説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよびそれらの硬化物

【課題】全ハロゲン量が少なく、その硬化物が特に高い熱伝導性を有する、新規なエポキシ樹脂を提供する。
【解決手段】特定のシクロアルカノン類の一種以上とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂とエピハロヒドリンとを反応させて得られ、全ハロゲン量が1600ppm以下である下記式(2)で表されるエポキシ樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物並びに、前記エポキシ樹脂組成物を使用して得られるプリプレグに関する。また、本発明は、前記エポキシ樹脂組成物またはプリプレグを硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、一般的に機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気的性質などに優れた硬化物となり、接着剤、塗料、積層板、成形材料、注型材料などの幅広い分野に利用されている。近年、これらの分野に用いられるエポキシ樹脂の硬化物には、高純度化を始め、難燃性、耐熱性、耐湿性、強靭性、低線膨張率、低誘電率特性など諸特性の一層の向上が求められている。
【0003】
特に、エポキシ樹脂組成物の代表的な用途である電気・電子産業分野においては、多機能化、高性能化、コンパクト化を目的とした半導体の高密度実装やプリント配線板の高密度配線化が進んでいる。しかしながら、高密度実装化や高密度配線化は、半導体素子やプリント配線板の内部から発生する熱を増加させ、機器類の誤作動を引き起こす原因となりうる。そのため、発生した熱をいかにして効率よく外部に放出させるかということが、エネルギー効率や機器設計の上からも重要な課題となっている。
これら熱対策としては、メタルコア基板を使用したり、設計の段階で放熱しやすい構造を組んだり、使用する高分子材料(エポキシ樹脂)に高熱伝導フィラーを細密充填したりするなど、様々な工夫がなされている。しかしながら、高熱伝導部位を繋げるバインダー役の高分子材料の熱伝導率が低いため、高分子材料の熱伝導スピードが律速となり、効率的な放熱ができていないのが現状である。
【0004】
エポキシ樹脂の高熱伝導化を実現する手段として、特許文献1では、メソゲン基をエポキシ樹脂構造中に導入する手法が報告されている。同文献にはメソゲン基を有するエポキシ樹脂として、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂などが記載されている。またビフェニル骨格以外のエポキシ樹脂としてはフェニルベンゾエート型のエポキシ樹脂が記載されているが、該エポキシ樹脂は酸化によるエポキシ化反応によって製造する必要があることから、安全性やコストに難があり実用的とは言えない。
また、特許文献2〜4には、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂を用いた例が記載されており、中でも特許文献3には高熱伝導率を有する無機充填材を併用する手法が記載されている。しかしながら、これら文献に記載の手法により得られる硬化物の熱伝導性は市場の要望を満足するレベルでは無く、比較的安価に入手可能なエポキシ樹脂を用いた、より高い熱伝導率を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が求められている。
【0005】
また、エポキシ樹脂同様、エポキシ樹脂組成物に含有される硬化剤も高熱伝導化を実現する重要な要素と言える。従来、その硬化物が高い熱伝導率を有すると謳ったエポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、特許文献1には4,4’−ジアミノジフェニルベンゾエート、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、特許文献2および3には1,5−ジアミノナフタレンなど、アミン系の硬化剤を使用した例が報告されている。しかしながら、これらのアミン系の硬化剤は硬化促進作用があるため、硬化物を作成するときのライフタイムを確保するのが困難であり、好ましいとは言えない。一方、特許文献4では、フェノール化合物を硬化剤として使用している。特許文献4では具体的にカテコールノボラックが使用されているが、同文献に記載の手法により得られる硬化物の熱伝導性もまた市場の要望を満足するレベルでは無く、より高い熱伝導率を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物の開発が望まれている。
【0006】
また、特許文献5、6に本願と同様の骨格を有するエポキシ樹脂が記載されているが、当該エポキシ樹脂は塩素量が非常に多いため、電気電子機器に使用するには電気信頼性に問題があり、さらに従来公知のエポキシ樹脂だと十分に高い熱伝導性を得られないとの問題も生じており、ハロゲン量が低く、高い熱伝導性を有するエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−323162号公報
【特許文献2】特開2004−2573号公報
【特許文献3】特開2006−63315号公報
【特許文献4】特開2003−137971号公報
【特許文献5】特開平09−100339号公報
【特許文献6】米国特許第3937685号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題を解決すべく検討の結果なされたものであり、全ハロゲン量が低く、その硬化物が特に高い熱伝導性を有する、エポキシ樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成させるに到った。
すなわち本発明は、
(1)
下記式(1)

【化1】


(式(1)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
で表される化合物とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂とエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂であって、全ハロゲン量が、1600ppm以下である下記式(2)で表されるエポキシ樹脂。
【化2】

(式(2)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
(2)
前項(1)に記載のエポキシ樹脂において、前記式(2)のエポキシ樹脂が、下記式(3)であるエポキシ樹脂、
【化3】

(式(3)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
(3)
前記(1)または(2)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物、
(4)
前項(1)〜(3)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物及びシート状の繊維基材からなるプリプレグ、
(5)
前項(1)〜(3)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
(6)
前項(5)に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物、
(7)
下記工程(イ)〜(ロ)を経ることにより得られる前記式(2)で表されるエポキシ樹脂、
工程(イ):式(1)で表される化合物とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂にアルコール類またはケトン類の溶媒の存在下、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る工程。
工程(ロ):工程(イ)で得られたエポキシ樹脂を溶剤で溶解し、アルカリ金属水酸化物を加えて反応を行う工程。
(8)
工程(イ)においてアルコール類の溶媒を使用する前項(7)に記載のエポキシ樹脂、
(9)
工程(ロ)においてアルカリ金属水酸化物として固形のアルカリ金属水酸化物を使用する前項(7)または(8)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂、
に関する。
【0010】
ここで、前記式(1)において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、これらアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられ、これらアリール基は前記アルキル基等の置換基を有していてもよい。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ケタール基等の炭素数1〜10のアルコシキ基が挙げられ、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂は、ハロゲン量が少なく、その硬化物が熱伝導に優れているため、半導体封止材料、プリプレグを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に使用する場合に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂は、前記式(1)で表される化合物とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂(以下、メソゲン基を有するフェノール樹脂と称す。)に、さらにエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂である。
【0013】
先ず、本発明に用いるメソゲン基を有するフェノール樹脂について説明する。
メソゲン基を有するフェノール樹脂を得るために、ヒドロキシベンズアルデヒド類との反応に用いられる式(1)で表される化合物の例としては、
(イ)シクロペンタノン、3−フェニルシクロペンタノン、1,3−シクロペンタンジオン等のシクロペンタノン骨格を有する化合物、
(ロ)シクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン、4−tert−ブチルシクロヘキサノン、4−ペンチルシクロヘキサノン、3−フェニルシクロヘキサノン、4−フェニルシクロヘキサノン、3,3−ジメチルシクロヘキサノン、3,4−ジメチルシクロヘキサノン、3,5−ジメチルシクロヘキサノン、4,4−ジメチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、4−シクロヘキサノンカルボン酸エチル等のフェニル基、アルキル基またはエステル結合を有するシクロヘキサノン骨格を有する化合物、
(ハ)1,4−シクロヘキサンジオンモノエチレンケタール、ビシクロヘキサン−4,4’ −ジオンモノエチレンケタール、1,4−シクロヘキサンジオンモノ−2,2−ジメチルトリメチレンケタール等のケタール構造及びシクロヘキサノン骨格を有する化合物、
(ニ)1,3−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロヘキサンジオン、5−メチル−1,3−シクロヘキサンジオン、ジメドン、1,4−シクロヘキサンジオン−2,5−ジカルボン酸ジメチル等のシクロヘキサンジオン構造を有する化合物、
(ホ)4,4’ −ビシクロヘキサノン、2,2−ビス(4−オキソシクロヘキシル)プロパン等の2つのシクロヘキサノン骨格を有する化合物、
(ヘ)シクロヘプタノン等のシクロヘプタノン骨格を有する化合物、
などが挙げられる。
この場合において、硬化物に高い熱伝導率を付与する観点から、前記式(1)においてRが水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0014】
メソゲン基を有するフェノール樹脂を得るために、式(1)で表される化合物の一種以上との反応に用いられるヒドロキシベンズアルデヒド類としては、例えばo−、m−およびp−ヒドロキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらは1種のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。これらのうち、エポキシ樹脂組成物の硬化物が特に高い熱伝導性を示すことから、p−ヒドロキシベンズアルデヒドを単独で使用するのが好ましい。
【0015】
メソゲン基を有するフェノール樹脂は、酸性条件下もしくは塩基性条件下、式(1)で表される化合物の一種以上とヒドロキシベンズアルデヒド類とのアルドール縮合反応によって得られる。
ヒドロキシベンズアルデヒド類は、式(1)で表される化合物1モルに対して2.0〜3.15モルを使用することがそれぞれ好ましい。
【0016】
酸性条件下でアルドール縮合反応を行う場合、用い得る酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸のような無機酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。酸性触媒の使用量は、ヒドロキシベンズアルデヒド類1モルに対して0.01〜1.0モル、好ましくは0.2〜0.5モルである。
【0017】
一方、塩基性条件下でアルドール縮合反応を行う場合、用い得る塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の金属水酸化物、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等の炭酸アルカリ金属塩、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソブチルアミン、ピリジン及びピペリジン等のアミン誘導体、並びにジメチルアミノエチルアルコール及びジエチルアミノエチルアルコール等のアミノアルコール誘導体が挙げられる。塩基性条件の場合も、先に挙げた塩基性触媒を単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。塩基性触媒の使用量は、ヒドロキシベンズアルデヒド類1モルに対して0.1〜2.5モル、好ましくは0.2〜2.0モルである。
【0018】
メソゲン基を有するフェノール樹脂を得る反応では、必要に応じて溶剤を使用してもよい。用い得る溶剤としては、例えばケトン類のようにヒドロキシベンズアルデヒド類との反応性を有するものでなければ特に制限はないが、原料のヒドロキシベンズアルデヒド類を容易に溶解させる点ではアルコール類を溶剤として用いるのが好ましい。
【0019】
反応温度は通常10〜90℃であり、好ましくは35〜70℃である。反応時間は通常0.5〜13時間であるが、原料化合物の種類によって反応性に差があるため、この限りではない。反応終了後、樹脂として取り出す場合には、反応物を水洗後または水洗無しに、加熱減圧下で反応液から未反応物や溶媒等を除去する。結晶で取り出す場合、反応液に水を添加していくか、もしくは大量の水中に反応液を滴下することにより結晶を析出させる。塩基性条件で反応を行った場合は生成したメソゲン基を有するフェノール樹脂が水中に溶け込むこともありうるので、塩酸を加えるなどして中性〜酸性条件にして結晶として析出させる。
【0020】
不純物を除去するため、得られた結晶を水洗し、その後乾燥させてメソゲン基を有するフェノール樹脂を得る工程を介入させることが好ましく、当該工程により、より不純物の少ない当該フェノール樹脂を得ることができる。
【0021】
こうして得られるメソゲン基を有するフェノール樹脂は、下記式(4)
【化4】

(式(4)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
で表せられる。
この場合において、エピハロヒドリンと反応させて得るエポキシ樹脂の熱伝導性の観点から上記式(4)の化合物の中でも、下記式(5)の化合物が好ましい。
【化5】

(式(5)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表す。mはRの数を表し、1≦m≦3の関係を満たす。)
【0022】
次に、本発明のエポキシ樹脂について説明する。
本発明のエポキシ樹脂は、上記手法によって得られたメソゲン基を有するフェノール樹脂とエピハロヒドリンとを反応させ、エポキシ化することにより得られる。また、メソゲン基を有するフェノール樹脂に、当該フェノール樹脂以外のフェノール化合物を併用しても良い。
併用し得るフェノール化合物としては、エポキシ樹脂の原料として通常用いられるフェノール化合物であれば特に制限なく用いることができるが、硬化物が高い熱伝導率を有するという本発明の効果が損なわれる恐れがあるので、併用し得るフェノール化合物の使用量は極力少ないことが好ましく、上記のメソゲン基を有するフェノール樹脂のみを用いることが特に好ましい。
本発明のエポキシ樹脂としては、特に高い熱伝導率を有する硬化物が得られることから、ヒドロキシベンズアルデヒド類と式(1)で表される化合物との反応により得られたメソゲン基を有するフェノール樹脂を用いて得ることができる。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂を得る反応において、エピハロヒドリンとしてはエピクロルヒドリン、α−メチルエピクロルヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等が使用できるが、工業的に入手が容易なエピクロルヒドリンが好ましい。エピハロヒドリンの使用量は、メソゲン基を有するフェノール樹脂の水酸基1モルに対し通常1〜20モル、好ましくは1.5〜12モルである。
【0024】
エポキシ化反応に使用できるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらは固形物をそのまま使用しても、あるいはその水溶液を使用してもよい。水溶液を使用する場合は、該アルカリ金属水酸化物の水溶液を連続的に反応系内に添加すると共に、減圧下または常圧下で連続的に留出させた水及びエピハロヒドリンの混合液から分液により水を除去し、エピハロヒドリンのみを反応系内に連続的に戻す方法でもよい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、メソゲン基を有するフェノール樹脂の水酸基1モルに対して通常0.9〜3.0モル、好ましくは1.0〜2.5モル、より好ましくは1.0〜1.1モルである。アルカリ金属水酸化物を水溶液で用いることはハロゲンの残存量の低減が困難となることから好ましくない。
ここで、固形物のアルカリ金属の添加の方法としては、数回に分割して添加することが反応温度の急激な上昇および、不純物である1,3−ハロヒドリン体やハロメチレン体の生成を防ぐ観点から好ましい。
【0025】
エポキシ化反応を促進するために、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩を触媒として添加することが好ましい。4級アンモニウム塩の使用量としては、メソゲン基を有するフェノール樹脂の水酸基1モルに対し通常0.1〜15gであり、好ましくは0.2〜10gである。
【0026】
また、エポキシ化の際に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒などを添加して反応を行うことが反応進行上好ましい。ここで、ハロゲン量低減の観点からジメチルスルホキシドを使用することが好ましい。
一方、本発明のエポキシ樹脂を高い収率である観点からはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0027】
上記アルコール類を使用する場合、その使用量はエピハロヒドリンの使用量に対し通常2〜50質量%、好ましくは4〜20質量%である。また非プロトン性極性溶媒を用いる場合はエピハロヒドリンの使用量に対し通常5〜100質量%、好ましくは10〜80質量%である。
【0028】
反応温度は通常30〜90℃であり、好ましくは35〜80℃である。反応時間は通常0.5〜10時間であり、好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは1〜2時間である。
反応終了後、反応物を水洗後、または水洗無しに加熱減圧下で反応液からエピハロヒドリンや溶媒等を除去する。また得られたエポキシ樹脂中に含まれるハロゲン量をさらに低減させるために、回収したエポキシ樹脂をトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどの溶剤に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えて反応を行なう。ここで、エポキシ樹脂を溶解させやすいことからメチルエチルケトンが好ましく使用できる。かかる操作を行なうことで閉環を確実なものにすることができる。この場合、アルカリ金属水酸化物の使用量は、メソゲン基を有するフェノール樹脂の水酸基1モルに対して通常0.01〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.2モルである。反応温度は通常50〜120℃、反応時間は通常0.5〜2時間である。
かかる操作により、より効果的にハロゲン量の低減を実現することができる。
【0029】
反応終了後、生成した塩を水洗により除去し、更にエバポレーターなどを使用して、減圧条件下高温で溶剤を留去し樹脂状にするか、または、冷却もしくはアルコールなどの貧溶剤を添加することにより本発明のエポキシ樹脂を結晶として析出させることで本発明のエポキシ樹脂を得る。
こうして得られる本発明のエポキシ樹脂の全ハロゲン量は1800ppm以下が通常であり、1600ppm以下であることが好ましい。全ハロゲン量が多すぎるものは硬化物の電気信頼性に悪影響を及ぼすことに加えて、未架橋の末端として残ることから、硬化時の融解状態時の分子同士の配向が進まずに熱伝導性の低下につながる。
【0030】
上記の方法により得られる本発明のエポキシ樹脂は、下記式(2)
【化6】

(式(2)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
で表せられるエポキシ樹脂であり、全ハロゲン量は1800ppm以下が通常であり、1600ppm以下であることが好ましい。
また、本発明のエポキシ樹脂においては、より高い熱伝導性硬化物を得る観点から、上記エポキシ樹脂において上記式(2)が、下記式(3)
【化7】

(式(3)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
で表せられるエポキシ樹脂であり、全ハロゲン量は1800ppm以下が通常であり、1600ppm以下であることが好ましい。
さらに、上記(3)式においてn=1であり、Rが全て水素原子のものが特に好ましい。
得られるエポキシ樹脂の軟化点が通常50〜120℃であり、好ましくは50〜80℃である。
【0031】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について記載する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のエポキシ樹脂とともに他のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含むことができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のエポキシ樹脂は単独でまたは他のエポキシ樹脂と併用して使用することが出来る。
【0033】
使用できる他のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAD及びビスフェノールI等)やフェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド及びシンナムアルデヒド等)との重縮合物、キシレン等の芳香族化合物とホルムアルデヒドの重縮合物とフェノール類との重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物(ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン及びイソプレン等)との重縮合物、フェノール類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジメタノール類(ベンゼンジメタノール及びビフェニルジメタノール等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジクロロメチル類(α,α’−ジクロロキシレン及びビスクロロメチルビフェニル等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ビスアルコキシメチル類(ビスメトキシメチルベンゼン、ビスメトキシメチルビフェニル及びビスフェノキシメチルビフェニル等)との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物、並びにアルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられるが、通常用いられるエポキシ樹脂であればこれらに限定されるものではない。これらは、1種類のみ使用しても、2種以上を併用してもよい。
前記エポキシ樹脂を併用する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分に占める本発明のエポキシ樹脂の割合は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、特に好ましくは100質量%である。ただし、本発明のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物の改質剤として使用する場合は、全エポキシ樹脂中で1〜30質量%となる割合で添加する。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、硬化剤であるフェノール樹脂は単独でまたは他の硬化剤と併用して使用することができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する他の硬化剤としては、例えばアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物及びフェノール系化合物等が挙げられる。これら具体例を下記(a)〜(e)に示す。
(a)アミン系化合物
ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン及びナフタレンジアミン等
(b)酸無水物系化合物
無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等
(c)アミド系化合物
ジシアンジアミド、若しくはリノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂等、
【0035】
(d)フェノール系化合物
多価フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン及び1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等);フェノール類(例えば、フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド及びフルフラール等)、ケトン類(p−ヒドロキシアセトフェノン及びo−ヒドロキシアセトフェノン等)、若しくはジエン類(ジシクロペンタジエン及びトリシクロペンタジエン等)との縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類と、置換ビフェニル類(4,4’−ビス(クロルメチル)−1,1’−ビフェニル及び4,4’−ビス(メトキシメチル)−1,1’−ビフェニル等)、若しくは置換フェニル類(1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン及び1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等)等との重縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類及び/又は前記フェノール樹脂の変性物;テトラブロモビスフェノールA及び臭素化フェノール樹脂等のハロゲン化フェノール類
(e)その他イミダゾール類、BF−アミン錯体、グアニジン誘導体
【0036】
これらの中ではジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン及びナフタレンジアミンなどのアミン系化合物、並びにカテコールとアルデヒド類、ケトン類、ジエン類、置換ビフェニル類又は置換フェニル類との縮合物などが好ましい。これらの成分は活性水素基が隣接している構造を有すためであり、これによりエポキシ樹脂が良好に配列される。これらは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
上記他の硬化剤を併用する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物中の全硬化剤成分に占めるフェノール樹脂の割合は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、特に好ましくは100質量%である。
本発明のエポキシ樹脂組成物において、フェノール樹脂を含む全硬化剤の使用量は、全エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜2.0当量が好ましく、0.6〜1.5当量が特に好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物としては、エポキシ樹脂として本発明のエポキシ樹脂を100質量%使用し、硬化剤としてフェノール樹脂を100質量%使用する場合が最も好ましい。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用できる無機充填材は特に限定はないが、エポキシ樹脂組成物の硬化物に、より高い熱伝導率を付与する目的で加えられるもので、無機充填材自体の熱伝導率が低すぎる場合には、エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせにより得られた高熱伝導率が損なわれる恐れがある。従って、無機充填材としては、熱伝導率が高いものほど好ましく、通常20W/m・K以上、好ましくは30W/m・K以上、より好ましくは50W/m・K以上の熱伝導率を有するものであれば何ら制限はない。尚、ここでいう熱伝導率とは、ASTM E1530に準拠した方法で測定した値である。この様な特性を有する無機充填材の具体例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材、合成繊維、セラミックス繊維等の繊維質充填材、着色剤等が挙げられる。これら無機充填材の形状は、粉末(塊状、球状)、単繊維、長繊維等いずれであってもよいが、特に、平板状のものであれば、無機充填材自身の積層効果によって硬化物の熱伝導性がより高くなり、硬化物の放熱性が更に向上するので好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物における無機充填材の使用量は、エポキシ樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して通常2〜1000質量部、好ましくは400〜1000質量部であるが、熱伝導率を出来るだけ高める為には、本発明のエポキシ樹脂組成物の具体的な用途における取り扱い等に支障をきたさない範囲で、可能な限り無機充填材の使用量を増やすことが好ましい。これら無機充填材は1種のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
また、充填材全体としての熱伝導率を20W/m・K以上に維持できる範囲にするには、熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材に熱伝導率が20W/m・K以下の充填材を併用しても構わないが、出来るだけ熱伝導率の高い硬化物を得るという本発明の目的からして、熱伝導率が20W/m・K以下の充填材の使用は最小限に留めることが好ましい。併用し得る充填材の種類や形状に特に制限はない。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止用途に用いる場合、硬化物の耐熱性、耐湿性、力学的性質などの点から、エポキシ樹脂組成物中において80〜93質量%を占める割合で熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材使用するのが好ましい。この場合、残部はエポキシ樹脂成分、硬化剤成分及びその他必要に応じて添加される添加剤であり、添加剤としては併用しうる他の無機充填材や後述する硬化促進剤等である。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂としての本発明のエポキシ樹脂を必須成分として含有していればよく、本発明のエポキシ樹脂組成物は特に優れた熱伝導性を有する。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物には硬化促進剤を含有させることもできる。使用できる硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及び2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン及び1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン及びトリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類、オクチル酸スズなどの金属化合物、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート及びテトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート及びN−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜15質量部が必要に応じ用いられる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じてシランカップリング剤、離型剤及び顔料等種々の配合剤、各種熱硬化性樹脂並びに各種熱可塑性樹脂等を添加することができる。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の具体例としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、シアナート樹脂、イソシアナート化合物、ベンゾオキサジン化合物、ビニルベンジルエーテル化合物、ポリブタジエンおよびこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、インデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂は本発明のエポキシ樹脂組成物中において60質量%以下を占める量が用いられる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られ、その好ましい用途としては半導体封止材やプリント配線板等が挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られているのと同様の方法で容易にその硬化物とすることが出来る。本発明の硬化物の形成は、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材、並びに必要により硬化促進剤、配合剤、各種熱硬化性樹脂や各種熱可塑性樹脂等を、押出機、ニーダ又はロール等を用いて均一になるまで充分に混合してエポキシ樹脂組成物を得た後、該エポキシ樹脂組成物を溶融注型法、トランスファー成型法、インジェクション成型法あるいは圧縮成型法などによって成型し、次いでその融点以上で2〜10時間加熱することにより行なうことができる。本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止用途に用いる場合には、上記の方法でリードフレーム等に搭載された半導体素子を封止すればよい。
【0044】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は溶剤を含むワニスとすることもできる。該ワニスは、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材、並びに必要に応じてその他の成分を含む混合物を、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のエステル類、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等の有機溶剤と混合することにより得ることが出来る。溶剤の量はワニス全体に対し通常10〜95質量%、好ましくは15〜85質量%である。
上記のようにして得られるワニスをガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維及び紙などのシート状の繊維基材に含浸させた後に加熱によって溶剤を除去すると共に、該ワニスを半硬化状態とすることにより、本発明のプリプレグを得ることが出来る。尚、ここで言う「半硬化状態」とは、反応性の官能基であるエポキシ基が一部未反応で残っている状態を意味する。該プリプレグを熱プレス成型して硬化物を得ることが出来る。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。合成例、実施例、比較例において部は質量部を意味する。なお、エポキシ当量、融点、熱伝導率は以下の条件で測定した。
・融点
Seiko Instruments
Inc.製 EXSTAR6000
測定試料 2mg〜5mg 昇温速度 10℃/min.
・溶融粘度
150℃におけるコーンプレート法における溶融粘度
測定機器:コーンプレート(ICI)高温粘度計
・軟化点
JIS K−7234に記載された方法で測定し、単位は℃である。
・全塩素量
試料のブチルカルビトール溶液に1N−KOHプロピレングリコール溶液を添加し、10分間還流することにより遊離する塩素量(モル)を硝酸銀滴定法により測定し、試料の重量で除した値。
・エポキシ当量
JIS K−7236に記載された方法で測定し、単位はg/eq.である。
・熱伝導率
ASTM E1530に準拠した方法で測定
【0046】
合成実施例1
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、シクロヘキサノン49部、p−ヒドロキシベンズアルデヒド124部およびエタノール250部を仕込み、溶解した。これに37%塩酸25部を添加後60℃まで昇温し、この温度で10時間反応後、反応液を水1000部に注入し、晶析させた。結晶を濾別後、水800部で2回水洗し、その後真空乾燥し、黄色結晶のフェノール化合物1を210部得た。得られた結晶の融点はDSC測定により289℃であった。
【0047】
合成実施例2
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに窒素パージを施しながら、合成例1で得られたフェノール化合物1を153部、エピクロルヒドリン925部、ジメチルスルホキシド139部、水9部を加え、撹拌下、45℃にまで昇温し、溶解し、フレーク状の水酸化ナトリウム42部を90分間かけて分割添加した後、45℃のまま2時間、その後70℃に昇温し30分間反応を行なった。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて160℃で減圧下、過剰のエピクロルヒドリン等の溶剤を留去した。留去後、メチルエチルケトンに再度溶解させ、水洗を行なうことでフラスコ内の塩や残留ジメチルスルホキシドを取り除いた。その後75℃の溶液に30%水酸化ナトリウム水溶液13部を添加し、75℃のまま80分間反応を行なった。反応終了後、水層が中性になるまで十分水洗を行なった後に、180℃で真空乾燥することで本発明のエポキシ樹脂1を195部得た。得られたエポキシ樹脂の軟化点は68℃、溶融粘度は0.07Pa・s、全塩素量は900ppm、エポキシ当量は225g/eq.であった。
【0048】
合成実施例3
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに窒素パージを施しながら、合成例1で得られたフェノール化合物1を153部、エピクロルヒドリン925部、メタノール139部を加え、撹拌下70℃にまで昇温し、フレーク状の水酸化ナトリウム43部を90分間かけて分割添加した後、70℃のまま90分間反応を行なった。反応終了後、水洗を行ない、生成した塩などを取り除いた後に、ロータリーエバポレーターを用いて160℃で減圧下、過剰のエピクロルヒドリン等の溶剤を留去した。留去後、メチルエチルケトンに75℃で再度溶解させ、30%水酸化ナトリウム水溶液13部を添加し、75℃のまま80分間反応を行なった。反応終了後、水層が中性になるまで十分水洗を行なった後に、180℃で真空乾燥することで本発明のエポキシ樹脂2を199部得た。得られたエポキシ樹脂の軟化点は68℃、溶融粘度は0.06Pa・s(150℃)、全塩素量は1500ppm、エポキシ当量は219g/eq.であった。
【0049】
合成比較例1
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコにp−ヒドロキシベンズアルデヒド122.1部、シクロヘキサノン49.1部およびエタノール400部を仕込み、溶解した。36%塩酸50.8部を添加後、80℃まで昇温し6時間反応した。反応により析出した結晶を濾別後、水1000gで4回水洗し、その後80℃にて5時間真空乾燥し、茶色結晶の比較用のフェノール樹脂2を132.0部得た。
【0050】
合成比較例2
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに合成比較例1で得られたフェノール樹脂2を120部仕込み、エピクロルヒドリン507.3部、ジメチルスルホキシド253.7部に溶解した。反応系内を43torrに保ちながら、温度48℃で、48.3%水酸化ナトリウム水溶液64.88部を5時間で連続的に滴下した。この間、温度は48℃に保ちながら、共沸するエピクロルヒドリンと水を冷却液化し、有機層を反応系内に戻しながら反応させた。反応終了後に、未反応エピクロルヒドリンを減圧濃縮により除去し、副生塩とジメチルスルホキシドを水洗により除去した。その後170℃、10torrにてメチルイソブチルケトンを減圧留去し比較用のエポキシ樹脂3を198部得た。このものの軟化点は72℃、溶融粘度は0.07Pa・s(150℃)、全塩素量は5100ppm、エポキシ当量は243g/eqであった。

【0051】
実施例1〜2および比較例1〜2
各種成分を表1の割合(部)で配合し、ミキシングロールによる混練とそれに続くタブレット化の後、トランスファー成形で樹脂成型体を調製した。次いで、該樹脂成型体を160℃で2時間、更に180℃で8時間加熱することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物及び比較用樹脂組成物の硬化物を得た。これら硬化物の熱伝導率を測定した結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
エポキシ樹脂4:下記式(6)及び(7)で表されるエポキシ樹脂を等モル含有するビフェニル型エポキシ樹脂(商品名:YL−6121H ジャパンエポキシレジン製 エポキシ当量175g/eq.)
【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
硬化剤1:1,5−ナフタレンジアミン(東京化成工業製、アミン当量40g/eq.)
【0057】
以上の結果より、本発明のエポキシ樹脂及び当該エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物は、特に優れた熱伝導性を有することが確認できた。したがって本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、電気・電子部品用絶縁材料及び積層板(プリント配線板など)等に使用する場合に極めて有用である。

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、従来のエポキシ樹脂の硬化物と比較して優れた熱伝導性、信頼性を有する。さらに、本発明のエポキシ樹脂が低い塩素量を有する。従って、封止材、プリプレグ等として電気・電子材料、成型材料、注型材料、積層材料、塗料、接着剤、レジスト、光学材料などの広範囲の用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)

【化1】


(式(1)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
で表される化合物とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂とエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂であって、全ハロゲン量が、1600ppm以下である下記式(2)で表されるエポキシ樹脂。
【化2】

(式(2)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
【請求項2】
請求項1に記載のエポキシ樹脂において、前記式(2)のエポキシ樹脂が、下記式(3)であるエポキシ樹脂。
【化3】

(式(3)中、Rはそれぞれ独立して存在し、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、水酸基、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐あるいは環状のアルコキシ基のいずれかを表し、Gはグリシジル基を表す。nは炭素数を表し、0、1、2のいずれかの整数を表す。mはRの数を表し、1≦m≦n+2の関係を満たす。)
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物及びシート状の繊維基材からなるプリプレグ。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項7】
下記工程(イ)〜(ロ)を経ることにより得られる前記式(2)で表されるエポキシ樹脂、
工程(イ):式(1)で表される化合物とヒドロキシベンズアルデヒド類との反応によって得られるフェノール樹脂にアルコール類またはケトン類の溶媒の存在下、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る工程。
工程(ロ):工程(イ)で得られたエポキシ樹脂を溶剤で溶解し、アルカリ金属水酸化物を加えて反応を行う工程。
【請求項8】
工程(イ)においてアルコール類の溶媒を使用する請求項7に記載のエポキシ樹脂。
【請求項9】
工程(ロ)においてアルカリ金属水酸化物として固形のアルカリ金属水酸化物を使用する請求項7または請求項8のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂。



【公開番号】特開2012−121961(P2012−121961A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272559(P2010−272559)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】