説明

エンジンのシリンダ用インサート

【課題】 シリンダ内でガイドされるピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するためのエンジンのシリンダ用インサートであって、向上された寿命を有すると共に、従来技術に比べて効率的な機能を有するインサートの提供。
【解決手段】 ピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するため、ピストンの上死点を過ぎるときにピストンの外周面を掃き、それにより、集積した異物を廃棄するインサートが設けられる。インサートは、第1環状部材により形成され、第1環状部材内では、第2環状部材が溝内に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダ用インサート、及び、この種の少なくとも1つのインサートを含むエンジンに関する。
【0002】
本発明は、特に、エンジンのピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するためエンジンのシリンダに設けられる、耐磨耗リングに関する。
【背景技術】
【0003】
エンジン用の、いわゆる耐磨耗リングは広く普及している。公知の耐磨耗リングは、エンジンの動作中、燃焼ランドの領域、上死点に対してピストンの上部を掃くことで不完全な燃焼若しくはその類から生まれる異物を除去するように、シリンダライナ若しくはシリンダの上部領域に挿入される環状部材からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 2010/319661 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この環状部材は、シリンダの内壁の収縮部を形成することになる。燃焼ランドと環状インサートの内周面が接触することによる環状インのいくらかの磨耗は許容される。しかし、環状インサートの磨耗は、材料の選択により、特定の制限内に制約することができる。
【0006】
本発明の目的は、シリンダ内でガイドされるピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するためのエンジンのシリンダ用インサートであって、向上された寿命を有すると共に、従来技術に比べて効率的な機能を有するインサートの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1に記載のインサートによって本発明により達成される。本発明の効果的な発展は従属項に定義される。
【0008】
本発明によれば、ピストンの上死点を過ぎるときにシリンダ内でガイドされるピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するためのエンジンのシリンダ用インサートが提供される。インサートは、シリンダの径方向の凹部に固定される少なくとも1つの第1環状部材と、第1環状部材内に形成された径方向の溝に挿入される少なくとも1つの第2環状部材とを含む。本発明によれば、第2環状部材は、1つの第1環状部材に対して溝内で軸方向に略移動不能であり、径方向に移動可能である。
【0009】
従って、本発明によるインサートでは、第1環状部材は、支持部材としてシリンダ内に挿入され、当該第1環状部材内に第2環状部材は、実際の耐磨耗リングとして設けられる。燃焼ランドの領域内の異物を掃く機能を有する第2環状部材は、軸方向に略移動不能であり、従って、第2環状部材は、その機能を実現することができる。更に、第2環状部材は、溝内で径方向に移動可能であり、従って、ある状況では、異物を除去する機能は、径方向の移動性により向上することができる。特に、径方向の位置は、関連するエンジンの動作中に自動的に中心合わせされる。
【0010】
好ましい実施例によれば、第2環状部材の径方向の内面の内径は、第2環状部材の径方向の内面が、上死点を過ぎるときに燃焼ランドの領域におけるピストンの外周面を掃いて、第2環状部材の径方向の内面がピストンの外周面と接触できるように、構成される。かかる構成によれば、燃焼ランドの領域における異物を除去する良好な効率がもたらされ、第2環状部材の径方向の可動性に関連してインサートの寿命が向上する。
【0011】
好ましい実施例によれば、第2環状部材は、第2環状部材の径方向の内面が、上死点通過の際の燃焼ランドの領域におけるピストンの外周面を掃くときにピストンの外周面に対して略中心が合う態様で、溝内で径方向に移動可能である。これにより、インサートの最適な機能が引き起こされ、ピストンの略全外周領域が第2環状部材により均一に掃かれることができ、異物を完全に除去することが可能である。
【0012】
好ましい実施例によれば、溝の底部の直径は、第2環状部材の径方向の外面の直径よりも少なくともある大きさだけ大きく、その大きさは、第2環状部材の径方向の内面が、上死点通過の際の燃焼ランドの領域におけるピストンの外周面を掃くときにピストンの外周面に対して略中心が合うようにする大きさである。これにより、第2環状部材の軸方向の可動性は、溝底部の直径の寸法により設定され生じることができる。
【0013】
好ましい実施例によれば、第1環状部材に対する第2環状部材の径方向の可動性の指標は、製造中及び/又は作動中の、特に熱により生じるシリンダに対するピストンのセンタリングの公差を考慮して構成される。関連するエンジンの特定の用途及びスペックを考慮することにより、第2環状部材の径方向の可動性は、周期的な荷重から生まれるシリンダに対するピストンのセンタリングの交差を考慮することによって最適に構成され、この場合、製造若しくは動作により生じるずれも考慮することができる。
【0014】
この構成によって、更なる自由度は、インサートの製造中のみならず、ピストン及びその関連部材の製造中にも生じる。燃焼ランドの領域においてより大きな較差が受容されうるためである。
【0015】
好ましい実施例によれば、第1環状部材の径方向の内面の直径は、第2環状部材の径方向の内面の直径よりも大きい。これにより、第2環状部材の径方向の内面がピストンの外径に接触することが可能となる一方、第1環状部材の径方向の内面が如何なる接触にもさらされず、この部材の寿命が向上する。
【0016】
好ましい実施例によれば、第1環状部材が固定される径方向の凹部は、上死点でシリンダの端部に向かって開口しており、第1環状部材は、径方向の凹部に圧入される。これにより、一方では、インサートは、シリンダに固定して設けられることができ、従って、軸方向の固定された位置が保証される。他方では、必要に応じてインサート全体を交換することができる。
【0017】
好ましい実施例によれば、第2環状部材は、リング結合部を有する開口のあるリングの形態である。これにより、第2環状部材は、全体のインサートを除去することを要せずに溝内に挿入することができる。リング結合部は、第2環状部材の付勢により、リング結合部が引っ張られ、第2環状部材が閉じ部材のように機能するように、設計されることができる。この目的のため、相互に反転した径方向の肩部は、例えばリング結合部に、設けられる。或いは、リング結合部は、溝と舌を備えることもできる。
【0018】
好ましい実施例によれば、第2溝は、第1環状部材の径方向の内面に溝に加えて設けられ、更なる第2環状部材は、第2溝内に挿入される。これは、システムの向上した機能性をもたらす。2つの環状部材は異物を掃くよう機能すると同時に、ここの部材の寿命が向上するためである。
【0019】
好ましい実施例によれば、第1環状部材は、径方向の凹部に圧入される第1リングと第2リングからなり、環状の窪みは、第1リングと第2リングとが互いに軸方向に接触されたときに第1リングと第2リングの間に形成され、第2環状部材は、環状の窪み内に設けられる。
【0020】
かかる構成は、改善され且つ簡略化されたインサートの組立を可能とし、特に、これは、好ましくは閉じたリングが使用されたとき顕著である。この目的のため、本発明によれば、第1リングが圧入され、次いで、第2環状部材が挿入され、第2リングが第1リング上に圧入されて、第2環状部材が、結果として得られる環状の窪み内に配置される。
【0021】
好ましい実施例によれば、環状の窪みは、溝として径方向内側に開口する環状ギャップを形成し、環状ギャップは、第2環状部材の径方向内側に突出する肩部が通過され、環状ギャップの軸方向の寸法は、環状の窪みの軸方向の寸法よりも小さく、肩部は、第2環状部材の径方向の内面を形成する。
【0022】
この種の構成は、第2環状部材の軸方向の固定を引き起こすことができる一方で、閉じたリングは、任意的に、第2環状部材として使用されることができる。しかし、開いたリングの使用は、依然として可能であり、それぞれ利点を提供する。燃焼ランドの領域の異物を掃く機能は、最終的な環状ギャップを通って突出する第2環状部材の肩部によりもたらされる。
【0023】
好ましい実施例によれば、第2環状部材は、窪みの軸方向の寸法に略対応する軸方向の寸法及び/又は形状を有する基部を含み、肩部は、基部から径方向内側に延在し、環状ギャップの軸方向の寸法に略対応する軸方向の寸法を有する。
【0024】
この種の構成は、改善されたインサートの寿命をもたらす。これは、一方では、閉じたリングが第2環状部材として使用されることができ、他方では、窪み内に配置された基部がリングが特定の交差外に径方向に動くのを防止するためである。特に、第2環状部材は、第2環状部材の万が一の破壊の場合でも、関連するエンジンの燃焼室内に落下するのが防止されることができる。また、第2環状部材の安定性は基部により向上する。
【0025】
好ましい実施例によれば、第2環状部材は、第2環状部材の軸方向で肩部よりも大きな拡張部を有する基部を含む。好ましくは、基部は、1つの軸方向に延在する拡張部の形態、第2環状部材の双方の軸方向に延在する拡張部であって、肩部と拡張部との間に面取りされた遷移部を有する形態、単一の軸方向に延在する拡張部であって、肩部と拡張部との間に面取りされた遷移部を有する形態、第2環状部材の1つの軸方向に延在する面取りされた拡張部の形態、若しくは、第2環状部材の双方の軸方向に延在する面取りされた拡張部の形態を呈する。肩部の形状及び特に第2環状部材の断面の構成は、上述した形状に制限されない。しかし、この実施例で特に有利なものは、一般的に、基部から径方向内側に突出する肩部に対して第2環状部材の径方向外側の領域での拡張部である。
【0026】
好ましい実施例によれば、エンジンは、ピストンをガイドするシリンダを含み、更に、上述のインサートが設けられる。
【0027】
好ましい実施例によれば、シリンダは、ピストンをガイドするシリンダライナを含み、少なくとも1つのインサートが設けられる径方向の凹部は、シリンダライナに形成される。
【0028】
好ましい実施例によれば、上述の2つのインサートは、凹部内に軸方向に近接して設けられる。これにより、耐磨耗リングの機能が向上する一方、特別な寸法を選択するときに自由度を増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例によるインサートを含むエンジンの領域の断面図。
【図2】本発明の第2実施例によるインサートを含むエンジンの領域の断面図。
【図3】本発明の第2実施例のインサートの拡大された切り出し図。
【図4】本発明の第2実施例の第1修正例を示す図。
【図5】本発明の第2実施例の第2修正例を示す図。
【図6】本発明の第2実施例の第3修正例を示す図。
【図7】本発明の第2実施例の第4修正例を示す図。
【図8】本発明の第2実施例の第5修正例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施例の説明を行う。
【0031】
[第1実施例]
図1は、シリンダ4とシリンダヘッド7の間の遷移部の近傍におけるエンジンの領域の断面図である。これは、ピストン5を上死点の領域で示す。
【0032】
ピストン5は、既知の態様でシリンダ4内に摺動可能に配置され、その上側は、シリンダヘッド7と協動して、燃焼室を画成し、燃焼室内には、ディーゼルエンジンの場合、燃料が、吸引空気の圧縮後に図示しない噴射ノズルを通って噴射される。更に、既知のこの種のエンジンは、簡易化のために図示されない少なくとも1つの排気バルブを含む。
【0033】
ピストン5は、その上部領域では、燃焼ランド6と称される部位を含む。当該燃焼ランド6の領域内には、エンジンの動作時、異物がピストンの外周部にて集積する。かかる異物は、重油が燃料として使用されるときに特に生じる。
【0034】
図1のシリンダ4は、上側に、即ち上死点の方向若しくはシリンダヘッド7に向かう方向に、開口した凹部8を含む。凹部は、略円筒形に構成される。図1の実施例では、凹部8内には、金属材料の閉じたリングで形成される第1環状部材2が設けられる。第1環状部材2の外径は、凹部8の内周面に対してしまり嵌めが生じるように構成される。しまり嵌めは、動作中に第1環状部材の緊密な嵌りが保証されて部材2の軸方向の変位が防止されるように、構成される。或いは若しくはそれに加えて、第1環状部材2は、スナップリング若しくはその類により、軸方向の変位に対して固定されることができる。
【0035】
第1環状部材2には、径方向内側に開口する径方向の溝9が設けられる。第1環状部材2の内径よりも僅かに大きい内径を有する第2環状部材は、径方向の溝9内に挿入される。溝は、溝9内に形成され径方向内側を向く外周面により構成される底部を含む。この溝9の底部を形成する表面の径方向の寸法は、溝9内に挿入される第2環状部材3の外径よりも大きい。
【0036】
第2環状部材3は、リング結合部を含み、これにより、リングは、第2環状部材3の弾性変形後に第1環状部材2の溝9内に挿入されることができる。第2環状部材3の弾性特性によって、リング結合部は、引っ張り下で係合状態を維持でき、従って、特に肩部若しくはその類を備えるリング結合部の特別な構成に起因して、閉じたリングの特性を生じることができる。
【0037】
第2環状部材3の外径は、溝9の底部の表面の直径よりも小さいので、第2環状部材3は、ピストンの軸方向及び第2環状部材3のそれぞれ軸方向に垂直な平面内で移動することができる。
【0038】
第2環状部材3の内径は、ピストン5の上死点を通過するときに、外周部が、燃焼ランド6の領域で第2環状部材3により掃かれ、特にピストン5の領域で外周面に接触できるように、構成される。かかる接触若しくは掃くことによって、それぞれ、この領域に付着する異物は、燃焼ランド6の領域内のピストン5の外周部により廃棄される。
【0039】
特に、出力の大きい固定用途若しくは船舶の推進用に設けられるディーゼルエンジンのような大型のエンジンでは、相対的な公差は、製造に関して、若しくは、例えばピストンのような異なる熱負荷の部材に起因して、エンジンの周期的な動作から生まれる。これらのエンジンの大きな寸法に起因して、例えば、燃焼ランド6の領域におけるピストン5の外周面の同心的なアライメントに関して、大きな絶対的なずれが生じる。溝9内に軸方向に可動に受け入れられた第2環状部材3を呈する本発明による構成は、燃焼ランド6の領域内のピストン5の外径に対して第2環状部材3の内周面の自動的なセンタリングを実現する。これにより、燃焼ランド6の領域内に蓄積する異物からの均一な距離をもたらすことができる。更に、第2環状部材3の内周面と燃焼ランド6の領域内の外周面との間の過剰な圧力荷重は打ち消される。これは、第2環状部材の軸方向に可動な構成は、第2環状部材3の位置の一定の調整を実現するためである。
【0040】
本発明によれば、第2環状部材2は、整備作業中にシリンダ4の径方向の凹部8から除去することができ、新しい部品と交換することができる。変形例として、第2環状部材3は、整備作業中に交換されることができる。第1環状部材2の内径は、第2環状部材3の内周面の内径よりも大きいので、単に第2環状部材3は、エンジンの動作に起因して磨耗を受ける。
【0041】
第1環状部材2は、例えば34CrMo4で製造することができる。第2環状部材3は、例えば耐熱鋳造リングとして製造することができる。この情報は、単に模範的なだけであり、他の材料は、インサートの機能が保証される限り、使用することができる。しかし、基本的には、第2環状部材3の材料は、少なくとも燃焼ランド6の領域でピストン5の材料よりも柔らかくあるべきであり、従って、第2環状部材3で磨耗が生じ、従って、ピストン5の磨耗は防止されることができる。
【0042】
変形例として、エンジンでは、第2インサートは、径方向の凹部8内に設けられることができ、従って、2つの略同一のインサートが設けられる。この場合、異物を掃く効率は大きく向上する。この目的のため、それぞれ径方向の溝9を含む2つの第1環状部材2は、凹部8に挿入される。第2環状部材3は、次いで、径方向の溝9内に挿入される。
【0043】
更に変形例として、インサートは、2つの軸方向に離間した径方向の溝9が設けられる第1環状部材2からなってよく、それぞれの溝9には第2環状部材2が挿入される。
【0044】
[第2実施例]
本発明の第2実施例は、図2及び図3を参照して説明され、この実施例の更なる変形例は、図4乃至図8に図示される。
【0045】
図2は、図1と同様のビューで、シリンダ4及びシリンダヘッド7の間の遷移部の領域におけるエンジンの断面図を示す。シリンダには、同様に径方向の凹部8が設けられる。第2実施例では部分部材2A及び部分部材2Bのような2つの別のリングからなる第1環状部材は、この径方向の凹部8内に挿入される。径方向の凹部8の下側では、下側の部分部材2Bが圧入される。上側の部分部材2Aは、下側の部分部材2Bの上で径方向の凹部8内に圧入される。下側の部分部材2Bは、上側の部分部材2Aの軸方向にアラインされた表面と接触するように構成された上向きの肩部を含む。圧入状態では、部分部材2A,2Bは、環状の窪み40の形態で径方向の溝を形成し、環状の窪み40は、溝として径方向内側に(燃焼室に向かって)開口する環状のギャップを形成する。
【0046】
部分部材2A,2Bは、同様に、しまり嵌めにより径方向の凹部8内に圧入される。
【0047】
第2環状部材13は、第2環状部材13の基部42から延在する径方向内側に突出する肩部32を含む。基部42は、肩部32よりも大きい軸方向の寸法を有する。肩部32の軸方向の寸法は、部分部材2A,2Bが互いに接触するときの、開口する環状ギャップの軸方向の寸法に略対応する。
【0048】
組立状態では、部分部材2A,2Bは、肩部32の径方向内側に向く表面の内径よりも大きい内径を有する径方向内側に向く表面を形成する。従って、組立状態では、肩部32は、組立てられた部分部材2A,2Bの内側に向く表面から突出する。
【0049】
第2実施例によるインサートは、次のように組立てられる。先ず、下側の部分部材2Bは、径方向の凹部8内に圧入される。次いで、第2環状部材13は、上部が依然として開口する窪み40内に上から挿入される。最後に、上側の部分部材2Aは、下側の部分部材2Bと接触されるまで径方向の凹部8に圧入される。
【0050】
第2実施例によれば、第2環状部材13aは、閉じたリングの形状であることができる。特に、開口したリング結合部の無いリングは、使用することができる。更に、肩部32に対して軸方向の寸法が拡大された基部42は、組立て状態で、第2環状部材が溝から抜け出るのが許容されないことを実現する。従って、例えば複数の部分要素への分断のような、第2環状部材の破壊の場合でも、第2環状部材は、燃焼室内に落ちるのを防止される。更に、第2環状部材13の安定性は、強化された基部42及び閉じた設計により向上することができる。
【0051】
第2実施例による第1環状部材は、特に、下側の部分部材2Bは、第2環状部材13の外向きの外周面よりも大きな直径を有する窪み40内に径方向内向きの表面を含む。その結果、第1実施例と同様、第2環状部材13は、組立状態で第1環状部材2A,2Bに対して径方向に移動可能であり、従って、ピストン5の外周面に対して径方向に移動可能である。その結果、第2実施例によれば、第1実施例で説明したのと同一の効果が達成される。
【0052】
代替実施例として、第1実施例と同様、2つの同一のインサートは、径方向の凹部8内に挿入されることができ、これにより、大きく改善された効果が生まれる。或いは、第1実施例のインサート及び第2実施例のインサートは、径方向の凹部8内で組み合わせで使用されることができる。
【0053】
[変形例]
以下、第2実施例の幾つかの修正例を説明する。
【0054】
図4は、第2実施例の第1修正例を示す。この第1修正例では、部分部材2A,2Bは、第2環状部材13と同様に修正される。特に、第2環状部材は、組立状態で部分部材2Aにおける対応する窪みに位置する軸方向に延在する拡張部を備える。従って、この修正例では、第2環状部材13は、断面が略L字形である。
【0055】
第2実施例の第2修正例では、図5に示すように、第2環状部材13は、軸方向で反対方向に延在する2つの拡張部を含み、これらの拡張部は、肩部32と拡張部との間に面取りされた面を呈する。
【0056】
第2実施例の第3修正例では、図6に示すように、第2環状部材13の軸方向で1つだけ拡張部が設けられ、面取り部が肩部32と拡張部の間の遷移部に設けられる。
【0057】
第2実施例の第4修正例では、図7に示すように、軸方向に延在し全体で肩部32から延在する面取り部を表す拡張部が、第2環状部材13に設けられる。
【0058】
第2実施例の第5修正例では、第2環状部材13が設けられ、第2環状部材13は、反対方向に軸方向に延在する2つの拡張部であって、肩部32から始まる面取り部として全体が形成される2つの拡張部を含む。
【0059】
上述の修正例は、第2実施例が、図示されるような特定の構成に限定されるべきでないことを証明し、第2環状部材13は、効果や利点が第2実施例で示されるのと同一となるように部分部材2A,2Bと共に修正されることができる。尚、この文脈で、部分部材2A,2Bは、図に示されるように、第2環状部材13の形状に適合されることができる。
【0060】
[補足]
本発明は、ディーゼルエンジンに適用される場合について説明された。特に、大型容積のディーゼルエンジンの場合、燃焼ランド6の領域の外周面を異物から開放する必要性がある。これは、これらのディーゼルエンジンで頻繁に使用される燃料は重油であるためである。しかし、本発明は、他の燃焼タイプ、特に火花点火機関、4ストローク若しくは2ストロークディーゼルエンジンにも適用可能である。
【0061】
図では、径方向の凹部8は、シリンダ4に直接形成される凹部として示されている。しかし、凹部8は、シリンダ内に挿入されるシリンダライナに形成されることもできる。
【0062】
第1実施例で言及される材料の選択は、第2実施例にも適用することができる。全体として、この材料の選択は限定されるものでない。
【0063】
第2実施例では、第2環状部材13は、閉じたリングとして示されている。しかし、この場合も、リング結合部を有する開いたリングは、第1実施例と同様に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの上死点を過ぎるときにシリンダ内でガイドされるピストンの燃焼ランドの領域における異物を除去するためのエンジンのシリンダ用インサートであって、
シリンダの径方向の凹部に固定される少なくとも1つの第1環状部材と、
前記第1環状部材内に形成された径方向の溝に挿入される少なくとも1つの第2環状部材とを含み、
前記第2環状部材は、前記1つの第1環状部材に対して前記溝内で軸方向に略移動不能であり、径方向に移動可能である、インサート。
【請求項2】
前記第2環状部材の径方向の内面の内径は、前記第2環状部材の径方向の内面が、上死点を過ぎるときに前記燃焼ランドの領域における前記ピストンの外周面を掃いて、前記第2環状部材の径方向の内面が前記ピストンの外周面と接触できるように、構成される、請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記第2環状部材は、前記第2環状部材の径方向の内面が、上死点通過の際の前記燃焼ランドの領域における前記ピストンの外周面を掃くときに前記ピストンの外周面に対して略中心が合う態様で、前記溝内で径方向に移動可能である、請求項1又は2に記載のインサート。
【請求項4】
前記溝の底部の直径は、前記第2環状部材の径方向の外面の直径よりも少なくともある大きさだけ大きく、その大きさは、前記第2環状部材の径方向の内面が、上死点通過の際の前記燃焼ランドの領域における前記ピストンの外周面を掃くときに前記ピストンの外周面に対して略中心が合うようにする大きさである、請求項2に記載のインサート。
【請求項5】
前記第1環状部材に対する前記第2環状部材の径方向の可動性の指標は、製造中及び/又は作動中の、特に熱により生じるシリンダに対するピストンのセンタリングの公差を考慮して構成される、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項6】
前記第1環状部材の径方向の内面の直径は、前記第2環状部材の径方向の内面の直径よりも大きい、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項7】
前記第1環状部材が固定される径方向の凹部は、上死点でシリンダの端部に向かって開口しており、前記第1環状部材は、前記径方向の凹部に圧入される、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項8】
前記第2環状部材は、リング結合部を有する開口のあるリングの形態である、請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項9】
第2溝は、前記第1環状部材の径方向の内面の前記溝に加えて設けられ、更なる第2環状部材は、前記第2溝内に挿入される、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項10】
前記第1環状部材は、前記径方向の凹部に圧入される第1リングと第2リングからなり、
環状の窪みは、前記第1リングと前記第2リングとが互いに軸方向に接触されたときに前記第1リングと前記第2リングの間に形成され、前記第2環状部材は、前記環状の窪み内に設けられる、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項11】
前記環状の窪みは、溝として径方向内側に開口する環状ギャップを形成し、前記環状ギャップは、前記第2環状部材の径方向内側に突出する肩部が通過され、前記環状ギャップの軸方向の寸法は、前記環状の窪みの軸方向の寸法よりも小さく、前記肩部は、前記第2環状部材の径方向の内面を形成する、請求項10に記載のインサート。
【請求項12】
前記第2環状部材は、前記窪みの軸方向の寸法及び/又は形状に略対応する軸方向の寸法及び/又は形状を有する基部を含み、前記肩部は、前記基部から径方向内側に延在し、前記環状ギャップの軸方向の寸法に略対応する軸方向の寸法を有する、請求項10〜11のうちのいずれか1項に記載のインサート。
【請求項13】
ピストンをガイドするシリンダを含むエンジンであって、請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載のインサートを少なくとも1つ更に含む、エンジン。
【請求項14】
シリンダは、ピストンをガイドするシリンダライナを含み、前記少なくとも1つのインサートが設けられる前記径方向の凹部は、前記シリンダライナに形成される、請求項13に記載のエンジン。
【請求項15】
2つの前記インサートは、前記凹部内に軸方向に近接して設けられる、請求項13又は14に記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−2443(P2013−2443A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106179(P2012−106179)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【出願人】(509217714)ヴァルツィラ・スウィッツァランド・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】