説明

エンジンの潤滑装置

【課題】発電機から発生する熱を効率よく利用してエンジンの早期暖機を図る。
【解決手段】エンジンの動力により発電する発電機を備え、発電機をエンジンオイルで冷却し、該発電機を冷却した後のエンジンオイルでエンジンを潤滑する。たとえば発電機を、エンジンの下部にてエンジンオイルを貯留するオイルパン内に配置する。また、発電機の回転軸に該回転軸の中心軸に対して偏心するバランスウェイトを設け、発電機がエンジンのバランスシャフトを兼ねることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの冷間時において該エンジンを早期に暖機するため、モータで発生する熱を冷却水で回収し、この冷却水をエンジンに循環させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、冷却水はエンジンオイルと比べて一般的に量が多く、しかも温度が上昇し難い。さらに、エンジンを直接加熱することができず、また、エンジンフリクションが高くなる原因となるエンジンオイルを直接加熱することができないため、熱エネルギを利用するにあたり無駄が多くなり、適切とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−131848号公報
【特許文献2】特開2003−061325号公報
【特許文献3】特開2003−061309号公報
【特許文献4】特開2005−016466号公報
【特許文献5】特開平06−323154号公報
【特許文献6】特開平05−280451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発電機から発生する熱を効率よく利用してエンジンの早期暖機を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために本発明によるエンジンの潤滑装置は、以下の手段を採用した。すなわち、本発明によるエンジンの潤滑装置は、
エンジンの動力により発電する発電機を備え、
前記発電機をエンジンオイルで冷却し、該発電機を冷却した後のエンジンオイルで前記エンジンを潤滑することを特徴とする。
【0007】
発電機は、発電するときに電気負荷がコイルにかかることにより熱を発生する。そして、発電機をエンジンオイルで冷却することにより、発電機で発生した熱をエンジンオイルが受け取る。つまり、エンジンオイルの温度が上昇する。このエンジンオイルをエンジンに循環させることにより、該エンジンの温度が上昇して早期暖気を図ることができる。そして、温度の高いオイルでエンジンを潤滑することにより、エンジンフリクションを低減させることができる。また、発電機でエンジンオイルを直接加熱するため、発生した熱を効率良く利用することができる。そして、従来は発電機で発生する熱は捨てられていたので、これを利用しても燃費を悪化させることはない。
【0008】
また、本発明においては、前記発電機は、前記エンジンの下部にてエンジンオイルを貯留するオイルパン内に配置することができる。
【0009】
オイルパン内に発電機を配置することで、該発電機の周りには常にエンジンオイルが流
通することになるため、発電機で発生した熱を効率良くエンジンオイルに移動させることができる。また、発電機をエンジン外部に設け、該発電機を空気で冷却するよりも、オイルパン内のエンジンオイルで冷却するほうが発電機の冷却能力が高くなるので、発電機の過熱を抑制できる。さらに、オイルパン内に発電機を配置することで、エンジンが必要とするスペースを縮小することができる。
【0010】
また、本発明においては、前記発電機は、前記エンジンのクランクシャフトに連結される回転軸を備えて構成され、
前記回転軸には、該回転軸の中心軸に対して偏心するウェイトが設けられ、前記発電機が前記エンジンのバランスシャフトを兼ねることができる。
【0011】
つまり、発電機の回転軸が回転することにより、エンジンの振動を抑制することができる。これにより、エンジンの部品点数を減少させることができるため軽量化を図ることができると共に、エンジンのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発電機から発生する熱を効率よく利用してエンジンの早期暖機を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例に係るエンジンの概略構成を示す図である。
【図2】オイルの温度に基づいて発電機を制御したときのオイルの温度の推移を示したタイムチャートである。
【図3】オイルの温度と、バッテリの残量と、発電機による発電の有無と、の関係を示した図である。
【図4】オイルの温度と、エンジンのフリクションと、発電機により発電する際のフリクションと、の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るエンジンの潤滑装置の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例に係るエンジン1の概略構成を示す図である。エンジン1は、シリンダブロック2及び、該シリンダブロック2の下部に接続されるオイルパン3を備えて構成されている。
【0016】
シリンダブロック2には、クランクシャフト4が備わる。また、オイルパン3の内側には、発電機5が設置されている。なお、発電機5は、シリンダブロック2に固定されていても良いが、該発電機5がオイルパン3内に貯留されているオイルの中に浸るように設置する。また、発電機5をオイルの中に浸す代わりに、オイルを発電機5に向けて噴射しても良く、オイルがオイルパン3に滴下している途中に発電機5に当たるように該発電機5を設置しても良い。そして、クランクシャフト4の軸方向と、発電機5の軸方向とが平行となるように、発電機5が設置される。
【0017】
この発電機5は、クランクシャフト4の回転トルクを駆動源として作動するように、該発電機5の回転軸51に取り付けられたプーリ52がクランクシャフト4に取り付けられたプーリ41と伝達部材6を介して連結されている。伝達部材6には、例えばベルトやチェーンなどを挙げることができる。なお、歯車を用いても良い。そして、クランクシャフト4の回転トルクが発電機5に伝達されて該発電機5の回転軸51が回転し、発電が行な
われる。
【0018】
発電機5は、例えば三相交流発電機であり、発電機5の回転軸51が回転することにより交流電流で発電された交流電力を直流電力に変換して、電線を介してバッテリ7に供給する。
【0019】
また、発電機5およびバッテリ7は、ECU8に接続されており、該発電機5による発電は該ECU8により制御される。ECU8は、暖機が完了した後はバッテリ7が満充電の状態を維持できるように発電機5を制御している。
【0020】
また、シリンダブロック2には、オイルポンプ9が設けられている。オイルポンプ9は、クランクシャフト4と歯車を介して連結されおり、クランクシャフト4が回転することによりオイルポンプ9が作動する。オイルポンプ9は、オイルパン3に貯留されているオイルを汲み上げると共に、オイル通路10を介してエンジン1の内部にオイルを循環させる。このオイルは、摺動部などに供給されて該摺動部を潤滑する。
【0021】
このように構成されたエンジン1では、発電機5が発電状態となっているときに、該発電機5で発生する熱をオイルが受け取る。すなわち、オイルパンに貯留されているオイルの温度が上昇する。このオイルがオイルポンプ9によってエンジン1の内部を循環し、該エンジン1を潤滑する。
【0022】
ここで、近年ではCOの排出量を低減するために燃料の供給量が低減されている。そうすると、燃料による発熱量が低減するので、暖機完了までに時間がかかる。さらに、COの排出量を低減するためや燃費を向上させるためにエンジン内部のフリクション(摺動部で発生するフリクション及びオイルポンプの仕事を含むことができる。)が低減されている。そうすると、フリクションによる発熱量が低減するので、オイルの温度上昇が緩慢となり、暖機完了までに時間がかかる。これらのことから、エンジン1の冷間時は、暖機完了後と比較すると、燃費が悪化する傾向にある。
【0023】
これに対し本実施例では、オイルパン3内に発電機5を設けている。従来では、発電機5をエンジン1の外部に取り付けており、該発電機5を空気で冷却していた。すなわち、発電機5で発生した熱は、そのまま捨てられていた。この熱を利用してオイルの温度を上昇させることにより、今まで捨てられていた熱を利用することができるため、燃料の消費量を増加させることなく、早期に暖機を完了させることができる。これにより、エンジンフリクションを低減することができる。また、COの排出量を低減することもできる。さらに、オイルと冷却水とで熱交換を行なうオイルクーラを備えている場合には、オイルの温度が早期に上昇することにより、冷却水の温度が早期に上昇するので、エンジン1の全体としての温度を早期に高めることができる。
【0024】
なお、エンジン1の低フリクション化や軽量化が進むと、該エンジン1で発生する振動が小さくなる。そのため、バランスシャフトを廃止することができる。また、本実施例によれば、オイルの温度を速やかに上昇させることができるため、エンジン1の低フリクション化が可能となるため、これによってもバランスシャフトを廃止することができる。そして、バランスシャフトを廃止すればエンジン1の内部にスペースができるので、この位置に発電機5を取り付けることができる。これにより、エンジン1のコンパクト化を図ることができる。
【0025】
また、バランスシャフトを廃止することで、エンジン1の運転領域によっては振動が発生する虞がある。これに対して本実施例では、発電機5の回転軸51にウェイト53を取り付けることにより、該発電機5がエンジン1のバランスシャフトを兼ねるようにする。
ウェイト53は、回転軸51の中心軸に対して偏心させて取り付ける。なお、エンジン1に複数のバランスシャフトが必要な場合には、その中の1つのバランスシャフトに代えて発電機5を設けることができる。また、複数の発電機5を設けることにより、複数のバランスシャフトに代えることもできる。発電機5の回転軸51に取り付けるウェイト53の質量や取付位置は、バランスシャフトの場合と同様に考えて決定することができる。また、例えば、クランクシャフト4の回転数の2倍の回転数で発電機5の回転軸51が回転するように、プーリ52の形状を調節しても良い。
【0026】
このようにして、バランスシャフトを廃止することができるため、エンジン1の全体として軽量化やコンパクト化が可能となる。
【0027】
なお、オイルの温度またはバッテリ7の残量に基づいて発電機5を制御することもできる。バッテリ7の残量とは、バッテリ7の満充電のときに対する充電量の比を示しており、このバッテリ7の残量は満充電のときが100%である。
【0028】
図2は、オイルの温度に基づいて発電機5を制御したときのオイルの温度の推移を示したタイムチャートである。図2に示した例では、オイルの温度がA℃未満の場合には、オイルの温度を上昇させるために発電機5による発電が行なわれる(発電あり)。また、オイルの温度がA℃以上の場合には、オイルの過熱を抑制するために発電機5による発電が停止される(発電なし)。すなわち、オイルの温度がA℃未満の場合には、オイルの温度がA℃以上の場合よりも、温度の上昇率が高くなるため、オイルの温度を速やかにA℃まで上昇させることができる。なお、Aは、暖機が完了するときの温度とすることができる。
【0029】
また、図3は、オイルの温度と、バッテリ7の残量と、発電機5による発電の有無と、の関係を示した図である。オイルの温度であるAは、図2の場合と同じ値である。
【0030】
ここで、オイルの温度だけを考えるとA℃以上のときに発電を停止し、A℃未満のときに発電を行なうのが良いが、図3に示した関係では、さらにバッテリ7の残量も考慮して発電を行なうか否か判定している。そして、発電機5による発電を行なうのは、バッテリ7の残量がB%未満の場合に限っている。これにより、バッテリ7の残量を一定値以上に保つと共に不必要な発電が行なわれるのを抑制することができる。したがって、オイルの温度がA℃未満であっても、バッテリ7の残量がB%以上の場合には、発電機5による発電は停止される。ただし、バッテリ7の残量がC%未満となった場合には、該バッテリ7の電極を保護するために、オイルの温度に関わらず発電機5による発電が行なわれる。なお、CはBよりも小さな値である。また、Bは、十分な電力を供給することができるバッテリ7の残量であり、バッテリ7の容量や消費され得る電力などを考慮して決定される。
【0031】
たとえば、オイルの温度がA℃未満で且つバッテリ7の残量がB%未満の場合には、オイルの温度を上昇させる要求及びバッテリ7の残量を上昇させる要求があるため、発電が行なわれる。これにより、オイルの温度を上昇させると共に、バッテリ7の残量を上昇させることができる。
【0032】
また、オイルの温度がA℃未満で且つバッテリ7の残量がB%以上の場合には、オイルの温度を上昇させる要求はあるが、バッテリ7の残量を上昇させる要求はない。この場合にバッテリ7の残量を上昇させると、不必要な充電が行なわれることになり、燃費が悪化する。そこで、このような場合には、発電を停止させる。これにより、燃費の悪化を抑制できる。但し、オイルの温度が以下に説明するE℃未満となったときには、バッテリの残量に関わらず発電機5による発電を行なってもよい。
【0033】
図4は、オイルの温度と、エンジン1のフリクションと、発電機5により発電する際のフリクションと、の関係を示した図である。実線はエンジン1のフリクションを示し、一点鎖線は発電機5により発電する際のフリクションを示している。エンジン1のフリクションには、エンジン1の摺動部のフリクションや、オイルポンプの仕事などオイルの温度応じて変化する損失分を含んでいる。エンジン1の摺動部はオイルで潤滑されているため、該エンジン1の摺動部のフリクションはオイルの粘度の影響を受ける。すなわち、オイルの温度が高くなるほどエンジン1の摺動部のフリクションは小さくなる。一方、発電機5により発電する際のフリクションは、発電することによる損失分であり、発電機5による発電量が一定であれば、フリクションも一定となる。そして、図4ではこの一定のフリクションをDで示している。
【0034】
ここで、オイルの温度がE℃以上の場合には、発電機5により発電する際のフリクションのほうがエンジン1のフリクションよりも大きくなる。このときに発電機5による発電を行なって、エンジン1の摺動部などのフリクションを小さくしても、発電機5により発電する際のフリクションのほうが大きいため、燃費が悪化してしまう。一方、オイル温度がE℃未満の場合には、エンジン1のフリクションが、発電機5により発電する際のフリクションよりも大きくなる。このような場合には、発電機5による発電を行なうことでオイルの温度を上昇させて、エンジン1のフリクションを低減させる。これにより、燃費の悪化を抑制することができる。すなわち、オイルの温度がA℃未満の場合であっても、バッテリ7の残量がB%以上の場合には、通常は図3に示したように、発電機5による発電を停止させるが、オイルの温度が図4に示すE℃未満となったときにはバッテリの残量に関わらず発電機5による発電を行なう。
【0035】
また、オイルの温度がA℃以上で且つバッテリ7の残量がB%未満の場合には、オイルの温度を上昇させる要求はないが、バッテリ7の残量を上昇させる要求はある。この場合にオイルの温度を上昇させると、該温度の温度が高くなりすぎて潤滑能力が低下する虞がある。そこで、このような場合には、発電を停止させる。これにより、オイルの過熱を抑制できる。また、バッテリ7の残量がC%未満となった場合には該バッテリ7の電極保護のため、オイルの温度に関わらず発電機5による発電を行なう。
【0036】
また、オイルの温度がA℃以上で且つバッテリ7の残量がB以上の場合には、オイルの温度を上昇させる要求及びバッテリ7の残量を上昇させる要求はないため、発電を停止させる。これにより、オイル温度の過熱や燃費の悪化を抑制できる。
【0037】
以上説明したように本実施例によれば、オイルパン3内に発電機5を設けているため、発電機5で発生する熱によりオイルの温度を速やかに上昇させることができる。これにより、早期に暖機を完了させることができ、燃費を向上させることができる。また、COの排出量を低減することができる。また、エンジン1のバランスシャフトを発電機5が兼ねることにより、エンジン1のコンパクト化が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 オイルパン
4 クランクシャフト
5 発電機
6 伝達部材
7 バッテリ
8 ECU
9 オイルポンプ
10 オイル通路
41 プーリ
51 回転軸
52 プーリ
53 ウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力により発電する発電機を備え、
前記発電機をエンジンオイルで冷却し、該発電機を冷却した後のエンジンオイルで前記エンジンを潤滑することを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記発電機は、前記エンジンの下部にてエンジンオイルを貯留するオイルパン内に配置することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
前記発電機は、前記エンジンのクランクシャフトに連結される回転軸を備えて構成され、
前記回転軸には、該回転軸の中心軸に対して偏心するウェイトが設けられ、前記発電機が前記エンジンのバランスシャフトを兼ねることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149392(P2011−149392A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13056(P2010−13056)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】