説明

エンジンの潤滑油冷却構造

【課題】接地型のエンジンであっても、簡易な冷却装置によって十分な冷却効果を得られるエンジンの潤滑油冷却構造を提供する。
【解決手段】クランクケース2から突出するクランク軸4に設けられた冷却ファン5と、この冷却ファン5を覆うブロアハウジング7とを備える。クランク軸4と一体に回転する冷却ファン5により起風した冷却風は、ブロアハウジング7によってシリンダブロック3に導かれる。クランクケース2にはオイルフィルター28が取り付け可能な冷却装置27が装着される。この冷却装置27は、オイルフィルター28に流入しまたはオイルフィルター28から吐出される潤滑油xを冷却風により冷却する冷却部を有し、この冷却部がブロアハウジング7内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに設けられた部品を潤滑する潤滑油の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、各部品の摺動部等を潤滑する潤滑油が必要不可欠であるが、こうした潤滑油の油温上昇を防ぐために、例えば特許文献1に示すような簡易な冷却装置を設けて潤滑油を冷却する潤滑油の冷却構造が知られている。こうした冷却装置は、潤滑油が流入または吐出する通路によって冷却部を構成しており、この冷却部に多量の空気をあてることによって、通路を流通する潤滑油を冷却することができる。このようにすれば、冷却装置の小型化と低コスト化を実現しながらも十分な冷却効果を発揮することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2006―283565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした潤滑油の冷却構造においては、冷却部に多量の空気をあてなければならないため、走行風が生じる空冷エンジンに採用することはできるが、走行風が生じない接地型の汎用エンジンのようなものに採用するのは困難である。
そのため、接地型の汎用エンジンのように走行風が生じない場合には、潤滑油を冷却するためのオイルクーラーをエンジン本体に外付けし、ブロアハウジング内の冷却ファンによる冷却風の流れを分岐してオイルクーラーに導かざるをえない。ところが、エンジン本体にオイルクーラーを外付けすると、装置全体が大型化して機能性が低下し、またブロアハウジング内の冷却風の流れを分岐させると、圧力低下を招き、シリンダブロックに対する冷却能力が低下する。また、外付けしたオイルクーラーに潤滑油を導くための配管等が必要となり、部品点数が増加してコストが上昇してしまうという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、接地型のエンジンであっても簡易な冷却装置によって十分な冷却効果を得られるエンジンの潤滑油冷却構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、クランクケースに回転自在に支持されるクランク軸の一端側に設けられた冷却ファンと、前記クランク軸の一端側に配設され前記冷却ファンを覆うブロアハウジングと、オイルフィルターが取り付け可能であって、前記クランクケースに装着された冷却装置と、を備えている。冷却ファンがクランク軸と一体に回転すると冷却風が起風し、この冷却風がブロアハウジングによってシリンダブロックに導かれる。
前記冷却装置は、前記クランクケースに装着される装着部と、前記オイルフィルターを取り付け可能な取付部と、前記オイルフィルターに流入しまたは前記オイルフィルターから吐出される潤滑油を冷却風により冷却する冷却部から構成される。そして、前記冷却部は、前記ブロアハウジング内に配置されるとともに、前記冷却ファンによって起風した冷却風によって、前記冷却部を流通する潤滑油が冷却されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記装着部が、前記クランク軸の径方向に位置する前記クランクケースの側面に装着され、前記冷却部が、前記クランク軸の一端側が突出する前記クランクケースの側面側から前記冷却ファン側に突出して前記ブロアハウジング内に位置してなることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記冷却部が、前記ブロアハウジング内であって前記冷却ファンの径方向外方に位置してなることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記冷却部の外周面に、前記冷却ファンの回転方向に沿って延伸するフィンが立設してなることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記冷却部が、前記シリンダブロックに対して前記冷却ファンによる冷却風の上流側に位置し、前記ブロアハウジング内の前記冷却ファンによる冷却風の流れを前記シリンダブロックに対する上流側において前記ブロアハウジング外に分岐させることなく、当該冷却部を冷却した冷却風を前記シリンダブロックの周囲に導くことを特徴とする。
【0011】
請求項1〜5に記載の発明において、クランクケースにはシリンダブロックが一体または別体に設けられているが、シリンダ数やシリンダの配列は特に限定されない。また、請求項5に記載の発明においては、冷却装置の冷却部が、シリンダブロックに対して冷却ファンによる冷却風の上流側に位置するが、例えば2つのシリンダブロックをV形に配列した場合には、少なくとも一方のシリンダブロックに対して冷却風の上流側に位置すればよい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜5に記載の発明によれば、冷却装置の冷却部をブロアハウジング内に位置させたので、エンジン本体を冷却するための冷却風を冷却部にあてることができる。したがって、走行風が生じない汎用エンジンのような接地型のエンジンにおいても、簡易な冷却装置を用いることによる装置の小型化とコストの低減とを実現しつつも、冷却部を流通する潤滑油を確実に冷却することが可能となる。
【0013】
特に請求項2に記載の発明によれば、冷却装置の冷却部が、ブロアハウジング内において冷却ファンの近傍に位置するので、冷却風を確実に冷却部にあてることができる。
特に請求項3に記載の発明によれば、冷却装置の冷却部が、ブロアハウジング内において冷却ファンの径方向外方に位置するので、より多くの冷却風を冷却部にあてることができる。
特に請求項4に記載の発明によれば、冷却部の外周面にフィンを立設させたので、冷却風の接触面積が大きくなり、冷却効果を一層高めることができる。しかも、冷却ファンの回転方向に沿ってフィンを延伸させたので、冷却ファンによって起風した冷却風の流れが、フィンによって阻害されることがない。したがって、冷却ファンによって起風した冷却風は、潤滑油を冷却した後にエンジン本体の所望の部位を冷却することができる。
【0014】
特に請求項5に記載の発明によれば、シリンダブロックに対して冷却ファンによる冷却風の上流側に冷却部を位置させたので、冷却風は、冷却部(潤滑油)を冷却した後にシリンダブロックを冷却することとなる。つまり、冷却風は、エンジン本体の中で最も高温のシリンダブロックの周囲を流れると高温になってしまうが、シリンダブロックよりも上流側に冷却部を位置させることにより、冷却部に冷たい冷却風をあてることができる。これにより、冷却部を流通する潤滑油を確実に冷却しながらも、当該潤滑油を冷却した後にシリンダブロックを冷却することができる。さらに、冷却部を冷却するにあたり、ブロアハウジング内の冷却風の流れを分岐させる必要がなく、また、シリンダブロックに対する上流側でブロアハウジング外に分岐することがないため、圧力低下が防止され、冷却風によってシリンダブロックの周囲を十分に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はエンジン本体の正面図、図2はエンジン本体を収容するケースを部分的に破断して示した斜視図、図3は図2の矢印A方向から見た側面図である。
図1〜図3に示すように、エンジン本体1は、クランクケース2および一対のシリンダブロック3,3を一体的に連結して構成している。クランクケース2には、後述するクランク軸4が回転自在に支持されており、その一端4aを、クランクケース2の一方の面2aから突出させるとともに、その他端4bをクランクケース2の他方の面2bから突出させている。また、クランクケース2の面2bから突出するクランク軸4の突出部位(端部4b)には、湾曲する複数のフィン5aが立設する冷却ファン5が固定されている。
【0016】
そして、エンジン本体1は、本体ケース6およびブロアハウジング7に覆われている。本体ケース6は、クランクケース2の面2a側から、主に一対のシリンダブロック3,3(クランクケース2の上方)を覆うように構成されている。一方、ブロアハウジング7は、冷却ファン5全体を覆うように構成されており、その開口面7aを、本体ケース6の開口面6aに当接させた状態で、ボルト等によって本体ケース6に固定されている。なお、ブロアハウジング7における後述する冷却装置27と対向する位置には、冷却装置27の冷却部43が挿入される挿入部7cが形成されている。また、シリンダブロック3,3には、吸入ポート15(図4参照)に接続する一対の吸入管3a,3aが設けられ、その上流には燃料タンク(図示せず)から供給された燃料を吸入管3a内に噴射する燃料噴射装置3bが接続されている。さらに、一対のシリンダブロック3,3の間であって燃料噴射装置3bの上部にはエアクリーナ8が設けられ、外部から吸入した空気をエアクリーナ8内に設けたエアクリーナエレメント9で浄化し、燃料噴射装置3bに供給している。
【0017】
上記ブロアハウジング7には、冷却ファン5に対向する面(フィン5aが立設する面)に吸気口7bが設けられている。そして、クランク軸4と一体となって冷却ファン5が回転すると、吸気口7bからブロアハウジング7内に外気が取り入れられ、冷却風が起風する。この冷却ファン5によって起風した冷却風は、クランクケース2、一対のシリンダブロック3,3,吸入管3a,3a,燃料噴射装置3bを冷却する。また、この冷却風は、シリンダブロック3,3の間を通り、エアクリーナ8に供給されている。
【0018】
次に、エンジン本体1の内部構造を説明する。図4は、エンジン本体1の内部構造を簡易的に示す概念図である。
クランクケース2内には、クランク軸4がベアリング(図示せず)を介して回転自在に支持されており、シリンダブロック3内には、ピストン10が往復道自在に設けられている。ピストン10には、ピストンピン10aを介してコネクティングロッド11の小端部11aが固定されており、クランク軸4には、クランクピン4cを介して上記コネクティングロッド11の大端部11bが固定されている。これにより、ピストン10とクランク軸4とがコネクティングロッド11を介して連係され、ピストン10の往復運動がクランク軸4の回転運動に変換されることとなる。
【0019】
また、シリンダブロック3の先端にはシリンダヘッド12が固定されており、さらにこのシリンダヘッド12にはヘッドカバー13が固定されている。シリンダヘッド12内には、図示の燃焼室14と、この燃焼室14に開口する吸気ポート15および排気ポート16が形成されている。また、シリンダヘッド12には、燃焼室14に対して吸気ポート15を開閉する吸気弁17と、排気ポート16を開閉する排気弁18とが装着されている。
そして、シリンダヘッド12には、不図示のチェーンを介してクランク軸4に連係され、該クランク軸4と同期して回転するカムシャフト19が回転自在に支持されている。このカムシャフト19にはカム20が設けられており、カムシャフト19が回転することによって、カム20と、ロッカシャフト21に設けられたロッカアーム21a,21bとを介して、上記吸気弁17および排気弁18が開閉駆動することとなる。
【0020】
そして、吸気ポート15から燃焼室14に混合気が供給されると、不図示の点火プラグによって混合気が爆発し、この燃焼室14の爆発圧力により、ピストン10が往復動するとともに、クランク軸4が回転することとなる。なお、本実施形態においては、一対のシリンダブロック3,3がV型に設けられているが、これらシリンダブロック3,3のいずれも、上記したとおりの内部構造を有している。
このように、エンジン本体1内には、ピストン10やクランク軸4をはじめとする多くの部品が可動することとなるが、こうした各部品の動作をスムーズにし、焼き付きを防止するのが潤滑油xである。この潤滑油xは、クランクケース2の底部に設けられたオイルパン22に満たされており、次のように潤滑対象である各部品に供給される。
【0021】
すなわち、クランク軸4には駆動ギヤ23が設けられており、この駆動ギヤ23が、ポンプ駆動軸24に設けられた被駆動ギヤ25に噛合している。したがって、クランク軸4が回転すると、駆動ギヤ23および被駆動ギヤ25を介してポンプ駆動軸24が回転する。このポンプ駆動軸24にはオイルポンプP(図4においては不図示)が設けられており、ポンプ駆動軸24の回転によって、オイルポンプPが、オイルパン22に満たされた潤滑油xを吸入、吐出する。
オイルポンプPから吐出された潤滑油xは、クランク軸4やクランクケース2に形成された油路を通って、クランクピン4bとコネクティングロッド11との嵌合部や、ピストン10の摺動面等の潤滑対象へ導かれる。
【0022】
このとき、潤滑油xは、図5に示すように、オイルポンプPから吐出された後、まず、クランク軸4と直交する方向に位置するクランクケース2の面2c側に開口する第1通路26に導かれる。潤滑油xは、第1通路26から、クランクケース2に外付けされた冷却装置27およびオイルフィルター28を介して、再びクランクケース2に形成された第2通路29に導かれる。この第2通路29は、潤滑対象へ潤滑油xを導く上記油路に連通しており、冷却装置27で冷却され、かつ、オイルフィルター28によってコンタミ等が除去された潤滑油xが、各潤滑対象へ導かれることとなる。
【0023】
図6は、冷却装置27、オイルフィルター28の分解状態を示す斜視図である。この図に示すように、上記第1通路26および第2通路29は、クランクケース2の面2c側を配管形状にして形成されており、これら第1通路26および第2通路29の外周に複数のフィン30が設けられている。
そして、第1通路26および第2通路29は、クランクケース2に設けられた冷却装置装着面31に開口している。より詳細には、冷却装置装着面31の中心部に、上記クランク軸4やクランクケース2に形成された油路に連通する第2通路29を開口させ、この第2通路29の周囲に、当該第2通路29と区画された第1通路26を開口させている。
【0024】
次に、冷却装置装着面31に装着される冷却装置27について説明する。図7、図8は、冷却装置27の分解状態を示す斜視図であり、図7は冷却装置装着面31側から見た図、図8はオイルフィルター28側から見た図である。
図7に示すように、冷却装置27は、ベースプレート40と、このベースプレート40に重ね合わせる重合プレート41とからなる。ベースプレート40は、図示のとおり断面略円形の円筒部42と、この円筒部42と一体形成され、かつ、円筒部42の半径方向に突出する冷却部43とを備えている。円筒部42には、クランクケース2の冷却装置装着面31に対面する装着面42aと、この装着面42aの外周近傍に位置する3つの貫通孔44とから構成される装着部を備えている。冷却装置27は、装着面42aを冷却装置装着面31に当接させた状態で、貫通孔44を貫通するネジ等を、冷却装置装着面31に形成されたネジ孔に螺合することでクランクケース2に装着される。
【0025】
また、円筒部42は、その中心部に小径円筒状の区画壁45を隆起させている。そして、この区画壁45には、ベースプレート40の反対側面まで貫通する吐出通路46を開口させるとともに、この吐出通路46の開口によって連結ポート46aが形成されている。連結ポート46aは、冷却装置27を冷却装置装着面31に装着したとき、クランクケース2に形成された第2通路29に連結される。
また、円筒部42には、区画壁45によって上記連結ポート46aと区画された吸入ポート47が形成されている。この吸入ポート47は、冷却装置27を冷却装置装着面31に装着したとき、クランクケース2に形成された第1通路26に連結される。
なお、円筒部42の厚さ方向略中央には、仕切壁48が形成されており、この仕切壁48によって、吸入ポート47は、冷却装置装着面31側にのみ開口することとなる。
【0026】
そして、吸入ポート47には、第1連通路49の一端に設けられたポート49aが開口しており、クランクケース2の第1通路26から吸入ポート47に導かれた潤滑油xは、ポート49aから第1連通路49に導かれる。一方、第1連通路49は、その他端に設けられたポート49bを、冷却部43に形成された導入通路50に開口させている。したがって、吸入ポート47に導かれた潤滑油xは、第1連通路49を介して導入通路50へ導かれることとなる。
本実施形態においては、導入通路50を、複数の直線路50aとUターン路50bとからなるいわゆるラビリンス構造としている。つまり、冷却部43の限られた範囲内で導入通路50の距離を極力長くすることにより、導入通路50における潤滑油xの滞在時間が長くなるようにしている。そして、ベースプレート40の冷却部43に重合プレート41を重ね合わせた状態で、当該冷却部43に冷却風をあてれば、導入通路50の流通過程で潤滑油xが冷却されることとなる。
なお、ベースプレート40と重合プレート41とにおいて、導入通路50を覆う部分には、複数の冷却フィン40a、41aがそれぞれ立設している。
【0027】
上記のようにして冷却された潤滑油xは、導入通路50に開口するポート51aに導かれる。このポート51aは、仕切壁48によって仕切られた円筒部42(吸入ポート47)の裏面側、すなわち、図8に示すように、フィルターポート52に開口するポート51bに連通している。
図8からも明らかなように、上記した区画壁45は、フィルターポート52側においても連続して形成されており、この区画壁45によって、上記吐出通路46がフィルターポート52と区画される。このことからも明らかなように、吐出通路46は、円筒部42の中心部分において、その厚さ方向に貫通することとなる。
【0028】
なお、区画壁45の外周には、オイルフィルター28を取り付けるための取付部53が形成されている。この取付部53にオイルフィルター28を取り付けることにより、フィルターポート52に導かれた潤滑油xは、オイルフィルター28に導かれる。オイルフィルター28において濾過された潤滑油xは、ポート46bから吐出通路46に導かれるとともに、上記ポート46aからクランクケース2に形成された第2通路29に導かれる。このようにして、冷却と濾過とを終えた潤滑油xは、第2通路29から、クランクケース2やクランク軸4に形成された油路を介して、各潤滑対象に供給されることとなる。
【0029】
次に、上記の構成からなる冷却装置27の配置について、図1、図3、図9、図10を用いて説明する。図9は、エンジン本体1が各ケースに収容された状態の正面図であり、図10は、エンジン本体1が各ケースに収容された状態の側面図である。
図1、図3に示すように、冷却装置27は、クランク軸4の径方向に位置するクランクケース2の側面(面2c)に貫通孔44(円筒部42)が装着される。このとき、冷却部43は、クランク軸4の一端4bが突出するクランクケース2の側面(面2b)よりも冷却ファン5側に突出し、挿入部7cから挿入され、ブロアハウジング7内に配置される。そして、ブロアハウジング7内に配置された冷却部43は、冷却ファン5の半径方向外方に位置している。また、冷却装置27は、冷却フィン40a,41aが、冷却ファン5の回転方向に沿って延伸するように装着される。ここでいう冷却ファン5の回転方向に沿った方向というのは、例えば、いずれかのフィン5aの回転前後の位置を結ぶ線、すなわち回転軌跡に沿った方向をいうものである。
【0030】
また、本実施形態においては、冷却ファン5が、図1の符号y方向に回転することにより、吸気口7bからブロアハウジング7内に外気が取り入れられる。そして、冷却部43は、一対のシリンダブロック3,3に対して、冷却ファン5による冷却風の上流側に位置している。
上記のように配置された冷却装置27は、図9、図10に示すように、特に冷却が必要とされる冷却部43のほとんどの部分がブロアハウジング7に覆われており、特に冷却部43において導入通路50を覆う部分は、完全にブロアハウジング7内に収容されている。
【0031】
そして、本体ケース6、ブロアハウジング7に収容したエンジン本体1を駆動すると、クランク軸4と一体となって冷却ファン5が回転する。すると、冷却ファン5によって起風した冷却風は、図11、図12に示すようにしてケース内を流れる。
すなわち、ブロアハウジング7の下方から生じた冷却風は、ブロアハウジング7に沿うようにして上方に流れ、まず、冷却装置27の冷却部43を冷却する。このとき、冷却部43の冷却フィン40a,41aに沿って冷却風が流れるため、冷却部43に対する冷却風の接触面積が十分に確保される。また、上記したように、冷却フィン40a,41aを、冷却ファン5の回転方向に沿って延伸するように配置したので、冷却フィン40a,41aによって冷却風の流れが阻害されることがない。つまり、冷却風は、冷却装置27の冷却部43を冷却しながら、スムーズにその上方に導かれることとなる。なお、ブロアハウジング7には挿入部7cが開口しているが、挿入部7cには冷却部43が挿入されているため、冷却風の流れが挿入部7cからブロアハウジング7外に分岐せず、圧力低下を招くことはない。
【0032】
そして、冷却部43を冷却した冷却風は、本体ケース6内に進入する。このとき、冷却風は、シリンダブロック3,3やクランクケース2の外周を満遍なく冷却しながら、本体ケース6の反対面側に流れる。なお、シリンダブロック2に対する冷却風の上流側には、ブロアハウジング7外に冷却風の流れを分岐し圧力低下を招くような開口が存在しない。したがって、冷却部43を冷却した冷却風によるシリンダブロック3,3やクランクケース2に対する冷却性能が低下することを防止している。また、冷却風は、その一部が本体ケース6の上方へ流れて、吸入管3a,3a,燃料噴射装置3bを冷却し、エアクリーナ8に供給される。なお、ブロアハウジング7には、図11において点線で示す調整板54が設けられており、冷却装置27の冷却部43を冷却した冷却風が、調整板54にあたって、一対のシリンダブロック3,3間に大量に流れ込むようにしている。これにより、エンジン本体1においてもっとも高温となるシリンダブロック3,3が、大量の冷却風によってしっかりと冷却されることとなる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、冷却装置27の冷却部43をブロアハウジング7内に位置させたので、エンジン本体1を冷却するための冷却風を冷却部43にあてることができる。したがって、簡易な冷却装置を用いることによる装置の小型化とコストの低減とを実現しつつも、潤滑油xを確実に冷却することが可能となる。また、冷却装置27の冷却部43が、ブロアハウジング7内において冷却ファン5の近傍、特には冷却ファン5の径方向外方に位置するので、多量の冷却風を確実に冷却部43にあてることができる。
しかも、冷却部43の外周面にフィン40a,41aを立設させたので、冷却風の接触面積が大きくなり、冷却効果を一層高めることができるばかりか、これらフィン40a,41aを冷却ファン5の回転方向に沿って延伸させている。これにより、冷却ファン5によって起風した冷却風の流れが阻害されることなく、冷却部43において潤滑油xを冷却した後にエンジン本体1の所望の部位を冷却することができる。
【0034】
また、シリンダブロック3,3に対して冷却ファン5による冷却風の上流側に冷却部43を位置させたので、冷却部43(潤滑油x)の冷却効率を高めることができる。すなわち、冷却風は、エンジン本体1の中で最も高温のシリンダブロック3,3の周囲を流れると高温になってしまう。そのため、仮にシリンダブロック3,3よりも下流側に冷却部43を位置させてしまうと、当該冷却部43にあたる冷却風の温度が高くなってしまい、冷却部43における潤滑油xの冷却効率が低下する。しかしながら、本実施形態のように、シリンダブロック3,3よりも冷却風の上流側に冷却部43を位置させることにより、低温の冷却風を冷却部43にあてることができる。これにより、冷却部43を流通する潤滑油xを確実に冷却しながらも、当該潤滑油xを冷却した後にシリンダブロック3,3を冷却することができる。
さらに、冷却部43を冷却するにあたり、ブロアハウジング7内の冷却風の流れを分岐させる必要がないため、圧力低下が防止され、冷却風によってシリンダブロック3,3の周囲を十分に冷却することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、クランクケース2からオイルフィルター28に流入する潤滑油xを冷却することとしているが、これとは逆にオイルフィルター28からクランクケース2に吐出する潤滑油xを冷却するようにしても構わない。この場合には、クランクケース2に形成された第1通路26を連結ポート46aに接続し、クランクケース2に形成された第2通路29を吸入ポート47に接続すればよい。また、クランクケース2からオイルフィルター28に潤滑油xが流入する過程と、オイルフィルター28からクランクケース2に潤滑油xが吐出する過程との双方で、潤滑油xを冷却することとしてもよい。いずれにしても、潤滑油xは、オイルフィルター28とクランクケース2との間の流通過程で冷却されればよく、この流通過程で冷却風があたる部分が、本発明の冷却部となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】エンジン本体の正面図である。
【図2】エンジン本体を収容するケースを部分的に破断して示した斜視図である。
【図3】エンジン本体を収容するケースを部分的に破断して示した側面図である。
【図4】エンジン本体の内部構造を簡易的に示す概念図である。
【図5】潤滑油の流れを示す概念図である。
【図6】冷却装置を分解した状態を示す展開図である。
【図7】冷却装置の分解状態を一方の側から見た斜視図である。
【図8】冷却装置の分解状態を他方の側から見た斜視図である。
【図9】エンジン本体をケースに収容した状態の正面図である。
【図10】エンジン本体をケースに収容した状態の側面図である。
【図11】エンジン本体を収容するケースを部分的に破断して示した斜視図であり、冷却風の流れを説明する図である。
【図12】エンジン本体を収容するケースを部分的に破断して示した側面図であり、冷却風の流れを説明する図である
【符号の説明】
【0037】
2 クランクケース
2c クランクケースの側面
3 シリンダブロック
4 クランク軸
5 冷却ファン
7 ブロアハウジング
27 冷却装置
28 オイルフィルター
40a 冷却フィン
41a 冷却フィン
42 円筒部
43 冷却部
44 貫通孔
46 吐出通路
50 導入通路
53 取付部
x 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースに回転自在に支持されるクランク軸の一端側に設けられた冷却ファンと、前記クランク軸の一端側に配設され前記冷却ファンを覆うブロアハウジングとを備え、前記クランク軸と一体に回転する前記冷却ファンにより起風した冷却風を前記ブロアハウジングによってシリンダブロックに導くエンジンの潤滑油冷却構造において、
前記クランクケースにはオイルフィルターが取り付け可能な冷却装置が装着され、
該冷却装置は、前記クランクケースに装着される装着部と、前記オイルフィルターを取り付け可能な取付部と、前記オイルフィルターに流入しまたは前記オイルフィルターから吐出される潤滑油を冷却風により冷却する冷却部から構成され、
前記冷却部は、前記ブロアハウジング内に配置されるとともに、前記冷却ファンによって起風した冷却風によって、前記冷却部を流通する潤滑油を冷却してなることを特徴とするエンジンの潤滑油冷却構造。
【請求項2】
前記装着部は、前記クランク軸の径方向に位置する前記クランクケースの側面に装着され、
前記冷却部は、前記クランク軸の一端側が突出する前記クランクケースの側面側から前記冷却ファン側に突出して前記ブロアハウジング内に位置してなることを特徴とする請求項1記載のエンジンの潤滑油冷却構造。
【請求項3】
前記冷却部は、前記ブロアハウジング内であって前記冷却ファンの径方向外方に位置してなることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの潤滑油冷却構造。
【請求項4】
前記冷却部の外周面には、前記冷却ファンの回転方向に沿って延伸するフィンが立設してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの潤滑油冷却構造。
【請求項5】
前記冷却部は、前記シリンダブロックに対して前記冷却ファンによる冷却風の上流側に位置し、
前記ブロアハウジング内の前記冷却ファンによる冷却風の流れを前記シリンダブロックに対する上流側において前記ブロアハウジング外に分岐させることなく、当該冷却部を冷却した冷却風を前記シリンダブロックの周囲に導くことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエンジンの潤滑油冷却構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−138844(P2010−138844A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317260(P2008−317260)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】