説明

エレベータの安全装置

【課題】エレベータの運行効率を低下させることなく、ドアに異物を挟んだままかごが走行を続けることを防止するエレベータの安全装置を提供する。
【解決手段】かご1と乗場との間の空間にかご側出入口2の幅方向に沿ってロープ10を張設するとともに、そのロープ10の張力を検出するロードセル18を設ける。両かご側ドア3,4間に異物Fを挟み込んだ状態でかご1が走行すると、その異物Fとロープ10とが相対変位することで当該異物Fがロープ10に引っ掛かり、当該ロープ10の張力が増加するから、ロードセル18の出力電圧が所定値を超えた場合にかご1を停止し、両かご側ドア3,4間に異物Fを挟んだままかご1が走行を続けることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータの安全装置に関し、特に紐状の異物をドアに挟み込んだままかごが走行を続けることを防止するエレベータの安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエレベータの安全装置として例えば特許文献1に記載のものが提案されている。この特許文献1に記載の技術では、かごへの出入口を全閉した後、かごの走行前に、かごと乗場との間の空間で検出棒を一回転させるようにしている。つまり、例えば紐状の異物がかご側ドアと乗場側ドアの両者に渡って挟み込まれていると、上記検出棒の回転が異物によって妨げられるから、上記検出棒が一回転するのに要する時間が上記異物が存在しない場合と比較して長くなる。したがって、上記検出棒が一回転するのに所定時間以上かかった場合に、かご側ドアおよび乗場側ドアに紐状の異物が挟み込まれているものと判断し、かごを走行させずにかご側ドアおよび乗場側ドアを開動作させるようにしている。
【特許文献1】特開平7−267549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、かご側出入口を全閉した後に上記検出棒を回転させ、上記異物が存在しないことを確認した後にかごを走行させるようになっているため、かご側出入口を全閉してからかごを走行させるまでに時間がかかってエレベータの運行効率が低下することになり、好ましくない。
【0004】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、特に、エレベータの運行効率を低下させることなく紐状の異物を確実に検出することのできるエレベータの安全装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、かごへの出入口を開閉するドアに異物を挟み込んだままかごが走行を続けることを防止するエレベータの安全装置において、かごと乗場との間の空間に出入口の幅方向に沿って索状体を張設するとともに、その索状体の張力に応じて非常停止信号を出力する非常停止制御手段を設け、かご走行中に上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力したことを条件にかごを停止させることを特徴としている。
【0006】
この請求項1に記載の発明では、ドアに異物を挟み込んだ状態でかごが走行すると、その異物と上記索状体とが相対変位して両者が引っ掛かり、上記索状体の張力が変化するから、その索状体の張力に応じて異物検出手段が非常停止信号を出力することにより、ドアに異物を挟み込んだ状態で走行を始めたかごを停止する。
【0007】
より具体的には、請求項2に記載のように、かごに設けられた複数のプーリに上記索状体が掛けられていて、その索状体の一部がかご側出入口の上方に当該かご側出入口の幅方向に沿って張設されている一方、上記索状体の他の部分がかご側出入口の下方に当該かご側出入口の幅方向に沿って張設されていると、かご側ドアに異物を挟み込んだ状態でかごが上昇した場合には、上記索状体のうちかご側出入口の下方に張設された部位に異物が引っ掛かる一方、かご側ドアに異物を挟み込んだ状態でかごが下降した場合には、上記索状体のうちかご側出入口の上方に張設された部位に異物が引っ掛かることになる。
【0008】
好ましくは、請求項3に記載のように、上記索状体の一端を牽引して当該索状体に所定の張力を付与する付勢手段を有していて、上記索状体の一端が上記付勢手段の付勢力に抗して変位可能になっていると、ドアに挟み込まれた異物がかご走行中に上記索状体に引っ掛かったときに、上記索状体の一端が付勢手段の付勢力に抗して変位することにより、上記索状体および異物にかかる負荷を軽減できる。
【0009】
さらに具体的には、請求項4に記載のように、上記索状体の張力を検出する張力検出手段を備えていて、その張力検出手段の検出した張力が所定値を超えた場合に上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力するように構成するとよい。
【0010】
また、請求項5に記載のように、上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力してかごを非常停止した後に、かごを出発階の乗場に運転して戸開動作するようになっていると、その戸開動作後に乗客が安全に異物を取り除くことができるようになる。
【発明の効果】
【0011】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明によれば、ドアに挟み込まれた異物をかごの走行中に検出可能であるから、かご室への出入口を全閉した後にかごを速やかに走行させることができ、エレベータの運行効率を低下させることなく上記異物を確実に検出することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明のより具体的な実施の形態としてエレベータの安全装置を示す図であって、かご内から乗場にわたって存在する紐状の異物が、後述するかご側ドアおよび乗場側ドアの両者に挟み込まれている状態を図示している。
【0013】
図1に示すように、エレベータ装置のかご1には、そのかご1に乗客が出入りするためのかご側出入口2が開口形成されていて、このかご側出入口2が一対のかご側ドア3,4によって開閉されるようになっている。周知のように、両かご側ドア3,4は、かご側出入口2の上方に設けられたドアオペレータ5のうち図示外のドアレールに吊下支持されており、その両かご側ドア3,4の下端部に設けられたドアシュー3a,4aがかご側出入口2の幅方向に沿って設けられた敷居6によりそれぞれ案内されている。なお、図示は省略しているが、昇降路の周壁のうち各サービス階の乗場に相当する位置に乗場側出入口が開口形成されていて、その乗場出入口を開閉する一対の乗場側ドアが図示外の係合装置によって両かご側ドア3,4にそれぞれ連動するようになっている。図1ではかご1がサービス階の乗場に相当する位置に停止している状態を図示していて、図1の仮想線Lはそのサービス階の乗場の床面高さを示している。
【0014】
かご側出入口2の戸開閉形式はいわゆる二枚両開き式であって、ドア制御装置7が主制御装置8からの指令に基づいてドアモータ9を駆動し、図示外のドア開閉駆動機構を介して両かご側ドア3,4を開閉動作させるようになっている。より具体的には、両かご側ドア3,4は、その先端同士をかご側出入口2の幅方向略中央位置で突き合わせることで当該かご側出入口2を全閉している一方、その状態から両かご側ドア3,4が互いに離間する方向にそれぞれスライド変位することでかご側出入口2を開くこととなる。
【0015】
また、かご1には、索状体たるロープ10を当該かご1と上記乗場との間の空間内で所定の取り回し経路に沿って張設するための複数のプーリ11〜16が設けられている。より具体的には、敷居6の長手方向一端側に設けられ、鉛直軸心周りに回転可能な第1プーリ11と、かご1のうちかご側出入口2が形成された外壁面に直交する方向で第1プーリ11とオフセットして設けられ、かご側出入口2の幅方向に沿った軸心周りに回転可能な第2プーリ12と、ドアオペレータ5の長手方向一端側に設けられ、かご1のうちかご側出入口2が形成された外壁面に直交する方向に沿った軸心周りに回転可能な第3プーリ13と、ドアオペレータ5の長手方向他端側に設けられ、鉛直軸心周りに回転可能な第4プーリ14と、かご1のうちかご側出入口2が形成された外壁面に直交する方向で第4プーリ14とオフセットして設けられ、第2プーリ12の軸心と平行な軸心周りに回転可能な第5プーリ15と、その第5プーリ15の上方に設けられ、第3プーリ13の軸心と平行な軸心周りに回転可能な第6プーリ16と、がそれぞれかご1に設けられている。そして、それら各プーリ11〜16にそれぞれロープ10が掛けられている。
【0016】
さらに、ロープ10のうち第1プーリ11側の端部は敷居6の長手方向他端側に設けられた係止部材17によって係止されている一方、ロープ10のうち第6プーリ16側の端部は張力検出手段たるロードセル18に連結されている。
【0017】
これにより、ロープ10のうち係止部材17と第1プーリ11との間の部位が、かご側出入口2の下方に当該かご側出入口2の幅方向に沿って張設されている一方、ロープ10のうち第3プーリ13と第4プーリ14との間の部位が、かご側出入口2の上方に当該かご側出入口2の幅方向に沿って張設されている。
【0018】
また、ロードセル18は付勢手段たるスプリング19によってロープ10を牽引する方向に常時付勢されており、そのスプリング19の反ロードセル18側端部は係止部材20によって係止されている。つまり、スプリング19がロードセル18を介してロープ10の一端を牽引して当該ロープ10に常時所定の張力を付与していて、ロードセル18がロープ10の張力に比例した電圧を非常停止制御手段たる非常停止制御装置21に出力するようになっている。
【0019】
そして、非常停止制御装置21は、ロードセル18の出力電圧、すなわちロープ10の張力が予め定められた設定値を超えた場合に、主制御装置8に非常停止信号を出力するようになっている。
【0020】
図2は両かご側ドア3,4間に異物Fを挟み込んだままかご1が下降した状態を示す図であって、図3は両かご側ドア3,4間に異物Fを挟み込んだままかご1が上昇した状態を示す図である。
【0021】
以上のように構成したエレベータの安全装置では、図2に示すように両かご側ドア3,4間に紐状の異物Fを挟み込んだ状態でかご1が下降した場合には、ロープ10と異物Fとが相対移動することにより、ロープ10のうち第3プーリ13と第4プーリ14との間の部位に異物Fが引っ掛かり、ロープ10のロードセル18側端部がスプリング19の付勢力に抗して第6プーリ16側、すなわちロープ10の緩み方向に変位する。そして、この変位に伴ってスプリング19が伸長してロープ10の張力が増大することで、ロードセル18の出力電圧が増大する。これにより、その出力電圧が上記設定値を超えると、非常停止制御装置21が主制御装置8へ非常停止信号を出力することとなる。
【0022】
また、ロープ10に異物Fが引っ掛かったときにロープ10のロードセル18側端部が緩み方向に変位することで、ロープ10と異物Fとの引っ掛かりによって生じる両者の負荷が軽減される。
【0023】
同様に、図3に示すように両かご側ドア3,4間に異物Fを挟み込んだ状態でかご1が上昇した場合には、ロープ10のうち係止部材17と第1プーリ11との間の部位に異物が引っ掛かり、ロープ10の張力が増加する。これによりロードセル18の出力電圧が上記設定値を超えると、非常停止制御装置21が主制御装置8へ非常停止信号を出力することになる。
【0024】
図4は、主制御装置の制御内容の一例を示すフローチャートである。
【0025】
一方、主制御装置8は、上記乗場側出入口とともにかご側出入口2を戸閉し(ステップS1)、かごの走行を開始すると(ステップS2)、非常停止制御装置21から非常停止信号を入力しているか否かを判断する(ステップS3)。その結果、非常停止信号を入力していない場合には、行先階に到着したか否かをさらに判断する(ステップS4)。そして、ステップS4で行先階に到着している場合には上記乗場側出入口とともにかご側出入口2を戸開する一方(ステップS5)、ステップS4で行先階に到着していない場合にはステップS3に戻る。
【0026】
ステップS3で非常停止信号を入力している場合、すなわち両かご側ドア3,4間に異物Fが挟み込まれていて、非常停止制御装置21が主制御装置8へ非常停止信号を出力している場合には、直ちにかご1を停止させ(ステップS6)、両かご側ドア3,4間に異物Fを挟み込んだままかご1が走行を続けることを防止する。その上で、かご1を出発階に運転し(ステップS7)、上記乗場側出入口とともにかご側出入口9を戸開する(ステップS5)。
【0027】
したがって、本発明によれば、戸閉動作の後にかご1を速やかに走行させ、両かご側ドア3,4間に挟み込まれた異物Fをかご1の走行中に検出するようになっているため、エレベータの運行効率を悪化させることなく確実に異物Fを検出することができるようになる。
【0028】
また、ロープ10のロードセル18側端部をスプリング19によって常時牽引していて、かご1の走行中にロープ10と異物Fとが引っ掛かったときに、ロープ10のロードセル18側端部がスプリング19の付勢力に抗して変位するようになっているため、ロープ10と異物Fとが引っ掛かることで生じる両者の負荷を軽減し、ロープ10および異物Fの破損を防止することができる。
【0029】
さらに、主制御装置8は、かご1の走行中に非常停止信号を入力してかご1を停止させた後、かご1を出発階の乗場に戻して戸開動作するようになっているため、その戸開動作後にかご側出入口2が開いている状態で乗客が異物Fを安全に取り除くことができるようになるメリットがある。
【0030】
なお、本実施の形態では、本発明にかかるエレベータの安全装置を戸開閉形式がいわゆる二枚両開き式のエレベータに適用した例を示したが、本発明は戸開閉形式を問わずに適用可能であることは言うまでもない。
【0031】
また、本実施の形態ではロードセル18によってロープ10の張力を検出するようになっているが、このロードセル18に代えて変位センサを設けてもよい。つまり、ロープ10に異物Fが引っ掛かって当該ロープ10の張力が変化すると、スプリング19が伸長してロープ10のスプリング19側端部が変位するから、この変位をもって両かご側ドア3,4に挟まれた異物Fを検出することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態としてエレベータの安全装置を示す図。
【図2】図1に示すかごが下降した状態を示す図。
【図3】図1に示すかごが上昇した状態を示す図。
【図4】図1に示す主制御装置の制御内容を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1…かご
2…かご側出入口
3…かご側ドア
4…かご側ドア
10…ロープ(索状体)
11…第1プーリ
12…第2プーリ
13…第3プーリ
14…第4プーリ
15…第5プーリ
16…第6プーリ
18…ロードセル(張力検出手段)
19…スプリング(付勢手段)
21…非常停止制御装置(非常停止制御手段)
F…異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごへの出入口を開閉するドアに異物を挟み込んだままかごが走行を続けることを防止するエレベータの安全装置において、
かごと乗場との間の空間に出入口の幅方向に沿って索状体を張設するとともに、その索状体の張力に応じて非常停止信号を出力する非常停止制御手段を設け、
かご走行中に上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力したことを条件にかごを停止させることを特徴とするエレベータの安全装置。
【請求項2】
かごに設けられた複数のプーリに上記索状体が掛けられていて、その索状体の一部がかご側出入口の上方に当該かご側出入口の幅方向に沿って張設されている一方、上記索状体の他の部分がかご側出入口の下方に当該かご側出入口の幅方向に沿って張設されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの安全装置。
【請求項3】
上記索状体の一端を牽引して当該索状体に所定の張力を付与する付勢手段を有していて、上記索状体の一端が上記付勢手段の付勢力に抗して変位可能になっていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータの安全装置。
【請求項4】
上記索状体の張力を検出する張力検出手段を備えていて、その張力検出手段の検出した張力が所定値を超えた場合に上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力するようになっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレベータの安全装置。
【請求項5】
上記非常停止制御手段が非常停止信号を出力してかごを非常停止した後に、かごを出発階の乗場に運転して戸開動作するようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータの安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−280374(P2009−280374A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136275(P2008−136275)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000228246)日本オーチス・エレベータ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】