説明

エンジンのオイル循環システム

【課題】 オイル循環システムに異常がある場合に、この異常がオイル循環システムを構成する装置の異常なのか、又はオイル自体の劣化の判定をすることのできるエンジンのオイル循環システムを提供する。
【解決手段】エンジンのオイル循環システムは、エンジン11にオイルを循環させるオイル循環システムにおけるオイルの状態を示すオイル状態情報に基づいて、オイル循環システムに異常があるかどうかを判定する異常判定手段41と、異常があると判定した場合には、オイル循環システムに異常がない場合の正常オイル状態情報と、オイル状態情報とに基づいて、異常が、オイル循環機構の異常であるのか、又はオイル循環システムに循環するオイルの劣化なのかを判定する判別手段42とを備える。このオイル状態情報としては、油圧、油温、流量等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンのオイル循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンオイル供給制御装置として、例えば、オイルポンプと、オイルコントロールバルブと、メタリングオイルポンプを備えたシステムにおいて、メタリングオイルポンプの元圧が目標圧に一致するようにオイルコントロールバルブを駆動制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−224728号公報(請求項1、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記エンジンオイル供給制御装置においては、所定期間におけるメタリングオイルポンプ制御量の積算値を求め、その積算値が予め定めた正常動作範囲内にあるかを判定する。そして、積算値が正常動作範囲内にない場合には、積分値に応じてオイル輸送装置に目詰まりが生じているか、又はオイル輸送装置にオイル漏れが生じているかどうかを判断している。即ち、この装置においては、オイル輸送装置の異常の判断のみを行っている。しかしながら、オイル輸送装置で輸送されるオイル自体が劣化していると、エンジンの損傷が生じる場合や、出力、燃費性能が十分に発揮できない場合がある。従って、オイル輸送装置の異常を装置自体の異常として検出するだけでは、これらの状況を回避できない場合があるという問題がある。
【0004】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、エンジンの損傷を抑制し、出力、燃費性能が十分に発揮できるように、オイル循環システムに異常がある場合に、この異常が何によるものなのかを判定することができるエンジンのオイル循環システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のエンジンのオイル循環システムは、エンジンにオイルを循環させるオイル循環システムにおける前記オイルの状態を示すオイル状態情報を検出する検出手段と、このオイル状態情報に基づいて、前記オイル循環システムに異常があるかどうかを判定する異常判定手段と、この異常判定手段で前記異常があると判定した場合に、予め設定されている前記オイル循環システムに異常がない場合の正常オイル状態情報と、前記オイル状態情報とに基づいて、前記異常が、前記オイル循環システムを構成する装置の異常であるのか、又は前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化であるのかを判別する判別手段とを備えたことを特徴とする。本発明においては、異常判定手段でオイル循環システムに異常があると判定した場合に、判別手段が、異常が、オイル循環システムを構成する装置によるものか、又はオイル自体の劣化かという判別を行うことができる。従って、走行の安全性を確保すると共に、出力、燃費性能を十分に発揮することができる。
【0006】
本発明のエンジンのオイル循環システムの好適な実施形態としては、前記検出手段が、前記オイル状態情報として、前記オイルの油温、油圧及び流量を検出し、前記異常判定手段は、所定の油温における所定の油圧に応じて検出された検出流量と、前記オイル循環システムに異常がない場合のこの所定の油温における所定の油圧に対応する正常流量とを比較して、前記オイル循環システムに前記異常があるかどうかを判定し、前記判別手段は、前記検出流量と前記正常流量との比に基づいて、前記異常が前記オイル循環システムを構成する装置の異常であるのか、又は前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化であるのかを判別することが挙げられる。このように、オイル状態情報としてオイルの油温、油圧、及び流量を用いることで、簡易に、かつ、正確に、オイル循環システムの異常がオイル循環システムの装置の異常によるものか、又はオイル自体の劣化によるものかという判定を行うことができる。
【0007】
また、前記検出手段が、前記オイル状態情報として、さらにエンジン回転数を検出し、
前記判別手段は、前記所定の油温における所定のエンジン回転数に応じて検出された検出流量と、前記オイル循環システムに異常がない場合のこの所定の油温における所定のエンジン回転数に対応する正常流量との比に基づいて、前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化を判別してもよい。オイル状態情報として、油圧と関連性が高く、間接的にオイル状態を示すエンジン回転数を用いても、簡易に、かつ、正確に、オイル自体の劣化について判定を行うことができる。
【0008】
前記オイルの交換時に、前記オイルの油圧、流量及び油温の関係を学習する学習手段を備えていることが好ましい。学習手段を備えていることで、より正確にオイルの劣化を判定することが可能である。
【0009】
前記判別手段による判別結果をドライバーに報知する報知手段をさらに備えたことが好ましい。報知手段を備えていることで、判別手段による判別結果をドライバーに報知することができるので、装置に異常がある場合には安全を確保し、オイルの劣化の場合にはその使用を回避するよう促すことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエンジンのオイル循環システムによれば、オイル循環システムに異常がある場合に、この異常がオイル循環システムを構成する装置の異常なのか、又はオイル自体の劣化の判断をすることができるので、装置に異常がある場合には安全を確保し、オイルの劣化の場合にはその使用を回避してエンジンの損傷を防止し、エンジンの出力、燃費性能を十分に発揮させることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエンジンのオイル循環システムについて、図1を用いて説明する。図1は、エンジンシステムの構成を示す模式図である。
【0012】
図1に示すガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)11は、吸気管噴射型(Multi Point Injection)のガソリンエンジンである。エンジン11は、シリンダヘッド12とシリンダブロック13とを有している。シリンダブロック13のシリンダ14内には、ピストン15が往復移動自在に収容されている。そして、このピストン15とシリンダ14とシリンダヘッド12とで燃焼室が形成されている。ピストン15は、コンロッド16を介してクランクシャフト17に接続されている。ピストン15の往復運動は、コンロッド16を介してクランクシャフト17に伝達される。
【0013】
また、シリンダヘッド12には、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18には吸気弁19が設けられている。吸気弁19は吸気カムシャフト20の作動により開閉する。この開閉に応じて吸気ポート18が開閉される。シリンダヘッド12には、さらに排気ポート21が形成されている。排気ポート21には排気弁22が設けられている。排気弁22は排気カムシャフト23の作動により開閉する。この開閉に応じて排気ポート21が開閉される。
【0014】
このエンジン11には、エンジンの各回転部、摺動部等にオイルを供給できるようにオイル循環システムが設けられている。オイル循環システムは、後述する判定装置10と、オイルパン24、オイルストレーナー25、オイル管26、オイルポンプ27及びオイル通路28とから構成される。以下、これらのオイルパン24、オイルストレーナー25、オイル管26、オイルポンプ27及びオイル通路28のオイル循環システムを構成する装置をまとめてオイル循環機構と称する。以下、オイル循環機構について詳述する。
【0015】
シリンダブロック13の下部には、オイルパン24が設けられている。オイルパン24には、オイルが溜まっている。オイルパン24には、オイルストレーナー25が先端に設けられたオイル管26が臨んでいる。オイル管26には、オイルポンプ27が設けられている。このオイルポンプ27は、可変油圧制御型、即ち目標油圧となるように流量を制御することができるものである。
【0016】
オイルパン24に溜まったオイルは、このオイルポンプ27の駆動により、オイルストレーナー25を介してオイル管26へ流入される。オイル管26は、シリンダブロック13に設けられたオイル通路28に接続している。オイル通路28は、シリンダヘッド12及びシリンダブロック13内で枝分かれして、エンジン11の各回転部、摺動部等にオイルを供給できるように構成されている。具体的には、オイルは、オイル通路28から、クランクシャフト17の軸受け、吸気カムシャフト20及び排気カムシャフト23の軸受け、吸気弁19及び排気弁22の軸受け、シリンダ14の壁面等に供給される。供給された後、オイルはシリンダブロック13下部のオイルパン24に戻って、再度オイルストレーナー25からオイル通路28へ供給される。
【0017】
また、エンジン11は、ECU(電子コントロールユニット)30を備えている。ECU30は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU30により、エンジン11の総合的な制御が行われる。
【0018】
ECU30の入力側には、オイルポンプ27の出口側付近に設けられた流量センサ31、油圧センサ32、油温センサ33が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。本実施形態の判定装置10は、ECU30及びこれらのセンサ類からなり、各種センサ類からの検出情報に基づき、オイル循環システムの状態判定を行うものである。本実施形態においては、ECU30は、オイル循環システムに異常があるかどうかを判定する異常判定手段41と、この異常がオイル循環機構の異常なのか、又はオイル循環システムを循環するオイルの劣化によるものなのかを決定する判別手段42を備える。このように本実施形態においては、オイル循環システムに異常があった場合に、その異常がオイル循環機構の異常なのか、又はオイルの劣化なのかを判別することができるので、オイルシステムの異常が何に起因するのかをドライバに報知し、対応を促すことで、安全を確保すると共にエンジンの損傷を防止し、かつ、エンジンの出力性能、燃費性能を十分に発揮させることが可能である。以下、詳細に異常判定手段41及び判別手段42について説明する。
【0019】
初めに、異常判定手段41及び判別手段42における判定、判別の根拠について図2及び図3を用いて説明する。図2は、オイルの循環機構に異常があった場合の特性図、図3はオイルの劣化があった場合の特性図である。図2及び図3において、各図は、同一油温における油圧と流量の関係を示すものであり、横軸は油圧を、縦軸は流量を示す。
【0020】
図2に示すように、オイルポンプ27以外のオイル循環機構に異常があった場合、例えばオイル循環機構に漏れがあった場合には、同一油温範囲において、正常時に比べて異常時の同一の油圧に対する流量は大きくなる。そして、異なる二つの油圧A、Bで比較すると、これらの油圧Aにおける異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”は、油圧Bにおける異常流量QB”と正常流量QB’との比QB’/QB”と油圧の高低に関わらずほとんど等しくなる。
【0021】
オイルの劣化があった場合には、図3に示すように、粘度低下により圧力に対し異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”は1よりも大きくなる。なお、オイル毎に粘度が異なるので、全てのオイルにおいて異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”が1よりも大きければオイル劣化であるとは判断できない。従って、この場合の数値はほぼ1に近い所定値となる。さらに、図3に示すように、オイルの劣化があった場合、即ちオイルの粘度低下があった場合には、同一油温範囲において、正常時に比べて異常時の同一の油圧に対する流量は大きくなる。そして、異なる二つの油圧A、Bで比較すると、これらの油圧Aにおける異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”は、異常流量QB”と正常流量QB’との比QB’/QB”よりも小さくなる。即ち、オイルの劣化があった場合には、油圧が高いと異常流量と正常流量との比は大きくなる。
【0022】
また、オイルポンプ27を含むオイル循環機構に異常があった場合、例えばオイル循環機構につまりが発生した場合や油圧駆動で動作部品が故障した場合には、油圧Aにおける異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”は所定値以下となり、また、油圧Aにおける異常流量QA”と正常流量QA’との比QA’/QA”は、油圧Bにおける異常流量QB”と正常流量QB’との比QB’/QB”よりも小さいものとなる。
【0023】
そこで、本実施形態においてはこのオイルの循環機構の異常とオイルの劣化との特性の違いに鑑みて、流量を異なる二点で取得して、正常流量と検出流量との比からオイルシステムに異常があった場合に、この異常がオイルの循環機構の異常なのか、又はオイルの劣化によるものなのかを判別する。即ち、流量を異なる二点で取得して、正常流量と検出流量との比を求め、これらがほぼ等しければオイルポンプ27を除きオイル循環機構に異常があると判別し、異なる場合には、正常流量と検出流量との比が所定値を超えているか、また、異なる二つの比のどちらが大きいかによってオイルポンプ27を含むオイル循環機構に異常があるのか、オイル自体が劣化しているのかを判別する。
【0024】
異常判定手段41は、流量センサ31、油圧センサ32、油温センサ33から検出した特定温度における流量及び油圧の関係と、予めマップとしてECU内に保存されていた正常時、即ちオイル循環システムに異常がない場合での特定温度における流量及び油圧の関係を比較する。具体的には、まず、異常判定手段41は、流量センサ31、油圧センサ32、油温センサ33から、流量、油圧及び温度の関係、即ち同一範囲の油温での油圧Aにおける検出流量QAと、油圧B(B>A)における検出流量QBとを図示しない記録部に記録する。そして、マップから、正常時、即ちオイル循環システムに異常がない場合での同一範囲の油温での油圧Aにおける正常流量QA’と、油圧Bにおける正常流量QB’とを取得する。この検出流量QAが正常流量QA’と同一で、かつ、検出流量QBが正常流量QB’と同一であれば正常と判定し、異なっていれば異常があると判定し、異常を示す信号を判別手段42に入力する。
【0025】
判別手段42は、異常判定手段41から異常を示す信号が入力された場合に、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QA、及び検出流量QBと正常流量QB’との比QB’/QBを算出し、これらの値に基づいて、異常は、オイル循環機構の異常なのか、又はオイルの劣化なのかを決定する。
【0026】
即ち、判別手段42は、異常判定手段41から異常を示す信号が入力された場合に、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QA及び検出流量QBと正常流量QB’との比QB’/QBを算出する。そして、これらの値が等しいか、又はほとんど等しい場合には、オイルポンプ27を除くオイル循環機構の異常であると判別し、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QAが所定値を超え、かつ、QB’/QB>QA’/QAである場合には、オイルの劣化であると判別する。さらに、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QAが所定値を超えない場合、もしくは所定値を超えてもQB’/QB>QA’/QAが成立しない場合には、オイルポンプ27を含めたオイル循環機構の異常であると判別する。
【0027】
そして、判別手段42は、オイルの循環機構の異常なのか、又はオイルの劣化によるものなのかを判別した後に、どこが異常なのかを示す信号を報知手段43に送出し、報知手段43は、それを車両のドライバーに報知する。たとえば、オイル循環機構に異常があれば、フェールランプを点灯し、オイル劣化の場合には、オイル交換を促す。
【0028】
次いで、図4を用いて本実施形態における判定工程を説明する。
【0029】
初めに、ステップS1ではエンジン運転中であるかどうかを判断する。エンジン運転中でない場合(NO)には、制御は終了する。エンジン運転中である場合(YES)には、流量センサ31、油圧センサ32、油温センサ33からの検出情報がECUに入力されている。
【0030】
ステップS2では、オイルポンプ27が可変油圧制御を行っているかどうかを判断する。可変油圧制御を行っていない場合(NO)には、制御は終了する。可変油圧制御を行っている場合(YES)には、ステップS3へ進む。
【0031】
ステップS3では、油圧センサ32で検出した油圧がAである場合に、流量センサ31により検出した流量QAを記録部に記録する。次いで、ステップS4に進み、油圧センサ32で検出した油圧がB(B>A)である場合に、流量センサ31により検出した流量QBを記録部に記録する。
【0032】
次いで、ステップS5へ進み、油温が所定の範囲にあるかどうかを判定する。ここで、所定の範囲とは、前記同一油温範囲を意味している。即ち、ステップS5では、検出した油温が同一油温範囲にあるどうかを判定している。油温が所定範囲(例えば85〜95℃)になければ(NO)、制御が終了する。油温が所定の範囲にある場合には(YES)、ステップS6へ進む。
【0033】
ステップS6では、油圧A及びBの時に流量センサ31により検出し記録した二つの検出流量QA及びQBが、それぞれ、オイル循環システム全体が正常である場合の対応する正常流量QA’及びQB’に等しいかほぼ等しいかどうかを異常判定手段41により判断する。共に等しいかほぼ等しい場合には(YES)、ステップS7へ進む。ステップS7では、異常判定手段41は、オイルシステムが正常であると判定する。
【0034】
ステップS6において少なくとも一方が等しいかほぼ等しいとはいえない場合には(NO)、異常判定手段41はオイル循環システムに異常があると判定して、判別手段42により、オイル循環システムのうち、どこに異常があるかが判別される。この場合には、ステップS8へ進む。
【0035】
ステップS8では、初めに、油圧Aと油圧Bとにおける検出値と正常値との比(即ち、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QA及び検出流量QBと正常流量QB’との比QB’/QB)を算出し、これらが等しいかほぼ等しいかどうかを判断する。そして、これらの比が等しいかほぼ等しい場合には(YES)、ステップS9へ進み、図2に示すグラフの状態、即ちオイルの循環機構(オイルポンプを除く)に異常がある場合であると決定する。
【0036】
これらの比が等しいかほぼ等しいとはいえない場合には(NO)、ステップS10へ進み、検出流量QAと正常流量QA’との比QA’/QAが所定値より大きいかどうかを判定する。所定値以下である場合(YES)、ステップS11に進む。ステップS11では、オイルの循環機構(オイルポンプを含む)に異常がある場合であると判定する。
【0037】
ステップS10において所定値より大きい場合(YES)、ステップS12へ進む。ステップS12では、油圧Aにおける検出流量と正常流量との比QA’/QAよりも油圧Bにおける検出流量と正常流量との比QB’/QBが大きいかどうか(即ち、QB’/QB>QA’/QAが成立するかどうか)を判断する。油圧Aにおける検出流量と正常流量との比が小さい場合には(YES)、ステップS13へ進み、図3に示すグラフの状態、即ちオイルの劣化が生じている場合であると判別する。他方で、油圧Aにおける検出流量と正常流量との比が大きい場合には(NO)、ステップS11へ進み、オイルの循環機構(オイルポンプを含む)に異常がある場合であると判別する。ステップS9、S11及びS13へ進んだ後、ステップS14へ進み、報知手段43により判別結果をドライバーに報知する。
【0038】
以上のようにして、本発明のオイル循環システムにおいては、オイル循環システムに異常があると判定された場合には、オイル循環システムのどこに異常があるのかを判別することができる。そして、この結果を報知手段43によりドライバーに報知することができる。これにより、ドライバーが結果に応じて適宜対応をすることができるので、エンジンの損傷を防止し、かつ、出力、燃費性能を十分に発揮することが可能である。
【0039】
本実施形態においては、流量センサを用いて流量を取得していたが、流量を計算により算出してもよい。この場合、流量センサを用いる必要がないので、よりコストを抑えることが可能である。例えば、流量Qを、次式から求めても良い。式中、αは定数であり、ΔPは、検出流量と正常流量との比を表す。
【0040】
【数1】

【0041】
また、オイル劣化の判定においては、エンジンオイルの状態を示す変数として、油圧ではなくエンジン回転数を制御変数として選択してもよい。この場合には、特定油温での流量とエンジン回転数との関係を示すマップを予めECU30内に格納すればよい。
【0042】
本実施形態では、同一油温範囲における流量と油圧との関係から異常の識別を行ったが、異なる変数から異常の識別を行ってもよい。たとえば、同一油圧に対する流量と油温との関係から異常の判別を行うことも可能である。さらにまた、制御変数として流量の代わりに可変油圧制御できるオイルポンプ27の油圧制御デューティを検出するように構成してもよい。
【0043】
本実施形態では、所定の同一油温範囲のマップのみを有して、この同一油温範囲でのみ判定を行ったが、このマップ以外の別の同一油温範囲を示す複数のマップをもっていてもよい。
【0044】
本実施形態では、オイルポンプ27は流量を可変制御できるポンプであったが、その他のポンプであってもよい。
【0045】
また、通常、オイルの交換を行う時に異なる粘度のオイルに交換される場合もある。この場合に、オイル交換時に、オイルの油圧、流量、油温の関係を学習し、この関係に対応するマップを判定に用いるように学習する学習手段を判定装置10に設けても良い。このように、最も的確なオイルの油圧、流量、油温の関係を学習することで、より正確に異常を判定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のエンジンのオイル循環システムは、オイル循環システムに異常があった場合に、オイルが劣化しているのか、それともオイル循環システムに異常があるのかを判断することができる。従って、自動車製造分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態のエンジンシステムの構成を示す模式図である。
【図2】オイルの循環機構に異常があった場合の特性図である。
【図3】オイルの劣化があった場合の特性図である。
【図4】本実施形態における判定工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
10 判定装置
11 エンジン
24 オイルパン
25 オイルストレーナー
26 オイル管
27 オイルポンプ
28 オイル通路
31 流量センサ
32 油圧センサ
33 油温センサ
41 異常判定手段
42 判別手段
43 報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにオイルを循環させるオイル循環システムにおける前記オイルの状態を示すオイル状態情報を検出する検出手段と、
このオイル状態情報に基づいて、前記オイル循環システムに異常があるかどうかを判定する異常判定手段と、
この異常判定手段で前記異常があると判定した場合に、予め設定されている前記オイル循環システムに異常がない場合の正常オイル状態情報と、前記オイル状態情報とに基づいて、前記異常が、前記オイル循環システムを構成する装置の異常であるのか、又は前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化であるのかを判別する判別手段とを備えたことを特徴とするエンジンのオイル循環システム。
【請求項2】
前記検出手段が、前記オイル状態情報として、前記オイルの油温、油圧及び流量を検出し、
前記異常判定手段は、所定の油温における所定の油圧に応じて検出された検出流量と、前記オイル循環システムに異常がない場合のこの所定の油温における所定の油圧に対応する正常流量とを比較して、前記オイル循環システムに前記異常があるかどうかを判定し、
前記判別手段は、前記検出流量と前記正常流量との比に基づいて、前記異常が前記オイル循環システムを構成する装置の異常であるのか、又は前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化であるのかを判別することを特徴とする請求項1記載のエンジンのオイル循環システム。
【請求項3】
前記検出手段が、前記オイル状態情報として、さらにエンジン回転数を検出し、
前記判別手段は、前記所定の油温における所定のエンジン回転数に応じて検出された検出流量と、前記オイル循環システムに異常がない場合のこの所定の油温における所定のエンジン回転数に対応する正常流量との比に基づいて、前記オイル循環システムに循環する前記オイルの劣化を判別することを特徴とする請求項2記載のエンジンのオイル循環システム。
【請求項4】
前記オイルの交換時に、前記オイルの油圧、流量及び油温の関係を学習する学習手段を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジンのオイル循環システム。
【請求項5】
前記判別手段による判別結果をドライバーに報知する報知手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンジンのオイル循環システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−138817(P2010−138817A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316287(P2008−316287)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】