説明

エレベータシステム

【課題】ビル内の災害状況をエレベータの乗りかご内等に通知し、様々な危険を利用者が判断できることを可能とするエレベータシステムを提供する。
【解決手段】エレベータが設置されたビル内の災害を検出する災害検出装置2の設置位置を記憶し、災害検出装置2から災害検出信号を受信し、災害検出信号を発報した災害検出装置2の設置位置から特定される災害発生位置に基づいてビル内の災害状況を判断する災害状況判断装置5と、ビル内に設置された防災装備の位置および名称を受信し記憶する防災装備認識装置8と、防災装備の位置および名称の情報と、災害状況判断装置5によって判断された災害状況とを、乗りかご1内等に通知する報知手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ビル内における災害発生に対応したエレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
事務所ビルあるいはショッピングセンタ等で火災が起きたときに、在館者はエレベータやエスカレータではなく階段で避難するように指導されている。実際、日本に限らず海外でも、エレベータ内やエレベータホールには、火災の時にはエレベータを使わずに階段を使うようにとの注意書きを目にすることが多い。しかし、過去の火災において、特に火災初期にはエレベータを用いて避難を行ったケースが少なからずある。一方、先進各国、特に、日本では高齢者の割合が急速に増加しつつある。このことは、ビル等における火災等の緊急避難時に階段利用が困難となる人々の数が、年々増えてゆくことを予想させる。避難にエレベータを利用する潜在的な要求は従来からあったが、高齢化やバリアフリー化の進展に伴って、近年、徐々に顕在的な要求として語られ始めている。とりわけ、2001年9月11日に発生した世界貿易センタービルの飛行機衝突による崩壊以降、米国ではたとえ超高層ビルであっても、従来の火災階近辺の部分避難にとどまらず、スムーズな全館避難の要求が高まってきている。
【0003】
我が国でも、2003年3月の「規制改革推進3カ年計画」において、「車椅子利用者等の身体障害者や高齢者等の被災時における安全かつ迅速な避難を確保するため、エレベータ周辺の待機場所等を含むエレベータの安全性に十分配慮した上で、身体障害者、高齢者等の避難手段としてのエレベータについて利用面も含めて検討する。」こととされている。
【0004】
このような背景から、近年、火災等の災害が発生した場合に、積極的にエレベータを利用して、迅速に在館者を避難階へ避難させることができるエレベータシステムを提供することが検討されている。さらには、消防士等の専門家ではない一般者が救助のためにエレベータを利用することも検討されている。
【0005】
特許文献1には、火災検知器の動作状況、動作している火災検知器からホールまでの距離に基づいて、煙がホールに到着する時間を算出し応答すべき救出階の優先順位をつけて避難運転を行うエレベータ運転システムが開示されている。
【0006】
しかし、上記のパラメータから優先順位を算出する方法は、実際の火災時の刻一刻と変化する状況を完璧に計算することはできず、かえって危険なエレベータ運転を行ってしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4266010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、ビル内の災害状況をエレベータの乗りかご内あるいはエレベータホールに的確に通知し、避難者、救助者、消防士等のエレベータ利用者に災害情報を伝達することによって、様々な危険を利用者が判断できることを可能とするエレベータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によるエレベータシステムは、エレベータが設置されたビル内の災害を検出する災害検出装置の設置位置を記憶し、災害検出装置の少なくとも1つから災害検出信号を受信し、受信した災害検出信号を発報した災害検出装置の設置位置から特定される災害発生位置に基づいてビル内の災害状況を判断する災害状況判断手段を備える。また、本システムは、ビル内に設置された防災装備の位置および名称を受信し、受信した防災装備の位置および名称を記憶する防災装備認識装置と、防災装備の位置および名称の情報と、災害状況判断手段によって判断された災害状況とを、乗りかご内およびエレベータホールの少なくとも一方に通知する報知手段とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態の機能構成を説明するためのエレベータシステム全体の機能構成の概要を表す図である。
【図2】第1の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】第2の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜、図面を参照しながら本発明の一例としての実施形態の説明を行う。
【0012】
(第1の実施形態)
図1および図2を参照しながら第1の実施形態の説明を行う。図1に一実施形態の機能構成を説明するためのエレベータシステムの機能構成の概要を示す。尚、この図は、本実施形態に関連する機能要素と、それらの関連を示すものであって、構成要素の物理的配置あるいは物理的構成を表すものではない。また、図2に本実施形態の動作を表すフローチャートを示す。尚、図1においては、説明を簡潔にするため、エレベータの乗りかご1を1台示しているが、乗りかごの数は複数であってもよい。同様に、図1において、災害検出装置2a〜2cの数を3つ、防災装備検出装置3a〜3dの数を4つ、それぞれ示しているが、これらの数値は例として示したものにすぎず、制限はない。実際に実施する際には、災害検出装置の数および防災装備検出装置の数は実施形態の機能を達成するために必要な数とする。
【0013】
ビル内で火災等の災害が発生すると、災害検出装置、例えば災害検出装置2aは災害を検出し、災害信号伝達手段4aを介して、災害検出信号を災害状況判断装置5に伝達する(ステップS201)。災害検出装置2a〜2cとしては、例えば、温度センサ、煙センサ等があり、それぞれ設定された値を超えた場合、災害検出信号を対応する災害信号伝達手段4a〜4cに伝達するようになっている。災害状況判断装置5は、災害検出装置2a〜2cのビル内での設置位置を記憶している。一実施形態において、災害状況判断装置5は、ガス設備等の危険な施設または物のビル内での位置を、さらに、記憶している。
【0014】
災害状況判断装置5は、災害検出装置、例えば災害検出装置2aから災害信号伝達手段4aを介して受け取った災害検出信号を発報した災害検出装置2aの設置位置から特定される災害発生の位置に基づいて、ビル内の災害状況を判断する。例えば、災害検出信号を発報した災害検出装置の数が多い場合、あるいは災害発生の位置がガス設備等の危険な施設または物に近いときには、災害状況判断装置5は災害状況が悪いと判断する。
【0015】
また、災害状況判断装置5は、少なくとも1つの災害検出装置2から受信した災害検出信号を発報した災害検出装置2から特定した災害発生位置および災害検出信号を受信した時刻に基づいて、災害の拡大範囲を判断する。このように災害発生位置と災害検出信号の発報時刻の時間的変化から災害の拡大状況を判断することによって、エレベータの救助運転を行うことができるため、より安全な救助活動を行うことができる。
【0016】
災害状況判断装置は、さらに、災害発生の位置および災害検出信号を受信した時刻を記憶する。このとき災害検出信号に災害状況の程度を意味する情報が含まれる場合は、その情報も災害の発生位置および災害検出信号の受信時刻に対応付けて記憶する。災害状況の程度を意味する情報として、温度センサであれば、例えば200℃、500℃、1000℃を超えた状況を表す情報、煙センサであれば、例えば検出量を3段階に分けて小、中、大を表す情報等とすることができる。
【0017】
次に、災害状況判断装置5は、災害の発生位置および災害検出信号の受信時刻の災害状況情報を、災害状況伝達手段6を介して、エレベータ運転制御装置7に伝達する。一実施形態において、災害状況判断装置5は、災害の発生位置および災害検出信号の受信時刻の災害状況情報を、さらに、遠隔監視センタ12、あるいはビル管理システム13等に伝達する。
【0018】
発生した災害の判断結果を災害状況判断装置5から受信すると、エレベータ運転制御装置7は、受信した災害の判断結果を元に、災害時避難運転を行う(ステップS202)。例えば、災害が火災である場合には、火災が発生すると火災管制スイッチがONになり、避難階に向けた火災時避難運転が開始される。
【0019】
また、エレベータ運転制御装置7は、災害状況伝達手段6を介して伝達された災害の判断結果をアナウンス装置10、表示装置11等の報知装置に送信する。送信された情報にしたがって、乗りかご1内およびエレベータホールの少なくとも一方には、例えば、「3階のレストラン街で火災が発生しました。避難運転を行っています。」等の災害状況を表す通知がアナウンス装置10から流され、さらに災害状況を表す文字情報による通知やビル内の地図情報を表示装置11に表示する(ステップS203)。このとき火災発生階の地図上にアニメーションで火が燃える様子を示した動画や避難経路を矢印が動く動画を使って表示しても良い。乗りかご呼びが登録されており乗りかご1内に搭乗者がいる場合、エレベータ運転制御装置7は、乗りかご1を避難階に直行させ、乗りかご1が避難階に着床するとドアを開き、搭乗者を降車させる。
【0020】
次に、防災装備検出装置3a〜3dは、検出した防災装備の位置や名称あるいは防災装備の個数の情報を防災装備認識装置8に転送する。
【0021】
防災装備認識装置8は、防災装備検出装置3a〜3dから送信された防災装備の位置や名称あるいは個数の情報を認識したか否かを判断する(ステップS204)。防災装備認識装置8は、防災装備に関する情報を認識した場合(ステップS204 YES)、防災装備に関する情報を記憶するとともに、防災装備に関する情報をエレベータ運転制御装置7に送信する。
【0022】
防災装備検出装置3a〜3dは、ICタグを取り付けた防災装備のICタグを読み取り、防災装備の位置、名称、個数情報を取得できるようになっている。防災装備検出装置3a〜3dは、乗りかご1の中に設置されていてもよいし、各階のエレベータホールに設置されていてもよいし、乗りかご1の中および各階のエレベータホールに設置されていてもよい。防災装備としては、消火器、防火服、酸素マスク、AED、梯子等、防災、救助等に用いるものがある。
【0023】
エレベータ運転制御装置7は、受信した防災装備に関する情報を元に防災装備の位置、名称、個数を、乗りかご1内およびエレベータホールの少なくとも一方の表示装置11に表示させる(ステップS205)。
【0024】
防災装備認識装置8は、防災装備検出装置3a〜3dからの信号を認識できなかった場合、あるいは防災装備に関する情報が更新された場合(ステップS204 NO)には、ステップS203に戻り、防災装備が使われて無くなった状態等が分かるように、常に最新の情報が認識される。
【0025】
次に、救助階で、ホール呼びがされるとエレベータ運転制御装置7は、ホール呼びを受付け(ステップS206)。ここで、ホール呼びが登録された階を救助階と呼ぶ。
【0026】
エレベータ運転制御装置7は、避難者によって作られたホール呼びに応答し、救助階への乗りかご1を移動させ(ステップS207)、救助運転を開始する。
【0027】
エレベータ運転制御装置7は、救助者を載せた乗りかご1を救助階まで移動させた後、救助階のフロアで戸開したまま、乗りかご呼びが受け付けられるまで、乗りかご1を救助階で待機させる(ステップS208)。次に、避難階への乗りかご呼びを受け付ける(ステップS209)。避難階への乗りかご呼びを受け付ける方法として、通常の方法に加えて、乗りかご1の重量センサや、乗りかご内の任意のボタン操作があった等、乗りかご内に避難者が乗りこんだことが分かる信号によって自動的に登録させてもよい。
【0028】
次に、乗りかご1は、避難階に移動し(ステップS210)、乗降者を避難階で降車させて、救助運転を完了し(ステップS211)、次のホール呼びに備えて待機する。
【0029】
尚、エレベータ運転制御装置7、災害状況判断装置5、および防災装備認識装置8等は、マイクロコンピュータ、ROM、RAMまたは磁気記憶装置等のハードウェア資源と、エレベータ制御に必要なソフトウェアを含む、いわゆる組み込みシステムによって実装することができる。また、これらの装置は、ハードウェアによって実装することもできる。
【0030】
以上、説明を行った実施形態によれば、複数の災害検出装置2a〜2cのいずれかが発報した災害検出信号に基づいて判断される災害状況と、ビル内に設置された防災装備に関する情報を、乗りかご内およびエレベータホールの少なくとも一方に提供することによって、様々な危険をエレベータ利用者が判断できることを可能とするエレベータシステムが提供される。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、図3および図1を参照しながら、第1の実施形態を応用した第2の実施形態の説明を行う。第2の実施形態にしたがったエレベータシステムの機能構成は、図1を参照しながら説明を行った第1の実施形態にしたがったエレベータシステムの機能構成と同一である。図3に本実施形態の動作を表すフローチャートを示す。本実施形態においては、第1の実施形態における動作の実行に並行して、災害状況の時間的変化に対応しながら安全に救助活動を支援するための動作が付加されている。
【0032】
災害状況判断装置5は、第1の実施形態における動作に並行して、災害検出装置2a〜2cからの災害検出信号に基づいて、災害状況の判断を継続して実行する。すなわち、災害状況判断装置5は、災害状況の時間的変化を継続して監視し、災害状況が悪化しているか否かを判断する(ステップS302)。例えば、災害状況判断装置5は、災害検出信号を発報する災害検出装置2a〜2cの数の変化、災害発生位置、温度センサから伝達される温度等の変化に基づいて、災害状況の時間的変化を判断する。災害状況判断装置5は、例えば、災害検出信号を発報している災害検出装置2a〜2cの数が増加しているとき、災害発生位置がエレベータホールに接近してきたとき、または温度センサから伝達される温度が上昇してきたとき等は、災害状況が悪化していると判断する。
【0033】
災害状況が悪化していないと判断された場合には、ステップS302に留まり災害状況の監視を継続する。この間、乗りかご1は救助階に向けて移動しており、救助運転が実行されている。乗りかご1が救助階に到着するまでに災害状況の悪化が検出されない場合には、前述したように、乗りかご1は救助階に到着すると救助階で待機し(ステップS208)、以後、第1の実施形態で述べた動作が実行される。
【0034】
災害状況判断装置5によって災害状況が悪化の傾向にあると判断された場合には、災害状況判断装置5は、災害状況伝達手段6を介して、災害状況が悪化している旨を表す警報をエレベータ運転制御装置7に伝達する。エレベータ運転制御装置7は、災害状況判断装置5から警報を受信すると、アナウンス装置10や表示装置11によって、乗りかご1内およびエレベータホールに災害状況が悪化の傾向にあることを通知する。このような動作に並行して、乗りかご1が救助階に到着しているか否かが判断される(ステップS304)。
【0035】
乗りかご1が救助階に到着していると判断された場合には、乗りかご1は救助階での待機を継続し(ステップS208)、以後、第1の実施形態で述べた動作が実行される。
【0036】
乗りかご1が救助階に到着していないと判断された場合には、エレベータ運転制御装置7は、救助運転を中止し、災害時管制運転を実行する(ステップS306)。すなわち、エレベータ運転制御装置7は、例えば、災害検出信号を発報している災害検出装置2a〜2cの数が増加しているとき、災害発生位置がエレベータホールに接近してきたとき、または温度センサから伝達される温度が上昇してきたときには、救助運転を中止し、災害時管制運転を実行する。
【0037】
以上述べた動作によって、災害状況の時間的変化に対応しながら、安全に救助活動を支援することが可能となる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・エレベータ、 2、2a〜2c・・・災害検出装置、
3、3a〜3d・・・防災装備検出装置、
4a〜4c・・・災害信号伝達手段、 5・・・災害状況判断装置、
6・・・災害状況伝達手段、 7・・・エレベータ運転制御装置、
8・・・防災装備認識装置、 10・・・アナウンス装置、
11・・・表示装置、 12・・・遠隔監視センタ、
13・・・ビル管理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータが設置されたビル内の災害を検出する災害検出装置の設置位置を記憶し、前記災害検出装置の少なくとも1つから災害検出信号を受信し、受信した災害検出信号を発報した前記災害検出装置の設置位置から特定される災害発生位置に基づいてビル内の災害状況を判断する災害状況判断手段と、
前記ビル内に設置された防災装備の位置および名称を受信し、受信した前記防災装備の位置および名称を記憶する防災装備認識装置と、
前記防災装備の位置および名称の情報と、前記災害状況判断手段によって判断された前記災害状況とを、乗りかご内およびエレベータホールの少なくとも一方に通知する報知手段と
を具備することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
前記災害状況判断手段は、少なくとも1つの前記災害検出装置から受信した前記災害検出信号から特定した前記災害発生位置および前記災害検出信号を受信した時刻に基づいて、災害の拡大範囲を判断することを特徴とする請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記災害検出装置から受信される災害検出信号には、火災時における煙または温度を検出した信号を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記システムは、
前記災害状況判断手段からの前記災害状況情報を伝達する災害情報伝達手段と、
前記災害情報伝達手段から伝達された情報を前記報知手段に送信するエレベータ運転制御装置と
を具備することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエレベータシステム。
【請求項5】
前記エレベータ運転制御装置は、前記災害状況判断手段によって火災がエレベータホールに接近してきたと判断された場合、救助運転を停止させることを特徴とする請求項4に記載のエレベータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126560(P2012−126560A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281879(P2010−281879)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】