説明

エンジンのヘッドカバー構造

【課題】エンジン70のヘッドカバー160構造において、シール性能を確保しつつ、ヘッドカバー160内部のメンテナンス性を向上させる。
【解決手段】本願発明は、エンジン70におけるシリンダヘッド72の上方を覆って動弁機構163及びインジェクタ115を収容するヘッドカバー160の構造である。ヘッドカバー160は、下部カバー体161とこれに着脱可能な上部カバー体162とに分割して構成する。下部カバー体161には、インジェクタ115に燃料を供給する燃料配管172を貫通させると共に、ヘッドカバー160外からの電力供給を中継する中継コネクタ180を取り付ける。ヘッドカバー160内に配置されるインジェクタハーネス176の一端側をインジェクタ115の端子部179に接続する。インジェクタハーネス176の他端側を中継コネクタ180に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジンにおけるシリンダヘッドの上方を覆って動弁機構及びインジェクタを収容するヘッドカバーの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のヘッドカバー構造の一例として、ヘッドカバー内にあるインジェクタ等のメンテナンスのために、上下に分割可能に構成したものが知られている(特許文献1等参照)。例えば特許文献1に記載のヘッドカバー構造においては、上部カバー体の側壁下部と下部カバー体の側壁上部とに、下部カバー体に上部カバー体を被せた状態で円形になる半円状貫通溝がそれぞれ形成されている。そして、インジェクタの端子部に一端側を接続したインジェクタハーネスの他端側を、各カバー体の半円状貫通溝にて上下から挟み込んだ状態で、下部カバー体に上部カバー体がボルト締結されている。
【0003】
また、特許文献2に記載のヘッドカバー構造では、下向き開口蓋状のヘッドカバーの側壁下部とシリンダヘッドの側壁上部とに、シリンダヘッドにヘッドカバーを被せた状態で円形になる半円状貫通溝がそれぞれ形成されている。インジェクタに燃料を供給する燃料配管の中途部を、ヘッドカバー及びシリンダヘッドの半円状貫通溝にて上下から挟み込んだ状態で、シリンダヘッドにヘッドカバーがボルト締結されている。
【0004】
つまり、特許文献1及び2のいずれも、ヘッドカバー内に配線又は配管する必要のある部材を、上下のカバー体若しくはヘッドカバーとシリンダヘッドとで上下から挟み込んで固定するという構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−274256号公報
【特許文献2】特開2001−132577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2のいずれにおいても、上下のカバー体、又はヘッドカバーとシリンダヘッドとの当接部分に半円状貫通溝が形成されているため、当該半円状貫通溝の部分のシール性能が問題となる。特にメンテナンス後に、上部カバー体又はヘッドカバーをボルト締結するに際しては、インジェクタハーネス又は燃料配管に被嵌したシール用パッキンを、半円状貫通溝にきっちりと嵌め合わせておかなければならず、作業性の点で改良の余地があった。
【0007】
そこで、本願発明は、これらの現状を検討して改善を施したエンジンのヘッドカバー構造を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、エンジンにおけるシリンダヘッドの上方を覆って動弁機構及びインジェクタを収容するヘッドカバーの構造であって、前記ヘッドカバーは、下部カバー体とこれに着脱可能な上部カバー体とに分割して構成されており、前記下部カバー体には、前記インジェクタに燃料を供給する燃料配管を貫通させると共に、前記ヘッドカバー外からの電力供給を中継する中継コネクタが取り付けられており、前記ヘッドカバー内に配置されるインジェクタハーネスの一端側が前記インジェクタの端子部に接続されており、前記インジェクタハーネスの他端側が前記中継コネクタに接続されているというものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載したエンジンのヘッドカバー構造において、前記下部カバー体における上周縁部の高さ位置は、前記動弁機構を構成する弁腕若しくはバルブブリッジの上端と同じか、又はそれより低い高さ位置に設定されているというものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載したエンジンのヘッドカバー構造において、前記ヘッドカバー内には、前記エンジンのクランク軸方向に延びるハーネスガイドが前記動弁機構より上方に配置されており、前記インジェクタハーネスの中途部が前記ハーネスガイド上に載せて固定されているというものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、エンジンにおけるシリンダヘッドの上方を覆って動弁機構及びインジェクタを収容するヘッドカバーの構造であって、前記ヘッドカバーは、下部カバー体とこれに着脱可能な上部カバー体とに分割して構成されており、前記下部カバー体には、前記インジェクタに燃料を供給する燃料配管を貫通させると共に、前記ヘッドカバー外からの電力供給を中継する中継コネクタが取り付けられており、前記ヘッドカバー内に配置されるインジェクタハーネスの一端側が前記インジェクタの端子部に接続されており、前記インジェクタハーネスの他端側が前記中継コネクタに接続されているから、前記燃料配管に加えて、前記インジェクタハーネス及び前記中継コネクタをも取り外さずに、前記上部カバー体を着脱できることになる。従って、前記ヘッドカバーの開閉作業や、前記ヘッドカバー内部のメンテナンス作業の作業性が格段に向上するという効果を奏する。その上、前記燃料配管や前記中継コネクタの貫通する部分のシール状態が前記上部カバー体の着脱の度に変わることがないから、簡単なシール構造で前記ヘッドカバーの密閉性(気密性・油密性)を確保できるという利点もある。
【0012】
請求項2の発明によると、前記下部カバー体における上周縁部の高さ位置は、前記動弁機構を構成する弁腕若しくはバルブブリッジの上端と同じか、又はそれより低い高さ位置に設定されているから、前記上部カバー体を取り外して前記ヘッドカバーの上部を開放すれば、前記弁腕や前記バルブブリッジが触り易い(調整し易い)状態に現れることになる。従って、前記弁腕及び前記バルブブリッジのクリアランス調整といったメンテナンス作業を簡単に行え、前記ヘッドカバー内部のメンテナンス性をより一層向上できるという効果を奏する。
【0013】
請求項3の発明によると、前記ヘッドカバー内には、前記エンジンのクランク軸方向に延びるハーネスガイドが前記動弁機構より上方に配置されており、前記インジェクタハーネスの中途部が前記ハーネスガイド上に載せて固定されているから、前記ハーネスガイドの存在にて、前記インジェクタハーネスの配線経路が分かり易い。従って、前記インジェクタハーネスの組付け作業性が向上するという効果を奏する。また、前記動弁機構より上方にある前記ハーネスガイド上に前記インジェクタハーネスが載置されるから、前記インジェクタハーネスは前記動弁機構の上方に離れて位置することになる。従って、前記インジェクタハーネスが前記動弁機構の動作を干渉するおそれを確実に防止できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ディーゼルエンジンの外観斜視図である。
【図2】ディーゼルエンジンの吸気マニホールド設置側の側面図である。
【図3】ディーゼルエンジンの排気マニホールド設置側の側面図である。
【図4】ディーゼルエンジンのフライホイール設置側の側面図である。
【図5】ディーゼルエンジンの冷却ファン設置側の側面図である。
【図6】ディーゼルエンジンの平面図である。
【図7】ディーゼルエンジンの燃料系統説明図である。
【図8】ディーゼルエンジンのギヤトレインを示す側面図である。
【図9】図8の部分拡大側面図である。
【図10】図9のX−X視断面図である。
【図11】フライホイールの拡大正面図である。
【図12】図11のXII−XII視断面図である。
【図13】上部カバー体を省略した状態のディーゼルエンジン上部の斜視図である。
【図14】上部カバー体を省略した状態のディーゼルエンジン上部の平面図である。
【図15】図14のXV−XV視断面図である。
【図16】トラクタの側面図である。
【図17】トラクタの平面図である。
【図18】普通型コンバインの側面図である。
【図19】普通型コンバインの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図1〜図15までのディーゼルエンジンに関する説明では、ディーゼルエンジンの吸気マニホールド設置側を「右側」、排気マニホールド設置側を「左側」として、これらを便宜的に、ディーゼルエンジンにおける四方及び上下の位置関係の基準としている。
【0016】
(1).ディーゼルエンジンの全体構造
まず、主として図1〜図6を参照しながら、ディーゼルエンジン70の全体構造について説明する。実施形態のディーゼルエンジン70は4気筒型のものであり、ディーゼルエンジン70におけるシリンダヘッド72の左側面に排気マニホールド71が配置されている。シリンダヘッド72の右側面には吸気マニホールド73が配置されている。シリンダヘッド72は、クランク軸74とピストン(図示省略)が内蔵されたシリンダブロック75上に搭載されている。シリンダブロック75の前後両側面からクランク軸74の前後先端部をそれぞれ突出させている。シリンダブロック75の前面側には冷却ファン76が設けられている。クランク軸74の前端側からVベルト77を介して冷却ファン76に回転力を伝達するように構成されている。
【0017】
図1〜図4に示すように、シリンダブロック75の後面にフライホイールハウジング78が固着されている。フライホイールハウジング78内にフライホイール79が配置されている。フライホイール79はクランク軸74の後端側に軸支されている。フライホイール79は、クランク軸74と一体的に回転するように構成されている。後述するトラクタ201又は普通型コンバイン300といった作業車両の駆動部に、フライホイール79を介してディーゼルエンジン70の動力を取り出すように構成されている。
【0018】
図11及び図12に示すように、フライホイール79の外周側には、環状のクランク軸用パルサ134と、スタータ(モータ)138用のリングギヤ135とが、フライホイール79の厚み方向に沿って互いに逆側から嵌め込み固定されている。この場合、フライホイール79の外周面のうち厚み方向の中央部が半径外向きに突出していて、階段状(外向き凸状)の係合段部133を形成している。係合段部133のうちシリンダブロック75から遠い表側に、クランク軸用パルサ134が圧入又は焼き嵌めにて装着されている。シリンダブロック75に近い裏側に、リングギヤ135が圧入又は焼き嵌めにて装着されている。
【0019】
クランク軸用パルサ134の外周面には、所定のクランク角(回転角)毎に並ぶ被検出部としての出力突起134aが形成されている。クランク軸用パルサ134の外周面のうち例えば第1又は第4気筒の上死点(TDC)に対応する部分には、欠歯部134bが形成されている。クランク軸用パルサ134の外周側には、出力突起134a及び欠歯部134bに対峙するように、クランク角検出手段としてのクランク角センサ136が近接配置されている。クランク角センサ136は、クランク軸74のクランク角(回転角)を検出するためのものであり、クランク軸74の回転に伴い、クランク軸用パルサ134の出力突起134aがその近傍を通過することによって、クランク角信号を出力するように構成されている。実施形態のクランク角センサ136は、フライホイールハウジング78の上部右側に形成されたセンサ挿入部137(図2参照)に着脱可能に装着されている。
【0020】
フライホイールハウジング78の左側には、出力軸にピニオンギヤ(図示省略)を有するスタータ(モータ)138が装着されている。スタータ138のピニオンギヤはフライホイール79のリングギヤ135に噛み合っている。ディーゼルエンジン70の始動時に、スタータ138の回転動力にてフライホイール79のリングギヤ135を回転させることにより、クランク軸74が回転開始する(いわゆるクランキングを実行する)ように構成されている。
【0021】
クランク軸用パルサ134のうちシリンダブロック75から遠い側面には、例えば欠歯部134bの箇所に、位置決めの目印となるケガキ線K1が付されている一方、フライホイール79のうちシリンダブロック75から遠い表面側の周縁部に、クランク軸用パルサ側のケガキ線K1に対応するケガキ線K2が付されている。フライホイール79の係合段部133にクランク軸用パルサ134を装着する際は、両ケガキ線K1,K2を直線状に揃えることによって、フライホイール79の係合段部133に対するクランク軸用パルサ134の位置を簡単に決められることになる。
【0022】
なお、ケガキ線K1,K2を設ける位置は上記の例に限らず、例えばクランク軸用パルサ134のうち欠歯部134bに隣接するいずれか一方の出力突起134aの箇所と、これに対応するフライホイール79の周縁部とに設けてもよい。欠歯部134bの近傍にケガキ線K1,K2があると、目視で確認し易く好適である。
【0023】
上記のように構成すると、シリンダブロック75の他側部(後面側)に、クランク軸74と一体回転するフライホイール79が配置されており、フライホイール79の外周側には、クランク角検出手段136に対するクランク軸用パルサ134と、スタータ138用のリングギヤ135とが、フライホイール79の厚み方向に沿って互いに逆側から嵌め込み固定されているから、例えばディーゼルエンジン70の検査段階であっても、フライホイール79にリングギヤ135を装着したまま、クランク軸用パルサ134を簡単に位置決め修正できることになる。従って、クランク軸用パルサ134の修正作業の作業性が向上する。また、クランク軸用パルサ134の内径とリングギヤ135の内径とをそれぞれ独立的に設定することが可能になるから、フライホイール79形状等の設計の自由度が向上する。
【0024】
更に、クランク軸用パルサ134がフライホイール79にケガキ線K1,K2合わせにて装着されるから、クランク軸用パルサ134の装着に際して位置決め専用の治具が要らなくて、目視で簡単に位置合わせでき、取付け作業の作業性がよい。また、クランク軸用パルサ134の装着位置がずれていても、目視で検査・確認でき、検査作業の作業性も向上するのである。
【0025】
さて、シリンダブロック75の下面にはオイルパン81が配置されている。シリンダブロック75の左右側面とフライホイールハウジング78の左右側面とには、機関脚取付部82がそれぞれ設けられている。各機関脚取付部82には、防振ゴムを有する機関脚体83がボルト締結されている。ディーゼルエンジン70は、各機関脚体83を介して、前述した作業車両のエンジン支持シャーシ84に防振支持される。
【0026】
図1、図2、図4及び図6に示すように、吸気マニホールド73の入口側には、EGR装置91(排気ガス再循環装置)を構成するコレクタ92を介して、エアクリーナ(図示省略)が連結される。エアクリーナ88にて除塵・浄化された外気は、EGR装置91のコレクタ92を介して、吸気マニホールド73に送られ、そして、ディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。
【0027】
図1、図2、図4及び図6に示すように、EGR装置91は、ディーゼルエンジン70の再循環排気ガス(排気マニホールド71からのEGRガス)と新気(エアクリーナからの外部空気)とを混合させて吸気マニホールド73に供給するコレクタ(EGR本体ケース)92と、排気マニホールド71にEGRクーラ94を介して接続する再循環排気ガス管95と、再循環排気ガス管95にコレクタ92を連通させるEGRバルブ96とを備えている。
【0028】
上記の構成により、エアクリーナからコレクタ92内に外部空気を供給する一方、排気マニホールド71からEGRバルブ96を介してコレクタ92内にEGRガス(排気マニホールド71から排出される排気ガスの一部)を供給する。エアクリーナからの外部空気と、排気マニホールド71からのEGRガスとが、コレクタ92内で混合された後、コレクタ92内の混合ガスが吸気マニホールド73に供給される。すなわち、ディーゼルエンジン70から排気マニホールド71に排出された排気ガスの一部が、吸気マニホールド73からディーゼルエンジン70に還流されることによって、高負荷運転時の最高燃焼温度が下がり、ディーゼルエンジン70からのNOx(窒素酸化物)の排出量が低減される。
【0029】
図1及び図3〜図6に示すように、シリンダヘッド72の左側面には、ターボ過給機100が取り付けられている。ターボ過給機100は、タービンホイール(図示省略)を内蔵したタービンケース101と、ブロアホイール(図示省略)を内蔵したコンプレッサケース102とを備えている。タービンケース101の排気ガス取入れ管105に排気マニホールド71が接続されている。図示は省略するが、タービンケース101の排気ガス排出管103には、マフラー又はディーゼルパティキュレートフィルタ等を介してテールパイプが接続される。すなわち、ディーゼルエンジン70の各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、ターボ過給機100等を経由して、テールパイプから外部に放出される。
【0030】
一方、コンプレッサケース102の給気取入れ側には、給気管104を介してエアクリーナの給気排出側が接続される。コンプレッサケース102の給気排出側には、過給管108を介して吸気マニホールド73が接続される。すなわち、エアクリーナによって除塵された外気は、コンプレッサケース102から過給管108を介してディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。
【0031】
(2).コモンレールシステム及びディーゼルエンジンの燃料系統構造
次に、図1〜図7を参照しながら、コモンレールシステム117及びディーゼルエンジン70の燃料系統構造について説明する。図1、図2、図6及び図7に示すように、ディーゼルエンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続されている。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。
【0032】
図1、図2、図6及び図7に示すように、燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。具体的には、シリンダブロック75の右側面側(吸気マニホールド73設置側)で且つ吸気マニホールド73の下方に設けられている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。また、コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して4気筒分の各インジェクタ115がそれぞれ接続されている。
【0033】
上記の構成により、燃料タンク118の燃料が燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からディーゼルエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、ディーゼルエンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、ディーゼルエンジン70の騒音振動を低減できる。
【0034】
なお、図7に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して、燃料タンク118に回収されることになる。
【0035】
(3).ディーゼルエンジンのギヤトレイン構造及び気筒判別構造
次に、図4、図5及び図8〜図10を参照しながら、ディーゼルエンジン70のギヤトレイン構造及び気筒判別構造について説明する。図5及び図8〜図10に示すように、シリンダブロック75の前面側には、ケース蓋141とケース本体142とからなる二つ割り状のギヤケース140が固定されている。実施形態のギヤケース140は、冷却ファン75を回転可能に軸支するファン軸85の下方に位置している。
【0036】
シリンダブロック75の前面から突出したクランク軸74の前端側は、ギヤケース140のケース本体142を貫通している。クランク軸74の前先端部に、クランクギヤ143が固着されている。シリンダブロック75内には、クランク軸74の回転軸心と平行状に延びるカム軸144が回転可能に軸支されている。実施形態のカム軸144は、シリンダブロック75内部のうち左側面に近い方(排気マニホールド71設置側に近い方)に寄せて配置されている。カム軸144の前端側は、クランク軸74と同様に、ギヤケース140のケース本体142を貫通している。カム軸144の前先端部にカムギヤ145が固着されている。
【0037】
ディーゼルエンジン70の右側面側に設けられた燃料供給ポンプ116は、クランク軸74の回転軸心と平行状に延びる回転軸としてのポンプ軸146を備えている。ポンプ軸146の前端側は、クランク軸74及びカム軸144と同様に、ギヤケース140のケース本体142を貫通している。ポンプ軸146の前先端部にポンプギヤ147が固着されている。
【0038】
ケース本体142のうちクランク軸74、カム軸144及びポンプ軸146で囲まれた部位には、クランク軸74の回転軸心と平行状に延びるアイドル軸148が設けられている。アイドル軸148は、ケース本体142を貫通してシリンダブロック75の前面に固定されている。アイドル軸148には、アイドルギヤ149が回転可能に軸支されている。アイドルギヤ149は、クランクギヤ143、カムギヤ145及びポンプギヤ147の3つに噛み合っている。クランク軸74の回転動力は、クランクギヤ143からアイドルギヤ149を介してカムギヤ145及びポンプギヤ147の両方に伝達される。このため、カム軸144及びポンプ軸146は、クランク軸74に連動して回転することになる。実施形態では、クランク軸74の2回転に対してカム軸144及びポンプ軸146が1回転するように、各ギヤ143,145,147,149間のギヤ比が設定されている。
【0039】
この場合、クランク軸74と共に回転するクランクギヤ143に連動してカムギヤ145及びカム軸144を回転させ、カム軸144に関連して設けられた動弁機構163(図13〜図15参照)を駆動させることによって、シリンダヘッド72に設けられた吸気弁164や排気弁165(図13〜図15参照)が開閉作動するように構成されている。また、クランクギヤ143に連動してポンプギヤ147及びポンプ軸146を回転させ、燃料供給ポンプ116を駆動させることによって、燃料タンク118の燃料をコモンレール120に圧送して、高圧の燃料をコモンレール120に蓄えるように構成されている。
【0040】
図8〜図10に詳細に示すように、ポンプギヤ147におけるケース蓋141側の側面には、ドーナツ盤状のポンプ軸用パルサ150が、ポンプギヤ147と一体回転するようにボルト締結されている。ポンプ軸用パルサ150の外周面には、90°毎(180°クランク角毎)に、被検出部としての出力突起150aが形成されている。そして、ポンプ軸用パルサ150の円周面のうち例えば第1気筒の上死点に対応する出力突起150aの直前(回転上流側)に、余分歯150bが形成されている。ポンプ軸用パルサ150の外周側には、出力突起150a及び余分歯150bに対峙するように、回転角検出手段としてのポンプ軸回転角センサ151が近接配置されている。ポンプ軸回転角センサ151は、ポンプ軸146の回転角を検出するためのものであり、ポンプ軸146の回転に伴い、ポンプ軸用パルサ150の出力突起150a及び余分歯150bがその近傍を通過することによって、回転角信号を出力するように構成されている。
【0041】
クランク軸74の回転に応じてクランク角センサ136から出力されるクランク角信号と、ポンプ軸146の回転に応じてポンプ軸回転角センサ151から出力される回転角信号とは、コントローラ(図示省略)に入力される。コントローラは各信号から気筒判別及びクランク角を演算し、演算結果に基づいて各燃料噴射バルブ119を電子制御する(気筒毎の燃料噴射及び点火を実行する)。その結果、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされることになる。
【0042】
実施形態のポンプ軸回転角センサ151は、ギヤケース140の左側部に形成された挿入部152に着脱可能に装着されている。この場合、ケース蓋141の左側部にギヤケース140内外に貫通する貫通穴153が形成されている。当該貫通穴153にポンプ軸回転角センサ151が外側から挿入固定されている。ケース蓋141において貫通穴153の形成された部分が挿入部152を構成している。
【0043】
上記のように構成すると、クランク軸74のクランク角(回転角)を検出するクランク角検出手段136と、クランク軸74に連動して回転する回転軸の回転角を検出する回転角検出手段151とを備えており、クランク角検出手段136及び回転角検出手段151の検出情報に基づいて、気筒毎の燃料噴射及び点火を実行するように構成されているエンジン70であって、吸気マニホールド73の近傍に配置された燃料供給ポンプ116に、回転軸としてのポンプ軸146を備えており、ポンプ軸146上にポンプ軸用パルサ150が設けられており、ポンプ軸用パルサ150の外周側に回転角検出手段151が近接配置されているから、エンジン70のうち比較的低温である吸気マニホールド73設置側に寄せて、回転角検出手段151が位置することになる。換言すると、クランク角検出手段136といったその他の電子部品・アクチュエータ類と共に、回転角検出手段151まで含めて、エンジン70の吸気マニホールド73設置側に集中配置されることになる。このため、回転角検出手段151に対して、エンジン70の熱による悪影響を回避できる。また、電装用のハーネス類をコンパクトにまとめられるから、組付け作業(接続作業)の効率化に貢献できる。
【0044】
また、シリンダブロック75の一側部(前面側)に、クランク軸74上のクランクギヤ143と、ポンプ軸146上のポンプギヤ147と、クランクギヤ143とポンプギヤ147とに噛み合うアイドルギヤ149とを収容するギヤケース140が配置されており、ギヤケース140内のポンプギヤ147に、ポンプ軸用パルサ150が一体回転するように取り付けられているから、前述の効果に加えて、アイドルギヤ149を交換することによって、燃料供給ポンプ116をクランク軸74と等速で駆動させたり、1/2速駆動回転させたりすることが簡単に行える。このため、エンジン70の構成上の汎用性が向上する。
【0045】
更に、ギヤケース140には、ポンプ軸用パルサ150に対峙するように回転角検出手段151を装着するための挿入部152が形成されているから、ギヤケース140の外側から回転角検出手段151を挿入部152に装着でき、組付け作業が簡単になる。従って、前述の効果と併せて、エンジン製造ラインでの作業性向上及び省工程化に寄与できるのである。
【0046】
(4).ディーゼルエンジンの上部構造
次に、図13〜図15を参照しながら、ディーゼルエンジン70の上部構造の詳細について説明する。図13〜図15に示すように、ディーゼルエンジン70におけるシリンダヘッド72の上面はヘッドカバー160にて覆われている。ヘッドカバー160は、囲い壁状の下部カバー体161と、これに着脱可能な下向き開口蓋状の上部カバー体162とに、上下に2分割して構成されている。ヘッドカバー160内部の空間は弁腕室を形成している。実施形態の下部カバー体161はシリンダヘッド72の上面にボルト締結されている。上部カバー体162は下部カバー体161の側壁にボルト締結されている。シリンダヘッド72内には、カム軸144に関連させた動弁機構163が配置されていると共に、インジェクタ115を構成する燃料噴射バルブ119(実施形態では4気筒分)が直立状態で配置されている。更に、シリンダヘッド72内には、各気筒に対応して吸気弁164及び排気弁165が設けられている。実施形態のディーゼルエンジン70は、気筒毎に2つの吸気弁164及び2つの排気弁165を備えた4弁タイプのものになっている。
【0047】
また、ディーゼルエンジン70はOHV式のものであり、動弁機構163は、カム軸144に設けられた吸排気カム(図示省略)にて上下動するプッシュロッド166と、プッシュロッド166の上下動にて、ヘッドカバー160内にある横長の弁腕軸168回りに揺動する弁腕167とを備えている。プッシュロッド166の上端側はシリンダヘッド72を貫通してヘッドカバー160内に突出している。そして、プッシュロッド166の上端側は弁腕167の一端側に連結されている。弁腕167の他端側は、バルブブリッジ169を介して2つの吸気弁164(又は2つの排気弁165)に当接している。カム軸144の回転にてプッシュロッド166が上下動して、各弁腕167が弁腕軸168回りに揺動することにより、各気筒の吸気弁164の組と排気弁165の組とが開閉作動するように構成されている。実施形態の弁腕167は、各気筒の吸気弁164の組と排気弁165の組とにそれぞれ1つ設けられている。すなわち、1つの気筒に対して2つの弁腕167が設けられている(計8つ)。
【0048】
気筒毎の燃料噴射バルブ119は、これに対応する吸気弁164の組と排気弁165の組とで囲まれた中央部分に位置している。燃料噴射バルブ119は、シリンダヘッド72の上面にボルト締結されるバルブ押さえ体170にて上方から押さえ固定されている。バルブ押さえ体170のうち燃料噴射バルブ119と反対側の端部は、弁腕軸168を軸支する軸受ブロック171にて下方から支持されている。各バルブ押さえ体170は、各気筒における吸気弁164用の弁腕167と排気弁165用の弁腕167との間に位置している。
【0049】
また、気筒毎の燃料噴射バルブ119には、外部から高圧の燃料を供給するための燃料配管172が接続されている。燃料配管172は、下部カバー体161のうち吸気マニホールド73設置側の側壁を貫通して、各燃料噴射バルブ119に連通している。実施形態の燃料配管172は、下部カバー体161のうち吸気マニホールド73設置側の側壁を貫通する高圧シール部材173、及び、高圧シール部材173とコモンレール120とをつなぐ燃料噴射管126を備えている。高圧シール部材173の先端部(下部カバー体161内に突出した端部)には、燃料噴射バルブ119の中途部から突出した受けノズル部174が嵌め合わされている。高圧シール部材173は、下部カバー体161における吸気マニホールド73設置側の側壁の貫通部分にきつく差し込み固定されていて、前記貫通部分を確実にシールしている。更に、気筒毎の燃料噴射バルブ119は、バルブ燃料戻り管175を介して互いに接続されており、バルブ燃料戻り管175を通じて、余分な燃料を燃料タンク118側へ戻すように構成されている。
【0050】
ヘッドカバー160内には、平面視において各燃料噴射バルブ119を挟んで燃料配管172と反対側に、各燃料噴射バルブ119に電力を供給するためのインジェクタハーネス176が配置されている。インジェクタハーネス176の中途部及び一端側から、各燃料噴射バルブ119に向かう分岐ハーネス177がそれぞれ延びている。分岐ハーネス177の先端側には、+極、−極で1組のターミナル178が設けられている。各ターミナル178は、これに対応する燃料噴射バルブ119の上端部に設けられた端子部179に接続されている。
【0051】
インジェクタハーネス176の他端側は、下部カバー体161における吸気マニホールド73設置側の側壁を貫通する中継コネクタ180に、下部カバー体161の内部側から接続されている。中継コネクタ180は、ヘッドカバー160外から各燃料噴射バルブ119への電力供給を中継するためのものである。実施形態の中継コネクタ180は、下部カバー体161における吸気マニホールド73設置側の側壁のうち冷却ファン76に近い貫通部分にきつく差し込み固定されていて、前記貫通部分を確実にシールしている。実施形態のインジェクタハーネス176は、中継コネクタ180から、冷却ファン76寄りの燃料噴射バルブ119の周りを迂回して、弁腕軸168に沿って延びるように配置されている。従って、ヘッドカバー160内では、各燃料噴射バルブ119(インジェクタ115)、インジェクタハーネス176及び中継コネクタ180がユニット化されている。
【0052】
詳細は図示しないが、中継コネクタ180において下部カバー体161から外向きに突出した外端側には、コントローラにつながる外部ハーネスが着脱可能に接続される。従って、インジェクタハーネス176の他端側をヘッドカバー160外に引き出す必要がなく、ヘッドカバー160内において、各燃料噴射バルブ119に対する配線構造が完結することになる。コントローラから外部ハーネスを経由した電力(制御信号)は、中継コネクタ180及びインジェクタハーネス176を介して各燃料噴射バルブ119に伝送され、これら各燃料噴射バルブ119が電子制御されることになる(気筒毎の燃料噴射及び点火が実行される)。
【0053】
下カバー体161の内周側には、平面視において各燃料噴射バルブ119を挟んで燃料配管172と反対側に、弁腕軸168に沿って(ディーゼルエンジン70のクランク軸74方向に)延びるハーネスガイド181が取り付けられている。実施形態のハーネスガイド181は下向きに延びる複数の枝足182を備えている一方、下部カバー体161における吸気マニホールド73設置側の側壁には、内向きに突出する複数の補強リブ183が形成されている。各枝足182の下端部がこれに対応する補強リブ183の上端面にねじ止めされている。ハーネスガイド181の横長部上には、インジェクタハーネス176の中途部が横長部に沿って延びる姿勢で載置され、例えば結束バンド(図示省略)等にて固定されている。
【0054】
各枝足182の上下長さは、ハーネスガイド181の横長部が各バルブ押さえ体170より上方に位置する程度に長くなっている。このため、インジェクタハーネス176は動弁機構163の上方に離れて位置することになり、インジェクタハーネス176が動弁機構163の動作を干渉するおそれはない。また、図15に詳細に示すように、下部カバー体161における側壁の上周縁部161aの高さ位置は、動弁機構163を構成する弁腕167若しくはバルブブリッジ169の上端と同じか、又はそれより低い高さ位置に設定されている。換言すると、下部カバー体161における側壁の上下高さHは、側面視において上部カバー体162を取り外した状態で、弁腕167若しくはバルブブリッジ169の上端が露出する程度の寸法に設定されている。
【0055】
従って、上部カバー体162を取り外してヘッドカバー160(弁腕室)の上部を開放すれば、弁腕167やバルブブリッジ169が触り易い(調整し易い)状態に現れることになり、弁腕167及びバルブブリッジ169のクリアランス調整といったメンテナンス作業を簡単に行える。この場合、下部カバー体161はシリンダヘッド72から取り外さなくてよいから、燃料配管172(高圧シール部材173及び燃料噴射管126)を各燃料噴射バルブ119の受けノズル部174から引き抜く必要はない。また同様に、インジェクタハーネス176及び中継コネクタ180を取り外す必要もない。従って、高圧シール部材173や中継コネクタ180の貫通する部分のシール状態が上部カバー体162の着脱の度に変わることがなく、簡単なシール構造でヘッドカバー160の密閉性(気密性・油密性)を確保できる。その上、上部カバー体162の着脱の際に、燃料配管172やインジェクタハーネス176の取り外しが不要であるから、作業性が格段に向上する。
【0056】
上記のように構成すると、エンジン70におけるシリンダヘッド72の上方を覆って動弁機構163及びインジェクタ115を収容するヘッドカバー160の構造であって、ヘッドカバー160は、下部カバー体161とこれに着脱可能な上部カバー体162とに分割して構成されており、下部カバー体161には、インジェクタ115に燃料を供給する燃料配管172を貫通させると共に、ヘッドカバー160外からの電力供給を中継する中継コネクタ180が取り付けられており、ヘッドカバー160内に配置されるインジェクタハーネス176の一端側がインジェクタ115の端子部に接続されており、インジェクタハーネス176の他端側が中継コネクタ180に接続されているから、前述の通り、燃料配管172に加えて、インジェクタハーネス176及び中継コネクタ180をも取り外すことなく、上部カバー体162を着脱できることになる。従って、ヘッドカバー160の開閉作業や、ヘッドカバー160内部のメンテナンス作業の作業性が格段に向上するという効果を奏する。その上、燃料配管172(高圧シール部材173)や中継コネクタ180の貫通する部分のシール状態が上部カバー体162の着脱の度に変わることがないから、簡単なシール構造でヘッドカバー160の密閉性(気密性・油密性)を確保できるという利点もある。
【0057】
また、下部カバー体161における上周縁部161aの高さ位置は、動弁機構163を構成する弁腕167若しくはバルブブリッジ169の上端と同じか、又はそれより低い高さ位置に設定されているから、上部カバー体162を取り外してヘッドカバー160(弁腕室)の上部を開放すれば、弁腕167やバルブブリッジ169が触り易い(調整し易い)状態に現れることになる。従って、弁腕167及びバルブブリッジ169のクリアランス調整といったメンテナンス作業を簡単に行え、ヘッドカバー160内部のメンテナンス性をより一層向上できるという効果を奏する。
【0058】
更に、ヘッドカバー160内には、エンジン70のクランク軸74方向に延びるハーネスガイド181が動弁機構163より上方に配置されており、インジェクタハーネス176の中途部がハーネスガイド181上に載せて固定されているから、ハーネスガイド181の存在にて、インジェクタハーネス176の配線経路が分かり易い。従って、インジェクタハーネス176の組付け作業性が向上するという効果を奏する。また、動弁機構163より上方にあるハーネスガイド181上にインジェクタハーネス176が載置されるから、インジェクタハーネス176は動弁機構163の上方に離れて位置することになる。従って、インジェクタハーネス176が動弁機構163の動作を干渉するおそれを確実に防止できるという利点もある。
【0059】
(5).ディーゼルエンジンのトラクタへの搭載構造
次に、図16及び図17を参照して、図1〜図15に示すディーゼルエンジン70をトラクタ201に搭載した構造を説明する。作業車両としてのトラクタ201は、走行機体202を左右一対の前車輪203と同じく左右一対の後車輪204とで支持し、走行機体202の前部に搭載されたディーゼルエンジン70にて後車輪204及び前車輪203を駆動することにより、前後進走行するように構成される。
【0060】
エンジン70はボンネット206にて覆われている。走行機体202の上面にはキャビン207が設置され、キャビン207の内部には、オペレータが着座する操縦座席208と、操縦座席208の前方に位置する操向手段としての丸ハンドル形状の操縦ハンドル209が設けられている。操縦座席208に着座したオペレータが操縦ハンドル209を回動操作することにより、その操作量(回動量)に応じて左右前車輪203のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。キャビン207の底部には、オペレータが搭乗するためのステップ210が設けられている。
【0061】
図16に示すように、走行機体202は、前バンパ212及び前車軸ケース213を有するエンジンフレーム214と、エンジンフレーム214の後部にボルトの締結にて着脱可能に連結する左右の機体フレーム216とにより構成される。前車輪203は、エンジンフレーム214の外側面から外向きに突出するように装着された前車軸ケース213を介して取り付けられている。また、機体フレーム216の後部には、ディーゼルエンジン70からの出力を適宜変速して後車輪204(前車輪203)に伝達するためのミッションケース217が連結されている。後車輪204は、ミッションケース217に対して、当該ミッションケース217の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース(図示省略)を介して取り付けられている。
【0062】
図16に示すように、ミッションケース217の後部上面には、耕耘機等の作業機(図示省略)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構220が着脱可能に取り付けられている。耕耘機等の作業機は、ミッションケース217の後部にロワーリンク221及びトップリンク222を介して昇降動可能に連結される。更に、ミッションケース217の後側面に、作業機を駆動するPTO軸223が設けられている。
【0063】
詳細は図示していないが、ディーゼルエンジン70の後面側からクランク軸74及びフライホイール79等を介して、ミッションケース217の前面側にディーゼルエンジン70の回転動力を伝達するように構成している。ディーゼルエンジン70の回転動力をミッションケース217に伝達し、次いで、ミッションケース217の油圧無段変速機や走行副変速ギヤ機構にてディーゼルエンジン70の回転動力を適宜変速して、差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から後車輪204に駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構にて適宜変速したディーゼルエンジン70の回転を、前車軸ケース213の差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から前車輪203に伝達するように構成している。
【0064】
(6).ディーゼルエンジンの普通型コンバインへの搭載構造
図18及び図19を参照して、図1〜図15に示すディーゼルエンジン70を普通型コンバイン300に搭載した構造を説明する。作業車両としての普通型コンバイン300は、走行部としての左右一対の走行クローラ302にて支持された走行機体301を備えている。走行機体301の前部には、稲、麦、大豆等の植立穀稈を刈り取りながら取り込む刈取装置303が単動式の油圧シリンダ304にて昇降調節可能に装着されている。
【0065】
走行機体301の前部一側(実施形態では前部右側)には、キャビンタイプの操縦部305が搭載されている。走行機体301の後部には、脱穀後の穀粒を貯留するための穀粒タンク307と、動力源としてのディーゼルエンジン70とが配置されている。走行機体301の他側(実施形態では左側)には、刈取装置303から送られてきた刈取穀稈を脱穀処理するための脱穀装置308が搭載されている。脱穀装置308の下方には、揺動選別及び風選別を行うための選別装置309が配置されている。
【0066】
走行部としての左右の走行クローラ302は、走行機体301の下方にある前後長手のトラックフレーム310の前後端にそれぞれ配置された駆動輪311及び従動輪312と、トラックフレーム310の長手中途部に複数個配置された転動輪313と、これら車輪311〜313の外周に巻き掛けられた履帯314とを備えている。左右の駆動輪311がミッションケース(図示省略)から左右外向きに突出した駆動出力軸からの動力にて回転駆動することにより、左右の履帯314が各車輪311〜313の周りを回行駆動するように構成されている。
【0067】
刈取装置303は、脱穀装置308の前部開口に連通した角筒状のフィーダハウス315と、フィーダハウス315の前端に連設された横長バケット状のプラットホーム316とを備えている。フィーダハウス315の下面部と走行機体301の前端部とが単動式の油圧シリンダ304を介して連結されている。プラットホーム316内には横送りオーガ317が回転可能に軸支されている。横送りオーガ317の前部上方にはタインバー付きの掻き込みリール318が配置されている。プラットホーム316の下面側には横長バリカン状の刈刃319が配置されている。プラットホーム316の前部には左右一対の分草体320が突設されている。掻き込みリール318にて後方に引き倒された植立穀稈は、刈刃319にて刈り取られたのち、横送りオーガ317の回転駆動にてプラットホーム316の左右中央部付近に集められる。集められた刈取穀稈は、フィーダハウス315内のチェーンコンベヤ321を介して脱穀装置308に送り込まれる。
【0068】
脱穀装置308の扱室には、刈取穀稈を脱穀処理するための前後長手の扱胴322が内蔵されている。なお、詳細は図示していないが、扱胴322の外周面には、複数の切歯を有するスクリュー羽根が螺旋状に巻回突設されている。扱室内に搬送された刈取穀稈は、扱胴322の各切歯にて細かく切断される。
【0069】
脱穀装置308の下方に配置された選別装置309は、受網やチャフシーブ等を有する揺動選別装置323と、唐箕ファン等を有する風選別装置324とを備えている。受網から漏下した穀粒は、揺動選別装置323及び風選別装置324にて、精粒等の一番物、枝梗付き穀粒等の二番物及び排稈(藁屑)等に選別される。揺動選別装置323及び風選別装置324による選別を経て、走行機体301の下部にある一番受け樋に集められた精粒等の一番物は、一番コンベヤ325及び揚穀コンベヤ(図示省略)を介して穀粒タンク307に集積される。枝梗付き穀粒等の二番物は、二番コンベヤ326及び還元コンベヤ327等を介して扱室に戻され、扱胴322にて再脱穀される。再脱穀後の二番物は選別装置309にて再選別される。排稈等は、脱穀装置308の後部下方に配置されたスプレッダ328にて細かく切断されたのち、走行機体301の後方に排出される。穀粒タンク307内の穀粒は、走行機体301の後部に立設された排出オーガ329を介して、輸送用トラックの荷台等(走行機体301の外部)に搬出される。
【符号の説明】
【0070】
70 ディーゼルエンジン
72 シリンダヘッド
73 吸気マニホールド
74 クランク軸
75 シリンダブロック
115 インジェクタ
120 コモンレール
160 ヘッドカバー
161 下部カバー体
161a 上周縁部
162 上部カバー体
163 動弁機構
167 弁腕
168 弁腕軸
169 バルブブリッジ
172 燃料配管
173 高圧シール部材
174 受けノズル部
175 バルブ燃料戻り管
176 インジェクタハーネス
179 端子部(バルブ側)
180 中継コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにおけるシリンダヘッドの上方を覆って動弁機構及びインジェクタを収容するヘッドカバーの構造であって、
前記ヘッドカバーは、下部カバー体とこれに着脱可能な上部カバー体とに分割して構成されており、前記下部カバー体には、前記インジェクタに燃料を供給する燃料配管を貫通させると共に、前記ヘッドカバー外からの電力供給を中継する中継コネクタが取り付けられており、前記ヘッドカバー内に配置されるインジェクタハーネスの一端側が前記インジェクタの端子部に接続されており、前記インジェクタハーネスの他端側が前記中継コネクタに接続されている、
エンジンのヘッドカバー構造。
【請求項2】
前記下部カバー体における上周縁部の高さ位置は、前記動弁機構を構成する弁腕若しくはバルブブリッジの上端と同じか、又はそれより低い高さ位置に設定されている、
請求項1に記載したエンジンのヘッドカバー構造。
【請求項3】
前記ヘッドカバー内には、前記エンジンのクランク軸方向に延びるハーネスガイドが前記動弁機構より上方に配置されており、前記インジェクタハーネスの中途部が前記ハーネスガイド上に載せて固定されている、
請求項1又は2に記載したエンジンのヘッドカバー構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2010−261323(P2010−261323A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110626(P2009−110626)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】