説明

エンジンの弁作動特性変更装置に用いられる電磁弁

【課題】エンジンの弁作動特性を、電磁弁により2系統の給油路を制御して変更する弁作動特性変更装置において、変更制御の際の遅れを防止し応答性を向上する。
【解決手段】エンジンのロッカアーム6には、ボール式逆止弁102を開閉して弁間隙を調整するラッシュアジャスタ10が取り付けてあり、ニードルピストン103の下側及び上側には、第1給油路21と第2給油路22とが連結される。両供給路の連通部に置かれた電磁弁24には、上部開口24U及び下部開口24Lと、大気圧に連通するスピルポート24Sとが設けられ、また、弁体241には貫通孔241Hが設けられる。電磁弁24が開くときは、第2給油路22が上部開口24U及び貫通孔241Hを介して一時的にスピルポート24Sに連通するので、ニードルピストン103の上側の油圧が速やかに低下して、弁作動特性変更の際の遅れが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの弁作動特性変更装置、例えば、圧縮行程の終期に排気弁を開放して強力なエンジンブレーキの制動効果を得る、いわゆる圧縮開放ブレーキのために弁の作動特性を変更する装置、などで用いられる電磁弁の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンが搭載された車両では、車両の減速中あるいは下り坂の走行中においては、エンジンブレーキを作用させて車両に制動力を付与することが望ましい。通常、エンジンブレーキは、車両の車輪から逆にエンジンを駆動した際のポンピングロス、摩擦損失等を利用するものであるが、さらに強力な制動効果を得るよう、圧縮行程の終期に排気弁を開放する圧縮開放ブレーキが知られている。これは、圧縮行程の終期にシリンダ内の圧縮空気を放出し、エンジンをいわばコンプレッサとして負の仕事を発生させるものである。圧縮開放ブレーキを採用することにより、ことに、ディーゼルエンジンを搭載する積載量の大きなトラックでは、車輪に装備されたブレーキシステムの下り坂走行中等での過度の使用を回避し、その負担を大幅に軽減してフェード現象の発生によるブレーキシステムの制動力低下などを防止することができる。
【0003】
圧縮開放ブレーキには各種の方式があるが(例えば特許第4129490号公報参照)、排気弁の開閉を制御する油圧系統を設置して、圧縮行程の終期にシリンダ内の圧縮空気を放出するものが多い。その中には、排気弁を作動する排気弁カムに、通常の開閉を行わせるカムローブ(カム山)以外に、圧縮行程の終期から排気弁を僅かに開く圧縮開放カムローブを形成するとともに、排気弁と動弁機構(ロッカアーム等)との間のクリアランス(ギャップ)を油圧機構(ラッシュアジャスタ)を用いて調整する方式がある。この方式においては、エンジンの通常作動時にはギャップを設け、圧縮開放カムローブによる排気弁の開放を無効とする一方、圧縮開放ブレーキを作用させるときは、クリアランスを0として圧縮開放カムローブにより排気弁を開放し、圧縮空気を放出する。
【0004】
上記の方式の圧縮開放ブレーキは、一例として米国特許第3786792号明細書に開示されており、これについて図4乃至図6により説明する。
図4は、上記方式の圧縮開放ブレーキを備えたディーゼルエンジンの要部を略図的に示すものである。ピストン1が往復動するシリンダ2の上方にはシリンダヘッド3が載置され、シリンダヘッド3には、クランクシャフト4の回転と同期して開閉する排気弁5が設けられる。排気弁5は、ロッカアーム6、プッシュロッド7、タペット8等の動弁機構により開閉駆動される。図示は省略するが、シリンダヘッド3には排気弁5と並行して吸気弁が設けられており、排気弁5と同様に、やはり動弁機構によって開閉駆動される。
【0005】
シリンダ2の側方には、クランクシャフト4の1/2の回転数で回転しながら排気弁5を駆動する排気弁カム9が配置してある。この排気弁カム9は、左側の拡大図に示されるとおり、排気弁5を開く通常カムローブ部91と、排気弁5が閉鎖されるいわゆる基円部分92との間に、排気弁5を僅かにリフト(1mm程度)させる圧縮開放カムローブ93を備えている。また、プッシュロッド7と係合するロッカアーム6の端部には、油圧式のラッシュアジャスタ10が設置される。ラッシュアジャスタ10は、排気弁5と排気弁カム9との間のクリアランスを調整するものであって、図5に示すように、プッシュロッド7が係合する油圧ピストン101、油圧ピストン101の上方に油圧室を形成するためのボール式逆止弁102、ボール式逆止弁102に当接するニードルの形成されたニードルピストン103等により構成される。
【0006】
ニードルピストン103の上方及び下方には、ラッシュアジャスタ10のケーシングに設けられた入口を介してエンジン潤滑油の圧油が導入可能となっている。図5、図6に示すとおり、シリンダヘッド3に対し固定されたロッカシャフト11には第1給油路21が設けてあり、エンジン潤滑油は、潤滑油ポンプ12(図4)から第1給油路21に供給され、次いで、ニードルピストン103の下方にある下側室103Lに導入される。ロッカシャフト11には、圧油をニードルピストン103の上方にある上側室103Uに導入するため、第2給油路22も形成されており、2系統の給油路21、22を連結する連結部23には、図6に示すように、ボール状の弁体24Vにより連結部23を開閉する電磁弁24が置かれている。
【0007】
ディーゼルエンジンに圧縮開放ブレーキを作用させるときは、電磁弁24を閉鎖し(同時に燃料噴射をカット)、第1給油路21に供給された潤滑油の圧油を、ロッカアーム6に設けた第1管路を介してニードルピストン103の下側室103Lのみに導入する。圧油は、図5(b)に示すように、ニードルピストン103をばね104に抗して押し上げてボール式逆止弁102を弁座に着座させ、油圧ピストン101の上部に圧油を封入して高さの小さい油圧室105を形成する。この油圧室105は、排気弁5と排気弁カム9との間のクリアランスをなくする「液柱」として作用し、ロッカアーム6は、排気弁カム9のカムプロフィールに正確に追随して揺動する。つまり、排気弁5は、図4のバルブリフト特性の実線に示されるとおり、圧縮開放カムローブ93によっても僅かなリフトを行うこととなり、圧縮行程の終期にシリンダ内の空気を放出させ、エンジンによる強力な制動力を作用させる。
【0008】
ディーゼルエンジンの通常運転時においては、第1給油路21の圧油を、ニードルピストン103の下側室103Lに供給するとともに、電磁弁24を開放し、連通部23、第2給油路22及びロッカアーム6に設けた第2管路を経由して上側室103Uにも導入する。図5(a)に示されるとおり、上下に同一圧力の油圧が作用するニードルピストン103は、ばね104により押し下げられてボール式逆止弁102を弁座から離す。これにより、油圧ピストン101の上部の室が第1給油路21と連通して油圧室105の液柱機能が消失し、排気弁カム9がプッシュロッド7押し上げたとしても、油圧ピストン101の上面が機械的に接触するまでは排気弁5はリフトしない。つまり、排気弁カム9と排気弁5との間には実質的にクリアランスが生じ、排気弁5は、図4のバルブリフト特性の破線に示されるとおり、圧縮開放カムローブ93によってはリフトせず、通常のエンジンの排気弁と同様に作動する。
【0009】
このように、排気弁と動弁機構との間に油圧によるラッシュアジャスタを介在させ、2系統の給油路により圧縮開放ブレーキの作動を制御する方式を、以下「2系統給油式圧縮開放ブレーキ」と呼ぶ。この方式の圧縮開放ブレーキは、エンジンレイアウト等を大幅に変更することなく設置が可能で、コストも比較的低いというメリットがある。なお、上述の例では、プッシュロッドを用いた動弁機構において、ラッシュアジャスタをプッシュロッドとロッカアームとの間に配置したものを説明したが、ラッシュアジャスタは、排気弁カムとプッシュロッドとの間のタペットに設けることもできる。また、プッシュロッドを廃してカムシャフトをシリンダヘッド上方に設け、排気弁カムで直接ロッカアームを揺動させて排気弁を駆動する、いわゆるOHC式のエンジンについても、ラッシュアジャスタをロッカアームと排気弁との間に配置する等の手段により、2系統給油式圧縮開放ブレーキを採用できるのは明らかである。
弁と動弁機構との間に油圧によるラッシュアジャスタを介在させる方法は、圧縮開放ブレーキに限らず、各種の弁作動特性変更装置に適用することができる。例えば、エンジンの低速回転、高速回転に応じて吸排気弁のリフトや開閉タイミングを変更する装置、あるいは、排気弁カムに小さなカムローブを設けて排気弁を吸気行程で少量だけ開き、排気ガスを吸い戻すいわゆる内部EGR付エンジンにおいて、内部EGRの作動、不作動を制御する制御装置として用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4129490号公報
【特許文献2】米国特許第3786792号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ラッシュアジャスタを介在させた弁作動特性変更装置、例えば2系統給油式圧縮開放ブレーキでは、電磁弁を用いて2系統の給油路の連通状態を切り換え、ラッシュアジャスタのニードルピストンの上下に作用する油圧を変更して、圧縮開放ブレーキの作動、不作動を制御する。この制御方法は、電磁弁の開閉を切り換えるのみの操作であるから、安定した確実な制御が実行可能であり、また、操作部品が少なく経済的にも優れている。しかし、この方式の圧縮開放ブレーキでは、特にエンジン回転数が増大したときに、次の問題が発生することが判明した。
【0012】
2系統給油式圧縮開放ブレーキにおいては、ニードルピストン103の下側室103Lに連なる第1給油路21と、上側室103Uに連なる第2給油路22とが設けてあり、エンジンの通常作動時に電磁弁24が開くと、上側室103Uに連なる第2給油路22にも圧油が供給され、上側室103Uの油圧は一定値に保持される。そして、圧縮開放ブレーキを作動させるよう電磁弁24を閉じたときは、上側室103Uの油圧は瞬時には低下せず、ボール式逆止弁102を働かせるためのニードルピストン103の上方への移動が遅れることとなる。つまり、強力なエンジンブレーキを作用させるため電磁弁を切り換えたとしても、実際の圧縮開放ブレーキの作動開始には遅れが生じ、この遅れは、エンジン回転数が増大しニードルピストンに作用する慣性力が大きくなるにつれて顕著となる。こうした作動遅れは、電磁弁を用いて2系統の給油路の連通状態を切り換える弁作動特性変更装置に共通する問題である。
本発明は、ラッシュアジャスタによる弁作動特性変更装置を2系統の給油路で制御する制御装置における上記のような作動遅れを解消し、電磁弁の開閉を切り換えたときの応答性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題に鑑み、本発明は、2系統の給油路の連通状態を切り換える電磁弁に、大気圧に開放されたスピルポートを設け、ラッシュアジャスタに圧油の封入された油圧室を形成するため電磁弁を閉鎖するときは、ニードルピストンの上側室に連なる第2給油路を一時的にスピルポートと連通させることにより、上側室の圧力を直ちに低下させて弁作動特性変更装置の作動遅れを防止するものである。すなわち、本発明は、
「シリンダヘッドに配置された弁と前記弁を開閉駆動するカムとの間に、油圧式のラッシュアジャスタを介在させたエンジンの弁作動特性変更装置であって、
前記ラッシュアジャスタは、圧油が封入された油圧室を形成する逆止弁と、前記逆止弁を開放して前記油圧室を解消するニードルピストンとを備え、
前記ニードルピストンの一方の側に圧油を供給する第1給油路と、前記第1給油路の圧油を前記ニードルピストンの他方の側に導入する第2給油路とが形成され、かつ、前記第1給油路と前記第2給油路との連通部には電磁弁が置かれ、
前記電磁弁を閉鎖したときは、前記第1給油路と前記第2給油路とが遮断されて前記ラッシュアジャスタの前記油圧室が形成されるとともに、前記電磁弁を開放したときは、前記第1給油路と前記第2給油路とが連通されて、前記ニードルピストンにより前記ラッシュアジャスタの前記逆止弁が開放されるよう構成されており、さらに、
前記電磁弁には大気圧に開放されたスピルポートが設けられており、前記電磁弁を閉鎖するときは、前記第2給油路を一時的に前記スピルポートと連通させる」
ことを特徴とするエンジンの弁作動特性変更装置となっている。
【0014】
請求項2に記載のように、本発明は、圧縮開放ブレーキのための弁作動特性変更装置、すなわち「前記シリンダヘッドに配置された弁が排気弁であり、かつ、前記排気弁を開閉駆動するカムには、圧縮開放ブレーキのため圧縮行程の終期に排気弁を僅かに開く圧縮開放カムローブが形成されており、前記電磁弁を閉鎖したときに、前記ラッシュアジャスタに前記油圧室が形成され、圧縮開放ブレーキが作動するエンジンの弁作動特性変更装置」に好適なものである。
【0015】
第2給油路を一時的にスピルポートと連通させる電磁弁としては、請求項3に記載のように「前記電磁弁の弁体には貫通孔が形成され、かつ、前記電磁弁のケーシングには弁体が摺動する側壁が設けられるとともに、前記側壁には前記第2給油路及び前記スピルポートの開口が形成されており、前記電磁弁を閉鎖するときは、前記貫通孔を介して前記第2給油路が一時的に前記スピルポートと連通される」ものとすることができる。また、請求項4に記載のように「前記電磁弁の弁体が球体であって、前記電磁弁のケーシングには対向する位置に2個の弁座が設けられるとともに、一方の弁座が前記スピルポートと連通されており、前記電磁弁を閉鎖するときは、前記一方の弁座を介して前記第2給油路が一時的に前記スピルポートと連通される」ものとすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
エンジンの吸排気弁及び動弁機構は、クランクシャフトの回転と同期しながら往復運動等の高速の運動を行う。そのため、弁の作動特性を変更する弁作動特性変更装置では、状況の変化に迅速に対応して作動特性を変更する速応性が要求される。本発明の適用対象である弁作動特性変更装置、つまり、ラッシュアジャスタにおける油圧室の形成を、2系統の給油路を電磁弁により切り換えて制御する弁作動特性変更装置においては、特に電磁弁を閉じたときに、ニードルピストンの上側室(他方の側)の油圧を瞬時に低下してボール式逆止弁を直ちに閉鎖し、油圧室を形成する必要がある。
本発明では、2系統の給油路の連通部に置かれた電磁弁に、大気圧に開放されたスピルポートが設けられており、この電磁弁を閉鎖するときは、ニードルピストンの上側室に連なる第2給油路を一時的にスピルポートと連通させ、圧油を一部流出させる。この結果、ニードルピストンの上側室の油圧は、電磁弁の閉鎖の過程で瞬時に降下し、上側室と下側室との間に生じる圧力差によりニードルピストンが上昇して、ボール式逆止弁が速やかに閉鎖する。なお、閉鎖した電磁弁を開放するときにも、第2給油路がスピルポートと連通するが、電磁弁閉鎖時の第2給油路の油圧は非常に低圧であるから、スピルポートと連通しても圧油は殆ど流出せず、ニードルピストンの下降が遅れる等の悪影響を受けることはない。
【0017】
請求項2の発明のように、本発明を圧縮開放ブレーキのための弁作動特性変更装置、つまり、圧縮行程の終期に排気弁を僅かに開く圧縮開放カムローブが形成された弁作動特性変更装置、に適用した場合には、電磁弁の閉鎖によりラッシュアジャスタの油圧室を形成して圧縮開放ブレーキを作動させるときにおいて、作動遅れが防止されることになる。そのため、運転者が圧縮開放ブレーキの作動を意図したとき、直ちに車両の制動力を増加することが可能となり、車両速度低下の遅れに伴う危険等を回避することができる。
【0018】
請求項3の発明は、電磁弁のケーシングに弁体が摺動する側壁を設けてスピルポートを開口させ、かつ、電磁弁の弁体に貫通孔を形成し、この貫通孔を介して第2給油路をスピルポートと連通するものである。これによると、例えば、異なる排気量のエンジンに本発明を適用する際に、スピルポートの開口面積あるいは貫通孔の形状等を調整して、所望の特性の応答を得るようにすることができる。また、請求項4の発明は、電磁弁の弁体を球体として電磁弁のケーシングには対向する位置に2個の弁座が設け、一方の弁座をスピルポートと連通するものであるが、これによっても、上記と同様な作用効果を簡易な構成により達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電磁弁を用いた弁作動特性変更装置を概略的に示す図である。
【図2】図1の実施例における電磁弁弁体の作動を示す図である。
【図3】本発明の電磁弁の変形例を示す図である。
【図4】圧縮開放ブレーキを備えた従来のエンジンを概略的に示す全体図である。
【図5】図4のエンジンにおける弁作動特性変更装置の要部を示す図である。
【図6】図5の弁作動特性変更装置に用いられる電磁弁を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明について説明する。図1には、弁作動特性変更装置の一例である2系統給油式圧縮開放ブレーキに、本発明の電磁弁を適用した実施例を示す。ただし、ラッシュアジャスタを2系統の給油路で制御する圧縮開放ブレーキの基本的構造は、図4乃至図6に示される従来のものと格別変わらないので、図1では、図4乃至図6の部品と対応するものには同一の符号を付すとともに、必要部分以外の基本的構造については概略的に図示している。
【0021】
圧縮開放ブレーキの作動、不作動を制御するため、動弁機構のクリアランスを調整するラッシュアジャスタ10は、図5に示すものと同様に、プッシュロッド7と係合するロッカアーム6の端部に設置されている。ラッシュアジャスタ10は、ボール式逆止弁102を開閉制御するニードルの形成されたニードルピストン103を備えており、図1の状態(図5(a)に相当)では、ニードルピストン103の下側室103Lとともに上側室103Uにも油圧が導入され、ニードルピストン103がばね104に押されてボール式逆止弁102を開いている。その結果、油圧ピストン101の上方の油圧室が消失し、圧縮開放ブレーキは不作動(エンジンが通常運転)となる。
【0022】
ニードルピストン103の下側室103Lに圧油を導入する第1給油路21と上側室103Uに圧油を導入する第2給油路22との連通部には、本発明の電磁弁24が置かれている。電磁弁24の構造の詳細については後述するが、図1の状態では、電磁弁24の弁体241が押し上げばね242で押し上げられて弁座243から離れ、電磁弁24は開放されている。エンジンの潤滑油は、潤滑油ポンプ12から第1給油路21を経由して下側室103Lに導入されると同時に、電磁弁24及び第2給油路22を介して、上側室103Uにも導入される。この実施例では、第2給油路22は潤滑油をオイルパンに戻す戻し配管25に連結され、上側室103Uに導入される潤滑油の油圧を一定値に保持するよう、戻し配管25の途中にはオリフィス26が設けられている。
【0023】
次いで、図1に示す本発明の電磁弁24の詳細な構造及び作動について、図2も参照しながら説明する。
電磁弁24は、電流が通電されるコイル244、コイル244の通電により磁気力を生じる固定鉄心245、及び固定鉄心245に吸引される可動鉄心246を備えており、弁体241がロッド247により可動鉄心246に連結される。弁体241の下方端面の周囲部は、弁座243と接触してシール面を構成し、また、下方端面には弁体241を上昇させる押し上げばね242が当接している。弁体241は、固定鉄心245の下部の弁ケーシング248に形成された孔内を摺動して、弁座243を開閉制御する。
【0024】
弁ケーシング248の下部には、第1給油路21と連通する開口が設けられ、かつ、その側部には、第2給油路22と連通する上部開口24U及び下部開口24Lが設けられるとともに、上部開口24Uと下部開口24Lとの中間の位置にスピルポート24Sが設けられる。スピルポート24Sは、ドレン管27によりオイルパンと連結され、実質的には大気圧に開放されたものである。上部開口24U、下部開口24L及びスピルポート24Sは、それぞれ弁体241が摺動する弁ケーシング248の孔の側壁に開口しており、弁体241には、これを貫通する貫通孔241Hが形成される。
【0025】
図1の状態では、コイル244への通電が遮断されて電磁弁24の弁体241が押し上げばね242により弁座243から離れ、第2給油路22が下部開口24Lを介して第1給油路21と連通して、圧縮開放ブレーキは不作動となっている。このとき、スピルポート24Sは、弁体241の側面によって遮断されており、上部開口24Uは、貫通孔241Hには連通しているが、弁ケーシング248の孔の側壁により、やはり遮断された状態である。
圧縮開放ブレーキを作動させるためコイル244へ通電すると、可動鉄心246が固定鉄心245に吸引され、弁体241は、押し上げばね242を圧縮しながら下降する。その過程において、図2(b)に示されるように、第2給油路22が、上部開口24U及び貫通孔241Hを経由してスピルポート24Sに一時的に開口する。スピルポート24Sは、実質的に大気圧に連通しているから、この開口により第2給油路22内の油圧(電磁弁24が開いている圧縮開放ブレーキの不作動時には、ほぼ第1給油路21内の油圧に等しい)は瞬時に降下してニードルピストン103の上側室103Uの油圧を低下させる。そのため、ニードルピストン103が下側室103Lの油圧で直ちに上昇して、ボール式逆止弁102を閉鎖する。
【0026】
このように、圧縮開放ブレーキを作動させるときは、コイル244への通電に直ちに応答してボール式逆止弁102が閉鎖され、圧縮行程終期に排気弁のリフトが実行されて制動力が増大する。弁体241が弁座243を閉鎖する位置まで下降すると、図2(c)に示されるように、上部開口24Uと貫通孔241Hとが遮断され、第2給油路22は、第1給油路21との連通が断たれるとともにスピルポート24Sとも遮断される。なお、電磁弁24を開放してエンジンを通常運転とするときも、スピルポート24Sが上部開口24Uに一時的に連通するが、このときは第2給油路22の油圧は非常に低圧であって、一時的な連通による実質的な悪影響は生じない。
【0027】
本発明の電磁弁の変形例を図3に示す。図3では、図1の部品等と対応するものには同一の符号を付している。
変形例の電磁弁は、図1の電磁弁と同様に第1給油路21と第2給油路22との連通部に置かれるものであって、弁ケーシング248の下面には第1給油路21に連なる開口21Pが設けられ、側面には第2給油路22に連なる開口22Pが設けられる。弁体241は球体であり、弁ケーシング248には対向する上下の位置に2個の弁座243U、243Lが形成されている。弁体241の上端には、可動鉄心(図示せず)に連結されたロッド247の下端部が当設し、また、弁体241の下端には、弁体241を上昇させる押し上げばね242が当接している。ロッド247の中間部には拡大径部247Dが形成されており、拡大径部247Dは、上方の弁座243Uよりも上の弁ケーシング248の側面に設けられたスピルポート24Sを開閉制御する。
【0028】
図3(a)の状態は、圧縮開放ブレーキが不作動となる図1の状態に相当するもので、電磁弁の弁体241が押し上げばね242により下方の弁座243Lから離れ、第2給油路22が開口21P、22Pを介して第1給油路21と連通する。このとき、弁体241が上方の弁座243Uを閉鎖するので、スピルポート24Sは、第1給油路21及び第2給油路22から遮断されている。
圧縮開放ブレーキを作動させるため電磁弁のコイルへ通電し、可動鉄心とともにロッド247を下降すると、球体の弁体241が上方の弁座243Uから離れ、第2給油路22が弁座243Uを介してスピルポート24Sに一時的に開口する。スピルポート24Sは、実質的に大気圧に連通しているから、この開口により第2給油路22内の油圧は瞬時に降下し、ボール式逆止弁(図示せず)が閉鎖されて圧縮開放ブレーキが遅滞なく作動する。ロッド247が完全に下降して弁体241が下方の弁座243Lを閉鎖すると、図3(b)に示すとおり、拡大径部247Dがスピルポート24Sを閉鎖し、第2給油路22とスピルポート24Sとの連通を遮断する。
【0029】
以上詳述したように、本発明は、ラッシュアジャスタを2系統の給油路で制御する弁作動特性変更装置において使用される電磁弁に関し、この電磁弁に大気圧に開放されたスピルポートを設け、電磁弁を閉鎖するときは、ニードルピストンの上側室に連なる給油路を一時的にスピルポートと連通させることにより、上側室の圧力を直ちに低下させて弁作動特性変更装置の作動遅れを防止するものである。上記の実施例では、圧縮開放ブレーキを作動させるための弁作動特性変更装置に適用した例について説明しているが、その他のエンジン性能改善の目的で弁作動特性を変更する装置に用いられる電磁弁についても適用できるのは明らかである。また、上記の実施例では、エンジン潤滑油系統の圧油をラッシュアジャスタ等に供給しているが、別の油圧系統から圧油を供給するなど、上記実施例に対して種々の変更が可能であるのは明白である。
【符号の説明】
【0030】
5 排気弁
6 ロッカアーム
7 プッシュロッド
9 排気弁カム
10 ラッシュアジャスタ
101 油圧ピストン
102 ボール式逆止弁
103 ニードルピストン
12 潤滑油ポンプ
21 第1給油路
22 第2給油路
24 電磁弁
241 弁体
241H 貫通孔
242 押し上げばね
243 弁座
24U 上部開口
24L 下部開口
24S スピルポート
244 コイル
245 固定鉄心
246 可動鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに配置された弁と前記弁を開閉駆動するカムとの間に、油圧式のラッシュアジャスタを介在させたエンジンの弁作動特性変更装置であって、
前記ラッシュアジャスタは、圧油が封入された油圧室を形成する逆止弁と、前記逆止弁を開放して前記油圧室を消失させるニードルピストンとを備え、
前記ニードルピストンの一方の側に圧油を供給する第1給油路と、前記第1給油路の圧油を前記ニードルピストンの他方の側に導入する第2給油路とが形成され、かつ、前記第1給油路と前記第2給油路との連通部には電磁弁が置かれ、
前記電磁弁を閉鎖したときは、前記第1給油路と前記第2給油路とが遮断されて前記ラッシュアジャスタの前記油圧室が形成されるとともに、前記電磁弁を開放したときは、前記第1給油路と前記第2給油路とが連通されて、前記ニードルピストンにより前記ラッシュアジャスタの前記逆止弁が開放されるよう構成されており、さらに、
前記電磁弁には大気圧に開放されたスピルポートが設けられており、前記電磁弁を閉鎖するときは、前記第2給油路を一時的に前記スピルポートと連通させることを特徴とするエンジンの弁作動特性変更装置。
【請求項2】
前記シリンダヘッドに配置された弁が排気弁であり、かつ、前記排気弁を開閉駆動するカムには、圧縮開放ブレーキのため圧縮行程の終期に排気弁を僅かに開く圧縮開放カムローブが形成されており、
前記電磁弁を閉鎖したときに、前記ラッシュアジャスタに前記油圧室が形成され、圧縮開放ブレーキが作動する請求項1に記載のエンジンの弁作動特性変更装置。
【請求項3】
前記電磁弁の弁体には貫通孔が形成され、かつ、前記電磁弁のケーシングには弁体が摺動する側壁が設けられるとともに、前記側壁には前記第2給油路及び前記スピルポートの開口が形成されており、
前記電磁弁を閉鎖するときは、前記貫通孔を介して前記第2給油路が一時的に前記スピルポートと連通される請求項1又は請求項2に記載のエンジンの弁作動特性変更装置。
【請求項4】
前記電磁弁の弁体は球体であって、前記電磁弁のケーシングには対向する位置に2個の弁座が設けられるとともに、一方の弁座が前記スピルポートと連通されており、
前記電磁弁を閉鎖するときは、前記一方の弁座を介して前記第2給油路が一時的に前記スピルポートと連通される請求項1又は請求項2に記載のエンジンの弁作動特性変更装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157843(P2011−157843A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18613(P2010−18613)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】