説明

エレクトロクロミックシート、調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供する。
【解決手段】芳香環を有するエレクトロクロミック化合物とバインダー樹脂とを含有するエレクトロクロミックシートであって、前記バインダー樹脂は、芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基とを有し、かつ、前記芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基の組成比(モル比)が3:1〜1000:1であるエレクトロクロミックシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体としては、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と電解質層とからなる調光シートが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
【0004】
自動車用、建築用途にかかわらず合わせガラスには、高い安全性が求められる。合わせガラスを建築用途に用いる場合には、高い耐衝撃性が求められる。合わせガラスが高い耐衝撃性を発揮するためには、ガラス板と合わせガラス用中間膜とが適度に密着することが求められる。しかしながら、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合、ガラス板に対する密着性が低く、高い耐衝撃性を発揮できないばかりか、使用中にガラス板と合わせガラス用中間膜とが剥離してしまう危険性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物とバインダー樹脂とを含有するエレクトロクロミックシートであって、前記バインダー樹脂は、芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基とを有し、かつ、前記芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基の組成比(モル比)が3:1〜1000:1であるエレクトロクロミックシートである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合に、ガラス板との密着性が低い原因について検討した。その結果、調光シートを構成するエレクトロクロミック層と、ガラス板等の表面の導電膜との密着性が低いことが原因であることを見出した。とりわけ、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を用いた場合には、導電膜との密着性が低下する。本発明者は、更に鋭意検討の結果、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物に対して相溶性を有し、かつ、導電膜上の官能基と反応性を有するバインダー樹脂を併用することにより、導電膜との密着性が改善し、高い安全性を有する合わせガラスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明のエレクトロクロミックシート(以下、「エレクトロクロミック層」ともいう。)は、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物とバインダー樹脂とを含有する。芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、エレクトロクロミック性に優れる。
なお、エレクトロクロミック性とは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を意味する。
【0010】
上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、例えば、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物、ポリピロール化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物、金属フタロシアニン化合物、ビオロゲン化合物、ビオロゲン塩化合物、フェロセン化合物、テレフタル酸ジメチル化合物、テレフタル酸ジエチル化合物等が挙げられる。なかでも、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0011】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、エレクトロクロミック層の形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するエレクトロクロミック層を容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、エレクトロクロミック層は広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0012】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0013】
上記バインダー樹脂は、芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基(以下、単に「反応性官能基」ともいう。)とを有する。芳香族官能基を有することにより、上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物との相溶性を有し、反応性官能基を有することにより、ガラス板等の表面の導電膜との密着性を改善することができる。
【0014】
上記バインダー樹脂は、例えば、芳香族官能基を有する単量体(以下、「芳香族単量体」ともいう。)と、反応性官能基を有する単量体(以下、「反応性単量体」ともいう。)との共重合体等が挙げられる。
【0015】
上記芳香族官能基としては特に限定されず、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられ、上記芳香族官能基の少なくとも一部が置換されていてもよい。
上記芳香族単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−フェニルエチル、(メタ)アクリル酸4−メチルベンジル、スチレン、ジビニルベンゼン等のベンゼン環を有する単量体及びその誘導体や、(メタ)アクリル酸ナフタレン2−イルメチル、(メタ)アクリル酸2−[(2−ナフチル)アセトキシ]エチル、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1−イソプロペニルナフタレン、1,3−ジビニルナフタレン、1,5−ジビニルナフタレン、1,6−ジビニルナフタレン、1,7−ジビニルナフタレン、2,3−ジビニルナフタレン、2,6−ジビニルナフタレン、2,7−ジビニルナフタレン、1−(ビニルオキシ)ナフタレン、2−(ビニルオキシ)ナフタレン等のナフタレン環を有する単量体及びその誘導体や、1−ビニルアントラセン、2−ビニルアントラセン、9−ビニルアントラセン、(メタ)アクリル酸9−アントリル、(メタ)アクリル酸9−アントリルメチル、(メタ)アクリル酸2−[メチル(アントラセン−9−イルメチル)]エチル、(メタ)アクリル酸6−(9−アントリルオキシ)ヘキシル等のアントラセン環を有する単量体及びその誘導体や、2−ビニルフェナントレン、3−ビニルフェナントレン、9−ビニルフェナントレン、3,6−ジビニルフェナントレン、1−ビニル−3,4−ジヒドロフェナントレン等のフェナントレン環を有する単量体及びその誘導体等が挙げられる。上記芳香族単量体は、単独で用いられてもよく、併用されてもよい。
【0016】
上記導電膜上の官能基としては、例えば、酸素原子や窒素原子を含む官能基等が挙げられる。これらの導電膜上の官能基と反応性を有する官能基(反応性官能基)を有するバインダー樹脂を用いることにより、共有結合が形成されるため、本発明のエレクトロクロミックシートは、ガラス板等の表面の導電膜に対する優れた密着性を発揮することができる。
上記反応性官能基としては特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基、テトラヒドロフリル基、シアノ基、チオニル基、メルカプト基、アミノ基、メチルエステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、シリル基、エーテル基、カルボキシル基等が挙げられる。
上記反応性単量体としては特に限定されず、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエステル等のエポキシ基を有する不飽和性単量体や、オキセタンアルコール等のオキセタン基を有する単量体や、テトラヒドロフルフリルアクリレート等のテチラヒドロフルフリル基を有する単量体や、シアノアクリレート等のシアノ基を有する単量体や、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート等のアミノ基を有する単量体や、上記反応性官能基を一分子中に複数個含むような単量体等が挙げられる。上記反応性単量体は、単独で用いられてもよく、併用されてもよい。
【0017】
上記バインダー樹脂が上記共重合体である場合には、更に、上記芳香族単量体、反応性単量体以外のその他の単量体(以下、「その他の単量体」ともいう。)に由来するセグメントを有する共重合体であってもよい。
上記その他の単量体としては特に限定されず、例えば、ビニルエステル類、不飽和ニトリル類、(メタ)アクリル酸エステル誘導体等が挙げられる。
上記ビニルエステル類としては特に限定されず、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
上記不飽和ニトリル類としては特に限定されず、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル誘導体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸3−メチルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記その他の単量体は、単独で用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0018】
なお、上記バインダー樹脂が上記その他の単量体に由来するセグメントを有する共重合体である場合、該共重合体における上記芳香族単量体に由来するセグメントの含有量の好ましい下限は15モル%である。上記芳香族単量体に由来するセグメントの含有量が15モル%未満であると、エレクトロクロミックシートのエレクトロクロミック性が損なわれることがある。上記芳香族単量体に由来するセグメントの含有量のより好ましい下限は40モル%である。
【0019】
上記バインダー樹脂は、芳香族官能基と反応性官能基との組成比(モル比)が3:1〜1000:1である。この範囲より芳香族官能基が少ないと、上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物と相溶できず、エレクトロクロミックシートのエレクトロクロミック性が損なわれる。また、この範囲より反応性官能基が多いと、トルエン等の有機溶媒に対する溶解性が低下して、バーコーター等を用いた塗工法によりエレクトロクロミックシートを製造するのが困難になることがある。この範囲より芳香族官能基が多いと、ガラス板等の表面の導電膜との密着性を改善できない。芳香族官能基と反応性官能基との組成比(モル比)の好ましい範囲は20:1〜500:1である。
なお、上記バインダー樹脂における芳香族官能基と反応性官能基との組成比(モル比)は、H−NMRによる上記芳香族官能基及び反応性官能基のシグナル強度を比較する方法により測定することができる。
【0020】
本発明のエレクトロクロミックシートにおいて、上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物100重量部に対する上記バインダー樹脂の含有量の好ましい下限は3重量部、好ましい上限は200重量部である。上記バインダー樹脂の含有量が3重量部未満であると、充分にガラス板等の表面の導電膜との密着性を改善できないことがあり、200重量部を超えると、エレクトロクロミックシートのエレクトロクロミック性が低下することがある。上記バインダー樹脂の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0021】
本発明のエレクトロクロミックシートは、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、亜鉛以外の元素がドープされた酸化亜鉛粒子、六ホウ化ランタン粒子、アンチモン酸亜鉛粒子、及び、フタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0022】
上記接着力調整剤は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。なかでも、炭素数2〜16のカルボン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好適であり、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。これらの接着力調整剤は単独で用いられてもよく、併用されてもよい。
【0023】
本発明のエレクトロクロミックシートの厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。本発明のエレクトロクロミックシートの厚さが0.05μm未満であると、エレクトロクロミックシートに電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、2μmを超えると、調光シートの透明性が低下することがある。本発明のエレクトロクロミックシートの厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0024】
本発明のエレクトロクロミックシートの製造方法は特に限定されず、例えば、上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物と上記バインダー樹脂、必要に応じて添加する熱線吸収剤、接着力調整剤を適当な溶媒に溶解したうえで塗工法により製膜したり、これらを混練機で混合したうえで押出法により成形したりする方法が挙げられる。
【0025】
本発明のエレクトロクロミックシートと、該エレクトロクロミックシートの一方の面に積層された電解質層とを有する調光シートもまた、本発明の1つである。
【0026】
上記電解質層は、イオンを伝導することにより上記エレクトロクロミックシートに電圧を印加し、エレクトロクロミックシートの光の透過率を変化させる役割を有する。
【0027】
上記電解質層は、バインダー樹脂、支持電解質塩及び溶媒を含有することが好ましい。
上記バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0028】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、透明性が高い電解質層が得られることから、炭素数が4又は5のアルデヒドによりポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が好適である。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500未満であると、上記電解質層の形状を維持できないことがあり、5000を超えると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)を用いてポリスチレン換算により求めたポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量を、ポリビニルアルコール樹脂1セグメントあたりの分子量で除算することで求めることができる。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、電解質層の白化の原因となることがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が30mol%を超えると、上記溶媒との相溶性が低下し、エレクトロクロミックシートの透明性が低下することがある。
なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量は、JIS K 6728に準じて、滴定法により求めることができる。
【0030】
上記支持電解質塩は特に限定されず、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩が挙げられる。
【0031】
上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。
上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0032】
上記電解質層中における上記支持電解質塩の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は60重量部である。上記支持電解質塩の配合量が3重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミックシートの光の透過率が変化しないことがあり、60重量部を超えると、エレクトロクロミックシートの応答性が低くなることがある。上記支持電解質塩の配合量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0033】
上記溶媒は特に限定されず、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン類や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル類や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
【0034】
上記溶媒は、可塑剤であってもよい。可塑剤を上記溶媒として用いることにより、上記電解質層に柔軟性を付与することができる。
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)等が挙げられる。
【0035】
上記電解質層中における上記溶媒の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は30重量部、好ましい上限は150重量部である。上記溶媒の配合量が30重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミックシートの光の透過率が変化しないことがあり、150重量部を超えると、電解質層が形状を維持できないことがある。上記溶媒の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0036】
上記電解質層は熱線吸収剤、接着力調整剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤、接着力調整剤は特に限定されず、上記エレクトロクロミックシートに用いる添加剤と同様の添加剤を用いることができる。
【0037】
上記電解質層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記電解質層が多層構造であるとは、上記電解質層が2層以上積層された構造であることを意味する。
上記電解質層が多層構造である場合、例えば、上記溶媒として可塑剤の含有量の異なる電解質層を積層したり、上記バインダー樹脂として水酸基量の異なるポリビニルアセタール樹脂を含有する電解質層を積層したりすることにより、得られる調光体及び合わせガラスの遮音性等を向上させることができる。
【0038】
上記電解質層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は3.0mmである。上記電解質層の厚さが0.1mm未満であると、上記エレクトロクロミックシートに電圧を印加しても光の透過率が変化しないことがあり、3.0mmを超えると、上記エレクトロクロミックシートに電圧を印加した場合、光の透過率の変化速度が低下することがある。上記電解質層の厚さのより好ましい下限は0.3mm、より好ましい上限は1.0mmである。
【0039】
上記電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記溶媒に上記支持電解質塩を溶解した溶液を調製し、得られた溶液と上記バインダー樹脂とを混合した混合物を用いて、熱プレス等の方法により電解質層を形成する方法や、該混合物を押出機により押出成形し電解質層を形成する方法等が挙げられる。
【0040】
本発明の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている調光体もまた、本発明の1つである。
【0041】
本発明の調光シートは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。上記調光シートを用いる合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラス用中間膜は、本発明の調光シートの構成以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0042】
本発明の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板とで、本発明の調光シート又は合わせガラス用中間膜を挟持した調光体又は合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0043】
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を含む透明導電膜が好ましい。
【0044】
本発明の調光体又は合わせガラスの面密度は特に限定されないが、12kg/m以下であることが好ましい。
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(1)電解質層の調製
トリエチレングリコールジヘキサノエート6.5重量部に、支持電解質塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)3重量部を溶解して、電解質溶液を調製した。得られた電解質溶液の全量と、熱可塑性樹脂として、アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度が2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでブチラール化することにより得られたポリビニルブチラール樹脂)10重量部とを混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに挟み、厚さ400μmのスペーサを介して、熱プレスにて150℃、100kg/cmの条件で5分間加圧し、厚さ400μmの電解質層を得た。
【0048】
(2)ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の調製
窒素雰囲気下−50℃で9−エチニルフェナントレン3重量部を溶解させたテトラヒドロフラン溶液26.7重量部に30重量%のノルマルブチルリチウムのヘキサン溶液13.4重量部を添加した。次いで、−90℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシド1.8重量部を溶解させたテトラヒドロフラン溶液13.3重量部を添加し、−80℃で1時間撹拌し、5℃まで昇温した。次いで、−70℃で1−ヨードオクタデカン5.6重量部を滴下し、−30℃で12時間撹拌した。0℃で水100重量部を滴下し、ヘキサン300重量部を加え、生成した化合物を抽出した。このヘキサン層を蒸留水300重量部で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで1時間乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラム精製後溶媒を留去し、ヘキサンを展開溶媒としてカラム精製することにより9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンを得た。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンについてH−NMR(270MHz、CDCl)により分析を行ったところ、δ8.7(2H)、8.5(1H)、8.1(1H)、7.7(4H)、3.7(1H)、3.5(2H)、1.7(2H)、1.6(30H)、1.0(3H24)のピークが認められた。
【0049】
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン3.5重量部を、WCl触媒0.17重量部を用いて重合させ、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)を得た。得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により測定した。Waters社製の液体クロマトグラフ装置(Waters2695、RI Waters2410、UV Waters2996)を用い、カラムはShodex社製LF−804を使用した。0.2重量%となるようにクロロホルムに溶解したポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)を100μL注入し、カラム温度40℃で移動相をクロロホルムとして測定を行った。ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量147000、重量平均分子量315000であった。
【0050】
(3)バインダー樹脂の調製
トルエン100重量部とスチレン150重量部、及び、サンセラーTETG(三新化学工業社製)1重量部を混合し、窒素雰囲気下、110℃にて5時間反応させた。次いでトルエン10重量部とグリシジルメタアクリレート(GLMA)20重量部を混合させた溶液を滴下混合し、さらに4時間反応させた。反応停止後の反応溶液をメタノール中へ滴下しポリマーを析出させた後、得られたポリマーをトルエン/メタノールにて再沈澱法にて洗浄・精製を行い、バインダー樹脂を得た。
得られたバインダー樹脂0.01重量部を重クロロホルム0.4重量部に混合させ、H−NMR測定装置ECX400(日本電子社製)を用いてNMRスペクトルを得た。得られたスペクトルよりスチレン由来のピークとGLMA由来のピークを比較し、芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を測定したところ、20:1であった。
【0051】
(4)調光シートの製造
ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)3重量部と、バインダー樹脂0.3重量部とを、トルエン10重量部に溶解して溶液を調製した。この溶液を、電解質層上に、トルエンが揮発した後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、乾燥してエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0052】
(実施例2)
調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0053】
(実施例3)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を500:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0054】
(実施例4)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を500:1となるようにバインダー樹脂を調製し、調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0055】
(実施例5)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を1000:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0056】
(実施例6)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を1000:1となるようにバインダー樹脂を調製し、調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0057】
(実施例7)
バインダー樹脂の調整において、グリシジルメタアクリレート(GLMA)20重量部の代わりに4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエステル(4−HBAGE)30重量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
得られたバインダー樹脂0.01重量部を重クロロホルム0.4重量部に混合させ、H−NMR測定装置ECX400(日本電子社製)を用いてNMRスペクトルを得た。得られたスペクトルよりスチレン由来のピークと4−HBAGE由来のピークを比較し、芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を測定したところ、20:1であった。
【0058】
(実施例8)
調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例7と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0059】
(実施例9)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を500:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例7と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0060】
(実施例10)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を500:1となるようにバインダー樹脂を調製し、調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例7と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0061】
(実施例11)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を1000:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例7と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0062】
(実施例12)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を1000:1となるようにバインダー樹脂を調製し、調光シートの製造において、バインダー樹脂の配合量を3重量部とした以外は実施例7と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0063】
(比較例1)
バインダー樹脂を用いなかった以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0064】
(比較例2)
トルエン100重量部とスチレン100重量部、及び、サンセラーTETG(三新化学工業社製)1重量部を混合し、窒素雰囲気下、110℃にて5時間反応させた。反応停止後の反応溶液をメタノール中へ滴下しポリマーを析出させた後、得られたポリマーをトルエン/メタノールにて再沈澱法にて洗浄・精製を行い、バインダー樹脂を得た。
得られたバインダー樹脂の芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)との組成比を測定したところ、100:0であった。得られたバインダー樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0065】
(比較例3)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を5000:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例2と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0066】
(比較例4)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を2:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例2と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0067】
(比較例5)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を5000:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例8と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0068】
(比較例6)
芳香族官能基(フェニル基)と反応性官能基(エポキシ基)との組成比(モル比)を2:1となるようにバインダー樹脂を調製した以外は実施例8と同様にしてエレクトロクロミックシートを有する調光シートを得た。
【0069】
(評価)
実施例及び比較例で得たバインダー樹脂及び調光シートについて、下記の方法により評価を行った。
結果を表1及び表2に示した。
【0070】
(1)透明導電膜に対する密着性の評価
調光シート(縦25mm×横150mm)を、エレクトロクロミックシート側がITO透明導電膜が形成されたガラス(縦25mm×横150mm、表面抵抗100Ω/□)側に、電解質層側がポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム側になるようにしてガラスとPETフィルムA(縦25mm×横150mm×厚み0.1mm)との間に挟み込むことにより、積層体を得た。積層体を作製する際に、調光シートとITO透明導電膜が形成されたガラスとの間に、積層体の横方向の一方の端部とPETフィルムB(縦25mm×横20mm×厚み0.1mm)の横方向の一方の端部とが一致するように、PETフィルムBを挟み込んだ。すなわち、積層体の横方向の一方の端部から20mmの領域Aにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、PETフィルムBと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。積層体の他の領域Bにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。
積層体を90℃の真空ラミネーターで圧着し、140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、ピール試験用のサンプル(縦25mm×横150mm)とした。領域AにおけるPETフィルムBを除去した後、引張試験機でピール試験を行い、透明導電膜と調光シートのエレクトロクロミック層側との密着性を評価した。試験条件は、剥離角度を180度、温度を25℃、剥離速度を200mm/分とした。
【0071】
(2)エレクトロクロミック性の評価
調光シートを縦45mm×横45mmのサイズに切断し、これを合わせガラス用中間膜とした。合わせガラス用中間膜を、縦50mm×横50mmの一対のITOガラス(表面抵抗120Ω)で、合わせガラス用中間膜がそれぞれの導電膜と接するように挟み込んで積層した。得られた積層体を、90℃の真空ラミネーターで圧着し、圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0072】
得られた合わせガラスの電極に+2Vの直流電圧を印加した後、−2Vの直流電圧を印加し、透過率の変化を目視にて観察した。透過率の変化が認められた場合を「○」、変化が認められなかった場合を「×]と評価した。
【0073】
(3)バインダー樹脂の有機溶剤への溶解性の評価
調製したバインダー樹脂1.0重量部とトルエン10重量部を混合し、6時間攪拌した後にバインダー樹脂のトルエンへの溶解性を目視にて観察した。攪拌後の溶液中に固形物が見られなかった場合を「〇」、溶液中に固形物が見られた場合を「×」と評価した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有するエレクトロクロミック化合物とバインダー樹脂とを含有するエレクトロクロミックシートであって、
前記バインダー樹脂は、芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基とを有し、かつ、前記芳香族官能基と導電膜上の官能基と反応性を有する官能基の組成比(モル比)が3:1〜1000:1である
ことを特徴とするエレクトロクロミックシート。
【請求項2】
芳香環を有するエレクトロクロミック化合物100重量部に対するバインダー樹脂の含有量が3〜100重量部であることを特徴とする請求項1記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項3】
芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、芳香族側鎖を有するポリアセチレンであることを特徴とする請求項1又は2記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のエレクトロクロミックシートと、前記エレクトロクロミックシートの一方の面に積層された電解質層とを有する調光シートであって、
前記電解質層は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して支持電解質塩3〜60重量部、溶媒30〜150重量部を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、炭素数が4又は5のアルデヒドによりポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られた、アセチル基量が15mol%以下、水酸基量が30mol%以下であるポリビニルアセタール樹脂である
ことを特徴とする調光シート。
【請求項5】
請求項4記載の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする調光体。
【請求項6】
請求項4記載の調光シートを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
請求項6記載の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。

【公開番号】特開2012−215683(P2012−215683A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80407(P2011−80407)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】