説明

エポキシ樹脂多孔シートの製造方法

【課題】エポキシ樹脂硬化体を所定厚みに切削して製造するエポキシ樹脂多孔シートにおいて、大面積で且つ面内の孔径分布が均一なエポキシ樹脂多孔シートを提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と硬化剤およびポロゲンを含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削してエポキシ樹脂シートを作製した後、このシートからポロゲンを除去して多孔化するエポキシ樹脂多孔シートの製造方法において、前記樹脂混合物を前記樹脂硬化体とする際に、混合物の粘度が1000mPa・s以上の状態で硬化させることを特徴とするエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂多孔シートの製造方法に関する。また本発明は、前記製造方法で得られたエポキシ樹脂多孔シートと、それを用いた複合分離膜および、複合分離膜エレメントに関する。このエポキシ樹脂多孔シートは、限外濾過膜(UF膜)や精密濾過膜(MF膜)、または複合分離膜の支持体として好適に用いられる。この複合分離膜は、主に逆浸透膜(RO膜)やナノフィルトレーション膜(NF膜)として用いられ、超純水の製造、かん水または海水の脱塩や、排水処理などの膜分離処理に好適に用いられる。さらには、染色排水、電着塗料排水や下水などからの有害成分の分離・除去・回収や、食品用途における有効成分の濃縮などの高度処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
現在、本発明にかかるエポキシ樹脂多孔シートは硬化体のブロックを所定厚みで切削する切削法を用いた樹脂多孔シートの製造方法を提供する。このような方法の例としては例えば、PTFEフィルムを製造しうる方法を提供することを目的として、ポリテトラフルオロエチレン粉末の塊状成形物を改質した後、これを切削して長尺フィルムとする改質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を円柱状又は円筒状成形体に成形し、該成形体をスカイブ加工によりシート状体を成形する工程を含むスクロール型圧縮機用チップシールの製造方法が提案されている(特許文献2) 。
【0004】
さらには、ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して円筒状の予備圧縮成形体を作製し、該予備圧縮成形体をマンドレルにより水平に懸架し焼成することにより焼成多孔質成形体を作製し、その後、該焼成多孔質成形体を切削加工する焼成ポリテトラフルオロエチレン多孔質シートの製造方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、本発明によるエポキシ樹脂多孔シートは、液体や気体の分離膜や、複合分離膜の支持体として用いることができる。これは従来では、基材の表面に実質的に分離機能を有する微多孔層が形成されたものが挙げられ、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどを素材とする織布、不織布、メッシュ状ネット、及び発泡焼結シートなどが挙げられる。また、微多孔層の形成材料としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンなどのポリスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものが挙げられ、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホンが好ましく用いられている(特許文献4)。
【0006】
エポキシ樹脂の多孔体としては、精製媒体や吸収吸着媒体、カラム充填剤などに用いるためのエポキシ樹脂多孔体が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−338208号公報
【特許文献2】特開2000−240579号公報
【特許文献3】特開2001−341138号公報
【特許文献4】特開平2−187135号公報
【特許文献5】国際公開第2006/073173号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液体や気体の分離膜や、複合分離膜の支持体として用いられるエポキシ樹脂多孔シートにおいて、面内の孔径分布が均一であり、且つ大面積のシートが得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、エポキシ樹脂と硬化剤およびポロゲンを含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削してエポキシ樹脂シートを作製した後、このシートからポロゲンを除去して多孔化するエポキシ樹脂多孔シートの製造方法に関するものであり、前記樹脂混合物を前記樹脂硬化体とする際に、混合物の粘度が1000mPa・s以上の状態で硬化させることを特徴とする。硬化させる際の樹脂混合物の温度は15℃以上であることが好ましく、さらに樹脂混合物の硬化開始直前の粘度は5000mPa・s以下であることが好ましい。
【0010】
さらに本発明は、樹脂混合物および樹脂硬化体の容量が1リットル以上用いて製造する場合に効果が得られやすく、また、エポキシ樹脂シートの切削厚みは20μm〜1000μmとすることが好ましい。
【0011】
本発明に用いるエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましく、さらに、エポキシ樹脂がエポキシ当量の異なる2種類以上のエポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂のエポキシ当量と配合割合の積の総和が7万以上であることが好ましい。
【0012】
また本発明では、混合物を45℃以下の温度で硬化させた後、さらに70℃以上の温度で加熱硬化することが好ましい。
【0013】
本発明は、前記の製造方法で得られたエポキシ樹脂多孔シート、このエポキシ樹脂多孔シートを含む複合分離膜、および、この複合分離膜を用いた複合分離膜エレメントに関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】円筒状樹脂硬化体をスライサーを用いて切削する工程を示す概略図
【図2】実施例1で得られた円筒状硬化体の各部位におけるエポキシ樹脂多孔シートの2万倍SEM写真
【図3】比較例1で得られた円筒状硬化体の各部位におけるエポキシ樹脂多孔シートの2000倍SEM写真
【図4】図2及び図3のSEM写真確認部位を示す円筒状硬化体の透視概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、エポキシ樹脂と硬化剤およびポロゲンを含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削してエポキシ樹脂シートを作製した後、このシートからポロゲンを除去して多孔化するエポキシ樹脂多孔シートの製造方法に関するものであり、前記樹脂混合物を前記樹脂硬化体とする際に、混合物の粘度が1000mPa・s以上の状態で硬化させることを特徴とする。
【0016】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
これらのうち、耐薬品性や膜強度を確保するため、さらには多孔シートとする上で均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するためには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下である脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。なかでも、所望の特性を得る上で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が最も簡便に用いることができる。
【0018】
前記エポキシ樹脂において、耐薬品性や膜強度、特に屈曲性能の面で優れた多孔樹脂シートを得るためには、エポキシ当量の異なる2種類以上のエポキシ樹脂を用いる方法が挙げられる。本発明では、このときのエポキシ樹脂として、エポキシ樹脂のエポキシ当量と配合割合(1〜100[%])の積に関する用いたエポキシ樹脂の総和が大きく影響を与えることがわかっており、この数値が7万以上であることが好ましく、9万以上であることがより好ましい。この数値が低すぎると、十分な膜強度や膜の屈曲性能は得られにくくなる。さらにはこの数値は20万以下であることが好ましく、17万以下であることがより好ましい。この数値が大きくなりすぎると、多孔化しにくくなり、均一な多孔シートが得られにくくなる。
【0019】
硬化剤としては、例えば、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤、脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、さらには膜強度と弾性率を確保するために、分子内に一級アミンを2つ以上有するメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニノレメタン、及びジアミノジフェニノレスルホンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミン硬化剤、分子内に一級アミンを2つ以上有するビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、及びビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンからなる群より選択される少なくとも1種の脂環族アミン硬化剤を用いることが好ましい。
【0021】
また、エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂環族アミン硬化剤の組み合わせ、又は脂環族エポキシ樹脂と芳香族アミン硬化剤の組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにより、得られるエポキシ樹脂シートの耐熱性が高くなり、複合逆浸透膜の多孔性支持体として好適に用いられる。
【0022】
また、エポキシ樹脂多孔シートを構成する全炭素原子に対する芳香環由来の炭素原子比率が0.1〜0.65の範囲になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤の種類と配合割合を決定することが好ましい。上記値が0.1未満の場合には、エポキシ樹脂多孔シートの特性である分離媒体の平面構造の認識性が低下する傾向にある。一方、0.65を超える場合には、均一な三次元網目状骨格を形成することが困難になる。
【0023】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合割合は、エポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6〜1.5であることが好ましい。硬化剤当量が0.6未満の場合には、硬化体の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する傾向にある。一方、1.5を超える場合には、未反応の硬化剤が残留したり、架橋密度の向上を阻害する傾向にある。なお、本発明では、上述した硬化剤の他に、目的とする多孔構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチノレイミダゾール、2−フェノール−4,5ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
【0024】
ポロゲンとしては、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、かつエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生じさせることが可能な溶剤であればよく、例えば、メチルセロソルブエチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、及びポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するために、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、分子量600以下のポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びポリオキシエチレンジメチルエーテルを用いることが好ましく、特に分子量200以下のポリエチレングリコール、分子量500以下のポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用しでもよい。
【0026】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」) などが挙げられる。
【0027】
本発明における樹脂混合物の硬化開始直前の常温(15℃〜30℃程度)での粘度(初期粘度)は、1000mPa・s以上とする必要がある。この粘度とするためには、攪拌硬化することや、エポキシ樹脂の種類や組み合わせを調整することで設定してもよい。例えば、粘度が1000mPa・s以下になる場合には、常温で固形タイプのエポキシ樹脂の割合を増やす方法が挙げられる。さらに、樹脂混合物の初期粘度は5000mPa・s以下であることが好ましく、さらには3000mPa・s以下であることがより好ましい。このように、粘度が低すぎると、本発明において十分な効果が得られず、粘度が高すぎると、所望の孔径を得ることが困難になる。この粘度測定においては、樹脂混合物をサンプリングし、回転式、振動式、毛細管式などの市販の低粘度測定器において粘度測定すればよく、特にE型やSV型の粘度計を用いることが好ましい。
【0028】
このエポキシ樹脂多孔シートを複合分離膜の支持体として用いるためには、エポキシ樹脂多孔シートの、水銀圧入法により得られる平均孔径を0.01〜0.4μmに調整する必要がある。エポキシ樹脂多孔シートの平均孔径は、全体のエポキシ当量とポロゲンの割合、硬化温度などの諸条件を適宜設定することにより目的の範囲に調整できる。この平均孔径が大きすぎると、エポキシ樹脂多孔シート上に均一な分離機能層を形成し難く、小さすぎると複合分離膜の性能が損なわれる傾向にある。この平均孔径とするためには、エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンの総重量に対してポロゲンを40〜80重量%用いることが好ましく、ポロゲンの量が40重量%未満の場合には平均孔径が小さくなりすぎたり、空孔が形成されなくなる傾向にある。一方、ポロゲンの量が80重量%を超える場合には平均孔径が大きくなりすぎるため、複合逆浸透膜を製造する際に均一な分離機能層を多孔シート上に形成することができなくなったり、塩阻止率が著しく低下する傾向にある。これらをさらに高めるために平均孔径は0.04〜0.2μmとすることがより好ましい。そのためにはポロゲンを60〜70重量%用いることが好ましい。
【0029】
また、エポキシ樹脂多孔シートの平均孔径を0.01〜0.4μmに調整する方法として、エポキシ当量の異なる2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いる方法も好適である。その際、エポキシ当量の差は100以上であり、常温で液状のエポキシ樹脂と固形のエポキシ樹脂を混合して用いることが好ましい。
【0030】
円筒状又は円柱状樹脂硬化体は、例えば、前記樹脂混合物を円筒状又は円柱状モールド(型抜き用容器)内に充填し、その後、混合物の周辺温度が45℃以下の状態で、1〜48時間静置して硬化反応させることにより作製することができる。混合物の硬化開始時の温度が低すぎると硬化に長時間必要となるため、15℃以上であることが好ましい。この際、必要に応じて内容物の均一化を目的とした攪拌をしてもよい。この場合、混合物温度が30℃〜40℃での粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの半硬化状態で攪拌を行なうことでより均一な硬化体が得られることがわかっている。さらに、45℃以下で静置した後、粘度が1万mPa・sを超えた頃からエポキシ樹脂架橋体の架橋度を高めるためにポストキュア(後処理)を行ってもよい。
【0031】
ポストキュアの条件は特に制限されないが、温度は室温又は50〜160℃程度であり、時間は2〜48時間程度である。特に本発明では、60℃以上の加熱硬化とすることが好ましく、加熱硬化は複数段階に分けて順に温度を上げていく方法が均一な硬化体を得るために好ましく用いられる。
【0032】
樹脂混合物または半硬化物を攪拌する方法としては、内容物の容量や粘度に応じて従来公知の方法を用いればよく、攪拌子の形状や、攪拌速度、時間、動力などを適宜設定すればよい。本発明における攪拌は、スリーワンモーターを用いて200〜1000rpm程度の回転数で、樹脂混合物の状態に応じて5分〜1時間程度攪拌を行なうことが好ましい。
【0033】
樹脂混合物を注入する円筒状又は円柱状モールド(型抜き用容器)としては、金属、ガラス、陶磁器、硬化粘度、硬化プラスチック、またはこれらの併用体などであって、樹脂混合物に犯されず、温度変化により変形を生じないもので、目的に応じた適切なものを用いれば良い。本発明では、アルミやステンレスなどの腐食の生じにくい金属モールドにシリコン系離型剤を塗布し、乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0034】
円筒状又は円柱状樹脂硬化体の大きさは特に制限されないが、円筒状樹脂硬化体の中心軸からの厚さは樹脂シートの製造効率の観点から5cm以上であることが好ましく、より好ましくは10cm以上である。また、円筒状又は円柱状樹脂硬化体の直径も特に制限されないが、樹脂シートの製造効率の観点からは30cm以上であることが好ましく、均一に硬化する上でより好ましくは40〜150cmである。また硬化体の幅(軸方向の長さ)は、目的とする樹脂シートの大きさを考慮して適宜設定することができるが、通常20〜200cmであり、取扱いやすさの観点から30〜150cmでが好ましく、50〜120cmであることがより好ましい。
【0035】
樹脂混合物および円筒状又は円柱状の樹脂硬化体の容量については、大きいほど均一な樹脂硬化体が得られにくくなる傾向がある。したがって、1リットル以上のものを用いて製造する場合に本発明の効果が顕著であり、40リットル以上のものを用いた場合に本発明の効果がさらに顕著である。特に、70リットル以上のものでは特に効果的である。また、円筒状樹脂硬化体を作製する場合には、円柱状モールドを用いて円柱状樹脂硬化体を作製し、その後中心部を打ち抜いて円筒状樹脂硬化体を作製してもよい。
【0036】
円筒状又は円柱状樹脂硬化体を円筒軸又は円柱軸を中心に回転させながら該硬化体の表面を所定厚みで切削して長尺状のエポキシ樹脂シートを作製する。図1は、円筒状樹脂硬化体1を、スライサー2を用いて切削する工程を示す概略図である。切削時のライン速度は、例えば2〜50m/min程度である。
【0037】
切削後のエポキシ樹脂シート4の厚さは特に制限されないが、強度や取り扱い易さの点から20〜1000μm程度であり、さらに、分離膜として用いるためには、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。
【0038】
その後、エポキシ樹脂シート中のポロゲンを除去して連通する空孔を有するエポキシ樹脂多孔シートを形成する。エポキシ樹脂シートからポロゲンを除去するために用いられる溶剤としては、例えば、水、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)、及びこれらの混合溶剤などが挙げられ、ポロゲンの種類に応じて適宜選択する。また、水や二酸化炭素などの超臨界流体も好ましく用いることができる。
【0039】
ポロゲンを除去した後にエポキシ樹脂多孔シートの乾燥処理等をしてもよい。乾燥条件は特に制限されないが、温度は通常40〜120℃程度であり、50〜80℃程度が好ましく、乾燥時間は3分〜3時間程度である。
【0040】
エポキシ樹脂多孔シートの空孔率、平均孔径、孔径分布などは、使用するエポキシ樹脂、硬化剤、ポロゲンなどの原料の種類や配合比率、及び反応誘起相分離時における加熱温度や加熱時間などの反応条件により変化するため、目的とする空孔率、平均孔径、孔径分布を得るために系の相図を作成して最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時におけるエポキシ樹脂架橋体の分子量、分子量分布、系の粘度、架橋反応速度などを制御することにより、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔構造を得ることができる。エポキシ樹脂多孔シートの空孔率としては20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜60%である。
【0041】
エポキシ樹脂多孔シートの表面に分離機能層を形成して複合分離膜を製造する場合、分離機能層を形成する前に、エポキシ樹脂多孔シートの分離機能層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理又はアルコール処理を施しておいてもよい。この処理を施して該表面を表面改質(例えば、親水性の向上、表面粗さの増大など)しておくことにより、エポキシ樹脂多孔シートと分離機能層の密着性が向上し、分離機能層の浮き(エポキシ樹脂多孔シートと分離機能層の聞に水が浸入するなどして、分離機能層が半球状に膨らむ現象)が生じ難い複合分離膜を製造することができる。
【0042】
前記大気圧プラズマ処理は、窒素ガス、アンモニアガス、又はヘリウム、アルゴンなどの希ガスの存在雰囲気下において、0.1〜5Wsec/cm2程度の放電強度で行うことが好ましい。また、前記アルコール処理は、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、又はt−ブチルアルコールなどの1価アルコールを0.1〜90重量%含む水溶液を塗布するか、または該水溶液中に浸漬して行うことが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂多孔シートの厚さは特に制限されないが、強度の点から20〜1000μm程度であり、複合逆浸透膜の多孔性支持体として用いる場合には、実用的な透水性及び塩阻止性などの観点から50〜250μm程度であることが好ましく、80〜150μmであることがより好ましい。また、エポキシ樹脂多孔シートは織布、不織布などで裏面を補強してもよい。
【0044】
エポキシ樹脂多孔シートは、複合逆浸透膜の多孔性支持体として用いる場合には、水銀圧入法による平均孔径が0.01〜0.4μmであることが好ましく、より好ましくは0.04〜0.2μmである。平均孔径が大きすぎると均一な分離機能層を形成し難く、小さすぎると複合逆浸透膜の性能が損なわれる傾向にある。また、空孔率は20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜60%である。厚さは通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmである。
【0045】
以下、前記樹脂多孔シートの表面に分離機能層が形成されている複合逆浸透膜の製造方法について説明する。
【0046】
前記複合分離膜の製造は、前記多孔性支持体上に多官能アミン成分を含む水溶液被覆層を形成し、そこに多官能酸ハライド成分を含む溶液を接触させることで前記ポリアミド系分離機能層を形成することが好ましい。
【0047】
前記多官能アミン成分は、多官能アミンであれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能アミンがあげられる。前記多官能アミン成分は単独で用いてもよく、混合物としてもよい。
【0048】
前記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1、3、5‐トリアミノベンゼン、1、2、4‐トリアミノベンゼン、3、5‐ジアミノ安息香酸、2、4‐ジアミノトルエン、2、6‐ジアミノトルエン、2、4‐ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミンなどがあげられる。
【0049】
前記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミンなどがあげられる。
【0050】
前記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1、3‐ジアミノシクロヘキサン、1、2‐ジアミノシクロへキサン、1、4‐ジアミノシクロへキサン、ピペラジン、2、5‐ジメチルピペラジン、4‐アミノメチルピペラジンなどがあげられる。
【0051】
前記多官能アミン成分を含有する水溶液は、製膜を容易にし、あるいは得られる複合逆浸透膜の性能を向上させるために、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体や、ソルビトール、グリセリンなどのような多価アルコールを水などに含有させることもできる。
【0052】
前記多官能酸ハライド成分は、特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能酸ハロゲン化物を用いることができる。これらの多官能酸ハライド成分は単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0053】
前記芳香族多官能酸ハロゲン化物としては、例えばトリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0054】
前記脂肪族多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどがあげられる。
【0055】
前記脂環式多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0056】
前記溶液および前記水溶液にそれぞれ含まれる多官能酸ハライド成分および多官能アミン成分の濃度は、特に限定されるものではないが、多官能酸ハライド成分は、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%であり、多官能アミン成分は、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0057】
前記複合膜分離膜の製造において、前記のようにポリアミド系複合分離膜の製造の際、多官能酸ハライド成分を含む溶液中に添加剤を添加してもよい。前記添加剤としては、酸ハライド成分を含む溶液に溶解せず、多官能アミン成分を含む水溶液との相溶性を高める物質であれば限定されず、エーテル類、ケトン類、エステル類、ニトロ化合物、ハロゲン化アルケン類、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族炭化水素、非芳香族不飽和炭化水素、複素芳香族が例示できる。
【0058】
分離機能層の形成については、前記多孔性支持体上に、前記多官能アミン成分を含む水溶液を被覆した後、余分な水溶液を除去して水溶液被覆層を形成する。次いで、前記多官能酸ハライド成分を含有する溶液を前記被覆層と接触させる。接触時間としては、通常10秒〜5分、好ましくは30秒〜1分である。余分な溶液を除去した後、接触により生じた界面で縮重合させる。さらに、空気中(20℃〜30℃)で約1〜10分間、好ましくは約2〜8分間乾燥させて、架橋ポリアミドからなるポリアミド系分離機能層を多孔性支持体上に形成させる。乾燥後、脱イオン水で膜面を洗浄する。
【0059】
また本発明の複合分離膜は、一般に分離膜エレメントの形態に加工され、圧力容器に装填されて使用される。例えば、スパイラル型の膜エレメントは、複合分離膜と供給側流路材と透過側流路材とが積層された状態で中心管(集水管)の周囲にスパイラル状に巻回され、端部材と外装材で固定される。
【0060】
以下に、本発明について実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
エポキシ当量184〜194のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER828)1398g、エポキシ当量3000〜5000のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER1010)932g、硬化剤として、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン520g、及びポリエチレングリコール(三洋化成(株)、PEG200 )5200gを、スリーワンモーターを用いて400rpmで15分間攪拌して樹脂混合物とした。このときの粘度(音叉型振動式粘度計:SV−10Hを用いて測定)は1800mPa・sだった(このエポキシ樹脂のエポキシ当量(中心値)と配合割合の積の総和は、190×60[%]+4000×40[%]=171,400)。この樹脂混合物を、内側に離型剤(ナガセケムテックス製、QZ−13) を薄く塗布した後、100℃で乾燥させた、8リットルのステンレス製円筒形容器(に入れ、雰囲気温度25℃、混合物温度20℃〜40℃に保った状態で24時間静置した後、容器を70℃まで加熱して4時間、さらに130℃まで加熱して17時間の二次硬化を行い、エポキシ樹脂硬化体とした。この硬化体を切削旋盤装置(東芝機械社製)にて厚さ約130μmで切削してシート化した。続いて、純水中に12時間浸漬することでポリエチレングリコールを除去してエポキシ樹脂多孔シートを得た。さらにこのエポキシ樹脂多孔シートを50℃の乾燥機内で約4時間乾燥させることで、平均孔径0.06μmのエポキシ樹脂多孔シートが得られた。そのシートについて、図4に示す取得部位ごとに2万倍でSEM写真を撮影したところ、図2のように孔径均一なエポキシ樹脂シートが得られていることがわかった。
【0062】
図2および図3のSEM写真について説明する。図4のような円筒状のエポキシ樹脂硬化体について、切削開始直後のシートサンプルをB、切削終了直前のシートサンプルをAとし、そのシート中の3点(中央部と両端部)の1〜3についてSEM撮影を行い、孔径分布を目視確認した。
【0063】
(比較例1)
樹脂混合物のエポキシ樹脂を、エポキシ当量184〜194のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER828)1165g、エポキシ当量450〜500のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER1001)1165g(このエポキシ樹脂のエポキシ当量(中心値)と配合割合の積の総和は、190×50[%]+475×50[%]=33,250)とし、さらに45℃以下での硬化を行なわず、130℃で24時間加熱して硬化した以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂多孔シート作製した。このエポキシ樹脂多孔シートの孔径は図3に示した通り部位ごとに大きく異なり、均一なエポキシ樹脂多孔シートは得られなかった。
【0064】
(比較例2)
実施例1と同様の樹脂混合物を用いて、45℃以下での硬化を行なわず、130℃で24時間加熱して硬化した以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂多孔シート作製したところ、連通孔が形成されず、多孔状態のシートは形成できなかった。
【符号の説明】
【0065】
1:円筒状樹脂硬化体
2:スライサー
3:回転軸
4:樹脂シート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤およびポロゲンを含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削してエポキシ樹脂シートを作製した後、このシートからポロゲンを除去して多孔化するエポキシ樹脂多孔シートの製造方法において、前記樹脂混合物を前記樹脂硬化体とする際に、混合物の粘度が1000mPa・s以上の状態で硬化させることを特徴とするエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項2】
エポキシ樹脂シートの切削厚みが20μm〜1000μmである請求項1記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項3】
樹脂混合物を樹脂硬化体とする際の温度が15℃以上である請求項1または2記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項4】
樹脂混合物の初期粘度が5000mPa・s以下である請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項5】
樹脂混合物および樹脂硬化体の容量が1リットル以上である請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項6】
エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂がエポキシ当量の異なる2種類以上のエポキシ樹脂を用いて、このエポキシ樹脂におけるエポキシ当量と配合割合の積の総和が7万以上である請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項8】
混合物を45℃以下の温度で硬化させた後、70℃以上の温度で加熱硬化することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られたエポキシ樹脂多孔シート。
【請求項10】
請求項9記載のエポキシ樹脂多孔シートを含む複合分離膜。
【請求項11】
請求項10記載の複合分離膜を用いた複合分離膜エレメント。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121943(P2012−121943A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271625(P2010−271625)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】