説明

エラストマー製品の製造装置及びエラストマー製品の製造方法

【課題】加硫原料の廃棄物量が低減されるリング形の加硫エラストマー製品の製造のための装置および方法を提供する。
【解決手段】リング形の加硫エラストマー製品2の製造方法において、製造するエラストマー製品2の原料が少なくとも1つのノズルユニット5を介して成形金型3の少なくとも1つのキャビティ4に供給される方法であって、ノズルユニット5がキャビティ4内への原料の供給の終了後に熱的に成形金型3から分離されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造するエラストマー製品のための少なくとも1つのキャビティと、1つのノズルユニットとを備える成形金型を含むエラストマー製品の製造装置およびエラストマー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多種多様の成形体によるエラストマー製品が存在する。リング形のエラストマー製品として、種々な形状が付与された、エラストマー材料から構成されるシールリップを有するシールリングが知られている。かかるエラストマー製品においては、たとえば射出成形を利用してエラストマー製品の原料が供給される成形金型のキャビティ内で形状が付与される点で共通している。さらに、エラストマー製品の加硫、つまり熱処理がキャビティ内で行われる。
【0003】
一旦熱処理によって加硫されたエラストマー材料は、もはやそれに続き原形に成形することはできない。従って、エラストマー材料がノズルユニット内で加硫されることを阻止するために、射出成形機のノズルユニットを冷却する必要がある。そのため、従来、原料が流入するキャビティを冷却するための冷却流路について、種々の態様が知られている。
【0004】
リング形の加硫エラストマー製品は、射出成形において、瞬時に、中央の温度調節ノズルからキャビティに原料を供給され製造される。その際に、リング形のエラストマー製品の中心に、好適な分離方法によってエラストマー製品から除去されなければならないスプルを有する円板が生じる。その際に、エラストマー製品の量を超え得る廃棄物量が発生する。この円板形のスプルは加硫されており、再利用または再処理することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加硫原料の廃棄物量が低減されるリング形の加硫エラストマー製品の製造のための装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のエラストマー製品の製造装置は、
加硫エラストマー製品を成形するキャビティを有する成形金型と、
前記キャビティに原料を送り込むノズルユニットと、を備えるエラストマー製品の製造装置において、
前記ノズルユニットを前記成形金型に対して接する位置と離れた位置に移動させる機構を設け、
前記ノズルユニットを前記成形金型に当接させた状態で前記キャビティに原料を送り込んだ後であって該原料を加熱して加硫させる前に、前記ノズルユニットを前記成形金型から離れた位置に移動させることを特徴とする。
【0008】
前記ノズルユニットは、原料を送り込む前は前記成形金型から離れており、原料を送り込む際に前記成形金型に当接する位置まで移動するように構成されているとよい。
【0009】
前記ノズルユニットにおける前記成形金型側には、熱を逃す排熱板が設けられているとよい。
【0010】
前記排熱板から前記ノズルユニットに至る位置まで伸びるヒートパイプが設けられているとよい。
【0011】
また、本発明のエラストマー製品の製造方法は、
リング形の加硫エラストマー製品(2)の製造方法において、
製造するエラストマー製品(2)の原料が少なくとも1つのノズルユニット(5)を介して成形金型(3)の少なくとも1つのキャビティ(4)に供給される方法であって、
ノズルユニット(5)がキャビティ(4)内への原料の供給の終了後に熱的に成形金型(3)から分離されることを特徴とする。
【0012】
ノズルユニット(5)が、原料の供給の開始前に成形金型(3)から離間されており、原料の供給のために成形金型(3)に当接し、かつ原料の供給の終了後に再び成形金型(3)から離間されるとよい。
【0013】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、加硫原料の廃棄物量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例に係るエラストマー製品の製造装置の模式的断面図である。
【図2】本実施例に係るシールリングの製造装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
(実施例)
本発明の実施例に係るエラストマー製品の製造装置におけるノズルユニットは、1つのリングユニットを有する。かかるリングユニットは、ノズルユニットに対して上方または下方へ供給される原料の軸線と同心的な中央領域を含む。この中央領域から出発して半径方向外側へ延伸する複数の流路が設けられている。好適に原料が流動するように構成された移行部を通じて、材料が上記流路によりリングユニットを経て成形金型に供給される。その際に、上記ノズルユニットは、中央領域内、流路内およびリングユニット内において、原料が常に成形可能な状態にとどまり、かつ加硫されないように構成されている。この加硫工程は、専ら好適な熱処理によって成形金型内で行われる。その際に、本発明の実施例に係る装置で製造されるエラストマー製品は、それに続き後続の処理で除去されるリング形のスプルを有する。従来技術に係る公知の円板形のスプルと比較した上記リング形のスプルの長所は、特に材料の節約にある。本発明の実施例に係る装置によって、各エラストマー製品は原料の50%超を節約することができる。
【0018】
ノズルユニットは、成形金型に対して移動可能に配設することができる。その際に、かかるノズルユニットは、一時的にのみ、すなわち注入過程中に成形金型に当接し、それに次いでキャビティのリングユニットを介して材料を供給することが有利である。ノズルユニットは、その際にノズルユニット内に存在する原料が常に成形金型の温度調節とは無関係に成形可能な状態にとどまるように温度調節される。ノズルユニットおよびリングユニ
ットは、好ましくは軸線方向に成形金型に対して移動可能に構成される。注入工程の終了後、ノズルユニットおよびリングユニットは、軸線方向に上方へ成形金型から離れるように移動する。このようにして、ノズルユニットおよびリングユニットが成形金型から離間し、かつ原料は成形金型のキャビティ内で熱処理され、その結果、当該原料が加硫され、かつエラストマー製品およびエラストマー製品の一部が形成される。
【0019】
ノズルユニットは、冷却装置を具備することができる。かかる冷却装置は、好ましくは高い熱伝導率を有する部材により構成される。これにより、冷却装置はノズルユニットから排出される熱を迅速に排出する。さらに、ノズルユニットは成形金型の熱にさらされていることから、冷却装置は、好ましくは成形金型に向けられる。これにより、熱を冷却装置によって排出させることができる。
【0020】
冷却装置は、排熱板を有することができる。この排熱板は、ノズルユニットの下側を平面的に覆うことで、排熱効果を高めることができる。
【0021】
冷却装置は、伝熱装置を設けることができる。かかる伝熱装置は、冷却装置によって吸収される熱をリングユニットから運び去る。ここで、伝熱装置はノズルユニットの内部へ延伸させることができる。
【0022】
伝熱装置の具体例として、ヒートパイプを挙げることができる。ヒートパイプは、熱管とも呼ばれ、ある物質の蒸発熱を利用した高い熱流密度を可能にする伝熱体であり、小さい断面積で多量の熱を運ぶことができる。それにより、冷却装置によって吸収された熱は非常に効率的にノズルユニットの他の領域へ伝達させることができる。
【0023】
ノズルユニットは、独立のリング形のカバーを有すると良く、ノズルユニットはリングユニットの内壁の一部分を形成し、かつ上記カバーはリングユニットの内壁の他の部分を形成する。その際に、ノズルユニットおよびカバーは互いに軸線方向に移動可能に形成することができる。エラストマー製品を成形金型から離型できるようにするため、成形金型は多分割の型、少なくとも二分割の型で構成されており、かつスプルの領域に間隙がある。この間隙を通して原料がノズルユニットから成形金型のキャビティに供給される。成形金型が複数に分割された構成であることから、上記間隙の間隙幅は一定範囲内で変化させることができる。しかしながら、これは、密封性の低下、及び不具合のある物質の流れが生じる原因となり得る。ノズルユニットおよびカバー相互の可動性によって、間隙の隙間の公差を補償することができ、リングユニットを常に密に成形金型に当接させることができる。
【0024】
上記課題の解決のために、本発明の実施例に係る方法においては、製造するエラストマー製品の原料がノズルユニットを介して成形金型のキャビティに供給され、ノズルユニットはキャビティ内への原料の供給の終了後に熱的に成形金型から分離される。これにより、ノズルユニット内に含まれる原料は、成形金型内における後続の熱処理に影響されず、かつ後続の作業ステップに対して成形可能な状態が維持される。その際に、ノズルユニットを、原料の供給開始前に成形金型から離間させることができ、原料の供給の際には成形金型へ当接させ、かつ原料の供給の終了後に再び成形金型から離間させることができる。このように、ノズルユニットは、原料の供給中にのみ成形金型に接触し、それ以外は成形金型の熱的影響から隔絶されている。
【0025】
以下、図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係るエラストマー製品の製造装置及びエラストマー製品の製造方法について、より具体的に説明する。
【0026】
図1を参照して、本発明の実施例に係るエラストマー製品の製造装置1について説明す
る。この装置は、概略、製造するエラストマー製品2のための少なくとも1つのキャビティ4を有する成形金型3と、成形金型3の上方に配設されたノズルユニット5とを備える。
【0027】
ノズルユニット5は、成形金型3のキャビティ4内への原料の輸送のために1つのリングユニット6を有する。リングユニット6は、ノズルユニット5に対して上方または下方へ供給される原料の軸線と同心的な中央領域11を有する。この中央領域11から出発して、複数の流路12が半径方向外側へ延伸し、これらの流路12は成形金型3まで至っている。
【0028】
これらの流路12を介して、原料が中央領域11から出発して成形金型3に供給され、かつ流路12を通してキャビティ4の中へ原料が流入する。ノズルユニット5は成形金型3に対して移動可能に配設されており、ノズルユニット5は、液圧によって軸線方向に成形金型3に向かって移動可能に構成されている。このように、ノズルユニット5を成形金型3に対して接する位置と離れた位置に移動させる機構が設けられている。
【0029】
また、ノズルユニット5は冷却装置7を具備している。ノズルユニット5は独立のリング形のカバー10を有し、ノズルユニット5がリングユニット6の内壁の一部分を形成し、かつカバー10がリングユニット6の内壁の他の部分を形成する。その際に、ノズルユニット5およびカバー10は互いに軸線方向に移動可能に形成されている。
【0030】
成形金型3は、エラストマー製品2をキャビティ4から離型できるようにするため、二分割の型で構成されている。成形金型3の両方の型によって、原料がキャビティ4に供給される間隙13を形成する。ノズルユニット5およびカバー10の軸線方向の可動性によって、間隙13の隙間の公差を補償することができる。
【0031】
本発明に係る実施例に係るリング形の加硫エラストマー製品2の製造方法において、製造するエラストマー製品2の原料は、ノズルユニット5を介して成形金型3のキャビティ4に供給され、かつノズルユニット5はキャビティ4内への原料の供給の終了後に熱的に成形金型3から分離される。そのため、ノズルユニット5は、原料の供給の開始前に成形金型3から離間されており、原料の供給時には成形金型3に当接しており、かつ原料の供給の終了後に再び成形金型3から離間される。
【0032】
本発明の実施例に係る装置1および方法は、特にシールリングの製造に適している。それぞれのシールの適用に応じて、高価格の材料を選択する必要が生じ得る。この種の高価格かつ頻繁に使用される材料は、FKM(フッ素ゴム)である。本発明の実施例に係る装置および方法によって、その際に材料およびコストが大幅に節約される。さらに、処分されるスプルの廃棄物量が低減される。
【0033】
上述した加硫エラストマー製品2がシールリングの場合における製造装置について、その模式的断面図を図2に示している。
【0034】
ノズルユニット5は冷却装置7を具備している。この冷却装置7は、ノズルユニット5の下側に配設され、かつ成形金型3に向けられた排熱板8を有する。この排熱板8は成形金型3とノズルユニット5の間に配設されている。冷却装置7に貯蔵された熱の排出のために、この実施例においては、冷却装置7はヒートパイプである複数の伝熱装置9を有する。伝熱装置9はノズルユニット5の内部へ延伸し、かつ冷却装置7に貯蔵された熱を、リングユニット6が影響を受けないノズルユニット5の領域で排出するように構成されている。
【符号の説明】
【0035】
1 製造装置
2 エラストマー製品
3 成形金型
4 キャビティ
5 ノズルユニット
6 リングユニット
7 冷却装置
8 排熱板
9 伝熱装置
10 カバー
11 中央領域
12 流路
13 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫エラストマー製品を成形するキャビティを有する成形金型と、
前記キャビティに原料を送り込むノズルユニットと、を備えるエラストマー製品の製造装置において、
前記ノズルユニットを前記成形金型に対して接する位置と離れた位置に移動させる機構を設け、
前記ノズルユニットを前記成形金型に当接させた状態で前記キャビティに原料を送り込んだ後であって該原料を加熱して加硫させる前に、前記ノズルユニットを前記成形金型から離れた位置に移動させることを特徴とするエラストマー製品の製造装置。
【請求項2】
前記ノズルユニットは、原料を送り込む前は前記成形金型から離れており、原料を送り込む際に前記成形金型に当接する位置まで移動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエラストマー製品の製造装置。
【請求項3】
前記ノズルユニットにおける前記成形金型側には、熱を逃す排熱板が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のエラストマー製品の製造装置。
【請求項4】
前記排熱板から前記ノズルユニットに至る位置まで伸びるヒートパイプが設けられていることを特徴とする請求項3に記載のエラストマー製品の製造装置。
【請求項5】
リング形の加硫エラストマー製品の製造方法において、
製造するエラストマー製品の原料が少なくとも1つのノズルユニットを介して成形金型の少なくとも1つのキャビティに供給される方法であって、
ノズルユニットがキャビティ内への原料の供給の終了後に熱的に成形金型から分離されることを特徴とするエラストマー製品の製造方法。
【請求項6】
ノズルユニットが、原料の供給の開始前に成形金型から離間されており、原料の供給のために成形金型に当接し、かつ原料の供給の終了後に再び成形金型から離間されることを特徴とする請求項5に記載のエラストマー製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98564(P2011−98564A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194388(P2010−194388)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】