説明

エンジンのデポジット抑制装置

【課題】簡単な構成で、コスト上昇を伴うことなく、デポジットを抑制することのできるエンジンのデポジット抑制装置を提供する。
【解決手段】ブローバイガスをスロットル弁163より下流側の吸気通路162に導入するブローバイガス還流装置を備えたエンジンにおいて、少なくともスロットル弁163より下流側の吸気通路(162,131)の内面に形成された親水性皮膜Mと、当該親水性皮膜Mへ水分を供給する水分供給手段190とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのデポジット抑制装置、特にブローバイガスをスロットル弁より下流側の吸気通路に導入するブローバイガス還流装置を備えたエンジンのデポジット抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンにおいては、大気中への汚染物質の排出を抑制する目的で、種々の排出ガス浄化装置が設けられている。このうち、排気ガス還流装置やブローバイガス還流装置は、吸気系に排気ガスの一部や未燃炭化水素及びオイルミストを導入し、これらを再燃焼させて無害化するようにしている。ところで、このような排出ガス浄化装置では、吸気通路上の吸気ポートや吸気バルブなどに、排気ガスや未燃炭化水素及びオイルミスト中の炭素を主成分とするデポジットが付着する傾向にあることが知られている。この吸気ポートや吸気バルブなどへのデポジットの付着が継続すると、経時的にデポジットの堆積量が増加する結果、吸気の流れを阻害し運転性を悪化させることになる。
【0003】
そこで、このような問題に対応すべく、例えば、特許文献1には、エンジンのブローバイガスを吸気系に導く導入路中に吸気系の汚れ洗浄用の清浄剤を供給する清浄剤供給部を設けるようにした技術が開示されている。
【0004】
かくて、ブローバイガスの流入する導入路や吸気ポートの各内壁及び吸気弁にデポジットが付着するのを抑制するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−295621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたデポジット抑制技術では、エンジンのブローバイガスを吸気系に導く導入路中に吸気系の汚れ洗浄用の清浄剤を供給する清浄剤供給部を設けるようにしており、この清浄剤供給部を付加的に設ける構造、及び、ブローバイガス流量に適合させるべく清浄剤供給量を決定するための複雑且つ高度な制御が必要であり、コストの上昇が避けられない。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、簡単な構成で、コスト上昇を伴うことなく、デポジットを抑制することのできるエンジンのデポジット抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るエンジンのデポジット抑制装置の一形態は、ブローバイガスをスロットル弁より下流側の吸気通路に導入するブローバイガス還流装置を備えたエンジンにおいて、少なくとも前記スロットル弁より下流側の吸気通路の内面に形成された親水性皮膜と、当該親水性皮膜へ水分を供給する水分供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書における説明において、「スロットル弁より下流側の吸気通路」とは、スロットル弁より下流側の吸気管、吸気マニホルド内に形成される吸気通路、及び、吸気ポート内に形成される吸気通路をも含む意味で用いられる。換言すると、ブローバイガスが接触する可能性のある壁面で形成される通路を含む意味で用いられる。
【0010】
ここで、前記水分供給手段は、前記ブローバイガス還流装置の前記吸気通路への導入口よりも上流側に排気ガスの導入口が配置されている排気ガス還流装置であってもよい。
【0011】
また、前記水分供給手段は、前記ブローバイガス還流装置の前記吸気通路への導入通路に水分を供給するようにしてもよい。
【0012】
この本発明の一形態によれば、ブローバイガスをスロットル弁より下流側の吸気通路に導入するブローバイガス還流装置を備えたエンジンにおいて、少なくとも前記スロットル弁より下流側の吸気通路の内面に親水性皮膜が形成されている。したがって、ブローバイガスの還流などに伴い、デポジットが付着ないしは堆積する場合は、この親水性皮膜の表面になされることになる。そこで、水分供給手段により当該親水性皮膜へ水分が供給されると、その水分は親水性皮膜に吸水されて、デポジットの下面側に入り込み、デポジットを容易に剥離させる。かくて、デポジットの付着ないしは堆積が抑制される。
【0013】
なお、前記水分供給手段が、前記ブローバイガス還流装置の前記吸気通路への導入口よりも上流側に排気ガスの導入口が配置されている排気ガス還流装置である場合には、還流された排気ガス(以下、EGRガスと称す)は、通常、水分を含んでおり、これが吸気通路の内面にて結露し、その水分が親水性皮膜に吸水されて、デポジットの下面側に入り込むことになる。特に、エンジンの始動時などの冷機状態では、吸気通路の壁面温度が低いこととEGRガス中に多量の水分が含有されていることとが相俟って、結露量が多く、デポジットの剥離効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のエンジンのデポジット抑制装置を火花点火式エンジン(以下、単にエンジンと称す)に適用した場合のシステム構成を示すスケルトン図である。 図1を参照すると、本実施の形態におけるエンジン本体100は、シリンダブロック110の下部にクランクケース120が一体に設けられ、シリンダブロック110の上部にシリンダヘッド130及びヘッドカバー140が順次結合されて構成されている。そして、クランクケース120の下面には、オイルパン部材150が不図示のボルトなどで取り付けられ、オイル溜り部を形成している。
【0015】
なお、シリンダブロック110内のボアにはピストン111が往復移動可能に収容され、コネクティングロッド112によってピストン111の往復運動がクランクシャフト113の回転運動に変換される。また、シリンダヘッド130には、燃焼室が形成され、この燃焼室に開口する吸気ポート131及び排気ポート132にそれぞれ連通されて、吸気マニホルド及び排気マニホルドが接続されている。吸気ポート131及び排気ポート132は、バルブガイドに摺動自在に案内された吸気バルブ133及び排気バルブ134によってそれぞれ開閉され、これらの吸・排気バルブ133、134は不図示の吸・排気カムシャフトにより駆動される。
【0016】
吸気ポート131は対応する吸気マニホルドを介して吸気通路162に連結されている。吸気通路162内には、吸気量を制御するスロットル弁163が配置されており、本実施の形態においては、不図示の電子制御装置(ECU)からの制御信号によりその開度が制御される、いわゆる電制スロットル弁とされている。また、吸気通路162のスロットル弁163の上流側には不図示のエアフローメータ及びエアクリーナが順に配置されている。一方、排気ポート132は排気マニホルド及び排気通路172を介して不図示の排気ガス浄化装置に連結されており、この排気ガス浄化装置内には排気ガス中のHC、CO、NOx等を浄化するための三元触媒などが配置されている。
【0017】
また、各吸気ポート131に臨むべく吸気マニホルドに設けられた不図示の各燃料噴射弁は燃料供給管を介して不図示の燃料リザーバ、いわゆるデリバリパイプに連結されており、デリバリパイプ内へは電制可変燃料ポンプから目標燃料圧となるように燃料が供給される。なお、燃焼室に臨んで設けられた点火プラグ165に給電するイグナイタも備えている。
【0018】
そして、本実施の形態においては、クランクケース120内に形成されるクランク室の上方の内部空間とスロットル弁163より下流側の吸気通路162とを連通するブローバイガス還流通路180が設けられている。さらに、このブローバイガス還流通路180にはスロットル弁163の下流側の吸気負圧に応じて開度が変化するPCVバルブ182が介装されている。
【0019】
さらに、本実施の形態においては、スロットル弁163より上流側の吸気通路162とヘッドカバー140の内部とを連通する第1新気導入通路184が設けられている。また、ヘッドカバー140の内部とクランクケース120内に形成されるクランク室内とは、シリンダヘッド130及びシリンダブロック110を貫通して形成された第2新気導入通路186でもって連通されている。かくて、本実施の形態では、第1新気導入通路184、ヘッドカバー140及び第2新気導入通路186でもって、クランクケース120内に形成されるクランク室内とスロットル弁163より上流側の吸気通路162とを連通する新気導入通路が構成されている。
【0020】
さらに、本実施の形態においては、排気ガス還流装置が設けられ、排気通路172と吸気通路162とがEGR通路190で連通されており、このEGR通路190にはEGR制御弁192が介装されると共にEGRガスを冷却するためのEGRクーラー194が設けられている。そして、EGRガスの吸気通路162への導入口190Aはブローバイガス還流通路180の吸気通路162への導入口180Aよりも上流側に配置されている。
【0021】
ここで、上記のように構成された本実施形態の一般的な作用を説明する。エンジン100の作動中においては、不図示のオイルポンプによりオイルパン150内のオイルが不図示のオイルストレーナを介して吸引され、オイルフィルタを経て、クランクケース120ないしはシリンダブロック110に形成された供給通路に供給される。そして、被潤滑部ないしは油圧作動部に供給されたオイルはその後、重力に従ってクランクケース120内部のオイルパン部材150で形成されたオイル溜り部に回収される。このように、エンジン100の作動中においてオイルは、エンジン100の被潤滑部ないしは油圧作動部に供給され、その残りの量がオイルパン150に貯留され、その上方の内部空間にブローバイガスが滞留することになる。ここで、ブローバイガスとは、ピストン111とシリンダボアとの隙間からクランクケース120内へ漏れ出るガスのことであり、このブローバイガスは多量の未燃炭化水素や水分を含んでいる。
【0022】
なお、このオイルパン150の上方の内部空間に滞留しているブローバイガスは、エンジン100の高負荷領域を除く通常の運転条件下では、スロットル弁163の下流側の吸気系に十分な負圧が発生するので、この負圧に応じて開度が変化するPCVバルブ182が開き、スロットル弁163より下流側の吸気通路162に連通されているブローバイガス還流通路180を介して、吸気系に還流される。このとき、クランクケース120内には第1及び第2の新気導入通路184,186を通じて大気が導入される。他方、エンジン100の高負荷領域での運転条件下では、PCVバルブ182が閉じられ、クランクケース120内のブローバイガスは第2新気導入通路186、ヘッドカバー140の内部、及び、スロットル弁163の上流側の吸気通路162に連通されている第1新気導入通路184を通じて吸気系に還流される。
【0023】
また、EGRガスは、エンジン100の運転状態に応じて、不図示の電子制御装置(ECU)からの制御信号によりEGR制御弁192の開度が制御され、排気通路172から吸気通路162へと流量が制御されつつ導入される。
【0024】
ここで、デポジット抑制装置の実施の形態を、図2を参照しつつ詳細に説明する。図2は、図1のエンジン100における吸気系の概略を、同一機能部位には図1と同一符号を用いて示す拡大模式図である。但し、図2は、ブローバイガス還流通路180の導入口180Aの位置が図1と異なるが、これらは概念を示すものでありいずれであってもかまわない。図2に示す実施の形態では、スロットル弁163より下流側の吸気通路としての吸気ポート131の内面に親水性皮膜Mが形成された例が示されている。なお、図示はしないが、吸気バルブ133の傘部裏面及びステムの表面に親水性皮膜を付加的に形成してもよい。
【0025】
なお、親水性皮膜Mとしては、シラノール基を有するシリカを用いるのが好ましい。そして、親水性皮膜Mはエンジン100における吸気系に塗布するなどして予め形成してもよいし、親水性皮膜Mを析出形成する溶液などを吸気系に適時に噴射して供給することにより形成するようにしてもよい。
【0026】
この実施の形態において、上述したように、ブローバイガス還流通路180を介して導入口180Aからブローバイガスが吸気系に還流され、デポジットDが付着ないしは堆積する場合は、この親水性皮膜Mの表面になされる。そこで、水分供給手段としての排気ガス還流装置により、EGRガスが導入口180Aよりも上流側の導入口190Aから導入されると、EGRガス中の水分が凝縮ないしは結露し、その水分が親水性皮膜Mに吸水される。そして、その水分Wは、図3に示すように、デポジットDの下面側に入り込むことになる。かくて、デポジットDはその付着力が弱まり、容易に剥離する。この現象は、特に、エンジン100の始動時などの冷機状態では、吸気通路の壁面温度が低いことと、EGRガス中に多量の水分が含有されていることとが相俟って、結露量が多く、デポジットの剥離効果が大きい。
【0027】
次に、本発明の他の実施の形態を、図2と同一機能部位には同一符号を用いた拡大模式図である図4に示す。この実施の形態は、水分供給手段としてブローバイガス還流装置の吸気通路へのブローバイガス還流通路180に水供給路181を合流させて直接に水分を供給するようにしたものである。この水分供給装置としては、水供給路181の上流側に水タンクを接続するか、ウインドウウォッシャー液タンク又はウォータージャケットを接続するようにしてもよい。さらに、EGRクーラー194による冷却により凝集ないしは結露した水分を抽出して容器に蓄え、この容器を接続するようにしてもよい。
【0028】
この他の実施の形態においては、吸気通路へ還流されるブローバイガス中に直接に水分が供給されるので、ブローバイガスの導入と同時に水分が親水性皮膜Mに吸水され、この親水性皮膜Mの表面になされるデポジットDの付着ないしは堆積そのものが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のエンジンのデポジット抑制装置を火花点火式エンジンへ適用した実施形態のシステム構成スケルトン図である。
【図2】図1のエンジン100における吸気系の概略を、同一機能部位には図1と同一符号を用いて示す本発明の実施形態の拡大模式図である。
【図3】本発明の実施形態における親水性皮膜MとデポジットDとの様子を説明するための拡大模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す、図2と同一機能部位には同一符号を用いた拡大模式図である。
【符号の説明】
【0030】
100 エンジン本体
110 シリンダブロック
130 シリンダヘッド
111 ピストン
162 吸気通路
163 スロットル弁
180 ブローバイガス還流通路
180A ブローバイガス導入口
182 PCVバルブ
190 EGR通路
190A EGRガス導入口
M 親水性皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブローバイガスをスロットル弁より下流側の吸気通路に導入するブローバイガス還流装置を備えたエンジンにおいて、
少なくとも前記スロットル弁より下流側の吸気通路の内面に形成された親水性皮膜と、
当該親水性皮膜へ水分を供給する水分供給手段と、
を備えることを特徴とするエンジンのデポジット抑制装置。
【請求項2】
前記水分供給手段は、前記ブローバイガス還流装置の前記吸気通路への導入口よりも上流側に排気ガスの導入口が配置されている排気ガス還流装置であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのデポジット抑制装置。
【請求項3】
前記水分供給手段は、前記ブローバイガス還流装置の前記吸気通路への導入通路に水分を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンのデポジット抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−84624(P2010−84624A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254522(P2008−254522)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】