフューザ20の気体供給管22に送られるように構成されている。
【0045】
複数のエッチング槽10は、連結管16を介して互いに接続されており、最前段のエッチング槽10と最後段のエッチング槽10とは循環配管17を介して接続されている。循環配管17の途中には、循環槽18と循環ポンプPが設けられており、循環配管17、循環槽18、および循環ポンプPは循環ラインを形成する。これによりエッチング液は、前段エッチング槽10から後段エッチング槽10に供給される。最後段のエッチング槽10から流出するエッチング液は、循環槽18で必要に応じて濃度調整および再生処理等がされた後、再び最前段のエッチング槽10に送られることにより、エッチング液は循環利用される。
【0046】
なお、本実施形態では3槽のエッチング槽10を互いに接続しているが、エッチング槽10の数はこれに限定しない。また、加湿槽33は各エッチング槽10に設けてもよいが、本実施形態に示すように複数のエッチング槽10に対して含湿気体として気体を供給する構成とすれば、加湿槽33の数を省略でき、好ましい。
【0047】
このような循環ラインを備えるエッチング装置2では、後段側のエッチング槽10のエッチング液ほど濃度が低くなるため、異なる濃度のエッチング液でエッチングすることが容易である。したがって、かかるエッチング装置2では、必要とされるエッチングの精度や処理時間により異なる濃度のエッチング液を保持する複数のエッチング槽10を使い分けて被処理部材をエッチングできる。また、このエッチング装置2では、エッチング液を必要に応じて現場で再生しながら循環利用できる利点もある。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。実施例1および比較例1として図6に示すように、2系統のエッチング装置2および3に、共通のコンプレッサ31からバルブVを設けた加圧エア管32を通って圧縮空気が供給されるように構成した試験装置を作成した。
【0049】
[実施例1]
実施例1で用いたエッチング装置2は、本発明の前記第1実施形態に係るエッチング装置1と同様の構成である。ただし、加湿槽33には筒状の散気管35に代えて球状の散気球38を散気装置として設けた。また、エッチング装置2には、加湿槽33とディフューザ20とを接続する気体供給管22の途中に流量計Fを設け、流量計Fの下流に開閉可能なバルブVを介してガスサンプリン口Gを設けた。
【0050】
[比較例1]
比較例1で用いたエッチング装置3は、上記エッチング装置1のエッチング槽10と同様の構成のエッチング槽10を備える。ただし、コンプレッサ31の加圧エア管32はディフューザ20の気体供給管22と接続し、コンプレッサ31から吐出された圧縮空気が直接、加湿されずにディフューザ20に供給されるように構成している。また、コンプレッサ3とディフューザ20との間には、エッチング装置1と同様に、流量計FとバルブVを介して開閉可能なガスサンプリング口Gを設けた。
【0051】
[試験条件1]
エッチング槽10はどちらも、縦横の長さが10.5cm×10.5cm、高さが18cmで、互いに向かい合う一対の壁の内側に保持具としての溝を設けて、2枚のガラス板をエッチング槽10内に固定する構成とした。また、エッチング槽10の底部には、縦横の長さが9cm×9cmの大きさの散気面24を備える散気用部材を設け、ガラス板の下部から曝気攪拌を行った。散気面24には、直径が0.5mmの小孔が1cm間隔でほぼ均一に穿孔されている。
【0052】
両方のエッチング槽10には、エッチング液として、濃度10%のフッ酸と濃度5%の硫酸とを混合した混酸を1.5L入れた。ガラス板は、市販のホウケイ酸ガラスを用いた。ガラス板は、縦横の長さが10cm×10cmとなるように切断して用いた。ガラス板の厚さは1.5mmであった。エッチング開始から2時間ごとに新しいガラス板と交換した。また、エッチング液も6時間ごとに新しいもの(新液)と入れ替えた。ディフューザ20からは曝気用のガス(空気)を1NL/分で散気しながら、24時間にわたってエッチング処理を継続した。
【0053】
試験中、実施例1および比較例1の両方について、それぞれのディフューザ20に送られる気体を採取して温度と湿度とを測定した。具体的には、それぞれのガスサンプリング口Gにポリエチレン製のサンプリング袋(容量5L)を取り付け、このサンプリング袋内に温湿度計を入れることにより、それぞれの曝気用気体の温度と湿度とを測定した。温湿度計としては、温度の測定範囲が−10〜50℃、湿度(相対湿度)の測定範囲が5〜95%RHのデジタル温湿度計を用いた。
【0054】
また、試験中、エッチング開始から6時間ごとに各エッチング槽10からディフューザ20をそれぞれ取り出し、小孔の閉塞具合を目視観察した。表1に、実施例および比較例のディフューザ20の小孔の閉塞具合と、それぞれのディフューザ20に供給された曝気用の空気の温度および湿度を示す。表中、「閉塞孔」とはスケールが付着して閉塞した小孔を意味し、「スケール孔」とは閉塞はしていないものの、小孔の内側面にスケール付着が認められる小孔を意味する。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、相対湿度が90%を超える含湿気体を曝気用エアとした実施例1では小孔は試験中、まったく閉塞せず、スケールの付着も認められなかった。一方、比較例1では曝気用エアの含水率は40%を切っており、処理開始から6時間経過時点で既に小孔へのスケール付着が認められ、処理開始から12時間経過後には小孔が閉塞した。
【0057】
[実施例2]
実施例2では、バブリング加湿器を用いる代わりにスプレー加湿器で気体を加湿した。具体的には、図4(b)に示すプレー加湿器40で加湿した気体をディフューザ20に供給するようにした。
【0058】
スプレー加湿器40のスプレーノズル41としては、2流体スプレーノズル(スプレーイングシステムジャパン株式会社製)を用いた。スプレーノズル41にはコンプレッサ(図示せず)から送られた加圧気体(0.6MPa)を30L/分で供給し、サイフォン効果で水槽(1Lメスシリンダ)46から吸い上げた水と混合して霧状の水滴を発生させた。液管43の途中には流量調整バルブを設け、スプレーノズル41から加湿室42への水滴の噴霧量が8.3ml/分になるように調整した。
【0059】
加湿室42には、コンプレッサ(図示せず)で0.4MPaに加圧した曝気用の空気(22℃、湿度約10%RH)を曝気エア管45から120L/分で供給し、加湿した。加湿室42から排出される加湿気体は、ガス温度60℃での飽和水蒸気量に相当する水分を含み、これを気体供給管22からディフューザ20に供給した。
【0060】
実施例2ではエッチング槽10の大きさは550mm×610mm×1200mmとし、10枚のガラス板をエッチング槽10内に浸漬した。ガラス板は600mm×300mmの大きさで厚さは2mmのものを用いた。エッチング槽10には、濃度10%のフッ酸と濃度5%の硫酸とを混合した混酸をエッチング液として300L、入れた。
【0061】
エッチング槽10の底部には、縦横の長さが40cm×40cmの大きさの散気面24を備える塩化ビニル製の散気板を設け、ガラス板の下部から曝気攪拌を行った。散気面24には、直径0.5mmの小孔が2cm間隔で、縦横それぞれ20個ずつ、合計400個、形成されている。
【0062】
上記条件でエッチング処理を60分間行い、処理後に散気面の小孔の閉塞具合をCCDカメラで観察した。なお、エッチングは、処理開始時のエッチング液の温度を45℃として行った。
【0063】
[比較例2]
比較例2として、スプレーノズル41からのスプレーを停止し、曝気エア管45から供給された曝気用空気を加湿せず、そのまま気体供給管22に送った。曝気エア管45からの曝気用空気の供給量は150L/分とした。その他の条件は、実施例2と同様にした。表2に、実施例2および比較例2でエッチング処理後に観察された散気面の小孔の閉塞度合を示す。閉塞度合は、小孔断面の閉塞の程度で示し、例えば「50%以上」であれば孔断面の50%以上が閉塞していることを意味する。また、「閉塞なし」とは、孔壁が塩化ビニルの色を保持しており、小孔がまったく閉塞していないと判断される場合を意味する。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すように、本発明によれば、エッチング槽に吹き込まれる曝気用気体がエッチング液で温められる場合でも小孔へのスケール付着が良好に防止できた。
【0066】
このように、本発明によれば、エッチング液を曝気攪拌するためにエッチング槽内に設ける散気ユニットの小孔にスケールが付着することを防止できるため、長期にわたり散気ユニットの散気用部材を洗浄することなく、散気用部材全体から均一に気泡を発生させることができる。このため、エッチング液を満遍なく拡散させて、ガラス基板等の被処理部材全体を均一にエッチングできるので、長期間、高い精度のエッチング処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、液晶ディスプレイの構成部材等として使用されるガラス基板等のエッチングに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエッチング装置の模式図。
【図2】前記実施形態に係るエッチング装置のエッチング槽の全体斜視図。
【図3】図2のエッチング槽の一部断面模式図。
【図4a】本発明に係る散気ユニットの変形例を示す断面模式図
【図4b】は本発明の他の変形例における気体加湿手段の詳細構成を示す模式図。
【図5】本発明の第2実施形態に係るエッチング装置の模式図。
【図6】試験用装置の模式図。
【符号の説明】
【0069】
1〜3 エッチング装置
5 ガラス基板(被処理部材)
10 エッチング槽
12 エッチング液
20 ディフューザ(散気ユニット)
21 本体(散気用部材)
22 気体供給管
30 バブリング加湿器
31 コンプレッサ(送風機)
32 加圧エア管
33 加湿槽
35 散気管
40 スプレー加湿器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチング槽内のエッチング液に被処理部材を浸漬してエッチングするエッチング方法であって、
含湿気体から気泡を発生させることにより前記エッチング液を曝気攪拌するエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチング液はフッ酸を含む酸性溶液であり、前記被処理部材はガラス基板である請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記含湿気体は湿度80%以上である請求項1または2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記含湿気体として送風手段から供給される気体を水中曝気して得られる加湿気体、もしくは未加湿の気体に霧状の水を加えて得られる加湿気体、または水蒸気を用いることにより、前記気泡を発生させる請求項1から3のいずれか記載のエッチング方法。
【請求項5】
エッチング液を保持し被処理部材を当該エッチング液中に浸漬してエッチングするエッチング槽を備えるエッチング装置であって、
前記エッチング槽に、含湿気体から気泡を発生させて前記エッチング液を曝気攪拌する散気ユニットを設けるエッチング装置。
【請求項6】
前記エッチング槽は、前記エッチング液としてフッ酸を含む酸性溶液を保持し、前記被処理部材としてガラス基板を前記エッチング液に浸漬した状態で保持する保持具を備える請求項5記載のエッチング装置。
【請求項7】
送風手段と当該送風手段から供給される気体を水中に通して加湿して前記含湿気体を取り出す加湿槽とを備えるバブリング加湿器、未加湿の気体に霧状の水を加えるスプレー加湿器、または水蒸気供給手段のいずれかをさらに備え、
前記散気ユニットは、前記バブリング加湿器もしくは前記スプレー加湿器から送られる加湿気体、または前記水蒸気供給手段から供給される水蒸気を用いて気泡を発生させる請求項5または6に記載のエッチング装置。
【請求項8】
複数の前記エッチング槽と、前記エッチング液を循環させる循環槽を含む循環ラインと、を備える請求項5から7のいずれかに記載のエッチング装置。

【図1】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−147637(P2008−147637A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293919(P2007−293919)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(506148165)クリテックサ−ビス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】