説明

エンジンの吸気装置

【課題】シリンダ内のガス流動を強化し吸入空気量を増大するとともに既存のシリンダヘッドに容易に適用可能なエンジンの吸気装置を提供する。
【解決手段】空気をシリンダC内に導入する吸気ポート120を有するシリンダヘッド100と、吸気ポートの入口部に接続され、吸気ポートに空気を導入するインシュレータ200とを備えるエンジンの吸気装置1を、吸気ポートは燃焼室側の端部近傍に燃焼室側に向きを変える屈曲部123が形成され、吸気ポート内において屈曲部よりも上流側かつシリンダ側の内周面に隣接して設けられ、内周面からの突出量が上流側から下流側にかけて連続的に大きくなるようにインシュレータと一体に形成された整流板210を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気装置に関し、特にシリンダ内のガス流動を強化し吸入空気量を増大するとともに既存のシリンダヘッドに容易に適用可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用等の汎用エンジンのシリンダヘッドは、コスト低減の観点から、自動車用等のLP鋳造ではなくダイキャストによって形成されることが一般的である。
このため、吸気ポートもダイキャストでの製造を考慮した形状とする必要があり、吸気ポートの入り側(キャブレター側)と出側(燃焼室側)との型割りに起因して、ほぼ直角に急激に折れ曲がった屈曲部を有する形状となってしまう場合が多い。
吸気ポートにこのような屈曲部が存在すると、エッジ部において流れが剥離し、タンブル等のシリンダ内ガス流動が低下したり、空気流量が低下するなど、エンジンの吸気性能に影響を与えてしまう。
【0003】
このような汎用エンジンの吸気装置に関する従来技術として、例えば特許文献1には、エンジンの吸気抵抗を小さくすることを目的として、シリンダヘッドとキャブレターとの間に設けられた熱遮断用のヒートインシュレータの一部をシリンダヘッド内に延伸し、吸気ポートの一部を構成するようにして、吸気ポートの湾曲を穏やかにしたエンジンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−192176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術においては、吸気抵抗の低減は可能であるが、燃焼の改善に有効なタンブル等のシリンダ内ガス流動強化についてはほとんど配慮されていない。
また、特許文献1に記載された技術は、シリンダヘッドとインシュレータとを、必ず組み合わせて使用される専用部品として設計する必要があり、例えば既存のシリンダヘッドに対して後付けで適用することは不可能である。
本発明の課題は、シリンダ内のガス流動を強化し吸入空気量を増大するとともに既存のシリンダヘッドに容易に適用可能なエンジンの吸気装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、空気をシリンダ内に導入する吸気ポートを有するシリンダヘッドと、前記吸気ポートの入口部に接続され、前記吸気ポートに空気を導入するインシュレータとを備えるエンジンの吸気装置であって、前記吸気ポートは燃焼室側の端部近傍に前記燃焼室側に向きを変える屈曲部が形成され、前記吸気ポート内において前記屈曲部よりも上流側かつシリンダ側の内周面に隣接して設けられ、前記内周面からの突出量が上流側から下流側にかけて連続的に大きくなるように前記インシュレータと一体に形成された整流板を備えることを特徴とするエンジンの吸気装置である。
これによれば、バルブリフトが高い領域では、整流板によって主流が屈曲部のエッジを避ける方向に偏向するため、エッジ部における気流の剥離が抑制され、吸気バルブの手前での流量が増加する。
また、バルブリフトが低い領域では、整流板によってポートの上下で流速差が形成されるため、シリンダ内のタンブルを強化して燃焼を改善することができる。
さらに、このような整流板を有するインシュレータは、既存のシリンダヘッドに後付けで適用することが可能であり、生産中の機種に対しても容易に採用することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記整流板における前記空気の主流側の表面が実質的に平面状に形成されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの吸気装置である。
これによれば、簡単な形状によって屈曲部のエッジ部やバルブシート部との気流の干渉を抑制し、良好な吸気性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、シリンダ内のガス流動を強化し吸入空気量を増大するとともに既存のシリンダヘッドに容易に適用可能なエンジンの吸気装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用したエンジンの吸気装置の実施例における模式的部分断面斜視図である。
【図2】実施例のシリンダヘッドにおける吸気ポート部のダイキャスト型割りを示す模式図である。
【図3】本発明の比較例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図である。
【図4】実施例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図であって、バルブリフトが高い状態を示す図である。
【図5】実施例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図であって、バルブリフトが低い状態を示す図である。
【図6】実施例及び比較例におけるバルブリフトと吸気量(質量流量)との相関を示すグラフである。
【図7】実施例及び比較例におけるバルブリフトとタンブル比との相関を示すグラフである。
【図8】実施例及び比較例におけるエンジンの回転数と全開時出力との相関を示すグラフである。
【図9】実施例及び比較例におけるエンジンの負荷率とTHC排出量との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、シリンダ内のガス流動を強化し吸入空気量を増大するとともに既存のシリンダヘッドに容易に適用可能なエンジンの吸気装置を提供する課題を、混合気がポート屈曲部のエッジ部を飛び越えて流れるように整流するヒレ状あるいはジャンプ台状の整流板をインシュレータと一体に形成することによって解決した。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を適用したエンジンの吸気装置(以下単に「吸気装置」と称する)の実施例について説明する。
実施例の吸気装置は、例えば、汎用の4ストロークOHC単気筒ガソリンエンジンのシリンダ内に新気(燃焼用空気)を導入するものである。
図1は、実施例の吸気装置の模式的部分断面斜視図である。
図1に示すように、吸気装置1は、シリンダヘッド100、インシュレータ200を有して構成されている。
【0012】
シリンダヘッド100は、シリンダC(図2参照)を有するシリンダブロックの端部に設けられ、燃焼室110、吸気ポート120、吸気バルブ130(図4、図5等参照)のほか、図示しない排気ポート、排気バルブ、点火プラグ、吸気バルブ及び排気バルブを駆動する動弁駆動機構等を備えている。
燃焼室110は、シリンダヘッド100のシリンダ側の端面(図1における下面)を例えばバスタブ状に凹ませて形成されている。
【0013】
吸気ポート120は、燃焼室110内に、図示しないキャブレターで生成された混合気(空気及び気化した燃料)を導入する流路である。
吸気ポート120は、上流部121と下流部122との間に屈曲部123を有する。
上流部121は、インシュレータ200内を経由してキャブレターから供給される混合気がシリンダヘッド100に導入される部分であって、シリンダ中心軸方向に対して傾斜して配置されている。
例えば、シリンダ中心軸方向がほぼ鉛直に配置されるエンジンの場合、上流部121は、インシュレータ200側が下流部122側に対して高くなるように傾斜している。
下流部122は、上流部121から導入された混合気を燃焼室110に導入する部分であって、シリンダ中心軸方向とほぼ平行に配置されている。
下流部122の燃焼室110側の端部には、吸気バルブ130の外周縁部と当接するバルブシートが形成されている。
【0014】
シリンダヘッド100は、アルミダイキャストによって形成されている。
図2は、実施例のシリンダヘッドにおける吸気ポート部のダイキャスト型割りを示す模式図である。
図2に示すように、金型のうち吸気ポート120の上流部121を形成する部分(図2に一点鎖線で示す部分)は、上流部121の長手方向に沿ってインシュレータ200側に抜かれ、下流部122を形成する部分(図2に破線で示す部分)は、シリンダの中心軸方向に沿って下方に抜かれるようになっている。
このような型割りに起因して、吸気ポート120の上流部121と下流部122との間には、鋭利なエッジ部を有する屈曲部123が形成されることになる。
【0015】
図4、図5に示す吸気バルブ130は、吸気ポート120の燃焼室110側の端部を開閉するものである。
吸気バルブ130は、ほぼ円盤状の弁体の中央から円柱状のバルブステムを立設して構成されている。
【0016】
インシュレータ200は、シリンダヘッド100と図示しないキャブレターとの間に設けられ、エンジン本体からキャブレターへの熱伝導を抑制してキャブレターの過熱を防止するものである。
インシュレータ200は、例えば合成樹脂等のシリンダヘッド100よりも熱伝導率が低い材料によって一体に形成されている。
【0017】
インシュレータ200は、シリンダヘッド取付面部201、キャブレター取付面部202、吸気流路部203を有する。
シリンダヘッド取付面部201は、シリンダヘッド100の吸気ポート120の入口部に固定されるほぼ平面状の面部である。
キャブレター取付面部202は、シリンダヘッド取付面部201の反対側に設けられ、図示しないキャブレターのフランジ部が固定されるほぼ平面状の面部である。
吸気流路部203は、キャブレター取付面部202からシリンダヘッド取付面部201まで貫通して形成され、キャブレターが生成した混合気を吸気ポート120に導入するものである。
【0018】
また、インシュレータ200には、以下説明するヒレ状あるいはジャンプ台状の整流板210が設けられている。
整流板210は、シリンダヘッド取付面部201からシリンダヘッド100側へ突き出して形成され、吸気ポート120の上流部121内に挿入される。
整流板210は、吸気ポート120の上流部121におけるシリンダ側(図1のようにシリンダ中心軸方向を鉛直に配置した場合の下方)の内面に隣接して配置されている。
【0019】
整流板210の混合気流の主流が当接する上面部211(シリンダ側と反対側の面部)は、実質的に平面状に形成されるとともに、吸気ポート120の上流部121の内面からの距離が、混合気の流れ方向における上流側から下流側にかけて連続的に増加するように、上流部121の内面に対して傾斜して配置されている。なお、上面部211と反対側の面部には、剛性や強度を確保するための補強用のリブ等が適宜設けられる。
整流板210の下流側の端部は、吸気ポート120の長手方向と直交する方向に沿って延在するストレートなエッジ部212が形成されている。
このエッジ部212は、屈曲部123よりも上流側の領域において、上流部121の内面から離間して配置されている。
なお、整流板210の長さ、角度等は、適用対象となるエンジンの特性に応じて適宜設定される。
【0020】
以下、上述した実施例の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。
なお、比較例において、上述した実施例と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略する。
比較例の吸気装置は、上述した実施例におけるインシュレータ200の整流板210を設けていないものである。
図3は、比較例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図である。
比較例においては、吸気ポート120に屈曲部123が存在することによって、屈曲部123の内側のエッジ部で気流の剥離が生じ、吸気バルブ130の手前の流量が低下してしまう。
【0021】
図4は、実施例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図であって、バルブリフトが高い状態を示す図である。
実施例においては、整流板210によって偏向した主流が屈曲部123のエッジ部を飛び越えるため、エッジ部における気流の剥離が抑制され、吸気バルブ130の手前の流量が増加する。
【0022】
図5は、実施例の吸気ポートにおける空気の流れを示す模式図であって、バルブリフトが低い状態を示す図である。
実施例でも低リフト時には、吸気ポート120内の流速が低下するため、屈曲部123のエッジ部での気流の剥離の影響は生じる。
しかし、整流板210が存在することによって、吸気ポート120の上下で気流の流速差が形成されるため、シリンダ内のタンブル強化を図ることができる。
【0023】
以下、実施例及び比較例の試験結果について図6乃至図9を参照して説明する。
図6は、定常流試験における実施例及び比較例のバルブリフトと吸気量(質量流量)との相関を示すグラフである。
図6において、横軸は吸気バルブ130のリフト量を示し、縦軸は質量流量を示している。
図6に示すように、実施例においては、バルブリフトが6mm以上の高リフト領域において、比較例対比5%以上質量流量を増加させることができる。
【0024】
図7は、定常流試験における実施例及び比較例のバルブリフトとタンブル比との相関を示すグラフである。
図7において、横軸は吸気バルブ130のリフト量を示し、縦軸はタンブル比を示している。
図7に示すように、実施例においては、バルブリフトが2〜6mm程度の低〜中リフト領域において、比較例に対して顕著にタンブル比を向上することができる。
実際のエンジンの運転時には、バルブリフトが低い状態と高い状態とが周期的に繰り返されることから、上述した吸気流量の増加、及び、タンブル比の向上効果がともに得られることになる。
【0025】
図8は、実施例及び比較例におけるエンジンの回転数と全開時出力との相関を示すグラフである。
図8において、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸は軸出力を示している。
図8に示すように、3200rpm以上の中〜高回転の領域において、実施例では比較例に対して軸出力が向上していることがわかる。
【0026】
図9は、実施例及び比較例におけるエンジンの負荷率とTHC排出量との相関を示すグラフである。
図9において、横軸はエンジンの負荷率を示し、縦軸はTHC排出量を示している。
図9に示すように、実施例においては、比較例に対して全ての負荷領域においてTHC排出量が低減されており、燃焼状態が改善されていることがわかる。
【0027】
以上説明したように、本実施例によれば、バルブリフトが高い領域では、整流板210によって混合気の主流が屈曲部123のエッジを避ける方向に偏向するため、エッジ部123における気流の剥離が抑制され、吸気バルブ130の手前での流量が増加する。
また、バルブリフトが低い領域では、整流板210によって吸気ポート120の上下で流速差が形成されるため、シリンダC内のタンブルを強化して燃焼を改善することができる。
これらの効果によって、出力の向上や排ガスの改善を図ることが可能である。
さらに、このような整流板210を有するインシュレータ200は、既存のシリンダヘッド100を加工することなく後付けで適用することが可能であり、生産中の機種に対しても容易に採用することができる。特に、汎用エンジンにおいては、複数機種で共通のシリンダヘッドを用いる場合があるが、このような場合であっても、シリンダヘッドに設計変更を加えることなく機種ごとに吸気性能のチューニングを行なうことが可能である。
また、整流板210をインシュレータ200と一体に形成したことによって、部品点数や組立工数が増加することがない。
【0028】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、エンジンの吸気装置を構成する各部材の形状、構造、材質、寸法、形状等は、上述した実施例に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 吸気装置 100 シリンダヘッド
110 燃焼室 120 吸気ポート
121 上流部 122 下流部
123 屈曲部 130 吸気バルブ
200 インシュレータ 201 シリンダヘッド取付面部
202 キャブレター取付面部 203 吸気流路部
210 整流板 211 上面部
212 エッジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気をシリンダ内に導入する吸気ポートを有するシリンダヘッドと、
前記吸気ポートの入口部に接続され、前記吸気ポートに空気を導入するインシュレータと
を備えるエンジンの吸気装置であって、
前記吸気ポートは燃焼室側の端部近傍に前記燃焼室側に向きを変える屈曲部が形成され、
前記吸気ポート内において前記屈曲部よりも上流側かつシリンダ側の内周面に隣接して設けられ、前記内周面からの突出量が上流側から下流側にかけて連続的に大きくなるように前記インシュレータと一体に形成された整流板を備えること
を特徴とするエンジンの吸気装置。
【請求項2】
前記整流板における前記空気の主流側の表面が実質的に平面状に形成されること
を特徴とする請求項1に記載のエンジンの吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−96360(P2013−96360A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242128(P2011−242128)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】