エネルギ吸収部材
【課題】エネルギ吸収の重量効率の高い、エネルギ吸収部材10を提供する。
【解決手段】エネルギ吸収部材10は、周壁12を有する筒状の本体11を備える。周壁12は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁14と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁14に対して所定の間隔を空けて相対する外壁15と、を含む構造体13を、筒軸方向に多数積層することによって構成される。本体11に対して筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、各構造体13における内壁14及び外壁15の少なくとも一方が座屈変形する。
【解決手段】エネルギ吸収部材10は、周壁12を有する筒状の本体11を備える。周壁12は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁14と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁14に対して所定の間隔を空けて相対する外壁15と、を含む構造体13を、筒軸方向に多数積層することによって構成される。本体11に対して筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、各構造体13における内壁14及び外壁15の少なくとも一方が座屈変形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮荷重が入力されたときに塑性変形することで、そのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両のフレームの一部分を構成し、衝突時の衝撃荷重を吸収するために用いられるエネルギ吸収部材が開示されている。このエネルギ吸収部材は、筒状の本体と、この本体の外周面における筒軸方向の中間位置に形成された凹凸部と、を備えている。このエネルギ吸収部材では、本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、前記凹凸部が起点となって本体が筒軸方向に比較的大きく折れ曲げ変形し、それによって、エネルギを吸収するようにしている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、パネル状のエネルギ吸収部材として、多数の空洞部を備え、衝撃の入力時にはその空洞部が崩壊することによってエネルギを吸収するエネルギ吸収部材が開示されている。
【特許文献1】特開2005−29064号公報
【特許文献2】特開2004−306682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された従来のエネルギ吸収部材は、本体の折れ曲げ変形が比較的大きいため、その変形する部分以外の部分、つまり本体の大部分がエネルギの吸収にほとんど関与しない。このため、部材重量に対するエネルギの吸収量(エネルギ吸収の重量効率)が比較的低いという問題がある。
【0005】
こうした低い重量効率に起因して、エネルギ吸収部材を車両のフレームの一部分を構成するために用いた場合は、車両重量の増大に伴い例えば燃費の悪化を招くことにもなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギ吸収の重量効率の高いエネルギ吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、エネルギ吸収部材は、周壁を有する筒状の本体を備え、前記周壁は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁と、を含む構造体を、筒軸方向に複数積層することによって構成され、前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形する。
【0008】
この構成によると、筒状の本体の周壁が、内壁と外壁とを含む複数の構造体を筒軸方向に積層することによって構成されているため、その本体に対して、筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形する。これによって、細かい座屈が筒軸方向に多数発生することになるため、エネルギ吸収部材の広い範囲に亘って変形が生じることになると共に、複雑な変形が安定して生じることでエネルギの吸収量も増大する。その結果、このエネルギ吸収部材は、エネルギ吸収の重量効率が大幅に向上する。
【0009】
前記各構造体は、前記内壁及び外壁によって区画されると共に、その内部に液体が密封された液体室をさらに含む、としてもよい。
【0010】
こうすることで、各構造体において座屈が生じるときの応力(座屈応力)が高くなるため、エネルギ吸収部材によって吸収されるエネルギ吸収量が増大する。
【0011】
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記構造体の構成が前記筒軸方向の積層位置によって変更されている、としてもよい。
【0012】
つまり、このエネルギ吸収部材は、複数の構造体を筒軸方向に積層した構成であるため、各構造体の構成を、その構造体が配置される筒軸方向の位置に応じて変更することにより、本体の荷重−変位特性を容易に変更することが可能になる。
【0013】
例えば、前記本体において前記圧縮荷重の入力側の剛性は、その逆側の剛性よりも低く設定されている、としてもよい。
【0014】
こうすることによって、圧縮荷重の入力時に、本体における圧縮荷重の入力側が比較的容易に座屈変形するようになるため、本体の荷重−変位特性において、初期荷重のピーク値(本体が塑性変形を開始するときの荷重の値)を低下させることが可能になる。
【0015】
前記各構造体の筒軸方向の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に低くされている、としてもよい。
【0016】
こうすることで、本体における圧縮荷重の入力側では、各構造体における内壁及び外壁の筒軸方向の長さが相対的に長くなるため、座屈応力が低下することになる。つまり、本体において圧縮荷重の入力側の剛性がその逆側の剛性よりも低くなる。
【0017】
また、前記圧縮荷重の入力側における各構造体には、その外壁又は内壁に、前記筒軸に直交する方向に延びるスリットが形成されている、としてもよい。尚、スリットは、外壁又は内壁を厚み方向に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。こうしたスリットを形成することによって、本体における圧縮荷重の入力側の剛性が、その逆側の剛性よりも低くなる。
【0018】
前記各構造体における内壁の厚みと外壁の厚みとは、互いに異なっており、前記構造体は、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように積層されている、としてもよい。
【0019】
こうすることで、圧縮荷重の入力時には、各構造体における内壁及び外壁が、筒軸方向に交互に座屈変形するようになり、本体が筒軸方向に安定して潰れる。その結果、本体の荷重−変位特性における荷重変動(本体が圧縮変形している最中の荷重の変動)が小さくなる。
【0020】
前記本体は、互いに同軸に配置された内筒及び外筒と、当該内筒及び外筒の間において縦断面が波形で筒軸方向に延びると共に、前記内筒の外周面及び外筒の内周面に対して交互に当接する波板と、を互いに接合することによって構成されている、としてもよい。
【0021】
また、前記本体は、それぞれその肉厚を筒軸方向に周期的に変更させた内筒及び外筒を互いに同軸に配置すると共に、筒軸方向に所定の間隔を空けて配置した複数の環状接合部を介して前記内筒と外筒とを互いに接合することによって構成されている、としてもよい。
【0022】
これらの構成によって、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように、構造体が積層された本体(エネルギ吸収部材)を、容易に製造することが可能になる。
【0023】
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形することによって吸収する、としてもよい。
【0024】
前述したように、このエネルギ吸収部材はエネルギ吸収の重量効率が高いため、車両のフレーム部材として用いたときに、車両重量が軽減するという利点が得られる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によると、複数の構造体を積層して構成された本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときに細かい座屈が多数発生することによって、エネルギ吸収部材の広い範囲に亘って、複雑な変形が安定して生じることになり、エネルギ吸収の重量効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1に係るエネルギ吸収部材10を示しており、このエネルギ吸収部材10は、図1に示すように、例えば車両前部における車幅方向の両側位置で車両前後方向にそれぞれ延びるフロントサイドフレーム91の前端部分や、フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメントとの間に介設されるクラッシュカン92として用いられる。
【0028】
前記エネルギ吸収部材10は、周壁12により構成された筒状の本体11を備えている。本体11は、本実施形態では円筒であるが、円筒に限るものではない。例えば本体11の横断面形状は、楕円形状や矩形状等、適宜設定することが可能である。
【0029】
前記周壁12は、図3に拡大して示すように、横断面略矩形状のチューブ13を、筒軸方向に多数積層することによって形成されている。換言すれば、本体11の周壁12は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁14と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁15と、を含む構造体(チューブ13であり、以下構造体13とも記す)を、筒軸方向に複数積層することによって構成されている。尚、構造体13は横断面略矩形状とすることに限らず適宜設定することが可能である。例えば図4に示すように、横断面円形状としてもよい。この場合は、構造体13の内壁及び外壁の境目が必ずしも明確ではないが、横断面円形状の構造体13において、内方側の部分が内壁、外方側の部分が外壁に相当する。
【0030】
前記構成のエネルギ吸収部材10は、種々の成形方法によって製造することが可能である。一例としては、図4(a)(b)に示すように、断面円形の心材81の外周面に、長尺のチューブ13を隙間無く巻き付けて積層させると共に、積層したチューブ13同士をろう付けや接着剤による接着等の手法により互いに接合することによって、製造することが可能である(尚、心材81はチューブ13の接合前又は接合後に取り除く)。
【0031】
また、図示は省略するが、比較的薄肉の筒状基材(スキン材)に対して、前記と同様に、長尺のチューブを巻き付けて互いに接合することによっても、前記筒状のエネルギ吸収部材10を製造することが可能である。
【0032】
さらに、長尺のチューブを巻いて筒状にするのではなく、図示は省略するが、環状にしたチューブを同軸となるように積み重ねた上でそれらを互いに接合することによっても、前記筒状のエネルギ吸収部材10を製造することが可能である。
【0033】
尚、環状のチューブは、必ずしも無端状でなくてもよい。つまり環状のチューブとしては、切れ目を有する略C字状であってもよい。このC字状のチューブを積み重ねる場合には、その切れ目が筒軸方向に連続しないように、切れ目の周方向位置をずらしながらチューブを積み重ねることが好ましい。
【0034】
このように、チューブ13を利用してエネルギ吸収部材を製造する場合、本体11の材質としては、チューブ13を製造することが可能な材料であれば、どのような材質としてもよい。そのため、本体11の材質は、例えば鋼やアルミニウム等の、車両のフレームを構成する部材として用いられる各種材料の中から適宜選択することが可能である。
【0035】
また、本体11をアルミニウム製とするときには、前記の心材81に巻き付けるチューブ16を、例えば図5に示すように、相対的に高融点のアルミニウム材16aを、相対的に低融点のアルミニウム材16bで被覆した、いわゆるクラッド材で構成してもよい。こうすることによって、チューブ16同士の接合が容易になるため、エネルギ吸収部材の製造の容易化が図られる。
【0036】
図6に示すように、前記構成のエネルギ吸収部材10に対し圧縮荷重が入力されたときには(図6の白抜きの矢印参照)、各構造体13の内壁14及び外壁15がそれぞれ座屈変形するようになるため(図6の黒矢印参照)、細かい座屈変形が多数生じることになる。つまり、このエネルギ吸収部材10では、圧縮荷重の入力時に、本体11の広い範囲に亘って複雑な変形が生じることになる。その結果、このエネルギ吸収部材10は、エネルギ吸収の重量効率を従来に比べて向上させることができる。
【0037】
尚、エネルギ吸収部材に要求されるエネルギ吸収量に応じて周壁を二重構造にしてもよい。例えば図7に示すように、長尺のチューブ13を心材81に対して二重に巻き付けることによって、二重構造の周壁を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。こうすることによって、エネルギ吸収部材が吸収し得るエネルギ量を増大させることができる。
【0038】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係るエネルギ吸収部材20を示している。尚、エネルギ吸収部材20において、図3等に示すエネルギ吸収部材10と同じ構成については同じ参照符号を付して、その説明を適宜省略する。このエネルギ吸収部材20は、チューブ13内の空間が密閉されており、この空間内に液体が充填されることによって液体室17が構成されている。
【0039】
このエネルギ吸収部材20に対し、筒軸方向の一端部に圧縮荷重が入力されたときには、前記エネルギ吸収部材10と同様に、各構造体(チューブ13)の内壁14及び外壁15がそれぞれ座屈変形するが(図6参照)、液体室17内に液体(つまり、非圧縮性の流体)が密封されていることによって、その座屈応力は増大することになる。このため、エネルギ吸収部材20のエネルギ吸収量を、その分、増大させることができる。
【0040】
(実施形態3)
図9は、エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例を示している。エネルギ吸収部材を、前述したように車両のフロントサイドフレーム91等に適用した場合に要求される特性としては、図9に実線で示すように、(1)初期荷重のピーク値(塑性変形を開始するときの荷重の値)が小さいこと、(2)荷重変動(本体が圧縮変形している最中の荷重の変動)が小さいこと、(3)ねらいの平均荷重になること、(4)潰れストロークが長いこと、の概ね4つの特性が挙げられる。この内、(1)(2)は主に、車両の乗員に大きな荷重変動が作用することを抑制するためであり、(3)(4)は主に、車両の緒元等に応じて設定されるエネルギ吸収部材の設計値に関係する。
【0041】
図10は、実施形態3に係るエネルギ吸収部材30の構成を示しており、このエネルギ吸収部材30は、図9に示す荷重−変位特性において初期荷重のピーク値を小さくすることを主目的としている。尚、図3等に示すエネルギ吸収部材10と同じ構成については同じ参照符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0042】
具体的にこのエネルギ吸収部材30では、本体31における荷重入力側(図10における上側)の部分の剛性を、相対的に低下させるようにしている。つまり、荷重入力側の部分、図例では上二段の構造体(チューブ)33は、その外壁35に内外を貫通する横スリット35aが形成されている。この横スリット35aによって、荷重入力側の部分を構成する構造体33は、その座屈応力が低下することになる。従って、本体31に対して圧縮荷重が入力したときには、その本体31における荷重入力側の部分が比較的容易に座屈変形することから、初期荷重のピーク値が低下するようになる。
【0043】
尚、横スリット35aが形成された構造体33の段数は、適宜設定すればよい。また、横スリットは外壁35を貫通していなくても、外壁35の外側面から凹陥しているだけであっても、当該構造体の座屈応力を低下させることが可能である。また、横スリットは、内壁34に形成してもよいし、外壁35及び内壁34の双方に形成してもよい。
【0044】
(実施形態4)
エネルギ吸収部材は、複数の構造体を筒軸方向に積層することによって構成されているため、図11に示すように、構造体43における高さ(a)、幅(b)、内壁44の厚み(c)及び外壁45の厚み(d)の各寸法を、適宜調整することによって、エネルギ吸収部材の荷重−変位特性(図9参照)を変更させて、所望の特性を得ることが可能になる。
【0045】
一例として、図12は、初期荷重のピーク値が低下するエネルギ吸収部材40の構成を示している。このエネルギ吸収部材40では、その本体41を構成すべく筒軸方向に積層された構造体(チューブ)43が、圧縮荷重の入力側(図12の上側)から逆側(図12の下側)に向かって、その高さ(a)(図11参照)が次第に低くなるように構成されている。
【0046】
こうすることによって、本体41における圧縮荷重の入力側の部分では、構造体43の外壁45及び内壁44の高さが比較的高いため座屈応力が低くなる一方で、本体41における反入力側の部分では、構造体43の外壁45及び内壁44の高さが比較的低いため座屈応力が高くなる。従って、初期荷重のピーク値は低下するようになる。
【0047】
別の例として、図13は、荷重変動を小さくするエネルギ吸収部材50の構成を示している。このエネルギ吸収部材50は、その各構造体(チューブ)53の外壁55と内壁54との厚み(c)(d)(図11参照)が互いに異なっていると共に、厚みが薄い方の壁が、筒軸方向に外壁55と内壁54とで交互になるように設定されている。
【0048】
各構造体53における外壁55及び内壁54の厚みが異なる場合、圧縮荷重が入力したときには、相対的に厚みの薄い壁の方が座屈変形し易い。前記のエネルギ吸収部材50では、その座屈変形し易い壁が、筒軸方向に交互に配置されているため、各構造体53が筒軸方向に順番にかつ確実に座屈変形することになる。その結果、エネルギ吸収部材50(本体51)の全体が安定して座屈変形することになり、エネルギ吸収の重量効率が高くなる。
【0049】
こうしたエネルギ吸収部材50は、図13に示すように、内壁54と外壁55との厚みが異なるように形成された環状のチューブ53を、前述したように、筒軸方向に多数積み重ねることによって製造することが可能である。
【0050】
またこれとは異なり、例えば図14に示すように、比較的薄肉の内筒56及び外筒57をそれぞれ用意して、それらを同軸に配置すると共に、その間に、縦断面が波形に形成された一定厚みの波板58を配置して、その波板58と内筒56又は外筒57とを溶接等により接合することによっても、前記と同様の構成でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。つまり、この構成では、内筒56又は外筒57と、波板58とが接合している個所が相対的に厚肉の壁となり、その逆側である、内筒56又は外筒57と、波板58とが接合していない個所が相対的に薄肉の壁となると共に、その薄肉の壁が、筒軸方向に外壁55と内壁54とで交互に配置されることになる。
【0051】
さらに、図15に示すように、例えば押し出し成形によって所定の形状に形成された、2つの筒状の部材61,62を接合することによっても、前記と同様の構成でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。
【0052】
すなわち、相対的に厚肉の厚肉部61aと、相対的に薄肉の薄肉部61bとが筒軸方向に交互に配置されて構成された内筒61と、同様に厚肉部62aと薄肉部62bとが筒軸方向に交互に配置されて構成された外筒62と、をそれぞれ用意する。内筒61において肉厚が変化する境界部には、その外周面から径方向の外方に向かって突出する、環状の接合部61cが一体に形成されており、外筒62において肉厚が変化する境界部には、その内周面から径方向の内方に向かって突出する、環状の接合部62cが一体に形成されている。そうして、内筒61と外筒62とを同軸に配置したときに、厚肉部61aと薄肉部62bと、及び、薄肉部61bと厚肉部62aとをそれぞれ径方向に相対させると共に、接合部61c,62c同士をろう付け等の適宜の手法を用いて接合する。こうすることによって、前記と同様の構造でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材が完成する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、エネルギ吸収部材の重量効率が向上するから、例えば車両のフレーム、特にフロントやリヤのフレームの一部を構成するためのエネルギ吸収部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】エネルギ吸収部材が適用される車両のフロントフレームを示す一部破断の側面図である。
【図2】実施形態1に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図3】前記エネルギ吸収部材の拡大断面図である。
【図4】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す説明図である。
【図5】前記エネルギ吸収部材の別の製造方法の一例を示す説明図である。
【図6】前記エネルギ吸収部材が変形する様子を示す説明図である。
【図7】実施形態1の変形例に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図8】実施形態2に係るエネルギ吸収部材の拡大断面図である。
【図9】エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例である。
【図10】実施形態3に係るエネルギ吸収部材の断面図である。
【図11】構造体の寸法関係を示す断面説明図である。
【図12】実施形態4に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図13】実施形態4の別の例に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図14】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す断面図である。
【図15】前記エネルギ吸収部材の製造方法の別の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10,20,30,40,50 エネルギ吸収部材
11,31,41,51 本体
12 周壁
13,16,33,43,53 構造体
14,34,44,54 内壁
15,35,45,55 外壁
35a スリット
56,61 内筒
57,62 外筒
58 波板
61c,62c 環状接合部
91 フロントサイドフレーム(フロントフレーム)
92 クラッシュカン(フロントフレーム)
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮荷重が入力されたときに塑性変形することで、そのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両のフレームの一部分を構成し、衝突時の衝撃荷重を吸収するために用いられるエネルギ吸収部材が開示されている。このエネルギ吸収部材は、筒状の本体と、この本体の外周面における筒軸方向の中間位置に形成された凹凸部と、を備えている。このエネルギ吸収部材では、本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、前記凹凸部が起点となって本体が筒軸方向に比較的大きく折れ曲げ変形し、それによって、エネルギを吸収するようにしている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、パネル状のエネルギ吸収部材として、多数の空洞部を備え、衝撃の入力時にはその空洞部が崩壊することによってエネルギを吸収するエネルギ吸収部材が開示されている。
【特許文献1】特開2005−29064号公報
【特許文献2】特開2004−306682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された従来のエネルギ吸収部材は、本体の折れ曲げ変形が比較的大きいため、その変形する部分以外の部分、つまり本体の大部分がエネルギの吸収にほとんど関与しない。このため、部材重量に対するエネルギの吸収量(エネルギ吸収の重量効率)が比較的低いという問題がある。
【0005】
こうした低い重量効率に起因して、エネルギ吸収部材を車両のフレームの一部分を構成するために用いた場合は、車両重量の増大に伴い例えば燃費の悪化を招くことにもなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギ吸収の重量効率の高いエネルギ吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、エネルギ吸収部材は、周壁を有する筒状の本体を備え、前記周壁は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁と、を含む構造体を、筒軸方向に複数積層することによって構成され、前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形する。
【0008】
この構成によると、筒状の本体の周壁が、内壁と外壁とを含む複数の構造体を筒軸方向に積層することによって構成されているため、その本体に対して、筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形する。これによって、細かい座屈が筒軸方向に多数発生することになるため、エネルギ吸収部材の広い範囲に亘って変形が生じることになると共に、複雑な変形が安定して生じることでエネルギの吸収量も増大する。その結果、このエネルギ吸収部材は、エネルギ吸収の重量効率が大幅に向上する。
【0009】
前記各構造体は、前記内壁及び外壁によって区画されると共に、その内部に液体が密封された液体室をさらに含む、としてもよい。
【0010】
こうすることで、各構造体において座屈が生じるときの応力(座屈応力)が高くなるため、エネルギ吸収部材によって吸収されるエネルギ吸収量が増大する。
【0011】
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記構造体の構成が前記筒軸方向の積層位置によって変更されている、としてもよい。
【0012】
つまり、このエネルギ吸収部材は、複数の構造体を筒軸方向に積層した構成であるため、各構造体の構成を、その構造体が配置される筒軸方向の位置に応じて変更することにより、本体の荷重−変位特性を容易に変更することが可能になる。
【0013】
例えば、前記本体において前記圧縮荷重の入力側の剛性は、その逆側の剛性よりも低く設定されている、としてもよい。
【0014】
こうすることによって、圧縮荷重の入力時に、本体における圧縮荷重の入力側が比較的容易に座屈変形するようになるため、本体の荷重−変位特性において、初期荷重のピーク値(本体が塑性変形を開始するときの荷重の値)を低下させることが可能になる。
【0015】
前記各構造体の筒軸方向の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に低くされている、としてもよい。
【0016】
こうすることで、本体における圧縮荷重の入力側では、各構造体における内壁及び外壁の筒軸方向の長さが相対的に長くなるため、座屈応力が低下することになる。つまり、本体において圧縮荷重の入力側の剛性がその逆側の剛性よりも低くなる。
【0017】
また、前記圧縮荷重の入力側における各構造体には、その外壁又は内壁に、前記筒軸に直交する方向に延びるスリットが形成されている、としてもよい。尚、スリットは、外壁又は内壁を厚み方向に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。こうしたスリットを形成することによって、本体における圧縮荷重の入力側の剛性が、その逆側の剛性よりも低くなる。
【0018】
前記各構造体における内壁の厚みと外壁の厚みとは、互いに異なっており、前記構造体は、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように積層されている、としてもよい。
【0019】
こうすることで、圧縮荷重の入力時には、各構造体における内壁及び外壁が、筒軸方向に交互に座屈変形するようになり、本体が筒軸方向に安定して潰れる。その結果、本体の荷重−変位特性における荷重変動(本体が圧縮変形している最中の荷重の変動)が小さくなる。
【0020】
前記本体は、互いに同軸に配置された内筒及び外筒と、当該内筒及び外筒の間において縦断面が波形で筒軸方向に延びると共に、前記内筒の外周面及び外筒の内周面に対して交互に当接する波板と、を互いに接合することによって構成されている、としてもよい。
【0021】
また、前記本体は、それぞれその肉厚を筒軸方向に周期的に変更させた内筒及び外筒を互いに同軸に配置すると共に、筒軸方向に所定の間隔を空けて配置した複数の環状接合部を介して前記内筒と外筒とを互いに接合することによって構成されている、としてもよい。
【0022】
これらの構成によって、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように、構造体が積層された本体(エネルギ吸収部材)を、容易に製造することが可能になる。
【0023】
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形することによって吸収する、としてもよい。
【0024】
前述したように、このエネルギ吸収部材はエネルギ吸収の重量効率が高いため、車両のフレーム部材として用いたときに、車両重量が軽減するという利点が得られる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によると、複数の構造体を積層して構成された本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときに細かい座屈が多数発生することによって、エネルギ吸収部材の広い範囲に亘って、複雑な変形が安定して生じることになり、エネルギ吸収の重量効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1に係るエネルギ吸収部材10を示しており、このエネルギ吸収部材10は、図1に示すように、例えば車両前部における車幅方向の両側位置で車両前後方向にそれぞれ延びるフロントサイドフレーム91の前端部分や、フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメントとの間に介設されるクラッシュカン92として用いられる。
【0028】
前記エネルギ吸収部材10は、周壁12により構成された筒状の本体11を備えている。本体11は、本実施形態では円筒であるが、円筒に限るものではない。例えば本体11の横断面形状は、楕円形状や矩形状等、適宜設定することが可能である。
【0029】
前記周壁12は、図3に拡大して示すように、横断面略矩形状のチューブ13を、筒軸方向に多数積層することによって形成されている。換言すれば、本体11の周壁12は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁14と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁15と、を含む構造体(チューブ13であり、以下構造体13とも記す)を、筒軸方向に複数積層することによって構成されている。尚、構造体13は横断面略矩形状とすることに限らず適宜設定することが可能である。例えば図4に示すように、横断面円形状としてもよい。この場合は、構造体13の内壁及び外壁の境目が必ずしも明確ではないが、横断面円形状の構造体13において、内方側の部分が内壁、外方側の部分が外壁に相当する。
【0030】
前記構成のエネルギ吸収部材10は、種々の成形方法によって製造することが可能である。一例としては、図4(a)(b)に示すように、断面円形の心材81の外周面に、長尺のチューブ13を隙間無く巻き付けて積層させると共に、積層したチューブ13同士をろう付けや接着剤による接着等の手法により互いに接合することによって、製造することが可能である(尚、心材81はチューブ13の接合前又は接合後に取り除く)。
【0031】
また、図示は省略するが、比較的薄肉の筒状基材(スキン材)に対して、前記と同様に、長尺のチューブを巻き付けて互いに接合することによっても、前記筒状のエネルギ吸収部材10を製造することが可能である。
【0032】
さらに、長尺のチューブを巻いて筒状にするのではなく、図示は省略するが、環状にしたチューブを同軸となるように積み重ねた上でそれらを互いに接合することによっても、前記筒状のエネルギ吸収部材10を製造することが可能である。
【0033】
尚、環状のチューブは、必ずしも無端状でなくてもよい。つまり環状のチューブとしては、切れ目を有する略C字状であってもよい。このC字状のチューブを積み重ねる場合には、その切れ目が筒軸方向に連続しないように、切れ目の周方向位置をずらしながらチューブを積み重ねることが好ましい。
【0034】
このように、チューブ13を利用してエネルギ吸収部材を製造する場合、本体11の材質としては、チューブ13を製造することが可能な材料であれば、どのような材質としてもよい。そのため、本体11の材質は、例えば鋼やアルミニウム等の、車両のフレームを構成する部材として用いられる各種材料の中から適宜選択することが可能である。
【0035】
また、本体11をアルミニウム製とするときには、前記の心材81に巻き付けるチューブ16を、例えば図5に示すように、相対的に高融点のアルミニウム材16aを、相対的に低融点のアルミニウム材16bで被覆した、いわゆるクラッド材で構成してもよい。こうすることによって、チューブ16同士の接合が容易になるため、エネルギ吸収部材の製造の容易化が図られる。
【0036】
図6に示すように、前記構成のエネルギ吸収部材10に対し圧縮荷重が入力されたときには(図6の白抜きの矢印参照)、各構造体13の内壁14及び外壁15がそれぞれ座屈変形するようになるため(図6の黒矢印参照)、細かい座屈変形が多数生じることになる。つまり、このエネルギ吸収部材10では、圧縮荷重の入力時に、本体11の広い範囲に亘って複雑な変形が生じることになる。その結果、このエネルギ吸収部材10は、エネルギ吸収の重量効率を従来に比べて向上させることができる。
【0037】
尚、エネルギ吸収部材に要求されるエネルギ吸収量に応じて周壁を二重構造にしてもよい。例えば図7に示すように、長尺のチューブ13を心材81に対して二重に巻き付けることによって、二重構造の周壁を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。こうすることによって、エネルギ吸収部材が吸収し得るエネルギ量を増大させることができる。
【0038】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係るエネルギ吸収部材20を示している。尚、エネルギ吸収部材20において、図3等に示すエネルギ吸収部材10と同じ構成については同じ参照符号を付して、その説明を適宜省略する。このエネルギ吸収部材20は、チューブ13内の空間が密閉されており、この空間内に液体が充填されることによって液体室17が構成されている。
【0039】
このエネルギ吸収部材20に対し、筒軸方向の一端部に圧縮荷重が入力されたときには、前記エネルギ吸収部材10と同様に、各構造体(チューブ13)の内壁14及び外壁15がそれぞれ座屈変形するが(図6参照)、液体室17内に液体(つまり、非圧縮性の流体)が密封されていることによって、その座屈応力は増大することになる。このため、エネルギ吸収部材20のエネルギ吸収量を、その分、増大させることができる。
【0040】
(実施形態3)
図9は、エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例を示している。エネルギ吸収部材を、前述したように車両のフロントサイドフレーム91等に適用した場合に要求される特性としては、図9に実線で示すように、(1)初期荷重のピーク値(塑性変形を開始するときの荷重の値)が小さいこと、(2)荷重変動(本体が圧縮変形している最中の荷重の変動)が小さいこと、(3)ねらいの平均荷重になること、(4)潰れストロークが長いこと、の概ね4つの特性が挙げられる。この内、(1)(2)は主に、車両の乗員に大きな荷重変動が作用することを抑制するためであり、(3)(4)は主に、車両の緒元等に応じて設定されるエネルギ吸収部材の設計値に関係する。
【0041】
図10は、実施形態3に係るエネルギ吸収部材30の構成を示しており、このエネルギ吸収部材30は、図9に示す荷重−変位特性において初期荷重のピーク値を小さくすることを主目的としている。尚、図3等に示すエネルギ吸収部材10と同じ構成については同じ参照符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0042】
具体的にこのエネルギ吸収部材30では、本体31における荷重入力側(図10における上側)の部分の剛性を、相対的に低下させるようにしている。つまり、荷重入力側の部分、図例では上二段の構造体(チューブ)33は、その外壁35に内外を貫通する横スリット35aが形成されている。この横スリット35aによって、荷重入力側の部分を構成する構造体33は、その座屈応力が低下することになる。従って、本体31に対して圧縮荷重が入力したときには、その本体31における荷重入力側の部分が比較的容易に座屈変形することから、初期荷重のピーク値が低下するようになる。
【0043】
尚、横スリット35aが形成された構造体33の段数は、適宜設定すればよい。また、横スリットは外壁35を貫通していなくても、外壁35の外側面から凹陥しているだけであっても、当該構造体の座屈応力を低下させることが可能である。また、横スリットは、内壁34に形成してもよいし、外壁35及び内壁34の双方に形成してもよい。
【0044】
(実施形態4)
エネルギ吸収部材は、複数の構造体を筒軸方向に積層することによって構成されているため、図11に示すように、構造体43における高さ(a)、幅(b)、内壁44の厚み(c)及び外壁45の厚み(d)の各寸法を、適宜調整することによって、エネルギ吸収部材の荷重−変位特性(図9参照)を変更させて、所望の特性を得ることが可能になる。
【0045】
一例として、図12は、初期荷重のピーク値が低下するエネルギ吸収部材40の構成を示している。このエネルギ吸収部材40では、その本体41を構成すべく筒軸方向に積層された構造体(チューブ)43が、圧縮荷重の入力側(図12の上側)から逆側(図12の下側)に向かって、その高さ(a)(図11参照)が次第に低くなるように構成されている。
【0046】
こうすることによって、本体41における圧縮荷重の入力側の部分では、構造体43の外壁45及び内壁44の高さが比較的高いため座屈応力が低くなる一方で、本体41における反入力側の部分では、構造体43の外壁45及び内壁44の高さが比較的低いため座屈応力が高くなる。従って、初期荷重のピーク値は低下するようになる。
【0047】
別の例として、図13は、荷重変動を小さくするエネルギ吸収部材50の構成を示している。このエネルギ吸収部材50は、その各構造体(チューブ)53の外壁55と内壁54との厚み(c)(d)(図11参照)が互いに異なっていると共に、厚みが薄い方の壁が、筒軸方向に外壁55と内壁54とで交互になるように設定されている。
【0048】
各構造体53における外壁55及び内壁54の厚みが異なる場合、圧縮荷重が入力したときには、相対的に厚みの薄い壁の方が座屈変形し易い。前記のエネルギ吸収部材50では、その座屈変形し易い壁が、筒軸方向に交互に配置されているため、各構造体53が筒軸方向に順番にかつ確実に座屈変形することになる。その結果、エネルギ吸収部材50(本体51)の全体が安定して座屈変形することになり、エネルギ吸収の重量効率が高くなる。
【0049】
こうしたエネルギ吸収部材50は、図13に示すように、内壁54と外壁55との厚みが異なるように形成された環状のチューブ53を、前述したように、筒軸方向に多数積み重ねることによって製造することが可能である。
【0050】
またこれとは異なり、例えば図14に示すように、比較的薄肉の内筒56及び外筒57をそれぞれ用意して、それらを同軸に配置すると共に、その間に、縦断面が波形に形成された一定厚みの波板58を配置して、その波板58と内筒56又は外筒57とを溶接等により接合することによっても、前記と同様の構成でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。つまり、この構成では、内筒56又は外筒57と、波板58とが接合している個所が相対的に厚肉の壁となり、その逆側である、内筒56又は外筒57と、波板58とが接合していない個所が相対的に薄肉の壁となると共に、その薄肉の壁が、筒軸方向に外壁55と内壁54とで交互に配置されることになる。
【0051】
さらに、図15に示すように、例えば押し出し成形によって所定の形状に形成された、2つの筒状の部材61,62を接合することによっても、前記と同様の構成でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能である。
【0052】
すなわち、相対的に厚肉の厚肉部61aと、相対的に薄肉の薄肉部61bとが筒軸方向に交互に配置されて構成された内筒61と、同様に厚肉部62aと薄肉部62bとが筒軸方向に交互に配置されて構成された外筒62と、をそれぞれ用意する。内筒61において肉厚が変化する境界部には、その外周面から径方向の外方に向かって突出する、環状の接合部61cが一体に形成されており、外筒62において肉厚が変化する境界部には、その内周面から径方向の内方に向かって突出する、環状の接合部62cが一体に形成されている。そうして、内筒61と外筒62とを同軸に配置したときに、厚肉部61aと薄肉部62bと、及び、薄肉部61bと厚肉部62aとをそれぞれ径方向に相対させると共に、接合部61c,62c同士をろう付け等の適宜の手法を用いて接合する。こうすることによって、前記と同様の構造でかつ同様の機能を有するエネルギ吸収部材が完成する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、エネルギ吸収部材の重量効率が向上するから、例えば車両のフレーム、特にフロントやリヤのフレームの一部を構成するためのエネルギ吸収部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】エネルギ吸収部材が適用される車両のフロントフレームを示す一部破断の側面図である。
【図2】実施形態1に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図3】前記エネルギ吸収部材の拡大断面図である。
【図4】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す説明図である。
【図5】前記エネルギ吸収部材の別の製造方法の一例を示す説明図である。
【図6】前記エネルギ吸収部材が変形する様子を示す説明図である。
【図7】実施形態1の変形例に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図8】実施形態2に係るエネルギ吸収部材の拡大断面図である。
【図9】エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例である。
【図10】実施形態3に係るエネルギ吸収部材の断面図である。
【図11】構造体の寸法関係を示す断面説明図である。
【図12】実施形態4に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図13】実施形態4の別の例に係るエネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図14】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す断面図である。
【図15】前記エネルギ吸収部材の製造方法の別の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10,20,30,40,50 エネルギ吸収部材
11,31,41,51 本体
12 周壁
13,16,33,43,53 構造体
14,34,44,54 内壁
15,35,45,55 外壁
35a スリット
56,61 内筒
57,62 外筒
58 波板
61c,62c 環状接合部
91 フロントサイドフレーム(フロントフレーム)
92 クラッシュカン(フロントフレーム)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁を有する筒状の本体を備え、
前記周壁は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁と、を含む構造体を、筒軸方向に複数積層することによって構成され、
前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形するエネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体は、前記内壁及び外壁によって区画されると共に、その内部に液体が密封された液体室をさらに含むエネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記構造体の構成が前記筒軸方向の積層位置によって変更されているエネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体において前記圧縮荷重の入力側の剛性は、その逆側の剛性よりも低く設定されているエネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体の筒軸方向の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に低くされているエネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項4に記載のエネルギ吸収部材において、
前記圧縮荷重の入力側における各構造体には、その外壁又は内壁に、前記筒軸に直交する方向に延びるスリットが形成されているエネルギ吸収部材。
【請求項7】
請求項3に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体における内壁の厚みと外壁の厚みとは、互いに異なっており、
前記構造体は、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように積層されているエネルギ吸収部材。
【請求項8】
請求項7に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、互いに同軸に配置された内筒及び外筒と、当該内筒及び外筒の間において縦断面が波形で筒軸方向に延びると共に、前記内筒の外周面及び外筒の内周面に対して交互に当接する波板と、を互いに接合することによって構成されているエネルギ吸収部材。
【請求項9】
請求項7に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、それぞれその肉厚を筒軸方向に周期的に変更させた内筒及び外筒を互いに同軸に配置すると共に、筒軸方向に所定の間隔を空けて配置した複数の環状接合部を介して前記内筒と外筒とを互いに接合することにより構成されているエネルギ吸収部材。
【請求項10】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形することによって吸収するエネルギ吸収部材。
【請求項1】
周壁を有する筒状の本体を備え、
前記周壁は、その縦断面で見て、径方向の内方に位置する内壁と、径方向の外方に位置しかつ、該内壁に対して所定の間隔を空けて相対する外壁と、を含む構造体を、筒軸方向に複数積層することによって構成され、
前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形するエネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体は、前記内壁及び外壁によって区画されると共に、その内部に液体が密封された液体室をさらに含むエネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記構造体の構成が前記筒軸方向の積層位置によって変更されているエネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体において前記圧縮荷重の入力側の剛性は、その逆側の剛性よりも低く設定されているエネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体の筒軸方向の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に低くされているエネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項4に記載のエネルギ吸収部材において、
前記圧縮荷重の入力側における各構造体には、その外壁又は内壁に、前記筒軸に直交する方向に延びるスリットが形成されているエネルギ吸収部材。
【請求項7】
請求項3に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各構造体における内壁の厚みと外壁の厚みとは、互いに異なっており、
前記構造体は、相対的に厚みの薄い壁が外壁と内壁とで筒軸方向に交互になるように積層されているエネルギ吸収部材。
【請求項8】
請求項7に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、互いに同軸に配置された内筒及び外筒と、当該内筒及び外筒の間において縦断面が波形で筒軸方向に延びると共に、前記内筒の外周面及び外筒の内周面に対して交互に当接する波板と、を互いに接合することによって構成されているエネルギ吸収部材。
【請求項9】
請求項7に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、それぞれその肉厚を筒軸方向に周期的に変更させた内筒及び外筒を互いに同軸に配置すると共に、筒軸方向に所定の間隔を空けて配置した複数の環状接合部を介して前記内筒と外筒とを互いに接合することにより構成されているエネルギ吸収部材。
【請求項10】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記各構造体における内壁及び外壁の少なくとも一方が座屈変形することによって吸収するエネルギ吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−2368(P2009−2368A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161141(P2007−161141)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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